運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成25行ケ10207審決取消請求事件 判例 特許
平成25行ケ10278審決取消請求事件 判例 特許
平成25行ケ10215審決取消請求事件 判例 特許
平成26行ケ10033審決取消請求事件 判例 特許
平成25行ケ10104審決取消請求事件 判例 特許
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 25年 (行ケ) 10208号 審決取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2014/07/30
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成26年7月30日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

平成25年(行ケ)第10208号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 平成26年7月9日

判 決



原 告 エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー




訴訟代理人弁護士 上 谷 清



同 萩 尾 保 繁

同 山 口 健 司

同 薄 葉 健 司

同 石 神 恒 太 郎

同 関 口 尚 久

同 伊 藤 隆 大

訴訟代理人弁理士 福 本 積

同 渡 邉 陽 一

同 胡 田 尚 則

訴訟復代理人弁理士 中 島 勝



被 告 特 許 庁 長 官

指 定 代 理 人 武 重 竜 男

同 中 田 と し 子

同 瀬 良 聡 機

同 山 田 和 彦




同 井 上 雅 博

主 文

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を3

0日と定める。

事実及び理由

第1 請求

特許庁が不服2011−22536号事件について平成25年3月11日に

した審決を取り消す。

第2 事案の概要

1 特許庁における手続の経緯等

原告は,平成13年4月10日を国際出願日とする特願2001−578

400号(優先権主張日2000年(平成12年)4月19日,優先権主張

国アメリカ合衆国)の一部を,発明の名称を「炭酸ジメチルを用いたインド

ール化合物のメチル化」とする発明として,平成19年5月15日に分割出

願(以下「本願」という。)をした。

原告は,平成23年3月30日に手続補正をしたが,同年6月24日付け

拒絶査定(以下「原査定」という。)を受けたため,同年10月19日,

拒絶査定不服審判を請求するとともに,同日付けで本願の願書に添付した明

細書(以下「本願明細書」という。)の特許請求の範囲変更する手続補正

(以下「本件補正」という。)をした。

特許庁は,上記請求を不服2011−22536号事件として審理し,平

成25年3月11日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以

下「本件審決」という。)をし(なお,原告のための出訴期間として90日

が付加された。),同月26日,その謄本が原告に送達された。




原告は,平成25年7月23日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提

起した。

2 特許請求の範囲の記載

本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,

請求項1に係る発明を「本願発明」という。)。

「【請求項1】

一般式(I):【化1】




(式中,R1は,水素,ハロゲン,C1−C6アルキル,C1−C6アルケニル,

−OCH3,−NO2,−CHO,−CO2CH3及び−CNからなるグループの

中から選択され,R2は,水素,C1−C6アルキル,−CO2CH3,−CN,

−CHO,−NH2,−N(C1−C6アルキル) 2,−(CH2)nCOOH及び

−(CH2)nCNからなるグループの中から選択され,nは1〜4の整数であ

り,R1又はR2の少なくともいずれか一方が水素であり,そしてR1が6位に

ある場合,R2は水素であり;そしてR2がアセトニトリルである場合,R1は

水素である)で表わされるメチル化されたインドール化合物の製造方法であっ

て,

炭酸カリウム(K2CO3)および/または相間移動触媒としての臭化テトラ

ブチルアンモニウム(TBAB)の存在下で,周囲圧にて,以下の一般式:

【化2】





(式中,R1とR2は上記の通りである)で表わされる化合物を炭酸ジメチルと

反応させる操作を含む方法。」

3 本件審決の理由の要旨

本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,

本願発明は,本願の優先権主張日前に頒布された下記アないしエの刊行物1

ないし4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができ

たものであって,特許法29条2項の規定により特許を受けることができな

いから,他の請求項に係る発明について論及するまでもなく,本願は拒絶す

べきものであるというものである。



ア 甲1:国際公開98/04551号(以下「刊行物1」という。)

イ 甲2:特開平3−58966号公報(以下「刊行物2」という。)

ウ 甲3:J.Med.Chem.,1999年,42,2191−220

3頁(以下「刊行物3」という。)

エ 甲4:Applied Catalysis A:General,1

997年, Vol.155,No.2,p.133−166(以

下「刊行物4」という。)

本件審決が認定した刊行物1に記載された引用発明,本願発明と引用発明

の一致点及び相違点は,以下のとおりである。

ア 引用発明

「1−メチル−6−ニトロ−1H−インドールの製造方法であって,




NaHの存在下で,6−ニトロ−1H−インドールをCH3Iと反応さ

せる操作を含む方法」の発明。

イ 本願発明と引用発明の一致点

「一般式:




(式中,R1は,−NO2から選択され,R2は水素から選択され,R1又

はR2の少なくともいずれか一方が水素であり,そしてR1が6位にある場

合,R2は水素である)で表されるメチル化されたインドール化合物の製

造方法であって,

塩基の存在下で,以下の一般式:




(式中,R1とR2は上記の通りである)で表わされる化合物を,メチル

化剤と反応させる操作を含む方法」である点。

ウ 本願発明と引用発明の相違点

インドール系化合物のメチル化に際し,本願発明は,「炭酸カリウム(K

2 CO3)および/または相間移動触媒としての臭化テトラブチルアンモニ

ウム(TBAB)の存在下,周囲圧にて,炭酸ジメチルを用いて行う」が,

引用発明は,NaHの存在下,CH3Iを用いて行う点。




第3 当事者の主張

1 原告の主張

取消事由1(進歩性の判断の誤り)

