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関連審決 審判1998-35064
関連ワード 新規性 /  頒布された刊行物 /  アクセス /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  相違点の認定 /  寄せ集め /  周知技術 /  手続違反 /  技術常識 /  先行技術 /  翻訳文 /  優先権 /  参酌 /  均等 /  置き換え /  容易に想到(容易想到性) /  特許発明 /  実施 /  構成要件 /  設定登録 /  審理終結通知 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  変更 /  独立特許要件 /  訂正明細書 /  新たな無効理由 /  申し立てない理由 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 167号 審決取消請求事件
原告 アプライドマテリアルズ インコーポレイテッド
訴訟代理人弁理士 小橋正明
被告 アネルバ株式会社
訴訟代理人弁理士 後藤洋介
同 池田憲保
同 山本格介
同 山崎拓哉
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/07/20
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 (1) 特許庁が平成10年審判第35064号事件について平成12年12月5日にした審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文1,2項と同旨
当事者間に争いのない事実等
1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「改良されたスループットを有する真空処理装置」とする特許第2575285号の特許(1993年(平成5年)1月28日米国においてした出願に基づく優先権を主張して,平成6年1月28日出願(以下「本件出願」という。同出願に係る願書に添付された明細書及び図面を併せて,「本件明細書」という。甲第3号証は,公開時のその内容を示す特許公報である。),平成8年10月24日設定登録。以下「本件特許」という。請求項の数は7である。)の特許権者である。
被告は,平成10年2月23日,本件特許を無効にすることについて,審判を請求した。特許庁は,これを平成10年審判第35064号事件として審理した。原告は,審理の過程で,平成11年11月29日,請求項の文言の訂正を含む,本件明細書の訂正を請求した(以下「本件訂正請求」という。本件訂正請求の内容は,甲第27号証(全文訂正明細書)記載のとおりである。)。特許庁は,審理の結果,平成12年12月5日,本件訂正を認めなかった上で,「特許第2575285号の請求項1〜7に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をし,同月25日,その謄本を原告に送達した。出訴期間として,90日が付加された。
2 本件訂正請求による訂正前の特許請求の範囲(別紙1参照) (1) 請求項1 中に入れられた複数のガラス基板を支持し冷却する複数の棚を有する1または1を超える数のロードロック(load lock)/冷却チャンバ, 複数のガラス基板を高温に加熱するための加熱チャンバ, 前記ガラス基板上に薄膜を蒸着させるための1または1を超える数の単一基板用処理チャンバ,及び すべての前記チャンバにアクセスし,任意の前記チャンバにガラス基板を移送する自動化された手段を有する移送チャンバ, を備えた,ガラス基板上への単一基板用膜処理のための真空システム。
(2) 請求項2 前記ロードロック/冷却チャンバが,前記棚を有し且つ上下移動用装置(elevator assembly)に取り付けられたカセットを備え,前記加熱チャンバが,上下移動用装置(elevator assembly)に取り付けられたカセットを備えている請求項1記載の真空システム。
(3) 請求項3 2個のロードロック/冷却チャンバを備えた請求項1記載の真空システム。
(4) 請求項4 少なくとも2個の処理チャンバを備えた請求項1記載の真空システム。
(5) 請求項5 前記単一基板用処理チャンバが化学気相成長チャンバである請求項1記載の真空システム。
(6) 請求項6 a)複数のガラス基板をロードロック/冷却チャンバ内にロードし,前記チャンバを排気するステップ, b)すべての前記ガラス基板を,接続する真空移送チャンバを通して前記基板を高温に加熱するのに適するチャンバまで移送するステップ, c)ステップb)からの加熱された基板のうちの1枚を,移送チャンバを通して,単一基板用処理チャンバまで移送し,その上に薄膜を蒸着するステップ,及び d)ステップc)からの基板を,(前記移送チャンバを通して)ステップa)のロードロック/冷却チャンバまで送り戻し,基板を冷却するステップ, を順番に備えた,ガラス基板上に薄膜を蒸着する方法。
(7) 請求項7 ステップc)に続いて,基板を,その上に付加的な薄膜を蒸着するための1または1を超える数の付加的な処理チャンバに移送するステップを行う請求項6記載の方法。
(以下,順に「本件発明1」,「本件発明2」・・・「本件発明7」という。) 3 本件訂正請求による訂正後の特許請求の範囲 下線部が,付加訂正部分である。
(1) 請求項1 中に入れられた複数のガラス基板を支持し冷却する複数の棚であってガラス基板を対応する棚との間に隙間を持って支持するために複数の絶縁性マウントを具備している熱伝導材料から作られている複数の棚 を有する1または1を超える数のロードロック(load lock)/冷却チャンバ, 複数のガラス基板を高温に加熱するための加熱チャンバ, 前記ガラス基板上に薄膜を蒸着させるための1または1を超える数の単一基板用処理チャンバ,及び すべての前記チャンバにアクセスし,任意の前記チャンバにガラス基板を移送する自動化された手段を有する移送チャンバ, を備えた,ガラス基板上への単一基板用膜処理のための真空システム。
(2) 請求項2 前記ロードロック/冷却チャンバが,前記棚を有し且つ上下移動用装置(elevator assembly)に取り付けられたカセットを備え,前記加熱チャンバが,上下移動用装置(elevator assembly)に取り付けられたカセットを備えている請求項1記載の真空システム。
(3) 請求項3 2個のロードロック/冷却チャンバを備えた請求項1記載の真空システム。
(4) 請求項4 少なくとも2個の処理チャンバを備えた請求項1記載の真空システム。
(5) 請求項5 前記単一基板用処理チャンバが化学気相成長チャンバである請求項1記載の真空システム。
(6) 請求項6 a)複数のガラス基板を複数の熱伝導材料から作られている棚が取り付けられている冷却カセットを具備している ロードロック/冷却チャンバ内にロードし,前記チャンバを排気するステップ, b)すべての前記ガラス基板を,接続する真空移送チャンバを通して前記基板を高温に加熱するのに適するチャンバまで移送するステップ, c)ステップb)からの加熱された基板のうちの1枚を,移送チャンバを通して,単一基板用処理チャンバまで移送し,その上に薄膜を蒸着するステップ,及び d)ステップc)からの基板を,前記移送チャンバを通してステップa)のロードロック/冷却チャンバまで送り戻して前記冷却カセット内において棚との間に隙間を持って支持し, 基板を両面から均一に 冷却するステップ, を順番に備えた,ガラス基板上に薄膜を蒸着する方法。
(7) 請求項7 ステップc)に続いて,基板を,その上に付加的な薄膜を蒸着するための1または1を超える数の付加的な処理チャンバに移送するステップを行う請求項6記載の方法。
(以下,順に「本件訂正発明1」,「本件訂正発明2」・・・「本件訂正発明7」という。) 4 審決の理由 審決の理由は,別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本件訂正請求は,本件訂正発明1ないし7が,いずれも,特開昭60-167420号公報(以下「刊行物1」という。)に記載された発明(以下「引用発明1」という。),特開昭63-252439号公報(以下「刊行物2」という。)に記載された発明(以下「引用発明2」という。),「セミコン関西・京都技術セミナー91 講演予稿集」(以下「刊行物3」という。)に記載された発明(以下「引用発明3」という。),「WO92/21144号」(その翻訳文として,特表平6-507524号公報を代用する。)(以下「刊行物4」という。)に記載された発明(以下「引用発明4」という。),「ILC-702 IN-LINE SPUTTERING SYSTEM」(以下「刊行物5」という。)に記載された発明(以下「引用発明5」という。),「プラズマCVD装置 ロードロック式ILV-9200シリーズ」(以下「刊行物6」という。)に記載された発明(以下「引用発明6」という。)及び周知技術により,当業者が容易に想到できたものであって,独立特許要件を欠くから認められない,とした上で,本件発明1ないし7は,引用発明1,3及び4に基づいて当業者が容易に発明できたものである,として,本件特許を無効とする,というものである。
5 審決が認定した,引用発明4の内容,本件訂正発明1と引用発明4との一致点・相違点 (1) 引用発明4の内容(別紙2,3参照) 「・・・刊行物4には, 「複数のウェファを担持するカセットを収納する2個のロード-ロック32,34, 複数のウェファを250℃から500℃の範囲の所定の予熱温度に予熱するための予熱モジュール42,44, ウェファを個別に化学蒸着する化学蒸着(CVD)モジュール30,及び ロード-ロック及び各モジュール間にウェファを移送する輸送モジュール12,14, を備え,化学蒸着(CVD)などのモジュール型処理システム内で個別にウェファを処理するクラスタ・ツール。」及び 「複数のウェファを担持するカセットをロード-ロック32,34内にロードし,前記ロード-ロックを排気するステップ, すべての前記ウェファを,接続する輸送モジュール12を通して前記ウェファを250℃から500℃の範囲の所定の予熱温度に予熱するための予熱モジュール42,44まで移送するステップ, 加熱されたウェファのうちの1枚を,輸送モジュール12,14を通して,ウェファを個別に化学蒸着する化学蒸着(CVD)モジュール30まで移送し,その上に薄膜を蒸着するステップ,及び 処理されたウェファを,前記輸送モジュールを通してロード-ロックまで送り戻すステップ, を順番に備えた,ウェファ上に薄膜を蒸着する方法。」が記載されている。」(審決書7頁16行目〜36行目) (2) 本件訂正発明1と引用発明4との一致点 「・・・両者は, 「2個のロードロックチャンバ, 複数の基板を高温に加熱するための加熱チャンバ, 前記基板上に薄膜を蒸着させるための1個の単一基板用処理チャンバ,及び すべての前記チャンバにアクセスし,任意の前記チャンバに基板を移送する手段を有する移送チャンバ, を備えた,基板上への単一基板用膜処理のための真空システム。」である点」(審決書8頁29行目〜37行目) (3) 本件訂正発明1と引用発明4との相違点 「相違点1:基板が,前者ではガラス基板であるのに対して,後者ではウェファである点。
