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事件 平成 24年 (ワ) 9695号 債務不存在確認請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 東京地方裁判所 
判決言渡日 2014/03/25
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
判例全文
判例全文
平成26年3月25日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成24年(ワ)第9695号 債務不存在確認請求事件

口頭弁論終結日 平成26年1月28日

判 決

東京都港区〈以下略〉

原 告 Apple Japan合同会社
同 代 表 者 代 表 社 員 アップルオペレーショ

ンズインターナショナル

同訴訟 代理人弁護 士 長 沢 幸 男

矢 倉 千 栄

永 井 秀 人
稲 瀬 雄 一

石 原 尚 子

金 子 晋 輔

蔵 原 慎 一 朗
同訴訟復代理人弁護士 片 山 英 二

北 原 潤 一

岡 本 尚 美

同訴訟 代理人弁理 士 大 塚 康 徳

同 補 佐 人 弁 理 士 大 塚 康 弘
前 田 浩 次

大韓民国京畿道水原市〈以下略〉

被 告 三 星 電 子 株 式 会 社

同訴訟 代理人弁護 士 大 野 聖 二

三 村 量 一
田 中 昌 利
市 橋 智 峰
井 上 義 隆

小 林 英 了

飯 塚 暁 夫

井 上 聡

逵 本 憲 祐
岡 田 紘 明

同訴訟 代理人弁理 士 鈴 木 守

同 補 佐 人 弁 理 士 大 谷 寛

主 文

1 被告が,原告による別紙物件目録記載の各製品の生産,譲渡,貸渡
し,輸入又はその譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡若しくは貸渡しの

ための展示を含む。)につき,特許第4291328号の特許権侵害

に基づく原告に対する損害賠償請求権を有しないことを確認する。

2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

主文第1項と同旨

第2 事案の概要
本件は,原告が,原告による別紙物件目録記載の各製品(以下「本件各製品」と総称し,

それぞれの製品を「本件製品1」などという。)の生産,譲渡,輸入等の行為は,被


告が有する発明の名称を 無線通信システムにおけるアップリンクサービスのための利得

因子の設定方法」とする特許第4291328号の特許権(以下「本件特許権」とい

い,本件特許権に係る特許を「本件特許」という。)の侵害行為に当たらないなどと

主張し,被告が原告の上記行為に係る本件特許権侵害不法行為に基づく損害
賠償請求権を有しないことの確認を求めた事案である。
1 前提事実(争いのない事実,後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認

められる事実並びに当裁判所に顕著な事実)

(1) 当事者

ア 原告は,米国法人であるアップル・インコーポレイテッド(以下「アッ

プル社」という。)のパーソナル・コンピュータ,スマートフォン等の輸
入,販売を目的とする合同会社である。原告は,平成23年10月30日

に,アップル社の子会社であるアップルジャパン株式会社を吸収合併した

(以下,合併の前後を通じ,単に「原告」という。)。

イ 被告は,半導体,スマートフォン,タブレット型コンピュータ等の製

造,販売,輸入等を目的とする韓国法人である。
(2) 被告の特許権(甲1,2)

ア 被告は,平成18年1月6日に本件特許に係る出願(特願2006−

1777。優先日・平成17年1月6日,同年2月4日,優先権主張国・

韓国)をし,平成21年4月10日に本件特許権の設定登録を受けた(以
下,特許登録時の明細書及び図面を「本件明細書」という。)。

イ 本件特許の特許請求の範囲は16の請求項から成り,その請求項11及

び14の記載は次のとおりである(以下,請求項11に係る発明を「本件

発明1」,請求項14に係る発明を「本件発明2」といい,本件発明1及

び2を併せて「本件各発明」という。)。
(ア) 請求項11

「 アップリンクサービスに対応する無線通信システムの利得因子の設

方法であって,

前記アップリンクサービスのために使用可能な複数のインデックス

された伝送フォーマット(TF)を含むTF組の一部である第1のTF
についての第1の利得因子を受信するステップと,
前記TF組のうち前記第1のTFではない第2のTFのインデック
スが前記第1のTFのインデックスのうち最大のインデックス以上で

あれば,前記最大のインデックスを有する第1のTFを前記第2のTF

のための基準TFとして決めるステップと,

前記第2のTFのインデックスが前記第1のTFのインデックスの

うち最大のインデックスよりも小さく,且つ,前記第2のTFのインデ
ックスが前記第1のTFのインデックスのうちk番目のインデックス

以上であり,(k+1)番目のインデックスよりも小さければ,前記k

番目のインデックスを有する第1のTFを前記第2のTFのための前

記基準TFとして決めるステップと,

前記決められた基準TFについての前記第1の利得因子を用いて前
記第2のTFについての第2の利得因子を計算するステップと,を含み,

前記第2の利得因子は,アップリンクデータを送受信するのに用いら

れることを特徴とする前記方法。」

(イ) 請求項14
「 アップリンクサービスに対応する無線通信システムの利得因子の設

定方法であって,

前記アップリンクサービスのために使用可能な複数のインデックス

された伝送フォーマット(TF)を含むTF組の一部である第1のTF

についての第1の利得因子を受信するステップと,
前記TF組のうち前記第1のTFではない第2のTFのインデック

スが前記第1のTFのインデックスのうち最初のインデックスよりも

小さければ,前記最初のインデックスを有する第1のTFを基準TFと

して決めるステップと,

前記決められた基準TFについての前記第1の利得因子を用いて前
記第2のTFについての第2の利得因子を計算するステップと,を含み,
前記第2の利得因子は,アップリンクデータを送受信するのに用いら
れることを特徴とする前記方法。」
ウ 本件各発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,各構成要件を「構

成要件1−A」などという。)。

(ア) 本件発明1(請求項11)

1−A アップリンクサービスに対応する無線通信システムの利得
因子の設定方法であって,

1−B 前記アップリンクサービスのために使用可能な複数のイン
デックスされた伝送フォーマット(TF)を含むTF組の一部

である第1のTFについての第1の利得因子を受信するステ

ップと,
1−C1 前記TF組のうち前記第1のTFではない第2のTFのイ

ンデックスが前記第1のTFのインデックスのうち最大のイ

ンデックス以上であれば,前記最大のインデックスを有する第

1のTFを前記第2のTFのための基準TFとして決めるス
テップと,

1−C2 前記第2のTFのインデックスが前記第1のTFのインデ

ックスのうち最大のインデックスよりも小さく,且つ,前記第

2のTFのインデックスが前記第1のTFのインデックスの

うちk番目のインデックス以上であり,(k+1)番目のイン
デックスよりも小さければ,前記k番目のインデックスを有す

る第1のTFを前記第2のTFのための前記基準TFとして

決めるステップと,

1−D 前記決められた基準TFについての前記第1の利得因子を

用いて前記第2のTFについての第2の利得因子を計算する
ステップと,を含み,
1−E 前記第2の利得因子は,アップリンクデータを送受信する
のに用いられる

1−F ことを特徴とする前記方法。

(イ) 本件発明2(請求項14)

2−A アップリンクサービスに対応する無線通信システムの利得

因子の設定方法であって,
2−B 前記アップリンクサービスのために使用可能な複数のイン

デックスされた伝送フォーマット(TF)を含むTF組の一部

である第1のTFについての第1の利得因子を受信するステ

ップと,

2−C 前記TF組のうち前記第1のTFではない第2のTFのイ
ンデックスが前記第1のTFのインデックスのうち最初のイ

ンデックスよりも小さければ,前記最初のインデックスを有す

る第1のTFを基準TFとして決めるステップと,

2−D 前記決められた基準TFについての前記第1の利得因子を用
いて前記第2のTFについての第2の利得因子を計算するス

テップと,を含み,

2−E 前記第2の利得因子は,アップリンクデータを送受信する

のに用いられる

2−F ことを特徴とする前記方法。
(3) 原告の行為等

ア 原告は,平成23年から平成26年1月28日までの間,アップル社が製造した本

件各製品を輸入し,販売した。

イ 本件各製品は,第3世代携帯電話システム(3G)(Third Generatio n)

