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事件 |
平成
24年
(ワ)
11800号
特許権侵害差止請求事件
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裁判所のデータが存在しません。 | |
裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2014/03/27 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
判例全文 | |
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判例全文
平成26年3月27日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 平成24年(ワ)第11800号 特許権侵害差止請求事件 口頭弁論の終結の日 平成25年12月17日 判 決 東京都中央区<以下略> 原 告 東レ・デュポン株式会社 同訴訟代理人弁護士 増 井 和 夫 橋 口 尚 幸 齋 藤 誠 二 郎 山口県宇部市<以下略> 被 告 宇 部 興 産 株 式 会 社 同訴訟代理人弁護士 尾 崎 英 男 上 野 潤 一 日 野 英 一 郎 今 田 瞳 主 文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 被告は,別紙物件目録記載のポリイミドフィルムを製造し,譲渡し,又は譲渡 の申出をしてはならない。 第2 事案の概要 本件は,ポリイミドフィルム及びそれを基材とした銅張積層体に関する特許権 を有する原告が,被告によるポリイミドフィルムの製造,譲渡若しくは譲渡の申 出(以下「製造等」という。)がその特許権を侵害し,又は侵害するものとみな されるとして,被告に対し,特許法100条1項に基づき,上記ポリイミドフィ ルムの製造等の差止めを求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに各項末尾掲記の証拠及び弁論の全 趣旨により容易に認められる事実) (1) 本件特許権 原告は,次の特許権(以下「本件特許権」という。)を有している。 特許番号 第4777471号 発明の名称 ポリイミドフィルムおよびそれを基材とした銅張積層体 優 先 日 平成16年3月30日 原出願日 平成17年3月25日 出 願 日 平成22年8月11日 登 録 日 平成23年7月8日 (2) 本件両発明 本件特許出願の願書に添付された特許請求の範囲の請求項1及び9の記載 は,本判決添付の特許公報の該当項記載のとおりである(以下,請求項9に係る 発明を「本件発明1」,請求項1に係る発明を「本件発明2」といい,併せて 1 「本件両発明」という。)。 (3) 構成要件の分説 本件両発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説した構 成要件をそれぞれの符号に従い「構成要件1A1」のようにいう。)。 ア 本件発明1 1A1 パラフェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル および3,4’−ジアミノジフェニルエーテルからなる群から選ばれる 1以上の芳香族ジアミン成分と、 1A2 ピロメリット酸二無水物および3,3’−4,4’−ジフェニルテ トラカルボン酸二無水物からなる群から選ばれる1以上の酸無水物成分 と 1A3 を使用して製造されるポリイミドフィルムであって、 1B 該ポリイミドフィルムが、粒子径が0.07〜2.0μmである微 細シリカを含み、 1C1 島津製作所製TMA−50を使用し、測定温度範囲:50〜20 0℃、昇温速度:10℃/minの条件で測定したフィルムの機械搬 送方向(MD)の熱膨張係数α M D が10ppm/℃以上20ppm /℃以下の範囲にあり、 1C2 前記条件で測定した幅方向(TD)の熱膨張係数α T D が3ppm /℃以上7ppm/℃以下の範囲にあり、 1D 前記微細シリカがフィルムに均一に分散されているポリイミドフィ ルム。 イ 本件発明2 2A1 パラフェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル および3,4’−ジアミノジフェニルエーテルからなる群から選ばれる 1以上の芳香族ジアミン成分と、 2A2 ピロメリット酸二無水物および3,3’−4,4’−ジフェニルテ トラカルボン酸二無水物からなる群から選ばれる1以上の酸無水物成分 と 2A3 を使用して製造されるポリイミドフィルムであって、 2B 該ポリイミドフィルムが、粒子径が0.07〜2.0μmである微 細シリカを含み、 2C1 島津製作所製TMA−50を使用し、測定温度範囲:50〜20 0℃、昇温速度:10℃/minの条件で測定したフィルムの機械搬 送方向(MD)の熱膨張係数α M D が10ppm/℃以上20ppm /℃以下の範囲にあり、 2C2 前記条件で測定した幅方向(TD)の熱膨張係数α T D が3ppm /℃以上7ppm/℃以下の範囲にあり、 2D 前記微細シリカがフィルムに均一に分散されているポリイミドフィ ルムを基材とし、 2E この上に厚みが1〜10μmの銅を形成させた銅張積層体を有する 2F ことを特徴とするCOF用基板。 2 (4) 被告によるポリイミドフィルムの製造等 ア 被告は,遅くとも平成12年以降,業として,「ユーピレックス(UPI LEX)−25S」という名称が付された厚さ25μmのポリイミドフィル ム(以下「先行製品」という。)の製造等をしている。 (甲4,6) イ 被告は,本件発明2が特許発明であることを知りながら,業として,別紙 物件目録に記載された厚さ約35μmのポリイミドフィルム(以下「被告製 品」という。)の製造等をしている。 (5) 被告製品の構成と本件両発明の構成要件に対する充足性等 ア 被告製品は,パラフェニレンジアミン(以下「PPD」という。)と(1 a1),3,3’−4,4’−ジフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下 「BPDA」という。)と(1a2)を使用して製造されるポリイミドフィ ルムであって(1a3),島津製作所製TMA−50を使用し,測定温度範 囲:50〜200℃,昇温速度:10℃/minの条件で測定したフィルム の機械搬送方向(MD)の熱膨張係数αMDが13.7〜14.2ppm/℃ であり(1c1),前記条件で測定した幅方向(TD)の熱膨張係数αTD が 5.0〜5.4ppm/℃であり(1c2),微細シリカがフィルムに均一 に分散されているポリイミドフィルム(1d)であるから,本件発明1の構 成要件1A3,1C1及び2並びに1Dを充足する。 