相違点2:ロードロックチャンバが,前者は,中に入れられた複数のガラス基板を支持し冷却する複数の棚であってガラス基板を対応する棚との間に隙間を持って支持するために複数の絶縁性マウントを具備している熱伝導材料から作られている複数の棚を有するロードロック/冷却チャンバであるのに対して,後者は,複数のウェファを担持するカセットを収納している点。
相違点3:移送チャンバが,前者は自動化されているのに対して,後者は,自動化されているか否か不明である点。」(審決書9頁1行目〜9行目) (以下順に,「訂正相違点1」,「訂正相違点2」及び「訂正相違点3」という。) 6 審決が認定した,本件訂正発明6と引用発明4との一致点・相違点 (1) 本件訂正発明6と引用発明4との一致点 「・・・両者は, 「a)複数の基板をロードロックチャンバ内にロードし,前記チャンバを排気するステップ, b)すべての前記基板を,接続する真空移送チャンバを通して前記基板を高温に加熱するのに適するチャンバまで移送するステップ, c)ステップb)からの加熱された基板のうちの1枚を,移送チャンバを通して,単一基板用処理チャンバまで移送し,その上に薄膜を蒸着するステップ,及び d)ステップc)からの基板を,前記移送チャンバを通してステップa)のロードロックチャンバまで送り戻すステップ, を順番に備えた,基板上に薄膜を蒸着する方法。」である点」(審決書11頁30行目〜12頁3行目) (2) 本件訂正発明6と引用発明4との相違点 「相違点1:基板が,前者ではガラス基板であるのに対して,後者ではウェファである点。
相違点2:前者のロードロックが,複数の熱伝導材料から作られている棚が取り付けられている冷却カセットを具備し,冷却カセット内において棚との間に隙間を持って支持し,基板を両面から均一に冷却するステップを有しているのに対して,後者がカセットであり,冷却について記載がない点。」(審決書12頁5行目〜10行目) (以下順に,「訂正相違点4」及び「訂正相違点5」という。) 7 審決が認定した,引用発明4の内容,本件発明1と引用発明4との一致点・相違点 (1) 引用発明4の内容 5(1)と同一(審決書14頁36行目〜15頁1行目) (2) 本件発明1と引用発明4との一致点 5(2)と同一(審決書15頁5行目〜13行目) (3) 本件発明1と引用発明4との相違点 「相違点1:基板が,前者ではガラス基板であるのに対して,後者ではウェファである点。
相違点2:ロードロックチャンバが,前者は,中に入れられた複数のガラス基板を支持し冷却する複数の棚を有するロードロック/冷却チャンバであるのに対して,後者は,複数のウェファを担持するカセットを収納している点。
相違点3:移送チャンバが,前者は自動化されているのに対して,後者は,自動化されているか否か不明である点。」(審決書15頁14行目〜21行目) (以下順に,「相違点1」,「相違点2」及び「相違点3」という。) 8 審決が認定した,本件発明6と引用発明4との一致点・相違点 (1) 本件発明6と引用発明4との一致点 「・・・両者は, 「a)複数の基板をロードロックチャンバ内にロードし,前記チャンバを排気するステップ, b)すべての前記基板を,接続する真空移送チャンバを通して前記基板を高温に加熱するのに適するチャンバまで移送するステップ, c)ステップb)からの加熱された基板のうちの1枚を,移送チャンバを通して,単一基板用処理チャンバまで移送し,その上に薄膜を蒸着するステップ,及び d)ステップc)からの基板を,前記移送チャンバを通してステップa)のロードロックチャンバまで送り戻すステップ, を順番に備えた,基板上に薄膜を蒸着する方法。」である点」(審決書18頁16行目〜26行目) (2) 本件発明6と引用発明4の相違点 「相違点1:基板が,前者ではガラス基板であるのに対して,後者ではウェファである点。
相違点2:前者のロードロックが,冷却チャンバを兼ね,基板を冷却するステップを有しているのに対して,後者がカセットであり,冷却について記載がない点。」(審決書18頁28行目〜32行目) (以下順に,「相違点4」及び「相違点5」という。)
原告の主張の要点
審決は,本件訂正発明1ないし7について,訂正相違点1ないし5に関する判断を誤り,独立特許要件を欠くとして,本件訂正請求を認めなかったものであり,また,本件発明1ないし7について,相違点1ないし5に関する判断を誤り,その進歩性を否定したものである。さらに,審決は,新たな無効理由に基づき本件訂正発明の進歩性を否定しているにもかかわらず,その無効理由に対して原告が意見を申し立てる機会を与えられていないなど,手続違背がある。
したがって,審決は,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由A1(審判手続における手続違背1) (1) 平成12年4月21日付で,審判長は,被告に対し審尋書(以下「本件審尋書」という。)を送付して審尋(以下「本件審尋」という。)を行い,被告は,同年6月16日付で回答書(以下「本件回答書」という。)を提出している。
しかし,原告は,本件審尋書の送付を受けておらず,本件回答書を受領したのも,審決書の受領と同時であった。すなわち,原告は,審判手続が終了するまで,本件審尋が行われたことを全く知らなかった。
(2) 特許庁は,本件訂正請求に対する拒絶理由通知書において,本件訂正発明1と引用発明4との相違点を, 「相違点1:前者がガラス基板であるのに対して,後者がシリコンウエハである点。
相違点2:前者がロードロックチャンバで冷却しているのに対して,後者はそのような記載がない点。
相違点3:前者が「基板を対応する棚との間に隙間を持って支持するために複数の絶縁性マウントを具備している熱伝導性の複数の棚」を有しているのに対して,後者がカセットである点。」(甲第8号証4頁5行目〜11行目) と認定し,本件審尋書において,上記相違点3に係る構成を開示する文献の提出を求め,被告は,これに対し,特開昭63-318738号公報(甲第14号証,以下「甲14公報」という。)を提出している。
さらに,審決は,後記3(1)で引用するとおり,本件訂正発明1の容易推考性を否定する周知技術に関する証拠として,特開平1-216531号公報(甲第15号証,以下「甲15公報」という。),特開昭63-181415号公報(甲第16号証,以下「甲16公報」という。)も挙げている。
(3) 原告は,これらの3つの公報に基づく無効理由について全く知らされておらず,これらの公報に対して反論する機会も与えられていない(特許法134条1項,153条2項違反)。
(4) また,上記甲14公報ないし甲16公報は,本件訂正発明1の進歩性の判断において極めて重要な証拠であり,特許庁は,職権によりその証拠調べを行ったにもかかわらず,原告に対し,意見を申し立てる機会を与えていない(特許法150条5項違反)。
(5) 以上のとおり,本件の無効審判手続には,重大な手続上の瑕疵があるから,そのような瑕疵ある手続によりなされた審決も取り消されるべきである。
2 取消事由A2(審判手続における手続違背2) (1) 審決は,本件訂正請求が認められない理由として,訂正請求ができる期間を徒過したものであることも挙げている。
(2) 審判長は,不適法な手続であってその補正をすることができないときは,決定をもってその手続を却下することができ,その際,却下の理由を通知し,相当の期間を指定して,弁明書を提出する機会を与えなければならない(特許法133条の2第1項,第2項)。
しかし,訂正拒絶通知理由書(甲第8号証)には,本件訂正請求が,期間経過後になされた不適法なものである,との理由は付されてない。この理由は,審決において突如として示されたものである。
審決が,上記理由により本件訂正請求を却下したというのであれば,特許法133条の2第2項の手続違背がある。
3 取消事由B1(本件訂正発明1の進歩性の判断の誤り) (1) 審決は,訂正相違点1及び2について,次のとおり説示している。
「相違点1,2:刊行物1ではガラスサブストレートをクラスタタイプで処理しており,刊行物2では半導体ウエハをクラスタタイプで処理しているように,クラスタタイプは,半導体ウエハとガラス基板のどちらでも使えるものであるから,刊行物4のクラスタタイプをガラス基板に応用した点に格別の困難性はなく,さらに,その際,ガラス基板に対応するよう多少の変更を行うことは,当業者として当然のことである。
また,刊行物3にはガラス基板を冷却パネル内蔵のアンロードチャンバで冷却する点が記載されており,刊行物5にはアンロードのためのベンティング前にクーリング工程を設ける点が記載されており,刊行物6にはロードロック室を水冷する点が記載されている。そして,これらの技術をクラスタタイプに適用するのに格別の阻害要因もない。
また,基板を冷却するため基板と冷却板(棚)との間に隙間を設けて支持することは,周知であり(必要なら,特開昭63-318738号公報(判決注・甲14公報)(ウエーハ114を支持ピン167により冷却板166との間に隙間を設けて支持している。),特開平1-216531号公報(判決注・甲15公報)(マスク等の基板1を熱伝導性の悪い材質のスペーサ6a,6bにより冷却板2との間に隙間を設けて支持し,均一に冷却している。)参照。),冷却するためには冷却板を熱伝導材料から作るのは当然のことである。さらに,基板を熱処理する際は,基板面の均熱性が重要であり,基板を熱伝導性部材で支持したのでは基板の支持部分のみ熱的に不均一になるので,基板を熱絶縁部材で支持することも,当然のことである(必要なら,上記特開平1-216531号公報,特開昭63-181415号公報(判決注・甲16公報)(被加熱体を熱絶縁部材4で支持している。)参照)。
さらに,ロードロックチャンバに複数の棚を設けることは単なる慣用手段に過ぎない。」(審決書9頁11行目〜35行目) しかし,審決の上記判断は,以下に述べるとおり,誤っている。
(2) 刊行物1ないし6は,半導体ウエハを処理の対象とするものも,ガラス基板を処理の対象とするものもあり,ガラス基板は,半導体ウエハと比較して著しく冷めにくくかつもろいという,特性の違いがある。それにもかかわらず,審決は,刊行物1ないし6記載の各技術を十把一絡げにしており,技術的矛盾を生じている。
例えば,刊行物3,5及び6は,インラインタイプの処理装置に関するものである。インラインタイプでは,基板は,処理が完了するまで,常時搬送体(トレイ)に固定されたままであるから,その一側面は,常に搬送体に取り付けられている。したがって,クラスタタイプと異なり,基板を両側から均一に冷却すること自体不可能である。
