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事件 平成 25年 (ネ) 10072号 特許権侵害差止等請求控訴事件
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裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2014/01/29
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
判例全文
判例全文
平成26年1月29日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

平成25年(ネ)第10072号特許権侵害差止等請求控訴事件

原審・大阪地方裁判所平成23年(ワ)第10590号

口頭弁論終結日 平成25年12月19日

判 決

控 訴 人 共 進 産 業 株 式 会 社

訴訟代理人弁護士 藏 冨 恒 彦

同 石 井 雄 介

補 佐 人 弁 理 士 松 波 祥 文

被 控 訴 人 ジャパンレントオール株式会社

被 控 訴 人 ジ ャ パ ン イ ベ ン ト

プ ロ ダ ク ツ 株 式 会 社

上記両名訴訟代理人弁護士 澤 田 恒

同 中 上 幹 雄

同 森 崇 志

同 太 田 悠 子

同 橋 淳

訴訟代理人弁理士 石 井 久 夫

主 文

1 本件控訴を棄却する。

2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1 控訴の趣旨

1 原判決を取り消す。

2 被控訴人ジャパンレントオール株式会社は,原判決別紙物件目録記載の製品

を製造し,輸入し,貸渡してはならない。
3 被控訴人ジャパンイベントプロダクツ株式会社は,原判決別紙物件目録記載

の製品を製造し,輸入し,販売してはならない。

4 被控訴人らは,原判決別紙物件目録記載の製品又は半製品を廃棄せよ。

5 被控訴人ジャパンレントオール株式会社は,控訴人に対し,450万円及び
これに対する平成23年9月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

6 被控訴人ジャパンイベントプロダクツ株式会社は,控訴人に対し,270万

円及びこれに対する平成23年9月16日から支払済みまで年5分の割合による金

員を支払え。

第2 事案の概要(略称は,原判決に従う。)

