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審判番号(事件番号) データベース 権利
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事件 平成 25年 (行ケ) 10071号 審決取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2014/03/26
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成26年3月26日判決言渡

平成25年(行ケ)第10071号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 平成26年3月12日

判 決




原 告 エヴァーライト エレクトロニクス

カンパニー リミテッド



訴訟代理人弁護士 黒 田 健 二

吉 村 誠



被 告 日亜化学工業株式会社



訴訟代理人弁護士 宮 原 正 志

訴訟復代理人弁護士 松 本 優 子

訴訟代理人弁理士 鮫 島 睦

言 上 惠 一

山 尾 憲 人

田 村 啓

玄 番 佐 奈 恵



主 文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日




と定める。



事 実 及 び 理 由

第1 原告の求めた判決

特許庁が無効2011−800206号事件について平成24年11月6日にし

た審決を取り消す。



第2 事案の概要

本件は,特許無効審判請求不成立審決の取消訴訟である。争点は,@引用発明認

定の誤りの有無,A相違点認定の誤りの有無,及びB相違点判断の誤りの有無である。



1 特許庁における手続の経緯

(1) 本件特許

被告は,名称を「半導体発光素子」とする発明についての本件特許(特許第40

55503号)の特許権者である。

本件特許は,平成13年7月24日に出願した特願2001−223114号(第

優先権基礎出願)及び平成14年2月19日に出願した特願2002−4173

7号(第2優先権基礎出願)を基礎とする優先権を主張して,平成14年7月23

日に出願した特願2002−213490号に係るものであり,平成19年12月

21日に設定登録(登録時の請求項の数7,平成24年5月11日付け手続補正書

により補正された平成24年1月4日付け訂正請求書による訂正後は4。)された。

(甲21,22)

(2) 無効審判請求

原告は,平成23年10月12日付けで本件特許の無効審判請求をしたが(無効

2011−800206号),被告は,平成24年1月4日付けで訂正請求をし(平

成24年5月11日付け手続補正書で補正) 特許庁は,
, 平成24年11月6日,
「訂




正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月

15日,原告に送達された。



2 本件発明の要旨

上記平成24年1月4日付け訂正請求書(同年5月11日付け手続補正書で補正)

による訂正後(この訂正後の明細書及び図面を「本件訂正明細書等」という。)の本

件特許の請求項1〜4の発明(以下,番号順に「本件発明1」などのようにいう。)

に係る特許請求の範囲の記載(本件発明1については分説後のものであり,それぞ

れ「構成要件A」などのようにいう。)は,次のとおりである。(甲21)

「【請求項1】

【A】基板上に,基板とは材質の異なる複数のGaN系半導体層と,前記GaN

系半導体層の最上層に形成されたオーミック電極とを積層し,前記GaN系半導体

層で発生した光を前記オーミック電極側又は基板側から取り出すようにした半導体

発光ダイオードにおいて,

【B】上記基板はC面(0001)サファイア基板であり,

上記基板の表面部分には上記GaN系半導体層で発生した光を散乱又は回折させ

る凸部が,λ/4(λは上記半導体発光ダイオードの発光波長)以上の間隔,10

μm以下のピッチで繰り返しパターンに形成されており,

【C】その凸部の平面形状が大略三角形又は六角形であり,上記GaN系半導体

層のA軸を構成辺とする正六角形を想定したときに上記凸部平面形状の構成辺が上

記A軸を構成辺とする正六角形の中心と頂点を結ぶ線分に直交するように形成され,

【D】上記凸部の側面が傾斜しており,その側面のテーパ角が120°より大き

く,140°以下であり,

【E】前記基板表面の凸部は,凸部上面,凸部の形成されていない平坦面,及び

凸部側面が連続したGaN系半導体層によって埋められた

【F】ことを特徴とする半導体発光ダイオード。




【請求項2】

上記オーミック電極が,上記半導体層の最上層のほぼ全面を覆うことを特徴とす

る請求項1記載の半導体発光ダイオード。

【請求項3】

上記オーミック電極が,透光性であることを特徴とする請求項1または2に記載

の半導体発光ダイオード。

【請求項4】

上記半導体中における発光波長をλ,上記半導体の屈折率をnとしたとき,上記

凸部の大きさが,少なくともλ/4n以上,20μm以下である請求項1ないし3

のいずれかに記載の半導体発光ダイオード。」


後記記述の参考として,甲22の図3,図7及び図9を掲記する。

【図3】 【図9】




【図7】





3 審決の理由の要点

(1) 優先権について

本件発明1〜本件発明4は,いずれも構成要件C〜Eを構成として含むが,第1

優先権基礎出願又は第2優先権基礎出願のいずれの出願に係る願書に最初に添付し

た明細書及び図面にも,当該構成が記載されておらず,かつ,当該構成が自明な事

項であると認めることもできない。

したがって,第1優先権基礎出願及び第2優先権基礎出願には,優先権主張の効

果は認められない。

(2) 無効理由1(特開2001−160539号公報に記載の発明との同一性

又は同発明からの容易想到性)について

引用発明の認定

特開2001−160539号公報(甲1公報)には,次の発明(甲1発明)が

記載されている。

「サファイア基板から順に,AlGaNバッファ層2,第1GaN層4,第2G

aN層5,n−GaNコンタクト層104,n−GaN第1クラッド層107,M

QW発光層108,p−GaN第1クラッド層109,p−GaNコンタクト層1

12を順に形成し,最上層にp電極114を形成した半導体レーザ素子であって,

C面を基板表面とするサファイア基板の所定領域には,凹部の幅wは,数μm〜

数十μmとするのが好ましく,凸部の幅bは数百nm〜数十μmとするのが好まし

い,六角形,三角形等の形状を有する複数の凸部が分散配置された凹凸パターンが

形成されており,

(0001)面を基板表面とするサファイア基板に六角形または三角形の凹凸パ

ターンを形成する場合,各辺が[1 −1 0 0]方向または[1 1 −2 0]方

向と等価な方向に一致するように六角形または三角形の凹凸パターンを形成するこ

とが好ましく,

サファイア基板のC面に対する凹部側面の角度は,特に限定されるものではなく,




例えば,凹部側面がサファイア基板のC面に対してほぼ垂直であり,

サファイア基板の凸部上面,凹部底面および凹部側面に,アンドープのAlGa

NからなるAlGaNバッファ層12を成長させ,続いて,AlGaNバッファ層

12上に,アンドープのGaNからなるGaN層13を成長させ,GaN層13の

凹部が徐々に埋められていき,GaN層13が横方向に成長して,平坦化するまで

GaN層13を成長させる窒化物系半導体の形成方法を用いた半導体レーザ素子。」

イ 相違点認定

本件発明1と甲1発明とを対比すると,次の点が相違する。
【相違点1】@本件発明1は,半導体発光ダイオードであるのに対して,A甲1

発明は,半導体レーザ素子である点。

【相違点2】@本件発明1の「電極」は,[1]オーミック電極であって,[2]Ga

N系半導体層で発生した光をオーミック電極側又は基板側から取り出すようにした

ものであるのに対して,A甲1発明の「p電極114」は,[1]オーミック電極であ

るのか明らかではなく,また,[2]MQW発光層108で発生した光をp電極114

側又はサファイア基板側から取り出すようにしたものであるのか明らかではない点。

【相違点3】@本件発明1の「凸部」は,[1]基板の表面部分にありGaN系半導

体層で発生した光を散乱又は回折させる凸部であって,[2]λ/4(λは半導体発光

ダイオードの発光波長)以上の間隔,10μm以下のピッチで繰り返しパターンに

形成されているのに対して,A甲1発明の「凹凸パターン」は,[1]MQW発光層1

08で発生した光を散乱又は回折させるものであるのか明らかではなく,また,[2]

λ/4(λは半導体発光ダイオードの発光波長)以上の間隔で繰り返しパターンに形

成されているのか明らかではない点。

【相違点4】@本件発明1の「(平面形状が大略三角形又は六角形である)凸部」

は,GaN系半導体層のA軸を構成辺とする正六角形を想定したときに,凸部平面

形状の構成辺が,上記A軸を構成辺とする正六角形の中心と頂点を結ぶ線分に,直

交するように形成されているのに対して,A甲1発明の「(六角形,三角形等の形状




を有する複数の凸部が分散配置された)凹凸パターンは,
(0001)面を基板表面

とするサファイア基板に六角形又は三角形の凹凸パターンを形成する場合,各辺が

[1 −1 0 0]方向又は[1 1 −2 0]方向と等価な方向に一致するように

六角形又は三角形の凹凸パターンを形成することが好ましいものであるが,GaN

系半導体層のA軸を構成辺とする正六角形を想定したときに,凸部平面形状の構成

辺が,上記A軸を構成辺とする正六角形の中心と頂点を結ぶ線分に,直交するよう

に形成されているか明らかではない点。

【相違点5】@本件発明1の「凸部」は,側面が傾斜しており,その側面のテー

パ角が120°より大きく,140°以下であるのに対して,A甲1発明の「凹凸

パターン」は,サファイア基板のC面に対する凹(凸)部側面の角度は,特に限定

されるものではなく,例えば,凹(凸)部側面がサファイア基板のC面に対してほ

ぼ垂直であって,側面のテーパ角が120°より大きく,140°以下であるか明

らかではない点。


なお,上記記述の参考として,甲1の図4〜6,11,12を掲記する。





-8-
ウ 相違点判断(審決では相違点1についてのみ判断されている。)

相違点1について検討すると,甲1発明の構成を前提として,甲1発明の半導体

レーザ素子を半導体発光ダイオードに変更することについて,当業者が容易に想到

できたものであるとする根拠を見いだすことはできない。

したがって,本件発明が甲1発明と同一であるということはできず,また,本件

発明1が,甲1発明に基づいて当業者が容易に想到できたということもできない。

(3) 無効理由2(特開2002−164296号公報に記載の発明並びに甲1

発明及び周知技術等からの容易想到性)について

引用発明の認定

特開2002−164296号公報(甲8公報)には,次の発明(甲8発明)が

記載されている。

「基板と該基板上に気相成長された半導体結晶とからなる半導体基材であって,

前記基板の結晶成長面が凹凸面とされ,前記半導体結晶は凹部及び/または凸部か

らファセット構造を形成しながら成長されたものであり,

上記基板の結晶成長面の凸部が,平行なストライプ形状からなる凸部であり,

上記半導体結晶がInGaAlNであって,かつ上記基板に凹凸加工したストラ

イプの長手方向が上記InGaAlN結晶の(1 −1 0 0)面もしくは(1 1 −

2 0)面と平行であり,その精度が1°以内であり,

上記基板に凹凸加工した凸部の幅Aと,これに隣接する凹部の幅Bとの合計A+

Bが20μm 以内とされ,前記凹部の深さhをA,Bのいずれか長い方の幅の20%

以上とした半導体基材を用い,

基板としては,サファイア(C面)を用い,

上記半導体結晶が,上記基板上に成長される半導体層としてAlX Ga1-X-YIn

YN(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦x+y≦1)であり,

n型AlGaNクラッド層,InGaN発光層,p型AlGaNクラッド層,p

型GaNコンタクト層を順に形成し,その後,電極形成を行い,




上記基板に凹凸加工したストライプは,上記基板上に幅:2μm,周期:4μm,

ストライプ方位 ストライプ延伸方向が上記基板の<1 −1 0 0>方向で2μm


の深さまで断面方形型にエッチングして凹凸を施し,効果が出る凹凸形状であれば

特に制限はなく各種の形状を採用することができ,凹凸面の形成の態様としては,

島状の点在型の凸部などが例示でき,上記基板に凹凸加工した凸部の立上り斜面と

基板平面が成す角度は,60°以上とすることが好ましく,可及的に直角に近いこ

とが特に望ましく,

上記基板上を断面方形型にエッチングした後,GaN低温バッファー層を成長し,

n型GaN層を成長し,凸部,凹部両方での成長が観察され,凹凸部を覆い,平坦

になったGaN膜が得られたLED素子。」

イ 相違点認定

本件発明1と甲8発明とを対比すると,次の点が相違する。

【相違点6】@本件発明1の「電極」は,[1]オーミック電極であって,[2]Ga

N系半導体層で発生した光をオーミック電極側又は基板側から取り出すようにした

ものであるのに対して,A甲8発明の「電極」は,[1]オーミック電極であるのか明

らかではなく,また,[2]InGaN発光層で発生した光を電極側又は基板側から取

り出すようにしたものであるのか明らかではない点。

【相違点7】@本件発明1の「凸部」は,[1]基板の表面部分にありGaN系半導

体層で発生した光を散乱又は回折させる凸部であって,[2]λ/4(λは半導体発光

ダイオードの発光波長)以上の間隔,10μm以下のピッチで繰り返しパターンに

形成されているのに対して,A甲8発明の「凹凸部」は,[1]MQW発光層108で

発生した光を散乱又は回折させるものであるのか明らかではなく,また,[2]λ/4

(λは半導体発光ダイオードの発光波長)以上の間隔で繰り返しパターンに形成さ

れているのか明らかではない点。

【相違点8】@本件発明1の「凸部」は,[1]その凸部の平面形状が大略三角形又

は六角形であり,[2]GaN系半導体層のA軸を構成辺とする正六角形を想定したと




きに,上記凸部平面形状の構成辺が,上記A軸を構成辺とする正六角形の中心と頂

点を結ぶ線分に,直交するように形成されているのに対して,A甲8発明の「凹凸

部」は,[1]基板上に幅を2μm,周期を4μm,ストライプ方位をストライプ延伸

方向が基板の<1 −1 0 0>方向とし,2μmの深さまで断面方形型にエッチン

グして凹凸を施し,効果が出る凹凸形状であれば特に制限はなく各種の形状を採用

することができ,凹凸面の形成の態様としては,島状の点在型の凸部,ストライプ

型の凸条からなる凸部,格子状の凸部,これらを形成する線が曲線である凸部など

が例示できるものであるが,その凸部の平面形状が大略三角形又は六角形であるか

明らかではなく,また,[2]GaN系半導体層のA軸を構成辺とする正六角形を想定

したときに,凸部平面形状の構成辺が,上記A軸を構成辺とする正六角形の中心と

頂点を結ぶ線分に,直交するように形成されているか明らかではない点。

【相違点9】@本件発明1の「凸部」は,側面が傾斜しており,その側面のテー

パ角が120°より大きく,140°以下であるのに対して,A甲8発明の「凹凸

部」 基板に凹凸加工した凸部11の立上り斜面と基板平面が成す角度は,
は, 60°

以上とすることが好ましく,可及的に直角に近いことが特に望ましいものであって,

側面のテーパ角が120°より大きく,140°以下であるか明らかではない点。


なお,上記記述の参考として,甲8の図1を掲記する。





ウ 相違点判断(審決では相違点7及び9についてのみ判断されている。)