容易想到性の判断の誤り

本件審決は,本願発明と引用発明の相違点について,引用発明と刊行物

2ないし4に記載された発明は,「Ph−NH−」という化学構造を含む

化合物のメチル化という点で共通することから,引用発明のメチル化の条

件を刊行物2ないし4に記載されたものに変えることは当業者にとって容

易である旨判断した。しかしながら,次のとおり,刊行物2ないし4は,

それぞれ化学構造が大きく異なる化合物についてのメチル化反応を開示す

るものであり,しかもメチル化条件も異なるものであるから,これらの刊

行物を一緒にして上位概念化した周知慣用の常套手段を認定し,引用発明

との組合せで本願発明の容易想到性を判断したことは誤りである。

メチル化される化合物について

本件審決は,本願発明と引用発明の相違点の検討にあたって,引用発

明及び刊行物2ないし4(甲2〜4)に記載されたメチル化される化合

物が「Ph−NH−」という化学構造を有する点で共通する旨認定した。

しかしながら,刊行物3に記載されたメチル化される化合物であるピ

リドカルバゾール化合物及び刊行物4に記載されたメチル化される化合

物であるベンゾイミダゾールは,いずれも,インドール骨格を構成する

フェニル環が窒素原子を含む五員環と縮合しており,「Ph−NH−」

という化学構造を有しているとはいえない。したがって,刊行物2ない

し4のそれぞれにおいてメチル化される化合物と引用発明においてメチ

ル化される化合物とが「Ph−NH−」という化学構造の点で共通して

いるとはいえない。

また,引用発明及び刊行物2ないし4でメチル化される化合物につい




ては,メチル化される窒素原子の化学的環境は顕著に異なる。すなわち,

引用発明のメチル化される化合物であるインドール化合物においてメチ

ル化される窒素原子は,その孤立電子対が芳香環の形成に関与している

ため,塩基性を示さないが,刊行物2の化合物のメチル化される窒素原

子は塩基性を示す。また,刊行物3の化合物においてはメチル化される

窒素原子は引用発明同様インドール骨格の中のものであるが,そのイン

ドール骨格にはイソキノリン環が縮合しているため,引用発明のインド

ール化合物の窒素原子とは異なる反応性を有すると予測される。さらに,

刊行物4の化合物のメチル化される窒素原子はベンゾイミダゾール環の

中のものであるが,ベンゾイミダゾールと引用発明のインドールとは五

員環の中の窒素の数の相違により,物理化学的性質が顕著に異なるので,

それらの中の窒素原子の化学的環境も顕著に異なるものであるといえ

る。

以上からすると,引用発明と刊行物2ないし4におけるメチル化され

る化合物は,化学構造の点で異なり,メチル化される窒素原子の化学的

環境の点でも異なるものであるから,それらを「Ph−NH−」という

化学構造を含む化合物として一括りにして,それらが炭酸ジメチルとの

化学反応において同様の挙動を示すということはできない。

なお,被告は,「Ph−NH−」化学構造を含む化合物のメチル化に

炭酸ジメチル(以下,「DMC」又は「ジメチルカーボネート」という

ことがある。)を用いることを記載する文献は枚挙にいとまがない旨主

張するが,刊行物4及び乙3は学術雑誌の論文である乙2(Liebi

gs Ann.chem.,1987 77−79)を引用するもので

あるから,当該化合物を炭酸ジメチルによりメチル化したのは乙2の著

者のみである。

メチル化剤について




本件審決は,本願発明の進歩性判断の前提として,「従前からのメチ

ル化剤であるハロゲン化メチルや硫酸ジメチルの毒性が強いことは,周

知の課題であって,これらのメチル化剤に代えて,炭酸ジメチルを用い

ることは,本願優先日前において,この課題解決の常套手段であったと

認定した。

しかしながら,ハロゲン化メチル,硫酸ジメチル,炭酸ジメチルの他

にも,トリフルオロメタンスルホン酸メチル,フルオロスルホン酸メチ

ル,メチルナトリウム,グリニャール試薬など多数のメチル化剤が知ら

れている。これら多数の選択肢の中から炭酸ジメチルを選び出すことは

容易とはいえない。

また,炭酸ジメチルは,万能なメチル化剤ではなく,反応条件等によ

ってはカルボキシル化剤として作用したり(刊行物4),化合物によっ

てはメチル化できないこともあるから(本願明細書),毒性が強いメチ

ル化剤に代えて炭酸ジメチルを用いたとしても,引用発明のインドール

化合物の窒素原子のメチル化が達成されるかどうかは,当業者が予測し

得ることではない。

さらに,刊行物1によれば,ヨウ化メチル(以下「CH3I」又は「沃

化メチル」ということがある。)によるメチル化は0℃から室温程度で

行われるのに対して,炭酸ジメチルはメチル化剤としての活性が弱く,

高い反応温度が要求されることからすると(乙3),刊行物1にインド

ールの窒素原子がヨウ化メチルによりメチル化されることが記載されて

いるからといって,炭酸ジメチルでもメチル化できるとはいえない。

加えて,炭酸ジメチルによるメチル化は求核反応であるが(刊行物4),

インドールの窒素原子は求核反応性が弱い(刊行物1,甲19)。この

ことは,刊行物1のスキーム3のビスインドイルマレイミドの窒素原子

はマレイミド基で求核反応性が高められているから,中程度の塩基性の




炭酸カリウム(K2CO3)の共存化でヨウ化メチル(CH3I)により

メチル化できるが,インドールでは窒素原子の求核反応性を高めるため

にNaHという強塩基が必要とされていることからも明らかである。ま

た,ビスインドイルマレイミドとインドールのようにインドール構造を

共有する化合物同士でさえ,メチル化に用いる塩基の種類を変える必要

があるように,対象とする化合物が異なれば,反応条件も異なることが

明らかである。

塩基及び相間移動触媒について

本件審決は,本願発明の反応が「炭酸カリウム(K2CO3)および/

または相間移動触媒としての臭化テトラブチルアンモニウム(TBAB)

の存在下」で行われる点について,刊行物2ないし4を根拠に周知慣用

の常套手段である旨認定した。

しかしながら,本願発明では,相間移動触媒が用いられるのであれば,

臭化テトラブチルアンモニウム(TBAB)が用いられるのに対して,

刊行物2では,炭酸カリウム及び相間移動触媒として臭化テトラブチル

アンモニウム,刊行物3では,炭酸カリウム及び相間移動触媒としてa

dogen464,刊行物4では,炭酸カリウム及び相間移動触媒とし

て18−クラウン−6と,相間移動触媒が異なるのであるから,臭化テ

トラブチルアンモニウムを使うことが周知慣用の常套手段であるという

ことはできない。また,刊行物2ないし4においては,炭酸カリウムと

相間移動触媒の両者が必須なのだから,これらに基づいて,塩基及び相

間移動触媒について「炭酸カリウムおよび/または臭化テトラブチルア

ンモニウム(TBAB)」を使うことが周知慣用の常套手段であるとも

いえない。

なお,被告は,本願発明の「炭酸カリウム(K2CO3)および/また

は相間移動触媒としての臭化テトラブチルアンモニウム(TBAB)の




存在下」との記載は,炭酸カリウム(K2CO3)及び臭化テトラブチル

アンモニウム(TBAB)の少なくとも一方が存在すればよいという意

味であって,臭化テトラブチルアンモニウム以外の相間移動触媒を含む

ことを排除しないから原告の主張は前提が誤っている旨主張するが,本

願発明は毒性の強い相間移動触媒である18−クラウン−6の存在を必

須としないから,主張の前提に誤りはない。また,被告は,乙6及び乙

7を引用して,臭化テトラブチルアンモニウムは相間移動触媒として周

知である旨主張するが,乙6にも乙7にも臭化テトラブチルアンモニウ

ムを炭酸ジメチルと組み合わせて用いることは記載されていない。

圧力について

本件審決は,刊行物2ないし4に基づき,「炭酸ジメチルを用いたメ

チル化を,炭酸カリウムおよび/またはTBABの存在下で行う場合に,

大気圧,すなわち本願発明の「周囲圧」(本願発明及び本願明細書にお

いては,通常の大気圧を指すのに用いられている。以下,「周囲圧」は

大気圧を意味する。)で行うことは,当業者が適宜なし得る設計的事項

に過ぎないといえる。」と判断した。

しかしながら,刊行物2には反応は減圧で行われる旨記載されている

上,刊行物3で用いられるadogen464及び刊行物4で用いられ

る18−クラウン−6は非常に毒性の強い相間移動触媒であって加圧反

応チェンバーの使用が必須であるから,刊行物2ないし4の記載に基づ

いて,炭酸ジメチルを用いたメチル化を周囲圧で行うことは当業者が適

宜なし得る設計事項であるとはいえない。

なお,被告は,adogen464や18−クラウン−6を触媒とし

て用いて大気圧で反応を行う例として乙6,7,9〜11を挙げるが,

これらはいずれも炭酸ジメチルによるメチル化とは関係のないものであ

り,工業レベルの大量生産において,加圧反応チャンバ−を用いずに,




これらの毒性の高い触媒を使用することは現実的ではない。

イ 顕著な作用効果の判断誤り

本件審決は,本願明細書に記載された実験結果の一部である表2(後

において,所

望の部位以外もメチル化されたものが高収率で得られたことから,本願

発明の効果が顕著であるといえない旨判断した。

しかしながら,同結果は,N−メチル化(所望の部位のメチル化)と

O−メチル化の割合の違いを調べるためだけに行われた実験の結果であ

って,N−メチル化とO−メチル化の割合は,反応温度条件を適宜設定

するなどして当業者により容易に変更し得るものであるから,表2を理

由として本願発明の効果の顕著性を否定することはできない。

また,本件審決は,メチル化される化合物のR2がNH2基である場合,

インドール環の窒素原子のメチル化とR 2のNH 2 基の窒素原子のメチ

ル化のうち前者が選択的に進むかどうかが不明であることから,本願発

明の効果の顕著性を否定した。

しかしながら,アニリンのN−メチル化は非常に特殊な条件下で行わ

れる(刊行物4)ので,本願発明のメチル化される化合物においてR 2

がNH2基である場合も,R2のNH2基の窒素原子をメチル化するには

同様の特殊な条件が必要であり,通常の条件下ではインドール環の窒素

原子がメチル化されることが当業者に自明である。

したがって,本件審決の上記判断は誤りである。

本願発明は,毒性の高い相間移動触媒の使用を回避し,かつ炭酸ジメ

チルの使用量を低減できるという,工業生産の上で極めて有利な効果を

奏することができる。すなわち,炭酸ジメチルの使用量は,刊行物2の

例1では約11.9モル当量,刊行物3の方法では約41.6モル当量

であるのに対して,本願発明では2.2モル当量で足りる。




したがって,本件審決には,本願発明の格別顕著な作用効果を看過し

た誤りがある。

ウ まとめ

以上からすれば,本件審決は,相違点の容易想到性及び本願発明の顕著

な作用効果に関する判断を誤った結果,本願発明の進歩性を否定した誤り

がある。

取消事由2(手続違背)

