• この表をプリントする
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 無効2002-35386
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成13行ケ219審決取消請求事件 判例 特許
平成15行ケ116審決取消請求事件 判例 特許
平成12行ケ81審決取消請求事件 判例 特許
平成15行ケ548審決取消請求事件 判例 特許
平成17行ケ10058審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 物の発明 /  方法の発明 /  製造方法 /  容易に実施 /  先行技術 /  発明の詳細な説明 /  明細書の記載要件 /  参酌 /  実施 /  設定登録 /  請求の範囲 /  釈明 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙1PDFを見る pdf
事件 平成 15年 (行ケ) 247号 審決取消請求事件
原告 竹下産業株式会社
訴訟代理人弁理士 松尾 憲一郎
同 内野美洋
被告 株式会社大坪鉄工
訴訟代理人弁理士 高松利行
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/07/22
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が無効2002-35386号事件について平成15年5月7日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実等
1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「海苔製造方法」とする特許第1761837号の特許(昭和60年5月11日に出願された特願昭60-100012号の一部を平成元年1月26日に新たな特許出願としたもの(以下「本件出願」という。),平成5年5月28日設定登録。以下「本件特許」という。請求項の数は1である。)の特許権者である。
被告は,平成14年9月11日,本件特許を無効にすることについて審判を請求した。
特許庁は,この請求を無効2002-35386号事件として審理した。原告は,この審理の過程で,本件出願の願書に添付した明細書(以下,この明細書と図面を併せて,「本件明細書」という。)の訂正(以下「本件訂正」という。)の請求をした。特許庁は,審理の結果,平成15年5月7日,本件訂正を認めないとした上で,「特許第1761837号発明の特許を無効とする。」との審決をし,審決の謄本を同年5月17日に原告に送達した。
2 特許請求の範囲 「1 搬送チエーン1の進行方向に沿って前後に配設した複数個の抄き機構13で,複数個の簀枠に同時に抄き作動を行い,このように同時に抄き作動された前後の複数個の簀枠9を乾燥室に搬入するに際して,前後の抄き機構13の複数個の数と同じ回数だけ乾燥室チエーン7を間欠搬送作動させることにより,複数個の簀枠9を乾燥室に一枠毎に搬入するようにしたことを特徴とした海苔製造方法。」(以下,この発明を,審決と同様に,「本件発明」という。別紙図面A参照) 3 審決の理由 別紙審決書写しのとおりである。要するに,本件訂正は,不明瞭な技術的事項を明細書に挿入する訂正であり,不明りょうな記載の釈明を目的とする明細書の訂正には該当しないので,特許法(平成15年改正前のもの。以下同じ。)134条2項ただし書き3号の規定に適合せず,認められない,また,本件明細書の発明の詳細な説明に,当業者が容易に実施できる程度に本件発明の構成が記載されているということはできず,本件特許は,昭和62年改正前の特許法36条3項の規定に違反してされたものである,というものである。
原告主張の審決取消事由の要点
