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事件 平成 25年 (行ケ) 10335号 審決取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2014/09/24
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成26年9月24日判決言渡 同日原本受領 裁判所書記官

平成25年(行ケ)第10335号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 平成26年8月4日

判 決



原 告 X



被 告 特 許 庁 長 官

指 定 代 理 人 中 川 真 一

同 竹 村 真 一 郎

同 窪 田 治 彦

同 山 田 和 彦

主 文

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

特許庁が不服2013−10659号事件について平成25年10月28日

にした審決を取り消す。

第2 事案の概要

1 特許庁における手続の経緯等

原告は,平成24年3月14日,発明の名称を「雪下ろしロボット」とす

る発明(請求項数1)について特許出願(特願2012−82265号。以

下「本願」という。)をし,同年5月18日付けで拒絶理由通知を受けたた

め,同年7月26日付け意見書を提出したが,さらに同年10月9日付けで

拒絶理由通知を受けたため,同年11月12日付け意見書を提出したが,平

1
成25年2月14日付けで拒絶査定を受けたことから,同年5月22日,こ

れに対する不服の審判を請求した(甲1〜5,乙1,2)。

特許庁は,前記 請求を不服2013−10659号事件として審理し,

平成25年10月28日,
「本件審判の請求は,成り立たない。 との審決
」 (以

下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年11月20日,原告に送

達された。

原告は,平成25年12月16日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を

提起した。

2 特許請求の範囲の記載

特許請求の範囲の請求項1は,次のとおりである(以下,この請求項1に記

載された発明を「本願発明」といい,本願に係る明細書(乙1)を「本願明細

書」という。。


【請求項1】

雪国の屋根の雪下ろしロボットで切り妻屋根の棟の上に水平にアルミ又は

ステンレス製のレールを取り付けその上に二輪の小型トラックを組み付け車

内にウインチを格納する。このワイヤーで繋いだ小型ラッセル車で雪を排除

するためのシャベルが幅30〜50センチ程度のものを屋根上に乗せる。こ

れらは地上から降雪時にリモコンで発進されて雪を大屋根から軒下へと速や

かに排除しつつ屋根全体を真っ直ぐに走り降りすぐに巻き上げられてシャベ

ル幅だけ左または右へ移る。これらは電気自動車とする。これにより危険な

人力による雪下ろし事故を防ぐことが出来る。

寄せ棟屋根の場合は図に示した様に棟より12メートル程度下げてレール

を4周に水平に取り付けておけば大部分の雪を一台のラッセル車で下ろせる。

ハンドルのリモコン操作をすれば寄せ棟に添って斜めに雪を排除することも

可能であろう。

3 本件審決の理由の要旨

2
本件審決の理由は,別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願は,

特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に規定する要件を満たしてお

らず,また,予備的に新規性進歩性の判断を行うとした上で,本願発明は,

その出願(平成24年3月14日)前に頒布された下記アの刊行物(以下「引

用例」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。 ,下記イ及び


ウの刊行物に記載された事項並びに周知技術に基づいて,当業者が容易に発

明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特

許を受けることができない,というものである。

ア 引用例:特開昭62−236953号公報(甲7)

イ 刊行物2:特開2007−321528号公報(乙3)

ウ 刊行物3:特開2005−36472号公報(乙4)

本件審決は,本願発明は特許請求の範囲の記載が不明瞭であるが,予備的

新規性進歩性の判断を行うとした上で,
「雪下ろしロボット」との発明の

名称及び本願明細書全体の記載を参酌して,特許請求の対象が「雪下ろしロ

ボット」であり,雪下ろしロボットを特定する本願発明が次のとおりのもの

であると認定した。

【請求項1】

雪国の屋根の雪下ろしロボットであって,

切り妻屋根の棟の上に水平に取り付けたアルミ又はステンレス製のレー

ルと,

前記レール上に組み付けられた,車内にウインチを格納した二輪の小型

トラックと,

前記ウインチのワイヤーに繋がれて屋根上に載置され,雪を排除するた

めの幅30〜50センチ程度のシャベルを有する小型ラッセル車であって,

降雪時にリモコンで発進されて雪を大屋根から軒下へと速やかに排除しつ

つ屋根全体を真っ直ぐに走り降りすぐに巻き上げられてシャベル幅だけ左

3
または右へ移る小型ラッセル車とを備え,

前記小型トラックと前記小型ラッセル車とは電気自動車である,雪国の

屋根の雪下ろしロボット

本件審決が認定した引用発明は,次のとおりである。

屋根の除雪用の除雪装置であって,

切り妻屋根の棟の上に支持体8によって水平に固定されている軌道2と,

軌道2上に数個の自由に回る支持車4によって軌道2を両側から挟んで

接する形で支持された,伸縮機構7の基部16,及び伸縮機構を駆動する

モータ6,及び台座を軌道上で移動させるモータ5などが配置され,外箱

1がかぶせられ固定されている台座3と,

コの字型の基部16と,ねじ棒18,及び摺動体17,及びアーム9.

