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事件 平成 25年 (行ウ) 612号
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 東京地方裁判所 
判決言渡日 2014/04/30
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成26年4月30日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

平成25年(行ウ)第612号 決定処分取消請求事件

口頭弁論終結日 平成26年2月21日

判 決

アメリカ合衆国 コネチカット州<以下略>

原 告 アドバンスト フュージョン

システムズ エルエルシー

同 特 許 管 理 人 弁 理 士 新 井 信 昭

同 訴 訟 代 理 人 弁 護 士 井 浦 謙 二

東京都千代田区<以下略>

被 告 国

処 分 行 政 庁 特 許 庁 長 官

被 告 指 定 代 理 人 長 谷 川 武 久

同 浅 原 陽 子

同 駒 ア 利 徳

同 上 田 智 子

同 古 閑 裕 人

主 文

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

3 この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

1 特許庁長官が平成24年7月3日付けでした原告に対する特願2012−5

07190についての国内書面に係る手続の却下処分を取り消す。

2 特許庁長官が平成24年7月3日付けでした原告に対する特願2012−5




1
07190についての国際出願翻訳文提出書に係る手続の却下処分を取り消す。

第2 事案の概要

本件は,原告が,「千九百七十年六月十九日にワシントンで作成された特許

協力条約」 ( 以下 「 特許協力 条約 」 という 。 ) に基づいて行った国際特許出

願について,特許庁長官に対し,国内書面及び翻訳文提出書を提出したところ,

特許庁長官から国内書面に係る手続の却下処分及び翻訳文提出書に係る手続の

却下処分を受けたことから,各処分の取消しを求める事案である。

1 前提となる事実(証拠等を末尾に記載した以外の事実は争いがないか,当裁

判所に顕著な事実である。)

