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審判番号(事件番号) データベース 権利
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平成24行ウ591行政処分取消義務付け等請求事件 判例 特許
平成22ワ26341特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
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事件 平成 24年 (ワ) 15613号 特許権侵害差止等請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 東京地方裁判所 
判決言渡日 2014/06/24
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
判例全文
判例全文
平成26年6月24日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官

平成24年(ワ)第15613号 特許権侵害差止等請求事件

口頭弁論終結日 平成26年4月10日

判 決

東京都千代田区<以下略>

原 告 JX日鉱日石金属株式会社

同訴訟代理人弁護士 高 橋 雄 一 郎

同訴訟代理人弁理士 望 月 尚 子

相模原市<以下略>

被 告 三菱電機メテックス株式会社

同訴訟代理人弁護士 近 藤 惠 嗣

重 入 正 希

前 田 将 貴

同補佐人弁理士 加 藤 恒

松 井 重 明

永 井 豊

主 文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

1 被告は,別紙被告製品目録記載の各製品(以下「被告各製品」と総称す

る。)を生産し,使用し,譲渡し,又は譲渡の申出をしてはならない。

2 被告は,原告に対し,1080万円及びこれに対する平成24年6月15

日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要





本件は,発明の名称を「曲げ加工性 が優 れたCu−Ni−Si系銅合金

条」とする特許権(以下「本件特許権」という。)を有する原告が,被告に

よる被告各製品の製造販売等が本件特許権の侵害に当たると主張して,被告

に対し,特許法100条1項に基づく被告各製品の生産,使用等の差止め並

びに特許権侵害不法行為(民法709条及び特許法102条3項)に基づ

く損害賠償金の一部である1080万円及びこれに対する不法行為の後の日

(訴状送達日の翌日)である平成24年6月15日から支払済みまで民法所

定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨

により容易に認められる事実)

