審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成25ネ10079特許権に基づく差止等請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
平成25行ケ10133審決取消事件 | 判例 | 特許 |
平成25ネ10055損害賠償請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
平成25ネ10081特許権使用差止等請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
平成25ネ10072特許権侵害差止等請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
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事件 |
平成
25年
(行ケ)
10092号
審決取消請求請求事件
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裁判所のデータが存在しません。 | |
裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2014/01/22 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
判例全文 | |
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判例全文
平成26年1月22日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 平成25年(行ケ)第10092号 審決取消請求事件 口頭弁論終結日 平成25年12月17日 判 決 原 告 ファ ミリ ーイ ナ ダ株 式会社 (旧商号 ファミリー株式会社) 訴訟代理人弁護士 藤 川 義 人 訴訟代理人弁理士 M 野 孝 同 沖 中 仁 被 告 日立マクセル株式会社 被 告 株 式 会 社 フ ジ 医 療 器 上記両名訴訟代理人弁護士 辻 本 希 世 士 同 辻 本 良 知 同 松 田 さ と み 上記両名訴訟代理人弁理士 辻 本 一 義 同 丸 山 英 之 同 神 吉 出 同 大 本 久 美 同 金 澤 美 奈 子 同 松 田 裕 史 主 文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 特許庁が無効2012−800074号事件について平成25年2月20日にし た審決を取り消す。 第2 事案の概要 1 特許庁における手続の経緯等 (1) 被告株式会社フジ医療器及び九州日立マクセル株式会社は,平成19年6月 1日,発明の名称を「マッサージ機」とする特許出願(特願2007−14731 9号)をし,平成23年12月9日,設定の登録(特許第4879824号。請求 項の数4)を受けた(甲8。以下,この特許を「本件特許」という。)。 (2) 被告日立マクセル株式会社は,平成24年4月26日,九州日立マクセル株 式会社から一般承継による本権の持分移転により,本件特許に係る九州日立マクセ ル株式会社の持分全部を承継した(甲17)。 (3) 原告は,平成24年5月2日,本件特許の請求項1ないし4に係る発明につ いて,特許無効審判を請求し,無効2012−800074号事件として係属した。 (4) 被告らは,平成24年7月27日,訂正請求をした(甲12。以下「本件訂 正」といい,その訂正明細書(甲8,12)を「本件明細書」という。)。 (5) 特許庁は,平成25年2月20日,本件訂正を認めた上,「本件審判の請求 は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は, 同年3月6日,原告に送達された。 (6) 原告は,平成25年4月4日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起し た。 2 特許請求の範囲の記載 本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載の発明は,次のとおりで ある。以下,請求項1ないし4に係る発明を,請求項の番号に応じて「本件発明 1」ないし「本件発明4」といい,これらを併せて「本件発明」という(別紙1参 照)。 【請求項1】 被施療者が着座する座部と,当該座部に連接され当該被施療者の背中を支持する背 もたれ部と,当該背もたれ部に当該被施療者の少なくとも背部をマッサージするマ ッサージ手段を備えるマッサージ機であって, 前記被施療者の右臀部を押圧して少なくとも当該被施療者の右臀部を昇降させる第 1の身体昇降手段と当該被施療者の左臀部を押圧して少なくとも当該被施療者の左 臀部を昇降させる第2の身体昇降手段とを所定の距離を空けて備え,当該第1の身 体昇降手段及び第2の身体昇降手段により当該被施療者の身体を上昇させて前記マ ッサージ手段の被施療者に対する進退移動の範囲を大きくすることで,当該第1の 身体昇降手段と当該第2の身体昇降手段との間の領域を,被施療者における前後方 向の領域を含めて,被施療者における臀部の下方の領域をも前記マッサージ手段で 施療することを特徴とするマッサージ機。 【請求項2】 請求項1に記載のマッサージ機において, 前記第1の身体昇降手段及び第2の身体昇降手段の外周における対向する内側を前 記座部に支持されて固定され,外側を昇降させることを特徴とするマッサージ機。 【請求項3】 請求項1または2に記載のマッサージ機において, 前記被施療者の大腿部と接触して当該被施療者の大腿部を昇降させる大腿部昇降手 段を備え,前記第1の身体昇降手段及び第2の身体昇降手段と前記大腿部昇降手段 が連係して当該被施療者の身体を昇降させることを特徴とするマッサージ機。 【請求項4】 請求項1ないし3のいずれかに記載のマッサージ機において, 前記身体昇降手段がエアバッグで形成され,当該エアバッグの給排気により被施療 者を昇降させることを特徴とするマッサージ機。 3 本件審決の理由の要旨 (1) 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)のとおりであり,要するに,本件発 明は,引用例である下記アないしキの甲1ないし7に記載された発明(以下,下記 アないしキに記載された発明を ,順次, 「甲1発明」ないし「甲7発明 」とい う。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから, 特許法29条2項の規定により無効とすることはできない,などというものである。 ア 甲1:特開2005−13463号公報 イ 甲2:特開平10−263037号公報 ウ 甲3:特開2000−325416号公報 エ 甲4:特開2004−344534号公報 オ 甲5:特開2001−29413号公報 カ 甲6:特開2006−230708号公報 キ 甲7:特開2004−283266号公報 (2) 対比 ア 本件審決が認定した甲1発明並びに本件発明1と甲1発明との一致点及び相 違点1は,次のとおりである。 (ア) 甲1発明(別紙2参照) 「被施療者が着座する座部と,当該座部に連接され当該被施療者の背中を支持する 背もたれ部と,当該背もたれ部に当該被施療者の少なくとも背部をマッサージする 揉み玉5,6を備えるマッサージ機であって, 被施療者の右臀部及び左臀部を押圧して当該施療者の右臀部及び左臀部を昇降さ せる横長の臀部用エアバッグa3を備え, 強いマッサージを行うために,揉み玉5,6の被施療者に対する前後方向への進 退移動の範囲を大きくすることができ, 横長の臀部用エアバッグa3により当該被施療者の身体を上昇させた状態で,被 施療者における臀部の下部側をも揉み玉5,6で施療するマッサージ機。」 (イ) 一致点 「被施療者が着座する座部と,当該座部に連接され当該被施療者の背中を支持する 背もたれ部と,当該背もたれ部に当該被施療者の少なくとも背部をマッサージする マッサージ手段を備えるマッサージ機であって, 前記被施療者の臀部を押圧して少なくとも当該被施療者の臀部を昇降させる身体 昇降手段を備え, 前記マッサージ手段の被施療者に対する進退移動の範囲を大きくすることがで き, 当該身体昇降手段により当該被施療者の身体を上昇させて,被施療者における臀 部の下方の領域をも前記マッサージ手段で施療するマッサージ機。」 (ウ) 相違点1 本件発明1では,「前記被施療者の臀部を押圧して少なくとも当該被施療者の臀 部を昇降させる身体昇降手段」が「前記被施療者の右臀部を押圧して少なくとも当 該被施療者の右臀部を昇降させる第1の身体昇降手段と当該被施療者の左臀部を押 圧して少なくとも当該被施療者の左臀部を昇降させる第2の身体昇降手段とを所定 の距離を空けて備え」たものであって,「当該第1の身体昇降手段及び第2の身体 昇降手段により当該被施療者の身体を上昇させて前記マッサージ手段の被施療者に 対する進退移動の範囲を大きくすることで,当該第1の身体昇降手段と当該第2の 身体昇降手段との間の領域を,被施療者における前後方向の領域を含めて,被施療 者における臀部の下方の領域をも前記マッサージ手段で施療する」のに対して, 甲1発明では,「前記被施療者の臀部を押圧して少なくとも当該被施療者の臀部 を昇降させる身体昇降手段」が「被施療者の右臀部及び左臀部を押圧して施療者の 右臀部及び左臀部を昇降させる横長の臀部用エアバッグa3」であって,「強いマ ッサージを行うために,揉み玉5,6の被施療者に対する前後方向への進退移動の 範囲を大きくすることができ,横長の臀部用エアバッグa3により被施療者の身体 を上昇させて,被施療者における臀部の下部側をも揉み玉5,6で施療する」点。 イ 本件審決が認定した甲2発明ないし甲6発明は,次のとおりである。 (ア) 甲2発明(別紙3参照) 「被施療者が着座する座部と,当該座部に連接され当該被施療者の背中を支持する 背もたれ部と,当該背もたれ部に当該被施療者の少なくとも背部をマッサージする 動作子4を備えるマッサージ機であって, 前記被施療者の右臀部を指圧可能に設けられたアクチュエータ35と当該被施療 者の左臀部を指圧可能に設けられたアクチュエータ35とを所定の距離を空けて備 えたマッサージ機。」 (イ) 甲3発明(別紙4参照) 「被施療者が着座する座部と,当該座部に連接され当該被施療者の背中を支持する 背もたれ部と,当該背もたれ部に当該被施療者の少なくとも背部をマッサージする 施療子9を備えるマッサージ機であって, 被施療者の右臀部を押圧する空気式のマッサージ具45と当該被施療者の左臀部 を押圧する空気式のマッサージ具45とを所定の距離を空けて備えたマッサージ 機。」 (ウ) 甲4発明(別紙5参照) 「被施療者が着座する座部と,当該座部に連接され当該被施療者の背中を支持する 背もたれ部と,当該背もたれ部に当該被施療者の少なくとも背部をマッサージする 施療子352aを備えるマッサージ機であって, 被施療者の右臀部を押圧する施療袋8aと当該被施療者の左臀部を押圧する施療 袋8aとを所定の距離を空けて備えたマッサージ機。」 (エ) 甲5発明(別紙6参照) 「被施療者が着座する座部と,当該座部に連接され当該被施療者の背中を支持する 背もたれ部と,当該背もたれ部に当該被施療者の少なくとも背部をマッサージする マッサージ手段を備えるマッサージ機であって, 被施療者の右臀部を押圧するマッサージ用の空気袋3と当該被施療者の左臀部を 押圧するマッサージ用の空気袋3とを所定の距離を空けて備えたマッサージ機。」 (オ) 甲6発明(別紙7参照) 「被施療者が着座する座部と,当該座部に連接され当該被施療者の背中を支持する 背もたれ部と,当該背もたれ部に当該被施療者の少なくとも背部をマッサージする もみ玉7,7を備えるマッサージ機であって, 前記被施療者の右臀部及び左臀部を押圧してマッサージを施す横長の臀下部用エ アバッグa4を備え, もみ玉7,7の被施療者に対する進退移動の範囲を大きくすることで,被施療者 における臀部の深部のみならず 大腿部を ももみ玉7,7で施療するマッ サージ 機。」 ウ 本件審決が認定した甲7発明並びに本件発明1と甲7発明との一致点及び相 違点2は,次のとおりである。 (ア) 甲7発明(別紙8参照) 「背凭れ部と座部とを夫々湾曲部を介して一体的に形成した椅子本体に,これら背 凭れ部と座部に沿うよう湾曲部を介して一体的に形成したロングガイドレールを内 装すると共に該ロングガイドレールに沿って施療子281を移動可能に設けたマッ サージ機であって, 被施療者の右臀部に空圧施療を施す空気袋71と当該被施療者の左臀部に空圧施 療を施す空気袋71とを所定の距離を空けて備え, 施療子281を座部に沿うよう移動させることにより,被施療者の右臀部に空圧 施療を施す空気袋71と当該被施療者の左臀部に空圧施療を施す空気袋71とに挟 まれた領域を含めて,被施療者における臀部の下方から大腿部に亘る領域を施療子 281で施療するマッサージ機。」 (イ) 一致点 「被施療者が着座する座部と,当該座部に連接され当該被施療者の背中を支持する 背もたれ部と,当該背もたれ部に当該被施療者の少なくとも背部をマッサージする マッサージ手段を備えるマッサージ機であって, 前記被施療者の右臀部を押圧して少なくとも当該被施療者の右臀部を昇降させる 第1の身体昇降手段と当該被施療者の左臀部を押圧して少なくとも当該被施療者の 左臀部を昇降させる第2の身体昇降手段とを所定の距離を空けて備え,当該第1の 身体昇降手段と当該第2の身体昇降手段との間の領域を,被施療者における前後方 向の領域を含めて,被施療者における臀部の下方の領域をも前記マッサージ手段で 施療するマッサージ機。」 (ウ) 相違点2 本件発明1では,「当該背もたれ部に当該被施療者の少なくとも背部をマッサー ジするマッサージ手段を備える」とともに,「当該第1の身体昇降手段及び第2の 身体昇降手段により当該被施療者の身体を上昇させて前記マッサージ手段の被施療 者に対する進退移動の範囲を大きくすることで,当該第1の身体昇降手段と当該第 2の身体昇降手段との間の領域を,被施療者における前後方向の領域を含めて,被 施療者における臀部の下方の領域をも前記マッサージ手段で施療する」のに対して, 甲7発明では,「施療子281」が,「当該被施療者の少なくとも背部をマッサ ージするマッサージ手段」といえるものの,「背凭れ部と座部に沿うよう湾曲部を 介して一体的に形成したロングガイドレールに沿って移動可能に設け」られたもの であって,「背もたれ部に備え」られたものではなく, 「被施療者の右臀部に空圧施療を施す空気袋71と当該被施療者の左臀部に空圧 施療を施す空気袋71」が,「被施療者の右臀部を押圧して少なくとも当該被施療 者の右臀部を昇降させる第1の身体昇降手段と当該被施療者の左臀部を押圧して少 なくとも当該被施療者の左臀部を昇降させる第2の身体昇降手段」といえるものの, マッサージするために被施療者の身体を押圧して昇降するものであり, 「施療子281」(マッサージ手段)の被施療者に対する進退移動の範囲を大き くすることなく,「施療子281を座部に沿うよう移動させることにより,被施療 者の右臀部に空圧施療を施す空気袋71と当該被施療者の左臀部に空圧施療を施す 空気袋71とに挟まれた領域を含めて,被施療者における臀部の下方から大腿部に 亘る領域を施療子281で施療する」ものである点。 4 取消事由 (1) 甲1発明ないし甲7発明に基づく本件発明1の容易想到性の判断の誤り(取 消事由1) (2) 甲1発明及び甲7発明に基づく本件発明1の容易想到性の判断の誤り(取消 事由2) (3) 甲1発明ないし甲5発明及び甲7発明に基づく本件発明1の容易想到性の判 断の誤り(取消事由3) (4) 甲7発明及び甲1発明に基づく本件発明1の容易想到性の判断の誤り(取消 事由4) (5) 本件発明2ないし本件発明4の容易想到性の判断の誤り(取消事由5) 第3 当事者の主張 1 取消事由1(甲1発明ないし甲7発明に基づく本件発明1の容易想到性の判 断の誤り)について 〔原告の主張〕 (1) 甲1発明の認定の誤りについて ア 本件審決は,前記第2の3(2)ア(ア)のとおり甲1発明を認定するが,同認定 は,甲1の【図23】におけるステップS140ないしS142の臀部用エアバッ グa3の動きについては認定しているものの,その後に一連に続く【図23】にお けるステップS143の「揉み玉駆動ユニット9を適宜位置まで前進させる」動き を看過している。 身体昇降手段及びマッサージ手段の一連の動きを的確に把握できる当業者であれ ば,「揉み玉駆動ユニット9を適宜位置まで前進させる」ことと,「臀部用エアバ ッグa3を膨張状態に維持して使用者Mの臀部を少し高い位置に維持させ」ること を,一連の動きとして理解することができる。強いマッサージを行うためという目 的・機能自体を認定しなくても,当該動作自体は把握可能である。 