等の普及促進と付随する仕様の世界標準化を目的とする複数の団体のプ
ロジェクトである3GPP(Third Generation Partnership Project)が
策定したデータ通信規格であるUMTS(Universal Mobile Telecommunic
ations Service)システムにおいて上りリンクの通信を高速化した規格で

あるHSUPA規格(High Speed Uplink Packet Access)を採用したい

わゆる3.5Gのスマートフォンないしタブレット端末製品である(乙2,

3。以下,HSUPA規格を含む3GPPのデータ通信規格を「3GPP

規格」ということがある。)。
UMTS規格は,日本では,W−CDMA方式と称されている。

(4) 本件特許に関するFRAND宣言(甲19,20)

3GPPを結成した標準化団体の一つであるETSI(欧州電気通信標準化機

構)は,知的財産権(IPR)の取扱いに関する方針として「IPRポリシー」を定め

ている。

被告は,ETSIの会員であり,平成18年5月19日,ETSIに対し,ETSI

のIPRポリシー4.1項に従って,特許出願中の本件各発明に係る権利が,ETSI

の規格番号(3GPP TS 25.214)に関連して必須IPRであるか,又はそうなる可能性が

高い旨を知らせるとともに,ETSIのIPRポリシー6.1項に準拠する,公正,合

理的かつ非差別的な条件(以下「FRAND条件」という。)で,取消不能なライセン

スを許諾する用意がある旨の宣言(以下「本件FRAND宣言」という。)をした。

(5) 仮処分申立て

被告は,平成23年10月17日,本件各製品における上りリンクデータ送信

における利得係数の設定方法(以下「原告方法」という。ただし,その具体
的な構成については当事者間に争いがある。)は本件各発明の技術的範囲

属し,原告による本件各製品の輸入等の行為が本件特許権の間接侵害を構成する旨主

張して,特許法100条1項に基づく差止請求権を被保全権利として,原告に対し,本

件各製品の生産,譲渡,輸入等の差止め等を求める仮処分命令の申立て(東京地方

裁判所平成23年(ヨ)第22082号。以下「本件仮処分命令の申立て」という。)

をした。
2 争点及び争点に関する当事者の主張

本件の争点は,(1) 原告方法の構成及び原告方法が本件各発明の技術的範囲に属する

か(争点1),(2) 本件各製品の販売等が本件特許権の間接侵害に当たるか(特許法1

01条4号及び5号)(争点2),(3) 特許法104条の3第1項の規定により本件特

許権の権利行使が制限されるか(争点3),(4) 本件各製品について本件特許権の消尽

が認められるか(争点4),(5) 本件FRAND宣言に基づきライセンス契約が成立し

たか(争点5),(6) 被告による本件特許権に基づく損害賠償請求権の行使が権利の濫

用となるか(争点6),(7) 原告が賠償すべき被告の損害額はいくらか(争点7)であ

る。

なお,被告が原告に対し本件仮処分命令の申立てをしていること,それにもかかわらず

差止め又は損害賠償を求める本案訴訟を提起していないこと,原告が本件各製品の輸入,

販売等につき一切の損害賠償請求権を負うことはない旨主張していることに照らすと,原

告には時期及び金額を特定せずに上記損害賠償請求権の不存在の確認を求める利益があ

ると解される。

(1) 争点1(原告方法の構成及び本件各発明の技術的範囲への属否)について

(被告の主張)

ア 原告方法の構成

(ア) 本件各製品は3GPP規格に準拠しており,3GPP規格(HSU

PA規格)における上りリンクデータ送信における利得係数の設定方法

は別紙「原告方法の構成」のとおりであるから,これに準拠する原告方
法も同様であり,本件各発明との関係では次の各構成を有している(以
下,各構成を「構成1−a」などという。)。

