関連審決 | 異議2001-70031 |
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関連ワード | 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 一致点の認定 / 慣用技術 / 技術常識 / 技術的意義 / 実施 / 設定登録 / 混同 / 請求の範囲 / 取消決定 / |
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事件 |
平成
13年
(行ケ)
368号
特許取消決定取消請求事件
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原告 松下電器産業株式会社 訴訟代理人弁護士 大野聖二 訴訟復代理人弁護士 中道徹 被告 特許庁長官小川洋 指定代理人 紀本孝 同 立川功 同 涌井幸一 同 城戸博兒 同 宮下正之 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2004/07/22 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告 (1) 特許庁が異議2001-70031号事件について平成13年7月5日にした決定を取り消す。 (2) 訴訟費用は被告の負担とする 2 被告 主文と同旨 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「車載用ナビゲーション装置」とする特許第3060854号の特許(平成6年10月11日出願(以下「本件出願」といい,同出願に係る願書に添付された明細書及び図面を併せて「本件明細書」という。),平成12年4月28日設定登録。以下「本件特許」という。請求項の数は2である。)の特許権者である。 平成13年1月12日,本件特許に対し,請求項1及び2につき特許異議の申立てがされた。特許庁は,これを異議2001-70031号事件として審理し,その結果,平成13年7月5日,「特許第3060854号の請求項1,2に係る特許を取り消す。」との決定をし,同月24日,その謄本を原告に送達した。 2 特許請求の範囲 (1) 【請求項1】 車両の現在位置を推定する車両現在地推定手段と,車両の目的地までの走行経路を設定する経路設定手段と,地図上の任意の地点を複数ヶ所登録できる地点登録手段と,この地点登録手段により登録したそれぞれの地点に呼称を設定する呼称設定手段と,運転者が発声する前記呼称を認識する音声認識手段を備え,前記運転者が目的地とする地点の前記呼称を発声することにより,前記音声認識手段がこれを認識し,認識した前記呼称に対応する地点を車両の目的地として前記走行経路の設定を行う車載用ナビゲーション装置。 (2) 【請求項2】 地図上の任意の地点を複数ヶ所登録し,登録したそれぞれの地点に呼称を設定しておき,運転者が発声する目的地の前記呼称を認識し,認識した前記呼称に対応する地点を車両の目的地として走行経路の設定を行うことを特徴する走行経路設定方法。 (以下,「本件発明1」,「本件発明2」という。) 3 決定の理由 別紙決定書の写しのとおりである。要するに,本件発明1及び2は,特開昭62-293117号公報(以下,決定と同様に「引用例」という。)に記載された発明(その内容は,後記4(1)及び5(1)記載のとおりであり,以下,それぞれを「引用発明1」,「引用発明2」という。決定は,本件発明1には引用発明1を,本件発明2には引用発明2を,それぞれ対比させている。)及び周知・慣用技術から,当業者が容易に発明できる,としたものである。 4 決定が認定した,引用発明1の内容,本件発明1と引用発明1との一致点・相違点 (1) 引用発明1の内容 「車両の現在位置を計算する手段と,地図上の任意の地点を複数ヶ所登録できる手段と,登録したそれぞれの地点に名称を設定する手段と,運転者が目的地とする地点の前記名称をキー入力することにより,前記名称に対応する地点を車両の目的地として設定を行う車載用ナビゲーション装置。」(決定書2頁末行目〜3頁4行目) (2) 本件発明1と引用発明1との一致点 「車両の現在位置を推定する車両現在地推定手段と,地図上の任意の地点を複数ヶ所登録できる地点登録手段と,この地点登録手段により登録したそれぞれの地点に呼称を設定する呼称設定手段を備え,運転者が目的地とする地点の前記呼称を入力することにより,前記呼称に対応する地点を車両の目的地として設定を行う車載用ナビゲーション装置。」