運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成25行ケ10071審決取消請求事件 判例 特許
平成25行ケ10088審決取消請求事件 判例 特許
平成25行ケ10207審決取消請求事件 判例 特許
平成25行ケ10215審決取消請求事件 判例 特許
平成25行ケ10191審決取消請求事件 判例 特許
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 25年 (行ケ) 10079号 審決取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2014/03/26
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成26年3月26日判決言渡

平成25年(行ケ)第10079号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 平成26年3月12日

判 決




原 告 エヴァーライト エレクトロニクス

カンパニー リミテッド



訴訟代理人弁護士 黒 田 健 二

吉 村 誠



被 告 日亜化学工業株式会社



訴訟代理人弁護士 宮 原 正 志

訴訟復代理人弁護士 松 本 優 子

訴訟代理人弁理士 鮫 島 睦

言 上 惠 一

山 尾 憲 人

田 村 啓

玄 番 佐 奈 恵



主 文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日




と定める。



事 実 及 び 理 由

第1 原告の求めた判決

特許庁が無効2011−800207号事件について平成24年11月12日に

した審決を取り消す。



第2 事案の概要

本件は,特許無効審判請求不成立審決の取消訴訟である。争点は,@引用発明認

定の誤りの有無,A相違点認定の誤りの有無,及びB相違点判断の誤りの有無である。



1 特許庁における手続の経緯

(1) 本件特許

被告は,名称を「窒化物半導体発光ダイオードの製造方法」(平成24年1月4日

付け訂正請求による訂正前の名称は「窒化物半導体発光素子の製造方法」 とする発


明についての本件特許(特許第4356723号)の特許権者である。

本件特許は,平成13年7月24日に出願した特願2001−223114号(第

優先権基礎出願)及び平成14年2月19日に出願した特願2002−4173

7号(第2優先権基礎出願)を基礎とする優先権を主張して平成14年7月23日

に出願した特願2002−213490号(原出願)の分割出願として,平成18

年9月19日に出願され,平成21年8月14日に設定登録(請求項の数4)され

た。

(甲16,17)

(2) 無効審判請求

原告は,平成23年10月12日付けで本件特許の無効審判請求をしたが(無効

2011−800207号),被告は,平成24年1月4日付けで訂正請求をし(平




成24年1月11日付け手続補正書で補正),特許庁は,平成24年11月12日,

「訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,

同月22日,原告に送達された。



2 本件発明の要旨

上記平成24年1月4日付け訂正請求書(同月11日付け手続補正書で補正)に

よる訂正後(この訂正後の明細書及び図面を「本件明細書等」という。)の本件特許

の請求項1〜4の発明(以下,番号順に「本件発明1」などのようにいう。)に係る

特許請求の範囲の記載(本件発明1については分説後のものであり,それぞれを「構

成要件A−1」などのようにいう。)は,次のとおりである。(甲16)

「【請求項1】

【A−1】C面を主面とするサファイア基板上に凸部を繰り返しパターンに形成

する工程と,

【A−2】前記基板上に前記凸部の上面と前記凸部の形成されていない平坦面と

からGaN系半導体を成長させて前記凸部を埋める工程と,

【A−3】前記GaN系半導体上にオーミック電極を形成する工程と,を有し,

【A−4】上方の前記GaN系半導体又は下方の前記サファイア基板から光を取

り出す窒化物半導体ダイオードの製造方法であって,

【B】前記凸部が,基板上面から見て多角形又は角が丸みを帯びた多角形であり,

かつ,前記GaN系半導体層の積層方向に対して傾斜することで120°より大き

く,140°以下のテーパ角を持つ側面を有し,

【C】前記多角形が大略正三角形又は正六角形であり,

【D−1】前記GaN系半導体層のA軸を構成辺とする正六角形を想定したとき

に前記多角形の構成辺が上記A軸を構成辺とする正六角形の中心と頂点を結ぶ線分

に直交する形状であることにより,

【D−2】前記凸部の上面と前記凸部の形成されていない平坦面とから成長した




GaN系半導体が前記凸部側面付近で出会い,前記凸部を平坦に埋める

【E】ことを特徴とする窒化物半導体ダイオードの製造方法

【請求項2】

上記オーミック電極により,上記GaN系半導体層の最上層のほぼ全面を覆うこ

とを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体ダイオードの製造方法

【請求項3】

上記凸部の繰り返しパターンは,λ/4(λは上記半導体ダイオードの発光波長)

以上の間隔,10μm以下のピッチで形成されていることを特徴とする請求項1又

は2に記載の窒化物半導体ダイオードの製造方法

【請求項4】

上記GaN系半導体中における発光波長をλ,上記GaN系半導体の屈折率をn

としたとき,上記凸部の大きさが,少なくともλ/4n以上,20μm以下である請

求項1乃至3のいずれか1項に記載の窒化物半導体ダイオードの製造方法。」



3 審決の理由の要点

(1) 優先権について

本件発明1〜本件発明4は,いずれも構成要件B,D−1,D−2を構成として

含むが,第1優先権基礎出願又は第2優先権基礎出願のいずれの出願に係る願書に

最初に添付した明細書及び図面にも,当該構成が記載されておらず,かつ,当該構

成が自明な事項であると認めることもできない。

したがって,第1優先権基礎出願及び第2優先権基礎出願には,優先権主張の効

果は認められない。

(2) 無効理由(特開2002−164296号公報に記載の発明及び特開20

01−160539号公報に記載の発明からの容易想到性)について

引用発明の認定

特開2002−164296号公報(甲1公報)には,次の発明(甲1発明)が




記載されている。

「基板と該基板上に気相成長された半導体結晶とからなる半導体基材であって,

前記基板の結晶成長面が凹凸面とされ,前記半導体結晶は凹部及び/または凸部か

らファセット構造を形成しながら成長されたものであり,

上記基板に凹凸加工した凸部の立上り斜面と基板平面とが成す角度が60°以上

である半導体基材及びその作製方法であって,

C面サファイア基板上にフォトレジストのパターニングを行って凹凸加工し,G

aN低温バッファー層を成長し,n型GaN層を成長し,凸部,凹部両方で成長し,

凹凸部を覆い,凹凸部が埋め込まれ平坦化したGaN膜が得られ,

基板上に成長される半導体層として,n型AlGaNクラッド層,InGaN発

光層,p型AlGaNクラッド層,p型GaNコンタクト層を順に形成し,その後,

電極形成を行い,LED素子とし,

島状の点在型の凸部,ストライプ型の凸条からなる凸部,格子状の凸部,これら

を形成する線が曲線である凸部など凹凸形状であれば特に制限はなく各種の形状を

採用することができ,

凹凸加工したストライプの方向はサファイア基板の<1−100>方向とする半

導体基材及びその作製方法。」

イ 相違点認定

本件発明1と甲1発明とを対比すると,次の点が相違する。

【相違点1】@本件発明1の「電極」は,[1]オーミック電極であって,[2]上方

のGaN系半導体又は下方のサファイア基板側から光を取り出すものであるのに対

して,A甲1発明の「電極」は,[1]オーミック電極であるのか明らかではなく,ま

た,[2]上方のGaN系半導体又は下方のサファイア基板から光を取り出すものであ

るのか明らかではない点。

【相違点2】@本件発明1の「凸部」は,[1]基板上面から見て多角形又は角が丸

みを帯びた多角形であり,かつ,[2]GaN系半導体層の積層方向に対して傾斜する




ことで120°より大きく,140°以下のテーパ角を持つ側面を有し,[1]´前記

多角形が大略正三角形又は正六角形であるのに対して,A甲1発明の「凹凸部」は,

[1]島状の点在型の凸部,ストライプ型の凸条からなる凸部,格子状の凸部,これら

を形成する線が曲線である凸部など凹凸形状であれば特に制限はなく各種の形状を

採用することができるものであって,[2]基板に凹凸加工した凸部の立上り斜面と基

板平面とが成す角度が60°以上である点。

【相違点3】@本件発明1の「凸部」は,[1]GaN系半導体層のA軸を構成辺と

する正六角形を想定したときに,前記多角形の構成辺が,上記A軸を構成辺とする

正六角形の中心と頂点を結ぶ線分に,直交する形状であることにより,[2]凸部の上

面と凸部の形成されていない平坦面とから成長したGaN系半導体が凸部側面付近

で出会い,凸部を平坦に埋めるものであるのに対して,A甲1発明の「凹凸部」は,

[1]凹凸加工したストライプの方向はサファイア基板の<1−100>方向とする

ものであって,GaN系半導体層のA軸を構成辺とする正六角形を想定したときに,

前記多角形の構成辺が,上記A軸を構成辺とする正六角形の中心と頂点を結ぶ線分

に,直交する形状ではなく,また,[2]C面サファイア基板上にフォトレジストのパ

ターニングを行って凹凸加工し,GaN低温バッファー層を成長し,n型GaN層

を成長し,凸部,凹部両方で成長し,凹凸部を覆い,凹凸部が埋め込まれ平坦化し

たGaN膜が得られること,との関係も明らかではない点。


なお,上記記述の参考として,甲1の図1を掲記する。





ウ 相違点判断(審決では相違点2についてのみ判断されている。)