(1) 原告及び被告は,いずれも銅合金の製造及び販売等を行う株式会社

である。

(2) 原告は,次の特許権(本件特許権)を有している。本件特許権につ

いては,平成23年12月28日に訂正審判が請求され,平成24年2月

15日付け審決により訂正が認められ,同月23日にこれが確定している。

特許番号 第4166196号

発明の名称 曲げ加工性が優れたCu−Ni−Si系銅合金条

出 願 日 平成16年6月28日

出願番号 特願2004−189347号

登 録 日 平成20年8月8日

(3) 本件特許権の特許請求の範囲の請求項2の記載(訂正後のもの)は,

次のとおりである(以下,この発明を「本件発明」といい,本件発明に

係る特許を「本件特許」という。また,本件特許の特許出願の願書に添

付された明細書及び図面(訂正後のもの)を「本件明細書」という。)。

「Niを1.0〜4.5質量%(以下%とする),Siを0.25〜1.5

%を含有し,更にZn,Sn,及びMgのうち1種類以上を含有し,Mg





を含有する場合は0.05〜0.3%とし,Zn及び/又はSnを含有す

る場合は総量で0.005〜2.0%とし,残部がCuおよび不可避的不

純物よりなる銅基合金の圧延面においてX線回折を用いて測定した3つの

(hkl)面のX線回折強度が,

(I(111)+I(311))/I(220)≦2.0

を満足し,

圧延面においてX線回折を用いて測定した(220)面のX線回折強度を

I(220) ,および純銅粉末標準試料においてX線回折を用いて測定した(2

20)面のX線回折強度をI0(220)としたときの,I(220)/I0(220)が,

2.28≦I(220)/I0(220)≦3.0

を満足し,

圧延方向に直角な断面における結晶粒の幅方向の平均長さをa,厚み方向

の平均長さをbとしたときに,

0.5≦b/a≦0.9

2μm≦a≦20μm

であることを特徴とする高強度および高曲げ加工性を両立させたCu−N

i−Si系銅合金条。」

(4) 本件発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,各構成要

件を「構成要件A」などという。)。

A Niを1.0〜4.5質量%(以下%とする),

B Siを0.25〜1.5%を含有し,

C 更にZn,Sn,及びMgのうち1種類以上を含有し,Mgを含有す

る場合は0.05〜0.3%とし,Zn及び/又はSnを含有する場合

は総量で0.005〜2.0%とし,

D 残部がCuおよび不可避的不純物よりなる銅基合金の

E 圧延面においてX線回折を用いて測定した3つの(hkl)面のX





線回折強度が,

(I(111)+I(311))/I(220)≦2.0

を満足し,

F 圧延面においてX線回折を用いて測定した(220)面のX線回折

強度をI (220) ,および純銅粉末標準試料においてX線回折を用

いて測定した(220)面のX線回折強度をI0(220) としたとき

の,I(220)/I0(220)が,

2.28≦I(220)/I0(220)≦3.0

を満足し,

G 圧延方向に直角な断面における結晶粒の幅方向の平均長さをa,厚

み方向の平均長さをbとしたときに,

0.5≦b/a≦0.9

2μm≦a≦20μm

であることを特徴とする

H 高強度および高曲げ加工性を両立させたCu−Ni−Si系銅合金条。

(5)ア 銅合金条とは,銅合金を平らな形状にし,コイル状に巻いたもの

をいう。

イ 銅合金条の製造工程には,熱間圧延,溶体化処理,冷間圧延等の工程が

あり,これらの工程は各方位の集積度に影響を及ぼす。本件発明は,銅

合金条について,組成等の数値限定のほか,X線回折によって測定した

3つの(hkl)面のX線回折強度を用い,構成要件Eにおいて(I

(111) +I(311))/I(220)(以下「板面方位指数」という。)の値を,構成要

件FにおいてI(220)/I0(220)(以下「(220)面集積度」という。)の

値を限定したものである。(甲2,3)

ウ X線回折強度の測定方法には,得られたX線回折波形を積分した値(積

分値,積分強度)を測定する方法(以下「積分強度法」という。)と,X





線回折波形の測定範囲中の最大強度の絶対値(ピーク値,ピーク強度)を

測定する方法(以下「ピーク強度法」という。)がある。(甲11〜17,

乙10〜12,32,弁論の全趣旨)

(6) 被告は,遅くとも平成22年11月9日以降,型番をM702S又はM

702Uとする銅合金条(以下,それぞれを「M702S」,「M702

U」という。)を製造し,販売の申出及び販売を行っている。

2 争点及びこれに関する当事者の主張

原告は,M702S及びM702Uのうち,別紙被告製品目録のとおりZ

n及びSnの総量並びに(220)面集積度の数値を限定したものを被告各

製品として特定し,被告がこれらを製造販売して本件特許権を侵害している

旨主張している。本件の争点は,(1) 被告各製品の特定の当否,(2) 構成要

件E及びFの数値限定を満たすM702S及びM702Uの製造販売の有無

(なお,構成要件A〜C,G及びHの充足性については争われておらず,ま

た,構成要件Dについても争点としないものとされた。),(3) 本件特許の

無効理由の有無,(4) 損害額であり,争点に関する当事者の主張は次のとお

りである。

(1) 争点(1)(被告各製品の特定の当否)について

(原告の主張)

合金の組成や集積度は測定装置を用いて容易に測定可能であるから,被

告各製品の特定に欠けるところはなく,被告の後記主張は失当である。

(被告の主張)

特許権侵害を主張して製品の製造販売等の差止めを求めるためには,そ

の製品が社会通念差止めの対象として他と区別できる程度に特定されな

ければならない。ところが,M702S及びM702Uのうち,別紙被告

製品目録記載の数値限定の範囲内にあるものとないものを社会通念上区別

することはできないから,本件特許権を侵害する物件を原告主張のように





特定することは不適法である。

(2) 争点(2)(構成要件E及びFを充足するM702S及びM702Uの製

造販売の有無)について

(原告の主張)