(決定書3頁15行目〜19行目) (3) 本件発明1と引用発明1との相違点 「(相違点1)本件発明1が「車両の目的地までの走行経路を設定する経路設定手段」を備えるのに対し,引用発明1は,このような経路設定手段につき記載がない点。 (相違点2)目的地の設定に関し,本件発明1では,運転者が発声する呼称を認識する音声認識手段を備え,前記運転者が目的地とする地点の前記呼称を発声することにより,前記音声認識手段がこれを認識し,認識した前記呼称に対応する地点を車両の目的地とするのに対して,引用発明1では,運転者が目的地とする地点の呼称をキー入力することにより,前記呼称に対応する地点を車両の目的地とする点。」(決定書3頁21行目〜29行目) (以下,それぞれ「相違点1」,「相違点2」という。) 5 決定が認定した,引用発明2の内容,本件発明2と引用発明2との一致点・相違点 (1) 引用発明2の内容 「地図上の任意の地点を複数ヶ所登録し,登録したそれぞれの地点に名称を設定しておき,運転者がキー入力する目的地の前記名称に対応する地点を車両の目的地として設定を行う設定方法。」(決定書3頁5行目〜7行目) (2) 本件発明2と引用発明2との一致点 「地図上の任意の地点を複数ヶ所登録し,登録したそれぞれの地点に呼称を設定しておき,運転者が入力する目的地の前記呼称に対応する地点を車両の目的地として設定を行う設定方法。」(決定書4頁21行目〜23行目) (3) 本件発明2と引用発明2との相違点 「(相違点1)本件発明2は,車両の目的地までの走行経路の設定を行うものであるのに対して,引用発明2は,車両の目的地までの走行経路の設定を行う点につき記載がない点。 (相違点2)目的地の設定に関し,本件発明2では,運転者が発声する目的地の呼称を認識し,認識した呼称に対応する地点を車両の目的地とするのに対して,引用発明2では,運転者がキー入力する目的地の呼称に対応する地点を車両の目的地とする点。」(決定書4頁25行目〜31行目) |
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原告の主張の要点
決定は,本件発明1及び本件発明2のいずれについても,各引用発明との一致点の認定を誤って相違点を看過し(取消事由1),また,その顕著な作用効果を看過するものであって(取消事由2),これらの誤りが結論に影響することは明らかであるから,違法として取り消されるべきである。 1 取消事由1(本件発明1と引用発明1との一致点認定の誤り・相違点の看過) (1) 決定は,引用発明1は,「地図上の任意の地点を複数ヶ所登録できる地点登録手段」を備えるという点で本件発明と一致している,と認定している。 しかし,これは,引用発明1の技術内容を誤解したもので,誤りである。 (2) 引用例では,その特許請求の範囲を,「ユーザが任意の地点情報を入力したい場合にその地点の名称とその地点の緯度,経度座標を入力させる入力手段と,」(甲第3号証1頁左欄13行目〜15行目),としている。実施例にも,これに対応する記載がある。 すなわち,引用発明1は,ユーザが任意の地点情報を入力する場合,その呼称と,その地点の緯度経度座標を入力する構成を開示しているだけで,これ以外の構成は開示も示唆もしていない。 これに対し,本件発明1は,地図上の任意の地点(車載用ナビゲーション装置に搭載されている地図データに,データとして既に含まれている地点データ)を複数ヶ所登録できる手段と,登録したそれぞれの地点に名称を設定する手段(呼称という付加的なデータを付する手段)とを備えるものである。 (3) 本件発明1は,地点を特定する方法として,スクリーンの画面上をポイントしたり,所番地を入力したり,緯度経度座標を入力したりする方法のいずれも含むものである(地点登録手段の具体的な構成については限定がない。)。しかし,登録の対象である地点は,もともと位置情報(地点データ)を有しており,登録するに際して,その地点に新たに位置情報を与えるものではない。 換言すると,本件発明1は,バーチャルワールドの地点(コンピュータのデータとして既に存在している,地図上の地点)を,特定の呼称を付すべき地点として登録するのである。 これに対し,引用発明1では,地点登録に関する情報(地点データ)と地図に関する情報(地図データ)が,別々に登録され,別のメモリに記憶されているのであり,地図データは,地点に関する情報を有していない。