審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成25行ケ10163審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成25行ケ10118審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成25行ケ10155審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成25行ケ10206審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成25行ケ10174審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
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事件 |
平成
25年
(行ケ)
10048号
審決取消請求事件
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裁判所のデータが存在しません。 | |
裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2014/02/26 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
判例全文 | |
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判例全文
平成26年2月26日判決言渡 平成25年(行ケ)第10048号 審決取消請求事件 口頭弁論終結日 平成26年2月19日 判 決 原 告 ハイネケン サプライ チェ ーン ベー.フェー. 訴訟代理人弁理士 西 教 圭 一 郎 被 告 特 許 庁 長 官 指 定 代 理 人 新 海 岳 槙 原 進 窪 田 治 彦 堀 内 仁 子 主 文 特許庁が不服2011−24538号事件について平成24年10月1 1日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 事 実 及 び 理 由 第1 原告の求めた判決 主文同旨 第2 事案の概要 本件は,特許出願に対する拒絶査定不服審判不成立審決の取消訴訟である。争点 は,@進歩性の有無及びA審判における手続違背の有無である。 1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成11年3月16日,名称を「加圧下に液体を小出しする装置」とす る発明につき特許出願(特願2000−536650号,パリ条約による優先権主 張1998年3月16日,オランダ国,甲6)をしたが,平成21年1月22日付 けで拒絶理由が通知され(甲7) 同年7月27日付けで手続補正をしたが , (甲9), 同年12月14日付けで拒絶理由が通知され(甲10),平成22年3月23日付 けで手続補正をしたが(甲12),同年4月12日付けで拒絶理由が通知され(甲 13),同年10月20日付けで手続補正をしたが(甲15),同年11月10日 付けで拒絶理由が通知され(甲16),平成23年3月16日付けで手続補正をし たが(甲18),同年7月8日付けで拒絶査定を受けたので(甲19),同年11 月14日付けでこれに対する不服の審判(不服2011−24538号)を請求す るとともに(甲20),同日付けで手続補正をした(本件補正,甲21)。 特許庁は,平成24年10月11日,本件補正を却下した上で,「本件審判の請 求は,成り立たない。」(出訴期間90日附加)との審決(審決上の請求人の名称 は,ハイネケン テクニカル サービシーズ ビー ブイ)をし,その謄本は,同 月23日,原告に送達された。 2 本願発明の要旨 (1) 補正前発明 本件補正前の本願発明(平成23年3月16日付け手続補正書(甲18)の特許 請求の範囲の請求項1,補正前発明)は,以下のとおりである。 「【請求項1】 第1室(4,104,204,304)と第2室(16,116,216,31 6)を有する容器を含み, 第1室(4,104,204,304)は小出しされるべき炭酸飲料(3)を受 容し, 第2室(16,116,216,316)は二酸化炭素(CO2)を受容し, 少なくとも使用中には,第1室(4,104,204,304)と第2室(16, 116,216,316)との間に開孔(19)が設けられ, 第2室(16,116,216,316)から第1室(4,104,214,3 14)へと流れる二酸化炭素の圧力を使用時に制御するための圧力制御手段(8; 17,117,217,317)が設けられ,第2室(16,116,216,3 16)内には,二酸化炭素の少なくとも一部を吸収及び/又は吸着するための充填 剤(20)が配置され,充填剤(20)が少なくとも活性炭を含み, 圧力制御手段(8;17,117,217,317)が,第1室(4,104, 204,304)内に大気圧より0.1〜2バール過剰の圧力を与え且つ保つよう に設定されていることを特徴とする炭酸飲料の小出し装置(1,101,201, 301)。」 (2) 補正発明 本件補正後の本願発明(平成23年11月14日付け手続補正書(甲21)の特 許請求の範囲の請求項1,補正発明)は,以下のとおりである。 「【請求項1】 第1室(4,104,204,304)と第2室(16,116,216,31 6)を有する容器を含み, 第1室(4,104,204,304)は小出しされるべき炭酸飲料(3)を受 容し, 第2室(16,116,216,316)は二酸化炭素(CO2)を受容し, 少なくとも使用中には,第1室(4,104,204,304)と第2室(16, 116,216,316)との間に開孔(19)が設けられ, 第2室(16,116,216,316)から第1室(4,104,214,3 14)へと流れる二酸化炭素の圧力を使用時に制御するための圧力制御手段(8; 17,117,217,317)が設けられ,第2室(16,116,216,3 16)内には,二酸化炭素の少なくとも一部を吸収及び/又は吸着するための充填 剤(20)が配置され,充填剤(20)が少なくとも活性炭を含み, 圧力制御手段(8;17,117,217,317)が,第1室(4,104, 204,304)内に大気圧より0.1〜2バール過剰の圧力を与え且つ保つよう に設定されており, 炭酸飲料(3)はビールであり,小出し管(13,234)が容器の頂部の弁か ら容器の周囲の外側に延びる端部まで延び,容器が卓上に直立して延びるとき,グ ラスを前記端部の下方に配置することを特徴とする炭酸飲料の小出し装置(1,1 01,201,301)。」(下線は補正箇所を示す。) 3 審決の理由の要点 審決は,「補正発明は,引用発明,周知技術及び常套手段に基づいて,当業者が 容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特 許出願の際独立して特許を受けることができない」,「補正前発明も,相違点3に ついての検討が不要となるほかは,同様の理由により,引用発明及び上記周知技術 に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。」と判断した。 審決が上記判断の前提として認定した引用文献(特公昭41−5590号公報) に記載された発明(引用発明),並びに補正発明と引用発明との一致点及び相違点 は,以下のとおりである。 (1) 引用発明 「 小樽本体1内部と圧力室10を有する小樽本体1を含み, 小樽本体1内部は小出しされるべき生ビールを受容し, 圧力室10は炭酸ガスを受容し, 少なくとも使用中には,小樽本体1内部と圧力室10との間に開孔が設けられ, 圧力室10から小樽本体1内部へと流れる炭酸ガスの圧力を使用時に制御するた めの減圧弁11,圧力調整室12及び逆止弁13が設けられ, 減圧弁11,圧力調整室12及び逆止弁13が,小樽本体1内部内に大気圧より 過剰の圧力を与え且つ保つように設定されており, 生ビールはビールである,生ビールの小出し装置。」 (2) 補正発明と引用発明との一致点及び相違点 ア 一致点 「 第1室と第2室を有する容器を含み, 第1室は小出しされるべき炭酸飲料を受容し, 第2室は二酸化炭素を受容し, 少なくとも使用中には,第1室と第2室との間に開孔が設けられ, 第2室から第1室へと流れる二酸化炭素の圧力を使用時に制御するための圧力制 御手段が設けられ, 圧力制御手段が,第1室内に大気圧より過剰の圧力を与え且つ保つように設定さ れており, 炭酸飲料はビールである,炭酸飲料の小出し装置。」 である点 イ 相違点1 補正発明においては,第2室内には,二酸化炭素の少なくとも一部を吸収及び/ 又は吸着するための充填剤が配置され,充填剤が少なくとも活性炭を含むのに対し て,引用発明においては,そのような構成を有しているか不明な点。 ウ 相違点2 補正発明においては,圧力制御手段が,第1室内に大気圧より0.1〜2バール 過剰の圧力を与え,かつ,保つように設定されているのに対して,引用発明におい ては,圧力制御手段が,第1室内に大気圧より過剰の圧力を与え,かつ,保つよう に設定されているものの,どの程度過剰な圧力であるかが不明な点。 エ 相違点3 補正発明においては,小出し管が容器の頂部の弁から容器の周囲の外側に延びる 端部まで延び,容器が卓上に直立して延びるとき,グラスを前記端部の下方に配置 するのに対して,引用発明においては,そのような構成であるか不明な点。 第3 原告主張の審決取消事由 1 取消事由1(引用発明の認定の誤り) (1) 引用文献(甲1)に図示された逆止弁13が,小樽本体1内に充填された 生ビールの液体の中に位置している状態では,小樽本体1内の生ビールの消費に従 って,生ビールの逆止弁13に作用する圧力は,大きく減少するので,逆止弁13 に作用する圧力に対する圧力の割合が大きく変化し,ガスの圧力を設定される一定 の値に常に保つことはできない。 