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事件 平成 26年 (行ケ) 10010号 審決取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2014/09/24
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成26年9月24日判決言渡

平成26年(行ケ)第10010号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 平成26年9月10日

判 決



原 告 株式会社ウイル・コーポレーション



訴 訟 代 理 人 弁 護 士 生 田 哲 郎

高 橋 隆 二

弁 理 士 上 野 晋

杉 原 誉 胤




被 告 福 島 印 刷 株 式 会 社



訴 訟 代 理 人 弁 護 士 辻 本 希 世 士

辻 本 良 知

松 田 さ と み

弁 理 士 辻 本 一 義

丸 山 英 之

神 吉 出

大 本 久 美

金 澤 美 奈 子

松 田 裕 史

主 文

原告の請求を棄却する。




訴訟費用は原告の負担とする。



事 実 及 び 理 由

第1 原告の求めた判決

特許庁が無効2013−800055号事件について平成25年12月4日にし

た審決を取り消す。



第2 事案の概要

本件は,特許無効審判請求を不成立とする審決の取消訴訟である。争点は,@補

正に関しての新規事項の追加の有無,A明細書の記載不備(明確性要件の欠如)の

有無,B進歩性の有無である。

1 特許庁における手続の経緯

被告は,平成17年5月11日,名称を「送付用情報記録冊子」とする発明につ

き,特許出願をし(特願2005−138975号。甲7),平成23年4月14

日付け手続補正書(甲8。以下「本件補正書」という。)により,補正をした上で

(以下「本件補正」という。),同年8月19日,特許登録を受けた(特許第48

03481号。甲10。以下,この特許を「本件特許」という。。


原告は,平成25年4月2日,本件特許の請求項1及び2につき特許無効審判請

求をした(無効2013−800055号。甲11)。特許庁は,平成25年12月

4日,
「本件審判の請求は,成り立たない。 との審決をし,
」 その謄本は同月12日,

原告に送達された。



2 特許請求の範囲の記載

(1) 本件発明

本件特許公報(甲10。以下,本件補正書も含めて,
「本件明細書」という。以下

の本件発明1及び2を総称して「本件発明」ともいう。)によれば,本件発明に係る




特許請求の範囲の記載は,以下のとおりである(なお,アルファベットは,特定の

ために審決にならって当裁判所において付した。 。


【請求項1】(本件発明1)

「A 予め各種情報が掲載された同サイズの複数の連続用紙に,それぞれ綴じ辺

(3)とその対向辺(5)の領域からなる所定の接着剤パターンで接着剤を塗布し,

それぞれ所定の折り位置で2つ折りして合流させ,合流した連続用紙の折り部同士

を綴じ辺(3)として接着し,連続用紙の連続方向を所定のサイズでカットするこ

とで,中綴じの冊子状に一体化される送付用情報記録冊子であって,

B 各葉における少なくとも前記対向辺(5)の封止領域は,綴じ辺(3)の接着

力よりも弱めに設定された接着力で接着することによって相互間の剥離が可能に接

着・封止されると共に,

C 前記接着剤パターンの位置及び前記折り位置が整合するように連続用紙ごとに

ずらして位置合わせされることで,

D 前記封止領域には積層された各葉の指がかりを補助する階段状端差部(7)が,

綴じ辺(3)と対向辺(5)との間の幅が表面側から裏面側に向けて段階的に長く

なるように形成されることを特徴とする送付用情報記録冊子。」

【請求項2】(本件発明2)

「E 請求項1記載の送付用情報記録冊子の製造方法であって,

F 情報が予め記録された2以上の連続用紙(X),(Y)の必要箇所に感圧接着

剤(6)を,綴じ辺(3)と対向辺(5)とで接着力及び接着位置を調整して塗布

する工程と,

G 一部の連続用紙(X),(Y)を綴じ辺(3)で折り曲げる工程と,

H 折り曲げた連続用紙(X)と折り曲げ前の連続用紙(Y)とを合流させる工程

と,

I 合流した連続用紙(X),(Y)のうち折り曲げ前の連続用紙(Y)を綴じ辺

(3)で折り曲げ,加圧して接着する工程と,




J 連続用紙を所定の連続方向のサイズでカットする工程とを有する送付用情報記

録冊子の製造方法

(2) 本件補正前

本件補正前の請求項1の記載は,以下のとおりである。


【請求項1】

外面から視認可能な宛名情報表示領域(1)を有し且つ各種情報が掲載された複

数葉の用紙(2)が積層され綴じ辺(3)によって冊子状に一体化され,各葉にお

ける少なくとも前記綴じ辺(3)の対向辺(5)は相互間の剥離が可能に接着・封

止されると共に前記封止領域には積層された各葉の指がかりを補助する階段状端差

部(7)が形成されたことを特徴とする送付用情報記録冊子。」



3 原告が主張する無効理由

(1) 無効理由1(補正要件の欠如)

本件補正により追加された本件発明1の構成A及び構成Cは,本件特許の願書に

最初に添付した明細書及び図面(以下「当初明細書等」という。)に記載されたもの

ではなく,本件補正は,特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

したがって,本件特許は,同法123条1項1号に該当する。

(2) 無効理由2(明確性要件の欠如)

ア 本件発明1は,構成C,Dの内容が不明確であるから,特許を受けよう

とする発明が明確ではなく,特許法36条6項2号に規定する要件を満たさない。

イ 本件発明2は,本件発明1の従属形式の請求項であるため,本件発明1

と同様に不明確である。また,本件発明2は,本件発明1の送付用情報記録冊子の

構成に,工程E〜Jの各工程を付加して限定したものであるが,工程Hが,本件発

明1の送付用情報記録冊子の構成と矛盾する内容になっており,特許を受けようと

する発明が明確ではないため,特許法36条6項2号に規定する要件を満たさない。

したがって,本件特許は,同法123条1項4号に該当するから,無効とすべき




である。

(3) 無効理由3(進歩性の欠如)