すなわち,引用発明1は,ナビゲーションシステムの保持する地図とは無関係に,地点登録がなされるのであり,緯度経度座標を入力することにより,リアルワールド(実世界)の地点を直接登録することになるのである。 このように,両者は,技術的に明らかに異なるものである。 (4) 上記のとおりの両者の差異は,例えば次のような場合に現れる。 本件発明1の場合,例えば地図データに含まれていない,新たに造成された埋め立て地の中の地点は,(新たな地図データを登録しない限り)登録することができない。これに対し,引用発明1では,使用者が緯度経度座標を付した上で,登録することができるのである。 逆に引用発明1では,ある建物を登録する際,経度緯度座標を間違って入力すると,異なる地点が登録されてしまうことになる。これに対し,本件発明1では,そのような問題は起こらない。 (5) また,引用発明1が地図とは全く無関係に,地点の名称と緯度経度座標をを入力するものであり,これが,地点の呼称設定手段に該当する。 これに対し,本件発明1は,地図上の任意の地点を複数ヶ所登録し,登録したそれぞれの地点に名称を設定するというものである。両者は地点の呼称設定手段の構成を明らかに異にしている。 (6) 被告は,引用発明1も,地図上の地点を登録するものである,と主張する。しかし,この主張は,地点を登録することと,登録された地点を表示することとを混同したものである。本件発明1では,前記のとおり,地図データが,既に地点データを含んでいる。これに対し,引用発明1では,そもそも,地図データは地点データを全く含んでいないから,地点登録において,地図データに含まれる,地点データを登録することはできない,すなわち,地図上の地点を登録することはあり得ないのである。 2 取消事由2(本件発明1の顕著な作用効果の看過) 引用発明1は,一般には容易に知り得ない,緯度経度座標に基づき地点を指定する構成を採用している。しかも,その緯度経度座標は,少なくとも小数点以下6桁程度まで入力しなければ,地点の特定として十分でない。これでは,実用に耐え得ない。 これに対し,本件発明1は,地図データが地点データを有しているため,地図上の任意の地点を登録するだけでよい。使用者は,位置情報(緯度経度座標)を知る必要も意識する必要も全くない。 引用発明1と比較して,本件発明1は,顕著な作用効果を有するものであり,このことを看過した決定が誤りであることは明らかである。 3 取消事由3(本件発明2と引用発明2との一致点認定の誤り・相違点の看過及び本件発明2の顕著な作用効果の看過) 決定は,本件発明2と引用発明2との一致点の認定を誤り,また,本件発明2の顕著な作用効果を看過したもので,違法であるが,その理由は,本件発明1における取消事由1及び2と同じである。 |
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被告の反論の要点
1 取消事由1(本件発明1と引用発明1との一致点認定の誤り・相違点の看過)に対して (1) 特許性が問題となっている発明の容易推考性の判断の前提として,当該発明と引用発明とを対比するにあたり,引用発明の構成を,その技術的意義に従って,当該発明の構成と対比することが可能となる限度で抽象化,一般化できることは当然である。 (2) 引用発明1は,緯度経度座標により任意の地点が登録され,その登録された地点が表示画面に地図上の点として表示されるものである。すなわち,引用発明1において,緯度経度座標は,地図上の点に対応しているのであるから,緯度経度座標により登録される任意の地点も,地図上の任意の地点に相当するのであり(乙第7号証,第8号証),地図と全く無関係に,地点が設定されるというものではない。 (3) 原告は,本件発明1にいう地図は,地点データを含む地図データである,と主張する。しかし,地図データ及び登録された地点のデータが,共にメモリに記憶されていることは,技術常識であり,地図データを記憶している領域に,地点データを重ねて記憶することができない(両者が完全に一体のものとして記憶されることはない)ことも当然である。 各データが記憶されている領域が,メモリ上区別されているとしても,それは,結局各データの持ち方の問題にすぎない。本件発明1と引用発明1とで,地図データ及び地点データの持ち方に実質的な差異があるとはいえない。 (4) 本件発明1の,地図上の任意の地点を複数ヶ所登録できる地点登録手段とこの地点登録手段により登録したそれぞれの地点に呼称を設定する呼称設定手段とは,地図上の任意の位置と名称とを対応づけて登録・設定するという処理を実行するために,一体不可分のものであり,これは,引用発明1の,任意の場所の名称を設定する手段及び地図上の任意の地点を複数ヶ所登録できる手段と,同様である。 どちらを先に処理しようと,技術的意義は異ならない。この点について相違点があったとしても,設計上の微差に過ぎず,容易推考性を判断すべき実質的な相違点とはいえない。 2 取消事由2(本件発明1の顕著な作用効果の看過)に対して 原告の主張は,本件発明1が,緯度経度情報を入力して任意の地点を登録する構成を含んでいないことを前提とする。そのような前提が成り立たないことは,既に述べたとおりである。 3 取消事由3(本件発明2と引用発明2との一致点認定の誤り・相違点の看過及び本件発明2の顕著な作用効果の看過)に対して 上記1,2と同じ。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(本件発明1と引用発明1との一致点認定の誤り・相違点の看過)について (1) 原告は,本件発明1にいう地図とは,地点データを有する地図データを意味しているものであることを前提に,本件発明1は,この地図データ上の任意の地点を複数ヶ所登録する手段を備えているのに対し,引用発明1では,このように地点データを有する地図データをもっておらず,したがって,地図データ上の地点を登録する手段を備えていない,として,決定が,「地図上の任意の地点を複数ヶ所登録できる地点登録手段」を備えているとの点を,本件発明1と引用発明1との一致点として認定したのは誤っており,相違点の看過がある,と主張する。 (2) 本件明細書には,次の記載がある。 ア「・・・地図上の任意の地点を複数ヶ所登録できる地点登録手段と,この地点登録手段により登録したそれぞれの地点に呼称を設定する呼称設定手段と,・・・を備え,・・・音声認識手段が・・・認識した・・・呼称に対応する地点を車両の目的地として・・・走行経路の設定を行う車載用ナビゲーション装置。」(請求項1) イ「地図上の任意の地点を複数ヶ所登録し,登録したそれぞれの地点に呼称を設定しておき・・・認識した・・・呼称に対応する地点を車両の目的地として走行経路の設定を行うことを特徴とする走行経路設定方法。」(請求項2) ウ「【発明が解決しようとする課題】しかしながら,従来の車載用ナビゲーション装置における目的地設定操作は階層が複雑であり,最終的な目的地を設定するまでに多くの選択操作が必要であった。また,これらは画面を確認しながらの操作となるため,運転中においては非常に危険であり,走行中の設定操作は禁止とする場合が多く,走行中には目的地設定操作ができないという問題があった。」(甲第2号証2頁左欄1行目〜8行目) エ「【0004】本発明は上記従来の問題を解決するものであり,車両が走行中であっても目的地の設定が安全かつ容易にでき,また画面を確認しながらの設定操作を一切省略した音声による目的地設定ができる車載用ナビゲーション装置の提供を目的とする。」(同号証2頁左欄9行目〜13行目) オ「【0006】また,本発明は,地点登録手段により登録したそれぞれの地点に呼称を設定する呼称設定手段を別途設け,運転者が目的地とする地点の呼称を発声することにより,上記音声認識手段がこれを認識し,認識した呼称に対応する地点を目的地として走行経路の設定を行うようにしたものである。 【0007】 【作用】したがって,本発明によれば運転者が目的地までの走行経路の設定を行う場合,登録されている地点の中から目的地とする地点に対応する語彙を発声することにより目的地設定を終了し,走行経路の設定を開始することができるため,従来の画面を確認しながらの複雑な設定操作を一切省略することができる。」(同号証2頁左欄26行目〜38行目) カ「【実施例】図1は,本発明の実施例の構成を示すものである。・・・103は地図上の任意の地点を複数ケ所登録できる地点登録手段,104は登録された地点それぞれに呼称を設定する呼称設定手段・・・である。」(同号証2頁左欄40行目〜46行目) キ「【0009】次に,上記実施例の動作について説明する。運転者は車両の目的地となる地点をあらかじめ地点登録手段103に登録し,呼称設定手段104により登録した地点の呼称を設定しておく。呼称を設定しなかった場合は初期設定による語彙と地点が対応づけられる。