構成要件E及びFの解釈

(ア) 製品のどの部分が数値限定の範囲内にある必要があるか

ある銅合金条が本件発明の構成要件E及びFの数値限定の範囲内に

あるかどうかは,当該銅合金条の全体ではなく,測定を行った特定の

部分が上記範囲内にあれば足りると解すべきである。

仮にそこまではいえないとしても,本件発明の銅合金条は電子部品

の製造に使用されるものであるから,銅合金条のうち,電子部品の部

分として使用される部分,すなわち,条の両端を除いた大半の部分が

上記範囲に入っていれば足りる。

(イ) X線回折強度の測定方法

X線回折波形のピーク値の絶対値を用いる方法は,強度の一要素で

ある波形の広がりが捨象されてしまうので,複雑な加工履歴を受ける

ことによりX線回折波形がばらついてしまう銅合金条の強度を示すも

のとしては不適当である。したがって,本件特許にいうX線回折強度

が積分強度を意味し,その測定方法が積分強度法を意味することは明

らかである。

イ 被告が製造販売するM702S又はM702Uに構成要件E及びFの

数値限定を充足するものが存在すること

M702S及びM702Uの板面方位指数の積分強度が2.0以下で

あることは被告も認めているところであり,ピーク強度が2.0を超え

ることはあり得ないから,被告各製品は構成要件Eを充足する。

また,一つの銅合金条についてみれば,同一の冷間圧延及び熱処理の





工程を経るため,原理的にばらつきはほとんど存在しないはずである。

原告の実験及び第三者機関による実験において特定の部位を測定した結

果(甲4,5,8,34,39,45,46)によれば,被告各製品の

(220)面集積度は,積分強度法であるかピーク強度法であるかを問

わず,製品として使用されるべき領域の全てにわたって2.28以上3.

0以下の範囲にあり,構成要件Fの数値限定を満たしている。

(被告の主張)

構成要件E及びFの解釈

(ア) 製品のどの部分が数値限定の範囲内にある必要があるか

M702S及びM702Uが本件特許権を侵害しているというため

には,対象となる銅合金条全体が構成要件E及びFの数値限定の範囲

内にあることが必要である。

(イ) X線回折強度の測定方法

X線回折強度の測定方法としてはピーク強度法と積分強度法が慣用

されているが,本件明細書の記載からは,いずれの測定方法を用いる

べきかは不明である。したがって,M702S及びM702Uがいず

れの測定方法によっても構成要件E及びFを充足することの立証が必

要である。

イ 被告が製造販売するM702S又はM702Uに構成要件E及びFの

数値限定を充足するものが存在しないこと

M702S及びM702Uは,ピーク強度法でも,積分強度法でも,

構成要件Fの数値限定の範囲内に収まっていない部分がある。したがっ

て,M702S及びM702Uは構成要件E及びFを充足しない。

(3) 争点(3)(本件特許の無効理由の有無)について

(被告の主張)

