元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
---|
事件 |
平成
25年
(ワ)
1723号
損害賠償請求事件
|
---|---|
裁判所のデータが存在しません。 | |
裁判所 | 大阪地方裁判所 |
判決言渡日 | 2014/02/20 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
判例全文 | |
---|---|
判例全文
平成26年2月20日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官 平成25年(ワ)第1723号 損害賠償請求事件 口頭弁論終結日 平成25年12月18日 判 決 当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり 主 文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事 実 及 び 理 由 第1 当事者の求めた裁判 1 原告 (1) 被告は,原告に対し,5億5000万円及びこれに対する平成25年2月 27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 訴訟費用は被告の負担とする。 (3) 仮執行宣言 2 被告 主文同旨 第2 事案の概要 1 前提事実(当事者間に争いがない。) (1)当事者 原告は,コンピュータソフトウェア開発,ネットワーク構築及び情報処理 の提供サービス等を業とする会社である。 被告は,システム開発・コンサルティング並びにインターネット等の各種 ソフトウェア製品の開発及び販売等を業とする会社である。 (2)原告の有する特許権 原告は,以下の特許(以下「本件特許」といい,本件特許に係る各発明を 「本件各特許発明」という。また,本件特許出願の願書に添付された明細書 及び図面を「本件明細書等」という。)に係る特許権(以下「本件特許権」と いう。)を有する。 特許番号 4738704号 発明の名称 データベースシステム 出願日 平成14年5月15日 登録日 平成23年5月13日 特許請求の範囲 【請求項1】 通信ネットワークを介してユーザ用コンピュータに接続される,複数のデー タベース(検索可能に配列されたデータの集合)を記憶した記憶装置と,サー バと,を備えたデータベースシステムであって, 上記複数のデータベースを記憶した記憶装置は,任意の情報処理ソフトウェ アでそれに格納されたデータを用いることができるものであり, 上記各データベースは各種データをデータ項目毎に区分して配列するもので あり, 上記サーバは, 上記ユーザ用コンピュータからの指示により,上記複数のデータベースで共 用することができるデータ項目を定義する項目定義手段と, 上記ユーザ用コンピュータからの指示により,上記複数のデータベースの 各々と上記データ項目とを関連付けるデータベース・項目関連付け手段と, を有し, 上記ユーザ用コンピュータから,ユーザがウェブブラウザを用いて上記通信 ネットワークを介して上記ユーザ用コンピュータの入力画面を参照しつつ操 作することにより,上記項目定義手段及び上記データベース・項目関連付け 手段によって上記データ項目を上記各データベースに対して任意に追加,削 除又は変更することができるようになっていることを特徴とするデータベー スシステム。 (以下,上記請求項に係る発明を「本件特許発明1」という。) 【請求項2】 上記ユーザ用コンピュータを操作することにより,データ項目を取捨選択し て,上記入力画面上に任意の順序で表示することができるようになっている ことを特徴とする,請求項1に記載のデータベースシステム。 (以下,上記請求項に係る発明を「本件特許発明2」という。) 【請求項3】 上記ユーザ用コンピュータを操作することにより,データ項目を上記入力画 面上の任意の位置に表示することができるようになっていることを特徴とす る,請求項2に記載のデータベースシステム。 (以下,上記請求項に係る発明を「本件特許発明3」という。) 【請求項4】 それぞれ異なるデータベースに属する複数のデータ項目について関連付けを 行い,該関連付けに基づいて,それぞれ異なるデータベースに属する上記複 数のデータ項目を一括して参照することができるようになっていることを特 徴とする,請求項3に記載のデータベースシステム。 (以下,上記請求項に係る発明を「本件特許発明4」という。) 【請求項5】 1つ又は複数のデータ項目に属するデータに対して,検索処理及び/又は演 算処理を施し,その処理結果を別のデータ項目に格納することができるよう になっていることを特徴とする,請求項4に記載のデータベースシステム。 (以下,上記請求項に係る発明を「本件特許発明5」という。) 【請求項6】 データ項目を該データベースシステムに登録し,データベースの名称を定義 し,定義されたデータベースと登録されたデータ項目とを関連付けるように なっていることを特徴とする,請求項1に記載のデータベースシステム。 (以下,上記請求項に係る発明を「本件特許発明6」という。) (3) 本件各特許発明は,以下のとおり分説することができる。 ア 本件特許発明1 A 通信ネットワークを介してユーザ用コンピュータに接続される,複数 のデータベース(検索可能に配列されたデータの集合)を記憶した記憶 装置と,サーバと,を備えたデータベースシステムであって, B 上記複数のデータベースを記憶した記憶装置は,任意の情報処理ソフ トウェアでそれに格納されたデータを用いることができるものであり, C 上記各データベースは各種データをデータ項目毎に区分して配列す るものであり, D 上記サーバは,上記ユーザ用コンピュータからの指示により,上記複 数のデータベースで共用することができるデータ項目を定義する項目 定義手段と, E 上記ユーザ用コンピュータからの指示により,上記複数のデータベー スの各々と上記データ項目とを関連付けるデータベース・項目関連付け 手段と,を有し, F 上記ユーザ用コンピュータから,ユーザがウェブブラウザを用いて上 記通信ネットワークを介して上記ユーザ用コンピュータの入力画面を 参照しつつ操作することにより, G 上記項目定義手段及び上記データベース・項目関連付け手段によって 上記データ項目を上記各データベースに対して任意に追加,削除又は変 更することができるようになっていることを特徴とする H データベースシステム。 