@ 本件発明1の構成要件Bは,光の散乱又は回折による出力向上の観点から定

められたものと解される。 一方,甲1発明における「凸部」は,基板に凹凸面を具

備させることで結晶成長当初からファセット面が形成可能な素地面をあらかじめ提

供し,この結果,基板からC軸方向に伸びる転位線が,ファセット面で横方向に曲

げられ上方に伝播しなくなることで,表面近傍に基板からの転位の伝播がない低転

位密度領域を形成することを目的とするものと認められる。したがって,甲1発明

の「凸部」が,光を散乱又は回折させるものであるとは想定し難い。

そして,特開平11−274568号公報(甲10),特開平10−4209号公

報(甲11)及び国際公開01/47039号公報(甲12)を見ても,甲1発明に

おける「凸部」が,表面近傍に基板からの転位の伝播がない低転位密度領域を形成

すると同時に,光を散乱又は回折させるものと解する根拠は見いだせないし,かか




る構成とすることが,当業者にとって容易に想到し得ると認めるに足る根拠は,本

件各証拠を通じてみても見いだすことができない。

したがって,甲1発明における「凸部」を,GaN系半導体層で発生した光を散

乱又は回折させる凸部とすることが,当業者にとって容易に想到できたとすること

はできない。

A 甲1発明の「凸部」は,ファセット形成及びその後の平坦化が実質的に阻害

されないように,基板に凹凸加工した凸部11の立上り斜面と基板平面が成す角度

が60°以上(本件発明1の表現に即していえば120°以下)とすることが好ま

しく,可及的に直角に近いことが特に望ましいとしたものと認められ,かかる角度

について,120°超140°以下とする理由は見当たらないし,かかる構成とす

ることが,当業者にとって容易に想到し得ると認めるに足る根拠は,本件各証拠を

通じてみても見いだすことができない。

B したがって,相違点2のその余の構成について検討するまでもなく,甲1発

明において,相違点2に係る本件発明1の構成とすることについて,当業者が容易

に発明をすることができたものということはできない。

C 以上の検討によれば,相違点1及び相違点3について検討するまでもなく,

本件発明1が,甲1発明,特開2001ー160539号公報(甲2)に記載の発

明(甲2発明)及び周知慣用技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることがで

きたものということはできない。

(3) まとめ

本件発明1についての特許は,特許法29条2項の規定に違反してなされたもの

ということはできず,同法123条1項2号に該当しない。

また,本件発明2〜4は,本件発明1の特定事項をすべて備え,更に他の特定事

項を付加したものであるから,本件発明2〜4についての特許は,特許法29条

項の規定に違反してなされたものということはできず,同法123条1項2号に該

当しない。




第3 原告主張の審決取消事由

1 取消事由1(甲1発明の認定誤り)

(1) オーミック電極の点について(相違点1関係)

審決は,甲1発明には,その電極がオーミック電極であることは開示されていな

い,と認定した。

しかしながら,次のとおり,GaN系発光ダイオードにおいて,GaN系半導体

層の最上層にオーミック電極を形成することは周知慣用技術であったから,甲1公

報に接した当業者は,甲1発明を用いた発光ダイオードがオーミック電極を備えて

いると当然に考えるのであり,甲1発明を用いた発光ダイオードの電極がオーミッ

ク電極であることは,甲1公報に記載されているに等しい事項である。

@ 本件特許出願時,ほとんどすべてのGaN系発光ダイオードにおいて,Ga

N系半導体層の最上層にオーミック電極を形成する構成が採用されていた。

A GaN系半導体層の最上層にオーミック電極を形成し,GaN系半導体層で

発生した光をオーミック電極側又は基板側から取り出す構成は,特開2000−1

14595号公報(甲24。【0003】〜【0005】【0028】参照。,特開


平6−338632号公報(甲25。【0002】【0003】【0011】【001

2】
【0015】参照。,特開平7−106633号公報(甲26。
) 【0003】
【0

004】【0010】【0019】参照。)など極めて多数の文献で開示されている。

したがって,審決の上記認定は,誤りである。

(2) 光の取り出しの点(相違点1関係)

審決は,甲1発明には,InGaN発光層で発生した光をp電極側又はサファイ

ア基板側から取り出すようにしたことは開示されていない,と認定した。

しかしながら,次のとおり,GaN系発光ダイオードにおいて,光をオーミック

電極側又は基板側から取り出すようにすることは周知慣用技術であったから,甲1

公報に接した当業者は,甲1発明を用いた発光ダイオードが光をp電極側又はサフ




ァイア基板側から取り出すようにしていると当然に考えるのであり,光をオーミッ

ク電極側又はサファイア基板側から取り出すようにしたものであることは,甲1公

報に記載されているに等しい事項である。

@ 本件特許出願時,ほとんどすべてのGaN系発光ダイオードにおいて,Ga

N系半導体層で発生した光をオーミック電極側又は基板側から取り出す構成が採用

されていた。

A 発光に寄与する活性層の厚さが極めて薄いため,発光ダイオードは,平面方

向ではほぼ全面が発光するが,端面(横面)では発光面をほとんど確保できず,光

を多く取り出すために,GaN系半導体層で発生した光をオーミック電極側又は基

板側から取り出すようにすることが周知慣用技術であった。

したがって,審決の上記認定は,誤りである。



2 取消事由2(甲1発明に係る相違点認定の誤り)

審決は,前記第2,3(2)イのとおりに相違点1〜相違点3を認定したが,上記1

に記載のとおり,甲1発明を用いた発光ダイオードにおいて,@GaN系半導体層

の最上層にオーミック電極を形成し,AGaN系半導体層で発生した光をオーミッ

ク電極側又は基板側から取り出すようにしたものであることは,甲1公報に記載さ

れているに等しい事項であるから,相違点1はない。

したがって,審決の相違点認定には,誤りがある。



3 取消事由3(甲1発明に係る相違点判断の誤り)

(相違点2の判断について)