イ 被告製品は,PPDと(2a1),BPDAと(2a2)を使用して製造 されるポリイミドフィルムであって(2a3),島津製作所製TMA−50 を使用し,測定温度範囲:50〜200℃,昇温速度:10℃/minの条 件で測定したフィルムの機械搬送方向(MD)の熱膨張係数αMD が13.7 〜14.2ppm/℃であり(2c1),前記条件で測定した幅方向(T D)の熱膨張係数αTD が5.0〜5.4ppm/℃であり(2c2),微細 シリカがフィルムに均一に分散されているポリイミドフィルムを基材とする (2d)COF用基板(2f)の生産に用いる物であって,日本国内におい て広く一般に流通しているものでなく,本件発明2による課題の解決に不可 欠なものである。 2 争点 本件の争点は,(1)直接侵害による請求に関して,@被告製品の構成,A被告製 品が本件発明1の技術的範囲に属するか,B被告が本件発明1に係る特許権につい て先使用による通常実施権を有するか,C本件発明1に係る特許が特許無効審判に より無効にされるべきものと認められるかであり,(2)間接侵害による請求に関し て,上記@の外,A被告製品が本件発明2に係るCOF用基板の生産に用いる物に 当たるか,B被告において被告製品が本件発明2の実施に用いられることを知って いるか,C被告が本件発明2に係る特許権について先使用による通常実施権を有す るか,D本件発明2に係る特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認め られるかである。 3 争点についての当事者の主張 (1) 直接侵害による請求に関して ア 争点@(被告製品の構成)について 3 (原告の主張) 被告製品は,粒子径が0.12〜0.14μmの微細シリカを含む。 被告製品は,粒子径が0.01μm以下の微細シリカを含まないのであっ て,被告製品の電子顕微鏡写真や被告製品に含まれる微細シリカのカタログ に掲載されている電子顕微鏡写真にも写っていない。仮に粒子径が0.01 μm以下の粒子をもごく少量含むとしても,それはシリカでなく,それをシ リ カ と し た エ ネ ル ギ ー 分 散 型 X 線 分 光 法 ( Energy Dispersive X-ray Spectrometry。以下「EDS」という。)による組成分析は,通常,μm単 位の範囲で分析し,加速電圧を5kvに下げても,直径0.4μm弱の範囲 で分析してしまうから,隣接する粒子径が0.12〜0.14μmの微細シ リカの組成を分析したにすぎない。 (被告の主張) 被告製品は,粒子径が0.01μm以下の粒子を多数含む。被告製品の電 子顕微鏡写真にも写っているし,被告製品に含まれる微細シリカのカタログ に掲載されている電子顕微鏡写真には写っていないが,除かれた可能性があ る。EDSによる組成分析は,加速電圧を下げるとともに試料を薄くすれ ば,nm単位の範囲でも分析することができるので,加速電圧を5kvに下 げるとともに,被告製品に用いられる微細シリカ中の上記粒子のうち粒子径 が約0.1μmの微細シリカから離れたものの組成を分析したところ,それ はシリカであった。 イ 争点A(被告製品が本件発明1の技術的範囲に属するか)について (原告の主張) 構成要件1A1及び2の「1以上」は,文言どおり,1以上を意味する。 本件特許出願の願書に添付された明細書(以下「本件明細書」という。)の 発明の詳細な説明には,いずれも2種類の芳香族ジアミン成分と酸無水物成 分とを使用して製造されるポリイミドフィルムの記載しかないが(段落【0 063】ないし【0065】),これは実施例の説明にすぎない。被告製品 は,いずれも1種類の芳香族ジアミン成分と酸無水物成分とを使用して製造 されるものである。そうであるから,被告製品は,本件発明1の構成要件1 A1及び2を充足する。 また,構成要件1Bは,「粒子径が0.07〜2.0μmである微細シリ カを含み」という構成であるから,文言どおり,粒子径が0.07〜2.0 μmである微細シリカを含むことを意味し,粒子径が0.07μm未満又は 2.0μm超の微細シリカを含んでも,意図的に添加されたものでなく,フ ィルムの易滑性を得るという本件発明1の作用効果に影響しない場合は含ま れる(段落【0025】)。そして,本件明細書の発明の詳細な説明には, 微細シリカの粒度分布について,レーザー回折法を用いる島津製作所製SA L D − 2 00 0 Jで 測 定 して 特 定し た 旨の 記 載 が ある が (段 落 【 00 4 6】),これは実施例の説明にすぎない。被告製品は,粒子径が0.12〜 0.14μmである微細シリカを含むのであって,仮に粒子径が0.01μ m以下の微細シリカを含むとしても,意図的に添加されたものでなく,ごく 少量であって,易滑性に影響しない。そうであるから,被告製品は,本件発 4 明1の構成要件1Bを充足する。 したがって,被告製品は,本件発明1の技術的範囲に属する。 (被告の主張) 本件明細書の発明の詳細な説明には,いずれも2種類の芳香族ジアミン成 分と酸無水物成分とを使用して製造されるポリイミドフィルムの記載しかな いから(段落【0063】ないし【0065】),構成要件1A1及び2の 「1以上」は,2以上を意味する。被告製品は,いずれも1種類の芳香族ジ アミン成分と酸無水物成分とを使用して製造されるものである。そうである から,被告製品は,本件発明1の構成要件1A1及び2を充足しない。 また,微粒子の粉体は,膨大な数の粒子の集合体であるから,個々の粒子 径に意味はなく,粒子径の分布を示す粒度分布とこれから算出される平均粒 子径に意味がある。本件明細書の発明の詳細な説明にも,「特に粒子径0. 07〜2.0μmである微細シリカを…フィルムに均一に分散されることに よって微細な突起を形成させるのが好ましい。…また平均粒子径について は,0.10μm以上0.90μm以下が好ましく,0.10μm以上0. 30μm以下がより好ましい。」「粒径0.08μm未満及び2μm以上が 排除された平均径0.30μmのシリカ」などと「粒子径」を粒度分布の意 味で用い,粒度分布と平均粒子径で微細シリカを限定する旨の記載がある (段落【0025】【0046】【0059】【0061】【0063】な いし【0065】【0068】)。原告は,拒絶理由の通知を受けて提出し た各意見書においても,「粒子径」を「粒度分布」に言い換えていた。本件 発明1が微細シリカの粒子径を0.07〜2.0μmに特定したのは,自動 光学検査システムでの検査に問題なく適応することができるようにするため であって(段落【0025】),粒子径が0.07μm未満又は2.0μm 超の微細シリカを含んでも,意図的に添加されたものでなく,フィルムの易 滑性に影響しなければ含まれるというわけではない。