生ビールが更に流出して消費されて,生ビールの液面が,逆止弁13よりも低下 した状態でも,逆止弁13は,圧力調整室12から小樽本体1内にガスを噴出させ る働きをし,小樽本体1内のガスの圧力が大きく変動するので,小樽本体1内のガ スの圧力を常に一定圧に保持させることは不可能である。 圧力室10内の高圧力のガスは,開いたままになっている減圧弁11を経て,圧 力調整室12及び逆止弁13の中の流路となっている空間から,小樽本体1内の生 ビール収納空間へ流入する。減圧弁11の圧力調整室12の容積は,小樽本体1内 の生ビール収納空間の容積に比べて,明らかに小さいので,減圧弁11が開いたま まになったこのような状態は,長時間続く。その結果,小樽本体1内の生ビール収 納空間の圧力は,不所望に高くなる。減圧弁11及び逆止弁13が協働して行うこ のような動作と,前述のような逆止弁13の不安定な動作とは,いずれか一方だけ が生じ,又は両者が時間的にずれて生じる。 温度変化による小樽本体1内の圧力の変動は,生ビール用樽の使用中にいつでも 生じる。 以上のことから,引用文献に図示された構成は,引用文献の発明の詳細な説明に 記載された目的,作用,効果を達成することができない。引用文献記載の事項及び 引用発明は,小樽本体1内の圧力を設定した一定値に保つ構成を有さず,補正発明 の圧力制御手段を有さない。 被告は,減圧弁が不所望に長時間にわたり開いたままになる状態を認めないが, この現象は逆止弁13を使えば避けることができず,被告の反論は誤りである。し たがって,動作不可能な構成を開示する引用文献は,進歩性欠如の根拠にされるべ きではなく,この点で審決は違法である。 (2) 引用文献の図面に示された構成は,補正発明の構成要件「充填剤」を含ま ない。 当業者の技術常識に基づけば,補正発明の充填剤を使うことなく,引用文献の図 示された圧力室10内に,必要な高圧力の炭酸ガスを圧入することは不可能である。 この圧力室10に関連する構成の観点から,引用文献に図示された構成の実現は, 不可能である。 したがって,このような引用文献の実現不可能な構成の記載をもって公知事実で あるとして,補正発明の進歩性を否定する根拠とすることはできない。 2 取消事由2(一致点の認定の誤り) 引用文献の技術内容は,逆止弁13の構造などに起因して,発明の詳細な説明の とおりに,樽内を常に一定圧に保持させることはできないから,引用文献の逆止弁 13には,補正発明において圧力制御手段が第1室内に二酸化炭素の圧力を与え, かつ,保つように制御することを可能にする「開孔」は,存在しない。 審決が,引用文献記載の事項及び引用発明には,開孔が設けられる,と認定した こと,並びに補正発明と引用発明との両者は,「少なくとも使用中には,第1室と 第2室との間に開孔が設けられ」る点で一致する,と認定したことは誤りである。 3 取消事由3(進歩性判断の誤り) (1) 審決は,補正発明の引用発明との相違点1,2及び3について,参照文献 を組み合わせて補正発明の進歩性欠如を認定している。 しかし,炭酸ガスにビールを流出するという課題を達成するために,引用発明で は,その小樽本体1を卓上に直立して延ばす必要がなく,小樽本体1を,図に示さ れるように,そのまま横長にした姿勢のとおりですむのである。したがって,引用 発明から補正発明に到達するという示唆等は,引用文献には存在しない。 (2) 参照文献1(特開昭52−61815号公報,甲2)及び2(仏国特許出 願公開第2690142号明細書,甲3)は,スプレー容器に関するものであり, 噴霧される液体はスプレー容器で霧化されなければならず,参照文献1及び2の当 業者は,補正発明のビールの小出し装置の技術分野における当業者とは異なる。参 照文献1では,スプレー容器20内で検出された圧力に基づいてそのスプレー容器 内で圧力を制御するダイヤフラムが設けられていない。参照文献2も,このことは, 参照文献1と同様であり,これらの文献には,ビールに関する記載が存在せず,バ ルブ装置24によって液体を霧化する技術のみが存在する。したがって,当業者は, 参照文献1及び2から,生ビールに関する補正発明の小出し装置を動機付けされる ことはあり得ない。たとえ,当業者がこのような文献を知っていたとしても,エア ロゾル弁の従来技術である参照文献1及び2は,補正発明におけるビールが抽出さ れるべき容器内の第1室の圧力を適切に保つための構成を何ら開示せず,また,示 唆するものでもない。 (3) 参照文献3(特開平8−230989号公報,甲4)は,卓上型ディスペ ンサであり,炭酸ガスボンベ13と減圧弁17とは生ビール樽Tの外部に設けられ る。当業者は,この参照文献3からは,炭酸ガスボンベ13と減圧弁17とを生ビ ール樽T内に設ける動機付けを生じさせない。このような構成は,補正発明のビー ルの小出し装置を否定するものである。