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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成24ワ7887特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成24ワ14227損害賠償請求事件 判例 特許
平成23ワ4836特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成25ワ9255職務発明対価請求事件 判例 特許
平成24ワ5743特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
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事件 平成 25年 (ワ) 4303号 特許権侵害行為差止等請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2014/09/25
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
判例全文
判例全文
平成26年9月25日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

特許権侵害行為差止等請求事件

(口頭弁論の終結の日 平成26年7月29日)

判 決

京都市下京区〈以下略〉

原 告 株式会社バイオセレ ンタック

同訴訟代理人弁護士 尾 崎 英 男

同訴訟復代理人弁護士 江 黒 早 耶 香

京都市南区〈以下略〉

被 告 コスメディ製薬株式会社

東京都中央区〈以下略〉

被 告 岩 城 製 薬 株 式 会 社

上記両名訴訟代理人弁護士 伊 原 友 己

同 加 古 尊 温

同訴訟代理人弁理士 小 林 良 平

同 補 佐 人 弁 理 士 小 川 禎 一 郎

主 文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

1 被告コスメディ製薬株式会社(以下「被告コスメディ」という。)は,別

紙物件目録記載1〜4の経皮吸収製剤(以下「被告製品」と総称し,それぞ

れの製品を「被告製品1」などという。)を製造,販売してはならない。

2 岩城製薬株式会社(以下「被告岩城製薬」という。)は,被告製品2を販

売してはならない。





3 被告らは,原告に対し,連帯して600万円及びこれに対する平成25年

3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

4 被告コスメディは,原告に対し,2600万円及びこれに対する平成25

年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

本件は,発明の名称を「経皮吸収製剤,経皮吸収製剤保持シート,及び経

皮吸収製剤保持用具」とする特許権を有する原告が,被告らによる被告製品

の製造・販売が上記特許権の侵害に当たる旨主張して,特許法100条1項

に基づき被告製品の製造・販売の差止めを求めるとともに,特許権侵害に基

づく損害賠償金等の支払を求める事案である。

1 前提事実(当事者間に争いがないか,弁論の全趣旨により容易に認定する

ことができる事実)

当事者

原告は,医薬品の研究開発,製造,販売及び輸出入,医薬品,化粧品,

健康食品に関する知的財産権の取得・保有・運用等を目的とする株式会社

である。

被告コスメディは,化粧品の開発,製造,販売及び開発コンサルティン

グ等を目的とする株式会社である。

被告岩城製薬は,医薬品,医薬部外品,化粧品等の製造加工及び販売等

を目的とするとする株式会社である。

原告の特許権

ア 原告は,次の特許権(以下「本件特許権」という。また,その特許出願

の願書に添付された明細書及び図面を「本件明細書」という。)の特許権

者である。

特許番号 特許第4913030号

出 願 日 平成18年1月30日(特願2007−500638)





優 先 日 平成17年1月31日(特願2005−23276)

平成17 年10 月1 1日(特 願20 05 −296 69

1)

(以下,これらを併せて「本件優先日」という。)