@ 審決は,「甲1発明における『凸部』を,『GaN系半導体層で発生した光を

散乱又は回折させる凸部』とすることが,当業者にとって容易に想到できたとする

ことはできない。」としたが(35頁4〜6行目),本件発明1の「凸部」が「Ga

N系半導体層で発生した光を散乱又は回折させる凸部」であることは特許請求の範




囲には記載がなく,
「GaN系半導体層で発生した光を散乱又は回折させる」かどう

かは,本件発明1の容易想到性を判断するうえで全く関係がない。

したがって,審決の相違点1に係る判断には,誤りがある。

A 審決は,甲1発明の凸部は,光を散乱又は回折させるものであるとは認めら

れない,と判断した。

[1] しかしながら,発光ダイオードの光は,半導体層(発光層)から全方位に

向かって放射されるため,光は基板の凹凸部にも到達する。そして,半導体層とサ

ファイア基板とでは屈折率が異なるから,サファイア基板の凹凸部に到達した光が

散乱又は回折することは自明である。このことは,甲10(図2参照。,甲12(F


IG.13(b)参照。)から見ても明らかである。

したがって,甲1発明の凸部が,光を散乱又は回折させることは,甲1公報に明

示的には記載されていないとしても,甲1公報に記載されているに等しい事項であ

る。

[2](被告の反論に対して)甲1公報の段落【0032】には,甲1発明の凸部

側面の立ち上がり角を「60°以上とすることが好ましく」と記載されているにす

ぎず,60°未満(本件発明1の表現に即していえば,凹部側面のテーパ角が12

0°超)とすることを禁止していないことは明らかである。このことは,甲1公報

の請求項7に係る発明が,上記基板に凹凸加工した凸部の立上り斜面と基板平面と


が成す角度が60°以上であることを特徴とする請求項1記載の半導体基材。とさ


れ,その前提として,甲1公報の請求項1に係るの発明には,凸部側面の立ち上が

り角が60°未満のものを含んでいることからみても明らかである。

[3](被告の反論に対して)甲1公報の段落【0032】に記載されたのは,凸

部11の立上がり斜面と基板平面とがなす角度であり,これは,甲1公報の【図6】

のとおり,垂直に近い(90°に近い)角度とはなっているが,本件発明1の凸部

側面のテーパ角に相応する凸部上面と凸部側面とがなす角度は,甲1公報の【図6】

に基づき測定すれば,おおむね130°である。




[4] 甲1公報の【0051】【表2】によれば,甲1発明の実施例サンプルの

発光出力が増大していることから,甲1発明の凸部により光の取り出し効率が上が

ったと考えられる。

[5] したがって,審決の相違点2に係る判断には,誤りがある。

B[1] 甲10(【0021】,甲12(16頁3〜13行目)などには,サファ


イア基板の幾何学的又は規則的な粗面化技術が開示されており,特開2001−7

393号公報(甲33)の段落【0022】
【0024】などにも,パターニングに

よる規則的な粗面化技術が開示されている。したがって,サファイア基板の表面を

規則的にパターニングして光の取り出し効率を上げることは,周知技術である。

[2] サファイア基板に規則的な凹凸パターンを設けることで,GaN系半導体

の結晶品質を改善するとともに(内部量子効率の向上) 多重反射を有効に抑制する


(外部量子効率の向上)という技術は,甲13や甲34などの文献において示され

ており,当業者にとっては周知の事項であった。



第4 被告の反論

1 取消事由1(甲1発明の認定誤り)に対して

(1) オーミック電極の点(相違点1関係)

審決が,甲1発明の電極がオーミック電極であるか明らかではないとしたのは,

甲1公報には,電極がオーミック電極であると明示的には記載されていない,とい

う程度の意味に解される。

(2) 光の取り出しの点について(相違点1関係)

次のとおり,甲1発明の発光ダイオードの光の取り出し方向は,いずれかに限定

されているとはいえない。

@ 発光ダイオードには,端面から光を取り出す端面発光ダイオードもあるから,

光の取り出し方向が,いずれかに限定されるのではない。そして,発光領域が広い

からといって,端面発光型よりも面発光型の方が有利であるとは限らないし,発光




ダイオードの優劣は,発光領域の面積のみで決まるものでもない。

A 甲1発明は,半導体基材及びその作製方法に関するものであり【0001】,
( )

その開示の大部分は,サファイア基板上にGaN層を成長した半導体基材に関する

ものであって(【0010】〜【0049】,発光ダイオードに関する具体的な記載


としては,実施例4において紫外LEDチップを作製したことが開示されているに

すぎない。また,この紫外LEDチップの構造については,
「【0050】[実施例4]

実施例1で得られた膜に連続してn型AlGaNクラッド層,InGaN発光層,

p型AlGaNクラッド層,p型GaNコンタクト層を順に形成し,発光波長37

0nm の紫外LEDウエハーを作製した。その後,電極形成,素子分離を行い,LE

D素子とした。」と記載されているのみであり,この記載からは,光の取り出し方向

が,端面であるのか又はオーミック電極側若しくは基板側であるのかは,特定でき

ない。

したがって,審決が,甲1発明が,上方のGaN系半導体又は下方のサファイア

基板側から光を取り出すものであるのか明らかではない,と認定したことには,誤

りはない。



2 取消事由2(甲1発明に係る相違点認定の誤り)に対して

上記1に記載のとおり,審決の甲1発明認定に誤りはないから,その相違点認定

にも誤りはない。



3 取消事由3(甲1発明に係る相違点判断の誤り)に対して

(相違点2の判断について)

@ 本件明細書等には,【0025】次に,凹凸の断面形状については,図9に


示すように,凸部であれば台形,凹部であれば逆台形であることが好ましい。この

ような断面形状とすることにより,光の散乱及び回折効率を高めることができる。

…半導体層によって凹凸を埋めるためには,凹凸のテーパ角θが少なくとも90°




以上であることが必要である。また,散乱又は回折による出力向上の観点からは,

凹凸のテーパ角θが90°より大きいことが好ましく,望ましくは105°以上,

より望ましくは115°以上とする。一方,凹凸のテーパ角θがあまり大き過ぎる

と,却って散乱又は回折の効率が低下し,また,半導体層のピットが発生し易くな

る。そこで,テーパ角θは,好ましくは160°以下,より好ましくは150°以

下,さらに好ましくは140°以下とする。と記載されており,
」 このことからみて,

本件発明1の「凸部」が光の散乱又は回折による出力向上の観点から設けられたも

のであることは,一義的に明らかである。

A[1] 甲1発明の凸部は,基板に凹凸面を具備させることで,結晶成長当初から

ファセット面が形成可能な素地面をあらかじめ提供し,この結果,基板からC軸方

向に伸びる転位線がファセット面で横方向に曲げられて上方に伝播しなくなること

で,基板からの転位の伝播がない低転位密度領域を形成することを目的とするもの

である。かかる甲1発明の凸部が,光を散乱又は回折させるものであると想定し難

いことは当然のことである。

[2] 甲1発明は,凸部11の立ち上がり斜面と基板平面とがなす角度を,6

0°以上(本件発明の表現に即していえば,凸部側面のテーパ角が120°未満)