このように,構成に大きな違いがあるにもかかわらず,一方の技術を他方に適用できるとするのは,無理がある。
(3) 刊行物4に開示されているのは,ロードロック内で加熱を行う場合に,それを開く前に,ロードロックを冷却する必要があることを開示するものである。ロードロック内で加熱を行うという点で,本件訂正発明1とは逆の技術志向を有するものである。
刊行物4は,ロードロック内で金属のラック又はホルダを使用することを否定し(金属原子がウエハを汚染するのを避けるため。),また,工業規格のカセットを使用できるようにするため,特殊なラックを使用することも否定している。
これらのことからも,引用発明4において,ロードロックチャンバ内に複数の棚を設けることはできない。
(4) 刊行物2の装填ロックチャンバ14は,本件訂正発明1の移送チャンバに対応するものである。
刊行物2には,移送チャンバとは別に,ロードロックチャンバを設け,その中に,ガラス基板を支持し冷却する複数の棚を設けるという,本件訂正発明1の構成は記載も示唆もされていない。
(5) 基板を熱絶縁部材で支持することは,周知技術とはいえない。逆に,基板を熱処理する場合,熱伝導性部材で支持する例が,刊行物2及び甲15公報に開示されている。
(6) 甲15公報は,本件訂正発明1の構成に想到させる起因ないし動機付けを欠くものである。
特許庁の審査基準は,その「2.6 先行技術の引用上の留意事項」の(1)として,「引用文献中の技術が,一見,請求項に係る発明の一部の構成と類似していても,その文献に,請求項に係る発明に対して契機ないし起因(動機づけ)となることを妨げる記載があるときは,引用発明としての適格を欠く。」としている(甲第12号証16頁28行目〜31行目)。
甲15公報には,「スペーサ6a,6bを介することなく,下部冷却板2の表面3にマスク1を接触させた場合熱伝導による冷却が主となるので,その間に空気層がはいらないようにすれば熱輻射の場合と同様均一な冷却が可能となる。」(甲第15号証2頁左下欄4行目〜8行目)と記載されている。甲15公報記載の発明は,基板と棚との間に隙間を設けることを必須の要件とする本件訂正発明1と異なるものであり,引用発明としての適格性を欠く。
また,甲第15号証は,その実施例2において明らかなとおり,相対的に平行状態を維持したまま,離隔自在な一対の上部及び下部冷却板を備えるものであり,下部冷却板と上部冷却板を常時平行且つ近接した状態(本件訂正発明1における,ガラス基板が挿入される上下の棚の関係)においたのでは,その作用効果(マスク1の均一冷却によるレジスト感度の均一化)が達成できなくなる。この,甲15公報に開示された技術をいかに適用すれば,訂正相違点2に係る構成に想到できるのか,理解困難である。
甲15公報の技術は,基板上に塗布されパターン形成されるレジスト膜に寸法誤差を発生させることのないよう冷却を行うものである。レジスト材料が塗布された基板上面が均一に冷却されればよいから,基板自体の均一な冷却を目的とする本件訂正発明1とは技術的課題が異なる。
甲15公報の上部冷却板と下部冷却板とは,実施例の記載から,複数のマスクを冷却処理するものではない。また,上部冷却板は,基板を支持しない。本件訂正発明1の棚は,「中に入れられた複数のガラス基板を支持する」ものであるから,甲15公報の上部冷却板は,これに相当するものではない。
(7) 本件訂正発明1は,真空システムに関するものである。そこでは,熱輻射が,支配的な伝熱原理となり,基板を,棚との間に隙間を設けて支持すれば,均一な冷却が可能となる。
これに対し,甲14公報及び甲15公報は,大気中において使用される技術であり,ガスを介しての伝熱や対流も,基板の冷却に関与する。そのため,基板が大きくかつ高温である場合,それを,棚との間に隙間を設けて支持しても,なお均一な冷却が不可能となる場合がある。
大気中において使用される装置における技術が,真空中においてガラス基板を冷却する,本件訂正発明1に適用できる周知技術ということはできない。
また,真空中では対流や熱伝導がないため,大気中におけるより冷却効率が劣る。真空中で冷却を行うことは,当業者の技術常識に反するものでもある。本件発明は,ひび割れやそりが発生しやすい,大型のガラス基板を処理するために,均一な冷却環境ができることを重視して,あえて冷却効率の悪い真空中における冷却を選択したのである。
(8) 刊行物5及び刊行物6は,特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物ではない。これを周知技術を立証するための証拠として用いることはできない。
甲14公報記載の発明は,半導体ウェハの処理装置の発明であり,また,絶縁性マウントであることについて,記載も示唆もされていない(別紙4参照)。
甲16公報は,基板の加熱装置に関するものであって,冷却装置ではない。既にこの点で,引用発明としての適格性を欠いている。
(9) ロードロックチャンバに,複数の棚を設けることも,単なる慣用手段とはいえない。その構成が慣用手段であることを指摘する文献は提出されていない。
(10)審決は,訂正相違点2を,さらに部分に分解して,その各部分が,甲14公報ないし甲16公報に記載されている,としている。
特許庁の審査基準は,「2.9 その他の留意事項」の(3)において,「進歩性の判断にあたって,請求項に係る発明は全体として考察されなければならず,発明の構成の各部分が複数の引用文献にそれぞれ記載されているということだけでは,この発明の進歩性を否定する理由とはならない。」(甲第12号証18頁29行目〜31行目)としている。
審決の上記認定構造は,この審査基準に反するものである。
(11)本件訂正発明1には,格別の作用効果がある。
本件訂正発明1は,真空中では,均一な冷却制御が容易であることに着目し,技術常識に反し,あえて冷却効率の悪い真空中での冷却を選択した。これにより,大型のガラス基板の処理における,ひび割れ,そりの発生を防止できた。
また,ロードロックチャンバと冷却チャンバとを一体とすることとし,装置の小型化を可能とし,冷却チャンバに対する移送処理を不要としている。
これらは,格別な作用効果である。
4 取消事由B2(本件訂正発明2の進歩性の判断の誤り) (1) 本件訂正発明2は,ロードロック冷却/チャンバに設けられているカセットが,本件訂正発明1の「中に入れられた複数のガラス基板を支持し冷却する複数の棚であってガラス基板を対応する棚との間に隙間を持って支持するために複数の絶縁性マウントを具備している熱伝導材料から作られている複数の棚」(以下「本件訂正棚」という。)を有し,かつ,上下移動用装置に取り付けられている,さらに,加熱チャンバが,上下移動用装置に取り付けられたカセットを備えている,というものである。
(2) 刊行物2では,保管エレベータ組立体50とロボット式ウエハ移送システム80を備えた装填ロックチャンバが,冷却機能を備えていることは記載されておらず,これは,ロードロック/冷却チャンバではない。ウエハは水平支持プレート54上に直接対置されており,絶縁性マウントもないから,本件訂正棚の構成の棚は存在しない。
(3) 刊行物4には,カセットがない。ウエハは,上端部プレート67,始端部プレート69,それらにより固定されている,ノッチを刻設された4本のラッチで,支持されているだけである。
(4) したがって,刊行物4及び2を組み合わせただけでは,本件訂正発明2の構成に想到することはできない。
5 取消事由B3(本件訂正発明3の進歩性の判断の誤り) 本件訂正発明3は,本件訂正発明1において,2個のロードロック/冷却チャンバを備えさせたものである。
刊行物4には,2個のロードロックチャンバを設けることが開示されている。しかし,それは,複数個のウエハを収納する,ポリプロピレンのようなプラスチック製の規格カセットを搬出入するものであり,冷却機能を持たない。本件訂正発明3のロードロック/冷却チャンバとは構造が異なる。
6 取消事由B4(本件訂正発明4の進歩性の判断の誤り) 本件訂正発明4は,本件訂正発明1において,少なくとも2個の処理チャンバを備えさせたものである。
本件訂正発明1に進歩性が認められる(ガラス基板を,ひび割れまたはそりを発生させることなく,両側から均一にかつ迅速に冷却させる)以上,本件訂正発明4にも,進歩性がある。
7 取消事由B5(本件訂正発明5の進歩性の判断の誤り) 本件訂正発明5は,本件訂正発明1において,化学蒸着(CVD)処理モジュールを備えさせたものである。
本件訂正発明1に進歩性が認められる(ガラス基板を,ひび割れ又はそりを発生させることなく,両側から均一にかつ迅速に冷却させる)以上,本件訂正発明5にも,進歩性がある。
8 取消事由B6(本件訂正発明6の進歩性の判断の誤り) 前記の本件訂正発明1における,訂正相違点1,2に対する主張(刊行物3,5,6記載の技術をクラスタタイプに適用することの阻害要因と,基板と冷却棚との間に隙間を設けて支持することが周知技術ではないこと)と同じ。
本件訂正発明6は,その構成により,基板を均一に冷却できる。この,基板を均一に冷却することは,周知の技術ではない。
9 取消事由B7(本件訂正発明7の進歩性の判断の誤り) 審決は,薄膜を複数工程で積層することは単なる慣用手段に過ぎない,とする。
しかし,そのとおりであるとしても,本件訂正発明7は,本件訂正発明6のステップc)のあとに,上記工程を設けるものである。そのことが,慣用手段であるとはいえない。
本件訂正発明7は,本件訂正発明6に,上記工程を付加するものである。本件訂正発明6が進歩性を有する以上,本件訂正発明7の進歩性も肯定される。
10 取消事由B8(本件訂正請求が期間を徒過したものとする判断の誤り) (1) 審決は,本件訂正請求の適否について, 「訂正請求ができる期間は,手続補正書(無効審判請求書)の発送日である平成10年10月6日から6月後(期間延長含む)の平成11年4月6日までの間であるが,当該訂正請求書は,この期間を過ぎた平成11年11月29日になされているので,特許法第134条第2項の規定に適合せず,この点においても当該訂正は認められない。」(審決書13頁20行目〜24行目) とも説示している。
(2) しかし,そもそも,答弁書の提出期間は指定期間であって,法定期間ではない。指定期間経過後であっても,審理終結通知がなされるまで答弁書の提出ができるのと同様,訂正請求書も,審理終結通知がなされるまでの間,提出できると解すべきである。
また,本件においては,原告は,審判長が平成11年9月9日の口頭審理において指定した期間内に,本件訂正請求書を提出しているから,審決の上記説示は、誤っている。
11 取消事由C1(本件発明1の進歩性の判断の誤り) (1) 審決は, 「相違点1,2:刊行物1ではガラスサブストレートをクラスタタイプで処理しているように,クラスタタイプは,ガラス基板にも使えるものであるから,刊行物4のクラスタタイプをガラス基板に応用した点に格別の困難性はなく,さらに,その際,ガラス基板に対応するよう多少の変更を行うことは,当業者として当然のことである。
