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事件 平成 25年 (ネ) 10090号 特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2014/09/17
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
判例全文
判例全文
平成26年9月17日判決言渡

平成25年(ネ)第10090号 特許権侵害差止等請求控訴事件

(原審 東京地方裁判所平成22年(ワ)第42637号)

口頭弁論終結日 平成26年7月7日

判 決



控 訴 人 (原 告 ) レニショウ パブリック

リミテッド カンパニー




控訴人(原告) レニショウ トランスデューサ

システムズ リミテッド



両名訴訟代理人弁護士 上 山 浩

中 川 直 政

同訴訟復代理人弁護士 塚 原 朋 一

同訴訟代理人弁理士 谷 義 一

新 開 正 史

窪 田 郁 大

同補佐人弁理士 梅 田 幸 秀



被 控 訴 人 (被 告 ) ナノフォトン株式会社



訴訟代理人弁護士 生 田 哲 郎

森 本 晋

佐 野 辰 巳




中 所 昌 司

弁理士 小 野 尚 純

奥 貫 佐 知 子



主 文

本件各控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日

と定める。



事 実 及び 理 由

第1 控訴の趣旨

1 原判決を取り消す。

2 被控訴人は,控訴人レニショウ パブリック リミテッド カンパニーに対

し,3億3600万円及びこれに対する平成22年12月9日から支払済みま

で年5分の割合による金員を支払え。

3 被控訴人は,控訴人レニショウ トランデューサ システムズ リミテッド

に対し,8000万円及びこれに対する平成22年12月9日から支払済みま

で年5分の割合による金員を支払え。

4 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

5 仮執行宣言。



第2 事案の概要

用語の略称及び略称の意味は,本判決で付するもののほか,原判決に従い,原判

決で付された略称に「原告」とあるのを「控訴人」に,
「被告」とあるのを「被控訴

人」と読み替えるほか,適宜これに準じる。




1 事案の要旨

(1) 本件請求の要旨

本件は,名称を「共焦点分光分析」とする発明についての本件特許(特許第33

77209号)の@特許権の譲渡人である控訴人レニショウ トランデューサ シ

ステムズ リミテッド(控訴人RTS)及びA特許権の譲受人である控訴人レニシ

ョウ パブリック リミテッド カンパニー(控訴人レニショウ)が,被控訴人に

対し,被控訴人が製造,販売している原判決別紙物件目録記載の各分光分析装置(被

控訴人製品)が本件発明の技術的範囲に属すると主張して,@控訴人RTSにおい

ては,その特許権保有中における本件特許権侵害不法行為に基づいて,損害賠償

金8000万円(特許法102条3項)及びこれに対する不法行為後の日で本件訴

状送達日の翌日である平成22年12月9日から支払済みまで民法所定の年5分の

割合により遅延損害金を,A控訴人レニショウにおいては,一般不法行為(控訴人

RTSが有していた本件特許を被控訴人が侵害したことが前提となる。 に基づいて,


損害賠償金3億3600万円及び@と同旨の遅延損害金の支払をそれぞれ求めた事

案である。

なお,本件特許権は,平成24年6月8日の経過をもって,存続期間満了により

消滅している。

(2) 本件発明の内容(構成要件分説後のもの)

ア 本件発明7

【A】サンプルに光を照射して散乱光のスペクトルを得る手段と,

【B】前記スペクトルを分析する手段と,

【C】光検出器と,

【D】前記分析されたスペクトルの少なくとも一つの成分を前記光検出器に通し,

前記サンプルの所与の面から散乱された光を前記光検出器の所与の領域に合焦させ

前記サンプルの他の面から散乱された光を前記光検出器に合焦させない手段と

【E】を具備する分光分析装置であって,




【F】前記光はスリットを備えた一次元空間フィルタを通過して第一の次元で共

焦点作用をもたらし,

【G−1】前記光検出器の前記所与の領域で受ける光が,前記所与の領域外で受

ける光を含まずに,またはこの光と分離して検出され,

【G−2】前記所与の領域は前記第一の次元を横切る第二の次元で共焦点作用を

もたらすように形成されており,

【G−2@】前記サンプルの前記所与の面の焦点からの散乱光は,前記スリット

においてスポットとしての焦点に絞り込まれて前記スリットを通過し,前記サンプ

ルの前記所与の面の前記焦点の前または後で散乱される光は,前記スリットにおい

て焦点を結ばず,

【G−2A】前記サンプルに光を照射するのと,前記サンプルからの散乱光を集

光するのとに同一のレンズが用いられ,

【G−2B】前記光検出器は電荷結合素子であること

【H】を特徴とする分光分析装置。

イ 本件発明8

【I】前記光検出器の前記所与の領域が細長いこと

【J】を特徴とする請求項7に記載の分光分析装置。

ウ 本件発明9

【K】前記光検出器の前記所与の領域が前記スリットを横切る方向に延在してい

ること

【L】を特徴とする請求項7または請求項8に記載の分光分析装置。

エ 本件発明10

【M】前記光検出器はピクセルのアレイを備えたこと

【N】を特徴とする請求項7から請求項9の何れかに記載の分光分析装置。

オ 本件発明13

【O】前記スペクトルがラマン散乱光のスペクトルであること




【P】を特徴とする請求項7から請求項12の何れかに記載の分光分析装置。

(3) 原審の判断

原審は,平成25年8月30日,被控訴人製品は,スポット照明モードにおいて

特定の設定(本件設定)をした場合には,本件発明7〜本件発明10及び本件発明

13(本件発明)の各技術的範囲のいずれにも属するが,本件発明は,いずれも,

「高感度ラマン分光法の最近の動向と半導体超薄膜への応用」に記載された発明(乙

16発明)に基づいて容易に想到することができるから,本件発明に係る特許はい

ずれも特許無効審判により無効にされるべきものであるとして,控訴人らの請求を

全部棄却する判決を言い渡した。



2 前提となる事実

本件の前提となる事実は,原判決6頁17行目の「上記訂正」の次に「(以下「本

件訂正」という。」を加えるほかは,原判決の「事実及び理由」欄の第2の1に記


載のとおりである。



第3 争点及び争点に関する当事者の主張

本件の争点及び争点に関する当事者の主張は,下記1のとおりに補正し,下記2

に控訴人らの,下記3に被控訴人の主張をそれぞれ加えるほかは,原判決の「事実

及び理由」欄の第2,2及び3に記載のとおりである。

1 原判決の補正

(1) 原判決13頁20行目の「30行」を「28行」に改める。

(2) 原判決14頁16行目の「25」を「27」に改める。

(3) 原判決17頁12行目の「32」を「32〜33」に改める。

(4) 原判決29頁5行目の「『超解像の光学』(乙13)の」の次に「41頁」

を加える。

(5) 原判決34頁20行目冒頭に「スライド」を加える。




(6) 原判決42頁5行目の「SEPTEMBER 1990」の次に「 301−303頁」

を加える。

(7) 原判決56頁3行目の「置く。」の次に「…」を加える。

(8) 原判決57頁8行目の「2行目」の次に「以下」を加える。

(9) 原判決58頁1行目の「19行目」を「17行目」に改める。

(10) 原判決65頁7行目の「乙7発明」の次に「」」を,同10行目の「赤外・

ラマン・振動[U]」の次に「,133−145頁」をそれぞれ加える。

(11) 原判決72頁18行目の「10」を「13」に改める。

(12) 原判決75頁13行目の「発行された論文である」を「頒布された刊行

物である」に,同18行目の「Ar+」を「Ar 」に,同19行目から同20行
−1
目にかけての「520cm−1」を「520cm 」にそれぞれ改める。
(13) 原判決83頁10行目の「ことなって」を「異なって」に,同12行目

から同13行目にかけての「『位置検出光電子倍増管』」を「『位置検出型光電子増倍

管』」にそれぞれ改める。

(14) 原判決101頁22行目の「Ar+」を「Ar 」に改める。


2 控訴人ら

(1) ライン照明における第二の次元の共焦点作用(当審における補充主張)

共焦点作用を有無を決定するためには,ライン照明により照明されたラインの真

上又は真下の点からの散乱光に加えて,ラインの外側の点からの散乱光による寄与

(斜方寄与)も考慮されなければならない。この斜方寄与としての光の多くは,ス

リット(第一の次元)及び光検出器の読取制限(第二の次元)によってブロックさ

れ,結果として,Z方向の分解能は向上することになる。

したがって,スポット照明と比べると低下はするものの,共焦点作用は,ライン

照明の場合にあっても有意なものがもたらされている。





(2) 乙16発明に対する進歩性について(当審における補充主張)

原判決認定に係る相違点を前提とした場合の控訴人らの主張は,次のとおりである。

ア 相違点2につき

(ア) 共焦点作用の記載・示唆について

@ 乙16発明は,共焦点作用に関するものではなく,仮に100倍のレンズと

100μmの幅のスリット等を用いたある特定の状況において共焦点作用が生じる

としても,それは,乙16発明がカバーする多くのあり得る状況の 1 つに共焦点作

用が内在しているというにすぎず,乙16も,この 1 つの状況において共焦点作用

をもたらすことを指摘していない。このような共焦点作用は,乙16発明の目的と

は関係なく偶然に生じたものであるから,これをもって,乙16発明において,そ

の入射スリットにおいて共焦点作用がもたらされる,あるいは,当業者において共

焦点作用がもたらされていると認識するということはできない,

A 乙16発明の入射スリットは,共焦点作用(光軸方向の空間分解能を向上)

