審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成24ワ5743特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成25ワ4303特許権侵害行為差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成24ワ14227損害賠償請求事件 | 判例 | 特許 |
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事件 |
平成
24年
(ワ)
7887号
特許権侵害差止等請求事件
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裁判所のデータが存在しません。 | |
裁判所 | 大阪地方裁判所 |
判決言渡日 | 2014/02/06 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
判例全文 | |
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判例全文
平成26年2月6日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官 平成24年(ワ)第7887号 特許権侵害差止等請求事件 口頭弁論終結日 平成25年11月5日 判 決 原 告 タ キ ロ ン 株 式 会 社 同訴訟代理人弁護士 白 木 裕 一 同訴訟代理人弁理士 森 治 被 告 電気化学工業株式会社 同訴訟代理人弁護士 長 沢 幸 男 同訴訟代理人弁理士 八 木 澤 史 彦 主 文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 原告 (1) 被告は,別紙被告製品目録記載の製品を製造し,販売し又は販売の申出(販 売のための展示を含む。)をしてはならない。 (2) 被告は,前項の製品及びその半製品(前項の製品の構造を具備しているが, 製品として完成するに至らないもの)並びにその製造に供する金型等の装置 を廃棄せよ。 (3) 被告は,原告に対し,4207万5000円及びこれに対する平成24年 8月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (4) 訴訟費用は被告の負担とする。 (5) 仮執行宣言 2 被告 主文同旨 第2 事案の概要 1 前提事実(当事者間に争いがない。) (1) 当事者 原告は,合成樹脂及び同製品並びに合成樹脂被覆金属製品の製造・加工・ 販売等を業とする会社である。 被告は,有機系素材,無機系素材の製造・販売等を業とする会社である。 (2) 原告の有する特許権 原告は,以下の特許(以下「本件特許」といい,本件特許の請求項1に係 る発明を「本件特許発明」という。また,本件特許出願の願書に添付された 明細書及び図面を「本件明細書等」という。)に係る特許権(以下「本件特 許権」という。)を有する。 登録番号 第4130616号 発明の名称 サイホン式雨水排水装置 出願日 平成15年7月30日 優先日 平成15年2月21日(以下「本件優先日」という。) 登録日 平成20年5月30日 特許請求の範囲 【請求項1】(平成25年8月22日に送達された訂正審決により訂正され たもの) 軒先に取付けた軒樋の底部に,該底部に形成した開口に挿入した落し口を, 該落し口を構成する,上端にフランジ部を設け,外周面に雄ネジを形成した 雄筒部と,上端にフランジ部を設け,内周面に雌ネジを形成した締付けリン グとを螺合させて,軒樋の底部の開口周縁部の上下から前記両フランジ部に より挟持することにより取付け,該落し口の下端に,家屋の外壁材に沿って 縦方向に配設した3〜13?の開口面積を有するサイホン管の上端を外嵌し て接続したことを特徴とするサイホン式雨水排水装置。 (3)構成要件の分説 本件特許発明は,以下の構成要件に分説することができる。 A1 軒先に取付けた軒樋の底部に, A2 該底部に形成した開口に挿入した落し口を,該落し口を構成する,上 端にフランジ部を設け,外周面に雄ネジを形成した雄筒部と,上端に フランジ部を設け,内周面に雌ネジを形成した締付けリングとを螺合 させて,軒樋の底部の開口周縁部の上下から前記両フランジ部により 挟持することにより取付け,該落し口の下端に, B 家屋の外壁材に沿って縦方向に配設した C 3〜13?の開口面積を有するサイホン管 D の上端を外嵌して接続した E ことを特徴とするサイホン式雨水排水装置。 (4) 被告の行為 被告は,遅くとも平成24年1月から,業として,別紙被告製品目録記載 の製品(以下「被告製品」という。)を製造し,販売し又は販売の申出をし ている。 2 原告の請求 原告は,被告に対し,被告の行為が本件特許権を侵害するものであるとして, 特許法100条1項及び2項に基づき,被告製品の製造販売等の差止め及び廃 棄を,不法行為に基づき,4207万5000円の損害賠償及びこれに対する 本件訴状送達の日の翌日である平成24年8月7日から支払済みまで民法所定 の年5分の割合による金員の支払を求めている。 3 争点 (1)被告製品は本件特許発明の技術的範囲に属するか ア 被告製品は本件特許発明の構成要件を文言上充足するか(争点1−1) イ 被告製品は本件特許発明と均等なものとしてその技術的範囲に属するか (争点1−2) (2)本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものであるか ア 本件特許発明は本件優先日前に頒布された特開平9−111972号公 報(以下「乙5公報」という。)に記載された発明(以下「乙5発明」と いう。)と同一又は当業者が乙5発明に基づいて容易に発明をすることが できたものであるか (争点2−1) イ 本件特許発明は本件優先日前に頒布された特開平11−62138号公 報(以下「乙11公報」という。)に記載された発明(以下「乙11発明」 という。)と同一又は当業者が乙11発明に基づいて容易に発明をするこ とができたものであるか (争点2−2) ウ 本件特許発明は本件優先日前に頒布された特開平11−117475号 公報(以下「乙12公報」という。)に記載された発明(以下「乙12発 明」という。)と同一又は当業者が乙12発明に基づいて容易に発明をす ることができたものであるか (争点2−3) エ 本件特許発明は本件優先日前に頒布された特開2001−207485 号公報(以下「乙13公報」という。)に記載された発明(以下「乙13 発明」という。)と同一又は当業者が乙13発明に基づいて容易に発明を することができたものであるか (争点2−4) オ 本件特許発明は本件優先日前に頒布されたカタログ(以下「乙14文献」 という。)に記載された発明(以下「乙14発明」という。)と同一又は 当業者が乙14発明に基づいて容易に発明をすることができたものであ るか等 (争点2−5) カ 本件特許発明は,本件優先日前に頒布された乙15から乙18までの文 献(以下「乙15文献等」という。)に記載された各発明(以下「乙15 発明等」という。)と同一又は当業者がこれらの発明に基づいて容易に発 明をすることができたものであるか等 (争点2−6) キ 本件特許には,補正要件,明確性要件,実施可能要件及びサポート要件 の違反があるか (争点2−7) (3)損害額 (争点3) 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1−1(被告製品は本件特許発明の構成要件を文言上充足するか)につ いて 【原告の主張】 以下のとおり,被告製品は本件特許発明の構成要件を文言上充足する。 (1) 被告製品の構成 被告製品には,以下の2つの構成のものがある(以下,その構成に従い「被 告製品1」,「被告製品2」という。また,被告製品の図面と符号は,被告 主張のものに合わせた。)。 ア 被告製品1 被告製品1の構成は以下のとおりである。 1a1 軒樋2は,建物の軒先に略水平に取り付けられる。 1a2 軒樋2には,接続部(落し口)5bを含む角ドレンセット5が配 置されている。 