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事件 |
平成
25年
(行ケ)
10009号
審決取消請求事件
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2013/12/10 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
判例全文 | |
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判例全文
平成25年12月10日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 平成25年(行ケ)第10009号 審決取消請求事件 口頭弁論終結日 平成25年11月21日 判 決 原 告 日 本 精 工 株 式 会 社 訴訟代理人弁護士 増 井 和 夫 同 橋 口 尚 幸 同 齋 藤 誠 二 郎 訴訟代理人弁理士 井 上 義 雄 同 伊 藤 隆 治 被 告 株 式 会 社 山 田 製 作 所 訴訟代理人弁理士 岩 堀 邦 男 同 大 沼 加 寿 子 主 文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 特許庁が無効2011−800169号事件について平成24年12月3日にし た審決を取り消す。 第2 事案の概要 1 特許庁における手続の経緯等 (1) 原告は,発明の名称を「車両用ステアリング装置」とする特許第46134 02号(平成12年8月24日出願。国内優先権主張日:同年2月15日,同年4 月4日。平成22年10月29日設定登録。請求項の数6。以下「本件特許」とい う。)に係る特許権者である(甲24の1)。 1 (2) 被告は,平成23年9月13日,本件特許に係る発明の全てである請求項1 ないし6について特許無効審判を請求し,特許庁に無効2011−800169号 事件として係属した。特許庁は,平成24年3月13日, 「特許第4613402号 の請求項1ないし6に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をした。 原告は,これを不服として知的財産高等裁判所に上記審決の取消しを求める訴え (平成24年(行ケ)第10141号)を提起したところ,同裁判所は,平成24 年6月20日,平成23年法律第63号による改正前の特許法181条2項により, 同審決を取り消す旨の決定をし,同決定は確定した。 (3) 上記決定確定後の無効審判請求事件(無効2011−800169号事件) において,被告は,平成24年7月9日付けで訂正請求(甲37,以下「本件訂正」 という。)をしたところ,特許庁は,同年12月3日,本件訂正を認めた上,「特許 第4613402号の請求項1ないし6に係る発明についての特許を無効とする。」 との審決(以下「本件審決」という。)をし,同月13日,その謄本が原告に送達さ れた。 (4) 原告は,平成25年1月11日,本件審決の取消しを求めて本件訴訟を提起 した。 2 特許請求の範囲の記載 本件訂正後の特許請求の範囲請求項1ないし6の記載は次のとおりである(以下, これらの請求項に係る発明を,順に「本件発明1」ないし「本件発明6」といい, 併せて「本件発明」という。また,本件発明に係る明細書(甲37)を図面(甲2 4の1)を含め「本件明細書」という。。 ) 【請求項1】ステアリングシャフトの一方の端部側を回転自在に支持するアッパー 側のインナーコラムと, 前記ステアリングシャフトの他方の端部側を回転自在に支持すると共に,前記イ ンナーコラムを摺動自在に嵌合したロアー側のアウターコラムと, それぞれ,前記アウターコラムに一体に形成され,前記アウターコラムに軸方向 2 に連なり,軸方向に連続して前記インナーコラムを包持する包持面を備えた包持部 を形成して対をなし,それぞれ,該包持部に連なり互いに対向する面で軸方向に延 びる隙間を形成し,該対向する面の背側に前記インナーコラムの外径寸法よりも広 い間隔を有する車体側ブラケットに摺接する面を備え,前記包持部よりも肉厚で突 出した対向厚肉突出部を備えた一対のクランプ部材と, 前記車体側ブラケット及び前記対向厚肉突出部を貫通する締付け用のボルトと, 該ボルト上に設けられ互いに面接触した第1カム部材及び第2カム部材を相対回転 させることによって前記一対のクランプ部材を変形させ,互いに近接するように移 動させて,前記インナーコラムをこれら一対のクランプ部材により締め付け包持す るための締付手段と, 前記一対のクランプ部材よりも車両前方側で前記アウターコラムに設けられ,ス テアリングシャフトをチルト回動可能に,互いに対向する一対の板部材で構成され た車体側ロアーブラケットに支持するために前記アウターコラムに設けられた支持 部と, 車幅方向に配置され,該支持部に形成された筒状開口部と前記車体側ロアーブラ ケットに挿通されステアリングシャフトを車体側に傾動中心としてチルト回動自在 に支持するチルト中心ボルトと,を具備し, しかして前記締付手段の締め付けを解除してステアリングシャフトを軸方向に移 動して,ステアリングシャフトのテレスコピック位置及びチルト位置が調整自在で ある車両用ステアリング装置において, 前記アウターコラムは前記一対のクランプ部材と前記支持部と共に一体に形成さ れた鋳物であることを特徴とする車両用ステアリング装置。 【請求項2】ステアリングシャフトの一方の端部側を回転自在に支持するアッパー 側のインナーコラムと, 前記ステアリングシャフトの他方の端部側を回転自在に支持すると共に,前記イ ンナーコラムを摺動自在に嵌合し,車体側に回動自在に支持されたロアー側のアウ 3 ターコラムと, それぞれ,前記アウターコラムに一体に形成され,前記アウターコラムに軸方向 に連なり,軸方向に連続して前記インナーコラムを包持する包持面を備えた包持部 を形成して対をなし,それぞれ,該包持部に連なり互いに対向する面で軸方向に延 びる隙間を形成し,該対向する面の背側に前記インナーコラムの外径寸法よりも広 い間隔を有する車体側ブラケットに摺接する面を備えた対向厚肉突出部を備えた一 対のクランプ部材と, 前記車体側ブラケット及び前記対向厚肉突出部を貫通する締付け用のボルトと, 該ボルト上に設けられ互いに面接触した第1カム部材及び第2カム部材を相対回転 させることによって前記一対のクランプ部材を変形させ,互いに近接するように移 動させて,前記インナーコラムをこれら一対のクランプ部材により締め付け包持す るための締付手段と, 前記一対のクランプ部材よりも車両前方側で前記アウターコラムに設けられ,ス テアリングシャフトをチルト回動可能に,互いに対向する一対の板部材で構成され た車体側ロアーブラケットに支持するために前記アウターコラムに設けられた支持 部と, 車幅方向に配置され,該支持部に形成された筒状開口部と前記車体側ロアーブラ ケットに挿通されステアリングシャフトを車体側に傾動中心としてチルト回動自在 に支持するチルト中心ボルトと,を具備し, しかして前記締付手段の締め付けを解除してステアリングシャフトのチルト位置 が調整自在である車両用ステアリング装置において,前記アウターコラムは前記一 対のクランプ部材と前記支持部と共に一体に形成された鋳物であることを特徴とす る車両用ステアリング装置。 【請求項3】ステアリングシャフトの一方の端部側を回転自在に支持するアッパー 側のインナーコラムと, 前記ステアリングシャフトの他方の端部側を回転自在に支持すると共に,前記イ 4 ンナーコラムを摺動自在に嵌合したロアー側のアウターコラムと, それぞれ,前記アウターコラムに径方向外方に向けて設けられ,前記アウターコ ラムに軸方向に連なり,軸方向に連続して前記インナーコラムを包持する包持面を 備えた包持部を形成して対をなし,それぞれ,該包持部に連なり互いに対向する面 で軸方向に延びる隙間を形成し,該対向する面の背側に前記インナーコラムの外径 寸法よりも広い間隔を有する車体側ブラケットに摺接する面を備えた対向厚肉突出 部を備えた一対のクランプ部材と, 前記車体側ブラケットを介してこれら一対のクランプ部材を変形させ,互いに近 接するように移動させて,前記インナーコラムをこれら一対のクランプ部材により 締め付け包持するための締付手段と, 前記一対のクランプ部材よりも車両前方側で前記アウターコラムに設けられ,ス テアリングシャフトをチルト回動可能に,互いに対向する一対の板部材で構成され た車体側ロアーブラケットに支持するために前記アウターコラムに設けられた支持 部と, 車幅方向に配置され,該支持部に形成された筒状開口部と前記車体側ロアーブラ ケットに挿通されステアリングシャフトを車体側に傾動中心としてチルト回動自在 に支持するチルト中心ボルトと,を具備し, しかして前記締付手段の締め付けを解除してステアリングシャフトを軸方向に移 動して,ステアリングシャフトのテレスコピック位置及びチルト位置が調整自在で ある車両用ステアリング装置において, 前記アウターコラムは前記一対のクランプ部材と前記支持部と共に一体に形成さ れた鋳物であることを特徴とする車両用ステアリング装置。 【請求項4】ステアリングシャフトの一方の端部側を回転自在に支持するアッパー 側のインナーコラムと, 前記ステアリングシャフトの他方の端部側を回転自在に支持すると共に,前記イ ンナーコラムを摺動自在に嵌合したロアー側のアウターコラムと, 5 それぞれ,前記アウターコラムに径方向外方に向けて設けられ,前記アウターコ ラムに軸方向に連なり,前記インナーコラムを包持する包持面を備えた包持部を形 成して対をなし,それぞれ,該包持部に連なり互いに対向する面で軸方向に延びる 隙間を形成し,該対向する面の背側に前記インナーコラムの外径寸法よりも広い間 隔を有する車体側ブラケットに摺接する面を備えた対向厚肉突出部を備えた一対の クランプ部材と, 前記車体側ブラケットを介してこれら一対のクランプ部材を変形させ,互いに近 接するように移動させて,前記インナーコラムをこれら一対のクランプ部材により 締め付け包持するための締付手段と, 前記一対のクランプ部材よりも車両前方側で前記アウターコラムに設けられ,ス テアリングシャフトをチルト回動可能に,互いに対向する一対の板部材で構成され た車体側ロアーブラケットに支持するために前記アウターコラムに設けられた支持 部と, 車幅方向に配置され,該支持部に形成された筒状開口部と前記車体側ロアーブラ ケットに挿通されステアリングシャフトを車体側に傾動中心としてチルト回動自在 に支持するチルト中心ボルトと,を具備し, しかして前記締付手段の締め付けを解除してステアリングシャフトを軸方向に移 動して,ステアリングシャフトのテレスコピック位置及びチルト位置が調整自在で ある車両用ステアリング装置において, 前記アウターコラムは前記一対のクランプ部材と前記支持部と共に一体に形成さ れた鋳物であり, 前記クランプ部材の前記包持面は前記インナーコラム外周面に押圧接触している ことを特徴とする車両用ステアリング装置。 【請求項5】前記クランプ部材の前記包持面は前記インナーコラム外周面に周方向 で断続的に押圧接触していることを特徴とする請求項4に記載の車両用ステアリン グ装置。 6 【請求項6】ステアリングシャフトの一方の端部側を回転自在に支持するアッパー 側のインナーコラムと, 前記ステアリングシャフトの他方の端部側を回転自在に支持すると共に,前記イ ンナーコラムを摺動自在に嵌合したロアー側のアウターコラムと, それぞれ,前記アウターコラムに一体に形成され,前記アウターコラムに軸方向 に連なり,軸方向に連続して前記インナーコラムを包持する包持面を備えた包持部 を形成して対をなし,それぞれ,該包持部に連なり互いに対向する面で軸方向に延 びる隙間を形成し,該対向する面の背側に前記インナーコラムの外径寸法よりも広 い間隔を有する車体側ブラケットに摺接する面を備え,前記包持部よりも肉厚で突 出した対向厚肉突出部を備えた一対のクランプ部材と, 前記車体側ブラケットを介してこれら一対のクランプ部材を変形させ,互いに近 接するように移動させて,前記インナーコラムをこれら一対のクランプ部材により 締め付け包持するための締付手段と, 前記一対のクランプ部材よりも車両前方側で前記アウターコラムに設けられ,ス テアリングシャフトをチルト回動可能に,互いに対向する一対の板部材で構成され た車体側ロアーブラケットに支持するために前記アウターコラムに設けられた支持 部と, 車幅方向に配置され,該支持部に形成された筒状開口部と前記車体側ロアーブラ ケットに挿通されステアリングシャフトを車体側に傾動中心としてチルト回動自在 に支持するチルト中心ボルトと,を具備し, しかして前記締付手段の締め付けを解除してステアリングシャフトを軸方向に移 動して,ステアリングシャフトのテレスコピック位置及びチルト位置が調整自在で ある車両用ステアリング装置において, 前記アウターコラムは前記一対のクランプ部材と前記支持部と共に一体に形成さ れた鋳物であり, 前記鋳物はアルミ鋳物,マグネシウム系鋳物および鉄系鋳物の何れかであること 7 を特徴とする車両用ステアリング装置。 3 本件審決の理由の要旨 (1) 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりであり,要するに,本 件発明は,後記アの引用例1に記載された発明(以下「引用発明」という。,後記 ) イ及びウの引用例2及び3の各記載事項並びに周知技術に基づいて,当業者が容易 に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受け ることができないものであるから,本件特許は,同法123条1項2号の規定によ り無効とされるべきである,というものである。 ア 引用例1:特開昭62−74767号公報(甲1) イ 引用例2:実公昭38−24519号公報(甲3) ウ 引用例3:特開平8−225079号公報(甲4) エ 引用例4:特開2000−38146号公報(甲5) オ 周知例1:特公昭45−39291号公報(甲6) カ 周知例2:実公昭46−35777号公報(甲7) キ 周知例3:実公昭60−36513号公報(甲8) ク 周知例4:特開平6−211137号公報(甲9) ケ 周知例5:「鋳造品ハンドブック」日本鋳物協会,平成4年発行(甲10) コ 周知例6:「鋳造工学」中江秀雄,平成7年発行(甲11) サ 周知例7:「金属の百科事典」佐藤純一ほか,平成11年発行(甲12) シ 周知例8:「鋳物五千年の足跡」石野亨,平成6年発行(甲13) ス 周知例9:「機械工学便覧」日本機械学会,昭和62年発行(甲14) セ 周知例10:「アルミニウムハンドブック(第5版)」軽金属協会,平成6年 発行(甲15) ソ 周知例11: 「アルミニウム合金鋳物の実体強さ」軽金属協会,昭和61年発 行(甲16) タ 周知例12:実公平3−27898号公報(甲17) 8 チ 周知例13:実開平4−110672号公報(甲18) ツ 周知例14:特開2000−43738号公報(甲19) テ 周知例15:実公昭48−33845号公報(甲20) ト 周知例16:実願昭57−13310号(実開昭58−116476号)の マイクロフィルム(甲21) ナ 周知例17:実公平7−38044号公報(甲22) (2) 本件審決が認定した引用発明並びに本件発明1と引用発明との一致点及び 相違点は,次のとおりである。 