イ 本件特許発明2 I 上記ユーザ用コンピュータを操作することにより,データ項目を取捨 選択して,上記入力画面上に任意の順序で表示することができるように なっていることを特徴とする,請求項1に記載のデータベースシステム。 ウ 本件特許発明3 J 上記ユーザ用コンピュータを操作することにより,データ項目を上記 入力画面上の任意の位置に表示することができるようになっているこ とを特徴とする,請求項2に記載のデータベースシステム。 エ 本件特許発明4 K それぞれ異なるデータベースに属する複数のデータ項目について関 連付けを行い,該関連付けに基づいて,それぞれ異なるデータベースに 属する上記複数のデータ項目を一括して参照することができるように なっていることを特徴とする,請求項3に記載のデータベースシステム。 オ 本件特許発明5 L 1つ又は複数のデータ項目に属するデータに対して,検索処理及び/ 又は演算処理を施し,その処理結果を別のデータ項目に格納することが できるようになっていることを特徴とする,請求項4に記載のデータ ベースシステム。 カ 本件特許発明6 M データ項目を該データベースシステムに登録し,データベースの名称 を定義し,定義されたデータベースと登録されたデータ項目とを関連付 けるようになっていることを特徴とする,請求項1に記載のデータベー スシステム。 (4)被告の行為 被告は,遅くとも本件特許の登録日である平成23年5月13日以降,業 として,製品名を「ひびきSm@rtDB」とするソフトウェア(以下「被 告製品」という。)を製造販売している。 2 原告の請求 原告は,被告に対し,不法行為に基づき,5億5000万円の損害賠償及び これに対する本件訴状送達の日の翌日である平成25年2月27日から支払済 みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている。 3 争点 (1)被告製品をインストールしたシステム(以下「被告システム」という。) は本件各特許発明の技術的範囲に属するか (争点1) (2)被告の行為について,本件特許権に対する特許法101条1号の間接侵害 が成立するか (争点2) (3)損害額 (争点3) 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(被告システムは本件各特許発明の技術的範囲に属するか)について 【原告の主張】 以下のとおり,被告システムは本件各特許発明の技術的範囲に属する。 (1)被告システムの構成 被告システムの構成は以下のとおりである。 ア 本件特許発明1に相当する構成 a 通信ネットワークを介してクライアントPCに接続される,複数の データベース(検索可能に配列されたデータの集合)を記憶したデータ ベースサーバと,アプリケーションサーバと,を備えたデータベースシ ステムであって, b 上記複数のデータベースを記憶したデータベースサーバは,任意のソ フトウェアでそれに格納されたデータを用いることができるものであ り, c 上記各データベースは各種データをデータ項目毎に区分して配列す るものであり, d 上記アプリケーションサーバは,上記クライアントPCのブラウザ上 のGUIにより,上記複数のデータベースで共用することができるデー タ項目を定義する項目定義手段と, e 上記クライアントPCのブラウザ上のGUIにより,上記複数のデー タベースの各々と上記データ項目とを関連付けるデータベース・項目関 連付け手段と,を有し, f 上記クライアントPCから,ユーザがブラウザを用いて上記通信ネッ トワークを介して上記クライアントPCの入力フォーム画面を参照し つつマウス操作することにより, g 上記項目定義手段及び上記データベース・項目関連付け手段によって 「部品」を上記各データベースに対して任意に追加,削除又は変更する ことができるようになっている h データベースシステム。 イ 本件特許発明2に相当する構成 i 上記クライアントPCを操作することにより,データ項目を取捨選択 して,上記入力フォーム画面上に任意の順序で表示することができるよ うになっていることを特徴とする,上記アに記載のデータベースシステ ム。 ウ 本件特許発明3に相当する構成 j 上記クライアントPCを操作することにより,データ項目を上記入力 フォーム画面上の任意の位置に表示することができるようになってい ることを特徴とする,上記イに記載のデータベースシステム。 エ 本件特許発明4に相当する構成 k それぞれ異なるデータベースに属する複数のデータ項目について関 連付けを行い,該関連付けに基づいて,それぞれ異なるデータベースに 属する上記複数のデータ項目を一括して参照することができるように なっていることを特徴とする,上記ウに記載のデータベースシステム。 オ 本件特許発明5に相当する構成 l 1つ又は複数のデータ項目に属するデータに対して,検索処理及び/ 又は演算処理を施し,その処理結果を別のデータ項目に格納することが できるようになっていることを特徴とする,上記エに記載のデータベー スシステム。 カ 本件特許発明6に相当する構成 m データ項目を該データベースシステムに登録し,データベースの名称 を定義し,定義されたデータベースと登録されたデータ項目とを関連付 けるようになっていることを特徴とする,上記アに記載のデータベース システム。 (2)構成要件充足性 以下のとおり,被告システムは,本件各特許発明の構成要件をいずれも充 足する。 ア 本件特許発明1 (ア)構成要件A 被告システムの構成 a のうち「クライアントPC」 データベースサー , 「 バ」及び「アプリケーションサーバ」は,それぞれ構成要件Aの「ユー ザ用コンピュータ」「記憶装置」及び「サーバ」に相当する。 , したがって,被告システムは構成要件Aを充足する。 (イ)構成要件B a 「任意の情報処理ソフトウェア」の意義 構成要件Bの「任意の情報処理ソフトウェア」は,全くの無作為に 選ばれたものではなく,データベースシステムないしデータベース関 連ソフトウェアシステムに関して使用するという前提の下に,システ ム設計者が自らの意思でデータ取り出し手段(API等)の仕様に適 したプログラムとして選択したものをいう。 b 被告システムの構成 被告は,被告システムにおいて,自らの意思でデータ取り出し手段 (API)の仕様に適したプログラムを設計しており,これは任意の 情報処理ソフトウェアに当たる。 被告システムは,この任意の情報処理システムで記憶装置に格納さ れたデータを用いることができるから,構成bを備えている。構成b は構成要件Bに相当し,被告システムは,構成要件Bを充足する。 (ウ)構成要件C 被告システムは,構成要件Cと同じ構成cを有し,構成要件Cを充足 する。 (エ)構成要件D a 「複数のデータベースで共用することができるデータ項目を定義す る項目定義手段」の意義 「複数のデータベースで共用することができるデータ項目」とは, 「任意のデータベース(データベースを格納した記憶装置)間におい て共同で利用することができるデータ項目」をいうものであり,ある データ項目が複数のデータベースに属することをいうものではない。 b 被告製品の構成 被告システムの「クライアントPCのブラウザ上のGUI」は構成 要件Dの「ユーザ用コンピュータからの指示」に相当する。また,上 記(ア)のとおり,被告システムの「アプリケーションサーバ」は,構 成要件Aの「サーバ」に相当する。 被告システムの他バインダ参照機能は,あるバインダを使用する際 に他のバインダを指定し,指定されたバインダに入力されている情報 を参照できるようになっている。また,被告システムのサブフォーム 機能は,あるバインダのフォームの中に他のバインダのフォームを指 定して読み込み,一つの文書として扱うことができるものである。 これらの機能は,データ項目をその項目が属するバインダとそれ以 外のバインダにおいて関連づけることにより,共同で利用することが できるようにするものである。 したがって,被告システムは構成要件Dを充足する。 (オ)構成要件E 上記(エ)のとおり,被告システムの「クライアントPCのブラウザ上 のGUI」は,構成要件Dの「ユーザ用コンピュータからの指示」に相 当する。 また,被告システムのアプリケーションサーバは,上記クライアント PCのブラウザ上のGUIにより,上記複数のデータベースの各々と上 記データ項目とを関連付けるデータベース・項目関連付け手段,具体的 には他バインダ参照機能及びサブフォーム機能とを備える。 したがって,被告システムは構成要件Eを充足する。 (カ)構成要件F 被告システムの「ブラウザ」「入力フォーム画面」は,それぞれ構成 , 要件Fの「ウェブブラウザ」「入力画面」に相当する。また,上記(ア) , のとおり,被告システムの「クライアントPC」は構成要件Aの「ユー ザ用コンピュータ」に相当する。 したがって,被告システムは構成要件Fを充足する。 (キ) 構成要件G 上記(オ)のとおり,被告システムは,項目定義手段及びデータベース・ 項目関連付け手段を備えており,これらによってデータ項目を各データ ベースに対して任意に追加,削除又は変更することができるものである。 したがって,被告システムは構成要件Gを充足する。 (ク) 構成要件H 被告システムは,構成要件Hを充足する。 イ 本件特許発明2から6まで 被告システムは,構成iからmまでを備えており,本件各特許発明の構 成要件IからMまでを充足する。 (3)後記【被告の主張】(4)(包袋禁反言)に対する反論 原告が,本件特許出願の審査手続において,本件特許発明1の技術的範囲 を,被告が主張するように限定したことは否認する。 【被告の主張】 以下のとおり,被告システムは本件各特許発明の技術的範囲に属するもので はない。 (1)はじめに 本件特許発明1は,その構成要件として「複数のデータベースで共用する ことができるデータ項目を定義する項目定義手段」及び「複数のデータベー スの各々とデータ項目とを関連付けるデータベース・項目関連付け手段」を 有することに,最大の特徴がある。 そして,本件明細書等の記載によれば,上記構成要件は,データ項目をデー タベースとは独立に定義することを,その前提とすることが明らかである。 他方で,被告システムは,一般的なデータベースシステム(本件特許に係 る審査・審判段階で,先行技術として本件特許発明1と比較された「ファイ ルメーカー パワーアップブック」によるシステムなど) と同様,データ項目を,各データベースに専属する,当該データベースの構 成要素として定義(作成)するものである。 そのため,複数のデータベースで共用できるようにデータ項目を定義する ことはできない。また,データ項目は,その定義時点において既にいずれか のデータベースに専属しているので,複数のデータベースと関連付けるとい う過程は存在しない。 したがって,被告システムは,本件特許発明1の構成要件を充足しない。 (2)被告システムの構成 ア 本件特許発明1に相当する構成 前記【原告の主張】(1)アのうちa,f及びhは認め,その余は否認す る。 (ア)構成bについて 被告製品は,その内部構造を公開していないから,内部構造を知らな いユーザが被告システムに格納されたデータを被告製品以外の任意の ソフトウェアで使用することはできないものである。 (イ)構成cについて 本件特許の出願経過からすると,構成要件Cの「配列」は,データの 「格納」をいうものである。被告システムは,各種データをデータ項目 毎に区分して表示しているものの,データ項目ごとに「配列」,すなわ ち「格納」していない。 (ウ)構成dについて 被告システムは,複数のデータベースで共用することができるデータ 項目を定義する項目定義手段を有しない。 被告システムは,バインダ(データベース)ごとに当該バインダで必 要となる項目(データ項目)を定義(作成)するものである。 (エ)構成eについて 上記(ウ)のとおり,被告システムは複数のデータベースで共用する データ項目を定義する項目定義手段を有しないから,データ項目をデー タベースに関連付けるという過程が存在しない。 したがって,複数のデータベースの各々とデータ項目とを関連付ける データベース・項目関連付け手段も有しない。 (オ)構成gについて 上記(ウ)及び(エ)のとおり,被告システムは,複数のデータベースで 共用するデータ項目を定義する項目定義手段及び複数のデータベース の各々とデータ項目とを関連付けるデータベース・項目関連付け手段を 有しない。 イ 本件特許発明2から6までに相当する構成 前記【原告の主張】(1)イからカまで(被告製品の構成 i からmまで) は否認する。 (3)構成要件充足性 被告システムの構成が構成要件A,F及びHを充足することは認め,その 余は否認する。 ア 構成要件B及びC 上記(2)ア(ア),(イ)のとおり,被告製品は,前記【原告の主張】(1) の構成b及びcを有しないから,構成要件B及びCを充足する旨の主張は 前提を欠く。 イ 構成要件D (ア) 「複数のデータベースで共用することができるデータ項目を定義する 項目定義手段」の意義 上記項目定義手段は,複数のデータベースで共用することができるよ うに,データベースとは独立した存在として,データ項目を定義するも のをいう。 (イ) 被告製品の構成 上記(2)ア(ウ)のとおり,被告システムは,バインダ(データベース) ごとに当該バインダで必要となる項目(データ項目)を定義(作成)す るものである。そのため,項目(データ項目)よりバインダ(データベー ス)が必ず先に作成される。項目(データ項目)はバインダ(データベー ス)に専属する構成要素として作成されるものであり,複数のバインダ で共用できるものではない。 被告システムの他バインダ参照機能は,あるバインダにおけるデータ 入力時に,@ バインダ参照ボタンにより,他のバインダに属する文書 の一覧を表示し,A その中からある文書を選択することにより,B 当 該文書に属する特定の項目に属するデータを,元のバインダの自動更新 部品のデータとしてコピーする,という機能にすぎない。また,被告シ ステムのサブフォーム機能は,あるバインダの,データを入力するため の画面であるフォームに,他のバインダのフォームを組み合わせること によって,2つのバインダの各々に属する項目に係るデータを同一の画 面で入力し,2つのバインダの各々に属する文書を同一の画面で表示す ることを可能にする機能であり,本件特許出願前によく見られた公知技 術にすぎない。 いずれの機能もデータベースと独立に定義されたデータ項目とデー タベースを関連づけるものではなく,データ項目を共用するものではな い。 したがって,被告システムは構成要件Dを充足しない。 ウ 構成要件E (ア)「複数のデータベースの各々と上記データ項目とを関連づけるデータ ベース・項目関連付け手段」の意義 上記イのとおり,本件特許発明1は,複数のデータベースで共用する ことができるように,データベースとは独立した存在として,データ項 目を定義することを前提としている。構成要件Eの「データベース・項 目関連付け手段」 このようにデータベースとは独立に定義されたデー は, タ項目と複数のデータベースの各々を関連付ける構成をいう。 (イ)被告製品の構成 上記イのとおり,被告システムでは,項目(データ項目)はいずれか のバインダ(データベース)に専属しており,複数のバインダ(データ ベース)と関連付けるという過程がなく,そのための手段も有しない。 また,他バインダ参照機能及びサブフォーム機能は, 「データベース・項 目関連付け手段」に当たらない。 (4)包袋禁反言 原告は,本件特許出願の手続において,@ あるデータベースに含まれる データを他のデータベースにおいて参照して表示すること,又はA あるデー タベースに含まれるデータを他のデータベースにコピーすることについて, 「データ項目を複数のデータベースで共用」するものではないと明確に主張 した。 前記【原告の主張】は,これに反するものであり,包袋禁反言の法理によ り許されない。 2 争点2(被告の行為について,本件特許権に対する特許法101条1号の間 接侵害が成立するか)について 【原告の主張】 被告は,被告製品を製造,販売しているものの,被告システム自体を製造, 販売はしていない旨主張する。 しかし,被告システムは被告製品をインストールしたPC及びこれに接続さ れるハードウェアから構成されるシステムであるから,被告製品は被告システ ムの生産に用いる物に該当する。そして,被告製品は,被告システムを構成す る以外の用途を想定することができないものであるから,被告システムの生産 にのみ用いる物である。 したがって,被告の行為については,本件特許権に対する特許法101条1 号の間接侵害が成立する。 【被告の主張】 被告製品が被告システムの構成以外の用途を想定していないことは認め,そ の余は否認する。 3 争点3(損害額)について 【原告の主張】 (1)逸失利益 被告は,本件特許権の登録日である平成23年5月13日から現在まで, 被告の行為により少なくとも5億円の利益を受けた。 原告は,同額の損害を受けたものと推定される(特許法102条2項)。 (2)弁護士,弁理士費用 上記5億円の1割に相当する弁護士,弁理士費用5000万円は,本件と 相当因果関係のある損害である。 【被告の主張】 いずれも否認する。 第4 当裁判所の判断 1 争点1(被告製品は本件特許発明の技術的範囲に属するか)に対する判断 以下のとおり,被告製品が本件特許発明の技術的範囲に属するとは認めるこ とができない。 (1)データベースに関する技術常識(甲21〜23) ア データベース 「データベース」とは,一般に, 「論文,数値,図形その他の情報の集合 物であって,それらの情報を電子計算機を用いて検索することができるよ うに体系的に構成したもの」(著作権法2条1項10の3号)とか,「系統 的に整理・管理された情報の集まり。特にコンピューターで,さまざまな 情報検索に高速に対応できるように大量のデータを統一的に管理したファ イル。