ア 本件発明1についての進歩性欠如

以下の甲1に記載の発明(以下「甲1発明」という。)に,以下の甲2〜4に記載

されている周知技術(以下,甲2〜4に記載された発明をそれぞれ,
「甲2発明」と

いうように呼称することがある。 の構成を適用するとともに,
) 設計的事項の製造工

程を採用して,本件発明1を構成することは,当業者が容易に想到し得るものであ

るため,本件発明1は,特許法29条2項に該当する。

甲1: 特開2003−305970号公報

甲2: 特開平9−39450号公報

甲3: 特開平10−264558号公報

甲4: 特開平11−245562号公報

イ 本件発明2についての進歩性欠如

甲1発明の製造方法において,甲2〜4に記載の周知技術(綴じ辺の対向辺に接

着材を塗布すること)を付加すると共に,製造工程の一部を変更して設計的事項で

ある工程H,Iを採用し,本件発明2を構成することは,当業者が容易になし得た

ことは明らかであるため,本件発明2は,特許法29条2項に該当する。



4 審決の理由の要点

審決は,上記の無効事由1〜3について,以下のとおり,いずれも理由なしとし

た(本件の取消事由と関連しないものについては,記載を省略した。。


(1) 無効理由1について

ア 構成Aについて

当初明細書等の段落【0055】の記載,及び図5から,感圧接着剤塗布装置8

によって,同サイズの複数の連続用紙に,それぞれ綴じ辺とその対向辺の領域から

なる所定の接着剤パターンで感圧接着剤6が塗布される工程,連続用紙Xを所定の




折り位置(綴じ辺)で2つ折りする工程,その2つ折りされた連続用紙Xと折り曲

げ前の連続用紙Yとを合流させる工程,及び,この合流した状態にて折り位置を整

合させて連続用紙Yを綴じ辺で2つ折りすることにより連続用紙X,Yがそれぞれ

所定の折り位置で2つ折りして合流させた状態が看取できることからすれば,本件

発明1の「予め各種情報が掲載された同サイズの複数の連続用紙に,それぞれ綴じ

辺(3)とその対向辺(5)の領域からなる所定の接着剤パターンで接着剤を塗布

し,それぞれ所定の折り位置で2つ折りして合流させ」は,当初明細書等に記載さ

れたものである。

イ 構成Cについて

上記のとおり,構成Aは,当初明細書等に記載されたものであり,当初明細書等

の段落【0038】には,綴じ辺3の対向辺5の封止領域には階段状端差部7が形

成されていることが記載されていることからすれば,構成Cの「前記接着剤パター

ンの位置及び前記折り位置が整合するように連続用紙ごとにずらして位置合わせさ

れることで,」とは,当初明細書等に記載されているのに等しい自明の事項である。

ウ したがって,本件発明1は,特許法17条の2第3項に規定する要件を

満たさないで特許されたものとは認められない。

(2) 無効理由2について

ア 本件発明1について



イ 本件発明2について

本件発明1の「同サイズの複数の連続用紙に,それぞれ綴じ辺(3)とその対向

辺(5)の領域からなる所定の接着剤パターンで接着剤を塗布し,それぞれ所定の

折り位置で2つ折りして合流させ,合流した連続用紙の折り部同士を綴じ辺(3)

として接着し,連続用紙の連続方向を所定のサイズでカットすることで,中綴じの

冊子状に一体化される送付用情報記録冊子」とは,物として「送付用情報記録冊子」

の構造を複数の連続用紙がそれぞれ所定の折り位置で2つ折りして合流させた状態




にあることを特定したものである。

そして,本件発明2は,製造方法の発明であって,上記の点に関して,製造方法

で特定したものであるから,構成Aと何ら矛盾するものではない。

また,本件発明2の工程Gの「一部の連続用紙(X)(Y) とは,
, 」 連続用紙(X),

(Y)のいずれか一方の連続用紙を意味するものであって,工程Hの「折り曲げた

連続用紙(X)と折り曲げ前の連続用紙(Y)とを合流させる工程と,」とは,工程

Gにおいて特定された「綴じ辺(3)で折り曲げ」られた連続用紙(X) (Y)の


いずれか一方の連続用紙を,上記において折り曲げられなかった他方の連続用紙と

合流させることを意味するものであることは明らかである。

してみると,工程Gと工程Hとの関係は明確に理解でき,その製造工程に矛盾は

なく,明確である。

(3) 無効理由3について

ア 甲1発明

「天地あるいは左右のいずれかの紙端にインデックスを有するとともにインデック

ス部を露出するように折った同寸法の用紙を複数枚重ねて折り返し部で糊やワイヤ

ー芯等の任意の固定手段により用紙束とし,各用紙は各インデックス部露出する位

置で折り込まれたものであって,各ロールが巻き取られ第一加工工程として印刷加

工を経て,印刷加工済ロールA,印刷加工済ロールB,印刷加工済ロールCから各

用紙が丁合されるべく,ロール用紙B(16)の両面に糊加工(26)を施し,第

加工工程とし丁合加工を経て,天地必要サイズに合わせ断裁加工(27)を経て,

さらに折込加工(28)を経て,第三加工工程として製本加工を経てなり,折り返

し部の反対側には,各印刷用紙のインデックス部が階段状に設けられ,折り返し部

と各印刷用紙のインデックス部との幅は表面側から裏面側に向けて段階的に長くな

るよう形成されているインデックス段差製本。」

イ 本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点

【一致点】




「予め各種情報が掲載された同サイズの複数の連続用紙に,それぞれ綴じ辺の所定

の接着剤パターンで接着剤を塗布し,それぞれ所定の折り位置で2つ折りして合流

させ,合流した連続用紙の折り部同士を綴じ辺として接着し,連続用紙の連続方向

を所定のサイズでカットすることで,中綴じの冊子状に一体化される情報記録冊子

であって,

前記接着剤パターンの位置及び前記折り位置が整合するように連続用紙ごとにず

らして位置合わせされることで,

積層された各葉の指がかりを補助する階段状端差部が,綴じ辺と対向辺との間の

幅が表面側から裏面側に向けて段階的に長くなるように形成された情報記録冊子。」

【相違点】

「本件発明1は,送付用の情報記録冊子であって,各葉の少なくとも綴じ辺の対

向辺の封止領域は,所定の接着パターンで接着剤を塗布し,綴じ辺の接着力よりも

弱めに設定された接着力で接着することによって相互間の剥離が可能に接着・封止

され,積層された各葉の指がかりを補助する階段状端差部形成されているのに対し,

甲1発明は,送付用との特定はなく,また,糊加工が施された折り返し部の反対側

が,弱めに設定された接着力で接着することによって相互間の剥離が可能に接着・

封止されておらず,各印刷用紙のインデックス部でしかない点。」

ウ 相違点についての判断

当初明細書等の段落【0009】及び【0010】によれば,本件発明1は,
「送

付用情報記録冊子」であって,「ダイレクトメールなどを送付する際も…ゴミが出」

ず,
「各葉における少なくとも前記綴じ辺の対向辺は相互間の剥離が可能に接着・封

止されると共に前記封止領域には積層された各葉の指がかりを補助する(多段式の)

階段状端差部が形成されたので,開封する際には階段状端差部に指をかけて用紙を

剥離させてめくっていく」ことができるとの作用効果を奏するものである。一方,

甲1発明は,
「インデックス段差製本」であって,それ自体,送付用に用いることを

意図したものではない。また,甲1の段落【0006】には,
「微量であるがパンチ




穴による製本の軽量等においても郵送料金におけるコストの削減等において多大な

効果を発揮するものである。」との記載はされているものの,甲1発明の「インデッ

クス段差製本」それ自体をそのまま郵送することまで示唆してはいない。したがっ

て,甲1には,甲1発明の「インデックス段差製本」を送付用となし,折り返し部

の反対側を,弱めに設定された接着力で接着することによって相互間の剥離が可能

に接着・封止すべき動機は何ら示されていない。

甲2〜4には,折り返し部の反対側が封止された送付用の冊子が記載されている。

しかし,甲1発明は,送付用に用いることを意図したものではない「インデック

ス段差製本」であって,それ自体に,折り返し部の反対側を,弱めに設定された接

着力で接着することによって相互間の剥離が可能に接着・封止する動機を有するも

のでないのは,上述したとおりである。したがって,甲1発明において,上記相違

点に係る本件発明1の発明特定事項を採用することが,当業者が容易になし得たと

することはできない。



第3 原告主張の審決取消事由

1 取消事由1(本件補正の適否の判断の誤り)