軒樋2の底部には,角ドレンセット5の接続部(落し口)5bが, 軒樋2の底部に形成した開口に挿入され,接続部(落し口)5b を構成する,上端に上フランジ部を設け,外周面に雄ネジを形成 したネジ筒部と,上端に下フランジ部を設け,内周面に雌ネジを 形成したネジ筒部とを螺合させて,軒樋2の底部の開口周縁部の 上下から挟持することにより取り付けられている。 1b 縦方向の角樋3は,建物の外壁材に沿って縦方向に配置されてい る。 1c 角樋3は,14.09?の断面積を有し,角樋3に挿入される角 継手4の内筒部は,長さ19oに渡って11.4?(端部側)か ら11.6?(奥部側)の断面積を有する。 1d 角ドレンセット5の接続部(落し口)5bの下端に,角継手4の 上端を外嵌して接続している。角継手4及び縦方向の角樋3が接 続して,サイホン管が形成されている。 1e 角ドレンセット5,角継手4及び縦方向の角樋3により,サイホ ン式雨水排水装置を構成している。 イ 被告製品2 被告製品2の構成は,以下のとおりである。 2a1 軒樋2は,建物の軒先に略水平に取り付けられる。 2a2 軒樋2には,接続部(落し口)5bを含む角ドレンセット5が配 置されている。 軒樋2の底部には,角ドレンセット5の接続部(落し口)5bが, 軒樋2の底部に形成した開口に挿入され,接続部(落し口)5b を構成する,上端に上フランジ部を設け,外周面に雄ネジを形成 したネジ筒部と,上端に下フランジ部を設け,内周面に雌ネジを 形成したネジ筒部とを螺合させて,軒樋2の底部の開口周縁部の 上下から挟持することにより取り付けられている。 2b 縦方向の角樋3は,建物の外壁材に沿って縦方向に配置されてい る。 2c 角樋3は,14.09?の断面積を有し,角樋3に挿入される角 エルボ4の内筒部は,長さ22oに渡って11.6?(端部側) から11.5?(奥部側)の断面積を有する。 2d 角ドレンセット5の接続部(落し口)5bの下端に,角エルボ4 の上端を外嵌して接続している。2つの角エルボ4,その間に存 する短い長さの角樋3及び縦方向の角樋3が接続している。 2e 角ドレンセット5,2つの角エルボ4,その間に存する短い長さ の角樋3及び縦方向の角樋3により,サイホン式雨水排水装置を 構成している。 (2)構成要件充足性 上記(1)の各構成は,いずれも本件特許発明の各構成要件を文言上充足す る。敷衍して説明すると以下のとおりである。 ア 構成要件A2及びDの充足性 後記【被告の主張】は,これらの構成要件の意義について本件明細書等 に記載された実施例の構成に限定して解釈されるべきであるというもの であり,失当な主張である。 イ 構成要件C (ア)「サイホン管」及び「開口面積」の意義 構成要件Cの「サイホン管」は,エルボ継手等の継手部材を含むもの である(少なくとも,継手部材がサイホン管に差し込まれ一体化してい る以上,一体化したものをサイホン管と解釈すべきである。)。また, 「開口面積」は,管軸に対して直角方向に切断した場合の切断面の面積 をいうものであり,サイホン管全体の断面積や,構成部材のうち角樋の 断面積に限定する理由はない。サイホン管を構成する一部の部材(継手) の断面積も含まれるものである。 仮に被告が主張するとおり,「サイホン管」が(角)竪樋単体をいう ものであったとしても,サイホン管(竪樋)の開いた口(継手)の面積 が構成要件Cの「開口面積」である。 (イ) 被告製品の構成が構成要件Cを充足すること 被告製品1の角継手4の角樋3に挿入される内筒部は,長さ19oに 渡って11.4?(端部側)から11.6?(奥部側)の断面積を有する。 したがって,被告製品1は,構成要件Cを充足する。 また,被告製品2の角エルボ4の角樋3に挿入される内筒部は,長さ 22oに渡って11.6?(端部側)から11.5?(奥部側)の断面積 を有する。 したがって,被告製品2は,構成要件Cを充足する。 【被告の主張】 以下のとおり,被告製品は本件特許発明の構成要件を文言上充足するもので はない。 (1) 被告製品の構成 被告製品の構成は以下のとおりである。 ア 被告製品1 1a1 軒樋2は,建物の軒先に略水平に取り付けられる。 1a2 軒樋2には,角ドレンセット5が配置されている。 軒樋2の底部には,角ドレンセット5の接続部5bが接続してい る。 1b 角竪樋3は,建物の外壁材に沿って縦方向に配置されている。 1c 角竪樋3は,14.09?の断面積を有する。 1d 角ドレンセット5の接続部5bと角継手4が接続している。 角継手4と角竪樋3が接続している。 1e 角ドレンセット5,角継手4及び角竪樋3により,サイホン式雨 水排水装置を構成している。 イ 被告製品2 2a1 軒樋2は,建物の軒先に略水平に取り付けられる。 2a2 軒樋2には,角ドレンセット5が配置されている。 軒樋2の底部には,角ドレンセット5の接続部5bが接続してい る。 2b 角竪樋3の一部は,建物の外壁材に沿って縦方向に配置されてい る。 2c 角竪樋3は,14.09?の断面積を有する。 2d 角ドレンセット5の接続部5bと角エルボ4が接続している。 角エルボ4と角竪樋3が接続している。 2e 角ドレンセット5,角エルボ4及び角竪樋3により,サイホン式 雨水排水装置を構成している。 (2)構成要件の非充足 以下のとおり,被告製品は,構成要件A2,C及びDを充足しない。 ア 構成要件A2及びDの充足性 (ア) 構成要件A2及びDの解釈 本件明細書等の記載によれば,構成要件A2及びDは,以下の実施例 の構成に限定される。 @ 落し口にサイホン管が直接接続している。 A 落し口の上下のフランジ部のうち,上側のフランジ部にサイホン管 が接続しており,下側に位置する「締め付けリング」はサイホン管に 接続しない。 B サイホン管と落し口の外形の相違は,せいぜい,管の厚さ程度であ り,軒樋の底面に大きな出っ張りとなって現れることはない。 (イ)被告製品1 被告製品1は,「落し口」に相当する角ドレンセット5に角継手4が 接続され,その角継手4に「サイホン管」に相当する角竪樋3が接続さ れており,落し口5bにサイホン管が直接接続していない。また,角ド レンセット5の構成部分のうち,下側の「フランジ部」に相当する接続 部5bに,角継手4を介して角竪樋3が接続されており,上側の「フラ ンジ部」に相当するドレン部5aに接続されていない。さらに,サイホ ン管を構成する角竪樋3と角ドレンセット5の接続部5bの外形の相違 は,管の厚さを大きく超え,軒樋2の底面に大きな出っ張りとなってい る。また,角継手4と角ドレンセット5の接続部5bの外形の相違も管 の厚さを大きく超えており,軒樋2の底面に大きな出っ張りとなってい る。 したがって,被告製品1は,上記@からBまでの構成を備えていない。 (ウ) 被告製品2 被告製品2は,「落し口」に相当する角ドレンセット5に角エルボ4 が接続され,その角エルボ4に「サイホン管」に相当する角竪樋3が接 続されており,落し口5bにサイホン管が直接接続していない。また, 角ドレンセット5の構成部分のうち,下側の「フランジ部」に相当する 接続部5bに,角エルボ4を介して角竪樋3が接続されており,上側の 「フランジ部」に相当するドレン部5aに接続されていない。さらに, サイホン管を構成する角竪樋3と角ドレンセット5の接続部5bの外形 の相違は,管の厚さを大きく超えている。角エルボ4と角ドレンセット 5の接続部5bの外形の相違も管の厚さを大きく超えており,軒樋2の 底面に大きな出っ張りとなっている。 したがって,被告製品2は,上記@からBまでの構成を備えていない。 イ 構成要件Cの充足性 (ア)「サイホン管」及び「開口面積」の意義 構成要件Cの「サイホン管」は,丸樋,角樋及び可撓性のチューブ単 体をいい,「開口面積」はその断面積をいう。接続部材は,「サイホン 管」には当たらない。 また,所定の開口面積を有する範囲は,竪樋であるサイホン管の長手 方向における全体又は大部分であることを要する。 (イ)被告製品が構成要件Cを充足しないこと 被告製品の角竪樋3の断面積は平均14.09?(製造日の異なる5 色各10本の被告製品について両端部の断面積を測定し,この合計10 0か所の断面積を平均した値である。)であり,誤差を考慮しても14. 00?以上であるから,被告製品は,構成要件Cを充足しない。 また,仮に,「サイホン管」が継手部分を含むとしても,「3〜13 ?」