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事件 平成 25年 (行ケ) 10146号 審決取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2014/01/30
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成26年1月30日判決言渡

平成25年(行ケ)第10146号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 平成25年12月18日

判 決




原 告 アルダ・エムピー・ ウェスト

・フランス・エスアーエス

(審決時の名称 インプレス・メタル・パッケージング・ソシエテ・アノニム)



訴 訟 代 理 人 弁 理 士 阿 部 達 彦

同 黒 田 晋 平

同 源 田 正 宏



被 告 特 許 庁 長 官



指 定 代 理 人 千 葉 成 就

同 刈 間 宏 信

同 氏 原 康 宏

同 大 橋 信 彦

主 文

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定め

る。


1
事 実 及 び 理 由

第1 請求の趣旨

1 特許庁が不服2011−12543号事件について平成25年1月9日にし

た審決を取り消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

第2 事案の概要

1 特許庁における手続の経緯等(当事者間に争いがない。)

原告は,発明の名称を「傾斜させられたフラットウェブを備えたカバーリン

グ」とする発明(請求項の数は出願当時14であったが,後記手続補正の結果

4となった。)について,平成16年8月18日に国際出願パリ条約による

優先権主張 2003年8月19日)をし,特許庁は,これを特願2006−

523518号(以下「本願」という。)として審査した結果,平成23年2

月7日に拒絶査定をした。

原告は,同年6月13日,これに対する不服の審判を請求し(不服2011

−12543号事件),平成24年5月24日付け拒絶理由通知を受け,同年

11月29日に手続補正(以下「本件補正」という。)をした。特許庁は,同

事件について審理した結果,平成25年1月9日,「本件審判の請求は,成り

立たない。」との審決をし,同審決の謄本を,同月22日,原告に送達した。

2 特許請求の範囲

本件補正後の本願の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである

(甲5。以下「本願発明」という。図面は,別紙【本願発明の図面】図3及び

図4b(いずれも,甲4)のとおり。)。

【請求項1】

ボディ(20)に折畳み結合するための,かつ封止される閉鎖層(1)の縁

部側の接合部を有する,カバーリングと閉鎖層(1)とから成るカバーであっ

て,閉鎖層(1)がカバーリングの,当該カバーリングに固有の内側空間を架


2
橋していて,ボディ(20)に折畳み結合された状態ではボディ(20)を閉

鎖している形式のものにおいて,

(i)当該カバーリングが環状のフラットウェブ(3c)を有しており,該フ

ラットウェブがその全周に沿って半径方向外向きに環状の溝を介して当該カバ

ーリングの縁部縁取り部(2)に移行しており,前記縁部縁取り部とフラット

ウェブとの間に前記環状の溝(N3)が延在しており,前記フラットウェブが

前記環状の溝の底部から立てられており,かつ半径方向内向きにロール成形部

(4)を有しており,

(ii)フラットウェブが閉鎖層の縁部の封止に適しており,封止される閉鎖

層(1)の平面に対して0とは異なる角度(α3)を成すように延在し,前記

角度が25°〜35°であり,かつロール成形部(4)は閉鎖層(1)のため

の変向箇所を形成し,該閉鎖層(1)は当該ロール成形部から平坦な位置に方

向付けられており,

(iii)周方向に延在する封止ストリップ(30)が,閉鎖層の縁部の封止

として閉鎖層を接合するために,フラットウェブ(3c)に備えられており,

周方向に延在する封止ストリップ(30)が,フラットウェブ(3)の延在方

向に幅を有しており,前記幅が,フラットウェブの幅の2分の1の大きさより

も大きい,

ことを特徴とするカバー。

3 審決の理由

(1) 審決の理由は,別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願発明は,