本件訂正が,不明瞭な技術的事項を明細書に挿入する訂正である,とした判断は誤りであり(取消事由1),また,本件明細書の発明の詳細な説明に,当業者が容易に実施できる程度に本件発明の構成が記載されていないとした判断も誤りであり(取消事由2),これらの誤りはそれぞれ審決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから,審決は違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(本件訂正についての判断の誤り) 審決は,本件訂正のうち,「明細書第9頁第15行と第16行との間(特許公報第5欄第18行と第19行との間)に,「かかる受渡し部5における受渡し部駆動機構46は,搬送チエーン1及び同搬送チエーン1と同じ間欠搬送作動を行う上下乾燥室チエーン7’,7”と同期作動の押し上げローラー20及び受渡中の簀枠9を下方から支持するための第1〜第4ガイド板21,22,23,24,簀枠9の折返し作動のための上下折返しガイド板25,26及び補助ガイド板27より構成されている。このようにして,抄製される海苔を一枚づつ乾燥室内に搬入する。」を挿入する。」(審決書2頁24行〜31行)との訂正事項(以下,審決と同様に「訂正事項C」という。)について,「一般に「駆動」とは,「動力を与えて動かすこと。」・・・と定義されている。この定義に従えば,訂正事項Cにおける「受渡し部駆動機構46」は,受渡し部を構成する部材に動力を与えて,これらの部材を動かす機構を意味するものと解される。」(審決書3頁3段),「少なくとも上記第1〜第4ガイド板,上下折返しガイド板及び補助ガイド板は,主モーターからの動力が伝達され,該動力により動く部材,すなわち,受渡し部駆動機構46を構成する部材ではない。」(同3頁下から2段)と述べ,「訂正事項Cにおける「………受渡し部駆動機構46は,………………押し上げローラー20……………第1〜第4ガイド板21,22,23,24,……………上下折返しガイド板25,26及び補助ガイド板27より構成されている。」は,技術的に不明瞭な記載であるということになり,このような不明瞭な技術的事項を明細書に挿入する訂正は,不明りょうな記載の釈明を目的とする明細書の訂正には該当しない。」(審決書3頁下から4行〜4頁2行)と判断した。しかし,審決のこの判断は誤りである。
「駆動機構」の「機構」とは,「@機械の内部の構造。からくり。A機械的に構成されているしくみ。官庁・会社・団体などの組織。活動単位としての組織。
メカニズム。」との意味であり,「駆動機構」といった場合には,動力を与えて動かす部材だけからなると狭義に解釈されるべきではなく,動力を与えて動かす部材を補助するための部材をも含めた全体的な構造をいうものと解釈すべきである。
そうすると,訂正事項Cにおける「受渡し部駆動機構46」とは,動力を与えて動かす部材である「搬送チエーン1」及び「搬送チエーン1と同じ間欠搬送作動を行う上下乾燥室チエーン7’,7”と同期作動の押し上げローラー20」だけではなく,それを補助する「第1〜第4ガイド板21,22,23,24」,「上下折返しガイド板25,26」,及び「補助ガイド板27」をも含めた全体的な構造を指すと解釈され,全体的に見れば受渡し部の駆動を円滑に行うための部材であると解釈すべきである。訂正事項Cの内容が技術的に不明りょうな記載である,との審決の判断は誤りである。
2 取消事由2(本件明細書の記載要件についての判断の誤り) 審決は,次のとおり判断した。
「(イ) 特許請求の範囲の記載によれば,同時に抄き作動された前後の複数個の簀枠9を乾燥室に搬入するに際して,前後の抄き機構13の複数個の数と同じ回数だけ乾燥室チエーン7を間欠搬送作動させることにより,複数個の簀枠9を乾燥室に一枠毎に搬入するようにしたことを特徴とする海苔製造方法であると認められる。」(審決書5頁3段) 「(ニ) 以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明及び図面に示されているのは,上下乾燥室チエーン7’,7”が2回作動する間に搬送チエーン1は,2組の間欠駆動機構のそれぞれにより,1回ずつ合計2回,第5図のタイミングチャートに示すタイミングで作動するという構成のものであるということができる。