@ 相違点7について検討すると,甲8発明の「凸部」は,基板表面近傍に基板

からの転位の伝播がない低転位密度領域を形成することを目的とするものと認めら

れ,光を散乱又は回折させるものであるとは想定し難く,そのような構成とするこ

とが当業者にとって容易に想到し得ると認めるに足る根拠を見いだすことができな

い。

A 相違点9について検討すると,甲8発明の「凸部」は,ファセット形成及び

その後の平坦化が実質的に阻害されないように,基板に凹凸加工した凸部11の立

上り斜面と基板平面がなす角度は,60°以上(本件発明1の表現に即していえば

120°以下である。 とすることが好ましく,
) 可及的に直角に近いことが特に望ま

しいとしたものと認められ,かかる角度について,120°より大きく,140°

以下とする理由は見当たらず,そのような構成とすることが当業者にとって容易に




想到し得ると認めるに足る根拠を見いだすことができない。

B したがって,本件発明1が,甲8発明,甲1発明及び周知慣用技術に基づい

て当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

(4) まとめ

本件発明1についての特許は,特許法29条2項の規定に違反してなされたもの

ということはできず,同法123条1項2号に該当しない。

また,本件発明2〜本件発明4は,本件発明1の特定事項をすべて備え,更に他

の特定事項を付加したものであるから,本件発明2〜本件発明4についての特許は,

特許法29条2項の規定に違反してなされたものということはできず,同法123

条1項2号に該当しない。



第3 原告主張の審決取消事由

1 取消事由1(甲1発明の認定誤り)

(1) 発光ダイオードの点について(相違点1関係)

@ 審決は,甲1発明を半導体レーザ素子であると認定し,発光ダイオードであ

るとは認定しなかったが,甲1公報には発光ダイオードの発明の開示があることは

明らかである。

すなわち,甲1発明の製造方法は,発光ダイオードを含む半導体素子の問題点を

解決するための発明であって,GaN系半導体素子におけるサファイア基板とGa

N系半導体の格子定数の差に起因する転位(格子欠陥)という課題(【0003】)

を解決するために,サファイア基板に凹凸パターンを設ける発明であり,半導体レ

ーザ素子のみを念頭においた発明ではない。そして,甲1公報には,【0235】


上記においては,第1〜第3の発明に係る窒化物系半導体の形成方法を用いて製造

した半導体レーザ素子について説明したが,第1〜第3の発明に係る窒化物系半導

体の形成方法は,半導体レーザ素子以外の半導体素子,例えば発光ダイオード等の

半導体発素子(判決注 「発光素子」の誤り。以下同じ。,フォトダイオード等の





受光素子,トランジスタ等の電子素子の製造に適用することも可能である。 と発光


ダイオードが明示されている。

A(被告の反論に対して)甲1公報で第2の発明として開示されている発明(甲

1第2発明)は,C面を基板表面とするサファイア基板を用いているから(【011

7】,甲1第2発明を適用する発光ダイオード(
) 【0235】)においても,サファ

イア基板を用いるものであることは明らかである。また,本件特許出願当時,pn

接合型の発光ダイオードが当然に用いられていた以上,甲1第2発明を適用した発

光ダイオードがMIS型であるなどと考える当業者はいない。さらに,本件特許出

願当時,発光ダイオードといえば,面発光型が通常であった以上,甲1公報の「発

光ダイオード」という記載に接した当業者が,当該発光ダイオードを端面発光型な

どと考える合理的理由もない。

B したがって, 審決の上記認定は,誤りである。

(2) オーミック電極の点について(相違点2関係)

審決は,甲1発明には,p電極114がオーミック電極であることは開示されて

いない,と認定した。

しかしながら,次のとおり,GaN系発光ダイオードにおいて,GaN系半導体

層の最上層にオーミック電極を形成することは周知慣用技術であったから,甲1公

報に接した当業者は,甲1発明の発光ダイオードはオーミック電極を備えていると

当然に考えるのであり,甲1発明のp電極114がオーミック電極であるとの構成

は,甲1公報に記載されているに等しい事項である。

@ 本件特許出願時,ほとんどすべてのGaN系発光ダイオードにおいて,Ga

N系半導体層の最上層にオーミック電極を形成する構成が採用されていた。

A GaN系半導体層の最上層にオーミック電極を形成し,GaN系半導体層で

発生した光をオーミック電極側又は基板側から取り出す構成は,特開2000−1

14595号公報(甲29。【0003】〜【0005】【0028】参照。,特開


平6−338632号公報(甲30。【0002】【0003】【0011】【001




2】
【0015】参照。,特開平7−106633号公報(甲31。
) 【0003】
【0

004】【0010】【0019】参照。)など極めて多数の文献で開示されている。

したがって,審決の上記認定は,誤りである。

(3) 光の取り出しの点(相違点2関係)

審決は,甲1発明には,MQW発光層108で発生した光をp電極114側又は

サファイア基板側から取り出すようにしたことは開示されていない,と認定した。

しかしながら,次のとおり,GaN系発光ダイオードにおいて,GaN系半導体

層で発生した光をオーミック電極側又は基板側から取り出すようにすることは周知

慣用技術であったから,甲1公報に接した当業者は,甲1発明が,MQW発光層1

08で発生した光をp電極114側又はサファイア基板側から取り出すようにした

と当然に考えるのであり,甲1発明が,MQW発光層108で発生した光をp電極

114側又はサファイア基板側から取り出すとの構成は,甲1公報に記載されてい

るに等しい事項である。

@ 本件特許出願時,ほとんどすべてのGaN系発光ダイオードにおいて,Ga

N系半導体層で発生した光をオーミック電極側又は基板側から取り出す構成が採用

されていた。

A GaN系半導体層で発生した光をオーミック電極側又は基板側から取り出す

構成は,前記(2)Aのとおり,極めて多数の文献で開示されている。

B 発光に寄与する活性層の厚さが極めて薄いため,発光ダイオードは平面方向

ではほぼ全面が発光するが,端面(横面)では発光面をほとんど確保できず,光を

多く取り出すためには,GaN系半導体層で発生した光をオーミック電極側又は基

板側から取り出すようにすることが周知慣用技術であった。

したがって,審決の上記認定は,誤りである。

(4) 光の散乱又は回折の点(相違点3関係)

審決は,甲1発明の凹凸パターンは,MQW発光層108で発生した光を散乱又

は回折させるものであるのか明らかではない,と認定した。




@ しかしながら,発光ダイオードの光は,半導体層(発光層)から全方位に向

かって放射されるため,その光は基板に設けた凹凸パターンにも到達する。そして,

半導体層とサファイア基板とでは屈折率が異なるから,基板表面に凹凸を設けた場

合であれば,基板に到達した光が散乱又は回折することは自明である。このことは,

特開平11−274568号(甲5。図2参照。,国際公開01/47039号公報


(甲7。FIG.13(b)参照。)から見ても明らかである。

したがって,発光ダイオードとした甲1発明の凹凸パターンが,MQW発光層1

08で発生した光を散乱又は回折させることは,甲1公報に記載されているに等し

い事項である。

A 甲5,甲7及び特開2001−7393号公報(甲13)には,サファイア

基板の規則的な粗面化技術が開示されており,国際公開01/41225号公報(甲

42の1)の【図7】にも規則的な粗面化技術が開示されている。したがって,サ

ファイア基板の表面を規則的にパターニングして光の取り出し効率を上げることは,

周知技術である。

B(被告の反論に対し)転位低減技術と多重反射抑制技術とは,密接に関連して

おり,転位低減のために基板に凹凸を設け,その結果として,光の導波方向を変え

ているものである。このように,転位低減のために基板に凹凸を設ければ,必然的

に光の導波方向が変わるのであるから,転位低減技術は,多重反射抑制技術と一体

的に理解されるべきものである。

したがって,審決の上記認定は,誤りである。

(5) 繰り返しパターンの点(相違点3関係)

審決は,甲1発明の凹凸パターンは,λ/4(λは半導体発光ダイオードの発光波

長)以上の間隔で繰り返しパターンに形成されているのか明らかではない,と認定

した。

しかしながら,一方で,審決は,甲1発明の凹凸のパターンにつき,
「甲1発明の

凸部のピッチである凹部の幅wは,数μm〜数十μmであるから,10μm以下の




ピッチ(凹部の幅w)を含む」と認定している(29頁31〜32行目)。そして,

甲1発明の発光層はInGaNであり,InGaNのバンド間発光波長はInの組

成を変えることにより364nm〜636nmまで変化することは自明なことであ

るから(甲38応用物理第65巻7号,1996年7月「GaN系発光素子の現状

と将来」680頁右欄19〜21行目)甲1発明のInGaN発光層の発光波長は,


0.364〜0.636μmであり,そこから,甲1発明のλ/4は,0.091〜0.

159μmと計算できる。そうであれば,甲1発明の凸部のピッチである凹部の幅

wが数μm〜数十μmであり,甲1発明のλ/4は0.091〜0.159μmである

から,甲1発明の凹凸パターンがλ/4以上の間隔で繰り返しパターンに形成されて

いることは明らかであり,このことは甲1公報に開示されている。

したがって,審決の上記認定は,誤りである。

(6) 凸部の配置の点(相違点4関係)

審決は,甲1発明の「(六角形,三角形等の形状を有する複数の凸部が分散配置さ

れた)凹凸パターン」は,GaN系半導体層のA軸を構成辺とする正六角形を想定

したときに,凸部平面形状の構成辺が,上記A軸を構成辺とする正六角形の中心と

頂点を結ぶ線分に,直交するように形成されているか明らかではない,と認定した。

しかしながら,甲1公報には,【0149】なお,図6(b)に示すような六角形の


凹凸パターンを有する基板31を作製する場合,あるいは三角形の凹凸パターンを

有する基板を作製する場合において,六角形または三角形の各辺を形成する方向は,

基板のいかなる結晶方位と一致してもよい。
【0150】なお,
(0 0 0 1)面を

基板表面とするサファイア基板またはSiC基板に六角形または三角形の凹凸パタ

ーンを形成する場合,各辺が[1 −1 0 0]方向または[1 1 −2 0]方向

と等価な方向に一致するように六角形または三角形の凹凸パターンを形成すること

が好ましい。」と記載されている。一方,サファイア基板上にGaN系半導体層を成

長させた場合,GaN系半導体層のA軸がサファイア基板のA軸に対して30度ず

れることは,特開2000−216497号公報(甲2。【0008】【0059】





〜【0067】参照。,特開平11−40849号公報(甲3。
) 【0033】参照),

特開平10−270801号公報(甲4。【0036】参照)に記載があるとおり,

技術常識である。したがって,サファイア基板の[1 1 −2 0]方向と等価な方

向とは,その上のGaN系半導体層のM軸と等価な方向となる。また,GaN系半

導体層のM軸と等価な方向とは,サファイア基板上にGaN系半導体層のA軸を構

成辺とする正六角形を想定したときに,上記A軸を構成辺とする正六角形の中心と

頂点を結ぶ線分に,直交する方向のことである。

したがって,甲1発明の凹凸パターンを,GaN系半導体層のA軸を構成辺とす

る正六角形を想定したときに,凸部平面形状の構成辺が,上記A軸を構成辺とする

正六角形の中心と頂点を結ぶ線分に,直交する平面形状を有する凸部として形成す

ることは,甲1公報に開示されている。

したがって,審決の上記認定は,誤りである。



2 取消事由2(甲1発明に係る相違点認定の誤り)