米国特許第5725120号明細書(甲1。以下,審決の表記に倣い,「刊

行物1」という。)に記載された発明,同文献に記載された事項及び周知技

術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特

許法29条2項の規定により特許を受けることができず,他の請求項に係る

発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきであるというもの


3
である。

(2) 審決が上記結論を導くに当たり認定した,刊行物1に記載された発明

(以下「刊行物1発明」という。図面は,別紙【刊行物1発明の図面】図6

及び図7のとおり。)及び同文献に記載された事項(以下「刊行物1事項」

という。図面は,別紙【刊行物1事項の図面】図10のとおり。)の各内容,

本願発明と刊行物1発明との一致点及び相違点は,以下のとおりである。

ア 刊行物1発明の内容

「本体の側壁40に折畳み結合するための,かつ封止される蓋31の縁部

側の接合部を有する,金属リングと蓋31とから成るカバーであって,蓋

31が金属リングの,当該金属リングに固有の内側空間を架橋していて,

側壁40に折畳み結合された状態では側壁40を閉鎖している形式のもの

において,

(i)当該金属リングが環状傾斜表面42を有しており,該環状傾斜表面

42がその全周に沿って半径方向外向きに環状の溝を介して当該金属リン

グのチャック壁部分38に移行しており,前記チャック壁部分38と環状

傾斜表面42との間に前記環状の溝が延在しており,前記環状傾斜表面4

2が前記環状の溝の底部から立てられており,かつ半径方向内向きにカー

ル42Aを有しており,

(ii)外周フランジ34は側壁40に対して約120°傾いており,か

つカール42Aは蓋31のための変向箇所を形成し,該蓋31は当該カー

ル42Aから壁33及び環状チャネル部41を介して平坦な位置に方向付

けられている,

カバー。」

イ 刊行物1事項の内容

「容器本体70の蓋71であって,周方向に延在する剥離可能封止材75

が,蓋71の縁部の封止として蓋71を接合するために,本体74の環状


4
部分に備えられており,周方向に延在する剥離可能封止材75が,本体7

4の環状部分の延在方向に幅を有しており,前記幅が,本体74の環状部

分の幅と略同等であることにより,剥離力の発生を防止するもの。」

ウ 本願発明と刊行物1発明との一致点

「ボディに折畳み結合するための,かつ封止される閉鎖層の縁部側の接合

部を有する,カバーリングと閉鎖層とから成るカバーであって,閉鎖層が

カバーリングの,当該カバーリングに固有の内側空間を架橋していて,ボ

ディに折畳み結合された状態ではボディを閉鎖している形式のものにおい

て,

(i)当該カバーリングが環状のフラットウェブを有しており,該フラッ

トウェブがその全周に沿って半径方向外向きに環状の溝を介して当該カバ

ーリングの縁部縁取り部に移行しており,前記縁部縁取り部とフラットウ

ェブとの間に前記環状の溝が延在しており,前記フラットウェブが前記環

状の溝の底部から立てられており,かつ半径方向内向きにロール成形部を

有しており,

(ii)フラットウェブが,封止される閉鎖層の平面に対して0とは異な

る角度を成すように延在し,前記角度が30°であり,かつロール成形部

は閉鎖層のための変向箇所を形成し,該閉鎖層は当該ロール成形部から壁

及び環状チャネル部を介し又は介さず平坦な方向に位置付けられている,

カバー。」

エ 本願発明と刊行物1発明との相違点

(ア) 相違点1

フラットウェブについて,本願発明は「閉鎖層の縁部の封止に適し」

たものであるが,刊行物1発明は明らかでない点。

(イ) 相違点2

閉鎖層について,本願発明は「ロール成形部から平坦な位置に方向付


5
けられている」ものであるが,刊行物1発明は「ロール成形部から壁及

び環状チャネル部を介し平坦な位置に方向付けられている」ものである

点。

(ウ) 相違点3

本願発明は「(iii)周方向に延在する封止ストリップが,閉鎖層

の縁部の封止として閉鎖層を接合するために,フラットウェブに備えら

れており,周方向に延在する封止ストリップが,フラットウェブの延在

方向に幅を有しており,前記幅が,フラットウェブの幅の2分の1の大

きさよりも大きい」ものであるが,刊行物1発明は明らかでない点。

第3 原告の主張

1 取消事由1(相違点2についての容易想到性判断の誤り)