の断面積を有するのは継手部分の19.0oであり,サイホン管の 長さの1%にも満たないので,被告製品は構成要件Cを充足しない。 2 争点1−2(被告製品は本件特許発明と均等なものとしてその技術的範囲に 属するか)について 【原告の主張】 仮に,構成要件Cについて,サイホン管の全体又は大部分が「3〜13?の 開口面積を有する」ことを意味し,被告製品が上記構成を有せず,これに換え て,サイホン管の一部である継手の内筒部のみが「3〜13?の開口面積を有 する」構成を有するにすぎないとしても,以下のとおり,被告製品は本件特許 発明と均等なものとしてその技術的範囲に属する。 (1) 非本質的部分であること サイホン管の全体又は大部分が所定の断面積でなくとも,その一部である 継手4の内径断面積(角樋3の開口部分の断面積)が所定の断面積であれば, サイホン現象を生じさせることができる。 したがって,本件特許発明の本質的な部分は,角樋3の開口部分の断面積 が所定の断面積であることにある。被告製品の全体又は大部分が本件特許発 明所定の断面積(開口面積)でないことは,本件特許発明の非本質的部分で ある。 (2) 置換可能性 サイホン管の全体又は大部分が所定の断面積でなくとも,その一部である 継手4の内径断面積(角樋3の開口部分の断面積)が所定の断面積であれば, サイホン現象を生じさせることができる。 したがって,仮に前記1【被告の主張】(2)イを前提としても,被告製品 の構成cは,本件特許発明の構成要件Cと置換可能なものである。 (3) 置換容易性 管全体を満水状態にしなくても,開口部分のみを満水状態にして空気の進 入を防ぐことにより,サイホン効果が生じることは,技術常識である。 したがって,本件特許発明の構成要件Cを被告製品の構成cに置換するこ とは,被告製品の製造時に容易に想到することができたものである。 (4) 被告製品が公知技術から容易に推考されないこと 前記のとおり,被告製品は,本件特許発明の本質的部分の構成を含むもの である。 そして,本件特許が特許査定を受けたことからすれば,被告製品は公知技 術と同一でなく,当業者が容易に推考できたものではない。 (5) 包袋禁反言など特段の事情は存在しないこと 原告が被告製品の構成を意識的に除外したなどの事情はない。 【被告の主張】 以下のとおり,被告製品は本件特許発明と均等なものとしてその技術的範囲 に属するものではない。 (1) 構成要件Cが本件特許発明の本質的部分であること 原告は,本件特許出願の審査手続において,乙5公報による新規性欠如を 理由とする拒絶理由通知を受けたため,サイホン管の開口面積を「3〜13 ?の開口面積」に数値限定し,そのことにより特許査定を受けられた。 したがって,構成要件Cは,本件特許発明特有の解決手段を基礎付ける技 術的思想の中核をなす特徴的部分(本質的部分)である。 前記1【被告の主張】(2)イのとおり,被告製品は,この本質的部分にお いて本件特許発明と相違する。 (2) 置換可能性がないこと 本件明細書等には,サイホン管の開口面積が13?より大きくなると,本 件特許発明の作用効果を奏しない旨の記載がある。 被告製品は,角竪樋3の開口面積(断面積)が13?より大きいから,本 件特許発明と同様の効果を奏するものではない。 (3) 被告製品が公知技術から容易に推考されるものであること 被告製品は,後記3【被告の主張】の乙5発明と同様にサイホン管現象を 利用した排水システムであり,開口面積が異なるにすぎない。開口面積は単 なる設計事項にすぎないから,被告製品の構成は公知技術から容易に推考さ れるものである。 (4) 意識的除外 前記(1)のとおり,原告は,本件特許出願の審査手続において,乙5公報 による新規性欠如を理由とする拒絶理由通知を受けたため,構成要件Cの数 値限定をし,そのことにより特許査定を受けられたものである。 乙5公報では,所定の開口面積を有する部分について,サイホン管の長手 方向における全ての部分であることが前提とされており,本件特許発明の「開 口面積」もこれを前提としている。 したがって,一部についてのみ本件特許発明所定の開口面積を有するにす ぎない被告製品の構成は,本件特許出願の審査手続において意識的に除外さ れたものである。 3 争点2−1(本件特許発明は乙5発明と同一又は当業者が乙5発明に基づい て容易に発明をすることができたものであるか)について 【被告の主張】 以下のとおり,本件特許発明は本件優先日前に頒布された乙5発明と同一又 は当業者が乙5発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。 (1)乙5公報に記載された発明 乙5公報には,以下の発明(乙5発明)の構成が記載されている。 5A 樋が屋根の周縁部等に取り付けられている。 5B 桶の底面に,下方に延出する排水管が接続されている。 5C 排水管の断面積は0.0018u(18?)である。 5D 排水管の上端部が樋の底面に落し口を介して接続される。 5E サイホン現象を利用する雨水排水装置である。 (2)本件特許発明との対比 ア 一致点 前記(1)の乙5発明の構成5A,5B及び5Dは,それぞれ本件特許発 明の構成要件A1,B及びDに相当する。 イ 相違点 (ア) 相違点1 本件特許発明は,「落し口を構成する,上端にフランジ部を設け,外 周面に雄ネジを形成した雄筒部と,上端にフランジ部を設け,内周面に 雌ネジを形成した締付けリングとを螺合させて,軒樋の底部の開口周縁 部の上下から前記両フランジ部により挟持することにより取付け,該落 し口の下端に,」(構成要件A2)サイホン管の上端を外嵌して接続し た(構成要件D)ものである。 乙5発明は,これらの構成を有しない。 (イ)相違点2 乙5発明の構成5Cと本件特許発明の構成要件Cは数値範囲が相違 する。 (3)新規性欠如又は進歩性欠如 ア 相違点1 相違点1に係る本件特許発明の構成は,本件優先日において,雨樋の技 術分野における周知技術にすぎなかったものである。 イ 相違点2 雨樋の開口面積は設計事項であり,乙5公報でもその旨明記されている。 実際に,本件特許発明の数値範囲(開口面積)に含まれる雨樋が公知で あった。 本件明細書等には,構成要件Cの数値範囲(開口面積)内において作用 効果が顕著になるという臨界的意義について述べた記載もない。 これらのことからすると,本件特許発明は乙5発明と同一又は当業者が 乙5発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。 【原告の主張】 以下のとおり,本件特許発明は乙5発明と同一ではなく,当業者が乙5発明 に基づいて容易に発明をすることができたものでもない。 (1)乙5発明と本件特許発明との対比 ア 相違点1 乙5発明は,サイホン作用を生じさせるために,「該樋の底面に定めら れた内径と深さとを有した凹部状の落し口が形成され,該落し口の底面に, 該落し口よりも小さな内径を有して下方に延出する排水管が接続されて いる」ことを特徴とするものである。当該「凹部状の落し口(の底面)」 が樋の底面に大きな出っ張りとなって現れることから,家屋の外観を損な うという問題がある。 これに対し,本件特許発明は,構成要件A2及びDの構成を備えること により,乙5発明のように「凹部状の落し口」が軒樋の底面に大きな出っ 張りとなって現れることがなく,家屋の外観を損なうことがない。 したがって,乙5発明は,本件特許発明の構成要件A2及びDに相当す る構成を有しない点で本件特許発明と相違する。 イ 相違点2 乙5発明の構成5Cと本件特許発明の構成要件Cは数値範囲が相違す る。 (2)新規性及び進歩性を有すること 前記(1)のとおり,乙5発明では,軒樋の底面に大きな出っ張りとなって 現れる大容量の雨水の貯留部を設ける必要があり,家屋の外観を損なうとい う問題があるのに対し,本件特許発明には,そのような問題がない。 また,本件特許発明は,「軒樋として従来の軒樋よりも容量の小さいもの が使用可能となり,しかも,サイホン管が細くて目立ちにくい上に,サイホ ン管の設置間隔を広げて設置個数を少なくできるので,コストアップや家屋 の外観を損なう心配がなくなる」という,乙5発明にはない顕著な作用効果 を奏するものである。 したがって,本件特許発明は乙5発明と同一ではなく,当業者が乙5発明 に基づいて容易に発明をすることができたものでもない。 