(1) 本件補正は,当初明細書等の記載の範囲を超えた,新規事項を追加する補

正であり,特許法17条の2第3項に規定する要件を満たさないものである。この

判断の誤りは,審決の結論に影響を及ぼすものであるから,審決は取り消されるべ

きである。

(2) 構成Aについて

ア 本件補正によって特定された発明の技術内容について

本件補正は,
「予め各種情報が掲載された同サイズの複数の連続用紙に,それぞれ

綴じ辺(3)とその対向辺(5)の領域からなる所定の接着剤パターンで接着剤を

塗布し,それぞれ所定の折り位置で2つ折りして合流させ」とのプロセスを特定す

るものである。すなわち,
「それぞれ綴じ辺(3)とその対向辺(5)の領域からな




る所定の接着剤パターンで接着剤を塗布し,それぞれ所定の折り位置で2つ折りし

て合流させ」は,同サイズの複数の連続用紙につき,それぞれ2つ折りして合流さ

せること,すなわち,合流の際には,複数の連続用紙がいずれも2つ折りされてい

るプロセスが特定されていることを意味する。

ところが,審決は,物の発明である送付用情報記録冊子の要旨認定において,請

求項中に記載の各工程について,製造工程が限定されたものとして認定するのでは

なく,各工程によって製造された最終製造物を表現する「合流させた状態である」

と認定して,各工程の記載を発明の要旨として認定することを否定しているが,こ

れは誤りである。

新規事項の追加について

審決は,当初明細書等の段落【0055】及び図5を引用して,上記の補正事項

は,当初明細書等に記載された内容であるとする。しかし,それらは,
「一方の連続

用紙Xを略中央で折り曲げて他の連続用紙Yに合流させて,その後,他方の連続用

紙Yを折り曲げる製造プロセス」を開示しているだけであり,本件発明1の構成A

のような「それぞれの連続用紙を所定の折り位置で2つ折りして合流させる工程」

は開示されていない。

したがって,構成Aに係るプロセスは,当初明細書等には一切記載されておらず,

かつ,自明であるともいえないから,上記補正を新規事項の追加に当たらないとし

た審決の判断は,誤りである。

(3) 構成Cについて

審決は,本件発明1の構成Aと,当初明細書等の段落【0038】の「綴じ辺3

の対向辺5の封止領域には階段状段差部7が形成されていること」の記載から,
「構

成Cの「前記接着剤パターンの位置及び前記折り位置が整合するように連続用紙ご

とにずらして位置合わせされることで, とは,
」 当初明細書等に記載されているに等

しい自明の事項であると認定している。

しかし,構成Aが当初明細書等に記載されていないことは,前記のとおりである。




また,段落【0038】の記載は,連続用紙ではなくカット紙を用いた工程の説明

であり,連続用紙の工程を示す構成Cに関連する記載ではない。

さらに,当初明細書等の段落【0055】の記載及び図5には,連続用紙X,Y

ごとにどのようにずらして,階段状端差部(7)を形成するのかの開示はない。

したがって,構成Cが当初明細書等に記載されているに等しい事項であると認定

した審決の判断は,誤りである。



2 取消事由2(本件発明2の明細書記載要件の認定判断の誤り)

(1) 構成Aが本件発明2と矛盾しないとした認定判断の誤り

本件発明1の構成Aは,前記1(2)のとおり,連続用紙の合流の際には,それぞれ

連続用紙は2つ折りにされているという製造プロセスを規定している。一方,本件

発明2は,本件発明1を引用した製造方法の発明であるところ,本件発明2の工程

Hは,
「折り曲げた連続用紙(X)と折り曲げ前の連続用紙(Y)とを合流させる工

程」とされ,連続用紙の合流の際に,一方の連続用紙が折り曲げ前の状態にあるこ

とを特定している。

このように,本件発明2は,本件発明1と技術的に矛盾する工程が製造方法とし

て特定されたものであるから,技術的内容が不明瞭であることは明らかである。

(2) 本件発明2の工程Gと工程Hとの関係が明確であると認定した判断の誤



工程Gは,
「一部の連続用紙(X)(Y)
, を綴じ辺(3)で折り曲げる工程」とし,

連続用紙(Y)も折り曲げられたことになっているのに,工程Hでは,
「折り曲げた

連続用紙(X)と折り曲げ前の連続用紙(Y)とを合流させる工程」を記載してお

り,これらの関係は不明確である。

審決では,上記の工程Gについて,
「連続用紙(X)(Y)のいずれか一方の連続


用紙を,上記において折り曲げられなかった他方の連続用紙と合流されることを意

味する」と根拠もなく解釈し,その誤った解釈をした上で,本件発明2の工程Gと




工程Hとの関係が明確であるとしており,誤りである。



3 取消事由3(本件発明1の進歩性判断の誤り)