参照文献3は,高圧力の炭酸ガスボンベを 備え,ユーザによって生ビール樽Tの外部から圧力を制御することができる構成を 有するから,補正発明の生ビールの小出し装置とは,その全体の目的が異なる。し たがって,参照文献3は,補正発明の進歩性欠如の根拠とはなり得ない。 (4) 参照文献4(特開昭62−271873号公報,甲5)は,抽出装置であ るが,容器2からのビールの流出経路に設けられた第2弁装置14と,引用発明に おける小樽本体1からのビールの流出通路に設けられた取出用コック2とは,それ らの作用,機能が異なる。したがって,参照文献4には,相違点3に係る補正発明 の構成の開示も示唆もない。 また,参照文献4の第1流出装置は,その容器2内の炭酸ガスの圧力の観点から も,引用発明の生ビール用樽とは異なる。 引用発明に,このような参照文献4の第1抽出装置を組み合わせて補正発明を完 成させようとしても,引用発明の生ビール用樽と,参照文献4の第1抽出装置とは, それらのビールを抽出するための動作原理,したがって,装置の作用,機能が異な るので,組み合わせることが不可能である。 しかも,両者がビールの小出し装置である近接した技術分野であるとしても,そ の差異を無視し得るようなものではなく,構成において,引用発明に参照文献4を 組み合わせるのが容易であるというためには,それなりの動機付けを必要とするも のである。 したがって,補正発明の相違点3の構成は,引用発明に参照文献4を組み合わせ て容易に想到することができるとした審決の判断には,誤りがある。 4 取消事由4(手続違背) 本件拒絶査定には,本願の平成23年3月16日付け補正後の請求項1〜33の 内,請求項19,20,27及び28について審査官の判断が記載されておらず, 拒絶理由が存在する旨の記載はなく,よって,原告(出願人)は,これらの請求項 に拒絶の理由は存在しないことが通知されていると解せばよいと判断し,本件の審 判請求手続において,独立請求項1に,請求項19の構成を含めて,独立請求項1 とし,請求項22に,請求項27の構成を含めて,これを独立請求項20とする, 本件補正を行った。 特許法159条2項は,特許法50条を準用し,拒絶査定不服審判においては, 査定の理由と異なる拒絶の理由を発見したときは拒絶の理由を通知し,相当の期間 を指定して,意見書を提出する機会を与えねばならないと規定する。 拒絶査定において審査官の判断が記載されていなかった,平成23年3月16日 付け手続補正書(甲18)によって補正した請求項19,20,27,28の構成 については,審査の段階で審査されたことはなく,拒絶理由が存在する旨の通知を 受けたことはない。 それにもかかわらず,審尋における前置報告書においては,@平成23年11月 14日付け審判請求書(甲20)と同時に提出した手続補正書(甲21)における 請求項1の発明,すなわち,平成23年3月16日付け手続補正書によって補正し た請求項19の発明と,A平成23年11月14日付け手続補正書における請求項 18の発明,すなわち,平成23年3月16日付け手続補正書によって補正した, 請求項19に従属する請求項20の発明と,B平成23年11月14日付け手続補 正書における請求項20の発明,すなわち,平成23年3月16日付け手続補正書 によって補正した請求項27の発明と,C平成23年11月14日付け手続補正書 にける請求項25の発明,すなわち,平成23年3月16日付け手続補正書によっ て補正した,請求項27に従属する請求項28の発明についても,進歩性なしとす る審査官の判断が報告されており,拒絶査定において拒絶理由が通知されていなか った前記各発明について,初めて審査官の判断が示された。 各発明について,審査官が初めて判断を示す場合には,前置審査において拒絶理 由を通知し,出願人に反論の機会を与えるべきであるところ(特許法163条2項 が準用する特許法50条),かかる機会は一切付与されず審決に至った。審判に先 立つ前置審査においても,審判段階においても,拒絶理由が指摘されることなく, 意見書及び手続補正書の提出の機会が与えられることがないまま,拒絶審決となっ たのは,特許法159条2項で準用する特許法50条の規定に反しており,その審 理手続には瑕疵があり,審決は違法である。 以上のことから,審判請求と同時に提出した手続補正書(甲21)によって補正 した請求項1〜29を進歩性欠如によって補正却下したことは違法である。 第4 被告の反論 1 取消事由1(引用発明の認定の誤り)に対して (1) 原告主張(1)に対して 引用文献の逆止弁13は,単に小樽本体11内から圧力調整室12に向けて流体 が逆流することを防ぐために小樽本体11内と圧力調整室12を連通させる流路に 付加されたものであり,減圧弁11による圧力を設定することに加えて更に圧力を 調整するものなどではない。引用文献に接した当業者は,ごく常識的にそのように 理解するものである。 逆止弁13が小樽本体1内に充填された生ビールの液体の中に位置している状態 では,液体の圧力も逆止弁13を閉弁する方向に掛かるので,被告も小樽本体1内 の圧力が設定圧力と異なる状態となることは起こり得ると考えるが,その程度は, 極めて小さい。