ア 主引用例及び副引用例の実質的差替え

原査定における拒絶の理由は,引用文献1ないし4(「引用文献1」は

刊行物4,「引用文献3」は刊行物1と同じ。)を本願発明と対比し,引

用文献5(刊行物2と同じ。)及び6(刊行物3と同じ。)から導かれた

技術常識を考慮して判断したものであるのに対して,本件審決の拒絶の理

由は,刊行物1(原査定の引用文献3)を主引用例とし,刊行物2ないし

4(それぞれ原査定の引用文献5,6,1)から認定した周知慣用の常套

手段を副引用例として判断した。

原査定における主引用例が,引用文献1ないし4を一括りとしたもので

あるのか,それぞれを個別にしたものであるのかは判然としないが,前者

の場合,原査定と本件審決とで主引用例が異なることが明らかである。ま

た,後者の場合であっても,主引用例を一つにしぼった点で主引用例が変

更されている。

また,副引用例として考慮された技術常識ないし周知慣用技術も,原査

定においては,N−メチル化試薬としての炭酸ジメチル,塩基としての炭

酸カリウム(K2CO3)及び相間移動触媒としての臭化テトラブチルアン

モニウム(TBAB)が汎用であることであったのに対して,本件審決で

は,それらが「Ph−NH−」という化学構造を含む化合物のメチル化に

おいて周知慣用技術であることに変更された。




以上のとおり,原査定と本件審決とでは,主引用例及び副引用例が実質

的に異なるのにもかかわらず,原告には反論の機会が与えられなかった。

進歩性否定の理由の変更

本件審決は,表2及びそれに関する本願明細書の記載に基づいて,本願

発明の効果の顕著性を否定したが,この点について,原告には反論の機会

が与えられなかった。

ウ したがって,本件審決には,特許法159条2項により準用される法5

0条に違反した手続違背がある。

まとめ

以上によれば,本願発明は,引用例に記載された発明に基づいて当業者が

容易に発明をすることができたとした本件審決の判断は誤りであり,本件審

決は,違法であるから,取り消されるべきものである。

2 被告の主張

取消事由1(進歩性の判断の誤り)に対して

容易想到性の判断の誤りに対して

メチル化される化合物について

原告は,刊行物3,4のメチル化される化合物は,「Ph−NH−」

という化学構造を有していないから,「Ph−NH−」という化学構造

を含む化合物のメチル化という点で共通するとした本件審決は誤りであ

り,刊行物2ないし4のメチル化される化合物中のメチル化される窒素

原子の化学的環境はそれぞれ顕著に異なるから一括りにするのは不適切

である旨主張する。

しかしながら,本件審決は,ベンゼン環に直結する窒素原子のメチル

化に関する技術を説明するに当たってメチル化される化合物を「『Ph

−NH−』構造を含む化合物」と表現したにすぎない。Phはベンゼン

環構造を意味し,フェニル基に限らずフェニレン基や縮合したフェニレ




ン基も意味することは明らかであって,実際に「Ph−NH−」の化学

構造を含む化合物(インドール系やイミダゾール系の化合物も含まれ

る。)のメチル化と表現している。そして,こうした化合物のメチル化

を,塩基として炭酸カリウム(K2CO3),相間移動触媒として臭化テ

トラブチルアンモニウム(TBAB)を用いて炭酸ジメチルで行うこと

が周知慣用であることを示す証拠は枚挙にいとまがない(刊行物2ない

し4,乙1,2)。

また,有機化学の分野において,類似する化合物の反応をまとめて一

般化された反応として認識することは技術常識である(乙4)ところ,

メチル化される窒素原子の化学的環境が違っても,刊行物2ないし4に

おけるメチル化される化合物はいずれも炭酸ジメチルによりN−メチル

化されることが理解でき,炭酸ジメチルがメチル化剤であることは技術

常識といえるから,当業者は,引用発明のインドール化合物である6−

ニトロインドールについても,炭酸ジメチルによりN−メチル化できる

であろうことを,成功の見込みをもって想起するといえる。

メチル化剤について

原告は,炭酸ジメチルではメチル化できない化合物があることなどか

らメチル化剤として選択することが容易とはいえない旨主張する。

しかしながら,原告の主張する化合物は,いずれも「Ph−NH−」

という化学構造の他に,メチル化反応に関与するアミノ基やヒドロキシ

ル基も含有し,それらの基が優先的に反応するために「Ph−NH−」

部分のメチル化が必ずしも優先的に生じないにすぎない。

引用発明のインドール化合物は,「Ph−NH−」以外にメチル化反

応に関与する置換基を有さないのであって,炭酸ジメチルがメチル化に

用いられることは周知である以上,炭酸ジメチルが他の用途に用いられ

たり,炭酸ジメチルでメチル化できない化合物が存在するとしても,当




業者が一般的に炭酸ジメチルでのメチル化を試みる妨げとはならない。

塩基及び相間移動触媒について

原告は,本願発明で相間移動触媒を用いるのであれば臭化テトラブチ

ルアンモニウム(TBAB)であるということを前提に,本件審決の相

間移動触媒に関する判断が誤りである旨主張する。

しかしながら,本願発明の「炭酸カリウム(K2CO3)および/また

は相間移動触媒としての臭化テトラブチルアンモニウム(TBAB)の

存在下で」との記載からすれば,本願発明においては,塩基としての炭

酸カリウムか,相間移動触媒としての臭化テトラブチルアンモニウムの

少なくとも一方が存在していればよいことを意味するのであって,例え

ば,炭酸カリウム及び18−クラウン−6が存在するものなどを含むの

であるから,原告の主張は前提が誤っている。

また,仮に,原告のように,本願発明で相間移動触媒を用いるのであ

ればそれは臭化ブチルアンモニウムであると狭く解釈するとしても,@

化合物のN−メチル化に炭酸ジメチルが用いられること,Aその反応に

おいて,塩基と相間移動触媒が用いられること,Bその塩基として炭酸

カリウム,相間移動触媒として臭化テトラブチルアンモニウムが用いら

れることは周知慣用であった。なお,相間移動触媒として臭化テトラブ

チルアンモニウムが用いられることが周知慣用である点については,刊

行物2に記載があるほか,相間移動触媒について一般的に記載された文

献である特開昭62−459号公報(乙6)や特開平7−224062

号公報(乙7)などにおいて,臭化テトラブチルアンモニウムが刊行物

3記載のadogen464や刊行物4記載の18−クラウン−6と同

列に挙げられており,当業者であれば,adogen464,18−ク

ラウン−6の代わりに,臭化テトラブチルアンモニウムを試みることは

何の困難もないことから明らかである。




したがって,刊行物2ないし4の記載及び相間移動触媒についての当

業者の技術常識を考慮すれば,本願発明で相間移動触媒を用いるのであ

れば臭化テトラブチルアンモニウムと限っても,相間移動触媒に関する

本件審決の認定判断に誤りはない。

圧力について

原告は,刊行物2の反応は減圧で行われるものである旨主張する。

しかしながら,刊行物2の「減圧」との記載は一般的な記載にとどま

っており,実施例を含めて具体的な圧力設定条件の記載は一切ない上,

刊行物2の優先基礎出願のドイツ国公開特許公報(乙8)には,「dr

ucklos」と記載され,これは「加圧せず」という意味にも理解で

きることから,刊行物2における圧力条件が大気圧である可能性がある。

また,炭酸ジメチルの沸点は90.2℃であるところ,刊行物2には,

「(反応は)約20ないし約180℃・・・の範囲で実施される」「反

応を過剰のジアルキルカーボネートの中で又は極性中性有機溶媒中で実

施するのが特に望ましい。」などと記載した後に中性有機溶媒の例が記

載されており,これらの溶媒の中に上記「約20ないし約180℃」で

反応を実施するのに適した沸点が高いもの(沸点が低いと加圧する必要

がある。)が含まれることからすると,刊行物2では常に特別な圧力設

定がされるわけではないと解され,当業者が上記「減圧」との記載にと

らわれて,大気圧での実施を試みないとは認め難い。

なお,原告は,刊行物3で用いられるadogen464や刊行物4

で用いられる18−クラウン−6は非常に毒性が強いから加圧反応チェ

ンバーの使用が必須である旨主張するが,具体的な根拠はなく,むしろ,

adogen464や18−クラウン−6を触媒として用いて大気圧で

反応を行うことを記載した文献は多数ある(乙6,7,9〜11)。

以上のとおり,刊行物2ないし4において,圧力条件は特定の範囲に




限定せず実施できると理解でき,好適な反応温度範囲と溶媒の沸点との

関係等を考慮して,通常の大気圧で問題がないのであれば,それを採用

することは当然である。

以上からすると,刊行物2ないし4の化合物はいずれも「Ph−NH

−」という化学構造を含み,反応に際して炭酸カリウムが存在するとい

う意味で本願発明の「炭酸カリウム(K2CO3)および/または臭化テ

トラブチルアンモニウム(TBAB)の存在下に」に該当する。また,

炭酸カリウム及び臭化テトラブチルアンモニウム(TBAB)の存在下

で反応させる場合についても,周知慣用の常套手段である。

したがって,本願発明の相違点は引用発明から容易想到であるとした

本件審決の判断に誤りはない。

イ 顕著な作用効果の判断誤りに対して

原告は,表2は,N−メチル化(所望の部位のメチル化)とO−メチ

ル化の割合の違いを調べるためだけに行われた実験の結果であるから,

これにより本願発明の効果を否定することはできない旨主張する。

しかしながら,仮に表2の目的が原告主張のとおりとしても,表2の

結果は,本願発明の範囲に含まれる化合物を炭酸ジメチルでメチル化し

ても,必ずしも高収率にはならないことを示しているから,高収率で生

成物を得られるという効果は,本願発明の全般にわたって奏される効果

とはいえない。

原告は,刊行物4の記載から,通常の条件であれば,アニリンのN−

メチル化は進まず,インドール骨格の1位の窒素原子がメチル化される

ことが自明である旨主張する。

しかしながら,刊行物4に記載されたのはインドール化合物ではなく

イミダゾール化合物であるところ,原告の主張は,ベンゼン環に直接結

合する窒素原子のメチル化が,インドール化合物でもイミダゾール化合




物でも同様に進むことを前提としているから,前記1 のメチル化

される化合物の化学構造が異なる場合には反応が異なるはずであるとい

う原告の主張と矛盾する。原告主張は,「Ph−NH−」という化学構

造を有する化合物のメチル化反応が同様に進むと当業者が認識すること

を裏付けるものといえる。

したがって,本件審決における本願発明の格別顕著な作用効果の看過

をいう原告の主張は理由がない。

取消事由2(手続違背)に対して

ア 主引用例及び副引用例の実質的差替え

原告は,原査定の拒絶の理由と本件審決とでは,用いた主引用例及び副

引用例(技術常識ないし周知慣用技術)が異なり,拒絶査定不服審判にお

いて査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合(特許法159条2項