ア 引用発明 「ステアリングシャフトを枢動及び伸縮抜差し軸方向移動により連続的に調整の できる固定装置を備えた乗り物のステアリングコラムであって, ステアリングコラム60の外側筒体はロアー側のコラムケーシング61と,これ に伸縮式に取付けたアッパー側の摺動筒体62よりなり, ステアリングシャフト65は,コラムケーシング61内に回転ベアリング67に より回転できるよう取付けた底部分66と,摺動筒体62内にベアリング69によ り自由に回転できるように取付けられたトップ部分68を有し, ステアリングコラムを支持する中間支持片材75は,2つの対称形の要素75a, 75bが折りたたみ板材より作られ,要素75bはコラムケーシング61の貫通す る半円形開口の全長にわたりコラムケーシング61に溶接され,中間支持片材75 の要素75aはコラムケーシング61が貫通できる半円形開口の半分にほぼ等しい 距離にわたりコラムケーシング61に溶接され,この要素75aの部分76はクラ ンプジヨーを形成し, 中間支持片材75は,乗り物のボデーなどの固定部分に堅固に取付けるための固 定装置72の,一端で互いにつなげられU字型構造体を形成する2つのほぼ平行状 のフランジ17a及び17bよりなる固定された支持片材14内に取付けられて, 中間支持片材75の2つの要素75a及び75bはフランジ17a及び17bに摺 9 接する面を備え,また,2つの要素75a及び75bのうちの一方(要素75a) のみ,摺動筒体62を押圧,保持する面を備え, フランジ17a及び17bの間隔は摺動筒体62の外径寸法よりも広く,フラン ジ17a及び17bには案内開口20が設けられ,タイロッド21がその両端で案 内開口20内に遊隙嵌合しており,中間支持片材75の要素75a,75bにはタ イロッド21が通過できる開口が設けられており, ハンドル13の操作でクランプを行うと,クランプ力はフランジ17a及び17 bに伝わり,それにより支持片材14の弾性変形の結果フランジ17a及び17b は互いに近接するように動き,中間支持片材75がフランジ17a及び17bの間 にクランプされ,中間支持片材75はその2つの要素75a及び75bを近づけ合 うように働くクランプ圧を受け,支持片75の部分76だけが要素75aの残り部 分につながった部分の弾性変形により動き,ジヨー76が摺動筒体62をクランプ して,コラムケーシング61を固定装置72の固定した支持片材14内に固定し同 時に摺動筒体62を中間支持片材75及びコラムケーシング61に対し固定するも のであり, フランジ17a及び17bを互いに近づけたり離したりするように動かすことに よりステアリングシャフトの枢動及び伸縮抜差し軸方向移動が連続的に調整可能と され, ステアリングコラムの高さはコラムが車のボデーに取付けられる水平軸線の周り の枢動により調整ができ,コラムの外側筒体は底部で孔のある2つの取付け突縁部 3と一体になっており,該2つの取付け突縁部3の孔とエラストマー製の2つの弾 性スペーサの中心孔とに通したねじによりコラムをボデーに取付けるフレキシブル な取付構成により,コラムは僅かに枢動し軸線の周りに調整が可能となって,傾斜 を一定範囲内で調整することができるステアリングコラム。」 イ 一致点 「ステアリングシャフトの一方の端部側を回転自在に支持するアッパー側のイン 10 ナーコラムと, 前記ステアリングシャフトの他方の端部側を回転自在に支持すると共に,前記イ ンナーコラムを摺動自在に嵌合したロアー側のアウターコラムと, 前記インナーコラムを押圧,保持する面を一方に備え,前記インナーコラムの外 径寸法よりも広い間隔を有する車体側ブラケットに摺接する面を備えた一対のクラ ンプ部材と, 前記車体側ブラケット及び一対のクランプ部材を貫通する締付け用のボルトと, 一対のクランプ部材を変形させ,互いに近接するように移動させて,インナーコラ ムをこれら一対のクランプ部材により締め付け保持するための締付手段と, 前記一対のクランプ部材よりも車両前方側で前記アウターコラムに設けられ,ス テアリングシャフトをチルト回動可能にするために前記アウターコラムに設けられ た支持部と, 該支持部に形成された構造によりステアリングシャフトを車体側に傾動中心とし てチルト回動自在に支持する取付構成と,を具備し, しかして前記締付手段の締め付けを解除してステアリングシャフトを軸方向に移 動して,ステアリングシャフトのテレスコピック位置及びチルト位置が調整自在で ある車両用ステアリング装置。」 ウ 相違点 (ア) 相違点1 本件発明1では,一対のクランプ部材が,それぞれ,アウターコラムに一体に形 成され,アウターコラムに軸方向に連なり,軸方向に連続してインナーコラムを包 持する包持面を備えた包持部を形成して対をなし,それぞれ,該包持部に連なり互 いに対向する面で軸方向に延びる隙間を形成し,該対向する面の背側に車体側ブラ ケットに摺接する面を備え,前記包持部よりも肉厚で突出した対向厚肉突出部を備 えており,締付け用のボルトが,前記対向厚肉突出部を貫通しているのに対し, 引用発明では,中間支持片材75を形成する2つの要素75a,75bは,支持 11 片材14のフランジ17a及び17bに摺接する面を備え,固定装置72によりそ の一方が動くことによって互いに近接して摺動筒体62を押圧,保持するものの, 両方の部材で包持するものではなく,したがって,包持面を備えた包持部及び該包 持部に連なる対向厚肉突出部を備えておらず,さらに,タイロッド21は,前記2 つの要素75a,75bを貫通してはいるものの,対向厚肉突出部を貫通する構成 とはなっていない点。 (イ) 相違点2 本件発明1では,ボルト上に設けられ互いに面接触した第1カム部材及び第2カ ム部材を相対回転させることによって一対のクランプ部材を変形させるのに対し, 引用発明では,中間支持片材75を変形させるための機構として,互いに面接触 する2つのカム部材を用いていない点。 (ウ) 相違点3 本件発明1では,支持部が,ステアリングシャフトを,互いに対向する一対の板 部材で構成された車体側ロアーブラケットに支持するためのものであり,車幅方向 に配置され,前記支持部に形成された筒状開口部と前記車体側ロアーブラケットに 挿通されるチルト中心ボルトを具備し,該チルト中心ボルトを傾動中心としてステ アリングシャフトを車体側にチルト回動自在に支持するのに対し, 引用発明では,支持部(取付け突縁部3)の構造はチルト回動の中心をなす構成 を有するものの,一対の板部材で構成された車体側ロアーブラケット,筒状開口部 及びチルト中心ボルトを備えるものではない点。 (エ) 相違点4 本件発明1では,アウターコラムは一対のクランプ部材と支持部と共に一体に形 成された鋳物であるのに対し, 引用発明では,中間支持片材75をコラムケーシング61に溶接により接合して おり,また,取付け突縁部3については単にコラム1の外側筒体1a(コラムケー シング61)と一体になっているとされているのみであって,全体として一体に形 12 成された鋳物ではない点。 (3) 本件審決が認定した引用発明と本件発明2との相違点は,次のとおりである。 ア 本件発明1を本件発明2と読み替えるほかは,相違点2ないし4と同じ。 イ 相違点1−2 本件発明2では,一対のクランプ部材が,それぞれ,アウターコラムに一体に形 成され,アウターコラムに軸方向に連なり,軸方向に連続してインナーコラムを包 持する包持面を備えた包持部を形成して対をなし,それぞれ,該包持部に連なり互 いに対向する面で軸方向に延びる隙間を形成し,該対向する面の背側に車体側ブラ ケットに摺接する面を備えた対向厚肉突出部を備えており,締付け用のボルトが, 前記対向厚肉突出部を貫通しているのに対し, 引用発明では,中間支持片材75を形成する2つの要素75a,75bは,支持 片材14のフランジ17a及び17bに摺接する面を備え,固定装置72によりそ の一方が動くことによって互いに近接して摺動筒体62を押圧,保持するものの, 両方の部材で包持するものではなく,したがって,包持面を備えた包持部及び該包 持部に連なる対向厚肉突出部を備えておらず,さらに,タイロッド21は,前記2 つの要素75a,75bを貫通してはいるものの,対向厚肉突出部を貫通する構成 とはなっていない点。 (4) 本件審決が認定した引用発明と本件発明3との相違点は,次のとおりである。 ア 本件発明1を本件発明3と読み替えるほかは,相違点3及び4と同じ。 イ 相違点1−3 本件発明3では,一対のクランプ部材が,アウターコラムに軸方向に連なり,軸 方向に連続してインナーコラムを包持する包持面を備えた包持部を形成して対をな し,それぞれ,該包持部に連なり互いに対向する面で軸方向に延びる隙間を形成し, 該対向する面の背側に車体側ブラケットに摺接する面を備えた対向厚肉突出部を備 えているのに対し, 引用発明では,中間支持片材75を形成する2つの要素75a,75bは,支持 13 片材14のフランジ17a及び17bに摺接する面を備え,固定装置72によりそ の一方が動くことによって互いに近接して摺動筒体62を押圧,保持するものの, 両方の部材で包持するものではなく,したがって,包持面を備えた包持部及び該包 持部に連なる対向厚肉突出部を備えていない点。 (5) 本件審決が認定した引用発明と本件発明4との相違点は,次のとおりである。 ア 本件発明1を本件発明4と読み替えるほかは,相違点3及び4と同じ。 イ 相違点1−4 本件発明4では,一対のクランプ部材が,アウターコラムに軸方向に連なり,イ ンナーコラムを包持する包持面を備えた包持部を形成して対をなし,それぞれ,該 包持部に連なり互いに対向する面で軸方向に延びる隙間を形成し,該対向する面の 背側に車体側ブラケットに摺接する面を備えた対向厚肉突出部を備えているのに対 し, 引用発明では,中間支持片材75を形成する2つの要素75a,75bは,支持 片材14のフランジ17a及び17bに摺接する面を備え,固定装置72によりそ の一方が動くことによって互いに近接して摺動筒体62を押圧,保持するものの, 両方の部材で包持するものではなく,したがって,包持面を備えた包持部及び該包 持部に連なる対向厚肉突出部を備えていない点。 ウ 相違点5 本件発明4では,クランプ部材の包持面がインナーコラム外周面に押圧接触して いるのに対し, 引用発明では,クランプ部材の保持面がインナーコラム外周面に押圧接触してい るものの,あくまで保持面であって包持面ではない点。 (6) 本件審決が認定した引用発明と本件発明5との相違点は,次のとおりである。 ア 本件発明1を本件発明5と読み替えるほかは,相違点1,3及び4と同じ。 イ 相違点6 本件発明5では,クランプ部材の包持面は前記インナーコラム外周面に周方向で 14 断続的に押圧接触しているのに対し, 引用発明では,クランプ部材の保持面がインナーコラム外周面に周方向で連続的 に押圧接触しており,また,あくまで保持面であって包持面ではない点。 (7) 本件審決が認定した引用発明と本件発明6との相違点は,次のとおりである。 ア 本件発明1を本件発明6と読み替えるほかは,相違点1,3及び4と同じ。 イ 相違点7 本件発明6は鋳物としてアルミ鋳物,マグネシウム系鋳物及び鉄系鋳物の何れか であるのに対し, 引用発明は同構成を有しない点。 4 取消事由 (1) 本件発明1の容易想到性に係る判断の誤り(取消事由1) (2) 本件発明2ないし6の容易想到性に係る判断の誤り(取消事由2) 第3 当事者の主張 1 取消事由1(本件発明1の容易想到性に係る判断の誤り)について 〔原告の主張〕 (1) 相違点1について 本件審決は,相違点1に係る本件発明1の構成のうち,「一対のクランプ部材が, それぞれ,アウターコラムに一体形成され,アウターコラムに軸方向に連なり,軸 方向に連続してインナーコラムを包持する包持面を備えた包持部を形成して対をな し,それぞれ,該包持部に連なり互いに対向する面で軸方向に延びる隙間を形成し ている」構成(以下「包持部構成」という。)は,引用例2(甲3)に開示されてい るから,引用発明に引用例2の記載事項を適用することにより,当業者が容易に想 到することができたものであり,また,相違点1に係る本件発明1の構成のうち, 「対向する面の背側に車体側ブラケットに摺接する面を備え,包持部よりも肉厚で 突出した対向厚肉突出部を備えており,締付け用のボルトが,前記対向厚肉突出部 を貫通している」構成(以下「対向厚肉突出部構成」という。)についても,周知例 15 2ないし4(甲7ないし9)に開示された周知の構成を考慮すると,引用発明に引 用例2の記載事項を適用する際に対向厚肉突出部構成とすることは,当業者にとっ て困難ではないとして,引用発明について,相違点1に係る本件発明1の構成とす ることは,引用例2の記載事項及び周知技術を参酌することにより,当業者が容易 になし得たものであると判断した。 しかし,次のとおり,本件審決の上記判断は誤りである。 ア 包持部構成について (ア) 引用発明と引用例2の構成の相違(阻害事由1) 本件審決の判断は,引用発明について,引用例2に開示された「支持筒2に一対 の締付鍔4,4 を備えた部位が摺動筒7を包持する包持面を有している」トラク ターのハンドルの伸縮装置の構造を適用すれば,本件発明1の包持部構成に容易に 想到し得るというものである。 しかし,引用例2に記載されたトラクターのハンドルの伸縮装置は,摺動筒7と 支持筒2が入れ子構造とされ,摺動伸縮し得る構造とはなっているものの,当該ハ ンドルは,ダッシュボードから単純に突き出しているだけであって,ステアリング 装置全体の角度を変更するチルト調整はできない構造となっている。 他方,引用発明のステアリングコラムは,車体側ブラケットを介して固定され, チルト調整及びテレスコピック調整が1つの締付手段により同時に固定されるステ アリング装置である。このような構造を有する引用発明のステアリング装置に,引 用例2に記載されたトラクターのハンドルのようにダッシュボードに固定して取り 付けられる構成を組み合わせると,引用発明のチルト調整機能が失われてしまうか ら,その組合せには阻害事由がある。 (イ) 後知恵的・事後分析的な判断 本件審決は,引用発明のステアリングコラムは車体側ブラケットを介して固定さ れているのに対し,引用例2に記載されたトラクターのハンドルは,車体側ブラケ ットを介さずに固定されており,構造が全く異なるため,引用発明に引用例2に記 16 載されたトラクターのハンドルを組み合わせることは困難であるとの原告の主張に ついて,引用例2に記載された締付鍔4,4 を引用発明に一対のクランプ部材とし て適用し,固定装置72のフランジ17a,17bとともに用いるとの組合せを行 うものであるから,引用例2に記載されたトラクターのハンドル自体が車体側ブラ ケットを介しない締め付けであるとの主張は採用することができないと判断した。 しかし,公知技術を組み合わせて本件発明1に想到することが容易か否かは,本 件出願に係る優先権主張日当時の当業者の立場で行わなければならない。本件発明 1の構成を知らない当業者が引用例2に接した場合,前者は,車体側ブラケットを 介してステアリングコラムが締付手段で保持され,それによってチルトとテレスコ ピックの調整を同時に行うことができるという構成であるのに対して,後者は,車 体側ブラケットなど存在せず,ただダッシュボードから真っ直ぐ突き出すように固 定されたハンドルであって,チルト調整もできない構成なのであるから,前者に後 者を組み合わせることは困難であると判断するのは明らかである。 本件審決の上記判断は,本件発明1の構成を知った後で,引用発明との相違点を 埋めるために,引用例2から引用発明に欠けている構成だけを合目的的に抽出して, これを組み合わせたものであり,かかる事後分析的,後知恵的な判断は,進歩性の 判断として誤りである。 (ウ) 鋳物形成の困難性(阻害事由2) 本件発明1は,アウターコラムのクランプ部材及び支持部を鋳物で一体形成した 構造に特徴があるところ,引用例2に記載された締付鍔4,4 のように,筒状の部 材から細長い板状部が伸びている形状の部材は,鋳物で一体形成することが技術的 に困難である。したがって,引用発明に引用例2の記載事項を組み合わせて,相違 点1に係る本件発明1の構成に想到することには,阻害事由がある。 (エ) 具体的な適用態様の想到困難性 引用発明は,その全体がユニバーサルジョイント5の軸線を中心にチルト回動可 能となっており,また,コラムケーシング61と摺動筒体62とが,摺動可能な入 17 れ子構造となっているため,テレスコピック調整も可能となっている。そして,ハ ンドル13及びそれにつながる締付装置により,支持片材14の外側から内側に締 付力を作動させることで,車両側の支持片材14に対して中間支持片材75を固定 してステアリング装置のチルト位置を固定し,同時に中間支持片材75が外側から 押圧されることで,そのクランプジョー76が「爪を立てる」ようにしてコラムケ ーシング61の内側の摺動筒体62を固定して,テレスコピック位置を固定する構 造となっている。 他方,引用例2に記載されたトラクターのハンドルは,ダッシュボードから真っ 直ぐ突き出していて,その周辺には何の構造も存在しないという極めて単純な構造 である。引用例2に記載された単純な構造のステアリングを,どのようにして,複 雑な構造をした引用発明の構成と組み合わせれば,本件発明1の包持部構成に想到 し得るというのか,その具体的な適用態様について本件審決は何も説明しておらず, 当業者にとっても,容易に想到し得るものではない。 (オ) 引用例2の記載事項から本件発明1の包持部構成に想到する困難性 引用例2の締付鍔4,4 と本件発明1のクランプ部材とは,抽象的にみれば,包 持部構成について共通しているといえなくもない。しかし,一見してわかるように, 具体的な形状は全く異なっている。特に, 「アウターコラムに一体に形成され」とい う要件については,引用例2の締付鍔4,4 は,単に外軸の一部がそのまま外側に 延長されただけのものであり, 「アウターコラムに一体に形成」された「クランプ部 材」であるといい得るものか否か疑問である。したがって,引用例2の締付鍔4, 4 から,本件発明1のクランプ部材が容易に想到し得るとした本件審決の判断は誤 りである。 (カ) 組合せ動機の欠如 引用例2に記載されたトラクターのハンドルは,摺動筒7と支持筒2とが入れ子 構造になっているため,摺動伸縮し得る構造のハンドルであるが,入れ子構造によ り摺動伸縮し得る構造は,引用発明においても既に採用されている。したがって, 18 引用発明に引用例2に記載された構造を組み合わせる動機付けは存在しない。 また,ステアリングホイールの上下方向のこじりに対する高い剛性という本件発 明1の作用効果は,引用例1や引用例2に全く開示がない。したがって,このよう な作用効果を得るために引用例2の構造を利用するということは,引用例1や引用 例2に接した当業者が,容易に想到し得ることではない。 イ 対向厚肉突出部構成について (ア) 本件審決は,周知例2(甲7)の「クランプ11」,周知例3(甲8)の「ア ッパサポート2」及び周知例4(甲9)の「クランプブロック82」を挙げて,対 向厚肉突出部構成について,ステアリングコラムをクランプする一対のクランプ部 材において,包持部よりも肉厚で突出し,ボルトが貫通する対向厚肉突出部を備え たものが周知であることを考慮すると,引用発明に引用例2記載の構造を適用する 際に,一対のクランプ部材の互いに対向する面の背側の面を,摺動筒体62の外径 寸法よりも広い間隔を有するフランジ17a及び17bに摺接させるために,包持 部よりも肉厚で突出した対向厚肉突出部を備え,当該対向厚肉突出部にタイロッド 21を貫通する構成とすることは当業者にとって困難ではないと判断した。 しかし,前記のとおり,引用発明に引用例2に記載された事項を組み合わせるこ とには阻害事由があるから,本件審決の上記判断は,引用発明に引用例2の記載の 構造を適用するという前提において誤っている。 (イ) また,周知例2ないし4によれば,包持部よりも肉厚で突出し,ボルトが 貫通する対向厚肉突出部を備えたものが周知であるとした本件審決の判断は,引用 文献の具体的な記載から離れて,抽象化,一般化ないし上位概念化をした判断,あ るいは,特定の公知文献に記載されている公知技術について,主張,立証を尽くす ことなく,当業者の技術常識ないし周知技術であるかのように扱った判断であって, 誤りである。 さらに,本件審決が周知であると認定したのは,対向厚肉突出部構成のうち, 「包 持部よりも肉厚で突出し,ボルトが貫通する対向厚肉突出部」という点だけであり, 19 同構成のうち, 「対向する面の背側に車体側ブラケットに摺接する面を備え」との構 成が周知であるとは認定していない。実際,周知例2(甲7)には車体側ブラケッ トが開示されておらず,周知例2のクランプ11は, 「対向する面の背側に車体側ブ ラケットに摺接する面」を備えているものではない。 したがって,本件審決の上記判断は誤りである。 (2) 相違点2について 本件審決は,ステアリングコラムをクランプする締付機構として,カムロック機 構を使用することは,周知例15ないし17(甲20ないし22)に記載された周 知技術であるから,引用発明において,相違点2に係る本件発明1の構成とするこ とは,当業者が容易になし得たものであると判断した。 しかし,次のとおり,本件審決の上記判断は誤りである。 ア 相違点2の作用効果の看過 本件審決は,単に,ステアリングコラムをクランプする機構としてカムロック機 構を用いた周知例があることのみから,容易想到性を結論付けている。 しかし,本件発明1は,クランプ機構としてカムロック機構を採用し,クランプ 力を設計者が適宜設定することにより,鋳物という割れやすい素材でクランプ部材 を構成することがより安全かつ容易にできるようになったものである。本件審決の 上記判断は,本件発明1のかかる重要な作用効果を見落としており,誤りである。 イ 動機付けの欠如 後記(3)アのとおり,引用例3(甲4)において,鋳物で構成することが開示され ているのは,弾性変形する部材が存在しないアウターコラムについてである。カム ロック機構の特徴は,設計者がクランプ力をあらかじめ設定し得る点にあるところ, 割れやすい鋳物で構成されている部分が弾性変形しない部分のみとされている引用 例3に記載された構成では,クランプ力についてそのような「気を配る」必要はな いから,引用例3の記載に接した当業者は,引用例3のクランプ機構をカムロック 機構に置き換えることを動機付けられることはない。 20 (3) 相違点4について 本件審決は,引用例3(甲4)には,自動車のステアリングコラムにおいて,ア ウターコラムに対し,昇降ブラケット等の周辺部材を従来溶接により接合していた のを,寸法精度の手間を省くために,アウターコラムに当該周辺部材を含めて全体 を鋳物で一体形成したことが記載されているから,引用発明(甲1)において,コ ラムケーシング61に対して中間支持片材75の2つの要素75a,75bを溶接 により接合することに代えて,コラムケーシング61とこれらの部材とを鋳物で一 体形成し,また,取付け突縁部3については,単にコラム1の外側筒体1aと一体 になっているとされているのを,同じく鋳物で一体成型することとして,相違点4 に係る本件発明1の構成とすることは,引用例3の記載事項を参酌することにより, 当業者が容易になし得たことであると判断した。 しかし,次のとおり,本件審決の上記判断は誤りである。 ア 弾性変形する部材を鋳物で一体形成する困難性(阻害事由1) 引用例3には,アウターコラム5aに昇降ブラケット8aと取付ブラケット9a とシリンダブラケット10aとが鋳物で一体形成されることが記載されているが (段落【0012】,引用例3のアウターコラムと本件発明1のアウターコラムで ) は,構造及び機能に異なる点があるから,引用例3のアウターコラムが鋳物で一体 形成されているからといって,本件発明1のアウターコラムも,鋳物で一体形成す ることが容易に想到できるということにはならない。 すなわち,本件発明1において,アウターコラムと鋳物で一体に形成されている クランプ部材は,締付手段の押圧力により弾性変形する部材として形成されている が,一方,引用例3のアウターコラムは,昇降ブラケット8a,取付ブラケット9 a及びシリンダブラケット10aが一体形成されているものの,これらの各部材は いずれも弾性変形する部材ではない。 一般的に,鋳物という素材は,変形させると割れやすい素材として知られており, 弾性変形するような部材には適していないと考えられているから,自動車のフレー 21 ムやステアリングに使用する部材としては,一般的ではないというのが当業者の技 術常識であった。そして,引用例3では,チルト調整及びテレスコピック調整の方 法として,クランプ部材の締付けによる固定という構成は全く開示されていないか ら,引用例3に接した当業者は,引用例3のアウターコラムのような,弾性変形す る部材が存在しない部材について鋳物で一体形成することが開示されているとして も,このような鋳物の一体形成を,本件発明1のアウターコラムのような,弾性変 形するクランプ部材を有する部材に適用することを,想到し得るはずがない。 したがって,引用発明や本件発明1のような,弾性変形するクランプ部材につい て,引用例3に記載された鋳物の一体形成を適用することには,阻害事由があった というべきである。 イ 事後分析的・後知恵的な判断 本件審決は,引用例3には一体形成する周辺部材が変形可能であることは開示も 示唆もなく,引用例3の鋳物一体形成の構成を引用発明に適用することには阻害事 由があるとの原告の主張について,引用例3には,アウターコラムに対して周辺部 材を従来溶接によって接合していたのを寸法精度の確保の手間を省くためにアウタ ーコラム及び周辺部材を全体として鋳物で一体形成するとの技術的思想が明示され ているから,かかる思想に基づく技術を取り出して,他の関連する発明に適用しよ うとすることの動機付けになり得るものであると判断した。 しかし,本件審決は,鋳物により一体形成される部分がクランプ部材を含むか否 かという具体的な構成の相違を無視し,寸法精度の確保の手間を省くためにアウタ 「 ーコラム及び周辺部材を鋳物一体形成する」という引用例3の発明思想の部分だけ を都合よく取り出したものであり,本件発明1と引用発明との相違点を埋めるため に,引用例3から都合のよい要素だけを抽象的に取り出して組み合わせるという, 事後分析的・後知恵的な判断をしたものにほかならず,進歩性の判断として誤りで ある。 ウ 引用発明の構成を鋳物で一体形成する困難性(阻害事由2) 22 また,本件審決の上記判断は,引用発明の中間支持片75や取付け突縁部3のよ うな,板状の複雑な形状をした部材を,溶接ではなく鋳物で形成することは,技術 的に困難である点を見落としたものである。引用例1に接した当業者であれば,こ れらの部材をコラムケーシング61と鋳物で一体形成することが,技術的に困難で あると容易に理解できるため,そのような構成に想到することはあり得ない。この 点でも,引用発明に引用例3の「鋳物による一体形成」という構成を組み合わせる ことには,阻害事由があるといえる。 (4) 相違点3及び4の作用効果の看過 ア 本件審決は,相違点3について,当業者が適宜なし得る設計変更の範疇であ ると判断した。 しかし,引用発明のチルト機構は,エラストマー製の弾性スペーサの中心孔にね じを通して,ボデーにコラムを取り付けるというものであり,エラストマー製の弾 性スペーサの弾性によってチルト回動が可能となっているものである。この構造は, 本件発明1のアウターコラムに一体形成された支持部の筒状開口部にチルト中心ボ ルトを備えた構造とは,全く異なる。本件発明1において,支持部に形成されたチ ルト回動機構は,その回動の軸がステアリングコラム本体と精密に調整されなけれ ば,ステアリングコラム全体がスムーズにチルト回転しないものである。本件発明 1のように,チルト回動機構の軸を形成する支持部を,アウターコラムと鋳物で一 体形成した場合には,引用発明のチルト回動機構のように,別部材として形成され, 後からコラム本体に取り付ける製造法を用いた場合に比して,チルト回動機構の回 転軸の位置を精密に決めることがはるかに容易になる。本件審決の上記判断は,本 件発明1のアウターコラムと一体形成されたチルト回動機構のかかる作用効果を看 過したものであり,誤りである。 イ 被告の主張について 被告は,アウターコラムと鋳物で一体形成した場合,チルト回動機構の回転軸の 位置を精密に決めることが,はるかに容易になるという想定での効果は,原告が出 23 願した引用例4(甲5)においても,鋳物(アルミ合金鋳造品)によってチルト回 転機構と減速ギアカバーとが一体化されている技術内容として開示されているから, 本件審決は,本件発明1のかかる作用効果を看過したものではないと主張する。 