運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成24行ケ10295審決取消請求事件 判例 特許
平成25行ケ10118審決取消請求事件 判例 特許
平成24行ケ10314審決取消請求事件 判例 特許
平成25行ケ10155審決取消請求事件 判例 特許
平成25行ケ10036審決取消請求事件 判例 特許
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 24年 (行ケ) 10358号 審決取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2013/12/05
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成25年12月5日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

平成24年(行ケ)第10358号(以下「第1事件」という。),同第1044

4号事件(以下「第2事件」という。)審決取消請求事件

口頭弁論終結日 平成25年11月14日
判 決

第1事件原告兼第2事件被告 株 式 会 社 堀 場 製 作 所

(以下「原告」という。)

訴訟代理人弁護士 伊 原 友 己

同 加 古 尊 温

訴訟代理人弁理士 西 村 竜 平

同 角 田 敦 志

第1事件被告兼第2事件原告 アー・ファウ・エル・リスト・

ゲゼルシャフト・ミト・

ベ シ ュ レ ン ク テ ル ・

ハ フ ツ ン グ

(以下「被告」という。)

訴訟代理人弁護士 小 林 幸 夫

訴訟復代理人弁護士 坂 田 洋 一

同 河 部 康 弘

訴訟代理人弁理士 江 崎 光 史

同 篠 原 淳 司

同 清 田 栄 章

主 文

1 原告の請求を棄却する。

2 特許庁が無効2011−800231号事件につい

て平成24年9月10日にした審決中,特許第449




0481号の請求項1ないし3,6及び7に係る部分

を取り消す。

3 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

1 原告

特許庁が無効2011−800231号事件について平成24年9月10日にし

た審決中,特許第4490481号の請求項4及び5に係る部分を取り消す。

2 被告

主文2項と同旨

第2 事案の概要

1 特許庁における手続の経緯等

(1) 被告は,平成17年5月24日,発明の名称を「内燃機関のテストベンチ」

とする特許出願(特願2007−513591号。パリ条約による優先権主張:平

成16年(2004年)5月24日,オーストリア共和国。請求項の数7)をし,

平成22年4月9日,設定の登録(特許第4490481号)を受けた(甲22。

以下,この特許を「本件特許」という。)。

(2) 原告は,平成23年11月10日,本件特許の請求項1ないし7に係る発明

について,特許無効審判を請求し,無効2011−800231号事件として係属

した。

(3) 被告は,平成24年4月3日,訂正請求をした(甲23の1〜3。以下「本

件訂正」といい,その訂正明細書(甲22,甲23の1〜3)を「本件明細書」と

いう。)。

(4) 特許庁は,平成24年9月10日,本件訂正を認めた上,「特許第4490

481号の請求項1〜3,6,7に係る発明についての特許を無効とする。特許第

4490481号の請求項4,5に係る発明についての審判請求は,成り立たな




い。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月21日,原

告及び被告に送達された。

(5) 原告は,平成24年10月17日,本件審決のうち,本件特許の請求項4及

び5に係る発明についての審判請求は成り立たないとした部分の取消しを求める訴

えである第1事件を提起した。

被告は,同月26日,本件審決のうち,本件特許の請求項1ないし3,6及び7

に係る発明についての特許を無効とした部分の取消しを求める訴えである第2事件

を提起した。

2 特許請求の範囲の記載

本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載の発明は,次のとおりで

ある。以下,請求項1ないし7に係る発明を,請求項の番号に応じて「本件発明

1」ないし「本件発明7」といい,これらを併せて「本件発明」という(別紙1参

照)。

【請求項1】一方では試験するべき内燃機関(2)と他方では前記内燃機関の出力

側に対して少なくとも1つの回動連結している駆動機械若しくは負荷機械(4)と

が配置されている基台(1)を有する内燃機関のテストベンチにおいて,

前記駆動機械若しくは負荷機械(4)は,前記基台(1)に対して垂直方向に間

隔(5)をあけて前記基台(1)上に配置された支持構造体(6)に懸架されて前

記試験するべき内燃機関(2)の出力軸(7)と一列に並ぶ駆動軸(8)と共に据

え付けられていることによって,前記駆動機械若しくは負荷機械(4)の下方に前

記基台(1)にかけて残されている空間が,排気装置(10)を敷設するために開

放されて確保されていることを特徴とするテストベンチ。

【請求項2】小出力に仕様されている永久磁石により動作する機械が,前記駆動機

械若しくは負荷機械(4)として据え付けられていることを特徴とする請求項1に

記載のテストベンチ。

【請求項3】2台又は複数台の駆動機械若しくは負荷機械(4)が,直列に前後し




て懸架されて且つ回動連結して据え付けられていることを特徴とする請求項1又は

2に記載のテストベンチ。

【請求項4】前記支持構造体(6)は,前記基台(1)の基板をブリッジ状に把持

し且つこの基板の両側でこの基板上に支持され且つ固定されていることを特徴とす

る請求項1〜3のいずれか1項に記載のテストベンチ。

【請求項5】前記支持構造体(6)は,前記基台(1)の基板の片側上だけで支持

され且つ固定されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のテ

ストベンチ。

【請求項6】前記支持構造体(6)は,前記駆動機械若しくは負荷機械(4)を上

方から若しくは側方から懸架して担持することを特徴とする請求項1〜3のいずれ

か1項に記載のテストベンチ。

【請求項7】前記駆動機械若しくは負荷機械(4)は,振動減衰装置(11)を中

間接続して前記支持構造体(6)に懸架されていることを特徴とする請求項1〜6

のいずれか1項に記載のテストベンチ。

3 本件審決の理由の要旨

(1) 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,本

件発明1ないし3,6及び7は,引用例である下記ア,イ及びエの甲1,2及び4

に記載された発明(以下,順次 ,「甲1 発明」「甲2発明」「甲4発明 」とい

う。)及び周知技術等に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであ

るから,特許法29条2項の規定により,無効とすべきものであるが,本件特許4

及び5は,引用例である甲1,2及び4並びに下記ウの甲3に記載された発明(以

下「甲3発明」という。)に基づいて無効とすることができない,というものであ

る。

ア 甲1:米国特許第4899595号明細書及びその翻訳文(特許日:平成2

年(1990年)2月13日)(別紙4参照)

イ 甲2:独国特許出願公開第4019581号明細書及びその翻訳文(平成4




年(1992年)公開)(別紙2参照)

ウ 甲3:独国特許出願公開第3135679号明細書及びその翻訳文(昭和5

8年(1983年)公開)(別紙5参照)

エ 甲4:特開平8−15094号公報(別紙3参照)