に該当するから,出願人に対して拒絶の理由を通知し,相当の期間を指定

して意見書を提出する機会を与えなければならないはずであった旨主張す

る。

原査定の拒絶の理由は,引用文献1ないし4のいずれを主引用例として

も相違点となる点について,N−メチル化剤として炭酸ジメチル,塩基と

して炭酸カリウム(K2CO3),相間移動触媒として臭化テトラブチルア

ンモニウム(TBAB)がいずれも当業者に汎用されていること(引用文

献5,6)により容易想到である旨判断したものである。一方,本件審決

の拒絶の理由は,引用文献1ないし4のうちの引用文献3(刊行物1)を

主引用例として,N−メチル化剤として炭酸ジメチル,塩基として炭酸カ

リウム,相間移動触媒として臭化テトラブチルアンモニウムが当業者に汎

用であることを示すために引用文献5,6,1(刊行物2,3,4)を挙

げて出願時の技術常識を示したものである。したがって,原査定の拒絶の

理由と本件審決とで主用例が異なるとはいえない。また,技術常識は文献




を示すまでもなく当業者が知悉している事項であるから,原査定の拒絶の

理由において既に示された2つの文献にもう一つ追加されたからといっ

て,原査定の拒絶の理由と本件審決とで副引用例が異なるとはいえない。

進歩性否定の理由の変更

原告は,本件審決における本願発明の効果についての判断は,進歩性

断に関する事情として出願人に反論の機会が与えられていない旨主張す

る。

しかしながら,効果についての判断は,相違点に係る構成が想到容易で

あるにもかかわらず,本願発明に進歩性の存在が肯定される事情として格

別の効果が存在するか否かを検討したものである。そもそも,効果に関す

る主張は,進歩性欠如の拒絶理由を受けた出願人が積極的に主張立証すべ

きことであって,審判官からの指摘に対応しなければ主張できないことで

はない。

まとめ

以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,本願発明は,

引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができた

とした本件審決の判断に誤りはない。

第4 当裁判所の判断

1 取消事由1(進歩性判断の誤り)について

本願明細書の記載事項等

ア 本願発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載は,前記第2の2のとお

りである。

イ 本願明細書の【発明の詳細な説明】には,次のような記載がある。

「【技術分野】

本発明は,炭酸ジメチル(“DMC”)を用いたインドール化合物のN-

メチル化に関する。」(段落【0001】)




「【背景技術】

3-(1-メチルインドール-3-イル)-4-(1-メチル-6-ニトロインドール-3-イ

ル)-1H-ピロール-2,5-ジオンという化合物は,プロテインキナーゼC

(“PKC”)の選択的阻害剤であり,固形ガンを経口治療したり,関節リ

ューマチなどの自己免疫疾患を治療したりするための抗有糸分裂剤とし

て役に立つ。」

「この化合物を調製するための合成経路では,メチル化剤としてヨウ

化メチルを使用する。」

「残念なことに,ヨウ化メチルは非常に毒性が強い上,沸点が低い。

ヨウ化メチルを空気中に放出することは,厳しく制限されている。した

がって,インドール化合物をメチル化するための環境にやさしい方法が

必要とされている。」(以上,段落【0002】)

「一般的なメチル化剤であるハロゲン化メチル(MeX;X=Cl,Br,I)

と硫酸ジメチル(“DMS”)を用いると,穏やかな反応条件でO-,C-,

N-をメチル化することができる。しかしヨウ化メチルに関して上に説明

したように,これらの化合物は,環境ならびに製造プロセスの安全とい

う観点からすると大きな問題がある。他方,炭酸ジメチル(“DMC”)は,

相対的に安全で,毒性がなく,環境にやさしいメチル化剤である。DMC

を使用したときの副生成物であるメタノールと二酸化炭素は,廃棄上の

問題がない。しかも,2つのインドール環をメチル化する必要がある上

記クラスの抗有糸分裂剤を製造している業者にとって,必要性は2倍に

なる。DMCを用いてアリールアセトニトリルのα位をメチル化できるこ

とが報告されている(Tondo, P.,Selva, M.,Bomben, A.,Org. Synth.,

1998年,第76巻,169ページ)が,DMCを用いてインドール環を含む化

合物をメチル化することはこれまで誰も提案したことがなく,ましてや

インドール環のN-メチル化にDMCを用いることはまったくの考慮外で




あった。」(段落【0004】)

「残念なことに,従来法でDMCを用いる場合に一般に要求されるの

は,反応温度が高いこと(>180℃),ステンレス鋼のオートクレーブ,

高圧,(溶媒およびメチル化剤として用いる)炭酸ジメチルを過剰にす

ることである。触媒の助けを借りると反応温度を下げること(100℃)

ができる。しかしこのような触媒は一般に毒性が非常に強く,加圧反応

チェンバーが必要とされる。」(段落【0005】)

「インドール環をメチル化するのに炭酸ジメチルを用いるという新規

な方法は本発明の一部をなしており,ヨーロッパ特許出願第00/13026号

に開示されている。

したがって,本発明は,従来技術で必要とされている環境に配慮した

方法,すなわち,高温または高圧が必要でない条件下でインドール化合

物に含まれる窒素原子をメチル化する方法を実現するものである。(段


落【0006】)

「一般に,反応温度は約120℃〜約134℃であるが,より好ましいのは

約126℃〜約130℃である。」(段落【0009】)

「反応は,溶媒の存在下で行なわせるのは好ましい。溶媒としては,

例えばN,N-ジメチルホルムアミドや1-メチル-2-ピローリジノンなどが

挙げられるが,最も好ましい溶媒はN,N-ジメチルホルムアミドである。

反応は,相間移動触媒の存在下で行なわせることが好ましい。触媒と

しては,例えば臭化テトラブチルアンモニウム,18-クラウン-6などが挙

げられるが,最も好ましい触媒は臭化テトラブチルアンモニウムであ

る。」(段落【0010】)

「本発明の方法には,塩基の存在下で反応させる操作を含めることが

できる。塩基としては,例えば水酸化カリウム,水酸化ナトリウム,炭

酸カリウムが挙げられるが,最も好ましい塩基は炭酸カリウムである。




塩基は,アルカリ金属の水酸化物または炭酸塩でもよい。反応は,も

ちろん塩基と触媒の両方が存在している状態で行なわせることができ

る。」(段落【0011】)

「例えば塩基を水酸化カリウム,水酸化ナトリウム,炭酸カリウムか

らなるグループの中から選択し,触媒を相間移動触媒にすることが好ま

しい。好ましい塩基は,水酸化カリウム,水酸化ナトリウム,炭酸カリ

ウムからなるグループの中から選択し,好ましい触媒は,臭化テトラブ

チルアンモニウム,18-クラウン-6からなるグループの中から選択する。」

(段落【0012】)

「反応時間としてはさまざまな時間が可能であるが,当業者であれば

容易に決定することができる。好ましい反応時間は0.75時間〜36時間で

ある。より好ましいのは1時間〜26時間であり,最も好ましいのは1時間

〜10時間である。」(段落【0013】)

「これから本発明の好ましい実施態様について説明する。これら実施

態様は,本発明を理解するためのものであり,本発明の範囲を限定する

ものではない。」(段落【0015】)

a 「本発明の方法では、塩基または触媒の存在下において、基質であ

る イ ン ド ー ル を 適 切 な 溶 媒 ( 例 え ば N,N- ジ メ チ ル ホ ル ム ア ミ ド

(“DMF”)または1-メチル-2-ピローリジノン(“NMP”))の中で炭

酸ジメチルと混合した後、反応混合物を還流させながら短時間(普通

は2〜3時間)加熱する。反応温度は、当業者であれば容易に決めるこ

とができる。反応温度は、一般に、溶媒の沸点よりも高く、DMCの場合

には約90℃である。反応は、水を添加して停止させることができる。

その操作の後、濾過によって、または適切な溶媒を用いた抽出によっ

て、生成物を得ることができる。本発明の方法だと、一般に、望む生

成物が高品質かつ高い収率で得られる。例えば、6-ニトロインドール




を用いて反応を行なわせると、1-メチル-6-ニトロインドールが96%の

収率で得られた。純度は99.5重量%であり、わずかに0.3%の不純物が

検出されただけである。」(段落【0016】)

「以下に説明する方法は、一般的な方法である。生成物が固体でな

い場合には、濾過は必要でなく、その代わりに望む生成物を適切な溶

媒(例えばt-ブチルメチルエーテル、酢酸エチル)を用いて水性混合

物から抽出することができる。

DMCを用いたインドール系のメチル化にさまざまな置換基が及ぼ

す効果を調べた。表1は、いくつかの電子吸引基がN-メチル化反応に

及ぼす効果を記録したものである。官能基がインドール系のフェニル

環上またはピロール環上にある場合には、N-メチル化されたインドー

ル生成物はどれも、反応時間と収率に大きな違いはなかった。この方

法でテストしたすべての基質は高収率(>95%)であったが、インド

ール-3-カルボキシアルデヒドだけは例外で、対応するN-メチル化され

たインドールの収率は85%であった。」(段落【0017】)

「表1。インドールをN-メチル化するための電子吸引置換基の効果

【表1】





」(段落【0018】)

b 「R基は、インドール系の1位を除くどの位置に来ることもできる。

インドール-3-カルボン酸と炭酸ジメチルの間の反応も調べた。O-メチ

ル化されるかN-メチル化されるかの違いは、予想したほど大きくはな

かった。しかし、予想通り、上記の反応条件ではカルボキシル基のエ

ステル化がN-メチル化よりも幾分速かった。例えば炭酸カリウムの存

在下においてDMFの中でインドール-3-プロピオン酸を炭酸ジメチル

と反応させることにより、4時間後に還流温度にて、O,N-ジメチル化

された生成物が65%の収率で得られるとともに、O-メチル化された生

成物が30%の収率で得られた。この反応混合物を還流させながらさら

に4時間にわたって加熱したところ、O,N-ジメチル化された生成物だ

けが93%の収率で得られた。表2に示したように、同様の結果がイン

ドール-3-酢酸でも見られた。しかしインドール-3-カルボン酸を典型的

な反応条件にした場合には、ジメチル化された生成物が50%の収率で




得られた以外に、反応温度(128℃)においてインドール-3-カルボン

酸が脱炭酸反応した結果として生成したN-メチルインドールが45%

の収率で得られた。」(段落【0019】)

c 「表2。炭酸ジメチルとの反応によるインドールカルボン酸のN−

メチル化とO−メチル化の割合の違い

【表2】




」(段落【0020】)