をもたらすためのものではなく,波長分解能を調整するためのものである(スリッ

ト幅の広狭に従い,波長分解能と検出器に到達する光量がトレードオフ関係に立

つ。。そして,分光器の入射スリットにより波長分解能を調整することができるこ





とは,本件特許の優先日前の技術常識であるが,他方,分光器の入射スリットが共

焦点作用をもたらすことは,本件特許の優先日前の技術常識ではなかった。

したがって,乙16に接した当業者は,乙16発明の入射スリットが共焦点作用

をもたらすとは認識しない。

(イ) シリンドリカル・レンズの作用について

乙16発明では,試料の所与の面の焦点からの光(散乱光)は,分光器(トリプ

ル・ポリクロメータ)の入射スリットの位置において,点状にはならず,線状にな

っている。

これは,乙16発明が,分光器(トリプル・ポリクロメータ)によって検出器上

においてスペクトルが各波長でY軸方向に広がることから(5頁8〜11行目によ

れば,200〜400ピクセル分),この非点収差を補正するために,入射スリット

の手前にシリンドリカル・レンズを置いて意図的に非点収差を導入し(4頁10〜

12行目,6頁3〜4行目) 検出器上での光のY軸方向への広がりを抑えているか


らである(6頁35〜36行目によれば,3〜4ピクセル分に留まる。。
) すなわち,

シリンドリカル・レンズによりあらかじめ導入した非点収差によって,上記分光器

内で生じる非点収差を打ち消そうとしている。このシリンドリカル・レンズにより

導入された非点収差により,入射スリットにおいては,単一の合焦面における単純

なエアリーディスクの代わりに,非常に複雑な細長い光のパターンが生成される。

また,サンプルの他の面からの光が存在するとすれば,その光も入射スリットの位

置において極めて複雑なパターンを形成し,かかる他の面からの光に対して,入射

スリットは,通常の共焦点作用をもたらすような態様で機能しなくなる。

そうすると,この点を無視して,入射スリットに単純な円形のエアリーディスク

があるものとして,エアリーディスク径の最小値dminを計算するのは誤りであり,
乙16発明の入射スリットの位置において,第一の次元の共焦点作用が生じている

とはいえない。

(ウ) 小括




以上から,相違点2は,容易想到ではない。

イ 相違点3につき

上記アのとおり,入射スリット位置におけるエアリーディスク径の最小値d min
の計算方法は誤りであるから,この計算結果を前提とする光検出器の位置における

エアリーディスク径の最小値dminの計算方法も,誤りである。
したがって,相違点3は,容易想到ではない。

ウ 相違点4につき

(ア) 阻害要因

@ 乙16には,光検出器の手前に非点収差補正光学系を配置することは,記載

も示唆もない。

A 光検出器の手前に非点収差補正光学系を配置した場合,この位置調整を行う

CCDカメラが非点収差補正光学系よりも手前に来てしまうため,その調整ができ

なくなってしまう。

B 光検出器の手前は,トリプル・ポリクロメータ内部であるが,トリプル・ポ

リクロメータ内の凹面鏡からの出射ビームと入射ビームは,それぞれ幅があるとと

もに,両者は近接している。このような内部に,出射ビームがシリンドリカル・レ

ンズを通過するようにした場合,シリンドリカル・レンズによって入射ビームの一

部までブロックしてしまうおそれがある。また,トリプル・ポリクロメータ内部に

非点収差補正光学系があった場合,これにアクセスしてこれを調整することも困難

又は不可能になってしまう。

C 乙16発明のトリプル・ポリクロメータは市販の装置であり,当業者が,か

かる市販装置の内部に非点収差補正光学系を配置しようとは考えない。

D 乙31発明は,宇宙線事象検出の可能性を最小化するための技術であるが,

乙16発明が用いるPS−PMTでは,宇宙線事象検出の可能性を最小化する必要

性はない。むしろ,乙16には,アナログ検出器であるIPDAやCCDを用いた

場合には,主として宇宙からの高エネルギー粒子線によるパルス・ノイズが問題と




なるが,デジタル検出器であるPS−PMTを用いた場合には,かかるパルス・ノ

イズは問題にならない旨の記載がある(3頁13行〜4頁8行目,5頁3〜5行目,

19〜22行目)。

そうすると,乙16発明に,シリンドリカル・レンズをCCDカメラの前に配置

する乙31発明を適用する動機付けはない。

E 乙31発明では,ピンホールが用いられており(乙31のFigure1),本来ピ

ンホールを通過すべき光がピンホールによってブロックされてしまわないために,

シリンドリカル・レンズをピンホールの前に配置することはできない。そのため,

乙31発明においては,シリンドリカル・レンズをCCDカメラの前に配置せざる

を得ない。

一方,乙16発明では,スリットが用いられているから(6頁3〜4行目),非点

収差補正光学系(ないしシリンドリカル・レンズ)をスリットの前に配置すること

ができ,PS−PMTの前に配置する必要性はない。

そうすると,乙16発明に対して,シリンドリカル・レンズをCCDカメラの前

に配置する乙31発明を適用する動機付けはない。

(イ) 小括

以上から,相違点4は,容易想到ではない。

エ 相違点5につき

ラマン分光装置において,サンプルに光を照射するのと,前記サンプルからの散

乱光を集光するのとに同一のレンズが用いられている照明系を採用することが,周

知であったとしても,この技術を他の技術ないし発明に適用することが容易に想到

できたといえるためには,それなりの動機付けが必要である。

しかしながら,上記周知技術を乙16発明に適用する動機付けは存在しない。

したがって,相違点5は,容易想到ではない。

オ 相違点6につき

電荷結合素子である光検出器が本件特許の優先日前周知であったとしても,この




技術を他の技術ないし発明に適用することが容易に想到できたといえるためには,

それなりの動機付けが必要である。先行技術文献のいずれにも,上記周知技術を乙

16発明に適用することを動機付ける記載は見当たらない。

乙16には,「…これまで特にPS-PMTが他よりもとりわけて超高感度である

とは考えられていなかったのはうなずける。ところがもし,スペクトルのY軸方向

への広がりを極端にせばめることができたとしたら,チャンネルあたりのノイズは

著しく減少するはずである。たとえばY軸方向への広がりを5ピクセル以下にする

ことができれば,チャンネルあたり毎秒5−10×10−5カウントのノイズ・レベ
ルとすることができ,IPDAやCCDにおける毎秒0.001−0.01カウント

のパルス・ノイズも存在しないことから,極限的な微弱光の高感度ラマン分光が可

能となる。」と記載されており(5頁15〜22行目),乙16発明は,PS−PM

Tを用いるからこそ,その目的(極限的な微弱光の高感度ラマン分光)を達成でき

ると考えられる。

したがって,相違点6は,容易想到ではない。

(3) 訂正の再抗弁(当審における新たな主張)

訂正審判請求又は訂正請求の必要性につき

@ 訴訟の当事者が無効の抗弁を提出するに際しては,無効審判請求がされてい

るまでの必要性はなく,無効審判請求がされた場合に当該特許が無効にされるべき

ものと認められることを主張立証すれば足りる。そうであれば,これと同様に,そ

の相手方において訂正の再抗弁を提出するに際しては,訂正審判請求又は訂正請求

を行っているまでの必要性はないというべきである。

A そうでないとしても,訴訟の当事者(特許権者)が訂正審判請求又は訂正請

求を行いたくても行えないような場合に訂正の再抗弁を認めないとすれば,当該当

事者の権利を不当に害することになる。

本件においては,平成24年11月5日に被控訴人が無効審判(無効2012−

800183)を請求し(乙37),平成25年7月2日に請求不成立の審決がされ




(甲30),その審決の取消訴訟(平成25年(行ケ)第10227号)が知的財産高

等裁判所に係属している。その後,平成25年8月30日に無効の抗弁を認めて控

訴人らの請求をいずれも棄却する原判決がされた。そのため,控訴人らは,特許法

126条2項134条の2第 1 項により,訂正審判請求又は訂正請求を行うこと

ができない状況にあり,しかも,控訴人らにおいて訂正審判請求又は訂正請求を行

う機会があったともいえない(請求不成立審決であったため,特許法164条の2

の予告審決もされていない。。


したがって,訂正の再抗弁を提出するに際して訂正審判請求又は訂正請求をして

いることは,本件においては,要件として不要と解するべきである。

イ 訂正の適法性

(ア) 訂正事項 1

a 訂正の内容

本件訂正後の特許請求の範囲の請求項7に「前記光検出器は電荷結合素子である

ことを特徴とする分光分析装置。とあるのを
」 「前記光検出器は電荷結合素子であり,

前記分光分析装置は,前記サンプルの前記所与の面を前記サンプルの第1の面とし

て,前記サンプルの当該第1の面の焦点を分析し,かつ,前記サンプルの前記所与

の面を前記サンプルの第2の面として,前記サンプルの当該第2の面の焦点を分析

するための共焦点分光分析装置であることを特徴とする分光分析装置。に訂正する


(請求項7の記載を引用する請求項8〜13も同様に訂正する。。


訂正の目的

訂正事項 1 は,発明特定事項を追加するものであるから,特許法126条 1 項た

だし書 1 号に規定する特許請求の範囲減縮を目的とするものである。

c 実質上特許請求の範囲拡張し,又は変更する訂正ではないこと

訂正事項 1 は,発明特定事項を直列的に付加するものであり,カテゴリーや対象,

目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲拡張し,又は変更する

ものには該当せず,特許法126条6項に適合する。




d 願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正

本件訂正に係る審判請求書(甲27)に添付された明細書(以下「訂正明細書

という。)の「発明の名称」及び本件明細書の第1図,第4図には,共焦点分光分析

を行う装置が記載され,上記訂正明細書7頁17〜21行目には「レンズ16がサ

ンプルの表面に焦点を結ぶと,サンプル内の表面の背後から散乱された光をフィル

タリングして取り除くことができ,表面自体の分析も行うことができる。あるいは,

レンズ16を故意にサンプル内の点に焦点を結ばせて表面から散乱された光をフィ

ルタリングして取り除くことができる。」との記載がある。

したがって,訂正事項 1 は,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範

囲内の訂正であり,特許法126条5項に適合する。

(イ) 訂正事項2

a 訂正の内容

訂正明細書5頁17行〜6頁2行目に「前記光検出器は電荷結合素子であること

を特徴とする分光分析装置を提供する。 とあるのを
」 「前記光検出器は電荷結合素子

であり,前記分光分析装置は,前記サンプルの前記所与の面を前記サンプルの第1

の面として,前記サンプルの当該第1の面の焦点を分析し,かつ,前記サンプルの

前記所与の面を前記サンプルの第2の面として,前記サンプルの当該第2の面の焦

点を分析するための共焦点分光分析装置であることを特徴とする分光分析装置を提

供する。」に訂正する。

訂正の目的

訂正事項2は,訂正事項1に係る訂正に伴って,特許請求の範囲の記載と発明の

詳細な説明の記載との整合を図るために行う訂正である。

よって,訂正事項2は,特許法126条1項ただし書3号に規定する明瞭でない

記載の釈明を目的とする。

c 実質上特許請求の範囲拡張し,又は変更する訂正ではないこと

訂正事項2は,訂正事項1に係る訂正に伴って,特許請求の範囲の記載と発明の




詳細な説明の記載との整合を図るために行う訂正である。

よって,訂正事項2は,実質上特許請求の範囲拡張し,又は変更する訂正では

なく,特許法126条6項に適合する。

d 願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正

訂正事項2は,訂正事項1に係る訂正に伴って,特許請求の範囲の記載と発明の

詳細な説明の記載との整合を図るために行う訂正である。

よって,訂正事項2も,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内

の訂正であり,特許法126条5項に適合する。

(ウ) 一群の請求項

特許法126条3項,特許法施行規則46条の2の規定により,訂正後の請求項

7〜13は,一群の請求項となる。

訂正事項1は,請求項7〜13のすべてを訂正するものであり,訂正事項2に関

連する請求は,請求項7〜13である。

よって,訂正事項1及び訂正事項2は,特許法126条3項及び4項に適合する。

ウ 無効事由の解消

訂正後の本件発明7は,
「前記分光分析装置は,前記サンプルの前記所与の面を前

記サンプルの第1の面として,前記サンプルの当該第1の面の焦点を分析し,かつ,

前記サンプルの前記所与の面を前記サンプルの第2の面として,前記サンプルの当

該第2の面の焦点を分析するための共焦点分光分析装置であること」という構成要

件(構成要件G−2C)を備える。すなわち,訂正後の本件発明7は,サンプルの

深さ方向(光軸方向)に垂直な異なる面を分析するための装置である。

これに対し,乙16発明は,@共焦点分光分析装置ではなく,Aサンプルの深さ

方向に垂直な異なる面を分析する発明でもない。すなわち,乙16発明は,構成要

件G−2Cを備えていない。

したがって,訂正後の本件発明7と乙16発明とは,構成要件G−2Cの点にお

いて相違する。




また,訂正後の本件発明8〜本件発明13と乙16発明とは,構成要件G−2C

の点において相違する。

エ 訂正後の構成要件充足

(ア) 構成要件G−4Cを除く構成要件

原判決に記載されたとおりである。

(イ) 構成要件G−4Cについて

被告製品のブローシャ(甲3)の11頁下部には,次の記載がある。




上記記載中には「スリット・コンフォーカル(共焦点)」との記載や「断層・断面

観察などの3次元観察も可能」と記載があり,被控訴人製品は,サンプルの深さ方

向(z軸方向)に垂直な異なる面を分析することができる。

そうすると,被告製品は,サンプルの所与の面をサンプルの第1の面として,サ

ンプルの当該第1の面の焦点を分析し,かつ,サンプルの所与の面をサンプルの第

2の面として,サンプルの当該第2の面の焦点を分析するという処理を行っている。

したがって,被告製品(ライン照明モード及びスポット照明モード)は,構成要

件G−2Cを充足する。




(4) 無効の再々抗弁に対して

明確性要件違反に対して

構成要件G−2Cは,サンプルの所与の面をサンプルの第1の面(例えば,サン

プルの表面)として,サンプルの第1の面の焦点を分析し,かつ,サンプルの所与

の面をサンプルの第2の面(例えば,サンプル内の面)として,サンプルの第2の

面の焦点を分析することを表している。つまり,「サンプルの所与の面」(サンプル

の深さ方向に垂直な面であって,分析しようする点を含む面)を光軸方向に移動さ

せて分析を行うことを表している。
「サンプルの第1の面」及び「サンプルの第2の

面」はそれぞれ,例えば,サンプルの表面及びサンプル内の 1 つの面としてもよい

し,サンプル内のある面及びサンプル内の別の面としてもよい。

そうすると,訂正後の特許請求の範囲の記載において,特許を受けようとする発

明は明確である。

したがって,訂正後の特許請求の範囲の記載は,明確性要件を満たしている。

進歩性欠如に対して

仮に,共焦点顕微鏡において,サンプルの所与の面(焦点を合わせる面)を深さ

方向に調節し得ることや,サンプルの深さ方向(z軸方向)にスキャンして観察す

ることが極めて当然のことであったとしても,当業者が,それを乙16発明に適用

する動機付けはない。

したがって,訂正後の本件発明は容易に想到し得たものではない。



3 被控訴人

(1) 「ライン照明における第二の次元の共焦点作用」に対して

任意のlとdについて,所与の面から距離 l 離れた他の面のライン照明の真上か

ら距離d 離れた位置からの散乱光は,CCD面において連続した分布になる。ライ

ン照明の場合においてCCDの読み出し領域の幅を制限しても,サンプルの所与の


面からの光の強度」と「サンプルの他の面のライン照明の真上から距離 d離れた位




置からの光の強度」の比は変わらない。

そうすると,ライン照明の場合,z方向の分解能はCCDの読取領域の幅に依存

しない。

したがって,ライン照明の場合には,CCDの読取領域の幅を制限しても,第二

の次元の共焦点作用は生じない。控訴人が主張しているのは,たまたま2次元の共

焦点作用を生じるよう恣意的に選択された特定の点に関するものにすぎない。





(2) 乙16発明に対する進歩性に対して

ア 相違点2につき

(ア) 共焦点作用の記載・示唆について

共焦点作用は,用語が異なることはあっても,本件特許の優先日前における周知

の作用である。乙18に記載のとおり,ピンホールによる共焦点作用を,第一の次

元の共焦点作用と第二の次元の共焦点作用に分けるという考え方も公知である。し

たがって,乙16発明において,第一の次元の共焦点作用及び第二の次元の共焦点

作用が生じていることは,当業者が見れば,乙16に記載されているに等しい事項

といえる。加えて,乙16には,サンプルからスリットまでの倍率Mが100倍で

あること(7頁8行目) Ar+レーザの波長が515nmであること
, (6頁31行目),
スリット幅が100μmであること(6頁36行目),入射スリットの位置から検出