また,そのファイルを管理するシステム」『広辞苑 ( 第6版』)と定 義される。 データベースには,大きく分けて「階層型」「ネットワーク型」「リレー ショナル型」がある。 イ リレーショナルデータベース リレーショナルデータベースは,1件のデータ(以下「レコード」とも いう。例えば顧客情報に関するデータベースでいうと,ある顧客に関する データ)を複数の項目(以下「フィールド」ともいう。上記の例では, 「氏 名」 「住所」 「電話番号」などの項目) の集合として表現し,データ(レコー ド)の集合を表(以下「テーブル」ともいう。上記の例では,複数の顧客 に関する情報を,縦〔行〕に顧客,横〔列〕に項目を並べて表したもの) で表して管理し,複数のテーブルを結合(リレーション)して利用するこ とができるものである。 (2)本件特許発明の技術的範囲の解釈について ア 【特許請求の範囲】の記載に基づく検討 本件特許発明は, 「データベースシステム」に関する発明であるところ, 構成要件Aの文言からすると, 「通信ネットワーク」, 「ユーザ用コンピュー タ」「複数のデータベースを記憶した記憶装置」及び「サーバ」を備える , ものである。 構成要件B及びCの文言についてみると,後記イの本件明細書等の記載 に照らせば,「データベース」はテーブルを,「データ項目」はフィールド を意味するものである(この点について他の解釈を取り得るとする主張立 証もない。。 ) そうすると,構成要件Dの「項目定義手段」は,データ項目(フィール ド)を定義(作成)するものであること,データ項目(フィールド)は複 数のデータベース(テーブル)で共用することができるものであることが 読み取れる。一般に,「共用」とは「共同して使用すること」を意味する から,データ項目(フィールド)は「複数のデータベース(テーブル)で 共同して使用すること」ができるものを意味することになるが,その具体 的な意義は【特許請求の範囲】の記載の文言自体からは明らかでない。 また,構成要件E及び構成要件Gの文言からすれば,「データベース・ 項目関連付け手段」は,データ項目定義手段によって定義された「データ 項目」(フィールド)を「データベース」(テーブル)に対して「任意に追 加,削除又は変更する」(関連付ける)ことができるものであることが読 み取れる。 イ 本件明細書等の記載に基づく検討 (ア)本件明細書等には以下の記載がある。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は,ユーザがデータ項目を任意にかつ容易に,追加,削除又は変 更することができるようになっているデータベースシステムに関する ものである。 【0002】 【従来の技術】 一般に,データベースに関連するソフトウェアを実行するシステムない しはこのようなソフトウェアとハードウェアとを組み合わせたシステ ム(以下, 「データベース関連ソフトウェアシステム」という。)の開発・ 制作は,専門的な知識を必要とすることから,専門のシステムエンジニ アもしくはソフトエンジニア,またはこれらのエンジニアが属する会社 組織によって行われる。 【0003】 そして,このように開発・制作されたデータベース関連ソフトウェアシ ステムの中で代表的な機能ないし用途を備えたものは,通常,パーケー ジソフトウェア(判決注:「パッケージソフトウェア」の誤記と思われ る。 として市販される。 ) このようなパッケージソフトウェアとしては, 例えば,販売・受注管理ソフトウェア,顧客管理・住所録ソフトウェア, 在庫管理ソフトウェア,スケジュール管理ソフトウェア,CD・書籍等 ライブラリ管理ソフトウェア,経理・家計簿ソフトウェア,出退勤管理 ソフトウェア,資産管理ソフトウェア,保守サービス管理ソフトウェア などがあげられる。 【0004】 このようなデータベース関連ソフトウェアシステムは,データベースを 内蔵しており,入力されたデータを用いて,データベース内に格納され ているデータに何らかの処理(例えば,データ検索,演算,帳票作成, 印刷等)を施してこれを利用する。このデータベース関連ソフトウェア システムでは,その機能ないし用途に応じて一般的なデータ項目があら かじめ定義され,またデータ入力画面,帳票出力画面等もあらかじめ用 意されているのが一般的である。例えば,顧客管理・住所録ソフトウェ アの場合,このようなデータ項目としては,例えば,氏名,振り仮名, 郵便番号,住所,電話番号などがあげられる。また,在庫管理ソフトウェ アのデータ項目としては,例えば,仕入れ年月日,仕入れ先,内容(商 品名),数量,金額などがあげられる。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】 このようなデータベース関連ソフトウェアシステムは,パッケージソフ トウェアとして販売される場合,そのデータ項目及び機能は,様々な ユーザが必要とするものの中から最大公約数的に決定され,開発・制作 され,販売される。したがって,パッケージソフトウェアのデータ項目 及び機能は,必ずしも個々のユーザが望む構成になっているとは限らな い。他方,一般的に,データ管理ソフトウェアを何らかの組織内で構築 し,運用してゆく場合,管理項目は流動的であり,運用段階で管理項目 の変更を余儀なくされるケースは多々あるものと推測される。 【0006】 したがって,パッケージソフトウェアを用いる場合,管理項目の変更に 対処するには,データベースのデータ項目あるいは入力画面の構成等を 変更しなければならない。しかし,パッケージソフトウェアのデータ ベースのデータ項目を追加,修正,削除し,あるいは入力画面の構成等 を変更するには,通常,パッケージソフトウェアの開発元にこれらを委 託するしか方法がない。なお,このようなデータ項目の追加,修正もし くは削除,または入力画面の構成等の変更を個々のユーザに求めること は非現実的である。 【0007】 また,パッケージソフトウェアを購入せず,ソフトウェア開発業者に開 発を依頼してかかるソフトウェアを制作した場合であっても,データ項 目の追加,修正または削除には専門的知識が必要である。