(2) 対比

ア 本件審決が認定した甲1発明並びに本件発明1と甲1発明との一致点及び相

違点1−1−1及び相違点1−1−2は,次のとおりである。

(ア) 甲1発明:エンジン22が支持された台と,

主軸108を有するモジュラ一式動力計20と,その内部に前記モジュラー式動

力計20が配置される閉鎖筺体32と,

前記閉鎖筺体32を安定的に支持する複数の支持脚,足結合体30を有する支持

フレーム26と,

前記複数の支持脚,足結合体30の各対を連結する横材31と,

前記支持フレーム26を搭載する支持パッド149とを備え,

前記主軸108は,回転軸24によりエンジンに連結されており,

前記各横材31は,前記主軸108上に,各ベアリングクレードル27によって

連結されている,

原動機出力測定装置。

(イ) 一致点:試験するべき内燃機関と,試験するべき内燃機関の出力側に対し

て少なくとも1つの回動連結している駆動機械若しくは負荷機械とが配置されてい

る台を有する内燃機関のテストベンチにおいて,

前記駆動機械若しくは負荷機械は,前記台に対して垂直方向に間隔をあけて前記

台上に配置された支持構造体に懸架されて前記試験するべき内燃機関の出力軸と一

列に並ぶ駆動軸と共に据え付けられていることによって,前記駆動機械若しくは負

荷機械の下方に前記台にかけて空間が残されている,テストベンチ。

(ウ) 相違点1−1−1:「台」が,本件発明1では「試験するべき内燃機関」




及び「駆動機械若しくは負荷機械」を共に配置する単一の「基台」であるのに対し,

甲1発明では,「エンジン22」を配置する「台」及び「駆動機械若しくは負荷機

械」を配置する「支持パッド」から成る点。

(エ) 相違点1−1−2:本件発明1では,「駆動機械若しくは負荷機械の下方

に前記基台にかけて残されている空間が,排気装置を敷設するために開放されて確

保されている」のに対し,甲1発明では,排気装置の敷設については不明である点。

イ 本件審決が認定した甲2発明並びに本件発明1と甲2発明との一致点及び相

違点1−2は,次のとおりである。

(ア) 甲2発明:エンジンMのクランクシャフトにフランジブレーキとして設計

されたパワーブレーキBのシャフト3が直接取り付けられ,排気ガス装置Aが実車

と同じ状態でエンジンMに取り付けられたエンジン試験台において,

パレット支持フレーム26と,その下に位置するパレットベースフレームPから

構成された走行可能な架台Uを備え,

エンジンMは,その両側に配置された2簡所の支持脚S1及びS2によってパレ

ット支持フレーム26に収り付けられており,

フランジブレーキBは,支持部材S3及びS4を介してパレットベースフレーム

Pに取り付けられた共用支持プレート1によって支持されており,

排気ガス装置Aは,エンジンMの側方から,フランジブレーキBの側方を通って,

測定室R2に伸びている,

エンジン試験台。

(イ) 一致点:一方では試験するべき内燃機関と他方では前記内燃機関の出力側

に対して少なくとも1つの回動連結している駆動機械若しくは負荷機械とが配置さ

れている基台を有する内燃機関のテストベンチにおいて,

前記駆動機械若しくは負荷機械は,前記基台に対して垂直方向に間隔をあけて前

記基台上に配置された支持構造体に懸架されて前記試験するべき内燃機関の出力軸

と一列に並ぶ駆動軸と共に据え付けられているテストベンチ。




(ウ) 相違点1−2:本件発明1では,「駆動機械若しくは負荷機械の下方に前

記基台にかけて残されている空間が,排気装置を敷設するために開放されて確保さ

れている」のに対し,

甲2発明では,排気ガス装置Aは,エンジンMの側方から,フランジブレーキB

の側方を通って,測定室R2に伸びている点。

ウ 本件審決が認定した甲3発明並びに本件発明1と甲3発明との一致点及び相

違点1−3−1及び1−3−2は,次のとおりである。

(ア) 甲3発明:検査すべき内燃機関に連結できる常用ブレーキを備えた内燃機

関を検査するための性能検査装置であって,

常用ブレーキ1がフランジブレーキとして構成されており,また締結装置7によ

りハウジング側及びシャフト/ロータ側において内燃機関2に連結されており,

常用ブレーキ1は,懸架ロッド13を介して,建物天井又は対応する支持台に自

由揺動的に懸架されており,

検査すべき内燃機関2は,フランジホイスト9及び電気式チェーンホイストの吊

りフック10により自由揺動的に懸架支持されている,

性能検査装置。

(イ) 一致点:試験するべき内燃機関と前記内燃機関の出力側に対して少なくと

も1つの回動連結している駆動機械若しくは負荷機械とを有する内燃機関を検査す

るための装置において,

前記駆動機械若しくは負荷機械は,支持構造体に懸架されて前記試験するべき内

燃機関の出力軸と一列に並ぶ駆動軸と共に据え付けられている,内燃機関を検査す

るための装置。

(ウ) 相違点1−3−1:本件発明1は,「内燃機関のテストベンチ」であって,

「試験するべき内燃機関」と「駆動機械若しくは負荷機械」とが配置されている

「基台」を有しており,「支持構造体」が「基台」上に配置され,「駆動機械若し

くは負荷機械」が,前記「基台」に対して「垂直方向に間隔をあけて」懸架されて




いるのに対し,甲3発明では,本件発明1における「基台」に相当する構成が不明

である点。

(エ) 相違点1−3−2:本件発明1では,「駆動機械若しくは負荷機械の下方

に前記基台にかけて残されている空間が,排気装置を敷設するために開放されて確

保されている」のに対し,甲3発明では,排気装置の敷設について不明である点。

