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事件 平成 25年 (行ケ) 10189号 審決取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2014/03/26
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成26年3月26日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

平成25年(行ケ)第10189号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 平成26年3月5日

判 決



原 告 X

訴訟代理人弁理士 橘 哲 男

同 内 藤 通 彦

同 藤 本 正 紀

同 佐 藤 大 輔



被 告 特 許 庁 長 官

指 定 代 理 人 柳 田 利 夫

同 林 茂 樹

同 中 川 隆 司

同 氏 原 康 宏

同 山 田 和 彦

主 文

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

特許庁が不服2011−22602号事件について平成25年5月21日にした

審決を取り消す。

第2 事案の概要

1 特許庁における手続の経緯等




(1) 原告は,平成18年8月1日,発明の名称を「加速推進装置」とする特許出

願(特願2006−209933号。請求項の数8)をした(甲1)。

特許庁は,平成23年7月8日付けで拒絶査定をしたため(甲4),原告は,同

年10月19日,これに対する不服の審判を請求した(甲5)。

(2) 特許庁は,これを不服2011−22602号事件として審理し,平成25

年5月21日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審

決」という。)をし,その謄本は,同年6月10日,原告に送達された。

(3) 原告は,平成25年7月8日,本件審決の取消しを求めて本件訴訟を提起し

た。

2 特許請求の範囲の記載

本件審決が判断の対象とした特許請求の範囲の請求項1ないし請求項5の記載

(平成24年12月28日付け手続補正書(甲14)による補正後のもの。同補正

後の請求項の数5)は,次のとおりである。以下,請求項1ないし請求項5に記載

された発明を総称して「本願発明」といい,本願発明に係る明細書(甲1,6,1

4,16)を,図面を含めて「本願明細書」という。

【請求項1】自装置の重心を貫く中央回転軸と,

前記中央回転軸の周囲に配置された3以上の複数の回転子と,

前記回転子を支持し,前記中央回転軸の周囲を回転する公転盤と,

前記中央回転軸上の一点と各回転子の中心とを結んで構成される斜軸と,

前記回転子の回転軸であって,前記中央回転軸に向かって直交する向きから平行

になる向きに沿って旋回される各回転子軸と,

前記回転子の外殻であって,前記斜軸まわりに回転する外殻体と,

前記外殻体に固定され,前記回転子軸と前記斜軸とが所定の角度をなすように,

前記回転子軸を支持する回転子軸支持枠と,

前記中央回転軸,前記斜軸及び前記回転子軸をそれぞれ回転駆動させる動力源と,

を有し,




前記複数の回転子は,前記回転子軸まわりにそれぞれ同速度で回転し(第3の回

転),

前記公転盤は,前記中央回転軸まわりに回転し(第1の回転),

前記各外殻体及び回転子軸支持枠は,前記中央回転軸と所定の角度をなす前記斜

軸まわりにそれぞれ同速度で回転し(第2の回転),

前記第2の回転は,前記中央回転軸まわりに互いに隣り合う各外殻体及び回転子

軸支持枠の回転の周期に等しい位相差が割り当てられることを特徴とする加速推進

装置。

【請求項2】前記公転盤は,前記第1の回転により発生させた回転ベクトルを,前

記第3の回転により前記回転子に発生した回転ベクトルに対して作用させて,前記

各回転子に歳差能を発生させ,

前記第2の回転は,前記中央回転軸まわりに互いに隣り合う各外殻体及び回転子

軸支持枠の回転の周期に等しい位相差が割り当てられ,前記各回転子に発生した歳

差能に対して前記第2の回転による位相循環を付与することで作用点を周回させて,

前記歳差能を加速力として前記自装置の重心に順次適宜に作用させることにより,

位置移動を行うことを特徴とする請求項1記載の加速推進装置。

【請求項3】前記公転盤の回転速度を調整することによって,前記中央回転軸に沿

った加速力を調整でき,

前記公転盤の回転方向を逆転させることによって,前記中央回転軸に沿った加速

力の方向を逆側に変更できることを特徴とする請求項1又は2記載の加速推進装置。

【請求項4】前記中央回転軸と前記回転子軸のなす角度を調整して,前記回転子に

発生する歳差能を制御することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載

の加速推進装置。

【請求項5】前記公転盤上に,前記中央回転軸を囲んで略点対称様に3以上複数の

別途単独駆動する小回転子をさらに有し,

前記各小回転子は,円盤状の前記公転盤の径方向を回転軸として,該回転軸まわ




りにそれぞれ回転し,該小回転子の回転による回転ベクトルを前記公転盤による前

記中央回転軸まわりの回転による回転ベクトルに作用させて,前記中央回転軸の軸

線方向を制御することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の加速推

進装置。

3 本件審決の理由の要旨

(1) 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,本

願明細書,特許請求の範囲及び図面は,本願発明について,当業者が実施できる程

度に明確に記載されているものとはいえないので,本願は特許法36条4項1号

び同条6項2号に規定する要件を満たしてはいない,というものである。

(2) 本件審決の判断の要旨

実施可能要件(特許法36条4項1号)について

(ア) 本願発明の動力源及び動力の伝達系統について,モータ等のそれぞれの動

力源150,151,153による動力は,どのような各種の部材を駆動し,最終

的に,加速推進装置100全体を天地軸134,135(中央回転軸)方向に浮揚

しながら進行又は後退するようになるのか,不明又は不明確である。

また,本願発明の第1の回転の反力,第3の回転の反力の処理及び第2の回転の

反力の処理であり,加速推進装置100自体の重量や前記浮揚する方向の力,すな

わち,鉛直方向に対する反力及び当該装置100自体の重量と当該装置100によ

り発生する浮揚方向の加速推進力との関係で,当該加速推進力の方が勝ることとな

る旨の説明はない。

このため,仮に,天地軸134,135方向(中央回転軸方向)に浮揚する方向

の力が発生したとしても,加速推進装置100自体の重量や各種反力に打ち勝って,

加速推進装置100全体が,中央回転軸方向への並進加速度を生成できることにな

るのか,依然として,不明又は不明確である。

したがって,中央回転軸方向への並進加速度を生成し,加速,速度,移動方向又

は移動範囲の制約を受けることのなく,移動手段として連続して機能する動力伝達




経路は,依然として,不明又は不明確である。

(イ) 加速推進装置100全体を天地軸134,135(中央回転軸)方向に浮

揚しながら進行又は後退させるのには,本件出願時における技術では,エネルギー

源はかなりのエネルギー容量が必要と考えられるので,その重量も当然のことなが

ら大きくなるものと考えられる。

そうすると,「例えば,蓄電池,水素発電機又は太陽光発電機等」のようなエネ

ルギー源を加速推進装置100に搭載した場合,加速推進装置100全体の重量が

かなり大きくなり,加速推進装置100全体を天地軸134,135(中央回転

軸)方向に浮揚しながら進行又は後退するようにできるのか,依然として,不明又

は不明確となる。

したがって,加速推進装置全体が,中央回転軸方向への並進加速度を生成し,加

速,速度,移動方向又は移動範囲の制約を受けることのなく,移動手段として連続

して機能するための加速推進装置に入力されるエネルギーのあるエネルギー源がど

こに設置されどのようにエネルギーを入力しているのか,依然として,不明である。

(ウ) 本願発明の加速推進装置における「加速」は,「加速」だけでなく「減

速」も含むことは分かったが,物理学上の意味での「加速」のみならず,他の「定

速度」,「ホバリング」若しくは「停止」も含まれているものなのか,依然として,

「加速推進装置」の「加速」の意味が不明確である。

(エ) 本願発明の加速推進装置の各軸の回転方向及び回転速度並びに位相差の相

互の関連について,「天地軸134,135」(中央回転軸),「因果軸106」

(斜軸106)3つ(球体3つの場合),「回転軸115」3つ(球体3つの場

合)の3種の軸の回転方向及び回転速度並びに位相差の相互の関連が,どのように

加速推進装置100全体に影響して,当該加速推進装置100全体が,中央回転軸

方向への並進加速度を生成し,加速,速度,移動方向又は移動範囲の制約を受ける

ことのなく,移動手段として連続して機能するのか,依然として,不明又は不明確

である。




(オ) 本願明細書の記載からすると,本願発明の加速推進装置は,中央回転軸方

向への並進加速度を生成し,加速,速度,移動方向又は移動範囲の制約を受けるこ

となく,排気による大気汚染や運転騒音の被害を引き起こすことのない移動手段と

して機能することが可能となるものと認められるところ,どのような動力源により,

どのような動力伝達経路を経て,加速推進装置全体がどのような動きをして,中央

回転軸方向への並進加速度を生成し,加速,速度,移動方向又は移動範囲の制約を

受けることのなく,移動手段として連続して機能するようになるのか,依然として,

不明又は不明確であり,本願明細書において本願発明を当業者が実施できる程度に

明確かつ十分に記載されているものとは認められない。

明確性の要件(特許法36条6項2号)について

(ア) 前記ア(エ)のとおり,請求項1において,本願発明の課題を達成するため

には,各軸の回転方向及び回転速度並びに位相差の相互の関連についての事項は必

要であると思われるが,依然として,請求項1にはこのような事項は記載されてい

ない。

よって,請求項1の記載は明確でない。

(イ) 前記ア(ア)のとおり,請求項1において,本願発明の課題を達成するため

には,加速推進装置を駆動する動力源及びエネルギー源についての事項も必要であ

ると思われるが,依然として,請求項1には,動力源の記載はあるもののその配置

は不明であり,また,エネルギー源の記載はなく,このため,動力源と当該エネル

ギー源との相互の関連等の事項は記載されていない。

よって,請求項1の記載は明確でない。

4 取消事由

(1) 実施可能要件の判断の誤り(取消事由1)

(2) 明確性の要件の判断の誤り(取消事由2)