しかし,引用例4において,チルト調整が行われるクランプ部のあるアッパコラ ム7と,チルト回動部が形成された減速ギヤカバー12とは,別の部材である。引 用発明や,引用例4の実施例のように,チルト回動部(ピボット)が,クランプ部 と別部材で構成されていると,両部材を組み合わせる際に精密な位置調整を行わな ければならなくなり,組み立て作業に手間がかかり,製造コストの増大につながる。 これに対し,本件発明1のように,チルト回動機構の軸を形成する支持部を,アウ ターコラムと鋳物で一体形成した場合,チルト回動機構の回転軸とクランプ部材の 位置を精密に決めることができ,組み立て作業における位置調整の手間を省くこと ができる。このように,引用例4に記載された構成では,本件発明1のような作用 効果を得ることはできないのである。 以上のとおり,被告の主張は,引用例4の構成と本件発明1の構成の相違を無視 したものであって,失当である。 〔被告の主張〕 (1) 相違点1について ア 包持部構成について (ア) 引用発明と引用例2の構成の相違(阻害事由1)について 原告は,引用発明のステアリング装置に,引用例2(甲3)に記載された「摺動 伸縮するハンドル」構成を組み合わせると,引用発明のチルト調整機能が失われる から,その適用には阻害事由がある旨主張する。 しかし,引用例2には,インナーコラムを包み込んで包持する構成が記載されて おり,この包持する部位についての引用例2の記載を,引用発明において,摺動筒 体62を押圧,保持するための構造として適用することは,当業者であれば容易に 想到し得ることである。ここでは,引用発明に,引用例2に記載された「一対の締 24 付鍔4,4 を備えた部位が摺動筒7を包持する包持面を有する構成」のみを組み合 わせているのであって,引用発明のチルト調整機能が失われことはなく,その適用 に阻害要因は存在しない。 (イ) 後知恵的・事後分析的な判断について 原告は,相違点1に係る本件審決の判断は,本件発明1の構成を知った後で,引 用発明との相違点を埋めるために,引用例2から引用発明に欠けている構成だけを 合目的的に抽出して組み合わせた,事後分析的,後知恵的な判断であると主張する。 しかし,本件審決は,引用発明の構成に対して,引用例2に記載された, 「一対の 締付鍔4,4 を備えた部位が摺動筒7を包持する包持面を有する構成」のみを適用 しているのであって,上位概念化したものを適用しているのではない。本件審決の 上記判断は,後知恵的・事後分析的なものではなく,進歩性の判断として妥当であ る。 (ウ) 鋳物形成の困難性(阻害事由2)について 原告は,引用例2の締付鍔4,4 のように,筒状の部材から細長い板状部が伸び ている形状の部材は,鋳物で一体形成することは技術的に困難であるから,引用発 明に引用例2を組み合わせて,相違点1に係る本件発明1の構成に想到することに は,阻害事由があると主張する。 しかし,鋳物は,製造される金属材の材質によっては,割れにくく,弾性変形す る部材にも使用できるものである。細長い板状部であっても,十分な強度を持って 一体形成することができるものであり,技術的に困難ではなく,その組み合わせに 阻害事由は存在しない。 (エ) 具体的な適用態様の想到困難性について 原告は,本件審決は引用例2に記載された単純な構造のステアリングを,どのよ うにして,複雑な構造をした引用発明の構成と組み合わせれば,本件発明1の包持 部構成に想到し得るというのか,その具体的な適用態様について何も説明していな いなどと主張する。 25 しかし,引用発明において,摺動筒体62を押圧,保持するための構造として引 用例2記載の構造を適用するというのは,どこにどの部位をということではなく, 技術思想として捉えるものであるから,引用発明に「支持筒2に一対の締付鍔4, 4'を備えた部位が摺動筒7を包持する包持面を有している」点を適用するというこ とのみで,必要かつ十分である。 イ 対向厚肉突出部構成について (ア) 原告は,本件審決は周知例2ないし4(甲7ないし9)の具体的な記載を 一切検討することなく,周知技術の認定を行っており,かかる判断は,特定の引用 文献の具体的な記載から離れて,抽象化,一般化ないし上位概念化をする判断,主 張,立証を尽くすことなく,当業者の技術常識ないし周知技術であるかのように扱 う判断にほかならず,許されないと主張する。 しかし,周知例2ないし4では,いずれも抽象概念のクランプではなく,具体的 な技術内容が指摘されており,本件審決の周知技術の認定に誤りはない。 (イ) 原告は,本件審決は対向厚肉突出部構成のうち「対向する面の背側に車体 側ブラケットに摺接する面を備え」との部分については周知と認定していないと主 張する。 しかし,周知例3(甲8)には,アッパーサポート2の対向する外側に2枚のブ ラッケト5,5に摺接する面を備えた技術内容が記載され,また,周知例4(甲9) にも,クランプブロック82の対向する外側に車両の固定部材に連結されている第 三のブラケット手段80に摺接する面を備えた技術内容が記載されている。 (2) 相違点2について ア 相違点2の作用効果の看過について 原告は,相違点2に係る本件審決の判断は,クランプ機構としてカムロック機構 を採用し,クランプ力を設計者が適宜設定することにより,鋳物という割れやすい 素材でクランプ部材を構成することがより安全かつ容易にできるようになったとい う本件発明1の作用効果を看過したものである旨主張する。 26 しかし, 「鋳物」は,選択される金属材の材質によっては,弾性変形するクランプ 部材を有する部材に適当することも当然に可能なのであって,クランプ機構として カムロック機構を採用した構成は,単なる設計変更として周知技術を適用したもの にすぎない。 イ 動機付けの欠如について 原告は,割れやすい鋳物で構成されている部分が弾性変形しない部分のみの引用 例3(甲4)の構成において,引用例3のクランプ機構をカムロック機構に置き換 えることを,当業者は動機付けられないと主張する。 しかし, 「鋳物」という技術用語では,その材質は特定されないのであるから, 「鋳 物」を割れやすいと一義に断定することはできない。 「鋳物」は,選択される金属材 の材質によっては,弾性変形するクランプ部材を有する部材に適用して使用できる ものであるから,クランプ機構としてカムロック機構を採用した構成は,周知技術 を適用した単なる技術変更にすぎない。 したがって,当業者は当然に動機付けできる。 (3) 相違点4について 原告は,一般的に鋳物という素材は,変形させると割れやすい素材として知られ ており,弾性変形するような部材には適していないと考えられているなどと主張す る。 しかし,「鋳物」は,鋳造法によって製造された金属品であり,鋳造法によれば, 金属の材質は問わず,全て「鋳物」という技術用語内に包含される。 「鋳物」という 技術用語では,その材質は一切特定されないから,原告が主張するような,割れや すい素材や弾性変形するような部材には適していないなどの材質的要素が入る余地 はない。 「鋳物」は,製造される金属材の材質によっては,割れやすい素材になるこ ともあるし,逆に,割れにくい素材になることもあるのである。 したがって,選択される金属材の材質によっては,弾性変形するクランプ部材を 有する部材に適用し,使用することは当然に可能であり,クランプ部材に鋳物を適 27 用することに,阻害要因は存在しない。 (4) 相違点3及び4の作用効果の看過について 原告は,本件審決には,本件発明1のように,チルト回動機構の軸を形成する支 持部を,アウターコラムと鋳物で一体形成した場合,チルト回動機構の回転軸の位 置を精密に決めることが,はるかに容易になるという相違点3及び4による作用効 果を看過した誤りがあると主張する。 しかし,チルト回動機構の軸を形成する支持部を,アウターコラムと鋳物で一体 形成した場合,チルト回動機構の回転軸の位置を精密に決めることが,はるかに容 易になるとの作用効果は,本件出願時において,明細書に記載されたものではなく, これを認めることはできない。 また,アウターコラムと鋳物で一体形成した場合,チルト回動機構の回転軸の位 置を精密に決めることが,はるかに容易になるという想定での効果は,原告が出願 した引用例4(甲5)にも,鋳物(アルミ合金鋳造品)によりチルト回転機構と減 速ギアカバーとが一体化されている技術内容が開示されている。つまり,引用例4 に開示された技術でも,チルト回動機構の回転軸の位置を精密に決めることが,相 違点4に係る本件発明1の構成と同様に,はるかに容易になるべきものであるから, 本件審決がかかる作用効果を看過したものとはいえない。 さらに,仮に,原告が主張する上記作用効果が認められるとしても,かかる効果 は,鋳物で一体形成した場合の構成から当然生じた作用効果であり,純粋にチルト 回動機構による作用効果であるとはいえない。 以上のとおり,本件審決には,相違点3及び4の作用効果の看過はない。 2 取消事由2(本件発明2ないし6の容易想到性に係る判断の誤り)ついて 〔原告の主張〕 (1) 本件発明2について 本件審決は,本件発明2と引用発明の相違点は,相違点1ないし4と実質的に同 じであり,各相違点についての進歩性判断も同じであるとして,本件発明2は,引 28 用発明,引用例2及び3の記載事項並びに周知技術に基づいて,当業者が容易に発 明をすることができたものであると判断した。 しかし,前記のとおり,相違点1ないし4に係る本件審決の判断は誤りであるか ら,本件発明2についての本件審決の判断も,取り消されるべきである。 (2) 本件発明3について 本件審決は,本件発明3と引用発明の相違点は,相違点1,3及び4と実質的に 同じであり,各相違点についての進歩性判断も同じであるとして,本件発明3は, 引用発明,引用例2及び3の記載事項並びに周知技術に基づいて,当業者が容易に 発明をすることができたものであると判断した。 しかし,前記のとおり,相違点1,3及び4に係る本件審決の判断は誤りである から,本件発明3についての本件審決の判断も,取り消されるべきである。 (3) 本件発明4について 本件審決は,本件発明4と引用発明の相違点は,相違点1,3及び4と実質的に 同じであり,各相違点についての進歩性判断も同じであるとして,本件発明4は, 引用発明,引用例2及び3の記載事項並びに周知技術に基づいて,当業者が容易に 発明をすることができたものであると判断した。 しかし,前記のとおり,相違点1,3及び4に係る本件審決の判断は誤りである から,本件発明4についての本件審決の判断も,取り消されるべきである。 (4) 本件発明5について 本件審決は,相違点1,3及び4に係る検討を援用して,本件発明5は,引用発 明,引用例2及び3の記載事項並びに周知技術に基づいて,当業者が容易に発明を することができたものであると判断した。 しかし,前記のとおり,相違点1,3及び4についての本件審決の判断は誤りで あるから,本件発明5についての本件審決の判断も,取り消されるべきである。 (5) 本件発明6について 本件審決は,相違点1,3及び4に係る検討を援用して,本件発明6は,引用発 29 明,引用例2及び3の記載事項並びに周知技術に基づいて,当業者が容易に発明を することができたものであると判断した。 しかし,前記のとおり,相違点1,3及び4に係る本件審決の判断は誤りである から,本件発明6についての本件審決の判断も,取り消されるべきである。 〔被告の主張〕 (1) 本件発明2について 本件発明2と引用発明との相違点は,相違点1ないし4と実質的に同じであり, 各相違点についての進歩性の判断も同じである。すなわち,本件発明2は,引用発 明,引用例2及び3の記載事項並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をす ることができたものである。 (2) 本件発明3について 本件発明3は,実質的に本件発明1と同等である。したがって,本件発明1が進 歩性を欠如している以上,本件発明3も進歩性を欠如しているのは当然であり,本 件審決の判断に誤りはない。 (3) 本件発明4について 本件発明4は,本件発明3に「クランプ部材の前記包持面は前記インナーコラム 外周面に押圧接触していること」を付加した構成であり,実質的に本件発明3と同 等発明である。 したがって,本件発明4は,引用発明,引用例2及び3の記載事項並びに周知技 術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,本件審決の判 断に誤りはない。 (4) 本件発明5について 本件発明5は,本件発明4の従属項であり,実質的に本件発明4と同等である。 したがって,本件発明5は,実質的に本件発明1と同等であって,進歩性を欠く ものであるから,本件審決の判断に誤りはない。 (5) 本件発明6について 30 本件発明6は,請求項1ないし3の従属項である。本件発明6も,実質的に本件 発明1と同等であって,進歩性を欠くものであるから,本件審決の判断に誤りはな い。 第4 当裁判所の判断 1 本件発明について (1) 本件発明は,前記第2の2記載のとおりであるところ,本件明細書(甲24 の1,37)には,本件発明について,概略,次のような記載がある。 ア 発明の属する技術分野 本件発明は,運転者の運転姿勢に応じて,ステアリングシャフトの傾斜角度及び /若しくはステアリングシャフトの軸方向位置を調整できる車両用ステアリング装 置に関するものである(段落【0001】。 ) イ 従来の技術 車両用ステアリング装置には,運転者の運転姿勢に応じて,ステアリングホイー ルの傾斜角度を調整できるとともに,ステアリングホイールの軸方向位置を調整で きるチルト・テレスコピック式のステアリング装置がある(段落【0002】。 ) 例えば,特開平11−278283号公報に開示されたチルト・テレスコピック 式のステアリング装置では,ロアー側のアウターコラムに,アッパー側のインナー コラムが摺動自在に挿入して嵌合してある。このアッパー側のインナーコラムには, テレスコ調整用溝を有するディスタンスブラケットが取り付けてあり,このディス タンスブラケットは,チルト調整用溝を有する車体側ブラケットの内側に摺接する ように構成してある(段落【0003】。 ) ウ 発明が解決しようとする課題 上記公報に開示されたチルト・テレスコピック式のステアリング装置では,ロア ー側のアウターコラムに,アッパー側のインナーコラムを摺動自在に嵌合し,両コ ラムの剛性を高くしている(段落【0006】。 ) しかし,アッパー側のインナーコラムは,ロアー側のアウターコラムに対して必 31 ずしも直接的にクランプしていないため,ステアリングホイールに曲げ荷重が作用 した場合(すなわち,ステアリングホイールが上下方向にこじられた場合),アッパ ー側のインナーコラムは,若干揺動するように動くことがあり,両コラムの剛性は, 必ずしも高いとはいえなかった(段落【0007】。 ) 本件発明は,このような事情に鑑みてなされたものであって,ステアリングコラ ムの剛性を著しく高くしたチルト及び/若しくはテレスコピック位置が調整自在な 車両用ステアリング装置を提供することを目的とする(段落【0009】。 ) エ 課題を解決するための手段 上記の目的を達成するため,請求項1の発明に係る車両用ステアリング装置は, ステアリングシャフトの一方の端部側を回転自在に支持するインナーコラムと,前 記ステアリングシャフトの他方の端部側を回転自在に支持すると共に,前記インナ ーコラムを摺動自在に嵌合したアウターコラムと,このアウターコラムに一体に形 成され,車体側ブラケットに摺接する面と前記インナーコラムを包持する包持面と をそれぞれ備えた一対のクランプ部材と,これら一対のクランプ部材を互いに近接 するように移動させて,前記インナーコラムをこれら一対のクランプ部材により締 め付け包持するための締付手段と,前記一対のクランプ部材よりも車両前方側で前 記アウターコラムに設けられ,ステアリングシャフトをチルト回動可能にするため に前記アウターコラムに設けられた支持部と,該支持部に形成された筒状開口部に 挿通されステアリングシャフトを車体側にチルト回動自在に支持するボルトと,を 具備し,しかして前記締付手段の締め付けを解除してステアリングシャフトを軸方 向に移動して,ステアリングシャフトのテレスコピック位置及びチルト位置が調整 自在である車両用ステアリング装置において,前記アウターコラムは前記一対のク ランプ部材と前記支持部と共に一体に形成された鋳物であることを特徴とする(段 落【0010】。 ) オ 発明の実施の形態 (第1の実施の形態) 32 別紙1の図1は,本件発明の第1実施の形態に係るチルト・テレスコピック式の 車両用ステアリング装置の平面図である。図2は,図1に示したステアリング装置 の縦断面図である。図3は,図2のA−A線に沿った横断面図である。図4は,図 2のB−B線に沿った横断面図である。図5(a)は,ロアー側のアウターコラム の平面図であり,図5(b)は,このアウターコラムの側面図であり,図5(c) は,図5(b)のC−C線に沿った横断面図である(段落【0015】) 図1及び図2に示すように,ステアリングシャフトは,車両後方側端部でステア リングホイール(図示なし)を固設支持するアッパーシャフト1と,これにスプラ イン嵌合したロアーシャフト2とから伸縮自在に構成してあり,ステアリングコラ ムは,アッパーシャフト1を上端部で玉軸受31を介して回転自在に支持するアッ パー側のインナーコラム3と,ロアーシャフト2を下端部で玉軸受33を介して回 転自在に支持すると共にアッパー側のインナーコラム3に嵌合したロアー側のアウ ターコラム4とから摺動自在に構成してある。アッパーシャフト1には該アッパー シャフトがインナーコラム3に潜り込まないように潜り込み防止用のCーリング3 5が設けてあり,またロアーシャフト2にも該ロアーシャフト2がアウターコラム 4に潜り込まないように潜り込み防止用Cーリング37が設けてある(段落【00 16】。 ) このロアー側のアウターコラム4の周囲には,図3及び図4にも示すように,チ ルト調整用溝5を有するブラケット6が設けてある。ブラケット6は車両後方側に 車体に接続されるフランジ部6a有し全体として下向きに逆U字形状をしており, 対向側板部6b,6cを一体に形成している(段落【0017】。 ) 図4に示すように,車体側ブラケット6のロアー側には,別体のロアーブラケッ ト7が車体側ブラケット6を包持するように設けてある。ロアーブラケット7は車 体に連結される上板部7aとブラケット6の対向側板部6b,6cを接触挟持する 下向きの対向側板部7b,7cを形成している。ブラケット6の対向側板部6b, 6cの内側に両側端が摺接するように,筒状部8がアウターコラム4の前方端に一 33 体的に形成してある。これらロアーブラケット7の対向側板部7b,7c,ブラケ ット6の対向側板部6b,6c及び筒状部8には,スペーサ筒9を介して,チルト 中心ボルト10aが通挿してあり,ナット10bにより締め付けられている。これ により,ロアー側のアウターコラム4は,このチルト中心ボルト10aを中心とし て傾動できるようになっている。なお,図2に示すように,ロアーブラケット7に は,二次衝突のコラプス時にチルト中心ボルト10が離脱するための離脱用オープ ンスリット11が形成してある(段落【0018】。 ) ロアー側のアウターコラム4はアッパーシャフト1とロアーシャフト2との嵌合 部をほぼ覆う位置まで後方に延びており,さらにこの嵌合部よりも後方側にはある 長さ範囲にわたりアウタージャケット部4aを一体に有している。アウタージャケ ット部4aには上方部中央に軸方向のすり割り1が形成してあり,アッパー側のイ ンナーコラム3を包持してクランプするための一対のクランプ部材12a,12b を形成している。クランプ部材12a,12bはそれぞれインナーコラム3の外周 面に適合する形状の内周面と車体側ブラケット6の内側に摺接する外側面とを有し ている。尚,クランプ部材12a,12bの内周面はインナーコラム3の外周面に 円周方向180度以上に亘り摺接することが望ましい。また図14に示すように円 周方向少なくとも3方向から摺接するようにしても良い。クランプ部材12a,1 2bには,締付ボルト13が通挿してある。この締付ボルト13のネジ部には,締 付ナット14及びロックナット15が螺合してある(段落【0019】。 ) この締付ボルト13の頭部側には,操作レバー16が取り付けてあると共に,カ ムロック機構が設けてある。このカムロック機構は,操作レバー16と一体的に回 転する第1カム部材17と,この第1カム部材17の回転に伴って,第1カム部材 17の山部または谷部に係合しながら軸方向に移動してロックまたはロック解除す る非回転の第2カム部材18とから構成してある。なお,第1カム部材17の突起 17aが操作レバーに嵌合してあることにより,第1カム部材17は操作レバー1 6と一体的に回転できるように構成してあると共に,第2カム部材18の突起18 34 aがチルト調整用溝5に嵌合してあることにより,第2カム部材18は常時非回転 に構成してある。また,ブラケット6のフランジ部6aには,二次衝突のコラプス 時の離脱用カプセル19a,19bが設けてある。すなわち,ブラケット6は離脱 用カプセル19a,19bを介して車体に連結される(段落【0020】。 ) 以上のように構成してあるため,車両衝突時には,アウターコラム4,インナー コラム3,ロアーシャフト2及びアッパーシャフト1から成るステアリングシャフ ト組立体はブラケット6とともにロアーブラケット7に対して,車両前方に移動す る(段落【0021】。 ) チルト テレスコピックの解除時には, ・ 操作レバー16を所定方向に揺動すると, 第1カム部材17が同時に回転して,第2カム部材18の山部から谷部に係合し, 第2カム部材18が図3の左方に移動して,車体側ブラケット6のアウターコラム 4への摺接固定を解除する(段落【0022】。 ) これにより,チルト調整の場合には,締付ボルト13をチルト調整用溝5に沿っ て移動し,チルト中心ボルト10を中心として,アウターコラム4及びインナーコ ラム3を傾動し,ステアリングホイール(図示略)の傾斜角度を所望に調整するこ とができる(段落【0023】。 ) テレスコピック調整の場合には,ロアー側のアウターコラム4に対して,アッパ ー側のインナーコラム3を軸方向に摺動し,ステアリングホイール(図示略)の軸 方向位置を所望に調整することができる。なお,アウターコラム4の外周下側の突 出部に半径方向内向きのストッパボルト43が設けてある。ストッパボルト43に 対向してインナーコラム3には所定長の長溝3bが形成してあり,この長溝3bに ストッパボルト43の内端が係合しており,テレスコ位置調整用ストッパ及び回り 止め部材となっている(段落【0024】。 ) チルト・テレスコピックの締付時には,操作レバー16を逆方向に揺動すると, 第1カム部材17が同時に回転して,第2カム部材18の谷部から山部に係合し, 第2カム部材18が図3の右方に移動して,締付ボルト13により,車体側ブラケ 35 ット6がアウターコラム4を押圧する(段落【0025】。 ) これにより,これら一対のクランプ部材12a,12bは,互いに近接するよう に移動して,アッパー側のインナーコラム3を包持するようにクランプする。この ように,アッパー側のインナーコラム3をロアー側のアウターコラム4により直接 的にクランプするように構成していることから,ステアリングホイール(図示略) に曲げ荷重が作用した場合(即ち,ステアリングホイール(図示略)が上下方向に こじられた場合)であっても,アッパー側のインナーコラム3は,若干揺動するよ うに動くことがなく,両コラム3,4の剛性を著しく高くすることができる(段落 【0026】。 ) 次に,図6に,第1実施の形態の変形例を示す。図6(a)は,第1実施の形態 に係るロアー側のアウターコラムの断面図であり,図6(b)は,第1実施の形態 の変形例に係るロアー側のアウターコラムの断面図であり,図6(c)は,本変形 例に係るロアー側のアウターコラムの作用を示す断面図である(段落【0027】。 ) 図6(a)に示すように,上述した第1実施の形態において,一対のクランプ部 材12a,12bの間の「すり割り」を形成した箇所では,その隙間が大きすぎ, アウターコラム4とインナーコラム3との間の隙間が大きい場合,クランプ時に, 一対のクランプ部材12a,12bが傾斜するといったおそれがある(段落【00 28】。 ) これに対処するため, (b) 図6 (c)に示すように,一対のクランプ部材12a, 12bの間の「すり割り」を形成した箇所に,それぞれ,一対の突起12c,12 dを設けている。これにより,クランプ時には,一対の突起12c,12dが互い に当接することから,一対のクランプ部材12a,12bを平行に維持することが でき,充分な保持力を得ることができる。図14に示す第1実施の形態の第2変形 例においては,クランプ部材12a,12bの内周側ほぼ等角配置の3カ所におい てインナーコラム3の外周に摺接している。なお,アウターコラム4は図18のよ うにすり割り1を図5よりも前方へ長く伸ばしても良い。また,アウターコラム4 36 は鋳物,例えばアルミ鋳物,亜鉛鋳物,マグネシウム系鋳物,鉄系鋳物で作っても 良い(段落【0029】。 ) カ 発明の効果 本件発明によれば,アウターコラムに一体又は別体の,一対のクランプ部材がイ ンナーコラム又はアウターコラムを包持するように設けてあり,しかも,締付手段 により,これら一対のクランプ部材を互いに近接するように移動させて,インナー コラム又はアウターコラムをこれら一対のクランプ部材により包持してクランプす るように構成している。このように,インナーコラムをアウターコラムにより直接 的にクランプするように構成していることから,ステアリングホイールに曲げ荷重 が作用した場合(すなわち,ステアリングホイールが上下方向にこじられた場合) であっても,インナーコラムは,若干揺動するように動くことがなく,両コラムの 剛性を著しく高くすることができる(段落【0050】。 ) (2) 以上の記載からすると,従来のチルト・テレスコピック式のステアリング装 置には,ロアー側のアウターコラムにアッパー側のインナーコラムを摺動自在に嵌 合したものがあるが,アッパー側のインナーコラムは,ロアー側のアウターコラム に対して必ずしも直接的にクランプされていなかったため,ステアリングホイール に曲げ荷重が作用した場合(ステアリングホイールが上下方向にこじられた場合) には,アッパー側のインナーコラムが若干揺動するように動くことがあり,両コラ ムの剛性は必ずしも高いものではなかったことから,本件発明は,ステアリングコ ラムの剛性を著しく高くしたチルト及びテレスコピック位置が調整自在な車両用ス テアリング装置を提供することを目的とし,特許請求の範囲請求項1ないし6記載 のとおり,アウターコラムに一体に形成された一対のクランプ部材によりインナー コラムを包持してクランプする構成とすることによって,ステアリングホイールに 曲げ荷重が作用した場合であっても,インナーコラムが若干揺動するように動くこ とがなく,両コラムの剛性が著しく高くなるとの作用効果を奏するというものであ る。 37 2 引用発明について (1) 引用発明は,前記第2の3(2)ア記載のとおりであるところ,引用例1(甲 1)には,引用発明について,概略,次のような記載がある。 ア 技術分野 本発明は,枢動及び若しくは軸方向移動により調整の可能な乗り物のステアリン グコラムなどの筒状部品のための固定装置に係る(3頁右上欄16行〜19行)。 イ 発明の目的及び構成 本発明の目的は,枢動及び若しくは伸縮抜差し軸方向移動により連続的に調整の できる筒状部品特に乗り物のステアリングコラムのための固定装置にして,乗り物 のボデーなどの固定部分に堅固に取付けるための装置を設け,かつ,2つのほぼ平 行状の側方フランジよりなる支持片材を包含し,2つのほぼ平行状の側方フランジ は一端で互いにつなげられU字型構造体を形成し,このフランジを互いに近づけた り離したりするように動かすことによりこれを調整可能にし,筒状部品が貫通する 中間支持片材のクランプにより筒状部品の固定を,側方フランジを横切る方向に貫 通し,かつ,両端に2つの支承ストップを側方フランジの外側その両側に位置して 設けたタイロッドにより確保し,また1つのストップに当接し対応フランジの外面 に当接する少なくとも1つのハンドル操作のクランプ装置によりフランジを互いに 横方向に近づけたり若しくは弾性戻し具により引き離すことができるように筒状部 品の固定を確保し,ドライバのかける力には全く無関係な効率を有し,実際上操作 簡単にして摩耗その他作動中の機械的応力に対して極めて高い抵抗力をもつような 固定装置を提案することである(4頁右上欄1行〜左下欄4行)。 ウ 実施例 別紙2の第10図は,ステアリングシャフトの枢動軸線に合致せる軸線55を中 心とする枢動及び伸縮移動の両方により調整実施が可能なように組立てたステアリ ングコラム60を示す。コラム60の外側筒体はコラムケーシング61と,コラム ケーシング61内のリング状ジヨイント63及び64により伸縮式に取付けた調整 38 筒体62よりなっている。