9′により構成された伸縮機構7と,

アームと摺接され,伸縮方向に対して一定の角度を保ちながら伸縮方向

に移動する,ゴム製のキャスタ12を設けた,雪を排除するためのシャベ

ルを有する除雪体10とを備え,

軌道2上の台座3の移動はモータ5によって行なわれ,

伸縮機構7は,軌道2の一端から他端に向かい軌道上を移動し,一定の

区間ごとに移動を停止し伸縮を行ない,この際,伸縮機構の先端に設けら

れた除雪体10は,伸縮機構の伸展方向にある積雪を押し出し,そして収

縮し,収縮し終わると,また一定の区間を移動し伸縮し除雪動作を行ない,

これを繰返すことにより,一定区域の除雪が行われる

除雪装置

本願発明と引用発明との対比

本件審決が認定した本願発明と引用発明との一致点及び相違点は,以下の

とおりである。

ア 一致点

4
雪国の屋根の雪下ろしロボットであって,

切り妻屋根の棟の上に水平に取り付けたレールと,

前記レール上に組み付けられた,車内に昇降機構を格納した小型トラッ

クと,

前記屋根上に載置され,雪を排除するためのシャベルを有する小型ラッ

セル車であって,雪を大屋根から軒下へと排除しつつ一定の区間だけ左ま

たは右へ移る小型ラッセル車とを備え,

前記小型トラックは電気自動車である,雪国の屋根の雪下ろしロボット

イ 相違点



レールが,本願発明は「アルミ又はステンレス製」なのに対して,引

用発明は材質が特定されていない点。



昇降機構が,本願発明は「ウインチ」なのに対して,引用発明はそう

でない点。



小型トラックが,本願発明は「二輪」なのに対して,引用発明は「数

個の自由に回る支持車4によって軌道2を両側から挟んで接する形で支

持され」るものであるものの,二輪と特定されていない点。



小型ラッセル車が,本願発明は「ウインチのワイヤーに繋がれて」お

り,かつ「電気自動車」であるのに対して,引用発明は伸縮機構7に繋

がれて,伸縮機構7の伸縮で移動されるものである点。



小型ラッセル車のシャベルが,本願発明は「幅30〜50センチ程度」

であるのに対して,引用発明は寸法が特定されていない点。

5
小型ラッセル車の動作が,本願発明は「降雪時にリモコンで発進され

て」雪を大屋根から軒下へと「速やかに」排除しつつ「屋根全体を真っ

直ぐに走り降りすぐに巻き上げられて」
「シャベル幅」だけ左又は右へ移

るのに対して,引用発明は「伸縮機構7は,軌道2の一端から他端に向

かい軌道上を移動し,一定の区間ごとに移動を停止し伸縮を行ない,こ

の際,伸縮機構の先端に設けられた除雪体10は,伸縮機構の伸展方向

にある積雪を押し出し,そして収縮し,収縮し終わると,また一定の区

間を移動し伸縮し除雪動作を行ない,これを繰返すことにより,一定区

域の除雪が行われる」ものであって,
「降雪時にリモコンで発進され」る

ものとされておらず,積雪の押し出しが「速やかに」
「真っ直ぐに」とさ

れておらず,押し出し後の移動が伸縮機構の収縮により行われ,ウイン

チの「巻き上げ」でされるものではなく,軌道2上の移動量も「シャベ

ル幅」とされていない点。

4 取消事由

A審査官(以下「A審査官」という。)による審査手続の違法性(取消事由

1)

明確性要件(特許法36条6項2号)の判断の誤り(取消事由2)

引用発明に基づく容易想到性に係る判断の誤り(取消事由3)

ア 本願発明の認定の誤り,一致点の認定の誤り,相違点の看過

イ 本願発明の容易想到性の判断の誤り

第3 当事者の主張の要旨

1 取消事由1(A審査官による審査手続の違法性)

〔原告の主張〕

A審査官は,拒絶査定前の審査手続において,平成24年5月18日付け

拒絶理由通知書(甲1)において,理由2として「この出願の請求項1に係

6
る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行

物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明

に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を

有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条

第2項の規定により特許を受けることができない。 と記載した上で,
」 引用文

献として「1 特開昭62−226953号公報」
(発明の名称「ベンゾキノ

ニルフエニル酪酸アミド誘導体」,出願人「サントリー株式会社」。甲6)を

挙げた。しかし,同審査官は,その後,平成24年10月9日付けで再度発

出した拒絶理由通知書(甲3)において,理由2として,上記と同一の記載

をした上で,引用文献として「1 特開昭62−236953号公報」
(引用

例)を挙げ,
「理由2の刊行物1は,前回のものではなく,特開昭62−23

6953号公報(発明の名称 除雪装置,出願人 B)です。」と記載した。

しかるに,拒絶査定前の審査手続において,A審査官が,原告に対し,間

違った引用文献を示した拒絶理由通知書を送付したにもかかわらず,謝罪も

なく,その後に引用文献を差し替えた拒絶理由通知書を送付したことは違法

である。

〔被告の主張〕

本件は,審決取消訴訟であるが,本件審決は,平成25年2月14日付け拒

絶査定(甲5)の妥当性を判断したものであって,この拒絶査定は,2回目の

平成24年10月9日付け拒絶理由通知書(甲3)に記載の拒絶の理由に基づ

いてされたものである。原告はるる主張するが,1回目の平成24年5月18

日付け拒絶理由通知書(甲1)や同通知書において引用した特開昭62−22

6953号公報(甲6)は,拒絶査定とは関係がない。審理対象とは関係のな

い事柄について,本件審決において言及がないのは当然である。

2 取消事由2(明確性要件(特許法36条6項2号)の判断の誤り)