審決は,相違点2について,@刊行物1発明の「壁及び環状チャネル部」は,

缶内部の圧力変動の吸収のためのものであり,缶内部の圧力変動は,蓋のリン

グ及びフランジ34に傾斜表面42,42Aを設けたことに伴う金属リングの

弾力性によっても吸収していることから,「壁及び環状チャネル部」は,圧力

変動が小さい場合には必須のものではない,A「壁及び環状チャネル部」を形

成することは構造が複雑となり製造工数の増加につながるから,必要でなけれ

ば設けないことが自然である,B平坦な閉鎖層を壁及び環状チャネル部を介す

ることなくカバーリングに取り付けるものは,特開平8−11881号公報

(甲2。以下「甲2文献」という。)や米国特許第5069355号明細書

(甲3。以下「甲3文献」という。)にみられるように周知である,として,

刊行物1発明において,その使用条件に応じて,周知技術を踏まえ,平坦な閉

鎖層を,壁及び環状チャネル部を介することなくカバーリングのロール成形部

に取り付けることに困難はないと判断した。

(1) しかるに,@について,刊行物1には,傾斜表面42,42Aの傾きを

最適化することによって,金属リングの弾力性の重要性を下げることができ


6
ることは記載されているものの,傾斜表面42,42Aを設けたことに伴う

金属リングの弾力性によって缶内部の圧力変動を吸収するとは記載されてい

ない。また,刊行物1には,圧力変動が小さい場合に「壁及び環状チャネル

部」が不要であるとの記載はなく,むしろ,刊行物1発明においては,缶内

部の圧力変動を吸収するために蓋31,31Aのセンター・パネル32が上

方に向けて反転変形可能となるように,センター・パネル32を金属リング

36の内周縁よりも下方に配設することは必須であるから,「壁及び環状チ

ャネル部」は刊行物1発明における必須的特定事項であり,これを排除する

ことには阻害要因がある。

これに対し,被告は,刊行物1には「壁及び環状チャネル部」を設けてい

ない「第2の実施例」が記載されていること,同文献の請求項1においては

「壁及び環状チャネル部」が特定されていないことから,刊行物1発明にお

いて「壁及び環状チャネル部」は必須ではないと主張する。

しかしながら,「第2の実施例」は,本願発明と同様に金属リングを備え

る構成ではなく,刊行物1には,金属リングを備える構成である刊行物1発

明に「第2の実施例」を組み合わせることについて何らの記載も示唆もない。

また,刊行物1の請求項1には,「蓋31」に関して,「熱処理中の前記

センター・パネル部分(2,11)の上方への変形は,蓋された容器の容積

の10%増加をもたらし」と特定されているが,刊行物1発明において,蓋

31から単に「壁及び環状チャネル部」を排除すると,平坦な形状の蓋が上

方に変形することのみによって缶本体の容積を増加させることとなり,この

ような構造では「蓋された容器の容積の10%増加」をもたらすことはでき

ず,圧力変動を吸収できない。よって,刊行物1発明における「壁及び環状

チャネル部」は,上記特定事項を満たすためには必須である。

したがって,刊行物1発明において「壁及び環状チャネル部」が必須的特

定事項ではないとする被告の主張は,失当である。


7
(2) Aについて,刊行物1発明の蓋31,31Aは,バリア・プラスチック

のシートから熱成形されており,必須である傾斜外周フランジ34を熱成形

する必要がある以上,「壁及び環状チャネル部」を有する構成にしてもこれ

らは当然同時に熱成形されるものであるから,かかる構成を採用することが

製造工数の増加につながるものではない。

(3) Bについて,甲2文献や甲3文献には,「壁及び環状チャネル部」が設

けられていないフィルム状の天面シール材や閉鎖体について記載されている

ものの,これらの天面シール材や閉鎖体に刊行物1発明の蓋31,31Aの

ように熱成形されたシートを用いることは記載されておらず,その形成方法

は大きく異なるから, 刊行物1発明の蓋31,31Aをこれらの天面シー

ル材や閉鎖体に置換することを想到することは困難である。

(4) 加えて,刊行物1発明では,缶内部の圧力変動によるセンター・パネル

32の上方への反転変形及び下方への復元変形時に,その起点となる屈曲部

分に大きな負荷がかかり,蓋31,31Aが破損しやすくなるので,十分な

耐性を有するように,蓋31,31Aを厚肉化させ,センター・パネル32

の剛性を高くする必要があり,剛性を高くしつつ十分な弾力性を得るために

は,蓋31,31Aから「壁及び環状チャネル部」を排除することは困難で

ある。

(5) 以上によれば,刊行物1発明において「壁及び環状チャネル部」を排除

することは,刊行物1発明に接した当業者が全く想到するところではないか

ら,これを当業者が容易になし得た旨の審決の判断は誤りである。

2 取消事由2(相違点3についての容易想到性判断の誤り)