a 本件発明1との対比における構成

1−a 原告方法は,上りリンクデータ送信における利得係数の設定方法であ

る。

1−b 原告方法は,Aed(ΔE-DPDCH)及びβcから,上りリンクデータ送
信のために使用し得る参照利得係数βed,refを導出する(βcは所定の

計算式に基づき導出される場合もある。)。この参照利得係数βed,re

fは,全E−TFC(最大128個)ではなく,上位レイヤーから信号

伝達されるΔE-DPDCHに対応した参照E−TFCに限り(最大8個)導

出され,参照E−TFCではないE−TFCの利得係数を導出するため

に使用される。また,E−TFCには,E−TFCIというインデック

スされた伝送フォーマットが含まれている。

1−c1 原告方法は,参照E−TFCではないE−TFCについて,そのE

−TFCIが最大の参照E−TFCI以上の場合には,最大の参照E−

TFCを基準となるE−TFCとして決めるステップ((ア) E−TF

CIj≧E−TFCIref,Mの場合,参照E−TFCはM番目の参照E−

TFC)がある。

1−c2 原告方法は,参照E−TFCではないE−TFCについて,そのE

−TFCIが最大の参照E−TFCIより小さく,かつ,これが参照E

−TFCのm番目のE−TFCI以上,(m+1)番目のE−TFCI

より小さい場合には,m番目の参照E−TFCを基準となるE−TFC

として決めるステップ((ウ) E−TFCIref,1≦E−TFCIj<E

−TFCIref,Mの場合,参照E−TFCは,E−TFCIref,m≦E−

TFCIj<E−TFCIref,m+1となるm番目の参照E−TFC)があ

る。

1−d 原告方法は,上記1−c1ないし1−c2において決められた基準と

なる参照E−TFCの参照利得係数βed,refを使用して,参照E−TF

CではないE−TFCについての利得係数βed,kを導出するステップ

がある。

1−e 原告方法は,参照E−TFCではないE−TFCの利得係数βed,kを,

上りリンクデータの送信に用いる。
1−f 原告方法は,以上の構成を備えている。

b 本件発明2との対比における構成

2−a 構成1−aと同じ。

2−b 構成1−bと同じ。

2−c 原告方法は,参照E−TFCではないE−TFCについて,そのE−

TFCIが最初の参照E−TFCIよりも小さい場合には,最初の参照

E−TFCを基準となるE−TFCとして決めるステップ((イ)E−T

FCIj<E−TFCIref,1の場合,参照E−TFCは1番目の参照E

−TFC)がある。

2−d 原告方法は,上記2−cにおいて決められた基準となる参照E−TF

Cの参照利得係数βed,refを使用して,参照E−TFCではないE−T

FCについての利得係数βed,kを導出するステップがある。

2−e 構成1−eと同じ。

2−f 原告方法は,以上の構成を備えている。

(イ) 原告方法が上記のとおりであることは,チップワークス社によるテスト結果

(乙9)からも裏付けられている。

構成要件1−B及び2−Bの充足

(ア) 「受信」

次のとおりの受信の語義,技術常識及び本件明細書の記載によれば,利得因子

を導出するための構成要素のシグナリングを受けて利得因子を導出することは

利得因子の「受信」に含まれる。

a 「受信」とは,他からの電話・ラジオ放送・テレビ放送などを受けることを

意味する。したがって,「受信」に当たるかどうかは,端末がある値を他から

受け取るものであるか否かにより決せられるべきであり,ある値を直接他から

受け取る場合に限られることはない。

b 3GPP規格の従来技術であるDPCCHにおいては,利得係数βcをシグ
ナリング方式により設定する場合,シグナリングされる値(「0〜15」の整

数値)を,端末でDPCCHデータを送信する際に現実に設定することのでき

る値(「1/15」,「2/15」,「1」等)に変換している。このように,基地局か

らシグナリングされた値そのものが利得係数として設定されない構成であって

も,「シグナリングされた利得係数」(乙8(原文)の20頁「5.1.2.5.2 S

ignalled gain factors」)とされ,「受信」に当たると解されている。

c 本件明細書(段落【0023】,【0043】〜【0045】)には,DP

CCHの利得因子βcが一定値でない場合につき,第1の利得因子はβc βe,


ref/βc,refとなるところ,第1の利得因子の構成要素であるβc及びβe,re

f/βc,refのうちのβcについては,利得因子計算方式により得られることも

あるが,これを「受信」したものとして記載されている。このように,本件明

細書は,βc及びβe,ref/βc,refが「第1の利得因子」の構成要素であって,

これらを乗じることによって「第1の利得因子」の値を得る構成を「受信」の

一例として開示している。

d 本件明細書(段落【0047】〜【0050】,【0053】〜【0055】,

図5及び6)には,シグナリングされる情報要素のうちの各基準TFCについ

てのE−DPDCHの利得因子βe(「第1の利得因子」)のシグナリングは例

えば「0〜15」の整数値で行われるが,端末が現実に設定するβeの値は「2

8」,「32」等の異なる値であることが記載されている。したがって,本件

明細書は,基地局からシグナリングされた値を用いて端末が導出した値につい

て,端末が「受信」したものとして開示しているということができる。

e 本件各発明の「計算」は,関係情報(Reference E-TFC ID等)によることな

く端末において基準となるE−TFCIを定め,当該E−TFCIに対応する

「第1の利得因子」を用いて「第2の利得因子」を導き出すことを意味してい

るから,本件特許の特許請求の範囲に記載された「計算」の語は,上記「受信」

の解釈を妨げるものではない。
(イ) 原告方法について

a 構成1−b及び2−bの「全E−TFC(最大128個)ではなく,上位レ

イヤーから信号伝達されるΔE-DPDCHに対応した参照E−TFC(最大8個)に

限り導出され」る「参照利得係数βed,ref」は,構成要件1−B及び2−Bの

「TF組の一部である第1のTFについての」
「第1の利得因子」に該当する。

b 原告方法では,端末がΔE-DPDCHのシグナリングを受けてAedを導出し,これ

に上りリンク方向におけるデータ送信に際して常に設定されるDPCCHの利

得係数βcを乗じることにより参照利得係数βed,refが導出される。

Aedは,DPCCHの利得係数βcを乗じることにより参照利得係数βed,r

efが導出されるように設定された値であるから,βed,refとAed・βcとは一

対一の対応関係を有している。したがって,シグナリングを受けて導出された

Aedを乗じて導出される参照利得係数βed,refは,端末が他から受け取ったも

のにほかならない。

また,βcはシグナリング方式又は計算方式により得られるが,シグナリン

グ方式はシグナリングされた値を端末で量子化して利得係数とするものであり,

計算方式は端末が参照TFCの利得係数(βc,ref)及び他のTFCと参照T

FCの関連づけ情報要素のシグナリングを受けて端末が導出するものであるか

ら,いずれの方式によっても,βcは端末が他から受け取ったものといえる。

そうすると,いずれも端末が他から受け取った値であるAedとβcを乗じて得

られた参照利得係数βed,refも,端末が他から受け取ったものといえる。

c 以上のとおり,原告方法においては,「第1の利得因子」の「受信」が行わ

れている。

構成要件1−C1〜1−D並びに2−C及び2−Dの充足

(ア) 構成1−c1〜1−dは構成要件1−C1〜1−Dを,構成2−c及び2−

dは構成要件2−C及び2−Dをそれぞれ充足する。

(イ) 原告は,本件各発明においては,基準TFを決めるステップ(構成要件1−
C1,1−C2及び2−C)は,第1の利得因子を受信するステップ(構成要件

1−B,2−B)の後に行われることを要すると主張するが,そのように限定解

釈する根拠はなく,仮に原告方法においてこれらのステップの順番が前後してい

るとしても,本件各発明の充足性に影響しない。

構成要件1−E及び2−E

(ア) 構成要件1−E及び2−Eの「第2の利得因子は,アップリンクデータを送

受信するのに用いられる」とは,アップリンクデータの送受信が行われるに当た

り,第2の利得因子が用いられていれば足り,第2の利得因子の値それ自体が基

地局に伝送されることを要するものではない。

(イ) 本件各製品は,第2の利得因子を用いてアップリンクデータの電力を設定し,

当該設定された電力値にてアップリンクデータの送受信を行うものであるから,

構成要件1−E及び2−Eを充足する。

仮に構成要件1−E及び2−Eが,「第2の利得因子」がアップリンクデータ

を送信するだけでなく「受信」するのに用いられていることを要するとしても,

基地局がアップリンクデータを受信する際に,その電力値を通じて第2の利得因

子の値を受け取っているから,アップリンクデータの受信にも第2の利得因子が

用いられているといえる。

オ 以上のとおり,原告方法は,構成要件1−B〜1−E及び2−B〜2−Eを充足

し,構成要件1−A及び1−F並びに2−A及び2−Fも充足することになるから,

原告方法は,本件各発明の技術的範囲に属する。

(原告の主張)

ア 原告方法

(ア) 本件各製品は3GPP規格に準拠しているものの,本件各製品が現実に通信

において使用される際に,同規格に基づいて具体的にどのように上りリンクデー

タ送信における利得係数の導出を行っているかは原告にも明らかでは
ない。
(イ) 3GPP規格は被告の主張する原告方法の構成を裏付けるものでは
ない。
a βcの導出