第3 当事者の主張

1 取消事由1(実施可能要件の判断の誤り)について




〔原告の主張〕

(1) 本願発明の加速推進装置について

ア 被告は,本願発明の加速推進装置が中央回転軸方向に移動する際,反作用を

利用しないとするが,本願明細書には,そのような記載はない。

本願発明の加速推進装置は,周囲の媒介物との間の反作用や他の外力に依らずに,

第1,3の回転により,内蔵する回転子101に発生した歳差運動が,各回転子か

らこれらに軸などを介して接続されている加速推進装置全体に作用し,装置全体に

加速度を発生させ,中央回転軸方向へ移動させることを可能にしている(本願明細

書段落【0020】〜【0024】)。

イ 被告は,本願発明の加速推進装置に加速度及び運動量を発生させる要因とし

て,周囲の媒介物との間の反作用や外力からの作用についてしか考慮しておらず,

加速推進装置内部の複数の回転子に発生する歳差運動を無視している。

本願発明の加速推進装置の運動量に力学的な変化があることが,「運動量保存の

法則に反する」という結論に直結することはない。

ウ 本願発明の加速推進装置は,1点(強制的に重心の周囲にめぐらされている

歳差モーメントの中心)における周囲に,回転モーメントを励起させる動力源を有

する。この動力源が,複数の回転子に対し歳差運動による回転モーメントを励起さ

せ,この励起した回転モーメントが本願発明の加速推進装置の重心に作用すること

により,装置全体の運動量が変化する。

すなわち,本願発明の加速推進装置は,運動量保存の法則と角運動量保存の法則

を適用できない(適用してはいけない)運動系である加速系(非慣性系)にあるか

ら,本願発明の加速推進装置が慣性系にあるという被告の主張は,その前提自体が

誤りである。

エ 以上のとおり,本願発明の動作原理及び構成は,本願明細書の段落【002

0】ないし【0024】において,当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載

されているというべきである。




(2) 本件審決について

ア モータ等のそれぞれの動力源150,151,153による動力について

(ア) 本件審決は,本願発明の加速推進装置のモータ等のそれぞれの動力源15

0,151,153による動力が,どのような各種の部材を駆動し,最終的に,加

速推進装置100全体を天地軸134,135(中央回転軸)方向に浮揚しながら

進行又は後退するようになるのか,不明又は不明確であるとする。

(イ) しかしながら,本願明細書(段落【0031】〜【0034】【003

7】【0054】,【図3】,【図4】,【図8】)には,各動力源150,15

1,153が加速推進装置のどの部分を駆動し,これら各駆動が装置本体の移動に

どのように影響を与えているかが明確に記載されている。

本願発明の加速推進装置の回転子について,第3の回転(自転)に第1の回転

(公転)を作用させることにより,歳差運動を発生させ,さらに,第2の回転によ

り第1の回転に対する第3の回転の相対的な向きを変化させて,各回転子をあおり

上げるような力が極大となるタイミングについて位相差を生成することで,加速推

進装置全体を中央回転軸(天地軸)方向へ移動させることができる。このことは,

本願明細書に記載されており,さらには本件出願時に当業者によく知られたベクト

ルの外積の原理からも,第1,3の回転の相互作用によって装置が中央回転軸方向

へ移動可能なことを導き出すことができる。

したがって,本件審決の上記判断は誤りである。

イ 中央回転軸方向への並進加速度を生成することについて

(ア) 本件審決は,仮に,天地軸134,135方向(中央回転軸方向)に浮揚

する方向の力が発生したとしても,加速推進装置100自体の重量や各種反力に打

ち勝って,装置全体が,中央回転軸方向への並進加速度を生成できることになるの

か,依然として,不明又は不明確であるとする。

(イ) ベクトルの外積の原理(甲17)によれば,本願発明の加速推進装置の回

転子の自転(第3の回転)に対して地動輪の公転(第1の回転)を作用させると発




生する歳差運動のトルクの大きさは,第1,3の回転のトルクの大きさの積で決ま

るから,自重(質量)Mの加速推進装置の重心Gから歳差発生点までRGだけ離れ

ている質点に生ずる総トルク抵抗NZを上まわる歳差運動のトルクを生成するため

には,第1,3の回転の回転速度を十分に上昇させればよいだけであり,本願発明

の加速推進装置が自重等に打ち勝って中央回転軸方向に移動可能なことは明白であ

る。

また,ベクトルの外積の原理等から導き出される加速度に実際に数値を代入して

試算した結果によれば,回転数が135rps,8rpsのモータであれば,中央

回転軸方向への並進加速度を生成することが可能であることが判明した。このよう

な性能を有するモータは,本件出願時には市場に流通していたか,あるいは少なく

とも当時の技術水準によれば実現可能であったから,中央回転軸方向への並進加速

度を生成する構成が実現可能であることは明らかである。

したがって,本件審決の上記判断は誤りである。

ウ 移動手段として連続して機能する動力伝達経路について

(ア) 本件審決は,本願発明の中央回転軸方向への並進加速度を生成し,加速,

速度,移動方向又は移動範囲の制約を受けることなく,移動手段として連続して機

能する動力伝達経路は,不明又は不明確であるとする。

(イ) しかしながら,前記(1)ウのとおり,本願発明の加速推進装置は,運動量

保存の法則と角運動量保存の法則を適用できない運動系である加速系にあるから,

空気や地面等の媒介物との間の反作用やその他外力からの作用しか考慮せずに,本

願発明の加速推進装置が運動量保存の法則及びニュートン力学に反し,実施可能性

がないとした本件審決の上記判断は失当である。

エ 加速推進装置全体を移動させることについて

(ア) 本件審決は,加速推進装置全体を天地軸方向に浮揚しながら進行又は後退

させるには,本件出願時における技術では,エネルギー源はかなりのエネルギー容

量が必要で,その重量も大きくなるから,蓄電池,水素発電機又は太陽光発電機等




のエネルギー源を搭載した場合,装置全体の重量がかなり大きくなり,全体を天地

軸方向に浮揚しながら進行又は後退するようにできるのか不明又は不明確であると

する。

(イ) しかしながら,前記ア及びイのとおり,本願発明の加速推進装置を浮揚さ

せ,中央回転軸方向に移動させることが可能であることは明らかである。

また,本願発明の加速推進装置の第2の回転を発生させるモータ(動力源15

1)の回転数を第3の回転を発生させるモータ(動力源153)よりも小さく設定

したとしても,装置を中央回転軸方向に移動させることに影響はない。