とすることが好ましく,可及的に直角に近いことが特に望ましいとしている 【00


32】。甲1発明の凸部側面の立ち上がり角を,本件発明1の凸部側面のテーパ角


である120°超140°以下にする動機付けはない。

[3] 甲1公報には,
「【0032】また基板に凹凸加工した凸部11の立上り斜

面と基板平面が成す角度は,60°以上とすることが好ましく,可及的に直角に近

いことが特に望ましい。角度が60°よりも小さい場合,凸部斜面から成長が始ま

りファセット成長進行後の平坦化が良好に行えない問題が発生した。本発明者らの

検討の結果,60°以上の角度を形成する事で,とりわけ直角に近い立上り斜面に

すると,ファセット形成及びその後の平坦化が実質的に阻害されないことを見いだ

した。なお可能であれば,90°を超える斜面角度とするのも好ましい。」と記載さ




れており,本件発明1は,甲1発明においては不適当と明記されている凸部側面の

立ち上がり角を採用した発明である。

[4] 甲1公報の段落【0051】【表2】は,甲1発明の凹凸部が適切に光を

散乱又は回折させたことにより光取り出し効率が上がったこと示すものではなく,

従来のELO技術に比して結晶転位が減少するという甲1発明の作用効果によって,

発光出力が向上したことを示すにすぎない。

B 甲10(【0018】〜【0020】,甲12(16頁3〜18行目)及び甲


33(【0024】)は,GaN系半導体のエピタキシャル成長の妨げにならないよ

うに,サファイア基板の表面を光の波長オーダでランダムに粗面化することを開示

しているだけであり,本件特許出願時において,サファイア基板の表面を規則的に

パターニングすることで光を散乱又は回折させるというサファイア基板の表面加工

による多重反射抑制技術は,周知ではなかった。



第5 当裁判所の判断

1 認定事実

(1) 本件発明1

本件明細書等によれば,本件発明1の特徴は,次のとおりのものと認められる。

本件発明1は,窒化物系化合物半導体発光素子において,半導体に欠陥が発生し

ない凹凸を基板に設け,半導体層での光の導波方向を変えて,外部量子効率を上げ

るようにした素子に関するものである(【0001】。


従来の構造の発光ダイオードでは,基板の平坦性を鏡面レベルに加工しているの

で,基板上の半導体層,発光領域及び電極は相互に平行な積層構造をなし,しかも

屈折率の大きな半導体層を,屈折率の小さな基板と透光性電極によって挟む構造に

よって光の導波路が形成されるので 【0003】,
( ) 臨界角よりも大きな角度で基板

又は電極との界面に入射した光は,全反射を繰り返して導波路内を伝播し,その間

に吸収される。このため,発光の一部は減衰して有効に外部に取り出すことができ




ず,外部量子効率が低下してしまった(【0004】。


これに対し,基板の表面に凹部又は凸部を形成して発光領域で発生した光を散乱

させ,もって外部量子効率を向上させるようにした方法が提案されているが 【00


07】,この発光ダイオードでは,凹部又は凸部の形状や大きさを制御せずに粗面


化を行った場合,成長したGaNの結晶性が低下してしまうため,かえってGaN

半導体層における発光効率が下がってしまっていた(【0008】。


そこで,本件発明1は,外部量子効率を安定的に確保できるようにした半導体発

光素子を提供することを目的とし 【0009】,
( ) @C面を主面とするサファイア基

板上に凸部を繰り返しパターンに形成する工程と,A前記基板上に前記凸部の上面

と前記凸部の形成されていない平坦面とからGaN系半導体を成長させて前記凸部

を埋める工程と,B前記GaN系半導体上にオーミック電極を形成する工程と,を

有し,C上方の前記GaN系半導体又は下方の前記サファイア基板から光を取り出

す窒化物半導体ダイオードの製造方法において(【0010】,D前記凸部を,基板


上面から見て多角形又は角が丸みを帯びた多角形とし(【0017】,かつ,前記G


aN系半導体層の積層方向に対して傾斜させ,散乱又は回折による出力向上の観点

から,その凸部の傾斜角を120°より大きくし(【0025】
【0050】
【008

1】,一方,散乱又は回折の効率低下と半導体層でのピット発生の双方の抑制の観


点から,その凸部の傾斜角を140°以下(【0025】
【0050】)とし,E前記

多角形を大略正三角形又は正六角形とし,F前記GaN系半導体層のA軸を構成辺

とする正六角形を想定したときに,前記多角形の構成辺が,上記A軸を構成辺とす

る正六角形の中心と頂点を結ぶ線分に,直交する形状とし(【0018】
【0031】

【0039】,G前記凸部の上面と前記凸部の形成されていない平坦面とから成長


したGaN系半導体が前記凸部側面付近で出会い,前記凸部を平坦に埋められるよ

うにし(【0040】【0041】,もって,凹凸による光の散乱又は回折効果によ


り,基板上方又は下方への光束が多くなり,発光素子の発光面を正面から観察した

ときの輝度を高めることができ,また,半導体層中を横方向に伝播する光を減らし,




伝播中の吸収ロスを低減して発光の総量を高めることができ【0013】,
( )しかも,

基板表面部分に凹部又は凸部を形成しても,半導体層には凹凸による結晶欠陥がほ

とんど成長せず,高い外部量子効率を安定に確保できるという効果を奏する 【00


14】)というものである。

(2) 甲1発明

甲1公報によれば,甲1発明の特徴は,次のとおりのものであると認められる。

甲1発明は,半導体基材に関し,特に転位欠陥が生じやすい半導体材料を用いる

場合に有用な構造に関するものである(【0001】。


従来,GaN系材料を結晶成長する場合,GaN系材料は格子整合する基板がな

いために,サファイアなどの格子整合しない基板を用いているが,近年実現されて

いる高輝度の発光ダイオード,半導体レーザーなどは,特性向上を図るために更な

る転位密度の低減が望まれた(【0002】。この転位密度低減を図る方法として,


前記基板上に部分的なマスクを設けて選択成長する方法が提案されているが【00


03】,この方法によれば,ラテラル成長方向にC軸が微小量ながら傾斜して結晶


品質が低下するという新たな問題が有ることが判明した(【0004】。また,マス


ク層材料として汎用されているものはSiO2などであるが,その上に結晶成長層
が積重されるとSi成分がこの結晶成長層中に移行するというオートドーピング汚

染の問題があることも判明するなど(【0005】,種々の問題が生じた。


そこで,甲1発明は,マスク層を用いることに起因する種々の問題を回避するこ

とを目的とし 【0009】,
( ) @基板と該基板上に気相成長された半導体結晶とから

なる半導体基材であって,前記基板の結晶成長面が凹凸面とされ,前記半導体結晶

は凹部又は凸部からファセット構造を形成しながら成長されたものであり【請求項


1】
【0010】,
) A上記基板に凹凸加工した凸部の立上り斜面と基板平面とが成す

角度が60°以上である半導体基材及びその作製方法であって(【請求項7】【00

01】,BC面サファイア基板上にフォトレジストのパターニングを行って凹凸加


工し,GaN低温バッファー層を成長させ,次に,n型GaN層を成長させ,凸部,




凹部両方で成長させて(【0041】,その結果,凹凸部を覆い,凹凸部が埋め込ま


れ平坦化したGaN膜が得られ(【0042】,C島状の点在型の凸部,ストライプ


型の凸条からなる凸部,格子状の凸部,これらを形成する線が曲線である凸部など,

凹凸形状であれば特に制限はなく各種の形状を採用することができるとし【002


3】,
)D凹凸加工したストライプの方向をサファイア基板の<1 −1 0 0>方向

とし(【0026】,もって,バッファ層等すら形成していない状態の基板に対して


凹凸面を設けることで,結晶成長当初からファセット面が形成可能な素地面をあら

かじめ提供し(【0016】,基板からC軸方向に伸びる転位線が,ファセット面で


横方向に曲げられ上方に伝播しなくなることで,成長面の表面近傍は基板からの転

位の伝播がないために低転位密度領域となるようにした【0017】ものである。
( )