1 本件は,控訴人が,被控訴人らに対し,本件特許権に基づき,原判決別紙物

件目録記載の被告製品の製造・輸入等の差止め,同製品及びその半製品の廃棄を求

めるとともに,特許権侵害不法行為に基づき,被控訴人ジャパンレントオールに

対しては450万円の損害賠償及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成2

3年9月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金,被控

訴人ジャパンイベントプロダクツに対しては270万円の損害賠償及びこれに対す

る訴状送達の日の翌日である平成23年9月16日から支払済みまで民法所定の年

5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

原判決は,被告製品は本件特許発明技術的範囲に属するとは認められないとし

て,控訴人の請求をいずれも棄却した。そこで,原判決を不服として,控訴人が控

訴したものである。

2 前提事実及び争点は,原判決の「事案の概要」の1及び3に記載のとおりで

あるから,これを引用する。

第3 争点に関する当事者の主張

1 争点に関する当事者の主張は,後記2のとおり付加するほかは,原判決の

「争点に対する当事者の主張」の1ないし7に記載のとおりであるから,これを引

用する。
2 当審における主張

争点1(被告製品は本件特許発明技術的範囲に属するか)について

〔控訴人の主張〕

(1) 原判決のうち,被告製品が本件特許発明構成要件A及びDないしHまで

を各充足することは明らかであるとした点は正当である。

(2) 被告製品は,次のとおり,構成要件Cを充足する。

ア 「緊密に挿嵌」の解釈について

本件特許に係る特許無効審判の請求不成立審決(甲12)について,その請求人

である被控訴人ジャパンレントオールが知的財産高等裁判所に提起した審決取消訴

訟の平成25年5月29日付け判決(甲13。以下「本件判決」という。)は,本

特許発明について,「嵌合突起8と嵌合孔10の作用により,掛止部12bを前

記スリット9に挿通させて,斜面aの締め付けを開始する時点から脚部2の回転軸

の位置決めを行うことができるとの効果及び掛止部12bが斜面aを次第に締め付

けることにより,前固定部4と被固定部5とが強固に掛合されるという効果が生じ

る」として,「嵌合突起8と嵌合孔10は,そのような位置決めが可能な程度の緊

密さで挿嵌されていることが必要である」と判断した。すなわち,本件判決は,

「緊密に挿嵌」の解釈について,脚部2の回転軸の位置決め効果を実現可能な程度

の緊密さを要求しているにすぎない。

原判決も,本件判決と同様,「緊密に挿嵌」の技術的意義が,脚部2の回動開始

時から脚部2の回転軸の位置決めを行うことができる点であることを認めているも

のの,本件判決と異なり,「緊密に挿嵌」が嵌合突起8の外周面と嵌合孔10の内

周面に隙間がないことを意味すると解することは,このような「緊密に挿嵌」の技

術的意義と整合的であるなどとして,嵌合突起8の外周面と嵌合孔10の内周面と

の隙間を許容していない。

しかし,そもそも,原判決は,前記のとおり,「緊密に挿嵌」の技術的意義は,

脚部2の回転軸の位置決めを行うことができる点にあるとし,「緊密に挿嵌」され
ることは,その「緊密」さゆえに,斜面aの締付けを開始する時点から,脚部2の

回転軸の位置決めを行い,「次第に締め付ける」との作用効果を実現するものであ

ると解釈しているのであるから,このような解釈を前提とすれば,「緊密に挿嵌」

における「緊密」の意義は,脚部2の回転軸の位置決め効果を発揮し得る程度の緊

密さであると解するのが論理的であるし,技術的意義に合致するものである。とこ

ろが,原判決は,「嵌合突起8の外周面と嵌合孔10の内周面に隙間がない」こと

のみが「緊密」であると解釈し,これが「緊密に挿嵌」の技術的意義とも整合的で

あると判断しているのであり,原判決のかかる判断は,論理的に飛躍したものであ

るし,「緊密に挿嵌」の技術的意義とも全く整合しないものである。

また,原判決は,その一方で,「若干の隙間があるにとどまる場合を除外するも

のではない」などと,「緊密に挿嵌」が嵌合突起8の外周面と嵌合孔10の内周面

に隙間がないことを意味するとの解釈と矛盾した判断も示している。

さらに,原判決は,本件明細書記載の実施例において嵌合突起8の外周面と嵌合

孔10の内周面に隙間がないことは,原判決の解釈の相当性を裏付けるものと説示

しているが,これは,「緊密に挿嵌」の一例として隙間がないような実施例が記載

されているにすぎず,「緊密に挿嵌」が嵌合突起8の外周面と嵌合孔10の内周面

に隙間がないことを意味するとの解釈を何ら裏付けるものではない。

以上のとおり,構成要件Cにいう「緊密に挿嵌」とは,「嵌合突起8の外周面と

嵌合孔10の内周面に隙間がないこと」であるとした原判決の判断は,本件特許発

明の技術的意義を正しく理解しないものであり,かつ,論理的にも飛躍した解釈で

あって,その誤りは明らかである。構成要件Cにいう「緊密に挿嵌」とは,本件判

決において説示されたとおり,「脚部2の回転軸の位置決め効果を実現可能な程度

の緊密さで挿嵌されていること」を指すものというべきである。

イ 被告製品の充足性について

原判決は,「緊密に挿嵌」が,「嵌合突起8の外周面と嵌合孔10の内周面に隙

間がないこと」であるとの解釈を前提に,被告製品の嵌合孔10の内径は,嵌合突
起8の付け根部分の外径とを比較すると約2.6mm大きいことから,必要以上の

隙間があるといわざるを得ないとし,そうすると,締め付けを開始する時点から,

脚部2の回転軸の位置決めを行うという作用効果を奏しているとはいえないとして,

被告製品は構成要件Cを充足しないと判断した。

しかし,前記のとおり,「緊密に挿嵌」とは,脚部2の回転軸の位置決め効果を

実現可能な程度の緊密さで挿嵌されていることを指すものである。

したがって,仮に,嵌合孔10の内径が嵌合突起8の付け根部分の外径と比較し

て約2.6mm程度の隙間があろうと,当該位置決め効果が実現される限りは,

「緊密に挿嵌」を充足するものである。

そして,現に,被告製品は,本件特許発明が目的とする固定部4と被固定部5を