したがって,本願発明の加速推進装置では,第1ないし3の回転を発生させるモ

ータは市販のものでよく,これらを駆動させるのも市販のバッテリで十分であるか

ら,エネルギー源としてエネルギー容量が必要となるものでも,装置全体の重量が

かなり大きくなるというものでもない。本件審決の上記判断は誤りである。

オ エネルギー源について

(ア) 本件審決は,本願発明の加速推進装置全体が中央回転軸方向への並進加速

度を生成し,加速,速度,移動方向又は移動範囲の制約を受けることのなく,移動

手段として連続して機能するためのエネルギー源がどこに設置され,どのようにエ

ネルギーを入力しているのか不明であるとする。

(イ) しかしながら,本願発明の加速推進装置のエネルギー源及びエネルギーの

入力方法は,本件出願時における当業者の技術常識の範囲内で想定可能なものにす

ぎない。しかも,上記各事項は,本願発明における主要部分ではない。本願発明の

加速推進装置において,「加速推進装置内にバッテリ等のエネルギー源を設置し得

る点」「その設置されたエネルギー源が動力源を動作させ,それぞれ回転運動を発

生させ得る点」については,本願明細書に記載がなくとも,本件出願時の技術常識

に照らし,当業者が実施する上で障害とはならないことは,被告も特に否定しない。

前記のとおり,本願発明の加速推進装置では,動力源が第1ないし3の回転を発

生させることにより,装置全体を中央回転軸方向へ移動させることが可能であるこ




とは明らかであるから,当業者が本願発明を実施するに当たり,本願明細書にエネ

ルギー源の設置について明記されていないことが障害にはならないことは明らかで

ある。

(ウ) 被告は,特許第4702882号公報(甲19)に記載された発明(以下

「甲19発明」という。)及び特許第3796541号公報(甲20)に記載され

た発明(以下「甲20発明」という。)のように,プロペラやファンを回転させる

場合,エネルギー源を移動手段内に設置することを明細書に明記しないことが当業

者による発明の実施の妨げにならないことを認めている。本願発明の加速推進装置

では,例えばモータである動力源が軸回りに回転運動を発生させるものであって,

甲19発明及び甲20発明と同様に,本願発明における動力源のエネルギー源を加

速推進装置内に設置することを明細書に明記しないことは当業者の妨げにならない

ことは明らかである。

(エ) したがって,本件審決の上記判断は誤りである。

カ 「加速」の意義について

(ア) 本件審決は,本願発明の「加速」は,「減速」も含むことは分かったが,

物理学上の意味での「加速」のみならず,他の「定速度」,「ホバリング」若しく

は「停止」も含まれているものなのか,依然として,「加速推進装置」の「加速」

の意味が不明確であるとする。

(イ) しかしながら,本願発明の加速推進装置は,歳差運動により生成された力

と重力等とのバランスによって,物理学上の意味での「加速」「定速度」「ホバリ

ング」若しくは「停止」といった様々な状態をとり得るものであり,これらの状態

から代表して「加速」を発明の名称に含めたにすぎない。

前記のとおり,本願発明の加速推進装置が,その全体を中央回転軸方向へ移動さ

せることができることは,本願明細書の記載によって明らかである以上,同装置が

物理学上の意味での「加速」「定速度」「ホバリング」若しくは「停止」といった

様々な状態をとり得ることも明らかである。




したがって,本件審決の上記判断は誤りである。

キ 3種の軸の回転方向及び回転速度並びに位相差の相互の関連について

(ア) 本件審決は,本願発明の加速推進装置の3種の軸の回転方向及び回転速度

並びに位相差の相互の関連が,どのように装置全体に影響して,全体が,中央回転

軸方向への並進加速度を生成し,加速,速度,移動方向又は移動範囲の制約を受け

ることがなく,移動手段として連続して機能するのか,不明又は不明確であるとす

る。

(イ) しかしながら,本願明細書(段落【0016】【0017】【0020】

【0022】ないし【0024】【0038】,【図1】等)には,第1ないし3

の回転の回転方向及び回転速度並びに位相差の相互の関連が明確に記載されている

から,本件審決の上記判断は誤りである。

(3) 小括

以上によれば,本願発明の加速推進装置が,どのような動力源により,どのよう

な動力伝達経路を経て,装置全体がどのような動きをして,中央回転軸方向への並

進加速度を生成し,加速,速度,移動方向又は移動範囲の制約を受けることのなく,

移動手段として連続して機能するようになるのかについて,本願明細書に明確に記

載されているということができるから,本願明細書には,本願発明を当業者が実施

できる程度に明確かつ十分に記載されているということができる。

したがって,本願発明の特許請求の範囲の記載が実施可能要件を充足しないとし

た本件審決の判断は誤りである。

〔被告の主張〕

(1) 本願発明の加速推進装置について

ア 本願発明の加速推進装置は,反作用を利用せず,外力を受けず,加速推進装

置自身の質量変化を伴わず,独立して回転する回転子を備えた人転球をG軸1であ

る中央回転軸回りに回転させることで歳差運動が発生し,G軸1である中央回転軸

方向に並進加速度が発生するので,中央回転軸方向(天地軸方向)に浮揚しながら




進行又は後退することができるというものである(本願明細書段落【0051】

【0056】)。

イ 本願発明の加速推進装置は,本願明細書段落【0011】に記載された具体

的な構造によって,中央回転軸方向(天地軸方向)に浮揚しながら進行又は後退す

ることができる移動手段として機能するものであり,請求項1に記載されたとおり

の構造を有する。この構造に照らすと,本願発明の加速推進装置は,外部から装置

自身に対して何の外力も受けておらず,また,装置自身から外部に対して何の力も

与えていないことは明らかであり,装置内部の系だけにおいて各軸に対応した第1

ないし3の回転がされるものということができる。

ウ 運動量保存の法則によれば,外力の作用を受けていない系の全運動量(物体

の質量×速度)は,時間が経過しても不変である。

前記ア及びイのとおり,本願発明の加速推進装置は,周囲の媒介物などとの間に

反作用や他の外力が作用しないだけでなく,連続的でない反作用や他の外力も作用

しないものと解されるから,全体として一つの運動系を構成しており,この運動系

の中で,自身の質量変化を伴わないものと考えられる。

本願発明の加速推進装置が静止している状態では,全体の運動量は0であるのに

対し,静止状態から中央回転軸方向(天地軸方向)に浮揚しながら進行又は後退す

る状態では,0でない速度を有しており,装置の質量とその移動速度の積である運