3GPP規格によれば,βcは計算方式により端末が導出することもできる

から,原告方法において,βed,refの構成要素であるβcを必ず受信している

とはいえない。

b 参照E−TFCとしてシグナリングされるE−TFCの個数

3GPP規格においては,参照E−TFCとして一つのE−TFCのみをシ

グナリングすることも認められているところ,その場合,構成1−c1及び1

−c2並びに2−cの,「基準となるE−TFCとして決めるステップ」と構

成1−d及び2−dの「決められた基準となる参照E−TFCの参照利得係数

βed,refを使用」するステップは存在しない。

また,3GPP規格においては,シグナリングされるE−TFCが全E−T

FCであることを除外していないところ,その場合,構成1−b及び2−bの

「参照利得係数βed,refは,全E−TFC(最大128個)ではなく,上位レ

イヤーから信号伝達されるΔE-DPDCHに対応した参照E−TFCに限り(最大8

個)導出され」との構成は有しない。

c 参照E−TFCの参照利得係数の導出(構成1−b及び2−b)とそれ以外

のE−TFCの利得係数の導出(構成1−c1及び1−c2並びに2−c)の

前後関係

3GPP規格においては,一つの参照E−TFCを基準E−TFCと決めて

から当該基準E−TFCのための参照利得係数を導出するという方法,すなわ

ち,構成1−b及び構成2−bのステップを,構成1−c1及び1−c2並び

に構成2−cのステップの後に実行する方法も許容されており,その場合,構

成1−b〜1−e,構成2−b〜2−eの順序で利得係数の設定がされるわけ

ではない。
(ウ) チップワークス社によるテスト結果は,原告方法を再現するためのテスト条

件が不適切であり,原告方法についての被告の主張を裏付けるものではない。

構成要件1−B及び2−Bの非充足

(ア) 「受信」

a 「受信」とは,端末が送信機から送信された情報そのものを取得することで

あり,少なくとも,端末が送信機から送信された値を用いて独自に計算し,か

かる計算によって算出された値を得ることは含まれない。

b 仮に,原告方法が被告主張のとおり特定されるとしても,被告の特定する原

告方法においては,シグナリングを受けたΔE-DPDCHから,量子化された振幅比

Aedを導出し,これに,シグナリングを受けるか,又は所定の計算式により導

出されたβcを乗じることによって,上りリンクデータ送信のために使用し得

る参照利得係数βed,refを導出するのである。したがって,参照利得係数その

ものを受信していないから,構成要件1−B及び2−Bの「第1の利得因子を

受信」に当たらない。

(イ) 「複数のインデックスされた伝送フォーマット(TF)を含むTF組の一部
である第1のTFについての第1の利得因子」

構成要件1−B及び2−Bの「複数のインデックスされた伝送フォーマット

(TF)を含むTF組の一部」との文言に加え,構成要件1−C1及び1−C

2並びに2−Cの「基準TFとして決める」 構成要件1−D及び2−Dの
, 「前

記決められた基準TF」との文言からすれば,構成要件1−B及び2−Bにお

いては,参照利得因子を受信するTFは,@ 複数のインデックスされたTF

を含むTF組の全部ではなく一部であり,かつ,A 1個ではなく2個以上で

あることを要するものと解される。

b 前記ア(イ)bのとおり,3GPP規格は,複数のE−TFCの参照利得係数

のシグナリングを受けることを規定していないし,反対に,全部のE−TFC

の参照利得係数のシグナリングを受けることを除外してもいないから,「複数
のインデックスされた伝送フォーマット(TF)を含むTF組の一部である第

1のTFについての第1の利得因子」を受信しているとはいえない。

構成要件1−C1及び1−C2並びに2−Cの非充足

(ア) 本件各発明は,特許請求の範囲の文言上,「基準TFとして決めるステップ」

構成要件1−C1及び1−C2並びに2−C)は,「第1の利得因子を受信す

るステップ」(構成要件1−B及び2−B)の後に行われることを要件としてい

る。

(イ) 前記ア(イ)cのとおり,3GPP規格は,全ての参照E−TFCのために全

ての参照利得係数を導出し,その後に,一つの参照E−TFCを基準E−TFC

として決めるというステップを踏むものとされていないから,構成要件1−C1

及び1−C2並びに2−Cを充足しない。

構成要件1−E及び2−Eの非充足

(ア) 構成要件1−E及び2−Eの「送受信」とは送信及び受信を意味する。

(イ) 本件各製品においてはアップリンクデータを受信することが想定されていな

いから,原告方法は「送受信」に当たらない。

仮に,「受信」の主体が基地局であるとしても,基地局は第2の利得因子の値

を知らないし,第2の利得因子を受信してもいない。

オ 以上のとおり,原告方法は本件各発明の構成要件を充足せず,本件各発明

技術的範囲に属さない。
(2) 争点2(本件特許権の間接侵害の成否)について

(被告の主張)

ア 本件各製品において,前記(1)(被告の主張)のとおりの原告方法を全く使用しな

いという形態は,その経済的,商業的又は実用的な使用形態としておよそ想定でき

ないから,本件各製品は,本件各発明の使用にのみ用いるものであるといえる。

したがって,原告が業として本件各製品を輸入等する行為は,本件特許権の間接

侵害を構成する(特許法101条4号)。
イ 本件各製品は,本件各発明に係る方法の使用に用いる物であって本件各発明によ

課題の解決に不可欠なものであるところ,原告は,遅くとも,本件仮処分命令の

申立ての仮処分命令申立書の送達により,本件各発明が特許発明であること及び本

件各製品が本件各発明の実施に用いられることを知ったものである。

したがって,原告が業として本件各製品を輸入等する行為は,本件特許権の間接

侵害を構成する(特許法101条5号)。

(原告の主張)

本件各製品において,本件各発明を全く実施しないという使用態様を想定することが

できるから,特許法101条4号所定の場合に当たらない。

また,本件各製品が本件各発明の課題の解決に不可欠であるとはいえないから,同条

5号所定の場合にも当たらない。

(3) 争点3(無効理由の有無)について

(原告の主張)

新規性又は進歩性欠如

(ア) 甲4の1,甲4の2に基づくもの

a 本件各発明について,第1のTFを複数ではなく一つだけ使用する場合を含

むものと解するならば,3GPP規格に関する文書である「3GPP TS 25.214v5.

0.0」(甲4の1。以下「甲4の1文献」という。)及びTelefonaktiebolaget

LM Ericssonが3GPPのTSG-RAN作業部会に提出した提案である「TSGR1#7bis

(99)e85」(甲4の2。以下「甲4の2文献」という。)に,本件各発明と同一

の構成が開示されているから,本件各発明に係る本件特許は新規性を欠くもの

として特許法29条1項3号違反の無効理由がある。

b 本件各発明について,複数の第1のTFを使用することを要するとしても,

複数の第1のTFを使用することは本件特許権の優先日当時の当業者にとって

技術常識の範囲内であったから,本件発明の構成は,甲4の1文献又は甲4の

2文献記載の発明により容易に想到することができたものであり,本件各発明
に係る本件特許は進歩性を欠くものとして,特許法29条2項違反の無効理由

がある。

(イ) 甲54に基づくもの

構成要件2−C「最初のインデックス」が最小のインデックスを意味すると解

するならば,被告による3GPPのTSG-RAN作業グループ1に対する寄書(甲54。

以下「甲54文献」という。)に,本件発明2と同一の構成が開示されているか

ら,本件発明2に係る本件特許は新規性を欠くものとして特許法29条1項3号

違反の無効理由がある。

イ サポート要件違反(特許法36条6項1号

(ア) 構成要件1−B及び2−Bの「受信する」に,構成要素により計算すること

が含まれると解するならば,本件明細書には第1の利得因子を計算する構成は記

載されていないから,本件特許には特許法36条6項1号違反の無効理由がある。

(イ) 構成要件1−E及び2−Eは,第2の利得因子が「アップリンクデータを送

受信するのに用いられる」ことを要件とするが,本件明細書には第2の利得因子

がアップリンクデータの「受信」に際して用いられることについての記載はない

から,同号違反の無効理由がある。

明確性要件違反(特許法36条6項2号

(ア) 構成要件1−C1及び1−C2並びに2−Cは,第1のインデックスと第2

のインデックスを比較することを前提としている。ところが,特許請求の範囲

も本件明細書にも,第1のTF及び第2のTFのインデックスの順序がどのよう

に並べられるのか記載されていないため,本件各発明1の技術的範囲は,特許請

求の範囲の記載及び本件明細書の内容から明らかではなく,特許法36条6項

号違反の無効理由がある。

(イ) 構成要件1−E及び2−Eの「アップリンクデータを送受信するのに用いら

れる」に関し,利得因子は送信電力制御に用いられるもので,アップリンクデー

タの受信に用いることを想定するのは不可能であるため,同号違反の無効理由が
ある。

実施可能要件違反(特許法36条4項1号

構成要件1−E及び2−Eの「アップリンクデータを送受信するのに用いられる」

に関し,利得因子をアップリンクデータの受信に用いることは不可能であり,特許

36条4項1号違反の無効理由がある。

(被告の主張)

新規性及び進歩性欠如

甲4の1文献及び甲4の2文献には本件各発明に記載された各ステップの開示は

なく,甲54文献にも本件発明2に記載された各ステップの開示はない。

また,甲4の1文献及び甲4の2文献と本件各発明の相違点に係る構成が技術常

識により容易に想到できるとはいえない。

イ サポート要件違反

(ア) 構成要件1−B及び2−Bの「受信」に関し,本件明細書はシグナリングさ

れた値を用いた形式的導出は受信であることを当然の前提としており,サポート

要件違反の主張は当たらない。

(イ) 構成要件1−E及び2−Eに関し,前記(1)(被告の主張)エによれば,サポ

ート要件違反は認められない。

明確性要件違反

(ア) 構成要件1−C1及び1−C2並びに2−Cについて,複数の「第1のTF」

が並べられる順序がインデックスの小さい順であることは明らかであり明確性

件違反は認められない。

(イ) 前記(1)(被告の主張)エによれば,構成要件1−E及び2−Eについて明確

性要件違反は認められない。

実施可能要件違反

前記(1)(被告の主張)エによれば,実施可能要件違反は認められない。

(4) 争点4(本件各製品についての本件特許権の消尽の有無)について
(原告の主張)

ア 本件製品1について

(ア) 本件製品1における上りリンクデータ送信における利得係数の導出

に関連する処理は,本件製品1に組み込まれたクアルコム・インコーポレイテッ

ド(以下「クアルコム社」という。)が販売するベースバンドチップ(チップセ

ット)(以下「本件ベースバンドチップ1」という。)によって行われている。

クアルコム社は,日本国外において,アップル社から製造委託を受けた業者に対

し本件ベースバンドチップ1を販売し,当該業者が本件ベースバンドチップ1を

本件製品1に組み込んだ。

(イ) 我が国の特許権者又はこれと同視し得る者が国外において特許製品を譲渡し

た場合には,特許権は消尽するものと解される(最高裁判所平成9年7月1日第

三小法廷判決・民集51巻6号2299頁参照)ところ,「特許権者と同視し得

る者」にはライセンシーも含まれる。

●(省略)●

原告方法は本件ベースバンドチップ1により行われているから,原告方法が本

件各発明の技術的範囲に属するとすると,本件ベースバンドチップ1は,本件各

発明を実施するものとして「特許製品」に当たる。

したがって,クアルコム社による本件ベースバンドチップ1の販売は,特許権

者と同視し得る者が国外において特許製品を譲渡した場合に当たり,本件ベース

バンドチップ1に関し本件特許権は消尽した。

(ウ) ●(省略)●

(エ) ●(省略)●ETSIのIPRポリシー及び本件FRAND宣言により取消

不能なものであって,●(省略)●独占禁止法違反(一般指定2項及び14項)