さらに,粒度分布の測 定方法には,主なものとして,BET法,顕微鏡法,遠心沈降法及びレーザ ー回折法があり,これらから算出される各平均粒子径は,最大で約4倍もの 違いが生じる。本件明細書の発明の詳細な説明では,レーザー回折法で粒度 分布を測定しているから(段落【0046】),構成要件1Bは,レーザー 回折法で測定した粒度分布が0.07〜2.0μmの微細シリカを含むこ と,すなわち,粒子径が0.07μm未満又は2.0μm超の微細シリカを 含まないことを意味する。被告製品は,粒子径が0.01μm以下である微 細シリカを含む。そうであるから,被告製品は,本件発明1の構成要件1B を充足しない。 したがって,被告製品は,本件発明1の技術的範囲に属しない。 ウ 争点B(被告が本件発明1に係る特許権について先使用による通常実施権 を有するか)について (被告の主張) 被告は,遅くとも平成14年11月ころまでに,本件発明1の内容を知ら ないで自ら,PPDと(1a'1),BPDAと(1a'2)を使用して製造さ れるポリイミドフィルムであって(1a'3),該ポリイミドフィルムが,遠 5 心沈降法で測定した粒度分布から算出した平均粒子径が0.09〜0.11 μmであるコロイダルシリカを含み(1b'),島津製作所製TMA−50を 使用し,測定温度範囲:50〜200℃,昇温速度:10℃/minの条件 で測定したフィルムの機械搬送方向(MD)の熱膨張係数αMD が10〜20 ppm/℃であり(1c'1),前記条件で測定した幅方向(TD)の熱膨張 係数αTD が3〜7ppm/℃であり(1c'2),コロイダルシリカがフィル ムに均一に分散されているポリイミドフィルム(1d')に係る発明を完成さ せ,本件特許権の優先日である平成16年3月30日当時,現に日本国内に おいて,上記発明の技術的範囲に属する先行製品の製造等の事業をしてい た。 前記発明の1a'1ないし3並びに1c'1及び2の構成は,本件発明1の構 成要件1A1「パラフェニレンジアミン」,1A2「3,3’−4,4’− ジフェニルテトラカルボン酸二無水物」,1A3並びに1C1及び2と一致 する。仮に構成要件1Bの「粒子径が0.07〜2.0μmである微細シリ カを含み」という構成が,粒子径が0.07〜2.0μmの微細シリカを含 むことを意味するのであれば,コロイダルシリカは「微細シリカ」に当たる から,前記発明の1b'の構成は,本件発明1の構成要件1Bと一致する。ま た,前記発明の1d'の構成は,本件発明1の構成要件1Dと一致する。そう すると,前記発明は,一部の本件発明1に相当する。 被告が当時製造していた先行製品には,本件発明1の構成要件1C1や1 C2と一致しないものもあるが,これはαMD を10〜20ppm/℃,αTD を3〜7ppm/℃とすることを目標にしていなかったからにすぎず,前記 発明の技術的範囲に属する先行製品を量産することはできたから,前記発明 は完成していたし,上記先行製品の製造等も事業として成立していた。@被 告やその譲渡先が公表していたウェブサイト,論文等には,上記先行製品の 記載がないが,網羅的に記載しなかっただけである。また,A被告は,厚さ 約35μmのポリイミドフィルムについては,αTD をαMD と等しくしたもの を「ユーピレックス(UPILEX)−35SGA」とし,αTD をαMD より 低くした被告製品を「ユーピレックス(UPILEX)−35SGAV1」 として,別の名称を付しているのに対し,厚さ25μmの先行製品について は,別の名称を付していないが,これは,被告製品については顧客の要望を 受けて別の名称を付したものの,原則的には製品管理を簡素化するためにグ レードを必要以上に増やさない方針を採っていることによるものにすぎな い。さらに,B被告は,平成20年6月,αTD をαMD より低くしたポリイミ ドフィルムに関する発明について特許出願したが,これは効率的な製造方法 に係る改良発明にすぎない。 被告製品は,粒子径が0.12〜0.14μmである微細シリカを含むの であれば,前記発明の範囲内にある。また,被告製品の製造等も,平成21 年4月に開始され,前記発明に係るポリイミドフィルムの製造等という事業 の目的の範囲内にある。 したがって,被告は,本件発明1に係る特許権について先使用による通常 実施権を有する。 6 (原告の主張) 被告が製造した先行製品は,1ロットの中ですら,αMD が10ppm/℃ 未満であったり,αTD が7ppm/℃超であったりして,本件発明1の構成 要件1C1及び2と一致しないものであったから,被告は,平成16年3月 30日以前に本件発明1に相当する発明を完成させていない。 このことは,@被告やその譲渡先が公表していたウェブサイト,論文等に 上記発明に関する記載がないこと,A厚さ約35μmのポリイミドフィルム については,平成17年ころにαTDをαMDと等しくして譲渡し始めたものを 「ユーピレックス(UPILEX)−35SGA」とし,平成21年4月に αTD をαMDより低くして譲渡し始めた被告製品を「ユーピレックス(UPI LEX)−35SGAV1」として,別の名称を付しているのに対し,厚さ 25μmの先行製品については,別の名称を付していないこと,B被告がαT D をαMD より低くしたポリイミドフィルムに関する発明について特許出願した のは,平成20年6月であることからも明らかである。 仮に被告が平成16年3月30日以前に本件発明1に相当する発明を完成 させていたとしても,被告は,同日当時,上記発明の技術的範囲に属する先 行製品を試作する程度で,量産することができなかったから,当該先行製品 の製造等の事業又はその準備をしていなかった。 仮に被告が平成16年3月30日以前に本件発明1に相当する発明を完成 させ,同日当時,上記発明の技術的範囲に属する先行製品の製造等の事業又 はその準備をしていたとしても,被告製品は,上記発明に係るポリイミドフ ィルムと製造方法や物性値を異にするから,上記発明の範囲内にない。ま た,被告は,平成19年5月に,上記事業又はその準備を放棄して,αTD を αMD と等しくした「ユーピレックス(UPILEX)−35SGA」の製造 等をするようになった後,平成21年4月に被告製品の製造等をするように なったから,被告製品の製造等は,上記発明に係るポリイミドフィルムの製 造等という事業の目的の範囲内にない。 したがって,被告は,本件発明1に係る特許権について先使用による通常 実施権を有しない。 エ 争点C(本件発明1に係る特許が特許無効審判により無効にされるべきも のと認められるか)について (ア) 新規性の欠如 (被告の主張) 被告は,前記ウ(被告の主張)のとおり,遅くとも平成14年11月こ ろまでに一部の本件発明1に相当する発明を完成させ,同月以降,多数の 銅張積層体メーカーに対し,相互に守秘義務を負うことなく,上記発明の 技術的範囲に属する先行製品を譲渡して,上記発明を公然と実施した。 