器の位置までの倍率が1.2倍であること(5頁27〜28行目),検出器の読取領

域の幅が125μm(25μm×5ピクセル)であること(6頁9行目,7頁1行

目)が記載されており,これら設定条件は,乙16発明そのものとして明記されて

いる条件である。

(イ) シリンドリカル・レンズの作用について

@ 後記イのとおり,スリット幅がエアリーディスクの直径の2.5倍までであれ

ば,共焦点作用が生じる。

乙16発明のスリット幅は,100μmである。また,サンプルからスリットま

での倍率Mは100倍である。後記イのとおり,エアリーディスク径(直径)dは,

d=(1.22×λ/NA物体側)×M
λ:波長 NA:開口数 M:対物レンズの倍率

であるから,乙16発明のAr+レーザの515nm線のスリット上でのエアリーディ

スク径の最小値dmin(ラマン散乱光の波長λ´は光源光の波長λよりも長いから,
ラマン散乱光によって形成されるスリット上でのエアリーディスク径の最小値は,




dminよりも大きくなる。)は,次のとおりである(NA物体側は空気中では1を超
えない。。


dmin=(1.22×0.515/1)×100
=63[μm]

そうすると,スリット幅が100μmの場合において,スリット幅と,ラマン散乱

光によってスリット上で形成されるエアリーディスク径との比は,1.59(100

/63)よりも大きくなることはない。

したがって,スリット上では,共焦点作用が生じている。

A 乙16発明のシリンドリカルレンズは,非点収差を補正するためのものであ

るため,焦点距離が長く光を屈折させる力が弱いレンズが用いられている。この場

合,スリットにおける光の形状は,シリンドリカルレンズの有無によってほとんど

変形せず,線状ないし楕円状というよりは点状とみなせるものである。

仮に,乙16発明に焦点距離の短いシリンドリカルレンズが使われていて,スリ

ットにおける光のスポットが若干楕円状になっていたとしても,長軸がスリットの

長さ方向(長辺方向)に伸びているにすぎず,スリットの幅方向(短辺方向)には

焦点を結んでいるといえるので,やはり,スリットによる第一の次元の共焦点作用

が生じている。

(ウ) 小括

以上から,相違点2は,実質的相違点ではない。

イ 相違点3につき

@ 「Three−dimensional optical−transfer−function analysis for a lase

r−scan fluorescence microscope with an extended detector」J Opt.Soc.

Am.A vol.8,No.1(1991),pp171−175(甲22)には,
「エアリーディスクよ

り2倍広い検出器を有する顕微鏡も,2μmの分解能で長さ方向の構造を分解する

ことができる。」との記載(172頁右欄49〜51行目)がある。

A 「Size and Shape of The Confocal Spot:Control and Relation to




3D Imaging Processing」HANDBOOK OF BIOLOGICAL CONFOCAL M

ICROSCOPY REVISED EDITION(1990),pp87−91(甲24)には, 「図4

ピンホールの大きさの関数としての反射における軸方向の共焦点応答」において,

検出ピンホールの大きさが,回折限界エアリー分布のFWHM(full width at h

alf maximum,山形の関数〔本件では信号強度の関数〕の広がりを示す指標)の

単位で示されており,ピンホール直径がFWHMの6倍までは共焦点作用を有する

とされている(90頁)。

B 「結像光学入門」(1988)95〜97頁(甲20)には,

[1]エアリーディスクの径が,λを光の波長とし,像側の開口数をNA 像側とし
て,

1.22λ/NA像側
との記載(96頁4−27式)と,

[2]物体側の開口数をNA物体側,対物レンズの倍率をMとして,

NA物体側=NA像側×M
との記載(97頁4−28式,4−29式)がある。

そうすると,

[3]エアリーディスクの直径dは,

d=(1.22×λ/NA物体側)×M

となる。

C 「Realization of numerical aperture 2.0 using a gallium phosphid

e solid immersion lens」APPLIED PYSICS LETTERS VOLUME75,NU

MBER26(1999)pp4064−4066(乙29)には,半値全幅△x(FWHM)につい

て,

△x(FWHM)=0.51×λ/NA像側
との趣旨の記載(4065頁左欄)があるから,

△x(FWHM)=0.51×λ/NA物体側×M




である。

そこで,エアリーディスクの直径d(B[3])と半値全幅△x(FWHM)を比較す

ると,エアリーディスクの直径は,そのFWHMの大きさの約2.4倍(1.22÷

0.51)となる。

D 以上のとおり,ピンホールの直径がFWHMの6倍までは共焦点作用を有す

ること(A)と,エアリーディスクの直径がFWHMの大きさの約2.4倍であるこ

と(C)から,ピンホールの直径がエアリーディスクの2.5倍(6/2.4)までは,

共焦点作用を有することになる(@の数値も参照)。

E 乙16発明において,入射スリットの位置から光検出器の位置までの倍率は,

1.2倍であるから,Ar+レーザの515nm線の光検出器上でのエアリーディスク

径の最小値dminは,76μm(63μm×1.2)である。また,ラマン散乱光
の波長λ´は光源光の波長λよりも長いから,ラマン散乱光によって形成される光

検出器上でのエアリーディスク径の最小値は,上記dminよりも大きくなる。
他方,乙16発明のPS−PMT検出器での読取り幅は,125μm(25μm

×5ピクセル)であるから(6頁1行目,6頁末行〜7頁2行目,図2の説明文),

光検出器の読取り幅と,ラマン散乱光によって光検出器上で形成されるエアリーデ

ィスク径との比は1.64(125μm/76μm)よりも大きくなることはない。

そうすると,乙16発明は,光検出器上で共焦点作用を有しているものと認めら

れる。

F 以上から,相違点3は,実質的相違点ではない。

ウ 相違点4につき

(ア) 阻害要因について

乙16発明でシリンドリカルレンズが用いられる目的は,非点収差の補正である

ところ,同一の課題・目的の下に,シリンドリカルレンズを,分光器の前ではなく,

光検出器の手前又は分光器内部に配置する構成が公知である(乙31の220頁左

欄31〜34行目〔訳文2頁7〜9行目〕 乙42の1054頁右欄25行〜105





5頁左欄7行目,Fig.1,乙43の上欄1〜3行目,乙44の455頁左欄23〜

28行目,FIG.1,乙45の第2図)。

そして,乙16には,シリンドリカルレンズをスリットの前に配置したことにつ

いて,何ら特別の意義・理由は記載されておらず,乙16発明におけるシリンドリ

カルレンズの位置は,スリットの後ろでもよいと解される。

そうであれば,当業者が,乙16発明のシリンドリカルレンズを,乙31のよう

にスリットの後ろに配置することには動機付けがあり,容易になし得たことである。

(イ) 小括

以上から,相違点4は,容易に想到できる。

エ 相違点5につき

サンプルに光を照射するのと,前記サンプルからの散乱光を集光するのとに同一

のレンズが用いられている照明系は,周知技術であり,これにより,構成を簡略化

することができることは,当業者にとって明らかであるので,当業者は,これを適

宜採用し得たといえる。

したがって,相違点5は,容易に想到できる。

オ 相違点6につき

電荷結合素子である光検出器は,周知技術であり,加えて,乙16には「今回我々

は超微弱信号の検出を目的としているので,以上の理由によりPS−PMTを採用

することにした。但し,量子効率の絶対値や赤外域の感度などを重んじるならばC

CD検出器の方が優れているなど,目的によって選択は異なってくることを注意し

ておく。(4頁5〜8行目)と記載されている。


そうすると,乙16発明において,そのPS−PMTの代わりにCCD検出器を

採用することには,十分な動機付けが存在しているといえ,また,該置換に何ら困

難性もない。

したがって,相違点6は,容易に想到できる。

(3) 訂正の再抗弁に対して




ア 時機に遅れた攻撃防御方法の申立て

控訴人レニショウは,原審第11回弁論準備手続期日の前日である平成24年7

月3日に訂正審判の請求をし(訂正2012−390086),特許庁は,同年9月

11日,上記訂正を認めた。

また,被控訴人は,平成24年11月5日に無効審判を請求しているところ,控

訴人レニショウは,この無効審判の答弁書提出期間内などに訂正の機会があった。

それにもかかわらず,控訴人らは,本件訴えの提起から3年近くを経過して控訴

人ら敗訴の判決を受けるや,控訴審において,新たな訂正の再抗弁の主張しようと

している。

この主張は,故意又は重大な過失により時機に後れて提出した攻撃又は防御の方

法であって,これにより訴訟の完結を遅延させることとなるものであるから,却下

されるべきである。

訂正審判請求又は訂正請求の必要性について

本件においては,上記アのとおり,控訴人らには,訂正請求のための十分な機会

が保障されていたのであるから,新たな訂正の主張を認めなくても控訴人らの権利

を不当に害することにはならず,かえって,被控訴人の応訴負担が不当に重くなっ

てしまう。

したがって,訂正審判請求又は訂正請求を不要とすべき事情にはない。

ウ 訂正の適法性について

訂正により加えられる構成要件G−2Cは,サンプルの深さ方向(z軸方向)に

スキャンして観察するというものと解されるが,願書に添付した明細書又は図面に

は,このような構成は何ら記載されていない。

訂正明細書の「レンズ16がサンプルの表面に焦点を結ぶと,サンプル内の表面

の背後から散乱された光をフィルタリングして取り除くことができ,表面自体の分

析も行うことができる。あるいは,レンズ16を故意にサンプル内の点に焦点を結

ばせて表面から散乱された光をフィルタリングして取り除くことができる。という





記載は,サンプルの所与の面を,サンプルの表面にとってもよいし,サンプルの内

部にとってもよい,という共焦点顕微鏡として当然のことを意味しているにすぎず,

これを,サンプルの深さ方向(z軸方向)にスキャンして観察することを意味して

いると解釈することはできない。

したがって,上記訂正は,願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内のも

のではないので,特許法126条5項の要件を満たさない。

エ 無効事由の解消について

控訴人らの主張は,争う。

オ 訂正後の構成要件充足について

控訴人らの主張は,争う。

(4) 無効の再々抗弁(当審における控訴人らの新たな主張に対する被控訴人の

新たな主張)

明確性要件違反

構成要件G−2Cは,「前記サンプルの前記所与の面」を,「前記サンプルの第1

の面として」,かつ,「前記サンプルの第2の面」とするとのことであるが,第1の

面と第2の面の関係が,特許請求の範囲及び訂正明細書には何ら記載がないので,

意味が不明である。

したがって,訂正後の特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が明

確であるとはいえない。

上記の特許請求の範囲の記載は,平成6年法律第116号による改正前の特許法

36条5項2号の要件を満たさない。

進歩性欠如

(ア) 構成要件G−4Cを除く構成要件容易想到性について

原判決に記載されたとおりである。

(イ) 構成要件G−4Cの容易想到性について

仮に,構成要件G−2Cが「サンプルの所与の面を,サンプルの表面にとっても




よいし,サンプルの内部にとってもよい」ということ,又は,サンプルの深さ方向

(z軸方向)にスキャンして観察する,ということを意味するのであれば,共焦点

顕微鏡において,サンプルの所与の面(焦点を合わせる面)を,深さ方向に調節し

得ること及びサンプルの深さ方向(z軸方向)にスキャンして観察することも,極

めて当然のことである(乙21〜23)。

一方,乙16発明においても共焦点作用は生じている。

したがって,構成要件G−2Cは,容易に想到し得る。

よって,訂正後の本件発明は,進歩性が欠如する。



第4 当裁判所の判断

1 認定事実

前記第2,2のほか,次の事実が認められる。

(1) 本件発明について

本件明細書及び訂正明細書には,次の記載がある。(甲2,27,28)


「技術分野

本発明は,例えばラマン効果を利用してサンプルを分析するのに分光分析が使用される装置

および方法に関するものである。(第3欄43〜46行目)


「背景技術

ラマン効果はサンプルが所与の周波数の入射光を散乱して入射光とサンプルを構成する分子

との相互作用により惹起される線を有する周波数スペクトルにする現象である。分子種が異な

ると特徴的ラマンスペクトルが異なり,そのためこの効果はサンプル中に存在している分子種

の分析に使用することができる。

…WO90/07108号公報は生じたラマン散乱光は2次元光検出アレイである電荷結合

素子(CCD)上に合焦,つまり焦点を結ばせてもよいことも開示している。

サンプルが単色光または多色光さえも照射され,散乱光が分析される他の分光分析技術も知





られている。…そのような技術を共焦点法で使用してサンプルの一定の面から散乱された光の

みを分析することも可能である。これは散乱された光をレンズ系の焦点に非常に小さなピンホ

ール(典型的には10μm)を備えた空間フィルタを通過させることを含む。要求された面か

ら散乱された光はピンホールにおいて緊密に焦点を絞られて通過するが,他の面からの光は焦

点がそれほど緊密(tight)に絞られず遮断される。しかしながら,そのような空間フィルタは

正確に構成するのが難しい。というのは,光学要素を注意深く整合(アラインメント)させて

散乱された光を非常に小さなピンホール上に緊密に焦点合わせすることを保証する必要がある

からである。(第3欄47行〜第4欄34行目)


