関連審決 | 審判1999-35028 |
---|
元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
---|
事件 |
平成
16年
(行ケ)
47号
審決取消請求事件
|
---|---|
原告 株式会社イケハタ 同訴訟代理人弁護士 城山康文 同 中島麻里 同 大橋岳人 同訴訟代理人弁理士 石戸久子 被告 八進興業株式会社 同特別代理人弁護士 原田崇史 被告 株式会社国土基礎 被告 成幸工業株式会社 被告 利根地下技術株式会社 被告 中村工業株式会社 被告 丸藤シートパイル株式会社 被告 ライト工業株式会社 上記6名訴訟代理人弁護士 松尾和子 同 吉田和彦 同 渡辺光 同 佐竹勝一 |
|
裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2004/07/20 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 特許庁が平成11年審判第35028号事件について平成16年1月5日にした審決を取り消す。 2 訴訟費用は被告らの負担とする。 |
事実及び理由 | |
---|---|
当事者の求めた裁判
1 原告 主文同旨 2 被告八進興業株式会社(以下「被告八進興業」という。) 原告の被告八進興業に対する訴えを却下する。 訴訟費用は原告の負担とする。 3 被告八進興業を除くその余の被告ら(以下「被告6名」という。) 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
|
当事者間に争いのない事実
1 原告は,発明の名称を「連続壁体の造成工法」とする特許第1875289号(以下「本件特許」という。)の特許権者である。 被告らは,平成11年1月20日,共同して,本件特許を無効にすることについて審判を請求した。特許庁は,この請求を平成11年審判第35028号事件として審理し,その結果,平成12年5月29日,「特許第1875289号発明の特許を無効とする。」との審決(以下「第1次審決」という。)をし,その謄本は,同年6月15日,原告に送達された。 しかし,被告八進興業は,既に,平成12年5月23日,名古屋地方裁判所において破産宣告を受け,同時に弁護士Aが破産管財人に選任されていた。第1次審決は,それにもかかわらず,同被告の破産管財人に審判の手続を受継させることなく,同被告を請求人の一人として表示した上でなされたものであった。 原告は,平成12年6月29日,第1次審決の取消しを求める訴えを提起した。東京高等裁判所は,この訴えを平成12年(行ケ)第227号審決取消請求事件として審理し,その結果,平成13年1月31日,原告の訴えを却下する判決を言い渡した。その理由は,被告八進興業が破産宣告を受けたことにより審判手続が中断していたにもかかわらず,第1次審決及びその送達はこれを看過してなされたものであって,第1次審決の送達は全員について不適法でありその効力を生じないから,第1次審決の取消しを求める訴えは,審決の有効な送達がなされる前に提起された不適法な訴えであり,その瑕疵を補正することができないものである,というものであった。 2 特許庁は,上記訴え却下の判決に先立ち,平成12年12月11日,破産者八進興業株式会社の破産管財人弁護士Aを請求人とする受継申立に応じて,同月15日,同管財人に対する手続続行通知を発送した。 その後,破産者である被告八進興業については,平成13年9月28日,名古屋地方裁判所によりなされた,破産手続の費用不足を理由とする破産廃止決定が確定し,平成13年10月1日に破産廃止の登記がなされた。 ところが,特許庁は,被告八進興業に審判手続を受継させることなく,平成14年7月23日,「特許第1875289号発明の特許を無効とする。」との審決(以下「第2次審決」という。)をし,同審決の謄本を同年8月2日に原告に送達し,そのころ被告らにも送達した。 原告は,第2次審決の取消しを求める訴えを東京高等裁判所に提起し,平成14年(行ケ)第446号審決取消請求事件として審理された。その結果,平成14年12月24日,第2次審決を取り消すとの判決がなされた。その理由は,破産廃止決定の確定による審判手続の中断を看過してされた第2次審決及びその送達は全員について不適法でありその効力を生ぜず,第2次審決は,審判手続の中断中になされたものとして無効であることを確認する意味で取り消すべきである,というものであった。 3 特許庁は,上記判決を受けて,平成15年2月14日付けで「八進興業株式会社」を名宛人として手続受継指令を発し,同指令は,同年4月10日付官報公告によって公示送達された。そして,指定期間内に被告八進興業から受継の申立てがなかったことを理由として,特許庁は,同年6月2日,特許法23条2項の規定により,同被告による手続の受継があったものとみなして,同被告を請求人として審判手続を続行した。 特許庁は,審理の上,平成15年6月2日,原告の平成13年7月30日付の訂正の請求を拒絶し,平成15年6月5日に発送した。さらに,平成16年1月5日,「特許第1875289号発明の特許を無効とする。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,同審決の謄本は,同年1月16日に原告に送達された。 |
