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審判番号(事件番号) データベース 権利
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平成25行ケ10191審決取消請求事件 判例 特許
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平成25行ケ10172審決取消請求事件 判例 特許
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事件 平成 25年 (行ケ) 10105号 審決取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2014/03/26
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成26年3月26日判決言渡

平成25年(行ケ)第10105号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 平成25年10月24日

判 決



原 告 キシエンジニアリング株式会社



訴 訟 代 理 人 弁 護 士 寒 河 江 孝 允
弁 理 士 保 科 敏 夫




被 告 エス・イー・エンジニアリング株式会社



訴 訟 代 理 人 弁 護 士 高 橋 恭 司

枩 藤 朋 子

大 村 隆 平

福 田 智 洋

弁 理 士 足 立 勉

石 原 啓 策

竹 中 謙 史



主 文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。



事 実 及 び 理 由




第1 原告の求めた判決

特許庁が無効2010−800233号事件について平成25年3月4日にした

審決を取り消す。



第2 事案の概要

本件は,被告の特許無効審判請求により原告の特許を無効とした審決の取消訴訟

である。争点は,特許発明進歩性の有無及び審判における手続違背の有無である。

1 特許庁における手続の経緯

原告は,発明の名称を「オープン式発酵処理装置並びに発酵処理法」とする発明

に係る特許第3452844号(本件特許)の特許権者である(平成11年8月5

日特許出願,登録日平成15年7月18日。請求項数3。甲17)。

これに対し,被告は,平成22年12月16日,請求項1〜3に係る本件特許に

つき無効審判請求をしたところ(無効2010−800233号。甲1)特許庁は,


平成23年7月29日,特許第3452844号の請求項1〜3に係る発明につい


ての特許を無効とする。」との審決(第1次審決)をした。そこで,原告は,第1次

審決の取消しを求める訴えを提起した(平成23年(行ケ)第10284号)とこ

ろ,平成24年6月6日,第1次審決は取り消され,その後,特許庁は,平成25

年3月4日,特許第3452844号の請求項1〜3に係る発明についての特許を


無効とする。」との審決(以下,「審決」とはこの審決を指す。)をし,その謄本は,

同月14日に原告に送達された。



2 本件発明の要旨

本件特許公報(甲17。以下「本件明細書」という。)によれば,本件特許の請求

項1ないし3に係る発明(以下,これらを総称して「本件発明」ということがある。)

は,以下のとおりである。

【請求項1】(本件発明1)




「有機質廃物を経時的に投入堆積発酵処理する長尺広幅の面域の長さ方向の1側に

長尺壁を設け,

その他側は長尺壁のない長尺開放側面として成る大容積のオープン式発酵槽を構

成すると共に,

該長尺壁の上端面にレールを敷設し,該レール上を回転走行する車輪と該長尺開

放側面側の床面上を該長尺開放側面に沿い回転走行する車輪とを配設されて具備す

ると共に

該オープン式発酵槽の長尺広幅の面域の幅方向に延びる回転軸の全長に亘り且つ

その周面に多数本のパドルを配設して成り,

且つ堆積物を往復動撹拌する正,逆回転自在のロータリー式攪拌機を具備した台

車を該オープン式発酵槽の長さ方向に往復動走行自在に設けると共に

該オープン式発酵槽に対し,該長尺開放側面を介してその長さ方向の所望の個所

から被処理物の投入堆積と発酵済みの堆肥の取り出しを行うようにしたこと

を特徴とするオープン式発酵処理装置。」

【請求項2】(本件発明2)

「該長尺壁の両端に該長尺広幅の面域の幅方向に延びる端壁を配設して長尺コ字状

に形成して成る請求項1に記載のオープン式発酵処理装置。」

【請求項3】(本件発明3)