すなわち,圧力に関する常識からして,大気圧1バールとは,水の 高さで考えれば,約10mの水柱に相当するものであるから,例えば,10cm, 20cmの高さの液体により発生する圧力(静止圧)は,たかだか0.01バール, 0.02バールの大きさのものにすぎない。 引用文献での小樽本体1内の圧力は,生ビールを外部に放出させるために大気圧 よりも過剰になるように高められたものであり,その圧力の値は,基本的に減圧弁 11で設定されるものである。 したがって,逆止弁13が小樽本体1内に充填された生ビールの液体の中に位置 している状態になったとしても,小樽本体1内の圧力は,概ね減圧弁11で設定さ れる圧力とされていると理解するのが相当である。引用文献に接した当業者は,小 樽本体1内部に生ビールが逆止弁13の位置よりも高い位置まで液面が来るように 生ビールを充填したとしても,およそ生ビールを外部に放出させる上で支障が出る などと解するものではなく,引用文献の逆止弁13と生ビールの液面との位置関係 がどのようであっても,生ビールを外部に放出させるという本来の目的の達成には 影響がないと理解するものである。 原告は,逆止弁13の構造に照らして,小樽本体1内の圧力P1が,P12から P12/3の間で変動するなどと主張する。 しかし,原告の主張は,必ずしも明瞭でない引用文献の図面の記載に基づく単な る推測であるし,引用文献の図面において細部は明らかでないとしても,少なくと も弁座に関し,原告主張のような構造を呈していない。被告も,弁体及び弁座の具 体的構成に応じて,弁体における小樽本体1側と調整室側12とでは受圧面積に差 が生じると考えるが,図示された構造を素直に解釈すると,原告が主張するほどの 差はない。受圧面積の差に起因して小樽本体1内の圧力が変動し得るとしても,積 極的にそうする理由はなく,引用文献に記載された所期の目的を理解した当業者で あれば,小樽本体1内の圧力は概ね減圧弁11で設定されていると理解するもので ある。 引用文献の逆止弁13が,実際にチャタリングなどと称される不安定,不適切な 動作を必ず引き起こすものとは考えられない。仮に逆止弁13がチャタリングなど を起こしたとしても,弁体の動作が不安定になるだけであって,それにより逆止弁 13本来の機能,すなわち,小樽本体11内から圧力調整室12に向けて流体が逆 流することを防ぐ機能が発揮できないということにはならず,逆止弁13の存在を もって,小樽本体1内を設定圧力にできないといった技術的に不合理な事態が生じ るとはいえない。 引用文献において,ビールが流出して樽内の圧力が減少すると,逆止弁13が開 弁してそれを介して圧力調整室12内のガスが小樽本体1内の生ビール収納空間に 流出し,圧力調整室12内の圧力が設定圧力より下がった状態になり,その圧力状 態に応じて減圧弁11が自然に開くことになる。この逆止弁13の動作も,減圧弁 11の動作も,自然な本来の動作を行うものと認識できるのであって,引用文献に 接した当業者にとって,減圧弁11が不所望に長い時間にわたって開いたままにな るとは考えず,減圧弁11は,圧力調整室12内の圧力が設定圧力となれば自然と 閉弁すると認識するものである。 引用文献において,小樽本体1の温度が上昇することがあれば小樽本体1内の圧 力P1が上昇したままになることがあり得ることは認める。しかし,小樽本体1自 体は,充填される液体が「生ビール」であることから,低い温度に保たれるのが普 通であり,引用文献のものは,全体としては,小樽本体1内の圧力を設定した一定 値に保つようにした構成を備えたものと評価すべきである。 (2) 原告主張(2)に対して 引用文献のものも,補正発明と同様にビールを二酸化炭素ガスの圧力を利用して 樽(容器)から出すようにしたものであって,当然,その圧力室10内に必要な高 圧力の炭酸ガスを圧入できるものと理解するのが相当である。原告の主張は,製品 の設計図面のような精度をもたない特許出願に係る図面の記載に基づく単なる推論 であって,圧力室10内に必要な高圧力の炭酸ガスを圧入することが不可能である とする技術的な説明たり得ない。そして,引用文献のものが,炭酸ガスの圧入の点 で,補正発明と異なるものと理解すべき根拠はない。 したがって,引用文献においては,図示された構成が実現できないとする合理的 な理由は存在せず,原告の主張は,失当である。 2 取消事由2(一致点の認定の誤り)に対して 審決に記載したように,引用発明の「小樽本体1内部」,「圧力室10」が,そ れぞれ,補正発明の「第1室」,「第2室」に相当し,引用発明の「小樽本体1内 部」と「圧力室10」の間,すなわち逆止弁13が設けられている位置に「開孔」 があると観念できる。 引用文献においては,「開孔」には逆止弁13が配置されていることになるが, これは,小樽本体1内部から生ビールなどの不適切な逆流が生じることを防ぐため にわざわざ付加されたものとみるべきであって,小樽本体1内を設定圧力にするた めに圧力室10から小樽本体1にガスを流すための流路という基本的な機能におい て,補正発明と本質的に異なるところはない。 