4 争点2−2(本件特許発明は乙11発明と同一又は当業者が乙11発明に基 づいて容易に発明をすることができたものであるか)について 【被告の主張】 以下のとおり,本件特許発明は本件優先日前に頒布された乙11発明と同一 又は当業者が乙11発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。 (1)乙11公報に記載された発明 乙11公報には以下の発明(乙11発明)の構成が記載されている。 11A 軒先に軒樋が取り付けられる。 11B 家屋の外壁材に沿って縦方向に垂直樋が配設される。 11C 垂直樋の開口面積は12.56?である。 11D 軒樋の底部に垂直樋の上端が接続される。 11E 雨水排水装置である。 (2)本件特許発明との対比 ア 一致点 前記(1)のとおり,乙11発明の構成は本件特許発明の構成要件A1, B及びCと一致する。 11Eの構成について,サイホン現象を利用することが明示的に記載さ れていないものの,11Cの構成からすると乙11発明は当然にサイホン 現象を生じさせるものである。 イ 相違点 本件特許発明は,「落し口を構成する,上端にフランジ部を設け,外周 面に雄ネジを形成した雄筒部と,上端にフランジ部を設け,内周面に雌ネ ジを形成した締付けリングとを螺合させて,軒樋の底部の開口周縁部の上 下から前記両フランジ部により挟持することにより取付け,該落し口の下 端に,」(構成要件A2)サイホン管の上端を外嵌して接続した(構成要 件D)ものである。 乙11発明は,これらに相当する構成を有しない。 (3) 新規性欠如又は進歩性欠如 構成要件A2及びDの構成は,本件優先日において雨樋の技術分野におけ る周知技術にすぎなかった。 したがって,本件特許発明は乙11発明と同一又は当業者が乙11発明に 基づいて容易に発明をすることができたものである。 仮に11Eの構成が相違点であるとしても,乙5公報にはサイホン作用を 利用した雨樋(乙5発明)が記載されている。 したがって,本件特許発明は,乙11発明と乙5発明を組み合わせること によって容易に想到することができる。 【原告の主張】 以下のとおり,本件特許発明は乙11発明と同一ではなく,当業者が乙11 発明に基づいて容易に発明をすることができたものでもない。 (1)本件特許発明と乙11発明との対比 乙11発明は,「軒樋(2)の適所に,該軒樋(2)と連通して取付けた集水 箱(3)と,該集水箱(3)の底壁に開設した排水口(4)に上端を連結した垂直 樋(10)と,・・・から成る」ことを特徴とするものである。この「集水箱(3) の底壁」は軒樋(2)の底面に大きな出っ張りとなって現れるものであり,家 屋の外観を損なうという問題がある。 本件特許発明は構成要件A2及びDにより,乙11発明と異なり,「集水 箱(3)の底壁」が軒樋(2)の底面に大きな出っ張りとなって現れることがな く,家屋の外観を損なうことがない。 (2)新規性及び進歩性を有すること 前記(1)のとおり,乙11発明には家屋の外観を損なうという問題がある。 本件特許発明は,構成要件A2及びDの構成により,上記問題を解消した ものである。 したがって,本件特許発明は乙11発明と同一ではなく,当業者が乙11 発明に基づいて容易に発明をすることができたものでもない。 5 争点2−3(本件特許発明は乙12発明と同一又は当業者が乙12発明に基 づいて容易に発明をすることができたものであるか)について 【被告の主張】 以下のとおり,本件特許発明は本件優先日前に頒布された乙12発明と同一 又は当業者が乙12発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。 (1)乙12公報に記載された発明 12A 屋根の軒先に軒樋が設けられている。 12B 家屋の外壁材に沿って縦方向に通水チューブを含む竪樋が配設され る。 12C 通水チューブの開口面積は5.3?である。 12D 軒樋の底部に竪樋の上端が接続される。 12E 雨水排水装置である。 (2)本件特許発明との対比 ア 一致点 前記(1)のとおり,乙12発明の構成は本件特許発明の構成要件A1, B及びCと一致する。 12Eの構成について,サイホン現象を利用することが明示的に記載さ れていないものの,12Cの構成からすると乙12発明は当然にサイホン 現象を生じさせるものである。 イ 相違点 本件特許発明は,「落し口を構成する,上端にフランジ部を設け,外周 面に雄ネジを形成した雄筒部と,上端にフランジ部を設け,内周面に雌ネ ジを形成した締付けリングとを螺合させて,軒樋の底部の開口周縁部の上 下から前記両フランジ部により挟持することにより取付け,該落し口の下 端に,」(構成要件A2)サイホン管の上端を外嵌して接続した(構成要 件D)ものである。 乙12発明は,これらに相当する構成を有しない。 (3) 新規性欠如又は進歩性欠如 構成要件A2及びDの構成は,本件優先日において雨樋の技術分野におけ る周知技術にすぎなかった。 したがって,本件特許発明は乙12発明と同一又は当業者が乙12発明に 基づいて容易に発明をすることができたものである。 仮に12Eの構成についても相違点であるとしても,乙5公報にはサイホ ン作用を利用した雨樋(乙5発明)が記載されている。したがって,本件特 許発明は,乙12発明と乙5発明を組み合わせることによっても容易に想到 することができる。 【原告の主張】 以下のとおり,本件特許発明は乙12発明と同一ではなく,当業者が乙12 発明に基づいて容易に発明をすることができたものでもない。 (1)乙12発明と本件特許発明との対比 ア 相違点1 乙12発明は,「構造簡単であり,しかも 特に寒冷地において凍結破 壊が防止できる竪樋を提供する」ことを目的とし,「筒状樋本体内に柔軟 性に富む通水チューブが挿入され,筒状樋本体内面と通水チューブ外面と の間に環状間隙が設けられている」ことを特徴とするものである。筒状樋 本体が目立ちやすく,家屋の外観を損なうという問題がある。 本件特許発明は,本件特許発明の構成要件A2及びDにより,サイホン 管が目立ちにくく,家屋の外観を損なうことがない。 イ 相違点2 乙12発明は,サイホン作用を生じさせることを目的とするものではな い。 (2)新規性欠如又は進歩性欠如 前記(1)のとおり,乙12発明には家屋の外観を損なうという問題がある。 本件特許発明は,構成要件A2及びDの構成により,上記問題を解消した ものである。 したがって,本件特許発明は乙12発明と同一ではなく,当業者が乙12 発明に基づいて容易に発明をすることができたものでもない。 6 争点2−4(本件特許発明は乙13発明と同一又は当業者が乙13発明に基 づいて容易に発明をすることができたものであるか)について 【被告の主張】 以下のとおり,本件特許発明は本件優先日前に頒布された乙13発明と同一 又は当業者が乙13発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。 (1)乙13公報に記載された発明 13A 軒樋が設けられている。 13B 縦樋が壁面に沿って施工される。 13C 縦樋が12.56?の開口面積を有する。 13D 軒樋の底部に縦樋の上端が接続される。 13E サイホン現象を利用する雨水排水装置である。 (2)本件特許発明との対比 ア 一致点 前記(1)のとおり,乙13発明の構成は本件特許発明の構成要件A1, B及びCと一致する。 13Eの構成について,サイホン現象を利用することが明示的に記載さ れていないものの,13Cの構成からすると乙13発明は当然にサイホン 現象を生じさせるものである。 イ 形式的相違点 本件特許発明は,「落し口を構成する,上端にフランジ部を設け,外周 面に雄ネジを形成した雄筒部と,上端にフランジ部を設け,内周面に雌ネ ジを形成した締付けリングとを螺合させて,軒樋の底部の開口周縁部の上 下から前記両フランジ部により挟持することにより取付け,該落し口の下 端に,」(構成要件A2)サイホン管の上端を外嵌して接続した(構成要 件D)ものである。 乙13発明は,これらに相当する構成を有しない。 (3)新規性欠如又は進歩性欠如 構成要件A2及びDの構成は,本件優先日において雨樋の技術分野におけ る周知技術にすぎなかった。 