に当たる。

イ 本件製品2及び3について

(ア) 本件製品2及び3における上りリンクデータ送信における利得係数
の導出に関連する処理は,本件製品2及び3に組み込まれたインテル・コーポレ
イション(以下「インテル社」という。)が販売するベースバンドチップ(チップ

セット)2種(以下,これらの2種を併せて「本件ベースバンドチップ2」とい

う。)によって行われている。

インテル社の完全子会社であるインテル・アメリカズ・インク(以下「インテ

ル・アメリカ社」という。)は,日本国外においてアップル社に対し,本件ベー

スバンドチップ2を販売し,アップル社が本件ベースバンドチップ2を本件製品

2及び3に組み込んだ。

(イ) インテル社と被告は,平成5年1月1日,特許クロスライセンス契約

(以下「本件インテル契約」という。)を締結し,被告はインテル社に

対し,インテル社がインテル・アメリカ社を介してアップル社に本件ベースバン
ドチップ2を販売することを許諾した。

なお,本件インテル契約は終了していないし,インテル・モバイル・コミュ

ニケーションズGmbH(以下「IMC社」という。)が本件ベースバンド

チップ2の製造開発したことは本件ベースバンドチップ2が本件インテル契約に

よるライセンスの対象となることを妨げるものではない。

(ウ) したがって,インテル社による本件ベースバンドチップ2の販売は,特許権

者と同視し得る者が国外において特許製品を譲渡した場合に当たり,本件ベース

バンドチップ2に関し本件特許権は消尽した。

ウ まとめ

以上によれば,被告は,原告に対し,本件ベースバンドチップ1ないし2を実装

した本件各製品について本件特許権を行使することができない。

(被告の主張)

ア 本件製品1について

(ア) 特許権の国際消尽における「特許権者と同視し得る者」とは,目的物である

特許製品を我が国に輸入する権利(及び,我が国において使用し,譲渡する権利)
を有している者を意味することは明白である。

本件変更契約に本件各発明の実施の許諾は含まれず,クアルコム社は「特許権

者と同視し得る者」に当たらない。

また,クアルコム社が販売した本件ベースバンドチップ1は原告方法を行う本

件製品1の一部材にすぎず,「特許製品」に当たらない。

さらに,●(省略)●以上,被告はクアルコム社から本件各発明の公開の代償

を得られるものではないから,被告に上記代償を確保する機会が保障されていた

ものといえないことは明らかであるし,また,本件ベースバンドチップ1が特許

製品である本件製品1全体の価格に占める部品単価の割合は僅少であり,このよ

うな一部のみの利得機会をもって全部の利得機会を得たと評価することもできな

い。

以上によれば,本件製品1について本件特許権が消尽したということはできな

い。

(イ) ●(省略)●

イ 本件製品2及び3について
(ア) 前記ア(ア)と同様,インテル社は「我が国の特許権者と同視し得る者」
に該当しないし,本件ベースバンドチップ2は「特許製品」に当たらない。

(イ) 本件インテル契約においてライセンスの対象となっているのは,イ

ンテル社自身により製造された製品又はインテル社が設計図等を提供

して製造委託した製品であるところ,本件ベースバンドチップ2は,I
MC社が開発製造した製品であり,本件インテル契約のライセンスの対

象に含まれない。

(ウ) 本件インテル契約は,平成21年6月30日に契約期間満了により

終了した。
ウ 以上によれば,本件各製品について本件特許権が消尽したということはできない。

(5) 争点5(本件FRAND宣言に基づくライセンス契約の成否)について
(原告の主張)

本件FRAND宣言及びIPRポリシーの準拠法はフランス法であるところ,フラン

ス法上,本件FRAND宣言は「ある当事者が当該規格を実装することで承諾される,

実際のライセンスの申出」に,アップル社が本件各製品に本件特許に係るUMTS規格

を実装したことは被告の上記ライセンスの申出(申込み)に対する黙示の承諾に当たり,

アップル社と被告との間で,本件特許権についてFRAND条件によるライセンス契約

が成立したといえる。この点は,本件FRAND宣言に日本法が適用されるとした場合

でも同様である。したがって,被告は,アップル社の子会社である原告に対し,本件

特許権を行使することができない。

(被告の主張)

本件FRAND宣言には,当事者が負うべき具体的義務が何ら特定されて
いないから,ライセンス契約の申込みには当たらないし,アップル社による

承諾もない。したがって,フランス法によると日本法によるとを問わず,被

告とアップル社の間のライセンス契約は成立していない。
(6) 争点6(権利濫用の成否)

(原告の主張)

ア 被告は,ETSIのIPRポリシー4.1項により,遅くとも標準規格が設定さ

れる前までに必須特許を開示する義務を負っていたところ,本件各発明に係る技術

が標準規格に採用されてから1年以上が経過してから本件特許の開示を行っており,

このような被告の非開示行為は,標準化におけるルールを無視した不当な行為であ

る。

イ 3GPP規格等の無線通信規格の標準化は,技術を標準規格に組み込むメリットを

得る代わりに,当該技術に係る特許権に基づいて標準規格を実装する者に対する差

止請求を行わないという交換関係の上に成り立っているから,標準規格についての

必須宣言特許に係る特許権に基づく差止請求は許されない。ところが,被告は,ア

ップル社による必須宣言特許ではない特許権の行使に対する報復の目的で,本件特
許権を含む必須宣言特許に係る特許権に基づく差止めを求める仮処分命令の申立て

を行っており,これらの仮処分命令の申立てを行うこと自体が,標準化の目的に反

する不当な行為である。

ウ 被告は,イのとおり,複数の必須宣言特許に係る特許権に基づく差止めを求める

一方で,真摯にライセンスを受ける意思を有するアップル社側が再三にわたってF

RAND条件でのライセンス提案を求めているにもかかわらず,不当に高額なライ

センス料率,標準規格に関しない知的財産権に対するクロスライセンス,●(省略)

●など,FRAND条件にかなうライセンスの提案をせず,また,被告の提案がF

RAND条件にかなうものであるか否かを判断するための情報を開示しない。この

ような被告の行為は,差止命令の脅威を利用して,FRAND条件に反する対価

求めるもので,いわゆるホールドアップにより不当な対価を得るという,標準化の

目的に反する不当な行為である。

エ 上記アないしウ記載の一連の行為は,独占禁止法に定める不公正な取引方法(同法

2条9項2号,5号,一般指定2〜4項,10項,12項,14項)に当たり,同

法違反である。

オ 原告ないしアップル社は,本件FRAND宣言により,被告から必須宣言特許に基

づく高額なライセンス料の請求を受けるリスクなしに,当該特許の必須性,有効性

及び執行可能性等を争う機会が保障されると信頼したものである。したがって,被

告が本件FRAND宣言を行ったにもかかわらず損害賠償請求権を行使することは

信義則に反する。

カ 以上によれば,被告の原告に対する本件特許権侵害不法行為に基づく損害賠償

請求権の行使は,権利の濫用として許されない。

(被告の主張)