エ 本件審決が認定した甲4発明並びに本件発明1と甲4発明との一致点及び相

違点1−4−1及び相違点1−4−2は,次のとおりである。

(ア) 甲4発明:内燃機関に対して性能試験を行うのに採用される内燃機関試験

設備において,

ベース体17と,前記ベース体17上に配設された平枠体18と,前記平枠体1

8上に配設されたグレーチング板19より形成された底壁部11を有する試験室1

6内に,

内燃機関1の試験装置30が設置され,

前記試験装置30は,

前記グレーチング板19上に配設されたベース板33を備え,試験される内燃機

関1を支持する内燃機関支持装置32と,

前記ベース板33上に設けられた台上に載置され,内燃機関1に連結された動力

計70と,

内燃機関1の下方からベース板33及びグレーチング板19を貫通して,ベース

体17とグレーチング板19の間の空間に配置された,内燃機関の排気配管51,

とを備えた内燃機関試験設備。

(イ) 一致点:一方では試験するべき内燃機関と他方では前記内燃機関の出力側

に対して回動連結している駆動機械若しくは負荷機械とが配置されている基台を有

する内燃機関のテストベンチにおいて,

前記駆動機械若しくは負荷機械は,前記基台に対して垂直方向に間隔をあけて前

記基台上に配置された支持構造体に支持されていることによって,前記駆動機械若




しくは負荷機械の下方に前記基台にかけて残されている空間が,排気装置を敷設す

るために開放されて確保されているテストベンチ。

(ウ) 相違点1−4−1:本件発明1では,「駆動機械若しくは負荷機械」が

「支持構造体」により「懸架」されているのに対し,甲4発明では「駆動機械若し

くは負荷機械」が「台」に載置されている点。

(エ) 相違点1−4−2:本件発明1では,「駆動機械若しくは負荷機械」が,

「試験するべき内燃機関(2)の出力軸(7)と一列に並ぶ駆動軸(8)と共に据

え付けられている」のに対し,甲4発明では,「動力計70」の駆動軸と「内燃機

関1」の出力軸との関係が不明である点。

オ 本件審決が認定した本件発明4と甲2発明との一致点及び相違点4−2−1

及び相違点4−2−2は,次のとおりである。

(ア) 一致点:本件発明1と甲2発明との一致点と同じ。

(イ) 相違点4−2−1:相違点1−2と同じ。

(ウ) 相違点4−2−2:本件発明4では,支持構造体が,前記基台の基板をブ

リッジ状に把持し且つこの基板の両側でこの基板上に支持され且つ固定されている

のに対し,甲2発明では,そのような限定がない点。

カ 本件審決が認定した本件発明4と甲4発明との一致点及び相違点4−4−1,

相違点4−4−2及び相違点4−4−3は,次のとおりである。

(ア) 一致点:本件発明1と甲4発明との一致点と同じ。

(イ) 相違点4−4−1:相違点1−4−1と同じ。

(ウ) 相違点4−4−2:相違点1−4−2と同じ。

(エ) 相違点4−4−3:本件発明4では,支持構造体が,前記基台の基板をブ

リッジ状に把持し且つこの基板の両側でこの基板上に支持され且つ固定されている

のに対し,甲4発明では,そのような限定がない点。

キ 本件審決が認定した本件発明5と甲2発明との一致点及び相違点5−2−1

及び相違点5−2−2は,次のとおりである。




(ア) 一致点:本件発明1と甲2発明との一致点と同じ。

(イ) 相違点5−2−1:相違点1−2−1と同じ。

(ウ) 相違点5−2−2:本件発明5では,支持構造体が,前記基台の基板の片

側上だけで支持され且つ固定されているのに対し,甲2発明では,そのような限定

がない点。

ク 本件審決が認定した本件発明5と甲4発明との一致点及び相違点5−4−1,

相違点5−4−2及び相違点5−4−3は,次のとおりである。

(ア) 一致点:本件発明1と甲4発明との一致点と同じ。

(イ) 相違点5−4−1:相違点1−4−1と同じ。

(ウ) 相違点5−4−2:相違点1−4−2と同じ。
(エ) 相違点5−4−3:本件発明5では,支持構造体が,前記基台の基板の片

側上だけで支持され且つ固定されているのに対し,甲4発明では,そのような限定

がない点。

(3) 本件審決の判断の要旨

ア 本件発明1について

(ア) 相違点1−1−1及び相違点1−1−2について

「試験するべき内燃機関」及び「駆動機械若しくは負荷機械」を共に配置する単

一の「基台」とすることは,本件特許の優先日前周知の事項である。

しかしながら,甲1発明では,「試験するべき内燃機関」と「駆動機械若しくは

負荷機械」とを配置する「台」が,「エンジン22」を配置する「台」及び「駆動

機械若しくは負荷機械」を配置する「支持パッド149」から成っており,甲1の

図1(別紙4参照)には,これらは別個のものであってそれぞれ床の上に設置され

ていることが記載されているから,甲1には,「エンジン22」を配置する「台」

及び「駆動機械若しくは負荷機械」を配置する「支持パッド149」を,単一の

「台」とすることが示唆されているということはできない。また,これらの台を共

通のものとする動機付けも見いだせないから,相違点1−1−1について,当業者




容易に想到し得ることとはいえない。

甲1には,排気装置について全く記載がなく,駆動機械若しくは負荷機械の下方

に台にかけて残されている空間を,排気装置を敷設するために開放して確保してお

くことに何らの動機付けも見いだせない。また,甲1では,「閉鎖筺体32」の下

方に「排出弁153」を有し,前記「排出弁153」により,冷却液等の液体を,

「支持パッド149」上に設けた「サンプ147」へと排出するものであるから,