登 録 日 平成24年1月27日

イ 本件特許権に係る特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりで

ある(以下,この発明を「本件発明」という。)。

「 水溶性かつ生体内溶解性の高分子物質からなる基剤と,該基剤に保持さ

れた目的物質とを有し,皮膚に挿入されることにより目的物質を皮膚から

吸収させる経皮吸収製剤であって,

前記高分子物質は,コンドロイチン硫酸ナトリウム,ヒアルロン酸,

グリコーゲン,デキストラン,キトサン,プルラン,血清アルブミン,

血清α酸性糖タンパク質,及びカルボキシビニルポリマーからなる群よ

り選ばれた少なくとも1つの物質であり,

尖った先端部を備えた針状又は糸状の形状を有すると共に前記先端部

が皮膚に接触した状態で押圧されることにより皮膚に挿入される,経皮

吸収製剤。」

ウ 本件発明は,以下の構成要件に分説される(以下,それぞれの構成要件

を「構成要件A」などという。)。

A 水溶性かつ生体内溶解性の高分子物質からなる基剤と,

B 該基剤に保持された目的物質とを有し,

C 皮膚に挿入されることにより目的物質を皮膚から吸収させる経皮吸

収製剤であって,

D 前記高分子物質は,コンドロイチン硫酸ナトリウム,ヒアルロン酸,

グリコーゲン,デキストラン,キトサン,プルラン,血清アルブミン,

血清α酸性糖タンパク質,及びカルボキシビニルポリマーからなる群





より選ばれた少なくとも1つの物質であり,

E 尖った先端部を備えた針状又は糸状の形状を有すると共に

F 前記先端部が皮膚に接触した状態で押圧されることにより皮膚に挿

入される,

G 経皮吸収製剤。

エ 原告は,本件特許につき被告コスメディが請求した無効審判の手続に

おいて,@平成25年1月22日付け(下記の構成要件D’の訂正),

A同年10月21日付け(@に加え下記の構成要件H2’の訂正)及び

B平成26年2月28日付け(@Aに加え構成要件H1’の訂正)で訂

正請求(以下「本件訂正請求」と総称し,本件訂正請求に係る発明を

「本件訂正発明」という。)をした。本件訂正発明に係る特許請求の範

囲の請求項1の記載は次のとおりであり,下記の構成要件に分説される

(訂正箇所に下線を付した。以下,本件訂正発明の構成要件を「構成要

件D’」などという。)。

A 水溶性かつ生体内溶解性の高分子物質からなる基剤と,

B 該基剤に保持された目的物質とを有し,

C 皮膚に挿入されることにより目的物質を皮膚から吸収させる経皮吸

収製剤であって,

D’前記高分子物質は,コンドロイチン硫酸ナトリウム,ヒアルロン酸,

グリコーゲン,デキストラン,キトサン,プルラン,血清アルブミン,

血清α酸性糖タンパク質,及びカルボキシビニルポリマーからなる群

より選ばれた少なくとも1つの物質(但し,デキストランのみからな

る物質は除く)であり,

E 尖った先端部を備えた針状又は糸状の形状を有すると共に

F 前記先端部が皮膚に接触した状態で押圧されることにより皮膚に挿

入される,





G 経皮吸収製剤

H’(但し,

H1’目的物質が医療用針内に設けられたチャンバに封止されるか,

あるいは縦孔に収容されることによって基剤に保持されている経

皮吸収製剤,及び

H2’経皮吸収製剤を収納可能な貫通孔を有する経皮吸収製剤保持用

具の貫通孔の中に収納され,該貫通孔に沿って移動可能に保持さ

れた状態から押出されることにより皮膚に挿入される経皮吸収製



を除く)。

被告らの行為

ア 被告コスメディは,本件特許が登録された平成24年1月27日以降,

被告製品を製造・販売し,被告岩城製薬は被告製品2を販売している。

イ 被告製品の構成は,別紙「被告製品の構成」のとおりである(以下,そ

れぞれの構成を,同別紙の番号に従い「構成1a」などという。)。

2 争点

文言侵害の成否

ア 「基剤」(構成要件A)及び「該基剤に保持された目的物質」(構成要

件B)の充足性

イ 「経皮吸収製剤」(構成要件C,G)の充足性

ウ 「尖った先端部」(構成要件E)及び「前記先端部」(構成要件F)

の充足性

被告製品2についての均等侵害の成否

無効論

ア 乙15文献に基づく新規性欠如(無効理由1)

イ 乙16文献に基づく新規性欠如(無効理由2)





ウ 乙13文献を主引例,乙15文献を副引例とする進歩性欠如(無効理由3)

エ 乙13文献を主引例,乙16文献を副引例とする進歩性欠如(無効理由4)

オ 乙16文献を主引例,乙4文献を副引例とする進歩性欠如(無効理由5)

カ 乙4文献に基づく新規性欠如(無効理由6)

キ 乙4文献を主引例,乙15文献又は乙16文献を副引例とする進歩性

欠如(無効理由7)

ク 本件明細書の記載要件違反(無効理由8)

差止請求の当否

損害論

なお,本件特許権については前記のとおり本件訂正請求がされ,その適否

がいまだ確定していないが,本件訂正請求は,本件発明が乙13文献,乙1

5文献及び乙16文献により新規性を欠如することを回避するための請求で




びイ並びに本件訂正請求が認められた場合の無効理由として主張されている




オを除き,本件訂正請求が認められた場合の本件訂正発明を含むものとして

用いることとする。

3 争点に関する当事者の主張

文言侵害の成否

(原告の主張)

ア 「基剤」(構成要件A)及び「該基剤に保持された目的物質」(構成要

件B)の充足性

本件発明の目的物質は適用部位に投与されて目的の作用をする物質で

あるのに対し,基剤は製剤の形成やその物理的強度を上げる機能を有す





る物質であり,両者は概念的に区別可能である。被告製品のヒアルロン

酸Naは目的物質であると同時に基剤でもあるから「基剤」を充足し,

ヒアルロン酸Naのみを成分とする被告製品2も「該基剤に保持された

目的物質」を充足する。

イ 「経皮吸収製剤」(構成要件C,G)の充足性

本件特許権の特許請求の範囲の請求項13に化粧品が目的物質として

記載され,本件明細書にも同旨の記載があること(段落【0086】)

に照らせば,本件発明の「経皮吸収製剤」は,有効成分を全身循環血流

に送達して全身性作用を発現させるものに限られず,化粧品である被告

製品も「経皮吸収製剤」を充足する。

ウ 「尖った先端部」(構成要件E)及び「前記先端部」(構成要件F)の

充足性

「尖った先端部」は,経皮吸収製剤の皮膚への挿入(構成要件F)を

可能にするための構成であるから,先端部が点状であることまで要する

ものではなく,皮膚に挿入することが可能なコニーデ型の形状(構成1

〜4の各d)を有する被告製品も,「尖った先端部」を充足する。

(被告らの主張)

ア 「基剤」(構成要件A)及び「該基剤に保持された目的物質」(構成要

件B)の充足性

被告製品1,3及び4のマイクロニードルパッチの成分であるヒアル

ロン酸Na,加水分解コラーゲン等(構成1a,3a,4a)は,いず

れも目的をもった物質であるから,「基剤」を充足しない。また,被告

製品2のマイクロニードルパッチは,ヒアルロン酸Naのみを成分とし

ているから(構成2a),「該基剤に保持された目的物質」を充足しな

い。

イ 「経皮吸収製剤」(構成要件C,G)の充足性





本件明細書の記載(段落【0002】)及び「第十五改正日本薬局

方」(乙9)の定義によれば,「経皮吸収製剤」は有効成分を全身循環

血流に送達して全身性作用を発現させるものに限られると解すべきであ

る。被告製品1〜4のマイクロニードルパッチは,顔の皮膚表面に密着

することによって,マイクロニードル部の突起物の先端部が顔の皮膚の

角質層に位置し,角質層に含まれる水分で突起物の先端部が角質層内で

溶解する化粧品(構成1〜4の各c〜e)であるから,「経皮吸収製

剤」を充足しない。

ウ 「尖った先端部」(構成要件E)及び「前記先端部」(構成要件F)の

充足性

本件明細書の図面に示された経皮吸収製剤の先端部は点といえるほど

に尖っているところ,被告製品のマイクロニードル部の突起物は,先端

部直径が約20〜25μm,先端部から基板部までの高さが約200μ

mのコニーデ型の形状をしているから(構成1〜4の各b),「尖った

先端部」を充足しない。

被告製品2についての均等侵害の成否

(原告の主張)

仮に,被告製品2が「該基剤に保持された目的物質」(構成要件B)の

文言を充足しないとしても,@本件発明は,水溶性かつ生体内溶解性の構

成要件Dに記載された高分子物質を用いた経皮吸収製剤が,自己溶解型で

角質層を貫通する強度を有することにより目的物質を皮膚に送達できると

ころに本質的部分があり,基剤と目的物質が別物質であるか否かは発明の

本質的部分ではないこと,A両者が同一物質であっても作用効果は同一で

あること,B本件発明の開示に基づいて両者を同一物質にすることは容易

であることから,被告製品2は本件発明と均等である。

(被告らの主張)