また,補正発明の「開孔」の位置に関して,原告は,それが炭酸飲料の液体の中 に位置しないものに限定されるかのように主張するが,補正発明は,平成23年1 1月14日付けの手続補正書の請求項1に記載された事項で特定されるものであっ て,上記主張は,当該請求項1の記載による特定とは相容れない。そして,補正発 明は,図1をもって示された具体例からも,ビールの液面が圧力制御手段よりも上 側に位置する状態も十分あり得るのであって,特に開孔の位置が炭酸飲料の液体の 中にある状態も排除されていないものというべきである。 以上を踏まえると,引用文献のものも,補正発明と同様に,圧力制御手段が第1 室内に二酸化炭素の圧力を与え,かつ,保つように制御することを可能にする「開 孔」が存在するというべきであって,審決が補正発明と引用発明との一致点に「少 なくとも使用中には,第1室と第2室との間に開孔が設けられ」る点を含めたこと に誤りはない。 3 取消事由4(手続違背)に対して (1) 本件審査手続について 拒絶査定の備考には,拒絶の理由(甲16)を通知したものの依然としてそれが 解消していない請求項として,請求項1ないし18,21ないし26,29ないし 33をあげており,見掛け上,請求項19,請求項20,請求項27,請求項28 が外れているが,これは,原告(出願人)の意見も踏まえ当該拒絶の理由を通知し た時に存在していなかった請求項を外した,という趣旨と理解すべきである。 (2) 本件補正要件の審理について 審判官合議体は,原告(請求人)の主張(甲20)も踏まえ,本件補正(特許請 求の範囲のみの補正に係るものである。)の目的は,特許請求の範囲の減縮を目的 とするもの,と判断した。すなわち,本件補正は,単純に拒絶査定の備考に明示さ れていた請求項を「削除」して,当該拒絶査定の備考に明示されていなかった請求 項のみに補正するようなものではなく,拒絶査定時に進歩性がないと判断された請 求項に係る発明すべてについて,請求項19,27の記載において被引用請求項に 対して付加していた事項を付加したものであり,それは補正前後で請求項に記載さ れた発明の産業上の利用分野のみならず解決しようとする課題も同一と評すべき程 度の補正であるから,審決では,特許請求の範囲の減縮を目的とするもの,と判断 した。 行政手続法1条1項には,「行政運営における公正の確保と透明性」の向上を図 ることが規定されているが,その6条には標準処理期間について規定され,7条に 申請に対し速やかに応答することも規定されている。特許法の下でも,適正手続の みならず,審査や審判の迅速化が十分に確保することも求められているのであって, 手続の適正さと審査,審判における処分の迅速化をバランス良く満たす工夫が必要 とされるものである。たとえ手続上の適正さを欠くと外形上とらえ得る場合であっ ても,上記バランスの下では,それをもって当然に手続の適法性を失っているとは いえない場合があり,総合的な評価がなされるべきである。本件における上記のよ うな事情に照らせば,本件の手続は適正である。 原告の主張は,審査官の拒絶査定が,厳密に拒絶の理由の通知で指摘されていた 請求項が拒絶理由を有することへの言及にとどまっていたことを奇貨として,更な る意見の表明及び手続補正の提出の機会を求めるものと理解すべきである。しかも, 本件補正とは,その実質が,常套手段と評するのが妥当な程度の技術的事項の限定 をしたにとどまる。 回答書(甲25)での主張は,更なる補正案に基づく主張,すなわち,都合6度 目となる補正の機会があることを前提とした主張になっているが,そのような補正 の機会が当然に与えられるというものではない。原告の回答書での主張に沿う,更 なる補正の機会を与えなかったことは,原告の補正の機会を不当に奪うことには当 たらない。 第5 当裁判所の判断 1 取消事由4(手続違背)について (1) 手続の経緯と内容について ア 平成22年11月10日付け拒絶理由通知書(甲16) 平成22年11月10日付け拒絶理由通知書の拒絶理由は,以下のとおりである。 [1] この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において頒 布された下記の刊行物に記載された発明に基いて,その出願前にその発明の属する技 術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであ るから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 (引用文献等については引用文献等一覧参照) ・請求項 1−3,19,20,21,27−31 ・引用文献等 1−9 ・備考 ・・・・(省略)・・・・ ・請求項 4−6,7−10,11−13,14−16,22−26 ・引用文献等 1−10 ・備考 ・・・・(省略)・・・・ ・請求項 17,18 ・引用文献等 1−11 ・備考 ・・・・(省略)・・・・ 引 用 文 献 等 一 覧 1.