審決は,刊行物1事項における「剥離可能封止材75」は本願発明の「封止

ストリップ」に,「蓋71」は「閉鎖層」に,「本体74の環状部分」は「フ

ラットウェブ」に,それぞれ相当すると認定した上,剥離力の発生の防止は,

容器本体の閉鎖層においては自明の課題であるから,刊行物1発明に刊行物1


8
事項を適用することは必要に応じてなし得る事項にすぎず,刊行物1発明に刊

行物1事項を適用した結果,相違点3に係る本願発明の構成になると判断した。

(1) しかるに,刊行物1事項と本願発明との間には,少なくとも次の相違点

があるから,刊行物1事項の「剥離可能封止材75」,「蓋71」,「本体

74の環状部分」は,それぞれ,本願発明の「封止ストリップ」,「閉鎖

層」,「フラットウェブ」に相当せず,両者はその構成が大きく異なる。

@ 刊行物1事項では,蓋71が本体74の環状部分に直接配設されており,

本願発明のようにカバーリングに配設される構成とはなっていない。

A 刊行物1事項では,ロール成形部が本体74の半径方向外側に形成され

ており,本願発明のように半径方向内側には形成されていない。

B 刊行物1事項では,剥離可能封止材75が本体74の環状部分に配設さ

れており,本願発明のようにカバーリングに配設される構成とはなってい

ない。

C 刊行物1事項では,蓋71を配設する対象である本体74の環状部分の

外周縁にはロール成形部が設けられており,本願発明のように上方に向か

って立ち上がる壁部が連設されていない。

(2) また,刊行物1事項では,本体74の環状部分が径方向外側に向かうに

従って下方に向けて傾斜しており,上記環状部分の外周縁にはロール成形部

が設けられている。しかし,刊行物1発明では,本願発明と同様に,溝37

を形成するために,金属リング36の傾斜面42の外周縁に上向きに立ち上

がる壁部が連設されている。その上,刊行物1事項では,蓋71に径方向外

側に向けて突出する突出部分が設けられている。このように,突出部分が設

けられている蓋71を刊行物1発明に適用しようとしても,上記突出部分に

より,蓋の金属リング36への貼着が阻害される。

さらに,刊行物1には,刊行物1事項を刊行物1発明に適用することに関

する示唆も記載もない。


9
よって,刊行物1事項を刊行物1発明に適用する動機付けがない。

(3) したがって,刊行物1事項を刊行物1発明に適用して本願発明を想到す

ることは容易ではないから,審決の判断は誤りである。

3 取消事由3(本願発明の作用効果についての判断の誤り)

