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事件 平成 26年 (ワ) 3672号 特許出願願書補正手続等請求事件
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裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2014/09/11
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
判例全文
判例全文
平成26年9月11日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官

平成26年(ワ)第3672号 特許出願願書補正手続等請求事件

口頭弁論終結日 平成26年7月31日

判 決

千葉県君津市<以下略>

原 告 A

同訴訟代理人弁護士 角 謙 一

東京都千代田区<以下略>

被 告 新 日 鐵 住 金 株 式 会 社

千葉県君津市<以下略>

被 告 B

上記両名訴訟代理人弁護士 増 井 和 夫

橋 口 尚 幸

齋 藤 誠 二 郎

主 文

1 原告の被告新日鐵住金株式会社に対する補正手続請求を棄却

する。

2 原告の同被告に対する訴えのうち確認請求に係る部分を却下

する。

3 原告の被告Bに対する訴えのうち確認請求に係る部分を却下

する。

4 原告の同被告に対するその余の請求を棄却する。

5 訴訟費用は原告の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

1(1) 主位的請求





被告新日鐵住金株式会社(以下「被告会社」という。)は,特許庁に対

し,別紙発明目録記載の発明(以下「本件発明」という。)に係る特許出

願の願書に記載された発明者が原告である旨の補正手続をせよ。

(2) 予備的請求

原告と被告会社との間において,原告が本件発明の発明者(単独)であ

ることを確認する。

2 原告と被告B(以下「被告B」という。)との間において,原告が本件発

明の発明者(単独)であることを確認する。

3 被告Bは,原告に対し,150万円及びこれに対する平成26年4月4日

から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

本件は,本件発明に係る特許出願(以下「本件出願」という。)の願書に

発明者の一人として記載されている原告が,本件発明は原告の単独発明であ

ると主張して,本件出願の出願人である被告会社に対し,主位的に本件出願

の願書の補正手続を,予備的に本件発明が原告の単独発明であることの確認

を求めるとともに,本件出願の願書に発明者の一人として記載されている被

告Bに対し,本件発明が原告の単独発明であることの確認並びに発明者名誉

侵害不法行為に基づく慰謝料150万円及びこれに対する不法行為の後

である平成26年4月4日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定

の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

1 争いのない事実等(後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる

事実を含む。)

(1) 当事者

原告は,平成16年7月1日から平成22年6月30日まで及び同年1

2月1日から平成23年12月31日まで被告会社の関連会社である株式

会社日鐵テクノリサーチの従業員として勤務した。





被告会社は,鉄鋼の製造,販売等を目的とする株式会社であり,被告B

は被告会社の従業員である。

(2) 被告会社による特許出願

ア 本件発明の内容は別紙「特許請求の範囲」記載のとおりである。

イ 被告会社は,本件発明が職務発明であり,被告会社が原告の使用者か

ら本件発明について特許を受ける権利を譲り受けたとの認識の下に,平

成22年1月4日,本件出願をした。特許庁は,平成23年7月14日,

本件出願について出願公開をした。その公開特許公報には,本件発明の

発明者は原告及び被告Bである旨記載されている。

ウ 特許庁は,平成26年1月23日,本件出願について拒絶査定(以下

「本件拒絶査定」という。)をし,被告会社は,同月28日にその送達

を受けた。被告会社が拒絶査定不服審判を請求しなかったため,本件拒

絶査定は同年4月28日の経過をもって確定した。(甲3)

(3) 別件訴訟

原告は,本件発明は職務発明ではなくいわゆる自由発明であるとして,

被告会社に対し,特許を受ける権利の帰属の確認を求める訴え(東京地方

裁判所平成24年(ワ)第14905号。以下「別件訴訟」という。)を

提起した。(乙4)

2 争点及び争点に関する当事者の主張

(1) 争点1(本件出願の願書補正手続の可否)について

(原告の主張)

発明者拒絶査定の確定前に出願人に対し願書の補正手続請求をした場

合には,発明者発明者名誉権を救済するため,後に拒絶査定が確定した

としても,願書の発明者の記載を補正をすることができる。

本件発明は原告の単独発明であるところ,本件出願の願書には,原告と

被告Bの共同発明であると記載されているから,原告は,被告会社に対し,





本件出願の願書の補正手続を行うよう求めることができる。

(被告会社の主張)