したがって,本件発明1は,本件特許権の優先日に係る特許出願前に公 然実施をされた発明である。 (原告の主張) 被告は,前記ウ(原告の主張)のとおり,本件特許権の優先日である平 成16年3月30日以前に本件発明1に相当する発明を完成させていない 7 し,仮に同日以前に上記発明を完成させ,銅張積層体メーカーに対して上 記発明の技術的範囲に属する先行製品を譲渡したとしても,それはチッ プ・オン・フィルム(Chip On Film。以下「COF」という。)用のポリ イミドフィルムを共同開発するためであって,相互に守秘義務を負うか ら,上記発明を公然と実施していない。 したがって,本件発明1は,本件特許権の優先日に係る特許出願前に公 然実施をされた発明でない。 (イ) 冒認出願 (被告の主張) 被告は,前記ウ(被告の主張)のとおり,遅くとも平成14年11月こ ろまでに,一部の本件発明1に相当する発明をした。 したがって,本件特許は,本件発明1について特許を受ける権利を有し ない者の特許出願に対してされたものである。 (原告の主張) 被告は,前記ウ(原告の主張)のとおり,平成16年3月30日以前に 本件発明1に相当する発明を完成させていない。本件発明1を完成させた のは,原告である。 したがって,本件特許は,本件発明1について特許を受ける権利を有し ない者の特許出願に対してされたものでない。 (ウ) サポート要件及び実施可能要件違反 (被告の主張) 本件発明1に係るポリイミドフィルムは,いずれも1種類の芳香族ジア ミン成分と酸無水物成分とを使用して製造されるものを含むが,本件明細 書の発明の詳細な説明には,そのようなポリイミドフィルムでも,αMD を 金属の熱膨張係数に近似させつつ,αTD をシリコンの熱膨張係数に近似さ せるという本件発明1の課題を解決することができる旨の記載がない。本 件特許権の優先日である平成16年3月30日当時,PPDとBPDAと を使用して製造されるポリイミドフィルムでは,熱膨張係数が4ppm /℃以下になり,フィルムの機械搬送方向(MD)の延伸倍率に比べて幅 方向(TD)の延伸倍率を高く設定しても,αMD を10〜20ppm/℃ としつつ,αTD を3〜7ppm/℃とすることはできないと認識されてい たから,本件明細書の発明の詳細な説明には,その場合における実施例の 記載が必要であったにもかかわらず,その記載がない。 したがって,本件発明1は,発明の詳細な説明に記載されていないし, 発明の詳細な説明は,当業者が本件発明1の実施をすることができる程度 に記載されていない。 (原告の主張) 本件明細書の発明の詳細な説明には,フィルムの機械搬送方向(MD) の延伸倍率に比べて幅方向(TD)の延伸倍率を1.1ないし1.5倍と 高く設定することで本件発明1の課題を解決することができる旨の記載が ある(段落【0033】等)。平成16年3月30日当時,PPDとBP DAとを使用して製造されるポリイミドフィルムでも,先行製品や公知文 8 献により,熱膨張係数が10〜20ppm/℃になると認識されていたか ら,本件明細書の発明の詳細な説明には,その場合における実施例の記載 が必要でなかった。 したがって,本件発明1は,発明の詳細な説明に記載されているし,発 明の詳細な説明も,当業者が本件発明1の実施をすることができる程度に 記載されている。 (2) 間接侵害による請求に関して ア 争点A(被告製品が本件発明2に係るCOF用基板の生産に用いる物に当 たるか)について (原告の主張) 構成要件2A1及び2の「1以上」は,1以上を意味する。また,構成要 件2Bは,粒子径が0.07〜2.0μmの微細シリカを含むことを意味 し,粒子径が0.07μm未満又は2.0μm超の微細シリカを含んでも, 意図的に添加されたものでなく,易滑性を得るという本件発明2の作用効果 に影響しない場合をも含む。さらに,被告製品を用いて生産するCOF用基 板は,被告製品の上に1〜10μmの銅を形成させた銅張積層体を有する (2e)。 したがって,被告製品は,本件発明2に係るCOF用基板の生産に用いる 物に当たる。 (被告の主張) 構成要件2A1及び2の「1以上」は,2以上を意味する。また,構成要 件2Bは,粒子径が0.07未満又は2.0μm超の微細シリカを含まない ことを意味する。さらに,被告製品を用いて生産するCOF用基板は,被告 製品の上に1〜10μmの銅を形成させた銅張積層体を有しない。 したがって,被告製品は,本件発明2に係るCOF用基板の生産に用いる 物に当たらない。 イ 争点B(被告において被告製品が本件発明2の実施に用いられることを知 っているか)について (原告の主張) 被告は,被告製品が本件発明2の実施に用いられることを知っている。 (被告の主張) 原告の主張は否認する。 ウ 争点C(被告が本件発明2に係る特許権について先使用による通常実施権 を有するか)について (被告の主張) 被告は,遅くとも平成14年11月ころまでに,本件発明2の内容を知ら ないで自ら,PPDと(2a'1),BPDAと(2a'2)を使用して製造さ れるポリイミドフィルムであって(2a'3),該ポリイミドフィルムが,遠 心沈降法で測定した粒度分布から算出した平均粒子径が0.09〜0.11 μmであるコロイダルシリカを含み(2b'),島津製作所製TMA−50を 使用し,測定温度範囲:50〜200℃,昇温速度:10℃/minの条件 で測定したフィルムの機械搬送方向(MD)の熱膨張係数αMD が10〜20 9 ppm/℃であり(2c'1),前記条件で測定した幅方向(TD)の熱膨張 係数αTD が3〜7ppm/℃であり(2c'2),コロイダルシリカがフィル ムに均一に分散されているポリイミドフィルムを基材とし(2d'),この上 に厚みが1〜10μmの銅を形成させた銅張積層体を有する(2e')ことを 特徴とするCOF用基板(2f')に係る発明を完成させ,本件特許権の優先 日である平成16年3月30日当時,現に日本国内において,上記発明の技 術的範囲に属するCOF用基板の生産に用いる先行製品の製造等の事業をし ていた。 前記発明の2a'1ないし3,2b'並びに2c'1及び2の構成は,本件発明 2の構成要件2A1「パラフェニレンジアミン」,2A2「3,3’−4, 4’−ジフェニルテトラカルボン酸二無水物」,2A3,2B並びに2C1 及び2と一致する。また,前記発明の2d'ないしf'の構成は,本件発明2の 構成要件2DないしFと一致する。そうすると,前記発明は,一部の本件発 明2に相当する。 被告が当時製造していた先行製品には,本件発明2の構成要件2C1や2 C2と一致しないものもあるが,前記発明は完成していたし,前記発明の技 術的範囲に属するCOF用基板の生産に用いる先行製品の製造等も事業とし て成立していた。 被告製品は,粒子径が0.12〜0.14μmの微細シリカを含むのであ れば,前記発明の範囲内にある。