刊行物1発明では,缶内部の圧力変動によるセンター・パネル32の変形が

屈曲部分を起点として行われるので,蓋31,31Aが破損しやすいのに対し,

「環状壁33及び環状チャネル部41」を介さずに「ロール成形部(4)は閉

鎖層(1)のための変向箇所を形成し,該閉鎖層(1)は当該ロール成形部か

ら平坦な位置に方向付けられて」いる本願発明は,内圧の上昇に伴って閉鎖層

に対して力が徐々にかかるため,閉鎖層が破損しにくくなるという格別な技術

的意義を有する。

また,刊行物1発明では,缶内部の圧力上昇に伴い,センター・パネル32

がダブル・シーム39を越える高さまで膨張し,缶全体の高さが過度に大きく

なることがあるのに対し,本願発明は,閉鎖層が膨張変形した際の缶全体の高

さが過度に大きくなることを防止するという格別な技術的意義を有する。

さらに,本願発明は,閉鎖層に対して必要とする材料が少なくなるという格

別な技術的意義を有する。

加えて,本願発明は,閉鎖層のための変向箇所を形成するロール成形部4の

断面形状が真円形であることにより,フラットウェブに貼着されている閉鎖層

が変向箇所において切断されることが防止されるという格別な技術的意義を有

する。

審決には,以上のような本願発明の格別の技術的意義を看過した誤りがある。

第4 被告の主張

1 取消事由1について

審決は,相違点2の容易想到性(刊行物1発明から「壁及び環状チャネル

部」を排除することの妥当性)について適切に判断しており,誤りはない。


10
(1) 原告は,「壁及び環状チャネル部」は刊行物1発明の必須的特定事項で

あり,これを排除することには阻害要因があると主張する。

しかるに,刊行物1の記載内容に照らせば,刊行物1発明は,薄い金属製

リングが弾性変形して,その傾斜角度を変化させることにより,すなわち,

「薄い金属製」リングの「弾性」,接合部の「角度」の程度の両者が「伴

う」ことにより,蓋が膨張しても,「蓋とリング間の接合」に「剥離力が発

生しない」のである。すなわち,「金属リング及び傾斜外周フランジの傾斜

表面」の技術的意義は,その構造上,それにより「缶内部の圧力変動の吸

収」に寄与していることは明らかである。

そして,刊行物1には,「第2の実施例」として,「壁及び環状チャネル

部」を設けていない実施態様も記載されており,同文献の請求項1において

は「壁及び環状チャネル部」が特定されていないことからすれば,刊行物1

発明において,圧力変動の吸収のために「壁及び環状チャネル部」が必須と

いうものではない。「壁及び環状チャネル部」が発明の必須的特定事項であ

るとの原告の主張は,同文献中の一実施例に関する記載を基にするものであ

り,根拠がない。

(2) 原告は,刊行物1発明において「壁及び環状チャネル部」を有する構成

にしても製造工数の増加につながるものではないと主張する。

しかしながら,「壁及び環状チャネル部」を形成することにより,形成し

ないものと比較して,その分「構造が複雑」になり,そのための加工等,何

らかの処理が必要となることは明らかである。これを踏まえ,「製造工程の

増加」ではなく「製造工数の増加」とした審決に誤りはない。

(3) 原告は,刊行物1発明の蓋31,31Aを,これとは形成方法の異なる

甲2文献や甲3文献の天面シール材や閉鎖体に置換することを想到すること

は困難であると主張する。

しかしながら,刊行物1発明の蓋について「熱成形」が必須であるとの原


11
告の主張は,刊行物1の実施例に基づくものにすぎず,「熱成形」は必須で

はない。仮に,刊行物1発明の蓋が熱成形されたものであるとしても,相違

点2は,閉鎖層の形状に関するものであって,形成方法の相違に関するもの

ではないし,形成方法の相違によって,相違点2に係る形状とすることを不

可能とするものではないから,審決が,閉鎖層の形状に関するものとして,

甲2文献及び甲3文献を引用したことに誤りはない。

(4) 原告は,刊行物1発明から「壁及び環状チャネル部」を排除する動機は

ないと主張する。

しかるに,刊行物1発明において「壁及び環状チャネル部」が必須ではな

いことは前記のとおりであり,必要がなければ設けないことは自然であるか

ら,これを排除する動機はある。

2 取消事由2について

(1) 本願発明における封止ストリップの技術的意義は,閉鎖層である膜1と

フラットウェブ3cとの間の封止ストリップの接着又は付着作用により,封

止ストリップの全幅において,引っ張り力Zに抵抗し,剥離力の発生を防止

することにある。

刊行物1発明においても,蓋31と金属リングの環状傾斜表面42は,

「接合」され,引っ張り力に抵抗し,剥離力の発生を防止しており,かかる

技術的意義は,本願発明における封止ストリップと同じである。

刊行物1事項の剥離可能封止材75も,蓋71の環状フランジ73と本体

74の環状部分との間に用いられ,引っ張り力に抵抗し,剥離力の発生を防

止しており,かかる機能は,刊行物1発明における蓋31と環状傾斜表面4

2との「接合」が求められる機能と同じである。そして,剥離可能封止材7

5の幅方向のサイズにより「接合」の程度が変化し得ることは技術常識に照

らして明らかであり,当業者はそのサイズを適宜選択し得るから,刊行物1

事項の「幅が,本体74の環状部分の幅と略同等である」とされるサイズに


12