審決は,前記第2,3(2)イのとおりに相違点1〜相違点5を認定したが,上記1

に記載のとおり,@甲1公報には発光ダイオードと記載されているから,相違点1

はなく,A発光ダイオードである甲1発明において,p電極114をオーミック電

極とし,また,MQW発光層108で発生した光をp電極114側又はサファイア

基板側から取り出すことは,甲1発明に実質的に開示されているから,相違点2は

実質的には相違点ではなく,B発光ダイオードである甲1発明において,凹凸パタ

ーンはMQW発光層108で発生した光を散乱又は回折させるものであることは明

らかであり,また,λ/4(λは半導体発光ダイオードの発光波長)以上の間隔で繰

り返しパターンに形成されていることも明らかであるから,相違点3はなく,C甲

1発明では,凹凸パターンが,GaN系半導体層のA軸を構成辺とする正六角形を

想定したときに,凸部平面形状の構成辺が,上記A軸を構成辺とする正六角形の中

心と頂点を結ぶ線分に,直交するように形成されていることも明らかであるから,




相違点4はない。

したがって,審決の相違点認定には,誤りがある。



3 取消事由3(甲1発明に係る相違点判断の誤り)

(1) 相違点1について

@ 審決は,[1]甲1第2発明の半導体層の構成(甲1第2発明構成)に,[2]甲

1第2発明構成を前提とする半導体レーザ素子の構成(甲1第4発明構成)を適用

した半導体レーザ素子,又は,上記[1]及び[2]との構成からなる半導体レーザ素子

として,甲1発明を認定した。

一方,審決は,甲1公報の「【0235】上記においては,第1〜第3の発明に係

る窒化物系半導体の形成方法を用いて製造した半導体レーザ素子について説明した

が,第1〜第3の発明に係る窒化物系半導体の形成方法は,半導体レーザ素子以外

の半導体素子,例えば発光ダイオード等の半導体発素子,フォトダイオード等の受

光素子,トランジスタ等の電子素子の製造に適用することも可能である。 との記載


について,
「第1〜第3発明」に係る窒化物系半導体を発光ダイオードに適用できる

ということを示すだけであって,
「第1〜第3の発明」に含まれる甲1第2発明構成

を半導体素子に適用した半導体レーザ素子(甲1第4発明構成)を発光ダイオード

変更できることを示すものではないと判断した(32頁23〜33頁14行目)。

しかしながら,甲1第4発明構成は,ごくごく基本的な窒化ガリウム系化合物半

導体発光素子(半導体レーザ及び発光ダイオード)の層構成と変わりがないもので

あり(特開平10−270801号公報〔甲4〕の図13,甲14のFig.1.,

甲15のFig.1.参照),甲1発明の特徴部分は,甲1第2発明構成部分である。

そうであれば,甲1第2発明構成を用いた甲1第4発明構成の半導体レーザ素子の

ほかに,甲1公報の段落【0235】の記載に基づき,甲1第2発明構成を発光ダ

イオードに適用して甲1第2発明構成を用いた発光ダイオードとすることは容易で

ある。




A(被告の主張に対する反論)甲1公報には,甲1第2発明として,サファイア

基板のC面を凹凸パターンを設けて窒化物系半導体を形成することが明示されてお

り(【0116】〜【0129】,凹凸パターンについては,円形,六角形,三角形


等の形状としてもよいことが記載され(【0140】,その一例として,具体的に六


角形の凹凸パターンとすることの詳細な説明がされ(【0141】〜【0150】,


その中において,六角形の凹凸パターンの方位についても,本件発明の構成に係る

方位が記載されている(【0150】。よって,甲1第2発明における六角形の凸部


を発光ダイオードに適用できることは明らかである。

B したがって,審決の相違点1に係る判断には,誤りがある。

(2) 相違点5について

@本件発明1の凸部のテーパ角は,120°超140°以下であるが,甲1発明

の凹凸パターンの側面の角度は,特に限定されるものではないから(甲1公報【0

119】,90°以上180°未満ということになり,本件発明1の凸部側面のテ


ーパ角を含んでいるから,本件発明1の凸部側面のテーパ角である120°超14

0°以下とすることは,当業者が適宜行う設計事項である。

A(被告の反論に対し)甲1公報には,【0121】…サファイア基板11の凸


部上面,凹部底面および凹部側面に,アンドープのAlGaNからなる膜厚約15

nmのAlGaNバッファ層12を成長させる。この場合,AlGaNバッファ層

12は,サファイア基板11の凸部上面,凹部底面および凹部側面において,図中

の矢印Yの方向(c軸方向)および矢印Xの方向(横方向)に成長する。…【01

22】…成長初期のGaN層13は,AlGaNバッファ層12の凸部上面,凹部

底面および凹部側面において,図中の矢印Yの方向(c軸方向)に成長し,その後

矢印Xの方向(横方向)にも成長する。」と記載されているとおり,凹部の側面でも

結晶は成長する。また,甲8公報の【図6】や特開2001−57341号公報(甲

44)の【図6】に示されているとおり,基板上に形成された凸部の側面が傾斜し

ていても,当該側面から半導体層が成長し,側面は半導体層に覆われる。




B したがって,本件発明1の凸部側面のテーパ角は,甲1発明のそれに含まれ

るか,又は少なくとも容易想到である。



4 取消事由4(甲8発明の認定誤り)

(1) オーミック電極の点(相違点6関係)

審決は,甲8発明には,その電極がオーミック電極であることが開示されていな

い,と認定した。

しかしながら,前記1(2)のとおり,GaN系発光ダイオードにおいて,GaN系

半導体層の最上層にオーミック電極を形成することは当然のことであり,甲8発明

のLED素子が,GaN系半導体層の最上層にオーミック電極を形成していること

は,甲8公報に記載されているに等しい事項である。

したがって,審決の上記認定は,誤りである。

(2) 光の取り出しの点(相違点6関係)

審決は,甲8発明には,InGaN発光層で発生した光を電極側又は基板側から

取り出すようにしたものであることは開示されていない,と認定した。

しかしながら,前記1(3)のとおり,GaN系発光ダイオードにおいて,GaN系

半導体層で発生した光をオーミック電極側又は基板側から取り出すようにすること

技術常識であるから,甲8発明のLED素子が,GaN系半導体層で発生した光

をオーミック電極側又は基板側から取り出すようにしたものであることは,甲8公

報に記載されているに等しい事項である。

したがって,審決の上記認定は,誤りである。

(3) 光の散乱又は回折の点(相違点7関係)

審決は,甲8発明の凹凸部は,MQW発光層108(InGaN発光層)で発生

した光を散乱又は回折させるものではない,と認定した。

しかしながら,前記1(4)のとおり,発光ダイオードの光は,半導体層(発光層)

から全方位に向かって放射されるため,光は基板に設けた凹凸部にも到達する。そ




して,半導体層とサファイア基板とでは屈折率が異なるから,基板表面に凹凸を設

けた場合であれば,基板に到達した光が散乱又は回折することは自明である。

また,甲8公報の【0051】
【表2】には,凹凸部を設けることにより発光出力

が増大していることが示されている。

そうすると,甲8発明の凹凸部が,InGaN発光層で発生した光を散乱又は回

折させることは,甲8公報に記載されているに等しい事項である。

したがって,審決の上記認定は,誤りである。

(4) 繰り返しパターンの点(相違点7関係)

審決は,甲8発明の凹凸部は,λ/4(λは半導体発光ダイオードの発光波長)以

上の間隔で繰り返しパターンに形成されているのか明らかではない,と認定した。

しかしながら,甲8発明のInGaN発光層の発光波長λは370nmであるか

ら(【0050】,λ/4は0.0925μmとなる。一方,甲8発明の凹凸部は,幅


2μm,周期4μmの断面方形型の凹凸であるから,凸部がλ/4以上の間隔で繰り

返しパターンに形成されていることは明らかである。

そうすると,甲8発明の凹凸部が,λ/4(λは半導体発光ダイオードの発光波長)

以上の間隔で繰り返しパターンに形成されていることは,甲8公報に開示されてい

る。

したがって,審決の上記認定は,誤りである。



5 取消事由5(甲8発明に係る相違点認定の誤り)

審決は,前記第2,3(3)イのとおりに相違点6〜相違点9を認定したが,上記4

に記載のとおり,@甲8発明のLED素子が,GaN系半導体層の最上層にオーミ

ック電極を形成し,GaN系半導体層で発生した光をオーミック電極側又は基板側

から取り出すようにした発光ダイオードであることは,甲8公報に記載されている

に等しい事項といえるから,相違点6は実質的には相違点ではなく,A甲8発明の

凹凸部は,InGaN発光層で発生した光を散乱又は回折させ,また,λ/4(λは




半導体発光ダイオードの発光波長)以上の間隔で繰り返しパターンに形成されてい

ることも明らかであるから,相違点7はない。

したがって,審決の相違点認定には,誤りがある。



6 取消事由6(甲8発明に係る相違点判断の誤り)

(1) 相違点7の判断について

審決は,甲8発明の凸部を,GaN系半導体層で発生した光を散乱又は回折させ

る凸部とすることは当業者にとって容易に想到できたとすることはできない,とし

た。

しかしながら,前記4(3)に記載のとおり,甲8発明の凹凸部が,InGaN発光

層で発生した光を散乱又は回折させることは,甲8公報に記載されているに等しい

事項である。

したがって,相違点7に係る審決の判断には,誤りがある。

(2) 相違点9の判断について

@ 審決は,甲8発明における凸部は,『ファセット形成並びにその後の平坦化


が実質的に阻害されない』ように,
『基板に凹凸加工した凸部11の立上り斜面と基

板平面が成す角度は,60°以上(本件訂正発明1の表現に即していえば120°

以下である。)とすることが好ましく,可及的に直角に近いことが特に望まし』いと

したものと認められ,かかる角度について,
『側面が傾斜しており,その側面のテー

パ角が120°より大きく,140°以下』とする理由は見当たらないし,かかる

構成とすることが,当業者にとって容易に想到し得ると認めるに足る根拠は,本件

各証拠を通じてみても見いだすことができない。 と判断した
」 (43頁10〜17行

目)。

しかしながら,甲8公報には,【請求項1】基板と該基板上に気相成長された半


導体結晶とからなる半導体基材であって,前記基板の結晶成長面が凹凸面とされ,

前記半導体結晶は凹部及び/または凸部からファセット構造を形成しながら成長さ




れたものであることを特徴とする半導体基材。 【請求項7】

「 上記基板に凹凸加工

た凸部の立上り斜面と基板平面とが成す角度が60°以上であることを特徴とする

請求項1記載の半導体基材。」と記載され,甲8公報の請求項7に係る発明は,請求

項1に係る発明から凸部の立ち上がり角に限定を加えたものである。甲8公報にも,

「60°以上とすることが好ましく」と記載されているにすぎない(【0032】。


そうすると,甲8公報には,凸部の立ち上がり斜面と基板平面とがなす角度を60°

以上とする請求項7に係る発明と,凸部の立ち上がり斜面と基板平面とがなす角度

が60°未満(本件発明1の表現に即していえば,凸部側面のテーパ角が120°

超)のものを含む請求項1に係る発明が開示されていることになる。しかも,甲8

公報の【0051】
【表2】では,甲8発明の実施例サンプルの発光出力が増大して

いることから,甲8発明の凸部により光取り出し効率が上がったと考えられ,本件

発明1と甲8発明とは課題も共通するといえる。

したがって,甲8発明の凸部側面のテーパ角を120°超140°以下とするこ

とは,容易に想到できる。

A(被告の反論に対して)甲8公報の段落【0032】に記載されたのは,凸部

11の立ち上がり斜面と基板平面とがなす角度であり,これは,甲8の【図6】の

とおり,垂直に近い(90°に近い)角度とはなっているが,本件発明1の凸部側

面のテーパ角に相応する凸部上面と凸部側面とがなす角度は,甲8公報の【図6】

に基づき測定すれば,おおむね130°である。

B したがって,相違点9に係る審決の判断には,誤りがある。



第4 被告の反論

1 取消事由1(甲1発明の認定誤り)に対して

(1) 発光ダイオードの点について(相違点1関係)

甲1公報の段落【0235】は,単に甲1第2発明の製造方法が発光ダイオード

にも適用できるとしているだけであり,ここから発光ダイオードである甲1発明を




認定しようにも,その発光ダイオードには基板があるのか否か,その基板として何

を用いるのか(【0131】参照),オーミック電極のないMIS型なのか否か,面

発光型なのか端面発光型なのかなど,その具体的構造は甲1公報には開示されてい

ない。

したがって,審決が,甲1発明を発光ダイオードと認定した上で本件発明1と対

比しなかったことは,誤りではない。

(2) オーミック電極の点について(相違点2関係)

審決が,甲1発明のp電極114がオーミック電極であるのか明らかではないと

したのは,甲1公報にはp電極114がオーミック電極であると明示的に記載され

ていないという程度の意味に解される。

(3) 光の取り出しの点について(相違点2関係)