したがって,本件特許発明は乙13発明と同一又は当業者が乙13発明に 基づいて容易に発明をすることができたものである。 仮に13Eの構成についても相違点であるとしても,乙5公報にはサイホ ン作用を利用した雨樋(乙5発明)が記載されている。したがって,本件特 許発明は,乙13発明と乙5発明を組み合わせることによっても容易に想到 することができる。 【原告の主張】 以下のとおり,本件特許発明は乙13発明と同一ではなく,当業者が乙13 発明に基づいて容易に発明をすることができたものでもない。 (1)乙13発明と本件特許発明との対比 ア 相違点1 乙13公報には,本件特許発明の構成要件A2に相当する記載がない。 イ 相違点2 乙13発明は,「大きなタンクや配管などの大規模な設備を必要としな いで,通常の一般家庭で誰でも容易に雨水を利用することができるように (する)」ことを目的とするものであり,サイホン作用とは無関係のもの である。 (2)新規性及び進歩性を有すること 前記(1)の相違点からすると,本件特許発明は乙13発明と同一ではなく, 当業者が乙13発明に基づいて容易に発明をすることができたものでもない。 7 争点2−5(本件特許発明は乙14発明と同一又は当業者が乙14発明に基 づいて容易に発明をすることができたものであるか等)について 【被告の主張】 以下のとおり,本件特許発明は本件優先日前に頒布された乙14発明と同一 又は当業者が乙14発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。 (1)乙14文献に記載された発明 乙14文献には,以下の発明(乙14発明)の構成が記載されている。ま た,乙14発明は,公然実施をされた発明でもある。 14A 軒先に軒樋が取り付けられている。 14B 竪樋が建物の外壁材に沿って縦方向に配設される。 14C 竪樋の開口面積は12.56?である。 14D 軒樋の底部に竪樋の上端部が接続される。 14E サイホン作用を利用したシステムである。 (2)本件特許発明との対比 ア 一致点 前記(1)のとおり,乙14発明の構成は本件特許発明の構成要件A1, B,C及びEと一致する。 イ 形式的相違点 本件特許発明は,「落し口を構成する,上端にフランジ部を設け,外周 面に雄ネジを形成した雄筒部と,上端にフランジ部を設け,内周面に雌ネ ジを形成した締付けリングとを螺合させて,軒樋の底部の開口周縁部の上 下から前記両フランジ部により挟持することにより取付け,該落し口の下 端に,」(構成要件A2)サイホン管の上端を外嵌して接続した(構成要 件D)ものである。 乙14発明は,これらに相当する構成を有しない。 (3)新規性欠如又は進歩性欠如 構成要件A2及びDは,本件優先日において,雨樋の技術分野における周 知技術にすぎなかった。 したがって,本件特許発明は乙14発明と同一又は当業者が乙14発明に 基づいて容易に発明をすることができたものである。 【原告の主張】 以下のとおり,本件特許発明は乙14発明と同一ではなく,当業者が乙14 発明に基づいて容易に発明をすることができたものでもない。 (1)乙14発明と本件特許発明との対比 乙14発明は,サイホン作用を生じさせるために,「軒樋の底面に凹部状 の出口ボウル(outlet bowl)が形成され,該出口ボウルの底面に,該出口ボ ウルよりも小さな内径を有して下方に延出する竪樋が接続されている」こと を特徴とする。当該「凹部状の出口ボウル(の底面)」が軒樋の底面に大き な出っ張りとなって現れることから,家屋の外観を損なうという問題がある。 本件特許発明は,構成要件A2及びDにより,家屋の外観を損なうことが ない。 (2)新規性欠如又は進歩性欠如 前記(1)のとおり,乙14発明には家屋の外観を損なうという問題がある ところ,本件特許発明は,構成要件A2及びDにより,上記問題を解消した ものである。 したがって,本件特許発明は乙14発明と同一ではなく,当業者が乙14 発明に基づいて容易に発明をすることができたものでもない。 8 争点2−6(本件特許発明は,乙15発明等と同一又は当業者がこれらの発 明に基づいて容易に発明をすることができたものであるか等)について 【被告の主張】 以下のとおり,本件特許発明は本件優先日前に頒布された乙15発明等と同 一又は当業者がこれらの発明に基づいて容易に発明をすることができたもので ある。 (1) 乙15発明等 乙15から乙18までの各文献には,12.56?以下の開口面積を有する 雨樋(乙15発明等)が記載(開示)されており,これらの雨樋は,当然に サイホン効果を奏する。また,これらの雨樋は,実際に建物に設置され,利 用されたものである。 (2) 本件特許発明との対比 ア 一致点 前記(1)の各構成は,いずれも本件特許発明の構成要件Cと一致する。 イ 相違点 乙15文献等には,本件特許発明の構成要件A1からBまで及びDにつ いて明示的な記載がない。 (3) 新規性欠如又は進歩性欠如 本件特許発明の構成要件A1からBまで及びDは,本件優先日において, いずれも雨樋の技術分野における周知技術にすぎなかった。 したがって,本件特許発明は,当業者が乙15発明等に基づいて容易に発 明をすることができたものである。 また,乙15発明等に係る雨樋は実際に建物に設置され,その際には本件 特許発明の構成要件A1からBまで及びDの構成を備えていたものであるか ら,本件特許発明は公然実施をされた発明である。 【原告の主張】 以下のとおり,本件特許発明は乙15発明等と同一ではなく,当業者がこれ らの発明に基づいて容易に発明をすることができたものでもない。 (1)乙15発明等と本件特許発明との対比 ア 相違点1 乙15文献等には,本件特許発明の構成要件A2に相当する記載がない。 イ 相違点2 乙15発明等は,サイホン作用とは無関係に開口面積が13?以下の竪 樋が記載されているにすぎない。 (2) 新規性欠如及び進歩性を有すること 前記(1)の相違点からすると,本件特許発明は乙15発明等と同一ではな く,当業者が乙15発明等に基づいて容易に発明をすることができたもので もない。 9 争点2−7(本件特許には,補正要件,明確性要件,実施可能要件及びサポ ート要件の違反があるか)について 【被告の主張】 以下のとおり,本件特許には,補正要件,明確性要件,実施可能要件及びサ ポート要件の違反がある。 (1) 補正要件違反 原告は,平成20年3月17日提出の手続補正書により,本件明細書等の 段落【0007】に以下の下線部の記載を挿入する補正をした。 「【0007】 サイホン管の開口面積が20?より大きい場合は勿論,13?より大きくな ると,大雨のときでもサイホン管に空気が吸い込まれて満流状態になりにく いため,サイホン作用による排水が行われにくくなり,サイホン作用による 排水が行われてもすぐに空気を吸い込んで自然落下排水に戻るため,排水効 率が従来の堅樋等による自然落下排水とあまり変わらなくなる。一方,サイ ホン管の開口面積が2?よりも小さい場合は勿論,3?よりも小さくなると, 流下する雨水とサイホン管内面との摩擦抵抗が増して流下速度が抑えられる ため,サイホン作用が発揮されても十分な排水能力を得ることは難しくなる。」 本件特許出願の当初の明細書等には,「サイホン管の開口面積を3〜13 ?とすることが好ましい」旨の記載があるにすぎない。上記補正は当初の明 細書等に記載されたものではないし,当初の明細書等の記載から自明な事項 でもなく,新規事項を追加するものである。 したがって,本件特許は,補正要件に違反する。 (2)明確性要件,実施可能要件及びサポート要件の違反 ア 「サイホン管」及び「開口面積」の意義について 前記1【原告の主張】のとおり,原告は,本件特許発明の「サイホン管」 について,「長手方向に垂直な断面が略同一のもの」に限定されず,部分 によって断面積が異なる異径管等も含まれる旨主張する。そして,「開口 面積」には,管の部分によって断面積が異なるものも含まれる旨主張する。 このような原告の主張を前提とすると,「サイホン管」及び「開口面積」 の意義は不明確となるから,本件特許は明確性要件に違反する。 また,本件明細書等には,上記原告の主張に関する記載がないから,本 件特許は,実施可能要件及びサポート要件にも違反する。 