動量を有することになる。

そうすると,本願発明の加速推進装置は,静止している状態と,中央回転軸方向

(天地軸方向)に浮揚しながら進行又は後退する状態とで,運動量は変わっている

ことになるから,運動量保存の法則に反する。

同様に,本願発明の加速推進装置は,ニュートン力学の第一法則(慣性の法則),

第二法則(運動方程式:質量×加速=力),第三法則(作用反作用の法則)のいず

れにも適合しない。

エ 本願発明のように,装置の動作原理が明らかではない場合,実際に装置が動




作したことに関する実証実験が重要であるところ,本願明細書には,動作原理の説

明以上のものはなく,実際に動作した実施結果は何ら開示されていない。

オ 以上によれば,本願発明の加速推進装置が浮揚しながら進行又は後退するこ

とを可能とした移動手段であると解すべき合理性はないから,実施可能要件を否定

した本件審決の判断に誤りはない。

(2) 本件審決について

ア 本願明細書には,本願発明の加速推進装置の各動力源150,151,15

3の駆動の態様として,「動力源150,151,153により第1〜3の回転が

発生」することがわかる程度の記載はあるが,そのような第1ないし3の回転が発

生しても,前記(1)のとおり,装置全体を中央回転軸(天地軸134,135)方

向へ移動させる(すなわち,浮揚しながら進行又は後退させる)ことができると解

すべき合理性はない。また,本願発明が実際に動作したことに関する実施結果も開

示されていないから,本願発明において,どのような原理から,「加速推進装置が

有する回転子101には,第3の回転(自転)に第1の回転(公転)を作用させる

ことにより,歳差運動を発生させ,さらに,第2の回転により第1の回転に対する

第3の回転の相対的な向きを変化させて」得られた動力から「加速推進装置が中央

回転軸方向へ移動可能なこと(すなわち,浮揚しながら進行又は後退すること)」

になるのかについては,不明といわざるを得ない。

イ 一般に,全体として質量が変化しない物体を浮揚しながら進行又は後退させ

るためには,少なくとも物体に上昇方向への力が付与される必要があるが,そのた

めには地面等に対して力を印加し,地面等からは反作用で力を受ける必要がある。

このような技術常識によれば,本願発明の加速推進装置を浮揚しながら進行又は

後退させるには,そのような力を付与するエネルギー源の設置が必要であるが,本

願明細書にはそのようなエネルギー源の設置について記載されていないから,当業

者が本願発明を実施するに当たっての障害となることは明らかである。

仮に,バッテリ等のエネルギー源でエネルギーを入力し得たとしても,それは単




に動力源により第1ないし3の回転を発生させるだけであって,加速推進装置全体

を中央回転軸(天地軸)方向へ移動させる(すなわち,浮揚しながら進行又は後退

させる)ことは不可能である。

また,甲19発明及び甲20発明は,プロペラ及びファンによる回転によって媒

介物である空気の反作用を利用して推進力を得るタイプの翼理論に基づく発明であ

って,本願発明のように,反作用を利用しないで推進力を得ようとする構造の発明

とは異なるから,本願発明の実施可能要件を判断するに当たり,参考とすることは

できない。

ウ 本願発明の加速推進装置は,その全体を中央回転軸(天地軸134,13

5)方向へ移動させる(すなわち,浮揚しながら進行又は後退させる)ことはでき

ないから,物理学上の意味での「定速度」,「ホバリング」若しくは「停止」とい

った様々な状態をとり得るものではない。

エ 本願発明の加速推進装置において,構造的に歳差運動を発生させる第1ない

し3の回転の相互の関連があるとしても,前記(1)のとおり,第1ないし3の回転の

相互の関連によって装置全体を中央回転軸(天地軸134,135)方向へ移動さ

せる(すなわち,浮揚しながら進行又は後退させる)ことができると解すべき合理

性はない。

(3) 小括

以上によれば,本願発明の特許請求の範囲の記載が実施可能要件を充足しないと

した本件審決の判断に誤りはない。

2 取消事由2(明確性の要件の判断の誤り)について

〔原告の主張〕

(1) 各軸の回転方向及び回転速度並びに位相差の相互の関連について

本件審決は,本願発明の請求項1において,本願発明の課題を達成するためには,

各軸の回転方向及び回転速度並びに位相差の相互の関連についての事項は必要であ

ると思われるが,請求項1にはこのような事項は記載されていないとする。




しかしながら,請求項1には,回転方向の相互の関連は明確に記載されている。

また,回転速度及び位相差は,前記1〔原告の主張〕(2)キのとおり,請求項1に記

載された条件を満たしていれば,どのような回転速度,回転方向であっても,各回

転子の指向方向(捻転)に適切な位相差を確保させていることによって,装置の回

転子に歳差運動のトルクが発生し,中央回転軸方向への移動が可能となることは明

らかである。

したがって,本件審決の上記判断は誤りである。

(2) 動力源及びエネルギー源について

本件審決は,本願発明の請求項1において,本願発明の課題を達成するためには,

加速推進装置を駆動する動力源及びエネルギー源についての事項も必要であると思

われるが,請求項1において,動力源の配置が不明であり,また,エネルギー源の

記載はないから,動力源と当該エネルギー源との相互の関連等の事項は記載されて

いないとする。

しかしながら,本願発明において,第1ないし3の回転を発生させる動力源を搭

載していることさえ特許請求の範囲に記載すれば,発明の内容が明確となることは

明らかである。

前記1〔原告の主張〕(1)オのとおり,エネルギー源がどこに設置され,どのよう

にエネルギーが入力されるかは,本願発明の主要部分ではなく,また,本件出願時

技術常識から当業者であれば当然に想定できることにすぎない。

また,特許請求の範囲の記載にエネルギー源及び動力源と当該エネルギー源との

関連を記載しないからといって,本願発明が直ちに不明確であるということはでき

ない。

(3) 小括

以上によれば,本願発明の加速推進装置が,請求項1で特定される構造によって

その装置全体を中央回転軸方向へ移動させることが可能であり,請求項1には,本

願発明の第1ないし3の回転速度,回転方向及び位相差の関連並びにエネルギー源




についての事項が明確に記載されているのみならず,本件審決が要求するその余の

記載事項は不要であって,本願発明の特許請求の範囲の記載が明確性の要件を充足

しないとした本件審決の判断は誤りである。

〔被告の主張〕

(1) 本願発明の加速推進装置は,前記1〔被告の主張〕(1)のとおり,請求項1

で特定される構造によって,その装置全体を中央回転軸(天地軸134,135)