設定することも何ら困難なことではない。

したがって,刊行物1発明に刊行物1事項を適用し得ることを前提とする

審決の判断に誤りはない。

(2) 原告は,刊行物1事項と本願発明との構造の差異を主張する。しかし,

審決は,刊行物1発明の閉鎖層(蓋31)を「接合」する技術として,「引

っ張り力に抵抗し,剥離力の発生を防止」するという技術的意義を踏まえて

刊行物1事項の適用の可否を検討したのであって,対比・判断に必要な限度

において,刊行物1事項を正しく認定している。原告の主張は,刊行物1の

実施例に基づき,単に構造の差異を指摘するにすぎず,失当である。

(3) 原告は,刊行物1事項では蓋71に径方向外側に向けて突出する突出部

分が設けられているから,金属リング36への貼着が阻害されると主張する

が,審決は,そもそも刊行物1事項として「蓋71に径方向外側に向けて突

出する突出部分」を認定するものではないし,そのような突出部分を含む技

術を適用させたものでもない。

仮に,原告の主張する構造の差異を考慮したとしても,刊行物1事項の適

用を阻害するほどのものではない。

3 取消事由3について

原告が主張する技術的意義は,発明の詳細な説明に本願発明の技術的意義

して記載されたものではなく,根拠を欠く。

仮に,原告の主張する技術的意義が生じるとしても,刊行物1発明に刊行物

1事項及び周知技術を適用したものは,本願発明と同じ構成になるから,当然

に同じ技術的意義を生じる。

また,ロール成形部が断面真円形であるとの主張は,本願発明の特許請求の

範囲に特定されておらず,根拠がない。仮にそうであるとしても,刊行物1発

明におけるカール42Aは,「カール」すなわち丸めるものであるから,程度

問題にすぎず,格別の技術的意義とはいえない。


13
第5 当裁判所の判断

1 取消事由1について

(1) 原告は,@刊行物1発明における「壁及び環状チャネル部」は刊行物1

発明における必須的特定事項であり,これを排除することには阻害要因があ

る,A刊行物1発明に「壁及び環状チャネル部」を設けることは製造工数の

増加につながるものではない,B刊行物1発明の蓋31,31Aを甲2文献

に記載された天面シール材や甲3文献に記載された閉鎖体に置換することを

想到することは困難である,Cセンター・パネル32の剛性を高くしつつ十

分な弾力性を得るために蓋31,31Aから「壁及び環状チャネル部」を排

除することは困難である,として,刊行物1発明から「壁及び環状チャネル

部」を排除することを当業者が容易になし得た旨の審決の判断は誤りである

と主張する。

(2) そこで,刊行物1発明の「壁及び環状チャネル部」の技術的意義につい

て検討する。

刊行物1(甲1)には,刊行物1発明のカバーに関して,以下の記載があ

る(なお,刊行物1は英語で記載された文献であり,以下では同文献の該当

部分の日本語訳のみを示す。)。

「本発明は,ポリマー材料の蓋と側壁部をもつ金属容器本体を組み合わせ

て提供する。…また,以下を特徴とする:蓋は,熱処理中に蓋が弾性的に変

形し,熱処理後に元の形状に戻るように弾性バリア・プラスチック材料から

製造されている。」(第1欄38行目ないし48行目)

「図6は,蓋および缶本体の第4の実施態様を示している。この場合,蓋

31はバリア・プラスチックのシートから熱成形されて,平坦なセンター・

パネル32,センター・パネルの外周から立ち上がる環状壁33,センター

・パネル上に折り返されて平坦になっているプルリング35を備えた傾斜外

周フランジ34を構成している。


14
外周フランジ34は,金属リングに接合される。このリングは,表面に外

周フランジが接合される環状傾斜表面42,傾斜斜面の下側エッジから立ち

上がっているチャック壁部分38,リングを本体の側壁40に接続するダブ

ル・シーム39に折り込まれているシーム部分38を含んでいる。傾斜表面

42は錐台円錐金属環の形状であり,その内側エッジはカールされてそれ自

身の上に戻されることによりカール42Aの原エッジおよび上部が下側外側

部分42と整列されて,蓋のフランジに対し滑らかな錐台円錐表面を作って

いる。図6に示すとおり,カールは,横断面において三角形である。

…図6において,蓋のパネルは膨張してセンター・パネル32の弾性変形

または隆起および壁33の材料の延伸により密閉缶中の増大圧力を収容する。

図7において,蓋31Aは,平坦なセンター・パネル32を外周フランジ

34(それは側壁40に対して約120°傾いている)に接続する環状チャ

ネル部41を備えている。図7に示すように,カール42Aは平らにされて,

ひだを作る。

この金属リング36を使用する1つの利点,ダブル・シームが蓋と傾斜フ

ランジ表面の剥離可能な接合を運送および積み重ね中の酷使から保護するこ

とである。望ましい場合,リングを薄い金属製とすることにより,それが弾

性により本来的に上方に曲がって膨張する蓋の中に生ずる引っ張り力と協調

し,それにより剥離力が蓋とリング間の接合の中に発生しないようにするこ

ともできる。しかし,金属リングの弾力性の重要性は,蓋のリングおよびフ

ランジ34の傾斜表面42,42Aを熱処理中の蓋の最大膨張期間中に接合

部に剪断力を加えると期待される角度に傾けることにより下げることができ

る。」(第4欄37行目ないし第5欄11行目)