このため,ユー ザが必要とするデータ項目あるいは機能が変わるたびに,やはりソフト ウェア開発業者に委託して,かかる事態に対応してもらうことになるの が現実である。 【0008】 したがって,パッケージソフトウェアを購入した場合,あるいはソフト ウェア開発業者にソフトウェアの開発を依頼した場合のいずれにおい ても,従来のデータベース関連ソフトウェアシステムでは,データ項目 の追加,修正,削除,あるいは入力画面の構成等の変更を行うには,こ れを外部の専門業者等に対価を支払って委託しなければならないので, 該データベース関連ソフトウェアシステムの運用コストが上昇すると いった問題がある。 【0009】 本発明は,上記従来の問題を解決するためになされたものであって, データベース関連ソフトウェアシステムにおいて,データベースあるい はベース項目(判決注:「データ項目」の誤記と思われる。)の構成等に 関して専門的な知識を有しない者でも,容易にデータ項目の追加,修正, 削除を行うことができる手段を提供することを解決すべき課題とする。 (略) 【0010】 【課題を解決するための手段】 上記課題を解決するためになされた本発明にかかるデータベースシス テムは,(i)通信ネットワーク(例えば,インターネット,イントラ ネット,エクストラネット,ダイアルアップ回線,ISDN回線又はL AN)を介してユーザ用コンピュータ(パソコン等)に接続される,複 数のデータベース(検索可能に配列されたデータの集合)を記憶した記 憶装置と,サーバと,を備えたデータベースシステムであって,複数の データベースを記憶した記憶装置は,任意の情報処理ソフトウェアでそ れに格納されたデータを用いることができるものであり,(A)各デー タベースは各種データをデータ項目毎に区分して配列するものであり, サーバは,ユーザ用コンピュータからの指示により,複数のデータベー スで共用することができるデータ項目を定義する項目定義手段と,ユー ザ用コンピュータからの指示により,複数のデータベースの各々とデー タ項目とを関連付けるデータベース・項目関連付け手段と,を有し, (B) ユーザ用コンピュータから,ユーザがウェブブラウザを用いて通信ネッ トワークを介してユーザ用コンピュータの入力画面を参照しつつ操作 することにより,項目定義手段及びデータベース・項目関連付け手段に よってデータ項目を各データベースに対して任意に追加,削除又は変更 することができるようになっていることを特徴とするものである。 【0011】 このデータベースシステムによれば,該システムのユーザは,データ ベースあるいはベース項目の構成に関して専門的な知識を有していな くても,ウェブブラウザを用いて通信ネットワークを介してデータベー スにアクセスし,ユーザ用コンピュータの入力画面を参照しつつユーザ 用コンピュータを操作することにより,データベースのデータ項目を各 データベースに対して任意にかつ容易に,追加,削除又は変更すること ができる。 (イ)上記段落【0004】及び【0011】の記載によれば,本件特許発 明1の「データ項目」はフィールドを,「データベース」はテーブルを いうものであると認められる。 また,段落【0010】及び【0011】の記載によれば,「項目定 義手段」は,複数のデータベース(テーブル)で用いることのできるデー タ項目(フィールド)を定義(作成)するための構成であり,「データ ベース・項目関連付け手段」は,項目定義手段によってデータベース (テーブル)の作成とは独立して定義されたデータ項目(フィールド) を各データベース(テーブル)に,「追加,削除又は変更する」,すなわ ち割り当てるための構成であることが読み取れる。 このような構成を採用すると,データ項目定義手段によって,データ 項目(フィールド)の定義を変更すると,それが全てのデータベース (テーブル)に反映されることになる。そして,本件特許発明1の構成 要件Dにいう「複数のデータベースで共用することができるデータ項目」 とは,このような構成を指すものと解される。この点について別異に解 すべき記載は見当たらないし,後記ウのとおり,原告も,本件特許出願 の手続において,このことを前提とした主張をしている。 ウ 本件特許出願の手続における経過 (ア)後掲各証拠によれば,以下の事実が認められる。 a 原告は,平成14年5月15日,本件特許出願をした。 出願時の明細書に記載された【特許請求の範囲】【請求項1】(後記 cによる訂正前の本件特許発明1)の記載は以下のとおりである(乙 2の3)。 「通 信 ネ ット ワ ーク を 介し て コ ンピ ュ ー タに 接 続 され , 又は コ ン ピュータ内にセットアップされ,任意の情報処理ソフトウェアで用い ることができるデータを格納しているデータベースを備えた汎用デー タベースシステムであって, 上記データベースが,各種データをデータ項目毎に区分して格納す るようになっていて, 上記コンピュータを,その入力画面を参照しつつ操作することによ り,上記データ項目を任意に追加,削除又は変更することができるよ うになっていることを特徴とする汎用データベースシステム。」 b 原告は,特許庁審査官から,上記発明は, 「ファイルメーカー パワーアップブック」と題する文献(以下「乙3文献」 という。に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすること ) ができたものであるとする平成20年5月20日付け拒絶理由通知を 受けた(乙2の7)。 原告は,特許庁審査官に対し,同年7月28日,意見書(乙2の8) 及び手続補正書(乙2の9)を提出した。上記意見書には以下の記載 がある。なお, 「引用文献1に記載された発明」は乙3文献に記載され た発明を,「本願基本発明」は「本件特許発明1」を指すものである。 「引用文献1に記載された発明に係るファイルメーカーは,最初に何 らかのデータベース(例えば,顧客データベース)を作成し,次にこ のデータベースを構成するフィールドを作成していきます。