・・・例えば,運転者の自宅の住所を地点登録手段103で登録しておき,呼称設定手段104でこれに「自宅」という呼称を設定しておく。なお,呼称設定を行わなかった場合には「地点A」などの語彙を初期設定として対応させる。また「会社」など運転者が目的地とする頻度が高い地点を同様に設定しておく。これらの設定操作の後に,運転者が「自宅」等の語彙を発声した場合に,「自宅」に対応する地点を目的地として経路設定が行われる。・・・したがって,従来のように,都道府県名や市町村名を選択して設定したり,また登録しておいた地点の中からカーソルを移動させて選択したりする必要がなく,いわば電話の短縮ダイヤル的な手法により目的地を設定することができる。」(同号証2頁右欄1行目〜26行目) ク「【発明の効果】本発明は,上記実施例から明らかなように,運転者が目的地までの走行経路の設定を行いたい場合,登録されている地点の中から目的地としたい地点に対応する語彙を発声するだけで目的地を設定し,走行経路の設定を開始することができるため,従来の複雑な階層に添った設定操作を一切省略することができる。・・・」(同号証2頁右欄28行目〜33行目) (3) 以上のとおり,本件発明1の主たる作用効果は,予め登録し,呼称を付した地点を,運転者の発声により選択し,目的地として指定することにより,その操作を簡便なものにする,ということにある。そして,その地図上の地点を複数ヶ所登録できる地点登録手段について,本件明細書には,地図上の地点を登録する,ということのほかに,その登録(入力,記憶等)の仕方について,何ら具体的な構成は開示されていない(原告が自ら認めるとおり,引用発明1のように,緯度経度座標により,地点データを入力する態様も含まれる。)。地図の意義についても何ら限定はない。そうすると,本件発明1の地図が,例えば,地点データと地図データを不可分一体のものとして保持するとか,物理的に同一の記憶手段に保持されるといった意味での,地点データを有する地図データであると限定して解する必然性は全くない。 もっとも,後記のとおり,車載用ナビゲーション装置は,目的地までの道をガイドするものであるから,目的地の地点データ(位置情報)は,必ず地図上の情報(例えば,最寄りの道路の所在等)と対応付けられる必要があることは,自明である。そのようなことを可能にする地図データをもって,原告が主張するように,「地点データを有する地図データ」と表現するのが適切か否かはともかく,本件発明1が,入力された地点データを地図データ上の地点に対応させて,両者を関連づける構成を備えるものであることは間違いなく,これをもって,地図上の地点を登録している,ということは適切である。 結局,本件発明1と引用発明1との一致点の検討において,本件発明1の地図上の任意の地点を登録する地点登録手段とは,登録(入力・記憶)の手段・態様の如何に関わらず,入力された地点データを,地図データ上の地点に対応させつつ登録する(記憶する),という程度の意味に解すれば足り,それ以上に,具体的かつ限定された構成を持つものと理解することはできない。 以下,引用発明1が,そのような地点登録手段を備えているか否か検討する。 (4) 原告は,本件発明1と異なり,引用発明1の緯度経度情報を入力して地点を登録する構成では,車載用ナビゲーション装置の地図が地点の登録に全く関与していないから,地図上の地点を登録したことにはならない,と主張する。 車載用ナビゲーション装置は,目的地の位置と,そこまでの経路をガイド(案内)するものである。 そうすると,操作方法としては,緯度経度座標により地点を特定し登録するとしても,自動車は道路上を走行するものであるから,それだけでは自動車のナビゲーションとしては全く無意味である。入力された地点データは,車載用ナビゲーション装置の有する,少なくとも当該地点周辺の地図と関連づけられ,すなわち,地図上における位置関係(自動車が通行でき,かつ目的地の最も至近を通過する道路の位置関係等)が定義されて,初めて意味を持つものである。 