ところが,本件明細書の発明の詳細な説明及び図面によれば,「かかる内外ラチェット車49,50とラチェット爪53及びコンロッド48と回動クランク47の間欠駆動機構43は,もう一組1ピッチの位相差をもって配設されており,両方の間欠駆動機構43の作動を合成することによって間欠作動を確実なものとし,第5図のタイミングチャートに示すタイミングで各部を作動させるものであり,各部の作動と時間との関係を示すものである。・・・」との記載があり,第5図においては,搬送チエーン1が1回間欠搬送作動した後に,上下乾燥室チエーン7’,7”が1回間欠作動するという作動を繰り返すというタイミングが示されているものの,それのみであり,一組の間欠駆動機構と,もう一組の間欠駆動機構とがどのように連結して,どのようにして第5図のようなタイミングの作動をするのかを示す記載は,本件明細書のどこにも見出すことができない。
そうすると,本件明細書の発明の詳細な説明に,当業者が容易に実施できる程度に本件発明の構成が記載されているということはできず,請求人の上記主張には理由がある。」(審決書6頁3段〜7頁1段) しかしながら,審決の上記認定判断は誤りである。
(1) 本件発明は,抄き機構によって同時に抄製する海苔の簀枠の列数が複数であることにその特徴を有しており,搬送チエーンから乾燥室チエーンへの受渡などについては,単に先行技術を利用したものにすぎない。したがって,本件明細書において,海苔製造装置に複数列の簀枠の抄き機構を配設すること,及び,海苔製造装置の各部がどのようなタイミングで動作するかが明確に記載されている限り,搬送チエーンから乾燥室チエーンへの受渡などについてはその説明がなくとも,当業者は,本件発明を容易に実施することができるものである。
本件明細書の発明の詳細な説明には,「内外ラチエツト車49,50とラチエツト爪53及びコンロツド48と回動クランク47の間欠駆動機構43は,もう一組1ピツチの位相差をもつて配設されており,両方の間欠駆動機構43の作動を合成することによって間欠作動を確実なものと」(甲第2号証3頁6欄1行〜6行)すること,「上記の搬送チエーン1,上下乾燥室チエーン7,7’及び各部の作動は,すべて一基の主モータ36からの動力を後述の各種連動機構を介して伝達することによつて行われるものであ」(同2頁4欄末行〜3頁5欄3行)ること,「第5図のタイミングチヤートに示すタイミングで各部を作動させるものであり,各部の作動と時間との関係をしめすものである」(同3頁6欄6行〜9行)こと,及び,本件明細書の第5図が,「各部作動タイミングチヤート」(同3頁6欄33行)であることが記載されている。
このように,本件明細書の発明の詳細な説明には,1ピッチの位相差を有する2組の間欠駆動機構を合成することによって,搬送チエーンの間欠作動を確実なものとすること,及び,各部の作動タイミングが明記されていることから,当業者であれば,公知汎用技術である搬送チエーンから乾燥室チエーンへの簀枠の受渡機構を適用することによって,一基の主モータで搬送チエーンや乾燥室チエーンを作動するとの本件発明の構成を実施することができるのである。
(2) 本件発明は,「海苔製造方法」に係る発明であって,「海苔製造装置」に係る発明ではない。一般に,物の発明の場合には,当業者がその物を製造することができる程度にその物の具体的な構造について明細書で説明する必要を生じるものの,方法の発明の場合には,その方法に用いられる装置の構造の詳細よりは,その方法を実施するのに必要な時系列的なタイミング等を説明する必要が生じるのである。方法の発明としては,本件明細書の記載で十分である。
(3) 本件明細書に記載した海苔製造装置の作動を,回動クランクとコンロッドと揺動クランクの作動を説明する連結構造図(甲第26号証,以下「別紙図面B」という。),第5図に示すタイミングチャートと内外ラチエツト車の作動状態との対応関係を説明する説明図(甲第28号証,以下「別紙図面C」という。)を用いて説明すれば,次のとおりである。