「上記のように、置換基は、インドール核の1位を除く任意の位置

に結合させることができた。」(段落【0021】)

d 「実施例17

1-メチルインドール-3-酢酸メチルエステルと1-インドール-3-酢酸

メチルエステルの調製

【化25】




三つ首丸底フラスコに、インドール-3-酢酸(3.0g、17.12ミリモル)、

炭酸カリウム(粉末、1.5g)、N,N-ジメチルホルムアミド(20ml)、

炭酸ジメチル(4.3ml、51.07ミリモル)を入れた。得られた混合物を

還流させながら6時間にわたって加熱した(約130℃)。その時点で反

応の進行をHPLCにより分析したところ、出発物質が消費されてしま

っていた。反応混合物を室温まで冷却した後、水(50ml)とt-ブチル

メチルエーテル(60ml)を用いて分離させた。分離した有機層を水で

洗浄し(2×50ml)、溶媒を減圧下で蒸発させた。粗生成物は、HPLC

分析により、1-メチルインドール-3-酢酸メチルエステル(89%)と1-

インドール-3-酢酸メチルエステル(8%)を含んでいることがわかっ

た。この粗生成物を、シリカゲル上でのカラムクロマトグラフィーに

より個々の生成物に分離した。全収量は3.2gで、1-メチルインドール

-3-酢酸メチルエステルが2.8g、1-インドール-3-酢酸メチルエステルが

0.40gであった。」(段落【0043】)

e 「実施例18




1-メチルインドール-3-プロピオン酸メチルエステルと1-インドール

-3-プロピオン酸メチルエステルの調製

【化26】




インドール-3-プロピオン酸(1.0g、5.28ミリモル)、炭酸カリウム

(粉末、0.25g)、N,N-ジメチルホルムアミド(10ml)、炭酸ジメチ

ル(1.3ml、15.7ミリモル)からなる撹拌混合物を還流させながら加

熱した(約130℃)。還流させながら5時間にわたって反応させた後に

HPLC分析を行なったところ、検出できるレベルの出発物質は残って

いなかった。反応混合物を室温まで冷却した後、水(25ml)で希釈し、

t-ブチルメチルエーテル(40ml)で抽出した。有機層を水で洗浄し

(2×50ml)、溶液を減圧下で濃縮した。粗生成物は、HPLC分析によ

り、1-メチルインドール-3-プロピオン酸メチルエステル(65%)と1-

インドール-3-プロピオン酸メチルエステル(30%)を含んでいること

がわかった。この粗生成物を、シリカゲル上でのカラムクロマトグラ

フィーにより個々の生成物に分離した。全収量は1.01gで、1-メチルイ

ンドール-3-プロピオン酸メチルエステルが0.66g、1-インドール-3-プ

ロピオン酸メチルエステルが0.35gであった。」(段落【0044】)

ウ 前記ア及びイの記載を総合すれば,本願明細書には,次の点が開示され

ていることが認められる。




従来は,インドール化合物のメチル化剤としてはヨウ化メチル等が使

用されてきたが,毒性が強いなどの問題があり,環境にやさしい方法が

必要とされていた。一方,炭酸ジメチルは,相対的に安全で毒性がなく,

環境に優しいメチル化剤であるが,従来の方法で用いる場合には一般に,

反応温度が高いこと(>180℃),ステンレス鋼のオートクレーブ,高圧,

(溶媒およびメチル化剤として用いる)炭酸ジメチルを過剰にすること

などが要求され,触媒の助けを借りると反応温度を下げること(100℃)

ができるが,このような触媒は一般に毒性が非常に強く,加圧反応チェ

ンバーが必要とされるなどの問題があり,インドール環のN−メチル化

にDMCを用いることは全くの考慮外であった。

本発明は,ある一定の範囲に限定されたインドール化合物に関して,

炭酸ジメチルを用い,炭酸カリウム(K2CO3)および/または相間移

動触媒としての臭化テトラブチルアンモニウム(TBAB)の存在下で,

周囲圧にて,上記インドール化合物に含まれる窒素原子をメチル化する



いては,高品質,高収率で望む生成物が得られた。

一方で,本願発明の範囲に含まれるR2が−(CH2)nCOOHでn

が1及び2の化合物をメチル化する場合(表2),本願発明の範囲に含

まれるインドール−3−酢酸をメチル化する場合(実施例17),イン

ドール−3−プロピオン酸をメチル化する場合(実施例18)などにお

いては,望む生産物は得られなかった。

刊行物1(甲1)の記載事項等

刊行物1(甲1)は,医薬品として使用される式(I)の置換ピロールに

関する発明を開示する国際公開公報であって,次のような記載がある。

ア 「本発明は,置換ピロールに関する。さらに詳細には,本発明は, (T)
式 :





T





(原文1頁3〜5行,部分訳1・1頁1〜2行)に関するものである。

イ 「X及びYが,両方Oを意味する式(I)の化合物は,以下のスキーム

1〜3で製造される。

スキーム1






(原文5頁12行〜6頁4行・部分訳2・1頁)

「スキーム1に記載のとおり,既知化合物,又は既知の方法で製造




される化合物である式(U)の化合物は,NaH及びCH3Iと,N,

N−ジメチルホルムアミドまたはテトラヒドロフランのような不活性

溶媒中で,約0〜25℃で反応させて式(V)の化合物を形成させる。」

(原文7頁1〜4行,部分訳2・2頁6〜9行)

スキーム2








(原文8頁1〜3行)




「スキーム3






(原文10頁5〜8行,部分訳3・1頁4〜6行)

「式(Z)の化合物は,炭酸カリウムのような塩基及びCH 3Iのよ

うなアルキル化剤と,N−メチルピロリジノンのような溶媒中で,室温

で反応して,式([)の化合物を形成させる。」(原文11頁13〜1

6行,部分訳3・2頁8〜10行)

ウ 「実施例1

3−(6−メトキシ−1−メチル−1H−インドール−3−イル)−4




−(1−メチル−6−ニトロ−1H−インドール−3−イル)−ピロール

−2,5−ジオン

a) 既知の6−ニトロ−1H−インドール(5g,31mM)をジメチ

ルホルムアミド(50ml)に含む溶液を,0℃に冷却し,NaH(1

g,37m)で処理した。0℃で2時間撹拌した後,CH 3I(2.3

ml,37mM)を加え,反応混合物を室温に温めながら一晩撹拌した。

H2O(500ml)の中へ注いだ後,混合物を酢酸エチル(200m

l×4)で抽出した。合わせた有機画分をMgSO4で乾燥し,濾過し,

蒸発させた。フラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製して,1

−メチル−6−ニトロ−1H−インドール(5.34g,97%)を得

た。」(原文17頁24行から18頁2行,部分訳4・1頁1〜12行)

刊行物2(甲2)の記載事項

刊行物2(甲2)は,モノー又はオリゴウレタンの窒素原子をアルキル化

してN,N−二置換モノー又はオリゴウレタンを製造する方法を開示する公

開特許公報であって,次のような事項が記載されている。

ア 「発明の分野

本発明はN−芳香族,N−脂肪族,N−脂環式,およびN−アルアリフ

ァティック置換モノーおよびオリゴウレタンとジアルキルカーボネート

の,過剰のジアルキルカーボネートおよび/または適当な溶媒中の少なく

とも化学量論的に当量の固体炭酸アルカリまたはアルカリ土類(特に炭酸

カリウムおよび/またはナトリウム)の存在下および相間移動触媒の存在

下での反応によるN,N−二置換モノーおよびオリゴウレタンの製造方法

に関する。」(1頁右下欄9〜19行)

イ 「従来技術と問題点

モノウレタンが低級アルキルハライドまたはアルキルサルフェートと反

応してN,N−二置換モノウレタンを生じうることは知られている。」




「しかし,知られている方法の欠点は,良好な収率が金属水素化物(例

えば水素化ナトリウム)のような特殊な比較的高価な塩基を使用した場合

にしか得られないことである。」(1頁右下欄20行〜2頁左上欄8行)

「すべての既知方法の1つの共通の特徴は,結局アルキル化は,その殆

んどすべてが生理学的に好ましくないことが知られているアルキル化剤で

実施されるということである。例えばN−アルキル化はジメチルサルフェ

ートまたは塩化または沃化メチルで実施される。」(2頁右上欄8〜13

行)

ウ 「問題点を解決するための手段

本発明の目的は上記欠点を回避する経済的なN−芳香族またはN−脂肪

置換ウレタンのアルキル化方法を提供することであった。ここに意外に

も,N−芳香族,N−脂肪族,N−脂環式およびN−アルアリファティッ

置換モノーおよびオリゴウレタンをジアルキルカーボネートと,少なく

とも当量の固体アルカリまたはアルカリ土類炭酸塩の存在下で反応させる

と所望のN,N−二置換モノーおよびオリゴウレタンを得ることができる

ことが見出された。」(2頁右上欄14行〜左下欄4行)