「請求項1又は2に記載のオープン式発酵装置の発酵オープン式発酵槽の該長尺開

放側面を介して該オープン式発酵槽内の所望の個所への有機質廃物の投入堆積を経

時的に行い,台車の往復動走行に伴う該ロータリー式撹拌機の正,逆回転による夫々

の堆積物の往復動撹拌を適時繰り返し行い乍ら所要期間発酵せしめ,夫々の投入時

の位置から発酵処理済みの堆肥を該長尺開放側面を介して取り出すようにしたこと

を特徴とするオープン式発酵処理法。」



3 請求人(被告)が主張する無効理由




(1) 無効理由1

本件発明は,その出願前に日本国内で譲渡された日環エンジニアリング株式会社

(以下「日環エンジニアリング」という。)製のオープン式発酵処理装置KS7−1

2型に係る発明(以下「KS7−12発明」という。)であるか,それに基づいて当

業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条1項1号若し

くは2号に規定する発明に該当し,又は同条2項の規定に違反してなされたもので

あり,無効である。

(2) 無効理由2

本件発明は,その出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開昭61

−232292号公報(甲A17)に記載された発明(以下「甲A17発明」とい

う。)に基づいて,当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法2

9条2項の規定に違反してなされたものであり,無効である。



4 審決の理由の要点

本件発明は,その出願前に日本国内で公然知られたKS7−12発明に基づいて

当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法29条2項の規定に

違反して特許を受けたものであるから,同法第123条1項2号の規定により,無

効とすべきものである。

(1) KS7−12発明について

ア 日環エンジニアリングが製造したオープン式発酵処理装置KS7−12

型(以下,この装置を「KS7−12」という。 は,
) 梨北農業協同組合に売却され,

山梨県北杜市が管理委託する「たかね有機センター」に平成9年3月に納入された。

たかね有機センターは,山梨県北杜市と梨北農業協同組合が管理している。KS7

−12の納入に当たり,梨北農業協同組合と日環エンジニアリングとの間で,KS

7−12の内容を第三者に開示してはならない旨の合意はなされておらず,実際に

も,平成9年9月には山梨県明野村の職員がKS7−12を見学している。




そうすると,KS7−12の内容は,本件特許出願日である平成11年8月5日

よりも前に,公然と知られたものであったとすることができる。

イ KS7−12は,納入後今日までの間に仕様変更はなされていないので,

その特定事項の認定は,請求人(被告)が無効審判請求書に添付した平成22年6

月1日に撮影した写真1−1〜1−22(甲1,27〜44頁)により行う。これ

から得られる発明特定事項によれば,KS7−12発明について,以下のとおりと

認められる。
「有機質廃物を投入堆積発酵処理する広幅の面域の長さ方向の1側に壁を設け,

その他側は壁のない開放側面として成るオープン式発酵槽を構成すると共に,該壁

の上端面にレールを敷設し,該レール上と該開放側面側の面域上を転動走行する車

輪を配設されて具備すると共に,台車の幅方向に水平に延びる回転軸と,該回転軸

の周面・軸方向に配設された長杆の先端に板状の掬い上げ部材を具備する多数本の

パドルが備えられており,堆積物を往復動撹拌する正,逆回転自在のロータリー式

撹拌機を横設した台車を該オープン式発酵槽の長さ方向に往復動走行自在に設ける

オープン式発酵処理装置。」

(2) 本件発明1とKS7−12発明との一致点及び相違点について

【一致点】

「a 有機質廃物を投入堆積発酵処理する広幅の面域の長さ方向の1側に壁を設け,

b その他側は壁のない開放側面として成るオープン式発酵槽を構成すると共に,

c 該壁の上端面にレールを敷設し,該レール上と該開放側面側の面域上を転動走

行する車輪を配設されて具備すると共に

d 台車の幅方向に水平に延びる回転軸と,該回転軸の周面・軸方向に配設された

長杆の先端に板状の掬い上げ部材を具備する多数本のパドルが備えられており,

e 堆積物を往復動撹拌する正,逆回転自在のロータリー式撹拌機を横設した台車

を該オープン式発酵槽の長さ方向に往復動走行自在に設ける

g オープン式発酵処理装置。」である点。




【相違点1】

本件発明1が有機質廃物を「経時的に」投入するのに対して,KS7−12発明

は,この点について明示の記載のない点。

【相違点2】

本件発明1が「長尺広幅の面域の長さ方向の1側に長尺壁を設け」「その他側は


長尺壁のない長尺開放側面」とするのに対して,KS7−12発明は,面域,壁及

び開放側面が「長尺広幅」あるいは「長尺」であることについて明示の記載のない

点。

【相違点3】

本件発明1が「大容積」のオープン式発酵槽であるのに対して,KS7−12発

明は,オープン式発酵槽が「大容積」であることについて明示の記載のない点。

【相違点4】

本件発明1が「該オープン式発酵槽に対し,該長尺開放側面を介してその長さ方

向の所望の個所から被処理物の投入堆積と発酵済みの堆肥の取り出しを行うように

したことを特徴とする」のに対して,KS7−12発明は,この点について明示の

記載のない点。

(3) 相違点に関する判断は,以下のとおりである。

ア 相違点1について

埼玉式KSコンポ取扱説明書(甲11。以下「本件取扱説明書」という。)には,

「§1−2.作業手順

・・・

§1−3.堆肥取り出し

・・・

2)取り出す時期になったら下図の仕上げ部分には生糞は散布しないで下さい。

3)バケットローダー等で,槽の立上りピット側を50cm〜1m程度残して取り

出ことが望ましい。」とされ,KS7−12発明において,堆肥取り出し時期には,




ハッチングで示された仕上げ部分である堆肥をバケットローダー等で取り出すこと

が記載されていると認められる。そうすると,堆肥取り出しは部分的であり,取り

出しによって空いた槽の部分を放置する合理的理由は見当たらず,槽全体を効率的

に用いるという経済的理由からも,操業に際しての有機質廃物の投入は,「同時的」

ではなく「経時的」であると推認される。このことは,発酵槽は単一槽でもよい甲

A17発明の「発酵槽のブロック毎に有機質廃棄物の供給と堆肥の取り出しを自由

におこない,滞留日数を独立に設定するようにした発酵槽」という技術事項によっ

ても裏付けられるものである。

したがって,KS7−12発明において,有機質廃物を「経時的に」投入するこ

とは記載されているに等しいか,そうでないとしても当業者であれば容易に想到

得る操業事項というべきである。

イ 相違点2について

本件発明1において,