ア 特許権が侵害された場合には,FRAND宣言の有無にかかわらず,侵害者は特許

権者に対し,損害賠償(又は適切なライセンス料)を支払うべきであり,FRAN

D宣言がされたことにより,損害賠償請求権の行使が権利の濫用となることはない。
また,FRAND宣言をした特許権者が,真摯にライセンスを受ける意思を有し

ていない者(unwilling licensee)に対する権利行使をすることができないとする

と,特許権者にかえって不利ないわゆる逆ホールドアップ状況が作出されるから,

このような者に対しては,特許権者による権利行使は妨げられない。被告とアップ

ル社の交渉経過に照らせば,アップル社は,真摯にライセンスを受ける意思を有し

ていない。

イ 被告はライセンス契約の相手方である他社に対し秘密保持義務を負っているから,

被告の原告に対するライセンス条件の提案が差別的でないことの裏付けとして,他

社との間のライセンス契約に関する情報を開示しなかったことは,誠実交渉義務違

反に当たらない。

被告は,本件訴訟の提起前から現在に至るまで,アップル社に対してライセンス

条件の提案を繰り返し,アップル社もこれに対する対案を提案するなどしている。

合意の直前に交渉を白紙に戻すなど不誠実な交渉態度をとったのはアップル社であ

り,被告においては本件特許権に関するライセンス交渉を誠実に行ってきた。

ウ 被告による損害賠償請求権の行使を権利の濫用として認めないことは,民法の上位

規範であるTRIPS協定31条における特許権者の許諾を得ていない特許の使用

を認める場合に特許権者に対して裁判所が金銭的補償を決定する旨の定めに反する。

(7) 争点7(原告が賠償すべき被告の損害額

(被告の主張)

ア 本件特許権の実施料率は,必須IPRである特許権の累積的実施料率の上限を●(

省略)●%とし,これを必須IPRとされる特許権の数で除することによって計算

される(約●(省略)●%=●(省略)●%×●(省略)●)。

本件各製品の販売開始から平成26年1月28日までの期間における売上高は,

合計で●(省略)●円を下回らない。

以上によれば,本件各製品の上記期間の実施料相当額は2億5000万円である。

イ よって,原告は被告に対し本件特許権侵害不法行為に基づく損害賠償として2億
5000万円の損害賠償債務を負うから,少なくともこの限度で,原告の請求は失

当である。

(原告の主張)

損害額は争う。

第3 当裁判所の判断

1 争点1(原告方法の構成及び本件各発明の技術的範囲への属否)について

被告は,原告方法は別紙「原告方法の構成」記載のとおりであり,これが本

件各発明の各構成要件を充足すると主張する。原告は,原告方法の特定を争う
ものであるが,被告主張のように特定されるとしても構成要件1−B及び2−

Bを充足しない旨主張するので,原告方法が被告の主張するとおりであること

を前提に,これが構成要件1−B及び2−Bを充足するかをまず検討する。
(1) 構成要件1−B及び2−Bの「受信」について

ア 被告は,原告方法においては参照利得係数βed,refが本件各発明にいう

「第1の利得因子」に当たると主張する。そして, 「原告方法の構成」
別紙

(1)〜(4)並びに構成1−b及び2−bによれば,この参照利得係数は,A
ed(シグナリングされたΔE-DPDCHの値から量子化された振幅比)と,上

りリンクのDPCCHの利得係数βc(上位レイヤーからのシグナリング

により得られるか,又は所定の計算式に基づき導出される値)を乗じるこ

とによって得るものとされる。

被告は,利得因子を導出するための構成要素のシグナリングを受けて利
得因子を導出することは利得因子の「受信」に含まれることを前提に,量

子化された振幅比(Aed)とDPCCHの利得係数(βc)が参照利得係

数βed,refの構成要素であり,これらを他から受け取っているので,原告

方法においては第1の利得因子を「受信」していると主張するものである。

イ そこで,構成要件1−B及び2−Bの「受信」の意義について検討す
ると,まず,本件特許の特許請求の範囲の記載によれば,本件各発明にお
いては「第1の利得因子」を「受信」し(構成要件1−B及び2−B),
基準として決められた特定の第1の利得因子を用いて「第2の利得因子」

を「計算」すること(1−D及び2−D)が必須の構成とされており,文

言上「受信」と「計算」が区別されている。

そして,「受信」とは他からの電話・ラジオ放送・テレビ放送などを受

けること(乙1)を,「計算」とは演算をして結果を求め出すこと,「演
算」とは数式の示すとおりの所望の数値を計算すること(広辞苑〔第6版〕

859,334頁参照)を意味するところ,二つの値を乗じることが「計

算」に当たることは明らかである。そうすると,Aedとβcを乗じて参照

利得係数を得ることは,第1の利得因子を計算するものということができ

る。
ウ 次に,本件明細書の発明の詳細な説明の欄をみると,以下の記載があ

ることが認められる。(甲2)

(ア) 従来技術においては,以下のとおり,利得因子の設定方法として利

得因子シグナリング方式と利得因子計算方式があったが,いずれも多く
のシグナリングリソースを消耗するという課題を有していた。

「【0020】 以下,従来の技術においてアップリンク専用チャンネ

ル(Dedicated Channel:以下,DCHと称する。)がマッピングさ

れるアップリンクDPDCHに対してTF別に利得因子を設定する

方法について説明する。」
「【0021】 無線網制御器(Radio Network Controller:RNC)

に代表されるネットワークは,各TFが一定な品質を保持するのに必

要な伝送電力を利得因子を用いて設定する。利得因子を設定する方法

として,利得因子シグナリング(Signaled Gain Factor)方式と,利

得因子計算(Computed Gain Factor)方式と,がある。利得因子シグ
ナリング方式とは,ネットワークが上位シグナリングを通じて各TF
別に利得因子を全て知らせることである。利得因子の計算方式とは,
ネットワークが基準TFと伝送チャンネルの組み合わせを示す基準

TFの組み合わせ(TF Combination:以下,TFCと称する。)の

利得因子のみを知らせると,端末が上記基準TFCの利得因子を基に

残りのTFについての利得因子を直接的に計算して決めることであ

る。」
「【0030】 従来の技術による利得因子の設定方式は,いずれも端

末と無線網制御器との無線リソース制御(Radio Resource Control:

以下,RRCと称する。)シグナリングを必要とする。利得因子シグ

ナリング方式は,各TF別に必要な全てのTFを通知するため,極め

て多いシグナリングリソースを消耗する。利得因子の計算方式も同様
に,各TFCの利得因子を利得因子の計算方式により設定するために

必要な基準TFCの利得因子及び各TFCと上記基準TFCとの関

係情報を無線網制御器から端末にRRCシグナリングを通じて通知

しなければならないため,多くのシグナリングリソースを消耗する。」
(イ) このような課題を解決するために,本件各発明は,以下のとおり,

E−DCHの伝送電力を決めるために必要なパラメータを最小限のシ

グナリング情報だけを用いて通知し,所定の規則を用いてE−DCHの

伝送に必要な利得因子を決める方法を提供するものであり,そのような

利得因子の設定方法として,TF組の一部である第1のTFについての
第1の利得因子を受信するステップと,第1のTFを第2のTFのため

の基準TFとして決めるステップと,決められた基準TFについての第

1の利得因子を用いて第2のTFについての第2の利得因子を計算す

るステップとを含むものとしたものである。

「【0032】 本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり,その
目的は,E−DCH伝送に必要な利得因子を効率よく通知する方法を
提供する。」
「【0033】 本発明は,利得因子の計算に必要な基準TFCをシグ

ナリングするのに必要な上位シグナリングオーバーヘッドを低減す

る方法を提供する。」

「【0034】 本発明は,向上したアップリンクDCH(E−DC

H)の伝送電力を決めるために必要なパラメータを最小限のシグナリ
ング情報だけを用いて通知し,所定の規則を用いてE−DCHの伝送

に必要な利得因子を決める方法を提供する。」

「【0036】 本発明の他の実施の形態は,アップリンクサービスに

対応する無線通信システムの利得因子の設定方法において,上記アッ

プリンクサービスのために使用可能な複数のインデックスされたT
Fを含むTF組の一部である第1のTFについての第1の利得因子

を受信するステップと,上記TF組のうち上記第1のTFではない第

2のTFのインデックスが上記第1のTFのインデックスのうち最

大のインデックス以上であれば,上記最大のインデックスを有する第
1のTFを上記第2のTFのための基準TFとして決めるステップ

と,上記第2のTFのインデックスが上記第1のTFのインデックス

のうち最大のインデックスよりも小さく,且つ,上記第2のTFのイ

ンデックスが上記第1のTFのインデックスのうちk番目のインデ

ックス以上であり,
(k+1)番目のインデックスよりも小さければ,
上記k番目のインデックスを有する第1のTFを上記第2のTFの

ための基準TFとして決めるステップと,上記決められた基準TFに

ついての上記第1の利得因子を用いて上記第2のTFについての第

2の利得因子を計算するステップと,を含み,上記第2の利得因子は,

アップリンクデータを送受信するのに用いられることを特徴とする。」
「【0037】 本発明のさらに他の実施の形態は,アップリンクサー
ビスに対応する無線通信システムの利得因子の設定方法において,上
記アップリンクサービスのために使用可能な複数のインデックスさ