これにより,甲1発明の半導体基材及びその作製方法は,マスク層を形成すること

に起因する問題点を回避できるという効果を奏するものである(【0058】。


そして,甲1発明の半導体基材を用いて,E基板上に成長される半導体層として

(【0020】,n型AlGaNクラッド層,InGaN発光層,p型AlGaNク


ラッド層,p型GaNコンタクト層を順に形成し,その後,電極形成を行い,LE

D素子とすることができ(【0050】,このLED素子は,従来例に比べ出力が高


く,リーク電流が少ないという効果を奏する(【0052】,というものである。


(3) 甲2発明

甲2公報によれば,甲2発明の特徴は,次のとおりのものと認められる。

甲2発明は,窒化物系半導体素子に関するものである(【0001】。


従来,サファイア等からなる基板上にGaN系半導体層をエピタキシャル成長さ

せているが 【0002】,
( ) サファイア等の基板とGaNとでは格子定数が異なるた

め,サファイア等の基板上に成長させたGaN系半導体層は,基板から上下方向に

延びる転位(格子欠陥)が存在しており,半導体素子の素子特性の劣化及び信頼性

の低下を招いていた 【0003】。
( ) このようなGaN系半導体層における転位を低

減する方法である選択横方向成長は 【0004】,
( ) 再成長GaN層の選択横方向成




長を行うことにより,再成長GaN層において転位の低減を図ることを可能とした

が(【0012】,この方法では,選択成長マスクとGaNとの熱膨張係数の違いか


ら,再成長GaN層においてクラックが発生しやすくなるなどし,このようなクラ

ックの発生は,半導体素子において,素子特性の劣化及び信頼性の低下を招くとと

もに,歩留りの低下を招いていたほか(【0014】【0016】,窒化物系半導体


において更なる格子欠陥の低減を図ることも望まれていた(【0017】。


そこで,甲2発明は,選択成長マスクを用いることなく,より転位の低減が図ら

れ,かつ,クラックの発生が防止された半導体素子を提供することを目的とし(【0

0019】,@C面を基板表面とするサファイア基板の所定領域に,凹部の幅を好


ましくは数μm〜数十μmと,凸部の幅を好ましくは数百nm〜数十μmとし,形

状を六角形,三角形等とする複数の凹部又は凸部が分散配置された凹凸パターンを

形成し(【0117】【0118】【0140】,A(0 0 0 1)面を基板表面と


するサファイア基板に六角形又は三角形の凹凸パターンを形成する場合には,好ま

しくは各辺を[1 −1 0 0]方向又は[1 1 −2 0]方向と等価な方向に一

致するように六角形又は三角形の凹凸パターンを形成し 【0150】,
( ) Bサファイ

ア基板のC面に対する凹部側面の角度は,特に限定されるものではなく,例えば,

凹部側面がサファイア基板のC面に対してほぼ垂直であり【0119】,
( )その上で,

Cサファイア基板の凸部上面,凹部底面及び凹部側面に,アンドープのAlGaN

からなるAlGaNバッファ層を成長させ(【0121】,続いて,AlGaNバッ


ファ層上に,アンドープのGaNからなるGaN層を成長させることによって 【0


122】,GaN層の凹部が徐々に埋められていき,GaN層が横方向に成長して


(【0123】,平坦化するまでGaN層を成長させる(
) 【0125】)という窒化物

系半導体の形成方法により,サファイア基板付近で発生したC軸方向に伝播した転

位が一様に低減され 【0124】,
( ) 良好な結晶性を有するGaN層を形成すること

ができるという効果を奏する(【0126】,というものである。


そして,この窒化物系半導体の形成方法を用いて,AlGaNバッファ層,第1




GaN層,第2GaN層,n−GaNコンタクト層,n−GaN第1クラッド層,

MQW発光層,p−GaN第1クラッド層,p−GaNコンタクト層を順に形成し,

最上層にp電極を形成した半導体レーザ素子は 【0191】
( 【0194】
【0195】

【0198】
【0199】
【0215】
【図11】,良好な素子特性を有するとともに


高い信頼性を有するという効果を奏する(【0200】
【0208】
【0216】,と


いうものである。



2 取消事由3(甲1発明に係る相違点判断の誤り)について

(1) 相違点3について

審決は,本件発明1と甲1発明とに前記第2,3(2)イの【相違点3】(凸部の配

置)のとおりの相違点があると認定しているところ,甲1発明の認定がどのような

ものであっても相違点3があることは,当事者間に争いがない。しかるに,原告は,

相違点3に係る構成の容易想到性について何ら主張しないから,本件主張立証上は,

甲1発明につき,本件発明1の相違点3に係る構成とすることは当業者にとって容

易想到ではないことに帰する。したがって,このこと自体からして審決の結論には

誤りがないことになる。

ただし,審決において相違点3についての判断がなされず,この点についての容

易想到性の検討が行われていないことに鑑み,審決において判断が示された相違点

2について,更に検討する。

(2) 相違点2について

審決は,本件発明1と甲1発明との相違点として,相違点1及び3以外に,前記

第2,3(2)イの【相違点2】(凸部の形状及び凸部側面のテーパ角)を認定してい

るところ,甲1発明の認定がどのようなものであっても,相違点2があることは,

当事者間に争いがない。そうすると,相違点2に係る判断についての審決の判断に

誤りがなければ,審決の結論は左右されないことになるから,以下検討する。

ア 本件発明1の凸部側面のテーパ角の技術的意義




前記1(1)の認定及び本件明細書等の記載 【0025】
( 【0047】 【0051】


【0081】
【図7】〜【図10】)によれば,本件発明1の凸部側面のテーパ角は,

サファイア基板上に形成したGaN系半導体発光ダイオードにおいて,半導体層の

結晶性を維持しつつ光の散乱又は回折による出力を向上させることを考慮して,1

20°超140°以下にしたものと理解される。

イ 甲1発明の凸部側面の立ち上がり角の技術的意義

(ア) 検討

甲1公報の特許請求の範囲には,【請求項1】基板と該基板上に気相成長された


半導体結晶とからなる半導体基材であって,前記基板の結晶成長面が凹凸面とされ,

前記半導体結晶は凹部及び/または凸部からファセット構造を形成しながら成長さ

れたものであることを特徴とする半導体基材。 と記載されており,
」 凸部の立ち上が

り傾斜と基板平面とがなす角度について特定されていないところ,【請求項7】上


記基板に凹凸加工した凸部の立上り斜面と基板平面とが成す角度が60°以上であ

ることを特徴とする請求項1記載の半導体基材。 との記載があるから,
」 請求項1に

係る発明にはそのような限定がされていない態様のものを含むことになり,甲1公

報には,凸部立ち上がり角が60°未満のもの(本件明細書等の段落【0025】

に係る凹部の底面と側面のなす角度が120°以上であるものに相応する。 を,
) 必

ずしも形式的・論理的な文言上からは排除していないと解される。

しかしながら,甲1公報には「【0032】また基板に凹凸加工した凸部11の立

上り斜面と基板平面が成す角度は,60°以上とすることが好ましく,可及的に直

角に近いことが特に望ましい。角度が60°よりも小さい場合,凸部斜面から成長

が始まりファッセット成長進行後の平坦化が良好に行えない問題が発生した。本発

明者らの検討の結果,60°以上の角度を形成する事で,とりわけ直角に近い立上

り斜面にすると,ファセット形成及びその後の平坦化が実質的に阻害されないこと

を見出した。なお可能であれば,90°を超える斜面角度とするのも好ましい。」と

記載されているから,当業者は,甲1発明の凸部側面の立ち上がり角を60°未満




とすると甲1発明の効果が阻害されると理解し,たとえ甲1公報の請求項1の記載

に接したとしても,凸部側面の立ち上がり角として60°未満のものも開示されて

いるとは考えない。また,前記1(2)に認定のとおり,甲1発明の凸部は,結晶成長

当初からファセット面が形成可能な素地面をあらかじめ提供し,基板からC軸方向

に伸びる転位線が,ファセット面で横方向に曲げられ上方に伝播しなくなることで,

成長面の表面近傍に基板からの転位の伝播がない低転位密度領域を形成するために

設けたものであって(【0016】【0017】,光を散乱又は回折させるために設


けたものではなく,また,甲1公報には,半導体層の結晶性を維持しつつ光の散乱

又は回折による出力を向上させることを考慮して凸部側面の立ち上がり角を決定す

ることは,記載も示唆もされていない。そうであれば,甲1公報に,半導体層の結

晶性を維持しつつ光の散乱又は回折による出力を向上させることを考慮して,基板

表面に形成した凸部側面のテーパ角を120°超140°以下とするという特定の

構成は開示されていないというべきである。

(イ) 原告の主張に対して

@ 原告は,本件発明1の凸部側面のテーパ角は,本件明細書等の段落【002

5】及び【図9】に記載されているとおり,凸部上面と側面とがなす角をいうとこ

ろ,下記のとおり,甲1公報の【図6】
(断面写真)によれば,甲1発明の凸部側面

と凸部上面がなす角度を図上で測定すれば,その角度は,本件発明1の測定方法に

即して,おおむね130°であるとも主張している。




しかしながら,本件発明1の凸部側面のテーパ角を凸部上面と側面とがなす角を




いうものと解するとしても,甲1公報には,凸部上面と凸部側面とがなす角度につ

いての具体的な記載はなく,かつ,凸部の立上り傾斜面と基板平面とがなす角度と

同傾斜面と凸部上面とがなす角度を変えることについての記載もないのであるから,

上記(ア)に摘示した段落【0032】の記載にしか接していない当業者であれば,甲

1公報の【図6】
(断面写真)は,工業技術上の制約から凸部の肩が丸くなっている

にすぎないと理解するといえる。そうすると,甲1公報において,甲1発明の凸部

上面と側面とがなす角度が,本件発明1の凸部側面のテーパ角として特定されたの

範囲内にあることが開示されているとはいえない。

A 原告は,審決が,本件発明1における「凸部」を「GaN系半導体層で発生

した光を散乱又は回折させる凸部」と特許請求の範囲に記載のない要件を用いて限

定した旨を主張する。

しかしながら,相違点判断に際しては,構成の相違だけではなくその構成に至る

までの過程が容易であるか否かが問題となっているのであるから,明細書等の記載

を踏まえて相違点に係る構成の技術的意義参酌することは当然のことであり,こ

れが許されないとすべき理由はない。審決の「甲1発明における『凸部』を,
『Ga

N系半導体層で発生した光を散乱又は回折させる凸部』とすることが,当業者にと

って容易に想到できたとすることはできない。」
(35頁4〜6行目)とした説示も,

「GaN系半導体層で発生した光を散乱又は回折させる構成」に至らないと説示し