原告の主張は争う。被告製品2は,乙4文献(特開2003−2383

47号公報)に開示された発明を用いて製造されたものであり,かつ,化

粧品成分又は基剤としてヒアルロン酸を用いる技術は公知であったから,

被告製品の構成は公知技術と同一である。また,原告は,特許請求の範囲

に「該基剤に保持された目的物質」との記載をすることにより,基剤と目

的物質が異なる物質であるとの特定をしたのであるから,両者が同一物質

の場合を意識的に除外したものである。

無効論

(被告らの主張)

下記のカ及びキの主張は,角質層にとどまる薬効しかない経皮吸収製剤

に係る発明についての無効主張であり,その余の主張は,このような限定

のない経皮吸収製剤についての無効主張である。

ア 乙15文献に基づく新規性欠如(無効理由1)

本件優先日前に頒布された刊行物である乙15文献(国際公開第20

05/058162号)には,「生分解性ポリマーから形成され薬剤を

保持するランセットが,皮膚に穿刺され体内に留置されて溶解すること

により薬剤を体内へ放出する,医療用針である経皮吸収製剤であって,

前記生分解性ポリマーとしてヒアルロン酸が含まれる経皮吸収製剤」

(以下「乙15発明」という。)が開示されている。これは,本件発明

構成要件を全て備えるものであるから,本件発明は乙15発明に対し

新規性を欠く。

なお,原告は,本件訂正請求に係る構成要件H1’によって乙15発

明と本件訂正発明には相違点があると主張するが,本件訂正請求の訂正

事項は,「経皮吸収製剤」という物の構造,形状,材質,成分,大きさ,

含有量,物理・化学的特性など物固有の構成に関するものではなく,本

件発明の内容を減縮するものではない上,物の発明の特定も不明瞭であ





るから,本件訂正請求は不適法であり,本件訂正発明は成立しない。

イ 乙16文献に基づく新規性欠如(無効理由2)

本件優先日前に頒布された刊行物である乙16文献(乙16の1・国

際公開第96/08289号,乙16の2・特表平10−505526

号公報)には,「水溶性かつ生体内溶解性の高分子物質からなるキャリ

ヤと,該キャリヤに保持された活性成分とを有し,皮膚に挿入されるこ

とにより活性成分を皮膚から吸収させる経皮吸収製剤であって,前記高

分子物質はヒアルロン酸であり,尖った先端部を備えた針状又は糸状の

形状を有する薬の先端部が皮膚に接触した状態で押圧されることにより

皮膚に挿入される経皮吸収製剤」(以下「乙16発明」という。)が開

示されている。これは,本件発明の構成要件を全て備えるものであるか

ら,本件発明は乙16発明に対して新規性を欠く。

なお,原告は,本件訂正請求に係る構成要件H2’によって乙16発

明と本件訂正発明には相違点があると主張するが,本件訂正請求が不適

法で本件訂正発明が成立しないことは,上記アのとおりである。

ウ 乙13文献を主引例,乙15文献を副引例とする進歩性欠如(無効理由3)

本件優先日前に頒布された刊行物である乙13文献(乙13の1・国

際公開第2004/000389号。ただし,訳には便宜上乙13の

2・特表2006−500973号公報を用いる。以下同じ。)には,

「本件発明の構成要件A,B,C,E,F及びGに相当する構成を備え,

かつ,本件発明の構成要件Dの高分子物質としてヒアルロン酸を挙げて

おらず,ポリマー,糖誘導体,水可溶性ガラス,界面活性剤等を挙げて

いる発明」(以下「乙13発明」という。)が開示されている。

乙15発明の内容は前記アのとおりであるところ,乙15文献には構

成要件Dに相当する「ランセットを形成する生分解性ポリマーとしてヒ

アルロン酸が含まれる」構成が開示されているから,乙13発明と乙1





5発明の技術分野は同一であり,乙15文献に記載された上記構成を乙

13発明に適用することは当業者が容易に想到し得るものであって,本

件発明は進歩性を欠く。

エ 乙13文献を主引例,乙16文献を副引例とする進歩性欠如(無効理由4)

乙13発明及び乙16発明の内容は前記イ及びウのとおりであって,

技術分野は同一であるところ,乙16文献には構成要件Dに相当する

「高分子物質はヒアルロン酸である」構成が開示されているから,この

構成を乙13発明に適用することは当業者が容易に想到し得るものであ

って,本件発明は進歩性を欠く。

オ 乙16文献を主引例,乙4文献を副引例とする進歩性欠如(無効理由5)

仮に本件訂正請求が適法とされた場合,本件訂正発明は構成要件H2

’の構成が除かれている点で乙16発明と相違する。

しかるところ,乙4文献には,「使用時に,パイルを設けた基板を皮

膚上に軽く叩くようにスタンプ押しを行うことによって,パイル内に混

在させた機能性物質を皮膚角質内に挿入する機能性マイクロパイル」と

いう,構成要件H2’に相当する構成が開示されている。また,乙4文

献に開示されているのは,皮膚表層又は皮膚角質層において,簡便・安

全・効率的に修飾効果・機能効果を与えるための治具である機能性マイ

クロパイルであり,乙16発明と技術分野を同じくするから,乙4文献

に記載された上記構成を乙16発明に適用することは当業者が容易に想

到し得るものであって,本件発明は進歩性を欠く。

カ 乙4文献に基づく新規性欠如(無効理由6)

本件優先日前に頒布された刊行物である乙4文献には,「生体内溶解

性の糖質から成り機能性物質を内包・含有しているパイルを設けた基板

を皮膚上に軽く叩くようにスタンプ押しを行うことによって,パイル内

に混在させた機能性物質を皮膚角質層内に挿入し皮膚角質層内で機能を





発揮させる機能性マイクロパイルであって,パイルの材料は既に実用化

している糖素材を主成分素材として利用するのが好ましく,パイルは針

状である機能性マイクロパイル」(以下「乙4発明」という。)が開示

されている。これは,本件発明の構成要件を全て備えるものであるから,

本件発明は乙16発明に対して新規性を欠く。

キ 乙4文献を主引例,乙15文献又は乙16文献を副引例とする進歩性

欠如(無効理由7)