れたTFを含むTF組の一部である第1のTFについての第1の利

得因子を受信するステップと,上記TF組のうち上記第1のTFでは

ない第2のTFのインデックスが上記第1のTFのインデックスの

うち最初のインデックスよりも小さければ,上記最初のインデックス
を有する第1のTFを基準TFとして決めるステップと,上記決めら

れた基準TFについての上記第1の利得因子を用いて上記第2のT

Fについての第2の利得因子を計算するステップと,を含み,上記第

2の利得因子は,アップリンクデータを送受信するのに用いられるこ

とを特徴とする。」
(ウ) 本件各発明は,上記の構成を採用したことにより,以下の効果を奏

する。

「【0039】 本発明は,使用可能な全てのTFについての基準TF

のマッピング情報を上位シグナルリングを通じて受信することなく,
端末が所定の規則に基づいて各TFについての基準TFを決めるこ

とにより,TF組についての利得因子をシグナリングするのに必要な

上位シグナリング・オーバーヘッドを低減可能な効果がある。」

(エ) 本件各発明の好適な実施形態において,端末は,以下のとおり,基

準となる利得因子を上位シグナリングを通じて取得し,シグナリングさ
れた利得因子を所定の計算式に適用して,選択されたTFの利得因子を

計算している。

「【0047】 図5は,シグナリングされた基準TFの基準となる利

得因子を用い,残りのTFの利得因子を計算する方式の一例を示して

いる。図5の第1列はTFを区別するTFIであり,第2列はTFに
ついてのTBのサイズを意味し,第3列は与えられたBLER(Bloc
k Error Rate)の効率を合わせるために必要な電力を提供可能な最適
な利得因子を意味する。ここでは,1%のBLER効率を満足するよ

うにシミュレーションやフィールドテストを通じて得られた最適な

利得因子値を示す。」

「【0048】 まず,利得因子の計算を行うためには,基準となる利

得因子が必要であるが,基準となる利得因子は上位シグナルリングを
通じて通知される。すなわち,405ビットの基準TFI0のための

利得因子=28がシグナルリングを通じて端末に通知される。DPC

CHの利得因子が決められており,E−DCHに対して単一の伝送チ

ャンネルだけが用いられ,且つ,必要なDPDCHの数が同一である

としたとき,540ビットのTFに対して上記式4の利得因子の計算
方式(方法1)を適用すると,32という利得因子値が求められる。

上記32という値は,図5の第3列に示す最適な利得因子値と同じで

あることが分かる。」

「【0053】 このため,本発明の好適な実施の形態においては,E
−DCHの全てのTFに対して基準TFを個別的に通知することな

く,未シグナルリングの各TFに対してシグナリングされた基準TF

のうち一つを用いるようにあらかじめ約束する。このため,各TF別

に利得因子を計算するために必要な基準TFを一々報知する必要が

なくなり,上位シグナリング・オーバーヘッドを低減することができ
る。すなわち,端末は,E−DCHのために選択されたTFの基準T

Fを一定の規則を用いて決める。このとき,端末は,上記決められた

基準TFのシグナリングされた利得因子を用いて上記選択されたT

Fの利得因子を計算する。」

「【0054】 上記のような本発明の望ましい実施の形態による利得
因子の計算方式を用いる場合,全てのTFについての基準TFをそれ
ぞれマッピングして通知する必要がなくなるため,利得因子の設定の
ためのRRCシグナリング・メッセージの情報要素は図6の通りにな

る。図6を参照すると,利得因子の選択のための情報要素「CHOICE G

ain Factors」IEは,「Signaled Gain Factors」IEと「Computed

Gain Factors」IEにより形成される。基準TFについての利得因

子をシグナルリングするための「Signaled Gain Factors」IEには,
選択されたモードが周波数多重化(FDD)であるか時間多重化(T

DD)であるかを示すFDDおよびTDDフィールドと,FDDモー

ドが選択された場合に含まれるDPCCHの利得因子βcと,各基準

TFCについてのE−DPDCHの利得因子βeを含む。具体的には,

βcは,FDDモードの場合にE−DPCCHあるいはPRACH(P
hysical Random Access Channel)/PCPCH(Physical Common P

acket Channel)の制御部分のための利得因子であり,βeは,FDD

モードの場合のE−DPDCHあるいはPRACH/PCPCHの

データ部分とTDDモードの場合の全てのアップリンクチャンネル
のための利得因子である。ここで,利得因子の計算方式のための「Co

mputed Gain Factors」IEは,単に利得因子の計算方式が用いられ

ることを指示するために含まれるだけで,さらなる情報を含まない。」

「【0055】 端末は,上記のようなRRCシグナリング・メッセー

ジを通じてTFについての利得因子値を取得する。以後,端末は,E
−DCHのために選択されたTFの利得因子を計算するために,上記

シグナリングされたTFのうち上記選択したTFに対応する一つを

基準TFとして選択する。同様に,基地局は,E−DCHに対して端

末からE−DPCCHを通じて通知されたTFに対応する利得因子

を計算するために,上記シグナリングされたTFのうち上記通知され
たTFに対応する一つを基準TFとして選択する。上記基準TFの利
得因子は,上記選択したTFあるいは上記通知されたTFに対応する
利得因子を計算するのに用いられる。一実施例として,基地局および

端末は,E−DCHの送信時ごとに,使用したいTFの利得因子を上

記シグナリングされたTFを用いて計算する。他の実施例として,基

地局および端末は,TF組の全てのTFについての利得因子をあらか

じめ計算してメモリに記憶しておき,E−DCHのために選択された
TFとそれに対応するあらかじめ計算された利得因子を読み出して

用いることができる。」

(オ) 本件各発明の実施例として,TF組の一部のTFの利得因子を受信

し,このうちの一つを基準TFとして決め,基準TFの利得因子を計算

式に適用して特定のTFの利得因子を計算することが記載されている
(【0056】〜【0073】)。

(カ) 以上を通じ本件明細書の発明の詳細な説明の記載中には,基準TF

ないし第1のTFの利得因子がシグナリングされることが記載される

(段落【0047】,【0048】,【0053】〜【0055】,【0
058】,【0062】,【0067】,【0071】)一方で,第1

の利得因子を演算により求めることの記載はない。

エ 以上の特許請求の範囲の文言及び本件明細書の記載によれば,構成要

件1−B及び2−Bの「受信」とは,端末がネットワーク(基地局)から

第1の利得因子そのものを直接受け取ることを意味し,複数の値を受け取
った上でこれらの値を用いて演算処理を加えることにより第1の利得因

子を求め出す場合,すなわち「計算」に当たる場合は含まないものと解す

べきである。

オ これに対し,被告は,構成要件1−B及び2−Bの「受信」の解釈に

ついて,(ア) 端末がある値を他から受け取ったといえれば「受信」に当
たるということができるところ,(イ) 従来技術であるDPCCHの利得
係数βcの取得に関し,シグナリングされる数値と端末においてDPCC
Hデータを送信する際に現実に設定するβcの値が異なるが,このような

場合も利得係数がシグナリングされると表現されていること,(ウ) 本件

明細書は,DPCCHの利得因子βcが一定値でない場合につき,βc及

びβe,ref/βc,refという第1の利得因子の構成要素を受信し,これらの

値を乗じることによって第1の利得因子βc・βe,ref/βc,refを得る構
成を「第1の利得因子を受信」するものとして開示していること,(エ)