エ 発明の詳細な記載

「既知方法に比べて,本発明の方法はアルカリまたはアルカリ土類炭酸

塩およびジメチルカーボネートのような安価な危険性の少ない取扱容易な

物質を,より危険な金属水酸化物およびアルキル化剤の代りに使用するこ

とにより,N,N−二置換ウレタンを高収率で驚くほど容易に製造するこ

とを可能にする。」(3頁左下欄13〜19行)

「反応は一般に連続的にまたは非連続的に減圧で約20ないし約18

0℃(好ましくは80ないし140℃)の範囲の温度で実施される。 (7


頁左上欄19行〜右上欄1行)

オ 「実施




例1 N−メチル−N−フェニル−O−メチルウレタン(またはN−メ

チル−N−フェニルカルバミン酸メチル)の製造

N−フェニルカルバミン酸メチル(15.1g,0.1モル)を最初に

反応器中でジメチルカーボネート100mlと一緒に混合した。粉砕し乾

燥した炭酸カリウム(5g,0.036モル)およびテトラブチルアンモ

ニウムブロマイド(1g,0.003モル)を順次室温で撹拌しつつ添加

した。還流温度(95−97℃)に加熱後,反応混合物をその温度で7日

間撹拌した。次に,溶液を熱時濾過し,冷却し,そして回転蒸発器で溶媒

を除去した。得られた透明淡褐色油(14.8g)を球管炉(Buchi

モデルGKR−50)中で約150℃,0.01ミリバールで蒸留し,式:




を有する所望生成物13g(理論値の88%)を得た。」(8頁左上欄1

1行〜右上欄9行)

刊行物3(甲3)

刊行物3は,学術雑誌に掲載された論文であって,概ね次のような事項が

記載されている。

ア 「スキーム1






(2192頁1〜3行)

イ 「5,6,11−トリメチル−9−メトキシ−6H−ピリド[4,3−




b]カルバゾール−1−カルボン酸エチルエステル(8)(スキーム1)

化合物7(5.0g,14.3mmol),炭酸ジメチル(50mL),

炭酸カリウム(5.0g)及びadogen464(1.0グラム)の混

合物を,ジメチルホルムアミド(25mL)中で3時間還流温度で撹拌後,

真空下で濃縮した。

残渣をジクロロメタンに溶解し,溶液を水と塩化リチウムの飽和水溶液

で洗浄,乾燥し,真空下で濃縮した。残渣をクロマトグラフィーによって,

3%エタノールを含むトルエンに溶離させ,化合物8(4.64g,89%)

を得た。」(原文2198頁右欄下から3行〜2199頁左欄11行)

刊行物4(甲4)

刊行物4は,炭酸ジメチルの反応に関する概説であって,概ね次のような

事項が記載されている。

ア 「ジメチルカーボネート(DMC)は,多様な化学的性質を有しており,

メチル化とメトキシカルボニル化剤として主に使用されてきた。メチル化

反応は合成化学の分野で非常に重要である。一般的な慣用として,硫酸ジ

メチルまたはヨウ化メチル(CH3I)をメチル化剤として使用されてい

る。」(原文133頁下から5行〜2行,部分訳2・2〜5行)

イ 「DMCの化学反応性は多彩である。DMCはメチル化剤として使用で

き得る。




ここで,Y−は求核試薬を意味する。」(原文135頁22〜25行,

部分訳3・1頁9〜12行)

「DMCはカルボキシル化剤としても使用可能である。






(原文136頁2〜3行,部分訳3・2頁1〜2行)

ウ 「DMCの最も重要な特性の一つは,従来のメチル化剤またはカルボニ

ル化剤に比べて毒性が低いことである。」(原文137頁3〜4行,部分

訳5・1〜2行)

エ 「複素環化合物のN−メチル化

様々な含窒素複素環化合物のメチル化はLisselや同僚によって報告さ

れた。イミダゾールおよびベンゾイミダゾールは,炭酸カリウム と18−

クラウン−6を用いた相間移動系でメチル化される。」(原文146頁下

から5行〜最終行,部分訳6)








(原文147頁1〜10行)