方向へ移動させることはできないのであるから,このような移動を可能とするよう

な「各軸の回転方向及び回転速度並びに位相差の相互の関連についての事項」や

「動力源と当該エネルギー源との相互の関連等の事項」は不明であるというほかな

い。(2) 小括

以上によれば,本願発明の特許請求の範囲の記載が明確性の要件を充足しないと

した本件審決の判断に誤りはない。

第4 当裁判所の判断

1 本願明細書の記載について

本願発明の特許請求の範囲は,前記第2の2に記載のとおりであるところ,本願

明細書(甲1,6,14,16)には,おおむね次の記載がある(図面については,

別紙の本願明細書図面目録を参照。)。

(1) 技術分野

本発明は,加速推進装置に関し,特に,任意方向に並進加速度を生成して推進す

る加速推進装置に関する(段落【0001】)。

(2) 背景技術

近代社会においては,工業技術の進歩により新たな移動手段が日々開発され,人

類の活動範囲の拡大に多大な貢献をしている。

例えば,陸上であれば自動車や電車,海上であれば船舶,空あれば飛行機やロケ

ット等様々な移動手段があり,これらの移動手段を利用することにより,短時間で

長距離間を容易に移動することができるようになっている(段落【0002】)。




しかし,これらの移動手段を利用する際,その移動の簡便さの反面,様々な問題

も生じている。

例えば,それらの移動手段の中には,移動の際に,有害物質を含む排気ガスを排

出するため,深刻な環境問題を引き起こすものも少なくない。

近年,このような環境問題に注目が集まり,有害な排気ガスの排出が低減された

ハイブリッドカーの利用が推奨されている。

このハイブリッドカーは,従来のガソリン又はディーゼルエンジンの他に,蓄電

池及び電気モータを備えた自動車であり,排気ガスの排出の低減に成功している

(段落【0003】)。

このようなハイブリッドカーに係る従来技術として,ハイブリッド車の排気ガス

低減装置及び方法が提案されている。

この排気ガス低減装置は,電気加熱触媒によりエンジンから排出される排気ガス

を浄化する装置である。この排気ガス低減装置は,エンジンを駆動させる前に事前

に触媒を加熱し,制御ユニットにより触媒が活性化十分温度に達したことを判断し

てからエンジン駆動とすることで,加熱により十分な浄化効率状態を確保できた触

媒により排気ガスの効率よい浄化が可能となり,触媒出口での排気ガスの排出量を

低減することができるようになっている(段落【0004】)。

(3) 発明が解決しようとする課題

しかしながら,従来技術の排気ガス低減装置を取り付けたハイブリッドカーにも,

主に以下のような3つの問題点がある(段落【0005】)。

まず,1つ目の問題点は,ハイブリットカーを含む一般の車両は,地面という媒

介物に対する反作用を利用して推進するものであるので,この地面と車両のタイヤ

との間の摩擦が生じ,その結果,加速の制約を受けてしまうという点である(段落

【0006】)。

また,2つ目の問題点は,ハイブリットカーを含む一般の車両は,道路上を移動

するため,その速度,移動方向又は移動範囲の制約を受けてしまうという点である




(段落【0007】)。

また,3つ目の問題点は,排気ガスの排出量の低減を可能としているものの,完

全にゼロにすることは困難であるという点である(段落【0008】)。

また,これらの問題点は,車両に限定されるものではなく,他の移動手段にも生

じる。

例えば,船舶であれば水面という媒介物に対する反作用を利用して推進するもの

であるので,加速や移動範囲等で同様の制約を受ける。

また,飛行機やロケットのような飛行体であれば,空気や自機からの噴射物に対

する反作用を利用して推進するものであるため同様の制約を受け,爆音・騒音の問

題,さらには噴射物による大気汚染の問題も無視することができない(段落【00

09】)。

本発明は,上記問題点に鑑みてなされたものであり,加速,速度,移動方向又は

移動範囲の制約を受けることなく,騒音被害又は排気による大気汚染を引き起こす

ことのない移動手段として機能する加速推進装置を提供することを目的とする(段

落【0010】)。

(4) 課題を解決するための手段

かかる目的を達成するため,本発明における加速推進装置は,自装置(100)

の重心を貫く中央回転軸(1)と,中央回転軸(1)の周囲に配置された3以上の

複数の回転子(101)と,回転子(101)を支持し,中央回転軸(1)の周囲

を回転する公転盤(地動輪13,120)と,中央回転軸(1)上の一点と各回転

子の中心とを結んで構成される斜軸(9,21,22)と,回転子(101)の回

転軸であって,中央回転軸に向かって直交する向きから平行になる向きに旋回され

る各回転子軸(115)と,回転子(101)の外殻であって,斜軸まわりに回転

する外殻体(112)と,外殻体(112)に固定され,回転子軸(115)と斜

軸(9,21,22)とが所定の角度をなすように,回転子軸(115)を支持す

る回転子軸支持枠(腰掛けジンバル105)と,中央回転軸(1),斜軸(9,2




1,22)及び回転子軸(115)をそれぞれ回転駆動させる動力源(150,1

51,153)と,を有し,複数の回転子(101)は,回転子軸(115)まわ

りにそれぞれ同速度で回転し(第3の回転),公転盤(地動輪13,120)は,

中央回転軸(1)まわりに回転し(第1の回転),各外殻体(112)及び回転子

軸支持枠(105)は,中央回転軸(1)と所定の角度をなす斜軸(9,21,2

2)まわりにそれぞれ同速度で回転し(第2の回転),第2の回転は,中央回転軸

(1)まわりに互いに隣り合う各外殻体(112)及び回転子軸支持枠(105)