(1) 相違点の認定誤り

審決は,相違点として,
「甲1発明は,送付用との特定はなく」と認定した上,相

違点の判断において「甲1発明は,
『インデックス製本』であって,それ自体,送付

用に用いることを意図したものではない」と認定しているが,この認定は誤りであ

る。

本件発明1の送付用情報記録冊子の「送付」の意義は,当初明細書等の段落【0

001】〜【0008】の記載や,特に,段落【0008】の「送付は,郵便によ

る郵送とメール便を利用した配信その他の新しいサービス形態を総称するものとす

る」と記載されていることに照らすと,この送付には,封筒に入れて行う送付も,

封筒に入れずに冊子のまま直接送付する送付も含まれると解すべきである。すなわ

ち,本件発明1の「送付用情報記録冊子」は,情報記録冊子を封筒に入れずに直接

送付するものに限定されるものではなく,郵送やメール便を利用して配信される情

報記録冊子を含むものである。

そして,甲1の段落【0006】の後段部には,
「微量であるがパンチ穴による製

本の軽量等においても郵送料金におけるコスト削減等において多大な効果を発揮す

るものである」と記載されており,甲1発明が郵送等で送付することも想定された

情報記録冊子であることは明らかである。

したがって,甲1発明を「送付用との特定はなく」とした審決の認定は,誤りで

ある。

(2) 相違点判断の誤り

ア 甲1発明の「インデックス製本」は,送付用の情報記録冊子である。甲

1の段落【0006】には,「製本の軽量等においてに郵便料金におけるコスト削

減・・・」との記載されているように情報記録冊子を郵送する際の郵便料金におけ




るコスト削減について示されており,当業者が,コスト削減を検討して,様々な対

策を検討することは通常行われることである。また,情報記録冊子を直接郵送する

ことは,郵便法施行規則22条2号(甲6)において許容されており,周知技術

ある。さらに,情報記録冊子を直接郵送することは,例えば,甲2の2頁の段落0

001には「本発明は,例えばダイレクトメールとして,パンフレットやカタログ

などの小冊子を,封筒を使用することなくそのまま郵送することができる郵送用小

冊子に関するものである」と記載されている。また,甲3及び甲4には,情報記録

冊子を直接郵送する発明が記載されている。

したがって,甲1の段落【0006】の記載と,本件特許の出願前の周知技術

みると,当業者であれば,甲1の「インデックス製本」を,封筒等を使わずに直接

送付しようと考えることは自然であり,甲1発明の「インデックス段差製本」それ

自体をそのまま直接郵送することまで示唆していないとの認定に基づく判断は,誤

りである。

イ 上記のとおり,甲1発明の「インデックス段差製本」は送付用のもので

あるから,本件特許の出願前において,当業者が,甲1の「インデックス段差製本」

を,封筒等を使わずに直接送付するように考えることは自然であり,封筒等を使わ

ずにカタログ等の小冊子を直接送付することは,本件特許の出願前において,新規

なアイディアではなかった。また,カタログ等の小冊子を,封筒を使用せずに郵送

しようと考えた場合に,郵送中に郵便物がばらけて,き損したり,他の郵便物に損

傷を与えないようにするため,甲2のように,郵便用小冊子の綴じ辺の対向辺を接

着して束ねておくことは,当業者が当然考慮すべき事項である。このようにするこ

とは,上記の郵便法施行規則22条2号の規定により義務付けられたことであり,

当業者であれば当然に採用する構成である。

また,甲2の段落【0021】には,表表紙片21の内側紙面21bの上下及び

図中左側周縁部(綴じ辺の対向辺の領域)に剥離可能な接着剤が塗布されているこ

とが記載されており,段落【0021】〜【0023】には,郵便用小冊子におい




て,綴じ辺の対向辺の領域に,綴じ辺の接着力よりも弱めに設定された接着材を塗

布し,接着することによって相互間の剥離が可能に接着・封止されることが開示さ

れている。

以上のことからすると,審決の「甲1には,甲1発明の「インデックス段差製本」

を送付用となし,
・・・相互間の剥離が可能に接着・封止すべき動機は何ら示されて

いない」との判断は,誤りである。



第4 被告の反論

1 取消事由1に対し

(1) 本件補正によって導かれる技術的事項に関する審決の理解に誤りはなく,

新規事項の追加に当たらないとした判断にも誤りはない。

(2) 構成Aについて

本件発明1は,「送付用情報記録冊子」という物の発明であり,「それぞれ所定の

折り位置で2つ折りして合流させ」という発明特定事項が,2つ折りして合流した

状態を指すと解釈した審決の判断に誤りはない。かかる解釈論は,本件明細書等の

記載から当然に導かれるものであり,本件発明1がプロダクトバイプロセス発明か

否かを議論する必要などなく,その点に結論を得たところで,審決が示した解釈論

の正当性に影響が及ぶこともない。

原告の主張するように,構成Aが,複数の連続用紙を2つ折りにしてから合流さ

せるとの工程を規定したとした場合には,中綴じの冊子は製造できないのであるか

ら,製造できないような内容にあえて解釈することは,本件特許の出願時における

当業者の技術常識に反する。ましてや,原告は,当初明細書等の段落【0055】

及び図5に「一方の連続用紙Xを略中央で折り曲げて他の連続用紙Yに合流させて,

その後,他方の連続用紙Yを折り曲げる製造プロセス」が開示されていることを認

めているのであるから,発明特定事項もこれらの記載を踏まえて解釈すればよく,

補正事項が当初明細書等の記載に基づくものであることは明らかである。そうであ




れば,連続用紙X,Yは,原告の表現による製造プロセスを経た後,それぞれ2つ

折りして合流させた状態になる。また,本件明細書にも,段落【0033】に2枚

の用紙を2つ折りして冊子状に一体化して中綴じする実施例が明記されている。

(3) 構成Cについて

本件発明1は,送付用情報記録冊子の各葉に指がかりを補助する階段状端差部を

形成するものであるから(当初明細書等の段落【0009】,当業者は,構成Cに


つき,同端差部を形成するための構成と理解する。そして,当初明細書等の段落【0

055】には中綴じ冊子の製造プロセスとして「情報の印刷位置や感圧接着剤パタ

ーンの位置,折り位置,カッティング位置が整合するように位置合わせ」すること

が記載されており,図5の最終図面には同端差部が形成された状態が描かれている。

さらに,本件発明1のように同サイズの複数の連続用紙を用いて中綴じの冊子に係

る端差部を形成するには,連続用紙Xの短手方向の中央よりも端差分だけずらした

位置で連続用紙Xを2つ折りにした状態のものと,連続用紙Yを,その短手方向の

中央よりも連続用紙Xの端差分プラス連続用紙Yの端差分だけずらした位置で,連

続用紙Xを内側に配置させた状態で2つ折りしたものを合流させる必要がある。本

件発明1では,複数の連続用紙は2つ折りして合流する状態になるから(構成A),

その前提で同端差部を形成するには上記方法によるべきことは自明である。

したがって,構成Cは,当初明細書等に記載されているか,記載されているに等

しい。

原告は,段落【0038】は,構成Cを導くに当たり根拠となるものではないと

主張するが,同段落も,送付用情報記録冊子の各葉に指がかりを補助する階段状端

差部を形成する実施例を開示する点では,連続用紙を用いた場合と同様である。す

ると,同段落に触れた当業者は,連続用紙においても同段落記載のものと同様の端

差部を形成すると理解するから,段落【0038】も上記発明特定事項が当初明細

書等に開示されているに等しいことを示す重要な記載部分である。





2 取消事由2に対し

(1) 原告主張2(1)に対し

原告は,本件発明1の構成Aにおいて「合流の際にはそれぞれ連続用紙は2つ折

りされていることになる」との解釈を採用することを前提に,本件発明1と本件発

明2は矛盾すると主張するが,当該解釈が誤っていることは,前記1において述べ

たとおりであり,原告の主張は前提を欠く。本件発明1の構成Aにつき,複数の連

続用紙を2つ折りして合流する状態を指すものとの正しい解釈に照らせば,本件発

明2は,本件発明1にかかる物の製造方法として,折り曲げた連続用紙(X)と折

り曲げ前の連続用紙(Y)が存在すること,及び,両用紙を合流させること,を発

明特定事項とするものであると整合性をもって理解できる。

(2) 原告の主張2(2)に対し

原告の主張は,当初明細書等に「連続用紙(X)を先に折り曲げて,折り曲げ前

の連続用紙(Y)に,折り曲げた連続用紙(X)を合流させ,その後,連続用紙(Y)