〔原告の主張〕

7
本件審決は,本願発明に係る特許請求の範囲請求項1には,
「雪国の屋根の

雪下ろしロボットで切り妻屋根の棟の上に水平にアルミ又はステンレス製の

レールを取り付けその上に二輪の小型トラックを組み付け車内にウインチを

格納する。」等の構成を特定する記載と,「このワイヤーで繋いだ小型ラッセ

ル車で雪を排除するためのシャベルが幅30〜50センチ程度のものを屋根

上に乗せる。 等の作業方法を特定する記載とが,
」 句点で区切られた別々の文

章として記載され,それらを総括する文章が存在しないものであって,結局,

特許請求の対象が何であるのか(例えば,「雪国の屋根の雪下ろしロボット」

であるのか,「雪国の屋根の雪下ろしロボットを用いた屋根の雪下ろし方法」

であるのか,その他のものであるのか)が不明であり,また,特許請求の対

象が不明であるから,特許請求の対象を特定する構成が何であるのかも不明

であり,請求項1記載の発明は明確でないと判断した。

しかし,本願発明がロボットに関する発明であることは明らかである。

本件審決は,本願発明に係る特許請求の範囲請求項1には,
「ワイヤー」に

関して,
「ワイヤーで繋いだ小型ラッセル車」との記載が存在するものの,そ

れ以外の,ワイヤーとウインチ等の他の要素とどのように関係しているのか

(例えば,拒絶理由通知書で審査官が,
「特許請求の対象が不明であり,この

請求項1の記載では新規性進歩性の判断ができないが…以下のようなもの

と認定して審査を行った。」とした,「ウインチのワイヤーに繋がれて屋根上

に載置され…る小型ラッセル車」等)が全く記載されていないため,発明の

ワイヤーと発明の他の構成要素との関係が不明であり,請求項1記載の発明

は明確でないと判断した。

しかし,ワイヤーがウインチにつながれていることは明らかである。

本件審決は,本願発明に係る特許請求の範囲請求項1の「これらは地上か

ら降雪時にリモコンで発進されて」の「これら」は,その前段に「小型トラ

ック」
「ウインチ」
「小型ラッセル車」
「シャベル」等,候補となるものが複数

8
存在し,それら全てであるのか,そのうち特定のものであるのか,文章上特

定できないので,結局,
「これら」が何を指しているのか不明であり,請求項

1記載の発明は明確でないと判断した。

しかし,「これらは地上から降雪時にリモコンで発進されて」の「これら」

は,図面から明らかなとおり,ウインチを搭載した小型トラックと小型ラッ

セル車であることは明らかである。

本件審決は,本願発明に係る特許請求の範囲請求項1の「寄せ棟屋根の場

合は…可能であろう。 は,
」 これより前の文に記載されているのが切り妻屋根

の屋根の雪下ろしロボットや雪国の屋根の雪下ろしロボットを用いた屋根の

雪下ろし方法であるのに対して,この文の記載が寄せ棟屋根の場合について

言及するものであるため,一つの請求項に記載された1の発明の構成(すな

わち,「切り妻屋根」を前提とする発明であるのか,「寄せ棟屋根」を前提と

する発明であるのか,また,いずれも任意事項であって必須の前提ではない

発明であるのか)として特定できず,発明の構成が不明であると判断した。

しかし,本願発明は,切り妻屋根だけでなく,寄せ棟屋根についても使え

る発明として記載されていることは明らかである。

〔被告の主張〕

本願発明に係る特許請求の範囲請求項1は,構成を特定する記載と,作業

方法を特定する記載とが,句点で区切られた別々の文章として記載されてお

り,それらを総括する文章がないから,特許請求の対象が何であるのか(例

えば,「雪国の屋根の雪下ろしロボット」であるのか,「雪国の屋根の雪下ろ

しロボットを用いた屋根の雪下ろし方法」であるのか,その他のものである

のか)を,特定することができない。

特許請求の範囲の記載は,これに基づいて,新規性進歩性等の特許要件

の判断がされ,特許発明技術的範囲が定められるという点において重要な

意義を有する。例えば,特許法68条で「特許権者は,業として特許発明

9
実施をする権利を専有する」とし,同法2条3項では「実施」を物の発明

方法の発明及び物を生産する方法の発明に区分して定義している。これらを

考慮すれば,特許を受けようとする発明の属するカテゴリー(物の発明,方

法の発明,物を生産する方法の発明(所謂「発明のカテゴリー」 )が不明確


であるため,又は,いずれのカテゴリーともいえないものが記載されている

ために,発明が不明確となる場合,このような発明に特許を付与することは

権利の及ぶ範囲が不明確になり適切でない。

以上の点に照らすと,句点で区切られた複数の文章の羅列として記載され

ている本願発明は,物の発明(ロボット)であるのか,方法の発明(屋根の

雪下ろし方法)であるのか特定することができず,発明が明確でない。

本願発明に係る特許請求の範囲請求項1には,「ワイヤー」に関し,「ワイ

ヤーで繋いだ小型ラッセル車」と記載されているのみで,ワイヤーがウイン

チにつながれているとは明確に記載されていないから,「ワイヤー」と他の

構成要素との関係が不明確である。

本願発明に係る特許請求の範囲請求項1には, これらは…リモコンで発進


されて」と記載されているのみで,リモコンで発進するものが,ウインチを

搭載した小型トラックと小型ラッセル車であるとは明確に記載されておらず,

「これら」が何を指しているのか不明である。

請求項の制度の趣旨に照らせば,請求項の記載は,一の請求項に記載され

た事項に基づいて,一の発明が把握されることが必要である。

これに対し,本願発明に係る特許請求の範囲請求項1は,句点で区切られ

た複数の文章が羅列された形式で記載されており,各文章相互の関係は明確

に特定されていない。

そのような状態において,請求項1記載の「寄せ棟屋根の場合は図に示し

た様に…を…取り付けて…下ろせる。」ものは,これより前の文に記載され

ている「切り妻屋根の棟の上に…レールを取り付け」る雪下ろしロボットの

10
構成要素と整合しない構成要素を含んでいる。

そうすると,請求項1は,

本来,分けて記載すべき2以上の発明を記載したものである

原告が主張する「切り妻屋根だけでなく,寄せ棟屋根についても使える

発明」を記載したものである

当該ラッセル車などの共通の構成を備える「切り妻屋根」又は「寄せ棟

屋根」に択一的に用いられる発明を記載したものである

のいずれとも解されるものであって,一の請求項に記載された事項に基づい

て,一の発明を把握することができないから,請求項1記載の発明が不明確

であることに変わりはない。

3 取消事由3(引用発明に基づく容易想到性に係る判断の誤り)