本件発明が構成要件Dにヒアルロン酸が明記されている点において乙

4発明と相違するとしても,前記ウ及びエと同様に,乙15発明又は乙

16発明を乙4発明に適用することは当業者が容易に想到し得るもので

あって,本件発明は進歩性を欠く。

ク 本件明細書の記載要件違反(無効理由8)

本件明細書には基剤がヒアルロン酸のみからなる場合の記載はないか

ら,これが本件発明の技術的範囲に含まれるとすれば,本件明細書の記

載は当業者が本件発明の実施をすることができる程度に明確なものでは

ないことになる。また,本件明細書の記載によっても,本件発明の経皮

吸収製剤を形成し得る程度の強度を有するヒアルロン酸の分子量の数値

等は明らかではない。したがって,本件特許は,特許法36条4項1号

同条6項1号に違反し,特許無効審判により無効にされるべきものであ

る。

(原告の主張)

ア 乙15文献に基づく新規性欠如(無効理由1)

乙15文献に記載された注射剤やランセットの医療用針は「製剤」で

はない。また,本件発明の構成要件Bの「該基剤に保持された目的物

質」は,製剤の皮膚挿入時に目的物質が基剤と共に体内で溶解し吸収さ

れるように基剤に保持されて製剤を形成していることを意味し,目的物





質がランセットの本体の形成されたチャンバの中に封止されている状態

は,これに当たらない。したがって,乙15文献に開示された発明は本

件発明と相違する。

なお,仮に上記相違点がないとしても,原告は,本件訂正請求に係る

構成要件H1’によって,乙15文献の実施態様を除外した。

イ 乙16文献に基づく新規性欠如(無効理由2)

乙16文献に開示された発明は,薬自体には大きな物理的強度がなく

ても,プランジャーロッドで加速して薬を押し出すことにより皮膚下に

投与することを可能にした製剤であり,それ自体で皮膚を貫通する物理

的強度を備えた本件発明の経皮吸収製剤とは相違する。

なお,仮に上記相違点がないとしても,原告は,本件訂正請求に係る

構成要件H2’によって,乙16文献の実施態様を除外した。

ウ 乙13文献を主引例,乙15文献を副引例とする進歩性欠如(無効理由3)

乙13文献に,本件発明の構成要件A,B,C,E,F及びGに相当

する構成を備え,かつ,本件発明の構成要件Dの高分子物質としてヒア

ルロン酸を挙げておらず,ポリマー,糖誘導体,水可溶性ガラス,界面

活性剤等を挙げている乙13発明が開示されていることは認める。

しかし,本件発明の最も重要な特徴は,経皮吸収製剤の基剤として構

成要件Dに記載された高分子物質を用いることによって,生体溶解性と

共に皮膚の角質層を貫通する物理的強度を有する製剤を得る点にある。

これに対し,乙13文献は,微小穿孔器に皮膚の角質層を貫く物理的強

度を付与することを目的としてマトリクス材料の物質を選択しておらず,

その技術的な解決手段も開示していない。したがって,乙13文献と乙

15文献を組み合わせても,自己溶解型で角質層を貫通する物理的強度

を有する本件発明の経皮吸収製剤を容易に想到することはできない。

エ 乙13文献を主引例,乙16文献を副引例とする進歩性欠如(無効理由4)





上記ウのとおり,乙13文献に乙13発明が開示されていることは認

めるが,乙13文献は,微小穿孔器に皮膚の角質層を貫く物理的強度を

付与することを目的としてマトリクス材料の物質を選択しておらず,そ

の技術的な解決手段も開示していない。なお,乙16文献に記載された

製剤の成形方法である押出法は,ペーストの水分量が少ないため活性成

分やキャリヤは完全に水に溶解せず,これを乾燥した成形物の物理的強

度は小さいが,本件発明の成形法では,ヒアルロン酸等の高分子物質を

水に溶解し糊状の状態で成形して乾燥させるため,成形物の物理的強度

が大きい。また,上記イのとおり,乙16文献に開示された発明は,プ

ランジャーロッドで加速して薬を押し出すことにより皮膚下に投与する

ことを可能にした製剤であるから,薬自体には大きな物理的強度がなく

ても皮膚下に投与することが可能であり,これを乙13発明と組み合せ

る動機付けがない。したがって,当業者が乙13文献と乙16文献を組

み合わせて本件発明の経皮吸収製剤を想到することが容易であるとはい

えない。

オ 乙16文献を主引例,乙4文献を副引例とする進歩性欠如(無効理由5)

乙16発明と本件発明には,構成要件H2’のみならず,上記イのと

おりの相違点がある。乙4文献には,パイルの材料として構成要件Dの

高分子物質は記載されていない。したがって,乙4文献を副引例として

も,本件訂正発明が乙16文献及び乙4文献から容易に想到されるもの

ではない。

カ 乙4文献に基づく新規性欠如(無効理由6)

本件発明は,基剤成分の高分子物質としてヒアルロン酸等の特定の高

分子物質を選択しているのに対し,乙4文献には,既に実用化している

糖素材という上位概念の記載があるのみで,ヒアルロン酸を基剤として

用いることは,記載も示唆もない。本件発明においては,ヒアルロン酸





を含む特定の下位概念を選択することによって,水溶性でありながら容

易に皮膚の角質層を貫いて皮膚に挿入する物理的強度を備えることがで

きるという顕著な作用効果が得られている。したがって,本件発明は,

乙4文献に記載された発明に対し,選択発明として新規性を有する。

キ 乙4文献を主引例,乙15文献又は乙16文献を副引例とする進歩性

欠如(無効理由7)

上記カのとおり,乙4文献には基剤としてヒアルロン酸を用いること

の記載も示唆もないこと,乙15文献には廃棄物処理の際の環境への影

響等に配慮してヒアルロン酸が記載されているにすぎないことなどに照

らせば,乙15発明又は乙16発明を乙4発明に適用することが当業者

において容易に想到し得たとはいえない。

ク 本件明細書の記載要件違反(無効理由8)