また,被告製品の製造等も,前記発明に係 るCOF用基板の生産に用いる先行製品の製造等という事業の目的の範囲内 にある。 したがって,被告は,本件発明2に係る特許権について先使用による通常 実施権を有する。 (原告の主張) 被告は,平成16年3月30日以前に本件発明2に相当する発明を完成さ せていない。 仮に被告が平成16年3月30日以前に本件発明2に相当する発明を完成 させていたとしても,被告は,同日当時,COF用基板の製造等の事業又は その準備をしていないし,上記発明の技術的範囲に属するCOF用基板の生 産に用いる先行製品の製造等の事業又はその準備もしていなかった。 仮に被告が平成16年3月30日以前に本件発明2に相当する発明を完成 させ,同日当時,上記発明の技術的範囲に属するCOF用基板の生産に用い る先行製品の製造等の事業又はその準備をしていたとしても,被告製品は, 上記発明の範囲内にない。また,被告製品の製造等も,上記発明に係るCO F用基板の生産に用いる先行製品の製造等という事業の目的の範囲内にな い。 したがって,被告は,本件発明2に係る特許権について先使用による通常 実施権を有しない。 エ 争点D(本件発明2に係る特許が特許無効審判により無効にされるべきも のと認められるか)について (ア) 進歩性の欠如 10 (被告の主張) 被告は,遅くとも平成14年11月ころまでに,本件発明2の構成要件 2A1「パラフェニレンジアミン」,2A2「3,3’−4,4’−ジフ ェニルテトラカルボン酸二無水物」,2A3,2B,2C1及び2並びに 2Dの構成を有する発明を完成させ,同月以降,上記発明の技術的範囲に 属する先行製品を譲渡して,上記発明を公然と実施した。そして,同年6 月25日に頒布された学会誌「資源と素材」118巻5・6月号(以下 「本件刊行物」という。)には,本件発明2の構成要件2Eのうち厚みが 8μmの銅を形成させた銅張積層体及び2Fの構成を有する発明が記載さ れている(353ないし356頁)。 前記発明の技術的範囲に属する先行製品は,COF用基板の開発に用い る物であったから,組合せの動機付けもある。 したがって,本件発明2は,平成14年11月以降に先行製品で実施し た発明に本件刊行物に記載された発明を組み合わせることにより,当業者 が容易に想到することができた。 (原告の主張) 被告は,本件特許権の優先日である平成16年3月30日以前に,本件 発明2の構成要件2A1「パラフェニレンジアミン」,2A2「3,3’ −4,4’−ジフェニルテトラカルボン酸二無水物」,2A3,2B,2 C1及び2並びに2Dの構成を有する発明を完成させていないし,仮に同 日以前に上記発明を完成させていたとしても,上記発明を公然と実施して いない。 また,本件刊行物に記載された発明は,熱膨張係数が9ppm/℃であ るポリイミドフィルムを基材とするものであり,前記発明との組合せを阻 害する要因がある。 したがって,本件発明2は,平成14年11月以降に先行製品で実施し た発明に本件刊行物に記載された発明を組み合わせても,当業者が容易に 想到することはできなかった。 (イ) 冒認出願 (被告の主張) 被告は,遅くとも平成14年11月ころまでに,一部の本件発明2に相 当する発明をした。 したがって,本件特許は,本件発明2について特許を受ける権利を有し ない者の特許出願に対してされたものである。 (原告の主張) 被告は,平成16年3月30日以前に本件発明2に相当する発明を完成 させていない。本件発明2を完成させたのは,原告である。 したがって,本件特許は,本件発明2について特許を受ける権利を有し ない者の特許出願に対してされたものでない。 (ウ) サポート要件及び実施可能要件違反 (被告の主張) 本件発明2に係るCOF用基板は,いずれも1種類の芳香族ジアミン成 11 分と酸無水物成分とを使用して製造されるポリイミドフィルムを基材とす るものを含むが,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明2の課題 を解決することができる旨の記載がないし,PPDとBPDAを使用した 場合における実施例の記載が必要であったにもかかわらず,その記載がな い。 したがって,本件発明2は,発明の詳細な説明に記載されていない上, 発明の詳細な説明は,当業者が本件発明2の実施をすることができる程度 に記載されていない。 (原告の主張) 本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明2の課題を解決すること ができる旨の記載があるし,発明の詳細な説明には,PPDとBPDAを 使用した場合における実施例の記載が必要でなかった。 したがって,本件発明2は,発明の詳細な説明に記載されているし,発 明の詳細な説明も,当業者が本件発明2の実施をすることができる程度に 記載されている。 第3 当裁判所の判断 1 直接侵害による請求に関して (1) 争点@(被告製品の構成)について 証拠(甲7,11,乙45)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品は,直径 が0.01μm前後と0.12μm前後のいずれも球状の微細シリカを複数含む ことが認められる。 原告は,@被告製品の電子顕微鏡写真や被告製品に含まれる微細シリカのカ タログに掲載されている電子顕微鏡写真に粒子径が約0.01μmの粒子が写っ ていないから,被告製品は粒子径が0.01μmの粒子を含まない,A仮に被告 製品がこれを含むとしても,それはシリカでなく,これをシリカとしたEDSに よる組成分析は,通常,μm単位の範囲で分析し,加速電圧を5kvに下げて も,直径0.4μm弱の範囲で分析してしまうから,隣接する粒子径が約0.1 2μmの微細シリカの組成を分析したにすぎないと主張する。しかしながら,@ については,証拠(乙45)及び弁論の全趣旨によれば,被告が撮影した被告製 品やこれに用いられるシリカ「DMAC−ST−ZL」の電子顕微鏡写真には, いずれも直径が0.01μm前後の球状の粒子が複数写っていることが認められ る。そして,証拠(甲7,11)によれば,原告が撮影した被告製品の電子顕微 鏡写真には,上記粒子があることは窺われないが,その画像自体が不鮮明である こと,被告製品に用いられるシリカのカタログには,上記シリカについて,平均 粒子径が0.07〜0.1μmであり,粒度がそろった単分散に近い旨の記載が あるところ,上記カタログに掲載されている電子顕微鏡写真でも,上記粒子があ ることが窺われないが,あくまで平均粒子径にすぎない上,上記カタログには, 「物性例は一般性状であり規格値ではありません」と記載され,撮影条件も記載 されていないことが認められるから,上記認定を左右するものでない。