〔原告の主張〕

本願発明の認定の誤り,一致点の認定の誤り,相違点の看過

ア 本件審決は,

と引用発明との対比において,引用発明の「アームと摺接され,伸縮方向

に対して一定の角度を保ちながら伸縮方向に移動する,ゴム製のキャスタ

12を設けた,雪を排除するためのシャベルを有する除雪体10」と,本

願発明の「ウインチのワイヤーに繋がれて屋根上に載置され,雪を排除す

るための幅30〜50センチ程度のシャベルを有する小型ラッセル車であ

って,降雪時にリモコンで発進されて雪を大屋根から軒下へと速やかに排

除しつつ屋根全体を真っ直ぐに走り降りすぐに巻き上げられてシャベル幅

だけ左または右へ移る小型ラッセル車」とは,前者が,
「ゴム製のキャスタ

12を設け」 「雪を排除するためのシャベルを有する」ものであって,小


型ラッセル車といえるもので,かつ,引用例記載の「伸縮機構7は,軌道

2の一端から他端に向かい軌道上を移動し,…伸縮機構の先端に設けられ

た除雪体10は,伸縮機構の伸展方向にある積雪を押し出す。そして収縮

11
する。収縮し終わると,また一定の区間を移動し伸縮し除雪動作を行なう。

これを繰返すことにより,一定区域の除雪が行われる。」ものであるので,

両者は,屋根上に載置され,雪を排除するためのシャベルを有する小型ラ

ッセル車であって,雪を大屋根から軒下へと排除しつつ一定の区間だけ左

または右へ移る小型ラッセル車で共通するとして,結局,本願発明と引用



イ しかし,本願発明に係る特許請求の範囲請求項1には本願発明が寄せ棟

屋根の場合にも使えることが記載されているから,本件審決が本願発明の

認定において寄せ棟屋根の場合を記載していないことは,本願発明の認定

を誤るものである。

また,本願発明では「小型ラッセル車」であるが,引用発明では単なる

シャベルであって「小型ラッセル車」でないから,小型ラッセル車で共通

するとして一致点を認定した本件審決は,一致点の認定を誤るものである。

さらに,@本願発明が寄せ棟屋根の場合にも使えるが,引用発明はその




ずれも相違点として看過されている。

本願発明の容易想到性の判断の誤り

ア 本件審決は,相違点 及び の小型ラッセル車の大屋根から軒下

への除雪後の移動がウインチの「巻き上げ」でされる点について,刊行物

3に記載されているように斜面において作業機をウインチより巻取り繰出

しされるワイヤで支持することは周知技術であり,引用発明において,除

雪体を移動する機構を,刊行物2記載のように電気を動力として自走する

ものに変更するのに当たり,作業機をウインチより巻取り繰出しされるワ

イヤで支持する周知技術を用いて,除雪体10の押し出し後の移動をウイ

ンチで行うものとして,本願発明の相違点 , に係る発明特定事項,及

12
び の除雪体10(本願発明の「小型ラッセル車」に相当するもの)の押

し出し後の移動をウインチの「巻き上げ」でされる構成とすることは当業

者が容易に想到し得たことであり,そうすると,引用発明の除雪体を移動

する機構を,刊行物2記載のように電気を動力として自走するものに変更

するとともに,作業機をウインチより巻取り繰出しされるワイヤで支持す

ることに伴って, 本願発明の相違点 の構成とすることも当業者が容易に

想到し得たことであり,さらに,本願発明の作用効果は,引用発明,刊行

物2及び3記載の事項並びに周知技術から当業者であれば予測できた範囲

のものであるから,本願発明は,引用発明,刊行物2及び3記載の事項並

びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであ

ると判断した。

イ しかし,引用発明の伸縮機構7の構成を,ウインチとワイヤーで巻き上

げる本願発明の構成とすることは当業者であっても容易に想到することは

できない。

また,引用発明はその実施に高額な費用がかかるが,本願発明は20万

円以下の費用で安価に実施できるものであり,引用発明にはない顕著な効

果があるから,当業者であっても引用発明から本願発明を容易に想到でき

たということはできない。

〔被告の主張〕

本願発明の認定の誤り,一致点の認定の誤り,相違点の看過について

ア 本願発明の認定の誤りについて

本願発明に係る特許請求の範囲請求項1の記載は不明瞭であるが,発

明の名称や明細書の記載を参酌すると,請求項1には,切り妻屋根用の

雪下ろしロボットに係る発明と寄せ棟屋根用の雪下ろしロボットに係

る発明の2つの発明が記載されていると解するのが自然である。

これら2つの発明は,レールの構造に違いがある点からしても,本来

13
であれば,別々の請求項に分けて記載されるべきものが1つの請求項に

記載されているものであるから,本件審決では,そのうち切り妻屋根用

の雪下ろしロボットについて本願発明として認定して,進歩性の判断を

行ったものである。特許請求の範囲の記載不備により本願発明をこのよ

うに認定したことに関し,審査,審判段階において原告(出願人,審判

請求人)からは具体的な主張はなかった。原告の主張を参酌しても,本

願は特許請求の範囲の記載が不明瞭であるから,これを善解して,この

ように本願発明を認定したことは,妥当である。

本願発明に係る特許請求の範囲請求項1によれば,切り妻屋根用,寄

せ棟屋根用に,共通する構成があると解する余地もあるところ,「切り

妻屋根用」又は「寄せ棟屋根用」に択一的に記載されたものと解するこ

とも不可能ではないが,そのように解しても,切り妻屋根用の除雪装置

である引用発明との間に新たに相違点は生じないから,結論に影響しな

い。

仮に,原告が主張するように,切り妻屋根用,寄せ棟屋根用のいずれ

にも使用できる雪下ろしロボットの発明であるとしても,引用例には寄

せ棟屋根の除雪に関する事項も記載されているから,引用発明を寄せ棟

屋根用にも使用できるようにすることは,当業者にとって格別困難なこ

とではなく,容易想到性の結論に影響しない。なお,拒絶理由通知書に

もその旨記載されていた。

一致点の認定誤りについて

本件審決では,引用発明の「アームと摺接され,伸縮方向に対して一

定の角度を保ちながら伸縮方向に移動する,ゴム製のキャスタ12を設

けた,雪を排除するためのシャベルを有する除雪体10」は,「ゴム製

のキャスタ12を設け」るもの,すなわち車といえるものであり,かつ,

「雪を排除するためのシャベルを有する」もの,すなわちラッセルを行

14
うものであるので,小型ラッセル車といえるとしたのである。このよう

に,引用発明の「シャベル」は,「キャスタ12」(車)を有し,ラッセ

ルを行うものであるが,動力源の有無はラッセル車の定義とは関係がな

いから,単なるシャベルではなく,それ自体に動力源はないとしても,

小型ラッセル車と評価できるものである。

引用発明の除雪体10は,動力源を有し自走するものではないが,仮

に「小型ラッセル車」を,動力源を有し自走するものと限定解釈すべき

であるとしても,本件審決の結論に影響を及ぼさない。

すなわち,本件審決では,「ウ.両発明の相違点」で,「小型ラッセル

車が,本願発明は…『電気自動車』であるのに対して,引用発明は伸縮

機構7に繋がれて,伸縮機構7の伸縮で移動されるものである点。」と

し,除雪体10が自走式でないことも相違点 とした上で,「 本願

発明の容易推考性の検討」で,「イ. 引用発明の除雪体(本願発

明の「小型ラッセル車」に相当するもの)を移動する機構を,伸縮機構

に繋がれて駆動する構成に代えて,刊行物2記載のように電気を動力と

して自走する構成に変更することは,当業者が容易になし得ること」と

判断している。

ウ 相違点の看過について

引用発明は寄せ棟屋根の場合にも使える点の記載がない点(相違点 )