@ 審決が認定した甲1発明は,半導体レーザー素子であり,光は端面から取り

出すことが一般であるから,審決が,甲1発明について,MQW発光層108で発

生した光をp電極114側又はサファイア基板側から取り出すようにしたものであ

るのか明らかではない,としたことには,誤りはない。

A 仮に甲1公報に発光ダイオードが開示されているとしても,次のとおり,審

決が,甲1発明について,MQW発光層108で発生した光をp電極114側又は

サファイア基板側から取り出すようにしたものであるのか明らかではないとしたこ

とに,誤りはない。

[1] 発光ダイオードには,端面から光を取り出す端面発光ダイオードもあるか

ら(甲18の1〜10参照),光の取り出し方向が,いずれかに限定されるものでは

ない。そして,発光領域が広いからといって,端面発光型よりも面発光型の発光ダ

イオードの方が有利であるとは限らないし,発光ダイオードの優劣は,発光領域の

面積のみで決まるものでもない。

[2] 甲1発明は,基板上に凹凸を形成することで転位を所定の領域に集中させ

る技術を開示するものであり,その転位集中領域と半導体レーザの発光部の空間的




な位置関係が重要な教示となっている(【0066】【0130】【0146】【02

23】参照)。これらは,発光部がストライプ状の特定領域に限定された半導体レー

ザでこそ意味のある教示であるところ,このような半導体レーザに構造が類似して

いるのは,面発光ダイオードではなく,端面発光ダイオードである。そうすると,

甲1公報に接した当業者は,
「発光ダイオード」という教示からは,むしろ端面発光

ダイオードを想起する。

B したがって,審決の甲1発明の認定には,誤りはない。

(4) 光の散乱又は回折の点(相違点3関係)

@ 審決が認定した甲1発明は,半導体レーザー素子であるところ,半導体レー

ザにおいては,通常,その発光部はリッジ下にあるストライプ状の領域に限定され,

そのレーザ出力は,半導体層の端面から取り出される。したがって,少なくとも,

レーザ出力として取り出される光が基板上の凹凸パターンに照射されることはない

し,逆に,レーザ出力として取り出される光が散乱又は回折してしまうと,指向性

及び収束性の高い光(可視光とは限らない)を発生させるという半導体レーザ素子の

目的又は思想に反することになる 。

したがって,少なくとも,GaN系半導体層で発生した光の主要な部分が到達す

る位置に凹凸部がなければ,GaN系半導体層で発生した光を散乱又は回折させる

のに適切な凹凸部といえない。

A 甲5 【0018】 【0020】, (16頁3〜5行目)
( 〜 ) 甲7 及び甲13 【0


024】)は,GaN系半導体のエピタキシャル成長の妨げにならないように,サフ

ァイア基板の表面を光の波長オーダでランダムに粗面化することを開示しているだ

けであり,本件特許出願当時において,サファイア基板の表面を規則的にパターニ

ングして光を散乱又は回折させるというサファイア基板の表面加工による多重反射

抑制技術は,周知ではなかった。

B サファイア基板の表面を光の波長オーダで荒らして粗面化する多重反射抑制

技術と,平滑なサファイア基板の表面に数μm〜数10μmの大きさのストライプ




状などの立体構造を形成する転位低減技術とは,解決すべき課題も解決手段も大き

く異なり,両者は一体的に理解すべきものではない。

C したがって,審決の甲1発明の認定には,誤りはない。

(5) 繰り返しパターンの点(相違点3関係)

審決が,甲1発明の凸部を,λ/4(λは半導体発光ダイオードの発光波長)以上

の間隔で繰り返しパターンに形成されているのか明らかでない,としたのは,甲1

発明の凸部がGaN系半導体の発光を散乱又は回折するのか否か明らかではないと

した以上,同凸部がGaN系半導体の発光波長λを基準とした散乱又は回折の要件

であるλ/4以上の間隔で繰り返しパターンに形成されているものに該当するのか

も明らかではなくなる,という程度の意味に解される。

(6) 凸部の配置の点(相違点4関係)

本件発明1は,凸部側面が平面視でGaNの成長安定面に平行であると,凸部側

面が埋まりにくく,散乱又は回折を阻害する空洞が発生しやすい一方,凸部側面が

GaNの成長安定面に交差していると,凸部の周囲を平坦に埋めて空洞発生を抑制

できることを見いだしたものである(本件明細書等【0038】
【0039】。
) 一方,

甲1発明は,六角形又は三角形の凸部各辺を形成する方向は,基板のいかなる方位

でも良く,甲1公報には,全く同等の好ましい例として,凸部各辺を基板の[1 −

1 0 0]方向又は[1 1 −2 0]方向にすることを挙げている(甲1公報【0

149】【0150】。


甲1公報が挙げた後者の[1 1 −2 0]方向は,本件発明 1 が特定する方位に

相当するものではあるが,前者の[1 −1 0 0]方向は,本件発明 1 において空

洞発生が起きやすいとされた方位に相当する。本件発明1は,光の散乱又は回折を

阻害する空洞発生を抑制する重要な技術的意義があるとして,凸部各辺を後者の[1

1 −2 0]方向にすることに限定したのであるから,本件発明1とは課題の異な

る甲1発明に本件発明1の凸部各辺の方位を含めて並列的に例示されているからと

いって,甲1発明が本件発明1と同一の特定事項を開示したものとはいえない。




したがって,審決が,GaN系半導体層のA軸を構成辺とする正六角形を想定し

たときに,凸部平面形状の構成辺が,上記A軸を構成辺とする正六角形の中心と頂

点を結ぶ線分に,直交するように形成されているか明らかではない,と認定したこ

とは,誤りではない。



2 取消事由2(甲1発明に係る相違点認定の誤り)に対して

上記1のとおり,審決の甲1発明認定に誤りはないから,その相違点認定にも誤

りはない。



3 取消事由3(甲1発明に係る相違点判断の誤り)に対して

(1) 相違点1の判断について

甲1公報には,種々の窒化物系半導体の形成方法が開示されており,甲1第2発

明についても,凸部を形成するか凹部を形成するか,凸部又は凹部の形状をストラ

イプ,円形,三角形,六角形のいずれにするか,凸部又は凹部の寸法をどうするか,

凸部又は凹部の各辺の方位をどうするか,凸部又は凹部の側面の傾斜角をどうする

か,といった点について多数の選択枝がある。これら種々の条件を,すべてそのま

ま発光ダイオードに適用できるわけではない。

また,甲1第2発明に係る窒化物系半導体形成方法を発光ダイオードへ適用しよ

うとすれば,発光面において暗線となる転移集中部分の密度を減らそうとするから,

転移集中部分の密度が高くなるような凸部形状である三角形又は六角形を選択した

りする動機付けはないし,あるいは,凸部間のピッチを10μm以下という極めて

小さな値を選択したりする動機付けもない。逆に,凸部の形状・ピッチについてそ

のような選択をした場合には,甲1第2発明に係る窒化物系半導体素形成方法を発

光ダイオードに適用する阻害要因となる。

したがって,凸部が10μm以下のピッチで繰り返しパターンに形成されており,

その凸部の平面形状が大略三角形又は六角形である半導体発光素子,との構成を前




提として,甲1発明の半導体レーザ素子を半導体発光ダイオードに変更することは

当業者が容易に想到できたものではない,とした審決の判断には,誤りはない。

(2) 相違点5について

@ 本件発明1の課題は,サファイア基板上にGaN系半導体層を形成した面発

光ダイオードにおいて,サファイア基板に凸部を形成して光の多重反射を抑制しよ

うとしても,凸部がGaN系半導体層の成長に影響するために,発光ダイオードと

しての出力が十分に向上しないという点にある。この知見は,本件発明1により新

たに見いだされたものであるから,本件発明1の凸部側面のテーパ角を120°超

140°以下と数値限定したことの効果の異質性又は予測不可能性等を考慮するま

でもなく,この構成に想到することは容易とはいえない。

A GaNは,サファイア基板のC面(0 0 0 1),A面などの特定の結晶面

以外の面ではエピタキシャル成長をしないか又は成長しにくいため,傾斜した凸部

側面を平坦に埋めるためには,C面である凸部上面と同凸部間の平坦面とからそれ

ぞれ成長したGaN同士が,凸部側面付近で速やかに接合される必要がある。この

ため凸部側面が大きなテーパ角を持つように傾斜していると,凸部上面と凸部間の

平坦面との間の距離が大きくなり,凸部側面付近が平坦に埋まり難くなり(本件明

細書等【0038】〜【0041】【0050】,甲8公報【0032】参照。,凸


部の周囲に空洞が発生しやすくなり,そして,その空洞が,凸部による散乱又は回

折を妨げる(本件明細書【0014】【0015】。


本件発明1は,凸部の各辺の方位がGaNの成長安定面と一致していると,Ga

N系半導体層と凸部側面の間に空洞が発生しやすく,凸部の各辺の方位が成長安定

面と交差していると,凸部側面付近の空洞発生が抑制されることに着目し,凸部の

各辺の位をその構成にある所定の方位とした上で,さらに,凸部側面のテーパ角を

120°超140°以下に制御することにより,GaN系半導体層によって凸部を

平坦に埋めつつ,効率の良い散乱又は回折を可能としたものである(本件明細書等

【0038】〜【0041】【0050】【図10】。本件発明1において,凸部側





面のテーパ角を120°超140°以下とすることの効果は,本件特許出願時の技

術水準に基づいても,甲1発明からは予測不能である。

B 甲1発明の目的は,選択成長マスクを用いることなく転位の低減を図ること

にあり 【0018】,
( ) 甲1発明においてサファイア基板に凹凸パターンを設ける目

的は,それと同様の凹凸パターンを窒化物半導体に再現することにより,サファイ

ア基板に平行な横方向に結晶を成長させることにある。しかるところ,半導体結晶

は,基本的に成長させる面に対して垂直に成長するから,凹部側面から窒化物半導

体をサファイア基板に平行な横方向に成長させるには,凹部側面をサファイア基板

に垂直にすることが必要となる。したがって,甲1発明は,基板に形成される凹凸

パターンの凹部側面が垂直である場合が基本となり,甲1公報において凹部側面を

垂直に限定しなかったのは,サファイア基板の加工上の制約等にかんがみて,凹部

側面が垂直から多少外れる場合も許容されるという程度のためにすぎない。

したがって,本件発明1は,公知発明とは異なる目的又は効果を有する数値範囲

を限定した発明であって,容易想到ではない。



4 取消事由4(甲8発明の認定誤り)に対して

(1) オーミック電極の点(相違点6関係)

審決が,甲8発明の電極がオーミック電極であるのか明らかではないとしたのは,

甲8公報には電極がオーミック電極であるとは明示的に記載されていない,という

程度の意味に解される。

(2) 光の取り出しの点(相違点7関係)

甲8発明は,半導体基材及びその作製方法に関するものであり(【0001】,そ


の開示の大部分は,サファイア基板上にGaN層を成長した半導体基材についての

ものであって(【0010】〜【0049】,発光ダイオードに関する具体的な記載


としては,実施例4において紫外LEDチップを作製したことが開示されているに

すぎない。また,この紫外LEDチップの構造については,
「【0050】[実施例4]




実施例1で得られた膜に連続してn型AlGaNクラッド層,InGaN発光層,

p型AlGaNクラッド層,p型GaNコンタクト層を順に形成し,発光波長37

0nmの紫外LEDウエハーを作製した。その後,電極形成,素子分離を行い,L

ED素子とした。と記載されるのみであり,
」 この記載からは,光の取り出し方向が,

端面であるのか又はオーミック電極側若しくは基板側であるのかは,特定できない。

したがって,審決が,甲8発明が,InGaN発光層で発生した光を電極側又は

基板側から取り出すようにしたものであるのか明らかではない,としたことには,

誤りはない。

(3) 光の散乱又は回折の点(相違点7関係)

甲8発明は,端面発光ダイオードをも含むものであるところ,端面発光ダイオー

ドにおいては,その発光部はリッジ下にあるストライプ状の領域に限定され,その

発光出力は,半導体層の端面から取り出される。したがって,端面発光ダイオード

の場合,少なくとも,発光出力として取り出される光が基板上の凹凸部に照射され

ることはないし,逆に,発光出力として取り出される光が散乱又は回折してしまう

と,指向性及び収束性の高い光(可視光とは限らない)を発生させるという端面発光

ダイオード素子の目的又は思想に反することになる。

なお,甲8公報の【0051】
【表2】は,凸部が適切に光を散乱又は回折させる

ものであることにより光取り出し効率が上がったことを示すものではなく,従来の

ELO技術に比して結晶転位が減少するという甲8発明の目的又は作用効果によっ

て,発光出力が向上したことを示すものである。

したがって,審決が,甲8公報に記載された凹凸部は,少なくとも散乱又は回折

のために適切な形状のものであるかどうか明らかではないとしたことには,誤りは

ない。

(4) 繰り返しパターンの点(相違点7関係)