また,A についても,証拠(甲16)及び弁論の全趣旨によれば,EDSによる組成分析 は,通常,μm単位の範囲で分析するが,加速電圧を下げるとともに試料を薄く すれば,分析領域を狭くすることができ,例えば,加速電圧を5kvに下げると 12 ともに粒子径が0.01μm前後の粒子を分析すれば,分析領域を約40nmの 範囲まで狭くすることができること,被告は,EDSの加速電圧を5kvに下げ るとともに,上記シリカ中の上記粒子のうち直径が0.12μm前後のシリカか ら約40nm離れたものの組成を分析したところ,それはシリカであったことが 認められるから,隣接する粒子径が約0.12μmのシリカの組成を分析したと いうことはできない。原告の上記主張は,採用することができない。 (2) 争点A(被告製品が本件発明1の技術的範囲に属するか)について ア 構成要件1A1及び2の充足性について (ア) 構成要件1A1及び2の「1以上」は,文言どおり,1以上を意味す ると解される。 被告製品は,PPDという1種類の芳香族ジアミン成分とBPDAとい う1種類の酸無水物成分とを使用して製造されるものであるから,構成要 件1A1の「1以上の芳香族ジアミン成分」と構成要件1A2の「1以上 の酸無水物成分」とを使用して製造されるものに当たる。 (イ) 被告は,本件明細書の発明の詳細な説明には,いずれも2種類の芳香 族ジアミン成分と酸無水物成分とを使用して製造されるポリイミドフィル ムの記載しかないから,構成要件1A1及び2の「1以上」が2以上を意 味すると主張する。しかしながら,証拠(甲2)によれば,本件明細書の 発明の詳細な説明の段落【0058】【0063】ないし【0065】に は,上記ポリイミドフィルムの記載しかないが,その記載は,いずれも実 施例の説明であることが認められるから,これをもって,2種類以上の芳 香族ジアミン成分と酸無水物成分に限定するものということはできない。 被告の上記主張は,採用することができない。 (ウ) そうであるから,被告製品は,本件発明1の構成要件1A1及び2を 充足する。 イ 構成要件1Bの充足性について (ア) 証拠(甲2)によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,「ポリ アミック酸溶液は,フィルムの易滑性を得るため必要に応じて,酸化チタ ン,微細シリカ…などの化学的に不活性な有機フィラーや無機フィラー を,含有することができる。この中では特に粒子径0.07〜2.0μm である微細シリカをフィルム樹脂重量当たり0.03〜0.30重量%の 割合でフィルムに均一に分散されることによって微細な突起を形成させる のが好ましい。粒子径0.07〜2.0μmの範囲であれば該ポリイミド フィルムの自動工学検査システムでの検査が問題なく適応できるので好ま しい。」(段落【0025】)と記載されていることが認められる。ま た,証拠(甲2)によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発 明1の実施例として,摩擦係数が0.35ないし0.95のポリイミドフ ィルムが挙げられていること(段落【0061】【0063】ないし【0 065】)が認められる。これらを総合すれば,構成要件1Bは,ポリイ ミドフィルムが,粒子径が0.07〜2.0μmである微細シリカを易滑 性が得られる程度に含むことを意味し,少なくとも摩擦係数が0.35な いし0.95のポリイミドフィルムを含むことを意味すると解される。 13 被告製品は,粒子径がそれぞれ0.01μm前後と0.12μm前後で ある微細シリカを複数含むところ,証拠(甲28)によれば,被告製品 は,摩擦係数が0.52であって,易滑性を有し,この易滑性は,粒子径 が0.12μm前後の微細シリカによって得られていることが認められ る。そうであるから,被告製品は,粒子径が0.07〜2.0μmの微細 シリカを易滑性が得られる程度に含むのであって,構成要件1Bの「粒子 径が0.07〜2.0μmである微細シリカを含」むものに当たる。 (イ) 被告は,@微粒子の粉体は膨大な数の粒子の集合体であるから,個々 の粒子径に意味はなく,粒度分布と平均粒子径に意味がある,A本件明細 書の発明の詳細な説明にも,「粒子径」を粒度分布の意味で用い,粒度分 布と平均粒子径で微細シリカを限定する旨の記載がある(段落【002 5】【0046】【0059】【0061】【0063】ないし【006 5】【0068】),B原告が拒絶理由の通知を受けて提出した各意見書 においても,「粒子径」を「粒度分布」に言い換えていた,C本件発明1 が微細シリカの粒子径を0.07〜2.0μmに特定したのは,自動光学 検査システムでの検査に問題なく適応することができるようにするためで ある(段落【0025】)として,構成要件1Bは粒度分布が0.07〜 2.0μmの微細シリカを含むことを意味すると主張する。 しかしながら,@については,ポリイミドフィルムは,粒子径が0.0 7〜2.0μmの微細シリカを含むことにより,自動光学検査システムの 検査に問題なく適応できるようになるのであるから,構成要件1Bが特定 の粒子径を有する微細シリカを含むという構成を有することにも意味があ るということができる。また,Aについては,証拠(甲2)によれば,本 件明細書の発明の詳細な説明の段落【0025】は,構成要件1Bが特定 の粒子径を有する微細シリカを含む構成を有する理由等を説明したもので あるが,ここでは「粒子径」を文言どおりの意味で用いていること,段落 【0046】【0059】【0061】【0063】ないし【0065】 【0068】には,「粒度分布:0.08〜2.0μm」やこれと同旨の 記載があるが,これらの記載は,いずれも実施例又は比較例の説明である ことが認められるのである。さらに,Bについても,証拠(乙27の7, 9,12及び15)によれば,特許庁審査官は,平成23年1月と同年4 月,原告に対し,本件特許出願に係る発明につき,特開2001−072 781号公報に「微細シリカの粒子径が『0.07〜2.0μm』である こと」等が記載されていない点で,上記公報に記載された発明と相違する ものの,当該発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとし て,拒絶理由を通知したこと,これに対し,原告は,同年2月には「審査 官殿のご認定のように,本願発明1の特定の粒度分布を有する微細シリカ について記載も示唆もありません。」と,同年5月には「審査官殿のご認 定のとおり,本願発明1は,特定の粒度分布を有する微細シリカを含有す る点で,引用発明1と相違します。」とそれぞれ記載した上で進歩性を主 張する各意見書を提出したことが認められ,この経緯を考慮すると,原告 は,特許庁審査官が「粒子径」を粒度分布の意味に用いて上記公報に記載 14 された発明との相違点を指摘してきたことから,誤って「粒子径」を「粒 度分布」に言い換えたにすぎないことが明らかである。