について

述べたとおり,本件審決に記載のとおり本願発明を認定し

たことは,妥当である。

本願発明が切り妻屋根用,寄せ棟屋根用

に,共通する構成があり,共通する構成に対して用途が択一的に特定さ

れたものと解しても,切り妻屋根用の除雪装置である引用発明との間に

新たに相違点は生じないから,結論に影響しない。

15
には寄せ棟屋根の除雪に関する事

項も記載されているから,引用発明を寄せ棟屋根用にも使用できるよう

にすることも,当業者にとって格別困難なことではないから,結論に影

響しない。

引用発明ではその実施に高額な費用がかかる点(相違点 )について

本件審決は,特許請求の範囲に記載された構成(発明特定事項)につ

いて,相違点として認定したものであるが,費用は,特許請求の範囲

発明特定事項として記載されたものでないので,相違点とはならない。

また,発明の実施に必要な費用は,構成要素の単価,組立て費用,歩

留まり,その他,多数の要因により定まるものであり,それらの条件で

発明の実施に必要な費用を一概に特定することができるものではない

が,少なくとも,本願発明のリモコンで発進される電気自動車は,引用

発明の動力源や制御回路を必要としない除雪体10よりも相当複雑な

もので,さらに積雪環境で使用するものでもあることから,単純な構造

の除雪体10よりも高価なものと想定され,原告の「引用発明はその実

施に高額な費用がかかるが,本願発明は…安価に実施できる」との主張

は一概に承服できるものではない。

そして,原告の主張する費用の違いとは,構成の違いによるものと解

されるが,本件審決では,その構成の違いについては相違点として認定

し,判断しているのであるから,いずれにせよ,本件審決に原告が主張

するような相違点(相違点 )の看過はない。

本願発明の容易想到性の判断の誤りについて

容易想到性の判断について

引用例に記載された除雪装置は,本質的に,軌道,伸縮機構及び除雪体

からなり,除雪体及び伸縮機構が軌道上の所定位置に移動し,その位置に

おいて除雪体の前後移動によって除雪を行うもので,軌道上の所定位置に

16
移動する機能とその所定位置において除雪する機能とからなるものと評価

できる。こうした所期の機能を発揮できるものであれば,引用例に具体的

に記載されたものに限らず,除雪体や伸縮機構として適宜の手段を採用で

きることは,
「特許請求の範囲」等の記載に照らしても明らかであって,当

業者であれば容易に理解できる。

そして,刊行物2には,リモコンで操作されモータにより自走する除雪

機が記載されており,斜面での作業において,作業機をウインチより巻取

り繰出しされるワイヤで支持することは,刊行物3に記載のように周知技

術であって,斜面での作業における常套手段ともいえるものである。

そうすると,引用発明において,除雪する機能を適宜に変更すること,

すなわち,刊行物2に記載されたように,除雪体を,リモコンで操作され

モータにより自走するように変更することは,当業者にとって格別困難で

はなく,その場合に,上記の周知技術を用いて,除雪体10の押し出し後

の移動をウインチの巻き上げでされる構成とすることも当業者が容易に想

到し得たことである。

イ 本願発明の顕著な効果について

原告の主張は受け入れられるものではなく,

本願発明の作用効果は,引用発明,刊行物2及び3記載の事項並びに周知

技術から当業者であれば予測できた範囲のものである。

引用発明も費用について考慮していることは,引用例の記載から明らか

であり,想定内の要請である。発明の具体化に際し,費用も含めた総合判

断で適宜の構成を採用することも,当業者が通常行っているところである。

そして,当該相違点に係る構成,構造に要する費用は当業者にとって予測

の範囲内であるから,引用発明において,費用の点も併せて考慮した上で,

当該相違点に係る本願発明の構成とすることも,当業者にとって格別困難

なことではない。

17
第4 当裁判所の判断

1 本願発明について

本願発明に係る特許請求の範囲は,前記第2の2記載のとおりであるとこ

ろ,本願明細書(乙1)の「発明の詳細な説明」には,次の記載がある。

ア 技術分野

「本発明は雪国の屋根に積もる多量の雪を人力によらずに安全に取り除

くリモコン操作の自動車に関する。(
」【0001】。


イ 背景技術

発明者の調査ではこれまでにこのような発明はいまだ為されていない。

報道された事も知らない。(
」【0002】。


「以下,図1により説明する。片流れ又は切り妻屋根の場合は棟に平行

にアルミまたはステンレス製のレールを取り付けそのレールに組み込んで

転落しないようにしたごく小型で二輪の箱形トラックを走らせ内部にはウ

インチをを格納する。このワイヤーで繋いでごく小型のラッセル車を屋根

に軒下に向けて取り付ける。降雪時に地上からリモコンで電源を入れ発進

すればシャベルの幅30〜50センチ程度の幅で雪を落とし,直ちにワイ

ヤーで棟に巻き上げられ右又は左へその幅だけ平行移動して自動的に雪を

落として働く。片流れの屋根なら一台でよいが切り妻屋根なら左右にラッ

セル車を配置する。

寄せ棟屋根の場合は棟から1〜2メートル程度下げてレールを4周に水

平に取り付ければラッセル車は一台で大屋根の上部を除く大半の雪を下ろ

せる。リモコンでハンドル操作すれば寄せ棟に添って斜めに走り降りつつ

隅の除雪も可能であろう。(
」【0003】)




【図1】

18
ウ 発明が解決しようとする課題

「屋根の雪下ろしには人力によるしかなく豪雪地帯では例年悲惨な死亡

事故が多発している。 (
」 【0005】)

エ 解決するための手段

「棟にレールをのせその上にウインチをのせたミニトレーラーを走らせ,

屋根上にミニラッセル車を吊りあげておき降雪時に両者を地上からのリモ

19
コン操作で働らかせ,安全に除雪が可能となる。(
」【0006】)

オ 発明の効果

「建物が雪の重量で押してぶされることを防げる。 (
」【0007】)

