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審判番号(事件番号) データベース 権利
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事件 平成 25年 (行ケ) 10236号 審決取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2014/09/24
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成26年9月24日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

平成25年(行ケ)第10236号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 平成26年8月6日

判 決



原 告 日亜化学工業株式会社



訴訟代理人弁護士 阿 部 隆 徳

訴訟代理人弁理士 鮫 島 睦

同 言 上 惠 一

同 田 村 啓

同 中 野 晴 夫




被 告 エバーライト・エレクトロニクス

・カンパニー・リミテッド



訴訟代理人弁護士 黒 田 健 二

同 吉 村 誠

主 文

1 特許庁が無効2011−800183号事件について平成25年7

月18日にした審決を取り消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30

日と定める。

事実及び理由




第1 請求

主文と同旨

第2 事案の概要

1 特許庁における手続の経緯等

原告は,平成7年12月1日,発明の名称を「窒化物半導体発光素子」と

する特許出願(特願平7−314339号。優先権主張:平成6年12月2

日,同年12月9日,平成7年3月16日,日本)をし,平成10年5月1

5日,設定の登録(特許第2780691号)を受けた(登録時の請求項の

数12。甲21。以下,この特許を「本件特許」という。)。

被告は,平成23年9月28日,特許庁に対し,本件特許の請求項1ない

し12に係る発明を無効にすることを求めて審判請求(無効2011−80

0183号)をし,特許庁は,平成24年11月12日,「特許第2780

691号の請求項1ないし12に係る発明についての特許を無効とする。」

との審決をし,その謄本は同年11月22日,原告に送達された。

原告は,上記審決を不服とし,平成24年12月22日,当裁判所に対し

て上記審決を取り消すことを求めて訴訟を提起した(当裁判所平成24年

(行ケ)第10440号)。

原告は,平成25年2月19日,特許庁に対し訂正審判を請求し(訂正2

013−390031号),当裁判所に対して平成23年法律第63号によ

る改正前の特許法(以下「平成23年改正前特許法」という。)181条

項所定の決定を求めたところ,当裁判所は,平成25年3月4日,上記規定

により「特許庁が無効2011−800183号事件について平成24年1

1月12日にした審決を取り消す。」との決定をした。

特許庁は,原告が上記訂正審判請求において提出した訂正明細書(甲2

2)を特許無効審判における訂正の請求とみなして(平成23年改正前特許

134条の3),審理の上,平成25年7月18日,「訂正を認める。特




許第2780691号の請求項1ないし9に係る発明についての特許を無効

とする。」との審決(以下「本件審決」といい,本件審決により認められた

訂正を「本件訂正」という。)をし,その謄本は,同年7月26日,原告に

送達された。

原告は,平成25年8月23日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提

起した。

2 特許請求の範囲

本件訂正後の請求項の数は9であり,請求項1ないし9の特許請求の範囲は,

次のとおりである(訂正箇所に下線を引いた。)。以下,本件訂正後の本件特

許に係る発明を本件訂正後の請求項の番号に従って「本件発明1」などといい,

本件発明1ないし9を併せて「本件発明」という。また,本件訂正後の明細書

(甲21,22)を,図面を含め,「本件明細書」という。

【請求項1】

インジウムおよびガリウムを含む窒化物半導体よりなり,第1および第2の

面を有する活性層を備え,該活性層の第1の面に接してInxGa1−xN(0<

x<1)よりなるn型窒化物半導体層を備え,該活性層の第2の面に接してA

lyGa1−yN(0<y<1)よりなるp型窒化物半導体層を備え,該n型窒化

物半導体層に接してAlaGa1−aN(0≦a<1)よりなる第2のn型窒化物

半導体層を備え,該活性層を量子井戸構造とし,活性層を構成する窒化物半導

体の本来のバンドギャップエネルギーよりも低いエネルギーの光を発光するこ

とを特徴とする窒化物半導体発光素子。

【請求項2】

活性層とn型窒化物半導体層との総膜厚が300オングストローム以上であ

ることを特徴とする請求項1記載の窒化物半導体発光素子。

【請求項3】

インジウムおよびガリウムを含む窒化物半導体よりなる井戸層を備え,第1




および第2の面を有する活性層を具備し,該活性層の第2の面側にGaNより

なるp型コンタクト層を備え,該活性層の第1の面に接して該活性層を構成す

るインジウムおよびガリウムを含む窒化物半導体よりもバンドギャップエネル

ギーの大きなInxGa1−xN(0<x<1)よりなるn型窒化物半導体層を備

え,該活性層とp型コンタクト層との間に該活性層の第2の面に接してAl yG

al−yN(0<y<1)よりなるp型窒化物半導体層を備え,該n型窒化物半導

体層に接してAlaGa1−aN(0≦a<1)よりなる第2のn型窒化物半導体

層を備え,該活性層を単一量子井戸構造または多重量子井戸構造とし,活性層

を構成する窒化物半導体の本来のバンドギャップエネルギーよりも低いエネル

ギーの光を発光することを特徴とする窒化物半導体発光素子。

【請求項4】

活性層が,ノンドープのものであることを特徴とする請求項1ないし3のい

ずれか1項に記載の窒化物半導体発光素子。

【請求項5】

活性層にドナー不純物および/またはアクセプター不純物がドープされてい

ることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の窒化物半導体発

光素子。

【請求項6】

活性層が,厚さ100オングストローム以下の井戸層を有することを特徴と

する請求項1ないし5のいずれか1項記載の窒化物半導体発光素子。

【請求項7】

活性層が,厚さ70オングストローム以下の井戸層を有することを特徴とす

る請求項1ないし5のいずれか1項記載の窒化物半導体発光素子。

【請求項8】

活性層が,InzGa1−zN(0<z<1)よりなる井戸層を有することを特

徴とする請求項1ないし7のいずれか1項記載の窒化物半導体発光素子。




【請求項9】

活性層が,InzGa1−zN(0<z<1)よりなる井戸層と,Inz’Ga1−

z’ N(0<z’<1,ただし,z’はzと異なる)もしくはGaNよりなる障

壁層との組み合わせからなる多重量子井戸構造を有することを特徴とする請求

項1ないし8のいずれか1項記載の窒化物半導体発光素子。

3 本件審決の理由の要旨

本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,

本件訂正前の明細書の発明の詳細な説明は,本件発明1ないし9について,

当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されている

とは認められないから,平成11年法律第160号による改正前(以下「平

成11年改正前特許法」という。)の特許法36条4項(判決注・本件審決

中に「平成6年法律第116号による改正前の特許法第36条第4項」とあ

るのは,平成11年法律第160号による改正前の特許法36条4項の誤記

と認める。)に規定する要件を充たしておらず,本件発明1ないし9につい

ての特許は,特許法123条1項4号に該当し,無効にすべきものである,

というものである。

本件審決の判断の要旨

ア 本件発明1を以下に再掲する。

「インジウムおよびガリウムを含む窒化物半導体よりなり,第1および

第2の面を有する活性層を備え,該活性層の第1の面に接してInxGa1−

x N(0<x<1)よりなるn型窒化物半導体層を備え,該活性層の第2の

面に接してAlyGa1−yN(0<y<1)よりなるp型窒化物半導体層を

備え,該n型窒化物半導体層に接してAl aGa1−aN(0≦a<1)より

なる第2のn型窒化物半導体層を備え,該活性層を量子井戸構造とし,活

性層を構成する窒化物半導体の本来のバンドギャップエネルギーよりも低

いエネルギーの光を発光することを特徴とする窒化物半導体発光素子。」




すなわち,本件発明1は,活性層の第1の面に接してIn x Ga 1−x N

(0<x<1)よりなるn型窒化物半導体層を備え,該活性層の第2の面

に接してAlyGa1−yN(0<y<1)よりなるp型窒化物半導体層を備

え,活性層を構成する窒化物半導体の本来のバンドギャップエネルギーよ

りも低いエネルギーの光を発光する,窒化物半導体発光素子である。

イ 段落【0009】及び【0011】には,上記アで言及した「活性層の

第1の面にn型InGaN層が接し,該活性層の第2の面にp型AlGa

N層が接し,該活性層を構成する窒化物半導体の本来のバンドギャップエ

ネルギーよりも低いエネルギーの光を発光する窒化物半導体発光素子」に

ついての記載があるものと認められる。

しかしながら,段落【0008】〜【0012】には,具体的にどのよ

うな構成によって,活性層とクラッド層との界面平行方向に,引っ張り応

力が発生し,活性層を構成する窒化物半導体の本来のバンドギャップエネ

ルギーよりも小さいエネルギーを持つ光を発光することとなるのかは,記

載されていないから,本件発明1の「活性層を構成する窒化物半導体の本

来のバンドギャップエネルギーよりも低いエネルギーの光を発光する」点

について,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記

載されているとは認められない。

ウ 段落【0017】には,「例えば単一量子井戸構造の井戸層の膜厚を薄

くすることにより発光波長を変化させることができる。」との記載があり,

段落【0040】には,「活性層は膜厚が200オングストローム以下に

なると引っ張り応力が作用して弾性的に変形してバンドギャップエネルギ

ーが小さくなり発光波長が長くなる傾向にある。」との記載がある。

しかしながら,段落【0018】に「InGaN,またはGaNよりな

るn型の第1のクラッド層5は,Alを含む窒化物半導体に比べて,結晶

が柔らかいので,この第1のクラッド層5がバッファ層のような作用をす




る。つまりこの第1のクラッド層5がバッファ層として作用しているため

に,活性層6を量子井戸構造としても活性層6にクラックが入らず,また

第1のクラッド層5,7の外側に形成される第2のn型クラッド層4,第

2のp型クラッド層8中にクラックが入るのを防止することができる。」

とあり,段落【0040】に「この第1のn型クラッド層5は,活性層と

Alを含む第2のn型クラッド層4の間のバッファ層として作用する。」

とあるとおり,上記の段落【0017】及び【0040】の記載は,活性

層の両面に,InGaN又はGaNよりなり,Alを含む窒化物半導体に

比べて結晶が柔らかい第1のクラッド層5,7が接し,第1のクラッド層

5,7の外側に第2のクラッド層4,8が形成された,【図1】に示され

る層構造の窒化物半導体発光素子についての記載であり,「活性層の第1

の面にn型InGaN層が接し,該活性層の第2の面にp型AlGaN層

が接し,該活性層を構成する窒化物半導体の本来のバンドギャップエネル

ギーよりも低いエネルギーの光を発光する窒化物半導体発光素子」,つま

り,InGaNよりなり,Alを含む窒化物半導体に比べて結晶が柔らか

い第1のクラッド層が,活性層の一方の面のみに接する本件発明1につい

ての記載ではない。

エ 段落【0034】には,「井戸層の膜厚を薄くすることによって,バン

ドギャップエネルギーが小さくなり,元の井戸層のバンドギャップエネル

ギーよりも低エネルギーの光,即ち長波長を発光させることが可能とな

る。」との記載がある。

しかしながら,段落【0033】の記載によれば,段落【0032】〜

【0037】に記載された窒化物半導体発光素子は,活性層の両面にIn

GaNよりなる第1のクラッド層(In0.01Ga0.99Nよりなる第1のn型ク

ラッド層とIn0.01Ga0.99Nよりなる第1のp型クラッド層)が接し,第1

のクラッド層の外側に第2のクラッド層(Al0.3 Ga0.7Nよりなる第2の




n型クラッド層とAl0.3Ga0.7Nよりなる第2のp型クラッド層)が形成さ

れた窒化物半導体発光素子であり,活性層の片面のみにInGaNよりな

る第1のクラッド層が接する本件発明1とは,構成が異なるものである。

よって,単一量子井戸構造の活性層の厚さ,つまり井戸層の厚さと,発

光素子の発光ピーク波長との関係を示す【図2】に,段落【0034】に

いう「井戸層の膜厚を薄くすることによって,バンドギャップエネルギー

が小さくなり,元の井戸層のバンドギャップエネルギーよりも低エネルギ

ーの光,即ち長波長を発光させることが可能となる。」ことが記載されて

いるとしても,当該記載は,本件発明1に当てはまるものではない。

オ その他の記載をみても,本件明細書の発明の詳細な説明は,本件発明1

の「活性層を構成する窒化物半導体の本来のバンドギャップエネルギーよ

りも低いエネルギーの光を発光する」点について,当業者がその実施をす

ることができる程度に明確かつ十分に記載したものとは認められない。

カ 本件発明2は,本件発明1において,活性層とn型窒化物半導体層との

総膜厚を300オングストローム以上に限定したものに相当する。

本件発明3は,本件発明1において,活性層の第2の面に接するAlyG

a1−yN(0<y<1)よりなるp型窒化物半導体層上にp型コンタクト層

を備える点を限定したものに相当する。

本件発明4ないし本件発明9は,本件発明1ないし本件発明3のいずれ

かにおいて,活性層の構成を限定したものに相当する。

したがって,本件発明1と同様の理由により,本件明細書の発明の詳細

な説明には,本件発明2ないし本件発明9について,当業者がその実施

することができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。

第3 当事者の主張

1 原告の主張

取消事由1(本件発明1についての実施可能要件の判断の誤り)