特許出願についての拒絶査定が確定した後は当該出願に関し補正手続を

する余地はないから,原告が被告会社に対し願書の補正手続を求めること

はできない。

(2) 争点2(被告会社に対する確認請求の確認の利益の有無)について

(原告の主張)

前記(1)の願書補正手続請求が認められない場合,発明者である原告は,

特許庁に対し,特許証の発明者欄の訂正を求めることができ,そのために

は,被告会社との間で本件発明の発明者を確認する必要がある。そして,

被告会社は,本件発明が原告の単独発明であるという原告の主張を争って

いるから,被告会社との間で本件発明の発明者を確認する利益がある。

(被告会社の主張)

争う。

(3) 争点3(被告Bに対する確認請求の確認の利益の有無)について

(原告の主張)

特許庁に対し,前記(1)及び(2)のとおりの願書補正又は特許証の訂正を

求めるためには,本件出願の願書に発明者として記載されている被告Bと

の間で本件発明の発明者を確認する必要がある。そして,被告Bは,本件

発明が原告の単独発明であるという原告の主張を争っているから,被告B

との間で本件発明の発明者を確認する利益がある。

(被告Bの主張)

原告は,願書の補正も特許証の訂正も求めることができないから,原告

の確認請求には確認の利益がない。

(4) 争点4(発明者名誉権侵害の成否)について

(原告の主張)





ア 原告は,本件発明の完成により発明者名誉権を取得した。

発明者名誉権は,特許登録を受けられるか否かにかかわらず発明の完

成と同時に発生するものであるから,発明者名誉権の侵害行為の後に特

許出願についての拒絶査定が確定しても,発明者名誉権侵害の成否には

影響を及ぼさない。また,本件拒絶査定がされたのは,本件発明を理解

していない被告B及び被告会社が出願手続を行ったためである。

イ 本件発明は原告の単独発明であるのに,被告Bは被告会社に対し,本

件発明が原告と被告Bとの共同発明である旨の虚偽の申告をした。その

ため,被告会社は原告及び被告Bの共同発明として本件出願をし,特許

庁は発明者が原告及び被告Bであるものとして出願公開を行い,その結

果,本件発明が共同発明である旨が記載された公開特許公報が公開され

続けている。

また,被告Bは,被告会社を通じて本件発明が共同発明であると主張

し,別件訴訟においてその旨の陳述書を提出している。

以上の被告Bの行為は,原告の発明者名誉権を侵害する違法な行為で

あり,原告に対する不法行為に当たる。

(被告Bの主張)

本件発明には進歩性欠如の拒絶理由があるから,本件発明の完成により

法的保護に値する発明者名誉権が発生したものとはいえない。また,被告

Bは本件発明の共同発明者であるから,不法行為は成立しない。

(5) 争点5(損害額)について

(原告の主張)

被告Bの発明者名誉権侵害によって原告が被った著しい精神的苦痛に対

する慰謝料は150万円を下らない。

(被告Bの主張)