また,刊行物3にはガラス基板を冷却パネル内蔵のアンロードチャンバで冷却する点が記載されており,この技術をクラスタタイプに適用するのに格別の阻害要因もない。
さらに,ロードロックチャンバに複数の棚を設けることは単なる慣用手段に過ぎない。」(審決書15頁23行目〜32行目) としている。
しかし,審決は,刊行物1のクラスタタイプと刊行物4のクラスタタイプとの差異,刊行物4のクラスタタイプをガラス基板に応用した場合の問題点を看過している。
(2) 刊行物1は,ロードチャンバとアンロードチャンバを別々に設けている。
本件発明1のように,両方の機能を設けたロードロックチャンバを有していない。
また,刊行物1の堆積室4〜8は,2枚のガラス基板を同時に処理できるものであり,単一処理用基板チャンバではない。
さらに,引用発明1で処理されるガラス基板は,本件発明1のそれより小さく,処理温度も低いものである。刊行物1はひび割れやそりの問題について開示も示唆もしていない。
(3) 引用発明4は,ウエハが処理対象であり,そのロードロックチャンバは,アンロード機能を備えてはいる。しかし,ウエハは金属であり,熱しやすく冷めやすいものである。
引用発明4を,そのままガラス基板に用いようとすると,未だ高温なガラス基板がプラスチック製の規格カセットに収納され,同カセットが損傷することになる。これを防止するためには,ガラス基板を冷却するための何らかの手段を講じる必要がある。しかし,刊行物4は,そのようなことは何も開示していない。
審決は,上記のような問題点の解決を,「多少の変更」というが,この「多少の変更」の意味が全く不明であり,進歩性の判断の基準としては極めて不明瞭である。
(4) 審決は,「また,刊行物3にはガラス基板を冷却パネル内蔵のアンロードチャンバで冷却する点が記載されており,この技術をクラスタタイプに適用するのに格別の阻害要因もない。」(審決書15頁28行目〜30行目),としている。
引用発明3は,加熱機構を有するロードチャンバと冷却機構を有するアンロードチャンバを別々に有している。各処理室も,複数個の基板をバッチ処理するものである。
引用発明3の構成を適用しても,ロードチャンバとアンロードチャンバを別々に設けることになるから(引用発明3において,加熱を行うロードチャンバと冷却を行うアンロードチャンバとを兼ねることは技術的に不可能である。),本件発明1の構成が得られるものではない。
以上のとおり,ロードロックチャンバで冷却を行うことが周知であると認めるに足りる証拠はない。そして,加熱を行うロードチャンバと冷却を行うアンロードチャンバを別々に設けると,処理室の数が限られてしまうことになる。
(5) 審決は,ロードロックチャンバに,複数の棚を設けることは慣用手段に過ぎない,と認定している。しかし,そのような証明はなされていない。
本件発明1は,ガラス基板を「支持」することもその構成要件としている。そのことが容易推考であるとの理由付けも不明確である。
(6) 審決は,TFT-LCDの製造工程は,半導体製造工程と類似していることを挙げ,その根拠として甲第30号証(「月刊Semiconductor World増刊号 93’ 最新液晶プロセス技術」)を引用する。しかし,処理対象が,前者は熱しやすく冷ましにくいガラス基板であり,後者はその逆である半導体ウエハであることから,後者の技術が前者にそのまま適用できるものではない,という点を看過している。
12 取消事由C2(本件発明2の進歩性の判断の誤り) 取消事由B2で述べたとおり, 刊行物4には,カセットがない。引用例4において,ロードロックチャンバ/冷却チャンバ及び加熱チャンバに,カセットを備えさせることができるとはいえない。
13 取消事由C3(本件発明3の進歩性の判断の誤り),取消事由C4(本件発明4の進歩性の判断の誤り)及び取消事由C5(本件発明5の進歩性の判断の誤り) 取消事由B3ないしB5と同じ。
14 取消事由C6(本件発明6の進歩性の判断の誤り) 本件発明1の相違点1,2についての判断に対する主張と同旨。
15 取消事由C7(本件発明7の進歩性の判断の誤り) 取消事由B7と同じ。
被告の反論の要点
1 取消事由A1(審判手続における手続違背1)に対して 甲14公報ないし甲16公報は,周知技術に関する証拠である。周知技術の立証について,原告に意見を述べる機会を与えなくても手続違背に当たらないことは,多くの判決例が述べるところである。
原告が主張するような手続違背はない。
2 取消事由A2(審判手続における手続違背2)に対して 本件訂正請求は,手続補正書(無効審判請求書)の発送日である平成10年10月6日から6か月後(期間延長含む。)の平成11年4月6日を経過した後にされているから,不適法なものであったが,審決は,本件訂正請求を却下せずに,訂正の適否について判断したものであって,特許法133条の2第2項の問題は生じない。
3 取消事由B1(本件訂正発明1の進歩性の判断の誤り)に対して (1) 被告は,刊行物5及び刊行物6を,周知技術を立証するための文献として提出したものである。刊行物5及び6がなくても,審決の結論には影響しない。
なお,刊行物5及び6は実際に頒布されている(乙第8号証ないし第12号証)。
(2) 本件訂正発明1の特徴は,複数のガラス基板の加熱及び冷却のためのバッチ処理を,単一基板用チャンバの処理に組み合わせることにより,ガラス基板の加熱及び冷却のための適当な時間を許容しつつ,連続的ですばやい基板処理の流れを提供することにある,というものである(訂正明細書【0010】及び【0011】)。
本件訂正発明1は,もともと,ロードロック/冷却チャンバ及び当該チャンバ内のカセットの構造を重要視してはいない。そのため,それらの構造については,周知技術そのものないしそれらの組み合わせに近いものを,簡単に例示しているにとどめている。
審決は,そのこと,すなわち本件訂正発明1のロードロック/冷却チャンバの構造が,周知技術寄せ集めにすぎず,ガラス基板処理に特有のものでないことを適確に把握し,半導体ウエハの処理に関する技術が適用できる,としているのである。
(3) 本件出願当時,熱伝導材料(金属)から成るラック又はホルダを備えたロードロックチャンバ,及び加熱されたロードロックを冷却する必要があることは,周知であった。このことは,刊行物1に開示されている。
複数の棚を備えるロードロックチャンバも,周知であり,刊行物2はこのことを開示している。
熱い基板を,温度の低い棚の上で冷却する場合,棚を熱伝導性のものにすることは当然のことである。また,その場合,熱い基板を熱伝導性の高い部材で直接支持したのでは,その支持された部分だけが早く冷え,熱的に不均一の状態になるので,熱絶縁性部材で支持することも当然のことである。引用文献などなくても,上記各点が周知技術であると認定することに,何ら問題はない。
更に,ガラス基板を冷却パネル内蔵のアンロードチャンバで冷却することも,刊行物3で開示されている。
以上の各点が,単なる慣用手段にすぎないとした審決の判断は,正当である。
(4) 原告は,甲14公報ないし甲16公報記載の発明と,本件訂正発明1との微細な差異を縷々論じている。しかし,審決は,上記各発明と本件訂正発明1とが同一であるなどと論じているものではなく,周知技術を示すものとして例示しているものである。上記各発明と,本件訂正発明1との差異を個別に論じることは,意味がない。
原告は,甲14公報ないし甲16公報の理解も誤っている。例えば,甲14公報は,真空中において基板処理を行うことも示唆している。
(5) 原告は,インラインタイプの技術をクラスタタイプに適用することには,技術的矛盾がある,と主張し,その例として,インラインタイプでは,基板を両面から均一に冷却することが不可能である,とする。
しかし,インラインタイプにおいても,ロードロックチャンバ内で,基板を積層した状態で冷却することは,周知技術である。
そのほかに,原告は,具体的にどのような矛盾が生じるのか,明らかにしていない。
(6) 本件訂正発明1は,その処理の対象を,ガラス基板から半導体ウェハにそのまま置き換えても,何ら支障は生じない。すなわち,本件訂正発明1は,ガラス基板を処理する装置としての特有な構成を備えるものではないのである。したがって,半導体ウエハの処理装置の技術を参酌して,本件訂正発明1の構成に至ることは容易である。
4 取消事由B2(本件訂正発明2の進歩性の判断の誤り)に対して 原告の主張は,刊行物2及び4についてのみ言及し,本件訂正発明2の進歩性を強調するものにすぎない。刊行物1,3ないし6記載の周知技術との組み合わせを考慮していない点で,審決に対する反論になっていない。
5 取消事由B3(本件訂正発明3の進歩性の判断の誤り)に対して 原告の主張は,本件訂正発明3と刊行物4の差異についてのみ言及するものである。刊行物1ないし3,5及び6の周知技術について言及していない。
原告は,カセットの違いについても述べている。しかし,本件訂正発明3は,カセットについて記載がない本件訂正発明1に従属するものである。
6 取消事由B4(本件訂正発明4の進歩性の判断の誤り)及びB5(本件訂正発明5の進歩性の判断の誤り)に対して 原告の主張は,本件訂正発明4及び5についても,刊行物4との相違について言及しているにすぎない。
7 取消事由B6(本件訂正発明6の進歩性の判断の誤り)に対して 本件訂正発明1についての原告の主張が成り立たないことは前記のとおりであるから,これを引用する本件訂正発明6に関する原告の主張も成り立たない。
8 取消事由B7(本件訂正発明7の進歩性の判断の誤り)に対して 本件訂正発明6が進歩性を有していない以上,それを前提とする本件訂正発明7も、進歩性を有しない。
9 取消事由B8(本件訂正請求が期間を徒過したものとする判断の誤り)に対して 原告は,答弁書の提出期間経過後であっても,審理終結通知がなされるまでは,訂正請求ができる,との主張をする。しかし,そのような扱いは,無効審判において訂正請求をすることができなかった時のものである。
原告は,本件訂正請求は審判長が指定した期間内に提出したと主張するが,そのような事実はない。
10 取消事由C1(本件発明1の進歩性の判断の誤り)に対して (1) 目的・用途に応じてチャンバの機能を変更する程度のことは,当業者の常識である。ロードチャンバとアンロードチャンバを別々に設けるか,兼ねさせるか,処理室で何枚の基板を処理するかは,当業者が適宜決められることである。
本件発明1は,処理対象となるガラス基板の大きさを何ら限定していない。その大ききが異なることを根拠とする主張は,失当である。
インラインタイプの技術をクラスタタイプに転用することは,容易である。
複数の棚を備えたロードロックチャンバが周知であると,半導体ウエハの処理装置の技術を,ガラス基板のそれに適用できることは,取消事由B1で述べたとおりである。
(2) 審決が,「支持」の存在について認定していないとしても,そのことだけをもって,審決を取り消す理由とはできない。
11 取消事由C2(本件発明2の進歩性の判断の誤り)に対して (1) 本件発明1は,特許性がないものであり,これに従属する本件発明2も,特許性を欠く。