特公昭41−5590号公報 2.特開昭54−94115号公報 3.特表平2−500102号公報 4.特開昭53−132805号公報 5.特開昭52−61815号公報 6.仏国特許出願公開第2690142号明細書 7.米国特許第5368207号明細書 8.米国特許第5011047号明細書 9.欧州特許出願公開第446973号明細書 10.特開平8−230989号公報 11.特開昭62−271873号公報 [2] この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第2号に 規定する要件を満たしていない。 記 請求項1の記載「…圧力制御手段は,圧力調整要素(22)を含み,該圧力調整要 素(22)の位置は,閉空間(25)における該要素の一方側に作用する制御圧力と, 該要素(22)の反対側に作用する第1室(4,104)の圧力とによって,開孔(1 9)に対して規定されること…」について,「閉空間(25)」がいかなる部材によ って画定される「空間」であるのかが不明である。 請求項21についても同様に,「閉空間(25)」に係る構成が不明である。 よって,請求項1−31に係る発明は明確でない。 なお,請求項1及び21の記載「第2室(6,116)」は「第2室(16,11 6)」の誤記ではないか。 イ 平成23年3月16日付け手続補正書(甲18) 平成23年3月16日付け手続補正書による補正は,平成22年11月10日付 け拒絶理由通知書(甲16)に対してなされたもので,当該補正後の請求項1は, 第2の2(1)記載のとおりであり,請求項19は以下のとおりである。 【請求項19】 炭酸飲料はビールであり,小出し管(13,234)が容器の頂部の弁から容器の周 囲の外側に延びる端部まで延び,容器が卓上に直立して延びるとき,グラスを前記端 部の下方に配置することを特徴とする請求項1記載の装置。 ウ 平成23年7月8日付けの拒絶査定(甲19) 平成23年7月8日付けの拒絶査定には,以下のとおり記載されている。 この出願については,平成22年11月10日付け拒絶理由通知書に記載した理由 1.によって,拒絶をすべきものです。 なお,意見書及び手続補正書の内容を検討しましたが,拒絶理由を覆すに足りる根 拠が見いだせません。 備考 引用文献1には,・・・・(省略)・・・・設計的事項である。 したがって,請求項1に係る発明は,引用文献1ないし9に記載された発明に基い て,当業者が容易に発明をすることができたものである。 また,請求項2ないし18,21ないし26,29ないし33に係る発明も,引用 文献1ないし11に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができ たものである。 エ 平成23年11月14日付け手続補正書(甲21) 平成23年11月14日付け手続補正書による補正(本件補正)は,審判請求書 (甲20)に記載されているように,平成23年7月8日付けの拒絶査定(甲19) の拒絶理由を解消するためにされたもので,本件補正後の請求項1は第2の2(2) 記載のとおりである。 オ 審決 審決は,本件補正について,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する と認定した上で(平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例に よるとされる同法による改正前の特許法17条の2第4項2号),前記第2の3記 載のとおり独立特許要件違反であると判断して(同法17条の2第5項において準 用する同法126条5項。補正が特許請求の範囲の減縮(同条4項2号)を目的と するものでなければ,独立特許要件違反による補正却下はできない。),本件補正 を却下するとともに(同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法5 3条1項),補正前発明について,進歩性がないと判断して,拒絶審決をした。 (2) 手続の適法性について 本件出願に係る平成23年7月8日付けの拒絶査定は,上記(1)ウに記載のとお り,請求項1〜18,21〜26,29〜33に係る発明は特許を受けることがで きないとするもので,請求項19に係る発明は拒絶査定の理由となっていない。 平成23年11月14日付け手続補正書による補正(本件補正)は,上記(1)エに 記載のとおり,上記拒絶査定の拒絶理由を解消するためにされたもので,本件補正 後の請求項(新請求項)1は,原告が審判請求書で主張しているように,本件補正 前の請求項(旧請求項)1を引用する形式で記載されていた旧請求項19を,当該 引用部分を具体的に記載することにより引用形式でない独立の請求項としたもので あると認められる。