ア 本件審決の内容

本件審決は,本件発明1について,「本件発明1は,活性層の第1の面

に接してInxGa1−xN(0<x<1)よりなるn型窒化物半導体層を備

え,該活性層の第2の面に接してAlyGa1−yN(0<y<1)よりなる

p型窒化物半導体層を備え,活性層を構成する窒化物半導体の本来のバン

ドギャップエネルギーよりも低いエネルギーの光を発光する,窒化物半導

体発光素子である。」と認定した上で,本件明細書の記載が,「活性層の

第1の面にn型InGaN層が接し,該活性層の第2の面にp型AlGa

N層が接し,該活性層を構成する窒化物半導体の本来のバンドギャップエ

ネルギーよりも低いエネルギーの光を発光する窒化物半導体発光素子」の

発明について,いわゆる実施可能要件(平成11年改正前特許法36条

項)に違反すると判断した。

イ 本件発明1の要旨の認定の誤り

本件審決は,前記のとおり本件発明1を,活性層,活性層の第1の面

に接してInxGa1−xN(0<x<1)よりなるn型窒化物半導体層,

活性層の第2の面に接してAlyGa1−yN(0<y<1)よりなるp型

窒化物半導体層を備える3層構造であると認定した。

しかしながら,本件発明1は,その特許請求の範囲に「インジウムお

よびガリウムを含む窒化物半導体よりなり,第1および第2の面を有す

る活性層を備え,該活性層の第1の面に接してIn xGa1−xN(0<x

<1)よりなるn型窒化物半導体層を備え,該活性層の第2の面に接し

てAlyGa1−yN(0<y<1)よりなるp型窒化物半導体層を備え,

該n型窒化物半導体層に接してAl aGa1−aN(0≦a<1)よりなる

第2のn型窒化物半導体層を備え,該活性層を量子井戸構造とし,活性

層を構成する窒化物半導体の本来のバンドギャップエネルギーよりも低

いエネルギーの光を発光することを特徴とする窒化物半導体発光素




子。」と記載されていることから明らかなとおり,n型窒化物半導体層

に接してAlaGa1−aN(0≦a<1)よりなる第2のn型窒化物半導

体層を備える4層構造である。

本件発明1は,従来のInGaNを主とする活性層をAlGaNを主

とする2つのクラッド層で挟んだ構造において,活性層6と第2のn型

クラッド層4との間にInGaNまたはGaNよりなる第1のn型クラ

ッド層5を形成することにより,クラックの発生を防止しながら発光波

長を長波長側にシフトさせるものである(本件明細書の段落【003

9】,【0040】)から,本件発明1において,n型窒化物半導体層

に接したn型AlGaN層は必須の構成であって,本件発明1を4層構

造ではなく,3層構造であるとする本件審決の認定は誤りである。

本件審決は,本件発明1の認定を誤っているから,これを前提とした

実施可能要件違反の判断にも誤りがあることは明らかである。

実施可能要件違反があるとの判断の誤り

本件審決は,本件明細書の発明の詳細な説明は,「活性層の第1の面

にn型InGaN層が接し,該活性層の第2の面にp型AlGaN層が

接し,該活性層を構成する窒化物半導体の本来のバンドギャップエネル

ギーよりも低いエネルギーの光を発光する窒化物半導体発光素子」であ

る本件発明1の「活性層を構成する窒化物半導体の本来のバンドギャッ

プエネルギーよりも低いエネルギーの光を発光する」点について,当業

者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものと

は認められない旨判断した。

しかしながら,以下のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明は,当

業者が本件発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載

されている。

本件発明1は,実施例4に基づいて当業者が実施をすることができる




程度に記載されていること

実施例4の構造は,実施例1の構造から「第1のp型クラッド層

7」を除いた構造であり,下図のとおり,本件発明1と同じ構造とな

る。




実施例1には,サファイア基板1の上に,GaNバッファ層2,n

型GaNコンタクト層3,n型Al0.3Ga0.7N第2クラッド層4,

n型In0.01Ga0.99N第1クラッド層5,In 0.05Ga0.95N活

性層6,p型In0.01Ga0.99N第1クラッド層7,p型Al0.3G

a0.7N第2クラッド層8,およびp型GaNコンタクト層9が設けら

れた構造が記載されている(本件明細書段落【0044】〜【005

1】)。

そして,実施例4の窒化物半導体発光素子の作製方法は,第1のp

型クラッド層7を形成しないという点以外は,実施例1の作製方法と

同じである(段落【0054】)から,実施例1に記載されたMOV

PE(有機金属気相成長法)を用いた窒化物半導体層の成長方法にお

いて,単に,Mgドープp型In0.01Ga0.99Nよりなる第1のp型




クラッド層7の成長工程(段落【0049】)を行わないだけで,当

業者は実施例4の窒化物半導体発光素子を作製することができる。

c 本件明細書には,実施例4の活性層6は,In0.05Ga0.95N(単

一量子井戸構造)からなり,発光ピーク波長は425nmの青色発光

を示したと記載されている(段落【0048】,【0054】)。こ

こで「In0.05Ga0.95N活性層は,本来のバンドギャップエネルギ

ーでは380nm付近の紫外発光を示す」ものであるから(段落【0

034】),実施例4の窒化物半導体発光素子では,In0.05Ga0.

95 N活性層を構成する窒化物半導体の本来のバンドギャップエネルギ

ーの光の波長(380nm)よりも低いエネルギーの光(425n

m)が発光していることが明らかである。

d さらに,上記a,bのとおり,実施例4は,実施例1の構成におい

て「In0.01Ga0.99Nよりなる第1のp型クラッド層7」を形成し

ないという点以外は,実施例1の構成と全く同じ構成であるから,活

性層の組成及び膜厚も実施例1と同一であることは明らかである。

それにもかかわらず,実施例4の発光ピーク波長は425nmであ

り,発光ピーク波長が410nmである実施例1に比較して長波長化

しており,また,実施例1の光出力が5mWであるのに対し,実施

4の発光出力は7mWと,その発光出力も向上している(段落【00

51】,【0054】)。

これらの理由については,実施例4では「活性層にAlGaNより

なる第2のクラッド層8が直接接しているので活性層の引っ張り応力

が大きくなりピーク波長が長波長になると共に,発光出力が増大し

た。」と記載されている(段落【0054】)から,本件明細書には,

活性層にかかる応力の程度によって長波長化の程度が変わってくるこ

とも開示されている。




e 以上のとおり,実施例4の構造は本件発明1の構造と同じであり,

また,その効果は,活性層にかかる応力に起因して「活性層を構成す

る窒化物半導体の本来のバンドギャップエネルギーよりも低いエネル

ギーの光を発光する」ものであるから,実施例4には,「活性層の第

1の面にn型InGaN層が接し,該活性層の第2の面にp型AlG

aN層が接し,更に該n型窒化物半導体層にn型AlGaN層が接し,

該活性層を構成する窒化物半導体の本来のバンドギャップエネルギー

よりも低いエネルギーの光を発光する窒化物半導体発光素子」である

本件発明1の「活性層を構成する窒化物半導体の本来のバンドギャッ

プエネルギーよりも低いエネルギーの光を発光する」点について,当

業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されて

いる。

f 被告の主張について

被告は,実施例4の記載によっても,甲12との対比でみれば,

本件発明1はどのように実施可能であるのか不明である旨主張する。

しかしながら,そもそも,実施可能要件は,明細書の中の発明の

詳細な説明が充たすべき要件であるから,甲12に基づいて実施

能要件充足性を議論する被告の主張は失当である。

仮に,被告が主張するように甲12を考慮したとしても,甲12

実施例6,並びに本件明細書の実施例1〜3,5及び8〜12は,

本件発明1とは,クラッド層7の有無において構造が異なっており

(甲12の実施例6,並びに本件明細書の実施例1〜3,5及び8

〜12では活性層の上側のクラッド層がInGaNであるのに対し,

実施例4は,活性層の上側のクラッド層がAlGaNである。),

本件発明1についての実施可能要件の充足性の判断とは無関係であ

る。




? また,被告は,甲12の実施例6において発光波長が長波長側に

シフトしていない(短波長化している)以上,第1のp型クラッド

層7を省略した構成(本件明細書の実施例4)においても,発光波

長が長波長側にシフトするはずはない(短波長化すると考えられ

る。)旨主張する。

しかしながら,甲12には,第1のp型クラッド層7を省略した

場合に,本来のバンドギャップエネルギーと比べ発光波長が短波長

化するとの記載は,どこにも存在しないのであり,被告の上記主張

は,甲12の記載に基づかない,根拠のない主張である。

本件明細書の段落【0018】及び【0040】は,本件発明1につ

いての記載であり,段落【0040】には,本件発明1において,発光

波長が長波長化する原理も記載されていること

a 本件審決は,本件明細書には,段落【0017】に「例えば単一量

子井戸構造の井戸層の膜厚を薄くすることにより発光波長を変化させ

ることができる。」との記載,段落【0040】に「活性層は膜厚が

200オングストローム以下になると引っ張り応力が作用して弾性的

に変形してバンドギャップエネルギーが小さくなり発光波長が長くな

る傾向にある。」との記載があるものの,段落【0018】には「I

nGaN,またはGaNよりなるn型の第1のクラッド層5は,Al

を含む窒化物半導体に比べて,結晶が柔らかいので,この第1のクラ

ッド層5がバッファ層のような作用をする。つまりこの第1のクラッ

ド層5がバッファ層として作用しているために,活性層6を量子井戸

構造としても活性層6にクラックが入らず,また第1のクラッド層5,

7の外側に形成される第2のn型クラッド層4,第2のp型クラッド

層8中にクラックが入るのを防止することができる。」とあり,段落

【0040】には「この第1のn型クラッド層5は,活性層とAlを




含む第2のn型クラッド層4の間のバッファ層として作用する。」と

あるとおり,段落【0017】や【0040】の上記記載は,活性層

の両面に,InGaNまたはGaNよりなり,Alを含む窒化物半導

体に比べて結晶が柔らかい第1のクラッド層5,7が接し,第1のク

ラッド層5,7の外側に第2のクラッド層4,8が形成された,【図

1】に示される層構造の窒化物半導体発光素子についての記載であり,

「活性層の第1の面にn型InGaN層が接し,該活性層の第2の面

にp型AlGaN層が接し,該活性層を構成する窒化物半導体の本来

のバンドギャップエネルギーよりも低いエネルギーの光を発光する窒

化物半導体発光素子」,つまり,InGaNよりなり,Alを含む窒

化物半導体に比べて結晶が柔らかい第1のクラッド層が,活性層の一

方の面にのみ接する本件発明1についての記載ではない旨判断した。

【図1】




b 本件明細書には,以下の記載がある。

「第1のn型クラッド層5は,活性層6よりもバンドギャップエネ

ルギーが大きく,かつ活性層よりも熱膨張係数が小さい窒化物半導体

であればどのような組成のもので形成してもよいが,特に好ましくは




n型InxGa1−xN(0≦x<1)により形成する。InGaN,ま

たはGaNよりなるn型の第1のクラッド層5は,Alを含む窒化物

半導体に比べて,結晶が柔らかいので,この第1のクラッド層5がバ

ッファ層のような作用をする。つまりこの第1のクラッド層5がバッ

ファ層として作用しているために,活性層6を量子井戸構造としても

活性層6にクラックが入らず,また第1のクラッド層5,7の外側に

形成される第2のn型クラッド層4,第2のp型クラッド層8中にク

ラックが入るのを防止することができる。」(段落【0018】)

「第1のp型クラッド層7は,活性層6を構成する窒化物半導体よ

りもバンドギャップエネルギーが大きく,かつ活性層6よりも熱膨張

係数が小さいp型窒化物半導体であればどのような組成のもので形成

してもよいが,好ましくはp型AlyGa1−yN(0≦y≦1)で形成

する。その中でも,p型AlGaN等のAlを含む窒化物半導体は,

多重量子井戸構造または単一量子井戸構造よりなる活性層に接して形

成することにより,発光出力を向上させる。」(段落【0019】)

「従来の窒化物半導体発光素子は,上にも説明したように,InG

aNを主とする活性層をAlGaNを主とする2つのクラッド層で挟

んだ構造を有している。InGaN活性層をAlGaNクラッド層を

挟んだ従来の構造では,活性層の厚さを薄くするに従って,InGa

N活性層,AlGaNクラッド層にクラックが生じる傾向にある。例

えば,活性層の厚さを200オングストローム未満にするとクラック

が多数入ってしまうために素子作製が困難となる。これはAlを含む

クラッド層が結晶の性質上,非常に硬い性質を有しており,薄い膜厚

のInGaN活性層のみではAlGaNクラッド層との界面から生じ

る格子不整合と,熱膨張係数差から生じる歪をInGaN活性層で弾

性的に緩和できないことを示している。このため,従来ではクラッド




層,活性層中にクラックが入るために,活性層を薄くしようとしても

できなかったのが実状であった。」(段落【0039】)

「一方,本発明では図1に示すように,InとGaとを含む活性層

6に接する層として,新たに第1のn型クラッド層5を形成している。

この第1のn型クラッド層5は,活性層とAlを含む第2のn型クラ

ッド層4の間のバッファ層として作用する。つまり第1のn型クラッ

ド層5であるInを含む窒化物半導体またはGaNは結晶の性質とし

て柔らかい性質を有しているので,Alを含む第2のクラッド層4と

活性層6の格子定数不整と熱膨張係数差によって生じる歪を吸収する

働きがある。従って活性層を薄くしても活性層6,第2のn型クラッ

ド層4にクラックが入りにくいと推察される。第1のクラッド層5に

よって歪が吸収されるので,活性層は膜厚が200オングストローム

以下になると引っ張り応力が作用して弾性的に変形してバンドギャッ

プエネルギーが小さくなり発光波長が長くなる傾向にある。しかも活

性層の結晶欠陥が少なくなる。従って,活性層の膜厚が薄い状態にお

いても,活性層の結晶性が良くなるので発光出力が増大する。このよ

うに第1のn型クラッド層5をバッファ層として作用させるためには,

結晶が柔らかい層である活性層6と第1のn型クラッド層5との膜厚

の合計が300オングストローム以上あることが好ましい。」(段落

【0040】)

「また,第1のp型クラッド層はアルミニウムを含む窒化物半導体

で形成すると,出力が向上する。これはAlGaNが他の窒化物半導

体に比べて,p型化しやすいか,あるいはInGaNよりなる活性層

の分解を,第1のp型クラッド層成長時に抑える作用があるためと推

察されるが,詳しいことは不明である。」(段落【0041】)