(2) 原告は,刊行物4のラックと本件発明2のカセットとの違いを強調する。
しかし,そもそも本件発明2のカセットの構造は,特許請求の範囲の文言の記載上,何ら限定がされていない。カセットといっても,種々の構成のものが知られているのであるから,カセットの構成自体を根拠に,新規性及び進歩性を認めることはできない。
12 取消事由C3(本件発明3の進歩性の判断の誤り)に対して 原告は,刊行物4との差異のみを主張しているにすぎない。刊行物1及び3との組み合わせについて,何ら言及していない。
カセットの材料,形状の違いに基づく主張については,前記のとおりである。
13 取消事由C4(本件発明4の進歩性の判断の誤り)及びC5(本件発明5の進歩性の判断の誤り)に対して 本件発明1に進歩性がない以上,本件発明4及び5にも,進歩性は認められない。
14 取消事由C6(本件発明6の進歩性の判断の誤り)に対して 取消事由B6に対する主張と同旨。
15 取消事由C7(本件発明7の進歩性の判断の誤り)に対して 本件発明6が進歩性を否定される以上,本件発明7の進歩性も否定される。
当裁判所の判断
1 取消事由A1(審判手続における手続違背1)について (1) 原告は,甲14公報ないし甲16公報に基づく無効理由について,全く知らされておらず,反論の機会も与えられていないなど,審判手続に特許法134条1項,150条5項,153条2項違反の違法がある,と主張する。
しかし,審判長は、本件審尋書をもって,被告に対し,「棚であって基板を対応するとの間に隙間を持って支持するための複数の絶縁性マウントを具備している熱伝導性の複数の棚を有するロードロックチャンバ」,「複数の熱伝導性の棚が取り付けられているカセットを具備し,前記カセット内において棚のとの間に隙間を持って支持し,基板を両面から均一に冷却する」点が記載された引用文献があれば,提出するよう求めたものであり,これに対し,被告は,本件回答書をもって,甲14公報を提出したものである(甲第9号証,第10号証)。
そして,審決は,訂正相違点2についての判断において, 「また,基板を冷却するための基板と冷却板(棚)との間に隙間を設けて支持することは,周知であり(必要なら,特開昭63-318738号公報(判決注・甲14公報)(ウエーハ114を支持ピン167により冷却板166との間に隙間を設けて支持している。),特開昭1-216531号公報(判決注・甲15公報)(マスク等の基板1を熱伝導性の悪い材質のスペーサ6a,6bにより冷却板2との間に隙間を設けて支持し,均一に冷却している。)参照。),冷却するためには冷却板を熱伝導材料から作るのは当然のことである。さらに,基板を熱処理する際は,基板面の均熱性が重要であり,基板を熱伝導製材料で支持したのでは基板の支持部分の熱的に不均一になるので,基板を熱絶縁部材で支持することも,当然のことである(必要なら,上記特開平1-216531号公報,特開昭63-181415号公報(判決注・甲16公報)(被加熱体を熱絶縁部材4で支持している。)参照)。」(審決書9頁22行目〜33行目) と説示したものである。
(2) 以上のとおり,本件審尋は,訂正相違点2に係る上記の各構成が周知技術であることについての文献の提出を被告に促したものであり,被告が提出した甲第14号証を含め審決がかっこ書きで引用する甲14公報ないし甲16公報は,いずれも上記各構成が周知技術であることを示すものとして例示されているにすぎないのであって,このことをもって,審判体が,当事者の申し立てない理由について審理したことになるといえないことは明らかであり,特許法153条2項手続違反をいう原告の主張は,採用できない。
また,上記のように,審決が周知技術であることを示すものとして文献を引用したことをとらえて,職権で証拠調べをしたことに当たるとすることもできないから,特許法150条5項手続違反があるということもできない(なお,甲14公報は,被告が本件回答書に添付して提出したもので,書証として取り調べられているものではないことが窺われる。仮に書証として取り調べられているとすれば,それは被告が提出したものであって,職権で取り調べた証拠とはいえない。)。
もっとも,本件審尋書は,原告に送付されておらず,また,本件回答書(それに添付されている甲14公報)も,平成12年12月25日に審決書謄本とともに原告に送付されているに過ぎないのであって(甲第10号証,弁論の全趣旨),このような手続運営は,本件のように当事者対立構造をとる審判手続における当事者の反論の機会の保障という点で,適切さを欠くものであったといわざるを得ない。しかし,審決の前記説示からすると,甲14公報がなくても,審決は,基板の冷却において,基板と冷却板(棚)との間に隙間を設けて基板を支持することは,周知であると認めることができるとしているのであって,審決は,その結論を導くために,甲14公報を必要不可欠なものとしては用いていないということができる(なお,甲15公報及び甲16公報についても同様である。)。そうすると,その審決の判断の当否は別として,本件審尋や被告が提出した本件回答書について原告に意見を述べる機会が与えられなかったことをもって,本件審判手続に特許法134条1項などの手続違背があったとまではいえないし,少なくとも審決の結論に影響を及ぼすような手続違背ということはできない。
2 取消事由A2(審判手続における手続違背2)について (1) 原告は,審決が,本件訂正請求を却下したものであるならば,その理由を原告に通知し,相当の期間を指定して,弁明書を提出する機会が原告に与えられなければならない(特許法133条の2第2項)にもかかわらず,その手続が採られていないことについて,手続違背がある,と主張する。
(2) 審決は,「2.4 「2.訂正の適否」の結び」において,本件訂正請求は独立特許要件を欠くため認められない,とするとともに,本件訂正請求は,訂正請求ができる期間後になされたものであるから,「この点においても当該訂正は認められない。」(審決書13頁24行目),としている。
しかし,審決が,本件訂正発明1ないし7について,独立特許要件を具備しているかどうかを検討,判断した上で,本件訂正請求はその要件を欠き認められないと判断したことは明らかであり,上記説示は,単に付加的,補足的にされたものに過ぎないのであって,審決が,期間徒過を理由として,本件訂正請求を却下したものでないことは明らかである。
したがって,本件訂正請求が期間徒過を理由に却下されたことを前提に,その手続違背をいう原告の主張は,採用できない。
3 取消事由B1(本件訂正発明1の進歩性の判断の誤り)について (1) 審決の,引用発明4の認定,本件訂正発明1との一致点,相違点の認定については,当事者間に争いはない。
(2) 処理対象の違いについて(訂正相違点1) ア 訂正相違点1は,本件訂正発明1が,処理対象がガラス基板であるのに対し,引用発明4では処理対象がウエハである,ということである。
審決が指摘するとおり,刊行物1は,ガラスサブストレート(ガラス基板)をクラスタタイプで処理する技術を開示しており,刊行物2は,半導体ウエハをクラスタタイプで処理する技術を開示している。そして,甲第30号証には, 「TFT-LCDの製造工程は,半導体製造工程と類似している点が多い。そのため,半導体用スパッタ装置の主流となっている枚葉式装置のニーズがある。枚葉式装置は,キャリヤの不要,カセット・トゥ・カセット,省スペースなどの特徴があるが,8インチウェーハの約5倍の大面積基板に対する,停止成膜用カソードの開発が課題だった。日本真空技術の枚葉式スパッタリング装置「SMD-450」は,この課題を解決したLCD用としては初めての枚葉式スパッタ装置であり,今後の量産ラインでの使用が期待される。ただし,量産性ではインライン式装置が有利なため,ラインの位置付けに合わせてインライン式装置と枚葉式装置の選択が必要となる。」(204頁左欄3行目〜14行目) との記載があり,加熱を含め,ガラス基板の処理ができるクラスタタイプ(枚葉式)の装置が周知であった,との事実を認めることができる。
したがって,クラスタタイプの,半導体ウエハの処理装置である引用発明4を,ガラス基板の処理に転用することは,可能であり,省スペース等の長所を重視すると,クラスタタイプの処理装置をガラス基板の処理に用いようとする積極的動機付けもある,と認めることができる。現実に,クラスタタイプの処理装置において,ガラス基板の処理を行うことは,刊行物1に開示されている。
イ もっとも,以上のようにいえるということは,一般的に,クラスタタイプの処理装置でガラス基板の処理をすることが可能であるから,引用発明4においても,その可能性がある,ということを意味するにとどまる。
進んで,引用発明4において,現実にガラス基板の処理が可能であるか,可能であるとして,どのような改変が必要であるか,その改変は,当業者が容易に推考できるものであるか,さらに,相違点2に係る構成を備えさせることは可能か,(必要な改変を含めて)それは当業者が容易に推考できるものであるか,を検討する必要があることはいうまでもない。
ウ 原告が,審決の訂正相違点1についての判断を論難する論拠の1つは,ガラス基板と半導体ウエハとの間には,前者が後者と比較して著しく冷めにくくかつもろいという,特性の違いがあり,半導体ウエハの処理に関する技術を,そのままガラス基板に関する処理に適用することはできない,というものである。
原告の主張するような,半導体基板とガラス基板との間に,熱伝導率等熱的特性の違いがあること,ガラス基板が,加熱・冷却の工程において,ひび割れやそりの問題が生じやすいことは,ごく一般的な技術常識であると認められる。本件明細書(甲第3号証)及び訂正明細書(甲第27号証)も,例えば「【0005】ガラスは,室温から,真空処理に典型的に用いられる約300〜450℃までの温度変化における大型ガラス板のひび割れや応力を防ぐためには例えば約5分かそれ以上のゆっくりとした加熱及び冷却を必要とするもろい絶縁材料である。」(甲第3号証2頁右欄15行目〜19行目)として,そのことについて言及している。
そして,原告が指摘するようなガラス基板の熱的特性に起因する処理の困難(ひび割れやそりの発生)は,加熱及び冷却に時間をかければ解決することは,当業者にとって自明のことである,と認められる。したがって,半導体基板とガラス基板との間に上記のような熱的特性の差異があっても,冷却に時間をかけるという周知の解決方法を選択する限度で,半導体ウエハの処理技術を,ガラス基板の処理技術に適用することは極めて容易である,と認められる。
エ 本件訂正発明1は, 「【0008】・・・ガラス基板は,典型的に非常に大型,すなわち例えば350×450mmであるから,基板を処理温度まで加熱し,膜処理完了後にそれを再び周囲温度まで下げるには数分もかかる。この加熱及び冷却の遅れは,失われた反応器時間の点で非常に高コストになる。従って,数個のチャンバによる蒸着は,長い加熱及び冷却時間が扱われないかぎり待ち時間のない効果的な動作にはならない。