これに対 し,本願基本発明に係る汎用データベースシステムは,顧客データベー スや住所録データベースのようなデータベース(名)を登録(作成) するステップと,データ項目(フィールド)を作成するステップとは 別々であり,作成時点では互いに全く関連がなく,どちらのステップ を先に行ってもかまいません。そして,次のステップで,各データベー ス名とデータ項目とを関連付けてゆき,データベースの項目を構成し てゆきます。このような手法を用いることにより,例えば, 「氏名」 (属 性:全角30文字以内のキャラクター)というようなデータ項目とし て作成したものを,顧客データベースと住所録データベースの両方に 関連づけることにより,両方に利用することができるといった利点が あります。また,例えば属性を45文字以内に変更すれば,両方のデー タベースにこれが反映されます。」 c 原告は,本件特許出願について平成20年8月20日付けで拒絶査 定をされ(乙2の10),同年10月2日,上記拒絶査定に対する拒絶 査定不服審判請求をした(乙2の11)。 原告は,同年12月25日,手続補正書を提出した(乙2の14)。 また,平成22年10月28日付けで特許庁審判官から意見を求めら れたのに対し,同年12月28日付けで回答書を提出した(乙2の1 9 20)これらの補正書及び回答書にも上記bと同旨の記載がある。 ・ 。 原告は,特許庁審判官から補正書案を提示されたことから,平成2 3年3月25日,提示された補正書案とほぼ同一の内容に補正する手 続補正書を提出した。その結果,同年4月7日付けで,拒絶査定を取 り消し,特許すべきものとする審決を受けた(乙2の23〜26)。 (イ)意識的除外について 上記(ア)bによれば,原告は,本件特許の出願経過において,本件特 許発明が,@データベース(テーブル)の作成とデータ項目(フィール ド)の作成とは互いに全く関連がなく,順不同で行うものであること, A両方を作成した後でデータベース(テーブル)とデータ項目(フィー ルド)とを関連付けていき,データベース(テーブル)の項目を構成す るものであることについて,意見書で述べたことが認められる。また, 最初に何らかのデータベース(テーブル)を作成し,次にこのデータベー ス(テーブル)を構成するデータ項目(フィールド)を作成する構成と は異なることについても明確に述べたことが認められる。この原告の意 見陳述は,上記ア及びイの解釈とも整合するものである。 エ 小括 上記ア及びイによれば,本件特許発明1の構成要件Dの「項目定義手段」 は,複数のデータベース(テーブル)で用いることのできるデータ項目 (フィールド)を定義するための構成であり,構成要件Eの「データベー ス・項目関連付け手段」は,項目定義手段によってデータベース(テーブ ル)の作成とは独立して定義されたデータ項目(フィールド)を各データ ベース(データベース)に,「追加,削除又は変更する」,すなわち割り当 てる構成であると解される。 本件特許発明1は,このような構成を採用したことにより,項目定義手 段によってデータ項目(フィールド)の定義を変更すると,それが全ての データベース(テーブル)に反映されることになる(データ項目(フィー ルド)を複数のデータベース(テーブル)で共用することができる。)と いう作用効果を奏するものであることも認められる。 また,上記ウによれば,最初に何らかのデータベース(テーブル)を作 成し,次にこのデータベース(テーブル)を構成するデータ項目(フィー ルド)を作成する構成は,本件特許発明1の技術的範囲から除外されるも のと解される。これに反する主張は包袋禁反言の原則により許されないも のというべきである。 (3)被告製品の構成及び構成要件充足性 ア 被告製品の構成 証拠(甲3〜10,21,乙4,乙5の1・2,乙11,12)及び弁 論の全趣旨によれば,被告システムの構成について,以下の事実が認めら れる。 (ア) バインダ 被告システムにおけるデータベースの最小単位を「バインダ」という。 バインダの上位概念として「キャビネット」が存在し,1つのキャビ ネットの中に複数のバインダが存在する。例えば,『営業部』という名 称のキャビネットの中に,『顧客名簿』 『商品カタログ』というバイン , ダが含まれる。 (イ) フォーム 被告システムでは,バインダを作成した後,各バインダに1つずつ 「フォーム」というデータを入力するための画面を作成する。 (ウ) 部品 フォームは,フォーム内に,文字入力ボックス,数値入力ボックス等, 既定のパーツを配置することにより構築する。フォーム内に配置するこ れらのパーツを「部品」という。 部品は,それぞれ異なる性質・機能を有しており,全部で25種類あ る。既定の部品と異なる部品を追加したり,部品を変更したりすること はできない。「文字入力ボックス」や「数値入力ボックス」のように, データを入力するための部品もあるが,「ラベル」のように,フォーム 上のデザイン的な意味しか持たない部品や,「バインダ参照ボタン」の ように,フォームでのデータ入力を便利にするための部品など,直接 データを入力するためのものではない部品もある。 部品には「項目名」を付すことができる。フォーム内にデータを入力 する ため の部 品 を配 置し , 当該 部品 に項 目名 を付 すこ と によ って , フィールド(データ項目)を作成することができる。 (エ) 文書 完成したフォームに順次データ(文字列,数値等)を入力することに より,バインダ(データベース)内にデータが蓄積される。フォームに 一通りデータを入力した組合せ(レコード)を,「文書」という。 (オ) 他バインダ参照機能 他バインダ参照機能は, 「バインダ参照ボタン」部品と「自動更新」部 品を組み合わせた機能である。 「バインダ参照ボタン」部品は,あるバインダでデータを入力すると きに,他のバインダに属する文書(レコード)の一覧を表示させるため の部品である。「自動更新」部品は,フォーム作成時にある関数を与え ておき,入力されたデータに対応してその計算結果を得るための部品で ある。 他バインダ参照機能は,以下の手順で行うことができる。まず,@ バ インダ参照ボタン部品によって他のバインダに属する文書を表示する。 