本件特許には以下のとおりの無効理由があるから,原告による権利行使





は制限されるべきである。

公然実施による新規性欠如

被告は,遅くとも,本件特許の出願日より前の日である平成15年4

月に,銅合金条M702S−1/2HTの製造及び販売をしていた。M

702SとM702S−1/2HTは,化学成分及び物理的性質が一致

しており,機械的性質もほぼ一致している。そして,被告が保存してい

たM702S−1/2HTを測定したところによれば,同製品は構成要

件Eの数値限定を 充足してい たし,構成 要件Fについては ,数値限定

(2.28〜3.0)の範囲外の3.18であったが,測定場所によっ

ては上記範囲内の数値が出ることが十分に考えられる。

以上のことからすれば,仮にM702S及びM702Uのうちに構成

要件E及びFを充足するものが存在するのであれば,本件発明は出願日

前に公然実施された発明と同一であることになるから,本件特許は特許

29条1項2号に反している。

進歩性欠如

M702Sと上記アのとおり公然実施されたのM702S−1/2H

Tとは,カタログの記載のとおり,同一の作用効果を有する。仮にM7

02−1/2HTが構成要件Fの数値限定を満たすものではなく,他方

においてM702Sには満たすものがあるというのであれば,構成要件

Fの充足性によって何の効果ももたらされないことになる。したがって,

構成要件Fは一定の範囲で変動する任意の数値を恣意的に定めたものと

して進歩性が認められず,本件特許は特許法29条2項に反している。

ウ サポート要件違反

本件明細書の【表2】の記載によれば,構成要件Fの数値限定の範囲

内のものは上記数値限定の範囲外のものと比べて0.2%耐力がわずか

に高くなっている一方,曲げ加工性は(220)面集積度が2.28以





上になると急激に 悪化してい る。そうす ると,当業者が本 件明細書の

【表2】を見ても(220)面集積度を2.28〜3.0とすれば高強

度と優れた曲げ加工性を両立できると認識することはないから,本件明

細書は特許請求の範囲に記載された発明を記載していないものであり,

本件特許は特許法36条6項1号に反している。

明確性要件違反

X線回折強度の測定方法はピーク強度法と積分強度法が慣用されてい

るのに,本件明細書の記載からはいずれの方法で測定するのかが明らか

でなく,その権利範囲が不明である。したがって,本件発明は特許法3

6条6項2号に反している。

(原告の主張)

公然実施による新規性欠如について

被告は,M702S−1/2HTという型番の下で製品の特性改善を

繰り返してきたから,工番が異なれば全てその特性は異なることになる。

被告が公然と譲渡されたとするM702S−1/2HTは工番6606

3−3のサンプル又は製品であるが,その(220)面集積度は構成要

件Fの数値限定の範囲内にない。

しかも,上記工番のサンプル又は製品は,被告から被告の代理店又は

その倉庫に向けて出荷された可能性があるだけで,販売先にまで届けら

れたかは分からない。被告の代理店が受け入れ,その倉庫に移動したか

らといって公然と実施されたことにはならないし,販売先についても被

告との関係で契約上あるいは信義則上の秘密保持義務を負っていたとい

うべきであるから,M702S−1/2HTが公然と譲渡されたと認め

ることはできない。

進歩性欠如について

本件特許において(220)面集積度を限定した理由は曲げ加工性を





向上するためであり,(220)面集積度が3.0以下だと曲げ加工

が良好であるのに対し,3.0を超えると曲げ加工性が極端に悪くなる

から,(220)面集積度が3.0であることには臨界的意義がある。

そして,Cu−Ni−Si系銅合金条において(220)面集積度を一

定の範囲にすることによって曲げ加工性を向上させることができるとい

技術的思想自体が知られていなかったのであるから,上記M702S

−1/2HTに基づいて本件発明に想到することは困難である。

ウ サポート要件違反について

本件明細書には,本件発明の実施例が比較例との関係において高強度

と高曲げ加工性を両立することが示されているから,本件特許が特許法

36条6項1号に反することはない。

明確性要件違反について

構成要件E及びFの数値限定は,支配的な配向面のX線強度を定量的

に測定するという性質上,積分強度法によって測定すべきことが明らか

であるから,本件特許が特許法36条6項2号に反することはない。

(4) 争点(4)(損害額)について

(原告の主張)

平成22年11月9日から平成24年5月31日までのM702S及び

M702Uの売上げは3億3672万円を下らず,本件特許の実施料率は

5%を下らない。したがって,原告が被告から受けるべき金銭の額は少な

くとも1683万6160円となるので,原告はその一部として1080

万円を請求する。

(被告の主張)