の回転の周期に等しい位相差が割り当てられることを特徴とする(段落【001

1】)。

(5) 発明の効果

本発明によれば,加速推進装置は,加速すべき方向に沿った中央回転軸と,中央

回転軸に対して対称的に配置され回転軸回りに第1の回転をする3個以上の球体と

を有し,その各球体は,自身の内部に,中央回転軸側から第1の回転における球体

の軌道側への径方向を回転の軸とする回転子を備えているので,中央回転軸方向へ

の並進加速度を生成し,加速,速度,移動方向又は移動範囲の制約を受けることな

く,排気による大気汚染や運転騒音の被害を引き起こすことのない移動手段として

機能することが可能となる(段落【0027】)。

(6) 発明を実施するための最良の形態

ア 第1の実施の形態

(ア) 図面の説明

別紙の図2は,本発明の第1の実施の形態における加速推進装置100の平面断

面図である。

また,別紙の図3は,本発明の第1の実施の形態における加速推進装置100の

側面断面図である。

以下,これらの図を用いて,本発明の第1の実施の形態について説明する(段落

【0028】)。




別紙の図2,3には,図1と同様に,その加速推進装置100の各部位の空間位

置を把握しやすいように,便宜的に各軸が示されている。

この空間位置の基準線となる各軸については,図1と同様である(段落【002

9】)。

(イ) 第1の実施の形態の構成

以下,別紙の図2,3を用いて,本実施の形態における加速推進装置100の構

成について説明する(段落【0030】)。

加速推進装置100は,G軸1に対称に3個設けられG軸1周りに周回する球体

である人転球110a〜110cと,これら人転球110a〜110cを支持しG

軸1回りに回転する円盤を備えた地動輪120と,これら人転球110a〜110

c及び地動輪120を収納する天開輪130とを有する。

また,加速推進装置100は,さらに,モータ等の動力源151,153と,こ

れら動力源151,153により生成された回転運動を伝達する天地軸134,1

35,輪廻軸119,主内動分配ギヤ118,斜交ギヤ116と,前記の人転球1

10a〜110cを地動輪120に軸支する因果軸106,109とを有する(段

落【0031】)。

人転球110a〜110cは,略球体の外殻を形成する外殻体142と,この外

殻体142の内壁に沿って設けられているリング状の枠体である腰掛けジンバル1

05と,その腰掛けジンバル105の枠内で回転する偏心を生じない形状(例えば

略球状又は円盤状,好ましくは略球状)の回転子101と,この回転子101の回

転中心軸である回転子軸115と,この回転子軸115を回転させるモータ等の動

力源150とを有する。

この回転子軸115は,X軸2,24,25に沿って設けられており,その回転

子軸115の両端は,腰掛けジンバル105の内枠に,X軸中心に回転可能に支持

されている(段落【0032】)。

地動輪120は,人転球110a〜110cを支持する支持枠122と,この支




持枠122とともにG軸1回りに回転する回転盤123とを有して構成される。

これら支持枠122と回転盤123とは一体に構成されており,G軸1を回転中

心軸として一体に回転するようになっている。

この回転盤123には,G軸1上に天地軸135が固設されており,モータ等の

動力源153による回転運動が天地軸135を介して回転盤123に伝達するよう

になっている。さらに,動力源151の回転運動は,輪廻軸119を介して主内動

分配ギヤ118に伝達するようになっている。

また,支持枠122にも同様に,G軸1上に天地軸134が固設されており,通

電機能を備えた天地軸通電端子136と同軸で連結されている。

これら動力源151,153は,別個に回転運動を行うように設計されており,

動力源153は,支持枠122及び回転盤123がG軸1回りに一体かつ円滑に回

転可能なように構成されている(段落【0033】)。

また,その回転盤123には,それぞれ前記のX軸2,24,25上に中心をも

つ略円形の設置穴125が計3個設けられている。この回転盤123の回転中心か

らこれら設置穴125の中心までの距離は均等に構成されている。

これら3個の設置穴125には,それぞれ人転球110a〜110cが収納され

ている。地動輪120が回転すると,この地動輪120の支持枠122に支持され

ている各人転球110a〜110cも同様にG軸1回りに回転するようになってい

る(段落【0034】)。

また,天地軸134,135の側面には,それぞれ天地反転ベアリング137,

138が回転自在に配設されている。また,天地軸134,135は,これら天地

反転ベアリング137,138を介して地動輪120の支持枠122に取り付けら

れている(段落【0035】)。

また,この回転盤123上には,加速推進装置100の移動方向を調整するため

の方向舵輪140がG軸1に対称に少なくとも3個設けられている。この方向舵輪

140は,回転盤123の径方向を回転軸とした円盤状の回転体であり,回転の正




逆方向及び回転速度は任意に調 整できる ように構成されている(段落【 003

6】)。

別紙の図4は,本発明の第1の実施の形態において,輪廻軸119回りの回転を

各人転球110a〜110cに伝達するための構造を示す斜視図である。

図に示すように,各人転球110a〜110cを外側から挟持する2本の支軸で

ある因果軸106,109が,斜軸9,21,22に沿って取り付けられている。

このうち,因果軸106は,その一端が腰掛けジンバル105に固定され,他端

には斜交ギヤ116が取り付けられている。この斜交ギヤ116は,輪廻軸119

に固定されている主内動分配ギヤ118と噛合している。この輪廻軸119の能動

回転が主内動分配ギヤ118を介して斜交ギヤ116に伝達すると,人転球110

a〜110cがこの軸9,21,22回りに回転するようになる。なお,このよう

に構成されることにより,この輪廻軸119回りの回転を,因果軸106,109

回りの人転球110a〜110cそれぞれに同一の回転速度にして伝達分配する。

また,他方の因果軸109は,その一端が腰掛けジンバル105に固定され,他

端がその軸回りに回転自在に支持枠122に取り付けられている(段落【003

7】)。

(ウ) 第1の実施の形態の作用

3個の人転球110a〜110cの内部では,それぞれ各回転子101が独立し

て回転する。なお,これら3個の回転子101は,等しい角速度で回転する(段落

【0047】)。

天地軸134,135の能動回転は,天地反転ベアリング137,138を介し

て地動輪120に伝達され,この結果,地動輪120は,天地軸134,135回

りに回転する。

このとき,地動輪120の回転とともに,各人転球110a〜110cが,天地

軸134,135回りに,その軸回転と等しい角速度で周回する。

この結果,人転球110a〜110cは,天地軸134,135に平行な人転球




の中心軸4,39,40のまわりに回転する(段落【0048】)。

また,輪廻軸119の能動回転は,主内動分配ギヤ118を介して3個の斜交ギ

ヤ116にそれぞれ伝達され,さらに,これら斜交ギヤ116を介して各因果軸1

06に伝達される。

この結果,各人転球110a〜110cは,因果軸106,109回りに回転す

る。

このとき,位相配分スリブ117により各人転球110a〜110c間の軸9,

21,22周りの回転の位相差が調整され,人転球110aと人転球110b,人

転球110bと人転球110c,人転球110cと人転球110aの各位相差は1

20°となる(段落【0049】)。

前記のとおり,各人転球110a〜110c内で各回転子101が軸2,24,

25回りに回転している。この回転の向きは,地動輪120の回転軸(天地軸13

4,135)側から見て反時計回りである。

さらに,これら人転球110a〜110cには,地動輪120の回転により,そ

れぞれZ軸6,41,42を回転軸とする回転力が発生する。この地動輪120の

回転方向は,別紙の図1の焦点14側から見て反時計回りである。

このように回転子101の回転運動に,前記の地動輪120の回転によるY軸方

向の力が加わると,歳差運動が発生し,人転球110a〜110cの天地軸134,

135側を図1の焦点14側方向にあおり上げようとする力がはたらく。

なお,前記の回転子101の回転方向が時計回りである場合には,前記の地動輪

120の回転方向を時計回りに調整することによって,同様に図1の焦点14側方

向に同じ力をはたらかせることができる(段落【0050】)。

また,前記のとおり,各人転球110a〜110cは,位相配分スリブ117に

より,120°の位相差で軸9,21,22回りに回転するので,各人転球110

a〜110cに対してこれらの別紙の図1の焦点14側方向にあおり上げようとす

る力も,120°の位相差で周回的に伝達される。




このように,各人転球110a〜110cには時間差で自身をあおり上げる力が

周回的に繰り返しはたらくので,天地軸134,135方向に並進加速度が発生す

る。この結果,加速推進装置100全体が天地軸134,135方向に浮揚しなが

ら進行又は後退するようになる(段落【0051】)。

なお,この並進加速度のはたらく向きは,G軸1に重なる天地軸134,135

に沿って前進又は後退する方向となるが,その方向は,回転子101及び地動輪1

20それぞれの回転方向の組み合わせにより決定する。

天地軸134,135側から見たときの回転子101の回転方向と,天地軸13

4側から天地軸135側を見たときの地動輪120の回転方向との組み合わせが,

それぞれ(時計回り,時計回り)又は(半時計回り,半時計回り)の場合には,G

軸1に沿って天地軸134側方向に進行する。

一方,これらの組み合わせが,それぞれ(時計回り,半時計回り)又は(半時計

回り,時計回り)の場合には,G軸1に沿って天地軸135側方向に進行する(段