「長尺広幅の面域」「長尺壁」及び「長尺開放側面」がどの


程度のものかは請求項には記載されておらず,本件明細書の段落【0005】【0


008】の記載によれば,
「飼育する家畜の頭数や排出される家畜の生糞を毎日投入

堆積し,30日程度の長期間に亘りその堆積物を発酵処理し,順次取り出し連続的

に堆肥を生産する」長さで「畜糞,
・・・など所望の有機質廃物を水分調整材と共に

経時的に,
・・・堆積し,その夫々の堆積物を所要期間発酵処理するに足る」長さで

あると理解される。

一方,KS7−12発明については,発酵槽の長さは約15mと換算される。こ

の15mが長尺か否かは,本件発明1の長尺が定義されたものでないから,本件明

細書における例示の最短である30mの半分であるから範囲外と判断するのではな

く,堆肥を生産するために有機質廃物を経時的に投入することが可能な長さか否か

によって実質的に判断すべきものである。

そうすると,アで検討したように,KS7−12発明は,有機質廃物を経時的に

投入することについては記載されているに等しいか,当業者であれば容易に想到




得る操業事項であるから,KS7−12発明の面域,壁及び開放側面が「長尺広幅」

あるいは「長尺」であることは記載されているに等しいか,そうでないとしても当

業者であれば容易に想到し得る設計事項というべきである。

ウ 相違点3について

本件発明1において,オープン式発酵槽が「大容積」とはどの程度のものを意味

するのかは,請求項に記載がなく,段落【0014】の記載によれば,
「大容積」と

は「極めて大量の各種の有機質廃物からなる被処理物を大量に毎日投入堆積し得ら

れ,その夫々の堆積物が長期間に亘り発酵処理するに足り」る容積であると理解さ

れる。

そうであれば,イで検討したように,バケットローダー等で堆肥の取り出しを行

うKS7−12発明の面域,壁及び開放側面が「長尺広幅」あるいは「長尺」であ

ることは記載されているに等しいか,そうでないとしても当業者であれば容易に想

到し得る設計事項であるから,それによって構成されるKS7−12発明のオープ

ン式発酵槽が「大容積」であることは記載されているに等しいか,そうでないとし

ても当業者であれば容易に想到し得る設計事項というべきである。

エ 相違点4について

KS7−12発明も,バケットローダー等で仕上げ部分の堆肥を取り出すことが

開示されている以上,オープン式発酵槽に対し,発酵の程度に応じて該長尺開放側

面を介してその長さ方向の所望の個所から被処理物の投入堆積と発酵済みの堆肥の

取り出しを行うようにしたことは,同発明においても記載されているに等しいか,

そうでないとしても当業者であれば容易に想到し得る設計事項というべきである。

(4) 本件発明2について

本件発明2は,本件発明1に,
「該長尺壁の両端に該長尺広幅の面域の幅方向に延

びる端壁を配設して長尺コ字状に形成して成る」との特定事項を加えたものである

が,KS7−12発明においても,写真1−4から,壁の向かい側は,壁のない開

放側面となっており,全体としてオープン式発酵槽を構成していることが確認でき




るのであって,実質的に「コ字状」であると認められるから,これを「長尺」とす

ることは,前記で検討したように当業者であれば容易に想到し得るというべきであ

る。

(5) 本件発明3について

本件発明3は,本件発明1又は2に,A「発酵オープン式発酵槽の該長尺開放側

面を介して該オープン式発酵槽内の所望の個所への有機質廃物の投入堆積を経時的

に行い」B
,「台車の往復動走行に伴う該ロータリー式撹拌機の正,逆回転による夫々

の堆積物の往復動撹拌を適時繰り返し行い乍ら所要期間発酵せしめ」 C
, 「夫々の投

入時の位置から発酵処理済みの堆肥を該長尺開放側面を介して取り出すようにした

ことを特徴とする」を加えた「オープン式発酵処理法。」である。上記の付加事項B

は,KS7−12の写真1−19に,ロータリー式攪拌機を横設した台車が示され,

該ロータリー式攪拌機は正,逆回転自在であり(写真1−20,1−22),台車は

オープン式発酵槽の長さ方向に往復動走行自在に設けられている(写真1−20,

1−21)から「堆積物を往復動撹拌する正,逆回転自在のロータリー式撹拌機を

横設した台車を該オープン式発酵槽の長さ方向に往復動走行自在に設け」ることも

記載されているに等しいか,そうでないとしても当業者であれば容易に想到し得る

操業事項というべきである。さらに,上記の付加事項A及びCは,相違点4におい

て検討した「該オープン式発酵槽に対し,該長尺開放側面を介してその長さ方向の

所望の個所から被処理物の投入堆積と発酵済みの堆肥の取り出しを行うようにした

ことを特徴とする」ことを実施したことにより,当然採用されるべき工程と認めら

れるから,当業者であれば容易に想到し得るというべきである。



第3 原告主張の審決取消事由

1 取消事由1(本件発明1とKS7−12発明の一致点及び相違点についての

認定の誤り)

本件発明1とKS7−12発明とは,以下の点において重大な技術的相違点が存




在するのに,審決は,これを看過して,基本的相違点を誤った違法がある。

(1) 本件発明1の技術的意義

本件発明1は,毎日のように出る大量の有機質廃物について,高温発酵を保持し

ながら,良好に発酵処理する技術を提供するものである(段落【0003】。ロー


タリー式撹拌機は,槽あるいは面域の中を直線的に往復動する撹拌機械であるとこ

ろ,この直線的に移動する撹拌機械を用いて堆肥を製造する技術として,本件特許

出願前においては,槽の長手方向の一方に投入口,反対側の他方に取出口をそれぞ

れ配置することが専らであった。この技術背景の中において,本件発明1は,

a 長さ方向の1側に長尺壁があるが,その他側は開放した大容積のオープン式

発酵槽を用いることにより,開放側面の所望の個所から被処理物の投入と,発酵済

みの堆肥の取り出しを行うようにしたこと,

b 発酵槽は,既に投入した堆積物が面域に残っている状況で,その面域の他の

部分に(すなわち,既に投入した堆積物がない部分に)被処理物を投入することが

できるだけの大容積なものとし,複数の面域部分で発酵処理を行うようにしたこと,

技術的特徴を備えるものである。

(2) KS7−12発明の技術的意義

これに対し,KS7−12発明は,生糞と種糞,更には尿を混合し,微生物の繁

殖条件を整えた調合物(コンパウンドあるいはコンポ)を得るためのものである。

すなわち,KS7−12発明は,毎日のように出る大量の有機質廃物を発酵処理す

るに先立ち,処理槽の全面を用いて調合物を得るための混合,切り返しのみを行う

ものであり,調合物を得た後,被処理物を別の場所に移動させ,発酵処理を行って

肥料化する工程は,別途設けられているのである。

このことは,KS7−12の取扱説明書である本件取扱説明書の記載からも理解

できる。すなわち,同書に「あらかじめ使用開始前に種糞(オガクズ・モミガラ等)