たものではなく,甲1発明の凸部の構成を本件発明1の凸部の構成に変える前提と

なる動機付けが欠けているとしたものと理解できないものではない。

B 原告は,凹凸部のある基板を有するLED素子においては,基板に到達した

光が散乱又は回折することは自明なことであり,甲1発明の凸部が光を散乱又は回

折させることは,甲1公報に記載されているに等しい事項である旨を主張する。

確かに,光が達するところに凹凸があれば,それが光を散乱又は回折させ得るこ

とは自然原理上自明なことであるが,そうであるからといって,当業者が,光を散

乱又は回折させるために基板に凹凸を設けようとすることは当然の試みとはいえな




いし,その凹凸として適切な形状等を選択することは,上記原理を知っていても,

なお一段の創意を要することといえる。甲1発明の凸部は,結晶成長当初からファ

セット面が形成可能な素地面をあらかじめ提供し,基板からC軸方向に伸びる転位

線が,ファセット面で横方向に曲げられ上方に伝播しなくなることで,成長面の表

面近傍に基板からの転位の伝播がない低転位密度領域を形成するために設けたもの

であって(甲1公報【0016】
【0017】,光を散乱又は回折させるために設け


たものではないことは明らかである。また,本件発明1は,半導体層の結晶性を維

持しつつ光の散乱又は回折による出力を向上させることを考慮して凸部側面のテー

パ角を120°超140°以下としたものであるが,このようなことが甲1公報に

実質的に開示又は示唆されているものとはいえない。

C さらに,甲1公報の【0051】
【表2】に甲1発明のLEDチップが従来品

のLEDチップよりも発光出力が増大した旨の記載があるものの,甲1発明の凸部

が光を散乱又は回折させるために設けられたものではない以上,当業者は,上記記

載から,凸部が光を散乱又は回折させたことによって,甲1発明のLEDチップの

発光出力が増大したものと理解するものではない。

D 以上のとおり,原告の上記主張は,いずれも採用することができない。

ウ 甲2発明における凸部側面のテーパ角の技術的意義

甲2公報には,【0119】サファイア基板のC面に対する凹部側面の角度は,


特に限定されるものではなく,例えば,本例においては凹部側面がサファイア基板

のC面に対してほぼ垂直である。 との記載があるから,
」 甲1発明の凸部側面角が例

示されている垂直又は垂直に近いものに限定されているとはいえず,その範囲から,

相違点2に係る構成を排除していると解することはできない。

しかしながら,甲2発明は,前記1(3)に認定のとおりのものであって,本件発明

1のように,半導体層の結晶性を維持しつつ光の散乱又は回折による出力を向上さ

せることを目的とするものではないから,そのような観点から凸部側面角が決定さ

れたものではない。




そうすると,甲2発明において,凸部側面角を相違点2に係る構成に特定するこ

とは開示されておらず,また,当該構成を採用することの示唆ないし動機付けを認

めることはできない。そこで,当業者が,他の公知文献又は周知技術に基づいてこ

れを採用することが容易であるか否かを,以下検討することとする。

エ 甲10公報

(ア) 記載事項

特開平11−274568号公報(甲10)には,次の記載がある。


「【0016】次に,GaNベースのLED110の断面図である図2を参照する。…粗面仕

上げによって,界面に当たる光を散乱させ,その結果,GaN/電極/空気,または,エポキ

シ界面の臨界角より小さい角度で,光の一部が反射するようにする特徴118及び119が形

成される。上部表面の臨界角内に含まれる円錐内に散乱する光は,111で示すように,上部

表面を通ってLEDから脱出する。浅い角度で散乱する光117は,GaN層の上部表面から

反射されて,もう一度基板表面に当たる。この光の一部は,112で示すように,LEDの上

部表面からの脱出を可能にする角度で散乱することになる。浅すぎる角度で散乱する光は,も

う一度上部表面で跳ね返り,該プロセスが繰り返される。

【0017】サファイア表面の散乱を生じる特徴は,陥凹部119または突出部118であ

り,LEDによって生じる光のGaNにおける波長より大きいか,あるいは,ほぼその程度で

あることが望ましい。特徴が光の波長よりあまりにも小さいと光は有効に散乱しない。特徴が

GaN層の厚さに対し相対的に大きくなると,粗面仕上げによって,GaNの上部表面に欠陥

を生じる可能性がある。これらの制限内において,LED表面の特徴を変更しなくても,粗面

仕上げによって,光の結合効率が大幅に向上する。」

「【0021】基板表面の粗面仕上げは,光が基板から出射する幾何学的構造としても有効で

あることが分かっている。こうした幾何学的構造において,上部電極は反射材料から形成され,

上部電極に当たった光が反射して基板に戻される。」





「【図2】







(イ) 検討

上記(ア)の記載によれば,甲10公報には,サファイア基板上に形成したGaNベ

ースのLEDにおいて,基板表面の粗面仕上げによって,界面に当たる光が散乱し,

光の結合効率が大幅に向上すること,及び,粗面仕上げは,幾何学的構造としても

有効であることが記載されているとはいえるものの,そもそも,基板に形成した凸

部側面にテーパを設けることは記載されていないし,半導体層の結晶性を維持しつ

つ光の散乱又は回折による出力を向上させることを考慮して,基板表面に形成した

凸部側面のテーパ角を決定することも記載されていない。

オ 甲11公報

(ア) 記載事項

特開平10−4209号公報(甲11)には,次の記載がある。


「【請求項1】発光素子,該発光素子は以下(a)および(b)を含むことを特徴とする,

(a)素子,該素子は,以下(a−1)ないし(a−4)を含む,
(a−1)基板,(a−2)

p−n接合領域,該p−n接合領域は複数の層を備え,その部分組をなす複数層の極性が,p

−n接合を形成するように逆極性になっており,層の1つが基板に隣接している,
(a−3)透

過性ウインドウ層,該透過性ウインドウ層は前記p−n接合領域に隣接して配置され,及び,

(a−4)電気接点,該電気接点は前記p−n接合領域に接続し,前記p−n接合に順バイア





スをかける働きをする,

(b)主界面であって,該主界面は前記素子内に配置され,少なくとも 1 つの選択方向にお

いて繰り返される特徴によってテクスチャが形成されており,選択された方向のそれぞれにお

いて関連する周期性を備えて,光の抽出を増すようになっており,1つの周期内において,少

なくとも1つの山と少なくとも1つの谷を有する断面プロフィールを備える主界面。」

「【0012】

【課題を解決するため手段】LEDの任意のまたは全ての界面における少なくとも1つの次

元において周期的な規則的界面テキスチャを備えるLEDによって,第1のパス光の抽出が改

善される。界面のパターン形成は,脱出のために素子による多重パスを必要とせずに,より多

くの光を周囲に送り込めるように制御される。さらに,規則的なテキスチャ界面によって,光

線が周囲に脱出する場合のフレネル損失を減少させることが可能になる。規則的にパターン化

されたテキスチャ形成界面は,素子内における光の単一波長に相当する特徴間隔を備えること

が可能である。テキスチャ特徴の形状及び寸法は,光の抽出が問題となる用途にとって最適に

なるように選択される。

【0013】規則的な制御された界面テキスチャ形成の結果,素子/周囲界面における有効

脱出円錐の変化または拡大によって光抽出の利得を向上させることが可能になる。マクロ整形

技法に比べると,規則的テキスチャ形成が必要とする製作プロセスはより単純である。ほぼ反

射防止コーティングによって反射を最小限に抑えるやり方で,フレネル損失を減少させること

が可能である。最後に,第1のパス光に関して,光抽出の利得がすぐに得られ,光は素子内か

ら放出する前に素子構造内において多重パスを繰り返さなくてよい。」

「【0026】最適性能に必要な規則的テキスチャ形成の特定の形状,寸法,及び,構成は,

用途によって決まる。特徴形状は,円錐状の隆起及び窪みとすることが可能である。典型的な

規則的構成は,方形,矩形,または,六角形(HCP,Hexagonal Closed Packed)アレイとする

ことが可能である。これらの構成が,それぞれ,規則的なテキスチャ形成界面の平面図を示す

図5a〜5cに示されている。周期的間隔は,おそらく,素子内の光の波長と同じか,あるい

は,それより短い。テキスチャ形成界面の断面プロフィールは,隆起または窪みによる山と谷





を示し,高さまたは深さによって決まるFWHM幅(Full-Width-at-Half-Maximum,最大値の1/

2における全幅)のように界面の平面に沿った個々の特徴の範囲も,素子内における光の波長

の数倍以下と同等にすることが可能である。隆起または窪みの最大高さまたは深さは,素子内

における光の1〜数波長分と同等にすることが可能である。規則的パターンの間隔は,波長に

よって決まる。従って,界面における電磁位相整合条件を最適に変更して,周囲に伝搬する全

パワーを増大させるのは重要である。パターンの局部的特徴の範囲及び深さは,光を透過する

ための位相条件の変更効率に影響を及ぼす。また,全光学透過及び素子性能を最大にするため,

その個々の局部的特徴のサイズ及び/または形状に関して,パターンの周期を少しづつ変化さ

せてチャープを生じさせるか,あるいは,別の変化をつけることが可能である。」

「 【図5a】 【図5b】 【図5c】







(イ) 検討

上記(ア)の記載によれば,甲11公報には,発光素子の該主界面は前記素子内に配

置され,少なくとも 1 つの選択方向のそれぞれにおいて関連する周期性を備え,1

つの周期内において,少なくとも1つの山と少なくとも1つの谷を有する断面プロ

フィールを備えるテクスチャが形成されることによって,光の抽出が増すこと,及

び,規則的テクスチャの特徴形状は,円錐状の隆起及び窪みとすることが記載され

ているとはいえるものの,半導体層の結晶性を維持しつつ光の散乱又は回折による

出力を向上させることを考慮して,基板表面に形成した凸部側面のテーパ角を決定

することは記載されていない。

カ 甲12公報

(ア) 記載事項




国際公開01/47039号公報(甲12)には,次の記載がある(訳文は,審

決,弁論の全趣旨による。。




「(16頁3〜18行目)Light extraction of the LED can be increased by providing

a textured surface at one of the interfaces of the III-nitride heterostructure. The

texturing may be random or ordered. This is illustrated in Figures 13a-c. Figure 1