また,甲1の【図1】ないし【図3】,段落【0127】【0128】には, 「制御ユニット16は,給気開始から所定時間経過するまで給気を実行させた後, 給気停止して臀部用エアバッグa3を膨張状態に維持させる(ステップS142)。 これによって,使用者Mの臀部が少し高い位置に維持される。」「次に,制御ユニ ット16は,揉み玉駆動ユニット9を適宜位置まで前進させ(ステップS143), 揉み玉駆動ユニット9をして揉み玉5,6による揉み上げ等の機械的マッサージを 終了タイミングまで実行させる(ステップS144,S145)。これによって, 使用者Mの臀部を持ち上げた状態で同臀部に対して揉み玉5,6による機械的マッ サージを施すことができ,臀部の下部側にも機械的マッサージを施すことができ る。」との記載があるから,「臀部用エアバッグa3」と「使用者Mの臀部」との 位置関係からすれば,甲1発明では,「臀部用エアバッグa3」の左右中央部の後 部(少なくともその後方近傍)を揉み玉5,6で十分に施療できていたと考えるこ とができる。この場合,当業者が甲1の記載について,使用者Mが痛みを感じるほ どの「強いマッサージ」を行うことが一般的である揉み玉5,6の駆動構造,臀部 用エアバッグa3及び臀部の有する弾性,座部の有するクッション性,背もたれ部 104をリクライニングさせてリラックスした状態でマッサージを行うのが通常で あるマッサージ機の使用形態,臀部用エアバッグa3(座部)に対して使用者Mの 臀部が浮き上がり可能であることなどを的確に把握すれば,臀部の下部側に直接接 触しているエアバッグa3が存在したとしても,何ら支障なく「臀部用エアバッグ a3」の左右中央部の後部と臀部の下部側との間に揉み玉5,6を入り込ませて臀 部の下部側を十分に施療できていたと考えるのが自然である。 イ 当業者は,甲1の段落【0128】における「適宜位置」について,臀部の 下部側にも機械的マッサージを施すのに最適な位置であると理解することができる。 甲1発明において,「適宜位置」の正確な位置を特定して認定しなくても,本件発 明1と対比することができないほど不明瞭であるということはできない。 仮に,甲1において,「適宜位置」が不明瞭であるとしても,本件発明1の「前 記マッサージ手段の被施療者に対する進退移動の範囲を大きくする」こととの対比 においては,「適宜位置」がどこまでの位置を示しているか否かよりも,むしろ 「前進させ」るという「動き」の方が重要であって,少なくとも「揉み玉駆動ユニ ット9を前進させ」ることについては認定可能である。 さらに,仮に,「適宜位置」が甲1の段落【0076】の「L6」(別紙2の図 11参照)であるならば,甲1発明において,少なくとも本件発明1の「挟まれた 領域」に相当する領域を施療可能であったと考えられるし,同段落の「L4」や 「L5」であるならば,同段落の「極めて強いマッサージを行う深位置」の記載に 接した当業者は,「適宜位置」が「深位置(L6)」であればさらに臀部を効果的 にマッサージできるのではないかと考えるのは必然である。 したがって,甲1には,「適宜位置」を前方に広げることが示唆されているとい うことができる。 ウ 以上によれば,本件審決の甲1発明の認定は誤りであって,甲1発明は,次 のとおり認定されるべきである。 「被施療者が着座する座部と,当該座部に連接され当該被施療者の背中を支持する 背もたれ部と,当該背もたれ部に当該被施療者の少なくとも背部をマッサージする 揉み玉5,6を備えるマッサージ機であって, 被施療者の右臀部及び左臀部を押圧して当該施療者の右臀部及び左臀部を昇降さ せる横長の臀部用エアバッグa3を備え, 臀部用エアバッグa3を膨張状態に維持して使用者Mの臀部を少し高い位置に維 持させて揉み玉駆動ユニット9を適宜位置まで前進させることで,使用者Mの臀部 の下部側にも揉み玉5,6による機械的マッサージを施すマッサージ機。」 (2) 本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点の認定の誤りについて 前記(1)のとおり,本件審決の甲1発明の認定は誤りであるから,本件発明1との 一致点及び相違点1の認定も誤りである。前記(1)ウの甲1発明の正しい認定を前提 とすると,甲1発明において,「揉み玉駆動ユニット9を適宜位置まで前進させ る」ことと「臀部用エアバッグa3を膨張状態に維持して使用者Mの臀部を少し高 い位置に維持させ」るという一連の動きの中で,「前記マッサージ手段の被施療者 に対する進退移動の範囲を大きくする」構成を有しているのであるから,当該構成 についても一致点として認定されるべきである。 したがって,本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は,次のとおり認定さ れるべきである。 ア 一致点 「被施療者が着座する座部と,当該座部に連接され当該被施療者の背中を支持する 背もたれ部と,当該背もたれ部に当該被施療者の少なくとも背部をマッサージする マッサージ手段を備えるマッサージ機であって, 前記被施療者の臀部を押圧して少なくとも当該被施療者の臀部を昇降させる身体 昇降手段を備え, 当該身体昇降手段により当該被施療者の身体を上昇させて前記マッサージ手段の 被施療者に対する進退移動の範囲を大きくすることで,被施療者における臀部の下 方の領域をも前記マッサージ手段で施療するマッサージ機。」 イ 相違点 本件発明1では,「前記被施療者の臀部を押圧して少なくとも当該被施療者の臀 部を昇降させる身体昇降手段」が「前記被施療者の右臀部を押圧して少なくとも当 該被施療者の右臀部を昇降させる第1の身体昇降手段と当該被施療者の左臀部を押 圧して少なくとも当該被施療者の左臀部を昇降させる第2の身体昇降手段とを所定 の距離を空けて備え」たものであって,「当該第1の身体昇降手段及び第2の身体 昇降手段により当該被施療者の身体を上昇させて前記マッサージ手段の被施療者に 対する進退移動の範囲を大きくすることで,当該第1の身体昇降手段と当該第2の 身体昇降手段との間の領域を,被施療者における前後方向の領域を含めて,被施療 者における臀部の下方の領域をも前記マッサージ手段で施療する」のに対して, 甲1発明では,「前記被施療者の臀部を押圧して少なくとも当該被施療者の臀部 を昇降させる身体昇降手段」が「被施療者の右臀部及び左臀部を押圧して施療者の 右臀部及び左臀部を昇降させる横長の臀部用エアバッグa3」であって,「臀部用 エアバッグa3を膨張状態に維持して使用者Mの臀部を少し高い位置に維持させて 揉み玉駆動ユニット9を適宜位置まで前進させることで,使用者Mの臀部の下部側 にも揉み玉5,6による機械的マッサージを施す」点。 ウ 本件発明1及び甲1発明は,構造的(ハード,構造)な観点からすると, 「身体昇降手段」の構造が相違し,動作的(ソフト,制御)な観点からすると, 「マッサージ手段」の移動範囲が相違することは明らかである。 本件発明1及び甲1発明の構造及び一連の動きを的確に把握した上で,当業者が 上記イの相違点を検討すると,実質的な相違点は,次のとおり認定することができ る。 (ア) 相違点1A 本件発明1では,「身体昇降手段」が,「第1の身体昇降手段と第2の身体昇降 手段とを所定の距離を空けて備えた」ものであるのに対して, 甲1発明では,「臀部用エアバッグa3」が,「第1の身体昇降手段と第2の身 体昇降手段とを所定の距離を空けて備えた」ものでない点。 (イ) 相違点1B 本件発明1では,「当該第1の身体昇降手段及び第2の身体昇降手段により当該 被施療者の身体を上昇させて前記マッサージ手段の被施療者に対する進退移動の範 囲を大きくすることで,当該第1の身体昇降手段と当該第2の身体昇降手段との間 の領域を,被施療者における前後方向の領域を含めて,被施療者における臀部の下 方の領域をも前記マッサージ手段で施療する」のに対して, 甲1発明では,「臀部用エアバッグa3を膨張状態に維持して使用者Mの臀部を 少し高い位置に維持させて揉み玉駆動ユニット9を適宜位置まで前進させる」もの の,「揉み玉駆動ユニット9を前進させる適宜位置」が,「当該第1の身体昇降手 段と当該第2の身体昇降手段との間の領域」及び「被施療者における前方向の領 域」まで施療する位置であるか明らかでない点,つまり,「揉み玉駆動ユニット9 を前進させる適宜位置」が,「挟まれた領域」及び「挟まれた領域に対して被施療 者における前方向の領域」まで施療する位置であるか明らかでない点。 (3) 相違点1の判断について ア 本件審決は,本件発明の特許請求の範囲の記載を離れて,本件明細書の課題 に関する段落【0007】や実施例に関する段落【0035】【0038】等の記 載を前提に,相違点1に係る上記発明特定事項の技術的意義は,従来,右臀部用エ アバッグと左臀部用エアバッグに分けずに一つの臀部用エアバッグにより被施療者 の臀部にマッサージを行っていたため,エアバッグが直接接触している被施療者の 臀部の下方の領域には臀部用エアバッグが邪魔になって強いマッサージを十分に行 うことができなかったところ,相違点1に係る発明特定事項は,所定の距離を空け て備えられた第1の身体昇降手段と第2の身体昇降手段により被施療者の身体を上 昇させて被施療者の臀部の下方と座部との間にマッサージ手段を挿入することがで きる空間を確保するとともに,被施療者の身体を上昇させた状態で該空間に挿入さ れるマッサージ手段の被施療者に対する進退移動の範囲を大きくすることにより, 従来は臀部全体の下方の領域に直接接触している臀部用エアバッグが邪魔になって 強いマッサージを十分に行うことができなかった領域である,「第1の身体昇降手 段」と「第2の身体昇降手段」とに挟まれた「領域」と該挟まれた「領域」に対し て「被施療者における前後方向の領域」とを含む領域であって,かつ「被施療者に おける臀部の下方の領域」をも,背凭れ部に備えられたマッサージ手段で施療する ことができるものであるとする。 しかしながら,技術文献(甲18。以下「甲18文献」という。)に記載されて いるとおり,各部品の静的,動的干渉のチェックや,隣接部品を干渉しないように 配置すること,製品の全体の大きさや機能を確認することが組立図の役目であるこ とは,機械技術者の基本である。同文献の記載によれば,「運動する部品」と「運 動しない部品」とを干渉しないよう配置する場合には,「運動する部品」を運動さ せるための空間が必然的に「運動しない部品」との間に確保されることになり,ま た,「運動する部品」と「運動しない部品」との干渉を回避する策を講じる場合に は,「運動する部品」を受け入れるための空間が必然的に「運動しない部品」との 間に形成されることになる。 マッサージ機の属する技術分野において,隣接部品を干渉しないように配置した り,隣接部品の干渉を回避する策を講じたりすることは,当業者にとって基本とな る技術常識ないし常套手段である。マッサージ手段やマッサージ具等を干渉しない よう配置したりマッサージ手段やマッサージ具等の干渉を回避する策を講じたりす ることも,同様である。 そして,技術文献(甲19〜21。以下,順次「甲19文献」ないし「甲21文 献」という。)に記載されているとおり,マッサージ手段に対してマッサージ具等 を左右に配置してその間をマッサージ手段で施療することや,マッサージ手段とマ ッサージ具等が干渉しないようにマッサージ具等をマッサージ手段の左右に配置す ることは,当業者の技術常識ないし常套手段である。何かが邪魔になってマッサー ジを十分に受けることができないという課題は,当業者がマッサージ機能を確認す る上で必然的に生じる課題であって,ありふれた課題にすぎない。 イ 本件審決が相違点1に係る発明特定事項の技術的意義を認定する根拠とした 本件明細書の段落【0007】に記載された課題は,施療対象箇所は異なるものの, 当業者にとってありふれた課題にすぎず,当該課題から解決手段に至る思考過程も, 当業者の技術常識ないし常套手段であることは明らかである。 当業者は,上記課題に関する記載を読めば,特許請求の範囲の記載から本件発明 1の技術的意義を極めて容易に理解できるのであって,本件審決のように,本件明 細書の実施例に関する記載(段落【0035】【0038】等)の「空間」という 文言に基づいて,本件発明1の技術的意義を具体化して認定する必要はない。本件 審決は,本件発明1について,「被施療者の臀部の下方と座部との間にマッサージ 手段を挿入することができる空間を確保するために」「被施療者の身体を上昇させ た状態で該空間に挿入される」「被施療者の臀部の下方と座部との間に確保された 空間に挿入される」などと認定するが,特許請求の範囲において,「空間」に関す る特定はないし,むしろ,身体昇降手段を数ミリ程度上昇させて右臀部と左臀部が 上方に押圧されるだけで「空間」が確保されないものも包含する記載となっている。 したがって,本件審決の本件発明1の技術的意義の認定は誤りである。 ウ 本件審決は,甲2発明ないし甲5発明は,被施療者の左右の臀部をマッサー ジするために被施療者の身体を昇降させるものではあっても,身体を昇降させるこ と自体を目的としたものではないとするが,容易想到性の判断において,上記目的 に係る認定は不要であり,相違点1Aに係る構成が甲2ないし5に記載されている か否かを判断すれば足りる。 そして,甲2ないし5には,本件審決が認定するとおり,「前記被施療者の右臀 部を押圧して少なくとも当該被施療者の右臀部を昇降させる第1の身体昇降手段と 当該被施療者の左臀部を押圧して少なくとも当該被施療者の左臀部を昇降させる第 2の身体昇降手段とを所定の距離を空けて備え」た構成が開示されている以上,相 違点1Aに係る構成が記載されていることは明らかである。 本件出願時,既に当業者にとって種々の形態で部品として取り扱われていたエア バッグを,通常の機械設計等において適宜採用することは,当業者の通常の創作能 力の発揮にすぎない。また,甲2及び3には,座部の後部のエアセルの構成として 左右別々のものと左右一体のものを選択し得る旨の記載があるので,甲1発明に, 甲2発明ないし甲5発明を適用する動機付けが認められる。 被告らは,甲1発明において,臀部用エアバッグが横長に1つしか存在しないこ とは,同発明に接した当業者が2つの身体昇降手段の間に空間を生じさせる技術に 想到することを阻害すると主張するが,臀部用エアバッグが横長に1つしか存在し ないことをもって,阻害事由が生じる根拠を具体的に主張するものとはいえない。 仮に,被告らの主張が,甲1発明の横長の臀部用エアバッグは臀部の広い面状領域 を下方からマッサージするものであり,左右に分離された身体昇降手段を設けると 面状領域が減少するから,阻害要因となる趣旨であるとしても,面状領域が減少す ることは,当業者にとって自明な,設計変更等に伴って一般的に生じる不利益にす ぎず,阻害要因といえるようなものでない。 エ 甲6発明は,「挟まれた領域」に相当する臀下部用エアバッグa4の左右中 間部の領域と,「挟まれた領域に対して被施療者における前方向の領域」に相当す る臀下部用エアバッグa4に対して前方向の領域を施療するものであることは明ら かであるから,甲6には,「もみ玉7,7を前進させる適宜位置」を,「挟まれた 領域」「挟まれた領域に対して被施療者における前方向の領域」に相当する領域ま で広げること,すなわち,相違点1Bに係る構成が記載されていることは明らかで ある。 甲7発明において,マッサージ手段を座部に沿うよう移動させれば施療子281 が前進することは明らかであるから,甲7には,「施療子281を前進させる位 置」を,「挟まれた領域」「挟まれた領域に対して被施療者における前方向の領 域」まで広げること,すなわち,相違点1Bに係る構成が記載されていることは明 らかである。 そして,マッサージ機の属する技術分野における当業者の一般的な課題が存在し, 甲1発明と甲6発明及び甲7発明とは,いずれも技術分野が同一で,施療対象箇所 も同じであり,また,「臀部に対してマッサージを十分に施す」という点で発明の 目的ないし課題が共通する。甲6発明は,マッサージ手段の機能までも本件発明1 と共通するのであって,これらの点からすると,甲1発明に甲6発明及び甲7発明 の構成を適用する動機付けが認められる。 オ 甲1発明は,臀部の下部側に直接接触しているエアバッグa3が邪魔になっ て支障が生じるというようなことはなく,臀部の下部側に揉み玉5,6による強い マッサージを十分に行うことができるから,単に臀部をマッサージできるにとどま らず,「ヒップ」「アップ」する「効果」を与えることができる。甲1の記載から すると,同発明の効果が相当程度強いマッサージであることは当業者にとって明ら かである。本件発明1のように,「挟まれた領域」及び「挟まれた領域に対して被 施療者における前方向の領域」をマッサージ手段で施療することで,「強いマッサ ージを十分に行うことができ」たとしても,甲1発明の「ヒップアップ効果」が増 す程度の効果が期待できるにすぎない。 