となるものを発酵槽全面に約30〜40cm位敷つめる」
(§1−2.作業手順)と

あることからして,槽あるいは面域の全面を使用して調合物を得るための混合,切




り返しを行うことを前提とする技術であることが理解できる。また,
「発酵槽内の堆

肥の堆積高がピットH770の場合,60〜65cm程度(ブロック3段)になっ

たら取り出し開始準備です」
(§1−3.堆肥取り出し)との記載があるところ,6

0〜65cm程度の堆積高では高温発酵は不可能であり,良質な堆肥を得るために

はさらなる処理が必要である。さらに,
「B 高温発酵による処理と,長期滞留によ

って二次発酵の恐れの無い良質な完熟堆肥を生産することができ,有機質肥料とし

て土壌回復に大変役立ちます」(§2−1.特長と仕様,[主な特長])との記載は,

KS7−12発明では,KS7−12の作業で得た調合物を,別の場所の発酵槽で

更に発酵処理することによって得ることができることを意味する。

そして,実際に,平成24年1月5日付け調査嘱託に対する回答書(甲7の2。

以下「本件調査嘱託回答書」という。)によれば,KS7−12は,たかね有機セン

ターにおいて,発酵処理に先立つ撹拌処理にのみ使用されていることが明らかとな

っている。

以上のとおり,被処理物の調合工程,発酵工程におけるその調合工程のみを行う

ものであるKS7−12発明は,本件発明1における「すでに投入した堆積物がな

い部分に被処理物を投入することができるだけの大容積な発酵槽」という,技術思

想は全く持ち合わせていない。

(3) 本件発明1とKS7−12発明との相違点

以上によれば,本件発明1とKS7−12発明は,次のとおり,重大な技術的相

違点が存在するといえる。

【相違点1’ 本件発明1が,
】 既に投入した堆積物がない部分に被処理物を投入する

ことができるだけの大容積な発酵槽での処理のための技術であるのに対し,KS7

−12発明は,槽の全体を用いて撹拌を行う技術であること。

【相違点2’】本件発明1は,高温発酵を経た発酵済みの堆肥を一つの場所で,一連

の継続的処理の流れの中で,これを得る技術の発明であるのに対し,KS7−12

発明は,発酵済みの堆肥を得るため,別の場所にある発酵槽に移動する前の段階に




おいて,前処理した段階での調合物を得るための技術であること。

しかるに,審決は,このような重大な相違点を正しく認識せず,ことさらに細か

く相違点1〜4と認定したのは違法である。



2 取消事由2(進歩性判断の誤り)

上記の相違点1’及び2’は,本件発明1とKS7−12発明とが,構成,目的

及び効果において技術的に全く異なることを意味するものである。

したがって,これらの相違点を看過して進歩性を判断したのは違法であり,これ

は審決の結論に影響を及ぼすものである。



3 取消事由3(無効審判における重大な手続違反

(1) 手続違背@

無効審判手続においては,当事者主義の審理構造に則り,特許権者及び請求人双

方の主張が尽くされ,双方の意見を述べる機会が与えられなければならず,その機

会が得られなかった場合には,適正な手続によって審理が行われなかったものとし

て,審判手続には重大な違法があるとされるべきものである。

本件審判手続の口頭審理に先立つ平成23年4月25日付けの審理事項通知書に

おいて,第1次審決に関与した審判合議体は,KS7−12発明に基づく無効理由

1を無効理由として採用せず,甲A17発明に基づく無効理由2について理由があ

るものとした。その後,第1次審決取消訴訟の判決後の審判手続において,被告(請

求人)作成の@平成24年9月3日付け上申書(甲9の3。以下「上申書@」とい

う。,及びA平成24年12月8日付け上申書(乙1。以下「上申書A」という。
) )