審決が,甲8発明の凹凸部がλ/4(λは半導体発光ダイオードの発光波長)以上

の間隔で繰り返しパターンに形成されているのか明らかでないとしたのは,甲8発




明の凹凸部が,GaN系半導体の発光を散乱又は回折するのか否かが明らかでない

とした以上,同凹凸部がGaN系半導体の発光波長λを基準とした散乱又は回折の

要件であるλ/4以上の間隔で繰り返しパターンに形成されているものに該当する

かも明らかではなくなる,という程度の意味に解される。



5 取消事由5(甲8発明に係る相違点認定の誤り)に対して

上記4のとおり,審決の甲8発明認定に誤りはないから,その相違点認定にも誤

りはない。



6 取消事由6(甲8発明に係る相違点判断の誤り)に対して

(1) 相違点7の判断について

本件発明1の相違点7に係る構成は,凸部の繰り返しパターンが,基板に届いた

光を散乱又は回折させるのに適したものであることを要求する趣旨,すなわち,そ

の凸部の位置が適切であるとともに,構成要件Bに規定する間隔及びピッチ,構成

要件Cで規定する形状及び方位,並びに構成要件Dに規定する側面テーパ角をすべ

て満たすことを要件とするものである。本件発明1は,これら構成を組み合わせ,

その相互作用によって,サファイア基板を用いたGaN系半導体発光ダイオードに

おいて,GaN系半導体の結晶品質を維持しながら,多重反射を有効に抑制できる

という従来はなし得なかった実用的な技術を初めて実現したものである。

かかる技術的意義を甲8発明から容易に想到しえないことは,甲8公報に,凸部

の形状を三角形又は六角形とすること,その凸部の各辺を本件発明1に特定する所

定の方位とすることが記載されていないこと(相違点8) 凸部の繰り返しパターン


の間隔をλ/4以上とすることが記載されていないこと(相違点7),及び側面テー

パ角を120°超140°以下とすることが記載されていないこと(相違点9) 並


びに甲8発明の目的に照らせば明らかである。

したがって,相違点7に係る審決の判断に,誤りはない。




(2) 相違点9の判断について

@ 相違点9に係る本件発明1の凸部側面のテーパ角は,これによってGaN系

半導体層へのピット発生を抑制しながら,光の散乱又は回折の効率を高めて発光ダ

イオードの出力を高めるという,甲8公報には記載も示唆もない課題に基いてなさ

れたものである(本件明細書等【0025】【0050】【図10】参照)。

かえって,甲8公報には,凸部側面の立ち上がり角が60°よりも小さい場合(本

件発明1の表現に即していえば,凸部側面のテーパ角が120°超)には,ファセ

ット成長後の平坦化が良好に行えないという問題が生じ,これを60°以上(本件

発明1の表現に即していえば,凸部側面のテーパ角が120°以下) とりわけ直角


に近い角度にすると,かかる弊害が起きないと記載されている(【0032】。甲8


公報の請求項1に係るの発明も,凸部の立ち上がり角が60°未満であることを積

極的に許容するものではない。

したがって,甲8公報には,本件発明1の凸部側面のテーパ角を120°超にす

るのとは正反対の教示が明示されており,相違点9の構成に至ることは容易想到で

はない。

なお,甲8公報の【0051】
【表2】は,従来のELO技術に比して結晶転位が

減少するという甲8発明の目的又は作用効果によって発光出力が向上したことを示

すものであって,凸部における光の散乱又は回折により光取り出し効率が上がった

ことを示すものではない。

A 甲8公報の段落【0032】は,凸部側面全体と基板平面との間の角度を記

載しているのであって,側面の一部(例えば,立ち上がり部分のみ)が基板平面と

なす角度を記載しているのではないから,甲8公報が,凸部側面の立ち上がり部分

のみが基板平面と60°以上の角度をなしていれば,他の部分の傾斜角が60°未

満であってよいということを開示しているものではない。



第5 当裁判所の判断




1 認定事実

(1) 本件発明1

本件明細書等によれば,本件発明1の特徴は,次のとおりのものと認められる。

(甲21,22)

本件発明1は,窒化物系化合物半導体発光素子において,半導体に欠陥が発生し

ない凹凸を基板に設け,半導体層での光の導波方向を変えて,外部量子効率を上げ

るようにした素子に関するものである(【0001】。


従来の構造の発光ダイオードでは,基板の平坦性を鏡面レベルに加工しているの

で,基板上の半導体層,発光領域及び電極は相互に平行な積層構造をなし,しかも

屈折率の大きな半導体層を,屈折率の小さな基板と透光性電極によって挟む構造に

よって光の導波路が形成されるので 【0003】,
( ) 臨界角よりも大きな角度で基板

又は電極との界面に入射した光は,全反射を繰り返して導波路内を伝播し,その間

に吸収されるため,発光の一部は減衰して有効に外部に取り出すことができず,外

部量子効率が低下してしまった(【0004】。


これに対し,基板の表面に凹部又は凸部を形成して発光領域で発生した光を散乱

させることによって外部量子効率を向上させるようにした方法が提案されているが

(【0007】,
) これらの発光ダイオードでは,凹部又は凸部の形状や大きさを制御

せずに粗面化を行った場合,成長したGaNの結晶性が低下してしまうため,かえ

ってGaN半導体層における発光効率が下がってしまっていた(【0008】。


そこで,本件発明1は,外部量子効率を安定的に確保できるようにした半導体発

光素子を提供することを目的とし(【0009】,@基板上に,基板とは材質の異な


る複数のGaN系半導体層と,前記GaN系半導体層の最上層に形成されたオーミ

ック電極とを積層し,前記GaN系半導体層で発生した光を前記オーミック電極側

又は基板側から取り出すようにした半導体発光ダイオードにおいて(【0010】,


A基板はC面(0 0 0 1)サファイア基板であり(【0021】
【0030】,上


記基板の表面部分には,上記GaN系半導体層で発生した光を散乱又は回折させる




凸部を,十分に光を散乱又は回折させるために,λ/4(λは半導体発光ダイオード

の発光波長)以上の間隔とし(【0023】,GaN層のピット発生の防止及び光の


散乱又は回折の確率を高め,これにより出力を一層向させるために,10μm以下

(【0024】)のピッチで繰り返しパターンに形成し(【0019】,B平坦で結晶


性に優れたGaN系半導体を成長させるために,その凸部の平面形状を大略三角形

又は六角形で,上記GaN系半導体層のA軸を構成辺とする正六角形を想定したと

きに,上記凸部平面形状の構成辺が,上記A軸を構成辺とする正六角形の中心と頂

点を結ぶ線分に,直交するように形成し(【0018】
【0031】
【0039】,C


散乱又は回折による出力向上の観点から,上記凸部側面を傾斜させるとともに,そ

の側面のテーパ角を120°より大きくし(【0025】【0050】【0081】,


一方,凸部側面のテーパ角が余りに大き過ぎるとかえって光の散乱又は回折の効率

が低下するほか,半導体層にピットが発生しやすくなるために,これを140°以

下とし(【0025】【0050】,D前記基板表面の凸部は,凸部上面,凸部の形


成されていない平坦面,及び凸部側面が連続したGaN系半導体層によって埋めら

れるようにし,もって,凹凸による光の散乱・回折効果により,基板上方又は下方

への光束が多くなり,発光素子の発光面を正面から観察したときの輝度を高めるこ

とができ,また,半導体層中を横方向に伝播する光を減らし,伝播中の吸収ロスを

低減して発光の総量を高めることができ(【0013】,しかも,基板表面部分に凹


部又は凸部を形成しても,半導体層には凹凸による結晶欠陥がほとんど成長しない

ため,高い外部量子効率を安定的に確保できるという効果を奏する(【0014】,


というものである。

(2) 甲1発明

甲1公報によれば,甲1発明の特徴は,次のとおりのものと認められる。

甲1発明は,窒化物系半導体素子に関するものである(【0001】。


従来,サファイア等からなる基板上にGaN系半導体層をエピタキシャル成長さ

せているが 【0002】,
( ) サファイア等の基板とGaNとでは格子定数が異なるた




め,サファイア等の基板上に成長させたGaN系半導体層は,基板から上下方向に

延びる転位(格子欠陥)が存在しており,半導体素子の素子特性の劣化及び信頼性

の低下を招いていた 【0003】。
( ) このようなGaN系半導体層における転位を低

減する方法である選択横方向成長は 【0004】,
( ) 再成長GaN層の選択横方向成

長を行うことにより,再成長GaN層において転位の低減を図ることを可能として

いたが(【0012】,この方法では,選択成長マスクとGaNとの熱膨張係数の違


いから,再成長GaN層においてクラックが発生しやすくなるなどし,このような

クラックの発生は,半導体素子において,素子特性の劣化及び信頼性の低下を招く

とともに,歩留りの低下を招いていたほか(【0014】【0016】,窒化物系半


導体においては更なる格子欠陥の低減を図ることも望まれた(【0017】。


そこで,甲1発明は,選択成長マスクを用いることなく,より転位の低減が図ら

れ,かつ,クラックの発生が防止された半導体素子を提供することを目的とし(【0

0019】,@C面を基板表面とするサファイア基板の所定領域に,凹部の幅wを


好ましくは数μm〜数十μmと,凸部の幅を好ましくは数百nm〜数十μmと,形

状を六角形,三角形等とした複数の凹部又は凸部が分散配置された凹凸パターンを

形成し(【0117】【0118】【0140】,A(0 0 0 1)面を基板表面と


するサファイア基板に六角形又は三角形の凹凸パターンを形成する場合には,好ま

しくは各辺を[1 −1 0 0]方向又は[1 1 −2 0]方向と等価な方向に一

致するように六角形又は三角形の凹凸パターンを形成し 【0150】,
( ) Bサファイ

ア基板のC面に対する凹部側面の角度は,特に限定されるものではなく,例えば,

凹部側面がサファイア基板のC面に対してほぼ垂直であり【0119】,
( )その上で,

Cサファイア基板の凸部上面,凹部底面及び凹部側面に,アンドープのAlGaN

からなるAlGaNバッファ層を成長させ(【0121】,続いて,AlGaNバッ


ファ層上に,アンドープのGaNからなるGaN層を成長させることによって 【0


122】,GaN層の凹部が徐々に埋められていき,GaN層が横方向に成長して


(【0123】,平坦化するまでGaN層を成長させる(
) 【0125】)という窒化物




系半導体の形成方法により,サファイア基板付近で発生したC軸方向に伝播した転

位が一様に低減され 【0124】,
( ) 良好な結晶性を有するGaN層を形成すること

ができるという効果を奏する(【0126】,というものである。


そして,この窒化物系半導体の形成方法を用いて,AlGaNバッファ層,第1

GaN層,第2GaN層,n−GaNコンタクト層,n−GaN第1クラッド層,

MQW発光層,p−GaN第1クラッド層,p−GaNコンタクト層を順に形成し,

最上層にp電極を形成した半導体レーザ素子は 【0191】
( 【0194】
【0195】

【0198】
【0199】
【0215】
【図11】,良好な素子特性を有するとともに


高い信頼性を有するという効果を奏する(【0200】
【0208】
【0216】,と


いうものである。

(3) 甲8発明

甲8公報によれば,甲8発明の特徴は,次のとおりのものと認められる。

甲8発明は,半導体基材に関し,特に転位欠陥が生じやすい半導体材料を用いる

場合に有用な構造に関するものである(【0001】。


従来,GaN系材料を結晶成長する場合,GaN系材料は格子整合する基板がな

いために,サファイアなどの格子整合しない基板を用いていたが,近年実現されて

いる高輝度の発光ダイオード,半導体レーザーなどは,特性向上を図るために更な

る転位密度の低減が望まれた 【0002】 。
( ) この転位密度低減を図る方法として前

記基板上に部分的なマスクを設けて選択成長する方法が提案されているが【000


3】,この方法によれば,ラテラル成長方向にC軸が微小量ながら傾斜して結晶品


質が低下するという新たな問題が有ることが判明した(【0004】。また,マスク


層材料として汎用されているものはSiO2 などであるが,その上に結晶成長層が
積重されると,Si成分がこの結晶成長層中に移行するというオートドーピング汚

染の問題があることも判明するなど(【0005】,種々の問題が判明した。


そこで,甲8発明は,マスク層を用いることに起因するなどの種々の問題を回避

することを目的とし 【0009】,
( ) @基板と該基板上に気相成長された半導体結晶




とからなる半導体基材であって,前記基板の結晶成長面が凹凸面とされ,前記半導

体結晶は凹部又は凸部からファセット構造を形成しながら成長されたものであり

(【請求項1】【0010】,A上記基板の結晶成長面の凸部が,平行なストライプ


形状からなる凸部であり 【請求項3】,
( ) B上記半導体結晶がInGaAlNであっ

て 【請求項4】,
( ) 上記基板に凹凸加工したストライプの長手方向が上記InGaA

lN結晶の(1 − 1 0 0)面又は(1 1 −2 0)面と平行であり,その精度

が1°以内であり(【請求項5】,C上記基板に凹凸加工した凸部の幅Aと,これに


隣接する凹部の幅Bとの合計A+Bが20μm以内とされ,前記凹部の深さhをA,

Bのいずれか長い方の幅の20%以上とする(【請求項6】)ものであって,バッフ

ァ層等すら形成していない状態の基板に対して凹凸面を設けることで,結晶成長当

初からファセット面が形成可能な素地面をあらかじめ提供し 【0016】,
( ) 基板か

らC軸方向に伸びる転位線がファセット面で横方向に曲げられ,上方に伝播しなく

なることで,成長面の表面近傍は基板からの転位の伝播がないために低転位密度領

域となるようにしたものであり(【0017】,これにより,甲8発明の半導体基材


は,マスク層を形成することに起因する問題点などを回避できるという効果を奏す

るものである(【0058】。


そして,甲8発明の半導体基材を用いて,D基板としては,サファイア(C面)