さらにまた,Cに ついては,構成要件1Bは,自動光学検査システムの検査に問題なく適応 できるように,粒子径が0.07〜2.0μmの微細シリカを含む構成を 有するものとするのであるが,そうであるからといって,粒度分布が0. 07〜2.0μmである微細シリカを含む構成まで有すると解すべき理由 はない。 被告の前記主張は,採用することができない。 (ウ) そうであるから,被告製品は,本件発明1の構成要件1Bを充足す る。 ウ したがって,被告製品は,本件発明1の技術的範囲に属する。 (3) 争点C(本件発明1に係る特許が特許無効審判により無効にされるべきもの と認められるか)について ア 一部の本件発明1に相当する発明の完成について (ア) 証拠(甲11,28,乙16,18の1及び2,19,21,23, 24の1及び2。別表の「証拠等」欄記載の証拠も含む。)及び弁論の全 趣旨によれば,被告は,別表記載のとおり,平成14年3月10日ころか ら平成15年4月2日までの間に,PPDと(1a'1),BPDAと(1 a'2)を使用して製造されるポリイミドフィルムであって(1a'3),該 ポリイミドフィルムが,遠心沈降法で測定した粒度分布から算出した平均 粒子径が0.09〜0.11μmであるコロイダルシリカを易滑性が得ら れる程度に含み(1b'),セイコー電子株式会社製TMAを使用し,測定 温度範囲:35〜370℃,昇温速度:20℃/minの条件で測定した フィルムの機械搬送方向(MD)の熱膨張係数αMD が別表の「αMDと構成 要件1C1のαMDとの一致の有無」欄記載の各数値であり,前記条件で測 定した幅方向(TD)の熱膨張係数αTDが別表の「αTDと構成要件1C2 のαTD との一致の有無」欄記載の各数値であり,前記コロイダルシリカが フィルムに均一に分散されているポリイミドフィルム(1d')を31回製 造したことが認められる。 そして,前記ポリイミドフィルムのうち,別表の「本件発明1との一致 の有無」欄に「○」と記載された28本は,αMD が10.1〜14.4p pm/℃(1c'1),αTD が3.2〜7.0ppm/℃であるから(1c' 2),被告は,平成14年3月10日ころから平成15年4月2日までの 間に,PPDと(1a'1),BPDAと(1a'2)を使用して製造される ポリイミドフィルムであって(1a'3),該ポリイミドフィルムが,遠心 沈降法で測定した粒度分布から算出した平均粒子径が0.09〜0.11 μmであるコロイダルシリカを易滑性が得られる程度に含み(1b'),セ イコー電子株式会社製TMAを使用し,測定温度範囲:35〜370℃, 昇温速度:20℃/minの条件で測定したフィルムの機械搬送方向(M D ) の熱 膨張 係数 α M D が1 0. 1〜 14. 4 pp m/ ℃で あり (1 c' 1),前記条件で測定した幅方向(TD)の熱膨張係数α T D が3.2〜 7.0ppm/℃であり(1c'2),前記コロイダルシリカがフィルムに 15 均一に分散されているポリイミドフィルム(1d')に係る発明(以下「先 行発明」という。)を順次完成させたものと認められる。 先行発明の1a'1ないし3,1b'及び1d'の構成は,本件発明1の構成 要件1A1「パラフェニレンジアミン」,1A2「3,3’−4,4’− ジフェニルテトラカルボン酸二無水物」,1A3,1B及び1Dと一致す る。そして,証拠(乙26)によれば,セイコー電子株式会社製TMAを 使用し,測定温度範囲:35〜370℃,昇温速度:20℃/minの条 件で測定したαMD 及びαTD は,島津製作所製TMA−50を使用し,測定 温度範囲:50〜200℃,昇温速度:10℃/minの条件で測定した αMD 及びαTD とほぼ等しいことが認められるから,先行発明の1c'1及び 2の構成は,本件発明1の構成要件1C1の「島津製作所製TMA−50 を使用し、測定温度範囲:50〜200℃、昇温速度:10℃/minの 条件で測定したフィルムの機械搬送方向(MD)の熱膨張係数αMD 」と1 0.1〜14.4ppm/℃の範囲内で,構成要件1C2の「前記条件で 測定した幅方向(TD)の熱膨張係数αTD 」と3.2〜7.0ppm/℃ の範囲内でそれぞれ一致する。そうすると,先行発明は,一部の本件発明 1に相当する。 (イ) 原告は,先行製品は1ロットの中ですら,αMD が10ppm/℃未満 であったり,αTDが7ppm/℃超であったりして,本件発明1の構成要 件1C1及び2と一致しないものであり,被告が先行発明を完成させてい ないことは,@被告やその譲渡先が公表していたウェブサイト,論文等に 先行発明に関する記載がないこと,A厚さ約35μmのポリイミドフィル ムについては,αTDをαMDと等しくしたものとαMDより低くしたものに別 の名称を付しているのに対し,厚さ25μmの先行製品については,別の 名称を付していないこと,B被告がαTDをαMDより低くしたポリイミドフ ィルムに関する発明を特許出願したのは,平成20年6月であることから 明らかであると主張する。 しかしながら,特許法2条1項の「発明」は,自然法則を利用した技術 的思想の創作のうち高度のものをいうから,当業者が創作された技術内容 を反復実施することにより同一の結果を得られること,すなわち,反復可 能性のあることが必要である(最高裁平成10年(行ツ)第19号同12 年2月29日第三小法廷判決・民集54巻2号709頁参照)。被告は, 平成14年3月10日ころから平成15年4月2日までの間に,先行発明 の技術的範囲に属する28本の先行製品を製造したのであって,先行発明 には反復可能性があるから,被告が平成16年3月30日以前に先行発明 を完成させていたことは明らかである。確かに,先行製品は,別表記載の とおり,1ロットの中でも,αMDが10ppm/℃未満であったり,αTD が3ppm/℃未満や7ppm/℃超であったりしたのであるが,弁論の 全趣旨によれば,それは,被告が,本件発明1の内容を知らず,αMD を1 0ppm/℃以上,αTD を3〜7ppm/℃以上とすることを目標にして いなかったからにすぎないことが認められる。そして,@やAについて は,証拠(乙9,32,34,35,47)によれば,被告は,平成14 16 年ころから,銅張積層体メーカーと共にCOF用基板を開発するために, αTD をαMDより低くした先行製品を製造していたことが認められるから, 被告やその譲渡先が公表していたウェブサイト,論文等に先行発明に関す る記載がなく,また,先行発明の技術的範囲に属する先行製品に別の名称 を付していないとしても,このこと自体,格別不自然であるということは できない。Bについては,証拠(甲15)によれば,被告が平成20年6 月に特許出願した発明は,αTD をαMD より低くしたポリイミドフィルムの 連続製造方法に係る発明であって,上記ポリイミドフィルムに係る発明で ないことが認められる。 