(3) 刊行物1の上記記載及び別紙【刊行物1発明の図面】図7に示されたカ

バーの形状に照らすと,刊行物1発明における「壁及び環状チャネル部」,

すなわち環状壁33及び環状チャネル部41とは,弾性バリア・プラスチッ


15
ク材料によって製造され,熱処理中に弾性的に変化することのできる蓋31

Aにおける,平坦なセンター・パネル32と外周フランジ34との間の屈曲

部位を指し,センター・パネル32が弾性変形するとともに上記屈曲部位が

「延伸」することによって,密閉された缶の熱処理中に生じる缶内部の圧力

の変動を吸収するためのものであると理解される。

そうすると,それ自体弾性変形の可能な蓋にこのような屈曲部位を設けた

場合,設けない場合と比較して,缶内部の容積のより大きな変動を吸収でき

ること,缶内部の容積の変動がそれほど大きなものではない場合には,この

ような屈曲部位を設けなくても,蓋自体の弾性変形によって缶内部の圧力変

動を吸収することができることは,いずれも当業者において容易に理解でき

ることであると考えられる。

また,蓋に「壁及び環状チャネル部」を設けることが製造工数の増加につ

ながるかどうかはさておき,蓋に「壁及び環状チャネル部」を設けないこと

とすることは,少なくとも蓋の構造の簡素化には寄与するものであるから,

必要がなければこれを設けないこととすることはごく自然なことであるとい

える。

以上によれば,蓋に「壁及び環状チャネル部」を有する刊行物1発明にお

いて,缶内部の圧力変動をそれほど大きくする必要がない場合に,蓋に「壁

及び環状チャネル部」を設けない構造とすることは,当業者において容易に

想到することができるものであるということができ,これと同旨の審決の判

断に誤りはない。

(4) 原告は,刊行物1には圧力変動が小さい場合に「壁及び環状チャネル

部」が不要であるとの記載はなく,缶内部の圧力変動を吸収するためにセン

ター・パネル32を金属リング36の内周縁よりも下方に配設することは必

須である,また,「壁及び環状チャネル部」を排除すると,蓋31に係る刊

行物1の請求項1に記載された「蓋された容器の容積の10%増加」による


16
圧力変動を吸収できないなどとして,「壁及び環状チャネル部」は刊行物1

発明における必須的特定事項であると主張する。

しかしながら,刊行物1発明において「壁及び環状チャネル部」が必須で

あるか否かにかかわらず,缶内部の圧力変動がより小さい場合には,「壁及

び環状チャネル部」を設けなくても蓋自体の弾性変形によって缶内部の圧力

変動を吸収することができることは,その旨の記載が刊行物1になくても,

当業者において容易に理解し得ることは上記のとおりであり,原告の主張す

る点は,刊行物1発明において,蓋31,31Aに「壁及び環状チャネル

部」を設けない構造とすることを阻害する事情に当たるとはいえない。

また,原告は,刊行物1発明の蓋31,31Aを甲2文献や甲3文献の天

面シール材や閉鎖体に置換することを想到することは困難であると主張する。

しかし,刊行物1発明の蓋31,31Aに「壁及び環状チャネル部」を設

けない構造とすることは,これらの文献の記載を踏まえるまでもなく容易で

あると考えられる上,これらの文献に記載された天面シール材や閉鎖体に熱

成形されたシートを用いるかどうかは設計的事項にすぎないというべきであ

り,少なくともこれを阻害する事情はないから,その形成方法に差異がある

からといって,これらの文献に記載され,周知技術と考えられる平坦な閉鎖

層を,刊行物1発明の蓋に用いることが困難であるということはできない。

さらに,原告は,センター・パネル32の剛性を高くしつつ十分な弾力性

を得るために,蓋31,31Aから「壁及び環状チャネル部」を排除するこ

とは困難であるとも主張する。しかし,缶内部の圧力変動がより小さい場合

であれば蓋自体の弾性変形によって缶内部の圧力変動を吸収できるのは前記

のとおりであるから,原告の指摘する点をもって,蓋に「壁及び環状チャネ

ル部」を設けない構造とすることが困難であるとはいえない。

以上によれば,原告の主張を採用することはできない。

2 取消事由2について


17
(1) 原告は,@刊行物1事項の「剥離可能封止材75」,「蓋71」,「本

体74の環状部分」と本願発明の「封止ストリップ」,「閉鎖層」,「フラ

ットウェブ」はその構成が大きく異なる,A刊行物1事項を刊行物1発明に

適用する動機付けは存在しないとして,これと異なる審決の判断は誤りであ

ると主張する。

(2) この点,本願発明の「封止ストリップ」とは,閉鎖層1をフラットウェ

ブ3cに引き剥がし可能に固定するものであり,閉鎖層1とフラットウェブ

3cとの間の「封止ストリップ」の接着又は付着作用により,「封止ストリ

ップ」の全幅において引っ張り力Zに抵抗し,剥離力の発生を防止するもの

であると認められる(甲4【0009】,【0023】)。

他方,刊行物1には,「図10は,シート・メタルから絞り加工し,ポリ

マー材料のくぼんだ蓋71により閉じられた容器本体70を示している。図

10に示すように,この容器が製品72により満たされ,蓋をされた容器お

よび製品が熱処理中に加熱されると,製品の膨張により容器内の圧力が上昇