「駆動機械若しくは負荷機械」の下方に残されている「空間」を,「排気装置を敷

設するために開放されて確保」するには阻害要因が存在するといえる。

してみると,相違点1−1−2について,当業者が容易に想到し得ることとはい

えない。

(イ) 相違点1−2について

エンジン試験の駆動機械若しくは負荷機械としてダイナモメータを用いることは

当該技術分野では広く知られた常套手段であり,甲2発明において,駆動機械若し

くは負荷機械としてダイナモメータを採用してエンジン試験を行うことは,当業者

にとっては,十分動機付けが存在し,阻害事由もない。

また,ダイナモメータの支持構造の強度を高めることは常套手段であり,支持構

造の強度を高めることを目的に,甲1発明の支持構造を採用することに,十分動機

付けが存在し,阻害事由もない。

甲2発明は,排気ガス装置を実車と同じ状態でエンジンに取り付けることを目的

としているものである。そして,純正の排気装置の場合,排気管は,エンジンの側

方から出てエンジンの下方に向かい,エンジン下方から後方に延びることは技術常

識である。さらに,甲2発明では,パワーブレーキBのスリム化を目的とするもの

であるから,駆動機械若しくは負荷機械としてダイナモメータを採用した場合当然

ダイナモメータも小型のものを採用するといえる。大型のダイナモメータが不適切

であることは,本件発明2の駆動機械若しくは負荷機械が永久磁石によって動作す

る機械であって,永久磁石を用いた駆動機械若しくは負荷機械は通常小型のもので




あること,本件発明1は本件発明2を含むものであるから,本件発明1においても

当然駆動機械若しくは負荷機械として小型のものを想定しており,本件特許明細書

における図1からみても,大型のダイナモメータでは,内燃機関に同軸に取り付け

た場合排気管がダイナモメータの下方を通せないことからも明らかである。

そして,甲2発明では,エンジン試験のための駆動機械若しくは負荷機械である

パワーブレーキをエンジンのクランクシャフトに直接取り付ける,すなわち,駆動

機械若しくは負荷機械をエンジンに同軸に取り付けるものであり,駆動機械若しく

は負荷機械としてダイナモメータを採用した場合にも,当然ダイナモメータをエン

ジンに同軸に取り付けるものといえる。

以上の事項を総合すると,小型のダイナモメータをエンジンに同軸に取り付け,

純正の排気装置を用いた場合,その排気管は,必然的にダイナモメータの下方を通

るといえる。

したがって,甲2発明において駆動機械若しくは負荷機械としてダイナモメータ

を採用すると共に甲1発明の支持構造体を採用し,駆動機械若しくは負荷機械が,

基台に対して垂直方向に間隔をあけて前記基台上に配置された支持構造体に懸架さ

れるようにすることは,当業者が容易に想到し得る程度の事項であるというべきで

あり,その結果,駆動機械若しくは負荷機械の下方に前記基台にかけて残されてい

る空間に排気装置が配置されることは,エンジンの大きさ,ダイナモメータの大き

さ及び純正の排気装置の形状から,必然的な事項であるといえる。

そして,上記相違点により奏する本件明細書に記載された効果は,甲2発明,甲

1発明,上記常套手段及び技術常識から容易に予測し得る範囲のものであり,格別

顕著なものとはいえない。

以上のとおり,本件発明1は,甲2発明,甲1発明,上記常套手段及び技術常識

に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(ウ) 相違点1−3−1及び相違点1−3−2について

甲3発明では,「常用ブレーキ1」は「番号が付けられていない建物天井または




対応する支持台」に「懸架ロッド13」を介して懸架されており,また,「懸架ロ

ッド13」は「番号が付されていない枠状の支持構造体」から吊り下げられている。

ここで,「番号が付けられていない建物天井または対応する支持台」が,「番号が

付されていない枠状の支持構造体」であることは明らかであるから,甲3発明では,

「懸架ロッド13」は「建物天井」又はそれに類する箇所から吊り下げられている

といえ,したがって,「常用ブレーキ1」は,「建物天井」又はそれに類する箇所

から吊り下げられた「懸架ロッド13」により懸架されているといえる。

他方,「内燃機関2」は,「走行クレーン11」から吊り下げられた「フランジ

ホイスト9」を介して懸架されており,また,「走行クレーン11」は,「番号が

付されていない枠状の支持構造体」の上部に存在するものであるから,「走行クレ

ーン11」は,「建物天井」付近に存在するといえる。

したがって,甲3発明では,「建物天井」付近から「試験するべき内燃機関」と

「駆動機械若しくは負荷機械」との双方をそれぞれ吊り下げるものであるから,本

件発明1における「基台」に相当するものが存在せず,また,このような「基台」

が示唆されているともいえない。さらに,本件発明1における「基台」は,その上

に「支持構造体」を設けるものであるが,甲3発明では,「内燃機関2」と「常用

ブレーキ1」は,ともに「建物天井」から懸架されるものであるから,「基台」上

に「支持構造体」を設けて「駆動機械若しくは負荷機械」を懸架させるとともに,

「試験するべき内燃機関」も同じ「基台」に配置することは,甲3発明の技術思想

からは逸脱するものであることは明らかである。

また,甲1には,「支持パッド149」上で駆動機械若しくは負荷機械を懸架す

る支持構造体が記載されているが,上記のとおり,甲3発明では,「内燃機関」と

「常用ブレーキ」は,ともに「建物天井」付近から懸架されるものであり,また,

甲3発明は「常用ブレーキ」や「内燃機関」を自由揺動的に懸架支持することを前