本件明細書は,端末が現実に設定するβeの値は端末がシグナリングを受

けた各基準TFCについてのE−DPDCHの利得因子βe 「0〜15」


の整数値)ではなく端末側で所定の操作を経て導出された値(「28」,

「32」等)であるのに,利得因子を「受信」したものと開示しているこ
とからすれば,構成要件1−B及び2−Bの「受信」は,ある値の構成要

素を受け取って当該値を導出する場合を排除するものではないと主張し,

また,(オ) 構成要件1−D及び2−Dの「計算」は,関係情報(Refere

nce E-TFC ID等)によることなく端末において基準となるE−TFCIを
定め,当該E−TFCIに対応する「第1の利得因子」を用いて「第2の

利得因子」を導き出すことを意味しているから,本件特許の特許請求の範

囲に記載された「計算」の語は,被告による「受信」の解釈を妨げるもの

ではないと主張する。

そこで判断するに,上記(イ)及び(エ)については,βc又はβeの値に
関して,端末が受け取った1個の値をβc又はβeとしてそのまま用いる

のではなく,これに何らかの処理(例えば,変換表を用いて利得パラメー

タを量子化すること。乙7,8参照)を施した値を用いる場合でも,βc

又はβeを「受信」したということができると解することが可能である。

しかし,これらの場合は二つの値を受け取ってこれらに演算処理を施すも
のではないから,「受信」に関する上記(エ)の判断に影響するものではな
いと解される。
次に,上記(ウ)についてみると,本件明細書中の被告が指摘する記載は

次のとおりである。

「【0023】

【数1】






「【0043】 この明細書においては,説明の容易性のために,DPC

CHの利得因子をTFによらずに一定値にする。DPCCHの利得因子

が一定であれば,上記式1は,下記式4のように単純化する。すなわち,
E−DCHの場合,単一の伝送チャンネルだけが用いられるため,レー

トマッチング属性値(RM)の比率が適用される必要がなく,単一の符

号化過程が用いられるため,KjとKrefの比率はTBのサイズの比率と

して単純化する。このため,E−DCHにおいては,下記式4が使用可
能である。」

「【0044】

【数4】






「【0045】 式中,Ninfo,jはj番目のTFのTBのサイズを意味し,

Ninfo,refは基準となる利得因子のTBのサイズを意味する。もし,DP
CCHの利得因子がTFによって変わるとしたとき,上記式4の利得因子
は電力レベルの比率としてみなされるため,所定の1チャンネルの利得因
子を1に定め,残りのチャンネルの利得因子値を比率を用いて求めること

ができる。」

これらの記載に基づいて被告の上記主張の当否について検討すると,第

1の利得因子の構成要素とはいかなるものであるかはもとより,端末が基

地局から当該構成要素を受け取ること及び端末がこれらを乗じて第1の
利得因子を得ることが本件明細書に明示的に記載されているとは認めら

れないし,ましてや,乗じることを含めて「受信」と呼ぶことが記載され

ているとみることはできない。

そうすると,「受信」の意義を上記(ア)のように解することができると

しても,他から受け取った二つの値を乗じて別の値を得ることが「受信」
に含まれるとみることは困難である。

さらに,上記(オ)の構成要件1−D及び2−Dの「計算」についての被

告主張の解釈は,
「計算」の語が有する普通の意味から離れたものであり,

構成要件1−B〜1−C2並びに2−B及び2−Cに記載された構成を
用いて構成要件1−D及び2−Dの「計算」の意義を解釈しようとするも

のであって,本件特許請求の範囲の記載と相いれず,相当でないものとい

うべきである。

したがって,被告の主張はいずれも採用することができない。

(2) 被告の主張する原告方法の構成要件1−B及び2−Bの充足性
構成1−b及び2−bは,端末が受け取ったΔE-DPDCHの値から量子化さ

れた振幅比Aedを求めた上で,このAedと,DPCCHの利得係数βcを乗

じる方法により参照利得係数βe,refを求めているから,上記の「受信」の

解釈に照らせば,参照利得係数βe,refを受信しているものということはで

きない。したがって,原告方法が構成要件1−B及び2−Bを充足するとは
認められない。
2 以上によれば,被告の主張する原告方法が本件各発明の技術的範囲に属す
るとは認められず,また,本件各製品におけるアップリンクサービスのための

利得因子の設定方法についてそのほかの構成の主張もないから,本件各製品が

本件各発明の間接侵害品であるということはできない。したがって,その余の

点について判断するまでもなく,被告が本件各製品の輸入等に関し原告に対す

る本件特許権侵害不法行為に基づく損害賠償請求権を有するとは認められ
ない。

第4 結論

以上のとおりであるから,原告の請求は理由があるからこれを認容すること

とし,主文のとおり判決する。


東京地方裁判所民事第46部



裁判長裁判官 長 谷 川 浩 二




裁判官 清 野 正 彦




裁判官 橋 彩
(別紙)
物件目録

1 iPhone4S

2 iPhone4

3 iPad2(Wi−Fi+3Gモデル)
(別紙)
原告方法の構成

(1) ΔE-DPDCHの信号伝達

ΔE-DPDCHは,上位レイヤーからシグナリング(信号伝達)される。このΔE-DP

DCHは,最小で1個,最大で8個の情報要素「Reference E-TFCIs」に対応してお

り,「Reference E-TFCI PO」としてシグナリングされ,0から29までの値をと
る。

E−TFCIとしては,「0〜127」までの(最大)128個が存在すると

ころ,その一部である(最大)8個が「Reference E-TFCI」としてシグナリング

されるにすぎない。

(2) 量子化された振幅比Aedの導出
ΔE-DPDCH(上記(1))から量子化された振幅比Aedが導出される。導出に際し

ては,「3GPP TS25.213 v6.4.0」4.2.1.3の表1B.1が用いられる。

(3) βcの導出

βcは,上位レイヤーからの信号伝達,又は所定の計算式に基づき導出される。
(4) 参照利得係数βed,refの導出

参照利得係数βed,refは,量子化された振幅比Aed 上記(2))
( にβc(上記(3))

を乗じることによって導出される。また,この参照利得係数βed,refは,その値

を変えることなく,βed,kとなる場合もある。

(5) 暫定変数βed,j,harqの導出
j番目のE−TFCの暫定変数βed,j,harqは,所定のルール(下記(ア)(イ)(ウ)

参照)に従い基準として決定された参照(reference)E−TFCの参照利得係数

βed,ref,当該参照E−TFCで用いられるE−DPDCHの数Le,ref,j番目

のE−TFCで用いられるE−DPDCHの数Le,j ,当該参照E−TFCのト

ランスポートブロックサイズKe,ref,j番目のE−TFCのトランスポートブロ
ックサイズKe,j,HARQオフセットΔharqを用いて導出される。
? ?harq ?
Le, ref K e, j ? ?
β ed , j , harq = β ed ,ref ?10  20
? ?
Le, j K e ,ref

ここで,βed,refは,所定のルールに従い基準として決定された参照E−TF

Cの参照利得係数であるところ,当該所定のルールとは,

(ア) E−TFCIj≧E−TFCIref,Mの場合,参照E−TFCはM番目の
参照

E−TFC

(イ) E−TFCIj<E−TFCIref,1の場合,参照E−TFCは1番目の

参照

E−TFC
(ウ) E−TFCIref,1≦E−TFCIj<E−TFCIref,Mの場合,参照E

−T

FCは,E−TFCIref,m≦E−TFCIj<E−TFCIref,m+1となるm

番目の参照E−TFC
E−TFCIjはj番目のE−TFCIであり,E−TFCIref,mはm番目の参

照E−TFCのインデックスを示す。Mは信号伝達されるE−TFCの数を表し,

E−TFCIref,1<E−TFCIref,2<・・・<E−TFCIref,Mという関係

にある

というものである。
(6) βed,kの導出

j番目のE−TFCにおけるE−DPDCHkの拡散係数が「2」の場合には,

上記βed,j,harqに対して,さらに 倍が施された値,それ以外の場合にはそのま

まの値が非量子化暫定変数βed,j,uqに設定される。そして,βed,j,uqとβc(上

記(3))の値を用いて,一定の量子化ルールに従い,βed,kが導出される。このβ
ed,kは,上りリンクデータを送信するのに用いられる。

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