を用い(【0019】,E半導体結晶が,上記基板上に成長される半導体層としてA


lXGa1−X−YInYN(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦x+y≦1)であり(【0
020】,En型AlGaNクラッド層,InGaN発光層,p型AlGaNクラ


ッド層,p型GaNコンタクト層を順に形成し,その後,電極形成を行い(【005

0】,F上記基板に凹凸加工したストライプは,幅を2μm,周期を4μm,スト


ライプ方位をストライプ延伸方向が上記基板の<1 −1 0 0>方向であって,2

μmの深さまで断面方形型にエッチングして凹凸を施したものであるほか【004


1】,効果が出る凹凸形状であれば特に制限はなく各種の形状を採用することもで


き,凹凸面の形成の態様としては,島状の点在型の凸部,ストライプ型の凸条から




なる凸部などが例示でき 【0023】,
( ) 上記基板に凹凸加工した凸部の立ち上がり

斜面と基板平面が成す角度は,60°以上とすることが好ましく,可及的に直角に

近いことが特に望ましいものであって 【0032】,
( ) G上記基板を断面方形型にエ

ッチングした後,GaN低温バッファー層を成長し,n型GaN層を成長し,凸部,

凹部両方での成長が観察され 【0041】 ,
( ) 凹凸部を覆い平坦になったGaN膜が

得られたる(【0042】)LED素子(【0050】)とすることができ,このLE

D素子は,従来例に比べ出力が高く,リーク電流の少ないという効果を奏する(【0

052】,というものである。




2 取消事由1(甲1発明認定の誤り)について

(1) 発光ダイオードの点

ア 検討

上記1(2)に認定のとおり,甲1発明は,窒化物系半導体素子に関するものであっ

て,選択成長マスクを用いることなく,より転位の低減が図られ,かつ,クラック

の発生が防止された半導体素子を提供することを目的とし,その構成から,転位の

低減により良好な結晶性を有するGaN層を形成することができるという効果を奏

するものである。その上で,この窒化物系半導体の形成方法を用いて製造した半導

体レーザ素子は,良好な素子特性を有するとともに高い信頼性を有するという効果

を奏するとしている。

甲1公報は,その窒化物系半導体の形成方法を開示した後,
「【0191】続いて,

第1〜第3の発明に係る窒化物系半導体の形成方法を用いて製造した半導体素子に

ついて説明する。なお,この場合においては,半導体素子の例として半導体レーザ

素子について説明する。 として,
」 第4から第6の発明に係る半導体レーザー素子に

ついて開示をし(【0192】〜【0234】,その上で「
) 【0235】上記におい

ては,第1〜第3の発明に係る窒化物系半導体の形成方法を用いて製造した半導体

レーザ素子について説明したが,第1〜第3の発明に係る窒化物系半導体の形成方




法は,半導体レーザ素子以外の半導体素子,例えば発光ダイオード等の半導体発素

子,フォトダイオード等の受光素子,トランジスタ等の電子素子の製造に適用する

ことも可能である。」と開示している。

以上から,甲1発明に係る窒化物系半導体の形成方法を用いて製造した半導体素

子は,GaN層の表面においては転位が低減され良好な結晶性が実現されているの

であるから,半導体素子の具体的な構成に関係なく,良好な素子特性を有するとと

もに高い信頼性を有するという効果を奏するといえ,半導体レーザ素子もまた,甲

1発明に係る窒化物系半導体の形成方法を用いて製造した半導体素子の一例にすぎ

ないものといえる。

そうすると,段落【0235】に例示された発光ダイオードは,同段落限りでは

具体的な構成が記載されたものではないものの,当業者は,甲1発明に係る窒化物

系半導体の形成方法を用いて発光ダイオードを製造すれば,甲1発明に係る窒化物

系半導体の形成方法を用いて製造した半導体レーザ素子と同様に,良好な素子特性

を有するとともに高い信頼性を有するという効果を奏するものが得られると理解す

るといえ,そうであれば,甲1公報には,甲1発明に係る窒化物系半導体の形成方

法を用いて製造した半導体素子として発光ダイオードも開示されていると認めるの

が相当である。

よって,甲1発明を半導体レーザ素子と認定し,本件発明1と甲1発明との対比

において,本件発明1は,
「半導体発光ダイオード」であるのに対して,甲1発明は,

「半導体レーザ素子」である点を相違点1とした審決の認定は,本件発明1と対比

すべき発明を甲1公報から抽出するに当たり,本件発明1により類似する発明が認

識できたにもかかわらず,これを認定しなかった点において,当を得たものとはい

えないというべきである。

したがって,審決の甲1発明の認定には誤りがある。

イ 被告の主張に対して

被告は,甲1公報から引用発明となり得る「発光ダイオード」が認定できるため




には,その発光ダイオードの具体的構造が開示されていなければならない旨の主張

をする。

しかしながら,甲1公報には,甲1発明に係る窒化物系半導体の形成方法が記載

されているのであるから,甲1公報の段落【0235】に例示された発光ダイオー

ドは,それを用いて製造した半導体素子にほかならず,進歩性判断のための本件発

明1との対比において,甲1公報に記載されていない発光ダイオードの更なる具体

的な構成が問題となるのであれば,それを相違点として認定すれば足りることであ

って,甲1公報に発光ダイオードの更なる具体的な構成が記載されていないからと

いって,甲1公報に,本件発明1との対比可能な程度の発光ダイオードが記載され

ていないと認定することはできない。

したがって,被告の上記主張は,採用することができない。

(2) 小括

よって,相違点1に係る取消事由1には,理由がある。ただし,当該取消事由の

みでは審判を取り消すことはできず,更に甲1発明から本件発明1を容易に想到

きるか否かの検討を進めることとする。



3 取消事由3(甲1発明に係る相違点判断の誤り)について

(1) 相違点5について

原告は,甲1発明の認定誤り(取消事由1)を前提として,同発明に係る相違点

1〜相違点4の認定の誤り(取消事由2)を主張する。しかしながら,審決は,本

件発明1と甲1発明との相違点として,相違点1〜相違点4以外に,前記第2,3

(2)イの【相違点5】(凸部側面のテーパ角)を認定しているところ,甲1発明の認

定がどのようなものであっても相違点5が存することは,当事者間に争いがない。

したがって,相違点5に係る判断についての審決の判断に誤りがなければ,審決の

結論は左右されないことになるから,以下,この点を検討する。

ア 本件発明1の凸部側面のテーパ角の技術的意義




前記1(1)の認定及び本件明細書等の記載 【0025】
( 【0047】 【0051】


【0081】【図7】〜【図10】)によれば,本件発明1の凸部の側面のテーパ角

は,サファイア基板上に形成したGaN系半導体発光ダイオードにおいて,半導体

層の結晶性を維持しつつ光の散乱又は回折による出力を向上させることを考慮して,

120°超140°以下にしたものと理解される。

イ 甲1発明における凸部側面角の技術的意義

甲1公報には,【0119】サファイア基板のC面に対する凹部側面の角度は,


特に限定されるものではなく,例えば,本例においては凹部側面がサファイア基板

のC面に対してほぼ垂直である。 との記載があるから,
」 甲1発明の凸部側面角が例

示されている垂直又は垂直に近いものに限定されているとはいえず,その範囲から,

相違点5に係る構成を排除していると解することはできない。

しかしながら,甲1発明は,前記1(2)に認定のとおりのものであって,本件発明

1のように,半導体層の結晶性を維持しつつ光の散乱又は回折による出力を向上さ

せることを目的とするものではないから,そのような観点から凸部側面角が決定さ

れたものではない。

そうすると,甲1発明において,凸部側面角を相違点5に係る構成に特定するこ

とは開示されておらず,また,当該構成を採用することの示唆ないし動機付けを認

めることはできない。そこで,当業者が,他の公知文献又は周知技術に基づいてこ

れを採用することが容易であるか否かを,以下検討することとする。

ウ 甲5公報

(ア) 記載事項

特開平11−274568号公報(甲5)には,次の記載がある。


「【0016】次に,GaNベースのLED110の断面図である図2を参照する。…粗面仕

上げによって,界面に当たる光を散乱させ,その結果,GaN/電極/空気,または,エポキ

シ界面の臨界角より小さい角度で,光の一部が反射するようにする特徴118及び119が形





成される。上部表面の臨界角内に含まれる円錐内に散乱する光は,111で示すように,上部

表面を通ってLEDから脱出する。浅い角度で散乱する光117は,GaN層の上部表面から

反射されて,もう一度基板表面に当たる。この光の一部は,112で示すように,LEDの上

部表面からの脱出を可能にする角度で散乱することになる。浅すぎる角度で散乱する光は,も

う一度上部表面で跳ね返り,該プロセスが繰り返される。

【0017】サファイア表面の散乱を生じる特徴は,陥凹部119または突出部118であ

り,LEDによって生じる光のGaNにおける波長より大きいか,あるいは,ほぼその程度で

あることが望ましい。特徴が光の波長よりあまりにも小さいと光は有効に散乱しない。特徴が

GaN層の厚さに対し相対的に大きくなると,粗面仕上げによって,GaNの上部表面に欠陥

を生じる可能性がある。これらの制限内において,LED表面の特徴を変更しなくても,粗面

仕上げによって,光の結合効率が大幅に向上する。」

「【0021】基板表面の粗面仕上げは,光が基板から出射する幾何学的構造としても有効で

あることが分かっている。こうした幾何学的構造において,上部電極は反射材料から形成され,

上部電極に当たった光が反射して基板に戻される。」

「【図2】









(イ) 検討

上記(ア)の記載によれば,甲5公報には,サファイア基板上に形成したGaNベー




スのLEDにおいて,基板表面の粗面仕上げによって,界面に当たる光が散乱し,

光の結合効率が大幅に向上すること,及び,粗面仕上げは,幾何学的構造としても

有効であることが記載されているとはいえるものの,そもそも,基板に形成した凸

部側面にテーパを設けることは記載されていないし,半導体層の結晶性を維持しつ

つ光の散乱又は回折による出力を向上させることを考慮して,基板表面に形成した

凸部側面のテーパ角を決定することも記載されていない。

エ 甲6公報

(ア) 記載事項

特開平10−4209号公報(甲6)には,次の記載がある。


「【請求項1】発光素子,該発光素子は以下(a)および(b)を含むことを特徴とする,

(a)素子,該素子は,以下(a−1)ないし(a−4)を含む,
(a−1)基板,(a−2)