引用例の特許請求の範囲の記載「地図上の道路などの情報を記憶する地図メモリと,上記地図メモリおよび地点メモリで与えられる地図情報,地点情報および走行軌跡を表示するための走行軌跡表示装置」,「ユーザが任意の地点情報を入力したい場合にその地点の名称とその地点の緯度,経度座標を入力させる入力手段と,特定の地点情報および上記入力手段で入力された地点の名称とその地点の緯度,経度座標を記憶する地点メモリと,上記地図メモリと地点メモリからのデータを読み出して上記走行軌跡表示装置に地図および地点情報を表示させるとともに走行軌跡を演算して上記走行軌跡表示装置に表示させ・・・」及び第12図からは,引用発明においても,地点メモリ上にある,ユーザーが登録した地点の緯度経度座標等の地点情報が,地図メモリ上にある地図情報に関連づけられて,表示され,経路案内が行われることは明らかであり,当業者は,そのようなものとして引用発明1を理解することができる(逆にいうと,関連づけがなければ,地点情報を地図上に表示することも,地図上の走行軌跡を演算することも,不可能であるはずである。)。 したがって,引用発明1は,ユーザーが緯度経度座標を入力することにより,それと,装置が保持する地図上の地点とを対応させる構成を備えているものと理解されるべきである。そして,このことが,本件発明1にいう,地図上の任意の地点を登録することに相当するものといえることはいうまでもない。このような引用発明1の構成は,前記の,本件発明1が備える構成,すなわち入力された地点データを,地図データ上の地点に対応させつつ登録(記憶)するという構成と,本質的に異なるものではないからである。 (5) 原告は,引用発明1では,地図上にない地点を登録できるのに対し,本件発明1では,そのようなことはない,と主張する。 しかし,前記のとおり,本件発明1においても,緯度経度座標を入力することにより,地点データを入力する構成を採り得るのであり,その場合,引用発明1と同様に,地図データに対応するもののない地点データを入力することがあり得ることになる。そして,そのような登録をしない(許さない)構成が,本件明細書に開示されているわけではない。 もし,「地図上の任意の地点を複数ヶ所登録できる地点登録手段」という語の中に,そのことが開示されている,というのであれば,引用発明1においても,(4)において引用したとおり,走行軌跡表示装置に地図及び地点情報を表示して,走行軌跡を表示するものであるから,地図情報にない地点データの登録がされることはない,といえる。 また,本件発明1でも,緯度経度座標により地点データを入力するとき,間違ったデータを入力することがあり得る。この点においても,本件発明1と引用発明1との間に違いはない。 (6) 本件発明1の特許請求の範囲の記載の文言からは,本件発明1は,既に登録した地図上の地点に対し,呼称を設定するものであると認められる。もっとも,複数まとめて地点を登録した後に,この複数の登録地点に対し呼称を設定する態様に限定されている,とは認められない。 他方,(4)で引用した引用例の特許請求の範囲の記載から読み取れる引用発明1は,地点の入力(緯度経度情報の入力)と名称の入力との先後関係について何ら限定しておらず,地点の入力(これが,地図上の任意の地点の登録に当たることは,前記のとおりである。)を先に行う構成もまた,引用発明に含まれることは明らかである。 地点登録と呼称(名称)設定の先後関係を根拠に,本件発明1と引用発明1との相違がある,ということもできない。 (7) 以上のとおりであるから,引用発明1が,本件発明1の,地図上の任意の地点を複数ヶ所登録できる地点登録手段を有している,との決定の認定に誤りはない。決定には,原告が主張するような一致点認定の誤り・相違点の看過はない。 2 取消事由2(本件発明1の顕著な作用効果の看過)について 本件発明1が,緯度経度座標を入力して地点登録をする構成を含むことは,原告自身認めており,既に述べたところからも明らかである。したがって,画面上の点を指示したり,所番地を入力して地点登録をする構成との違いを根拠に,本件発明1に顕著な作用効果があるとする原告の主張には,理由がない。 3 取消事由3(本件発明2と引用発明2との一致点認定の誤り・相違点の看過及び本件発明2の顕著な作用効果の看過)について 本件発明1における原告主張の取消事由1及び2が理由がないことは前記のとおりであるから,同旨の理由により本件発明2の進歩性をいう,取消事由3も理由がない。 4 結論 以上のとおりであるから,原告主張の取消事由は,いずれも理由がなく,その他,決定には,これを取り消すべき誤りは認められない。 よって,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 佐藤久夫 |
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裁判官 | 設樂隆一 |
裁判官 | 高瀬順久 |