なお,上記式の環構造は誤記であると認められ,正しくは,下記のとお

りである。




相違点の容易想到性について

ア 本件審決は,本願発明と引用発明の相違点について,引用発明と刊行物

2ないし4に記載された発明は,「Ph−NH−」という化学構造を含む

化合物のメチル化という点で共通することから,引用発明のメチル化の条

件を刊行物2ないし4に記載されたものに変えることは当業者にとって容

易である旨判断した。これに対し,原告は,刊行物2ないし4は,それぞ

化学構造が大きく異なる化合物についてのメチル化反応を開示するもの

であり,しかもメチル化条件も異なるものであるから,これらの刊行物を

一緒にして上位概念化した周知慣用の常套手段を認定し,引用発明との組

合せで本願発明の容易想到性を判断したことは誤りである旨主張するの

で,以下検討する。

イ まず, とおりの引用発明が記載されてい

ること,本願発明と引用発明が同イのとおりの一致点を有することは当事

者間に争いがない。

刊行物1には,式(T)の

X及びYがOの化合物(置換ピロールの一種)がスキーム1ないし3で製

造されることが開示され,その実施例として,スキーム1ないし3を用い

て,3−(6−メトキシ−1−メチル−1H−インドール−3−イル)−

4−(1−メチル−6−ニトロ−1H−インドール−3−イル)−ピロー

ル−2,5−ジオンを合成する方法が記載されているところ,引用発明は,

その第一工程として行われているものと位置付けられる。この工程は,一




般化したスキームにおいては,スキーム1の化合物Uから化合物Vへの反

応に該当し,6−ニトロ−1H−インドールの窒素原子をメチル化する反

応であって,メチル化剤としてヨウ化メチル(CH3I)を用いて,強塩

基である水素ナトリウム(NaH)の存在下で反応を行ったものである。

そして,このように引用発明が置換ピロールの一種を合成する大きなス

キームの一工程の一例であって,スキーム1ないし3において触媒や反応

条件が特定されていないことからすると,当業者であれば,引用発明にお

いて,メチル化剤としてヨウ化メチル,塩基として水素ナトリウムを必ず

用いなければならないわけではなく,6−ニトロ−1H−インドールの窒

素原子をメチル化する反応が生じれば足りると理解すると認められる。

そこで,引用発明において,メチル化剤として炭酸ジメチル,塩基とし

て炭酸カリウム(K2CO3)および/または相間移動触媒としての臭化テ

トラブチルアンモニウム(TBAB)を用いることが当業者にとって容易

想到であるか検討する。

ウ 有機化合物中の窒素原子のメチル化に関する周知技術

刊行物2の記載事項によれば,従来から有機化合物の窒

素原子をアルキル化するにあたっては,水素ナトリウム(NaH)等の

比較的高価な塩基を使用したり,ヨウ化メチル(CH3I)等の生理学

的に好ましくないアルキル化剤が使われていたが,その欠点を克服する

ため,安価で危険性の少ないアルキル化剤としてジアルキルカーボネー

ト(炭酸ジメチルが含まれる。)を用い,アルカリ又はアルカリ土類炭

酸塩及び相間移動触媒の存在下で反応を行って,N−芳香族,N−脂肪

族,N−脂環式及びN−アルアリファティック置換モノー及びオリゴウ

レタンのアルキル化をすることが行われている。そして,その具体例の

一つとして,アルキル化剤として炭酸ジメチル,炭酸塩として炭酸カリ

ウム,相間移動触媒として臭化テトラブチルアンモニウムを用いて,9




5〜97℃で7日間反応させて,下記のN−フェニルカルバミン酸メチ

ルの窒素原子をメチル化することが挙げられている。

なお,上記具体例には,圧力条件について記載がないので,反応は周

囲圧で行われたものと認められる。




刊行物3の記載事項によれば,インドール骨格を有する

下記化合物7中の窒素原子を,炭酸ジメチルを用いて,炭酸カリウム(K

2CO3)及びadogen464の存在下でメチル化することが行われ

ている。

なお,圧力条件については記載がないため,周囲圧で行われたものと

認められる。




刊行物4の記載事項によれば,ジメチルカーボネート(D

MC,炭酸ジメチル)はメチル化剤として使用でき,それまで知られた

硫酸ジメチルやヨウ化メチル(CH3I)などのメチル化剤に比べて毒

性が低いという重要な特性を有すること,下記のイミダゾール及びベン

ゾイミダゾールの窒素原子が炭酸カリウムと18−クラウン−6を用い

た系で炭酸ジメチルによりメチル化されることが知られている。

なお,圧力条件については記載がないため,周囲圧で行うものと認め

られる。





上記 の事実からすると,本願の優先権主張日において,構

造が相当程度異なる様々な有機化合物についてメチル化剤として炭酸ジ

メチルが使用されており,その際には,弱塩基である炭酸カリウム(K

2CO3)と相間移動触媒の存在下,周囲圧で反応を行っていると認める

ことができる。

したがって,@有機化合物の窒素原子をメチル化する場合,炭酸ジメ

チルがメチル化剤の候補となること,Aメチル化剤として炭酸ジメチル

を使用する場合には,弱塩基である炭酸カリウムと相間移動触媒の存在

下,周囲圧で反応を行うことが,当業者に周知であったと認められる。

また,上記 ,この周知のメチル化方法は,ヨウ化

メチル(CH3I)のような生理学的に好ましくない薬剤や水素ナトリ

ウム(NaH)のような高価な塩基を用いた方法の問題点(安全上の問

題,副生成物の廃棄の問題,経済上の問題)を解決する可能性がある方

法としても当業者に認識されていたと認められる。

エ 以上の検討を総合すると,引用発明は,6−ニトロ−1H−インドール

の窒素原子のメチル化をヨウ化メチル(CH3I)を用いて水素ナトリウ

ム(NaH)の存在下で反応を行ったものであるが,刊行物1の趣旨から

すれば,窒素原子のメチル化が生じれば足り,メチル化剤や塩基は変更

得るものと理解される一方で,ヨウ化メチルには毒性があり,水素ナトリ

ウムは反応性の高い強塩基であることにかんがみると,当業者にとって,

安全上,副生成物の廃棄,経済上の問題を解決するために,引用発明のメ

チル化方法を,周知の方法であった安全性の高い炭酸ジメチルを用いる上




記の方法を試してみることには動機付けがあるといえる。そして,本願発

明と引用発明の相違点を構成する「炭酸カリウムおよび/または相間移動

触媒としての臭化テトラブチルアンモニウムの存在下で」との点は,その

文言からして,炭酸カリウム(K2CO3),臭化テトラブチルアンモニウ

ム(TBAB)又はそれら両者のいずれかの存在を必須とするが,その他

の塩基や相間移動触媒が存在することを妨げないものと解されるから,弱

塩基である炭酸カリウムを用いる上記周知の方法は,これに含まれると認

められる。

したがって,相違点に係る本願発明の構成は,当業者が刊行物1の記載

及び周知技術に基づいて容易に想到し得たものである。

オ 原告の主張について

原告は,本件審決が,引用発明と刊行物2ないし4に記載された事項

を下記の「Ph−NH−」という化学構造を含む化合物の窒素原子のメ

チル化という点でまとめたのは誤りであって,刊行物2ないし4のメチ

ル化方法を引用発明に組み合わせることはできない旨主張する。




刊行物2ないし4のN−メチル化される化合物(前記ウ ないし )