前記 記載によれば,本願発明の概要は,以下のとおりのものであると

認められる。

従来の屋根の雪下ろしは人力によるしかなく,豪雪地帯では死亡事故が多

発していたところ,本願発明は,

「切り妻屋根の場合は棟にレールを取り付けそのレールに小型二輪の箱形ト

ラックを走らせ内部にはウインチを格納し,このワイヤーで繋いで小型のラ

ッセル車を屋根に軒下に向けて取り付け,降雪時に地上からリモコンで電源

を入れ発進させ,シャベルの幅で雪を落とし,直ちにワイヤーで棟に巻き上

げられ右又は左へその幅だけ平行移動して自動的に雪を落とす。寄せ棟屋根

の場合は棟から1〜2メートル程度下げてレールを4周に水平に取り付け,

ラッセル車は一台で大屋根の上部を除く大半の雪を下ろし,リモコンでハン

ドル操作して寄せ棟に添って斜めに走り降りつつ除雪を行う。」ことにより,

「建物が雪の重量で押しつぶされることを防げる。」としたものである。

2 取消事由1(A審査官による審査手続の違法性)について

証拠(本文中に掲記)によれば,拒絶査定の審査手続の経緯について,次

の事実が認められる。

ア A審査官は,拒絶査定前の審査手続において,平成24年5月18日付

拒絶理由通知書において,理由1として本願の特許請求の範囲の記載が

特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていないことを,理由2と

して「この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国

において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線

通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属

する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることが

20
できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受ける

ことができない。」と記載した上で,「刊行物1には,切り妻屋根の棟の上

に水平に取り付けたレール(軌道2)と,レール上に組み付けられた,車

内に除雪体10を昇降させる伸縮機構を格納した,数個の支持輪4を持つ

小型トラック(台座3)と,前記伸縮機構に繋がれて屋根上に載置され,

雪を排除するための所定幅のシャベルを有する除雪体10であって,降雪

時に雪を大屋根から軒下へと速やかに排除しつつ屋根全体を真っ直ぐに降

りその後伸縮機構の収縮で持ち上げられ,台座の左右の移動により左また

は右へ移る除雪体10を備えた除雪装置が記載されている。」と記載し,引

用文献として「1 特開昭62−226953号公報」
(発明の名称「ベン

ゾキノニルフエニル酪酸アミド誘導体」,出願人「サントリー株式会社」。

甲6)「2
, 特開2007−321528号公報」
(刊行物2)及び「特開

2005−36472号公報」(刊行物3)を挙げた(甲1)。

これに対して,原告は,上記拒絶理由通知書の理由1について反論を記

載した平成24年7月26日付け意見書を提出した(甲2)。

イ A審査官は,平成24年10月9日付けで再度発出した拒絶理由通知

において,理由1及び理由2として,上記と同一の記載をした上で,引用

文献として「1 特開昭62−236953号公報」
(引用例)「2
, 特開

2007−321528号公報」
(刊行物2)及び「3 特開2005−3

6472号公報」(刊行物3)を挙げ,「理由2の刊行物1は,前回のもの

ではなく,特開昭62−236953号公報(発明の名称 除雪装置,出

願人 B)です。刊行物1記載の発明と,刊行物2,3記載の発明を組み

合わせれば本願発明ができる,という拒絶理由2に対して,反論があれば,

なぜ,刊行物1〜3から本願が発明できないかを,意見書で説明してくだ

さい。また,理由1に記載したように,本願は記載不備の拒絶理由があり

ますので,上記理由1,及び,必要であれば上記理由2の拒絶理由を回避

21
するために,意見書とともに手続補正書を提出して,特許請求の範囲等を

明細書に記載の範囲内で補正してください。」と記載した(甲3)。

これに対して,原告は,上記拒絶理由通知書の理由2に対する反論とし

て「最初の特開昭62−236953号公報,特開2007−32152

8号公報,特開2005−36472号公報と今回の特開昭62−226

953号公報を一読いたしましたが無学高齢の小生(今年76歳になりま

す)には難解すぎて閉口しました。明確なのは小生の発明はこれらの先行

文献とは何の繋がりもないものであるという事実です。したがって当然特

許が認められるべき有益な独創的な発明であると考えます。もっとも安上

がりで実用的です。 などと記載した平成24年11月12日付け第2意見


書を提出した(甲4)。

ウ A審査官は,平成25年2月14日,本願は,前記イの平成24年10

月9日付け拒絶理由通知書に記載した理由1,2によって拒絶すべきもの

であるとして,拒絶査定をした(甲5)。

原告は,拒絶査定前の審査手続において,A審査官が,原告に対し,間違

った引用文献を示した拒絶理由通知書を送付したにもかかわらず,謝罪もな

く,その後に引用文献を差し替えた拒絶理由通知書を送付したことは違法で

ある旨主張する。

の事実によれば,A審査官は,平成24年5月18日付け拒絶

理由通知書では,引用文献1として特開昭62−226953号公報(発明

の名称「ベンゾキノニルフェニル酪酸アミド誘導体」,甲6)を挙げたが,同

通知書の理由2の中で刊行物1の内容として認定されたのは,平成24年1

0月9日付け拒絶理由通知書で引用文献1として引用した「特開昭62−2

36953号公報」
(発明の名称 除雪装置,甲7)の内容そのものであるこ

と,A審査官は,再度発出した同年10月9日付け拒絶理由通知書において,

引用文献1として,上記特開昭62−226953号公報(甲6)に代えて,

22
特開昭62−236953号公報(引用例,甲7)を挙げるとともに,
「理由

2の刊行物1は,前回のものではなく,特開昭62−236953号公報(発

明の名称 除雪装置,出願人 B)です。」と記載したこと,上記特開昭62

−226953号公報(甲6)と,特開昭62−236953号公報(引用

例,甲7)とは,公報番号の数値が1万の桁だけ相違するものであることか

らすれば,A審査官は,平成24年5月18日付け拒絶理由通知書において,

本来,引用文献1として,特開昭62−236953号公報(引用例,甲7)