p−n接合領域,該p−n接合領域は複数の層を備え,その部分組をなす複数層の極性が,p

−n接合を形成するように逆極性になっており,層の1つが基板に隣接している,
(a−3)透

過性ウインドウ層,該透過性ウインドウ層は前記p−n接合領域に隣接して配置され,及び,

(a−4)電気接点,該電気接点は前記p−n接合領域に接続し,前記p−n接合に順バイア

スをかける働きをする,

(b)主界面であって,該主界面は前記素子内に配置され,少なくとも 1 つの選択方向にお

いて繰り返される特徴によってテクスチャが形成されており,選択された方向のそれぞれにお

いて関連する周期性を備えて,光の抽出を増すようになっており,1つの周期内において,少

なくとも1つの山と少なくとも1つの谷を有する断面プロフィールを備える主界面。」

「【0012】

【課題を解決するため手段】LEDの任意のまたは全ての界面における少なくとも1つの次

元において周期的な規則的界面テキスチャを備えるLEDによって,第1のパス光の抽出が改

善される。界面のパターン形成は,脱出のために素子による多重パスを必要とせずに,より多

くの光を周囲に送り込めるように制御される。さらに,規則的なテキスチャ界面によって,光





線が周囲に脱出する場合のフレネル損失を減少させることが可能になる。規則的にパターン化

されたテキスチャ形成界面は,素子内における光の単一波長に相当する特徴間隔を備えること

が可能である。テキスチャ特徴の形状及び寸法は,光の抽出が問題となる用途にとって最適に

なるように選択される。

【0013】規則的な制御された界面テキスチャ形成の結果,素子/周囲界面における有効

脱出円錐の変化または拡大によって光抽出の利得を向上させることが可能になる。マクロ整形

技法に比べると,規則的テキスチャ形成が必要とする製作プロセスはより単純である。ほぼ反

射防止コーティングによって反射を最小限に抑えるやり方で,フレネル損失を減少させること

が可能である。最後に,第1のパス光に関して,光抽出の利得がすぐに得られ,光は素子内か

ら放出する前に素子構造内において多重パスを繰り返さなくてよい。」

「【0026】最適性能に必要な規則的テキスチャ形成の特定の形状,寸法,及び,構成は,

用途によって決まる。特徴形状は,円錐状の隆起及び窪みとすることが可能である。典型的な

規則的構成は,方形,矩形,または,六角形(HCP,Hexagonal Closed Packed)アレイとする

ことが可能である。これらの構成が,それぞれ,規則的なテキスチャ形成界面の平面図を示す

図5a〜5cに示されている。周期的間隔は,おそらく,素子内の光の波長と同じか,あるい

は,それより短い。テキスチャ形成界面の断面プロフィールは,隆起または窪みによる山と谷

を示し,高さまたは深さによって決まるFWHM幅(Full-Width-at-Half-Maximum,最大値の1/

2における全幅)のように界面の平面に沿った個々の特徴の範囲も,素子内における光の波長

の数倍以下と同等にすることが可能である。隆起または窪みの最大高さまたは深さは,素子内

における光の1〜数波長分と同等にすることが可能である。規則的パターンの間隔は,波長に

よって決まる。従って,界面における電磁位相整合条件を最適に変更して,周囲に伝搬する全

パワーを増大させるのは重要である。パターンの局部的特徴の範囲及び深さは,光を透過する

ための位相条件の変更効率に影響を及ぼす。また,全光学透過及び素子性能を最大にするため,

その個々の局部的特徴のサイズ及び/または形状に関して,パターンの周期を少しづつ変化さ

せてチャープを生じさせるか,あるいは,別の変化をつけることが可能である。」





「 【図5a】 【図5b】 【図5c】







(イ) 検討

上記(ア)の記載によれば,甲6公報には,発光素子の主界面は前記素子内に配置さ
れ,少なくとも 1 つの選択方向のそれぞれにおいて関連する周期性を備え,1つの

周期内において,少なくとも1つの山と少なくとも1つの谷を有する断面プロフィ

ールを備えるテクスチャが形成されることによって,光の抽出が増すこと,及び,

規則的テクスチャの特徴形状は,円錐状の隆起及び窪みとすることが記載されてい

るとはいえるものの,半導体層の結晶性を維持しつつ光の散乱又は回折による出力

を向上させることを考慮して,基板表面に形成した凸部側面のテーパ角を決定する

ことは記載されていない。

オ 甲7公報

(ア) 記載事項

国際公開01/47039号公報(甲7)には,次の記載がある(訳文は,審決,

弁論の全趣旨による。。




「(16頁3〜18行目)Light extraction of the LED can be increased by providing

a textured surface at one of the interfaces of the III-nitride heterostructure. The

texturing may be random or ordered. This is illustrated in Figures 13a-c. Figure 1

3a shows an inverted device employing a sapphire superstrate. The large refractive

index mismatch (n〜0.6) between the sapphire superstrate and the III-nitride epitaxi

al layers results in a large portion of the light generated from the active region to




be totally-internally-reflected at the sapphire/III- nitride interface. This light is tr

apped and guided laterally along the device towards the sides of the die. However,

because of the many loss mechanisms present in the III-nitride epi layers and elec

trodes, most of the waveguided light is lost before escaping the device. In Figure 1

3b, the interface between the III-nitride heterostructure and the sapphire superstrat

e is textured in order to scatter light out of the III-nitride layers. This reduces th

e mean photon path-length within the heterostructure and reduces the effect of int

ernal absorption, thus improving light extraction. A similar effect can be achieved b

y texturing the bottom surface of the III-nitride heterstructure, or at one of the in

terfaces within the heterostructure. Multiple interfaces may be textured in combinati

on to further increase light extraction.」
(〔訳文〕LEDの光抽出は,V族窒化物ヘテロ構造の1つの界面において表面テクスチャを施

すことにより増加できる。テクスチャ加工は,不規則でも規則的でもよい。これは,図13(a)

から図13(c)に示されている。図13(a)は,サファイア上層基板を利用する逆転装置を示す。

サファイア上層基板とV族窒化物エピタキシャル層との間の屈折率の不釣合が大きい(nが約

0.6)と,活性領域から発生する大部分の光がサファイア・V族窒化物の界面で完全に内部に

反射されることになる。この光は捕らえられ,装置に沿って横方向へ,ダイの側面に向かって

誘導される。しかし,V族窒化物エピ層と電極とに存在する多くの損失機構のために,導波光

のほとんどは,装置から逃げる前に失われる。図13(b)において,V族窒化物ヘテロ構造とサ

ファイア上層基板との間の界面が,光をV族窒化物層から散乱させるためにテクスチャ加工

れる。これにより,ヘテロ構造内の平均光子路程長が減少して内部吸収効果が減少し,すなわ

ち,光抽出が改善される。同様な効果は,V族窒化物ヘテロ構造の底面,又は,ヘテロ構造内

の界面の1つにおいてテクスチャ加工することにより達成できる。多くの界面は,光抽出の更

なる増大と関連してテクスチャ加工され得る。)





「FIG.13(b)






(イ) 検討

上記(ア)の記載によれば,甲7公報には,V族窒化物ヘテロ構造とサファイア上層

基板との間の界面をテクスチャ加工して,光をV族窒化物層から散乱させることに

よって,LEDの光抽出が増加すること,及び,テクスチャ加工は,不規則でも規

則的でもよいことが記載されているとはいえるものの,そもそも,基板に形成した

凸部の側面にテーパを設けることは記載されていないし,半導体層の結晶性を維持

しつつ光の散乱又は回折による出力を向上させることを考慮して,基板表面に形成

した凸部側面のテーパ角を決定することも記載されていない。

カ 甲13公報

(ア) 記載事項

特開2001−7393号公報(甲13)には,次の記載がある。


「【0022】AlGaInN/サファイア界面に粗さを持たせた,即ちテクスチャを付けた

素子の場合であっても,多層エピタキシャル構造の厚さを大きくすると光抽出効率が改善され

る。図5は,図4にて利用したものと同様であるがAlGaInN/サファイア界面にテクス

チャをつけた素子の相対的光抽出効率をモデリングしたものである。テクスチャをつけたAl

GaInN/サファイア界面は,そこに入射する光を0次反射に対して±11°の標準偏差で

ランダム化する。多層エピタキシャル構造の厚みを増大させたことによる光抽出率の改善はこ

れらのケースにおいては22〜27%である。」





「【0024】本発明に基づくAlGaInNベースLEDの製造方法を,図7を参照しつつ

説明する。ステップ62においては基板が用意される。基板はサファイアで作られたものが望

ましい。…次にステップ65においては,基板の上面にテクスチャがつけられる。テクスチャ

づけは数ある技術のうちのいずれによって実施しても良い。…また,かわりに基板をウエット

又はドライエッチング技術によりパターニングしても良い。」

「【0028】AlGaInNベースLED32は,半透明金属層54を介して表面光を放射

する素子として説明したが,LEDは半透明金属層のかわりに高い反射率を持つメタライズ層

を有する反転素子とすることも出来る。この反転LEDにおいては,表面光は透明基板を通し

て放射される。」



(イ) 検討

上記(ア)の記載によれば,甲13公報には,AlGaInN/サファイア界面に粗

さを持たせた,すなわち,テクスチャを付けたAlGaInNベースLEDは,光

抽出効率が改善されること,及び,基板の上面につけるテクスチャは,基板をウエ

ット又はドライエッチング技術によりパターニングしても良いことが記載されてい

るとはいえるものの,そもそも,基板に形成した凸部の側面にテーパを設けること

は記載されていないし,半導体層の結晶性を維持しつつ光の散乱又は回折による出

力を向上させることを考慮して,基板表面に形成した凸部側面のテーパ角を決定す

ることも記載されていない。

キ 甲14刊行物

(ア) 記載事項

「High Output Power InGaN Ultraviolet Light-Emitting Diodes Fabricated on Pat

terned Substrates Using Metalorganic Vapor Phase Epitaxy」 Jpn. J. Appl. Phys. Vo

1. 40(2001) pp. L583-L585(Part 2, No. 6B, 15 June 2001)(甲14)には,以下

の記載がある(訳文は,審決,甲14添付訳文,弁論の全趣旨による。。






「(L583頁要約9〜10行目)Ultraviolet(UV) light-emitting diodes(LEDs) with an InGaN

multi-quantum-well(MQW) structure were fabricated on a patterned sapphire substrate(PSS) usin

g a single growth process of metalorganic vapor phase epitaxy.」

(〔訳文〕有機金属気相成長法という単一成長プロセスを用い,パターン化されたサファイア基

板(PSS)上にInGaN多重量子井戸(MQW)構造を有する紫外線(UV)発光ダイオ

ード(LED)を形成した。)

「(L583頁右欄3〜5行目)Epitaxial layers of UV-LED devices were grown on a pattern

ed sapphire substrate(PSS) by the MOVPE technique under atmospheric pressure using a single

growth process.」

(〔訳文〕単一成長プロセスを用い,大気圧下においてMOVPE(有機金属気相成長法)技術

により,パターン化されたサファイア基板(PSS)上にUV−LEDデバイスのエピタキシ

ャル層を成長させた。)

「(L583頁右欄13〜14行目)the widths of the ridges and grooves and the depth of

grooves were 3μm,3μm and 1.5μum, respectively.」

(〔訳文〕凸部の幅,凹部の幅,及び凹部の深さはそれぞれ,3μm,3μm及び1.5μmで

あった。)

「(L584頁左欄16〜21行目)The flip-chip LEDs were placed on lead frames, and the

n molded by epoxy resin. The molded LEDs were measured at RT. Standard mounted LEDs, w

hich were grown on a conventional sapphire substrate(CSS), were also fabricated and evaluated

(CSS-UV-LED, sample B).」

(〔訳文〕フリップチップLEDをリードフレーム上に載置した後,エポキシ樹脂により成形し

た。形成した発光ダイオード(LED)を室温(RT)で計測した。従来のサファイア基板(C

SS)上に成長させ,標準的にマウントしたLEDも作製し,評価した(CSS−UV−LE

D,サンプルB))












(〔訳文〕図1.PSS上に作製されたUV−LEDの概略図)















(〔訳文〕(表1.LEPS−UV−LED(サンプルA)とCSS−UV−LED(サンプ

ルB)の比較

サンプルA サンプルB

基板 PSS
_
CSS
〈1100〉サファイア
_

〈1120〉GaN

転位密度 1.5×108cm−2 4×108cm−2
ダイボンディング フリップチップ 標準型
20mA順方向電流時 3.4V 3.4V
の動作電圧
出力Po 15.6mW 〜3.5mW
(20mA時)
外部量子効率ηe 24% 〜5.4%
(20mA時)
100μA逆バイアス電流時 17.8V 11.5V
の電圧



(イ) 検討

上記(ア)の記載によれば,甲14刊行物には,凸部の幅3μm,凹部の幅3μm,

凹部の深さ1.5μmの凹凸を設けたサファイア基板上に作製したGaN系LED

は,従来のサファイア基板を用いたLEDよりも,転位密度が小さく,出力及び外

部量子効率が高くなることが記載されているとはいえるものの,そもそも,基板に

形成した凸部の側面にテーパを設けることは記載されていないし,半導体層の結晶

性を維持しつつ光の散乱又は回折による出力を向上させることを考慮して,基板表

面に形成した凸部側面のテーパ角を決定することは記載されていない。

ク 甲15刊行物

(ア) 記載事項

「High Output Power InGaN Ultraviolet Light-Emitting Diodes Fabricated on

Patterned Substrates Using Metalorganic Vapor Phase Epitaxy」 phys. stat. sol. (a) 188,

No.1, 121-125(2001)(甲15)には,次の記載がある(訳文は,審決,甲15添付





訳文,弁論の全趣旨)。


「(121頁要約1〜3行目)Ultraviolet(UV) light-emitting diodes(LEDs) with an InGaN mult

i-quantum-well(MQW) structure were fabricated on a patterned sapphire substrate(PSS) using a

single growth process of metalorganic vapor phase epitaxy.」

(〔訳文〕有機金属気相成長法という単一成長プロセスを用い,パターン化されたサファイア基

板(PSS)上にInGaN多重量子井戸(MQW)構造を有する紫外線(UV)発光ダイオ

ード(LED)を形成した。)

「(122頁9〜11行目)Epitaxial layers of UV-LED devices were grown on a patterned s

apphire substrate(PSS) by the MOVPE technique using a single growth process, without a mask

or any interruption.」

(〔訳文〕単一成長プロセスを用い,マスクも一切の中断もない状態で,MOVPE(有機金属

気相成長法)技術により,パターン化されたサファイア基板(PSS)上にUV−LEDデバ

イスのエピタキシャル層を成長させた。)

「(122頁14〜15行目)The dimensions of the structure were as follows: the widths of

the ridges and grooves and the depth of grooves were 3μm,3μm and 1.5μm, respectively.」