落【0052】)。

また,前記の方向舵輪140の回転運動と地動輪120の回転運動とを相互に作

用させて歳差運動を生成し,加速推進装置100を任意方向に傾けることによって

操舵することができる(段落【0053】)。

また,別紙の図8は,本発明の実施の形態における人転球110内に備えられた

一例としての動力源150の駆動方向を説明するための図である。

図に示すように,人転球110は,因果軸106,109を回転中心軸にして回

転する。

一方,人転球110内の回転子101は,この人転球110の因果軸106,1

09回りの回転とは独立して回転子軸115を回転中心軸にして回転する。そして,

この回転子101は,人転球110内に設けられているモータ等の動力源150の

駆動軸230回りの回転が,図示しないギヤ等により伝達されて回転する。

この駆動軸230は,人転球110内において,円盤形状の回転子101に垂直




な平面上に設けられる。

また,この動力源150の駆動軸230と,因果軸106,109とのなす角度

が90°となるようにしているので,この動力源150の駆動から余分な反力が生

成されることを防ぎ,人転球110の回転に偏芯が生じることを防ぐことができる

ようになっている。

また,回転子軸115と,因果軸106,109とのなす角度を調整することで,

並進加速度を力学的に効率よく発生することができるようになっている(段落【0

054】)。

(エ) 第1の実施の形態のまとめ

以上説明したように,本実施の形態における加速推進装置100によれば,独立

して回転する回転子101を備えた人転球110a〜110cをG軸1回りに回転

させることで,歳差運動が発生し,G軸1方向に並進加速度が発生するので,媒介

物を介さずにG軸1方向への推進力を容易に得ることが可能となる。

この結果,媒介物との間の摩擦による加速度及び速度の制約,並びに地理的制約

を受けることなく推進する移動手段や搬送装置を開発することが可能となる。

また,本実施の形態における加速推進装置100は,排気ガスや噴射物を外部に

放出することがなく,運転騒音を発生することも少ないので,環境面における貢献

も甚大である(段落【0056】)。

イ 第2の実施の形態

(ア) 第2の実施の形態の構成

第1の実施の形態では,人転球をG軸1回りに3個配置し,軸材106a,10

6bの底面断面を正三角形とするものであった。

これに対し,第2の実施の形態では,人転球をG軸1回りに均等に5個配置し

(人転球110a〜110e),軸材106a’,106b’の底面断面を正五角

形とする。

以下,本発明の第2の実施の形態について説明するが,特記しない限り,構成及




び作用は,第1の実施の形態と同様であるものとする(段落【0057】)。

別紙の図9の(a)は,本発明の第2の実施の形態における因果軸106’及び

位相配分スリブ117’の構造を示す底面断面図であり,(b)は,その構造を示

す斜視図である。

図に示すように,因果軸106’は,斜交ギヤ116側の軸材106’Aと,人

転球110a〜110e側の軸材106’Bとから構成される。

実施の形態では,前記したように,G軸1回りに5個の人転球110a〜11

0eを配置しており,その軸材106’A,106’Bの底面断面は正五角形に設

計されている。

また,図に示すように,軸材106’A,106’Bの側面は,イ面,ロ面,ハ

面,ニ面,ホ面と5面設けられている。

軸材106’Aのイ面と同側に,軸材106’Bのイ面,ロ面,ハ面,ニ面,ホ

面を配置すると,それぞれ軸材106’Aの回転の位相が,それぞれ0°,72°,

144°,216°,288°位相が遅れて伝達される(段落【0058】)。

これを利用して,人転球110aに対し,人転球110b,110c,110d,

110eの因果軸106’回りの回転の位相を,それぞれ72°,144°,21

6°,288°遅らせるように順次,歳差運動を作用させることで,G軸1方向の

並進加速度を生成することができる(段落【0059】)。

(イ) 第2の実施の形態のまとめ

以上説明したように,本実施の形態では,軸材106’A,106’Bの底面断

面を正五角形とし,その側面を5面とすることで,各人転球110a〜110eの

因果軸106’回りの回転の位相差を72°刻みで生じさせて歳差運動を順次作用

させることで,G軸1方向の並進加速度を生成することができる。

この結果,第1の実施の形態と同様に,あらゆる制約から逃れた理想的な移動手

段や搬送装置を開発することが可能となる(段落【0060】)。

実施形態全体のまとめ




以上説明したように,前記の第1又は第2の実施の形態では,それぞれ人転球を

3,5個配置し,その人転球の因果軸周りの回転の位相差を120°,72°刻み

でもうけ,並進加速度を発生させるものである。なお,発生させ得る位相差は,こ

れらの実施形態の例に限定されない。

このように,人転球がG軸1回りにn個配置されたとき,人転球の因果軸106,

109回りの位相が,G軸1方向から見て時計回り又は半時計回りに隣り合う他の

人転球と比べて,(360°÷n)ずつ遅れて伝達されるとき,この位相差を最小

正順位相差という。

この最小正順位相差は,次の式(1)で決められる。

最小正順位相差=360°÷n ・・・式(1)

n:G軸1回りに均等に配置する人転球の個数

このとき,因果軸の軸材の底面断面は正n角形とし,その側面断面の面数はn面

とする(段落【0061】)。

2 取消事由1(実施可能要件の判断の誤り)について

(1) 本願発明の加速推進装置について

ア 前記1によれば,本願発明の加速推進装置は,独立して回転する回転子を備

えた外殻体を中央回転軸回りに回転させることによって歳差運動が発生し,中央回

転軸方向に並進加速度が発生するので,媒介物を介さずに加速推進装置全体が天地

軸方向に浮揚しながら進行又は後退するというものである。

そうすると,本願発明の加速推進装置は,歳差運動のみによって加速推進装置全

体が中央回転軸方向に浮揚しながら進行又は後退するものあり,従来の移動手段で

ある車両,船舶及び飛行体のように反作用を利用して推進するものではなく,また,

外部から何らの外力を受けるものではなく,全体として一つの運動系を構成してい

るから,この運動系の中で加速推進装置自身の質量変化を伴わないものである。

イ 本願発明は,物の発明(特許法2条3項1号)であるから,本願発明が実施

可能要件を充足するためには,本願明細書の発明の詳細な説明に,当業者がこれを




生産することができ,かつ使用することができる程度に明確かつ十分に記載したも

のでなければならない。

本願明細書の段落【0030】ないし【0036】及び別紙の図2及び3には,

本願発明の加速推進装置の具体的な構成が記載されており,また,本願明細書の段

落【0047】ないし【0053】には,本願発明の加速推進装置の作用が記載さ

れているが,これらの説明及び図面からは,従来技術(地面に対する反作用を利用

して推進するハイブリットカーを含む一般の車両,水面に対する反作用を利用する

船舶及び空気や自機からの噴射物に対する反作用を利用して推進する飛行体)とは

異なり,歳差運動のみによって並進加速度を発生させて加速推進装置全体を浮揚し

ながら進行又は後退させることができる具体的な機構や構造は記載されていない。

一般に,質量が変化しない物体(加速推進装置)が空中に浮揚するには,上昇方

向への力が付与される必要があり,そのためには地面等に対して力を印加し,地面

等からは反作用で力を受ける必要がある。本願発明に係る加速推進装置は歳差運動

のみによって同装置全体が中央回転軸方向に浮揚しながら進行又は後退するという

ものであるが,全体として質量が変化するものではなく,地面等に対する反作用の

力を生じるものではないから,物体(加速推進装置)を浮揚させる要因となるもの

が全く見当たらない。そうすると,本願発明に係る加速推進装置が浮揚する原理に

係る原告の考察や試算では,この加速推進装置を浮揚させることは困難であるとい

わなければならない。

また,運動量保存の法則によれば,外力の作用を受けていない系の全運動量(物

体の質量×速度)は,時間が経過しても不変である(乙1)。本願発明の加速推進

装置が静止している状態では,全体の運動量は0であるのに対し,静止状態から中

央回転軸方向に浮揚しながら進行又は後退する状態では,0でない速度を有してお

り,同装置の質量とその移動速度の積である運動量を有することになるから,本願

発明の加速推進装置は,静止している状態と,中央回転軸方向に浮揚しながら進行

又は後退する状態とでは,運動量は変化していることになる。そうすると,反作用




を利用することなく,歳差運動のみによって並進加速度を発生させて加速推進装置

全体を浮揚しながら進行又は後退させるという本願発明の動作原理は,運動量保存

の法則にも反するというべきである。

このように,本願明細書の発明の詳細な説明に開示された本願発明の具体的な構

造や作用によれば,歳差運動のみによって並進加速度を発生させて加速推進装置全

体を浮揚しながら進行又は後退させることは困難であると認められるが,本願明細

書には,本願発明の加速推進装置が浮揚しながら進行又は後退した事実(実験結

果)は示されていない。

したがって,本願発明の加速推進装置は,浮遊しながら進行又は後退することが

できるということはできず,本願明細書の発明の詳細な説明には,当業者が,歳差

運動のみによって並進加速度を発生させて浮揚しながら進行又は後退する加速推進

装置を生産し,かつ使用することができる程度に明確かつ十分に記載されたものと

いうことはできない。

? 原告の主張について

ア 原告は,本願明細書には,本願発明の動作原理(@加速推進装置の各動力源

150,151,153が装置のどの部分を駆動し,これら各駆動が装置本体の移

動にどのように影響を与えているか,A第3の回転(自転)に第1の回転(公転)