を挙げるべきところ,公報番号を間違って,特開昭62−226953号公

報(甲6)を挙げてしまったものと認められる。

しかし,特許法は,特許出願に関する行政処分の是正手続については,一

般の行政処分の場合とは異なり,常に専門的知識経験を有する審判官による

審判の手続の経由を要求するとともに,取消しの訴えは,原処分である拒絶

査定の処分に対してではなく,審判の審決に対してのみこれを認め,もっぱ

ら審決の適法違法のみを争わせ,拒絶査定の適否は審判の審決の適否を通じ

てのみ間接にこれを争わせるにとどめているものである(最高裁判所昭和5

1年3月10日大法廷判決・民集30巻2号79頁参照)。したがって,審決

取消訴訟における審理の対象は,行政処分である審決の違法性そのものであ

って,原処分である拒絶査定及びその審査手続の違法性は審理の対象となら

ないというべきところ,原告の上記主張は,原処分である拒絶査定の審査手

続の瑕疵を主張するものにすぎないから,それ自体失当である。

また,A審査官は,上記間違いに気付いたためと考えられるが,前記のと

おり,その後再度発出した平成24年10月9日付け拒絶理由通知書におい

て,引用文献1として特開昭62−236953号公報(引用例,甲7)を

挙げるとともに,
「理由2の刊行物1は,前回のものではなく,特開昭62−

236953号公報(発明の名称 除雪装置,出願人 B)です。」と記載し

て,同年5月18日付け拒絶理由通知書に引用文献1として挙げた特開昭6

23
2−226953号公報(甲6)を撤回した上で,改めて,本願発明が,特

開昭62−236953号公報(引用例,甲7)並びに刊行物2及び3記載

の発明から容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条

項の規定により特許を受けることができない旨記載するなどして,実質的に

拒絶理由通知の出し直しをしているものといえること,また,これに対する

意見や手続補正を促すなどして原告に反論の機会を与えていること,そして,

原告から同年11月12日付け第2意見書の提出を受けた後,平成25年2

月14日,平成24年10月9日付け拒絶理由通知書記載の理由に基づいて

拒絶査定をしていることからすれば,A審査官が,引用文献として挙げるべ

き公報番号を間違ったことについて原告に謝罪しなかったからといって,同

審査官のした上記審査手続について,これを違法と評価すべき瑕疵を認める

ことはできない。

以上によれば,原告主張の取消事由1は理由がない。

3 取消事由2(明確性要件(特許法36条6項2号)の判断の誤り)について

特許法36条6項2号は,特許請求の範囲の記載に関し,特許を受けよう

とする発明が明確でなければならない旨規定する。同号がこのように規定し

た趣旨は,特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には,特許の

付与された発明の技術的範囲が不明確となり,第三者に不測の不利益を及ぼ

すことがあり得るので,そのような不都合な結果を防止することにある。ま

た,特許法は,発明の種類を「物の発明
2条3項1号)「方法の発明
, (同

項2号)及び「物の生産方法の発明
(同項3号)の3種類に分類し,特許権

の効力(68条)の範囲を発明の種類によって異なるものとしている。以上

を考慮すれば,特許を受けようとする発明の種類( 物の発明方法の発明
「 ,
「 ,

物を生産する方法の発明」)が不明確であるため,又は,いずれの分類に属

するともいえないものが記載されているために,発明が不明確となる場合に

おいて,このような発明に特許を付与することは権利の及ぶ範囲が不明確に

24
なり適切でない。したがって,特許を受けようとする発明の種類( 物の発明
「 ,

方法の発明」,
物を生産する方法の発明」)は明確であることを要すると解

される。そして,特許を受けようとする発明が明確であるか否かは,特許請

求の範囲の記載だけではなく,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮

し,また,当業者の出願当時における技術的常識を基礎として,特許請求の

範囲の記載が,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かと

いう観点から判断されるべきである。

原告は,本件審決が,本願発明に係る特許請求の範囲請求項1の記載では,

特許請求の対象が何であるのか(例えば,「雪国の屋根の雪下ろしロボット」

であるのか,「雪国の屋根の雪下ろしロボットを用いた屋根の雪下ろし方法」

であるのか,その他のものであるのか)が不明であり,また,特許請求の対

象が不明であるから,特許請求の対象を特定する構成が何であるのかも不明

であり,請求項1記載の発明は明確でないと判断したことに対し,本願発明

がロボットに関する発明であることは明らかである旨主張する。

本願発明は,発明の名称を「雪下ろしロボット」とし,本願明細書の段落

【0001】には「本発明は雪国の屋根に積もる多量の雪を人力によらずに

安全に取り除くリモコン操作の自動車に関する。 と記載されていることから,


物の発明」である「ロボット,又は自動車」に係る発明であるとも考えら

れる。しかし,本願発明に係る特許請求の範囲請求項1は,前記第2の2の

とおりであって, 雪国の屋根の雪下ろしロボットで切り妻屋根の棟の上に水


平にアルミ又はステンレス製のレールを取り付けその上に二輪の小型トラッ

クを組み付け車内にウインチを格納する。」等の構成を特定する記載と,「こ

のワイヤーで繋いだ小型ラッセル車で雪を排除するためのシャベルが幅30

〜50センチ程度のものを屋根上に乗せる。 , これらは地上から降雪時にリ
」「

モコンで発進されて雪を大屋根から軒下へと速やかに排除しつつ屋根全体を

真っ直ぐに走り降りすぐに巻き上げられてシャベル幅だけ左または右へ移

25
る。 等の作業方法を特定する記載とが混在し,
」 いずれの記載にも経時的な要

素を含み,しかも,句点で区切られた複数の文章が羅列された形式で記載さ

れ,文章の最後が体言止めではなく,用言になっていることから,
「方法の発

明」である「雪下ろし方法」とも解釈することができるものである。そして,

前記請求項1の記載は,上記のとおり,句点で区切られた複数の文章が羅列

された形式で記載され,各文章を総括する文章が存在しないため,各文章相

互の関係が明確には特定されていない。したがって,本願発明に係る特許請

求の範囲の記載は,
物の発明」であるのか「方法の発明」であるのかが明確

でなく,そのため,特許請求の対象が何であるかが不明確であるというべき

である。

以上によれば,本件審決の上記判断に誤りはなく,原告の主張は採用する

ことができない。

原告は,本件審決が,本願発明に係る特許請求の範囲請求項1には,
「ワイ

ヤー」に関して,
「ワイヤーで繋いだ小型ラッセル車」との記載が存在するも

のの,それ以外の,ワイヤーとウインチ等の他の要素とどのように関係して

いるのかが全く記載されていないため,発明のワイヤーと発明の他の構成要

素との関係が不明であり,請求項1記載の発明は明確でないと判断したこと

に対し,ワイヤーがウインチにつながれていることは明らかである旨主張す

る。

本願明細書の段落【0003】には,
「図1により説明する。片流れ又は切

り妻屋根の場合は棟に平行にアルミまたはステンレス製のレールを取り付け

そのレールに組み込んで転落しないようにしたごく小型で二輪の箱形トラッ

クを走らせ内部にはウインチをを格納する。このワイヤーで繋いでごく小型

のラッセル車を屋根に軒下に向けて取り付ける。降雪時に地上からリモコン

で電源を入れ発進すればシャベルの幅30〜50センチ程度の幅で雪を落と