(1) 当事者

原告は,アメリカ合衆国コネチカット州に本店を有する外国法人であり,

特許法8条の規定による特許管理人を選任している。

(2) 本件訴訟が提起されるまでの経緯

ア 原告は,平成20年5月16日,米国特許商標庁に仮出願第61/12

7,845を出願した( 以下 「 本件仮出願 」 という 。)
( 以下「 本件仮出願」 という。) 。)。

イ 原告は,平成21年5月18日,本件仮出願の優先権を主張して,受理

官庁を米国特許商標庁,国際出願言語を英語として,発明の名称(日本語

訳)を「フラッシュX線照射装置」とする発明について,特許協力条約

条に基づく国際出 願(PCT /US20 09/04441 0。 以 下 「 本

国際出願」 という。
国際出願 」 という 。 )をした。

本件国際出願は,特許協力条約4条(1)(ii)の指定国に日本国を含

むものであったため,特許法184条の3第1項の規定により,その国際

出願日である平成21年5月18日にされた特許出願(特願2012−5

07190号。以下 「 本件国際特許出願」という。 )とみなされた。
以下「 本件国際特許出願 」 という。
以下

ウ 原告は,平成23年10月25日,特許庁長官に対し,本件国際特許出

願についての国内書 面(乙1。 以 下 「 本件国 内書面 」 と いう 。 )を提出




2
した。

エ 原告は,平成23年12月21日,特許庁長官に対し,本件国際特許出

願についての明細書,請求の範囲,図面及び要約の日本語による翻訳文

係る翻訳文提出書( 乙2。 以 下 「 本件翻訳文 提 出書 」 と いう 。 )を提出

した。

オ 特許庁長官は,原告に対し,平成24年3月13日,@本件翻訳文提出

書は提出期間(優先日から2年6か月後である平成22年11月16日ま

で)経過後の提出であるため受理することができないとの理由により,本

翻訳文提出書に係る手続は却下すべきものと認められる旨の平成24年

3月6日付け却下理 由通知書(甲 1。 以 下 「 本件却下理 由通知書 1 」 と

いう 。 ),及びA本件国際特許出願は, 翻訳文がその提出 できる期間 内

に提出されていないため,取り下げられたものとみなされたから,国内書

面は受理することができないとの理由により,本件国内書面に係る手続は

却下すべきものと認められる旨の平成24年3月6日付け却下理由通知書

(甲2。 以 下 「 本件却下 理由通知書 2 」 という 。 )をそれぞれ送付した。

原告は,特許庁長官に対し,平成24年5月28日付けで,本件却下理

由通知書1及び本件却下理由通知書2に対する弁明書(乙3の1・2)を

提出した。

カ 特許庁長官は,平成24年7月3日付け(発送日:同月4日)で,本件

翻訳文提出書に係る手続については,本件却下理由通知書1に記載した理

由によって却下する旨の処分(甲3。以 下「本件翻訳文提出書却下処

分 」 という 。 )を,本件国内書面に係る 手続については, 本件却下理 由

通知書2に記載し た理由によっ て却下す る旨の処分(甲4 。 以 下 「 本 件

国内 書面却下処分 」 といい , 本件翻訳文提出 書却下処分 と 併 せて 「 本 件

各却下処分」 という。
各却下処分 」 という 。 )を,それぞれ行った。

キ 原告は,平成24年8月31日付けで,本件各却下処分につき,特許庁




3
長官に対し異議申立てをした(乙4)。

ク 特許庁長官は,平成25年3月18日付けで,異議申立てを棄却する旨

の決定(甲5)をし,同決定は,同月19日原告に送達された。

ケ 原告は,平成25年9月19日,本件訴訟を提起した。

(3) 法令等の定め

ア 外国語でされた国際特許出願の出願人は,特許協力条約2条(xi)の

優先日から2年6か 月 ( 以下 「 国内書面提出 期間 」 とい う 。) 以内に翻

訳文を特許庁長官に提出しなければならない。国内書面提出期間満了の2

か月前から満了日までの間に特許法184条の5第1項所定の国内書面を

提出したときは,当 該書面提出日 から2 か月 ( 以下 「 翻 訳文提出特 例期

間 」 という 。 ) 以内に翻訳文を提出することができる。国 内書面提出 期

間又は翻訳文提出特例期間内に翻訳文の提出がなかったときは,その国際

特許出願は取り下げられたものとみなされる。(特許法184条の4第1

項,3項)。

イ 「優先日」とは,期間の計算上,次の日をいう。

(a) 国際出願特許協力条約8条の規定による優先権の主張を伴う場合は,

その優先権の主張の基礎となる出願の日

(b) 国際出願が同条約8条の規定による2以上の優先権の主張を伴う場合

には,それらの優先権の主張の基礎となる出願のうち最先のものの日

(c) 国際出願が同条約8条の規定による優先権の主張を伴わない場合には,

その出願の国際出願

特許協力条約2条(xi))

国際出願は,「特許協 力条約に基づ く規則」 ( 以下 「PC T 規則 」 と

いう 。) の定めるところにより願書に優 先権主張等を記載 することに よ

って,優先権を主 張する申立 てを伴うこ とができる(特許 協力条約8 条

(1),PCT規則4.10)。




4
エ 上記ウの規定に基づいて申し立てられた優先権主張の条件及び効果は,

「工業所有権の保 護に関する パリ条約の ストックホルム改 正条約」 ( 以

下 「 パリ 条約 」 という 。 ) 4条の定めるところによる(特許 協力条約 8

条(2)(a))。

優先権は,発明の構成部分で当該優先権の主張に係るものが最初の出願

において請求の範囲内のものとして記載されていないことを理由としては

否認されない。ただし,最初の出願に係る出願書類の全体により当該構成

部分が明らかにされている場合に限る。(パリ条約4条H)

2 争点及び争点に対する当事者の主張

(争点)

優先権主張が実体上無効であれば,国内書面提出期間の起算日は国際出願

出願日に繰り下がるか。

(原告の主張)