強固に掛合させるという作用効果を十全に発揮している。これは,被告製品の嵌合

孔10と嵌合突起8とが,緊密に挿嵌され,回転軸の位置が決定されているからに

ほかならない。

ウ よって,被告製品が構成要件Cを充足することは明らかである。

〔被控訴人らの主張〕

(1) 構成要件Cの充足性について

控訴人は,構成要件Cにいう「緊密に挿嵌」とは,「脚部2の回転軸の位置決め

効果を実現可能な程度の緊密さで挿嵌されている」ことを指すものであり,「嵌合

突起8の外周面と嵌合孔10の内周面に隙間がないこと」を意味するものではない

とした上で,被告製品は本件特許発明の目的である「固定部4と被固定部5」とを

強固に係合させるという作用効果を奏しているから,構成要件Cを充足するもので

あると主張する。
しかし,次のとおり,控訴人の主張は,失当である。

ア そもそも,「緊密に挿嵌」が「嵌合突起8の外周面と嵌合孔10の内周面に

隙間がないこと」を意味するとの主張は,控訴人自身が,特許無効審判において,

本件特許の無効理由(進歩性欠如)を回避し,特許性を維持するために行った主張
であり,特許庁はこの主張に依拠して本件特許発明の特許性を維持する審決を行っ

たものである。

一般に,侵害訴訟において,権利の有効性に関する手続である無効審判において

行った主張と矛盾する主張を行うことは,禁反言の法理(信義則)に反し,許され

ないものであるところ,本訴における控訴人の上記主張は,特許無効審判における

主張と正に矛盾するものであり,そのような主張は許されない。

したがって,控訴人の主張は,その前提を欠くものであるから,誤りである。

また,この点を措くとしても,構成要件の用語の解釈に際して,権利の有効性に

関する手続である特許無効審判における特許権者の陳述内容を参照すべきことは当

然であり,また,「緊密」という用語の通常の意味に照らしても,構成要件Cにい

う「緊密に挿嵌」とは,「嵌合突起8の外周面と嵌合孔10の内周面に回動のため

に必要とされるもの以上の隙間がないこと」を意味するものと解釈すべきである。

これを技術的にみても,「嵌合突起8の外周面と嵌合孔10の内周面に回動のた

めに必要とされるもの以上の隙間」が存在する場合には,締め付け開始時点におい

て,脚部2の回転軸の位置は「ずれる」のであるから,そもそも,「脚部2の回転

軸の位置決め効果を実現可能な程度の緊密さで挿嵌されている」ということはでき

ない。

以上によれば,原判決の解釈は正当であって,控訴人の上記主張は失当である。

イ 仮に,構成要件Cにいう「緊密に挿嵌」とは,「脚部2の回転軸の位置決め

効果を実現可能な程度の緊密さで挿嵌されている」ことを指すものと解釈するとし

ても,被告製品は,「脚部2の回転軸の位置決め効果を実現可能な程度の緊密さで

挿嵌されている」という構成を備えないから,被告製品は構成要件Cを充足しない。

すなわち,被告製品には,原判決が認定したとおりの隙間があるから,締め付け

開始時点においては,脚部2の回転軸の位置は「ずれる」のであり,「締め付けを

開始する時点から,脚部2の回転軸の位置決めを行う」という作用効果を奏してい

るものではない。
したがって,被告製品が「脚部2の回転軸の位置決め効果を実現可能な程度の緊

密さで挿嵌されている」という構成を有さないことは明らかである。

(2) 構成要件Gの充足性について

原判決は,被告製品の構成について,「脚部2をその軸周りに回動させる」もの

と認定した上で,これを前提として,被告製品は構成要件Gを充足すると判断した。

しかし,被告製品は,「脚部2をその軸周りに回動させる」ものではなく,「丸

いテーブルを回動させる」ものであるから,構成要件Gを充足しないことは明らか

である。

第4 当裁判所の判断

1 当裁判所も,被告製品は構成要件Cを充足せず,本件特許発明技術的範囲

に属しないから,控訴人の本訴請求は,いずれも理由がなく,これを棄却すべきも

のと判断する。その理由は,次のとおり付加,訂正するほかは,原判決の「第4

当裁判所の判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。

(1) 原判決31頁9行目の「若干の隙間があるにとどまる場合を除外するもの

ではないと解される。」を,「「緊密に挿嵌」という文言は,「嵌合突起8の外周

面と嵌合孔10の内周面に回動のために必要とされるもの以上の隙間がないこと」

を意味するものと解するのが相当である。」と改める。

(2) 同頁12行目の「支脚3」を「脚部2」と改める。

(3) 同頁20行目の「つまり,嵌合突起8の外周面と嵌合孔10の内周面に隙

間がないこと意味する」を,「つまり,嵌合突起8の外周面と嵌合孔10の内周面

に回動のために必要とされるもの以上の隙間がないことを意味する」と改める。

(4) 同32頁下から3行目の「そうすると,」から同33頁2行目末尾までを,

「また,被告製品における嵌合孔10と嵌合突起8との挿嵌が「締め付けを開始す

る時点から,脚部2の回転軸の位置決めを行う」という作用効果を奏するものであ

るということもできない。

したがって,嵌合孔10は,嵌合突起8を「緊密に挿嵌」させるものとはいえな
いから,被告製品は,構成要件Cを充足するとは認められない。

ウ 控訴人は,当審において,構成要件Cにいう「緊密に挿嵌」とは,「脚部2

の回転軸の位置決め効果を実現可能な程度の緊密さで挿嵌されていること」を指す

から,被告製品は構成要件Cを充足すると主張する。

しかし,前記認定のとおり,被告製品における嵌合孔10と嵌合突起8との挿嵌

が締め付けを開始する時点から脚部2の回転軸の位置決めを行うという作用効果を

奏するものとは認められないから,控訴 人の上記主張は採用することができな

い。」と改める。

(5) 原判決38頁末行の「したがって,」の後に,「構成要件Bの充足性につ

いて検討するまでもなく,」と付加する。

2 結論

以上によれば,控訴人の本訴請求はいずれも理由がないから,これを棄却した原

判決は相当である。

よって,本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第4部



裁判長裁判官 富 田 善 範




裁判官 大 鷹 一 郎




裁判官 齋 藤 巌