本件明細書にはデキストランとヒアルロン酸からなる基剤の実施例が

示され,また,基剤に用いる物質として,ヒアルロン酸の分子量が記載

されているから,記載要件違反はない。

差止請求の当否

(原告の主張)



囲に属するところ,被告らは,被告製品を業として製造・販売している。

これらの行為は,本件特許権の侵害に当たるから,原告は,被告らに対し,

特許法100条1項に基づき,被告製品の製造・販売の差止めを求める。

(被告らの主張)

争う。

損害論

(原告の主張)

被告コスメディは,平成24年12月末日までに,少なくとも,被告製





品1を5万個(販売額は2000万円),被告製品2を60万個(同2億

4000万円),被告製品3を10万個(同4000万円),被告製品4

を5万個(同2000万円)販売した(販売合計額は3億2000万円)。

本件発明の実施料相当額は,上記販売額の10%を下回ることはないから,

被告コスメディが原告に支払うべき実施料相当の損害金(特許法102条

3項)は3200万円を下らない。

また,被告岩城製薬は,同日までに,被告コスメディから仕入れた被告

製品2を20万個販売した(販売額は2億円)。本件発明の実施料相当額は,

上記販売額の3%を下回ることはないから,被告岩城製薬が原告に支払う

べき実施料相当の損害金は,600万円を下らない。被告岩城製薬は,被

告コスメディが製造した被告製品2を仕入れて販売したから,上記600

万円の支払義務は被告コスメディとの連帯債務となる。

よって,原告は,不法行為による損害賠償請求権又は不当利得返還請求

権に基づき,被告らに対する600万円の連帯支払及び被告コスメディに

対する2600万円の支払並びにこれらに対する訴状送達日の翌日である

平成25年3月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延

損害金の支払を求める。

(被告らの主張)

争う。

第3 当裁判所の判断



進歩性欠如)について



乙13文献に乙13発明が開示されていること,本件発明と乙13発明

とを対比すると,乙13発明は本件発明の構成要件A,B,C,E,F及

び G





に相当する構成を備えている点で一致し(なお,乙13発明は,構成要件H’