(1) 特許協力条約8条(2)(a)は,優先権主張の条件及び効果はパリ条約

条の定めるところによる,と規定しており,パリ条約4条Hは,最初の出願

に係る出願書類の全体により発明の構成部分が明らかにされていなければな

らない旨を規定する。すなわち,特許協力条約8条(2)(a)は,優先権主張

が満足させるべき実体的要件を規定していると解すべきである。したがって,

同条約8条に基づく優先権主張は,同条(1)に基づく形式的な要件とともに,

同条(2)(a)の規定に基づく実体的な要件をも満たすものでなければならな

い。

(2) 本件優先権が無効であること

本件国際出願優先権 ( 以下 「 本件優先権 」 という 。) を主張した本件

請求項1の構成要件は,以下のとおりである。

「物質にフラッシュX線を照射するための装置であって,

a 電子源とアノードから構成されるフラッシュX線源と;




5
b 前記電子源は,電極放射表面を有する電界放射型冷陰極と,前記カソー

ドから前記アノードへの電子流を制御するためのグリッドとを有すること

を特徴とし;前記グリッドをバイアスするための電気接続であって,前記

電気接続は前記グリッドのベース全体が同じ瞬間に制御信号に応答するこ

とを確実にするために位相一致ネットワークを用いないことを特徴とする

電気接続と;

c 前記アノードは電子を受け取る主表面とX線を放射する反対側の主表面

とを有し,前記X線放射表面はレーザー照射物質を有しない照射空間内に

X線を放射することを特徴とし;

d 前記アノードの前記X線放射表面は直交する方向の第1と第2の寸法を

有し前記第1と第2の寸法は各々2ミリメートルより大きいことを特徴と

し;

e 前記フラッシュX線源に給電するための高電圧パルス電源であって,冷

陰極電界放射型電子管を1次スイッチング手段又は1次スイッチング兼増

幅手段として使用することを特徴とする高電圧パルス電源とを含み;

f 前記電子発生源,アノード,および高電圧パルス電源は前記照射空間内

に充分なX線放射を生成して前記空間内の物質に対して所望のレベルの放

射を実現し前記物質の状態の変化を誘導するように構成されていることを

特徴とする;