を折り曲げる工程」が示されているとしつつ,審決は「連続用紙(X) (Y)のい


ずれか一方の連続用紙を,上記において折り曲げられなかった他方の連続用紙と合

流させることを意味する」ことまで解釈するから誤りであるというものである。し

かし,後者は前者を言い換えたにすぎないから,本件明細書に前者の記載があるな

らば,後者の認定は当然に可能である。



3 取消事由3に対し

(1) 相違点の認定について

甲1発明は,連続用紙どうしが綴じ辺のみで接着されているにすぎず,対向辺の

領域からなる所定の接着剤を塗布した構成ではないため,甲1発明の情報記録冊子

を送付しようとすれば,封筒等に封入して送付するほかない。また,甲1の段落【0

006】の後段部の記載は,単に甲1発明を封筒に封入して送付する際,パンチ穴

分だけ軽量になり,郵送料金のコスト削減ができる旨を記載しているにすぎない。




甲1発明は,情報記録冊子自体をそのまま送付することが想定されているものでは

ない。

したがって,
「甲1発明は,送付用との特定はな」いことを相違点とした審決の認

定に誤りはない。

(2) 相違点の判断について

ア 郵便法施行規則22条2号には,
「包装しなくても送達中にき損せず,他

の郵便物に損傷を与えないものであること」等が記載されているにすぎず,甲2発

明は,階段状端差部を有さない小冊子本体10の背の部分10aを表紙用紙20に

接着固定すると共に,表紙用紙20の周囲を接着することで,表紙用紙を単に袋状

に形成した構成に留まるものであり,甲3発明及び甲4発明に至っては,いずれも

中綴じの冊子状のものではなく,開封した際の展開時の構成,接着パターン等いず

れも異なるものである。

したがって,甲1発明の「インデックス段差製本」それ自体をそのまま郵送する

ことの動機付けがない。

イ 本件発明は,綴じ辺(3)と対向辺(5)との間の幅が表面側から裏面

側に向けて段階的に長くなるように形成される階段状端差部を有する情報記録冊子

を直接送付しようとする着想自体が,従来にない斬新なものである。仮に,甲1発

明の「インデックス製本」を,封筒等を使わず直接送付することを着想できたとし

ても,甲2発明は,階段状端差部を有さない小冊子本体10の背の部分10aに通

常の接着剤を塗布した小冊子本体10を2つ折りした表紙用紙20の表表紙片21

と裏表紙片22の間に挟むことによって,当該小冊子本体10が表紙用紙20に糊

付けされ,表表紙片21と裏表紙片22の相対向する周縁部が上記組成の接着剤層

Aによって剥離可能に接着されることで,表表紙片21と裏表紙片22を単に袋状

に形成した構成に留まるものである。つまり,小冊子本体が表紙用紙20に糊付け

されているものの,小冊子本体を袋状のものに封入した状態と何ら変わらない構成

である。




したがって,折り返し部の反対側を,弱めに設定された接着力で接着すること

によって,相互間の剥離が可能に接着・封止することは公知技術ではなく,甲1発

明の「インデックス段差製本」を送付用となし,折り返し部の反対側を弱めに設定

された接着剤で接着することによって,相互間の剥離が可能に接着・封止すべきこ

とは容易ではない。

甲3発明及び甲4発明は,いずれも中綴じの冊子状のものではなく,開封した際

の展開時の構成,接着パターン等いずれも異なるものである。これらの発明を適用

したとしても,綴じ辺の対向辺を相互間の剥離が可能に接着・封止する構成とはな

り得ず,甲1発明において情報記録冊子の綴じ辺の対向辺を相互間の剥離が可能に

接着・封止する構成を採用することは,当業者にとって容易に想到し得るものでは

ない。



第5 当裁判所の判断

1 取消事由1(本件補正の適否の判断の誤り)について

(1) 当初明細書等の記載について

当初明細書等(甲7)には,前記第2の2(2)の請求項の記載があるほか,次の記

載がある。
「【発明の詳細な説明

【技術分野】

【0001】

この発明は,各種カードの利用明細・請求書などの通信事務印刷物の送付や,広告宣伝

用のカタログ・パンフレットなどのダイレクトメール(DM)配信などに利用できる送付

用情報記録冊子に関するものである。

【背景技術】

【0002】

従来より,各種カードの利用明細・請求書などの通信事務印刷物や,広告宣伝用のカタ





ログ・パンフレットなどのダイレクトメールは封筒に封入して送り先に郵送していた。そ

して受け取った人は,前記封筒の一辺を指でちぎり取るかハサミで切り取るかなどして開

封する。この際に封筒の開封片がゴミとして出ることとなる。

【0003】

また図6に示すように,封着辺51に沿って切取りミシン目からなる切取り部52を配

した封書53が提案されている(例えば特許文献1参照)。この封書53は宛名情報記載部

54を有すると共に,封着辺51に沿って切取りミシン目からなる切取り部52が形成さ

れており,この切取り部52から前記封着辺51が分離可能に設けられている。そして,

上記封書53を開封するに際しては切取り部52から分離する。

【0004】

しかし,この封書53を開封するためには切取りミシン目から切取り部51を指で取り

去る必要があり,いちいちハサミを用意することなく簡易に開封できるという利点はある

ものの,やはり開封片がゴミとして出てしまうという問題があった。

【0005】

このようにゴミが出るとわざわざゴミ箱まで捨てに行く必要が生じ面倒臭いので,請求

書などの通信事務印刷物の場合はいざ知らず,強制力のないダイレクトメールなどが入っ

た封筒はそのまま開封せずに放ったらかしにされることが多く,折角送付したのに見ても

らえない傾向が高かった。


「【発明が解決しようとする課題】

【0006】

そこでこの発明は,開封片のゴミを出さずに開封することができる送付用情報記録冊子

を提供しようとするものである。

【0007】

前記課題を解決するためこの発明では次のような技術的手段を講じている。

(1)この発明の送付用情報記録冊子は,外面から視認可能な宛名情報表示領域を有し且つ各

種情報が掲載された複数葉の用紙が積層され綴じ辺によって冊子状に一体化され,各葉に





おける少なくとも前記綴じ辺の対向辺は相互間の剥離が可能に接着・封止されると共に前

記封止領域には積層された各葉の指がかりを補助する階段状端差部が形成されたことを特

徴とする。

【0008】

この送付用情報記録冊子は,外面から視認可能な宛名情報表示領域を有し且つ各種情報

が掲載された複数葉の用紙が積層され綴じ辺によって冊子状に一体化されたので,この冊

子に各種カードの利用明細・請求書などの通信事務や広告宣伝用のカタログ・パンフレッ

トなどの内容を掲載し,これらの送付に利用することができる。ここで,旧来からの郵便

による郵送と共に民間の所謂メール便を利用した配信・送付も急速に普及しており,前記

送付とは郵便による郵送とメール便を利用した配信その他の新しいサービス形態を総称す

るものとする。

【0009】

また,各葉における少なくとも前記綴じ辺の対向辺は相互間の剥離が可能に接着・封止

されると共に前記封止領域には積層された各葉の指がかりを補助する(多段式の)階段状

端差部が形成されたので,開封する際には階段状端差部に指をかけて用紙を剥離させてめ

くっていくことにより冊子状に開いて内容を視認することができる。ここで,前記剥離可

能な封止領域は綴じ辺の対向辺のみとしてもよいし綴じ辺以外の残りの3辺としてもよい

し,また用紙の全面を接着してもよいしスポット的に複数箇所を接着してもよい。

【0010】

さらに,ダイレクトメールなどを送付する際も封筒に封入する場合のような開封片など

のゴミが出ないので開封することに対する抵抗感は殆ど生じず,本の頁をめくる動作の延

長線上の感覚で冊子の階段状端差部を1枚づつめくって開封していくことができ,途中ま

でめくると折角だからということで何となく残りもめくってみたくなるものであり,宣伝

広告物の開封誘導性を飛躍的に高めることができる。また,封筒が不要となるので省資源

とすることができる。」

「【0014】





(3) 前記階段状段差部は綴じ辺と対向辺との間の幅が表面側から裏面側に向けて段階

的に長くなるように設定されたこととしてもよい。

【0015】

このように構成すると,表面側の頁から順次開封していく際にめくり易い。また,端差

部は開封指がかりになると同時に,該当頁のインデックスとして利用することにより内容

の確認を容易に行うことができる。例えば請求書を送付する場合,2葉目の段差部に「ご

利用明細」と表示し,3葉目の段差部に「キャンペーンのご案内」と表示し,4葉目の段

差部に「申込方法について」と表示すると,冊子の内容を表面から一目で把握することが

できる(なお,冊子の1葉目は外面から視認できるからインデックスは表示しなくてもよ

い)」


「【0027】

(9)この送付用情報記録冊子の製造方法は,前記(1) (8)
〜 の冊子の製造方法であって,

情報が予め記録された2以上の連続用紙の必要箇所に感圧接着剤を塗布する工程と,前記

連続用紙を綴じ辺で折り曲げる工程と,各連続用紙を合流させる工程と,合流した連続用

紙を加圧して接着する工程と,所定のサイズでカットする工程とを有する。」

「【0029】

この発明は上述のような構成であり,次の効果を有する。

【0030】

開封する際には階段状端差部に指をかけて用紙を剥離させてめくっていくことにより冊子

状に開いて内容を視認することができるので,開封片のゴミを出さずに開封することがで

きる送付用情報記録冊子を提供することができる。」

「【発明を実施するための最良の形態】

【0031】

以下,この発明の実施の形態を図面を参照して説明する。

実施形態1)