甲6発明及び甲7発明においても,本件発明1の「挟まれた領域」及び「挟まれ た領域に対して被施療者における前方向の領域」に相当する領域をマッサージ手段 で施療できていたのであるから,本件発明1の効果は,甲6発明及び甲7発明が奏 する効果と同一であるか,相違があるとしても,微差にすぎない。 カ したがって,相違点1A及び相違点1Bは,いずれも当業者が容易に想到し 得るというべきである。 (4) 小括 以上のとおり,本件発明1は,甲1発明ないし甲7発明に基づいて,当業者が容 易に想到し得るというべきである。 〔被告らの主張〕 (1) 甲1発明の認定の誤りについて ア 本件審決は,甲1に記載されている技術的事項として,【図23】について 記載されている段落【0127】【0128】の記載に基づいて,甲1発明のマッ サージ機は,「横長の臀部用エアバッグa3により当該被施療者の身体を上昇させ た状態で,被施療者における臀部の下部側をも揉み玉5,6で施療する」と認定し ている。すなわち,本件審決は,甲1の記載に基づいて,甲1発明につき,横長の 臀部用エアバックa3により被施療者の身体を上昇させた状態で,揉み玉5,6に よるマッサージを行うという一連の動きを認定しているから,臀部用エアバックa 3の動き及び揉み玉駆動ユニット9の動きを看過しているわけではない。 イ 原告が指摘する甲1の「揉み玉駆動ユニット9を適宜位置まで前進させ」と の記載は,「適宜位置まで」がどこまでの位置を示しているか不明瞭であって,当 該記載を前提に甲1発明を認定することは不適切である。本件審決のように,揉み 玉5,6の作用を明らかにして,「強いマッサージを行うために,揉み玉5,6の 被施療者に対する前後方向への身体移動の範囲を大きくすることができ」ると認定 した方が,甲1発明を明瞭かつ的確に把握することが可能となる。 ウ 以上によれば,本件審決の甲1発明の認定に誤りはない。 (2) 本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点の認定の誤りについて ア 本件審決は,甲1発明の「被施療者における臀部の下部側」が「被施療者に おける臀部の下方の領域」に包含される関係にあることを認定しているが,甲1発 明の「被施療者における臀部の下部側」と本件発明1の「当該第1の身体昇降手段 と当該第2の身体昇降手段との間の領域を,被施療者における前後方向の領域を含 めて,被施療者における臀部の下方の領域」とは,「被施療者における臀部の下方 の領域」である点で一致するものではなく,「少なくとも被施療者における臀部の 下部側」である点で一致するものと認定すべきである。 したがって,本件審決の本件発明1と甲1発明との一致点の認定には,一部不正 確な点があり,正しくは,以下のとおり認定されるべきである。 「被施療者が着座する座部と,当該座部に連接され当該被施療者の背中を支持する 背もたれ部と,当該背もたれ部に当該被施療者の少なくとも背部をマッサージする マッサージ手段を備えるマッサージ機であって, 前記被施療者の臀部を押圧して少なくとも当該被施療者の臀部を昇降させる身体 昇降手段を備え, 前記マッサージ手段の被施療者に対する進退移動の範囲を大きくすることができ, 当該身体昇降手段により当該被施療者の身体を上昇させて,少なくとも被施療者に おける臀部の下部側を前記マッサージ手段で施療するマッサージ機。」 イ もっとも,本件審決は,甲1発明の身体昇降手段である臀部用エアバックa 3の動き及びマッサージ手段である揉み玉駆動ユニット9の動きを看過しているい わけではないし,甲1発明は,被施療者における臀部の下部側を越えた臀部の下方 の領域まで施療することはできないから,当該領域についても施術可能である点に ついて一致点として認定すべきであるとする原告の主張は誤りである。 ウ 甲1発明は,エアバックa3に行く手を阻まれている揉み玉5,6により被 施療者の臀部の下方の領域に対して十分にマッサージを行うことができなかったこ とが課題とされている。 これに対し,本件発明1には,所定の距離を空けて備えられた第1の身体昇降手 段と第2の身体昇降手段によって被施療者を持ち上げて,それら身体昇降手段に挟 まれた領域及びその領域に対して被施療者における前後方向の領域において被施療 者にマッサージを施すという構造と制御とが一体不可分となり,先行技術の課題を 解決する技術的思想が開示されているのであるから,当該技術的思想に基づき,身 体昇降手段とマッサージ手段の一連の動きを踏まえた上で甲1発明と対比し,被施 療者に対する施療箇所が異なることについて,相違点1のとおり認定した本件審決 の相違点の認定に誤りはない。 また,相違点1に係る本件発明1の発明特定事項の技術的意義は,左右2つある 臀部を昇降させる身体昇降手段により被施療者の身体を上昇させているため,被施 療者の左右臀部を上昇させて被施療者における臀部の下方の領域と座部と左右2つ の身体昇降手段の対向する箇所からなる3次元の広がりである空間を生じさせて, それら身体昇降手段に挟まれた領域及びその領域に対して被施療者における前後方 向の領域において被施療者にマッサージを施すことが一体不可分であるところにあ り,相違点1を相違点1A及び相違点1Bに分けること自体,相違点1に係る本件 発明1の発明特定事項の技術的意義に基づくものではなく,誤りである。 したがって,本件審決の甲1発明の認定には,一部不正確な点はあるものの,原 告が主張する誤りはないというべきである。 (3) 相違点1の判断について ア 甲18文献は,製品を組み立てる際に正確な組立てを行えるように,製図の 時に部品相互間の関係に注意が必要であると記載されているにすぎず,甲18文献 の「干渉」と,本件発明1の課題及びその解決手段である「所定の距離を空けて備え」 る構成とは,根本的な目的が異なっている。 また,甲19文献ないし甲21文献により,背凭れ部において互いに干渉しない ようにマッサージ具を左右に配置してその間をマッサージ手段で施療する態様が知 られているとしても,座部においても同様な態様が技術常識として知られていたわ けではない。甲18文献における隣接部材が干渉しないように配置するという機械 技術者の基本からすると,甲1発明において,臀部用エアバッグa3と揉み玉5, 6とは互いに干渉しないように設計されている。 イ 本件発明1は,左右2つある臀部を昇降させる身体昇降手段により被施療者 の身体を上昇させているため,被施療者の左右臀部を上昇させて被施療者における 臀部の下方の領域と座部と左右2つの身体昇降手段の対向する箇所からなる3次元 の広がりである空間が生じることは明らかである。本件審決は,相違点1に係る本 件発明1の発明特定事項の技術的意義について,本件明細書の発明の詳細な説明に 記載されている事項を参考にしているが,特許請求の範囲に記載されている発明特 定事項に新たな発明特定事項を付加するものではなく,本件審決の認定に誤りはな い。 ウ 本件発明は,所定の距離を空けて備えられた第1の身体昇降手段と第2の身 体昇降手段により被施療者の身体を上昇させて被施療者の臀部の下方と座部との間 にマッサージ手段を挿入することができる空間を確保するとともに,被施療者の身 体を上昇させた状態で該空間に挿入されるマッサージ手段の被施療者に対する身体 移動の範囲を大きくすることにより,従来は臀部全体の下方の領域に直接接触して いる臀部用エアバッグが邪魔になって強いマッサージを十分に行うことができなか った領域に対しても,背凭れ部に備えられたマッサージ手段で施療することを可能 にするものである。すなわち,本件発明は,「2つの身体昇降手段によって設けら れる臀部の下方と座部の間の空間に対して背凭れ部に備えられたマッサージ手段で 強いマッサージを行うこと」を課題とするものである。したがって,本件発明の容 易想到性を検討する際は,本件発明が当該課題を解決する技術的思想に基づくもの であることを前提とした上で,当該課題が各引用例に記載ないし示唆されているか を検討する必要がある。 甲1には,臀部用エアバックa3を2つに分けようとする思想はもちろん,揉み 玉5,6が臀部用エアバッグa3と当接する位置を越えて被施療者の臀部の下方の 領域を施療しようとする技術的思想自体が開示ないし示唆されていないから,甲1 発明において,臀部用エアバッグが横長に1つしか存在しないことは,甲1発明に 接した当業者が2つの身体昇降手段の間に空間を生じさせる技術に想到することを 阻害するというべきである。 甲2発明ないし甲5発明は,座部の後部のエアセルの構成として左右別々のエア バッグなどのマッサージ具を備え,そのマッサージ具が被施療者の左右の臀部マッ サージするために被施療者の身体を結果として昇降させたものであって,甲2ない し5には,空気袋ないしエアバックによって被施療者の臀部をマッサージする技術 等を開示するにすぎず,被施療者の身体を上昇させることにより被施療者の臀部と 座部とに生じた空間を確保してマッサージ手段により被施療者の臀部の下方の領域 を施療するという本件発明1の発明特定事項の技術的意義についての開示,示唆が ないから,甲1発明のエアバッグa3に甲2発明ないし甲5発明の上記マッサージ 具を適用する動機付けは存在しない。仮に,甲1発明に甲2発明ないし甲5発明を 適用するとしても,被施療者の身体を上昇させることにより被施療者の臀部と座部 とに生じた空間を確保してマッサージ手段により被施療者の臀部の下方の領域を施 療することまで当業者が容易に想到することはできない。 甲6発明及び甲7発明においても,同様に本件発明1の発明特定事項の技術的意 義についての開示,示唆がないから,甲1発明のエアバッグa3に甲2発明ないし 甲5発明の上記マッサージ具を適用した上で,さらに,甲6発明の横長の臀下部用 エアバッグa4に接触しない範囲までしか進出しない揉み玉7,7及び甲7発明の 被施療者に対する進退移動の範囲を大きくすることが記載されていない施療子28 1を適用する動機付けは存在しない。 エ 甲1発明は,横長のエアバッグa3が存在するため,揉み玉5,6がせいぜ いエアバッグa3の手前までしか移動することができず,被施療者における臀部の 下部側までしか施療することができない。甲6発明も,甲1発明と同様に横長の臀 下部用エアバッグa4が存在するため,揉み玉7,7が被施療者における臀部の下 部側までしか施療することができない。 これに対し,本件発明1は,被施療者における臀部の下部側を越えた部分である 被施療者における臀部の下方の領域をも施療することができるのであるから,本件 発明1には甲1発明及び甲6発明にない顕著な効果が存在する。 また,甲7発明の施療子281は,被施療者に対する進退移動の範囲を大きくす るものではなく,本件発明1のマッサージ手段のように,被施療者に対する進退移 動の範囲を大きくすることによって被施療者を強く施療することができないから, 本件発明1には甲7発明にない顕著な効果が存在する。 オ したがって,相違点1は,当業者が容易に想到し得るということはできない。 (4) 小括 以上のとおり,本件発明1は,甲1発明ないし甲7発明に基づいて,当業者が容 易に想到し得るということはできない。 2 取消事由2(甲1発明及び甲7発明に基づく本件発明1の容易想到性の判断の 誤り)について 〔原告の主張〕 (1) 原告は,無効審判請求において,無効理由3として,甲1発明及び甲7発明 に基づいて,本件発明1は当業者が容易に想到し得ると主張したが,本件審決は, 当該主張について具体的な検討をしていない。無効理由3は,無効理由1と主引用 例(甲1)は共通するものの,組み合わせる公知文献の数や甲7で認定する技術事 項が異なるから,無効理由の理論構成自体が異なる。 したがって,無効理由3を無効理由1と同列に議論することは相当ではない。 (2) 甲7には,前記のとおり,相違点1A及び相違点1Bに係る構成がそれぞれ 開示されているのみならず,これらの構成が一体的な構成として開示されている。 すなわち,本件発明1の契機となる,本件明細書の段落【0007】に記載された 「強くマッサージしたい」(より前方をマッサージしたい)という技術と,本件発 明1の解決手段である「左右に分離された身体昇降手段を設ける」技術が,一体的 な構成として記載されているというべきである。 甲7の【図9】(別紙8参照)に接した当業者は,甲7発明において上記一体的 な構成を採用した理由が,本件発明1と同様の目的において,施療子281,28 1と座部の後部の空気袋71,71との干渉を回避して臀部にマッサージを十分に 施すためであることを理解するものである。 前記のとおり,甲1発明に甲7発明を適用する動機付けが認められるのみならず, 格別阻害事由を認めることはできない。 また,甲7には,本件発明1の課題から解決手段に至る一連の技術的思想が上記 の一体的な構成として開示又は示唆されているということができ,上記動機付けに 加えて,当該一連の技術的思想の開示又は示唆が存在するのであるから,甲1発明 に甲7発明の構成を適用することに困難性はない。 (3) 以上によれば,本件発明1は,甲1発明及び甲7発明に基づいて,当業者が 容易に想到し得るというべきである。 〔被告らの主張〕 (1) 本件審決において原告が主張した無効理由3は,甲1発明を主引用例とし, 甲7発明を副引用例としているので,前記のとおり,甲1発明に甲7発明を適用し たとしても,本件発明1に当業者が容易に想到することはできない。 (2) 甲1発明の施療子5,6を具備する揉み玉駆動ユニット9に,甲7発明の施 療子281を備えた施療機28を適用したとしても,本件発明1の技術的思想に到 達し得ず,さらに,甲1発明のエアバッグa3に,甲7発明の空気袋71を適用し たとしても,甲7発明には,空気袋71が被施療者を上昇させるタイミングと施療 機28の施療子281が被施療者の下方の領域をも施療するタイミングが同期して いるかについて何らの開示,示唆がないから,本件発明1の技術的思想に到達し得 ないというべきである。 (3) 以上によれば,本件発明1は,甲1発明及び甲7発明に基づいて,当業者が 容易に想到し得るということはできない。 3 取消事由3(甲1発明ないし甲5発明及び甲7発明に基づく本件発明1の容 易想到性の判断の誤り)について 〔原告の主張〕 (1) 原告は,無効審判請求において,無効理由2として,甲1発明ないし甲5発 明及び甲7発明に基づいて,本件発明1は当業者が容易に想到し得ると主張したが, 本件審決は,当該主張について具体的な検討をしていない。 無効理由2の内容は,「左右に分離された身体昇降手段」の周知度からすれば, 甲1発明の「臀部用エアバッグa3」を「左右に分ける」ことは極めて容易であり, その「左右に分けた」発明に対して,まさに「左右に分けた」その間を施療する甲 7発明に接した当業者であれば,本件発明1のように構成するのは容易であるとい うものであって,上記2つの技術を組み合わせるための動機付けを「左右に分離さ れた身体昇降手段」という技術の共通性に求めるものである。 したがって,無効理由2を無効理由1と同列に議論することは相当ではない。 (2) 前記のとおり,甲1発明に,甲2発明ないし甲5発明の構成を適用すれば, 当業者が甲1発明の「臀部用エアバッグa3」を「左右に分離された身体昇降手 段」,すなわち相違点1Aの構成とすることは極めて容易である。 また,甲7には,前記のとおり,相違点1A及び相違点1Bに係る構成がそれぞ れ開示されているのみならず,これらの構成が一体的な構成として開示されている から,相違点1Aについて,甲1発明に甲2発明ないし甲5発明の構成を適用した 上で,当該適用により相違点1Aの構成を有する発明と甲7発明とにおいて,相違 点1Aに係る構成の共通性,つまり,「左右に分離された身体昇降手段」を有する との技術上の共通性を手掛かりとして,甲7に開示された相違点1Bに係る構成を 適用するのは容易である。 (3) 以上によれば,本件発明1は,甲1発明ないし甲5発明及び甲7発明に基づ いて,当業者が容易に想到し得るというべきである。 〔被告らの主張〕 (1) 本件審決において原告が主張した無効理由2は,甲1発明を主引用例とし, 甲2発明ないし甲5発明及び甲7発明を副引用例としているので,前記のとおり, 甲1発明に甲2発明ないし甲5発明及び甲7発明を適用したとしても,本件発明1 に当業者が容易に想到することはできない。そもそも,異なる無効理由ごとに同一 の引用例に関する認定が異なることはあり得ないのであるから,原告の主張は失当 である。 (2) 甲7の段落【0029】には,「前記施療機28には,揉み機構や叩き機構 の他,振動機構などを行い得る施療子281と,該施療子281を駆動する駆動モ ータ282と,該駆動モータ282又は他の駆動モータにより回転する左右の駆動 スプロケット283と,前記ガイドレール24の前後で挟持状に配備される複数個 の遊転車284…とを支持台285上に備えており,前記駆動スプロケット283 歯がロングガイドレール24の裏側に所定ピッチで列設した駆動穴243に順次噛 合させることでロングガイドレール24に沿って上下方向に往復移動するようにし ている。」