し,直ちにワイヤーで棟に巻き上げられ右又は左へその幅だけ平行移動して

26
自動的に雪を落として働く。 と記載されていることが認められ, 【図1】
」 また

からは,ワイヤーがウインチにつながれていることが一応認められる。

他方,本願発明に係る特許請求の範囲請求項1において,
「ワイヤ−」に関

する記載は, 雪国の屋根の雪下ろしロボットで切り妻屋根の棟の上に水平に


アルミ又はステンレス製のレールを取り付けその上に二輪の小型トラックを

組み付け車内にウインチを格納する。このワイヤーで繋いだ小型ラッセル車

で雪を排除するためのシャベルが幅30〜50センチ程度のものを屋根上に

乗せる。」との部分であるが,「このワイヤー…」の文言の前に「ワイヤー」

に関する記載はなく,ワイヤーとウインチとの関係及び構成は文章としては

記載されていない。しかし,小型ラッセル車をつないだワイヤーの他端は,

ウインチにつなぐと解釈するのが自然であるから,文章上は必ずしも明確で

はないものの,第三者に不測の不利益を及ぼすとまではいえず,請求項の記

載としては不明確であるとまでいうことはできない。

以上によれば,本件審決の上記判断は相当ではないというべきである。

原告は,本件審決が,本願発明に係る特許請求の範囲請求項1の「これら

は地上から降雪時にリモコンで発進されて」の「これら」は,その前段に「小

型トラック」
「ウインチ」
「小型ラッセル車」
「シャベル」等,候補となるもの

が複数存在し,それら全てであるのか,そのうち特定のものであるのか,文

章上特定できないので,結局,「これら」が何を指しているのか不明であり,

請求項1記載の発明は明確でないと判断したことに対し, これらは地上から


降雪時にリモコンで発進されて」 「これら」
の は,図面から明らかなとおり,

ウインチを搭載した小型トラックと小型ラッセル車であることは明らかであ

る旨主張する。

本願発明に係る特許請求の範囲請求項1において, これらは地上から降雪


時にリモコンで発進されて」の「これら」の文言の直前は,
「雪国の屋根の雪

下ろしロボットで切り妻屋根の棟の上に水平にアルミ又はステンレス製のレ

27
ールを取り付けその上に二輪の小型トラックを組み付け車内にウインチを格

納する。このワイヤーで繋いだ小型ラッセル車で雪を排除するためのシャベ

ルが幅30〜50センチ程度のものを屋根上に乗せる。 と記載され,
」 その上

で,「これら」は地上から降雪時にリモコンで発進されて雪を大屋根から軒


下へと速やかに排除しつつ屋根全体を真っ直ぐに走り降りすぐに巻き上げら

れてシャベル幅だけ左または右へ移る。 ものとされているのであるから, こ
」 「

れら」は,複数のものを指し,小型トラックと小型ラッセル車を含むと解さ

れる。

しかるに,同請求項1においては,小型ラッセル車の下降及び上昇と,小

型ラッセル車の自力走行(下降も上昇も自力で動く)又はウインチによる巻

上げ若しくは繰出しとの関係が不明であり,場合によっては,降雪時にリモ

コンで発進される「これら」 ウインチを指す可能性もないわけではない。
が,

しかし,同請求項1においては,その直後に「これらは電気自動車とする。」

と記載していることを考え合わせると,
「これら」は,ウインチも含めて小型

トラックと小型ラッセル車を指すと解するのが自然であり,このような記載

が第三者に不測の不利益を及ぼすとまでいうことはできない。

したがって,本願発明に係る特許請求の範囲請求項1記載の「これら」が

不明確であるとまでいうことはできない。

以上によれば,本件審決の上記判断は相当ではないというべきである。

原告は,本件審決が,本願発明に係る特許請求の範囲請求項1の「寄せ棟

屋根の場合は…可能であろう。 は,
」 これより前の文に記載されているのが切

り妻屋根の屋根の雪下ろしロボットや雪国の屋根の雪下ろしロボットを用い

た屋根の雪下ろし方法であるのに対して,この文の記載が寄せ棟屋根の場合

について言及するものであるため,一つの請求項に記載された1の発明の構

成(すなわち,「切り妻屋根」を前提とする発明であるのか,「寄せ棟屋根」

を前提とする発明であるのか,また,いずれも任意事項であって必須の前提

28
ではない発明であるのか)として特定できず,発明の構成が不明であると判

断したことに対し,本願発明は,切り妻屋根だけでなく,寄せ棟屋根につい

ても使える発明として記載されていることは明らかである旨主張する。

前記 のとおり,本願発明に係る特許請求の範囲請求項1は,句点で区切

られた複数の文章が羅列された形式で記載されており,各文章を総括する文

章が存在しないため,各文章相互の関係が明確に特定されていない。前記請

求項1の記載中, 寄せ棟屋根の場合は図に示した様に棟より12メートル程


度下げてレールを4周に水平に取り付けておけば大部分の雪を一台のラッセ

ル車で下ろせる。ハンドルのリモコン操作をすれば寄せ棟に添って斜めに雪

を排除することも可能であろう。」とあり,この寄せ棟屋根の場合の構成は,

上記文章の前に記載されている切り妻屋根の場合の構成にはない「棟より1

2メートル程度下げてレールを4周に水平に取り付け」る構成及び「寄せ棟

に添って斜めに雪を排除する」構成を必要としている。したがって,本願発

明は,請求項1によれば,

本来,分けて記載すべき2以上の発明を記載したもの

原告が主張する「切り妻屋根だけでなく,寄せ棟屋根についても使える

発明」を記載したもの

当該ラッセル車などの共通の構成を備える「切り妻屋根」又は「寄せ棟

屋根」に択一的に用いられる発明を記載したもの

のいずれとも解釈できるものである。このことに加えて,前記 で説示した

とおり,本願発明は,
物の発明」であるのか「方法の発明」であるのかが明

確でなく,そのため,前記 のとおり,特許請求の対象が何であるかが不明

確であることと相まって,請求項1の記載から発明を特定して把握すること

ができず,本願発明に係る特許請求の範囲請求項1の記載は不明確であると

いうべきである。

したがって,本件審決の上記判断に誤りはなく,原告の主張は採用するこ

29
とができない。

小括

以上によれば,本件審決のした前記 及び の判断は相当ではないが,本

件審決のした前記 及び の判断が相当である以上,上記判断の誤りは結論

に影響を及ぼさない。

したがって,原告主張の取消事由2には理由がない。

4 取消事由3(引用発明に基づく容易想到性に係る判断の誤り)について

本件審決は,本願発明に係る特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号

明確性の要件を充足しないとの判断が仮に誤りであった場合に備えて,本願

発明が引用発明等に基づいて容易に想到し得るかという同法29条2項の要件

該当性を予備的に判断したものである。しかし,前記3のとおり,本願発明に

係る特許請求の範囲請求項1の記載は不明確であり,同請求項1の記載が同法

36条6項2号明確性の要件を充足しないとの本件審決の判断に誤りはない。

そうすると,本件審決が予備的に行った同法29条2項容易想到性の判断

に誤りがあるか否か,すなわち原告主張の取消事由3については,これを判断

するまでもなく,本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は理由がないこと

となる。

5 結論

以上のとおりであるから,本件審決には,これを取り消すべき違法はない。

よって,原告の本訴請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第4部



裁判長裁判官 富 田 善 範




裁判官 田 中 芳 樹

30
裁判官 柵 木 澄 子




31

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