を作用させることにより,歳差運動を発生させ,さらに,第2の回転により第1の

回転に対する第3の回転の相対的な向きを変化させて,各回転子をあおり上げるよ

うな力が極大となるタイミングについて位相差を生成することで,加速推進装置全

体を中央回転軸(天地軸)方向へ移動させることができること等)は,本願明細書

に記載されているものであり,特に,本願明細書(段落【0016】【0017】

【0020】【0022】ないし【0024】【0038】,【図1】等)には,

第1ないし3の回転の回転方向及び回転速度並びに位相差の相互の関連が明確に記

載されているから,本願発明の加速推進装置が実際に動作し,物理学上の意味での

「加速」「定速度」「ホバリング」若しくは「停止」といった様々な状態をとり得




ることは明らかであるなどと主張する。

確かに,本願明細書の上記各段落には,第1ないし3の回転の回転方向及び回転

速度並びに位相差の相互の関連に関する記載が存在する。また,本願明細書の段落

【0031】ないし【0034】,【0037】,【0054】,別紙の図3,4,

8には,本願発明の加速推進装置の各動力源150,151,153によって,第

1ないし3の回転を発生させ,第3の回転(自転)に第1の回転(公転)を作用さ

せることにより,歳差運動を発生させ,さらに,第2の回転により第1の回転に対

する第3の回転の相対的な向きを変化させることが記載されている。

しかしながら,本願発明に係る加速推進装置については,前記(1)のとおり,地面

から反作用を受けることなく,また,運動量保存の法則に反することなく,どのよ

うにして中央回転軸方向へ浮揚しながら進行又は後退させることができるのか不明

であり,歳差運動のみによって並進加速度を発生させて同装置全体を浮揚しながら

進行又は後退させることは困難であると認められる。また,同装置の各動力源15

0,151,153によって,第3の回転(自転)に第1の回転(公転)を作用さ

せることにより歳差運動を発生させ,さらに,第2の回転により第1の回転に対す

る第3の回転の相対的な向きを変化させて得られた力から,地面から反作用を受け

ることなく,また,運動量保存の法則に反することなく,どのようにして同装置を

中央回転軸方向へ浮揚しながら進行又は後退させることができるのかに関する技術

的意義も不明であるというほかない。そうすると,当該記載をもってしても,本願

発明の動作原理やその技術的意義が明らかとはいえない以上,当該記載は,当業者

が本願発明を実施できる程度の記載とまで認めることはできない。

したがって,原告の前記主張は採用することができない。

イ 原告は,本願発明の加速推進装置は運動量保存の法則と角運動量保存の法則

が適用できない運動系である加速系にあるから,空気や地面等の媒介物との間の反

作用やその他外力からの作用しか考慮せずに,本願発明の加速推進装置が運動量保

存の法則及びニュートン力学に反し,実施可能性がないとした本件審決の判断は失




当であるし,本件出願時に当業者によく知られたベクトルの外積の原理等を用いた

試算の結果によれば,本件出願時において市場に流通していたモータ等により,中

央回転軸方向への並進加速度を生成する構成は実現可能であるなどと主張する。

しかしながら,前記(1)のとおり,一般に,質量が変化しない物体が浮揚しながら

進行又は後退するためには,少なくとも物体に上昇方向への力が付与される必要が

あるところ,そのためには,地面等に対して力を印加し,地面等からは反作用で力

を受ける必要があることは,技術常識というべきである(本願明細書にも,従来技

術であるハイブリットカーを含む一般の車両,船舶,飛行体は,いずれも反作用を

利用して推進するものと記載されている。)。運動量保存の法則が技術常識である

ことについても,同様である。原告は,本願発明の加速推進装置が運動量保存の法

則と角運動量保存の法則が適用できない運動系に属する旨の主張の根拠について,

具体的かつ合理的な説明をしない。

したがって,原告の前記主張は採用することができない。

ウ 原告は,本願発明の加速推進装置のエネルギー源及びエネルギーの入力方法

は,市販のモータやバッテリ等,本件出願時における当業者の技術常識の範囲内で

想定可能なものであり,装置全体の重量がかなり大きくなるというものではないし,

上記各事項は,本願発明における主要部分ではないのみならず,本願発明の加速推

進装置では,例えばモータである動力源が軸回りに回転運動を発生させるものであ

って,甲19発明及び甲20発明と同様に,エネルギー源を加速推進装置内に設置

することを明細書に明記しないことは当業者の妨げにならないことは明らかである

などと主張する。

しかしながら,前記(1)のとおり,地面から反作用を受けることなく,また,運動

量保存の法則に反することなく,どのようにして本願発明の加速推進装置を中央回

転軸方向へ浮揚しながら進行又は後退させることができるのか不明である以上,エ

ネルギー源及びエネルギーの入力方法が本件出願時における当業者の技術常識の範

囲内で想定可能なものであるということもできない。




また,本願発明の加速推進装置を浮揚させながら進行又は後退させるためのエネ

ルギー源及びエネルギーの入力方法の詳細が不明である以上,本願発明の動作原理

も不明であるというほかないから,上記各事項は本願発明における主要部分ではな

いとはいえないところ,本願明細書には,そのようなエネルギー源及びエネルギー

の入力方法についての記載はない。

さらに,甲19発明及び甲20発明は,プロペラ及びファンによる回転によって

媒介物である空気の反作用を利用して推進力を得る飛行体(本願明細書に従来技術

の1つとして記載されている。)に係る発明であり,その飛行原理はいわゆる翼理

論に基づくものであって,本願発明のように,地面等からの反作用を受けず,また,

運動量保存の法則に反する動作原理に基づくものではない。本願発明において,エ

ネルギー源及びエネルギーの入力方法を明らかにする必要があるのは,本願発明の

加速推進装置の動作原理が不明であるからであって,動作原理が明らかである甲1

9発明及び甲20発明と同列に扱うことは相当ではない。

したがって,原告の前記主張は採用することができない。

(3) 小括

以上によれば,本願発明の加速推進装置が,どのような動力源により,どのよう

な動力伝達経路を経て,装置全体がどのような動きをして,中央回転軸方向への並

進加速度を生成し,加速,速度,移動方向又は移動範囲の制約を受けることのなく,

移動手段として連続して機能するようになるのかについて,本願明細書に明確に記

載されているということはできないから,本願明細書には,本願発明を当業者が実

施できる程度に明確かつ十分に記載されているということはできない。

したがって,本願発明の特許請求の範囲の記載が実施可能要件を充足しないとし

た本件審決の認定及び判断は相当であって,取り消すべき違法はない。

第5 結論

以上の次第であるから,その余の取消事由について判断するまでもなく,原告の

請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。




知的財産高等裁判所第4部



裁判長裁判官 富 田 善 範




裁判官 田 中 芳 樹




裁判官 荒 井 章 光





(別紙)

本願明細書図面目録



【図1】




【図2】





【図3】




【図4】





【図8】




【図9】