c 本件明細書の上記記載によれば,段落【0018】には「第1のp




型クラッド層7」の組成に関する記載がない一方で,段落【001

9】には「第1のp型クラッド層7は,・・・好ましくはp型AlyG

a1−yN(0≦y≦1)で形成する。」と記載され,段落【0027】

には「最も好ましい組み合わせは,第2のn型クラッド層4をAl a

Ga1−aN(0≦a≦1)で形成し,第1のn型クラッド層5をInx

Ga1−xN(0≦x<1)で形成し,活性層6をInzGa1−zN(0

<z<1)を含む量子井戸構造とし,第1のp型クラッド層7をAly

Ga1−yN(0≦y<1)で形成し,第2のp型クラッド層8をAlb

Ga1−bN(0≦b≦1)で形成することである。」と記載されている

のであるから,当業者であれば,段落【0018】には「第1のp型

クラッド層7」を「AlGaN」とする本件発明1が記載されている

と当然に理解する。

また,段落【0040】には,従来のInGaNを主とする活性層

をAlGaNを主とする2つのクラッド層で挟んだ構造(段落【00

39】)を前提に,活性層6と第2のn型クラッド層4との間にIn

GaNまたはGaNよりなる第1のn型クラッド層5を形成すること

で,活性層6や第2のn型クラッド層4にクラックを発生させること

なく活性層6の膜厚を薄くすることができ,その結果,活性層6を弾

性的に変形させて,発光波長を長波長側にシフトさせることが可能と

なることが記載されているが,活性層6の第2の面(上面)に接して

InGaNまたはGaNよりなる第1のクラッド層7を設けることに

ついては,一切記載されていない。そして,本件明細書において,第

1のp型クラッド層7として好ましいと記載されている窒化物半導体

は,AlGaNである(段落【0019】,【0027】,【004

1】)から,当業者であれば,段落【0040】には「第1のp型ク

ラッド層7」を「AlGaN」とする本件発明1が記載されていると




当然に理解する。

d また,「図1は,本発明の一態様による窒化物半導体発光素子の構

造の一例を示す概略断面図である。図1に示す窒化物半導体素子は,

基板1上に,バッファ層2,n型コンタクト層3,第2のn型クラッ

ド層4,第1のn型クラッド層5,活性層6,第1のp型クラッド層

7,第2のp型クラッド層8,およびp型コンタクト層9が順に積層

された構造を有する。」(段落【0016】)が,「また,第1のn

型クラッド層5,第1のp型クラッド層7のいずれかを省略すること

もできる。」(段落【0020】),「この組み合わせの場合は,第1

のn型クラッド層5,第1のp型クラッド層7のいずれか一方または

両方を省略してもよい。」(段落【0027】)と記載されている。

したがって,仮に,本件審決がいうように,段落【0018】や

【0040】に記載された「第1のp型クラッド層7」が「InGa

NまたはGaNよりなるもの」であったとしても,下図のとおり,第

1のp型クラッド層7が省略されることにより,活性層6の上の層は

AlGaNとなるのであるから,本件明細書の段落【0018】や

【0040】は,本件発明1についての記載である。





e 本件発明の原理は,熱膨張係数の大きい活性層を,活性層よりも熱

膨張係数の小さいクラッド層で挟んだ素子を高温で形成した後,室温

にまで温度を下げると,熱膨張係数の大きい活性層がクラッド層に引

っ張られ,活性層とクラッド層の界面に平行方向に引っ張り応力が活

性層に作用するため,活性層のバンドギャップエネルギーが小さくな

り, 発光波長が長波長になる というものであるが(段落【00 3

7】),InGaN活性層をAlGaNクラッド層で挟んだ従来の構

造では,活性層の厚さを薄くするに従って,InGaN活性層,Al

GaNクラッド層にクラックが生じる傾向にあるため(段落【003

9】),InとGaとを含む活性層6に接する層として,新たに第1

のn型クラッド層5を形成するものである(段落【0040】)。こ

の「第1のn型クラッド層5」であるInを含む窒化物半導体または

GaNは,結晶の性質として柔らかい性質を有しているので,Alを

含む第2のクラッド層4と活性層6の格子定数不整と熱膨張係数差に

よって生じる歪を吸収する働きがあり,活性層を薄くしても活性層6,

第2のn型クラッド層4にクラックが入りにくくなり,第1のクラッ

ド層5によって歪が吸収されるので,活性層は膜厚が200オングス

トローム以下になると引っ張り応力が作用して弾性的に変形してバン

ドギャップエネルギーが小さくなり発光波長が長くなるというもので

ある(段落【0040】)。




段落【0040】には,第1のn型クラッド層5を設けることによ

り,活性層6や第2のn型クラッド層4にクラックを発生させること

なく,活性層6の膜厚を薄くすることができ,この結果,活性層6を

弾性的に変形させて,発光波長を長波長側にシフトさせることが可能

となることが記載されており,これは,本件発明1に対応するもので

ある。

f 被告の主張について

被告は,段落【0018】の記載からは,第1のクラッド層7が

バッファ層として働くInGaNまたはGaNであると理解される

旨主張する。

しかしながら,段落【0019】や【0027】に,第1のクラ

ッド層7の好ましい材料はAlGaNであると明記されているにも

かかわらず,「第1のクラッド層7にクラックが入るのを防止する

ことができる」とは記載されていないことに照らし,被告の上記主

張は,根拠のない主張である。

? 被告は,段落【0027】に「最も好ましい組み合わせ」として

記載されている構成から,第1のn型クラッド層5及び第1のp型

クラッド層7の両方を省略した構成は,従来の窒化物半導体発光素

子の構成(段落【0039】)と変わらないことになる旨主張する。

しかしながら,第1のn型クラッド層5及び第1のp型クラッド

層7の両方を省略した構成(本件明細書の実施例6の構成)は,本

件発明1には含まれない構成であるから,被告の上記主張は理由が

ない。

? 被告は,段落【0043】に「実施例1 本実施例を図1を参照

して記述する。」と記載されており,実施例1として,「n型Al

GaNクラッド層4/n型InGaNクラッド層5/InGaN量




子井戸活性層6/p型InGaNクラッド層7/p型AlGaNク

ラッド層8」という構成が開示されているから,当業者は,段落

【0040】に本件発明1が記載されているとは理解しない旨主張

する。

しかしながら,実施例1が図1を参照して記述していることをも

って,図1の構成が実施例1の構成に限定されるとの被告の主張は,

実施例が発明の実施態様の一つの具体例を表わすものであるという

実施例の意味合いを無視するものであり,被告の上記主張は理由が

ない。

以上のとおり,本件発明1については,実施例4において具体例をも

って当業者が実施可能なように記載されており,また,本件明細書の段

落【0018】及び【0040】は,本件発明1についての記載であり,

段落【0040】には,本件発明1において発光波長が長波長化する原

理が記載されている。

エ 本件明細書の段落【0013】の記載と段落【0034】の記載の整合

性について

本件明細書の段落【0013】においては,InxGa1−xNのバンド

ギャップエネルギーEgを表す式について,「Eg=Eg1・x+Eg2

・(1−x)−x(1−x)」と記載されており,ボーイングパラメー

ターを表すBが欠落しているが,特開平6−177059号公報(甲2

3)に,「InXGa1−XNのバンドギャップエネルギー(Eg)は,実

験的に求められており,例えば次式により算出することができる

(Journal of Applied Physics; Vol.46, No.8, 1975, 3432〜)。

Eg=EgGaN・(1−X)+EgInN・(X)−B・X(1−

X)

式中,EgGaNはGaNのバンドギャップエネルギーで3.4eV,




EgInNはInNのバンドギャップエネルギーで2.0eV,Bはボ

ーイングパラメーターであり,およそ1.0eVである。」と記載され

ているように(段落【0009】),当時認識されていたボーイングパ

ラメーターBの値はおよそ1.0eVであるから,本件明細書の段落

【0013】に記載された上記計算式においてボーイングパラメーター

Bが欠落していても,この式から算出されるバンドギャップエネルギー

Egの値には影響しない。

仮に,段落【0013】の記載が,現在における技術常識と異なって

いるとしても,本件明細書の記載は,本来のバンドギャップエネルギー

に相当する発光ピーク波長も含めて実際に発光素子を作製して行った実

験結果(段落【0033】,【0034】,実施例1及び4に記載され

た実験結果)に基づくものであるから,本件発明1が当業者において,

本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて実施可能であることに

変わりはない。

すなわち,【図2】に線αで示される発光素子は,活性層がIn0.05

Ga0.95Nからなり,その両側に第1クラッド層(In 0.01 Ga0.99

N)及び第2クラッド層(Al0.3Ga0.7N)がそれぞれ設けられた構

造となっており,活性層の膜厚を厚くすることで発光ピーク波長は一定

値に近づき,このときの値(【図2】では線αの右端近傍の値で,この

時の活性層の膜厚は約360オングストローム)が活性層に歪のかから

ない,いわゆる「窒化物半導体の本来のバンドギャップエネルギー」に

相当する発光波長となる。これに対し,実施例1は,【図2】の線αと

同じ組成の活性層で,その膜厚を30オングストロームにした場合の実

験結果であるが,活性層に歪がかかることにより発光ピーク波長は41

0nmと長波長化している(段落【0051】)。そして,実施例4は,

実施例1の構造からIn0.01Ga0.99Nの第1p型クラッド層を除いた




発光素子であり,活性層の上に直接Al0.3Ga0.7Nの第2p型クラッ

ド層が設けられた,本件発明1にかかる構造となっているが,このとき

の発光ピーク波長は425nmとなり,実施例1よりもさらに発光ピー

ク波長は長波長化しているのである(段落【0054】)。これらの実

験結果は,In0.05Ga0.95Nを活性層に用いた発光素子において,本

件発明1の構造を用いることにより,活性層が有する本来のバンドギャ

ップエネルギーに相当する発光ピーク波長380nm(図2の線α)が

425nm(実施例4)にまで長波長化することを明確に示していると

いえる。

【図2】




なお,被告は,InGaN層中には組成不均一があることが知られて

おり(乙1,3),局所的にIn組成が高い領域において,発光が起き

るから,特定の組成のInGaN層であっても,どの程度の発光波長

(バンドギャップエネルギー)となるか不明であり,「本来のバンドギ

ャップエネルギー」を定めることは不可能である旨主張する。

しかしながら,乙1や乙3は,本件特許の出願日よりも後の公知文献

にすぎない。本件発明1は、その出願日よりも前に実際に行われた実験




結果に基づいて発光ピーク波長が長波長化することを実証しているので

あり、出願日よりも後の公知文献に基づいて,本件発明1が実施不能で

あるとする被告の主張は失当である。

オ 小括

したがって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載が本件発明1につい

ての実施可能要件を欠くとの本件審決の判断は誤りである。

取消事由2(本件発明2ないし9についての実施可能要件の判断の誤り)

ア 本件審決は,「本件発明2は,本件発明1において,活性層とn型窒化

物半導体層との総膜厚を300オングストローム以上に限定したものに相

当する。本件発明3は,本件発明1において,活性層の第2の面に接する

AlyGa1−yN(0<y<1)よりなるp型窒化物半導体層上にp型コン

タクト層を備える点を限定したものに相当する。本件発明4ないし本件発

明9は,本件発明1ないし本件発明3のいずれかにおいて,活性層の構成

を限定したものに相当する。よって,本件発明1と同様に理由により,本

件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明2ないし本件発明9について,

当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されてい

るとは認められない。」と判断した。

しかしながら, 本件発明1についての実

施可能要件の判断を誤ったものであるから,本件発明2ないし9について

の判断にも誤りがある。

イ 小括

したがって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載が本件発明2ないし

9についての実施可能要件を欠くとの本件審決の判断は誤りである。

まとめ

以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明が本件発明1ないし9につ

いて,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載され




ているとは認められないとの本件審決の判断は誤りであり,本件審決は,違

法であるから,取り消されるべきものである。

2 被告の主張

本件審決の本件発明1についての実施可能要件の判断に誤りがないこと

(取消事由1に対し)