イ 「開口面積」の数値限定の意義について 前記2【被告の主張】(1)のとおり,原告は,本件特許出願の審査手続 において,乙5公報による新規性欠如を理由とする拒絶理由通知を受け, 構成要件Cによる数値限定をしたことにより特許査定を受けた。乙5公報 には,本件特許発明の構成要件のうち「サイホン管」の「開口面積」の数 値範囲以外の構成が開示されている。 そうすると,本件特許発明は,数値限定に臨界的な意義がある発明であ り,そのような発明については数値限定に臨界的な意義があることを示す 具体的な測定結果が必要である。そうでなければ,当業者において当該数 値限定によりいかにして課題を解決できるのか認識することができない。 本件明細書等には,上記数値限定が臨界的意義を有することを示す実験 データ等の記載や示唆はなく,本件特許発明の意義が記載されていない。 したがって,本件特許は,サポート要件に違反する。 【原告の主張】 以下のとおり,本件特許について,補正要件,明確性要件,実施可能要件及 びサポート要件の違反はない。 (1)補正要件違反がないこと 本件特許出願の当初の明細書には,「サイホン管の開口面積を3〜13? とすることが好ましい」旨の記載がある。これによれば,13?という数値 がサイホン管の開口面積の上限値を規定する数値として記載されていること は明確である。 平成20年3月17日提出の手続補正書による補正は,新規事項を追加す るものではなく,被告が主張する補正要件違反はない。 (2)明確性要件,実施可能要件及びサポート要件の違反がないこと ア 「サイホン管」及び「開口面積」の意義について 本件特許に係る特許請求の範囲,本件明細書等及び出願経過等からする と,これらの意義は明確であり,被告が主張する明確性要件,実施可能要 件及びサポート要件の違反はない。 イ 「開口面積」の数値限定の意義について 本件特許発明の数値範囲に顕著な意義があることについて,具体的な測 定結果の記載がなければ,当業者が認識できないとはいえない。 したがって,被告が主張するサポート要件違反はない。 争点3(損害額)について 【原告の主張】 被告は,平成24年1月から6月末までの間に,被告の行為により8500 万円の売上高を得た。 利益率は約45%であるから,被告は,被告の行為により3825万円の利 益を受け,原告は同額の損害を被った(特許法102条2項)。 〔計算式〕 × = 上記損害の1割に相当する弁護士・弁理士費用382万5000円は本件と 相当因果関係のある損害である。 【被告の主張】 争う。 第4 当裁判所の判断 被告製品は,本件特許発明の構成要件のうち少なくとも構成要件Cを文言上 充足すると認めることができない(争点1−1に対する判断)。また,被告製 品について,本件特許発明と均等なものとしてその技術的範囲に属すると認め ることもできない(争点1−2に対する判断)。 以下,詳述する。 1 争点1−1(被告製品は本件特許発明の構成要件を文言上充足するか)に対 する判断 以下のとおり,被告製品は,本件特許発明の構成要件のうち少なくとも構成 要件Cを充足するとは認められない。 (1) 構成要件Cの解釈 ア 【特許請求の範囲】の記載に基づく検討 (ア)「サイホン管」の語の意義を明らかにした刊行物等の証拠はなく,他 に,これが技術用語として慣用されるものであるとか,当業者が何らか の特定の意義を有するものと解釈するなどとする主張立証はない。 「サイホン(サイフォン)」とは,一般に,「大気圧を利用して,液 体をいったん高所に上げて低所に移すために使う曲管。彎管」をいう。 そうすると,「サイホン管」の語に接した当業者は,それが上記「サ イホン(サイフォン)」又は上記「サイホン(サイフォン)」と同様の 効果を奏する若しくはその代わりに用いられる「管」を意味するものと 解釈すると認めるのが相当である。 また,構成要件A1及びDによれば,「サイホン管」は,軒樋の底部 に接続されるものであり,構成要件Bによれば,家屋の外壁材に沿って 縦方向に配設されるものであることが読み取れる。そうすると,「屋根 から地面まで,垂直に取り付けた雨樋。たつどい。」を意味する「竪樋 (又は縦樋)」に相当するものであることも読み取れる。 (イ)証拠(甲8)によれば,「開口」とは,技術用語として,「部材の開 いた口。口を開くこと。」をいうことが認められる。 (ウ)また,構成要件A2によれば,「サイホン管」と「落し口」の構成は 明確に区別された上,「サイホン管」は「落し口」を外嵌するとされて いる。 (エ)これらのことからすれば,構成要件Cは,「サイフォン」の効果を奏 する「竪樋(縦樋)」の「開いた口」が,3〜13?の面積を有する構 成を特定するものと一応は解される。 なお,上記竪樋が,「落し口」を外嵌するため,竪樋の上端部付近(外 嵌している部分)における水の流れる部分の内径は,「落し口」を構成 する「外周面に雄ネジを形成した雄筒部」の内径となる。 イ 本件明細書等の記載に基づく検討 (ア)本件明細書等の記載 本件明細書の【発明の詳細な説明】には以下の記載がある(甲3,1 2)。 「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は,大雨のときに雨水を極めて効率よく排水できるサイホン式雨 水排水装置に関する。 【0002】 【従来の技術】 従来の家屋は,軒樋を上合(集水器)に向かって流れ勾配が付くように 軒先に取付け,上合に流入した雨水を堅樋を通じて自然落下させること により排水していた。けれども,軒樋に流れ勾配が付いていると家屋の 外観が良くないため,最近の住宅では,流れ勾配を付けないで軒樋を水 平に取付ける場合が増えている。また,軒樋の底部に落し口を設け,こ の落し口に堅樋を接続して雨水を排水するものもある。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】 しかしながら,従来のように雨水を上合や軒樋の落し口から堅樋に自然 落下させる排水装置は排水効率があまり良くなく,特に,軒樋を水平に 取付ける場合は排水効率が悪くなるので,本来必要な容量以上の大きい 軒樋を取付けたり,上合と上合の間隔あるいは落し口と落し口の間隔を 狭めて堅樋の本数を増やし,大雨のときに雨水が軒樋から溢れないよう にする必要があった。そのため,コストアップを招き,上合や堅樋の増 加によって家屋の外観も損なわれるという問題があった。 【0004】 本発明は上記の問題に対処すべくなされたもので,その目的とするとこ ろは,大雨のときにサイホン作用により大量の雨水を極めて効率良く排 水でき,コストアップや家屋の外観を損なうことがないサイホン式雨水 排水装置を提供することにある。 【0005】 【課題を解決するための手段】 上記の目的を達成するため,本発明の請求項1に係るサイホン式雨水排 水装置(以下,第一のサイホン式雨水排水装置という)は,軒先に取付 けた軒樋の底部に,該底部に形成した開口に挿入した落し口を,該落し 口を構成する,上端にフランジ部を設け,外周面に雄ネジを形成した雄 筒部と,上端にフランジ部を設け,内周面に雌ネジを形成した締付けリ ングとを螺合させて,軒樋の底部の開口周縁部の上下から前記両フラン ジ部により挟持することにより取付け,該落し口の下端に,家屋の外壁 材に沿って縦方向に配設した3〜13?の開口面積を有するサイホン 管の上端を外嵌して接続したことを特徴とするものである。 【0006】 このような構成の第一のサイホン式雨水排水装置は,小雨のときには屋 根から軒樋に流れ込んだ雨水がサイホン管の内部を自然落下して排水 される。一方,大雨になって屋根から大量の雨水が軒樋に流れ込み,サ イホン管の内部を流落する雨水量が増加すると,開口面積が3〜13? と小さいサイホン管はすぐに雨水で満たされ,サイホン作用によって雨 水が自然落下排水の数倍の流速でサイホン管を満流状態で流れ落ち,多 量の雨水が極めて効率良く排水される。このサイホン作用による排水は, 軒樋底部のサイホン管接続箇所の雨水が少なくなって空気がサイホン 管に吸い込まれると停止し,自然落下排水に戻る。 【0007】 サイホン管の開口面積が20?より大きい場合は勿論,13?より大き くなると,大雨のときでもサイホン管に空気が吸い込まれて満流状態に なりにくいため,サイホン作用による排水が行われにくくなり,サイホ ン作用による排水が行われてもすぐに空気を吸い込んで自然落下排水 に戻るため,排水効率が従来の堅樋等による自然落下排水とあまり変わ らなくなる。