(ア) 別紙図面Bから明らかなとおり,本件発明では,主モーター36の回動に伴って,回動クランク47が回動するとともに,コンロッド48が左右往復運動し,揺動クランク52が前後揺動するように構成しており,回動クランクが時計回りに約150度回動した場合に,揺動クランク52が時計回りに約60度揺動し,その後,回動クランク47が時計回りに約210度回動した場合に,揺動クランク52が反時計回りに約60度揺動する。
そして,揺動クランク52が直立した状態においては,揺動クランク52に枢着したラチエツト爪53は,本件明細書の第2図に示すように内ラチエツト車49の深係合歯54に係合しており,その後主モーター36の回動に伴って内外ラチエツト車49,50が間欠的に回動する。このうち,最も重要な点は,外ラチエツト車50が回動して搬送チエーン1が1ピッチ分だけ駆動する点である。
内ラチエツト車49は,揺動クランク52が時計回りに揺動するたびに1ピッチ分だけ回動する。しかし,ラチエツト爪53が内ラチエツト車49の浅係合歯55に係合しているときには,内ラチエツト車49のみが回動し,外ラチエツト車50は回動せず,一方,ラチエツト爪53が内ラチエツト車49の深係合歯54に係合しているときには,内外ラチエツト車49,50双方が1ピッチ分だけ回動する。
以上の作動及び駆動は,まず一組目の間欠駆動機構によって実現される。
(イ) 本件明細書には,更にもう一組の間欠駆動機構43が存在することが明記されている。すなわち,本件発明は,二組目の間欠駆動機構43を1ピッチだけ位相をずらして設けることで,第5図のタイミングを実現している。
別紙図面Cは,本件明細書の第5図に示すタイミングチャートと,内外ラチエツト車との作動状態との対応関係を示す説明図である。同図において,一組目の間欠駆動機構が符号A→B→C→Dの状態へと順に変化するときに,二組目の間欠駆動機構は,d→a→b→cへと順に変化し,かかる二組目の間欠駆動機構でも,一組目の間欠駆動機構と同様に,aの状態からbの状態に変化する際のみに外ラチエツト車50が回動し,それに連動して搬送チエーン1が1ピッチ分だけ駆動する。要するに,一組目の間欠駆動機構と二組目の間欠駆動機構とは,回動クランク47を符号A→B,符号a→bに1ピッチ位相差で変位作動させるときに初めて搬送チエーン1を1ピッチずらして間欠駆動するのである。このように,二組の間欠駆動機構43を1ピッチ分だけ位相をずらして設け,それらの作動を合成することによって,別紙図面Cに示すように,本件明細書の第5図に示すタイミングで搬送チエーン1を駆動しているのである。
これに対して,上下乾燥室チエーン7’,7”は,本件明細書の第5図に示すように,上述した二組の間欠駆動機構43による搬送チエーン1の駆動が停止しているときに駆動するようにしており,主モーター36の回動にともなって定期的に,具体的には,主モーター36が1回転すると同時に1回だけ上下乾燥室チエーン7’,7”を駆動するようにしている。このような簡単なタイミングでの作動は,従来の海苔製造装置において広く実施されている機構と全く同様であるため,主モーター36と上下乾燥室チエーン7’,7”との間に設けた連動機構を適宜設計することで,当業者であれば容易に実現できるものである。
(ウ) 以上のとおり,本件発明においては,内外ラチエツト車49,50を設けた二組の間欠駆動機構43を1ピッチ位相差をもって配設したことによって,本件明細書の第5図に示すタイミングを実現することができるのである。内ラチエツト車49は,ラチエツト爪53が2往復する間に外ラチエツト車50を1回だけ駆動するために設けられたものなのである。
しかも,本件明細書の第1図から明らかなように,間欠駆動機構43は搬送チエーンに連結駆動しているものの,上下乾燥室チエーン7’,7”とは連動連結されていないことは明らかである。かかる上下乾燥室チエーン7’,7”は,本件明細書の第5図から明らかなように,二組の間欠駆動機構43による搬送チエーン1の駆動が停止しているときに,二組の間欠駆動機構43とは全く無関係の連動機構(主モーター36から連動される当業者に周知の連動機構)によって駆動されるのである。すなわち,上下乾燥室チエーン7’,7”の作動は,主モーター36を1回転させると同時に,上下乾燥室チエーン7’,7”を1回だけ駆動するといった簡単なタイミングでの作動であって,従来の海苔製造装置において広く実施されている機構と全く同様であるため,主モーター36と上下乾燥室チエーン7’,7”との間に設けた連動機構を適宜設計することで当業者であれば容易に実現できるものであり,ことさら本件明細書に記載されていなくても当業者が容易に実施できる事項である。