図1乃至図3に示すように,この実施形態の送付用情報記録冊子は,外面から視認可能





な宛名情報表示領域1を表面に有し,且つ各種情報が掲載された複数葉の用紙2が積層さ

れ綴じ辺3によって冊子状に接着一体化されている。」

「【0033】

前記複数葉の用紙2として,4葉の用紙2が積層され一端の綴じ辺3によって冊子状に

一体化されたこととしている。4葉の用紙2を積層する態様であるが,A4版の用紙4枚

を端辺の綴じ辺3で接着して冊子状に一体化して4葉としている(平綴じとしている)も

のでもよい。なお本発明では,A3版の用紙2枚を2つ折りしその折り部を綴じ辺として

接着して冊子状に一体化して4葉とする中綴じとしている(図示せず)」


「【0035】

図3に示すように,各葉における前記綴じ辺3の対向辺5は相互間の剥離が可能に接

着・封止されている。前記綴じ辺3の対向辺5は,用紙2を大きくは損傷させず剥離する

ことができると共に,人手によって簡単に剥離できるが意図的に剥離動作をしなければ接

着を維持できるように設定している。」

「【0038】

また図3に示すように,前記綴じ辺3の対向辺5の封止領域には積層された各葉の指が

かりを補助する階段状端差部7が形成されている。前記階段状段差部は綴じ辺3と対向辺

5との間の用紙2の幅が表面側から裏面側に向けて段階的に長くなるように設定している。

この段差は,用紙2の端辺を予め段階的にカットして形成しておく。」

「【0040】

次に,この実施形態の送付用情報記録冊子の使用状態を説明する。

【0041】

この送付用情報記録冊子は,外面から視認可能な宛名情報表示領域1を有し且つ各種情報

が掲載された複数葉(4葉)の用紙2が積層され綴じ辺3によって冊子状に接着・一体化

されたので,この冊子に各種カードの利用明細・請求書などの通信事務や広告宣伝用のカ

タログ・パンフレットなどの内容を掲載し,これらの送付に利用することができる。

【0042】





また,各葉における前記綴じ辺3の対向辺5は相互間の剥離が可能に接着・封止される

と共に前記封止領域には積層された各葉の指がかりを補助する多段式の階段状端差部7が

形成されたので,開封する際には階段状端差部7に指をかけて用紙2を剥離させてめくっ

ていくことにより冊子状に開いて内容を視認することができる。

【0043】

さらに,ダイレクトメールなどを送付する際も封筒に封入する場合のような開封片など

のゴミが出ないので開封することに対する抵抗感は殆ど生じず,本の頁をめくる動作の延

長線上の感覚で冊子の階段状端差部7を1枚づつめくって開封していくことができ,途中

までめくると折角だからということで何となく残りもめくってみたくなるものであり,宣

伝広告物の開封誘導性を飛躍的に高めることができる。また,封筒が不要となるので省資

源とすることができる。

【0044】

すなわち,開封する際には階段状端差部7に指をかけて用紙2を剥離させてめくってい

くことにより冊子状に開いて内容を視認することができるので,開封片のゴミを出さずに

開封することができるという利点がある。」

「【0054】

次いで,実施形態1の送付用情報記録冊子を連続的に製造する中綴じ方法を説明する。な

お,上記実施形態1ではこの実施例のような連続用紙ではなくカット紙を用いて製造して

いる。

【0055】

図5に示すように,この送付用情報記録冊子の製造方法は,情報が予め記録された2種

の連続巻き取り用紙X,Y(A3版相当)の必要箇所に感圧接着剤塗布装置8により感圧

接着剤6を塗布する工程と,前記連続用紙X,Yを略中央の綴じ辺3で折り曲げる工程と

(折り曲げるとA4版相当となる),前記2種の連続用紙X,Yを合流させる工程と,合流

した連続用紙X,Yを加圧して感圧接着剤6で接着する工程と(中綴じ),所定のサイズで

用紙X,Yをカットする工程とを有する。前記一連の工程では,情報の印刷位置や感圧接





着剤パターンの位置,折り位置,カッティング位置が整合するように位置合わせしており,

情報が予め記録された連続用紙X,Yを供給しながら冊子へと連続的に製本・製造するこ

とができる。」

(2) 本件補正に関しての新規事項の追加の有無について

ア 本件補正について

本件補正書によれば,本件補正は,請求項1を次のとおり補正するものである(下

線部は補正箇所。アルファベットは裁判所が付した。。


「A 予め各種情報が掲載された同サイズの複数の連続用紙に,それぞれ綴じ辺

(3)とその対向辺(5)の領域からなる所定の接着剤パターンで接着剤を塗布し,

それぞれ所定の折り位置で2つ折りして合流させ,合流した連続用紙の折り部同士

を綴じ辺(3)として接着し,連続用紙の連続方向を所定のサイズでカットするこ

とで,中綴じの冊子状に一体化される送付用情報記録冊子であって,

B 各葉における少なくとも前記対向辺(5)の封止領域は,綴じ辺(3)の接着

力よりも弱めに設定された接着力で接着することによって相互間の剥離が可能に接

着・封止されると共に,

C 前記接着剤パターンの位置及び前記折り位置が整合するように連続用紙ごとに

ずらして位置合わせされることで,

D 前記封止領域には積層された各葉の指がかりを補助する階段状端差部(7)が,

綴じ辺(3)と対向辺(5)との間の幅が表面側から裏面側に向けて段階的に長く

なるように形成されることを特徴とする送付用情報記録冊子。」

かかる補正は,その文言自体から見ても,また,上記のとおり,当初明細書等の

段落【0054】等に,実施形態1について,連続用紙を用いて中綴じして連続的

に製造する方法と,カット紙を用いて平綴じして製造する方法との二通りの方法が

記載されていたのが,請求項1が本件補正のとおりに補正された経過から見ても,

本件補正により,カット紙を用いて平綴じの冊子状に一体化する製造方法は除外さ

れ,連続用紙を使用して中綴じする製造方法に限定されたものと解釈するのが合理




的である。

イ 構成Aについて

上記の構成Aは,上記の記載にあるとおり,予め各種情報が掲載された同サイズ

のそれぞれの連続用紙に接着剤を塗布する工程と,それぞれの連続用紙を2つ折り

する工程(綴じ辺で折り曲げる工程)と,それぞれの用紙を合流させる工程と,連

続用紙を接着する工程と,連続用紙をカットする工程とから成る製造方法によって

製造されることを特定するものである。そして,このうち,
「それぞれ所定の折り位

置で2つ折りして合流させ」とは,複数の連続用紙をそれぞれ2つ折りし,その後,

それぞれを合流させることを特定したと見るのが,文言上,もっとも素直であり,

合理的である。

そこで,構成Aの発明特定事項が当初明細書等の記載されていたかを見るに,段

落【0055】に「図5に示すように,この送付用情報記録冊子の製造方法は,情

報が予め記録された2種の連続巻き取り用紙X,Y(A3版相当)の必要箇所に感

圧接着剤塗布装置8により感圧接着剤6を塗布する工程と,前記連続用紙X,Yを

略中央の綴じ辺3で折り曲げる工程と(折り曲げるとA4版相当となる) 前記2種


の連続用紙X,Yを合流させる工程と,合流した連続用紙X,Yを加圧して感圧接

着剤6で接着する工程と(中綴じ),所定のサイズで用紙X,Yをカットする工程と

を有する。」と記載されている。この段落の記載からすれば,A3版相当の大きさで

あった連続巻き取り用紙X,Yが,折り曲げ工程によってA4版相当となり,その

「前記2種の連続用紙X,Yを合流させる」と記載されているものであるから,そ

れぞれの連続用紙を「前記連続用紙X,Yを略中央の綴じ辺3で折り曲げる工程」

の後に,「前記連続用紙X,Yを合流させる工程」がまず理解されるといえる。

そうすると,当初明細書等において,構成Aの特定事項が記載されていることは