が提出され,審判合議体は,これを検討してKS7−12発明に基づく無効理由1

について理由ありとの判断に至ったにもかかわらず,上申書@については,審理終

結通知と同時に,すなわち,審理終結の後,原告(被請求人)に送付し,上申書A

については送付もされていないものであり,原告は,これらについての反論の機会




が一切与えられなかった。原告に不利な無効審決をなす場合,当然のことながら,

その審決理由に対して,弁明,反論の機会が与えられるべきものである。

したがって,この無効審判手続上において重大な違法があるものといわざるを得

ない。

(2) 手続違背A

審決は,KS7−12の構成・作用効果等の特徴を認定するに当たって,どの資

料・証拠に基づいて,正確な特徴を認定したのかが不明瞭である。

(3) 手続違背B

審決には,
「本件特許発明1において『長尺広幅の面域』,『長尺壁』及び『長尺

開放側面』がどの程度のものかは請求項には記載されておらず」16頁8〜9行)
( ,

「本件特許発明1においてオープン式発酵槽が『大容積』とはどの程度のものを意

味するのかは請求項に記載がなく」(17頁1〜2行)とあるが,このことは,審

判手続において,原告に対し,訂正請求の機会を与えるべきであったことを示すも

のであり,この機会が与えられなかった点で手続上の違法がある。



第4 被告の反論

1 原告主張1に対し

(1) 原告の主張は,KS7−12発明が,本件発明1のどの構成要件を充足し

ないと主張するものであるのか,明らかではなく,主張自体失当である。

(2) 原告は,本件発明1は「大容積な発酵槽」であり,KS7−12発明は「槽

の全体を用いて撹拌を行う」技術である点が,相違点1’であると主張するようで

ある。しかし,これは,本件発明1の「大容積」との構成要件をKS7-12が満た

さないとの主張であり,この点について,審決は,相違点3として認定し,判断し

ているのであるから,相違点の認定に誤りはない。

(3) 原告は,KS7−12発明は,「発酵槽に移動する前の段階において,前

処理した段階での調合物を得るための技術」である点が相違点2’であり,本件発




明1の構成要件に即して解すると,KS7−12は,本件発明1の「経時的に投入

堆積発酵処理する」との文言を満たさないとの主張となると解されるところ,審決

は,
「本件発明1が有機質廃物を『経時的に』投入するのに対し,KS7−12発明

は,この点について明示の記載のない点」を相違点1として認定し,判断している

のであるから,相違点の認定に誤りはない。



2 取消事由2に対し

上記1において述べたとおり,審決の相違点の認定に誤りはないことから,相違

点の認定に誤りがあることを前提とする原告の主張は失当である。



3 取消事由3に対し

(1) 手続違背@に対し

KS7−12が本件発明の実施品であることについての被告の主張は,平成22

年12月16日付け無効審判請求書及び平成23年6月6日付口頭審理陳述要領書

に記載されている上,KS7−12が本件発明の実施品であるかについては,平成

23年6月20日の口頭審理を経ており,主張反論が十分に尽くされている。

また,上申書@は,本件発明の改良発明に係る無効審判請求事件(無効2010

−800234号事件)について,平成24年3月28日付け審決が「KS7−1

2発明は,前提オープン式発酵処理装置に対応する」と判断したことを補充する目

的で提出したものであるが,審決は,この上申書の内容に触れておらず,原告に弁

明反論の機会があったとしても,審決の内容に変わりがなかったことは明らかであ

るので,重大な手続違反があったとはいえない。

さらに,上申書Aの内容は,別途係属していた東京地方裁判所における侵害訴訟

の進捗状況に関するものであり,原告の弁明,反論の機会が必要な内容ではない。

(2) 手続違背Aに対し

審決9頁下から5行目に「KS7―12は,納入後今日までの間に仕様変更はな




されていないので,その特定事項の認定は,本件特許の無効請求人が無効審判請求

書に添付した平成22年6月1日に撮影した写真1−1〜1−22(27〜44頁)

によりおこなう。」とあり,KS7−12の認定は,無効審判請求書添付の平成22

年6月1日撮影の写真によってなされたものであることが明らかである。

(3) 手続違背Bに対し

「長尺」及び「大容積」との文言については,請求人(被告)作成の口頭審理陳

述要領書において指摘しているように,その解釈が当初から争点となっていたので

あり,訂正の機会がなかったとの原告の主張は失当である。



第5 当裁判所の判断

1 本件発明について

本件明細書(甲17)によれば,本件発明につき以下のことを認めることができ

る。

本件発明は,含有水分を調整された畜糞,汚泥及びその他の所望の種類の有機質

廃物からなる被処理物を経時的に投入堆積発酵処理するためのオープン式発酵処理

装置並びに発酵処理法に関するものである(段落【0001】。


従来のピット式発酵処理法は,所望の長尺広幅を存して対向し,かつ,平行する

長尺壁を配設し,その平行する長尺壁間に被処理物を経時的に投入堆積するための

ピットを形成してなるもので,有機質廃物の投入毎に台車を移動させ,撹拌機によ

りピット内の堆積物をピットの奥の方に移動させるという煩わしく,非能率な作業

に伴い,電力消費量の増大,堆肥生産コストの更なる増大などの不都合をもたらし

ていた。しかも,堆積物は,投入の都度,撹拌移動されるため,発酵温度が低下し,

高温発酵が維持できず,その結果,殺菌,殺虫が不充分となり,良質の堆肥が得ら

れないという不都合が生じていた(段落【0002】【0003】。
, )

そこで,本件発明は,容易かつ安価なオープン式発酵処理装置と経時的な投入堆

積発酵処理作業を容易にし,有機質廃物の高温発酵を保持しながら良好な発酵処理




を確保できるオープン式発酵処理法を提供することを目的とし(段落【0003】,


請求項1又は3に記載された構成とすることによって,@有機質廃物を,その長尺

開放側面の長さ方向におけるどの位置からでも発酵槽内に投入でき,従来のピット

式発酵槽の投入作業における煩わしさと非能率,更には,大きな消費電力を要する

などの不都合を解消できる,A投入される被処理物を,所望の高さまで堆積するこ

とができる,B堆積物のどこからでも必要な個所に水分調整材を長尺開放側面を介

して直ちに投入でき,その所望の個所の水分調整を行うことができる,C堆積物を

その全幅にわたり一挙に高能率に往復動撹拌を行うことができるとともに,発酵終

了後の堆肥は,その投入位置と同じ場所から該長尺開放側面を介して取り出すこと

ができ,その取り出した後の空所に新たな被処理物を直ちに投入できる便利をもた

らす,D従来のピット式発酵槽に比し,構築が容易かつ安価にできるという効果を

奏する。また,請求項2に記載された構成とすることによって,両端に堆積された

堆積物の崩れを防止できるという効果を奏する(段落【0023】。




2 取消事由1(本件発明1とKS7−12発明の一致点及び相違点についての

認定の誤り)について

(1) 原告は,前提として,本件発明1とKS7−12発明との技術的意義が異

なる旨を主張するので,まず,この点について検討する。

ア 本件発明1の「大容積のオープン式発酵槽」の技術的意義について

本件発明1の「大容積のオープン式発酵槽」は,
「有機質廃物を経時的に投入堆積

発酵処理する長尺広幅の面域の長さ方向の1側に長尺壁を設け」「その他側は長尺


壁のない長尺開放側面として成」 「該長尺開放側面を介してその長さ方向の所望
り,

の個所から被処理物の投入堆積と発酵済みの堆肥の取り出しを行うようにした」も

のである。この「大容積のオープン式発酵槽」について,本件明細書には,
「本発明

によれば,このようにオープン式発酵槽1を構成したので,その全長100メート

ル,高さ1.5メートルにより囲まれた大容積の内部空間には,極めて大量の各種




の有機質廃物から成る被処理物を大量に毎日投入堆積し得られ,その夫々の堆積物

が長期間に亘り発酵処理するに足り,而もその長尺の開放側面を介して,その長さ

方向の所望の場所に,その被処理物をショベル車により搬送し,投入とその発酵処

理済みの堆積物,すなわち,堆肥の取り出しを行うことができるばかりでなく,ま

た,発酵中の多数個所の堆積物のうち,例えば,その中間の所定の個所の堆積物に

水分調整材を投入することができるなどの便利をもたらす。(段落【0014】,
」 )