ア 本件発明1の要旨の認定に誤りがないこと

本件審決は,請求項1に係る発明(本件発明1)を,本件明細書の請求

項1に記載されたとおりのもの,すなわち,「インジウムおよびガリウム

を含む窒化物半導体よりなり,第1および第2の面を有する活性層を備え,

該活性層の第1の面に接してIn xGa1−xN(0<x<1)よりなるn型

窒化物半導体層を備え,該活性層の第2の面に接してAl yGa1−yN(0

<y<1)よりなるp型窒化物半導体層を備え,該n型窒化物半導体層に

接してAlaGa1−aN(0≦a<1)よりなる第2のn型窒化物半導体層

を備え,該活性層を量子井戸構造とし,活性層を構成する窒化物半導体の

本来のバンドギャップエネルギーよりも低いエネルギーの光を発光するこ

とを特徴とする窒化物半導体発光素子。」と認定しており,その認定に誤

りはない。

原告の主張は,本件審決が「本件発明1の特徴的構成」として指摘した

部分に係るものにすぎず,本件審決における本件発明1の要旨の認定自体

は,上記のとおり,正しくされている。

実施可能要件違反の判断に誤りがないこと

実施例4について

a 原告は,実施可能要件に関する主張立証責任を負うにもかかわらず,

無効審判請求や訂正審判請求において,本件発明1の実施可能要件

関し,実施例4に基づく主張をしていなかったのであるから(甲22

の13〜17頁参照),本件審決が実施例4について言及しなかった




としても,これにより,本件審決の判断が違法とされる理由はない。

実施例4の記載によっても,実施可能要件を充たさないこと

実施例4の記載によっても,原告の出願に係る甲12(特開平8−

228025。優先権主張:平成6年12月22日,出願日:平成7

年12月12日)との対比でみれば,本件発明1はどのように実施

能であるのか不明である。

すなわち,本件明細書の段落【0034】によれば,In0.05Ga0.95

N活性層は,本来のバンドギャップエネルギーでは380nm付近の

紫外発光を示すものであるが,段落【0051】にあるとおり,量子

井戸構造をとる実施例1においては,発光ピーク波長は410nmと

長波長化している(活性層を構成する窒化物半導体の本来のバンドギ

ャップエネルギーよりも低いエネルギーの光を発光している)。他方,

甲12においては,In0.2Ga0.8N活性層は,本来のバンドギャップエ

ネルギーでは510nmの緑色発光を示すものであるが(実施例2。

n型AlGaNクラッド層4/n型InGaNクラッド層5/InG

aN活性層6/p型InGaNクラッド層7/p型AlGaNクラッ

ド層8の構成であり,活性層6はその膜厚が400オングストローム

あり量子井戸構造ではない。段落【0041】),量子井戸構造をと

実施例6(n型AlGaNクラッド層4/n型InGaNクラッド

層5/InGaN活性層6/p型InGaNクラッド層7/p型Al

GaNクラッド層8の構成であり,活性層6はその膜厚が20オング

ストロームあり量子井戸構造である。)においては,発光ピーク波長

が450nmと短波長化している(段落【0045】)。上記のよう

に,本件明細書の実施例1は,甲12の実施例6と矛盾している。本

件明細書の段落【0021】の記載に従えば,n型AlGaNクラッ

ド層4とn型InGaNクラッド層5を有している甲12の実施例6




においても,「第2のn型クラッド層4を第1のn型クラッド層5に

接して形成すると,活性層にさらに大きな引っ張り応力を加えて,発

光波長を長波長側にシフトさせることが可能である」はずであるが,

甲12では,発光波長が長波長側にシフトしていないのである。そう

すると,甲12の実施例6から,その段落【0018】の記載に従っ

て,第1のp型クラッド層7を省略した構成(本件明細書の実施例4,

すなわち本件発明1の構成と同じ構成)においても,実施例6におい

て発光波長が長波長側にシフトしていない(短波長化している)以上,

発光波長が長波長側にシフトするはずはない(短波長化すると考えら

れる。)。

したがって,本件明細書の実施例4の記載から,当業者において,

どのように発光波長を長波長側にシフトさせるのか理解することはで

きないといわざるを得ない。

本件明細書の段落【0018】及び【0040】の記載について

a 本件明細書の段落【0018】には,「InGaN,またはGaN

よりなるn型の第1のクラッド層5は,Alを含む窒化物半導体に比

べて,結晶が柔らかいので,この第1のクラッド層5がバッファ層の

ような作用をする。つまりこの第1のクラッド層5がバッファ層とし

て作用しているために,活性層6を量子井戸構造としても活性層6に

クラックが入らず,また第1のクラッド層5,7の外側に形成される

第2のn型クラッド層4,第2のp型クラッド層8中にクラックが入

るのを防止することができる。」と記載されている。

上記記載中に,「第1のクラッド層7にクラックが入るのを防止す

ることができる」とは記載されていないことからすれば,第1のクラ

ッド層7は,「第2のp型クラッド層8」にクラックが入るのを防止

するための層,すなわちバッファ層として働いているものと理解され,




しかも,上記記載から,バッファ層として働くのは,InGaN,ま

たはGaNであると理解されるから,段落【0018】の「第1のク

ラッド層・・・7の外側に形成される・・・第2のp型クラッド層8

中にクラックが入るのを防止することができる」という記載からは,

第1のクラッド層7がバッファ層として働くInGaNまたはGaN

であると理解される。

そうすると,本件審決が,段落【0017】や【0040】の記載

は,「活性層の両面に,InGaNまたはGaNよりなり,Alを含

む窒化物半導体に比べて結晶が柔らかい第1のクラッド層5,7が接

し,第1のクラッド層5,7の外側に第2のクラッド層4,8が形成

された,図1に示される層構造の窒化物半導体発光素子についての記

載であり,「活性層の第1の面にn型InGaN層が接し,該活性層

の第2の面にp型AlGaN層が接し,該活性層を構成する窒化物半

導体の本来のバンドギャップエネルギーよりも低いエネルギーの光を

発光する窒化物半導体発光素子」,つまり,InGaNよりなり,A

lを含む窒化物半導体に比べて結晶が柔らかい第1のクラッド層が,

活性層の一方の 面のみに接す る本件発明1についての記載では な

い。」と認定したことは正当である。

b 原告は,段落【0019】の記載を根拠に,当業者であれば,段落

【0018】には,本件発明1が記載されていると当然に理解する旨

主張する。

しかしながら,本件明細書には,一貫して「Al」を含む窒化物半

導体は結晶が硬いということが記載される一方で(段落【0021】,

【0022】,【0039】),段落【0018】には,「InGa

N,またはGaNよりなるn型の第1のクラッド層5は,Alを含む

窒化物半導体に比べて,結晶が柔らかい」と記載され,結晶が柔らか




いため,バッファ層として機能するということが記載されているので

あるから,同段落の「第1のクラッド層5,7の外側に形成される第

2のn型クラッド層4,第2のp型クラッド層8中にクラックが入る

のを防止することができる。」という記載は,第1のクラッド層7が

バッファ層として機能しており,これがInGaNまたはGaNから

成るものであると理解されるのであって,これが結晶の硬いAlGa

ことはない。

c 原告は,段落【0040】には,活性層6の第2の面(上面)に接

してInGaNまたはGaNよりなる第1のクラッド層7を設けるこ

とについては,一切記載されておらず,一方,本件明細書において,

第1のp型クラッド層7として好ましいと記載されている窒化物半導

体は,AlGaNであるから,当業者であれば,段落【0040】に

は本件発明1が記載されていると当然に理解する旨主張する。

しかしながら,段落【0040】には,その冒頭に「一方,本発明

では図1に示すように,InとGaとを含む活性層6に接する層とし

て,新たに第1のn型クラッド層5を形成している。」と記載されて

いる。本件明細書において,図1について説明しているのは,段落

【0016】〜【0018】であるが,段落【0018】の記載から,

第1のクラッド層7がバッファ層として機能しており,これがInG

aNまたはGaNから成るものであると理解することは当然のことで

あることは前記のとおりであり,また,段落【0043】には,「実

施例1 本実施例を図1を参照して記述する。」と記載されており,

実施例1として,「n型AlGaNクラッド層4/n型InGaNク

ラッド層5/InGaN量子井戸活性層6/p型InGaNクラッド

層7/p型AlGaNクラッド層8」という構成が開示されている。

そうすると,本件明細書において,図1は,「n型AlGaNクラ




ッド層4/n型InGaNクラッド層5/InGaN量子井戸活性層

6/p型InGaNクラッド層7/p型AlGaNクラッド層8」と

いう構成であると理解されるのであり,当業者は,段落【0040】

に本件発明1が記載されているとは理解しない。

また,段落【0040】は,「図1に示すように」と記載されてい

る点を措いたとしても,第2のn型クラッド層と活性層との間に形成

される第1のn型クラッド層という構成について記載しているにすぎ

ず,p型クラッド層の構成は特定されていないのであるから,段落

【0040】は,本件発明1について述べたものではない。

さらに,段落【0040】は,「図1に示すように」と記載して,

「第1のp型クラッド層」のみならず,「第2のp型クラッド層8」

をも設けた図1を引用しているのであるから,段落【0040】が,

従来のInGaNを主とする活性層をAlGaNを主とする2つのク

ラッド層で挟んだ構造(段落【0039】)を前提として,活性層6

と第2のn型クラッド層4との間に,InGaNまたはGaNよりな

る第1のn型クラッド層5を形成することを述べたものであったとし

ても,従来のn型クラッド層が第2のn型クラッド層に相当すること

からすれば,従来のp型クラッド層に相当するのは,第2のp型クラ

ッド層であると考えるのが自然であって,段落【0040】の記載か

らは,第1のp型クラッド層の組成は不明であるといわざるを得ず,

これが本件発明1の構成についての記載であるとはいえない。

d 原告は,段落【0018】や【0040】に記載された「第1のp

型クラッド層7」が「InGaNまたはGaNよりなるもの」であっ

たとしても,段落【0020】や【0027】に第1のp型クラッド

層7を省略してもよいと記載されていることを根拠に,段落【001

8】や【0040】は,本件発明1についての記載である旨主張する。




原告の上記主張によれば,本件発明1の実施態様に含まれないはず

実施例1〜3,5及び8〜12についても,本件発明1の実施例で

あるという論理が成り立つことになるが,これが不当であることは明

らかであって,そもそも原告の上記主張には論理の飛躍があるといわ

ざるを得ない。

また,段落【0036】には,「発光波長が長波長側に移行する波

長範囲は,活性層に引っ張り応力を与える第2のクラッド層,第1の

クラッド層の組成によっても異なり,またそれらの組成によって活性

層の好ましい膜厚も多少変化する。」と記載されているように,クラ

ッド層の組成や組み合わせによって発明の効果が変化するものである

から,単純に段落【0020】や【0027】の記載を根拠として,

【0018】や【0040】の構成からp型クラッド層7を省略した

としても,どのように長波長化するのかは不明であるといわざるを得

ない。

さらに,段落【0027】の記載を根拠に,ここに「最も好ましい

組み合わせ」として記載されている構成から,第1のn型クラッド層

5及び第1のp型クラッド層7の両方を省略した構成(n型AlGa

Nクラッド層4/InGaN活性層6(量子井戸層)/p型AlGa

Nクラッド層8)は,段落【0039】に,「従来の窒化物半導体発

光素子」として記載された構成,すなわち,「InGaNを主とする

活性層をAlGaNを主とする2つのクラッド層で挟んだ構造」と変

わらないことになる。

以上のとおり,段落【0020】や【0027】の記載に従い,単

に段落【0018】や【0040】の構成から第1のp型クラッド層

7を省略しても,これが,本件発明1の作用効果を奏するものである

のか疑問であるといわざるを得ないから,段落【0018】や【00




40】が本件発明1についての記載であるとはいえない。

e 原告は,本件明細書の段落【0040】には,発光波長が長波長化

する原理が記載されている旨主張する。

しかしながら,段落【0040】には,「第1のn型クラッド層5

は,活性層とAlを含む第2のn型クラッド層4の間のバッファ層と

して作用する。」と記載されているように,第2のn型クラッド層4

と,第1のn型クラッド層5と,活性層の関係しか記載されておらず,

本件発明1の構成は記載されていない。

また,段落【0040】には,「第1のクラッド層5によって歪が

吸収されるので,活性層は膜厚が200オングストローム以下になる

と引っ張り応力が作用して弾性的に変形してバンドギャップエネルギ

ーが小さくなり発光波長が長くなる傾向にある。」と記載されている

ように,発光波長が長くなる「傾向」が記載されているにすぎず,こ

れが必然であるとは記載されていない。当該記載は,p型クラッド層

の組成や数によっては発光波長が長くならない場合があることを示し

ており,本件明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を充た

さないことに変わりはない。

さらに,段落【0040】には,「従って活性層を薄くしても活性

層6,第2のn型クラッド層4にクラックが入りにくいと推察され

る。」と記載されているように,推測の域を出ておらず,本件特許出

願時の技術水準に照らして,当業者が容易に実施できるとはいえない。

ウ 本件明細書の段落【0013】の記載が不正確であり,段落【003

4】の記載とも整合しないこと

本件明細書の段落【0013】においては,In x Ga1−x Nのバン

ドギャップエネルギーEgを表す式について,「Eg=Eg 1・x+E

g2・(1−x)−x(1−x)」と記載されており,ボーイングパラ




メーターを表すBが欠落している。ボーイングパラメータ(B)は,1.

0eVではないから(乙1,2),上記計算式は,客観的に誤りである。

原告は,当時認識されていたボーイングパラメーターBの値はおよそ

1.0eVであるから,段落【0013】に記載された計算式において

ボーイングパラメーターBが欠落していても,この式から算出されるバ

ンドギャップエネルギーEgの値には影響しないとするが,「当時の認

識」が,客観的に誤っている以上,上記計算式が不正確であることに変

わりはない。

段落【0013】における計算式が誤っていることから,段落【00

34】の「In 0.3 Ga0.7N活性層は本来のバンドギャップエネルギ

ーでは480nm付近の青緑色発光である」との記載は,上記計算式の

計算結果と整合しない。

上記計算式が誤っている以上,本件発明1において,「活性層を構成

する窒化物半導体の本来のバンドギャップエネルギーよりも低いエネル

ギーの光を発光する」という前提である,「本来のバンドギャップエネ

ルギー」を定めることもできないのであるから,本件発明1は実施不能

ということになる。

また,InGaN層中には組成不均一があることが知られており(乙

1,3),局所的にIn組成が高い領域において発光が起きるから,特

定の組成のInGaN層であっても,どの程度の発光波長(バンドギャ

ップエネルギー)となるか不明であるということになる。

したがって,「本来のバンドギャップエネルギー」を定めることは不

可能であるというべきであるから,本件発明1は実施不能であるという

ことになる。

エ 小括

以上のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明の記載が本件発明1につ




いての実施可能要件を欠くとの本件審決の判断は正当である。

本件発明2ないし9の実施可能要件の判断に誤りがないこと(取消事由2

に対し)

本件明細書の発明の詳細な説明の記載が本件発明1につ

いての実施可能要件を欠くとの本件審決の判断に誤りはないから,本件発明

2ないし9について,本件明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件

を欠くとした本件審決の判断にも誤りはない。

まとめ

以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,本件明細書の

発明の詳細な説明が本件発明1ないし9について,当業者がその実施をする

ことができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められないとした

本件審決の判断に誤りはない。

第4 当裁判所の判断

1 本件明細書の記載について

本件発明1ないし9の特許請求の範囲は,前記第2の2に記載のとおりであ

るところ,本件明細書(甲21,22)の「発明の詳細な説明」には,次のよ

うな記載がある(訂正箇所に下線を引いた。下記記載中に引用する図面につい

ては,別紙の本件明細書図面目録を参照。)。

「【発明の属する分野】

本発明は,発光ダイオード(LED),レーザダイオード(LD)等の半

導体発光素子に係り,特には,窒化物半導体(InaAlbGa1−a−bN,0

≦a,0≦b,a+b≦1)から構成される半導体積層構造を有する窒化物

半導体発光素子に関する。」(段落【0001】)

「【従来の技術】

窒化物半導体(In aAlbGa1−a−bN,0≦a,0≦b,a+b≦1)

は,紫外ないし赤色に発光するLED,LD等の発光素子の材料として期待




されている。事実,本出願人は,この半導体材料を用いて,1993年11

月に光度1cdの青色LEDを発表し,1994年4月に光度2cdの青緑

色LEDを発表し,1994年10月には光度2cdの青色LEDを発表し

た。これらのLEDは全て製品化されて,現在ディスプレイ,信号等の実用

に供されている。」(段落【0002】)

「そのような青色,青緑色LEDの発光チップは,基本的には,サファイ

ア基板の上に,n型GaNよりなるn型コンタクト層と,n型AlGaNよ

りなるn型クラッド層と,n型InGaNよりなる活性層と,p型AlGa

Nよりなるp型クラッド層と,p型GaNよりなるp型コンタクト層とが順

に積層された構造を有している。サファイア基板11とn型コンタクト層と

の間には,GaN,AlGaNまたはAlNよりなるバッファ層が形成され

ている。活性層を形成するn型InGaNには,Si,Ge等のドナー不純

物および/またはZn,Mg等のアクセプター不純物がドープされている。

このLED素子の発光波長は,その活性層のInGaNのIn含有量を変え

るか,または活性層にドープする不純物の種類を変えることにより,紫外領

域から赤色まで変化させることが可能である。」(段落【0003】)

「【発明が解決しようとする課題】

しかしながら,前記LED素子は発光波長が長くなるに従って,発光出力

が大きく低下するという問題がある。図4は従来のLED素子のピーク発光

波長と発光出力の関係を示す図である。このLEDでは活性層のInGaN

にZnとSiとをドープし,Znの準位を介して発光させることにより発光

波長をInGaNのバンド間発光よりも発光エネルギーで約0.5eV小さ

くして発光波長を長くしている。図4に示すように,従来のLEDは,45

0nmでは3mW付近の出力を示すのに対し,発光ピークが長波長に移行す

るに従ってその出力は大きく減少し,550nmでは出力が0.1mW以下

にまで低下している。例えば,450nm発光のLEDにおける活性層はI




n0.05Ga0.95Nであり,500nm発光のLEDにおける活性層はIn 0.

18 Ga0.82Nであり,550nm発光のLEDにおける活性層はIn 0.25

Ga0.75Nであり,さらに各活性層にはZnがドープされている。このよう

に,不純物がドープされたInGaN活性層,より詳しくは,In xGa1−x

N(0≦x<1)活性層は,In含有量が増えると結晶性が悪くなり発光出

力は大きく低下する。このため実際に使用できるIn含有量すなわちx値は

およそ0.15以下でしか,高出力のLEDができないのが現状であるので,

青色LEDしか高出力のものは実現されていない。しかも,Znをドープし

て発光させているので半値幅が約70nmと広く,青色の色純度に劣る。」

(段落【0004】)

「ところで,高出力の青色LEDが実用化された現在,緑色LEDだけが

色調,発光出力とも他のLEDに比べて劣っている。例えばフルカラーLE

Dディスプレイを赤色LED,緑色LED,青色LED各一個づつで実現す

る際には,緑色LEDが最も大きい光度を有していなければならない。しか

し,緑色LEDの光度は未だ低く,青色LED,赤色LEDと全くバランス

がとれないのが実状である。」(段落【0005】)

「窒化物半導体はバンドギャップエネルギーが1.95eV〜6.0eV

まであるので,理論的には赤色から紫外まで広帯域に発光する材料である。

窒化物半導体発光素子の長波長域の出力を向上させることができれば,従来

のGaAs,AlInGaP系の材料に代わり,窒化物半導体で全ての可視

領域の波長での発光が実現できる可能性がある。」(段落【0006】)

「本発明はこのような事情に鑑みてなされてものであって,その目的とす

るところは,緑色LEDのみならず360nm以上の発光波長で高輝度,高

出力の窒化物半導体発光素子を提供することにある。」(段落【000

7】)

「【課題を解決するための手段】




従来のLEDは,活性層を不純物をドープしたInGaNにより形成して

いる。前記のようにInGaNのIn組成比を大きくするとInGaNバン

ド間発光により,発光波長を長波長側に移行できる。しかし,窒化物半導体

はInのモル比を大きくするに従い結晶性が悪くなる傾向にあるので,発光

出力が低下する,と推察される。そこで,本発明者らは発光素子の発光波長

を長波長側に移行させるに際し,ダブルへテロ構造の窒化物半導体構造にお

ける活性層に引っ張り応力を与えることにより,発光波長を長波長側にシフ

トさせ,しかも発光出力が高い発光素子を実現できることを新たに見い出し

た。」(段落【0008】)

「すなわち,本発明によれば,インジウムおよびガリウムを含む窒化物半

導体よりなり,第1および第2の面を有する活性層を備え,該活性層の第1

の面に接してInxGa1−xN(0<x<1)よりなるn型窒化物半導体層を

備え,該活性層の第2の面に接してAlyGa1−yN(0<y<1)よりなる

p型窒化物半導体層を備え,該n型窒化物半導体層に接してAl aGa1−aN

(0≦a<1)よりなる第2のn型窒化物半導体層を備え,該活性層を量子

井戸構造とし,活性層を構成する窒化物半導体の本来のバンドギャップエネ

ルギーよりも低いエネルギーの光を発光することを特徴とする窒化物半導体

発光素子が提供される。」(段落【0009】)

「さらに,本発明によれば,インジウムおよびガリウムを含む窒化物半導

体よりなる井戸層を備え,第1および第2の面を有する活性層を具備し,該

活性層の第2の面側にGaNよりなるp型コンタクト層を備え,該活性層の

第1の面に接して該活性層を構成するインジウムおよびガリウムを含む窒化

物半導体よりもバンドギャップエネルギーの大きなInxGa1−xN(0<x

<1)よりなるn型窒化物半導体層を備え,該活性層とp型コンタクト層と

の間に該活性層の第2の面に接してAl yGa1−yN(0<y<1)よりなる

p型窒化物半導体層を備え,該n型窒化物半導体層に接してAl aGa1−aN




(0≦a<1)よりなる第2のn型窒化物半導体層を備え,該活性層を単一

量子井戸構造または多重量子井戸構造とし,活性層を構成する窒化物半導体

の本来のバンドギャップエネルギーよりも低いエネルギーの光を発光するこ

とを特徴とする窒化物半導体発光素子が提供される。」(段落【001

1】)

「すなわち,本発明においては,活性層を単一量子井戸構造または多重量

子井戸構造として,この活性層とクラッド層との界面平行方向に,引っ張り

応力を加え,活性層を構成する窒化物半導体の本来のバンドギャップエネル

ギーよりも小さいエネルギーを持つ光を発光させるのである。」(段落【0

012】)

「ところで,InNのバンドギャップエネルギー(1.96eV)をEg 1

で,GaNのバンドギャップエネルギー(3.40eV)をEg2で表わすと,

窒化物半導体InxGa1−xNの本来のバンドギャップエネルギーEgは,式

Eg=Eg1・x+ Eg2・(1−x)−x(1−x)

により算出することができる。活性層の本来の発光波長λは,λ=1240

/Egに相当する。」(段落【0013】)

「なお,単一量子井戸構造とは,井戸層が一層よりなる構造を指す。すな

わち,単一量子井戸構造の活性層は,単一の井戸層だけで構成される。また,

多重量子井戸構造とは,井戸層と障壁層を交互に積層した多層膜構造を指す。

この多層膜構造において,両側の2つ最外層は,それぞれ井戸層により構成

される。」(段落【0014】)