本件明細書における発明の詳細な説明は,当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているというべきである。
(4) 審決は,「しかしながら,被請求人の提出した乙第1ないし5号証の記載を参酌しても,被請求人主張のように適宜の伝動機構を用いることにより第5図のようなタイミングの作動を実現することが,当業者にとって容易であると認めることはできない」(審決書7頁3段)と判断している。
しかしながら,被告による特許出願に係る特許公報である特公昭54-25111号公報(以下「甲9公報」という。)及び特開昭55-150885号公報(以下「甲7公報」という。)では,いずれも特許請求の範囲に「・・・上記各装置3,4,5,6,13を上記コンベヤー2に連動させてなる自動海苔抄機。」(甲9公報)及び「・・・上記各装置3,4,5,6,13を上記コンベヤー2に連動させ・・・てなる自動海苔抄機。」(甲7公報)と記載しておきながら,その発明の詳細な説明の欄では「コンベヤー2を間歇回動させるものである。そして上記簀供給装置5,海苔抄着簀供給装置13,自動海苔乾燥装置6,海苔抄製装置3および脱水装置4はコンベヤー駆動軸16と連動して間歇的に動作させることができる。」(甲9公報3欄22行〜27行,甲7公報4欄19行〜5欄4行)と記載するだけであり,また,その図面にもコンベヤー2と自動海苔乾燥装置6などとを連動させる機構が図示されていない。
このように,甲9公報及び甲7公報には,一基のモーター14(本件発明の主モータ36に相当する。)を用いてコンベヤー2(本件発明の搬送チエーンに相当する。)と自動海苔乾燥装置6(本件発明の乾燥室チエーンを有する乾燥室に相当する。)などとを所定のタイミングで連動させるための具体的な機構について,全く記載されておらず,また,図示もされていない。
これは,まさしく,一基のモータを用いて搬送チエーンと乾燥室チエーンなどの各部とを所定のタイミングで連動させるための具体的な機構が,明細書に記載するまでもなく,被告を含む当業者にとって自明の機構であり,本件出願前から当業者であれば容易に実施し得る機構であるからにほかならない。
以上のように,一基のモータを用いて搬送チエーンと乾燥室チエーンなどの各部とを所定のタイミングで連動させるための機構は,当業者にとって自明の機構であるから,審決の上記判断は誤りである。
被告の反論の骨子
審決に,原告主張の誤りはない。
1 取消事由1(本件訂正についての判断の誤り)について 原告の主張は争う。
2 取消事由2(本件明細書の記載要件についての判断の誤り)について 本件発明において,搬送チエーン1の作動と乾燥室チエーンの作動との関連付けは,特許請求の範囲で本件発明の構成要素とされている重要な技術事項である。しかしながら,本件明細書の発明の詳細な説明や図面には,上記作動を裏付ける記載は全くない。すなわち,本件明細書の第5図においては,搬送チエーン1が1回間欠搬送作動した後に,上下乾燥室チエーン7’,7”が1回間欠作動するという作動を繰り返すというタイミングが示されているものの,それのみであり,一組の間欠駆動機構と,もう一組の間欠駆動機構とがどのように連結して,どのようにして第5図のようなタイミングの作動をするのかを示す記載は,本件明細書のどこにも見出すことができない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(本件訂正についての判断の誤り)について 本件訂正のうち,訂正事項Cは,「明細書第9頁第15行と第16行との間(特許公報第5欄第18行と第19行との間)に,「かかる受渡し部5における受渡し部駆動機構46は,搬送チエーン1及び同搬送チエーン1と同じ間欠搬送作動を行う上下乾燥室チエーン7’,7”と同期作動の押し上げローラー20及び受渡中の簀枠9を下方から支持するための第1〜第4ガイド板21,22,23,24,簀枠9の折返し作動のための上下折返しガイド板25,26及び補助ガイド板27より構成されている。このようにして,抄製される海苔を一枚づつ乾燥室内に搬入する。」を挿入する。」(審決書2頁24行〜31行)というものである。