同様にステアリングシャフト65は伸縮式に取付けられ, コラムケーシング61内に回転ベアリング67により回転できるよう取付けた底部 分66と,この底部分66内の軸方向に摺動できるよう取付けられ,かつベアリン グ69により自由に回転でき摺動筒体62に対して平行移動のできないように取付 けられたトップ部分68を有している(8頁左上欄5行〜右上欄1行)。 枢動又は伸縮移動により若しくはこの2つの動きの組合せによる調整後のステア リングコラムの固定は本発明の固定装置72により保証される。中間支持片材75 は,別紙2の第11図及び第11a図に示されている。実際上2つの対称形の要素 75aと75bが折りたたみ板材より作られ,コラムケーシング61に対応する内 部通路を残すよう切断されて設けられている。要素75bはコラムケーシングの貫 通する半円形開口の全長にわたりコラムケーシング61に溶接されている。支持片 材75の部分75aは,コラムケーシング61が貫通できる半円形開口の半分にほ ぼ等しい距離にわたりコラムケーシング61に溶接されている。この要素75aの 左方部分76は,コラムケーシング61には溶接されてはおらず,コラムケーシン グ61を貫通する開口の組77を貫通するクランプジヨーを形成している。中間支 持片材75は,支持片25と同じように,装置72の固定支持片内に取付けられて いる。したがって,この中間支持片材75はその2つの部分75a及び75bを近 づけ合うように働くクランプ圧を受ける。しかし,支持片75の部分76だけが要 素75aの残り部分につながった部分の弾性変形により動くことができる。したが って,ジヨー76がコラムケーシング61の開口77を貫通して摺動筒体62をク ランプできる。支持片75をこの固定した支持片内にクランプすることにより,コ ラムケーシング61を装置72の固定した支持片内に固定し,同時に摺動筒体62 を支持片75及びコラムケーシング61に対し固定する両方の工程を行うことがで きる(8頁右上欄12行〜右下欄5行)。 (2) 以上の記載からすると,引用発明は,枢動及び軸方向移動により調整の可能 な乗り物のステアリングコラムなどの筒状部品のための固定装置に関して,操作を 39 簡単にして摩耗その他作動中の機械的応力に対してきわめて高い抵抗力をもつよう な固定装置を提案することを目的としたものであって,前記第2の3(2)ア記載の引 用発明の構成とすることにより,上記作用効果を奏するというものである。 3 その他の文献について (1) 引用例2について ア 乗用トラクターにおけるハンドルの伸縮装置に関する引用例2(甲3)には, 概略,次のような記載がある。 (ア) この考案は,摺動筒の一端をハンドル取付部に取付けるとともに,その他 端を締付部を備えた支持筒に伸縮自在に嵌装してなる乗用トラクターにおけるハン ドルの伸縮装置に関するものであり,支持筒の一部に備えた締付部の簡単な操作に より運転者に適合したハンドルの伸縮を行うことを目的とする(1頁左欄6行〜1 4行)。 別紙3の第1図の1はトラクターのボンネットを示し,2はボネト1(判決注「ボ : ンネット1」の誤記と認める。 よりその一部が外部に突出するように設けた支持筒 ) で,その一部には締付部3が装着されており,第3図に示すように,締付金具の締 付鍔4,4’のほぼ中央に穿孔された螺孔には螺杆5が挿通されている。第2図に おいて,7は摺動筒で,その一端はハンドル取付部10に取付けられ,他端は支持 筒2に伸縮自在に嵌挿されて締付部3にて締付固着されている(1頁左欄15行〜 26行)。 この装置は,操縦席11に搭乗する運転者の体長に応じて,支持筒2の一部に備 えた締付部3のレバー6を適当に回動して,締付部3の緊締を解き,しかるのち摺 動筒7を支持筒2の内面に沿って上方あるいは下方に摺動伸縮させて,適当な位置 を定めた後,締付部3のレバー6を回動締付してなるものである(1頁右欄1行〜 8行)。 (イ) また,別紙3の第2図及び第3図には,一対の締付鍔4,4’を備えた締 付部3が支持筒2に装着され,軸方向に連続して摺動筒7を包持する包持面を形成 40 していることが図示されている。 イ 以上からすると,引用例2には,摺動筒の一端をハンドル取付部に取付ける とともに,その他端を締付部を備えた支持筒に伸縮自在に嵌装してなる乗用トラク ターにおけるハンドルの伸縮装置において,一対の締付鍔4,4’を備えた締付部 3を支持筒2に装着し,軸方向に連続して摺動筒7を包持する包持面を形成すると の技術事項が記載されている。 (2) 引用例3について ア 衝撃吸収式ステアリングコラムに関する引用例3(甲4)には,概略,次の ような記載がある。 (ア) 産業上の利用分野 この発明に係る衝撃吸収式ステアリングコラムは,自動車の操舵装置を構成する ステアリングシャフトを回転自在に支持するために利用する。また,衝突時には衝 撃エネルギを吸収しつつ全長を縮めることで,ステアリングホイールに衝突した運 転者の身体に加わる衝撃を緩和する(段落【0001】。 ) (イ) 発明が解決しようとする課題 従来のエネルギ吸収式ステアリングコラムの場合,衝突事故の際における運転者 の保護の面からは特に問題ないが,部品点数が多く,部品製作,部品管理,組立作 業がいずれも面倒になり,製作費がかさむことが避けられない。特に,複数の部品 同士を溶接あるいはボルト付け等により結合固定するため,必要な寸法精度を確保 しようとすると,組立作業が相当に面倒になり,製作費を高くしてしまう。本発明 の衝撃吸収式ステアリングコラムは,この様な事情に鑑みて発明したものである(段 落【0008】。 ) (ウ) 課題を解決するための手段 本発明の衝撃吸収式ステアリングコラムにおいては,アウターコラムとブラケッ トとが非鉄材料により一体形成されている。アウターコラムとブラケットとを一体 に造るための非鉄材料としては,アルミニウム合金,マグネシウム合金等の非鉄金 41 属が好ましく利用できる(段落【0010】。 ) (エ) 作用 本発明の衝撃吸収式ステアリングコラムの場合には,アウターコラムの外周面に ブラケットを後から結合固定する手間が不要になり,部品製作,部品管理,組立作 業を何れも簡略化して,製作費の低減を図れる(段落【0011】。 ) (オ) 実施例 図1ないし5は,本発明の第一実施例として,チルト機構を備えたステアリング コラムに本発明を適用した場合を示している。なお,本発明の特徴は,ステアリン グコラム4aを構成するアウターコラム5aに昇降ブラケット8aと取付ブラケッ ト9aとシリンダブラケット10aとを一体に形成した点にある。 上記昇降ブラケット8aは,例えば非鉄金属をダイキャスト成形することにより, 全体を円筒状に形成している(段落【0012】【0013】。 ) (カ) 図10及び11は,本発明の第三実施例として,前記チルト機構に加えて, ステアリングホイールの前後位置を調節するためのテレスコピック機構を備えたス テアリングコラムに本発明を適用した場合を示している。本実施例の場合も,昇降 ブラケット8a及びシリンダブラケット10aをアウターコラム5aと一体に形成 することで,製作費の低廉化を図っている(段落【0024】【0029】。 ) イ 以上のとおり,引用例3には,従来のエネルギ吸収式ステアリングコラムに は,部品点数が多く,部品製作,部品管理,組立作業がいずれも面倒になり,製作 費がかさむことが避けられず,特に,複数の部品同士を溶接あるいはボルト付け等 により結合固定するため,必要な寸法精度を確保しようとすると,組立作業が相当 に面倒になり,製作費を高くしてしまうとの課題があったことから,かかる課題を 解決するため,ステアリングコラム4aを構成するアウターコラム5aに昇降ブラ ケット8aと取付ブラケット9aとシリンダブラケット10aとを一体に形成する ことや,昇降ブラケット8aは,例えば非鉄金属をダイキャスト成形することによ り形成することが開示されており, 「自動車のステアリングコラムにおいて,アウタ 42 ーコラムに対し,昇降ブラケット等の周辺部材を従来溶接により接合していたのを, 寸法精度確保の手間を省くために,アウターコラムに周辺部材を含めて全体を鋳物 で一体形成する」との技術事項が記載されている。 (3) 周知例2について ア テレスコピック式ステアリングコラムのストッパー装置に関する周知例2 (甲7)には,概略,次のような記載がある。 (ア) この考案は,自動車のテレスコピック式ステアリングコラムのストッパー 装置に関するものである(第1欄17行〜19行)。 コラムジャケット6が挿通されたコラムガイド8は,ボルトナット9により車体 に固定される。10はコラムガイド8の外周に設けたクランク型の溝(スリット) で,このクランク型溝10は軸方向の溝10a,10bと溝10a,10bを連結 する円周方向の溝10cとよりなる。11はコラムガイド8の後端に固着した環状 クランプで,このクランプ11は,割溝12を有し,クランク型溝10の溝10b と一致している。13はクランプ11を結合する締付けねじで,この締付けねじを 回転することによってクランプ11を締付けコラムガイド8の径を縮小してコラム ジャケット6を緊締し,コラム1を固定する(第1欄末行〜第2欄12行)。 (イ) また,別紙6の第2図には,クランプ11は,コラムジャケット6を包持 する包持面を備え,また,当該包持面を備えた包持部よりも肉厚で突出し,締付け ねじ13が貫通する対向厚肉突出部を備えることが図示されている。 イ 以上のとおり,周知例2には,自動車のテレスコピック式ステアリングコラ ムにおいて,コラムジャケット6を挿通したコラムガイド8の後端にコラムジャケ ット6を締め付け保持するために固着されたクランプ11が,コラムジャケット6 を包持する包持面を備えた包持部よりも肉厚で突出し,クランプ11を締付ける締 付けねじ13が貫通する対向厚肉突出部を備えた構成が記載されている。 (4) 周知例3について ア テイルトステアリング機構に関する周知例3(甲8)には,概略,次のよう 43 な記載がある。 (ア) 本考案は,自動車の操舵装置であるテイルトステアリング機構に関するも のである。本考案の目的は,ステアリングホイールの前後,上下位置の調整操作を 簡単にするとともに,テイルトステアリング機構を構成する一部品のコラムサポー トをコラムとの嵌合部のクリアランス調整可能とし,コラム下部の自在継手部分を 包囲するダストカバーのリテーナの機能を持たせ,させに合成樹脂材によって形成 することにより金属接触異音の発生を防止し,かつ,円滑な摺動が得られるように したことである(第1欄下から4行〜第2欄7行)。 別紙7の第1図の1は,ステアリングコラムであり,操舵機構に前後並びに上下 方向に移動自在に自在継手及びスプライン機構で連結されている。コラム1の上方 位置にアッパーサポート2を,下方位置にロアサポート3をそれぞれ嵌装する(第 3欄4行〜10行)。 アッパーサポート2,ロアサポート3の両側は,キャブに固設した一対のブラケ ット5と対接している。すなわち,一対のブラケット5の間に前記アッパーサポー ト2,ロアサポート3が挟まれた状態となっている。ブラケット5の前記アッパー サポート2の両側との対接位置には前後方向に長いガイド穴6が,また,ロアサポ ート3の両側との対接位置にはボトル挿通穴7がそれぞれ開設している。そして, 前記ガイド穴6とアッパーサポート2に空けられているボルト穴2bには,回り止 め頭部9を有するボルト8を挿通し,操作ノブ10によって締付固定するようにし ている(第3欄37行〜第4欄5行)。 本考案は,操作ノブ10を締付けることによって,アッパーサポート2はコラム 1の外周を強固に締付け,前後,上下方向の移動を規制し完全にステアリングホイ ール位置をロックする。また,操作ノブ10を緩めると,アッパーサポート2によ るコラム1の締付けが解除され上下方向の調整が自由に得られるとともに,ブラケ ット5のガイド穴6に沿って前後方向の調整も自由に得られる。この前後方向の調 整移動はロアサポート3のボルト11を中心にして行われる(第4欄14行〜24 44 行)。 (イ) また,別紙7の第1図及び第2図には,アッパーサポート2は,ステアリ ングコラム1を包持する包持面を備え,また,当該包持面を備えた包持部よりも肉 厚で突出し,ボルト8が貫通する対向厚肉突出部を備えることが図示されている。 イ 以上のとおり,周知例3には,自動車のステアリング装置において,ガイド 穴6が形成された一対のブラケット5に挟まれ,ガイド穴6に沿って移動可能に設 けられたアッパサポート2が,ステアリングコラム1を包持する包持面を備えた包 持部よりも肉厚で突出し,ボルト8が貫通する対向厚肉突出部を備えた構成が記載 されている。 (5) 周知例4について ア 車両のステアリングコラム装置に関する周知例4(甲9)には,概略,次の ような記載がある。 (ア) この発明は,自動車のステアリングコラムに関するものである(段落【0 001】。 ) ステアリングコラム10は,ステアリングシャフト14を同軸状に包囲するジャ ケット12を有している(段落(【0013】。 ) 第三のブラケット手段80は,車両の固定部材に一端で固定的に連結され,ジャ ケット12に対して可能に構成されて,ジャケット12が第一の端部20をドライ バの体の大きさ及び運転位置の好みに応じて調整できるようにしている(段落【0 025】。 ) 第三のブラケット手段は,スチール又はプラスチック製のクランプブロック82 を有している。クランプブロック82は,ほぼ立方体形状を有しており,第一の前 後方向に延びるボア84を有している。ボア84は,ジャケット12に取付けを可 能にする大きさに形成される(段落【0026】。 ) クランプブロック82がステアリングコラムジャケット12を中心に配置される と,別紙8の図8に示すように第二の横断方向ボア90がステアリングコラムジャ 45 ケット12の上面に形成された横断方向スロット116に整列する。クランプブロ ック82は,クランプブロック82を通ってジャケット12の孔118に延びる突 起又はハンガ86によって,ステアリングコラムジャケット12に軸支される。調 整ボルト112はクランプブロック82を通って,外ネジ114がクランプブロッ クの一方の側壁から外向きに突出するように延びている。調整ナット120は,内 ネジを形成したボアを一端に隣接して有しており,このボアが調整ボルト112の 外ネジ114と係合する。調整ネジ120は,六角面122と外ネジを形成した端 部124を有している。取付プレート100のアーム106,108のスロット1 10は,調整ナット120の六角面122に摺動可能に係合して,摺動可能にクラ ンプブロック82と取付プレート100を相互結合させる(段落【0033】。 ) 別紙8の図2に示すように,レバ130は,図2に実線で示す第一の上側位置と 図2に仮想線で示す第二の下側ロック位置間のいかなる角度位置にも動作可能であ る。