と記載されているにすぎない。 したがって,甲1発明の施療子5,6を具備する揉み玉駆動ユニット9に,甲7 発明の施療子281を備えた施療機28を適用したとしても,本件発明1における 第1の進退昇降手段及び第2の進退昇降手段により被施療者の身体を上昇させると ともにマッサージ手段の被施療者に対する進退移動の範囲を大きくすることにより, 従来は臀部全体の下方の領域に直接接触している臀部用エアバッグが邪魔になって 強いマッサージを十分に行うことができなかった領域をも施療するという技術的思 想に到達することはできない。 (3) 以上によれば,本件発明1は,甲1発明ないし甲5発明及び甲7発明に基づ いて,当業者が容易に想到し得るということはできない。 4 取消事由4(甲7発明及び甲1発明に基づく本件発明1の容易想到性の判断 の誤り)について 〔原告の主張〕 (1) 甲7発明の認定の誤りについて ア 本件審決は,本件発明1では一切特定されていない,「湾曲部」や「ロング ガイドレール」という構成を含めて甲7発明を認定している。 しかしながら,引用発明の認定は,引用例の記載に基づいて本件発明との対比に 必要な限度で行うのが原則であるから,本件発明1において,上記各構成が何ら特 定されていない以上,当該構成を含めて甲7発明を認定した本件審決は誤りである。 イ 甲7には,「座部22と,座部22と一体的に形成された背凭れ部21と, 背凭れ部21に少なくとも頸部と腰部に施療を施す施療機28を備える休息用椅子 型施療機1」が記載されていることは明らかであり,「座部22」は被施療者が着 座するものであること,「一体的に形成」は連接に相当すること,「背凭れ部2 1」は被施療者の背中を支持するものであること,「頸部と腰部」は施療者の背部 に相当するものであること,「施療機28」が「施療子281」を含むものである こと,「休息用椅子型施療機1」が「マッサージ機」であることも,それぞれ甲7 の記載から明らかである。 ウ 以上によれば,甲7発明は,次のとおり認定されるべきである。 「被施療者が着座する座部22と,当該座部22に連接され当該被施療者の背中を 支持する背凭れ部21と,当該背凭れ部21に当該被施療者の少なくとも背部をマ ッサージする施療子281を備えるマッサージ機であって, 被施療者の右臀部に空圧施療を施す空気袋71と当該被施療者の左臀部に空圧施 療を施す空気袋71とを所定の距離を空けて備え, 施療子281を座部に沿うよう移動させることにより,被施療者の右臀部に空圧 施療を施す空気袋71と当該被施療者の左臀部に空圧施療を施す空気袋71とに挟 まれた領域を含めて,被施療者における臀部の下方から大腿部に亘る領域を施療子 281で施療するマッサージ機。」 (2) 本件発明1と甲7発明との相違点の認定の誤りについて ア 前記(1)のとおり,本件審決の甲7発明の認定は誤りであるから,本件発明7 との一致点及び相違点2の認定も誤りである。 イ 甲7発明の「施療子281」は,「座部に沿うよう移動」するものであるが, 例えば甲7の【図5】(別紙8参照)における「施療機28の移動軌跡」などから 明らかなように,「被施療者に対する前進及び後退移動の範囲を大きくする」もの であって,「被施療者に対する進退移動の範囲を大きくする」ものであることは明 らかである。本件審決は,施療子281が,背もたれ部に備えられたものでないこ とや,施療子281が,被施療者に対する進退移動の範囲を大きくするものでない ことを相違点2の一部として認定するが,誤りである。 また,相違点の認定に当たり,目的の認定は不要であって,「被施療者の右臀部 に空圧施療を施す空気袋71と当該被施療者の左臀部に空圧施療を施す空気袋7 1」が「身体を昇降させること自体を目的としたものではない」ことを相違点2の 一部として認定する本件審決は誤りである。 したがって,前記(1)ウの甲7発明の正しい認定を前提とすると,本件発明1との 相違点は,次のとおり認定されるべきである。 相違点2 本件発明1では,「当該第1の身体昇降手段及び第2の身体昇降手段により当該 被施療者の身体を上昇させて前記マッサージ手段の被施療者に対する進退移動の範 囲を大きくすることで,当該第1の身体昇降手段と当該第2の身体昇降手段との間 の領域を,被施療者における前後方向の領域を含めて,被施療者における臀部の下 方の領域をも前記マッサージ手段で施療する」のに対して, 甲7発明では,「施療子281を座部に沿うよう移動させることにより,被施療 者の右臀部に空圧施療を施す空気袋71と当該被施療者の左臀部に空圧施療を施す 空気袋71とに挟まれた領域を含めて,被施療者における臀部の下方から大腿部に 亘る領域を施療子281で施療する」ものであり,「空気袋71,71により被施 療者の身体を上昇させて施療子281を座部に沿うよう移動させる」ものでない点。 (3) 相違点2について ア 本件審決は,甲7及び1には,被施療者の臀部の下方と座部との間にマッサ ージ手段の進退移動の範囲を大きくするための空間を確保するという特定の意図を もって,甲7発明及び甲1発明を総合し,相違点2に係る構成を導き出す動機付け は存在しないなどする。 しかしながら,前記のとおり,本件審決の本件発明1の技術的意義の認定は誤り であり,本件審決が指摘する特定の意図を前提としなくても,甲7発明に甲1発明 を適用することは容易である。 イ 甲1発明は,「臀部用エアバッグa3を膨張状態に維持して使用者Mの臀部 を少し高い位置に維持させて揉み玉駆動ユニット9を適宜位置まで前進させること で,使用者Mの臀部の下部側にも揉み玉5,6による機械的マッサージを施す」も のであり,当該身体昇降手段(臀部用エアバッグa3)により当該被施療者の身体 を上昇させて前記マッサージ手段の被施療者に対する進退移動の範囲を大きくする (揉み玉駆動ユニット9を適宜位置まで前進させる)ものであるから,前記(2)イの 正しい相違点2に係る構成を有することは明らかである。 ウ 「マッサージ機」の属する技術分野における当業者の一般的な課題が存在し, 甲7発明と甲1発明とは,技術分野が同一で,かつ施療対象箇所も同じであり,ま た,上記各発明は,「臀部に対して揉み玉によるマッサージを十分に施す」という 点で発明の目的ないし課題が本件発明1と共通するのみならず,「機械的マッサー ジとエアマッサージとの連動マッサージによって効率的なマッサージを行おうとす る」という点で課題解決方法まで共通する。 したがって,甲7発明に甲1発明の構成を適用する動機付けが認められる。 (4) 以上によれば,本件発明1は,甲7発明及び甲1発明に基づいて,当業者が 容易に想到し得るというべきである。 〔被告らの主張〕 (1) 甲7発明の認定の誤りについて ア 本件発明1の「マッサージ手段」と対比される甲7発明の「施療子281」 が,どのような施療を行うかは,本件発明1と甲7発明との一致点及び相違点を判 断する際,極めて重要な事項である。甲7の段落【0020】の記載によれば,甲 7発明の「施療子281」が湾曲するロングガイドレール24に沿って背凭れ部2 1,座部22,脚載置部23に亘り連続的に移動し,それぞれに対応する被施療者 の部位を施療する部材であることは明らかであり,被施療者を施療する施療子28 1の可動範囲を定める湾曲するロングガイドレール24を含めて施療子281を認 定することに不自然な点はない。 イ もっとも,本件審決は,甲7発明の「施療子281」は,「背凭れ部と座部 に沿うよう湾曲部を介して一体的に形成したロングガイドレールに沿って移動可能 に設けた」ものであり,本件発明1の「マッサージ手段」と「当該被施療者の少な くとも背部をマッサージするマッサージ手段」である点において一致するものの, 「背凭れ部に備え」られたものではないとするのであるから,本件発明1と甲7発 明との一致点は,マッサージ手段の具体的な取り付け位置を除いて認定すべきであ る。 したがって,本件審決の本件発明1と甲7発明との一致点の認定には,一部不正 確な点があり,正しくは,以下のとおり認定されるべきである。 「被施療者が着座する座部と,当該座部に連接され当該被施療者の背中を支持する 背もたれ部と,当該被施療者の少なくとも背部をマッサージするマッサージ手段を 備えるマッサージ機であって, 前記被施療者の右臀部を押圧して少なくとも当該被施療者の右臀部を昇降させる 第1の身体昇降手段と当該被施療者の左臀部を押圧して少なくとも当該被施療者の 左臀部を昇降させる第2の身体昇降手段とを所定の距離を空けて備え,当該第1の 身体昇降手段と当該第2の身体昇降手段との間の領域を,被施療者における前後方 向の領域を含めて,被施療者における臀部の下方の領域をも前記マッサージ手段で 施療するマッサージ機。」 ウ 原告は,甲7発明が「当該背凭れ部21に当該被施療者の少なくとも背部を マッサージする施療子281を備える」と主張するが,当該認定は,甲7発明の施 療子281の可動範囲の一部である背凭れ部21だけに着目し,これを部分的に抜 き出したものにすぎず,相当ではない。 したがって,本件審決の甲7発明の認定には,一部不正確な点はあるものの,原 告が主張する誤りはないというべきである。 (2) 本件発明1と甲7発明との相違点の認定の誤りについて 本件発明1における「マッサージ手段」が「背もたれ部に」備えられたものであ り,甲7発明の「施療子281」が湾曲するロングガイドレール24に沿って背凭 れ部21,座部22,脚載置部23に亘り移動するものであり,「背凭れ部に備 え」られたものではないから,当該構成が本件発明1と甲7発明の相違点として認 定されることは明らかである。 以上によれば,本件審決の甲7発明及び相違点2の認定に誤りはない。 (3) 相違点2について ア 本件発明1の特許請求の範囲において,「当該第1の身体昇降手段及び第2 の身体昇降手段により当該被施療者の身体を上昇させ」るとともに「前記マッサー ジ手段の被施療者に対する進退移動の範囲を大きくする」ことが特定されているし, 本件明細書の段落【0038】には,「またこの時,臀部の下方には空間Sがあり, 揉み玉93の被施療者Mに対する進退移動の範囲を大きくすることで,臀部の下方 の領域に対しても揉み玉93によるマッサージを行うことができる。」と記載され ていることからすると,本件発明1において,マッサージ手段は被施療者に対して 接近したり離れたりするものであると理解することができる。 したがって,本件発明1の「被施療者に対する進退移動の範囲を大きくする」こ とが,「被施療者に対して接近したり離れたりする」ものでなく,「被施療者に対 する前進及び後退移動の範囲を大きくする」と理解する原告の主張は誤りである。 イ 甲7発明の空気袋71が被施療者を上昇させるタイミングと施療機28の施 療子281が被施療者の下方の領域をも施療するタイミングが同期しているかにつ いて,甲7には何ら開示,示唆がないのであるから,甲1発明を甲7発明に適用し ても本件発明1の技術的思想に到達することはできない。 また,甲1発明において,当該身体昇降手段(臀部用エアバッグa3)により当 該施療者の身体を上昇させて前記マッサージ手段の被施療者に対する進退移動の範 囲を大きくすること(揉み玉駆動ユニット9を適宜位置まで前進させる)が開示さ れていたとしても,甲7発明はマッサージ手段(施療子281)が被施療者に対し て接近したり離れたりするものではない。原告は,甲7発明及び甲1発明の記載を 渾然とした状態で主張しているにすぎず,甲7発明のどの構成を,甲1発明のどの 構成に置き換えて適用すると,本件発明1の技術的意義に到達するといえるのかに ついて,具体的に主張していない。 したがって,甲7発明に甲1発明を適用しても,本件発明1の発明特定事項の技 術的意義に到達することができないのであるから,甲7発明に甲1発明を適用する 動機付けがなく,当業者が相違点2の構成に容易に想到することはできない。 (4) 以上によれば,本件発明1は,甲7発明及び甲1発明に基づいて,当業者が 容易に想到し得るということはできない。 5 取消事由5(本件発明2ないし本件発明4の容易想到性の判断の誤り)につ いて 〔原告の主張〕 本件発明1は当業者が容易に想到し得る以上,本件発明2ないし本件発明4につ いても,同様に当業者が容易に想到し得るというべきである。 〔被告らの主張〕 本件発明1は当業者が容易に想到し得るとはいえない以上,本件発明2ないし本 件発明4についても,同様に当業者が容易に想到し得るということはできない。 第4 当裁判所の判断 1 本件発明について 本件発明の特許請求の範囲は,前記第2の2に記載のとおりであるところ,本件 明細書(甲8,12)には,おおむね次の記載がある(図面については,別紙1の 本件明細書図面目録を参照。)。 (1) 技術分野 本発明は,座部及び背もたれ部を備えるマッサージ機に関し,特に,被施療者の 臀部のマッサージを行うマッサージ機に関する(段落【0001】)。 (2) 背景技術 本発明の背景技術となるマッサージ機は,甲1に示すものがあり,これは,別紙 2の図1のように,マッサージ機本体100は,被施療者Mが着する座部101と, これを支持する基台部102と,座部101の後側にリクライニング可能に連結し た背もたれ部104と,座部の前側に上下方向へ揺動可能に連結した脚載部106 とを備えており,座部101の両側には,肘掛部107,107が立設している (段落【0002】)。 背もたれ部104の中央を通る縦軸上には,機械的マッサージを行う叩き機構と 揉み機構を有するマッサージユニット4が埋設してあり,マッサージユニット4は 背もたれ部104内にその両側縁から距離を隔てて互いに平行に縦設したガイドレ ールによって案内されて,昇降するようにしてある。マッサージユニット4には, 被施療者Mの身体に背もたれ部104の表面部を介して当接してマッサージを行う 揉み玉5,6を具備する揉み玉駆動ユニットが前後方向に揺動可能に配設してある (段落【0003】)。 座部101には,該座部101の寸法より少し短い長さ寸法を有する横長の臀部 用エアバッグa3及び腿部用エアバッグa4が,座部101の奥側から順に,互い に距離を隔てて埋設してある。これらの各エアバッグa1,a2,…は,基台部1 02内に格納した給排気部によって配置位置別に給排気されるようになっている (段落【0004】)。 これにより,揉み玉による背中下方部の機械的マッサージと,座部に設けたエア バッグによる臀部の上下移動を伴うエアマッサージとを交互にまたは同時に行うこ とができる。また,臀部全体の上方の領域を後方から強くマッサージする動作と, 臀部全体の下方の領域を下からソフトにマッサージする動作とを繰り返すため,筋 肉の緊張がより緩和され,被施療者に対するマッサージ効果も向上するというもの である(段落【0005】)。 (3) 発明が解決しようとする課題 ア しかしながら,従来技術では,背もたれ部104のガイドレールに沿って揉 み玉5,6が上下動して臀部をマッサージする構成であることから,揉み玉5,6 の移動が座部101の上面で制限されて,座部101に着座する被施療者の臀部全 体の下方の領域を十分にマッサージすることができないという課題を有する(段落 【0006】)。 イ 被施療者が臀部全体の領域近傍を揉み玉5,6により強くマッサージしたい 場合に,被施療者の臀部全体の下方の領域に直接接触しているエアバッグa3が邪 魔になり揉み玉5,6による強いマッサージを十分に受けることができないという 課題を有する(段落【0007】)。 ウ 座部101に設けたエアバッグa3により被施療者の臀部を上下動させるが, エアバッグにエアが給気された場合にエアバッグの上面が丸みをおびた状態になっ てしまうため,被施療者が不安定となり危険な場合がある(段落【0008】)。 エ 従来技術では,背中のマッサージと臀部のマッサージとを個別独立して別途 に行われることから,背中から臀部にかけて揉み玉5,6による揉み,叩きのマッ サージを一連に実行できないという課題を有する(段落【0009】)。 オ 本発明は,前記課題を解決するためにされたものであり,被施療者の臀部に 対して揉み玉による揉みや叩きのマッサージを十分に施すことができるマッサージ 機を提供することを目的とする(段落【0010】)。 (4) 課題を解決するための手段 (臀部のマッサージ) 本発明に係るマッサージ機は,被施療者が着座する座部と,当該座部に連接され 当該被施療者の背中を支持する背もたれ部と,当該背もたれ部に当該被施療者の少 なくとも背部をマッサージするマッサージ手段を備えるマッサージ機であって,前 記被施療者の右臀部を押圧して少なくとも当該被施療者の右臀部を昇降させる第1 の身体昇降手段と当該被施療者の左臀部を押圧して少なくとも当該被施療者の左臀 部を昇降させる第2の身体昇降手段とを所定の距離を空けて備え,当該第1の身体 昇降手段及び第2の身体昇降手段により当該被施療者の身体を上昇させて前記マッ サージ手段の被施療者に対する進退移動の範囲を大きくすることで,当該第1の身 体昇降手段と当該第2の身体昇降手段との間の領域を,被施療者における前後方向 の領域を含めて,被施療者における臀部の下方の領域をも前記マッサージ手段で施 療することを特徴とする(段落【0011】)。 