「【作用】

本発明の素子は,第1のn型クラッド層および第1のp型クラッド層より

も熱膨張係数の大きい活性層を形成して,両クラッド層と活性層の界面に平

行な方向で引っ張り応力を発生させている。引っ張り応力を活性層に弾性的

に作用させるために,活性層を単一量子井戸構造または多重量子井戸構造と




して,活性層のバンドギャップエネルギーを小さくし,活性層の発光波長を

長くする。また,活性層の井戸層,障壁層を臨界膜厚まで薄くしたことによ

り,In組成比が大きいInGaNでも結晶性よく成長できる。」(段落

【0015】)

「【発明の実施の形態】

図1は,本発明の一態様による窒化物半導体発光素子の構造の一例を示す

概略断面図である。図1に示す窒化物半導体素子は,基板1上に,バッファ

層2,n型コンタクト層3,第2のn型クラッド層4,第1のn型クラッド

層5,活性層6,第1のp型クラッド層7,第2のp型クラッド層8,およ

びp型コンタクト層9が順に積層された構造を有する。」(段落【001

6】)

「活性層6は,Inを含む窒化物半導体で形成され,単一量子井戸構造ま

たは多重量子井戸構造のものである。Inを含む活性層6は,他のAlGa

N,GaN等の窒化物半導体に比べて柔らかく,熱膨張係数も大きいので,

例えば単一量子井戸構造の井戸層の膜厚を薄くすることにより発光波長を変

化させることができる。量子井戸構造の活性層6はn型,p型のいずれでも

よいが,特にノンドープ(不純物無添加)とすることによりバンド間発光に

より発光波長の半値幅が狭くなり,色純度のよい発光が得られるため好まし

い。特に活性層6の井戸層の組成をIn zGa1−zN(0<z<1)とすると,

バンド間発光で波長を紫外から赤色まで発光させることができ,クラッド層

との熱膨張係数差の大きい活性層を実現することが可能である。一方,多重

量子井戸構造の場合,障壁層は特にInGaNで形成せずにGaNで形成し

てもよい。」(段落【0017】)

「第1のn型クラッド層5は,活性層6よりもバンドギャップエネルギー

が大きく,かつ活性層よりも熱膨張係数が小さい窒化物半導体であればどの

ような組成のもので形成してもよいが,特に好ましくはn型In xGa1−xN




(0≦x<1)により形成する。InGaN,またはGaNよりなるn型の

第1のクラッド層5は,Alを含む窒化物半導体に比べて,結晶が柔らかい

ので,この第1のクラッド層5がバッファ層のような作用をする。つまりこ

の第1のクラッド層5がバッファ層として作用しているために,活性層6を

量子井戸構造としても活性層6にクラックが入らず,また第1のクラッド層

5,7の外側に形成される第2のn型クラッド層4,第2のp型クラッド層

8中にクラックが入るのを防止することができる。」(段落【0018】)

「第1のp型クラッド層7は,活性層6を構成する窒化物半導体よりもバ

ンドギャップエネルギーが大きく,かつ活性層6よりも熱膨張係数が小さい

p型窒化物半導体であればどのような組成のもので形成してもよいが,好ま

しくはp型AlyGa1−yN(0≦y≦1)で形成する。その中でも,p型A

lGaN等のAlを含む窒化物半導体は,多重量子井戸構造または単一量子

井戸構造よりなる活性層に接して形成することにより,発光出力を向上させ

る。」(段落【0019】)

「また,第1のn型クラッド層5,第1のp型クラッド層7のいずれかを

省略することもできる。第1のn型クラッド層5を省略する場合は,第2の

n型クラッド層4が第1のn型クラッド層5となり,また第1のp型クラッ

ド層7を省略する場合は第2のp型クラッド層が第1のp型クラッド層5と

なる。但し,活性層には,n型GaNもしくはn型InGaNよりなる第1

のn型クラッド層5が接して形成されていることが好ましい。」(段落【0

020】)

「本発明の素子は,前記第1のn型クラッド層5に接して,n型の窒化物

半導体よりなる第2のn型クラッド層4を備えることができる。第2のn型

クラッド層4は,Al aGa1−aN(0≦a≦1)で形成することが望ましい。

但し,第1のn型クラッド層5がInGaNで形成されている場合は,この

第2のn型クラッド層4をGaNまたはAlGaNで形成することができる。




Alを含む窒化物半導体は熱膨張係数が小さく,また結晶自体が硬いので,

第2のn型クラッド層4を第1のn型クラッド層5に接して形成すると,活

性層にさらに大きな引っ張り応力を加えて,発光波長を長波長側にシフトさ

せることが可能である。但し,活性層6に接してAlを含む第2のn型クラ

ッド層4を形成する場合には,活性層の反対側の主面には,バッファ層とな

る第1のp型クラッド層7をInGaN,GaN等で形成することが望まし

い。」(段落【0021】)

「また,本発明の素子では,第1のp型クラッド層7に接して,p型の窒

化物半導体よりなる第2のp型クラッド層8を備えることもできる。第2の

p型クラッド層8は,AlbGa1−bN(0≦b≦1)で形成することが望ま

しい。但し,第1のp型クラッド層7がAlGaNで形成されている場合は,

この第2のp型クラッド層8をコンタクト層としてGaNで形成することが

できる。活性層6に接してAlを含む第2のp型クラッド層8を形成する場

合には,活性層6の反対側の主面(n層側)には,バッファ層となるGaN,

InGaN等の第1のn型クラッド層5が接して形成されていることが望ま

しい。」(段落【0023】)

「ここで,活性層とクラッド層の好ましい組み合わせを述べる。まず,活

性層6と第1のクラッド層5,7の組み合わせは,第1のn型クラッド層を

InxGa1−xN(0≦x<1)で形成し,活性層をInzGa1−zN(0<z

<1)を含む量子井戸構造とし,第1のp型クラッド層をAl y Ga 1−y N

(0<y<1)で形成することである。但し,これらの組み合わせにおいて,

バンドギャップエネルギーの関係からx<zの条件を満たしていることはい

うまでもない。活性層6は,単一量子井戸構造の場合では井戸層を100オ

ングストローム以下の厚さに形成し,多重量子井戸構造では井戸層を100

オングストローム以下の厚さに,および障壁層を150オングストローム以

下の厚さに形成する。いずれの量子井戸構造の活性層でも,n型またはノン




ドープとするとバンド間発光による半値幅の狭い発光が得られるので最も好

ましい。」(段落【0026】)

「次に,最も好ましい組み合わせは,第2のn型クラッド層4をAl aGa

1−a N(0≦a≦1)で形成し,第1のn型クラッド層5をIn xGa1−xN

(0≦x<1)で形成し,活性層6をIn zGa1−zN(0<z<1)を含む

量子井戸構造とし,第1のp型クラッド層7をAl y Ga 1−y N(0≦y<

1)で形成し,第2のp型クラッド層8をAl bGa1−bN(0≦b≦1)で

形成することである。この組み合わせの場合は,第1のn型クラッド層5,

第1のp型クラッド層7のいずれか一方または両方を省略してもよい。省略

した場合,前記のように,第2のn型クラッド層4または第2のp型クラッ

ド層8が,それぞれ第1のクラッド層として作用する。この組み合わせによ

ると,第1のクラッド層5,7と活性層6だけでは,活性層6に十分な引っ

張り応力が得られない場合に,第1のクラッド層5,7の外側にさらにAl

を含む第2のクラッド層を形成して,第2のクラッド層4,8の熱膨張係数

と活性層6の熱膨張係数の差を大きくすることができる。従って,活性層6

を膜厚の薄い井戸層と障壁層との多重量子井戸構造,又は井戸層のみの単一

量子井戸構造とすることにより,界面に作用する引っ張り応力により,活性

層のバンドギャップが小さくなり,発光波長が長波長側にシフトされ得

る。」(段落【0027】)

「図2は単一量子井戸構造の活性層の厚さ,つまり井戸層の厚さと,発光

素子の発光ピーク波長との関係を示す図である。なお,図2において線αは

活性層がノンドープIn0.05Ga0.95Nよりなる発光素子を示し,線βは活

性層がノンドープIn0.3Ga0.7Nよりなる発光素子を示している。両方と

も発光素子の構造は第2のクラッド層と,第1のn型クラッド層と,活性層

と,第1のp型クラッド層と,第2のp型クラッド層とを順に積層したダブ

ルへテロ構造である。第2のn型クラッド層は0.1μmのSiドープn型




Al0.3Ga0.7Nよりなり,第1のn型クラッド層は500オングストロー

ムのIn0.01Ga0.99Nよりなり,第1のp型クラッド層は20オングスト

ロームのMgドープp型In0.01Ga0.99Nよりなり,第2のp型クラッド

層は0.1μmのMgドープp型Al0.3Ga0.7Nよりなるダブルへテロ構

造である。図2では前記活性層の膜厚を変えた際に発光波長が変化すること

を示している。」(段落【0033】)

「線αで示すIn0.05Ga0.95N活性層は,本来のバンドギャップエネル

ギーでは380nm付近の紫外発光を示すが,膜厚を薄くすることにより4

20nm近くまで波長を長くして青紫色の発光にできる。また線βで示すI

n0.3Ga0.7N活性層は本来のバンドギャップエネルギーでは480nm付

近の青緑色発光であるが,同じく膜厚を薄くすることにより,520nm近

くの純緑色発光が得られる。このように第1のn型クラッド層と第1のp型

クラッド層で挟まれた活性層の膜厚を薄くすることにより,発光波長を長波

長にすることができる。つまり,通常の膜厚の厚い活性層ではその活性層の

バンドギャップエネルギーに相当する発光しか示さないが,本発明の単一量

子井戸構造の活性層では,井戸層の膜厚を薄くすることによって,バンドギ

ャップエネルギーが小さくなり,元の井戸層のバンドギャップエネルギーよ

りも低エネルギーの光,即ち長波長を発光させることが可能となる。しかも

ノンドープであるので,不純物をドープしたものよりも結晶性がよいので出

力が高くなり,さらにバンド間発光で半値幅の狭い色純度に優れた発光が得

られる。」(段落【0034】)

「従って,本発明において,井戸層の膜厚は100オングストローム以下,

さらに好ましくは70オングストローム以下となるように形成することが望

ましい。図2は本発明の素子による発光素子の一例を示したものであるが,

発光波長が長波長側に移行する波長範囲は,活性層に引っ張り応力を与える

第2のクラッド層,第1のクラッド層の組成によっても異なり,またそれら




の組成によって活性層の好ましい膜厚も多少変化する。」(段落【003

6】)

「窒化物半導体において,AlNの熱膨張係数は4.2×10 −6/Kであ

り,GaNの膨張係数は5.59×10−6/Kであることが知られている。

InNに関しては,完全な結晶が得られていないため熱膨張係数は不明であ

るが,仮にInNの熱膨張係数がいちばん大きいと仮定すると,熱膨張係数

の順序はInN>GaN>AlNとなる。一方,窒化物半導体の成長温度を

見てみると,通常MBE法では500℃,MOVPE法では時に900℃以

上の高温で成長させる。例えばMOVPE法によるとInGaNで700℃

以上,AlGaNであると900℃以上で成長させる。そこで熱膨張係数の

大きい活性層を,活性層よりも熱膨張係数の小さいクラッド層で挟んだ素子

を高温で形成した後,室温にまで温度を下げると,熱膨張係数の大きい活性

層がクラッド層に引っ張られ,活性層とクラッド層の界面に平行方向に引っ

張り応力が活性層に作用する。このため,活性層のバンドギャップエネルギ

ーが小さくなり,発光波長が長波長になるのである。つまり活性層のIn0.0

5 Ga0.95N,In0.3Ga0.7N等は第1のクラッド層,および第2のクラ

ッド層よりもInが多い分,熱膨張係数が大きい。従って活性層とクラッド

層の界面に平行方向に引っ張り応力が作用し,活性層のバンドギャップエネ

ルギーが小さくなるので通常の活性層のバンド間発光よりも,発光波長を長

くすることができるのである。特にその引っ張り応力は活性層を薄くするほ

ど大きくなるので,発光波長をより長波長にすることが可能となる。」(段

落【0037】)

「本発明の素子において好ましい態様は,インジウムを含むn型窒化物半

導体,またはn型GaNを第1のn型クラッド層として備え,その第1のn

型クラッド層に接して,第1のn型クラッド層よりも熱膨張係数が大きいイ

ンジウムを含む窒化物半導体よりなる活性層を備え,この活性層を単一量子




井戸若しくは多重量子井戸構造とすることによって,本来の活性層のバンド

ギャップエネルギーよりも低エネルギーの光が発光される素子であり,この

素子において,前記第1のn型クラッド層と前記活性層との総膜厚が300

オングストローム以上あることがさらに好ましい。また他の態様として,イ

ンジウムを含む窒化物半導体よりなる単一量子井戸構造若しくは多重量子井

戸構造の活性層を備え,その活性層に接して,活性層よりも熱膨張係数が小

さいアルミニウムを含むp型窒化物半導体を第1のp型クラッド層として備

え,この活性層を単一量子井戸構造若しくは多重量子井戸構造とすることに

よって,本来の活性層のバンドギャップエネルギーよりも低エネルギーの光

が発光される素子である。」(段落【0038】)

「従来の窒化物半導体発光素子は,上にも説明したように,InGaNを

主とする活性層をAlGaNを主とする2つのクラッド層で挟んだ構造を有

している。InGaN活性層をAlGaNクラッド層を挟んだ従来の構造で

は,活性層の厚さを薄くするに従って,InGaN活性層,AlGaNクラ

ッド層にクラックが生じる傾向にある。例えば,活性層の厚さを200オン

グストローム未満にするとクラックが多数入ってしまうために素子作製が困

難となる。これはAlを含むクラッド層が結晶の性質上,非常に硬い性質を

有しており,薄い膜厚のInGaN活性層のみではAlGaNクラッド層と

の界面から生じる格子不整合と,熱膨張係数差から生じる歪をInGaN活

性層で弾性的に緩和できないことを示している。このため,従来ではクラッ

ド層,活性層中にクラックが入るために,活性層を薄くしようとしてもでき

なかったのが実状であった。」(段落【0039】)

「一方,本発明では図1に示すように,InとGaとを含む活性層6に接

する層として,新たに第1のn型クラッド層5を形成している。この第1の

n型クラッド層5は,活性層とAlを含む第2のn型クラッド層4の間のバ

ッファ層として作用する。つまり第1のn型クラッド層5であるInを含む




窒化物半導体またはGaNは結晶の性質として柔らかい性質を有しているの

で,Alを含む第2のクラッド層4と活性層6の格子定数不整と熱膨張係数

差によって生じる歪を吸収する働きがある。従って活性層を薄くしても活性

層6,第2のn型クラッド層4にクラックが入りにくいと推察される。第1

のクラッド層5によって歪が吸収されるので,活性層は膜厚が200オング

ストローム以下になると引っ張り応力が作用して弾性的に変形してバンドギ

ャップエネルギーが小さくなり発光波長が長くなる傾向にある。しかも活性

層の結晶欠陥が少なくなる。従って,活性層の膜厚が薄い状態においても,

活性層の結晶性が良くなるので発光出力が増大する。このように第1のn型

クラッド層5をバッファ層として作用させるためには,結晶が柔らかい層で

ある活性層6と第1のn型クラッド層5との膜厚の合計が300オングスト

ローム以上あることが好ましい。」(段落【0040】)

「窒化物半導体よりなる本発明の発光素子を製造するには,例えばMOV

PE(有機金属気相成長法),MBE(分子線気相成長法),HDVPE

(ハイドライド気相成長法)等の気相成長法を用いて,基板上にIn aAlb

Ga1−a−b N(0≦a,0≦b,a+b≦1)をn型,p型等の導電型でダ

ブルへテロ構造になるように積層することによって得られる。基板には例え

ばサファイア(C面,A面,R面を含む),SiC(6H−SiC,4H−

SiCも含む),スピネル(MgAl2O4,特にその(111)面),Zn

O,Si,GaAs,あるいは他の酸化物単結晶基板(NGO等)が使用で

きる。また,n型の窒化物半導体はノンドープの状態でも得られるが,Si,

Ge,S等のドナー不純物を結晶成長中に半導体層中に導入することによっ

て得られる。またp型の窒化物半導体層はMg,Zn,Cd,Ca,Be,

C等のアクセプター不純物を同じく結晶成長中に半導体層中に導入するか,

または導入後400℃以上でアニーリングを行うことにより得られる。」

(段落【0042】)




「【実施例】

以下本発明を具体的な実施例に基づいて説明する。以下の実施例は,MO

VPE法による窒化物半導体層の成長方法を例示している。

実施例1

実施例を図1を参照して記述する。」(段落【0043】)

「TMG(トリメチルガリウム)とNH3とを用い,反応容器にセットした

サファイア基板1のC面に500℃でGaNよりなるバッファ層2を500

オングストロームの膜厚で成長させた。」(段落【0044】)

「次に温度を1050℃まで上げ,TMG,NH3に加えSiH4ガスを用

い,Siドープn型GaNよりなるn型コンタクト層3を4μmの膜厚で成

長させた。」(段落【0045】)

「続いて原料ガスにTMA(トリメチルアルミニウム)を加え,同じく1

050℃でSiドープn型Al0.3Ga0.7N層よりなる第2のクラッド層4

を0.1μmの膜厚で成長させた。」(段落【0046】)

「次に,温度を800℃に下げ,TMG,TMI(トリメチルインジウ

ム),NH 3およびSiH 4 を用い,Siドープn型In 0.01 Ga0.99 Nよ

りなる第1のn型クラッド層5を500オングストロームの膜厚で成長させ

た。」(段落【0047】)

「続いてTMG,TMIおよびNH3を用い,800℃でノンドープIn0.