装置。」

ここで,構成要件dは,本件国際出願の国際段階における特許協力条約

9条に基づく補正で加えられたものであり,先行技術との差別化を図るため

に不可欠な要件である。

これに対し,本件仮出願においては,構成要件a〜c,e,fに該当する

事項は含まれているが,構成要件dに該当する事項は含まれていない(乙4

添付資料)。すなわち,本件仮出願は構成要件dを含まない。したがって,




6
本件仮出願全体に開示された発明と本件国際出願の特許請求の範囲に記載さ

れた発明との間に実質的な同一性がなく,パリ条約4条Hの規定に反してい

る。

以上から,本件国際出願において主張された,本件仮出願を基礎とする本

優先権主張は,特許協力条約8条(2)(a)に規定された実体的要件を

具備しておらず,よって,当該優先権主張は無効とされるべきものである。

(3) 本件優先権主張は無効であるから,本件国際出願は「特許協力条約8条

の規定による優先権主張を伴わない場合」に該当し,特許協力条約8条

( x i )(c)により,本件国際特許出願に係る優先日は本件国際出願の現

実の出願日である平成21年5月18日とされるべきであるから,この日か

ら2年6か月となる平成23年11月18日が特許法184条の4に規定さ

れる「国内書面提出期間」の末日となる。本件国内書面は,平成23年10

月25日付けで提出されているので,明らかに適法なものである。

また,これにより,特許法第184 条の4第1項に規定される2か月 の

翻訳文提出特例期間」が適用され,同期間の末日は同年12月25日にな

るところ,その前となる同年12月21日付けで本件翻訳文提出書が原告に

より提出されているので,これも明らかに適法なものである。

特許庁長官は,当該優先権主張の実体的要件を何ら考慮することなく形式

的要件の審査をもってのみ優先日を決定し,本件各却下処分をしているので,

明らかに違法であり取り消されるべきである。

D 被告の主張に対する反論

被告は,「優先日優先権主張が有効であるか否かといった実体審査の結

果に左右されるものではない」と主張するが,以下のとおり絶対的なもので

はない。

特許協力条約2条(xi)には,確かに「期間の計算上」という文言が

含まれている。しかし,優先日を定めるための優先権の主張はパリ条約




7
要件及び効果によるものであり,その要件及び効果に照らせば本件優先権

主張は明らかに無効である。したがって,パリ条約の趣旨に鑑みれば,本

国際出願には特許協力条約2条(xi)(a)ではなく(c)が適用さ

れるべきなのである。そうでなければ,パリ条約19条の特別取極として

制定された特許協力条約が,工業所有権の保護というパリ条約に基づく利

益を縮減すること になり,明 らかにパリ 条約の趣旨に反す ることにな る

特許協力条約1条(2))。

被告は,統一的な優先日を定める必要があると主張するが,PCT規則

中には,優先日変更に関わる規定が多数存在するから(例えば,PCT規

則26の2.1(a)(c),26の2.2(b),90の2.3など),

被告の主張には理由がない。

特許協力条約2条(I@)における優先権主張の要件及び効果について,

「期間の計算上」という文言を絶対視して,その有効無効を判断しないと

すれば,本来であればパリ条約上の優先権パリ条約4条F後段)を発生

させることが可能な構成部分が存在するのに,特許協力条約若しくは国内

法令上の文言に過度に拘泥し処理の便宜の名のもとにその利益を連座的に

消滅させてしまうことになる。これは明らかなパリ条約違反といわざるを

得ない。

特許協力条約11条(3)と特許法26条の規定により,国際出願日の

認められた国際出願は当然に国内特許出願としての効果を生じ,特許法1

84条の4第1項翻訳文の有無は,外国語特許出願に発生する正規の国

内特許出願としての効果に何ら影響を与えるものではない。したがって,

国際特許出願は,特許法36条に基づいて出願された純粋な国内特許出願

と異なった扱いを受けることは許されず,同等に扱われなければならない。

国内特許出願の優先権主張の基礎とする出願がパリ条約の要件に該当し

ない場合には,その出願に基づく優先権主張が無効とされ現実の出願日を




8
基準にして特許要件が判断されるにすぎず,その出願自体が無効ないし却

下されるわけではない。それゆえ,その出願を原出願とする分割により新

たな特許出願とすること(特許法44条1項)や,実用新案登録出願若し

くは意匠登録出願変更すること(実用新案法10条1項,意匠法13条

1項)ができる。分割に係る新たな特許出願は,原出願の明細書の特許請

求の範囲に記載された事項に限られるものではなく,明細書や図面に記載

されている事項についてもすることができるとされている。また,分割の

実体要件として,原出願の分割直前の明細書,特許請求の範囲又は図面に

記載された発明の全部を分割出願に係る発明としたものでないことであれ

ば足り,優先権主張の基礎とした出願に含まれていなかった構成部分であ

っても,新たな特許出願の対象とすることが適法に行われているところで

ある。

しかしながら,国際特許出願に伴う優先権の主張が無効である場合に,

特許法184条の4第3項の規定により一律に当該国際特許出願を取下擬

制してしまうと,分割による新たな出願や変更出願を行う余地をなくして

しまうことになる。これは,明らかに国内特許出願とは異なる取り扱いで

あり,パリ条約に違反する。

本件国際出願によって初めて開示された構成部分dは,本件優先権の主

張とは全く関係がない。そうすると,構成部分dは本件優先権とは無関係

に保護されなければならないはずであり(パリ条約4条F),構成部分d

に関しては,本件国際出願日が優先日とされるべきなのである。

しかるに,本件優先権主張を基礎とする「優先日」を絶対視して期限内

に国内書面と翻訳文が提出されていないとして本件国際特許出願の取下擬

制がされた結果,構成部分dまでもが保護されないことになった。これは,

明らかにパリ条約4条Fの規定に違反する処分である。

特許協力条約23条(1)は,指定官庁が,同条約22条に規定する国




9
際出願の国内書面提出期間の満了前に,当該国際出願について実体審査を

行うことを禁じているが,同条(2)は,前項の規定にかかわらず,出願

人の「明示の請求」により,国際出願の実体審査をいつでも行うことがで

きるとしている。

特許協力条約23条(2)にいう「明示の請求」は,出願審査請求に限

定されるものではなく,強いて言えば,国内書面の提出及び国内手数料の

支払いが「明示の請求」に該当するものと解すべきである。出願人は,国

内書面の提出及び国内手数料の支払いを完了しているので,速やかに優先

権の有効性を判断すべきである。

特許協力条約23条(2)が裁量規程であるとしても,出願人保護に反

しない限りに裁量の範囲は限定されていると解すべきである。したがって,

出願人の「明示の請求」を無視することは,出願人保護を目的とする特許

協力条約の目的に反する行為であり許されない。

(被告の主張)