そうすると,新請求項1は,旧請求項1を削除して,旧請求項 19を新請求項1にしたものであるから,旧請求項1の補正という観点からみれば, 同請求項の削除を目的とした補正であり,特許請求の範囲の減縮を目的としたもの ではないから,前記のとおり,独立特許要件違反を理由とする補正却下をすること はできない。 また,旧請求項19の内容は,新請求項1と同一であるから,旧請求項19の補 正という観点から見ても,特許請求の範囲の限縮を目的とする補正ではない。した がって,審決は,実質的には,項番号の繰上げ以外に補正のない旧請求項19であ る新請求項1を,独立特許要件違反による補正却下を理由として拒絶したものと認 められ,その点において誤りといわなければならない。 そして,旧請求項19は,拒絶査定の理由とはされていなかったのであるから, 特許法159条2項にいう「査定の理由」は存在しない。すなわち,平成22年1 1月10日付け拒絶理由通知では,当時の請求項19についても拒絶の理由が示さ れているが,平成23年3月16日付け手続補正により旧請求項19として補正さ れ,その後の拒絶査定では,旧請求項19は拒絶査定の理由とされていない。した がって,審決において,旧請求項19である新請求項1を拒絶する場合は,拒絶の 理由を通知して意見書を提出する機会を与えなければならない。しかしながら,本 件審判手続において拒絶理由は通知されなかったのであるから,旧請求項19につ いての拒絶理由は,査定手続においても,審判手続においても通知されておらず, 本件審決に係る手続は違法なものといわざるを得ない(なお,仮に,本件補正が, 特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し,条文上,独立特許要件違反を理 由に補正却下することが可能とされる場合であったとしても,審決において,審査 及び審判の過程で全く拒絶理由を通知されていない請求項のみが進歩性を欠くこと を理由として,補正却下することは,適正手続の保障の観点から,許されるもので はないと解される。)。 (3) 被告の主張について ア 被告は,本件補正の目的は,特許請求の範囲の減縮を目的とするもの, すなわち,本件補正は,単純に拒絶査定の備考に明示されていた請求項を「削除」 して,当該拒絶査定の備考に明示されていなかった請求項のみに補正するようなも のではなく,拒絶査定時に進歩性がないと判断された請求項に係る発明すべてにつ いて請求項19,27の記載において被引用請求項に対して付加していた事項を付 加したものであり,それは補正前後で請求項に記載された発明の産業上の利用分野 のみならず解決しようとする課題も同一と評すべき程度の補正であるから,特許請 求の範囲の減縮を目的とするものである,と審決で認定した旨を主張する。 しかしながら,上記(2)で判示したとおり,請求項1についてみれば,本件補正は, 特許請求の範囲の減縮を目的とするものではなく,請求項の削除を目的にしたもの であることが明らかであり,審決はそれを誤認したにすぎないものと認められるか ら,被告の主張を採用する余地はない。 イ 被告は,特許法の下では,適正手続のみならず,審査や審判の迅速化が 十分に確保することも求められているのであって,手続の適正さと審査,審判にお ける処分の迅速化をバランス良く満たす工夫が必要とされるものであり,たとえ手 続上の適正さを欠くと外形上とらえ得る場合であっても,上記バランスの下では, それをもって当然に手続の適法性を失っているとは評すべきでない場合があり,総 合的な評価がなされるべきであるから,本件における事情に照らせば,本件の手続 は適正である旨を主張する。 上記の被告の主張の趣旨は必ずしも明確ではないが,審査や審判の迅速性が要請 される場合には,手続上の適正さを欠く処分であっても許容されることがあると述 べるものであるとすれば,行政処分における適正手続の保障の観点から,到底採用 できる主張ではない。しかも,本件審判では,上記(2)で判示したとおり,本件にお ける補正却下の手続が適正さを欠くことは明らかであるから,被告の主張は認める ことはできない。 ウ 被告は,本件の手続において,既に5回の補正の機会を与えているので, 更なる補正の機会を与えなかったことは,原告の補正の機会を不当に奪うことには 当たらない旨を主張する。 しかしながら,実際に行われた手続補正の回数が多いからといって,本件審判に おける補正却下の手続が適正さを欠くことが正当化されるものではなく,拒絶理由 を通知して補正の機会等を与えなかったという手続上の違法性が解消するものでも ないから,被告の主張を採用することはできない。 (4) まとめ よって,原告主張の取消事由4には,理由がある。 第6 結論 以上によれば,その余の点につき判断するまでもなく,原告の請求には理由があ る。よって,審決を取り消すこととして,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第2部 裁判長裁判官 清 水 節 裁判官 池 下 朗 裁判官 新 谷 貴 昭 |