明らかであるから,新規事項の追加に当たらないとした審決の判断に,誤りはない。

この点,原告は,構成Aについて,上記の認定と同様に,複数の連続用紙をそれ

ぞれ折り曲げた後に,それらの連続用紙を合流させるとの順序が特定されたものと




捉えた上で,当初明細書等には,図5にあるとおり,
「一方の連続用紙Xを略中央で

折り曲げて他の連続用紙Yに合流させて,その後,他方の連続用紙Yを折り曲げる

製造プロセス」を開示するのみで,構成Aのような「それぞれの連続用紙を所定の

折り位置で2つ折りして合流させる工程」は開示されていないと主張する。

確かに,図5には,連続用紙Xを折り曲げ,その折り曲げた連続用紙Xを,折り

曲げ前の連続用紙Yに重ね,その後,折り曲げられた連続用紙Xの綴じ辺に一致す

るように,折り曲げ前の連続用紙Yの綴じ辺が重ねられ,連続用紙Yが折り曲げら

れる工程図が記載されているものと解される。しかし,前記のとおり,段落【00

55】の文言からは,むしろ,連続用紙X,Yの双方を折り曲げてから,折り曲げ

後のそれらを合流させる工程がまず理解されるのであり,図5の記載と併せて読ん

で初めて,合流及び折り曲げの先後関係について,折り曲げ後の連続用紙Xに折り

曲げ前のYを重ね合わせる工程が開示されていることが理解できるものとなってお

り,同段落にある「図5に示すように」との文言は一つの具体例を示す記載である

と認められる。

したがって,原告の上記主張は採用することができない。

ウ 構成Cについて

構成Cは,構成Dに規定された階段状端差部(7)が,
「 前記接着剤パターンの

位置及び前記折り位置が整合するように連続用紙ごとにずらして位置合わせされる

ことで」形成されるものであることを特定するものである。

当初明細書等の段落【0055】には,上記摘示部分の記載に続けて,
「…前記一

連の工程では,情報の印刷位置や感圧接着剤パターンの位置,折り位置,カッティ

ング位置が整合するように位置合わせしており,情報が予め記録された連続用紙X,

Yを供給しながら冊子へと連続的に製本・製造することができる。 と記載されてい


る。そして,当初明細書等の段落【0007】において,本件発明の特徴とされる

階段状端差部について,複数葉の用紙が積層され綴じ辺によって冊子状に一体化さ


れ,各葉における少なくとも前記綴じ辺の対向辺は相互間の剥離が可能に接着・封




止されると共に前記封止領域には積層された各葉の指がかりを補助する階段状端差

部」と記載され,綴じ辺の対向辺の封止領域に積層されて指がかりを補助する階段

状のものであることが明らかにされている。そして,その形状については,図1〜

図3に記載があるほか,段落【0038】には,カット紙を利用して製造するもの

ではあるものの,
「また図3に示すように,前記綴じ辺3の対向辺5の封止領域には

積層された各葉の指がかりを補助する階段状端差部7が形成されている。前記階段

状段差部は綴じ辺3と対向辺5との間の用紙2の幅が表面側から裏面側に向けて段

階的に長くなるように設定している」とその具体的形状についての説明がある。さ

らに,用紙を2つ折りして,折り部を綴じ辺とすることが記載された段落【001

1】【0013】を見れば,折り部の対向側が綴じ辺と対向する対向辺となること


がわかる。そして,複数の紙を2つ折りにし,折り部の対向部である対向辺に階段

状端差部を作成するに当たり,重ねた紙の位置をずらすことで,階段状の端差部が

形成されることは,当業者にとって自明のことである。

以上を総合すれば,本件の当初明細書の段落【0055】に記載されている冊子

は,綴じ辺の対向辺の封止領域に階段状の端差部が形成されている冊子であり,こ

のような冊子を製本・製造するために「感圧接着剤パターンの位置,折り位置,カ

ッティング位置が整合するように位置合わせ」すると,
「前記接着剤パターンの位置

及び前記折り位置が整合するように連続用紙ごとにずらして位置合わせされるこ

と」は自明であるといえる。

そうすると,構成Cが当初明細書等に自明なものとして記載されているとした審

決の判断に,誤りはない。

この点,原告は,上記の段落【0038】は,連続用紙ではなく,カット紙を用

いた工程の説明であることを根拠として,審決を論難するが,審決は,同段落の記

載を階段状端差部の構造を示すために斟酌したものと善解され,この構造は,連続

用紙を用いたかカット紙を用いたかにより異なるものではないから,審決の認定に

は問題がない。




したがって,原告の主張は採用できない。



2 取消事由2(本件発明2の明細書記載要件の認定判断の誤り)について

(1) 原告は,本件発明1は,構成Aにあるように「合流の際にはそれぞれ連続

用紙は2つ折りされていることになる」ものであるが,本件発明2は,工程Hにあ

るとおり,連続用紙の合流の際に,一方の連続用紙が折り曲げ前の状態にあること

を特定しているものであるから,これらは相互に矛盾する旨主張する。

しかし,前記に述べたとおり,本件発明1の構成Aは,複数の連続用紙をそれぞ

れ所定の折り位置で2つ折りし,そのそれぞれの2つ折りした連続用紙を合流させ

て製造されるものであるのに対し,本件発明2は,折り曲げた連続用紙(X)と折

り曲げ前の連続用紙(Y)とを合流させる工程による製造方法について特定したも

のである。そして,これらのいずれについても,前記のとおり,当初明細書等に記

載されていたところを,本件補正により,本件発明1は,構成Aによる工程等によ

って製造される物の発明に,本件発明2は,本件発明1の送付用情報記録冊子とい

いう物自体を工程E〜Jにより製造する方法の発明に特許請求の範囲減縮したも

のである。

そうすると,本件発明1と本件発明2との間において,何らの矛盾が生ずるとは

いえず,原告の主張は採用することはできない。

(2) 原告は,本件発明2の工程Gと工程Hの関係が不明確であると主張すると

ころ,本件発明2の工程Gは,
「一部の連続用紙(X)(Y)を綴じ辺(3)で折り


曲げる工程」というものであり,工程Hは,
「折り曲げた連続用紙(X)と折り曲げ

前の連続用紙(Y)とを合流させる工程」というものである。ここで,工程Gにお

いて,連続用紙(X)(Y)の一部が,綴じ辺(3)で折り曲げられるものとされ,


工程Hにおいて,合流するのが「折り曲げた連続用紙(X)と折り曲げ前の連続用

紙(Y)」と特定されていることから,合流する段階では,複数の連続用紙のうち一

方が折り曲げられ,他方が折り曲げ前の状態であることは明らかである。




したがって,工程Gにおける一部の連続用紙とは,審決が認定するように,連続

用紙(X)(Y)のいずれか一方の連続用紙を意味するものと明らかに理解するこ


とができるから,原告の主張は採用できない。



3 取消事由3(本件発明1の進歩性の有無)について

(1) 相違点の認定について

原告は,本件発明1の送付用情報記録冊子の「送付」は,情報記録冊子を封筒に

入れずに直接送付するものに限定されるものではなく,郵送やメール便を利用して

配信される情報記録冊子を含むものであることを前提に,甲1の段落【0006】

の後段部にあるように,甲1発明が郵送等で送付することも想定された情報記録冊

子であることから,甲1が送付用であるとの特定がないことを相違点とした審決の

認定は誤りであると主張する。

ア そこで,まず,本件発明1の送付用情報記録冊子における「送付」につ

いて検討する。

(ア) 前記1(1)の記載及び本件明細書(甲10)の記載によれば,

本件発明について,以下のとおり認められる。

本件発明1は,各種カードの利用明細・請求書などの通信事務印刷物の送付や,

広告宣伝用のカタログ・パンフレットなどのダイレクトメール(DM)配信などに

利用できる送付用情報記録冊子に関するものである(【0001】。