「発明の開示

本発明は,サンプルに光を照射して散乱光スペクトルを得るステップと,前記スペクトルを

分析するステップと,前記分析されたスペクトルの少なくとも一つの成分を光検出器に通し,

前記サンプルの所与の面から散乱する光を前記光検出器の所与の領域に合焦させ,前記サンプ

ルの他の面から散乱する光を前記光検出器に合焦させないステップとを具備する分光分析方法

であって,前記光はスリットを備えた一次元空間フィルタを通過して第一の次元で共焦点作用

をもたらし,前記光検出器の前記所与の領域で受ける光が,前記所与の領域外で受ける光を含

まずに,またはこの光と分離して検出され,前記所与の領域は前記第一の次元を横切る第二の

次元で共焦点作用をもたらすように形成されていることを特徴とするものである。

また,本発明は,サンプルに光を照射して散乱光のスペクトルを得る手段と,前記スペクト

ルを分析する手段と,光検出器と,前記分析されたスペクトルの少なくとも一つの成分を前記

光検出器に通し,前記サンプルの所与の面から散乱された光を前記光検出器の所与の領域に合

焦させ前記サンプルの他の面から散乱された光を前記光検出器に合焦させない手段とを具備す

る分光分析装置であって,前記光はスリットを備えた一次元空間フィルタを通過して第一の次

元で共焦点作用をもたらし,前記光検出器の前記所与の領域で受ける光が,前記所与の領域外

で受ける光を含まずに,またはこの光と分離して検出され,前記所与の領域は前記第一の次元

を横切る第二の次元で共焦点作用をもたらすように形成されており,前記サンプルの前記所与

の面の焦点からの散乱光は,前記スリットにおいてスポットとしての焦点に絞り込まれて前記





スリットを通過し,前記サンプルの前記所与の面の前記焦点の前または後で散乱される光は,

前記スリットにおいて焦点を結ばず,前記サンプルに光を照射するのと,前記サンプルからの

散乱光を集光するのとに同一のレンズが用いられ,前記光検出器は電荷結合素子であることを

特徴とする分光分析装置を提供する。(第4欄40行〜第5欄6行目〔訂正後〕
」 )

「発明を実施するための最良の形態

第1図に示される装置の第1の実施例…。入力レーザビーム10は光路に45゜に置かれた

ダイクロイックフィルタ12により90゜反射される。次いで,このレーザビームは顕微鏡対

物レンズ16に送られる。このレンズはこのレーザビームをサンプル18上の焦点19におけ

るスポットに焦点を結ばせる。光はこの照射されたスポットでサンプルにより散乱され,顕微

鏡対物レンズ16により集光され,平行ビームに平行化(コリメート)され,ダイクロイック

フィルタ12に戻る。フィルタ12は入力レーザビーム10と同じ周波数を持つレーリー散乱

光を遮断し,ラマン散乱光を伝送する。ラマン散乱光は次いでラマン分析器20に送られる。

ラマン分析器20は…関心のあるラマン線を選定するための波長可変非分散性フィルタを1

つまたは複数個備えている。あるいは,…回折格子のような分散性エレメントを備えていても

よい。いずれの場合も,分析器20からの光はレンズ22により適当な光検出器上に焦点を結

ぶ。2次元光検出器アレイが好ましい。本実施例では,電荷結合素子(CCD)24が使用さ

れる。CCDはピクセルの2次元アレイからなり,コンピュータに接続される。コンピュータ

は各ピクセルからデータを獲得し,それを必要に応じて分析する。ラマン分析器20が波長可

変非分散性フィルタを備えている場合,選定されたラマン周波数の光がCCD24の26に焦

点を結ぶ。回折格子のような分散性エレメントが使用されている場合,分析器20は単一のス

ポットではなく,CCD24に沿って線上に広がる破線28で示される種々のバンドを持つス

ペクトルを生じる。(第5欄19行目〜第6欄1行目)













「 レンズ16の焦点19からの光はCCD上に緊密な焦点を結ぶ。しかしながら,破線36

で示されるように,焦点19の前または後の光はより拡散した焦点になる。分析器20に非分

散性フィルタが使用される場合,効果はCCD24の部分の平面図である第2図に示されてい

る。CCDの個々のピクセルが正方形40として示されている。ピクセルのピッチは典型的に

は22μm以下でよい。円26は焦点19から散乱された光の分布を表し,円38はサンプル

の他の場所から散乱された光のより拡散した焦点を表す。データを分析するときは,コンピュ

ータは,26に焦点を結んだ光を受ける,影をつけて示された数個のピクセル42をまとめて

貯蔵する。円38の他の場所からの外光(無関係の光)はコンピュータにより無視される。こ

れは,データを各ピクセル42から順番に読取,ピクセル42からのデータを一緒に加え,残

りを無視するコンピュータソフトウェアにより容易に達成される。

CCDをコンピュータと組み合わせると,このように,従来の空間フィルタにおけるピンホ

ールと同じ効果を与える。レンズ16がサンプルの表面に焦点を結ぶと,サンプル内の表面の

背後から散乱された光をフィルタリングして取り除くことができ,表面自体の分析も行うこと

ができる。あるいは,レンズ16を故意にサンプル内の点に焦点を結ばせて表面から散乱され

た光をフィルタリングして取り除くことができる。このように,余分の空間フィルタを使用し

ないでも共焦点作用が達成されていた。(第6欄2〜26行目)






「【第2図】





「 回折格子その他の分散性エレメントが第1図の分析器20として使用され,単一のラマン

バンドでなく完全なラマンスペクトルを見ることが望まれているときは,完全な共焦点分光分

析はそのような単純なソフトウェアでは不可能である。しかしながら,第3図に示すようにC

CD24とコンピュータ25を操作することにより部分的共焦点作用を達成することができる。

回折格子はサンプルからのラマンスペクトルをCCDを横切って一つの線に分散させる。この

線の幅は例えば第3図のCCD上の線44同士の間の影を付けてない領域の焦点19から散乱

された光に対して最も小さい。焦点19を含む焦点面の外側の面からの光は第3図の線46同

士の間に定義されるようなもっと幅広な線に散乱される。従って,部分的共焦点作用を得るに

は,コンピュータ25は,線44同士の間の領域にあるCCDのピクセルからだけデータを獲

得し,CCDの他の場所で受領された光を排除するように(上述したのと同様の仕方で)プロ

グラムされる。これにより,焦点19の外側からの第3図の影を付けた領域で受領された光が

排除される。(第6欄27〜45行目)


「【第3図】





「 第3図の構成が部分的共焦点作用のみを発揮する理由は,CCDとコンピュータにより提





供される空間フィルタリングが一次元でのみ起こり,二次元では起きないからである。これは,

第1図のものと同じエレメントに空間フィルタ14を加えた第4図の実施例を使用することに

より克服できる。第1図で使用したのと同じ参照番号が使用されている。

空間フィルタ14は2つのレンズ32,34と,紙面に鉛直に延びるスリット30を有するス

クリーン31とを備えている。レンズ32は散乱された光の平行ビームをスリット30を通過

する非常に緊密な焦点に絞り込まれ,レンズ34はこの光を再び平行化して平行ビームに戻す。

入力レーザビーム10は同様に非常に小さいスポットに絞り込まれてスリット30を通過する。

このスリット30の効果は顕微鏡対物レンズ16が共焦点的に作用することにある。すなわち,

実質的にレンズ16の焦点19で散乱された光だけがスリット30を通過する。破線36で示

したように,焦点19の前または後で散乱される光は穴30で焦点を結ばないため,実質的に

スクリーン31により遮断される。(第6欄46行〜第7欄14行目)


「【第4図】






「 第5図は,CCDを第4図の実施例で使用したときの第2図および第3図に対応する平面

図である。スリット30を通過する光は回折格子分析器20によりラマンスペクトルの個々の

バンド28に分散される。スリット30がないと,バンド28に対応するが焦点19の外側か

ら散乱された光が破線対48,50の間にあるもっと広い領域に現れる。スリット30は一次元

空間フィルタリングのみを提供し,ラマンバンド28のそれぞれが第5図の水平方向に空間的

にフィルタリングされるようにしていることが認められるであろう。しかしながら,焦点19

の外側からの若干の光が依然としてスリット30を通過し第3図の影を付けた領域に対応する

第5図の領域において受領されることがある。これを克服するには,コンピュータ25を第3





図の実施例におけると同様にプログラムして,線44同士の間にあるピクセルからのデータだ

けを処理し,線46同士の間にある他のピクセルを排除する。これにより,垂直方向における

空間フィルタリングが得られ,スリット30により与えられる水平空間フィルタリングと一緒

に,完全な二次元共焦点作用が達成される。(第7欄15〜33行目)


「【第5図】






「 スリット30の代りにピンホールを使用した構成に対するこの構成の利点はピンホールよ

りもスリットの方が整列するのがより容易であることにある。(第7欄34〜36行目)


「 所望により,12で示す位置の代りに第4図の12Aにおいて破線で示す位置にダイクロ

イックフィルタを設けることが可能である。レーザビームはそのとき10の代りに10Aで系

に入射する。この構成は入力レーザビームは空間フィルタ14を通過する必要がないという利

点を有する。その結果,レーザビームが穴30の縁に当り,そこからの散乱を生じるという危

険がない。そのような散乱は望ましくない。というのは,穴の縁が極端に清浄に保たれない限

り,汚れが少しでもあると未知のラマン散乱光を生じて分析器20を通過してCCD24上に

記録されるからである。逆に,ダイクロイックフィルタを位置12に配置することは,装置を

設定するときに容易に視ることのできる光を使用して穴30の位置を調整できるという利点を

有する。12Aにおけるダイクロイックフィルタでは,ダイクロイックフィルタを通過して空

間フィルタ14に至るラマン散乱光は満足に視ることができない。さらに,ダイクロイックフ

ィルタを12に置くことは,空間フィルタ14は…既存の装置に対して顕微鏡と装置の残りと

の間に容易に追加でき,調整のために容易に接近できることを意味する。 (第7欄37行〜第






8欄6行目)

「 空間フィルタとして動作するためには,スリット30の幅は非常に小さく,典型的には1

0μm以下でなければならない。最大値は50μmになろう。このように,スリット30は,十

分量の光を集めるために例えば最低200μmのようにずっと大きな従来のモノクロメータに

普通に設けられている入口スリット,出口スリットと混同されるべきでない。(第8欄7〜1


3行目)

「 上述した本発明の種々の例ではCCDを検知器として使用した。しかし,第2図において

円26内に光を検出し,この円の外側の光を遮断するには,正しいサイズの,例えば雪崩型フ

ォトダイオードの単一の光検出器を使用することが可能である。この構成も回折格子により生

成される単一のラマンバンドを検出するのに使用することができる。第3図および第5図にお

いて線44同士の間の光を検出し,他の光を遮断するには,適当な幅を持つ一次元(すなわち,

線形)光検出器アレイを使用することができる。(第8欄14〜23行目)




(2) 乙16発明について

本件特許の優先日前である平成2年に頒布された刊行物である乙16 「高感度ラ


マン分光法の最近の動向と半導体超薄膜への応用」)には,次の記載がある。(乙1

6,乙17)


「 ラマン分光法は,物質中にエネルギーE0を持つ光(フォトン)を入射すると,格子振動(フ

ォノン)などの素励起(エネルギーをEとする)の吸収や放出により,もとの光とは異なるエ

ネルギーE0±Eの光が放出されるい非弾性散乱の一種である。…非破壊・非接触であり,温度・

圧力などの環境を問わない,固体・液体・気体など形状や大きさを問わないなどの長所を持つ。」

(1頁5〜12行目)

「 今日,様々なタイプのマルチ・チャンネル検出器が市販されてきている。代表的なものと

して,イメージ・インテンシファイヤ付きフォトダイオード・アレイ検出器(以下IPDAと

略す),チャージ・カップルド・デバイス検出器(以下CCDと略す),位置検出型光電子増倍





管(以下PS−PMTと略す)の三種があげられる。現在マルチ・ラマン測光用にもっとも普

及しているのはIPDAであり,他の2種は最近やっと普及し始めたところである。表1に主

要なパラメータを比較して示した。これらの検出器にはいずれも一長一短あり,現在のところ

まだ相対的な評価は定まっていない。これらの検出器を用いると,通常の光電子増倍管換算で

毎秒0.1カウント程度の信号も容易に検出可能である。ここでPS−PMTのダークについて

は,後述のように一次元検出器としての値であることに注意されたい。

このようなシステムによって,様々な薄膜のラマン検出が行われるようになった。たとえば

ラングミュア・プロジェット膜の1モノレイヤからの信号検出について,トリプル分光器とI

PDA,あるいはトリプル分光器と冷却された電化(「電荷」の誤記と認める。)結合素子検出

器(以下CCDと略す)による報告がある。またゲルマニウムの数モノレイヤからのラマン信

号検出がトリプル分光器と位置検出型光電子増倍管によりなされている。



表1 多チャンネル検出器の性能比較
─────────────────────────────────
IPDA CCD PS−PMT
─────────────────────────────────
量子効率 5-15% 40-80% 15%
波長領域 400-800nm 300-1000nm 300-900nm
読みだしノイズ 1500e 10e なし
空間歪み 1% なし 5%
感度の位置変動 20% 2-7% 5%
線形性 1%以下 2%以下 2-5%
ダーク 0.005 c/s 0.01 c/s 0.002-0.008 c/s
読みだし時間 10-20ms 1-10s 1ms
空間分解能 50-100μm 18-30μm 40-70μm
─────────────────────────────────」
(2頁23行〜3頁表1)