時計回り方向のロック位置に付勢されている間,レバ130は調整ナット12 0を調整ボルト112上で回転して,アーム110を取付プレート100に押圧し (判決注「取付プレート100のアーム106, : 108を押圧し」の誤記と認める。, ) クランプブロック82の上側部94,96をステアリングコラムジャケット12に 対して固定状態で固定的に接合させる。これによって,ジャケット12が固定状態 でロックされる。レバ130を反時計回り第一の位置に向かってに回動すると,調 整ナット120に作用している力が解除され,ステアリングコラムジャケット12 が,図2に仮想線で示す最下調整位置に向かって多数の角度位置のいずれかの位置 に第一の端部20を中心とし回動可能となる。図2の実線位置と仮想線位置の間の いずれかのジャケット12の角度位置において,レバー130は第二のロック位置 に向かって回動することができ,ジャケット12を選択された角度位置に保持して, ドライバの好み及び/又は体の大きさに応じた所望位置にステアリングコラム装置 10が位置することとなる(段落【0035】。 ) (イ) また,別紙8の図8には,クランプブロック82が,アーム106,10 46 8に摺接する面を備えるとともに,ステアリングコラムジャケット12を包持する 包持面を備え,また,当該包持面を備えた包持部よりも肉厚で突出し,調整ボルト 112が貫通する対向厚肉突出部を備えることが図示されている。 イ 以上のとおり,周知例4には,自動車用ステアリングコラム装置において, スロット110が形成された一対のアーム106,108に挟まれ,スロット11 0に沿って移動可能に設けられたクランプブロック82が,ステアリングコラムジ ャケット12を包持する包持面を備えた包持部よりも肉厚で突出し,調整ボルト1 12が貫通する対向厚肉突出部を備えた構成が記載されている。 4 取消事由1(本件発明1の容易想到性に係る判断の誤り)について (1) 相違点1について ア 容易想到性について (ア) 前記3(1)イのとおり,引用例2(甲3)には,乗用トラクターにおけるハ ンドルの伸縮装置において,一対の締付鍔4,4’を備えた締付部3を支持筒2に 装着し,軸方向に連続して摺動筒7を包持する包持面を形成するとの技術事項が記 載されている。そして,引用例2に記載された「乗用トラクターにおけるハンドル」, 「支持筒2」「一対の締付鍔4,4’を備えた部位」及び「摺動筒7」は,その構 , 成及び機能からみて,本件発明1の「乗り物のステアリング」「アウターコラム」 , , 「一対のクランプ部材」及び「インナーコラム」にそれぞれ相当するものである。 したがって,引用例2に記載された上記技術事項は,相違点1に係る本件発明1 の構成のうち, 「一対のクランプ部材が,それぞれ,アウターコラムに一体に形成さ れ,アウターコラムに軸方向に連なり,軸方向に連続してインナーコラムを包持す る包持面を備えた包持部を形成して対をなし,それぞれ,該包持部に連なり互いに 対向する面で軸方向に延びる隙間を形成するとの構成」 (包持部構成)に相当するも のである。また,前記3(3)ないし(5)のとおり,ステアリングコラムにおいて,包 持面を備えた包持部でコラムを締め付け保持するという構成自体は,周知例2ない し4(甲7ないし9)にも記載されている。 47 さらに,前記3(3)ないし(5)のとおり,周知例2(甲7)には,包持部よりも肉 厚で突出した対向厚肉突出部を備えており,締め付け用ボトルが,当該対向厚肉突 出部を貫通している一対のクランプ部材が記載され,また,周知例3(甲8)及び 4(甲9)には,いずれも,対向する面の背側に車体側ブラケットに摺接する面を 備え,かつ,コラムを包持する包持面を備えた包持部よりも肉厚で突出し,ボルト が貫通する対向厚肉突出部を備えた一対のクランプ部材が記載されている。したが って,本件出願に係る優先権主張日当時,車両のステアリングコラムの技術分野で は, 「一対のクランプ部材が,対向する面の背側に車体側ブラケットに摺接する面を 備え,包持部よりも肉厚で突出した対向厚肉突出部を備えており,締め付け用ボト ルが,当該対向厚肉突出部を貫通しているとの構成」 (対向厚肉突出部構成)は,周 知の技術であったということができる。 (イ) 以上を前提として,相違点1に係る本件発明1の構成の容易想到性につい て検討する。 まず,一般に,関連する技術分野に置換可能又は付加可能な技術手段があるとき に,その技術手段の適用を試みることは,当業者が通常発揮すべき創作能力の範囲 内の事項である。また,部品製作や組立作業の容易性の観点から,同種の装置に関 して,より簡易な構造を希求することも,当業者において一般的に有する課題であ る。そして,引用例2(甲3)に記載された「一対の締付鍔4,4’を備えた締付 部3を支持筒2に装着され,軸方向に連続して摺動筒7を包持する包持面を形成す る」との構成は,引用発明(甲1)のステアリングクラムに関する「ステアリング コラムを支持する中間支持片材75は,2つの対称形の要素75a,75bが折り たたみ板材より作られ,要素75bはコラムケーシング61の貫通する半円形開口 の全長にわたりコラムケーシング61に溶接され,中間支持片材75の要素75a はコラムケーシング61が貫通できる半円形開口の半分にほぼ等しい距離にわたり コラムケーシング61に溶接され,この要素75aの部分76はクランプジヨーを 形成し」あるいは「ハンドル13の操作でクランプを行うと,クランプ力はフラン 48 ジ17a及び17bに伝わり,それにより支持片材14の弾性変形の結果フランジ 17a及び17bは互いに近接するように動き,中間支持片材75がフランジ17 a及び17bの間にクランプされ,中間支持片材75はその2つの要素75a及び 75bを近づけ合うように働くクランプ圧を受け,支持片75の部分76だけが要 素75aの残り部分につながった部分の弾性変形により動き,ジヨー76が摺動筒 体62をクランプして,コラムケーシング61を固定装置72の固定した支持片材 14内に固定し同時に摺動筒体62を中間支持片材75及びコラムケーシング61 に対し固定する」等の構成に比して,より簡易な構造であることは明らかである。 したがって,引用例2に接した当業者であれば,引用発明について,引用例2に 記載された上記技術事項を適用することは,容易に想到し得るものであるというこ とができる。 また,前記のとおり,本件出願に係る優先権主張日当時,車両のステアリングコ ラムの技術分野において,コラムを締め付け保持する一対のクランプ部材としては, コラムを包持する包持面を備えた包持部よりも肉厚で突出し,ボルトが貫通する対 向厚肉突出部を備えたものとする構成は周知であったから,引用発明に引用例2に 記載された上記技術事項を適用するに当たり,この周知技術を考慮して,引用発明 の摺動筒体62(インナーコラム)を締め付け保持するための構造として,一対の クランプ部材の互いに対向する面の背側の面を,摺動筒体62の外径寸法よりも広 い間隔を有するフランジ17a及び17bに摺接させるとともに,包持部よりも肉 厚で突出した対向厚肉突出部を備えた構成とし,当該対向肉厚突出部にタイロッド 21(締付け用ボルト)を貫通する構成とすることも,当業者であれば容易に想到 することができたものというべきである。 したがって,相違点1に係る本件発明1の構成は,当業者であれば,引用発明, 引用例2の記載事項及び周知技術により,容易に想到することができたものである。 イ 原告の主張について (ア) 原告は,引用発明に引用例2のようにダッシュボードに固定して取り付け 49 られるハンドル伸縮装置の構成を組み合わせると,引用発明のチルト調整機能が失 われてしまうから,その組合せには阻害事由があると主張する。 しかしながら,相違点1に係る本件発明1の容易想到性の判断に当たり,引用発 明のクランプ部材について,引用例2に記載された「一対の締付鍔4,4’を備え た締付部3を支持筒2に装着し,軸方向に連続して摺動筒7を包持する包持面を形 成する」との技術事項の適用することは,引用発明のチルト機能自体を当然に失わ せるものではないから,上記技術事項の適用に阻害事由があるということにはなら ない。 したがって,原告の上記主張は,採用することができない。 (イ) 原告は,本件審決の判断は,本件発明1の構成を知った後で,引用発明と の相違点を埋めるために,引用例2から引用発明に欠けている構成だけを合目的的 に抽出して組み合わせるというものであり,このような事後分析的,後知恵的な判 断は,進歩性の判断として誤りである旨主張する。 しかしながら,前記のとおり,引用例1及び2に接した当業者であれば,乗り物 のステアリングコラムの固定装置(クランプ部材)について,より簡易な構成を試 行するため,引用発明に引用例2に記載された上記技術事項を適用することは,容 易に想到することができるというべきであり,この点に関する本件審決の判断が事 後分析的,後知恵的なものであるということはできない。 したがって,原告の上記主張は,採用することができない。 (ウ) 原告は,引用例2に記載された締付鍔4,4 のように,筒状の部材から細 長い板状部が伸びている形状の部材は,鋳物で一体形成することが技術的に困難で あるから,引用発明に引用例2の記載事項を組み合わせて,相違点1に係る本件発 明1の構成に想到することには,阻害事由があると主張する。 しかしながら,引用発明に適用されるのは,引用例2に記載された「一対の締付 鍔4,4’を備えた締付部3を支持筒2に装着し,軸方向に連続して摺動筒7を包 持する包持面を形成する」との技術事項(技術思想)であって,引用発明のクラン 50 プ部材として,引用例2の締付鍔4,4’をそのまま代替させることを意味するも のではない。そして,前記のとおり,引用発明に引用例2記載された上記技術事項 を適用するに当たり, 「コラムを締め付け保持する一対のクランプ部材としては,コ ラムを包持する包持面を備えた包持部よりも肉厚で突出し,ボルトが貫通する対向 厚肉突出部を備えたものとする」という周知技術を考慮して,引用発明の摺動筒体 62(インナーコラム)を締め付け保持するための構造として,一対のクランプ部 材の互いに対向する面の背側の面を,摺動筒体62の外径寸法よりも広い間隔を有 するフランジ17a及び17bに摺接させるとともに,包持部よりも肉厚で突出し た対向厚肉突出部を備えた構成とし,当該対向肉厚突出部にタイロッド21(締付 け用ボルト)を貫通する構成とすることも,当業者であれば容易に想到することが できたものであるから,引用例2に記載された締付鍔4,4 が細長い板状の形状で あるからといって,これが引用発明に引用例2の記載事項を適用することの阻害事 由となるものではない。 したがって,原告の上記主張は,採用することができない。 (エ) 原告は,引用例2に記載されたトラクターのハンドルは,摺動筒7と支持 筒2とが入れ子構造になっているため,摺動伸縮し得る構造のハンドルであるが, 入れ子構造により摺動伸縮し得る構造は,引用発明においても既に採用されている から,引用発明に引用例2に記載された構造を組み合わせる動機付けは存在しない と主張する。 しかしながら,入れ子構造により摺動伸縮し得る構造のステアリング車両用ステ アリング装置としては,引用発明と引用例2に記載されたハンドルの伸縮装置だけ でなく,本件発明1も共通して備える構成である。本件発明1と引用発明との相違 点1は,クランプ部材における構成の相違であるから,引用発明と引用例2に記載 されたハンドルの伸縮装置が,ともに入れ子構造により摺動伸縮し得る構造を採用 しているからといって,クランプ部材の構成に関して,引用発明に引用例2に記載 された前記技術事項を組み合わせる動機付けが存在しないということにはならない。 51 したがって,原告の上記主張は,採用することができない。 (オ) 原告は,ステアリングホイールの上下方向のこじりに対する高い剛性とい う本件発明1の作用効果は,引用例1及び2に全く開示がないから,このような作 用効果を得るために引用例2の構造を利用するということは,引用例1や引用例2 に接した当業者が,容易に想到し得ることではないと主張する。 しかしながら,前記のとおり,本件発明1は,インナーコラムを一対のクランプ 部材で包持してクランプすることにより,ステアリングホイールが上下方向にこじ られた場合であっても,インナーコラムが揺動するように動くことがなく,コラム の剛性を著しく高くすることができるというものであるが(段落【0050】,包 ) 持面でコラムを包持するという構成自体は,引用例2だけでなく,周知例2ないし 4にも記載されているものであり,クランプ部材の構成としては,本件発明1のみ に特有のものではない。 したがって,当業者であれば,ステアリングホイールの上下方向のこじりに対す る高い剛性という作用効果を念頭に措くことがなくても,適宜選択し得る構成の一 つであるということができる。 したがって,原告の上記主張は,採用することができない。 (2) 相違点2について ア まず,証拠(甲20ないし22)によれば,本件出願に係る優先権主張日前 当時,ステアリングコラムをクランプする一対のクランプ部材を締め付けるための 機構として,一対のクランプ部材を貫通するボルト上に設けられ,互いに面接触し た第1カム部材及び第2カム部材を相対回転させることによって一対のクランプ部 材を変形させることは,周知の技術であったことが認められる(周知例15(甲2 0) 「第2欄20行〜第3欄13行,第2図,第4図」,周知例16(甲21) 「6頁 15行〜12頁12行,第5図」,周知例17(甲22)「第5欄25行〜第6欄4 0行第1図,第3図」。 ) 一般に,関連する技術分野に置換可能又は付加可能な技術手段があるときに,そ 52 の技術手段の適用を試みることは,当業者が通常発揮すべき創作能力の範囲内の事 項である。 そうすると,引用発明について,この周知技術を適用して,相違点2に係る本件 発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到し得ることであったということが できる。 イ 原告の主張について 原告は,相違点2に係る本件審決の判断は,締付力の調整が可能なカムロック機 構の採用によって,鋳物という割れやすい素材でクランプ部材を構成することがよ り安全かつ容易にとなったという重要な作用効果を考慮していないとか,引用例3 にはカムロック機構を採用する動機付けが認められないなどと主張する。 しかしながら,前記のとおり,クランプ機構としてカムロック機構を採用する構 成は,周知の技術であるから,当業者において適宜選択し得る代替的な手段にすぎ ない。 したがって,クランプ機構としてカムロック機構を採用することに,格別の動機 付けを要するものではないし,クランプ部材の材質を考慮して,クランプ力をあら かじめ設定することができるカムロック機構を採用することも,当業者であれば, 容易に想到することができるものである。 