争う。

第3 当裁判所の判断

1 争点(2)(構成要件E及びFを充足するM702S及びM702Uの製造販





売の有無)について

原告は,被告が製造販売する銅合金条M702SとM702Uのうち,

Zn及びSnの総量並びに(220)面集積度が別紙被告製品目録記載の

数値限定の範囲内にあるもの,すなわち,特許請求の範囲に記載されたも

のを本件訴訟の対象として特定し,差止め及び損害賠償を求めている。こ

のような特定が許されるかについては疑問の余地があるが,結局のところ,

被告がそのような範囲に属するM702S等を製造販売していると認めら

れなければ原告の請求を棄却すべきものとなる。そこで,争点(1)について

はさておき,争点(2)についてまず判断することとする。そして,原告と被

告は,専ら,被告が現に製造販売したM702S等が上記目録記載の範囲

(殊に,構成要件Fを充足する範囲)にあるか,その前提として,X線回

折強度はM702S等のどの部分をどのような方法で測定すべきかを争っ

ているので,以下,これらの点を検討する。

(1) X線回折強度の測定箇所について

ア 証拠(甲2,3,38,45,46,乙8,9)及び弁論の全趣旨に

よれば,本件発明は銅合金条という物に係る発明であり,電子部品の高

密度実装性,高信頼性が要求される中,構成要件E及びFの数値限定

含む本件発明の構成要件を充足することにより,高強度及び優れた曲げ

加工性を両立させた電子材料用の銅合金条を提供することを目的とする

ものであること,銅合金条は顧客がこれを適宜裁断してリードフレーム,

電子機器の各種端子,コネクタ等に用いるものであること,銅合金条の

長さや幅は様々であり,例えば,長さは247m,2440mmのもの,

幅は436mm,620mmのものがあることが認められる。

このことからすると,本件発明に係る銅合金条は,顧客がどの部位を

裁断しても電子材料として高強度及び優れた曲げ加工性を両立させる性

質を有している必要があるから,被告各製品が本件発明の技術的範囲





属するというためには,被告各製品の全ての部位において本件発明の構

成要件を充足しなければならないと解すべきである。そうすると,板面

方位指数及び(220)面集積度を求めるためのX線回折強度は,銅合

金条の任意の1点(甲4,5参照)又は端末寄りの数点(甲8,39参

照)だけでは足りず,銅合金条の全体にわたって測定すべきものという

ことができる。

イ これに対し,原告は,現に測定した特定の部位又は両端部を除く部分

において構成要件E及びFの数値限定の範囲にあれば足りる旨主張する

が,以上に説示したことに照らし,これを採用することはできない。

(2) X線回折強度の測定方法について

ア 前記前提事実のとおり,X線回折強度を測定する方法には積分

強度法とピーク強度法がある。本件発明の構成要件Eの板面方位指数

及び構成要件Fの(220)面集積度を求めるに当たり,X線回折強

度をいずれの方法で測定するかについては特許請求の範囲にも,本件

明細書の発明の詳細な説明欄にも記載されていないが(実施例に関し

て,測定に使用する機器の名称と,管球の種類,管電圧及び管電流が

記載されているにとどまる。段落【0019】参照),原告は,銅合

金条に係る本件発明においては積分強度法によるべきことは明らかで

ある旨主張する。

イ そこで判断するに,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事

実が認められる。

(ア) X線回折強度の測定においては,X線管球の種類(Cu管球か

Co管球か),管電圧,管電流,ゴニオメーターの条件(取り出し角,

発散スリット,受 光スリット ,走査速度 ,走査範囲),計 数系の条件

(記録速度,スケールレンジ,時定数)等の諸条件が測定結果に影響す

る。したがって,X線回折強度について適切な数値を測定するためには,





測定者がこれらの条件を適宜選択する必要がある。(甲14〜17,4

1)