従来,上記印刷物やパンフレットなどのダイレクトメールは,封筒に封入して送

り先に郵送しており,受け手は,封筒の一辺を指でちぎり取るかハサミで切り取る

かなどして開封するため,封筒の開封片がゴミとして出ることとなっていた 【00


02】。封着辺に沿って切取りミシン目からなる切取り部を配した封書が提案され


ているが,この際にも,封書を開封するに際しては切取り部から分離するため,や

はり開封片がゴミとして出てしまうという問題があった 【0003】。
( ) このように

ゴミが出ると,ゴミを捨てる手間が面倒なので開封せずに放ったらかしにされるこ




とが多く,強制力のないダイレクトメールが入った封筒は見てもらえない傾向が高

かった(【0005】。


そこで,本件発明1は,開封片のゴミを出さずに開封することができる送付用情

報記録冊子を提供しようとするものである 【0006】。
( ) 本件発明の送付用情報記

録冊子は,外面から視認可能な宛名情報表示領域を有し,かつ,各種情報が掲載さ

れた複数葉の用紙が積層され綴じ辺によって冊子状に一体化され,各葉における少

なくとも前記綴じ辺の対向辺の封止領域は,相互間の剥離が可能に接着・封止され

るとともに,前記封止領域には積層された各葉の指がかりを補助する階段状端差部

が形成されたことを特徴とするものである(【0007】。


この送付用情報記録冊子は,外面から視認可能な宛名情報表示領域を有し,かつ,

各種情報が掲載された複数葉の用紙が積層され綴じ辺によって冊子状に一体化され

たので,この冊子に各種カードの利用明細・請求書などの通信事務や広告宣伝用の

カタログ・パンフレットなどの内容を掲載し,これらの送付に利用することができ

る(【0008】。


以上の本件発明1の概要,とりわけ,外面から視認可能な宛名情報表示領域を有

することに照らせば,本件発明1は,その送付用情報記録冊子自体が,情報を掲載

してそのまま送付されるものであることは明らかである。

(イ) この点,原告は,本件明細書の段落【0001】〜【0008】

の記載,特に,段落【0008】の「送付とは郵便による郵送とメール便を利用し

た配信その他の新しいサービス形態を総称するものとする。」との記載を根拠とし

て,本件発明1の「送付」は,封筒に情報記録冊子を封入して送付する場合も含む

と主張する。

しかし,段落【0002】〜【0005】は,従来技術における問題点を指摘す

る部分であり,上記のとおり,これらの問題点を解決するため,本件発明1の構成

を採用し,開封する際に階段状端差部に指をかけて冊子状に開いて内容を視認する

ことを可能にして,封筒に封入する場合のような開封片などのゴミが出ない(段落




【0010】,【0056】参照)ようにしたものであるから,原告の上記主張は

課題解決との関係でおよそ採用することはできない。また,原告の指摘する上記段

落【0008】の記載部分は,単に,「旧来からの郵便による郵送と共に民間の所

謂メール便を利用した配信・送付」があることから,いわゆる「郵便による郵送」

に限らず,その他のメール便等の新しい配達手段を含む旨を規定したものにすぎず,

原告主張の根拠となるものではない。

イ 甲1発明について

(ア) 甲1によれば,甲 1 発明は,以下のとおりのものである。

甲1発明は,インデックス付製本及びその加工方法によるものである(【000

1】)。従来,広告用の小冊子のほとんどの製本方法としてワイヤー(ホッチキス)

を使用していたが,ゴミ処理における環境問題が発生しており,糊止め加工の場合

には,製造コストにおける問題があった(【0002】,【0003】)。

そこで,これらを解決するため,用紙の天地又は左右のいずれかの紙端からイン

デックス等の印刷を設け,そのインデックス部をずらした位置の上方に前記同様に

加工された同寸法の各印刷物を同方向にずらしながら線糊等重ね合わせ,すべての

インデックスが目視できるよう折り込むインデックス段差製本を提供する(【00

04】)というものである。

(イ) 原告は,甲1の段落【0006】に「…薄紙等の糊止めによる用

紙のしわが発生する問題もパンチ穴の加工により解決し,また,厚紙による折り加

工もパンチ穴の加工により容易に折り込むことが可能となり,パンチ穴による製本

加工の簡易と薄紙,厚紙等における製本のクオリーティーが望め,微量であるがパ

ンチ穴による製本の軽量等においても郵送料金におけるコストの削減等において多

大な効果を発揮するものである。」との記載があることから,甲1も郵送等で送付

することも想定された情報記録冊子であることが明らかであると主張する。

確かに,同段落には,上記折り込み部にパンチ穴加工を施した場合には,他の効

果とともに,微量であるが製本の軽量等により郵送料金のコスト削減効果が得られ




ることが記載されており,郵送による送付を想定しているものといえる。

しかし,同段落には,情報記録冊子それ自体をそのまま送付することは記載され

ておらず,これを示唆する記載もない。

そうすると,本件発明1の「送付」が前記のとおり,情報記録冊子それ自体をそ

のまま送付するものであることからすれば,甲1発明は「送付用」のものというこ

とはできない。したがって,審決のした相違点の認定に誤りがあるとはいえず,原

告の主張には理由がない。

(2) 相違点の判断について

原告は,段落【0006】には,郵便料金におけるコスト削減について示されて

いること,情報記録冊子を直接郵送することは,郵便法施行規則22条2号におい

て許容されており,周知技術であること,甲2〜4のように情報記録冊子を直接郵

送する発明が周知であることから,甲1の段落【0006】の記載と,周知技術

見ると,当業者であれば,甲1の「インデックス製本」を,封筒等を使わずに直接

送付しようと考えることは自然であると主張する。

しかし,前記のとおり,甲1には,インデックス製本自体を封入せずにそのまま

送付することについて記載又は示唆されているとはいえず,段落【0006】に軽

量化による郵送料金のコスト削減が記載されているとしても,かかるコスト削減の

要請から直ちに封筒に封入せずに直接送付することが想起されるものではない。そ

して,郵便法施行規則22条2号(平成19年3月総務省令第33号による改正前

は,同規則16条2号)に,郵便物の基準として,
「イ 封筒若しくは袋を用いて又

はこれに代わるもので包装し,その納入口又はこれに相当する部分の全部を送達中

容易に開かないように封じたものであること。ロ 包装しなくても送達中にき損せ

ず,他の郵便物に損傷を与えないものであること。 と規定されていることからすれ


ば,綴じ部と対向する対向辺が何らかの形で封止されていなければ,冊子自体をそ

のまま郵便物として送付できないものであるから,そのような封止のための構成を

有していない甲1発明を直接送付しようと考えることが不自然といえる。




また,甲1発明のインデックス製本を封筒に封入せずに直接送付することについ

ての動機付けがない以上,「各葉の少なくとも綴じ辺の対向辺の封止領域は,所定

の接着パターンで接着剤を塗布し,綴じ辺の接着力よりも弱めに設定された接着力

で接着することによって相互間の剥離が可能に接着・封止」する構成を甲1発明に

適用しようと動機付けられることもない。

したがって,甲1発明に,相違点に係る本件発明1の発明特定事項を採用するこ

とが当業者が容易になし得ることではないとした審決の判断に誤りはなく,原告の

主張には理由がない。



第6 結論

よって,原告の主張する取消事由にはいずれも理由がないから,原告の請求を棄

却することとし,主文のとおり判決する。



知的財産高等裁判所第2部




裁判長裁判官

清 水 節




裁判官

中 村 恭





裁判官

中 武 由 紀