(1) 優先日は,特許協力条約の各規定に定める手続期間において,期間の計

算のためにのみ定義されたものであることが明らかであって,優先権の主張

が有効であるか否かといった指定官庁における国際出願に係る実体審査の結

果に左右されるものではない。このことは,特許協力条約23条の規定から

も,特許法184条の17の規定からも明らかである。

優先日は国際段階において統一的に確定される必要があり,各国における

各国際特許出願の内容によって優先日が左右されることにつながりかねない

原告の主張は,優先日の趣旨を没却するものであり,失当である。

原告が主張するように,優先日が特定の場合において変動することはある

ものの,一の国際出願優先日は全ての国において同一であって,統一的に

優先日が定められていることに変わりはない。

(2) 原告は,本件仮出願(出願日平成20年5月16日)の優先権を主張し




10
て本件国際出願をし,本件国際出願は本件国際特許出願とみなされた。

特許協力条約に基づく国際出願が,同条約8条の規定による優先権の主張

を伴う場合には,その優先権主張の基礎となる出願の日が優先日となること

から,本件国際特許出願の優先日は,本件仮出願の出願日である平成20年

5月16日となる。

その国内書面提出期間は,優先日から2年6か月の満了日である平成22

年11月16日までとなる(特許法184条の4第1項)。

原告は,国内書面提出期間である平成22年11月16日までに翻訳文

提出しなかったのであるから,本件国際特許出願は取り下げられたものとみ

なされる(特許法184条の4第3項)。

そうすると,原告が平成23年10月25日に提出した本件国内書面は,

既に取り下げられたものとみなされ,我が国の特許庁に係属していない外国

語特許出願について提出されたことになるから,本件国内書面の提出に係る

手続は,不適法なものであって,その補正をすることができないものである

といわざるを得ず,却下を免れない(特許法18条の2第1項)。

したがって,特許庁長官が行った本件国内書面却下処分は適法なものであ

る。

(3) 原告が平成23年12月21日に提出した本件翻訳文提出書は,本件国

際特許出願の国内書面提出期間である平成22年11月16日を経過して提

出されたものであるから,本件翻訳文提出書に係る手続は,不適法なもので

あって,その補正をすることができないものであり,却下を免れない(特許

18条の2第1項)。

したがって,特許庁長官が行った本件翻訳文提出書却下処分は,適法なも

のである。

第3 当裁判所の判断

1 原告は,特許法184条の4第1項により国内書面提出期間の起算日となる




11
べき優先日とは実体法上有効な優先権主張を伴う優先日をいい,優先権主張が

実体法上無効であれば,国内書面提出期間の起算日は現実の出願日から起算さ

れるべきであると主張し,その根拠として,パリ条約4条Hを引用する特許協

力条約8条(2)(a)の規定を挙げる。

しかし,特許法184条の4第1項特許協力条約2条(xi)にいう「優

先日」とは,期間の計算のためにのみ定義されたものであり,国際出願が特許

協力条約8条の規定による優先権の主張を伴う場合には,その優先権の主張の

基礎となる出願の日をいい,当該優先権の主張が有効であるか否かといった,

指定官庁における国際出願の実体審査の結果によって左右される性質のもので

はないと解するのが相当である。

このことは,特許協力条約23条(1)が,指定官庁が同条約22条に規定

する国際出願翻訳文提出期間の満了前に当該国際出願について実体審査を行

うことを禁じていることや,特許法184条の17が,外国語特許出願につい

ては,同法184条の4第1項の規定による翻訳文提出手続をした後でなけれ