本件明細書において,「受渡し部駆動機構46」についての記載は,上記挿入箇所の直前に,「また第5チエーン41の左端から左方に延出した第8チエーン45を介して受渡し部駆動機構46に動力を伝達している。」との記載があるだけであり,この記載と第1図を総合すれば,受渡し部駆動機構46には,主モータからの駆動力が第5チエーン41及び第8チエーン45を介して伝えられるものであることが理解できるに留まり,この受渡し部駆動機構46が,訂正事項Cがいうように,「受渡中の簀枠9を下方から支持するための第1〜第4ガイド板21,22,23,24,簀枠9の折返し作動のための上下折返しガイド板25,26及び補助ガイド板27より構成されている」ものも含むものとして,本件出願当初の明細書に記載されていたものと認めることはできない。
また,この点はさておくとしても,「駆動」とは,「動力を与えて動かすこと。」(広辞苑第5版)と定義されていることからすれば,本件発明の「受渡し部駆動機構46」とは,受渡し部を構成する部材に動力を与えて,これらの部材を動かす機構を意味する,と解すべきである。したがって,本件発明の「受渡し部駆動機構46」に,第1ないし第4ガイド板21ないし24,上下折返しガイド板25,26及び補助ガイド板27のように,受渡し部を構成する部材であるものの,受渡し部を構成する部材に動力を与えて,これらの部材を動かす部材とはいえないものを含ませることは,「受渡し部駆動機構」との文言の合理的な解釈と合致するとはいえないというべきである。原告が主張するように,「駆動機構」といった場合には,動力を与えて動かす部材を補助するための部材をも含めた全体的な構造をいうものと解釈するとしても,「受渡し部駆動機構46」による駆動の対象となるような部材を「受渡し部駆動機構46」に含ませることができないことは明らかであり,訂正事項Cは特許法134条2項ただし書き3項の「明りょうでない記載の釈明」には当たらないというべきである。
本件訂正を認めなかった審決の判断に誤りはない。
2 取消事由2(本件明細書の記載要件についての判断の誤り)について (1) 審決は,本件明細書の「第5図においては,搬送チエーン1が1回間欠搬送作動した後に,上下乾燥室チエーン7’,7”が1回間欠作動するという作動を繰り返すというタイミングが示されているものの,それのみであり,一組の間欠駆動機構と,もう一組の間欠駆動機構とがどのように連結して,どのようにして第5図のようなタイミングの作動をするのかを示す記載は,本件明細書のどこにも見出すことができない。」(審決書7頁1行〜6行)として,本件明細書の発明の詳細な説明に,当業者が容易に実施することができる程度に,本件発明の構成が記載されているということはできない,と判断した。
原告は,本件明細書の発明の詳細な説明には,1ピッチの位相差を有する2組の間欠駆動機構を合成することによって,搬送チエーンの間欠作動を確実なものとすること,及び,その第5図に各部の作動タイミングが明記されていることから,当業者であれば,公知汎用技術である搬送チエーンから乾燥室チエーンへの簀枠の受渡機構を適用することによって,一基の主モータで搬送チエーンや乾燥室チエーンを作動するとの本件発明の構成を実施することができる,と主張する。
しかし,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明の実施例について,次のような説明しかないのである(甲第2号証)。