(イ) 銅合金ないし圧延銅箔に関する発明についての公開特許公報には,

X線回折強度の測定方法につき,@ 本件特許より前の特許出願に係る

ものとして,特許請求の範囲には記載がないが発明の詳細な説明欄に

おいて圧延面ないし断面の積分強度であることを明示あるいは例示す

るもの(甲11〜甲13),特許請求の範囲において圧延面のピーク

強度であることを明示するもの(乙32)があり,また,A 本件特許

より後の特許出願に係るものとして,特許請求の範囲において圧延面

のピーク強度であることを明示するもの(乙10,12),特許請求

の範囲には記載がないが発明の詳細な説明欄においてピーク強度であ

る旨記載されたもの(乙11)がある。

ウ 上記認定事実によれば,本件特許の特許出願時において,圧延等の工

程を経た銅又は銅合金の性質を特定するための圧延面等のX線回折強度

の測定方法として積分強度法とピーク強度法のいずれを採用するかにつ

いては,発明ごとに出願人が選定することが多いといえるのであって,

本件発明に接した当事者が本件発明の技術的内容や本件明細書の記載か

ら積分強度法が採用されていると認識すると認めるべき証拠はない。そ

うすると,原告の上記主張を採用することはできず,本件発明の構成要

件E及びFにおける圧延面のX線回折強度については,積分強度法とピ

ーク強度法のいずれにおいてもその数値限定の範囲内にある必要がある

ものと解するのが相当である(もっとも,後記(3)で説示するところによ

れば,積分値のみを測定すれば足りるとの原告の主張によるとしても,

本件特許権の侵害を認めることはできない。)。

(3) 被告が製造販売するM702S又はM702Uの構成要件E及びFの充

足性について





以上を踏まえて,本件発明の構成要件E及びFの数値限定を充足するM

702S又はM702Uを被告が製造販売していると認められるかどうか

について検討する。

ア まず,原告は,被告製品1に当たると主張するM702Sにつき,自

ら(甲4)又は第三者機関に委託して(甲34)行った測定結果の報

告書を提出し,これらによれば構成要件E及びFの数値限定が充足さ

れている旨主張する。しかし,これらはいずれも試料(なお,後者に

おける試料がM702Sであるかは報告書の記載上明らかでない。)

の内の任意の1点を計測したものにとどまり,これらによって銅合金

条全体が構成要件E及びFの数値限定の範囲内にあると認めることが

できないことは前記(1)で判断したとおりである。

イ 次に,原告は,被告製品2に当たると主張するM702Uにつき,自

ら行った実験結果の報告書として,1点のみを測定したもの(甲5),

8点を測定したもの(甲8,39)及び50点ないし46点を測定した

もの(甲45,46,以下,各実験を書証番号により「甲5実験」など

という。)を提出している。これらはいずれも積分強度法を採用したも

のである。

このうち,甲5実験に証拠価値を認め難いことは上記アと同様であ

る。

他方,甲8実験,甲39実験,甲45実験及び甲46実験について

は,証拠(甲8,39,45,46)及び弁論の全趣旨によれば,以

下の事実が認められる)。

(ア) 甲8実験及び甲45実験において試料として用いられたのは同一

のM702Uであり,その長さは247mである。

甲8実験は,試料としたM702Uのうち,条の外側と芯側の各末

端からそれぞれ100mm及び200mmの地点の外面と内面の合計8点





を測定したものであり,(220)面集積度は外面が2.46〜2.

90(端数は四捨五入。以下同じ。),内面が2.51〜3.0の範囲

にあった。

甲45実験は,試料の外側端部から1mの点及び10mから240m

までの10m間隔の各地点の外面と内面の各25点(合計50点)

を測定したものであり,その(220)面集積度は外面が2.69

〜3.0,内面が2.55〜3.0の範囲にあった。

(イ) 甲39実験及び甲46実験において試料として用いられたのは

同一のM702Uであり,その長さは2440mmである。

甲39実験は,甲8実験と同様に合計8点を測定したものであり,

その(220)面集積度は外面が2.41〜2.86,内面が2.