【0009】このように,大型ガラス基板を連続的な単一処理チャンバ内で処理することができ,加熱及び冷却の遅れ時間の問題を解決する,改良されたスループットを有する真空システムが,非常に望まれている。
【0010】 【課題を解決するための手段】 この発明の真空システムは,複数のガラス基板の加熱及び冷却のためのバッチ処理を,単一基板用チャンバの処理に組み合わせる。この発明の真空システムは,複数の単一基板処理チャンバ及び中央の移送チャンバに接続されたバッチ型の加熱及び冷却チャンバを備えている。移送チャンバは,種々のチャンバ間で任意の予め選択された順序で基板を移送することができる。
【0011】バッチ型の加熱及び冷却チャンバと単一基板処理チャンバとの組み合わせは,ガラス基板の加熱及び冷却のための適当な時間を許容しつつ,連続的ですばやい基板処理の流れを提供する。」(甲第27号証中の明細書5頁3行目〜23行目) というものである。また,実施例の記載として, 「【0033】 大型ガラス基板の上に薄膜トランジスタを製造するためには,ロードロック/冷却チャンバに対してガラス基板のロード及びアンロードをする平均の時間は,各工程について約15秒である。しかるに,ガラス基板を薄膜蒸着温度まで加熱する平均時間は,約300秒である。処理または大気圧への通気(venting back)の順番を待つすでに加熱されているガラス基板の1組を備えることにより,基板の長い平均加熱時間は,それぞれ処理または通気を待つ時間に含まれて隠されてしまう(is hidden)。」(同11頁21行目〜28行目) と記載されている。つまり,本件訂正発明1は,ガラス基板にひび割れやそりが発生しないようにしつつ,加熱及び冷却の時間を短縮することを実現するものではなく,主として,複数のガラス基板の加熱処理及び冷却のバッチ処理に単一基板処理を組み合わせることにより,長い加熱及び冷却の処理時間が,装置全体の基板処理の速度に影響しないようにした,というものであると認めることができる。このことは,原告自身,「本件特許発明においては,真空状態における冷却は,熱伝導及び対流が存在しないので大気状態におけるそれと比較して効率の点では劣るが,熱伝導及び対流が存在しないことにより寧ろ制御した冷却環境が与えられることに着目したものであり・・・」(原告第5準備書面14頁6行目〜9行目)と述べているところである。
引用発明4において,単に加熱及び冷却に時間をかけることによって,ガラス基板を処理するようにすることは,本件訂正発明1自体が採用する構成として,許されるものである。
オ 原告は,引用発明4は,ロードロック内で加熱を行うという点で,本件訂正発明とは逆の技術志向を有するものである,と主張する。これは,引用発明4に,本件訂正発明1の構成に至ることを阻害する事由が内在されている,ということを指摘する主張であると解される。
引用発明4は, 「本発明の好適な実施例によれば,クラスタ・ツールが複数個の,好適には2個のバッチ予熱室を有し,これら予熱室がそれぞれ輸送モジュール,好適には同じ輸送モジュールに結合し,そしてこの輸送モジュールからのみ予熱室に対する装入と装出が行われるような,クラスタ・ツールの構成が提供される。予熱室が結合される輸送モジュールは更に1つ又はそれ以上のロード-ロック・モジュールに結合され,そしてこのロードロック・モジュールを通して輸送モジュールに対するウェファの装入と装出が行われ,これにより外部環境からウェファが取入れられ,又はそこへ取出され,そしてこの間輸送モジュールは外部環境から連続的に隔離されている。
上記対のモジュールは,その一方が最初に輸送モジュールからウェファを逐次的に装入され,それからバッチとして加熱される。・・・第1バッチのウェファが所要の長時間加熱された後,それらウェファはそこから逐次的に別の処理ステーションへ移送され,それからロード-ロックへ送られて機械から取出され,そしてこの間に第2ロード-ロック内の第2バッチのウェファが加熱される。」(乙第1号証中の公表特許公報5頁右下欄2行目〜22行目) としている。
上記の記載及びFIG.1及びFIG.2からは,引用発明4も,ロードロックチャンバとは別に,基板を加熱するチャンバを備えているものと認めることができる。原告の主張は,引用発明4が,ロードロックチャンバにおいて基板を加熱するものである,という前提において既に誤っている。
そもそも,ロードロックチャンバで基板の加熱を行う構成が,冷却を行う構成と異なることは当然であるとしても,前者を後者に変更することが技術的に困難であるとは,本件全証拠によっても認められない。確かに,前者を後者の構成にするときは,例えば両者を兼用しないときは,加熱用のチャンバを別に設けることになり,その分装置が大型になることは事実である。しかし,これは,本件訂正発明1自体が採用するものであり,そのような構成がおよそ不適切で採用できないものである,とはいえないことは,明らかである。
(3) ロードロック内で冷却を行う構成の容易推考性について(訂正相違点2) ア 刊行物4は,「内容物が高温であるときにロードロックが開かれた場合,ロード-ロックへの装入装出を行う人物をその高温に晒す危険性もある。この危険を避けるためには,費用を掛けて機械に前端ロボットを備えるか,あるいは生産時間を犠牲にしてロード-ロックが冷却するのを待たなければならない。」(乙第1号証中の公表特許広報5頁右上欄16行目〜22行目),としており,ロードロック内で冷却を行うことは,周知であったことが記載されている。
また,刊行物3は,「本装置の場合SiN→a-Si→n+a-Siの3層膜をそれぞれ異なるチャンバで,トレイが真空中で移動して成膜する。トレイは大気に出て入り口側に返され・・・冷却パネルを内蔵したアンロードチャンバなどがあるが,全て基本構造は同じであり,これらの組み合わせで各目的の装置が構成される。」というインライン型のプラズマCVD装置(処理対象はガラス基板である。)を開示し(甲第23号証69頁右欄10行目〜23行目),この記載と刊行物3の64頁のFig2からは,上記装置は,冷却パネルを内蔵したアンロードチャンバを備えたものを開示している(甲第23号証)(別紙5参照)。
そうすると,同じくアンロードを行う引用発明4のロードロックチャンバにおいて,処理済みガラス基板の冷却を行う構成を備えさせることは,当業者が容易に推考できることである,と認められる。
イ 原告は,刊行物3は,インラインタイプの処理装置であり,そこに開示された技術をクラスタタイプである刊行物4に適用できる,とすることには無理がある,と主張する。
しかし,クラスタタイプ(刊行物4)であっても,インラインタイプ(刊行物3)であっても,処理済みの基板を大気に晒す前に,それを冷却する必要があることは当然であり,しかも,その直前に冷却を行うことに何ら差し支えはないものと認められる。したがって,引用発明4においてアンロードを行うチャンバ,すなわちロードロックチャンバにおいて,冷却を行えることは当然である。
クラスタタイプとインラインタイプとの差は,前者の特徴がキャリヤの不要,カセット・トゥ・カセット,省スペースであるのに対し,後者の特徴が高い量産能力である,という程度のものであると認められ(甲第30号証),そのことが,後者における,アンロードを行うチャンバで冷却を行う,という構成を,前者において適用することの妨げになるとは,到底認められない。
ウ 原告は,インラインタイプにおいては,トレイに基板を乗せることから,その両面を均一に冷却することはできない,ということを挙げる。しかし,ここで問題としているのは,アンロードを行うチャンバで,処理済みの基板の冷却を行うという構成の適用の容易推考性だけである。基板をトレイに乗せて搬送する構成を適用することを検討しているものではない。原告の主張は失当である。
また,原告は,引用発明4のロードロックチャンバが加熱を行うことを,冷却の機能を持たせることができない根拠の一つとして挙げる。しかし,引用発明4のロードロックチャンバが加熱を行わないことは,前記認定のとおりである。
上記の点以外に,インラインタイプとクラスタタイプとが,処理装置の構造が異なることを理由に,前者の技術を後者に適用することが困難であるとする原告の理由は,その適用を妨げる具体的な理由について述べるものではなく,採用できない。
(4) ロードロックチャンバ内に,複数のガラス基板を収納するための,熱伝導性の棚を設けることの容易推考性について(訂正相違点2) ア 刊行物2(甲第25号証)は,その特許請求の範囲(2)で, 「上記装填ロックチャンバ内に取り付けられた第1エレベータを更に備え,この第1エレベータは,多数のウェハ取り付け位置を有していて,上記装填ロックチャンバの入口付近でその中にある第1の選択された装填ロック位置へウェハを選択的に移動するようにされ,・・・」と,その構成を規定し,また,実施例において,「装填ロックチャンバは,内部の保管エレベータ組立体50を備えており,このエレベータ組立体50は,ここに示す例では8つまでである多数のウェハ15-15を水平支持プレート54に保持する。」(甲第25号証8頁左下欄6行目〜10行目)との構成を開示している。そのFIG.2には,ウエハ15を支持する水平支持プレート54を図示している。引用発明2は,その構成により,「本発明の更に別の関連した目的は,統合的な処理能力を有する多チャンバの半導体処理システムを提供することである。即ち,プラズマエッチングや,CVD付着や,物理的なスパッタリングや,急速な熱アニーリングといった別々の種々の形式のプロセスを伴う多数の別々の処理段階を,システムが真空状態に閉じられている間に,1つ以上のウェハに対して同時に又は順次に実行することができる。」(甲第25号証6頁左下欄10行目〜18行目) としている(別紙6参照)。
以上から,ロードロックチャンバ(刊行物2では装填ロックチャンバ)において,複数の処理基板(刊行物2では半導体ウエハ)を支持する棚を設ける構成は,周知であったと認めることができる。
イ 引用発明4も,ロードロック内,すなわち真空状態下で,多数の処理基板(半導体ウエハ)を導入し,これをバッチ加熱し,各種処理を行うものであることは,前記のとおりである。そうすると,同じく,多数の基板をロードロック内に取り込む構成を備える引用発明2の構成のうち,基板を支持するものとしてロードロック内に棚を設ける構成を,引用発明4に適用することを容易に推考できることは,明らかである。
ウ 原告は,刊行物2には,移送チャンバとは別に,ロードロックチャンバを設け,その中に,ガラス基板を支持し冷却する複数の棚を設けるという,本件訂正発明1の構成は記載も示唆もされていない,と主張する。
刊行物2の装填ロックチャンバは,移送チャンバでもあることは,原告が指摘するとおりである。しかし,ここで検討するのは,ロードロックの役割を果たすチャンバにおいて,棚を設けて処理対象を保持する,という構成を読み取り,この構成を刊行物4に適用することの容易推考性である。刊行物2の装填ロックチャンバが,移送チャンバでもあるからといって,そのことが,上記構成を読み取ること及びそれを引用発明4に適用することの容易推考性を阻害するとは認められない。