提とするものであるから,甲3発明に甲1発明における支持構造体を適用する動機

付けは見いだせない。




したがって,相違点1−3−1について,当業者が容易に想到し得るとはいえな

い。

「常用ブレーキ1」の下方は空間となっているが,甲3には排気装置に関して全

く記載がなく,駆動機械若しくは負荷機械の下方に残されている空間を,排気装置

を敷設するために開放して確保しておくことに何らの動機付けも見いだせないから,

相違点1−3−2について,当業者が容易に想到し得るとはいえない。

(エ) 相違点1−4−1及び相違点1−4−2について

甲1発明では,駆動機械若しくは負荷機械が,前記駆動機械若しくは負荷機械が

配置されている台に対して垂直方向に間隔をあけて前記台上に配置された4本の支

持脚を有する支持構造体に懸架され,また,駆動機械若しくは負荷機械が内燃機関

の出力軸と一列に並ぶ駆動軸とともに据え付けられている。

そして,甲4発明及び甲1発明は,ともに動力計を用いてエンジンの試験を行う

ものであるから,甲4発明において甲1発明の支持構造を採用するとともに,駆動

機械若しくは負荷機械を内燃機関の出力軸と一列に並ぶ駆動軸とともに据え付ける

ことには,十分な動機付けが存在し,また阻害要因もないといえる。

また,上記相違点により奏する本件明細書に記載された効果は,甲4発明及び甲

1発明から容易に予測し得る範囲のものであり,格別顕著なものとはいえない。

以上のとおり,本件発明1は,甲4発明及び甲1発明に基づいて当業者が容易に

発明をすることができたものである。

イ 本件発明4について

(ア) 甲1発明及び甲3発明では,本件発明1の進歩性を否定することはできな

いため,本件発明1を引用する本件発明4の進歩性を否定することができないこと

は明らかである。

(イ) 相違点4−2−2について

本件発明4において,「支持構造体」が「基台の基板をブリッジ状に把持し且つ

この基板の両側でこの基板上に支持され且つ固定されている」態様とは,図2や図




4に図示されている態様(別紙1参照)を指すものであり,これにより,非常に安

定性があり且つ試験運転で発生する振動に対して有利な構造を提供するとの効果を

奏するものである。そして,このような支持態様は,甲2等には記載されていない。

そして,支持構造体をブリッジ状にすることには,何らの動機付けを見いだせず,

設計的事項ともいえない。本件発明4は,相違点4−4−2により,上記効果を奏

するものであり,当該効果は,甲2等の記載から当業者にとって予測し得る範囲の

ものではない。

してみると,甲2発明において,甲1発明の支持構造体を採用することが当業者

にとって容易に想到し得るものであるとしても,「支持構造体」を「基台の基板を

ブリッジ状に把持し且つこの基板の両側でこの基板上に支持され且つ固定されてい

る」ものとすることまで,当業者にとって容易に想到し得るものであるとはいえな

い。

(ウ) 相違点4−4−3について

支持構造体が,前記基台の基板をブリッジ状に把持し且つこの基板の両側でこの

基板上に支持され且つ固定されている点については,上記甲2発明との対比につい

て検討したとおりであり,本件発明4は,上記と同様の理由により,甲4発明等に

基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件発明5について

(ア) 甲1発明及び甲3発明では,本件発明1の進歩性を否定することはできな

いため,本件発明1を引用する本件発明5の進歩性を否定することができないこと

は明らかである。

(イ) 相違点5−2−2について

本件発明5において,「支持構造体」が「基台の基板の片側上だけで支持され且

つ固定されている」態様とは,図3(別紙1参照)に図示されている態様を指すも

のであり,これにより,駆動機械若しくは負荷機械,排気装置若しくはその他のこ

の領域に設けた補機類への改善された側方のアクセスが得られるとの効果を奏する




ものである。

そして,このような支持態様は,甲2等には記載されていない。

本件発明5は,相違点5−2−2により,上記効果を奏するものであり,当該効

果は,甲2等の記載から当業者にとって予測し得る範囲のものではない。

してみると,甲2発明において,甲1発明の支持構造を採用することが当業者に

とって容易に想到し得るものであるとしても,「支持構造体」を「基台の基板の片

側上だけで支持され且つ固定されている」ものとすることまで,当業者にとって容

易に想到し得るものであるとはいえない。

(ウ) 相違点5−4−3について

支持構造体が,前記基台の基板の片側上だけで支持され且つ固定されている点に

ついては,上記甲2発明との対比について検討したとおりであり,本件発明5は,

上記と同様の理由により,甲4発明等に基づいて当業者が容易に発明をすることが

できたものではない。

4 取消事由

(1) 本件発明1の容易想到性の判断の誤り(被告主張取消事由1)

ア 甲2発明に基づく容易想到性の判断の誤り

イ 甲4発明に基づく容易想到性の判断の誤り

(2) 本件発明2,3,6及び7の容易想到性の判断の誤り(被告主張取消事由

2)

(3) 本件発明4の容易想到性の判断の誤り(原告主張取消事由1)

ア 本件発明4の要旨認定の誤り

イ 甲2発明に基づく容易想到性の判断の誤り

ウ 甲4発明に基づく容易想到性の判断の誤り

エ 甲1発明に基づく容易想到性の判断の誤り

オ 甲3発明に基づく容易想到性の判断の誤り

(4) 本件発明5の容易想到性の判断の誤り(原告主張取消事由2)