05 Ga0.95Nよりなる活性層6(単一量子井戸構造)を30オングストロー

ムの膜厚で成長させた。」(段落【0048】)

「さらに,TMG,TMI,NH3に加え新たにCp2Mg(シクロペンタ

ジエニルマグネシウム)を用い800℃でMgドープp型In0.01Ga0.99

Nよりなる第1のp型クラッド層7を500オングストロームの膜厚で成長

させた。」(段落【0049】)

「次に温度を1050℃に上げ,TMG,TMA,NH3,Cp2Mgを用




い,Mgドープp型Al0.3Ga0.7Nよりなる第2のp型クラッド層8を0.

1μmの膜厚で成長させた。」(段落【0050】)

「続いて,1050℃でTMG,NH3およびCp2Mgを用い,Mgドー

プp型GaNよりなるp型コンタクト層9を0.5μmの膜厚で成長させた。

以上の操作終了後,温度を室温まで下げてウェーハを反応容器から取り出し,

700℃でウェーハのアニーリングを行い,p型層をさらに低抵抗化した。

次に,最上層のp型コンタクト層9の表面に所定の形状のマスクを形成し,

n型コンタクト層3の表面が露出するまでエッチングした。エッチング後,

n型コンタクト層3の表面にTiとAlよりなる負電極,p型コンタクト層

9の表面にNiとAuよりなる正電極を形成した。電極形成後,ウェーハを

350μm角のチップに分離した後,常法に従い半値角15度の指向特性を

持つLED素子とした。このLED素子はIf(順方向電流)20mAでV

f3.5V,発光ピーク波長410nmの青色発光を示し,発光出力は5m

Wであった。さらに,発光スペクトルの半値幅は20nmであり,非常に色

純度のよい発光を示した。」(段落【0051】)

実施例4

第1のp型クラッド層7を形成しない以外は,実施例1と同様にしてLE

D素子を作製した。このLED素子は,If20mAでVf3.5V,発光

ピーク波長425nmの青色発光を示し,同じく発光出力は7mWであった。

さらに,発光スペクトルの半値幅は20nmであった。この発光素子は活性

層にAlGaNよりなる第2のクラッド層8が直接接しているので活性層の

引っ張り応力が大きくなりピーク波長が長波長になると共に,発光出力が増

大した。」(段落【0054】)

「【発明の効果】

本発明においては,熱膨張係数の小さいクラッド層で熱膨張係数の大きい

活性層を挟むことにより,活性層に引っ張り応力がかかるので,活性層のバ




ンドギャップエネルギーが本来のそれより小さくなり,発光波長を長波長に

することができる。しかもInを含む窒化物半導体よりなる活性層に接して,

熱膨張係数の小さいInを含む窒化物半導体またはGaNよりなる第1のク

ラッド層をすると,この第1のクラッド層が新たなバッファ層として作用す

ることにより,活性層が弾性的に変形して結晶性が良くなり発光出力が格段

に向上する。例えば従来の青色LEDでは450nmにおいて,光度2cd,

発光出力が3mWで半値幅が80nm程度であったが,本発明ではその倍近

くの発光出力を達成することができ,半値幅は半分以下と非常に色純度が向

上した。また従来では,活性層のインジウム組成比を大きくすると結晶性が

悪くなって,バンド間発光で520nm付近の緑色発光を得ることは難しか

ったが,本発明によると活性層の結晶性が良くなるので,従来では困難であ

った色純度のよい高輝度な緑色LEDも実現できる。」(段落【006

5】)

2 取消事由1(本件発明1についての実施可能要件の判断の誤り)について

本件発明1の要旨の認定の誤りについて

ア 原告は,本件発明1がn型窒化物半導体層に接してAl aGa1−aN(0

≦a<1)よりなる第2のn型窒化物半導体層を備える4層構造であるに

もかかわらず,本件審決が,本件発明1を活性層,活性層の第1の面に接

してInxGa1−xN(0<x<1)よりなるn型窒化物半導体層,活性層

の第2の面に接してAlyGa1−yN(0<y<1)よりなるp型窒化物半

導体層を備える3層構造であると認定を誤り,これを前提に実施可能要件

の判断をしたから,その結論にも誤りがある旨主張するので,以下におい

て判断する。

イ 本件発明1の構成及びその特徴

前記1によれば,本件発明1の構成及びその特徴は以下のとおりである

と認められる。




本件発明1は,発光ダイオード(LED),レーザダイオード(L

D)等の半導体発光素子に係り,特には,窒化物半導体(InaAlbG

a1−a−b N,0≦a,0≦b,a+b≦1)から構成される半導体積層

構造を有する窒化物半導体発光素子に関する。

窒化物半導体(Ina AlbGa 1−a−bN,0≦a,0≦b,a+b≦

1)は,紫外ないし赤色に発光するLED,LD等の発光素子の材料と

して期待されており,青色LEDや青緑色LEDは製品化されて,現在

実用に供されている。

このような青色,青緑色LEDの発光チップは,基本的には,サファ

イア基板の上に,n型GaNよりなるn型コンタクト層と,n型AlG

aNよりなるn型クラッド層と,n型InGaNよりなる活性層と,p

型AlGaNよりなるp型クラッド層と,p型GaNよりなるp型コン

タクト層とが順に積層された構造を有している。このLED素子の発光

波長は,その活性層のInGaNのIn含有量を変えるか又は活性層に

ドープする不純物の種類を変えることにより,紫外領域から赤色まで変

化させることが可能である。

従来のLEDは,不純物をドープしたInGaNにより活性層を形成

しており,InGaNのIn組成比を大きくするとInGaNバンド間

発光により,発光波長を長波長側に移行することができる。

しかしながら,前記LED素子は発光波長が長くなるに従って,発光

出力が大きく低下するという問題があり,不純物がドープされたInG

aN活性層,より詳しくは,InxGa1−xN(0≦x<1)活性層は,

In含有量が増えると結晶性が悪くなり発光出力は大きく低下する。

このため実際に使用できるIn含有量すなわちx値はおよそ0.15

以下でしか,高出力のLEDができないのが現状であるので,青色LE

Dしか高出力のものは実現されていない。




窒化物半導体発光素子の長波長域の出力を向上させることができれば,

窒化物半導体で全ての可視領域の波長での発光が実現できる可能性があ

る。

本件発明1は,このような事情に鑑みてされたものであって,その目

的とするところは,緑色LEDのみならず360nm以上の発光波長で

高輝度,高出力の窒化物半導体発光素子を提供することにあり,上記課

題を解決するために,「インジウムおよびガリウムを含む窒化物半導体

よりなり,第1および第2の面を有する活性層を備え,該活性層の第1

の面に接してInxGa1−xN(0<x<1)よりなるn型窒化物半導体

層を備え,該活性層の第2の面に接してAl yGa1−yN(0<y<1)

よりなるp型窒化物半導体層を備え,該n型窒化物半導体層に接してA

laGa1−aN(0≦a<1)よりなる第2のn型窒化物半導体層を備え,

該活性層を量子井戸構造とし,活性層を構成する窒化物半導体の本来の

バンドギャップエネルギーよりも低いエネルギーの光を発光することを

特徴とする窒化物半導体発光素子」との構成を採用した。

本件発明1の窒化物半導体発光素子は,熱膨張係数の小さいクラッド

層(n型窒化物半導体層,第2のn型窒化物半導体層,p型窒化物半導

体層)で熱膨張係数の大きい活性層を挟むことで,両クラッド層と活性

層の界面に引っ張り応力を発生させ,かつ,活性層を量子井戸構造とす

ることで,引っ張り応力を活性層に弾性的に作用させ,これにより活性

層のバンドギャップエネルギーを本来のそれより小さくし,活性層の発

光波長を長波長化するものである。

しかも,Inを含む窒化物半導体よりなる活性層に接して,熱膨張係

数の小さいInを含む窒化物半導体又はGaNよりなる第1のクラッド

層を備えることで,この第1のクラッド層が新たなバッファ層として作

用することにより,活性層が弾性的に変形して結晶性が良くなり発光出




力が格段に向上する。

ウ 本件審決における本件発明1の要旨の認定

本件審決の記載について

本件審決には,本件発明1の構成に関し,次のような記載がある。

a 「第4 本件特許の請求項に係る発明

本件訂正は,・・・適法な訂正と認められるから,本件の請求項1

ないし9に係る発明(以下,それぞれ,「本件発明1」ないし「本件

発明9」といい,それらを合わせて「本件発明」という。)は,訂正

明細書の請求項1ないし9に記載された,次のとおりのものと認めら

れる。

「【請求項1】インジウムおよびガリウムを含む窒化物半導体よりな

り,第1および第2の面を有する活性層を備え,該活性層の第1の面

に接してInxGa1−xN(0<x<1)よりなるn型窒化物半導体層

を備え,該活性層の第2の面に接してAl yGa1−yN(0<y<1)

よりなるp型窒化物半導体層を備え,該n型窒化物半導体層に接して

AlaGa1−aN(0≦a<1)よりなる第2のn型窒化物半導体層を

備え,該活性層を量子井戸構造とし,活性層を構成する窒化物半導体

の本来のバンドギャップエネルギーよりも低いエネルギーの光を発光

することを特徴とする窒化物半導体発光素子。」(11頁9行〜22

行)

b 「第9 当審の判断

事案にかんがみて,無効理由4についてまず検討する。

1 本件発明1の特徴的構成について

本件発明1を以下に再掲する。

「インジウムおよびガリウムを含む窒化物半導体よりなり,第1およ

び第2の面を有する活性層を備え,該活性層の第1の面に接してInx




Ga1−xN(0<x<1)よりなるn型窒化物半導体層を備え,該活性

層の第2の面に接してAlyGa1−yN(0<y<1)よりなるp型窒

化物半導体層を備え,該n型窒化物半導体層に接してAlaGa1−aN

(0≦a<1)よりなる第2のn型窒化物半導体層を備え,該活性層

を量子井戸構造とし,活性層を構成する窒化物半導体の本来のバンド

ギャップエネルギーよりも低いエネルギーの光を発光することを特徴

とする窒化物半導体発光素子。」

すなわち,本件発明1は,活性層の第1の面に接してInxGa1−x

N(0<x<1)よりなるn型窒化物半導体層を備え,該活性層の第

2の面に接してAlyGa1−yN(0<y<1)よりなるp型窒化物半

導体層を備え,活性層を構成する窒化物半導体の本来のバンドギャッ

プエネルギーよりも低いエネルギーの光を発光する,窒化物半導体発

光素子である。

そこで,本件明細書に,かかる「活性層の第1の面にn型InGa

N層が接し,該活性層の第2の面にp型AlGaN層が接し,該活性

層を構成する窒化物半導体の本来のバンドギャップエネルギーよりも

低いエネルギーの光を発光する窒化物半導体発光素子」の発明につい

て,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載

されているかを検討する。」(22頁24行〜23頁10行)

c 本件審決は「2 本件明細書の発明の詳細な説明の記載」と題して,



る。」として,本件明細書の段落【0008】ないし【0012】,

【0016】ないし【0023】,【0032】ないし【0037】,

【0039】,【0040】の記載を引用したが,その際,本件訂正

が認められているにもかかわらず,段落【0009】及び【001

1】については,本件訂正により新たに挿入された「該n型窒化物半




導体層に接して・・・を備え,」の記載のない本件訂正前の記載を引

用し,また,本件訂正により削除された段落【0010】を引用して

記載した。

d 「3 本件発明1についての当審の判断

(1) 上記「2(1)」の記載について

上記「2(1)」の【0009】及び【0011】には,上記1で

言及した「活性層の第1の面にn型InGaN層が接し,該活性層の

第2の面にp型AlGaN層が接し,該活性層を構成する窒化物半導

体の本来のバンドギャップエネルギーよりも低いエネルギーの光を発

光する窒化物半導体発光素子」についての記載があるものと認められ

る。

そこで,上記「2(1)」に,上記窒化物半導体発光素子の「活性

層を構成する窒化物半導体の本来のバンドギャップエネルギーよりも

低いエネルギーの光を発光する」点について,当業者がその実施をす

ることができる 程度に明確かつ十分に記載されているかを検 討 す

る。」(30頁1行〜11行)

e 「よって,上記「2(1)」には,「活性層の第1の面にn型In

GaN層が接し,該活性層の第2の面にp型AlGaN層が接し,該

活性層を構成する窒化物半導体の本来のバンドギャップエネルギーよ

りも低いエネルギーの光を発光する窒化物半導体発光素子」である本

件発明1の「活性層を構成する窒化物半導体の本来のバンドギャップ

エネルギーよりも低いエネルギーの光を発光する」点について,当業

者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されてい

るとは認められない。」(31頁11行〜17行)

f 「・・・の記載は,活性層の両面に,InGaNまたはGaNより

なり,Alを含む窒化物半導体に比べて結晶が柔らかい第1のクラッ




ド層5,7が接し,第1のクラッド層5,7の外側に第2のクラッド

層4,8が形成された,図1に示される層構造の窒化物半導体発光素

子についての記載であり,「活性層の第1の面にn型InGaN層が

接し,該活性層の第2の面にp型AlGaN層が接し,該活性層を構

成する窒化物半導体の本来のバンドギャップエネルギーよりも低いエ

ネルギーの光を発光する窒化物半導体発光素子」,つまり,InGa

Nよりなり,Alを含む窒化物半導体に比べて結晶が柔らかい第1の

クラッド層が,活性層の一方の面のみに接する本件発明1についての

記載ではない。」(31頁34行〜32頁6行)

g 「・・・に記載された窒化物半導体発光素子は,活性層の両面にI

nGaNよりなる第1のクラッド層(In 0.01Ga0.99Nよりなる第1の

n型クラッド層と,In 0.01Ga0.99Nよりなる第1のp型クラッド層)