「3.1 検出器の選択

多重検出器のうち,アナログ検出器であるIPDAやCCDは,強いパルス・ノイズに対し





てそのエネルギーに比例した応答を示すので,通常は,長時間微弱な信号を積算しているうち

にパルス・ノイズがスペクトルのあちこちに現れ,無視できない数になってしまう。経験的に

はこれは光電子増倍管換算でチャンネルあたり毎秒0.001−0.01カウントのノイズにな

る。これらは主として宇宙からの高エネルギー粒子線によるものなので,避けることは困難で

ある。ひとつの対策として測定を数回繰り返し,再現しないピークについてはこれを取り除く,

ソフトウエアによる解決方法があるにはあるが,信号そのものを損なうおそれもあり,抜本的

な解決策とはいえない。これに対して,PS−PMTのようなデジタル検出器においては,信

号は常にフォトン・カウンティングによってひとつひとつ数えられている。普通は波高弁別器

によってエネルギーの高いもしくは低いノイズと正しい信号とを選別して測定しており,また

たとえ宇宙線ノイズがはいったとしても1カウントと数えられるだけである。今回我々は超微

弱信号の検出を目的としているので,以上の理由によりPS−PMTを採用することにした。

但し,量子効率の絶対値や赤外域の感度などを重んじるならばCCD検出器の方が優れている

など,目的によって選択は異なってくることを注意しておく。(3頁12行〜4頁8行目)


「3.2 二次元検出器と非点収差補正

グレーティングを使用した分光器では,レンズのような透過型光学素子ではなく球面鏡のよ

うな反射型光学素子を使わざるを得ないので,同軸光学系を使用することができず,非点収差

の問題が生じる。球面鏡の法線方向と光の入射方向のなす角 α が0でない場合には,入射面内

とそれに垂直な方向とで,焦点距離が異なってくる。焦点距離をfとする時,この焦点距離の

差はf・sin2α で与えられる。本来ならばそれぞれに対応した曲率半径を持つ楕円面鏡を使用す

ることにより,非点収差のない光学系を形成すべきである。しかし,通常の分光器ではこれを

省略し,上記の入射面内の焦点がスリットの位置に来るように設計する。入口スリット上の点

光源は,出口スリット上でスリットの長さ方向(以下Y方向と呼ぶ)に線状に広がるが,光の

分散方向(以下X方向と呼ぶ)に対しては焦点が得られているので,sin2α《1の近似が成り

立つ範囲で,分光器の性能としては一応問題がない。光学系をできるだけコンパクトに設計し

明るさは損なわない範囲でαを小さくするとか,ダブル分光器ではふたつの分光器によって生

じる非点収差が互いにキャンセルするように光学系を立体的に折り返すように配置するなどの





工夫が知られている。出口スリットの像は厳密には線状ではなく少し弓形の像になるので,弓

形のスリットを使用するなどの技術も開発されている。

単チャンネルの検出器や一次元検出器の場合には,このようなY方向への像の広がりは,検

出器の受光面の広がりの範囲内に納まってさえいれば,これを全て積算できるので問題はない。

しかし二次元検出器の場合にはこのことは装置全体の感度限界を考える上で重要である。二次

元検出ではY方向に信号を積算して,X方向の一次元検出器に変換して使用する。例えばCC

D検出器の場合には,この積算過程のことをビンニングと呼んでいる。ビンニングされる素子

の数をできるだけ減らすことにより,ノイズの取り込みを抑えることができる。この効果はP

S−PMT検出器の場合により顕著である。非点収差による像の広がりのため,Y方向に数百

チャンネル積算しなければならない場合には,第1表の比較に見られる通り,IPDAなどの

一次元検出器に比べて著しく高感度というわけではない。しかし,非点収差を補正して検出器

位置でのY方向の像の広がりを抑えることにより,この積算チャンネル数を減少させることが

できれば,実効的な感度ははるかに向上する。

PS−PMTのノイズは通常の光電子増倍管と同様に主として光電面付近での何らかの光ま

たは電子ノイズによっており,これは通常,毎秒10−20カウント程度である。従って,1

024×1024ピクセルの二次元配列でピクセル位置を特定すると,そこでのノイズはピク

セルあたり毎秒1−2×10−5カウントである。さて多重検出によるラマン分光においては,

PS−PMTは単なる一次元の多重検出器として用いられてきた。PS−PMTの受光面上で

スペクトルの方向をX軸にそれに垂直な方向をY軸に取ると,通常の分光器では,スペクトル

は各波長でY軸方向に200−400ピクセル分広がっており,これを足し合わせて一次元の

データとしている。Y軸方向に全1024ピクセル足し合わせたとしたら,各チャンネルでの

ノイズは毎秒1−2×10−2カウントとなり,信号の存在する中央の200−400ピクセル

分のみ足し合わせたとしても毎秒2−8×10−3カウントとなる。このようなノイズ・レベル

はIPDAや高感度CCDの値とそれほど違わず,これまで特にPS−PMTが他よりもとり

わけて超高感度であるとは考えられていなかったのはうなずける。

ところがもし,スペクトルのY軸方向への広がりを極端にせばめることができたとしたら,





チャンネルあたりのノイズは著しく減少するはずである。たとえばY軸方向への広がりを5ピ

クセル以下にすることができれば,チャンネルあたり毎秒5−10×10−5カウントのノイ

ズ・レベルとすることができ,IPDAやCCDにおける0.001−0.01カウントのパル

ス・ノイズも存在しないことから,極限的な微弱光の高感度ラマン分光が可能となる。(4頁


9行〜5頁22行目)

「3.3 高感度ラマン分光光学系

図1に我々の使用している分光光学系の概略を示す。トリプル・ポリクロメータ分光器とし

てはDilor社のモデルXYを使用した。前段フィルタ・ステージの差分散型ダブル分光器は50

cmと比較的長い焦点距離を持ち,低波数側でのレイリー散乱光などの除去率が良いと考えられ

る。後段のポリクロメータは入射側が50cm,出射側が60cmの焦点距離の集光系を用いて

いる。α は約6°と比較的小さく,ダブル分光器は互いに収差を打ち消すように設計されてい

る。

検出器としては,ストレート側にIPDA検出器(Dilor社のゴールドモデル)を,サイド側

に切り替え用の反射鏡を使ってPS−PMT(ITT社のモデルF4146M)を設置した。

両検出器の性能はミラーを切り替えて直接比較することができる。PS−PMTのフォトカソ

ード面はマルチアルカリを使用し,300−900nmで感度を持つ。500nmでの量子効率

は14%,位置分解能は半値全幅で52μm(約2チャンネル分)である。ペルチェ冷却器を

用いて−30℃に冷却した時のダーク・カウントは25mmφ 径のフォトカソード領域全体で

毎秒約9カウントである。この値は,25μm角の各ピクセルあたりで,毎秒7−9×10 −6

カウントに相当する。

非点収差補正は,入口スリットの手前にシリンドリカル・レンズの光学系を導入する外部補

正方式に依った。調整は,IPDAの代わりにモニター用のCCDカメラを設置して,Hgラン

プなどの単色光を光源とし,試料位置に置いたグリッド・パターンの像を観察して行った。非

点収差補正光学系の調整が完全に行われると,入口スリットのところでのグリッドの像がその

まま検出器の位置ではっきりした像に転送される。その精度は10μm以下であり,検出器の

ピクセル・サイズ25μmよりもずっと小さくできる。またレンズの色収差を考えると,波長





の変化に伴って補正レンズ系の位置を変化させる必要があるが,この値は実は400nmと90

0nmの間で1mm以下と非常に小さい。従って通常は多チャンネル検出器で一度に測定できる

領域が最大500−1000cm−1であることから,受光面上での色収差による像のぼけは無視

できる。むしろ検出器の受光面をどれだけ正確にポリクロメータの焦点面に一致させることが

できるかで測定精度が決まる。この時,PS−PMTの移動の自由度としては,焦点を合わせ

るための前後の移動とあおり2種,分光器の分散方向に正確に合わせるための回転の計4軸が

重要である。さらに,有効受光面を適切な位置に置くためのXY方向の平行移動と合わせて,

計6軸を再現性良く微調整できるように設計されている。(5頁23行〜6頁19行目)


「3.4 性能評価

先に述べたようなダーク・カウント数でノイズ・レベルを論じるやり方は,実は適正とはい

えない。ラマン装置の性能は,単に分光器や検出器の性能だけできまるものではなく,試料か

らの散乱光の集光光学系の能率をはじめ,試料に対する入射方法の工夫などがむしろ重要であ

ることも多い。また,ダブル分光器はトリプル分光器よりもずっと明るいので,ダークの絶対

値のみから優劣を論じることは危険である。そこで我々は,単結晶シリコンのフォノン・モー

ドの測定による分光器性能の評価法を提案した。今日,純度の高いシリコン・ウエーハを入手

することは容易であり,またその520cm−1のピークのスペクトルは試料によらず不変である。

従って,以下のような測定を行うことにより,あらゆる装置の実効的な性能比較が可能になる

と考えられる。

図2の(a)と(b)は,Ar+レーザの515nm線による励起で,シリコン(100)ウエーハの

520cm−1付近のピークの測定を行った時の,PS−PMTの二次元画像である。(b)は(a)

の一部を拡大してある。レーザ用のフィルター分光器をわざと取り外し,Ar+レーザからのプ

ラズマ発光線をも測定するようにしてある。全スペクトル領域で,Y方向への信号の広がりは

3−4ピクセルすなわち100μm以下である。この広がりは,測定時の入射スリット幅10

0μm(検出器位置で125μmに相当)と検出器の分解能52μmの和よりも小さい。図2の

(c)は(b)のデータを用いてY方向に5ピクセルずつ加算して得たラマン・スペクトルである。

図3と図4は,単結晶シリコンの520cm−1付近のピークについて,試料に入射されるレー





ザの強度を一桁づつ下げ,同時に測定時間を十倍づつ増大させながら測定した例である。この

ようにすれば,非常に微弱なラマン信号を再現性良く作り出すことができ,入射光学系を含め

た装置を定量的に評価することができる。ここでは入射光学系として顕微集光光学系を用い,

ビーム径を試料上で1μmに絞って測定した。100倍の対物レンズにより幅100μmの入口

スリット上に転送される。図3はPS−PMTを用いた測定結果で,図4には比較のため,ポ

リクロメータ出口のストレート方向に設置されたIPDAによる測定結果を示す。PS−PM

Tの場合には図2の時と同様にY方向に5ピクセルを加算した。IPDAによる測定では,1

0μW励起の時パルス・ノイズが無視できなくなってきており,1μW励起ではノイズのため

測定不能になっている。これらはそれぞれ光電子増倍管換算で毎秒0.1カウントと毎秒0.0

1カウントの信号強度に対応している。一方,PS−PMTでは,100nW励起の時には非常

に高いSN比で良好なスペクトルが得られており,10nW励起の時でも十分なSN比で信号が

検出されている。これらはそれぞれ毎秒0.001カウント,毎秒0.0001カウントの信号

強度に相当している。10nW励起のデータからノイズ・レベルは毎秒4−5×10−5カウン

トと見積もられる。これは非点収差補正を行わなかった場合に比べて30乃至60分の1のノ

イズになっている。補正のない場合には1μW励起でも信号とノイズの強度がほぼ等しくなり,

従ってIPDAの場合とけた違いに高感度というわけではない。このことは従来からの報告と

整合している。(6頁20行〜8頁14行目)























2 争点1(被告製品(ライン照明モード)が本件発明7の技術的範囲に属する

か),争点2(被告製品(スポット照明モード)が本件発明7の技術的範囲に属する

か)及び争点3(被告製品が本件発明8〜10及び13の技術的範囲に属するか)