「上記の搬送チエーン1,上下乾燥室チエーン7,7’及び各部の作動は,すべて一基の主モータ36からの動力を後述の各種連動機構を介して伝達することによつて行われるものであり」(同2頁4欄末行〜3頁5欄3行),「上記連動機構のうち,特に,間欠駆動機構43は,第5チエーン41の左端に連結した回動クランク47にてコンロツド48を左右往復作動させ,同コンロツド48にて・・・揺動クランク52を前後揺動せしめ同クランク52に枢着したラチエツト爪53と各ラチエツト車49,50の係合歯との係合を介して第7チエーン44に間欠回動作動を行わしめるものであり,特に上下乾燥室チエーン7’,7”と連動連結した内ラチエツト車49の外形は外ラチエツト車50の外形よりもひとまわり大きくしてあり,内ラチエツト車49の係合歯の切込みは,深浅係合歯54,55が交互に切込まれてするため,ラチエツト爪53が浅係合歯55に係合したときは搬送チエーン1と連動連結した外ラチエツト車50は駆動されず内ラチエツト車49のみ1ピツチ送り作動をし(第3図),ラチエツト爪53が深係合歯54と係合したときは,内外ラチエツト車49,50双方の係合歯に同爪53が係合して同車49,50は同時に1ピツチ送り作動するものである。(第4図)(判決注・第2図の誤り。)。従つて,搬送チエーン1は上下乾燥室チエーン7’,7”が2回作動する間に1回作動する。かかる内外ラチエツト車49,50とラチエツト爪53及びコンロツド48と回動クランク47の間欠駆動機構43は,もう一組1ピツチの位相差をもつて配設されており,両方の間欠駆動機構43の作動を合成することによつて間欠作動を確実なものとし,第5図のタイミングチヤートに示すタイミングで各部を作動させるものであり,各部の作動と時間との関係をしめすものである。」(同3頁5欄19行〜6欄9行)すなわち,上記の記載によれば,上下乾燥室チエーン7’,7”と連動連結した内ラチエツト車49が2回回動する間に,搬送チエーン1と連動連結した外ラチエツト車50が1回回動することになるものである。しかし,本件明細書の第5図のタイミングチヤートに示されるように,a(搬送チエーン)が2回作動するときに,b(上下乾燥室チエーン7’,7”)も,これに続いて2回作動することが示されており,第5図のタイミングチヤートと本件明細書の上記記載とは明らかに矛盾するのである。間欠駆動機構43が,もう一組1ピッチの位相差をもって配設されていることを考慮しても,第5図のタイミングチヤートは,「搬送チエーン1は上下乾燥室チエーン7’,7”が2回作動する間に1回作動する」との本件明細書の上記記載と矛盾するのであり,同図のタイミングチヤートの作動を示す記載は,本件明細書の発明の詳細な説明のどこにも見いだすことはできない。
(2) 原告は,本件発明は,「海苔製造方法」に係る発明であって,「海苔製造装置」に係る発明ではないから,その方法に用いられる装置の構造の詳細よりは,その方法を実施するのに必要な時系列的なタイミング等を説明する必要が生じるのであり,方法の発明としては,本件明細書の記載で十分である,と主張する。
しかし,本件発明は,海苔を製造する方法の発明であるから,本件明細書に記載された製法により,当業者が海苔を製造することができなければならないことは当然である。本件明細書は,上記のとおり,第5図に示されたタイミングチヤートと発明の詳細な説明に記載された内容に明らかな矛盾があり,発明の詳細な説明に記載された装置では,第5図のタイミングチヤートに示されたとおりにこれを実施することはできないのであるから,本件明細書には,当業者が容易に実施することができる程度に,「海苔製造方法」である本件発明の構成が記載されていないというべきである。
(3) 原告は,別紙図面B及びCを用いて,本件明細書の第5図のタイミングチヤートの作動をすることが可能であると説明し,本件明細書の発明の詳細な説明には,当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されている,と主張する。
しかし,別紙図面B及びCは,別紙図面Cの下段の図が,本件明細書の第5図と一致する以外,本件明細書に記載されていない事項を記載したものであり,これらの図面に記載された事項に基づく原告の主張は,本件明細書に記載された事項に基づく主張とは認められない。また,原告が別紙図面B及びCを用いてなした本件発明についての説明は,本件明細書の発明の詳細な説明と明らかに矛盾する内容を含むものであり,原告がこのような説明をしなければ本件発明の内容を明らかにし得ないということは,逆に,本件明細書には,当業者が本件発明を容易に実施することができるように明確かつ十分に記載されていないことを示すものである。