このように,本発明においては被施療者の右臀部を押圧して少なくとも当該被施 療者の右臀部を昇降させる第1の身体昇降手段と,被施療者の左臀部を押圧して少 なくとも当該被施療者の左臀部を昇降させる第2の身体昇降手段という2つの別々 の昇降手段を所定の距離を空けて備え,第1の身体昇降手段及び第2の身体昇降手 段により当該被施療者の身体が上昇している状態で,第1の身体昇降手段と第2の 身体昇降手段との間をマッサージ手段で施療するため,被施療者の臀部近傍を背も たれ部に備えられたマッサージ手段により効果的にマッサージすることができる (段落【0012】)。 また,これまでは身体昇降手段とマッサージ手段の関連性がなく,個別独立にマ ッサージを行っていたが,身体昇降手段の昇降動作と背もたれ部に備えられたマッ サージ手段を連動させることで,被施療者の臀部から腰部にかかる領域のマッサー ジを一連の動作でシームレスに施療することができる(段落【0013】)。 なお,マッサージ手段が施療する第1の身体昇降手段と第2の身体昇降手段の間 とは,第1の身体昇降手段と第2の身体昇降手段の間の領域のみではなく,被施療 者における前後方向の領域も含む(段落【0014】)。 (安定性) 本発明においては,第1の身体昇降手段及び第2の身体昇降手段の外周における 対向する内側を座部に支持されて固定され,外側を昇降させるため,被施療者の身 体を上昇させる時に被施療者の臀部が,それぞれの昇降手段に収まるようにして上 昇することで,被施療者の身体を安定させて安全に昇降することができる(段落 【0015】)。 (5) 本発明の第1の実施形態 別紙1の図1は本実施形態に係るマッサージ機の全体斜視図,図2は本実施形態 に係るマッサージ機の側面断面図である(段落【0022】)。 ア マッサージ機全体の構成 本実施形態におけるマッサージ機の基本的構成要素は,被施療者の背中を支持す る背もたれ部2と,この背もたれ部2の下端と接し被施療者が着座した場合に被施 療者の臀部を支持する座部1と,当該座部1を支持する基台部5と,基台部5に接 合し被施療者の肘を支持する肘置部10と,座部1の先端下側に枢設され被施療者 の足が載置される脚載部3と,背もたれ部2の内部に揉み玉93及び揉み玉93を 動作させる揉み玉機構を有するメカユニット70とを備える構成である(段落【0 023】)。 イ 座部のエアバッグ 座部1には,当該座部1の幅より少し短い長さを有する横長の腿部用エアバッグ a4が配設されている。腿部用エアバッグa4の奥側には右臀部用エアバッグa3 1と左臀部用エアバッグa32が所定の距離を空けて併設されている。これらの各 エアバッグは,基台部5内に格納された給排気部によってそれぞれ給排気されるよ うになっている(段落【0033】)。 ウ 各エアバッグの機能 各エアバッグa1,a2,…は空気の給排気により伸縮したり,膨張,収縮する ことでそれぞれのエアバッグが配置された位置における体の各所を刺激してマッサ ージを行う。また,揉み玉によるマッサージと組み合わせることで,より効果的な マッサージを行うことができる。脚上部用エアバッグa1,及び脚下部用エアバッ グa2にはエアによる直接的なマッサージ機能以外にも脚を固定する機能も有する。 脚上部用エアバッグa1,及び脚下部用エアバッグa2は被施療者の脚を狭持する ことで脚を固定し,その状態で脚載部3を被施療者から離れる方向にスライドさせ ることで伸びによるストレッチ効果を得ることができる。また,脚載部3を下方に 回動させることで同じように伸びによるストレッチ効果が得られる(段落【003 4】)。 また,腿部用エアバッグa4,右臀部用エアバッグa31,及び左臀部用エアバ ッグa32はエアによる直接的なマッサージ機能以外にも,被施療者の体を昇降さ せる機能を有する。被施療者の体を上昇させることで,通常ではメカユニット70 の揉み玉93が届かないような被施療者の腰から臀部近傍にも揉み玉93によるマ ッサージを施すことができる。本実施形態に係るマッサージ機では,右臀部用エア バッグa31と左臀部用エアバッグa32との間には所定の距離が空いており,被 施療者の体を上昇させた際にはその距離に対応した空間を被施療者の腰から臀部の 近傍に確保することができる。したがって,従来は被施療者を支持するためのエア バッグが邪魔になってマッサージができなかった箇所にもマッサージを施すことが できるようになる(段落【0035】)。 エ 腰,臀部のマッサージ 別紙1の図6は腰部から臀部近傍に対してメカユニット70によるマッサージを 図示した模式図である。図6(a)は被施療者の上方から見た場合の上面図であり, 図6(b)は被施療者の後方から見た場合の背面図である。被施療者Mが座部1に 着座した際,腿部用エアバッグa4は被施療者Mの大腿部の裏に当接している。ま た,右臀部用エアバッグa31は被施療者Mが着座した際に被施療者Mの右臀部, 左臀部用エアバッグa32は被施療者Mが着座した際に被施療者Mの左臀部にそれ ぞれ当接している。そして,メカユニット70の揉み玉93は,揉み上げ,揉み下 げ等のマッサージを行いながら被施療者Mの首から腰にかけて当接して揉み,叩き のマッサージを施す。しかしメカユニット70が昇降移動できる範囲には制限があ るため,被施療者Mが座部1に着座した状態であれば,非施療者Mの腰部近傍まで はマッサージできても,臀部まではマッサージをすることができない。そこで,そ れぞれの臀部用エアバッグに給気することにより被施療者の体を上昇させ,メカユ ニット70の揉み玉93が届く高さまで臀部の位置を移動させることで,臀部のマ ッサージを行う(段落【0037】)。 図6(b)は右臀部用エアバッグa31及び左臀部用エアバッグa32に給気し て膨張した場合の被施療者の背面図である。図示したように右臀部用エアバッグa 31及び左臀部用エアバッグa32に給気することにより,被施療者Mの体はそれ ぞれのエアバッグの膨張に合わせて上昇する。被施療者Mの体が上昇したら被施療 者Mの体と座部1との間に空間Sができる。この空間を利用することで被施療者M の腰部及び臀部に対してメカユニット70によるマッサージを施すことができる。 従来であれば右臀部用エアバッグa31と左臀部用エアバッグa32に分けずに一 つの臀部用エアバッグとして被施療者Mの腰部及び臀部にマッサージを行っていた ため,図の揉み玉93の位置には臀部用エアバッグが存在し,揉み玉93によるマ ッサージを十分に受けることができなかったが,本実施形態に係るマッサージ機に おいては空間Sを確保しているため,被施療者Mの腰部及び臀部に対して揉み玉9 3によるマッサージを十分に行うことができる。またこの時,臀部の下方には空間 Sがあり,揉み玉93の被施療者Mに対する進退移動の範囲を大きくすることで, 臀部の下方の領域に対しても揉み玉93によるマッサージを行うことができる(段 落【0038】)。 オ 以上,本発明に係るマッサージ機では,従来はできなかった被施療者Mの臀 部を揉み玉93により効果的にマッサージすることが可能となる。 なお,上記各実施形態ではエアバッグにより被施療者Mの身体を昇降させるよう にしたが,エアバッグに限定せずに被施療者Mの体を昇降できるものであればよい (段落【0065】)。 2 取消事由1(甲1発明ないし甲7発明に基づく本件発明1の容易想到性の判 断の誤り)について (1) 甲1発明について 甲1には,おおむね次の記載がある(図面については,別紙2の甲1図面目録を 参照。)。 ア 特許請求の範囲 【請求項1】 椅子型マッサージ機本体の背もたれ部に機械的マッサージを行う揉み玉を設ける と共に,前記マッサージ機本体の腕載部にエアマッサージを行うエアバッグを設け, 前記エアバッグの膨張により腕部を狭持しながら前記揉み玉により背中部を機械的 にマッサージするようにしたマッサージ機。 【請求項5】 椅子型マッサージ機本体の背もたれ部に機械的マッサージを行う揉み玉を設ける と共に,前記マッサージ機本体の座部にエアマッサージを行うエアバッグを設け, 前記揉み玉による背中下方部の機械的マッサージと,臀部の上下移動を伴う前記エ アバッグによる臀部のエアマッサージとを交互に又は同時に行うようにしたマッサ ージ機。 イ 発明が解決しようとする課題 従来のマッサージ機にあっては,確かに,機械的マッサージとエアマッサージと を両方組み合わせて実施可能ではあるが,その機能を十分に生かしたものとはいえ なかった(段落【0008】)。 すなわち,上記マッサージ機においては,機械的マッサージとエアマッサージと を組み合わせた複合的なマッサージを実施可能といえども,より効果的な複合マッ サージを実施するための自動的制御については具体的な提案がされていなかった (段落【0009】)。 本発明は,このような事情に鑑みてされたものであって,その目的とするところ は,機械的マッサージ部及びエアマッサージ部によって,高いマッサージ効果を奏 することが可能なマッサージ機を提供することにある(段落【0010】)。 ウ 課題を解決するための手段 請求項1記載の本発明では,椅子型マッサージ機本体の背もたれ部に機械的マッ サージを行う揉み玉を設けると共に,前記マッサージ機本体の腕載部にエアマッサ ージを行うエアバッグを設け,前記エアバッグの膨張により腕部を狭持しながら前 記揉み玉により背中部を機械的にマッサージするようにした(段落【0011】)。 請求項5記載の本発明では,椅子型マッサージ機本体の背もたれ部に機械的マッ サージを行う揉み玉を設けると共に,前記マッサージ機本体の座部にエアマッサー ジを行うエアバッグを設け,前記揉み玉による背中下方部の機械的マッサージと, 臀部の上下移動を伴う前記エアバッグによる臀部のエアマッサージとを交互に又は 同時に行うようにした(段落【0015】)。 エ 発明の実施の形態 本発明に係るマッサージ機は,椅子型に形成したマッサージ機本体に機械的マッ サージを行う揉み玉とエアマッサージを行うエアバッグとを設けて,揉み玉の作動 とエアバッグの作動とを組合せることにより,効果的なマッサージを実施可能とし ている(段落【0021】)。 前記揉み玉は,マッサージ機本体の背もたれ部に昇降自在に設けており,使用者 の臀部,腰部,背中部,肩部,頸部等を揉んだりたたいたりしながらマッサージす ることができる(段落【0022】)。 また,前記エアバッグは,マッサージ機本体の背もたれ部,座部,脚載部,腕載 部等に適宜設けており,エアバッグを設けた場所に応じて,使用者の脚部,腿部, 臀部,腰部,背中部,肩部,頸部,腕部等を押圧してマッサージすることができる (段落【0023】)。 揉み玉とエアバッグとを組み合わせて行うマッサージとしては,例えば以下に示 す7種類のパターンが考えられる(段落【0024】)。 5番目は,揉み玉による背中下方部の機械的マッサージと,座部に設けたエアバ ッグによる臀部の上下移動を伴う臀部のエアマッサージとを交互に又は同時に行う パターンである。かかるマッサージを行うことにより,揉み玉とエアバッグとを交 互に作動させたときには,強さやマッサージ領域や体感の異なるマッサージを交互 に施すことができ,使用者に対するマッサージ効果を向上させることができる。一 方,揉み玉とエアバッグとを同時に作動させたときには,エアバッグにより持ち上 がった臀部に対して揉み玉による機械的マッサージを施すことができ,使用者に対 して,所謂ヒップアップ効果を与えることができる(段落【0040】)。 オ 実施例 別紙2の図1は,本発明に係るマッサージ機の一実施例を示す斜視図であり,図 中,100は椅子型のマッサージ機本体である。また,図2は,図1に示したマッ サージ機Aの側面視による説明図である。マッサージ機本体100は,使用者Mが 着する座部101,この座部101を支持する基台部102,座部101の後側に 枢軸103を介してリクライニング可能に連結した背もたれ部104,及び座部1 01の前側に略L字状の枢支連結部材105を介して上下方向へ揺動可能に連結し た脚載部106とを備えており,座部101の両側には肘掛部107,107が立 設してある(段落【0052】)。 支持アーム108と背もたれ部104の下端近傍の部分との間にも,リニア動作 する背もたれ部用アクチュエータ112が架設してあり,該背もたれ部用アクチュ エータ112の進退動作によって,背もたれ部104を前記枢軸103回りに揺動 させて,適宜の角度にリクライニングさせ得るようになっている。この背もたれ部 用アクチュエータ112には,後述するリクライニング用モータ113から駆動力 が与えられるようになっており,与えられた駆動力によって背もたれ部用アクチュ エータ112は進退動作する。また,前記枢軸103の近傍に,背もたれ部104 の揺動角度(リクライニング角度)を検出するリクライニング角度検出センサ11 4が配設してある(段落【0054】)。 脚載部106は,内部に2つの半円筒状の脚受115,115を互いに平行に設 けて,正面視が略上断めがね枠形をなしており,脚受115,115の各両内側に は,左右に対をなす脚上部用エアバッグa1,a1,a1,a1及び脚下部用エア バッグa2,a2,a2,a2が,それぞれ脚受115,115の中心軸の軸長方 向へ距離を隔てて配設してある。また,座部101には,該座部101の幅寸法よ り少し短い長さ寸法を有する横長の臀部用エアバッグa3及び腿部用エアバッグa 4が,座部101の奥側からこの順に,互いに距離を隔てて埋設してある(段落 【0055】)。 マッサージユニット4には,使用者Mの身体に,背もたれ部104の表面部を介 して当接してマッサージを行う揉み玉5,6を具備する揉み玉駆動ユニット9が前 後方向に揺動可能に配設してある(段落【0064】)。 すなわち,マッサージユニット4は,マッサージユニットケーシング22の下部 に左右幅方向に向けて伸延させた状態で配設した昇降軸28の中央部に,揉み玉駆 動ユニット9を構成する揉み玉駆動ユニットケーシング37が,前後方向へ向けて 揺動自在に取付けてある。かかる前後方向への揺動により,揉み玉駆動ユニット9, ひいては揉み玉5,6が前後方向へ進退することになる(段落【0065】)。 本実施例では,別紙2の図11に示したように,揉み玉駆動ユニット9を進退さ せることによって,揉み玉5,6を背もたれ部104の内部に収納した収納位置 (図11において,揉み玉5,6の先端が符号L1で示す線上に位置する。),極 めて弱いマッサージを行うさすり位置(図11において,揉み玉5,6の先端が符 号L2で示す線上に位置する。),弱いマッサージを行う弱位置(図11において, 揉み玉5,6の先端が符号L3で示す線上に位置する。),中程度のマッサージを 行う中位置(図11において,揉み玉5,6の先端が符号L4で示す線上に位置す る。),強いマッサージを行う強位置(図11において,揉み玉5,6の先端が符 号L5で示す線上に位置する。),極めて強いマッサージを行う深位置(図11に おいて,揉み玉5,6の先端が符号L6で示す線上に位置する。)の6段階に進退 させることができるようにしてある(段落【0076】)。 また,進退用モータ38が駆動すると,駆動ギヤ40,駆動ウォーム42,進退 軸43を介してピニオンギヤ44,45が回動し,それに伴って揉み玉駆動ユニッ トケーシング37に取付けたラック46,47が移動して,揉み玉駆動ユニットケ ーシング37が前後方向に進退移動し,揉み玉5,6が前後方向に進退移動する (図11参照)。この際,制御ユニット16は,進退用駆動量検出手段としてのロ ータリーエンコーダ92から与えられる進退軸43の回動角度に基づいて,揉み玉 駆動ユニット9(揉み玉5,6)の進退量を検出している。この動作により,指圧 マッサージが可能となる(段落【0079】)。 別紙2の図22ないし図24は,マッサージユニット4による機械的マッサージ と座部101に配設したエアバッグa3(臀部用エアバッグa3)によるエアマッ サージとの複合マッサージを実行する手順を示すフローチャートである。制御ユニ ット16は,前述した如く検出した使用者Mの体形に基づいて,初期状態の基準位 置にあるマッサージユニット4を,使用者Mの臀部を含む背中下方部に対向する高 さ位置まで移動させた(ステップS131)後,揉み玉駆動ユニット9を適宜位置 まで前進させ(ステップS132),揉み玉駆動ユニット9をして揉み玉5,6に よる叩き及び/又は揉み等の機械的マッサージを実行させる(ステップS133)。 