3a shows an inverted device employing a sapphire superstrate. The large refractive

index mismatch (n〜0.6) between the sapphire superstrate and the III-nitride epitaxi
al layers results in a large portion of the light generated from the active region to

be totally-internally-reflected at the sapphire/III- nitride interface. This light is tr

apped and guided laterally along the device towards the sides of the die. However,

because of the many loss mechanisms present in the III-nitride epi layers and elec

trodes, most of the waveguided light is lost before escaping the device. In Figure 1

3b, the interface between the III-nitride heterostructure and the sapphire superstrat

e is textured in order to scatter light out of the III-nitride layers. This reduces th

e mean photon path-length within the heterostructure and reduces the effect of int

ernal absorption, thus improving light extraction. A similar effect can be achieved b

y texturing the bottom surface of the III-nitride heterstructure, or at one of the in

terfaces within the heterostructure. Multiple interfaces may be textured in combinati

on to further increase light extraction.」
(〔訳文〕LEDの光抽出は,V族窒化物ヘテロ構造の1つの界面において表面テクスチャを施

すことにより増加できる。テクスチャ加工は,不規則でも規則的でもよい。これは,図13(a)

から図13(c)に示されている。図13(a)は,サファイア上層基板を利用する逆転装置を示す。

サファイア上層基板とV族窒化物エピタキシャル層との間の屈折率の不釣合が大きい(nが約

0.6)と,活性領域から発生する大部分の光がサファイア・V族窒化物の界面で完全に内部に

反射されることになる。この光は捕らえられ,装置に沿って横方向へ,ダイの側面に向かって





誘導される。しかし,V族窒化物エピ層と電極とに存在する多くの損失機構のために,導波光

のほとんどは,装置から逃げる前に失われる。図13(b)において,V族窒化物ヘテロ構造とサ

ファイア上層基板との間の界面が,光をV族窒化物層から散乱させるためにテクスチャ加工

れる。これにより,ヘテロ構造内の平均光子路程長が減少して内部吸収効果が減少し,すなわ

ち,光抽出が改善される。同様な効果は,V族窒化物ヘテロ構造の底面,又は,ヘテロ構造内

の界面の1つにおいてテクスチャ加工することにより達成できる。多くの界面は,光抽出の更

なる増大と関連してテクスチャ加工され得る。)

「FIG.13(b)






(イ) 検討

上記(ア)の記載によれば,甲12公報には,V族窒化物ヘテロ構造とサファイア上

層基板との間の界面をテクスチャ加工して,光をV族窒化物層から散乱させること

によって,LEDの光抽出が増加すること,及び,テクスチャ加工は,不規則でも

規則的でもよいことが記載されているとはいえるものの,そもそも,基板に形成し

た凸部の側面にテーパを設けることは記載されていないし,半導体層の結晶性を維

持しつつ光の散乱又は回折による出力を向上させることを考慮して,基板表面に形

成した凸部側面のテーパ角を決定することも記載されていない。

キ 甲33公報

(ア) 記載事項

特開2001−7393号公報(甲33)には,次の記載がある。





「【0022】AlGaInN/サファイア界面に粗さを持たせた,即ちテクスチャを付けた

素子の場合であっても,多層エピタキシャル構造の厚さを大きくすると光抽出効率が改善され

る。図5は,図4にて利用したものと同様であるがAlGaInN/サファイア界面にテクス

チャをつけた素子の相対的光抽出効率をモデリングしたものである。テクスチャをつけたAl

GaInN/サファイア界面は,そこに入射する光を0次反射に対して±11°の標準偏差で

ランダム化する。多層エピタキシャル構造の厚みを増大させたことによる光抽出率の改善はこ

れらのケースにおいては22〜27%である。」

「【0024】本発明に基づくAlGaInNベースLEDの製造方法を,図7を参照しつつ

説明する。ステップ62においては基板が用意される。基板はサファイアで作られたものが望

ましい。…次にステップ65においては,基板の上面にテクスチャがつけられる。テクスチャ

づけは数ある技術のうちのいずれによって実施しても良い。…また,かわりに基板をウエット

又はドライエッチング技術によりパターニングしても良い。」

「【0028】AlGaInNベースLED32は,半透明金属層54を介して表面光を放射

する素子として説明したが,LEDは半透明金属層のかわりに高い反射率を持つメタライズ層

を有する反転素子とすることも出来る。この反転LEDにおいては,表面光は透明基板を通し

て放射される。」



(イ) 検討

上記(ア)の記載によれば,甲33公報には,AlGaInN/サファイア界面に粗

さを持たせた,すなわち,テクスチャを付けたAlGaInNベースLEDは,光

抽出効率が改善されること,及び,基板の上面につけるテクスチャは,基板をウエ

ット又はドライエッチング技術によりパターニングしても良いことが記載されてい

るとはいえるものの,そもそも,基板に形成した凸部の側面にテーパを設けること

は記載されていないし,半導体層の結晶性を維持しつつ光の散乱又は回折による出

力を向上させることを考慮して,基板表面に形成した凸部側面のテーパ角を決定す

ることも記載されていない。




ク 甲13刊行物

(ア) 記載事項

「High Output Power InGaN Ultraviolet Light-Emitting Diodes Fabricated on Pat

terned Substrates Using Metalorganic Vapor Phase Epitaxy」 Jpn. J. Appl. Phys. Vo

1. 40(2001) pp. L583-L585(Part 2, No. 6B, 15 June 2001)(甲13)には,以下

の記載がある(訳文は,審決,甲14添付訳文,弁論の全趣旨による。。



「(L583頁要約9〜10行目)Ultraviolet(UV) light-emitting diodes(LEDs) with an InGaN

multi-quantum-well(MQW) structure were fabricated on a patterned sapphire substrate(PSS) usin

g a single growth process of metalorganic vapor phase epitaxy.」

(〔訳文〕有機金属気相成長法という単一成長プロセスを用い,パターン化されたサファイア基

板(PSS)上にInGaN多重量子井戸(MQW)構造を有する紫外線(UV)発光ダイオ

ード(LED)を形成した。)

「(L583頁右欄3〜5行目)Epitaxial layers of UV-LED devices were grown on a pattern

ed sapphire substrate(PSS) by the MOVPE technique under atmospheric pressure using a single

growth process.」

(〔訳文〕単一成長プロセスを用い,大気圧下においてMOVPE(有機金属気相成長法)技術

により,パターン化されたサファイア基板(PSS)上にUV−LEDデバイスのエピタキシ

ャル層を成長させた。)

「(L583頁右欄13〜14行目)the widths of the ridges and grooves and the depth of

grooves were 3μm,3μm and 1.5μm, respectively.」

(〔訳文〕凸部の幅,凹部の幅,及び凹部の深さはそれぞれ,3μm,3μm及び1.5μmで

あった。)

「(L584頁左欄16〜21行目)The flip-chip LEDs were placed on lead frames, and the

n molded by epoxy resin. The molded LEDs were measured at RT. Standard mounted LEDs, w

hich were rrown on a conventional sapphire substrate(CSS), were also fabricated and evaluated





(CSS-UV-LED, sample B).」

(〔訳文〕フリップチップLEDをリードフレーム上に載置した後,エポキシ樹脂により成形し

た。形成した発光ダイオード(LED)を室温(RT)で計測した。従来のサファイア基板(C

SS)上に成長させ,標準的にマウントしたLEDも作製し,評価した(CSS−UV−LE

D,サンプルB))








(〔訳文〕図1.PSS上に作製されたUV−LEDの概略図)