をみると,刊行物2の化合物はベンゼン環の外に窒素原子が存在してい

る構造,刊行物3の化合物7は縮合する4つの環の中に窒素原子が存在

する構造,刊行物4の化合物はイミダゾールとベンゾイミダゾールであ

って二つの窒素原子が化合物の環の形成に関与している構造で,窒素と

他の原子の結合状態などを含めて構造自体が相当程度異なっているこ

と,これらの化合物を含めて「Ph−NH−」という化学構造を有する

化合物を一群として取り扱う分類方法があると認めるに足りる証拠もな

いことなどからすれば,これらの化合物には「Ph−NH−」という化




学構造の共通性があると認定した上で周知技術を引用発明に組み合わせ

ることが容易であるとした本件審決の理由を採用することはできない。

しかしながら,前記イないしエで判示したとおり,そもそも有機化合

物の窒素原子をメチル化する場合に,メチル化剤として炭酸ジメチルを

用い,炭酸カリウム(K2CO3)と相間移動触媒の存在下,周囲圧で反

応を行うというメチル化の方法が当業者にとって周知であって,それを

引用発明のメチル化方法と置換することが当業者にとって容易に想到

得ると認められるのであるから,本件審決の上記誤りは,前記容易想到

性の判断を左右しない。

したがって,原告の主張は,理由がない。

原告は,引用発明及び刊行物2ないし4のメチル化される化合物中の

窒素原子の化学的環境はそれぞれ異なり,炭酸ジメチルとの反応性が同

等とはいえないから,刊行物2ないし4のメチル化方法を引用発明に組

み合わせることはできない旨主張する。

しかしながら,上記ウ及びエで判示したとおり,刊行物2ないし4に

おいてもメチル化される化合物の構造自体は相当程度異なり,その窒素

原子の化学的環境もそれぞれ異なっているが,いずれの場合も炭酸カリ

ウム及び相間移動触媒の存在下で炭酸ジメチルによりメチル化できたの

であるから,引用発明のメチル化される化合物中の窒素の化学的環境が

異なることは,引用発明との組合せを阻害する理由とはならない。

したがって,原告の主張は理由がない。

原告は,炭酸ジメチルは万能ではなく活性が弱いメチル化剤であり,

炭酸ジメチルによるメチル化反応は求核反応であるが,引用発明のイン

ドール化合物の窒素原子は求核反応性が弱く,甲19に記載されている

とおり,インドールがプロトン化や脱プロトン化するためには強酸や強

塩基が必要であることなどから,炭酸ジメチルでメチル化できると当業




者が予測することはない旨主張する。

しかしながら,刊行物2ないし4からは,メチル化される化合物中の

窒素原子の化学的環境は異なっても,炭酸カリウム及び相間移動触媒の

存在下で炭酸ジメチルによりメチル化できることがわかり,刊行物2に

記載されているとおり,環境に優しいメチル化反応としてヨウ化メチル

(CH3I)などによるメチル化反応に代えて用いることが知られてい

るのであるから,メチル化剤として万能ではなく活性が弱いとしても,

引用発明のメチル化方法に代えて上記の炭酸ジメチルを用いる方法を試

みることが妨げられるとはいえない。

また,甲19には,インドールがプロトン化や脱プロトン化するため

には強酸や強塩基が必要であることが記載されているが,求核反応が進

行するためにプロトン化や脱プロトン化が必須であると認めるに足りる

証拠はないから,そのことから直ちに,当業者がインドールの求核反応

を進行させるために強酸や強塩基が必須であると考えると認めることは

できない。その他,原告が主張する全ての事情を参酌しても,当業者が,

引用発明のインドール化合物の窒素原子では求核反応は進行しないと考

えて,炭酸ジメチルによるN−メチル化を試みもしないで断念するとま

でいうことはできない。

したがって,原告の主張は理由がない。

原告は,本願発明では,相間移動触媒を用いるのであれば臭化テトラ

ブチルアンモニウム(TBAB)であるのに対して,刊行物2ないし4

の中で相間移動触媒として臭化テトラブチルアンモニウムを用いるのは

刊行物2のみであるから,刊行物2ないし4に基づいて,「炭酸カリウ

ムおよび/または相間移動触媒としての臭化テトラブチルアンモニウム

の存在下で」という本願発明の構成要件が周知であるということはでき

ない旨主張する。




しかしながら,前記エで判示したとおり,本願発明の「炭酸カリウム

および/または相間移動触媒としての臭化テトラブチルアンモニウムの

存在下で」との記載は,その文言から,炭酸カリウム(K2CO3),臭

化テトラブチルアンモニウム(TBAB),またはそれら両者を必須と

するが,その他の塩基や相間移動触媒が存在することを妨げないという

意味に解され,このことは,本願明細書の「反応は,相間移動触媒の存

在下で行なわせることが好ましい。触媒としては,例えば臭化テトラブ

チルアンモニウム,18-クラウン-6などが挙げられるが,最も好ましい触

媒は臭化テトラブチルアンモニウムである。」(段落【0010】),

「本発明の方法には,塩基の存在下で反応させる操作を含めることがで

きる。塩基としては,例えば水酸化カリウム,水酸化ナトリウム,炭酸

カリウムが挙げられるが,最も好ましい塩基は炭酸カリウムである。塩

基は,アルカリ金属の水酸化物または炭酸塩でもよい。反応は,もちろ

ん塩基と触媒の両方が存在している状態で行なわせることができる。」

(段落【0011】)との記載からも明らかである。

したがって,原告の上記主張は,その前提である本願発明の解釈にお

いて誤りがあり,理由がない。

原告は,刊行物2には,「反応は一般に連続的にまたは非連続的に減

圧で約20ないし約180℃(好ましくは80ないし140℃)の範囲

の温度で実施される。」(7頁左上欄19行〜右上欄1行)の記載があ

ることから,周囲圧ではなく減圧で行うものであるし,刊行物3で用い

られるadogen464や刊行物4で用いられる18−クラウン−6

は毒性が強いから加圧反応チェンバーで反応を行うものであるから,周

囲圧で反応させることは周知とはいえない旨主張する。

しかしながら,刊行物2において,反応を減圧で行うことが必須であ

れば,その条件が具体的に記載されると考えられるところ,8つの実施




例を含めてみても,用いる化合物の量,反応温度,反応時間,蒸留温度

及び蒸留圧力については具体的に記載されているにもかかわらず,上記

記載の他に圧力に関する記載が一切ない。そうすると,上記記載がある

からといって,それだけで刊行物2の反応を減圧で行うことが必須であ

るとまでは解することはできず,前記認定したとおり,実施例1も周囲

圧で行われたものと認められる。

また,刊行物3及び4の反応についても,圧力条件の記載が無いこと

から大気圧で行われたものと認められることは前記認定のとおりであ

り,このことは,adogen464や18−クラウン−6を用いた化

学反応を周囲圧で行う例が数多く報告されていること(乙6,7,9〜

11)とも矛盾しない。

したがって,原告の主張は理由がない。

顕著な作用効果について

ア 本願明細書には,本願発明の効果として,高温又は高圧が必要でなく,

環境に配慮した方法でインドール化合物の窒素原子のメチル化を行うこと

ができること(段落【0006】),望む生成物が高品質かつ高い収率で

得られること(段落【0016】)などが記載されている。

ウ は高圧が必要でな

く,環境に配慮した方法でインドール化合物の窒素原子のメチル化を行う

点は,上記周知のメチル化方法の効果として知られていたものにすぎない。

ウで認定したとおり,本願発明の範囲に含まれる一部の化

合物については望む生成物が高品質かつ高い収率で得られる一方で,R2

が−(CH2)nCOOHでnが1及び2の化合物をメチル化する場合(表

2),インドール−3−酢酸をメチル化する場合(実施例17),インド

ール−3−プロピオン酸をメチル化する場合(実施例18)など,いずれ

も本願発明の範囲に含まれる化合物であるにもかかわらず,望む生成物が




得られなかったことなどからすると,少なくとも本願発明全体が,望む生

成物が高品質かつ高い収率で得られるという効果を有すると認めることは

できない。

したがって,本願発明は進歩性を推認するに足りる格別顕著な効果を有

するものとは認められない。

イ 原告の主張について

原告は,表2は,所望のN−メチル化と所望ではないO−メチル化の

割合の違いを調べるためだけに行われた実験であるから,この結果によ

り,本願発明の効果を評価すべきではないなどと主張する。

しかしながら,表2は,インドール−3−カルボン酸を,炭酸カリウ

ム(K2CO3)の存在下,炭酸ジメチルを用いて「典型的な反応条件に

した場合」の反応結果を示すものである(段落【0019】)とされて

いるから,本願発明の典型的な例の効果として参酌すべきものである。

そして,「典型的な反応条件にした場合」でも,窒素原子のメチル化が

起こらなかったことは,少なくとも本願発明の範囲の中には効果を奏さ

ないものが含まれると判断せざるを得ない。

したがって,本願発明の範囲の中に効果を奏さないものが含まれてい

ることに関する原告の主張は,その余の点について判断するまでもなく

理由がない。

また,原告は,本願発明は,毒性の高い相間移動触媒の使用を回避す

るだけでなく,炭酸ジメチルの使用量を低減できるという顕著な効果を

有する旨主張する。

しかしながら,前記判示したとおり,本願発明は,18−クラウン−

6など,原告自身が毒性が高いと認める相間移動触媒の使用を除外して

いない。また,炭酸ジメチルの使用量は,本願発明において特定されて

おらず,炭酸ジメチルの使用量を減らすことができるという効果は本願




明細書に記載されていないことからすると,これを本願発明の効果とし

参酌することはできない。

したがって,原告の主張は理由がない。

小括

以上からすると,本件審決の進歩性の判断に誤りはなく,取消事由1は理

由がない。

2 取消事由2(手続違背)について

主引用例及び副引用例の実質的差替えについて

原告は,本件審決は,原査定の拒絶の理由の主引用例及び副引用例を実質

的に差し替えたものであるにもかかわらず,原告に意見提出の機会が与えら

れなかったことは手続違背にあたる旨主張するので,以下,検討する。

ア 原査定の拒絶の理由

審査段階で通知された拒絶理由通知書(甲6)及び拒絶査定(甲9)に

よれば,原査定の拒絶の理由は,次のとおりの趣旨のものと認められる。

引用文献1ないし4(「引用文献1」は刊行物4,「引用文献3」は刊

行物1と同じ。)はいずれも,インドール化合物の窒素原子をメチル化す

る発明を開示するが,N−メチル化試薬の種類及び触媒等の補助的試薬の

有無及び種類の点で本願発明と相違する。しかしながら,当業者にとって

化合物の製造工程における試薬等を検討するのは通常行うことであり,引

用文献5(刊行物2と同じ。)及び6(刊行物3と同じ。)に例示される

とおり,N−メチル化試薬としての炭酸ジメチル,塩基としての炭酸カリ

ウム(K2CO3),相間移動触媒としての臭化テトラブチルアンモニウム

(TBAB)はいずれも当業者に汎用されているものであるから,引用文

献1ないし4のN−メチル化反応を検討するにあたってそれらを選択して

本願発明に至ることは,当業者が容易になし得たことである。

イ 本件審決の拒絶の理由




本件審決の拒絶の理由は,次のとおりの趣旨のものと認められる。

N−メチル化を,本願発明は,炭酸カリウム(K2CO3)および/また

は相間移動触媒としての臭化テトラブチルアンモニウム(TBAB)の存

在下で,周囲圧にて炭酸ジメチルを用いて行うのに対して,引用発明(引

用文献3。刊行物1)は,水素ナトリウム(NaH)の存在下,ヨウ化メ

チル(CH3I)を用いて行う点において相違する。しかしながら,刊行

物2ないし4(引用文献5,6,1)に例示されるとおり,「Ph−NH

−」という化学構造を含む化合物のメチル化を,炭酸ジメチルを用いて炭

酸カリウムおよび/または臭化テトラブチルアンモニウムの存在下で行う

ことは常套手段であり,その際に反応を周囲圧で行うことは刊行物3及び

4に記載され,刊行物2からも当業者が当然試行することにすぎない。そ

して,従来から用いられていたメチル化剤であるハロゲン化メチルの毒性

が強いという問題点を炭酸ジメチルを用いることで解決することは常套手

段であったことから,引用発明のN−メチル化を,炭酸カリウムおよび/

または相間移動触媒としての臭化テトラブチルアンモニウムの存在下で,

周囲圧にて炭酸ジメチルを用いて行うこととして,本願発明に至ることは,

当業者が容易になし得たことである。

ウ 上記ア及びイによれば,原査定の拒絶の理由も,本件審決の拒絶の理由

も,本願発明と主引用発明は,出発化合物及びそれの窒素原子をメチル化

する方法である点では一致するものの,メチル化方法が異なるが,当業者

であれば常套手段のメチル化方法に置換することで本願発明を容易に想到

し得る,という論理構成で軌を一にするものである。そして,原査定にお

いて主引用文献であった引用文献1ないし4を,本件審決において引用文

献3のみにしぼることによって,相違点が変化したわけではなく,相違点

に係る構成と組み合わせるための新たな動機付けが生じたわけでもない。

したがって,本件審決は,原査定の拒絶の理由の主引用例を実質的に差し




替えたものではない。

また,副引用例は,原査定においても,本件審決においても,本願発明

が採用するメチル化方法,すなわち炭酸カリウム(K2CO3)および/ま

たは相間移動触媒としての臭化テトラブチルアンモニウム(TBAB)の

存在下で周囲圧で反応を行う方法が周知あるいは常套手段であることを示

すものであるから,内容の異なるものではない。そして,原査定ではN−

メチル化方法として常套手段であるとして引用文献5及び6を例示し,本

件審決では「Ph−NH−」という化学構造を有する化合物のメチル化方

法として常套手段であるとして刊行物2ないし4(引用文献1,5,6)

を例示したが,いずれの文献も例示にすぎない上,本件審決が引用した3

文献とも原査定において引用されていたものである。したがって,本件審

決は原査定の拒絶の理由の副引用例を実質的に差し替えたものではない。

なお,「Ph−NH−」の化学構造という概念を抽出した点において本

件審決に誤りはあるが,この点が容易想到性の判断を左右しないことは前

オ とおりである。

以上によれば,本件審決は原査定の拒絶の理由の主引用例及び副引用例

を実質的に差し替えたものということはできないから,原告の上記主張は

理由がない。

進歩性否定の理由の変更について

原告は,本件審決は,表2及びそれに関する記載に基づいて本願発明の効

果の顕著性を否定したが,この点は原査定においては触れられておらず,進

歩性否定の理由を変更したことになるから,原告に意見提出の機会が与えら

れなかったことは手続違背にあたる旨主張する。

しかしながら,本来,効果についての判断は,発明の構成が容易想到であ

るにもかかわらず,例外的に進歩性を認める場合の事情として格別顕著な効

果があるか否かの検討の結果示されるものである。原査定においては,本願




発明の構成が容易想到であることの判断が示されると共に,出願人が主張す

る,収率が高いこと,周囲圧で反応を行うこと,インドールがメチル化され

ること,及び環境に優しい方法であることという効果に関して,進歩性を認

めるに足りる事情ではない旨の判断が示されている(甲9の2頁12行〜3

頁11行)のであるから,原査定においても進歩性を認めるに足りる格別顕

著な効果は見出せないと判断したことは明らかであって,進歩性否定の理由

変更されたわけではない。

そして,原告が原査定に対して反論するに当たっては,原査定が示した構

成の容易想到性判断や効果に関する判断を否定するのみならず,必要と考え

れば,それまで原告が主張した上述のもの以外の効果の顕著性について主張

することも可能であった。しかも,表2に関する記載から,本願発明の範囲

内の反応において所望の生成物が得られない,すなわち本願所定の効果が奏

されないことがあると認められる点については,特許法36条4項及び同条

6項1号の拒絶の理由としてではあるが,審尋(甲12)において通知され

たのであるから,原告は,進歩性の面からもこの点について反論する機会が

あったと認められる。

したがって,原告の上記主張は理由がない。

以上によれば,本件審決には手続違背はなく,原告主張の取消事由2は理

由がない。

3 結論

以上の次第であるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,本願発

明は刊行物1ないし4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をする

ことができたとした本件審決の判断に誤りはなく,手続違背もないから,本件

審決にこれを取り消すべき違法は認められない。

したがって,原告の請求は棄却されるべきものである。





知的財産高等裁判所第4部



裁判長裁判官 富 田 善 範




裁判官 大 鷹 一 郎




裁判官 平 田 晃 史