ば,出願審査の請求(同法48条の3)をすることができないと規定し,特許

庁における実体審査を開始する条件として,同法所定の期間内に翻訳文提出

続を完了させることを要求していることからも明らかである。

特許協力条約8条(2)(a)の規定は,期間の計算に影響を及ぼすような規定

とは解されない。

また,原告は,特許協力条約11条(3)と特許法26条の規定により,国際

出願は当然に国内特許出願としての効果を生じ,特許法184条の4第1項

翻訳文の有無は,外国語特許出願に発生する正規の国内特許出願としての効果

に何ら影響を与えるものではないと主張する。しかし,特許協力条約11条

(3)は,国際出願日から各指定国における正規の国内出願の効果を有するもの

とし,国際出願日を,各指定国における実際の出願日とみなすとしているにす

ぎない。同条項は,正規の国内出願と認められた後の国内における手続及びそ




12
の効果まで規制するものではなく,特許法184条の4第1項の規定の適用を

排除するものとは解されないから,原告の主張には理由がない。

さらに,原告は,特許協力条約23条(2)にいう「明示の請求」は,出願審

査請求に限定されるものではなく,国内書面の提出及び国内手数料の支払いが,

「明示の請求」に該当すると主張する。しかし,特許協力条約23条(2)は,

その文言から,翻訳文提出期間の満了前であっても,明示の請求があれば,指

定官庁の裁量により国際出願の処理又は審査ができるとしたにすぎないもので

あって,処理及び審査をすることが指定官庁の義務となるものではない。特許

184条の17は,国内書面提出期間の経過後でなければ,国際特許出願に

ついての出願審査請求をすることができないとしているのであって,原告の主

張には理由がない。

2 以上によれば,原告は,平成21年5月18日,米国特許商標庁に対し,本

優先権主張を伴う本件国際出願をしていたのであるから,本件国際出願

特許協力条約8条の規定による優先権の主張を伴う場合」に該当し,その優

先日は,本件優先権主張の基礎となる本件仮出願の出願日である平成20年5

月16日となる(特許協力条約2条(xi)(a))。

本件国際出願は,指定国に日本国を含むものであったから,日本国において,

特許法184条の3第1項の規定により,本件国際出願の日にされた外国語に

よる特許出願とみなされ(本件国際特許出願),その国内書面提出期間は,優

先日である平成20年5月16日から,その2年6か月後である平成22年1

1月16日までであった(特許法184条の4第1項)。

原告は,上記国内書面提出期間内に翻訳文を提出しなかったのであるから,

本件国際特許出願は取り下げられたものとみなされる(特許法184条の4

3項)。

3 そうすると,原告が平成23年10月25日に提出した本件国内書面,平成

23年12月21日に提出した本件翻訳文提出書は,既に取り下げられたもの




13
とみなされ,我が国の特許庁に係属していない外国語特許出願について提出さ

れた不適法なものであるから,特許庁長官がそれらを却下した本件各却下処分

はいずれも適法である。

4 結論

よって,原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし,原告は遠

隔の地に住所を有することから,民事訴訟法96条2項に基づき同法285条

の控訴期間に30日の付加期間を定めて,主文のとおり判決する。



東京地方裁判所民事第29部




裁判官



西 村 康 夫




裁判官



森 川 さ つ き




裁判長裁判官大須賀滋は,転補のため署名押印することができない。



裁判官




14
西 村 康 夫




15

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