一方,サイホン管の開口面積が2?よりも小さい場合は勿 論,3?よりも小さくなると,流下する雨水とサイホン管内面との摩擦 抵抗が増して流下速度が抑えられるため,サイホン作用が発揮されても 十分な排水能力を得ることは難しくなる。」 「【0011】 上記の第一及び第二のサイホン式雨水排水装置においては,サイホン管 の開口面積を2〜20?としてもサイホン作用による排水は行われる が,上記のように開口面積を3〜13?にすると,サイホン作用による 排水が一層安定して効率良く行われるため排水能力が更に向上する。 【0012】 サイホン管は,合成樹脂製の丸樋もしくは角樋,又は,可撓性のチュー ブのいずれかよりなるものが好ましく使用される。丸樋もしくは角樋よ りなる開口面積が2〜20?と小さいサイホン管は,従来の堅樋等に比 べると遥かに細くて目立ちにくいため,サイホン管による家屋の外観の 低下を抑えることができる。また,可撓性のチューブよりなるサイホン 管は,安価で施工性が良く,場合によっては,外部から見えないように サイホン管を家屋外壁材とその裏側の内壁材との中空部に配設して,家 屋の外観をすっきりとさせることも可能である。」 「【発明の実施の形態】 【0019】 図1に示すサイホン式雨水排水装置は,家屋軒先の破風板1aに軒樋吊 具(不図示)を用いて軒樋2を取付け,この軒樋2の底部に,家屋の外 壁材1bに沿って縦方向に配設したサイホン管3の上端を接続したも のである。」 「【0021】 サイホン管3は,2〜20?の開口面積,好ましくは3〜13?の開口 面積を有する合成樹脂製の細い丸樋3aをエルボ継手3bを介して接 続することにより形成されたものであって,固定具3cにより家屋の外 壁材1bに固定されている。サイホン管としては,上記と同様の開口面 積を有する合成樹脂製の細い角樋をエルボ継手を介して接続したもの や,後述する可撓性のチューブなども好ましく使用される。」 「【0026】 上記構成のサイホン式雨水排水装置は,小雨のときには屋根1cから軒 樋2に流れ込んだ雨水が空気と共にサイホン管3の内部を自然落下し て排水される。けれども,大雨になって屋根1cから大量の雨水が軒樋 2に流れ込み,サイホン管3の内部を流落する雨水量が増加すると,開 口面積が2〜20?と小さいサイホン管3はすぐに雨水で満たされ,サ イホン作用によって雨水が自然落下排水の数倍の流速でサイホン管3 内を満流状態で大量に流れ落ちる。特に,軒樋2底部の落し口2aが前 述のベルマウス形状であったり,テーパー状の面取り2gが形成された ものである場合は,サイホン管3への雨水の流入抵抗が小さいため排水 性能が一層向上するようになる。そして,雨水がサイホン管3から太い 排水管4bに流れ込むと自然落下排水に戻って減速され,雨水桝4cを 経て地下貯水槽(不図示)や下水管(不図示)へ排水される。このサイ ホン作用による排水は,軒樋2内部の雨水が減少して空気がサイホン管 3に吸い込まれるようになると停止し,自然落下排水に戻る。」 【図1】 本発明の一実施形態に係るサイホン式雨水排水装置の側面図である。 (イ)検討 構成要件C「3〜13?の開口面積を有するサイホン管」は,「3〜 13?の開口面積を有する合成樹脂製の丸樋もしくは角樋,又は,可撓 性のチューブ」等を指すものである(段落【0012】)。 本件明細書等において,サイホン管は継手部分と明確に区別されてお り(段落【0012】【0021】),本件特許発明の課題解決手段で あるサイホン管として継手部分を想定した記載は全くなく,継手の開口 面積をもってサイホン管の開口面積とすることは全く想定されていない といってよい。 ウ 構成要件Cの意義 前記ア,イによれば,本件特許発明の構成要件Cの「3〜13?の開 口面積を有するサイホン管」とは,「サイホン(サイフォン)」の効果 を奏する「竪樋(又は縦樋)」の「開いた口」が,3〜13?の面積を 有する構成を特定したものであり,具体的には,「3〜13?の開口面 積を有する合成樹脂製の丸樋もしくは角樋,又は,可撓性のチューブ」 等をいうものである。 上記「サイホン管」は,継手部材や落し口などを含まない竪樋自体を いい,その開口面積とは,竪樋自体の開口部の面積をいうのであって, 継手部材や落し口等の内径断面積を含むものではない。原告は,エルボ 継手等の継手部材がサイホン管と一体化しており,サイホン管を構成す る部材とみることができるから,当該継手部材が3〜13?の断面積を 有する場合にも,構成要件Cを充足する旨主張する。しかし,本件明細 書等を子細に検討しても,継手部材をサイホン管の一部とすることを前 提とする記載は見当たらない。 また,原告は,サイホン管が竪樋単体をいうものであったとしても, サイホン管(竪樋)の開いた口(継手)の面積が構成要件Cの「開口面 積」であると主張する。しかし,本件明細書等には,「サイホン管」の 「開口面積」がエルボ継手等の継手部材などの断面積であるという記載 は見当たらない。 以上のとおり,構成要件Cの開口面積は,継手部分や落し口の内径断 面積ではなく,サイホン管である竪樋自体の開口部の面積をいうものと 解するべきである。 エ 被告製品の構成及び構成要件充足性 証拠(乙6,7)によれば,被告製品の角竪樋の開口面積は,いずれ も平均14.09?であり,誤差を考慮しても14.00?以上であるこ とが認められる。 そうすると,被告製品は,本件特許発明の構成要件D「3〜13?の 開口面積を有するサイホン管」に相当する構成を有するものではなく, 本件特許発明の構成要件を文言上充足するということはできない。 2 争点1−2(被告製品は本件特許発明と均等なものとしてその技術的範囲に 属するか)について (1) 判断基準 特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場 合であっても,@ 上記部分が特許発明の本質的部分ではなく,A 上記部分 を対象製品等におけるものと置き換えても,特許発明の目的を達することが でき,同一の作用効果を奏するものであって, 上記のように置き換えるこ B とに,当業者が,対象製品等の製造等の時点において容易に想到することが できたものであり, 対象製品等が, C 特許発明の特許出願時における公知技 術と同一又は当業者がこれから上記出願時に容易に推考できたものではなく, かつ, 対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から D 意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは,上記対象 製品等は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明 の技術的範囲に属する(最高裁判所平成10年2月24日第三小法廷判決・ 民集52巻1号113頁)。 (2) 被告製品が本件優先日における公知技術と同一又は当業者がこれから本 件優先日時点において容易に推考できたものでないとはいえないこと ア 容易推考性の判断基準 公知技術からの容易推考性を判断するに当たっては,対象製品等におい て置換されている部分のみについて公知技術からの容易推考性を判断する のではなく,対象製品等そのものが全体として,特許出願時における公知 技術から容易に推考できたものかどうかを判断する必要がある。 イ 被告製品の構成 証拠(甲5)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品の構成は,以下のと おりであると認められる。 (ア)被告製品1 1a1 軒樋2は,建物の軒先に略水平に取り付けられる。 1a2 軒樋2には,接続部(落し口)5bを含む角ドレンセット5が 配置されている。 軒樋2の底部には,角ドレンセット5の接続部(落し口)5b が,軒樋2の底部に形成した開口に挿入され,接続部(落し口) 5bを構成する,上端に上フランジ部を設け,外周面に雄ネジ を形成したネジ筒部と,上端に下フランジ部を設け,内周面に 雌ネジを形成したネジ筒部とを螺合させて,軒樋2の底部の開 口周縁部の上下から挟持することにより取り付けられている。 