なお,この揉み玉駆動ユニット9による機械的マッサージは,予め定めた動作を実 行するようにしてあるが,操作部17を介して使用者Mが指定・変更可能にするこ ともできる(段落【0123】) 制御ユニット16は,揉み玉駆動ユニット9による所定の機械的マッサージを終 了させるタイミングであるか否かを判断し(ステップS134),そのタイミング であると判断するまでステップS133及びステップS134の動作を繰り返し, 終了のタイミングであると判断した場合,揉み玉駆動ユニット9を元の位置まで後 退させた(ステップS135)後,繰り返し臀部用エアバッグa3を膨張・収縮さ せるエアマッサージを開始する(ステップS136)(段落【0124】)。 制御ユニット16は,エアマッサージを終了させるタイミングであるか否かを判 断し(ステップS137),そのタイミングであると判断するまでステップS13 6及びステップS137の動作を繰り返し,終了のタイミングであると判断した場 合,臀部用エアバッグa3を全て排気させて(ステップS138),エアマッサー ジを終了する。制御ユニット16は,上述した機械的マッサージ及びエアマッサー ジを所定回数実行したか否かを判断し(ステップS139),そうであると判断す るまで,ステップS132〜ステップS139までの動作を繰り返すことによって, 臀部に交互複合マッサージを施す(段落【0125】)。 これによって,使用者Mの臀部に対して,機械的マッサージによる相対的に強い マッサージと,エアマッサージによる相対的にソフトなマッサージとを交互に施す ことができ,臀部を十分にマッサージすることができる。また,臀部の相対的に狭 い領域を後方から強くマッサージする動作と,臀部の相対的に広い面状領域を下方 からソフトにマッサージする動作とを繰り返すため,使用者Mに対するリラックス 効果が高い。これによって,筋肉の緊張がより緩和され,使用者Mに対するマッサ ージ効果も向上する(段落【0126】)。 このようにして背中部への交互複合マッサージが終了すると,制御ユニット16 は,臀部用エアバッグa3への給気を開始させ,給気開始から所定時間経過したか 否かを判断する(ステップS140,S141)。制御ユニット16は,給気開始 から所定時間経過するまで給気を実行させた後,給気停止して臀部用エアバッグa 3を膨張状態に維持させる(ステップS142)。これによって,使用者Mの臀部 が少し高い位置に維持される(段落【0127】)。 次に,制御ユニット16は,揉み玉駆動ユニット9を適宜位置まで前進させ(ス テップS143),揉み玉駆動ユニット9をして揉み玉5,6による揉み上げ等の 機械的マッサージを終了タイミングまで実行させる(ステップS144,S14 5)。これによって,使用者Mの臀部を持ち上げた状態で同臀部に対して揉み玉5, 6による機械的マッサージを施すことができ,臀部の下部側にも機械的マッサージ を施すことができる。したがって,使用者Mに対して,所謂ヒップアップ効果を与 えることができる(段落【0128】)。 (2) 甲1発明の認定について ア 前記(1)のとおり,甲1の段落【0127】【0128】には,甲1発明にお いて,臀部の下部側に対する施療として,臀部用エアバッグa3を膨張状態に維持 して使用者Mの臀部を少し高い位置に維持させて揉み玉駆動ユニット9を適宜位置 まで前進させることにより,使用者Mの臀部の下部側にも揉み玉5,6による機械 的マッサージを施すことが記載されている。 また,甲1の段落【0076】には,揉み玉駆動ユニット9を進退させることに よって,揉み玉5,6を背もたれ部104の内部に収納した収納位置から極めて強 いマッサージを行う深位置の6段階に進退させることが記載されており,揉み玉5, 6は前後方向へ進退する(段落【0065】)ものであるから,別紙2の図11や 甲1の段落【0064】【0065】【0076】の記載によれば,甲1発明にお いて,強いマッサージを行うために,揉み玉5,6の被施療者に対する前後方向へ の進退移動の範囲を大きくすることができることも記載されている。 イ もっとも,甲1には,臀部の下部側に対する施療を行っているときに,揉み 玉による強いマッサージ及び極めて強いマッサージを行うことや,強いマッサージ を行う位置に揉み玉駆動ユニットを前進させることは記載されておらず,段落【0 128】において,単に「揉み玉駆動ユニット9を適宜位置まで前進させ」と記載 されているにすぎない。 したがって,甲1には,臀部の下部側に対する施療として,揉み玉の被施療者に 対する前後方向への進退移動の範囲を大きくすることが特定されているものではな いから,甲1発明は,臀部の下部側に対して「強いマッサージを行うために,揉み 玉5,6の被施療者に対する前後方向への進退移動の範囲を大きくすることがで き」る構成を有するものではない。 ウ 本件発明1は,特許請求の範囲において,臀部の下方の領域の施療として 「マッサージ手段の被施療者に対する進退移動の範囲を大きくすること」が特定さ れているから,これとの対比において,甲1発明において,臀部の下部側に対する 施療を行っているときに揉み玉5,6の被施療者に対する前後方向への進退移動の 範囲を特定することが必要となる。 この点について,甲1には臀部の下部側に対する施療を行っているときの揉み玉 の進退移動の範囲は特定されておらず,揉み玉の移動範囲について関連する事項で ある揉み玉駆動ユニットの位置について「適宜位置まで前進させ」と記載されてい るにすぎないから,甲1発明は,「揉み玉駆動ユニットを適宜位置まで前進させ」 る構成を有するものと認定するほかない。 エ 被告らは,甲1の「揉み玉駆動ユニット9を適宜位置まで前進させ」との記 載は,「適宜位置まで」がどこまでの位置を示しているか不明瞭であって,当該記 載を前提に甲1発明を認定することは不適切であると主張するが,甲1の段落【0 128】によれば,適宜位置とは,揉み玉駆動ユニットを適宜位置まで前進させる ことにより,臀部の下部側に機械的マッサージを施すことができる位置を意味し, 臀部の下部側に機械的マッサージを施すことができる位置であると解することがで きるから,甲1発明について,「揉み玉駆動ユニット9を適宜位置まで前進させる ことで,使用者Mの臀部の下部側にも揉み玉5,6による機械的マッサージを施 す」ものと認定したからといって,本件発明1と対比することができないほど曖昧 であるとはいえない。 したがって,被告らの上記主張は採用することができない。 オ 以上によれば,本件審決の甲1発明の認定は誤りであって,正しくは以下の とおり認定すべきである。 「被施療者が着座する座部と,当該座部に連接され当該被施療者の背中を支持する 背もたれ部と,当該背もたれ部に当該被施療者の少なくとも背部をマッサージする 揉み玉5,6を備えるマッサージ機であって, 被施療者の右臀部及び左臀部を押圧して当該施療者の右臀部及び左臀部を昇降さ せる横長の臀部用エアバッグa3を備え, 臀部用エアバッグa3を膨張状態に維持して被施療者の臀部を少し高い位置に維 持させて揉み玉駆動ユニット9を適宜位置まで前進させることで,被施療者の臀部 の下部側にも揉み玉5,6による機械的マッサージを施すマッサージ機。」 (3) 本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点の認定の誤りについて 前記(2)オの甲1発明の認定を前提として,以下,本件発明1との一致点及び相違 点の認定について検討する。 ア 一致点の認定について (ア) 甲1発明の「揉み玉5,6」「揉み玉5,6による機械的マッサージを施 す」は,それぞれ本件発明1の「マッサージ手段」「マッサージ手段で施療する」 に相当する。 また,甲1発明の「右臀部及び左臀部を押圧して当該被施療者の右臀部及び左臀 部を昇降させる横長の臀部用エアバッグa3」は,被施術者の臀部を押圧して少な くとも当該被施術者の臀部を昇降させる身体昇降手段である限りにおいて,本件発 明1の「被施療者の右臀部を押圧して少なくとも当該被施療者の右臀部を昇降させ る第1の身体昇降手段と当該被施療者の左臀部を押圧して少なくとも当該被施療者 の左臀部を昇降させる第2の身体昇降手段」に相当する。 さらに,甲1発明の「臀部用エアバッグa3を膨張状態に維持して使用者Mの臀 部を少し高い位置に維持させ」ることは,身体昇降手段により被施療者の身体を上 昇させる限りにおいて,本件発明1の「当該第1の身体昇降手段及び第2の身体昇 降手段により当該被施療者の身体を上昇させ」ることに相当する。 (イ) 甲1発明の「臀部の下部側」が,本件発明1の「被施療者における前後方 向の領域」を含むか否かは明らかではないが,本件発明1の「被施療者における臀 部の下方の領域」のうちの「臀部の下部側」に相当することは明らかであるから, 甲1発明の「臀部の下部側」は,本件発明1の「臀部の下方の領域」のうちの「臀 部の下部側」の部分に相当する。 (ウ) 以上によれば,本件発明1と甲1発明との一致点は,次のとおり認定すべ きである。 「被施療者が着座する座部と,当該座部に連接され当該被施療者の背中を支持する 背もたれ部と,当該背もたれ部に当該被施療者の少なくとも背部をマッサージする マッサージ手段を備えるマッサージ機であって, 被施療者の臀部を押圧して少なくとも前記被施療者の臀部を昇降させる身体昇降 手段を備え, 身体昇降手段により被施療者の身体を上昇させて,被施療者における臀部の下部 側の領域をも前記マッサージ手段で施療するマッサージ機。」 (エ) この点について,原告は,「前記マッサージ手段の被施療者に対する進退 移動の範囲を大きくする」構成についても一致点として認定すべきである旨主張す る。 しかしながら,甲1には,臀部の下部側の領域に機械的マッサージを施すときに, 揉み玉駆動ユニット9を適宜位置まで前進させることは記載されていても,「前記 マッサージ手段の被施療者に対する進退移動の範囲を大きくする」ことは記載され ていない。そして,揉み玉駆動ユニット9の位置が強いマッサージを行う強位置あ るいは,極めて強いマッサージを行う深位置に前進させているのであれば,マッサ ージ手段に相当する揉み玉の被施療者に対する進退移動の範囲を大きくしていると いうことができるものの,甲1には,揉み玉駆動ユニットは適宜位置まで前進させ ることしか記載されておらず,また,臀部の下部側にマッサージを施すときに,揉 み玉駆動ユニットを強位置又は深位置に前進させることを示唆する記載もないから, 当該構成を一致点として認定することはできない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 イ 相違点の認定について (ア) 前記アの一致点の認定を前提とすると,本件発明1と甲1発明との相違点 1は,本件審決と同様に,前記第2の3(2)ア(ウ)のとおりとなる。 (イ) 原告は,本件発明1及び甲1発明は,構造的(ハード,構造)な観点から すると,「身体昇降手段」の構造が相違し,動作的(ソフト,制御)な観点からす ると,「マッサージ手段」の移動範囲が相違することは明らかであり,本件発明1 と甲1発明の相違点は,相違点1A及び相違点1Bのとおり認定すべきであると主 張する。 しかしながら,本件発明1において,相違点1に係る構成,すなわち,「前記被 施療者の臀部を押圧して少なくとも当該被施療者の臀部を昇降させる身体昇降手 段」が「前記被施療者の右臀部を押圧して少なくとも当該被施療者の右臀部を昇降 させる第1の身体昇降手段と当該被施療者の左臀部を押圧して少なくとも当該被施 療者の左臀部を昇降させる第2の身体昇降手段とを所定の距離を空けて備え」たも のであって,「当該第1の身体昇降手段及び第2の身体昇降手段により当該被施療 者の身体を上昇させて前記マッサージ手段の被施療者に対する進退移動の範囲を大 きくすることで,当該第1の身体昇降手段と当該第2の身体昇降手段との間の領域 を,被施療者における前後方向の領域を含めて,被施療者における臀部の下方の領 域をも前記マッサージ手段で施療する」構成を有しているのは,従来のマッサージ 機が被施療者が臀部全体の領域近傍を揉み玉により強くマッサージしたい場合に, 被施療者の臀部全体の下方の領域に直接接触しているエアバッグa3が邪魔になり 揉み玉による強いマッサージを十分に受けることができないという課題を有してい たこと(本件明細書の段落【0007】)から,課題解決手段として,「第1の身 体昇降手段及び第2の身体昇降手段により当該被施療者の身体を上昇させて前記マ ッサージ手段の被施療者に対する進退移動の範囲を大きくすることで,当該第1の 身体昇降手段と当該第2の身体昇降手段との間の領域を,被施療者における前後方 向の領域を含めて,被施療者における臀部の下方の領域をも前記マッサージ手段で 施療すること」(本件明細書の段落【0011】)により,「被施療者の臀部近傍 を背もたれ部に備えられたマッサージ手段により効果的にマッサージすることがで きる」(本件明細書の段落【0012】)ようにして解決したためである。このこ とは,本件明細書の段落【0035】に,「また,腿部用エアバッグa4,右臀部 用エアバッグa31,及び左臀部用エアバッグa32はエアによる直接的なマッサ ージ機能以外にも,被施療者の体を昇降させる機能を有する。被施療者の体を上昇 させることで,通常ではメカユニット70の揉み玉93が届かないような被施療者 の腰から臀部近傍にも揉み玉93によるマッサージを施すことができる。本実施形 態に係るマッサージ機では,右臀部用エアバッグa31と左臀部用エアバッグa3 2との間には所定の距離が空いており,被施療者の体を上昇させた際にはその距離 に対応した空間を被施療者の腰から臀部の近傍に確保することができる。従って, 従来は被施療者を支持するためのエアバッグが邪魔になってマッサージができなか った箇所にもマッサージを施すことができるようになる。」との記載があることか らも明らかである。 したがって,本件発明1における第1の身体昇降手段及び第2の身体昇降手段と 「マッサージ手段の被施療者に対する進退移動の範囲を大きくすること」とは,第 1及び第2の身体昇降手段により被施療者の身体が上昇している状態とさせたとき に,マッサージ手段の被施療者に対する進退移動の範囲を大きくすることで,第1 の身体昇降手段と第2の身体昇降手段との間を前記マッサージ手段で施療し,これ により,「当該第1の身体昇降手段と当該第2の身体昇降手段との間の領域を,被 施療者における前後方向の領域を含めて,被施療者における臀部の下方の領域をも 前記マッサージ手段で施療する」ようにしたことで,被施療者の臀部全体の下方の 領域に直接接触しているエアバッグa3が邪魔になり揉み玉による強いマッサージ を十分に受けることができないという課題を解決したものということができる。 そうすると,相違点1が構造的な観点と動作的な観点とに分けて把握することが 可能であるとしても,これらの構成は,本件発明1において,被施療者の臀部の下 方の領域をマッサージ手段で施療するために一体不可分な構成であるというべきで ある。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 ウ 以上によれば,本件審決の甲1発明の認定及び本件発明1と甲1発明との一 致点の認定は誤りではあるものの,本件発明1と甲1発明との相違点1の認定は, いずれにせよ本件審決と同様に認定すべきことになる。 したがって,以下,相違点1の構成が甲2発明ないし甲7発明から当業者が容易 に想到し得るか否かについて,検討する。 (4) 相違点1の判断について 原告は,甲2ないし5には,本件審決が認定するとおり,「前記被施療者の右臀 部を押圧して少なくとも当該被施療者の右臀部を昇降させる第1の身体昇降手段と 当該被施療者の左臀部を押圧して少なくとも当該被施療者の左臀部を昇降させる第 2の身体昇降手段とを所定の距離を空けて備え」た構成が開示されている以上,相 違点1Aに係る構成が記載されていることは明らかであると主張する。 しかしながら,前記のとおり,相違点1を相違点1A及び相違点1Bに分けて検 討することは相当ではないから,原告の主張は,その前提自体が誤りである。 以下,甲2ないし5に開示された技術的事項から,相違点1の構成が容易に想到 し得るかについて検討する。 ア 甲2発明ないし甲5発明の適用について (ア) 甲2ないし5には,前記第2の3(2)イ(ア)ないし(エ)のとおりの甲2発明 ないし甲5発明が記載されている。 (イ) 上記(ア)によれば,甲2発明ないし甲5発明は,前記被施療者の右臀部を 押圧して少なくとも当該被施療者の右臀部を昇降させる第1の身体昇降手段と当該 被施療者の左臀部を押圧して少なくとも当該被施療者の左臀部を昇降させる第2の 身体昇降手段とを所定の距離を空けて備えた構成を有するといえなくはないが,こ れらはいずれも被施療者の左右の臀部をマッサージするために被施療者の身体を昇 降させるものにすぎず,被施療者の身体を上昇させてその下部に空間を空けるもの ではない。 