「長尺壁1の長さは,例えば,飼育する家畜の頭数や排出される家畜の生糞を毎日

投入堆積し,30日程度の長期間に亘りその堆積物を発酵処理し,順次取り出し連

続的に堆肥を生産するには100m以上でも差支えないが,一般に30〜100m

の範囲で足りる。
・・・また,長尺壁や両端壁の高さは,ショベル車で被処理物を1

〜2mの高さまで投入堆積し得られる1〜2mの範囲とし,一般に,1.5m程度

が好ましい。(段落【0008】
」 )と記載されている。

そうすると,本件発明1の「大容積のオープン式発酵槽」は,大量の各種の有機

質廃物からなる被処理物を大量に毎日投入堆積し得られ,そのそれぞれの堆積物が

長期間にわたり発酵処理するに足り,しかも,その長尺の開放側面を介して,その

長さ方向の所望の場所に,被処理物をショベル車により搬送し,投入とその発酵処

理済みの堆積物,すなわち,堆肥の取り出しを行うことができるものであり,既に

投入した堆積物が面域に残っている状況で,その面域の他の部分に(すなわち,既

に投入した堆積物がない部分に)被処理物を投入することができるだけの大容積な

ものとし,複数の面域部分で発酵処理を行うようにしたものであるといえる。

イ KS7−12発明の技術的意義について

本件取扱説明書(甲11,甲A11)には,以下の記載がある。

「§1−1.処理の概要

散布された生ふんは[攪拌機]によって均一な撹拌と切りかえしが行われ下部の発

酵機と混合されると同時に,微生物の繁殖に必要な酸素を補給します。

これによって散布された生ふんは発酵ふんから発生する発酵熱と自然エネルギー




(太陽熱,強制風等)によって予乾され,又生ふんと発酵ふんとの含水率の違いに

より水分調整が行われさらに,生糞のみでは不可能だった通気孔を保持させること

により微生物の繁殖条件を整えます。

§1−2.作業手順

1) あらかじめ使用開始前に種糞(オガクズ・モミガラ等)となるものを発酵槽

全面に約30〜40cm位敷つめる。

※ なおこの作業は使用開始時のみです。

2) 生糞を散布します。

3) 機械操作方法にしたがって動かして下さい。

4) 生糞を散布する場合は,既に堆積してある基盤の状態を必ず確認し,水分の

多い所には散布しないで下さい。

5) 撹拌は冬期(11月〜2月)で1日に2回,夏期は1日1回程度とし,気候,

発酵状況を確認して調整して下さい。

6)尿散布については時期によって量が変わります。

堆肥の発酵具合の状況を見ながら散布量 場所を決め,
・ 薄く広く散布して下さい。

撹拌時に堆肥にホコリが出る程度の水分量になれば散布可能になり最適です。
・・・

§1−3.堆肥取り出し

1) 発酵槽内の堆肥の堆積高がピットH770の場合,60〜65cm程度(ブ

ロック3段)になったら取り出し開始準備です。

ピットの高さによって堆積高は変わりますが,上面より20cm位の堆積高を一

応の目度として下さい。

2) 取り出す時期になったら下図の仕上げ部分には生糞は散布しないで下さい。





3) バケットローダー等で,槽の立上りピット側を50cm〜1m程度残して取

り出すことが望ましい。

これは発酵基盤(種糞)を残しておくことによって次回以降の[散布→発酵]を速

やかに進めるためです。




§2.機械の取扱い

§2−1.特長と仕様

1)特長

KSコンポオープン型は,ロータリー式攪拌機を用いた,従来のエンドレス発酵

槽方式と全く同じ性能を有しております。




直線往復型は,エンドレスタイプに比べ発酵槽の幅が半分程度となり,敷地面積

の小さな場所にも設置できます。しかも,パドル式攪拌により高堆積量の処理が可

能です。

[主な特長]

@ 発酵槽の両端で電気信号を与えることにより,所定の停止位置まで作動し直

線往復方式により,発酵槽内に糞を長期間滞留させることが可能であり,・・・

B 高温発酵(鶏……80℃前後,豚……70℃前後,搾乳牛……60℃前後)