で除かれた構成を備えていない点で,本件訂正発明とも一致する。),構

成要件Dの高分子物質として,本件発明がヒアルロン酸を挙げているのに

対し,乙13発明はポリマー,糖誘導体,水可溶性ガラス,界面活性剤等

を挙げているもののヒアルロン酸を挙げていない点で相違することは,当

事者間に争いがない。

そして,被告らは,上記相違点に関し,乙13発明と技術分野を同じく

する乙16文献に構成要件Dに相当する構成が開示されていることなどか

ら,上記構成を乙13発明に適用することは当業者において容易に想到

得たと主張する。

証拠(甲2,乙13の1・2,乙16の1・2,乙46)に弁論の全趣

旨を総合すると,次の事実が認められる。

ア 乙13文献の記載

本件優先日前に頒布された刊行物である乙13文献には,次の趣旨の

記載がある(〔 〕内の字句は語義を補ったものである。以下同じ。本項

目に付記した請求項,段落番号等は,いずれも乙13の2のものであ

る。)。

技術分野及び解決すべき課題

乙13発明は,薬物の経皮送達に関するものである(段落【000

1】)。薬物を経皮的に投与する方法として,シリンジ〔注射器〕又

はカテーテルを用いる方法があるが,針注射は,多くの患者に恐怖感,

痛み,局所的損傷を引き起こし得る(段落【0003】)。経皮的な

薬物送達を行うためにシリコンミクロ針を用いる方法等があるが,シ

リコン針は,使用中に破損すると炎症等を引き起こし得る(段落【0

007】)。また,急速に溶解するミクロ移植片も試みられたが,角

質層及び表皮内に血管が分布していないために達成することが困難で





あった。そこで,特にミクロ針のアレイ〔配列〕又は皮膚の他の微小

穿孔器を含む,急速に溶解する経皮薬物送達ビヒクル〔輸送手段〕を

開発する必要がある(段落【0010】)。

課題解決原理

好ましい薬物送達システムは,急速に溶解する微小穿孔器のアレイ

〔配列〕を含み,少なくとも一つは,一つ以上の針又は刃の固体マト

リックス〔基剤〕として形成されており,各々が,第1の末端におい

て,皮膚の穿孔のために,尖っている。各微小穿孔器は,角質を貫通

するのに十分強靭でインタクト〔無傷〕であり,微小穿孔器(及び薬

物)が薬物レザバ〔保有体〕内の体液・溶媒と共に患者の体内に貫入

されたとき,生分解性又は可溶性である(段落【0018】)。各微

小穿孔器は,皮膚内又は皮膚上で急速に溶解し(段落【0014】,

【0019】),一旦薬物が真皮層に達すると,系循環を通して潅流

する(段落【0017】)。

課題解決手段

乙13発明に係る微小穿孔器の具体的な形状,強度,基剤及び成形

方法は,次のとおりである。

微小穿孔器は,尖った形状の断面(【請求項9】,【0020】,

【0021】,【図2】)を有し,皮膚から真皮層まで貫入するのに

十分な長さを有することもできる(【請求項7】)。微小穿孔器の長

さは,代表的に1〜2000μmの範囲,より好ましくは100〜1

000μmの範囲である(段落【0021】)。

また,各微小穿孔器は,角質を貫通するのに十分強靭でインタクト

〔無傷〕である(段落【0018】)。

また,薬物はポリマーマトリックス〔高分子基剤〕材料内に含まれ

ており,好ましくは,必要に応じて一つ以上の選択された薬物を保持





する固体マトリックスの可溶性(溶融性及び生分解性)の材料を含む

(【請求項2】,段落【0012】)。適切なマトリックス材料とし

ては,角質層を貫通するように十分強い限り任意の生体適合性材料を

用いることができ,ポリマー,糖誘導体,水可溶性ガラス,界面活性

剤等が例示されている(段落【0024】,【0028】〜【003

2】)。

さらに,微小穿孔器のアレイ〔配列〕は,鋳型を用いて成形するこ

とができる。液体溶液(マトリックス材料及び選択された薬剤を含

む。)から鋳造する場合,液体溶液は,その粘度,他の物理的・化学

的特性に依存して,更に遠心分離力や圧縮力を用いて鋳型に充填する。

固体溶液を形成するために,溶媒は,空気乾燥されるか,真空乾燥さ

れるか,又は凍結乾燥される必要がある。粉末形態がマトリックス材

料として使用される場合,粉末は,その化学的及び物理的特性に依存

して,次いで,粉末の適切な加熱が適用されて,鋳型内に粘稠性の材

料を融解又は挿入し得る。これらの後,微小穿孔器は,鋳型から分離

される(段落【0025】,【0026】)。

イ 乙16文献の記載

本件優先日前に頒布された刊行物である乙16文献には,次の趣旨の

記載がある(本項目に付記した特許請求の範囲及び頁数は,いずれも乙

16の2のものである。)。

技術分野及び解決すべき課題

乙16文献には,薬を非経口投与できる針を有しない装置に関する

発明が記載されている。薬物の非経口投与は,多くの場合好ましいが,

薬物が投与される患者を不快にさせるという重大な欠陥がある。非経

口製剤は,一般的に薬物が懸濁又は溶解されている多量の液体を含ん

でおり,かなり多量の液体を注射しなければならない場合がある。針





の注射及び多量の液体の導入は,ほとんどの人にとって少なくとも不

愉快である。したがって,針及び溶液又は懸濁液を使用しない投与方

式を発見する必要がある(特許請求の範囲1,5頁)。

課題解決原理

出願人は,非経口経路により固体又は半固体の薬物を即座に投与す

る装置を発見した。出願人の装置では,完全に針を使用する必要がな

い。固体薬物は,これを位置付けるのに必要な程度まで皮膚に進入す

るプランジャー〔ピストン〕によって患者等の皮膚を通して直接注射

される。薬は爪楊枝の端部の形状に適切に作成され,尖った端部を有

している。薬は,投与時に皮膚を通って皮下層中に貫通できるような

十分な構造的強度を有している。このように,薬物が皮膚を貫通して

非経口投与されるために,針の不快感を感じる必要がない(6頁)。

課題解決手段

乙16文献に記載された固体薬物の具体的な形状,強度,基剤及び

成形方法は,次のとおりである。

薬は,皮膚を容易に貫通して皮下層に進入できるように,爪楊枝の

一方の端部の形状に作成する(9頁)。針のサイズは,投与すべき供

給量及びキャリヤ〔基剤〕の量と比較して存在する活性成分のレベル

に依存する(10頁)。

薬は,固体と称しているが,壊れずに皮膚に貫通する十分な構造的

な完全さがある限り,固体又は半固体のいずれであってもよい(特許

請求の範囲15,9頁)。

薬中のキャリヤの量は,薬物及び作用の所望の様式に依存する。一

般に,薬中の活性成分の量は少なくとも約50%である。十分な構造

強度を有する適切な薬に関しては,本発明の薬の量は100%までで

あっても差支えない(9頁)。キャリヤは,活性成分を直ちに供給す





るために水溶性又は分解性がある必要があり,ヒアルロン酸のほかセ

ルロース,糖,ゼラチン,ポリビニルピロリドン,スターチ等が挙げ

られる(11頁。乙13文献に列挙されたマトリックス材料と共通す

るものとして,ヒドロキシプロピルメチルセルロース,ヒドロキシエ

チルセルロース,カルボキシメチルセルロース,グルコース,ポリア

ルコール,ゼラチン,ポリビニルピロリドン等がある。)。

薬の成形方法については,圧縮,熱溶融又は押出しのような従来の

技術により調製してもよい。圧縮法は適切には,爪楊枝形状の微小湿

製錠剤が形成される成形工程からなる。熱溶融法は,適切には,活性

成分及び所望であればキャリヤを混合して溶融する工程からなる。次

いで溶融生成物を爪楊枝形状の薬に成形する。押出法は,適切には,

活性成分及び所望であればキャリヤを,液体と混合して,半固体ペー

ストを形成する工程からなる。次いで,このペーストを小さい直径の

開口部に通して押し出して,ロッドを形成する。針状の先端は,半固

体ロッドの乾燥の前又は後に形成しても差し支えない(9〜10頁)。

ウ 本件明細書の記載

本件明細書(甲2)には,経皮吸収製剤を成形する方法として,@基

剤として,水に溶解させると曳糸性を示す物質からなるものを用い,糊

状とした上で,基剤にガラス棒の先端を接触させてその先端に付着した

基剤を引き延ばす方法,A鋳型を用いる方法が記載されている(段落

【0093】〜【0095】)。

エ ヒアルロン酸の物性等

ヒアルロン酸は,ムコ多糖類に属する水溶性の多糖類の一つである。

ヒアルロン酸は,水溶液中において粘弾性・保水力の大きいゼリー様の

溶液(ゲル)を形成し,このゲルを乾燥させて溶媒である水分子が失わ

れると,親水基間の水素結合により,ヒアルロン酸の多糖高分子鎖間で





架橋構造を形成して高分子鎖が絡み合い凝集し,その結果,ヒアルロン

酸の高分子溶液は,流動性を喪失して非常に強固な固体となるが,この

ような物性等自体は,古くからよく知られていた。

上記認定事実に基づき,乙13発明に乙16文献を組み合せて本件発明

を想到することの容易性について判断する。

ア 上記認定事実によれば,乙13発明と乙16文献に記載された発明は,

共に,注射針等を用いることなく薬物を非経口かつ経皮的に投与する薬

ないし装置に関する発明であり,技術分野は同一である。また,針注射

が多くの患者に恐怖感,痛み等の不快感を与えることから,針を使用し

ないで非経口的に薬物を投与する技術的手段を発見するという技術的課

題も共通している。

イ また,両発明は,生体内溶解性の基剤(マトリックス又はキャリヤ)