争う。





第3 当裁判所の判断

1 争点1(本件出願の願書補正手続の可否)について

原告は,本件出願の願書の補正をすることができることを前提に,被告会

社に対し願書補正手続を求めている。

そこで検討するに,特許出願に関して手続の補正をすることができるのは

事件が特許庁に係属している間に限られるところ(特許法17条1項本文),

本件出願については本件拒絶査定が確定しているのであるから,特許庁にお

ける手続は既に終了したものと認められる。そうすると,原告が求める本件

出願の願書の補正は,特許庁に係属していない事件について補正をしようと

するものであって,特許法17条1項本文に反し,不適法と解すべきである。

これに対し,原告は,拒絶査定の確定前に発明者が出願人に対する願書補

正手続請求をしていた場合には,発明者名誉権を救済するために,拒絶査定

の確定後であっても願書の補正が許されると主張するが,特許法等の法令上

の根拠を欠く独自の見解であって採用できない。

したがって,原告の被告会社に対する願書補正手続請求は,その余の点を

判断するまでもなく,理由がない。

2 争点2(被告会社に対する確認請求の確認の利益の有無)について

原告は,特許証の発明者欄の訂正を求めるために,被告会社との間で本件

発明の発明者を確認する必要があるので,確認の利益があると主張する。

しかし,本件出願については本件拒絶査定が確定しているから,本件出願

に係る特許証は交付されておらず,また,交付される見込みもない(特許法

28条参照)。

したがって,特許証の訂正のために確認の利益があるとの原告の主張は前

提を欠くものであり,被告会社に対する確認請求に係る訴えは不適法である。

3 争点3(被告Bに対する確認請求の確認の利益の有無)について

原告は,願書の補正(前記1)ないし特許証の訂正(前記2)をするため





に,被告Bとの間で本件発明の発明者を確認する必要があるので,確認の利

益があると主張する。

しかし,前記1及び2において説示したとおり,本件出願の願書の補正を

することも特許証の訂正をすることもできないから,これらを行うことを前

提とする原告の主張は採用できない。

したがって,被告Bに対する確認請求の確認の利益は認められず,同請求

に係る訴えは不適法である。

4 争点4(発明者名誉権侵害の成否)について

(1) 原告は,本件発明の完成により発明者名誉権を取得したとして,その

侵害を理由に不法行為による損害賠償を求めるものである。

そこで判断するに,不法行為による損害賠償請求が認められるためには

侵害されたとする権利ないし利益が法律上保護されたものであることを要

するところ(民法709条参照),発明をした者がその氏名を特許証(特

許法28条1項)等に「発明者」として記載されることは,発明者の名誉

といった人格的利益に関するものであって,法的に保護されるとみる余地

がある。しかし,このような発明者名誉権は飽くまでも特許制度を前提と

して認められる人格権であるから,単に発明(特許法2条1項参照)を完

成することにより当然に法的に保護されることになるものではなく,発明

新規性進歩性等の特許要件を充たさず,特許を受けることができない

とする旨の拒絶査定が確定した場合には,当該発明の完成により発明者

誉権が発生したとしても,これが法的に保護され,その侵害不法行為

なることはないと解するのが相当である。

これを本件についてみるに,証拠(甲3,乙6の1〜7)及び弁論の全

趣旨によれば,本件出願についての本件拒絶査定は,本件発明が引用文献

から容易に想到できたもので,特許法29条2項の規定により特許を受け

ることができないことなどを理由とするものであったことが認められる。





以上によれば,原告が本件発明に係る発明者名誉権の侵害を理由として

不法行為による損害賠償を請求することはできないと判断すべきものであ

る。

(2) これに対し,原告は,発明者名誉権は発明の内容を問わず発明の完成

と同時に発生するものであり,拒絶査定が確定したことは発明者名誉権侵

害の成否を左右しないと主張するが,上記説示に照らし採用できない。

原告は,また,本件拒絶査定がされたのは本件出願に関与した被告B及

び被告会社が本件発明を理解していなかったためであると主張するが,こ

のような事実を裏付ける証拠を何ら提出していない。

(3) したがって,その余の点を判断するまでもなく,被告Bに対する慰謝

料請求は理由がない。

5 結論

よって,主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部



裁判長裁判官 長 谷 川 浩 二




裁判官 清 野 正 彦




裁判官 橋 彩





(別紙)

発明目録

発明等の名称 傾斜測定装置

出 願 日 平成22年1月4日

出 願 番 号 特許2010−000017

公 開 日 平成23年7月14日

公 開 番 号 2011−137776





(別紙)

特許請求の範囲

【請求項1】

被測定物の傾斜を測定する装置であって,

(a)気泡が発生しない液体を,両端部に空間を残し,気泡が存在しないように

収容した樹脂製の長尺透明チューブ,及び,

(b)上記長尺透明チューブの両端部に取り付けた,上記液体の液位を測定する

液位測定器,

を備えることを特徴とする傾斜測定装置。

【請求項2】

前記長尺透明チューブの両端部が,透明直管で構成されていることを特徴とする

請求項1に記載の傾斜測定装置。

【請求項3】

前記長尺透明チューブが,両端部に,開閉弁を備えていることを特徴とする請求

項1又は2に記載の傾斜測定装置。

【請求項4】

前記長尺透明チューブが,中央部を止端とする2本巻きでリールに巻き付けられ

ていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の傾斜測定装置。

【請求項5】

前記リールが,液位測定器と長尺透明チューブの端部を保持する保持部材を備え

ていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の傾斜測定装置。

【請求項6】

前記液位測定器の下端に,固定用部材が取り付けられていることを特徴とする請

求項1〜5のいずれか1項に記載の傾斜測定装置。

【請求項7】

前記固定用部材が磁石であることを特徴とする請求項6に記載の傾斜測定装置。