次に,A 表示した他のバインダに属する文書(レコード)のうち,文 書の特定の項目(データ項目)に属するデータを選択する。B 自動更 新部品を用いて当該データを元のバインダの文書(レコード)にコピー (ルックアップ)するという関数を与える。これにより,他バインダの データを元のバインダの文書(レコード)に自動的にコピーすることが できる。この機能が他バインダ参照機能である。 (カ) サブフォーム機能 被告システムのサブフォーム機能は,あるバインダのデータを入力す るための画面であるフォームに,他のバインダのフォームを組み合わせ ることにより,2つのバインダの各々に属する項目に係るデータを同一 の画面で入力し,2つのバインダの各々に属する文書を同一の画面で表 示することを可能にする機能である。 イ 構成要件D,E及びGの非充足 上記アによれば,被告システムの「バインダ」は本件特許発明1の「デー タベース」 (テーブル)に相当し,被告システムの「部品」のうち「文字入 力ボックス」や「数値入力ボックス」等を用いて作成したフィールドは本 件特許発明1の「データ項目」に相当するものであることが認められる。 原告は,訴状別紙被告システム説明書の「被告製品の構成g」の記載に おいて,被告システムでは, 「部品」を任意に追加,削除又は変更すること ができるから構成要件Gを充足する旨の主張をしている。これは被告シス テムの「部品」が「データ項目」に相当するものであることを前提とする 主張である(前記第3の1【原告の主張】(1)gはこの主張を前提とした ものである。。しかし,上記のとおり,被告システムの「部品」のうち「文 ) 字入力ボックス」や「数値入力ボックス」等を用いて作成したフィールド が,本件特許発明1の「データ項目」に相当するものであり, 「部品」自体 は「データ項目」ではない。上記原告の主張は前提を誤るものである。 原告は,第1準備書面を提出して以降,被告システムの他バインダ参照 機能及びサブフォーム機能が構成要件D,E及びGの「データベース・項 目関連付け手段」に当たり,これらによりデータ項目を共用することがで きるものであると主張するに至った(前記第3の1【原告の主張】(2)の 摘示はこの主張を前提としたものである。。しかし,被告システムの他バ ) インダ参照機能は,上記ア(オ)のとおり,バインダ(データベース)の文 書(レコード)を他のバインダの文書(レコード)にコピーするものにす ぎない。また,被告システムのサブフォーム機能も,2つのバインダの各々 に属する文書(レコード)を同一の画面で表示することを可能にする機能 にすぎない。いずれの機能も,データ項目(フィールド)に格納される個々 のデータ(レコード)を関連づけ(他バインダ参照機能)又は複数のバイ ンダ(データベース)間でデータ項目(フィールド)を連携・関連づけて 「表示」することができる機能(サブフォーム機能)にすぎず,データ項 目(フィールド)の定義に関するものではないし,構成要件Gが規定する ようなデータ項目(フィールド)をバインダ(データベース)に任意に追 加,削除又は変更することができるものではない。個々のバインダ(デー タベース)において作成されたデータ項目(フィールド)には何らの影響 を及ぼすものでもない。 そもそも,被告システムは,最初に「バインダ」 (データベース)を作成 し,次に「文字入力ボックス」や「数値入力ボックス」等の「部品」を用 いてバインダを構成するフィールド(データ項目)を作成する構成のもの である。このようにして作成されたフィールド(データ項目)は,個々の バインダ(データベース)に専属するものである。前記(2)イ(イ)のとお り,本件特許発明1の「データ項目を共用する」とは,項目定義手段によっ てデータ項目(フィールド)の定義を変更すると,それが全てのデータベー ス(テーブル)に反映されることをいうものであるところ,上記のような 被告システムの構成からすると,このような本件特許発明1の作用効果を 奏するものとは認められない。 しかも,前記(2)ウのとおり,原告は,本件特許出願の手続において, 最初に何らかのデータベース(テーブル)を作成し,次にこのデータベー ス(テーブル)を構成するデータ項目(フィールド)を作成する構成は, 本件特許発明1の構成と異なることを明確に述べており,このことからす ると,被告システムが本件特許発明1の技術的範囲に属する旨の原告の主 張は包袋禁反言の原則により許されないものというべきである。 以上によれば,被告システムは,本件特許発明1の「複数のデータベー スで共用することができるデータ項目を定義する項目定義手段」及び「複 数のデータベースの各々と上記データ項目とを関連付けるデータベース・ 項目関連付け手段」を備えるものと認めることはできない。 したがって,被告システムは,少なくとも本件特許発明1の構成要件D, E及びGを充足するとはいえないし,本件特許発明1の作用効果を奏する ともいえない。また,被告システムが本件特許発明1の技術的範囲に属す る旨の主張は包袋禁反言の原則により許されないものでもある。 よって,その余の構成要件の充足性について検討するまでもなく,被告 システムが本件各特許発明の技術的範囲に属するものとはいえない。 2 結論 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求には理 由がない。 よって,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第26民事部 裁 判 長 裁 判 官 山 田 陽 三 裁 判 官 松 阿 彌 隆 裁 判 官 西 田 昌 吾 (別紙) 当事者目録 原 告 有 限 会 社 ビ ズ フ ァ 同訴訟代理人弁護士 児 玉 憲 夫 同 藤 田 道 宏 同 辻 本 希 世 士 同 辻 本 良 知 同 松 田 さ と み 同補佐人弁理士 辻 本 一 義 同 丸 山 英 之 同 神 吉 出 同 大 本 久 美 同 金 澤 美 奈 子 同 松 田 裕 史 被 告 株式会社ドリーム・アーツ 同訴訟代理人弁護士 大 塚 一 郎 同 石 井 宏 治 同 西 岡 志 貴 同補佐人弁理士 堀 明 彦 同 原 口 尚 子 |