ア 甲2発明に基づく容易想到性の判断の誤り

イ 甲4発明に基づく容易想到性の判断の誤り

ウ 甲1発明に基づく容易想到性の判断の誤り

エ 甲3発明に基づく容易想到性の判断の誤り

第3 当事者の主張

1 被告主張取消事由1(本件発明1の容易想到性の判断の誤り)について

〔被告の主張〕

(1) 甲2発明に基づく容易想到性の判断の誤りについて

ア ダイナモメータの採用について

本件審決は,ダイナモメータが広く知られた常套手段であることのみをもって,

甲2発明においてダイナモメータを採用することは十分動機付けが存在し,阻害要

因もないとする。

しかしながら,本件審決は,本件発明1及び甲2発明の課題について全く検討し

ないまま判断しており,不当である。

イ 4本の支持脚を有する3次元的な支持構造体による支持構造について

(ア) 本件審決は,ダイナモメータを採用した場合,甲2発明のような板状の2

次元的な支持構造体では強度が不足することは当然であるなどと,仮定の上に仮定

を重ねた上で,甲2発明に甲1発明の4本の支持脚を有する3次元的な支持構造体

による支持構造を採用することは十分動機付けが存在し,阻害要因もないとする。

しかしながら,本件審決は,本件発明1並びに甲2発明及び甲1発明の課題につ

いて全く検討していないし,「支持構造体」の強度についても何らの証拠もなく認

定しており,不当である。

(イ) 本件審決は,置き換えられるダイナモメータは,甲2発明のパワーブレー

キがスリム化されていることを考慮して「小型のものを採用するといえる」とする

が,小型のダイナモメータであれば甲2発明の支持構造と同様のもので足りるはず

である。




ウ 甲2発明にダイナモメータ及び3次元的な支持構造体の各構成を置換するこ

との動機付け及び阻害要因について

(ア) 甲2発明は「エンジン試験台,特に排気サイレンサーの騒音測定を目的と

する騒音測定試験台」であり,この目的を達するために,エンジンが配置されるエ

ンジン室と,騒音を測定する測定室とが完全分離かつ遮音され,測定室への音の侵

入を完全に遮断することが絶対の要件となる。

そこで,わざわざスリム化された「パワーブレーキ」を「エンジンのクランクケ

ースに直接取り付け」る構成が採用されており,これを単なるダイナモメータに置

き換える動機付けはない。まして,その支持構造体として,甲1発明の支持構造体

のような,4本の支持脚を有するとなれば,相当程度に複雑で大きな構造体であり,

支持脚間にも相当程度のスペースを有する大掛かりなものを用いることになるが,

そのような動機付けはない。

むしろ,このような複雑で大掛かりな支持構造体を用いると,測定室への音の侵

入を遮断することが困難となるから,甲2発明の目的に照らすと,甲1発明の支持

構造体を組み合わせることには,阻害要因がある。

(イ) 甲1発明の目的は,複数の同一の回転子・固定子モジュールを用いて,広

範囲の原動機出力トルク及び回転速度を測定可能なモジュラー式動力計の提供であ

り,本件発明1の課題とは関連しない。

甲1には,排気装置について全く記載がないので,本件発明1の純正排気装置を

用いて試験を行った場合の基台上に提供されるスペースによる問題が生じるとの課

題を当業者が認識する余地はない。

甲1発明の動力計は,その前提として作動流体を使用する方式であり,排出弁か

ら閉鎖筐体下部のサンプへ重力を利用して作動流体を排出し,モジュール内をゼロ

圧力状態にして最小の負荷制御を行うことを意図しており,下方空間が空くように

懸架することは,本件発明1の課題とは関連しない。

また,甲1発明では,閉鎖筐体の下方に排出弁を有し,この排出弁により,冷却




液等の液体を,支持パッド上に設けたサンプへと排出するものであるから,駆動機

械若しくは負荷機械の下方に残されている空間を排気装置を敷設するために開放さ

れて確保することは想定されておらず,むしろ不可能であるから,甲2発明に甲1

発明の支持構成を組み合わせることには,阻害要因がある。

エ 以上によれば,本件審決の本件発明1に係る甲2発明に基づく容易想到性

判断は誤りである。

(2) 甲4発明に基づく容易想到性の判断の誤りについて

ア 一致点及び相違点の認定について

(ア) 甲4発明において,「基台」とは,内燃機関,駆動機械若しくは負荷機械

及び排気装置の全体が配置されている台であり,「支持構造体」とは,駆動機械若

しくは負荷機械のみを支持するものであって内燃機関を支持するものではないから,

本件発明1の「基台」に相当するのは,「ベース体17」ではなく,「ベース33