による処理と,長期滞留によって二次発酵の恐れの無い良質な完熟堆肥を生産する

ことができ,有機質肥料として土壌回復に大変役立ちます。

・・・」

以上の記載によれば,KS7−12発明は,高温発酵による処理と長期滞留によ

って,二次発酵のおそれのない良質な完熟堆肥を生産することができるものであり,

攪拌機を発酵槽の所定の停止位置まで作動し,直線往復方式で発酵槽内に糞を長期

間滞留させることができ,高堆積量の処理が可能であることなどを特徴とするもの

であること,発酵槽内の堆肥高が,ピット上面より20cm位となると取り出し開

始時期となり,上記2)の図のハッチングで示された仕上げ部分である堆肥を,開

放側面からバケットローダー等で取り出すというものであることが認められる。そ

して,§1−2.4)の「生糞を散布する場合は,既に堆積してある基盤の状態を

必ず確認し,水分の多い所には散布しないで下さい。」との記載,6)の尿散布につ

いて,
「堆肥の発酵具合の状況を見ながら散布量・場所を決め」との記載に加え,§

1−3.
「堆肥取り出し」の「2) 取り出す時期になったら下図の仕上げ部分には

生糞は散布しないで下さい。 との記載及び図面において,
」 取り出す堆肥の場所とは

逆方向,すなわち,攪拌機の左側にスペースの存在が示されていることからすれば,

発酵槽内の堆肥等の水分量や発酵状況を見ながら,生糞や水分の散布場所を決定す

ることや,堆肥の完成時期が発酵槽の面域の位置によって異なるものであり,異な

る時期に生糞や水分等を投入し,また,異なる時期に開放側面から堆肥を取り出す




ことができることが理解できる。また,上記図面及び§2[主な特長]@の記載に照

らせば,攪拌機を所定の停止位置までの間,作動させること,すなわち,発酵槽の

面域の全体を攪拌することなく,部分的な面域を利用して作動させることができる

ことが理解できる。

そうすると,KS7−12発明は,発酵槽内で高温発酵させ堆肥を作るための装

置であると認められ,開放側面を介して,その長さ方向の所望の場所に,被処理物

の投入とその発酵処理済みの堆積物取り出しを行うことができるものであり,発酵

槽は,既に投入した堆積物が面域に残っている状況で,その面域の他の部分に被処

理物を投入することができるだけの容積を有するものであって,複数の面域部分で

高温発酵処理を行うようにしたものであると認められる。

ウ 以上によれば,本件発明1とKS7−12発明は,同じ技術的特徴を備

えているものと認められる。

エ 原告の主張について

(ア) 原告は,KS7−12発明は,生糞と種糞,更には尿を混合し,

微生物の繁殖条件を整えた調合物(コンパウンドあるいはコンポ)を得るための装

置であり,被処理物の調合工程のみを行うものであると主張し,60〜65cm程

度の堆積高では,高温発酵は不可能であり,良質な堆肥を得るためには更なる処理

が必要である旨主張する。

しかし,上記(1)の§2[主な特長]Bのとおり,本件取扱説明書には,高温発酵に

よる処理と,長期滞留によって二次発酵のおそれのない良質な完熟堆肥を生産する

ことができる旨の記載があることからすれば,KS7−12発明が調合工程のみを

行うものであるとは考え難い。なお,原告は,上記記載部分は,KS7−12発明

の作業で得た調合物を,別の場所の発酵槽で更に発酵処理することによって得るこ

とができることを意味する旨主張するが,当該部分は,本件取扱説明書§2−1.

「特長と仕様」中の「主な特長」として記載されたものであり,KS7―12の装

置自体の特長について述べたものであることは明らかであり,上記主張は採用でき




ない。

また,KS7−12は,ピットH1200型(甲A6,写真9)であり,本件取

扱説明書に添付された組立図面によれば,槽の高さが約1.3mであると認められ

るところ,同書の「ピットH770の場合,60〜65センチ程度」「ピットの高


さによって堆積高は変わりますが,上面より20cm位の堆積高を一応の目安とし

て下さい。」との記載からすると,KS7−12の堆肥取り出し時の堆肥高は約1.