エ 原告は,引用発明4は,金属原子がウエハを汚染するのを避けるため,ロードロック内で金属のラック又はホルダを使用することを禁止している,と主張する。
本件訂正発明1は,「熱伝導材料」から作られている棚,としていることから,その棚は,例えば金属から成るものであると認めることができる。
他方,引用発明4は,発明の背景として,「金属のウェファ・ホルダでは,これはウェファとの接触地点又はこれの近傍でホルダから金属原子がウェファ内へ伝播するため,場合によってはウェファを汚染する。」(同5頁右上欄3行目〜5行目)とし,金属製のホルダやラックの使用は好ましくないとする記載がある。
しかし,引用発明4のこの記載は,処理対象が半導体ウエハであり,しかも,それと金属製のホルダとの接触地点ないしその近傍において,汚染が生じる場合があることを指摘するものにすぎない。そうすると,処理対象をガラス基板とし,かつ,ガラス基板上に形成された半導体部分(層)に,金属が接触ないし近づかないようにすれば,金属製のラック又はホルダを使用することは,何ら制限されない。しかも,刊行物4は,前記記載の直前で,「ロード-ロック内でバッチ加熱を行うことにも,幾つかの問題がある。ウェファ処理クラスタ・ツールで使用される工業規格のカセットは普通ポリプロピレンのようなプラスチックで作られている。理想的には,カセットは,ウェファを予装入されて外部からロード-ロック内に置かれ,そしてそのロード-ロックの中でウェファと共に緘封される。しかしプラスチック材料は,ウェファからガスを除去する効果的な加熱に要する温度に耐えることができない。」(同5頁左上欄15行目〜23行目)としている。このことからは,ロードロック内で,まだ冷め切っていないガラス基板を収納するための棚を設ける場合,それを熱に弱いプラスチック製ではなく,金属製とすることは,むしろ当然のことといえる。
オ 原告は,引用発明4では,工業規格のカセットを使用できるようにするため,特殊なラックを使用することはできず,そのため,ロードロックチャンバ内に複数の棚を設けることはできない,と主張する。
刊行物4は,発明の背景において,工業規格カセットを用いることのできない問題点を開示し,実施例として工業規格カセットを用いることを開示している。しかし,補正の前後を通じて,刊行物4の特許請求の文言の範囲には,カセットを用いることは記載されているものの,それが工業規格であるとの限定はない。
刊行物4は,「以上の説明から当該技術者には明らかなように,ここに記述してきた実施例は,本発明の原理から外れることなしに,なお様々な変化形が可能である。従って本発明は請求の範囲によってのみ規定される。」(同9頁左下欄12行目〜15行目),としている。そして,引用発明4の原理とは, 「本発明の主要な目的は,ウェファと,予処理に使用される構造体との両方を外気に接触させないようにしながらウェファを予処理できる,ウェファ処理機械,特にモジュール・クラスタ・ツール型の機械のバッチ予熱性能を提供することである。
本発明の他の目的は,ウェファ処理装置の速度と融通性を落さず,むしろ増加する,バッチ予処理性能を提供することである。
本発明の更に特別な目的は,クラスタ・ツールの操作中その内部環境とのみ連絡する,シリコン半導体ウェファの予処理を行う,バッチ予熱,脱気,及び脱着モジュールを提供することである。
本発明の更に特殊な目的は,機械のより高速な処理を行うのに要求されるスループット率を維持しながら,ウェファを長い時間の制御される予処理に掛けることができる,ウェファ処理クラスタ・ツールのバッチ予熱モジュール構成を提供することである。
本発明の原理によれば,ロード-ロックより先方の機械の不活性真空環境に連続的に維持される地点,好適にはハブ又は輸送モジュールにおいてウェファ処理クラスタ・ツールの内部環境に結合する,そのクラスタ・ツールのためのバッチ予熱モジュールが提供される。」(同5頁左下欄5行目〜右下欄1行目) というものである。
この記載からは,工業規格のカセットを用いることは,引用発明4の好ましい構成の一つとはいえても,必須の構成とまではいえない。当業者が,工業規格カセットを用いない構成のものも,引用発明4の一態様として含まれると理解することに何ら支障はない。まして,刊行物4において,ガラス基板を処理することとし,かつロードロック内で冷却する以上,前記のとおり,プラスチック製の工業規格カセットを用いる必然性などないことは,明白である。
したがって,工業規格カセットが用いられることを根拠に,引用発明4のロードロックチャンバ内に複数の棚を設けることができない,という原告の主張も,採用できない。
(5) ガラス基板を熱絶縁性部材で支持することの容易推考性について(訂正相違点2) ア ガラスが,熱伝導性の悪い物質であること,その熱分布が不均等になると,ひび割れやそりが発生することは,原告自身主張するところであり(原告第4準備書面,第5準備書面),一般的な科学常識である,と認められる。真空中におかれた物体は,熱輻射により冷却することもまた,一般的な科学常識である,と認められる。
真空中でガラス基板を冷却する場合,金属等熱伝導性の高い物質でガラス基板を支持すると,接触箇所及びその周辺が急速に冷却され,熱伝導性が悪い(熱的に不均衡な状態が生じやすい)ガラス基板において,他の部分と熱的に不均衡な状態となり,ひび割れやそりが発生する可能性があることは,少なくとも当業者であれば,一般的な科学常識に基づき,極めて容易に推測できるものである,というべきである。
したがって,そのような事態を避けるために,ガラス基板を棚に収納する場合でも,棚にその片面の全面を接触させるのではなく,局所的に,熱絶縁性の材料で支持することもまた,当業者が容易に推考できることというべきである。
審決の認定に誤りはない。
イ 甲第15号証は,「熱伝導性の悪い材質,例えば弗化樹脂のスペーサ6a,6bでマスク1と下部冷却板2の表面3とのギャップを2mm程度のギャップにすることにより,熱輻射を用いてマスク1を冷却すると均一な冷却が達成される。」(甲第15号証2頁右上欄19行目〜左下欄3行目)として,絶縁性の部材を用いて冷却対象を支持すると,熱輻射によりこれを均一に冷却できる,という技術常識を開示している。
これをも参酌すれば,熱輻射により均一に冷却するという効果を狙って,真空中で,棚に保持されるガラス基板を,熱絶縁性部材で支持するという構成を,引用発明4に適用することは,当業者にとって容易に推考できることがより明らかとなる(甲第15号証は,周知技術を立証するための証拠であるから,審決が用いていないものであっても,訴訟において提出し,これを認定に用いることができるのは当然である。)。
ウ 原告は,甲第15号証の前記引用部分に続く,「スペーサ6a,6bを介することなく,下部冷却板2の表面3にマスク1を接触させた場合熱伝導による冷却が主となるので,その間に空気層がはいらないようにすれば熱輻射の場合と同様均一な冷却が可能となる。」(甲第15号証2頁左下欄4行目〜8行目)を引用して,同号証は,基板と棚との間に隙間を設けることを必須の要件とする本件訂正発明1とは異なる,と主張する。
そもそも,本件訂正発明1と甲第15号証記載の発明とが異なるからといって,そのことが,当然に同号証記載の技術を引用発明4に適用することの阻害理由となるものでないことはいうまでもない。
上記記載は,マスク面を均一に冷却する方法として,熱輻射だけにより冷却する方法と,冷却板に隙間なく密着させて熱伝導により冷却する方法とを併記したものと解される。そのうち,前者に着目して,これを採用することに何ら困難はない(甲第15号証記載の技術では,マスク面だけを均一に冷却すればよいのに対し,引用発明4において棚に保持するガラス基板を冷却する場合,このガラス基板は熱伝導性が低く,かつ,ひび割れやそりを防ぐために,全体的に均一に冷却する必要がある,という差異がある点を考慮する必要がある。そうすると,接触面だけがよく冷却される,後者の方法が適切でないことは,当業者が容易に認識できることである,と認められる。)。
その他,原告が挙げる本件訂正発明1と甲第15号証記載の発明の差異は,甲第15号証から,上記周知技術(熱絶縁性部材で支持して,熱輻射により均一に冷却すること)だけを読み取り,これを引用例4に適用することを阻害するものではない。
エ 原告は,甲第15号証は大気中における処理に関するものであり,真空中における冷却を行う本件訂正発明1の容易推考性を判断するための周知技術とはならない,と主張する。
前記のとおり,甲第15号証から抽出するのは,熱輻射により,冷却対象が均一に冷えるという周知技術である。これを,真空中で熱輻射による冷却がなされる引用発明4に適用することは,容易であることは明らかである。
原告は,この点について,真空中の冷却に比較して,大気中の冷却の方が,効率的であるものの,対流による冷却作用もあり,冷却が均一に進むよう制御するのは困難である,との違いを強調する。このような違いがあることはそのとおりであると認められる。しかし,例えば,甲第15号証が真空中における熱輻射による冷却を開示し,これに対し,本件訂正発明1が,大気中における熱輻射等における均一な冷却にかかるものであれば,単純に甲第15号証における冷却の構成を引用発明4に適用しただけでは,より工夫を要する本件訂正発明1の構成に至ることはできない,とはいい得ても,本件はその逆であり,熱輻射による均一な冷却という周知技術を,対流による冷却を考慮する必要がない(熱輻射と熱伝導だけを考慮すればよい),真空中の冷却を行う引用発明4に適用し,同じく真空中の冷却を行う本件訂正発明1の構成に想到することに,何らかの困難があるとは認められない。
オ 本件訂正発明は,【実施例】中の記載ではあるものの,「ガラス基板は,棚60上に載せられるか取り付けられた複数の絶縁性のマウント70の上に載せられており,基板と棚60との間には隙間がある。ガラス基板は,従って,放射熱によって均一に両面から加熱または冷却されて,すばやく均一な加熱または冷却が可能になり,約400度の温度範囲以上に加熱または冷却されたときでさえ基板のひび割れまたはそりが防止される。」(甲第27号証10頁18行目〜23行目),としている。
この「すばやく」という点については,その程度が明らかでなく,また,真空中での熱輻射による冷却が効率が悪い,との原告の主張とも矛盾している。
少なくとも,既に述べてきたところから明らかなとおり,「すばやく」冷却するということを全く考慮しなくても,基板の均一な冷却等から本件訂正発明1の構成に容易に至ることができる以上,そのことを当業者が認識する必要はない。