が接し,第1のクラッド層の外側に第2のクラッド層(Al0.3 Ga0.7

Nよりなる第2のn型クラッド層と,Al0.3Ga0.7Nよりなる第2のp

型クラッド層)が形成された窒化物半導体発光素子であり,「活性層

の第1の面にn型InGaN層が接し,該活性層の第2の面にp型A

lGaN層が接し,該活性層を構成する窒化物半導体の本来のバンド

ギャップエネルギーよりも低いエネルギーの光を発光する窒化物半導

体発光素子」,つまり,活性層の片面のみにInGaNよりなる第1

のクラッド層が接する本件発明1とは,構成が異なるものである。

よって,単一量子井戸構造の活性層の厚さ,つまり井戸層の厚さと,

発光素子の発光ピーク波長との関係を示す図2に,・・・が記載され

ているとしても ,該記載は,本件 発明1に当てはまるものでは な

い。」(32頁13行〜29行)

h 「 小括

上記2以外の記載をみても,本件明細書の発明の詳細な説明は,




「活性層の第1の面にn型InGaN層が接し,該活性層の第2の面

にp型AlGaN層が接し,該活性層を構成する窒化物半導体の本来

のバンドギャップエネルギーよりも低いエネルギーの光を発光する窒

化物半導体発光素子」である本件発明1の「活性層を構成する窒化物

半導体の本来のバンドギャップエネルギーよりも低いエネルギーの光

を発光する」点について,当業者がその実施をすることができる程度

に明確かつ十分に記載したものとは認められない。」(32頁30行

〜33頁1行)

前記 本件審決は, a及びbの各記載部分においては,

本件発明1の要旨を本件訂正後の請求項1の記載に従い,「インジウム

およびガリウムを含む窒化物半導体よりなり,第1および第2の面を有

する活性層を備え,該活性層の第1の面に接してInxGa1−xN(0<

x<1)よりなるn型窒化物半導体層を備え,該活性層の第2の面に接

してAlyGa1−yN(0<y<1)よりなるp型窒化物半導体層を備え,

該n型窒化物半導体層に接してAlaGa1−aN(0≦a<1)よりなる

第2のn型窒化物半導体層を備え,該活性層を量子井戸構造とし,活性

層を構成する窒化物半導体の本来のバンドギャップエネルギーよりも低

いエネルギーの光を発光する ことを特徴とする窒化物半導体発光素

子。」と記載しているものの,これに続く部分では何らの根拠も示さな

いまま,請求項及び明細書の記載について,本件訂正を認めているにも

かかわらず,本件発明1の発明特定事項から,「n型窒化物半導体層に

接してAlaGa1−aN(0≦a<1)よりなる第2のn型窒化物半導体

層を備え」る点を除外し,本件発明1を「活性層の第1の面に接してI

nxGa1−xN(0<x<1)よりなるn型窒化物半導体層を備え,該活

性層の第2の面に接してAlyGa1−yN(0<y<1)よりなるp型窒

化物半導体層を備え,活性層を構成する窒化物半導体の本来のバンドギ




ャップエネルギーよりも低いエネルギーの光を発光する,窒化物半導体

発光素子」と言い換え,その後は,hの記載部分に至るまで一貫して,

本件発明1が「活性層の第1の面にn型InGaN層が接し,該活性層

の第2の面にp型AlGaN層が接し,該活性層を構成する窒化物半導

体の本来のバンドギャップエネルギーよりも低いエネルギーの光を発光

する窒化物半導体発光素子」であることを前提に,本件明細書の発明の

詳細な説明の記載が,当業者がその実施をすることができる程度に明確

かつ十分に記載されたものであるか否か,すなわち,実施可能要件を充

たすものであるか否かを判断している。

以上によれば,本件審決は,本件発明1の要旨を,その発明特定事項

から「n型窒化物半導体層に接してAl aGa1−aN(0≦a<1)より

なる第2のn型窒化物半導体層」を備える点を除外した構成,すなわち,

「活性層の第1の面に接してInxGa1−xN(0<x<1)よりなるn

型窒化物半導体層を備え,該活性層の第2の面に接してAlyGa1−yN

(0<y<1)よりなるp型窒化物半導体層を備え,活性層を構成する

窒化物半導体の本来のバンドギャップエネルギーよりも低いエネルギー

の光を発光する,窒化物半導体発光素子」と認定し,これを前提に本件

明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を充たすものであるか

否かを判断しているといえる。

一方,本件発明1の要旨は,前記イ

求項1の記載,すなわち,その発明特定事項に基づいて,「インジウム

およびガリウムを含む窒化物半導体よりなり,第1および第2の面を有

する活性層を備え,該活性層の第1の面に接してIn xGa1−xN(0<

x<1)よりなるn型窒化物半導体層を備え,該活性層の第2の面に接

してAlyGa1−yN(0<y<1)よりなるp型窒化物半導体層を備え,

該n型窒化物半導体層に接してAl aGa1−aN(0≦a<1)よりなる




第2のn型窒化物半導体層を備え,該活性層を量子井戸構造とし,活性

層を構成する窒化物半導体の本来のバンドギャップエネルギーよりも低

いエネルギーの光を発光することを特徴とする窒化物半導体発光素子」

であると認められるから,本件審決は,本件明細書の発明の詳細な説明

の記載が本件発明1について実施可能要件を充たすものであるか否かを

判断するに際し,本件発明1の要旨の認定を誤ったものというべきであ

る。

ところで,本件審決は,前記 のとおり,形式的には,本件発明1の

要旨を本件訂正後の請求項1の記載に従って記載した上で,その「特徴

的構成」が「活性層の第1の面にn型InGaN層が接し,該活性層の

第2の面にp型AlGaN層が接し,該活性層を構成する窒化物半導体

の本来のバンドギャップエネルギーよりも低いエネルギーの光を発光す

る窒化物半導体発光素子」であるとして,当該構成について,実施可能

要件を判断している。

前記イ認定のとおり,本件発明1は,LED素子の発光波長は,その

活性層のInGaNのInの組成比を大きくするか又は活性層にドープ

する不純物の種類を変えることにより,紫外領域から赤色まで変化させ

ることが可能であるが,LED素子には発光波長が長くなるに従って発

光出力が大きく低下するという問題があり,また,不純物がドープされ

たInGaN活性層には,In含有量が増えると結晶性が悪くなり発光

出力が大きく低下するという問題があったことから,本件発明1は,上

記課題を解決し,窒化物半導体発光素子の長波長域の出力を向上させる

ことにより,窒化物半導体で全ての可視領域の波長での発光が実現する

ことを目的とし,その解決手段として本件訂正後の請求項1記載のとお

りの構成を採用し,熱膨張係数の小さいクラッド層で熱膨張係数の大き

い活性層を挟むことで,両クラッド層と活性層の界面に引っ張り応力を




発生させ,かつ,活性層を量子井戸構造とすることで,引っ張り応力を

活性層に弾性的に作用させ,これにより活性層のバンドギャップエネル

ギーを本来のそれより小さくして活性層の発光波長を長波長化し,しか

も,Inを含む窒化物半導体よりなる活性層に接して,熱膨張係数の小

さいInを含む窒化物半導体又はGaNよりなる第1のクラッド層を備

えることで,この第1のクラッド層が新たなバッファ層として作用する

ことにより,活性層が弾性的に変形して結晶性が良くなり発光出力が格

段に向上するという効果を奏するものである。

そして,本件明細書の段落【0037】の「窒化物半導体において,

AlNの熱膨張係数は4.2×10−6/Kであり,GaNの膨張係数は

5.59×10−6/Kであることが知られている。InNに関しては,

完全な結晶が得られていないため熱膨張係数は不明であるが,仮にIn

Nの熱膨張係数がいちばん大きいと仮定すると,熱膨張係数の順序はI

nN>GaN>AlNとなる。」との記載によれば,熱膨張係数の順序

は,InGaN>AlGaNとなること,段落【0039】及び【00

40】の記載によれば,InGaNを主とする活性層をAlGaNを主

とする2つのクラッド層で挟んだ構造を有する従来の窒化物半導体発光

素子では,Alを含むクラッド層が結晶の性質上非常に硬い性質を有し

ており,薄い膜厚のInGaN活性層のみではAlGaNクラッド層と

の界面から生じる格子不整合と,熱膨張係数差から生じる歪をInGa

N活性層で弾性的に緩和できないことから,活性層の厚さを薄くするに

従って,InGaN活性層,AlGaNクラッド層にクラックが生じる

という傾向があったが,本件発明1では,InとGaとを含む活性層6

に接する層として,新たに第1のn型クラッド層5を形成し,この第1

のn型クラッド層5が,活性層とAlを含む第2のn型クラッド層4の

間のバッファ層として作用し,活性層を薄くしても活性層6,第2のn




型クラッド層4にクラックが入りにくいと推察され,活性層の膜厚が薄

い状態においても活性層の結晶性が良くなるので,発光出力が増大する

とされていることからすれば,本件発明1が「n型窒化物半導体層に接

してAl a Ga 1−a N(0≦a<1)よりなる第2のn型窒化物半導体

層」を備える点は,その発明の特徴を構成するものであるというべきで

あり,これを「特徴的構成」から除外する点においても,本件審決の上

記認定は誤りであるといわざるを得ない。

実施可能要件の判断の誤りについて

ア 原告は,本件審決が,本件発明1の「活性層を有する窒化物半導体の本

来のバンドギャップエネルギーよりも低いエネルギーの光を発光する」点

について,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記

載したものとは認められないと判断したことが誤りである旨主張するので,

以下において判断する。

イ 本件発明1は,窒化物半導体発光素子の長波長域の出力を向上させるこ

とにより,窒化物半導体で全ての可視領域の波長での発光が実現すること

を目的とし,その解決手段として本件訂正後の請求項1記載のとおりの構

成を採用し,熱膨張係数の小さいクラッド層で熱膨張係数の大きい活性層

を挟むことで,両クラッド層と活性層の界面に引っ張り応力を発生させ,

かつ,活性層を量子井戸構造とすることで,引っ張り応力を活性層に弾性

的に作用させ,これにより活性層のバンドギャップエネルギーを本来のそ

れより小さくして活性層の発光波長を長波長化し,しかも,Inを含む窒

化物半導体よりなる活性層に接して,熱膨張係数の小さいInを含む窒化

物半導体又はGaNよりなる第1のクラッド層を備えることで,この第1

のクラッド層が新たなバッファ層として作用することにより,活性層が弾

性的に変形して結晶性が良くなり発光出力が格段に向上するという効果を

奏するものであることは,前記認定のとおりである。




ウ 活性層を構成する窒化物半導体の「本来のバンドギャップエネルギー」

について

本件発明1は,インジウム及びガリウムを含む窒化物半導体よりなり,

第1及び第2の面を有する活性層を備え,該活性層の第1の面に接して

InxGa1−xN(0<x<1)よりなるn型窒化物半導体層を備え,該

活性層の第2の面に接してAlyGa1−yN(0<y<1)よりなるp型

窒化物半導体層を備え,該n型窒化物半導体層に接してAl aGa1−aN

(0≦a<1)よりなる第2のn型窒化物半導体層を備え,該活性層を

量子井戸構造とすることにより,活性層を構成する窒化物半導体の「本

来のバンドギャップエネルギー」よりも低いエネルギーの光を発光する

ことを特徴とする窒化物半導体発光素子である。

そして,本件発明1は, 記載のとおり,熱膨張係数の小さ

いクラッド層で熱膨張係数の大きい活性層を挟むことで,両クラッド層

と活性層の界面に引っ張り応力を発生させ,かつ,活性層を量子井戸構

造とすることで,引っ張り応力を活性層に弾性的に作用させ,これによ

り活性層のバンドギャップエネルギーを本来のそれより小さくして活性

層の発光波長を長波長化するものであるから,本件発明1において,活

性層を構成する窒化物半導体の「本来のバンドギャップエネルギー」と

は,「引っ張り応力の影響を受けない状態の活性層(活性層を構成する

窒化物半導体)が有するバンドギャップエネルギー」を意味するものと

解される。

本件明細書の段落【0033】,【0034】及び【図2】の記載に

よれば,本件明細書には以下の事項が記載されているものと認められる。

a 【図2】は,単一量子井戸構造の活性層の厚さと発光素子の発光ピ

ーク波長との関係を示すグラフ図であるが,この実験に用いられた発

光素子は,いずれも,下層から「第2のn型クラッド層(0.1μm




のSiドープn型Al0.3Ga0.7N)/第1のn型クラッド層(50

0オングストロームのIn0.01Ga0.99N)/活性層/第1のp型ク

ラッド層(20オングストロームのMgドープp型In0.01Ga0.99

N)/第2のp型クラッド層(0.1μmのMgドープp型Al0.3G

a0.7N)」が順に積層されたダブルへテロ構造を有し,単一量子井戸

構造の活性層は,線αでは,ノンドープIn0.05Ga0.95Nよりなる

半導体が,線βでは,ノンドープIn0.3Ga0.7Nよりなる半導体が

用いられている。

b 【図2】のうち,単一量子井戸構造の活性層として,ノンドープI

n0.05Ga0.95Nよりなる半導体が用いられた線αを参照すると,活

性層の膜厚が厚い領域(200オングストローム程度以上の領域)で

は,発光ピーク波長が380nm程度の一定値となる。

他方,活性層の膜厚が薄い領域(200オングストローム程度以下

の領域)では,発光ピーク波長は,膜厚が薄くなるのに伴って420

nm程度まで長くなる。

c 上記実験結果は,活性層の膜厚が厚い領域では,上下のクラッド層

と活性層の界面に引っ張り応力が発生しても,活性層の膜厚が厚いた

め,引っ張り応力が活性層に弾性的に作用せず,活性層が引っ張り応

力の影響を実質的には受けないために,発光ピーク波長が一定値とな

るが,膜厚が薄い領域では,活性層全体が引っ張り応力を受けて弾性

的に変形し,その結果,バンドギャップエネルギーが小さくなること

によるものと解することができる。

d 活性層を構成する窒化物半導体の「本来のバンド

ギャップエネルギー」とは,「引っ張り応力の影響を受けない状態の

活性層(活性層を構成する窒化物半導体)が有するバンドギャップエ

ネルギー」を意味するものと解されることからすれば,活性層(活性




層を構成する窒化物半導体)の「本来のバンドギャップエネルギー」

は,【図2】(単一量子井戸構造の活性層の厚さと発光素子の発光ピ

ーク波長との関係を示すグラフ図)において,活性層の厚さが厚い領

域における発光ピーク波長に相当するものであるといえる。

e したがって,単一量子井戸構造の活性層としてノンドープIn 0.05

Ga0.95Nよりなる半導体を用いた場合(線α)には,「本来のバン

ドギャップエネルギー」に相当する発光ピーク波長は,380nm程

度である。

実施例4について

実施例1(段落【0043】〜【0051】)のLED素子は,MO

VPE法による窒化物半導体層の成長方法によって,サファイア基板1

の上に,GaNよりなるバッファ層2,n型GaNよりなるコンタクト

層3,n型Al0.3Ga0.7Nよりなる第2クラッド層4(0.1μm),

n型In0.01Ga0.99Nよりなる第1クラッド層5(500オングスト

ローム),ノンドープIn0.05Ga0.95Nよりなる活性層6(単一量子

井戸構造,30オングストローム),p型In0.01Ga0.99Nよりなる

第1クラッド層7(500オングストローム),p型Al0.3Ga0.7N

よりなる第2クラッド層8(0.1μm)及びp型GaNよりなるコン

タクト層9を順次形成したものである。

実施例4(段落【0054】)のLED素子は,「第1のp型クラッ

ド層7を形成しない以外は,実施例1と同様にしてLED素子を作製し

た」ものであると記載されているから,当業者であれば,実施例1にお

いて,p型In0.01Ga0.99Nよりなる第1クラッド層7の成長を省略

すれば,実施例4のLED素子を作製することができるものと認められ

る。

実施例4のLED素子は,サファイア基板1の上に,GaNよりなる




バッファ層2,n型GaNよりなるコンタクト層3,n型Al 0.3Ga0.