(〔訳文〕当該構造の寸法は以下のとおりであった:凸部の幅,凹部の幅,及び凹部の深さはそ

れぞれ,3μm,3μm及び1.5μmであった。)

「(122頁27〜35行目)The flip-chip LEDs were placed on lead frames, and then caps

ulated by epoxy resin. Four types of LEDs were fabricated and measured at RT. Sample A was
_ _

fabricated on the PSS with parallel grooves along the 〈1100〉sapphire (〈1120〉GaN) direction,
_ _

Sample B was fabricated on the PSS with parallel grooves along the 〈1120〉sapphire (〈1100〉G

aN) direction, sample C was a standard mounted (p-side up) LED with a transparent p-type ele

ctrode fabricated on the same wafer as sample A, and sample D was standard mounted LED wi

th a transparent p-type electrode, which was grown on a conventional sapphire substrate(CSS),

as listed in Table1.」





(〔訳文〕フリップチップLEDをリードフレーム上に載置した後,エポキシ樹脂でカプセル化

した。室温で,4種類のLEDが形成され,計測された。表1に記載されているとおり,サン
_ _

プルAは〈1100〉サファイア(〈1120〉GaN))方向の平行な溝を有するPSS上に形成され,
_ _

サンプルBは〈1120〉サファイア( 1100〉
〈 GaN)方向の平行な溝を有するPSS上に形成され,

サンプルCは,サンプルAと同じウエハ上に形成された透明のp型電極を有する(p面が上の)

標準型LEDであり,サンプルDは,従来のサファイア基板(CSS)上に成長させ,標準的

にマウントした,p型透明電極を有するLEDであった。)








(〔訳文〕図1.PSS上に作製されたUV−LEDの概略図)















(〔訳文〕表1
LEPS−UV−LEDとCSS−UV−LEDの特徴

サンプルA サンプルB サンプルC サンプルD

基板 PSS
_ PSS _ PSS
_ CSS
〈1100〉サファイア
_ 〈1120〉サファイア
_ 〈1100〉サファイア
_

〈1120〉GaN 〈1110〉GaN 〈1120〉GaN
転位密度 1.5×108 *
) 1.5×108 4×108
cm−2 cm−2 cm−2
ダイボン フリップチップ フリップチップ 標準型 標準型
ディング
出力 15.6mW 〜15mW 〜9mW 〜3.5mW
(20mA時)
外部量子効率 24% 〜23% 〜13.8% 〜5.4%

*凸領域に集中 )



(イ) 検討

上記(ア)の記載によれば,甲15刊行物には,サファイア基板に凸部の幅3μm,

凹部の幅3μm,凹部の深さ1.5μmの凹凸を設けたLEDは,従来のサファイア

基板を用いたLEDよりも,転位密度が小さく,出力及び外部量子効率が高くなる

ことが記載されているとはいえるものの,そもそも,基板に形成した凸部の側面に

テーパを設けることは記載されていないし,半導体層の結晶性を維持しつつ光の散

乱又は回折による出力を向上させることを考慮して,基板表面に形成した凸部側面

のテーパ角を決定することは記載されていない。

ケ 甲42の1刊行物

(ア) 記載事項

国際公開01/41225号公報(甲42の1)には,次の記載がある(訳文は

弁論の全趣旨)。





「図7








(イ) 検討

特許出願に際して,願書に添付された図面は,設計図ではなく,特許を受けよう

とする発明の内容を明らかにするための説明図にとどまり,同図上に,当業者に理

解され得る程度に技術内容が明示されていれば足り,これによって当該部分の角度

や寸法等が特定されるものではない。しかるところ,上記(ア)の図面が説明図にすぎ

ないことはその体裁から明らかである。

したがって,上記(ア)の記載のみから,基板に形成された凸部のテーパ角が12

0°〜140°の範囲にあるという特定の構成が開示されているとはいえない。

周知技術

サファイア基板において,規則的な凹凸パターンを設けることで,GaN系半導

体の結晶品質を改善し(すなわち,内部量子効率を向上させ),多重反射を有効に抑

制できる(すなわち,外部量子効率を向上させる)という技術が,周知技術であっ

たことを認めるに足りる証拠はない。

甲14刊行物や甲15刊行物には,サファイア基板に規則的なパターンを設ける

ことで,GaN系半導体の転位密度を小さくできること,すなわち,結晶品質を改

善できることは記載されているものの,多重反射を有効に抑制できることは記載も




示唆もされていない。

サ 小括

以上イ〜コによれば,サファイア基板上に形成したGaN系半導体発光ダイオー

ドにおいて,半導体層の結晶性を維持しつつ光の散乱又は回折による出力を向上さ

せることを考慮し,基板表面に形成した凸部の側面のテーパ角を120°超14

0°以下とすることは,甲1発明に記載ないし示唆はなく,また,その外のいずれ

の公知文献及び周知技術にも記載ないし示唆されてはいない。

したがって,甲1発明において,本件発明1の相違点5に係る構成とすることは,

当業者にとって容易に想到し得たものとはいえない。

(2) まとめ

以上のとおりであるから,その余の点について判断するまでもなく,本件発明1

が,甲1発明に公知技術又は周知技術を適用して当業者が容易に想到することがで

きたとはいえない。また,本件発明1の特定事項に更に他の特定事項を付加した本

件発明2〜4が,甲1発明に公知技術又は周知技術を適用して当業者が容易に想到

し得たものでないことも明らかである。

よって,取消事由3は,理由がなく,甲1発明に基づいて本件発明1の進歩性

否定できない以上,取消事由1及び2について検討するまでもなく,これに基づい

て審決を取り消すことはできない。



4 取消事由6について

(1) 相違点8について

審決は,本件発明1と甲8発明とに前記第2,3(3)イの【相違点8】(凸部の配

置)のとおりの相違点があると認定しているところ,甲8発明の認定がどのような

ものであっても相違点8があることは,当事者間に争いがない。しかるに,原告は

相違点8に係る構成の容易想到性について何ら主張しないから,本件主張立証上,

甲8発明につき,本件発明1の相違点8に係る構成とすることは当業者にとって容




易想到でないことに帰する。したがって,このこと自体からして審決の結論には誤

りがないことになる。

ただし,審決において相違点8についての判断がなされず,この点についての容

易想到性の検討が行われていないことに鑑み,審決において判断が示された相違点

9について,更に検討する。

(2) 相違点9について

審決は,本件発明1と甲8発明との相違点として,相違点6〜相違点8以外に,

前記前記第2,3(3)イの【相違点9】(凸部側面のテーパ角)を認定しているとこ

ろ,甲8発明の認定がどのようなものであっても,相違点9があることは,当事者

間に争いがない。そうすると,相違点9に係る判断についての審決の判断に誤りが

なければ,審決の結論は左右されないことになるから,以下検討する。

ア 本件発明1の凸部側面のテーパ角の技術的意義

本件発明1の凸部の側面のテーパ角の技術的意義は,前記3(1)アに認定判断のと

おりである。

イ 甲8発明の凸部側面の立ち上がり角の技術的意義

(ア) 検討

甲8公報の特許請求の範囲には,【請求項1】基板と該基板上に気相成長された


半導体結晶とからなる半導体基材であって,前記基板の結晶成長面が凹凸面とされ,

前記半導体結晶は凹部及び/または凸部からファセット構造を形成しながら成長さ

れたものであることを特徴とする半導体基材。 と記載されており,
」 凸部の立ち上が

り傾斜と基板平面とがなす角度について特定されていないところ,【請求項7】上


記基板に凹凸加工した凸部の立上り斜面と基板平面とが成す角度が60°以上であ

ることを特徴とする請求項1記載の半導体基材。 との記載があるから,
」 請求項1に

係る発明にはそのような限定がされていない態様のものを含むことになり,甲8公

報には,凸部側面の立ち上がり角が60°未満のもの(本件明細書等の段落【00

25】に係る凹部の底面と側面のなす角度が120°以上であるものに相応する。)




を必ずしも形式的・論理的な文言上からは排除していないと解される。

しかしながら,甲8公報には「【0032】また基板に凹凸加工した凸部11の立

上り斜面と基板平面が成す角度は,60°以上とすることが好ましく,可及的に直

角に近いことが特に望ましい。角度が60°よりも小さい場合,凸部斜面から成長

が始まりファッセット成長進行後の平坦化が良好に行えない問題が発生した。本発

明者らの検討の結果,60°以上の角度を形成する事で,とりわけ直角に近い立上

り斜面にすると,ファセット形成並びにその後の平坦化が実質的に阻害されないこ

とを見出した。なお可能であれば,90°を超える斜面角度とするのも好ましい。」

と記載されているから,当業者は,甲8発明の凸部側面の立ち上がり角を60°未

満とすると甲8発明の効果が阻害されると理解し,たとえ甲8公報の請求項1の記

載に接したとしても,凸部立ち上がり角として60°未満のものまで開示されてい

るとは考えない。また,前記1(3)に認定のとおり,甲8発明の凸部は,結晶成長当

初からファセット面が形成可能な素地面をあらかじめ提供し,基板からC軸方向に

伸びる転位線がファセット面で横方向に曲げられ上方に伝播しなくなることで,成

長面の表面近傍に基板からの転位の伝播がない低転位密度領域を形成するために設

けたものであって(【0016】【0017】 ,光を散乱又は回折させるために設け


たものではなく,また,甲8公報には,半導体層の結晶性を維持しつつ光の散乱又

は回折による出力を向上させることを考慮して凸部側面の立ち上がり角を決定する

ことは,記載も示唆もされていない。そうであれば,甲8公報に,半導体層の結晶

性を維持しつつ光の散乱又は回折による出力を向上させることを考慮して,基板表

面に形成した凸部側面のテーパ角を120°超140°以下とするという特定の構

成は開示されていないというべきである。

(イ) 原告の主張に対して

原告は,本件発明1の凸部側面のテーパ角は,本件明細書等の段落【0025】

及び【図9】に記載されているとおり,凸部上面と側面とがなす角をいうところ,

下記のとおり,甲8公報の【図6】
(断面写真)によれば,甲8発明の凸部側面の立




ち上がり角を図上測定すれば,その角度は,本件発明1の測定方法に即して,おお

むね130°であるとも主張している。




しかしながら,本件発明1の凸部側面のテーパ角を凸部上面と側面とがなす角を

いうものと解するとしても,甲8公報には,凸部上面と凸部側面とがなす角度につ

いての具体的な記載はなく,かつ,凸部の立上り傾斜面と基板平面とがなす角度と

同傾斜面と凸部上面とがなす角度とを変えることについての記載もないのであるか

ら,上記(ア)に摘示した段落【0032】の記載にしか接していない当業者であれば,

甲8公報の【図6】
(断面写真)は,工業技術上の制約から凸部の肩が丸くなってい

るにすぎないと理解するといえる。そうすると,甲8公報において,甲8発明の凸

部上面と側面とがなす角度が,本件発明1の凸部側面のテーパ角として特定された

の範囲内にあることが開示されているとはいえない。

したがって,原告の上記主張は,採用することができない。

ウ 甲1発明における凸部側面のテーパ角の技術的意義

甲1公報に,半導体層の結晶性を維持しつつ光の散乱又は回折による出力を向上

させることを考慮して,基板表面に形成した凸部側面角を決定することが記載も示

唆にされていないことは,前記3(1)イに認定判断のとおりである。

エ その他公報等

本件証拠上,半導体層の結晶性を維持しつつ光の散乱又は回折による出力を向上

させることを考慮して,基板表面に形成した凸部側面のテーパ角を決定することを




記載又は示唆している文献が認められないことは,前記3(1)ウ〜コに認定判断のと

おりである。

オ 小括

以上イ〜エによれば,サファイア基板上に形成したGaN系半導体発光ダイオー

ドにおいて,半導体層の結晶性を維持しつつ光の散乱又は回折による出力を向上さ

せることを考慮し,基板表面に形成した凸部側面のテーパ角を120°超140°

以下とすることは,甲8発明に記載又は示唆はなく,また,その外のいずれの公知

文献及び周知技術にも記載又は示唆されていない。

したがって,甲8発明において,本件発明1の相違点9に係る構成とすることは,

当業者にとって容易に想到し得たものとはいえない。

(3) まとめ

以上のとおりであるから,その余の点について判断するまでもなく,本件発明1

が甲8発明に公知技術又は周知技術を適用して当業者が容易に想到することができ

たものとはいえない。また,本件発明1の特定事項に更に他の特定事項を付加した

本件発明2〜4が,甲8発明に公知技術又は周知技術を適用して当業者が容易に想

到し得たものでないことも明らかである。

よって,取消事由6は,理由がなく,甲8公報に基づいて本件発明1の進歩性

否定できない以上,取消事由4及び5について検討するまでもなく,これに基づい

て審決を取り消すことはできない。



第6 結論

以上の次第であり,取消事由1の一部には理由があるものの,取消事由3及び

取消事由6には理由がないから,その余の取消事由について判断するまでもなく,

原告の請求は理由がない。

よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。





知的財産高等裁判所第2部




裁判長裁判官
清 水 節




裁判官

中 村 恭




裁判官

中 武 由 紀