原告の前記主張は,採用することができない。 (ウ) そうであるから,被告は,本件特許権の優先日に係る特許出願前に, 一部の本件発明1に相当する先行発明を完成させたものと認められる。 イ 先行発明の公然実施について (ア) 被告は,別表記載のとおり,平成14年4月5日から平成16年3月 12日までの間に,複数の銅張積層体メーカーに対し,先行発明の技術的 範囲に属する28本の先行製品のうち,αMD が10.1〜14.4ppm /℃であり,αTDが3.5〜7.0ppm/℃である19本の全部又は一 部を譲渡した。そして,被告や上記銅張積層体メーカーが当該譲渡につい て相互に守秘義務を負っていたことを認めるに足りる証拠はない。 (イ) 原告は,前記譲渡がCOF用のポリイミドフィルムを共同開発するた めであって,相互に守秘義務を負っていたと主張する。 しかしながら,証拠(乙47)によれば,前記銅張積層体メーカーの1 社である東レ株式会社が平成15年1月に発行された業界誌に投稿した論 文には,αTD をαMD より低くしたポリイミドフィルムがCOF用に適して いる旨の記載があることが認められ,この事実に照らすと,被告や前記銅 張積層体メーカーが相互に守秘義務を負っていたとは考え難い。 原告の前記主張は,採用することができない。 (ウ) そうであるから,被告は,本件特許権の優先日に係る特許出願前に, 先行発明のうちαTD が3.5ppm/℃以上のものを公然と実施したもの である。 ウ したがって,本件発明1は,本件特許権の優先日に係る特許出願前に公然 実施をされた発明であり,本件発明1に係る特許は,特許無効審判により無 効にされるべきものと認められる。 2 間接侵害による請求に関して (1) 争点A(被告製品が本件発明2に係るCOF用基板の生産に用いる物に当た るか)について 被告製品を用いて生産するCOF用基板が被告製品の上に1〜10μmの銅 を形成させた銅張積層体を有することを認めるに足りる証拠はない。 したがって,被告製品は,本件発明2に係るCOF用基板の生産に用いる物 に当たるということはできない。 (2) 争点D(本件発明2に係る特許が特許無効審判により無効にされるべきもの と認められるか)について 17 ア 一部の本件発明2に相当する発明の完成について 先行発明の1a'1ないし3,1b'及び1d'の構成は,本件発明2の構成要 件2A1「パラフェニレンジアミン」,2A2「3,3’−4,4’−ジフ ェニルテトラカルボン酸二無水物」,2A3,2B及び2Dと一致する。ま た,先行発明の1c'1及び2の構成は,本件発明2の構成要件2C1「島津 製作所製TMA−50を使用し、測定温度範囲:50〜200℃、昇温速 度:10℃/minの条件で測定したフィルムの機械搬送方向(MD)の熱 膨張係数αMD 」と10.1〜14.4ppm/℃の範囲内で,構成要件2C 2「前記条件で測定した幅方向(TD)の熱膨張係数αTD 」と3.2〜7. 0ppm/℃の範囲内で,それぞれ一致する。そうすると,先行発明は,本 件発明2の一部に相当する。 そうであるから,被告は,本件特許権の優先日に係る特許出願前に,本件 発明2の一部に相当する先行発明を完成させたものと認められる。 イ 先行発明の公然実施について 被告は,本件特許権の優先日に係る特許出願前に,先行発明のうちαTD が 3.5ppm/℃以上のものを公然と実施したものである。 ウ 本件発明2の想到容易性について (ア) 本件刊行物に記載された発明について a 証拠(乙32)によれば,平成14年6月25日に発行された本件刊 行物353及び355頁には,次の記載があることが認められる。 「1 はじめに フレキシブルプリント基板の材料として広範に使用されている銅 ポリイミド基板は,銅箔とポリイミドフィルムを接着剤で接着する 3層基板と,接着剤を使用しない2層基板に分けられる。… 近年,COF(Chip On Film あるいは Chip On Flex)という実 装方法が提案され,TFT液晶の薄型化,大型化,高精細化の実現 に寄与している。COF方式では,液晶駆動用のドライバICを, 直接銅ポリイミド基板上に実装し,液晶パネルに接続して使用され る。… COF基板は屈曲した状態で使用されるため,優れた折り曲げ性 が要求される。また,液晶パネルの高精細化,ドライバICの小型 化に伴い,配線はより狭ピッチになることが予想される。そのため には,銅箔が薄いこと,銅箔表裏面が平滑であることを必要とす る。」 「3−3 折り曲げ性 …S’PERFLEXはポリイミド厚さ37.5μm,銅厚8μ mの基板から…50μmピッチの…テストピースを作成し,±13 5°の折り曲げであるMIT試験と180°の折り曲げであるハゼ 折り試験を行い,折り曲げ性の評価とした。」 b 前記a認定の事実によれば,本件刊行物には,「ポリイミドフィルム を基材とし,この上に厚みが8μmの銅を形成させた銅張積層体を有する (2e')COF用基板(2f')」という発明(以下「本件刊行物発明」と 18 いう。)が記載されていると認められる。 (イ) 想到容易性について 先行発明と本件刊行物発明は,COF用ポリイミドフィルムとこれを基 材としたCOF用基板という密接に関連した技術分野に属するから,当業 者は,先行発明に本件刊行物発明を容易に組み合わせ,これにより,本件 発明2に想到することができたものと認められる。 原告は,本件刊行物発明は,熱膨張係数が9ppm/℃であるポリイミ ドフィルムを基材とするものであり,先行発明との組合せを阻害する要因 があると主張する。しかしながら,証拠(乙32)によれば,本件刊行物 356頁には,熱膨張係数が9.0ppm/℃の先行製品を基材としたC OF用基板を開発した旨の記載があるが,この記載は,基材とするポリイ ミドフィルムの一例を挙げる趣旨にすぎないことが認められるから,本件 刊行物発明に先行発明との組合せを阻害する要因があるということはでき ない。原告の上記主張は,採用することができない。 エ したがって,本件発明2は,先行発明に本件刊行物発明を組み合わせるこ とにより,当業者が容易に想到することができた発明であるから,本件発明 2に係る特許は,特許無効審判により無効にされるべきものと認められる。 3 よって,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がないか らこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官 高 野 輝 久 裁判官 志 賀 勝 裁判官 藤 田 壮 (別添特許公報は省略) 19 (別紙) 物 件 目 録 「「UPILEX」−35SGAV1」又は「「ユーピレックス」−35SGAV 1」という名称が付されたポリイミドフィルム 20 |