すなわち,本件明細書の内容と原告の説明とが矛盾している部分は次のとおりである。本件明細書の発明の詳細な説明においては,上記のとおり,「特に上下乾燥室チエーン7’,7”と連動連結した内ラチエツト車49」(3頁5欄27行〜29行),「搬送チエーン1と連動連結した外ラチエツト車50」(5欄33行〜34行)等と記載され,外ラチエツト車50と連動連結している搬送チエーン1が1回作動する間に,内ラチエツト車49と連動連結している上下乾燥室チエーン7’,7”が2回作動することが明記されているのに対して,原告は,「上下乾燥室チエーン7’,7”は,明細書に添付の第5図から明らかなように,二組の間欠駆動機構43による搬送チエーン1の駆動が停止しているときに二組の間欠駆動機構43とは全く無関係の連動機構(主モーター36から連動される当業者に周知の連動機構)によって駆動されるのである。そして,上下乾燥室チエーン7’,7”の作動は,主モーター36を1回転させると同時に上下乾燥室チエーン7’,7”を1回だけ駆動するといった簡単なタイミングでの作動であって,従来の海苔製造装置において広く実施されている機構と全く同様である」と説明している(原告の準備書面(4)7頁)。原告のこの説明は,上下乾燥室チエーン7’,7”が内ラチエツト車49と連動連結しているものでなく,主モータから連動される周知の機構により主モータと同じ回数だけ作動するとする点で,明らかに,本件明細書の上記記載と相矛盾する内容となっているものである。また,本件明細書では,第5図のbは,内ラチエツト車49と連動連結した「上下乾燥室チエーン7’,7”」(甲2号証3頁6欄11行)の作動タイミングを示すものとして記載されているのに対し,原告の上記説明によれば,第5図のbは,主モータと同時に回動する乾燥室チエーン7’,7”の作動タイミングを示すものである,というのであり,この説明も,本件明細書の記載と明らかに矛盾するものである。
以上からすれば,本件明細書の発明の詳細な説明に,当業者が容易に実施することができる程度に明確かつ十分に本件発明の構成が記載されているということができないとした審決の判断に誤りがないことは明らかである。
(4) 原告は,甲9公報及び甲7公報には,一基のモーター14(本件発明の主モータ36に相当する。)を用いてコンベヤー2(本件発明の搬送チエーンに相当する。)と自動海苔乾燥装置6(本件発明の乾燥室チエーンを有する乾燥室に相当する。)などとを所定のタイミングで連動させるための具体的な機構について,全く記載されておらず,また,図示もされていない,これは,まさしく,一基のモータを用いて搬送チエーンと乾燥室チエーンなどの各部とを所定のタイミングで連動させるための具体的な機構が,明細書に記載するまでもなく,被告を含む当業者にとって自明の機構であり,本件出願前から当業者であれば容易に実施し得る機構であるからにほかならない,と主張する。
しかし,審決は,他の特許出願である甲9公報や甲7公報に係る明細書の記載と比較して,本件明細書の記載が不備であると認定しているわけではない。審決は,本件明細書の記載自体が当業者が本件発明を容易に実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない,と判断したのである。甲9公報や甲7公報に係る明細書の記載は,本件明細書の記載が不備であるかどうかとは無関係の事柄である。他の明細書と比較した上での原告の上記主張は,その内容を検討するまでもなく理由がないことが明らかである。
結論
以上に検討したところによれば,原告の主張する取消事由はいずれも理由がなく,その他,審決には,これを取り消すべき誤りは見当たらない。
よって,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官 設樂隆一
裁判官 高瀬順久
  • この表をプリントする