54〜2.90の範囲にあった。

甲46実験は,試料の外側端部から100mm間隔で外面と内面の

各23点(合計46点)を測定したものであり,その(220)面

集積度は外面が2.28〜2.82,内面が2.29〜2.74の

範囲にあった。

ウ 以上によれば,甲45実験及び甲46実験は,被告の製造販売する2

本のM702Uの全体にわたってX線回折強度を測定し,(220)面

集積度が構成要件E及びFを充足する旨を示したものであるが,原告に

よる実験に対しては次のような疑問点を指摘することができる。

(ア) 甲39実験と甲46実験は同一のM702Uを同一の間隔で測定

したものであるが,(220)面集積度の分布状況については,外面

及び内面とも下限において0.1以上のずれが生じている。また,特

定の部位についてみても,外側端末から200mmという同一距離の内

面(ただし,幅方向の位置は明らかでない。)を測定した数値が甲3

9実験では2.73であるのに対し,甲46実験では2.61であり,





0.12の相違がある。さらに,芯側端末に近い外面の測定部位をみ

ると,甲39実験では芯側から100mmの点が2.81,200mmの

点が2.86であるのに対し,甲46実験では芯側端末から140mm

(外側末端から2300mm)の点が2.28であり,0.5以上の差

が生じている。

(イ) 甲8実験と甲45実験は同一のM702Uを測定したものである

が,(220)面集積度の分布状況については,外面において上限及

び下限とも0.1以上のずれがある上,測定箇所の少ない甲8実験の

方が甲45実験より分布の幅が広くなっている。

(ウ) 甲8実験及び甲39実験は本件訴訟における技術説明会の前に,

甲45実験及び甲46実験はその後に行われたものであるが,板面

方位指数及び(220)面集積度を算出する基となるX線回折強度

の数値は大きく異なっている。これは前2者と後2者で実験条件が

相違することによるものと推測されるが,各書証に実験条件の詳細

は記載されていない。

エ 上記ウ(ア)及び(イ)によれば,原告が行った各実験は同一の試

料であってもその都度異なる測定結果が生じるというのであり,仮に

各実験が正確であるとしても,わずかな測定部位等の違いにより(2

20)面集積度の分布状況に0.1〜0.5以上のずれが生じる可能

性があることになる。そして,原告の上記実験結果において,(22

0)面集積度の分布範囲が構成要件Fの数値限定の上限3.0と同じ

(甲8実験,甲45実験)であり,又は下限2.28と同じ(甲46

実験)若しくはこれに近接した数値(甲39実験)となっていること

に照らすと,別の実験をしたり,異なる部位を測定したりすることに

よって構成要件Fの数値限定の上限又は下限を超える可能性が高いと

いうことができる。そうすると,上記の各証拠は,被告製品2に関し





て,構成要件E及びFを充足するM702Uを被告が製造販売してい

たと認めるには足りないと解すべきものとなる。

オ したがって,本件の関係各証拠を総合しても,被告が構成要件E及び

Fを充足する銅合金条を製造販売していたと認めることはできない。

なお,銅合金条の全体にわたってX線回折強度を測定し,その全てに

おいて構成要件E及びFの範囲内にあることの立証を要求することは,

特許権者に対して酷な面がないではない。しかし,原告は,X線回折強

度により計算される板面方位指数及び(220)面集積度が所定の範囲

にあることにより顕著な効果を奏するとして,銅合金条に係る本件特許

権を取得したものである。これに加え,被告のカタログ(甲6,7)に

(220)面集積度等に関する記載はなく,被告において(220)面

集積度等を制御して銅合金条の製造を行っている(したがって,顧客に

おいてこの点を製品選択の考慮要素としている)とはうかがわれないこ

と,本件明細書にも(220)面集積度等を特許請求の範囲に記載され

数値限定の範囲内に制御するための具体的な製造方法等は記載されて

いないこと,(220)面集積度等が本件明細書に記載された本件発明

の効果に結びつくとする知見や,それを制御する方法に関する文献等が

本件の証拠上に現れていないことに鑑みると,(220)面集積度等が

所定の範囲内にあることの技術的意義は定かでないというほかない。本

件におけるこのような事情からすれば,原告においては被告の製造販売

する銅合金条の全体につきX線回折強度を測定し,これが構成要件E及

びFを充足することを客観的な証拠をもって明確に立証しない限り本件

特許権を行使することができないと解しても不合理ではないと考えられ

る。

2 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はい

ずれも理由がない。





第4 結論

よって,原告の請求をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部



裁判長裁判官 長 谷 川 浩 二




裁判官 橋 彩




裁判官 植 田 裕 紀 久



(別紙省略)





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