に目的物質である薬物を保持させることにより,尖った先端部を有する

穿孔器ないし固体薬物を成形し,これを患者の皮下に貫入して皮下で溶

解させ,血流を通して薬効を発現させる経皮吸収製剤という点で,課題

解決原理を同じくするものである。

ウ 次に,両発明の課題解決手段を検討する。

第1に,経皮吸収製剤の形状及び強度についてみると,両発明は,尖

った先端部を有する穿孔器ないし固体薬物が,皮膚を貫通して皮下層に

進入できる程度の長さ及び皮膚を貫通する程度の十分な構造的な強さを

有する点で共通する。

第2に,このような構造的な強さを形成・保持するために用いられる

基剤(マトリックス,キャリヤ)についてみると,乙13文献には,ヒ

アルロン酸は例示されていないものの,角質層を貫通するように十分強

い限り任意の生体適合性材料を用いることができるとされているところ,

ヒアルロン酸は,ムコ多糖類に属する水溶性の多糖類の一つで,水溶液





中において粘弾性・保水力の大きいゼリー様の溶液(ゲル)を形成し,

このゲルを乾燥させて溶媒である水分子が失われると,流動性を喪失し

て非常に強固な固体となるという物性を有することは古くからよく知ら

れた技術常識であった。また,乙13文献に列挙されているマトリック

ス材料のうち,少なからぬ材料が乙16文献の基剤(キャリヤ)と共通

している。

第3に,尖った先端部を有する微小穿孔器又は固体薬物の成形方法に

ついてみると,乙13文献及び乙16文献には,基剤及び薬剤を溶融し

て粘度のある液体溶液を用いる溶融法や,圧縮力を用いて基剤及び薬剤

を成形する圧縮法のように,共通する成形方法が記載されている。した

がって,乙13文献に記載された成形方法に乙16文献に記載された成

形方法を適用することに技術的困難があるとは認め難い。なお,本件明

細書(甲2)には,経皮吸収製剤を成形する方法として,@糊状にした

基剤を引き延ばす方法,A鋳型を用いる方法が記載されているところ,

乙13文献には鋳型法が記載され,乙16文献には,熱溶融法や,活性

成分・キャリヤを液体と混合して半固体ペーストを形成する工程を伴う

押出法等が記載されている。

エ 以上の事実,すなわち,乙13発明と乙16文献に記載された発明は,

技術分野,解決すべき課題及び課題解決原理が共通し,経皮吸収製剤の

形状及び強度並びにその構造的な強さを形成・保持するための基剤及び

成形方法という課題解決手段にも共通性があること,粘弾性・保水力の

大きいゼリー様のヒアルロン酸溶液を乾燥させると非常に強固な固体と

なるという物性が技術常識として知られていたことに照らせば,乙16

文献に接した当業者がこれを乙13発明と組み合せる動機付けがあり,

当業者において,乙13発明の基剤を乙16文献の基剤に置き換え,角

質層を貫通するように十分強い生体適合性材料の一つとしてヒアルロン





酸を基剤(マトリックス)に選択することも,容易に想到し得たことで

あって,これを乙13発明に組み合せて成形した経皮吸収製剤が皮膚を

貫通するのに十分な強度を有することも,容易に理解し得たということ

ができる。

また,本件発明に係る経皮吸収製剤の作用効果が格別顕著なものであ

ることを認めるに足りる証拠はない。

したがって,本件発明は,乙13発明に乙16文献を組み合せること

により,当業者において容易に想到することができたものというべきで

ある。

これに対し,原告は,@乙13文献は,微小穿孔器に皮膚の角質層を貫

く物理的強度を付与することを目的としてマトリックス材料の物質を選択

しておらず,その技術的な解決手段も開示していない,A乙16文献に記

載された製剤の成形方法である押出法は,ペーストの水分量が少ないため

活性成分やキャリヤは完全に水に溶解せず,これを乾燥した成形物の物理

的強度は小さいが,本件発明の成形法では,ヒアルロン酸等の高分子物質

を水に溶解し糊状の状態で成形して乾燥させるため,物理的強度が大きい,

B乙16文献に開示された発明は,プランジャーロッドで加速して薬を押

し出すことにより皮膚下に投与することを可能にした製剤であるから,薬

自体には大きな物理的強度がなくても皮膚下に投与することが可能であり,

これを乙13発明と組み合せる動機付けがないと主張する。

しかしながら,@の主張については,本件発明が物の製造方法の発明



び乙16文献には経皮吸収製剤の成形方法として鋳型法,圧縮法,熱溶融

法及び押出法等の方法が記載されていることに加え,ヒアルロン酸のゼリ

ー様のゲルを乾燥することで非常に強固な固体となるという物性が技術常

識に属することを併せ考慮すれば,乙13文献が技術的な解決手段も開示





していないということはできない。また,Aの主張についても,本件発明

製造方法を限定したものではない上,乙16文献に記載された押出法に

よって物理的強度の小さい経皮吸収製剤しか得られないとの主張を認める

には足りない(なお,被告コスメディの行った実験(乙47)においては,

上記押出法により,マウスの皮膚を貫通する程度の十分な構造的な強さを

有するマイクロニードルが得られたことが認められる。)。さらに,Bの

主張も,乙16文献にはプランジャーを押し込むときに加速度を加えなが

ら経皮吸収製剤を投与する構成のみが記載されているわけではなく,また,

ヒアルロン酸の物性に関する上記の技術常識からしても,採用することは

できない。したがって,原告の主張はいずれも失当である。

以上のとおり,本件特許には進歩性欠如の無効理由があり,特許無効審

判により無効にすべきものと認められるから,原告は本件特許権に基づく

権利を行使することができないと解するのが相当である。

2 結論

以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はい

ずれも理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部



裁判長裁判官 長 谷 川 浩 二




裁判官 清 野 正 彦




裁判官 橋 彩





(別紙)