1mであると認められるから,堆肥高60〜65pを前提とする原告の主張は,K

S7−12の構成に基づいた主張ではない。そして,本件明細書の段落【0005】,

【0008】に,被処理物の高さが1〜2mであれば,高温発酵させることができ

ることからすれば,KS7−12における約1.1mの堆肥高においても,高温発

酵させることができるものと認められるから,高温発酵が不可能であるとの原告の

主張は採用できない。

(イ) 原告は,本件取扱説明書に「あらかじめ使用開始前に種糞(オガ

クズ・モミガラ等)となるものを発酵槽全面に約30〜40cm位敷つめる」と記

載があることから,KS7―12発明は,槽あるいは面域の全面を使用して調合物

を得るための混合,切り返しを行うことを前提とする技術であることが理解できる

旨主張する。しかし,当該記載部分の下には「※ なおこの作業は使用開始時のみ

です。 との記載があり,
」 槽の使用開始時における手順であることが記載されている

上,生糞等の撹拌について常に発酵槽全面を利用しなければならないことを示すも

のではないから,原告の上記主張は採用できない。

(ウ) 原告は,本件調査嘱託回答書において,実際に納入されたたかね

有機センターにおいて攪拌処理のみに利用されている旨を主張する。しかし,納入

されたKS7−12が,実際には,たかね有機センターにおいて攪拌処理のみに利

用されていたとしても,審決は,KS7−12発明を「公然知られた」発明(特許

29条1項1号)とするものであり,高温発酵させることのできるオープン式発

酵槽として,本件取扱説明書とともに納入されたものであって(甲5,A14),上




記のような技術的意義を有するものとして譲渡がなされたものと認められるから,

上記の認定を左右するものではない。

(2) 以上のとおりであって,原告の主張する相違点1’及び2’は,上記の本

件発明1とKS7−12発明との技術的意義の相違を前提とするものであるところ,

技術的意義の相違に係る原告の主張は上記のとおり採用できないから,その前提を

欠くものである。また,原告の主張する相違点1’及び2’は,そもそも,本件発

明1及びKS7−12発明の発明特定事項に基づくものではなく,採用することが

できない。

したがって,原告の主張する取消事由1には理由がない。



3 取消事由2(進歩性判断の誤り)について

前記2で述べたとおり,取消事由1には理由がないから,これを前提とする取消

事由2にも理由がない。



4 取消事由3(手続違背)について

(1) 手続違背@について

ア 証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の経緯が認められる。

被告(請求人)は,平成22年12月16日,本件発明1〜3につき,KS7−

12発明により新規性進歩性を欠く旨(無効理由1)及び甲A17発明により進

歩性を欠く旨(無効理由2)を含む4つの無効理由により無効審判請求をしたとこ

ろ(甲1。なお,無効理由3及び4については,平成23年6月6日付けの口頭審

理要領書により撤回された。,審判合議体は,同年4月25日付け審理事項通知書


(甲14。以下「本件審理事項通知書」という。)において,無効理由1についての

暫定的な見解として,『KS7−12』は,本件発明1における『有機質廃物を経


時的に投入堆積発酵処理する長尺広幅の面域』及び『長尺開放側面を介してその長

さ方向の所望の個所から被処理物の投入堆積と発酵済みの堆肥の取り出しを行う』




という特徴事項を備えていません。理由は,甲A16の7,8頁で被請求人が主張

するとおりです。」と述べた。被告は,同年6月6日付け口頭審理陳述要領書(甲1

6)において,無効理由1は理由がある旨反論し,原告(被請求人)は,同年5月

16日付け口頭審理陳述要領書(甲15)においては,本件審理事項通知書の指示

に従い,無効理由2に関する主張のみを行った。その後,甲A17発明による進歩

性欠如(無効理由2)を理由として無効審決がなされたが(第1次審決),第1次審

決取消訴訟において,平成24年6月6日,同審決は取り消された。

その後,審理を再開した審判合議体は,口頭審理を開くことなく,平成25年2

月5日に審理終結通知をするとともに,被告が提出したKS7−12発明に基づい

て本件発明の新規性進歩性を否定する旨の平成24年9月3日付け上申書@の副

本を被請求人(原告)に送付し(甲8,9),平成25年3月4日,本件発明がKS

7−12発明により進歩性を欠き,上記無効理由2に理由がある旨の本件の審決を

した(甲10)。

イ 上記の経緯のとおり,第1次審決に係る無効審判手続の際に,審判合議

体の暫定的な見解とはいえ,本件審理事項通知書において,KS7−12発明に基

づく無効理由1は理由がないとの心証が示され,甲A17発明に基づいて本件発明

を無効とした第1次審決が行われたが,審決取消訴訟において同審決が取り消され,

特許庁における審判手続が再開された後,審判合議体は,原告に対し反論等の機会

を与えずに審理終結通知を行い,上申書@を送付したものである。そうすると,原

告としては,第1次審決に係る審判手続における本件審理事項通知書に示された,

KS7−12発明に基づく無効理由1に理由がないとの審判合議体の暫定的見解が,

本件の第2次審決でも維持されるものと期待するのも自然なことであり,取消判決

後に再開された審理手続において,審判合議体は,被告が提出した,KS7−12

発明に基づいて本件発明の進歩性等を否定する上申書@を,審理終結前に原告に対

し送付し,その反論の機会を与えるべきものであり,これを怠った審判手続は不相

当なものといわなければならない。




しかし,本件審理事項通知書に示された見解は,あくまで暫定的なものにすぎな

いし,第1次審決に係る審判手続において提出された口頭審理陳述要領書及び口頭

審理の結果により,当該審判合議体の暫定的見解が変更されることも当然想定され

(第1次審決が無効理由1を理由あるものと判断しても手続上の違法は認められな

い。,しかも,第1次審決において無効理由1の否定が判断されたものでないこと


を考慮すると,第2次の審判における原告の上記期待は法的に高く保護されるもの

ではないから,上記の審判手続の不相当の程度も低いものと解される。そして,本

件訴訟において,無効理由1についての当事者双方の主張立証が尽くされており,

その結果,前記2のとおり,審決における無効理由1の判断に誤りがないことから

すれば,審判における上記の不相当な手続は,審決の結論に影響を及ぼす取消事由

と見ることはできない。なお,上申書Aは,侵害訴訟における経過を示す趣旨で,

侵害訴訟における被告の準備書面を添付したものであり,原告に反論の機会を与え

る筋合いのものではなく,この送付をせずに反論の機会を与えなかったことを違法

と評価すべきものとはいえない。

したがって,手続違背@は取消事由とならない。

(2) 手続違背Aについて

原告は,審決は,本件の引用例であるKS7−12の構成・作用効果等の特徴を

認定する手続上の経緯において,どの資料・証拠に基づいて,正確な特徴を認定し

たのか,不明瞭のままであると主張する。

しかし,審決には,
「本件特許の無効請求人が無効審判請求書に添付した平成22

年6月1日に撮影した写真1−1〜1−22(27〜44頁)」により,発明特定事

項を認定して行ったことが明らかにされているから,原告の上記主張は採用できな

い。

なお,上記のとおり,KS7−12発明の認定は,本件取扱説明書の記載をも踏

まえて初めて可能であるものと考えられ,その点において,上記の写真のみでKS

7−12発明の認定が可能であるかについては疑問の余地がないではない。しかし,




審決は,本件取扱説明書の内容を摘記した上で,KS7−12の認定を行っている

ことからすれば,上記の写真で認定したのは仕様に係る部分であって,実質的には,

本件取扱説明書を踏まえた認定を行ったとも解される。仮に,
( そうでないとしても,

本件の審決取消訴訟において,本件取扱説明書の記載を踏まえて審決と同様の認定

をすることができるものであるから,写真のみを摘示した審決の認定手法は,審決

の結論を左右するものではなく,取消事由となるものではない。)

(3) 手続違背Bについて

原告は,審決の中に,
「請求項に記載されていない」という言及があるから,この

ことは,審判手続において,原告に対し,訂正請求の機会を与えるべきであったも

のであると主張する。

しかし,特許請求の範囲の記載並びにその補正及び訂正は,当然,出願人ないし

特許権者が自らの判断により決すべき事項であり,その規定の仕方が広範であるた

めに当該特許発明進歩性が否定されることがあるとしても,それに対して無効審

判を行う審判合議体が訂正の機会を与えるべき筋合いでないことは明らかである。

したがって,この点に関する原告の主張は採用できない。



第6 結論

以上によれば,原告主張の取消事由にはいずれも理由がない。

よって,主文のとおり判決する。



知的財産高等裁判所第2部



裁判長裁判官

清 水 節





裁判官
中 村 恭




裁判官

中 武 由 紀






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