|
当事者の主張
1 原告 上記手続受継指令の送達の当時,被告八進興業はこれを代表すべき清算人を欠いていたから,その送達は無効である。したがって,特許法23条2項による受継の効果も生ぜず,本件審判手続は被告ら全員について中断した状態にある。本件審決は,このことを看過してなされたものであり,重大かつ明白な瑕疵を帯びるものであって無効である。 2 被告八進興業 本件審決及びその送達が無効である以上,審判手続は今なお特許庁に係属中であり,審決の有効な送達があったとはいえないから,原告の訴えは不適法であって却下されるべきである。 3 被告6名 審判手続の中断制度は,中断事由が生じた当事者の防御の機会を保障するためのものであるから,本件審決において請求が全て認められた被告八進興業が中断により保護されるべき利益は少ない。また,同被告に生じた中断事由は,原告の防御に何らの支障を生じさせるものではなく,その瑕疵を主張する利益のない原告が,手続の引き延ばしのために審判手続の瑕疵を主張することは,信義に従い誠実に訴訟を追行すべき当事者の義務に反し,許されない。したがって,本件においては被告6名の関係において実体審理に入るべきである。 |
|
当裁判所の判断
1 前記第2の3のとおり,特許庁がした手続受継指令は,「八進興業株式会社」を名宛人としてなされ,公示送達も「八進興業株式会社」に対してなされたものである。 しかるに,被告八進興業は前記第2の1のとおり破産宣告を受け,その後同2のとおり破産廃止決定が確定しているところ,同被告の従前の取締役は破産より当然にその地位を失っており,破産廃止決定があったからといって従前の取締役が当然清算人となる筋合いでもないから(最高裁昭和43年3月15日判決 民集22巻3号625頁),同被告は手続受継指令の送達時において会社を代表すべき者を欠く状態にあったことになる。したがって,同被告において本件審判手続を受継するには裁判所による清算人の選任が必要であったことから,これを欠いたまま行われた手続受継指令は無効であり,特許法23条2項によるみなし受継の効力も生じないというほかない。 そして,被告らは,共同して本件特許につき無効審判の請求をしたのであるから,共同審判請求人の一人である被告八進興業について生じた中断は,請求人である被告ら全員についてその効力を生じている(特許法132条4項)。そうすると,本件の審判事件の審理を担当する合議体は,被告ら全員が法律上審判手続に関与することができない状態において,これを当事者として審理し,本件審決をし,これを送達したものであるから,本件審決は,重大かつ明白な瑕疵が存在するものとして無効というべきであり,その送達も全員について無効である。 2 被告八進興業は,前記第3の2のとおり,原告の訴えは不適法であって却下を免れないと主張する。 しかし,無効な審決であり,無効な送達であっても,本件審決が実際に本件審判事件の審理を担当する合議体によってなされ,原告及び被告らに事実上送達されることにより,本件審決が有効に成立し有効に送達されているかのような外観が形成されているのであるから,誤ってこれに基づき本件特許の無効の登録がなされるおそれなどの不都合を除去し,本件審判を巡る法律関係を明確にするために,本件審決は,これが審判手続の中断中になされたものとして無効であることを確認する意味で,取り消すべきである。 3 被告6名は,前記第3の3のとおり,本件においては被告6名の関係において実体審理に入るべきであると主張する。 しかしながら,同主張は,当事者間の利益衡量のみを重視した見解というべきであり,特許法の関係規定によれば上記1のとおり本件審決は無効と解さざるを得ないことから,採用することはできない。 4 以上のとおりであるから,原告の本訴請求は理由がある。そこで,これを認容することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 北山元章 |
---|---|
裁判官 | 清水節 |
裁判官 | 上田卓哉 |