物 件 目 録



1 被告コスメディの商品名:マイクロヒーラ

ヒアルロン酸からなる基剤と,目的物質として,基剤を構成するヒアルロン酸,

並びに同基剤に保持されたコラーゲン及びEGF:ヒトオリゴペプチド−1とを有

し,皮膚に挿入されることにより,ヒアルロン酸,コラーゲン及びEGF:ヒトオ

リゴペプチド−1を皮膚から吸収させる経皮吸収製剤であって,尖った先端部を備

えた針状の形状を有すると共に前記先端部が皮膚の接触した状態で押圧されること

により皮膚に挿入される経皮吸収製剤。



2 被告岩城製薬の商品名:ナビジョンHAフィルパッチ

ヒアルロン酸の基剤と,目的物質として,同基剤を構成するヒアルロン酸とを有

し,皮膚に挿入されることによりヒアルロン酸を皮膚から吸収させる経皮吸収製剤

であって,尖った先端部を備えた針状の形状を有すると共に前記先端部が皮膚に接

触した状態で押圧されることにより皮膚に挿入される経皮吸収製剤。



3 訴外株式会社不二ビューティの商品名:ライトナーXTマイクロヒーラマスク

ヒアルロン酸からなる基剤と,目的物質として,基剤を構成するヒアルロン酸,

及び,同基剤に保持された加水分解コラーゲン,ビタミンC誘導体,コウジ酸,グ

リチルリチン酸ジカリウム,アデノシン,レスベラトロールを有し,皮膚に挿入さ

れることにより目的物質を皮膚から吸収させる経皮吸収製剤であって,尖った先端

部を備えた針状又は糸状の形状を有すると共に前記先端部が皮膚に接触した状態で

押圧されることにより皮膚に挿入される,経皮吸収製剤。



4 訴外株式会社ドクターシーラボの商品名:シーラボSホワイト377マイクロパ





ッチ

ヒアルロン酸からなる基剤と,目的物質として,該基剤を構成するヒアルロン酸,

並びに,該基剤に保持された加水分解コラーゲン,フェニルエチルレゾルシノール

(WHITE377),レスベラトロール(ブドウつるエキス),ピクノジェノー

ル(フランスカイガンショウ樹皮エキス)とを有し,皮膚に挿入されることにより

目的物質を皮膚から吸収させる経皮吸収製剤であって,尖った先端部を備えた針状

の形状を有すると共に前記先端部が皮膚に接触した状態で押圧されることにより皮

膚に挿入される,経皮吸収製剤。





(別紙)

被 告 製 品 の 構 成



1 被告製品1

構成1a マイクロニードルパッチは基板部とマイクロニードル部で構成さ

れているところ,基板部とマイクロニードル部は,いずれもヒア

ルロン酸Na(ヒアルロン酸ナトリウム),加水分解コラーゲン,

クエン酸,ヒトオリゴペプチド−1及びマンニトールを成分とし

ており,

構成1b 基板部の形状は,長径約11.6mm,短径約7.6mmの楕円

形で約0.16mmの厚みがあり,マイクロニードル部には,先

端部直径が約20〜約25μm,先端部から基板部までの高さが

約200μmのコニーデ型の突起物が約500〜約600μmの

間隔で配置されており,

構成1c マイクロニードルパッチが顔の皮膚表面に密着することによって,

マイクロニードル部の突起物の先端部が顔の皮膚の角質層に位置

し,

構成1d 角質層に含まれる水分で突起物の先端部が角質層内で溶解する

構成1e 化粧品である。



2 被告製品2

構成2a マイクロニードルパッチは基板部とマイクロニードル部で構成さ

れているところ,基板部とマイクロニードル部は,いずれもヒア

ルロン酸Na(ヒアルロン酸ナトリウム)を成分としており,

構成2b 基板部の形状は,長径約43mm,短径約15mmの勾玉形であ

り,マイクロニードル部には,先端部直径が約20〜約25μm,





先端部から基板部までの高さが約200μmのコニーデ型の突起

物が約500〜約600μmの間隔で配置されており,

構成2c マイクロニードルパッチが目もとなど顔の皮膚表面に密着するこ

とによって,マイクロニードル部の突起物の先端部が目もとなど

顔の皮膚の角質層に位置し,

構成2d 角質層に含まれる水分で突起物の先端部が角質層内で溶解する

構成2e 化粧品である。



3 被告製品3

構成3a マイクロニードルパッチは基板部とマイクロニードル部で構成さ

れているところ,基板部とマイクロニードル部は,いずれもヒア

ルロン酸Na(ヒアルロン酸ナトリウム),加水分解コラーゲン,

パルミチン酸アスコルビルリン酸3Na,コウジ酸,グリチルリ

チン酸2K,アデノシン,ブドウつるエキス及びBG(ブチレン

グリコール)を成分としており,

構成3b 基板部の形状は,直径約15mmの円形であり,マイクロニード

ル部には,先端部直径が約20〜約25μm,先端部から基板部

までの高さが約200μmのコニーデ型の突起物が約500〜約

600μmの間隔で配置されており,

構成3c マイクロニードルパッチが顔の皮膚表面に密着することによって,

マイクロニードル部の突起物の先端部が顔の皮膚の角質層に位置

し,

構成3d 角質層に含まれる水分で突起物の先端部が角質層内で溶解する

構成3e 化粧品である。



4 被告製品4





構成4a マイクロニードルパッチは基板部とマイクロニードル部で構成さ

れているところ,基板部とマイクロニードル部は,いずれもヒア

ルロン酸Na(ヒアルロン酸ナトリウム),加水分解コラーゲン,

水,フェニルエチルレゾルシノール,ブドウつるエキス,フラン

スカイガンショウ樹皮エキス,シリカ及びBG(ブチレングリコ

ール)を成分としており,

構成4b 基板部の形状は,長径約11.6mm,短径約7.6mmの楕円

形で約0.16mmの厚みがあり,マイクロニードル部には,先

端部直径が約20〜約25μm,先端部から基板部までの高さが

約200μmのコニーデ型の突起物が約500〜約600μmの

間隔で配置されており,

構成4c マイクロニードルパッチが顔の皮膚表面に密着することによって,

マイクロニードル部の突起物の先端部が顔の皮膚の角質層に位置

し,

構成4d 角質層に含まれる水分で突起物の先端部が角質層内で溶解する

構成4e 化粧品である。






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