板」であり,本件発明1の「支持構造体」に相当するのは,「平枠体18」「グレ

ーチング板19」「ベース板33」及び「ベース板33上に設けられた台(番号な

し)」全体ではなく,「ベース板33上に設けられた台(番号なし)」だけである

から,「駆動機械若しくは負荷機械」の下方から「基台」上にかけては,「排気装

置」敷設のための空間が残されていない。

(イ) 本件審決の認定を前提とすると,「支持構造体」上には,「駆動機械若し

くは負荷機械」に相当する「動力計」ばかりではなく,「試験するべき内燃機関」

に相当する構成も同時にこの上に支持ないし載置されることになるから,甲4発明

の特許請求の範囲の請求項1における「基台」及び「支持構造体」に係る説明と矛

盾するし,「支持構造体」が複数の要素から構成される極めて複雑な構成となる。

さらに,「排気装置」の管が「支持構造体」の一部を貫通することになり,本件

発明1の「支持構造体」とは明らかに異質なものになる。

(ウ) したがって,本件審決の本件発明1と甲4発明との一致点の認定は誤りで

あって,正しくは以下のとおりとなる。




一致点:一方では試験するべき内燃機関と他方では前記内燃機関の出力側に対し

て回動連結している駆動機械若しくは負荷機械とが配置されている基台を有する内

燃機関のテストベンチにおいて,前記駆動機械若しくは負荷機械は,基台上に配置

された支持構造体に支持されているテストベンチ。

(エ) また,本件審決の相違点1−4−1の認定は誤りであって,正しくは以下

のとおりとなるほか,本件発明1と甲4発明との相違点として,新たに相違点1−

4−3が認定されるべきである。

a 相違点1−4−1:本件発明1では,「駆動機械若しくは負荷機械」が「支

持構造体」により「懸架」され,当該「駆動機械若しくは負荷機械」の下方に,

「基台」にかけて残されている空間が排気装置を敷設するために解放されて確保さ

れているのに対し,甲4発明では,「駆動機械若しくは負荷機械」は「支持構造

体」上に載置され,「支持構造体」は「基台」上に載置されているため,「排気装

置」を敷設するための空間が「駆動機械若しくは負荷機械」の下方から「基台」上

にかけては残されていない点。

b 相違点1−4−3:甲4発明では,「基台」上に「排気装置」の管を貫通さ

せる孔を設ける必要があるが,本件発明1では,その必要がない点。

相違点の判断について

(ア) 本件発明1,甲4発明及び甲1発明の課題・目的はいずれも異なり,共通

するものではない。動力計を用いてエンジンの試験を行うといっても,様々な課題

に応じて様々な構成が採用されるものであるから,上記各発明が極めて抽象的なカ

テゴリーにおいて一致するからといって,相互に参照するような動機付けはない。

本件審決の判断は後知恵というべきである。

(イ) 本件発明1においては,往復動内燃機関の試験のために,純正排気装置を

用いて行われるべきであり,可能な限り現実に近い試験を可能にするため,基台上

に提供されるスペースに問題が生じることから,そのための課題の解決手段及びそ

の作用効果が示されている。




これに対し,甲4発明は,専ら試験室全体を付帯設備とともに組立てなどの面倒

な作業を伴うことなく簡易に移動・設置・稼働させることを目的とし,試験室内の

個々の構成要素の各配置に関する発明であり,本件発明1のように純正排気装置で

あることが前提とされていないので,本件発明1の課題が認識される余地はない。

甲1には,排気装置について全く記載がないから,本件発明1の課題を当業者が

認識する余地はなく,甲1発明を組み合わせる動機付けもない。

また,「駆動機械若しくは負荷機械」の下方に残されている「空間」を,排気装

置を敷設するために開放されて確保することは甲1発明においては全く想定されて

おらず,むしろ不可能であり,甲1発明の支持構成を甲4発明に組み合わせること

には,逆に,阻害要因がある。

したがって,甲4及び甲1には本件発明1の課題は示唆されておらず,当該課題

を解決するために,甲4発明と甲1発明とを組み合せる動機付けは認められない。

ウ 以上によれば,本件審決の本件発明1に係る甲4発明に基づく容易想到性

判断は誤りである。

〔原告の主張〕

(1) 甲2発明に基づく容易想到性の判断の誤りについて

ア ダイナモメータの採用について

パワーブレーキ及びダイナモメータは,いずれも負荷装置として同じであるから,

置換する動機付けがないとの被告の主張は失当である。