7 Nよりなる第2クラッド層4(0.1μm),n型In 0.01Ga0.99

Nよりなる第1クラッド層5(500オングストローム),ノンドープ

In0.05Ga0.95Nよりなる活性層6(単一量子井戸構造,30オング

ストローム),p型Al0.3Ga0.7Nよりなる第2クラッド層8(0.

1μm)及びp型GaNよりなるコンタクト層9が順次積層されて形成

されたものである。

ここで,実施例4の「n型Al0.3Ga0.7Nよりなる第2クラッド層

4」,「n型In0.01Ga0.99Nよりなる第1クラッド層5」,「ノン

ドープIn0.05Ga0.95Nよりなる活性層6(単一量子井戸構造)」及

び「p型Al0.3Ga0.7Nよりなる第2クラッド層8」は,それぞれ,

本件発明1の「AlaGa1−aN(0≦a<1)よりなる第2のn型窒化

物半導体層」,「InxGa1−xN(0<x<1)よりなるn型窒化物半

導体層」,「インジウムおよびガリウムを含む窒化物半導体よりなり,

第1および第2の面を有する活性層」及び「AlyGa1−yN(0<y<

1)よりなるp型窒化物半導体層」に相当するから,実施例4のLED

素子は,本件発明1の窒化物半導体発光素子と同一の積層構造を有する

ものであると認められる。

そして,本件明細書には,実施例4のLED素子は,「発光ピーク波

長425nmの青色発光を示し」たことが記載されている(段落【00

54】)。

記載のとおり,単一量子井戸構造の活性層としてノンドープ

In0.05 Ga 0.95 Nを用いた場合の「本来のバンドギャップエネルギ

ー」に相当する発光ピーク波長は,380nm程度であるから,実施

4のLED素子では,単一量子井戸構造でノンドープのIn0.05Ga0.

95 Nよりなる活性層は,本来のバンドギャップエネルギーよりも低いエ




ネルギーの光(425nm)を発光したことになる。

オ 前記イないしエによれば,本件明細書の発明の詳細な説明における実施

例4には,本件発明1と同一の積層構造を有するLED素子の製造方法

記載されており,かつ,このLED素子の発光ピーク波長(425nm)

は,活性層を形成する窒化物半導体の本来のバンドギャップエネルギーに

相当する発光ピーク波長(380nm程度)よりも長いこと,すなわち,

このLED素子が,活性層を構成する窒化物半導体の本来のバンドギャッ

プエネルギーよりも低いエネルギーの光を発光することが記載されている

といえる。

したがって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,物の発明(特許

2条3項1号)である本件発明1について,当業者がこれを生産するこ

とができ,かつ使用することができる程度に明確かつ十分に記載されてい

るというべきである。

カ 被告の主張について

被告は,原告が実施可能要件に関する主張立証責任を負うにもかかわ

らず,無効審判請求や訂正審判請求において,実施例4に基づく主張を

していなかったのであるから,本件審決が実施例4について言及しなか

ったとしても,これにより,本件審決の判断が違法とされる理由はない

旨主張する。

しかしながら,本件審決は,本件明細書のうち段落【0008】〜

【0012】,【0016】〜【0023】,【0032】〜【003

7】,【0039】,【0040】,【図1】及び【図2】の記載につ

いて,順に,これらの記載が本件発明1について実施可能要件を充足す

るものであるかを検討したのに続き,「上記2以外の記載をみても,本

件明細書の発明の詳細な説明は,「活性層の第1の面にn型InGaN

層が接し,該活性層の第2の面にp型AlGaN層が接し,該活性層を




構成する窒化物半導体の本来のバンドギャップエネルギーよりも低いエ

ネルギーの光を発光する窒化物半導体発光素子」である本件発明1の

「活性層を構成する窒化物半導体の本来のバンドギャップエネルギーよ

りも低いエネルギーの光を発光する」点について,当業者がその実施

することができる程度に明確かつ十分に記載したものとは認められな

い。」(32頁31行〜33頁1行)としていることに照らせば,本件

明細書の全記載を判断の対象として,実施可能要件違反の判断をしたも

のと認められる。

したがって,本件審決が実施例4の記載(段落【0043】〜【00

51】,【0054】)について判断していないとはいえないから,こ

の点において被告の上記主張は理由がない。

被告は,本件明細書では,In0.05Ga0.95N活性層は,本来のバンドギ

ャップエネルギーでは380nm付近の紫外発光を示すものであるが,

量子井戸構造をとる実施例1においては,発光ピーク波長は410nm

と長波長化している(段落【0034】,【0051】)のに対し,甲

12では,In0.2Ga0.8N活性層は,実施例2にあるとおり,本来のバン

ドギャップエネルギーでは510nmの緑色発光を示すものであるが,

量子井戸構造をとる実施例6においては,発光ピーク波長が450nm

と短波長化している(段落【0045】)として,本件明細書の実施

4の記載によっても,甲12の記載との対比でみれば,本件発明1はど

のように実施可能であるのか不明である旨主張する。

a 甲12には,実施例2として,MOVPE法による窒化物半導体層

の成長方法によって,サファイア基板1の上に,n型GaNよりなる

n型コンタクト層3(4μm),n型Al0.3Ga0.7Nよりなる第2

のn型クラッド層4(0.1μm),n型In0.01Ga0.99Nよりな

る第1のn型クラッド層5(500オングストローム),ノンドープ




In0.2Ga0.8Nよりなる活性層6(膜厚が400オングストローム

あり,量子井戸構造ではない。),p型In0.01Ga0.99Nよりなる

第1のp型クラッド層7(500オングストローム),p型Al0.3G

a0.7Nよりなる第2のp型クラッド層8(0.1μm),p型GaN

よりなるp型コンタクト層9(0.5μm)を順次積層して形成した

LED素子の発光ピーク波長が,510nmであったこと(段落【0

033】〜【0041】),実施例6として,MOVPE法による窒

化物半導体層の成長方法によって,サファイア基板1の上に,n型G

aNよりなるn型コンタクト層3(4μm),n型Al0.3Ga0.7N

よりなる第2のn型クラッド層4(0.1μm),n型In 0.01Ga

0.99 Nよりなる第1のn型クラッド層5(500オングストローム),

ノンドープIn0.2Ga0.8Nよりなる活性層6(膜厚が20オングス

トロームの,単一量子井戸構造である。),p型In0.01Ga0.99N

よりなる第1のp型クラッド層7(500オングストローム),p型

Al0.3Ga0.7Nよりなる第2のp型クラッド層8(0.1μm),

p型GaNよりなるp型コンタクト層9(0.5μm)を順次積層し

て形成したLED素子の発光ピーク波長が,450nmであったこと

(段落【0033】〜【0040】,【0045】)が,開示されて

いる。

b 被告の上記主張は,本件明細書における,In0.05Ga0.95N活性層の

本来のバンドギャップエネルギー(380nm程度)と実施例1のL

ED素子の発光ピーク波長(410nm)とを比較した結果と,甲1

2における,実施例2のLED素子の発光ピーク波長(510nm)

実施例6のLED素子の発光ピーク波長(450nm)とを比較し

た結果とが矛盾しているとして,これを問題とするものであり,両者

をその結果のみをもって単純に比較することができることを前提とし




た主張であるといえる。

しかしながら,本件明細書において,In0.05Ga0.95N活性層の本来

のバンドギャップエネルギー(380nm程度)は,「単一量子井戸

構造の活性層の厚さ,つまり井戸層の厚さと,発光素子の発光ピーク

波長との関係を示す図」である【図2】から求められたものであるか

ら,これと本件明細書の実施例1のLED素子との比較は,活性層を

単一量子井戸構造としたLED素子間における発光ピーク波長の比較

であるのに対し,甲12の実施例2は,活性層が膜厚400オングス

トローム であり,

これと甲12の実施例6のLED素子との比較は,活性層が量子井戸



量子井戸構造としたLED素子(実施例6)との間において発光ピー

ク波長を比較しようとするものである。

c 甲12には,「ところで,活性層6を量子井戸構造(単一量子井戸

構造または多重量子井戸構造)とすることにより,発光波長の半値幅

がより狭くなり,発光出力も向上することがわかった。」(段落【0

016】),「ここで,量子井戸構造とは,ノンドープの活性層構成

窒化物半導体(好ましくは,InxGa1−xN(0<x<1))による

量子準位間の発光が得られる活性層の構造をいい,単一量子井戸構造

とは,井戸層が単一組成の1層よりなる構造を指す。すなわち,単一

量子井戸構造の活性層は,単一の井戸層のみにより構成される。また,

多重量子井戸構造とは,井戸層と障壁層を交互に積層した多層膜構造

を指す。この多層膜構造において,両側の2つ最外層は,それぞれ井

戸層により構成される。すなわち,多重量子井戸構造の活性層は,例

えばInGaN/GaN,InGaN/InGaN(組成が異なる)

等の井戸層/障壁層の組み合わせからなり,これら井戸層および障壁




層を交互に積層した薄膜積層構造である。このように,活性層6を多

重量子井戸構造とする場合,障壁層は,InGaNばかりでなく,G

aNで形成することもできる。活性層6を多重量子井戸構造とすると,

単一量子井戸構造の活性層よりも発光出力が向上する。」(段落【0

017】)と記載されているように,量子井戸構造は,ノンドープの

活性層構成窒化物半導体による量子準位間の発光が得られる活性層の

構造であるから,活性層を単一量子井戸構造としたLED素子である

甲12の実施例6においては,量子準位間のバンドギャップエネルギ

ーで発光ピーク波長が決まるのに対し,活性層が量子井戸構造ではな

いLED素子である甲12の実施例2においては,量子準位が形成さ

れないため,量子準位間のバンドギャップエネルギーで発光ピーク波

長が決まるものではない。

したがって,甲12の実施例2のLED素子の活性層は,実施例6

の活性層と同じノンドープIn0.2Ga0.8Nで形成されていても,そ

活性層の「本来のバ

ンドギャップエネルギー」に相当する発光ピーク波長とは異なるもの

である。

d そうすると,甲12において,活性層が単一量子井戸構造ではない

実施例2のLED素子の発光ピーク波長(510nm)と比べて,実

施例6のLED素子の発光ピーク波長(450nm)が短波長化して

いても,これが直ちに本件明細書の記載と矛盾するとはいえず,また,

その発明の詳細な説明の記載内容の解釈に影響を及ぼすものであると

もいえない。

したがって,被告の上記主張は理由がない。

被告は,本件明細書の段落【0013】においては,InxGa1−xN

のバンドギャップエネルギーEgを表す式が「Eg=Eg1・x+Eg2




・(1−x)−x(1−x)」と記載されており,ボーイングパラメー

ターを表すBが欠落していることに加え,ボーイングパラメータ(B)

は,1.0eVではないから,上記計算式は客観的に誤りである,上記

計算式が誤っている以上,本件発明1において,「活性層を構成する窒

化物半導体の本来のバンドギャップエネルギーよりも低いエネルギーの

光を発光する」という前提である,「本来のバンドギャップエネルギ

ー」を定めることもできないのであるから,本件発明1は実施不能であ

る旨主張する。

本件明細書の段落【0013】には,「ところで,InNのバンドギ

ャップエネルギー(1.96eV)をEg1で,GaNのバンドギャップ

エネルギー(3.40eV)をEg2で表わすと,窒化物半導体InxG

a1−xNの本来のバンドギャップエネルギーEgは,式

Eg=Eg1・x+ Eg2・(1−x)−x(1−x)

により算出することができる。活性層の本来の発光波長λは,λ=12

40/Egに相当する。」との記載があり,この計算式は,ボーイング

パラメーターを表す「B」を欠落しており,正確なものとはいえない。

しかしながら,前記ウのとおり,本件明細書の【図2】は,実際にL

ED素子を作製して行った実験結果に基づき作成された,単一量子井戸

構造の活性層の厚さと発光素子の発光ピーク波長との関係を示すグラフ

図であり,これと段落【0033】及び【0034】の記載から,単一

量子井戸構造の活性層としてノンドープIn0.05Ga0.95Nよりなる半

導体を用いた場合(線α)には,「本来のバンドギャップエネルギー」

に相当する発光ピーク波長は,380nm程度であることを把握するこ

とができ,また,これと比較される実施例4のLED素子の発光ピーク

波長である425nmというのも,段落【0054】にあるとおり,実

際にLED素子を作製して行った実験結果に基づくものであるから,段




落【0013】に記載された計算式が上記のとおり誤っていたとしても,

このことが,直ちに前記判断を左右し得るものではない。

したがって,被告の上記主張は理由がない。

被告は,InGaN層中には組成不均一があることが知られており,

局所的にIn組成が高い領域において発光が起きるから,特定の組成の

InGaN層であっても,どの程度の発光波長となるか不明であるとい

うことになり,「本来のバンドギャップエネルギー」を定めることは不

可能であるというべきであるから,本件発明1は実施不能であるという

ことになる旨主張する。

しかしながら,本件発明1において,活性層を構成する窒化物半導体

の「本来のバンドギャップエネルギー」とは,「引っ張り応力の影響を

受けない状態の活性層(活性層を構成する窒化物半導体)が有するバン

ドギャップエネルギー」を意味するものと解されること,本件明細書の

段落【0033】,【0034】及び【図2】の記載から,単一量子井

戸構造の活性層としてノンドープIn0.05Ga0.95Nよりなる半導体を

用いた場合(線α)には,「本来のバンドギャップエネルギー」に相当

する発光ピーク波長は,380nm程度であることを把握することがで

きることは,前記ウ認定のとおりであり,本件発明1において,「本来

のバンドギャップエネルギー」を定めることが不可能であるとはいえな

い。

したがって,被告の上記主張は理由がない。

小括

以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,本件発明1につ

いて,当業者がこれを生産することができ,かつ使用することができる程度

に明確かつ十分に記載されているというべきであるから,本件明細書の発明

の詳細な説明の記載が本件発明1についての実施可能要件(平成11年改正




前特許法36条4項)を欠くとの本件審決の判断は誤りであるといわざるを

得ない。

3 取消事由2(本件発明2ないし9についての実施可能要件の判断の誤り)に

ついて

本件審決は,本件発明2ないし9について,「本件発明2は,本件発明1に

おいて,活性層とn型窒化物半導体層との総膜厚を300オングストローム以

上に限定したものに相当する。本件発明3は,本件発明1において,活性層の

第2の面に接するAlyGa1−yN(0<y<1)よりなるp型窒化物半導体層

上にp型コンタクト層を備える点を限定したものに相当する。本件発明4ない

し本件発明9は,本件発明1ないし本件発明3のいずれかにおいて,活性層の

構成を限定したものに相当する。よって,本件発明1と同様に理由により,本

件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明2ないし本件発明9について,当

業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとは

認められない。」と判断した(33頁5行〜15行)。

しかしながら,本件審決における本件発明1についての実施可能要件の判断

に誤りがあることは,前記2のとおりであるから,本件明細書の発明の詳細な

説明の記載が本件発明2ないし9についての実施可能要件(平成11年改正前

特許法36条4項)を欠くとの本件審決の判断も誤りであるといわざるを得な

い。

4 結論

以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由があるから,本件審決は

取消しを免れない。

よって,原告の請求を認容することとし,主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第4部



裁判長裁判官 富 田 善 範




裁判官 田 中 芳 樹




裁判官 柵 木 澄 子





(別紙)

本件明細書図面目録



【図1】




【図2】





【図4】






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