する。熱および上昇した圧力の影響の下で,ポリマー材料の蓋71は中央部

で膨れ始め,完全な外転(点線で示されている)を行って蓋付き容器の容積

を約10%増大させることにより内圧を低下させるとともに蓋の環状フラン

ジ72と本体74の環状部分間の封止材における剥離力の発生を防止する。

封止材上の剥離力の回避は,蓋と環状部分間における剥離可能封止材75の

使用を可能にする。」(第5欄61行目ないし第6欄8行目)との記載があ

り,この記載に照らせば,刊行物1事項における「剥離可能封止材75」と

は,蓋71の縁部と本体74の環状部分との間に両者を封止するために用い

られ,剥離力の発生を防止するとともに,その名称のとおり,蓋71の縁部

と本体74の環状部分とを引き剥がし可能に固定するものであると認められ

る。

以上によれば,刊行物1事項の「剥離可能封止材75」は,本願発明の


18
「封止ストリップ」に相当する構成であるということができ,これと同旨の

審決の判断に誤りはない。

そして,刊行物1における「蓋31は…傾斜外周フランジ34を構成して

いる。外周フランジ34は,金属リングに接合される。」,「この金属リン

グ36を使用する1つの利点,ダブル・シームが蓋と傾斜フランジ表面の剥

離可能な接合を…保護する…」との記載によれば,刊行物1発明において,

蓋31,31Aの外周フランジ34と金属リング36とは剥離可能に接合さ

れていると認められる。

また,刊行物1の「膨張する蓋の中に生ずる引っ張り力と協調し,それに

より剥離力が蓋とリング間の接合の中に発生しないようにする…」との記載

によれば,刊行物1発明における外周フランジ34と金属リング36との接

合部についても,本願発明における封止ストリップや刊行物1事項における

剥離可能封止材75と同様に,剥離可能に接合されているだけでなく,剥離

力の発生を防止することが共通の課題であることは明らかであるから,刊行

物1発明の接合部について刊行物1事項の剥離可能封止材75を適用する動

機付けがあるというべきである。

(3) 原告は,カバーリングの存否やロール成形部の位置などから,刊行物1

事項の「剥離可能封止材75」,「蓋71」,「本体74の環状部分」が,

本願発明の「封止ストリップ」,「閉鎖層」,「フラットウェブ」に相当す

るものではないと主張する。しかし,「剥離可能封止材75」は,その機能

に着目すれば「封止ストリップ」に相当することは前記のとおりであり,原

告の指摘する刊行物1事項と本願発明との間の具体的な構成の相違は,かか

る判断を左右するものではない。

また,原告は,刊行物1事項を刊行物1発明に適用する動機付けは存在し

ないと主張し,かかる動機付けを否定する根拠として,刊行物1発明と刊行

物1事項における容器本体や蓋の形状の相違を指摘する。しかし,刊行物1


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発明に対して適用される刊行物1事項は容器本体74や蓋71それ自体では

なく「剥離可能封止材75」である上,原告の指摘する容器本体や蓋の形状

の相違を踏まえても,刊行物1発明の接合部に刊行物1事項の剥離可能封止

材75を適用することを阻害する事情があるとまでは認め難いから,原告の

上記主張を採用することはできない。

3 取消事由3について

原告は,本願発明には,@内圧の上昇に伴って閉鎖層に徐々に力がかかるた

め,刊行物1発明と比較して閉鎖層が破壊しにくくなる,A閉鎖層が膨張変形

した際の缶全体の高さが過度に大きくなることを防止することができる,B閉

鎖層に対して必要となる材料が少なくなる,C閉鎖層のために変向箇所を形成

するロール成形部4の断面形状が真円形であることにより,閉鎖層が変向箇所

において切断されることを防止することができる,という格別な技術的意義

あり,審決にはこれらを看過した誤りがあると主張する。

しかしながら,上記@ないしBについては,本願発明においてこれらの効果

が仮に生じるとしても,刊行物1発明から「壁及び環状チャネル部」を設けな

い構造とすることにより当然に生じる技術的意義の域を出るものではなく,同

構造に想到することが容易であることは前記1に説示のとおりである以上,審

決を違法とする理由とはならない。また,上記Cについては,「ロール成形部

4」の断面が真円形であることは,本願発明に係る本願の請求項1に記載され

ていないから,かかる形状を前提に本願発明の技術的意義を論ずることはでき

ないというべきである。

よって,原告の上記主張を採用することはできない。

4 結論

以上のとおりであり,原告の主張は理由がない。よって,原告の請求を棄却

することとし,主文のとおり判決する。




20
知的財産高等裁判所第3部




裁判長裁判官 設 樂 z 一




裁判官 田 中 正 哉




裁判官 神 谷 厚 毅




21
(別紙)

【本願発明の図面】

(図3)




(図4b)




【刊行物1発明の図面】

(図6)




22
(図7)




【刊行物1事項の図面】

(図10)




23

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