前記のとおり,本件発明1において,相違点1に係る構成を採用したのは,従来 のマッサージ機において,被施療者が臀部全体の領域近傍を揉み玉により強くマッ サージしたい場合に,被施療者の臀部全体の下方の領域に直接接触しているエアバ ッグa3が邪魔になり揉み玉による強いマッサージを十分に受けることができない という課題を有していたことから,課題解決手段として,「第1の身体昇降手段及 び第2の身体昇降手段により当該被施療者の身体が上昇している状態で,当該第1 の身体昇降手段と当該第2の身体昇降手段との間を前記マッサージ手段で施療する こと」により,「被施療者の臀部近傍を背もたれ部に備えられたマッサージ手段に より効果的にマッサージすることができる」ようにするためであるが,甲2ないし 5には,そのような課題は全く記載されていない。 したがって,甲2発明ないし甲5発明は,「当該第1の身体昇降手段及び第2の 身体昇降手段により当該被施療者の身体を上昇させて前記マッサージ手段の被施療 者に対する進退移動の範囲を大きくすることで,当該第1の身体昇降手段と当該第 2の身体昇降手段との間の領域を,被施療者における前後方向の領域を含めて,被 施療者における臀部の下方の領域をも前記マッサージ手段で施療する」構成を備え るものとはいえない。 また,甲1発明の臀部用エアバッグa3は,使用者Mの臀部を少し高い位置に維 持させて揉み玉駆動ユニット9を適宜位置まで前進させることにより,使用者Mの 臀部の下部側にも揉み玉5,6による機械的マッサージを施す手段であるが,被施 療者における前後方向の領域を含めて,被施療者における臀部の下方の領域をもマ ッサージ手段で施療するものではないから,当業者が,甲1発明の臀部用エアバッ グa3について,上記領域をマッサージ手段で施療するために,あえて甲2発明な いし甲5発明に開示された,被施療者の右臀部を押圧して少なくとも当該被施療者 の右臀部を昇降させる第1の身体昇降手段と当該被施療者の左臀部を押圧して少な くとも当該被施療者の左臀部を昇降させる第2の身体昇降手段とを有する構成に置 き換える動機付けは認められない。 したがって,甲2発明ないし甲5発明には,相違点1に関する全ての技術的事項 の開示があるとはいえず,甲1発明に甲2発明ないし甲5発明を適用する動機付け を認めることもできない。 (ウ) 原告は,この点について,甲18文献ないし甲21文献によれば,マッサ ージ手段に対してマッサージ具等を左右に配置してその間をマッサージ手段で施療 することや,マッサージ手段とマッサージ具等が干渉しないようにマッサージ具等 をマッサージ手段の左右に配置することは,当業者の技術常識ないし常套手段であ り,何かが邪魔になってマッサージを十分に受けることができないという課題は, 当業者がマッサージ機能を確認する上で必然的に生じる課題であって,ありふれた 課題にすぎないから,当業者は,特許請求の範囲の記載から本件発明1の技術的意 義を極めて容易に理解できるのであって,本件明細書の実施例に関する記載の「空 間」という文言に基づいて,本件発明1の技術的意義を具体化して認定する必要は ないなどと主張する。 しかしながら,本件発明1は,従来技術において,施術の対象とすることができ なかった被施療者の臀部の下方と座部との間を施術するために,マッサージ手段を 挿入することができる空間を確保するための構成として,相違点1の構成を採用し たものである。甲18文献ないし甲21文献において,マッサージ手段に対してマ ッサージ具等を左右に配置してその間をマッサージ手段で施療することや,マッサ ージ手段とマッサージ具等が干渉しないようにマッサージ具等をマッサージ手段の 左右に配置することが開示されていたとしても,本件発明1に想到するためには, 被施療者の臀部の下方と座部との間を施術するという課題を設定した上で,当該課 題を解決するための新たな試行錯誤が必要となるのであって,本件発明1が採用し た相違点1の構成を前提に,課題の設定や解決手段の選択が容易であるとする原告 の主張は,いわゆる後知恵というほかない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 イ 甲6発明及び甲7発明の適用について 原告は,甲6及び7には,相違点1Bに係る構成が記載されていることは明らか であると主張する。 しかしながら,前記のとおり,相違点1を相違点1A及び相違点1Bに分けて検 討することは相当ではないから,原告の主張は,その前提自体が誤りである。 以下,甲6及び7に開示された技術的事項から,相違点1の構成が容易に想到し 得るかについて検討する。 (ア) 甲6発明について 甲6には,おおむね次の記載がある(図面については,別紙7の甲6図面目録を 参照。)。 a 特許請求の範囲 【請求項1】 背もたれ部に上下昇降可能及び前後進退可能に施療体を配設し,前記背もたれ部 に設定した施療体の上下可動範囲内で,前記施療体を前記背もたれ部から第1の進 出限度位置まで前方進出可能としてマッサージを行なうマッサージ機において, 前記施療体の上下可動範囲内に設けた特別施療領域では,前記第1の進出限度位 置よりも前方に設定した第2の進出限度位置まで前記施療体の前方進出を許可して マッサージを行なうようにしたことを特徴とするマッサージ機。 【請求項2】 前記特別施療領域として,前記施療体の上下可動範囲の上端部分の上側特別施療 領域,及び/又は前記上下可動範囲の下端部分の下側特別施療領域を設定したこと を特徴とする請求項1記載のマッサージ機。 b 背景技術 従来,マッサージ機として,被施療者が腰掛ける座部の後部に背もたれ部を設け た椅子型のマッサージ機があり,例えば背もたれ部の背もたれ面に,もみ玉などを 具備するメカ式施療手段とエアバッグからなるエア式施療手段を設けて,被施療者 の背中を前記もみ玉による機械式と前記エアバッグによるエア式のマッサージを実 行可能としたマッサージする構成のものが広く知られている(段落【0002】)。 かかるマッサージ機では,被施療者が腰掛けて背もたれ部にもたれかかった状態 で,その背中に対して前記もみ玉を前後動,あるいは上下動させ,被施療者の背中 に「もみ」や「たたき」と同様の刺激を与えてマッサージを行うことができるとと もに,エアバッグにより背中を優しく押圧してエアマッサージを行うことができる ことから,腰掛けてリラックスした状態で効果的にマッサージすることできるよう になっている(段落【0003】)。 c 発明が解決しようとする課題 しかしながら,もみ玉を用いて被施療者の肩部のマッサージを行う場合,もみ玉 が,肩部の背中に略連続する部分,すなわち肩部の背中側の稜部付近に当接するよ うにしてあるため,肩部に対するマッサージ効果が限定的であった。そのため,被 施療者の肩部に対してより大きなマッサージ効果が得られるマッサージ機が要求さ れていた(段落【0004】)。 本発明は,かかる事情に鑑みてなされたものであって,被施療者の肩部等に対し てより大きなマッサージ効果が得られるマッサージ機を提供する(段落【000 5】)。 d 課題を解決するための手段 請求項1記載の本発明は,背もたれ部に上下昇降可能及び前後進退可能に施療体 を配設し,前記背もたれ部に設定した施療体の上下可動範囲内で,前記施療体を前 記背もたれ部から第1の進出限度位置まで前方進出可能としてマッサージを行なう マッサージ機において,前記施療体の上下可動範囲内に設けた特別施療領域では, 前記第1の進出限度位置よりも前方に設定した第2の進出限度位置まで前記施療体 の前方進出を許可してマッサージを行なうようにしたことを特徴とする(段落【0 006】)。 請求項2記載の本発明は, 前記特別施療領域として,前記施療体の上下可動範囲 の上端部分の上側特別施療領域,及び/又は前記上下可動範囲の下端部分の下側特 別施療領域を設定したことを特徴とする(段落【0007】)。 e 発明の効果 請求項1記載の本発明では,背もたれ部に上下昇降可能及び前後進退可能に施療 体を配設し,前記背もたれ部に設定した施療体の上下可動範囲内で,前記施療体を 前記背もたれ部から第1の進出限度位置まで前方進出可能としてマッサージを行な うマッサージ機において,前記施療体の上下可動範囲内に設けた特別施療領域では, 前記第1の進出限度位置よりも前方に設定した第2の進出限度位置まで前記施療体 の前方進出を許可してマッサージを行なうようにしたため,特別施療領域に対応す る被施療者の所要部分に対して従来に無いより大きなマッサージ効果が得られる (段落【0015】)。 請求項2記載の本発明では,前記特別施療領域として,前記施療体の上下可動範 囲の上端部分の上側特別施療領域,及び/又は前記上下可動範囲の下端部分の下側 特別施療領域を設定したため,被施療者の肩部に対して,例えば当該肩部の上面中 央付近に存在する所謂つぼをその上方から指圧するようにマッサージすることがで き,また被施療者の臀部に対して,当該臀部の深部をマッサージして臀部の筋肉の みならず大腿筋をも効果的にマッサージすることができる(段落【0016】)。 f 発明を実施するための最良の形態 本発明に係るマッサージ機は,背もたれ部に上下昇降可能及び前後進退可能に施 療体を配設し,背もたれ部に設定した施療体の上下可動範囲内で,施療体を前記背 もたれ部から第1の進出限度位置まで前方進出可能としてあり,前記施療体の上下 可動範囲内に設けた特別施療領域では,前記第1の進出限度位置よりも前方に設定 した第2の進出限度位置まで施療体の前方進出を許可してマッサージを行なうよう にした(段落【0024】)。 この特別施療領域として,施療体の上下可動範囲の上端部分の上側特別施療領域, 及び/又は施療体の上下可動範囲の下端部分の下側特別施療領域を設定した(段落 【0025】)。 一方,マッサージ機には,施療体によるマッサージの基準位置を特定する基準位 置特定機能が設けてあり,この基準位置特定機能により特定された基準位置に応じ て,上側特別施療領域を決定する。例えば,予め設定した肩位置を基準位置として, この基準位置より少し下位置以上の領域を上側特別施療領域とする(段落【002 6】)。 また,別紙7の図1ないし図5に示すように,前記座部1には,その左右側に肘 掛部5,5を設けている。また,座部1の後部側には臀下部用エアバッグa4を, 前部側には腿部用エアバッグa5を,左右側には臀側部用エアバッグa6をそれぞ れ取り付けている(段落【0039】)。 エアバッグa1〜a8の動作は制御部Gによって制御されており,制御部Gは, エアバッグa1〜a8の膨縮に関わるエアポンプ25のオン・オフ動作や各エアバ ッグa1〜a8に対して給排気を行うための電磁弁の開閉動作を制御して,所要の エアバッグa1〜a8を膨張(膨出)・収縮させてエアマッサージを実行させるの である(段落【0045】)。 別紙7の図10は,本発明に係るマッサージ機Aのもみ玉7,7の前進制御を説 明する説明図であり,図中,3aは,背もたれ部の前面である。図10に示した如 く,制御部G(図9参照)には,マッサージユニット11のもみ玉7(7)を,背 もたれ部の前面3aから前方の予め定めた位置(例えば,前後ストローク長で65 mm程度の位置)までの間の適宜位置に進出させることが許可された第1進出限度 位置L1,及び当該第1進出限度位置L1より前方の所定位置(例えば,前後スト ローク長で110mm程度の位置)までの間の適宜位置に進出させることが許可さ れた第2進出限度位置L2が設定してある(段落【0069】)。 そして,制御部Gは,昇降方向の全領域に亘って,もみ玉7(7)を主に第1進 出限度位置L1内の適宜位置まで進出させて,種々のマッサージ動作を実行すると 共に後述する体形検出動作を実行し得るようになっている。一方,制御部Gは,後 述する如く基準位置たる被施療者Mの肩位置に基づいて定めた上側特別施療領域内, 及び被施療者Mの臀部部分に対応する下側特別施療領域内において,第1進出限度 位置L1を超え第2進出限度位置L2内の適宜位置までもみ玉7(7)を進出させ てマッサージを行ない得るようにしてある(段落【0070】)。 一方,下側特別施療領域LDは,いずれの被施療者Mに拘らず略一定であるので, 例えば座部1の表面の高さ位置から10cm上方の高さ位置までの領域に定めてあ る。このようにして定めた下側特別施療領域LDにおいて,もみ玉7(7)の進出 を第2進出限度位置L2内の適宜位置まで許可してマッサージを実行することによ って,被施療者Mの臀部を深部まで十分に施療することができる(段落【007 5】)。 また,もみ玉7,7が下側特別施療領域内に位置する場合も前同様,もみ玉7, 7が前記第1進出限度位置を越えて進出され得るため,もみ玉7,7が被施療者M の臀部の深部に当接して当該部分のみならず大腿部をも施療することができる(段 落【0123】)。 (イ) 甲6発明の適用について 前記(ア)によれば,甲6には,座部1の後部側に臀下部用エアバッグa4を,左 右側には臀側部用エアバッグa6をそれぞれ取り付けていること,被施療者Mの臀 部部分に対応する下側特別施療領域内において,第1進出限度位置L1を超え第2 進出限度位置L2内の適宜位置までもみ玉を進出させてマッサージを行ない得るこ とが記載されている。しかし,臀下部用エアバッグa4及び臀側部用エアバッグa 6により被施療者の身体を上昇させた状態で,第1進出限度位置L1を超える第2 進出限度位置L2内の適宜位置までもみ玉を進出させることは記載されていない。 これらのエアバッグは膨張(膨出)・収縮させてエアマッサージを実行させるため に設けられているものであり,エアバックにより被施療者の身体を上昇させ,その 状態において被施療者の臀部の下方の領域をもみ玉等のマッサージ手段で施療する ことは甲6には記載されていないから,甲6発明は,被施療者の臀部に対応する下 部特別施療領域内でもみ玉を大きく進出させる構成を有するにすぎないものである。 したがって,甲1発明を甲6発明に適用したとしても,当業者が相違点1の構成 に容易に想到し得るものではない。 また,甲1発明の臀部用エアバッグa3は,使用者Mの臀部を少し高い位置に維 持させて揉み玉駆動ユニット9を適宜位置まで前進させることにより,使用者Mの 臀部の下部側にも揉み玉5,6による機械的マッサージを施す手段であるが,被施 療者における前後方向の領域を含めて,被施療者における臀部の下方の領域をもマ ッサージ手段で施療するものではないから,当業者が,使用者Mの臀部を少し高い 位置に維持させて揉み玉駆動ユニット9を適宜位置まで前進させる構成である臀部 用エアバッグa3について,あえて甲6発明に開示されたエアマッサージを実行さ せるために設けられた臀下部用エアバッグa4及び臀側部用エアバッグa6の構成 に置き換える動機付けは認められない。 したがって,甲6発明には,相違点1に関する全ての技術的事項の開示があると はいえず,甲1発明に甲6発明を適用する動機付けを認めることもできない。 (ウ) 甲7発明について 甲7には,おおむね次の記載がある(図面については,別紙8の甲7図面目録を 参照。)。 a 特許請求の範囲 【請求項1】 背凭れ部と座部とを夫々湾曲部を介して一体的に形成した椅子本体に,これら背 凭れ部と座部に沿うよう湾曲部を介して一体的に形成したロングガイドレールを内 装すると共に該ロングガイドレールに沿って施療機を移動自在に設け,該椅子本体 を支持部材で一定高さに保持させて構成した事を特徴とする休息用椅子型施療機。 【請求項5】 前記施療機が,給排気装置に連動して膨縮する空気袋を備えた施療機である事を 特徴とする請求項1及び請求項2記載の休息用椅子型施療機。 b 従来の技術 従来,この種の休息用椅子型施療機としては,背凭れ部と座部を備えた椅子型マ ッサージ構造の,前記背凭れ部に背凭れ部の下方位置まで延びる延長部を有するロ ングガイドレールを配設するとともに,該ロングガイドレールに施療子を備えた駆 動機構をこれに沿って移動可能に設け,該駆動機構を制御機構で制御するよう構成 した椅子型マッサージ構造や,座部と座部の後部に配される背凭れ部とを備えた椅 子式マッサージ機の,背凭れ部の上端付近から少なくとも座部の前端付近の位置に かけて施療子を往復移動案内するロングガイドレールを備え,このロングガイドレ ール全体が座部と背凭れ部に沿うよう弧状に形成されていることを特徴とするロン グガイドレールを備えた椅子式マッサージ機が既に発明されている(段落【000 2】)。 前者の椅子型マッサージ構造においては,背凭れ部に背凭れ部の下方位置まで延 びる延長部を有するロングガイドレールを配設し,該ロングガイドレールに施療子 を備えた駆動機構をこれに沿って移動可能に設けているため,通常のマッサージ構 造ではマッサージし得ない腰部下部及び尻部上部に施療子を当接させてマッサージ することができるという利点がある(段落【0003】)。 