について

当裁判所も,被告製品(ライン照明モード)は,本件発明7〜本件発明10及び

本件発明13の技術的範囲には属せず,一方,被告製品(スポット照明モード)は,

本件発明7〜本件発明10及び本件発明13の技術的範囲に属するものと判断する。

その理由は,次のとおりに原判決を補正するほかは,原判決の「事実及び理由」

欄の第3,1から3までに記載されたとおりである。

(1) 原判決103頁15行目から同16行目にかけての「明細書」の次に「(本

件訂正後のものを含む。」を加える。


(2) 原判決107頁6行目から同11行目までを削り,同23行目から同24

行目にかけての「読み取らないのであって,」の次に「原告参考図6の」を加える。

(3) 原判決109頁11行目から同17行目までを次のとおり改める。

「 控訴人らは,斜方寄与をも考慮しなければ,共焦点作用の有無を決定する

ことはできない旨を主張する。

しかしながら,スリットと光検出器の読取制限の双方によって,散乱光の

斜方寄与が排除されるサンプル上の位置があり得るとしても,そうでないサ

ンプル上の位置もまた多くあり,この後者の位置からの光は,ライン上に分

布することになる。そうであれば,光検出器の読取制限をしたところで,こ

の後者の位置からの光を区別して排除できない以上,Z軸方向の分解能が高

まるものではない。単に光検出器の読取制限によって排除される散乱光があ

り得るだけでは足りないのであって,光検出器の読取制限により第二の次元

の共焦点作用が生じていなければならないのである。

控訴人らの上記主張は,採用することができない。」

(4) 原判決110頁7行目の「下から4〜8行」 「下から8〜4行」
を に改め,




同18行目の「VOL.35,NO.7」の次に「,1169−1185頁」を加える。

(5) 原判決111頁4行目末尾に「また,『列数』は,光検出器の読取幅を,

光検出器のピクセルの列数で表したものである。」を加える。

(6) 原判決114頁1行目の「J.Opt.Soc.Am.A」の次に「,171−175頁」

を,同7行目の「認められる。)
〕」の次に「の90頁」をそれぞれ加え,同1

1行目の「直径」を「直径が」に改め,同15行目の「乙29号証」の次に

「の4065頁」を,同20行目の「甲24号証の」の次に「90頁の」を

それぞれ加える。

(7) 原判決117頁13行目の「G−2」の次に「,G−2@,G−2A,G

−2B」を加える。

(8) 原判決119頁4行目の「及び10」を削る。



3 争点4−5(乙16号証を主引例とする進歩性欠如の有無)について

事案にかんがみて,まず,争点4−5について検討する。

(1) 乙16発明の認定

前記1(2)によれば,乙16発明は,次のとおりのものと認められる。

【a】試料にAr レーザの515nm線のスポット光を照射して散乱光を得る
手段と,

【b】前記散乱光を分光するトリプル・ポリクロメータ分光器を含む分光光学系

と,

【c】25μm角の各ピクセルを有するPS−PMT(位置検出型光電子増倍管)

と,

【d】前記分光されたスペクトルの少なくとも一つの成分を前記PS−PMTに

通し,前記試料からの散乱光を前記PS−PMTに合焦させる手段と,

【e】を具備する超高感度ラマン分光装置であって,

【f】前記試料に照射されたスポット光からの散乱光は,100μm(検出器位




置では125μmに相当)の幅の入射スリットにおいて,前記入射スリットの手前

に導入されたシリンドリカル・レンズの光学系を介して前記入射スリットの幅方向

において焦点に絞り込まれて前記入射スリットを通過し,

【g−1】前記PS−PMTのY方向への信号の広がりが3〜4ピクセル,すな

わち100μm以下であって,前記PS−PMTのY方向の5ピクセルの領域で受

ける光が検出され,

【g−2】前記試料からの散乱光が合焦させられる前記PS−PMTの前記領域

が前記入射スリットを横切る方向に延在しており,

【g−2@】前記試料に照射されたスポット光からの散乱光は,前記入射スリッ

トにおいて,入射スリットの手前に導入されたシリンドリカル・レンズの光学系を

介して入射スリットの幅方向において焦点に絞り込まれて前記入射スリットを通過

するものであって,前記シリンドリカル・レンズの光学系の働きにより,回折格子

(グレーティング)を使用した分光器で使われている球面鏡のような反射型光学素

子により生じる,前記PS−PMT上での非点収差の補正が行われるものであり,

【g−2A】前記試料からの散乱光を集光するレンズは,前記試料にスポット光

を照射するのに用いられておらず,

【g−2B】前記PS−PMTが光検出器として用いられている

【h】超高感度ラマン分光装置。

(2) 本件発明7と乙16発明との一致点

本件発明7と乙16発明とを対比すると,乙16発明の「試料」は本件発明7の

「サンプル」に相当し,以下同様に,「スポット光」は「光」に,「散乱光」は「散

乱光のスペクトル」に,
「前記散乱光を分光するトリプル・ポリクロメータ分光器を

含む分光光学系」は「前記スペクトルを分析する手段」に,
「25μm角の各ピクセ

ルを有するPS−PMT」は「光検出器」に,
「超高感度ラマン分光装置」は「分光

分析装置」に,「入射スリット」は「スリット」にそれぞれ相当する。

乙16発明は,薄膜と検出器の間で共焦点光学系を形成していることが読み取れ




るので(2頁34〜39行目,8頁16〜17行目,図1,図6),乙16発明にお

いて「前記試料からの散乱光をPS−PMTに合焦させる手段」
(構成d)は,前記

試料の所与の面からの散乱光をPS−PMTに合焦させるとともに,試料の他の面

から散乱された光をPS−PMTに合焦させない手段でもある。したがって,乙1

6発明は,構成要件Dの「前記サンプルの所与の面から散乱された光を前記光検出

器の所与の領域に合焦させ前記サンプルの他の面から散乱された光を前記光検出器

に合焦させない手段」を備えている。

また,乙16発明は,試料からの3〜4ピクセルの広がりの散乱光をPS−PM

TのY方向の5ピクセルの領域に合焦させて検出しているから(構成d,f,g−

1),構成要件G−1の「前記光検出器の前記所与の領域で受ける光が,前記所与の

領域外で受ける光を含まずに,またはこの光と分離して検出され」とは,
「前記光検

出器の前記所与の領域で受ける光が」「検出され」るとの限度で一致する。

そうすると,本件発明7と乙16発明は,次の点で一致する。

【A】サンプルに光を照射して散乱光のスペクトルを得る手段と,

【B】前記スペクトルを分析する手段と,

【C】光検出器と,

【D】前記分析されたスペクトルの少なくとも一つの成分を前記光検出器に通し,

前記サンプルの所与の面から散乱された光を前記光検出器の所与の領域に合焦させ

前記サンプルの他の面から散乱された光を前記光検出器に合焦させない手段と

【E】を具備する分光分析装置であって,

【F´】前記光はスリットを通過し,

【G−1´】前記光検出器の前記所与の領域で受ける光が検出される

【H】分光分析装置。

(3) 本件発明7と乙16発明の相違点

本件発明7と乙16発明は,次の点で一応相違する(相違点1は欠番)。

ア 相違点2




構成要件Fについて,本件発明7のスリットは,第一の次元で共焦点作用をもた

らすのに対し,乙16発明の入射スリットは,100μmの幅であって,散乱光が,

シリンドリカル・レンズの光学系を介して入射スリットの幅方向において焦点に絞

り込まれているものの,第一の次元での共焦点作用をもたらしているかどうか明記

がない点。

イ 相違点3

構成要件G−1及びG−2について,本件発明7の光検出器の所与の領域は,所

与の領域で受ける光が,所与の領域外で受ける光を含まずに,又はこの光と分離し

て検出され,第一の次元を横切る第二の次元で共焦点作用をもたらすように形成さ

れているのに対し,乙16発明のPS−PMTのY方向の5ピクセルの領域は,入

射スリットを横切る方向に延在し,試料からの散乱光が合焦させられる領域である

が,この領域外で受ける光を含まずに,又はこの光を分離して検出するのか,また,

第二の次元で共焦点作用をもたらしているのかどうか明記がない点。

ウ 相違点4

構成要件G−2@について,本件発明7のサンプルの所与の面の焦点からの散乱

光は,スリットにおいてスポットとしての焦点に絞り込まれてスリットを通過し,

サンプルの所与の面の前記焦点の前又は後で散乱される光は,スリットにおいて焦

点を結ばないのに対し,乙16発明の試料からの散乱光は,入射スリットの手前に

導入されたシリンドリカル・レンズの光学系を介して入射スリットの幅方向におい

て焦点に絞り込まれて前記入射スリットを通過する構成である点,及び,乙16発

明の試料の所与の面の焦点の前又は後で散乱された光は,入射スリットにおいて焦

点を結ばないのかどうか明記がない点。

エ 相違点5

構成要件G−2Aについて,本件発明7では,サンプルに照射するのとサンプル

からの散乱光を集光するのとに同一のレンズが用いられているのに対し,乙16発

明ではそのような構成ではない点。




オ 相違点6

構成要件G−2Bについて,本件発明7では,光検出器が電荷結合素子であるの

に対し,乙16発明ではPS−PMTである点。

(4) 相違点の判断

ア 相違点2について

(ア) 検討

「結像光学入門」
(1988)95〜97頁(甲20)には,レンズ系により結像

したとき光が集中している領域である「エアリーディスク」の直径d,光の波長λ,

像側のレンズの分解能を定める指数である開口数「NA像側」との間に

d=1.22λ/NA像側
との関係があるとの記載がある(96頁4−27式)。

また,対物レンズの倍率をMとして,NA 物体側=NA像側×Mであると認められ
るから(97頁4−28式,4−29式),

d=(1.22×λ/NA物体側)×M
となる。

ここで,乙16発明において,サンプルからスリットまでの倍率Mは100倍で

あるから(7頁8〜9行目),NA物体側を最大値である1とすると(NA物体側は空
気中では1を超えないから,エアリーディスク径としては最小値が算出される。,


Ar+レーザの515nm線のスリット上でのエアリーディスク径の最小値d minは,
次のとおり,63μmである。

dmin=(1.22×λ/NA物体側 max)×M
=(1.22×0.515/1)×100

=63[μm]

また,ラマン散乱光(ストークス散乱光。以下同じ。)の波長λ´は光源光のレー

ザの波長λよりも長いから,ラマン散乱光によって形成されるスリット上でのエア

リーディスク径の最小値は,上記dminよりも大きい。




そして,乙16発明の入射スリットの幅は,100μmであるから(7頁36行

目) スリット幅と,
, ラマン散乱光によってスリット幅方向で形成されるエアリーデ

ィスク径との比は1.59(100/63)よりも大きくなることはない。

しかるところ,特開平2−247605号公報(甲21)には,
「検出器の面積を,

その半径がエアリディスクと同じ,または,エアリディスクの2倍まで広げた場合,

…3次元分解能をもっていることがわかる。このような光学系は,一様照明落射型

蛍光顕微鏡が全く分解をもたなかったz方向のみに構造の変化をもつ試料に対して

も分解をもつ。」との記載(5頁左上欄6〜12行目)が,甲22には,「エアリー

ディスクより2倍広い検出器を有する顕微鏡も,2μmの分解能で長さ方向の構造

を分解することができる。」との記載(172頁右欄49〜51行目)がある。

また,乙29には,

△x(FWHM)=0.51×λ/NA

との記載があり(4065頁左欄),このNAはNA像側であると解されるから,

△x(FWHM)=(0.51×λ/NA物体側)×M
となる。

これと,エアリーディスクの直径

d=(1.22×λ/NA物体側)×M
とを比較すると,エアリーディスクの直径は,そのΔx(FWHM)の大きさの約

2.4倍(1.22/0.51=2.392)であると認められる。

そして,甲24には,FWHMを1とした場合の直径6の検出ピンホールが回折

限界エアリー分布の中に示されているから,ピンホールの大きさがエアリーディス

クの直径の2.5倍(6/2.4=2.5)までは,共焦点作用を有することが示され

ていると認められる。

そうすると,スリット幅とエアリーディスク径との比が1.59である乙16発明

においては,乙16発明の入射スリットにおいて,第一の次元(スリットの幅方向)

での共焦点作用がもたらされているものと認められる。




したがって,相違点2は,実質的な相違点ではない。

(イ) 控訴人らの主張に対して

a 共焦点作用の記載・示唆について

@ 控訴人らは,乙16発明は共焦点作用に関するものではなく,乙16発明の

構成で共焦点作用が生じているとしても,それは偶然に生じているにすぎないから,

当業者は,乙16発明の入射スリットにおいて共焦点作用が生じていると認識する

ものではない旨を主張する。

しかしながら,入射スリットの幅が100μmであり,対物レンズの倍率が10

0倍であり,光源光の波長が515nmであるのは,乙16に明示的に記載された条

件であり,また,共焦点作用が生じているか否かは,これら条件に基づき算式を用

いて自動的に導かれるものであるから,共焦点作用の存在は,乙16発明から当然

に導かれる事項にほかならない。そして,スリットを備えた1次元空間フィルタ自

体及びこのようなスリットを備えた1次元空間フィルタが共焦点作用をもたらすこ

とは,本件特許の優先日前の技術常識である。そうであれば,乙16に接した当業

者は,乙16発明の入射スリットにおいて共焦点作用が生じていると認識するもの

である。

控訴人らの上記主張は,採用することができない。

A 控訴人らは,乙16発明の入射スリットが,波長分解能の調整を行うもので

あり,そのことが技術常識である一方で,その入射スリットが共焦点作用をもたら

すことは技術常識ではないことを前提とする主張をするが,その前提が採用し得な

いことは,上記@に認定判断のとおりである。波長分解能の調整を行うスリットで

あるからといって共焦点作用が否定されるわけではなく,両者は両立し得るもので

ある。

したがって,控訴人らの上記主張は,採用することができない。

b シリンドリカル・レンズの作用について

控訴人らは,乙16発明のシリンドリカル・レンズの作用によって,乙16発明




の入射スリットにおいては共焦点作用が生じていない旨を主張する。

乙16発明では,試料からの散乱光は,非点収差(加工精度等によりレンズの直

交する軸の焦点距離が違う現象)を補正するために,入射スリットの手前に導入さ

れたシリンドリカル・レンズ(円柱状の屈折面を持つレンズ)の光学系を介して,

入射スリットの長さ方向(Y軸方向)において焦点距離を調整されて,入射スリッ

トを通過する。これは,回折格子(グレーティング)を使用した分光器で使われて

いる球面鏡のような反射型光学素子により生じるPS−PMT(位置検出型光増倍

管)上におけるY軸方向の非点収差を,シリンドリカル・レンズの光学系によって

敢えて与えられたY軸方向での非点収差により,解消させるものであると解される。

そうすると,入射スリットの手前にシリンドリカル・レンズが存在する限りは,

それによって,エアリーディスクがスリットの長さ方向に楕円状となっていること

となり,スリットの長さ方向には焦点を結んでいるとはいえないことになる。

しかしながら,乙16発明のシリンドリカル・レンズは,スリットの幅方向に非

点収差を与えているものではないのであり,試料からの散乱光は,スリットの幅方

向には焦点を結んでいる。そして,この場合のエアリーディスク径の短径(幅方向)