よって,原告の上記主張は,いずれも採用することができない。 (3) 相違点4について ア 一般的に,製品の製造に用いる材料の選択は,求められる強度や性質,部材 の機能,製造の容易性やコストなどを考慮して,当業者が適宜に選択すべき事項で あるところ,各部材間の寸法精度を確保する手間を省くため,複数の部材を一体構 成とすることは,製造分野における一般的な課題として認識されており,その解決 のため,複雑な形状の部材であっても一体形成が可能であることを特徴とする鋳造 法を用いることは,種々の技術分野において,本件出願に係る優先権主張日前から 広く行われている周知慣用の技術である(甲11)。 53 そして,前記3(2)イのとおり,引用例3(甲4)には,「自動車のステアリング コラムにおいて,アウターコラムに対し,昇降ブラケット等の周辺部材を従来溶接 により接合していたのを,寸法精度確保の手間を省くために,アウターコラムに当 該周辺部材を含めて全体を鋳物で一体形成する」との技術事項が記載されているか ら,引用例3に接した当業者であれば,引用発明について,引用例3記載の上記技 術事項を考慮して,コラムケーシング61に対して中間支持片材75の2つの要素 75a,75b(一対のクランプ部材)を溶接により接合することに代えて,コラ ムケーシング61とこれらの部材とを鋳物で一体形成し,また,取付け突縁部3(支 持部)も鋳物で一体成形することとして,相違点4に係る本件発明1の構成とする ことは,容易に想到し得ることである。 イ 原告の主張について (ア) 原告は,鋳物は変形させると割れやすい素材と理解されており,弾性変形 する部材に使用し得る素材であるとは,一般的には理解されていないから,このよ うな鋳物の一体形成を,本件発明1のアウターコラムのような,弾性変形するクラ ンプ部材を有する部材に適用することは想到し得えないなどと主張する。 しかしながら, 「鋳物」とは,鋳造法によって製造された金属品であり,鋳造法に より製造される金属であれば,その材質は問わず,全て「鋳物」という技術用語に 包含されるものである(甲10,11)。そして,鋳造法によっても,アルミ合金鋳 物等のように割れにくい材質も製造できるのであるから(甲13,14,乙11。 なお,本件明細書(段落【0029】)にも,アウターコラム4は,アルミ鋳物等で 作ってよいとの記載がある。, )「鋳物」は割れやすいという性質を一義的に導き出す ことはできない。また,車両用ステアリングのクランプ部材における締め付け変形 は,比較的小規模なものにとどまると考えられるから, 「鋳物」の素材として選択さ れる金属材の材質によっては,弾性変形するクランプ部材を有する部材に適用し, これを使用することもできるというべきである。 したがって,原告の上記主張は,採用することができない。 54 なお,ステアリングホイール心金に関する甲30(特開昭62−178469号 公報)には, 「ダイカスト金属がその機械的性質として伸びが小さいことから,ステ アリングシャフトへの装着後におけるリング部心金に衝撃力が作用した際,そのダ イカスト金属を使用している部位で脆性破壊が生じ易く,その部位で割れるおそれ があった。(2頁左上欄6行〜10行)と,ステアリングホイールに関する甲31 」 (特開平7−137639号公報)には, 「鋳物材料は曲がるというよりも脆い傾向 にあることが知られている。さらに,鋳物はよくひび割れするので,通常,鋳造工 程はステアリングホイールの製造に適さないと考えられている。 段落 ( 」 【0003】) と,自動車の車体フレーム構造に関する甲32(特開平11−208508号公報) には, 「ダイキャスト成型部材は,高剛性な反面,靱性には乏しいので,これに押し 出し成型部材を単純に溶接結合しただけであると,車両衝突時の衝撃荷重でダイキ ャスト成型部材が割れてしまい,アルミニウム材の優れた特質の一つである変形時 の衝撃エネルギ吸収特性が損なわれるという不都合がある。(段落【0003】 」 )と それぞれ記載されている。 しかしながら,前記のとおり,鋳造法によっても,アルミ合金鋳物等のように割 れにくい材質も製造できるのであるから, 「鋳物」の素材として選択される金属材の 材質によっては,弾性変形するクランプ部材を有する部材に適用し,これを使用す ることも,当業者であれば優に認識し得るところであり,甲30ないし32の上記 各記載から,直ちに,弾性変形するクランプ部材に「鋳物」を適用することが困難 であるということにはならない。 (イ) 原告は,引用発明の中間支持片75や取付け突縁部3のような,板状の複 雑な形状をした部材を,溶接ではなく鋳物で形成することは,技術的に困難である から,引用発明に引用例3の「鋳物による一体形成」という構成を組み合わせるこ とには,阻害事由があると主張する。 しかしながら,前記のとおり,複雑な形状の部材であっても一体形成が可能であ ることを特徴とする鋳造法を用いることは,種々の技術分野において,本件出願に 55 係る優先権主張日前から広く行われている周知慣用の技術である。そして,前記の とおり,引用例3にも,板状の形状である昇降ブラケット8a,取付ブラケット9 a,シリンダブラケット10aを一体に形成することが記載されているから,引用 発明の中間支持片75や取付け突縁部3を鋳物でコラムケーシングと一体に形成す ることも,技術的に困難とはいえず,引用発明に引用例3の「鋳物による一体形成」 という構成を組み合わせることに阻害事由があるということはできない。 したがって,原告の上記主張は,採用することができない。 (ウ) 原告は,本件審決の判断は,引用例3から, 「寸法精度の確保の手間を省く ためにアウターコラム周辺部材を鋳物一体形成する」という発明思想のみを,事後 分析的・後知恵的に組み合わせたもので,誤りである旨主張する。 しかしながら,前記のとおり,各部材間の寸法精度を確保する手間を省くため, 複数の部材を一体構成とすることは,製造分野における一般的な課題として認識さ れており,その解決のため,複雑な形状の部材であっても一体形成が可能であるこ とを特徴とする鋳造法を用いることは,周知慣用の技術であるから,引用発明につ いて,引用例3に記載された「自動車のステアリングコラムにおいて,アウターコ ラムに対し,昇降ブラケット等の周辺部材を従来溶接により接合していたのを,寸 法精度確保の手間を省くために,アウターコラムに当該周辺部材を含めて全体を鋳 物で一体形成する」との技術事項を適用することは,当業者であれば,容易に想到 し得るというべきであって,この点に関する本件審決の判断が事後分析的・後知恵 的なものであるということはできない。 したがって,原告の上記主張は,採用することができない。 (4) 相違点3及び4による作用効果の看過について 原告は,相違点3に係る本件審決の判断は,チルト回転機構の軸を形成する支持 部をアウターコラムと一体形成したことにより,引用発明に比して,チルト回転機 構の回転軸の位置を精密に決めることがはるかに容易になるという作用効果を看過 したものである旨主張する。 56 しかしながら,前記のとおり,チルト回動機構が形成されている支持部をアウタ ーコラムに鋳物で一体形成することは,当業者が容易に想到し得ることであり, 「チ ルト回動の中心点を精密に調整できる」という作用効果は,支持部をアウターコラ ムに鋳物で一体形成した場合の構成から当然に得られる作用効果であるにすぎない。 したがって,原告の上記主張は,採用することができない。 なお,電動パワーステアリング装置に関する引用例4(甲5)には, 「ステアリン グコラム1は,アッパブラケット3を介して車体側メンバ5に固定された鋼管製の アッパコラム7と,ロアブラケット9を介して車体側メンバ5に固定されたアルミ 合金鋳造品の減速ギヤカバー12及び減速ギヤボックス11とから構成されてい る。(段落【0009】,別紙5の「図2及び3に示したように,ロアブラケット 」 ) 9は,減速ギヤカバー12のチルトピボット部31を挟持するべく下方が開いたほ ぼコ字形状となっており,軸部材たるフランジボルト33とフランジナット37と によって減速ギヤカバー12と回動自在に連結されている。(段落【0011】 」 )と の記載があり,減速カバー12と回転支持部であるチルトピボット部31とがアル ミ合金鋳造品として一体に形成されることが示されているところ,これらの記載は, 実質的には減速カバー12等によって構成されるステアリングコラム1と回動支持 部であるチルトピボット部31とが一体に形成されることを示すものであるから, 原告が主張する上記のような作用効果は,引用例4に記載された構成からも同様に 生ずるものであって,これを格別顕著な作用効果であるということはできない。 (5) 小括 以上によれば,本件発明1は,引用発明,引用例2及び3の記載事項及び周知技 術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,取消事由1は理 由がない。 5 取消事由2(本件発明2ないし6の容易想到性に係る判断の誤り)について (1) 本件発明2について 相違点1−2に係る本件発明2の構成は,相違点1に係る本件発明1の「包持部 57 よりも肉厚で突出した対向厚肉突出部」との構成から, 「包持部よりも肉厚で突出し た」との事項を外したものであり,相違点1−2は,実質的に相違点1に含まれる ものである。 そうすると,本件発明2と引用発明との相違点は,実質的に相違点1ないし4と 同じであるから,本件発明2は,本件発明1と同様に,引用発明,引用例2及び3 の記載事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたもので ある。 (2) 本件発明3について 相違点1−3に係る本件発明3の構成は,相違点1に係る本件発明1の「包持部 よりも肉厚で突出した対向厚肉突出部」との構成から, 「包持部よりも肉厚で突出し た」との事項を外し,かつ,相違点1に係る本件発明1の「一対のクランプ部材が アウターコラムに一体に形成される」との構成及び「締付け用のボルトが対向厚肉 突出部を貫通している」との構成を含まないものであるから,相違点1−3は,実 質的に相違点1に含まれるものである。 そうすると,本件発明3と引用発明との相違点は,実質的に相違点1,3及び4 と同じであるから,本件発明3は,本件発明1と同様に,引用発明,引用例2及び 3の記載事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたもの である。 (3) 本件発明4について 相違点1−4に係る本件発明4の構成は,相違点1に係る本件発明1の「軸方向 に連続してインナーコラムを包持する包持面」との構成から「軸方向に連続して」 との事項を, 「包持部よりも肉厚で突出した対向厚肉突出部」との構成から「包持部 よりも肉厚で突出した」との事項をそれぞれ外すとともに,本件発明1の「一対の クランプ部材がアウターコラムに一体に形成される」との構成及び「締付け用のボ ルトが対向厚肉突出部を貫通している」との構成を含まないものであるから,相違 点1−4は,実質的に相違点1に含まれるものである。 58 また,相違点5は,クランプ部材のインナーコラム外周面に押圧接触する面が, 保持面か包持面かの文言上の相違であって,実質的に相違点1に含まれるものであ る。 そうすると,本件発明4と引用発明との相違点は,実質的に相違点1,3及び4 と同じであるから,本件発明4は,本件発明1と同様に,引用発明,引用例2及び 3の記載事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたもの である。 (4) 本件発明5について 相違点6のうち,本件発明5では,クランプ部材の包持面はインナーコラム外周 面に周方向で断続的に押圧接触しているのに対し,引用発明では,クランプ部材の 保持面がインナーコラム外周面に周方向で断続的に押圧接触している点についてみ ると,クランプ部材をインナーコラム外周面に周方向で連続的に押圧接触させるか, 断続的に押圧接触させるかという選択は,要求される寸法精度や剛性等を勘案して 当業者が設計上適宜なし得る事項であるから,クランプ部材をインナーコラム外周 面に周方向で断続的に押圧接触させるという本件発明1の構成は,当業者であれば, 容易に想到することができたものということができる。 また,相違点6のうち,本件発明1の上記構成に対し,引用発明では,あくまで 保持面であって包持面ではない点は,実質的に相違点1に含まれるものである。 そして,相違点1,3及び4に係る本件発明1の構成が容易に想到することがで きるものであることは,前記4のとおりであるから,本件発明5も,本件発明1と 同様に,引用発明,引用例2及び3の記載事項並びに周知技術に基づいて当業者が 容易に発明をすることができたものである。 (5) 本件発明6について 相違点1,3及び4に係る構成が当業者であれば容易に想到し得るものであるこ とは,前記4で説示したとおりである。 また,引用例3には,アルミ鋳物又はマグネシウム系鋳物が記載されているから, 59 引用発明において相違点7に係る本件発明6の構成とすることは,引用例3の記載 事項を参酌することにより当業者が容易になし得たことである。 したがって,本件発明6も,本件発明1と同様に,引用発明,引用例2及び3の 記載事項並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたもので ある。 (6) 小活 以上によれば,取消事由2も理由はない。 6 結論 以上の次第であるから,原告主張の取消事由は理由がなく,本件審決にこれを取 り消すべき違法は認められない。 したがって,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のと おり判決する。 知的財産高等裁判所第4部 裁判長裁判官 富 田 善 範 裁判官 大 鷹 一 郎 裁判官 齋 藤 巌 60 別紙1 本件明細書の図面(甲24の1) 図1: 図2: 61 図3: 図4: 62 図5: 図6: 63 別紙2 引用例(甲1)の図面 第1図: 第2図: 64 第3図: 第10図: 65 第11a図,第11図: 第12図: 66 別紙3 引用例2(甲3)の図面 第1図: 第2図: 67 第3図: 68 別紙4 引用例3(甲4)の図面 図1: 図4: 69 図10 図11 70 別紙5 引用例4(甲5)の図面 図1: 図2: 71 図3 72 別紙6 周知例2(甲7)の図面 第2図: 73 別紙7 周知例3(甲8)の図面 第1図: 図2: 74 別紙8 周知例4(甲9)の図面 図2 図8: 75 |