また,後者のロングガイドレールを備えた椅子式マッサージ機においても,背凭 れ部の上端付近から少なくとも座部の前端付近の位置にかけて施療子を往復移動案 内するロングガイドレールを備え,このロングガイドレール全体が座部と背凭れ部 に沿うよう弧状に形成されているため,首筋から少なくとも大腿部までを連続して 全身マッサージでき,また,背凭れ部を傾動可能にする事で背凭れ部の倒伏により ロングガイドレールの下方部が座部下面に近接して,尻部下面をもマッサージでき, 且つ,座部の前部に足載せ部を配設して,ロングガイドレールの下方部が前記足載 せ部にまで延設することで,足載せ部に対するマッサージも行なうことができると いう利点がある(段落【0004】)。 c 発明が解決しようとする課題 従来のマッサージ構造やロングガイドレールを備えた椅子式マッサージ機におい ては,各々背凭れ部を倒伏させた場合に首部から尻部及び脹脛や足載せ部に亘る全 身のマッサージを行う事ができるのであるが,背凭れ部が最倒伏位置ではない状態 の,例えば起立側への傾伏状態や起立状態では,座部下面位置や足載せ部下面位置 に施療子が当接しないために,前述したような全身マッサージを施せないという問 題があった(段落【0005】)。 また,上記従来のものでは,背凭れ部を倒伏させた状態以外では全身マッサージ を施せない為に,施療者がリラックスした姿勢で全身マッサージを施したい場合や, テレビを視ながら全身マッサージを施したい場合等,所望のリクライニング角度で の全身マッサージを施すことは不可能であった(段落【0006】)。 本発明は,上記問題点を解消する為に成されたものであり,座部と背凭れ部を備 え,要するに脚載せ部を備えた椅子型施療機において,椅子全体と,該椅子に内装 される施療子及び該施療子を案内移動するガイドレールとの単一化を図って製造コ ストを低減させると共に,施療者が所望する任意の傾斜角度で頸部から足部に亘る 全身施療を施す事ができる休息用椅子型施療機を提供するものである(段落【00 07】)。 d 課題を解決するための手段 本発明の休息用椅子型施療機は,背凭れ部と座部とを夫々湾曲部を介して一体的 に形成した椅子本体に,これら背凭れ部と座部に沿うよう湾曲部を介して一体的に 形成したロングガイドレールを内装すると共に該ロングガイドレールに沿って施療 機を移動自在に設け,該椅子本体を支持部材で一定高さに保持させて構成したこと を特徴とするものである(段落【0008】)。 また,本発明の休息用椅子型施療機は,前記施療機が,給排気装置に連動して膨 縮する空気袋を備えた施療機であることを特徴とするものである(段落【001 2】)。 本発明の休息用椅子型施療機は,上記のように構成することにより次のような作 用をもたらす。 すなわち,本発明の休息用椅子型施療機は,背凭れ部と座部とを夫々湾曲部を介 して一体的に形成した椅子本体に,これら背凭れ部と座部に沿うよう湾曲部を介し て一体的に形成したロングガイドレールを内装すると共に該ロングガイドレールに 沿って施療機を移動自在に設けた構成であるため,椅子本体やガイドレールの規格 統一ができると共に部材コスト及び製造コストの低減を図って頸部と腰部の他,臀 部や大腿部に亘る全身施療を施すことができる施療機を得ることができる(段落 【0013】)。 また,本発明の休息用椅子型施療機は,前記施療機が,給排気装置に連動して膨 縮する空気袋を備えた施療機にしているため,空気袋による空圧施療をロングガイ ドレールに沿って全身に亘って移動可能に行なわせることができる(段落【001 7】)。 e 発明の実施の形態 以下に,本発明の休息用椅子型施療機を,図面に示す一実施形態に基づきこれを 詳細に説明する。 別紙8の図1は本発明の休息用椅子型施療機の一実施形態を示す斜視図であり, 図9は他の実施形態を示す説明図である(段落【0018】)。 椅子本体2は,例えば角パイプや丸パイプ等で身体の線に沿うような形状に部分 的に湾曲形成されたロングガイドレール24が,背凭れ部21の上端付近から脚載 置部23の前端付近の位置にかけて内設されており,該ロングガイドレール24は 施療子281を配設した施療機28を往復移動自在に設けられている(段落【00 20】)。 椅子本体2には,給排気装置29から給排気される圧空に連動して膨縮する空気 袋71の複数を椅子本体2の任意の場所に適宜に配設されており,空気袋による空 圧施療を行なわせることができるようにしている(段落【0022】)。 一対のロングガイドレール24・24上には,施療子281を配設した施療機2 8を往復移動自在に装備されており,該施療機28の施療子281は,身体支持枠 25に上下方向にわたって設けた開口部253に臨ませて,クッション材26の下 方から施療部位に当接できるようにしている(段落【0028】)。 以上のように構成された本発明の休息用椅子型施療機1は,別紙8の図5に示す ように,施療子281を椅子本体2の上端付近S1から下端付近S2にかけて移動 させることによって,頸部から足首に至るまで連続的に全身の施療を施すことがで きるのであるが,前記施療機28に,該施療機28の移動位置検出手段や移動範囲 を制御する制御機構を設ける事により,例えば,背凭れ部21や座部22及び脚載 置部23の位置を検出してその施療機28の移動範囲を自動制御させることができ るのであり,施療者の身長や要望に適応させた制御を可能にして無駄な範囲の施療 防止することができるようになる(段落【0032】)。 f 発明の効果 本発明の休息用椅子型施療機は,座部と背凭れ部を備え,要すれば脚載置部を備 えた椅子型施療機において,椅子全体と,該椅子に内装される施療子及び該施療子 を案内移動するガイドレールとの単一化を図って構成しているため,従来の椅子式 マッサージ機とは異なり,製造コストを低減させるとともに,施療者が所望する任 意の傾斜角度でリラックス状態で着座でき,しかもこの任意に設定した傾斜角度で 頸部から太腿部或いは足部に亘る全身施療を適宜に施すことができるものである (段落【0035】)。 (エ) 甲7発明の適用について 前記(ウ)によれば,甲7発明の背凭れ部と座部とに沿うように形成したロングガ イドレールには,施療機が往復移動自在に設けられているのであるから,施療子を 座部に沿って移動させる構成を有しているということができる。 また,甲7には,空気袋71の複数を椅子本体2の任意の場所に配設し,空気袋 による空圧施療を行なわせることも記載されている。しかし,甲7発明の空気袋は, 空圧施療を行うものであり,被施療者の身体を上昇させ,そのような状態で施療子 の被施療者に対する進退移動の範囲を大きくした施療を行うものではない。 したがって,甲1発明を甲7発明に適用したとしても,当業者が相違点1の構成 に容易に想到し得るものではない。 また,甲1発明の臀部用エアバッグa3は,被施療者の臀部を少し高い位置に維 持させて揉み玉駆動ユニット9を適宜位置まで前進させることにより,被施療者の 臀部の下部側にも揉み玉5,6による機械的マッサージを施す手段であるが,被施 療者における前後方向の領域を含めて,被施療者における臀部の下方の領域をもマ ッサージ手段で施療するものではないから,当業者が,被施療者の臀部を少し高い 位置に維持させて揉み玉駆動ユニット9を適宜位置まで前進させる構成である臀部 用エアバッグa3について,あえて甲7発明に開示された空圧施療を行うために設 けられた空気袋の構成に置き換える動機付けは認められない。 したがって,甲7発明には,相違点1に関する全ての技術的事項の開示があると はいえず,甲1発明に甲7発明を適用する動機付けを認めることもできない。 (5) 小括 以上のとおり,本件発明1は,甲1発明ないし甲7発明に基づいて,当業者が容 易に想到し得るということはできない。 3 取消事由2(甲1発明及び甲7発明に基づく本件発明1の容易想到性の判断 の誤り)について 前記2(4)イ(エ)のとおり,甲7発明には,相違点1に関する全ての技術的事項の 開示があるとはいえず,甲1発明に甲7発明を適用する動機付けを認めることもで きない以上,本件発明1は,甲1発明及び甲7発明に基づいて,当業者が容易に想 到し得るということはできない。 4 取消事由3(甲1発明ないし甲5発明及び甲7発明に基づく本件発明1の容 易想到性の判断の誤り)について 前記2のとおり,甲2ないし5及び7には,被施療者の身体を上昇させて,その ような状態で施療子の被施療者に対する進退移動の範囲を大きくした施療を行うこ とが記載されていないから,甲1発明に甲2発明ないし甲5発明及び甲7発明を適 用しても,相違点1の構成が得られるものではないのみならず,甲1発明に甲2発 明ないし甲5発明及び甲7発明を適用する動機付けを認めることもできない以上, 本件発明1は,甲1発明ないし甲5発明及び甲7発明に基づいて,当業者が容易に 想到し得るということはできない。 5 取消事由4(甲7発明及び甲1発明に基づく本件発明1の容易想到性の判断 の誤り)について (1) 甲7発明の認定について 原告は, 引用発明の認定は引用例の記載に基づいて本件発明との対比に必要な限 度で行うのが原則であるから,本件発明1では一切特定されていない,「湾曲部」 や「ロングガイドレール」という構成を含めて甲7発明を認定した本件審決は誤り であると主張する。 そこで判断するに,本件発明1は,「被施療者が着座する座部と,当該座部に連 接され当該被施療者の背中を支持する背もたれ部と,当該背もたれ部に当該被施療 者の少なくとも背部をマッサージするマッサージ手段を備える」構成を有する発明 であるから,マッサージ手段が備えられる場所が背もたれ部であることが特定され ているということができる。そうすると,本件発明1と対比する甲7発明について も,マッサージ手段に相当する構成が備えられる場所を特定し,対比する必要があ るというべきである。 甲7の段落【0013】【0020】の記載によれば,甲7発明の施療子281 は,背凭れ部21だけではなく,座部22にも沿うように形成されたロングガイド レール24に沿って移動可能に設けられているということができる。そして,甲7 発明においては,本件発明1のマッサージ手段に相当する施療子がロングガイドレ ール24に沿って設けられていることから,施療子281が設けられている場所を 特定するに当たり,ロングガイドレール24についても特定することが必要である。 さらに,本件発明1では,マッサージ手段が背もたれ部に備えられていることが特 定されているから,甲7発明においても,施療子281と背凭れ部21との関係を 明らかにするために,ロングガイドレール24が背凭れ部21と座部22に沿うよ うに形成されることを特定する必要がある。 したがって,「湾曲部」や「ロングガイドレール」という構成を含めて甲7発明 を認定した本件審決に誤りはなく,原告の上記主張は採用することができない。 (2) 本件発明1と甲7発明との相違点の認定の誤りについて 原告は,本件審決の甲7発明の認定が誤りであることを前提として,本件発明1 と甲7発明との相違点2の認定も誤りであると主張するが,前記のとおり,原告の 主張はその前提自体を欠くものである。 また,原告は,甲7発明の「施療子281」は,「座部に沿うよう移動」するも のであるが,「被施療者に対する前進及び後退移動の範囲を大きくする」ものであ るから,施療子281が背もたれ部に備えられたものでないことや,施療子281 が,被施療者に対する進退移動の範囲を大きくするものではないことを相違点2の 一部として認定した本件審決は誤りであるなどと主張する。 しかしながら,本件審決は,甲7発明の「被施療者の右臀部に空圧施療を施す空 気袋71と当該被施療者の左臀部に空圧施療を施す空気袋71」が,「施療子28 1」の「被施療者に対する前進及び後退移動の範囲を大きくする」ものではないと 認定しているのであって,「施療子281」が,「被施療者に対する前進及び後退 移動の範囲を大きくする」ものではないと認定しているわけではないから,原告の 主張は失当である。 さらに,原告は,相違点の認定に当たり,目的の認定は不要であって,「被施療 者の右臀部に空圧施療を施す空気袋71と当該被施療者の左臀部に空圧施療を施す 空気袋71」が「身体を昇降させること自体を目的としたものではない」ことを相 違点2の一部とした本件審決の認定は誤りであると主張する。 しかしながら,本件審決は,本件発明1の「当該第1の身体昇降手段及び第2の 身体昇降手段」が身体を昇降させる機能を有していることを前提として,対応する 部材である甲7発明の空気袋71が同様の機能を有していない点を相違点の一部と して認定するものであって,上記各部材の目的や機能を認定することが不要である ということはできない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 (3) 相違点2について ア 甲7には,空気袋71の複数を椅子本体2の任意の場所に配設し,空気袋に よる空圧施療を行なわせることが記載されているが,甲7発明の空気袋は,空圧施 療を行うものであり,被施療者の身体を上昇させ,そのような状態で施療子の被施 療者に対する進退移動の範囲を大きくした施療を行うものではない。 また,甲1発明の臀部用エアバッグa3は,使用者Mの臀部を少し高い位置に維 持させて揉み玉駆動ユニット9を適宜位置まで前進させることにより,使用者Mの 臀部の下部側にも揉み玉5,6による機械的マッサージを施す手段であるが,被施 療者における前後方向の領域を含めて,被施療者における臀部の下方の領域をもマ ッサージ手段で施療するものではない。 したがって,甲7発明を甲1発明に適用したとしても,当業者が相違点1の構成 に容易に想到し得るものではない。 また,当業者が,空圧施療を目的とする甲7発明の空気袋について,甲1発明に 開示された,使用者Mの臀部を少し高い位置に維持させて揉み玉駆動ユニット9を 適宜位置まで前進させることにより,使用者Mの臀部の下部側にも揉み玉5,6に よる機械的マッサージを施す手段である臀部用エアバッグa3に置き換える動機付 けは認められない。 イ 原告は,本件審決の本件発明1の技術的意義の認定は誤りであり,本件審決 が指摘する特定の意図を前提としなくても,甲7発明に甲1発明を適用することは 容易であると主張するが,その前提自体が誤りであることは,前記2(3)イのとおり である。 また,原告が主張する相違点2を前提として,当該相違点の構成は甲1発明に開 示されているとの原告の主張も,同様に,その前提自体が誤りである。 さらに,原告は,「マッサージ機」の属する技術分野における当業者の一般的な 課題が存在し,甲7発明と甲1発明とは,技術分野が同一で,かつ施療対象箇所も 同じであり,また,上記各発明は,発明の目的ないし課題が本件発明1と共通する のみならず,課題解決方法まで共通するから,甲7発明に甲1発明の構成を適用す る動機付けが認められるなどと主張する。 しかしながら,技術分野が同一であるからといって,直ちに各引用例を適用する 動機付けを認めることはできない。甲7発明の空気袋は空圧施療の機能を有するが, 甲1発明の臀部用エアバックa3のように被施療者の身体を上昇させること自体を 目的とした機能を有するものではない以上,甲7発明の空気袋と甲1発明の臀部用 エアバックa3はその目的及び機能が異なるのであるから,甲7発明及び甲1発明 に原告が主張する課題や解決手段における抽象的な共通性が認められることをもっ て,甲7発明に甲1発明を適用する動機付けを認めることはできない。 したがって,原告の上記各主張はいずれも採用することができない。 ウ 以上によれば,甲1発明には,相違点2に関する全ての技術的事項の開示が あるとはいえず,甲7発明に甲1発明を適用する動機付けを認めることもできない。 (4) 小括 以上のとおり,本件発明1は,甲7発明及び甲1発明に基づいて,当業者が容易 に想到し得るということはできない。 6 取消事由5(本件発明2ないし本件発明4の容易想到性の判断の誤り)につ いて 本件発明2ないし本件発明4は,本件発明1の発明特定事項を全て含み,さらに, 他の発明特定事項を付加した発明であるから,本件発明1が当業者に容易に想到し 得るとはいえない以上,本件発明2ないし本件発明4についても,同様に当業者が 容易に想到し得るということはできない。 7 そうすると,本件発明は,甲1発明ないし甲7発明に基づいて当業者が容易 に発明をすることができたものとはいえないから,本件審決の認定及び判断は相当 であって,取り消すべき違法はない。 第5 結論 以上の次第であるから,本件審決は相当であって,原告の請求は理由がないから, これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第4部 裁判長裁判官 富 田 善 範 裁判官 田 中 芳 樹 裁判官 荒 井 章 光 (別紙1) 本件明細書図面目録 【図1】 【図2】 【図6】 (別紙2) 甲1図面目録 【図1】 【図2】 【図11】 - 74 - 【図30】 (別紙3) 甲2図面明細書 【図3】 (別紙4) 甲3図面目録 【図1】 (別紙5) 甲4図面目録 【図20】 (別紙6) 甲5図面目録 【図5】 (別紙7) 甲6図面目録 【図1】 【図2】 【図3】 【図4】 【図5】 【図9】 【図10】 (別紙8) 甲7図面目録 【図1】 【図5】 【図9】 |