は,上記イにおいて算定した数値を下回るものではないと認められるから,やはり,

第一の次元の共焦点作用は生じているものと認められる。

したがって,控訴人らの上記主張は,採用することができない。

c 原審での主張について

控訴人らは,上記(ア)でのエアリーディスク径を,

dmin=(1.22×0.515/1)×100=63[μm]
と算定したことに対し,@λ=0.515は光源光の波長であるから,上記計算式の

うちの(1.22×0.515/1)は,原判決別紙原告参考図10−1及び同10−

2の「AD1」
(サンプルの位置上のエアリーディスク径)を求めたことになり,A

また,倍率M=100は,サンプルからスリットまでの倍率であるから,上記計算

式1.22×0.515/1×100は,
「明るい領域2」
(AD1に対応するスリッ




ト上の領域)の大きさを求めたものであると主張する。

しかしながら,上記計算式は,サンプルからの散乱光のスリット上のエアリーデ

ィスク径を求めるに当たり,より小さなエアリーディスク径が算出される数値とし

て,乙16に明示されたものを用いたにすぎないのであり,用いた数値に対応する

箇所の径を算定したものではない。

したがって,控訴人らの上記主張は,採用することができない。

イ 相違点3について

@ 乙16には,
「前段フィルタ・ステージの差分散型ダブル分光器は50cmと

比較的長い焦点距離を持ち,低波数側でのレイリー散乱光などの除去率が良いと考

えられる。後段のポリクロメータは入射側が50cm,出射側が60cmの焦点距

離の集光系を用いている。」と記載されていることから(5頁25〜28行目),乙

16発明において,入射スリットの位置から光検出器の位置までの倍率は,1.2倍

(60cm/50cm)であると認められる。よって,Ar レーザの515nm線

の光検出器上でのエアリーディスク径の最小値dminは,76μm(63μm×1.
2)である。また,ラマン散乱光の波長λ´は光源光の波長λよりも長いから,ラ

マン散乱光によって形成される光検出器上でのエアリーディスク径の最小値は,d

minよりも大きくなる。他方,乙16発明のPS−PMT検出器での読取り幅は,

125μm(25μm×5ピクセル)であるから(6頁1行目,6頁末行〜7頁2

行目,図2の説明文),光検出器の読取り幅と,ラマン散乱光によって光検出器上で

形成されるエアリーディスク径との比は1.64(125μm/76μm)よりも大

きくなることはない。そして,上記(1)イに照らして,光検出器の読み取り幅がエア

リーディスクの大きさの2.5倍までの場合には,共焦点作用がもたらされるものと

いい得る。

A また,乙16には,
「入口スリット上の点光源は,出口スリット上でスリット

の長さ方向(以下Y方向と呼ぶ)に線状に広がるが,光の分散方向(以下X方向と

呼ぶ)に対しては焦点が得られている」
(4頁18〜20行目)「単チャンネルの検





出器や一次元検出器の場合には,このようなY方向への像の広がりは,検出器の受

光面の広がりの範囲内に納まってさえいれば,これを全て積算できるので問題はな

い。しかし二次元検出器の場合にはこのことは装置全体の感度限界を考える上で重

要である。二次元検出ではY方向に信号を積算して,X方向の一次元検出器に変換

して使用する。(4頁27〜31行目)「スペクトルのY軸方向への広がりを極端
」 ,

にせばめることができたとしたら,チャンネルあたりのノイズは著しく減少するは

ずである。たとえばY軸方向への広がりを5ピクセル以下にすることができれば,
−5
チャンネルあたり毎秒5−10×10 カウントのノイズ・レベルとすることが
でき,IPDAやCCDにおける0.001−0.01カウントのパルス・ノイズも

存在しないことから,極限的な微弱光の高感度ラマン分光が可能となる。(5頁1


7〜22行目)「非点収差補正光学系の調整が完全に行われると,入口スリットの


ところでのグリッドの像がそのまま検出器の位置ではっきりした像に転送される。

その精度は10μm以下であり,検出器のピクセル・サイズ25μmよりもずっと

小さくできる。(6頁6〜9行目)
」 「全スペクトル領域で,Y方向への信号の広がり

は3−4ピクセルすなわち100μm以下である。この広がりは,測定時の入射ス

リット幅100μm(検出器位置で125μmに相当)と検出器の分解能52μm

の和よりも小さい。図2の(c)は(b)のデータを用いてY方向に5ピクセルずつ加

算して得たラマン・スペクトルである。(6頁35行〜7頁1行目)との記載があ


る。

したがって,乙16発明では,スリットの長さ方向(Y軸方向)に広がる光を非

点収差補正光学系で光検出器の位置で結像させ,PS−PMTのY方向の5ピクセ

ルの領域のみを加算しているから,
「光検出器の所与の領域で受ける光が,前記所与

の領域外で受ける光を含まずに」
「所与の領域は第一の次元(X軸方向)を横切る第

二の次元(Y軸方向)で共焦点作用をもたらすように形成されて」いるといえる。

B なお,乙16発明は,非点収差補正光学系の調整により,Y方向への信号の

広がりを3〜4ピクセルに抑えている。これは,回折格子(グレーティング)を使




用した分光器では,反射型光学素子を使わざるを得ないために非点収差が発生し,

二次元検出器上でY方向への像の広がりが大きくなってしまうので,Y方向に信号

を積算する(ビンニング)ところ,ビンニングによりノイズを大量に取り込んでし

まうと感度が低下するという問題が発生するために,非点収差を補正して,ビンニ

ングされる素子の数をできるだけ減らすことによりノイズの取り込みを抑えるよう

構成したものである(4頁10行〜5頁2行目) このビンニングされる素子の数を


できるだけ減らすことによりノイズの取り込みを抑えるという効果は,直接には,

非点収差補正光学系の調整から生じるものであるが,ピンホールを用いた場合とは

異なり,乙16発明のPS−PMTは,Y軸方向の5ピクセルの領域以外の領域に

おいても光を受け得る構成となっているから,上記領域外で受ける光を含まずに,

又はこの光を分離して検出する構成になっているといえる。

C 以上から,相違点3は実質的な相違点ではない。

ウ 相違点4について

(ア) 検討

乙31には,凹面鏡で光軸外に集光されることにより生じる非点収差を補正する


ために,CCDカメラの前に円柱レンズ(図1に図示されない)が用いられた。」と

の記載があるほか(乙31の220頁左欄31〜34行目〔訳文2頁7〜9行目〕,


シリンドリカル・レンズを分光器の内部に配置する構成も周知の事項であるといえ

(乙42の1054頁右欄25行〜1055頁左欄7行目,Fig.1,乙43の上欄

1〜2行目,乙44の455頁左欄23〜28行目,FIG.1,乙45の第2図),

シリンドリカル・レンズの位置を,スリットの前後のどこに配置するかは,当業者

にとって設計的事項というべきものであり,スリットの前に配置する構成をしたこ

とによる格別の効果も認め難い。

そして,シリンドリカル・レンズの位置を分光器の後で光検出器の前に移動させ

た場合,乙16発明において,サンプルの所与の面の焦点からの散乱光は,入射ス

リットにおいてスポットとしての焦点に絞り込まれて入射スリットを通過し(入射




スリットでスポットとしての焦点に絞り込まれていなければ,光検出器の前に配置

されたシリンドリカル・レンズによって非点収差を補正することができないのであ

るから,必然的な変更である。,分光器によって生じたY軸方向の非点収差がシリ


ンドリカル・レンズによって解消させられて光検出器に合焦されることになる。

また,入射スリットにおいて共焦点作用を有する乙16発明において,観測した

い試料の面に焦点を合わせれば,試料の所与の面の焦点の前又は後で散乱された光

が入射スリットにおいて焦点を結んでいないことは自明である。

そうすると,相違点4は,容易に想到し得るといえる。

(イ) 控訴人らの主張に対して

控訴人らは,当業者が乙16発明のシリンドリカル・レンズを入射スリットの手

前から光検出器の手前に配置する構成に変更するには阻害要因がある,又は積極的

な動機付けはない旨を主張する。

しかしながら,上記(ア)のとおり,乙16発明においてシリンドリカル・レンズを

どこに配置するかは設計事項にすぎないものと認められる。そして,控訴人らがる

る指摘する事項自体も,いずれも設計事項にすぎないものであり,当業者が,乙1

6発明の入射スリットの位置を変更することを妨げるものではない。

したがって,控訴人らの上記主張は,採用することができない。

エ 相違点5について

(ア) 検討

乙30の図(302頁)及び乙31の図(219頁)には,サンプルに光を照射

するのと,サンプルからの散乱光を集光するのとに同一のレンズを用いていること

が記載されており,このようなことは,本件特許の優先日前の周知技術であったと

認められる。そして,構成を簡単にするという十分な動機付けも存するから,相違

点5に係る構成は,当業者にとって容易想到であったと認められる。

控訴人らは,構成を簡単にするという動機付けの記載が先行文献にない旨を主張

するが,このような動機付けは,技術分野を超えた普遍的要請であるから,先行文




献にて示唆されるまでの必要性はない。

したがって,控訴人らの上記主張は,採用することができない。

(イ) 控訴人らの原審での主張に対して

控訴人らは,試料にレーザを照射するのと,当該試料からの散乱光を集光するの

とに同一のレンズを用いるようにしたとすると,どのようなミラーを用いたとして

も,当該ミラー散乱光が当該ミラーによってある程度ブロックされることになって,

極限的な微弱光の高感度ラマン分光の実現の障害となるから,阻害事由がある旨を

主張する。

しかしながら,ラマン分光装置は,一般に微弱光を対象としているが,照射用レ

ンズと集光用レンズを共用している乙30及び乙31のラマン分光装置は,いずれ

も,ラマン散乱光がミラーを透過する構成にはなっておらず,乙16発明のミラー

の配置(ミラーを透過するラマン散乱光を一部にした構成)が,極限的な微弱光の

高感度ラマン分光を実現するための必須の構成であるとはいえず,ラマン散乱光が

ミラーを透過するか否か,どのように透過させるか,あるいはミラーをどのように

配置するかは,ラマン分光装置の用途,精度,目的等に応じて適宜になすべきこと

といえる。

そうすると,ミラーがラマン散乱光の透過を妨げることがあるとしても,そのこ

とは,乙16発明において,上記周知技術を適用して相違点5に係る本件発明7の

構成にすることを阻害するとはいえない。

したがって,控訴人らの上記主張は,採用することができない。

オ 相違点6について

乙16発明では,光検出器としてPS−PMT検出器が用いられているが,これ

は,デジタル検出器であるPS−PMTが,CCDのようなアナログ検出器とは異

なり,宇宙線ノイズが入ったとしてもそのエネルギーに比例した応答がされるわけ

ではなく,1カウントと数えられるだけであるため,超微弱信号の検出の目的に沿

っているからである(3頁12行〜4頁6行目)。




乙16発明では,上記のとおり,非点収差を補正して,ビンニングされる素子の

数をできるだけ減らすことによりノイズの取り込みを抑えるものであるが(4頁1

0行〜5頁2行目)CCDの場合にノイズの値がそれほど大きいとされているわけ


ではない(表1)。かえって,乙16には,「但し,量子効率の絶対値や赤外域の感

度などを重んじるならばCCD検出器の方が優れているなど,目的によって選択は

異なってくる」との記載(4頁6〜8行目)がある。

以上に照らすと,乙16発明において,PS−PMTに代えてCCD検出器を採

用することは,当業者にとって容易に想到できることであると認められる。

控訴人らは,乙16発明の目的はPS−PMTを用いなければ達成できない旨を

主張するが,上記記載に照らして,採用することはできない。

カ まとめ

以上のとおり,相違点2及び相違点3は実質的な相違点ではなく,相違点4,相

違点5及び相違点6に係る構成は,当業者にとって容易想到であったと認められる

(相違点1は欠番である。。


したがって,本件発明7は,乙16発明に基づいて容易に想到することができる

から,進歩性を欠如する。



4 争点5(本件発明8〜10及び13に係る特許が特許無効審判により無効に

されるべきものであるか)について

(1) 本件発明8につき

乙16発明におけるPS−PMTのY方向の5ピクセルの領域が細長いことが明

らかであるから(構成要件Iは,その方向を限定しているものではない。 ,本件発


明8と乙16発明とは,構成要件Iについて一致する。

上記3(4)のとおり,本件発明7は,乙16発明に基づいて容易に想到し得るから,

構成要件Jも,容易に想到し得る。

そうすると,本件発明8は,乙16発明に基づいて容易に想到し得るから,進歩




性を欠如する。

(2) 本件発明9につき

乙16発明におけるPS−PMTの5ピクセルの細長い領域は,入射スリットを

横切る方向に延在しているから(構成要件g−2),本件発明9と乙16発明とは,

構成要件Kにおいて一致する。

上記3(4)及び上記(1)のとおり,本件発明7及び本件発明8は,乙16発明に基

づいて容易に想到し得るから,構成要件Lも,容易に想到し得る。

そうすると,本件発明9は,乙16発明に基づいて容易に想到し得るから,進歩

性を欠如する。

(3) 本件発明10につき

乙16発明におけるPS−PMTはピクセルのアレイを備えたものであることが

明らかであるから,本件発明10と乙16発明とは,構成要件Mにおいて一致する。

上記3(4)及び上記(1)(2)のとおり,本件発明7,本件発明8及び本件発明9は,

いずれも乙16発明に基づいて容易に想到し得るから,構成要件Nも,容易に想到

し得る。

そうすると,本件発明10は,乙16発明に基づいて容易に想到し得るから,進

歩性を欠如する。

(4) 本件発明13につき

乙16発明は超高感度ラマン分光装置であるから(構成要件h) 本件発明13と


乙16発明とは,構成要件Oにおいて一致する。

上記3(4)及び上記(1)(2)(3)のとおり,本件発明7,本件発明8,本件発明9及び

本件発明10は,いずれも乙16発明に基づいて容易に想到し得るから,構成要件

P(本件発明7〜本件発明10に係る部分に限る。)も,容易に想到し得る。

そうすると,本件発明13(本件発明7〜本件発明10を引用する部分に限る。)