(〔訳文〕(表1.LEPS−UV−LED(サンプルA)とCSS−UV−LED(サンプ

ルB)の比較

サンプルA サンプルB

基板 PSS CSS
_

〈1100〉サファイア

_

〈1120〉GaN

転位密度 1.5×108cm−2 4×108cm−2
ダイボンディング フリップチップ 標準型
20mA順方向電流時 3.4V 3.4V
の動作電圧
出力Po 15.6mW 〜3.5mW
(20mA時)
外部量子効率ηe 24% 〜5.4%
(20mA時)
100μA逆バイアス電流時 17.8V 11.5V
の電圧



(イ) 検討

上記(ア)の記載によれば,甲13刊行物には,凸部の幅3μm,凹部の幅3μm,

凹部の深さ1.5μmの凹凸を設けたサファイア基板上に作製したGaN系LED

は,従来のサファイア基板を用いたLEDよりも,転位密度が小さく,出力及び外

部量子効率が高くなることが記載されているとはいえるものの,そもそも,基板に

形成した凸部の側面にテーパを設けることは記載されていないし,半導体層の結晶

性を維持しつつ光の散乱又は回折による出力を向上させることを考慮して,基板表

面に形成した凸部側面のテーパ角を決定することは記載されていない。

ケ 甲34刊行物

(ア) 記載事項

「High Output Power InGaN Ultraviolet Light-Emitting Diodes Fabricated on

Patterned Substrates Using Metalorganic Vapor Phase Epitaxy」 phys. stat. sol. (a) 188,

No.1, 121-125(2001)(甲34)には,次の記載がある(訳文は,審決,甲34添付




訳文,弁論の全趣旨)。


「(121頁要約1〜3行目)Ultraviolet(UV) light-emitting diodes(LEDs) with an InGaN mult

i-quantum-well(MQW) structure were fabricated on a patterned sapphire substrate(PSS) using a

single growth process of metalorganic vapor phase epitaxy.」

(〔訳文〕有機金属気相成長法という単一成長プロセスを用い,パターン化されたサファイア基

板(PSS)上にInGaN多重量子井戸(MQW)構造を有する紫外線(UV)発光ダイオ

ード(LED)を形成した。)

「(122頁9〜11行目)Epitaxial layers of UV-LED devices were grown on a patterned s

apphire substrate(PSS) by the MOVPE technique using a single growth process, without a mask

or any interruption.」

(〔訳文〕単一成長プロセスを用い,マスクも一切の中断もない状態で,MOVPE(有機金属

気相成長法)技術により,パターン化されたサファイア基板(PSS)上にUV−LEDデバ

イスのエピタキシャル層を成長させた。)

「(122頁14〜15行目)The dimensions of the structure were as follows: the widths of

the ridges and grooves and the depth of grooves were 3μm,3μm and 1.5μm, respectively.」

(〔訳文〕当該構造の寸法は以下のとおりであった:凸部の幅,凹部の幅,及び凹部の深さはそ

れぞれ,3μm,3μm及び1.5μmであった。)

「(122頁27〜35行目)The flip-chip LEDs were placed on lead frames, and then caps

ulated by epoxy resin. Four types of LEDs were fabricated and measured at RT. Sample A was
_ _

fabricated on the PSS with parallel grooves along the 〈1100〉sapphire (〈1120〉GaN) direction,
_ _

Sample B was fabricated on the PSS with parallel grooves along the 〈1120〉sapphire (〈1100〉G

aN) direction, sample C was a standard mounted (p-side up) LED with a transparent p-type ele

ctrode fabricated on the same wafer as sample A, and sample D was standard mounted LED wi

th a transparent p-type electrode, which was grown on a conventional sapphire substrate(CSS),

as listed in Table1.」





(〔訳文〕フリップチップLEDをリードフレーム上に載置した後,エポキシ樹脂でカプセル化

した。室温で,4種類のLEDが形成され,計測された。表1に記載されているとおり,サン
_ _

プルAは〈1100〉サファイア(〈1120〉GaN))方向の平行な溝を有するPSS上に形成され,
_ _

サンプルBは〈1120〉サファイア( 1100〉
〈 GaN)方向の平行な溝を有するPSS上に形成され,

サンプルCは,サンプルAと同じウエハ上に形成された透明のp型電極を有する(p面が上の)

標準型LEDであり,サンプルDは,従来のサファイア基板(CSS)上に成長させ,標準的

にマウントした,p型透明電極を有するLEDであった。)






「 」

(〔訳文〕図1.PSS上に作製されたUV−LEDの概略図)















(〔訳文〕表1
LEPS−UV−LEDとCSS−UV−LEDの特徴

サンプルA サンプルB サンプルC サンプルD

基板 PSS
_ PSS _ PSS
_ CSS
〈1100〉サファイア
_ 〈1120〉サファイア
_ 〈1100〉サファイア
_

〈1120〉GaN 〈1110〉GaN 〈1120〉GaN
転位密度 1.5×108 *
) 1.5×108 4×108
cm−2 cm−2 cm−2
ダイボン フリップチップ フリップチップ 標準型 標準型
ディング
出力 15.6mW 〜15mW 〜9mW 〜3.5mW
(20mA時)
外部量子効率 24% 〜23% 〜13.8% 〜5.4%

*凸領域に集中 )



(イ) 検討

上記(ア)の記載によれば,甲34刊行物には,サファイア基板に凸部の幅3μm,

凹部の幅3μm,凹部の深さ1.5μmの凹凸を設けたLEDは,従来のサファイア

基板を用いたLEDよりも,転位密度が小さく,出力及び外部量子効率が高くなる

ことが記載されているとはいえるものの,そもそも,基板に形成した凸部の側面に

テーパを設けることは記載されていないし,半導体層の結晶性を維持しつつ光の散

乱又は回折による出力を向上させることを考慮して,基板表面に形成した凸部側面

のテーパ角を決定することは記載されていない。

コ 甲35の1刊行物

(ア) 記載事項

国際公開01/41225号公報(甲35の1)には,次の記載がある(訳文は

弁論の全趣旨)。





「図7








(イ) 検討

特許出願に際して,願書に添付された図面は,設計図ではなく,特許を受けよう

とする発明の内容を明らかにするための説明図にとどまり,同図上に,当業者に理

解され得る程度に技術内容が明示されていれば足り,これによって当該部分の角度

や寸法等が特定されるものではない。しかるところ,上記(ア)の図面が説明図にとど

まることは,その体裁から明らかである。

したがって,上記(ア)の記載のみから,基板に形成された凸部のテーパ角が12

0°〜140°の範囲にあるという特定の構成が開示されているとはいえない。

周知技術

サファイア基板において,規則的な凹凸パターンを設けることで,GaN系半導

体の結晶品質を改善し(すなわち,内部量子効率を向上させ),多重反射を有効に抑

制できる(すなわち,外部量子効率を向上させる)という技術が,周知技術であっ

たことを認めるに足りる証拠はない。

甲13刊行物や甲34刊行物には,サファイア基板に規則的なパターンを設ける

ことで,GaN系半導体の転位密度を小さくできること,すなわち,結晶品質を改

善できることは記載されているものの,多重反射を有効に抑制できることは記載も




示唆もされていない。

シ 小括

以上イ〜サによれば,サファイア基板上に形成したGaN系半導体発光ダイオー

ドにおいて,半導体層の結晶性を維持しつつ光の散乱又は回折による出力を向上さ

せることを考慮し,基板表面に形成した凸部側面のテーパ角を120°超140°

以下とすることは,甲1発明に記載ないし示唆はなく,また,その外のいずれの公

知文献及び周知技術にも記載ないし示唆されていない。

したがって,甲1発明において,本件発明1の相違点2に係る構成とすることは,

当業者にとって容易に想到し得たものとはいえない。

(3) まとめ

以上のとおりであるから,その余の点について判断するまでもなく,本件発明1

が,甲1発明に甲2発明若しくは公知技術又は周知技術を適用して当業者が容易に

想到することができたとはいえない。また,本件発明1の特定事項に更に他の特定

事項を付加した本件発明2〜4が,甲1発明に公知技術又は周知技術を適用して当

業者が容易に想到し得たものでないことも明らかである。

よって,取消事由3は,理由がなく,甲1発明に基づいて本件発明1の進歩性

否定できない以上,取消事由1及び2について検討するまでもなく,これに基づい

て審決を取り消すことはできない。



第6 結論

以上の次第であり,取消事由3には理由がないから,その余の取消事由につい

て判断するまでもなく,原告の請求は理由がない。

よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。



知的財産高等裁判所第2部





裁判長裁判官
清 水 節




裁判官

中 村 恭




裁判官

中 武 由 紀