(6) 移送チャンバを自動化することの容易推考性について(訂正相違点3) 移送チャンバを自動化することについては,例えば,刊行物2の9頁左上欄11行目「ロボット80」以下の記載に,ロボット組立体80の機構,動作が記載され,その制御が,「第3図を更に参照すれば,容量性センサ114-114は,真空中の取り上げ端上或いはポケット108内におけるウエハ15の有無を感知するのに用いるために,真空穴110-110のすぐ後ろでブレード106の前端に取り付けられている。センサ用の電気リード線115は,内部シャフト98を通じてコンピュータ70に接続することができ,ここで,センサ114-114からの出力信号を用いて,ブレード上のウェハの有無が判断される。」(甲第25号証10頁左上欄15行目〜右上欄4行目),ようになされることが開示されている。
これが,自動化に該当することは明らかであるから,移送チャンバを自動化することは,周知技術であると認められ,かつこれを刊行物4において採用することに,阻害事由があるとは認められない。
(7) 原告は,特許庁の審査基準を挙げ,発明は全体として考察しなければならず,本件訂正発明1の構成の各部分が,複数の引用文献に記載されていることをもって,その進歩性を否定することはできない,との主張をする。
しかし,複数の相違点に係る構成について,個別に主引例にはない構成が周知技術であることを認定し,これを主引例に適用する動機付けがあるとして(あるいは,採用することは適宜選択できる設計事項にすぎないとして),主引例の構成を改変し,特許性が問題となっている発明の構成に想到することが容易である,と認定する手法は,ごく一般的なものである。この手法が,原告がいうような,単に相違点に係る構成が複数の引用文献に記載されていることだけをもって,進歩性を否定するものではないことは明らかである。
(8) 本件訂正発明1に,顕著な作用効果があるとは認められない。
本件訂正発明1が,真空中において,均一な冷却制御が容易であることに着目し,大型のガラス基板の処理における,ひび割れ,そりの発生を防止するとともに,ロードロックチャンバと冷却チャンバとを一体とすることとし,装置の小型化を可能とし,冷却チャンバに対する移送処理を不要とするものであるとしても,これは,当業者が,本件訂正発明1の構成から当然に予測できる程度のものに過ぎない。これをもって,特許性を認める根拠とするとこはできない。
(9) 以上のとおりであるから,本件訂正発明1の進歩性を否定した審決の判断は,相当である。
4 取消事由B2(本件訂正発明2の進歩性の判断の誤り)について (1) 原告は,引用発明2には,本件訂正発明2のロードロックチャンバ/冷却チャンバがなく,また,引用発明2の支持プレートには,絶縁性マウントもないから,本件訂正発明2の構成の棚もない,さらに,刊行物4にはカセットもない,と主張する。
(2) 前記のとおり,刊行物2は,保管エレベータ組立体50は,半導体ウエハを支持する複数の水平支持プレート54を有している。そして, 「・・・内部の保管エレベータカセット組立体50は,ベースプレート58とスロット付きの垂直フロントプレート59とを備えており,この垂直フロントプレート59には水平のウェハ支持プレート54-54が取り付けられている。ここに示す実施例において,1対のガイドシャフト60-60と駆動シャフト61は,エレベータ組立体50を案内して移動させるように,ベースプレート58から装填ロックチャンバの底壁62を通じてシール63-63を経て下方に延びることができる。エレベータ組立体50は,垂直インデックスシステム64によって上下させることができ,・・・」(甲第25号証8頁左下欄15行目〜右下欄7行目) との記載及びFIG.2によれば,刊行物2は,処理対象である基板(刊行物2では半導体ウエハ)を支持する複数の棚を有し,上下移動装置に取り付けられたカセットを有している,と認められる。
そして,同様に複数の処理対象となる基板を装置内に取り込む引用発明4においても,現実に多数の基板を同時に保持するロードロック/冷却チャンバ及び加熱チャンバに,基板を収納し,選択して取り出すための構成として,上記エレベータ装置及びカセットを備えさせることは,当業者が容易に推考できることであり,かつ,そのことに何らかの阻害事由があるとは認められない。
ロードロックチャンバで冷却を行うこと,ガラス基板を処理する場合,これを均一に冷却するため,このカセットの棚に絶縁性のマウントを設けてガラス基板を支持することを容易に推考できることは,3において述べたとおりである。引用発明2が,ロードロックチャンバ/冷却チャンバを備えているか否か,その支持プレートが絶縁性マウントを備えているか否かは,全く関係がない。
(3) よって,本件訂正発明2の進歩性を否定した審決の判断は,相当である。
5 取消事由B3(本件訂正発明3の進歩性の判断の誤り)について 原告は,刊行物4には,2個のロードロックチャンバを設けることが開示されているものの,それは,複数個のウエハを収納する,ポリプロピレンのようなプラスチック製の規格カセットを搬出入するものであり,冷却機能を持たないから,本件訂正発明3のロードロック/冷却チャンバとは構造が異なる,と主張する。
しかし,刊行物4のロードロックチャンバにおいて,冷却をすることが容易推考であることは,既に述べたとおりである。また,そこで,加熱されたガラス基板を冷却する以上,その収納に熱に弱いプラスチック製のカセットを用いないようにすることも,前記のとおり,当然である。
原告の主張は採用できず,本件訂正発明3の進歩性を否定した審決の判断に誤りはない。
6 取消事由B4(本件訂正発明4の進歩性の判断の誤り),取消事由B5(本件訂正発明5の進歩性の判断の誤り)及び取消事由B6(本件訂正発明6の進歩性の判断の誤り)について 原告の主張は,本件訂正発明1が進歩性を有することを前提に,本件訂正発明4及び5に進歩性がある,と主張するものであるが,本件訂正発明1に進歩性がないことは,前記のとおりである。
本件訂正発明6に進歩性がある,とする原告の主張の根拠は,訂正相違点1及び2に係る審決の判断に誤りがあることを根拠とするものであるが,この点に関する審決の判断が相当であることは,既に述べたとおりである。本件訂正発明1の,基板を均一に冷却する構成が周知技術であることも,既に述べたとおりである。 7 取消事由B7(本件訂正発明7の進歩性の判断の誤り)について 原告は,本件訂正発明6が進歩性を有することを前提に,本件訂正発明7にも進歩性がある,と主張するほか,薄膜を複数工程で積層することが単なる慣用手段に過ぎないとしても,本件訂正発明6のステップc)のあとに,上記工程を設けることは,慣用手段であるとはいえない,と主張する。
本件訂正発明6に進歩性がないことは,前記のとおりである。
処理対象の基板に薄膜を蒸着した後,さらに付加的な薄膜を蒸着することは,周知である(例えば,刊行物1には,「ガラスサブストレートの酸化被覆面上にアモルフアスシリコンのpドープ層を堆積する。・・・pドープ層の頂部に約500nmの厚さの真性シリコン層を堆積する。・・・堆積室7内で約80nmの厚さのアモルフアスシリコンのnドープ層を真性シリコン層上に上述と同様にして堆積させる。・・・堆積室8に転送し,既知の方法でnドープシリコン層上に200nmの厚さのアルミニウム層を堆積させる。」(甲第29号証7頁左下欄13行目〜8頁左上欄13行目)との記載がある。)。
原告の主張は、失当である。
8 取消事由B8(本件訂正請求を認めなかった判断の誤り〜指定期間の徒過)について 審決が,本件訂正発明1ないし7について独立特許要件を具備しているかどうかの実体判断をして,本件訂正請求を認めなかったものであることは明らかであり,その判断に誤りがないことは,前記のとおりであるから,原告主張の取消事由B8は,審決の結論に影響を及ぼさない単なる傍論部分に対する非難に過ぎず,その当否を判断するまでもなく,失当というべきである。
9 取消事由C1(本件発明1の進歩性の判断の誤り)について 取消事由B1についての判断において述べたとおり,刊行物4を,ガラス基板の処理に転用して,ロードロックチャンバに複数の棚を設け,これにガラス基板を支持させる構成を備えさせること,ロードロックチャンバで処理済み基板の冷却を行うことは,いずれも当業者が容易に推考できることである。
引用発明1から読み取る周知技術は,クラスタタイプの処理装置で,ガラス基板の処理を行う,ということだけである。引用発明1が,ロードチャンバとアンロードチャンバとを別々に設けていること,その堆積室4ないし8が,単一基板処理チャンバでないことは,上記判断に全く影響しない。本件発明1は,処理対象であるガラス基板の大きさを限定しているものではないから,その大きさが,引用発明1のガラス基板の大きさと異なることを根拠とする主張も,理由がない。
原告は,審決が「支持」の存在について判断していない,と主張する。しかし,審決は,「ロードロックチャンバに複数の棚を設けることは単なる慣用手段に過ぎない。」(審決書15頁31行目〜32行目)と認定している。これは,ガラス基板を支持するものとしての棚を設けることの容易推考性の判断としてなされた説示であることは,明らかである。
したがって,審決の判断は相当である。
10 取消事由C2(本件発明2の進歩性の判断の誤り)について 取消事由B2において述べたところから,引用発明4において,ガラス基板を処理することとし,エレベータ駆動装置80を,ガラス基板を収納する複数の棚を有するカセットが取り付けられたものとすることは,容易推考である,と認められる。
11 取消事由C3(本件発明3の進歩性の判断の誤り)について 前記のとおり,刊行物4のロードロックチャンバにおいて,冷却を行うようにすることは容易推考である,と認められる。それが,冷却機能を持たないとして,本件訂正発明3のロードロック/冷却チャンバとは構造が異なることを根拠に,審決の認定を争う原告の主張は,採用できない。
12 取消事由C4(本件発明4の進歩性の判断の誤り)及び取消事由C5(本件発明5の進歩性の判断の誤り)について 本件発明1に進歩性があることを根拠に,本件発明4及び5にも進歩性があるとする原告の主張は,その根拠を欠き,理由がない。
13 取消事由C6(本件発明6の進歩性の判断の誤り)について 本件訂正発明1についての相違点1,2に対する審決の認定の誤りを根拠に,本件発明6に進歩性があるとする原告の主張は,その根拠を欠き,理由がない。
14 取消事由C7(本件発明7の進歩性の判断の誤り)について 本件発明7が,本件発明6のステップc)のあとに,上記工程を設けるものであり,そのことが,慣用手段であるとはいえないとの原告の主張が理由がないことは,取消事由B7についての判断において述べたとおりである。
15 結論 以上のとおりであるから,原告主張の取消事由は,いずれも理由がなく,その他,審決には,取消しの事由となるべき誤りは認められない。
よって,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担,上告及び上告受理の申立てのための付加期間について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,96条2項を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官 設樂隆一
裁判官 高瀬順久