は,乙16発明に基づいて容易に想到し得るから,進歩性を欠如する。

(5) まとめ




本件発明8〜本件発明10及び本件発明13(本件発明7〜本件発明10を引用

する部分に限る。)は,乙16発明に基づいて容易に想到し得るから,いずれも,進

歩性を欠如する。



5 訂正の再抗弁について

(1) 時機に後れた攻撃防御方法の主張について

被控訴人は,控訴人らによる後記(2)の新たな訂正の再抗弁の主張が時機に後れた

攻撃防御方法に当たる旨を主張するが,控訴人らによる当該主張は既に提出済みの

証拠関係に基づき判断可能なものであるから,訴訟の完結を遅延させるものとはい

えない。

したがって,新たな訂正の再抗弁の主張を時機に後れた攻撃防御方法として却下

することはしない。

(2) 訂正審判請求又は訂正請求の必要性につき

ア 控訴人らの主張

控訴人らは,当審における新たな主張として,原判決が認めた乙16発明に基づ

進歩性欠如による無効を理由とする特許法104条の3に基づく抗弁(以下「無

効の抗弁」という。)に対して,訂正の再抗弁を主張し(以下「新たな訂正の再抗弁」

という。,本件訂正後の特許請求の範囲の請求項7に「前記光検出器は電荷結合素


子であることを特徴とする分光分析装置。 とあるのを
」 「前記光検出器は電荷結合素

子であり,前記分光分析装置は,前記サンプルの前記所与の面を前記サンプルの第

1の面として,前記サンプルの当該第1の面の焦点を分析し,かつ,前記サンプル

の前記所与の面を前記サンプルの第2の面として,前記サンプルの当該第2の面の

焦点を分析するための共焦点分光分析装置であることを特徴とする分光分析装置。」

に訂正する(請求項7の記載を引用する請求項8〜13も同様に訂正する。 ととも


に,訂正明細書5頁17行〜6頁2行目に「前記光検出器は電荷結合素子であるこ

とを特徴とする分光分析装置を提供する。 とあるのを
」 「前記光検出器は電荷結合素




子であり,前記分光分析装置は,前記サンプルの前記所与の面を前記サンプルの第

1の面として,前記サンプルの当該第1の面の焦点を分析し,かつ,前記サンプル

の前記所与の面を前記サンプルの第2の面として,前記サンプルの当該第2の面の

焦点を分析するための共焦点分光分析装置であることを特徴とする分光分析装置を

提供する。」に訂正すると述べる。

そして,控訴人らは,訂正の再抗弁として,当該訂正により原判決が認めた無効

理由が解消することと,被告製品が訂正後の本件発明の各構成要件を充足すること

を主張するが,訂正の再抗弁を主張するに際して訂正審判請求又は訂正請求(以下

「訂正請求等」という。)を行っている必要性はなく,訴訟の当事者(特許権者)が訂

正請求等を行いたくても行えないような場合に訂正の再抗弁を認めないとすれば,

当該当事者の権利を不当に害することになると主張する。そこで,以下検討する。

イ 訂正請求等の必要性について

特許権侵害訴訟において,被告による抗弁として特許法104条の3に基づく権

利行使の制限が主張され,その無効理由が認められるような場合であっても,訂正

請求等により当該無効理由が回避できることが確実に予想されるようなときには,

「特許無効審判により無効とされるべきものと認められる」とはいえないから,当該

無効の抗弁の成立は否定されるべきものである。そして,無効理由の回避が確実に

予測されるためには,その前提として,当事者間において訴訟上の攻撃防御の対象

となる訂正後の特許請求の範囲の記載が一義的に明確になることが重要であるから,

訂正の再抗弁の主張に際しても,原則として,実際に適法な訂正請求等を行ってい

ることが必要と解される。

仮に,訂正の抗弁を提出するに当たって訂正審判等を行うことを不要とすれば,

以下のような弊害が生じることが予想される。すなわち,@当該訂正が当該訴訟限

りの相対的・個別的なものとなり,訴訟の被告ごとに又は被疑侵害品等ごとに訂正

内容を変えることも可能となりかねず,法的関係を複雑化させ,当事者の予測可能

性も害する。A訂正審判等が行われずに無効の抗弁に対する再抗弁の成立を認めた




場合には,訴訟上主張された訂正内容が将来的に実際になされる制度的保障がない

ことから,対世的には従前の訂正前の特許請求の範囲の記載のままの特許権が存在

することになり,特許権者は,一方では無効事由を有する部分を除外したことによ

る訴訟上の利益を得ながら,他方では当該無効事由を有する部分を特許請求の範囲

内のものとして権利行使が可能な状態が存続する。

したがって,訂正の再抗弁の主張に際しては,実際に適法な訂正請求等を行って

いることが訴訟上必要であり,訂正請求等が可能であるにもかかわらず,これを実

施しない当事者による訂正の再抗弁の主張は,許されないものといわなければなら

ない。なお,無効の抗弁が,実際に無効審判請求をしなくても主張できると解され

る一方で,訂正の再抗弁は,実際に訂正審判等をする必要が求められるわけである

が,これは,無効の抗弁が,客観的根拠を有する証拠等に基づいて主張する必要が

あるのに対し,訂正の再抗弁は,所定の要件さえ満たせば特許権者において随意の

範囲にて主張することが可能であることに由来する相違であって,両者の扱いに不

合理な差別があるわけではない。

ただし,特許権者が訂正請求等を行おうとしても,それが法律上困難である場合

には,公平の観点から,その事情を個別に考察して,訂正請求等の要否を決すべき

である。その理由は以下のとおりである。

ウ 例外となる背景事情

平成23年法律第63号による改正前の特許法(以下「旧特許法」という。)にお

いては,特許無効審判が特許庁に係属している場合,当該無効審判に係る審決取消

訴訟を提起した日から起算して90日の期間内に限り,訂正審判請求ができるとし

(旧特許法126条2項) 裁判所は,
, 当該訂正に係る特許を無効審判において審理

させることが相当であると認めるときには,事件を審判官に差し戻すことができる

と定めていた(旧特許法181条2項)。これらの規定は,裁判所から特許庁への柔

軟な差戻しを認めるとともに,特許権者において,当該審決に示された判断を踏ま

えて合理的な期間内に無効理由を回避する訂正をし,特許庁において,改めて訂正




後の特許の有効性を判断することにより,特許発明の保護を図るという利点をもた

らす一方で,特許権者が訂正審判請求を繰り返すことにより,審理又は審決の確定

が遅延するという問題点を有していた。そこで,平成23年法律第63号による改

正後の特許法(以下「新特許法」という。)は,審決取消訴訟提起後の訂正審判請求

を禁止し(旧特許法181条2項の削除,新特許法126条2項),併せて,無効審

判手続における審決予告制度(新特許法164条の2第2項)を導入し,特許権者

において,無効審判請求に理由があるとする予告審決を踏まえて訂正請求をするこ

とを可能とした(新特許法134条の2第1項164条の2第2項)。

したがって,新特許法下においては,裁判所に審決取消訴訟に提訴され,これが

係属している間,審理の迅速かつ効率的な運営のために,特許権者が訂正請求等を

行うことは困難となったものである。

また,旧特許法下においても,例えば,特許権侵害訴訟において被告が無効の抗

弁を主張するとともに,同内容の無効審判請求を行った後に,被告が,新たな無効

理由に基づく無効の抗弁を当該侵害訴訟で主張することが許され,その無効理由に

ついては無効審判請求を提起しないような例外的な場合は,既存の無効審判請求に

ついて訂正請求が許されない期間内であれば,特許権者において,新たな無効理由

に対応した訂正請求等を行う余地はないことになる(新特許法下においても同様で

ある。。


以上のような法改正経緯及び例外的事情を考慮すると,特許権者による訂正請求

等が法律上困難である場合には,公平の観点から,その事情を個別に考察し,適法

な訂正請求等を行っているとの要件を不要とすべき特段の事情が認められるときに

は,当該要件を欠く訂正の再抗弁の主張も許されるものと解すべきである。

そこで,上記特段の事情について具体的に検討する。

エ 本件における具体的事情

a 控訴人らは,平成22年11月16日,本訴を提起したところ,被控

訴人は,平成23年12月22日原審第6回弁論準備手続期日において,乙16発




明に基づく進歩性欠如を含む無効の抗弁を主張し,同日付けで控訴人らはこれに反

論した。その後,控訴人レニショウは,平成24年7月3日,本件訂正審判請求を

し,同年9月11日,本件訂正を認める審決が行われ,控訴人らは,平成24年9

月18日,原審において本件訂正に基づく訂正の再抗弁を主張した。

さらに,被控訴人は,平成24年11月5日,特許無効審判請求(無効2012

−800183号)をし,平成25年7月2日,無効不成立の審決が行われたこと

から,これに対する審決取消訴訟(知的財産高等裁判所平成25年(行ケ)第102

27号)を提起した。その後,平成25年8月30日,乙16発明に基づく進歩性

欠如を理由とする無効の抗弁を認めた原判決が行われ,控訴人らの請求が棄却され

た。

これに対し,控訴人らは,控訴を提起するとともに,当審における主張として新

たな訂正の再抗弁を主張した。

b 以上の経緯によれば,現時点において,知的財産高等裁判所に上記審

決取消訴訟が係属中である以上,特許権者である控訴人レニショウは,訂正審判

求及び訂正請求をすることはできない(特許法126条2項。同法134条の2

1項参照。。


しかしながら,控訴人らが,当審において新たな訂正の再抗弁を行って無効理由

を解消しようとする,乙16発明に基づく進歩性欠如を理由とする無効理由は,既

に原審係属中の平成23年12月22日に行われたものであり,その後,控訴人レ

ニショウは,平成24年7月3日に本件訂正審判請求を行ってその認容審決を受け

ている。また,被控訴人が平成24年11月5日に乙16発明に基づく進歩性欠如

を無効理由とする無効審判請求を行っていることから,控訴人レニショウは,その

審判手続内で訂正請求を行うことが可能であった。さらに,新たな訂正の再抗弁の

訂正内容を検討すると,本件発明である共焦点分光分析装置として通常有する機能

の一部を更に具体的に記載したものであって,控訴審に至るまで当該訂正をするこ

とが困難であったような事情はうかがわれない。




すなわち,控訴人レニショウは,乙16発明に基づく無効理由に対抗する訂正の

再抗弁を主張するに際し,これに対応した訂正請求又は訂正審判請求を行うことが

可能であったにもかかわらず,この機会を自ら利用せず,控訴審において新たな訂

正の再抗弁を主張するに至ったものと認められる。

そうすると,控訴人レニショウが現時点において訂正審判請求及び訂正請求をす

ることができないとしても,これは自らの責任に基づくものといわざるを得ず,訂

正の再抗弁を主張するに際し,適法な訂正請求等を行っているという要件を不要と

すべき特段の事情は認められない。

したがって,控訴人らの新たな訂正の再抗弁の主張は,その余の点について検討

するまでもなく,失当というべきである。



6 総まとめ

以上の次第で,その余の点について判断するまでもなく,控訴人らは,被控訴人

に対し,本件発明7〜本件発明10及び本件発明13に係る特許権を行使すること

ができない(特許法104条の3第1項)。



第5 結論

よって,その余の点について判断するまでもなく,控訴人らの本件請求は,いず

れも理由がない。

したがって,控訴人らの本件請求をいずれも棄却した原判決は相当であって本件

各控訴は理由がないから,主文のとおり判決する。



知的財産高等裁判所第2部





裁判長裁判官

清 水 節




裁判官

中 村 恭




裁判官

中 武 由 紀