1b 角竪樋3は,建物の外壁材に沿って縦方向に配置されている。 1c 角竪樋3は,14.09?の断面積を有する。 角継手4は,長さ19oであり,11.4?(端部側)から11. 6?(奥部側)の断面積を有する。 1d 角ドレンセット5の接続部5bと角継手4が接続している。 角継手4と角竪樋3が接続している。 1e 角ドレンセット5,角継手4及び角竪樋3により,サイホン式 雨水排水装置を構成している。 (イ)被告製品2 2a1 軒樋2は,建物の軒先に略水平に取り付けられる。 2a2 軒樋2には,接続部(落し口)5bを含む角ドレンセット5が 配置されている。 軒樋2の底部には,角ドレンセット5の接続部(落し口)5b が,軒樋2の底部に形成した開口に挿入され,接続部(落し口) 5bを構成する,上端に上フランジ部を設け,外周面に雄ネジ を形成したネジ筒部と,上端に下フランジ部を設け,内周面に 雌ネジを形成したネジ筒部とを螺合させて,軒樋2の底部の開 口周縁部の上下から挟持することにより取り付けられている。 2b 角竪樋3の一部は,建物の外壁材に沿って縦方向に配置されて いる。 2c 角竪樋3は,14.09?の断面積を有する。 角エルボ4は,長さ22oに渡って11.6?(端部側)から1 1.5?(奥部側)の断面積を有する。 2d 角ドレンセット5の接続部(落し口)5bと角エルボ4が接続 している。 角エルボ4と角竪樋3が接続している。 2e 角ドレンセット5,角エルボ4及び角竪樋3により,サイホン 式雨水排水装置を構成している。 ウ 被告製品の容易推考性 (ア) 構成1c及び2cの容易推考性 本件優先日前に頒布された乙5公報には以下の記載がある。 「【請求項1】 排水用の樋の構造であって,該樋の底面に定められた 内径と深さとを有した凹部状の落し口が形成され,該落し口の底面に, 該落し口よりも小さな内径を有して下方に延出する排水管が接続され ていることを特徴とする樋の構造。 【請求項2】 請求項1記載の樋の構造において,前記落し口の底面に は,前記排水管への異物の流入を防ぐドレーン部材が備えられている ことを特徴とする樋の構造。」 「【0002】 【従来の技術】周知のように,雨水等を排水するため,例えば建物の 屋根の周縁部等には樋が設置されている。図5に示すように,このよ うな樋1は,図面と直交に沿って延在して所定角度傾斜されて設置さ れており,その最も低い位置の底面1aに,下方に延びる排水管2が 接続された構造となっている。そして,屋根から樋1に流れ込んだ雨 水等は,その傾斜にしたがって下方に流れていき,排水管2から排出 されるようになっている。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら,上述したような従来 の樋の構造においては,以下に示すような問題が存在する。すなわち, 樋1で処理できる水の流量を増やすには,樋1自体の断面寸法を拡大 するのはもちろんのこと,排水管2の径の拡大,本数の増加を図る必 要がある。しかし,これらはコストの上昇,見栄えの低下といった問 題を招く。さらに特に排水管2は,屋根の下方に配置された種々の柱, 梁,あるいは設備等と干渉しないように配管しなければならないため, その径の拡大や本数の増加を図るのがスペース的に実現困難である場 合もある。本発明は,以上のような点を考慮してなされたもので,低 コスト化およびスペースの有効利用化を図ると共に,見栄えを低下さ せることなく処理流量を増加させることのできる樋の構造を提供する ことを課題とする。 【0004】 【課題を解決するための手段】請求項1に係る発明は,排水用の樋の 構造であって,該樋の底面に定められた内径と深さとを有した凹部状 の落し口が形成され,該落し口の底面に,該落し口よりも小さな内径 を有して下方に延出する排水管が接続されていることを特徴としてい る。 【0005】請求項2に係る発明は,請求項1記載の樋の構造におい て,前記落し口の底面には,前記排水管への異物の流入を防ぐドレー ン部材が備えられていることを特徴としている。」 「【0008】このような樋10の構造では,屋根(図示なし)から 樋10に流れ込んだ雨水等は,その傾斜にしたがって流れていき,落 し口11から配水管12に流れ込んで排水されるようになっている。 このとき,落し口11に流れ込んだ雨水は,この落し口11内でサイ ホン現象をおこして,配水管12に流れ込むようになる。ここでのサ イホン現象とは,流れ込んだ雨水が落し口11に溜まると,配水管1 2に空気が流入しにくくなるため,配水管12内の水が気泡を含まな い真空状態に近くなり,この結果,配水管12内の下部の水が落下し ながら上部の水を引っ張る力が大きくなって,水が流れやすくなる現 象である。」 「【0018】なお,上記各実施の形態において,樋10,20は, 屋根の周縁部沿いである必要はなく,ベランダの端部に沿って設ける 排水溝であっても同様に適用することが可能である。また,落し口1 1,21の断面寸法,深さは,前記各実施の形態であげた数値に限定 されるものではなく,要求される処理能力に応じて適宜設定すればよ い。」 【図5】 上記記載によれば,上記【図5】で示される従来技術の雨樋におい ても,落し口の寸法(雨樋の開口部分の面積)は,要求される処理能 力に応じて適宜設定することができるものと認められる(段落【00 03】【0018】)。 また,乙15文献等には,本件特許発明の数値範囲に入る開口面積 が12.56?の竪樋からそれ以上の大きさの竪樋まで,様々な開口面 積の竪樋が記載されている。 そうすると,被告製品の構成1c及び2cのうち「角竪樋3は,1 4.09?の断面積を有する。」という部分は,本件優先日における従 来技術と同一の構成であることが認められる。 (イ) その余の構成の容易推考性 被告製品の構成のうち1a1及び1b並びに2a1及び2bの構成 は,いずれも雨樋一般に共通する構成である。 また,本件優先日前に頒布された特開2000−8557号公報(乙 25)には以下の記載がある。 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は,雨水を排水させるために,軒樋 の底部やベランダやポーチなどに開口された排水口に取り付けて使用 される自在ドレンに関する。 【0002】 【従来の技術】従来の自在ドレンは,たとえば実公昭61−9488 号公報に記載されているように,フランジとねじ部が設けられた上下 一対の円筒体からなり,この両円筒体に設けられたねじ部(雄ねじと 雌ねじ)を螺合させ,両円筒体のフランジ同士にて軒樋の底部に設け られた排水孔の周縁を挾着するようにしたものである。」 上記記載によれば,被告製品の構成1a2及び2a2の構成は,本 件優先日前における「従来の自在ドレン」(公知技術)と同一であり, 雨樋においても一般的な構成であったことが認められる。 また,本件明細書等の段落【0002】の記載(前記1(1)イ(ア)) 及び本件優先日前に頒布されたカタログ(乙23,24)によれば, 1c及び2cの構成のうち「継手部材の断面積が竪樋の断面積よりも 小さい。」という構成並びに1d及び2dの構成も,雨樋一般に見ら れる一般的で,ありふれた構成であったことが認められる。 (ウ) 小括 以上によれば,被告製品の各構成は,本件優先日において雨樋の技 術分野でごく一般的であった構成を単に組み合わせたにすぎないもの であり,これらごく一般的で公知の構成を組み合わせることについて 何らかの阻害要因等が存在したことを窺わせる主張立証も全くない。 そうすると,被告製品について,当業者が公知技術から容易に推考 できたものではないと認めることはできないから,被告製品について, 本件特許発明と均等なものとしてその技術的範囲に属するということ はできない。 3 結論 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求にはい ずれも理由がない。 よって,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第26民事部 裁 判 長 裁 判 官 山 田 陽 三 裁 判 官 松 阿 彌 隆 裁 判 官 西 田 昌 吾 (別紙) 被告製品目録 雨水排水装置 商品名:高排水サイホンシステム「 40 」 |