本件審決は,干渉しない程度に小さいという趣旨で,小型のダイナモメータが採

用されると判断したのであって,重量は関係がない。支持構造体の強度は,トルク

によっても左右され,一概に大きさのみから決定されるものではない。

イ 4本の支持脚を有する3次元的な支持構造体による支持構造について

当業者は,一般的課題を念頭に先行文献を検討するのであって,その際,純正排

気装置は下方を通るから,下方が空くような支持構造を検索するのも自然である。

甲1には,駆動機械若しくは負荷機械を基台との間で下方空間を空けるように支




持する支持構造体が記載されているから,甲2発明の共用支持プレートを当該構成

置換することに困難性はない。駆動機械若しくは負荷機械の支持態様としては,

下方空間を空けるか,上方空間を空けるか,側方空間を空けるかの3態様しか選択

の余地がないから,3態様のうち,下方空間を空ける支持態様を選択することに困

難性はない。実際,甲1発明以外にも,駆動機械若しくは負荷機械の下方空間を空

けるように懸架する支持構造体が存在する。

ウ 甲2発明にダイナモメータ及び3次元的な支持構造体の各構成を置換するこ

との動機付け及び阻害要因について

(ア) 本件発明1は,駆動機械若しくは負荷機械を用いた内燃機関のテストベン

チにおいて,純正排気装置が駆動機械若しくは負荷機械又は支持台に干渉して配置

できないという従来から存在する一般的課題をギヤ等を用いた従来の構造を用いて

解決しようとする場合,回転力の伝達に齟齬が生じたり,管理,組立ての手間がか

かったり,騒音が生じたりするという機械分野全般に亘る極めて普遍的で一般的な

課題を前提とする発明である。

これに対し,甲2発明は,室内の基礎上に配置されたエンジンにパワーブレーキ

を連結する方式のエンジン試験台において,従来,排気サイレンサーを実車とは異

なるように配置した結果,排気ガス装置の振動や騒音挙動に誤りが生じることを解

決課題とし,排気ガス装置を実車と同じ配置でエンジンに取り付け,試験台で試験

することができるようにすることを目的し,フランジブレーキを内燃機関と同軸接

続することによって,個別的課題を解決しつつ,小型化したフランジブレーキを,

一対の純正排気装置の間に入るほど縦長にスリム化した共用支持プレートに片持ち

支持させ,上記プレートの下部両側方を純正排気装置が通過するようにして,上記

一般的課題を解決している。

(イ) 本件発明1及び甲2発明の前記各課題は一般的な課題にすぎず,甲1発明

にもこのような一般的課題が潜在しているから,甲2発明に甲1発明を組み合わせ

る動機付けが認められる。




(ウ) 甲1の支持構造体が相当程度大きいものであったり,遮音性を備えること

が不可能であるという理由はないから,甲1発明の支持構造体を軽量物に適用した

り,遮音壁を備える装置に適用したりすることに阻害要因はない。

また,下方を通る純正排気装置が干渉するという課題を解決する観点で甲1発明

に接した当業者は,下方に空間を空ける構成を採用するから,阻害要因はない。

エ 以上によれば,本件審決の本件発明1に係る甲2発明に基づく容易想到性

判断に誤りはない。

(2) 甲4発明に基づく容易想到性の判断の誤りについて

ア 一致点及び相違点の認定について

本件発明1において,支持構造体が内燃機関を支持しないという限定はないし,

支持構造体が単一の要素からなるという限定もない。

被告は,「基台」や「支持構造体」の意義を明確に主張しないまま,本件審決の

認定によると,排気装置の管が,支持構造体の一部を通過することになり,本件発

明1の構成とは異なると主張するが,本件明細書の【図1】(別紙1参照)におい

ても,支持構造体を排気装置が通過しており,矛盾はない。

したがって,本件審決の一致点及び相違点1−4−1の認定に誤りはない。

相違点の判断について

前記のとおり,本件発明1の課題は当該技術分野において常在するものであり,

甲4発明に甲1発明を組み合わせる動機付けが認められる。

機械分野の技術常識からすると,甲4発明のように動力計の下に空間を設けて排

気配管を通すという装置レイアウトが明確に開示されていながら,その動力計の支

持の方式に関して,甲1発明に開示されているようなありふれた方式を適用しない

ことはあり得ない。

ウ 以上によれば,本件審決の本件発明1に係る甲4発明に基づく容易想到性

判断に誤りはない。

2 被告主張取消事由2(本件発明2,3,6及び7の容易想到性の判断の誤




り)について

〔被告の主張〕

本件発明2,3,6及び7は,いずれも本件発明1に対応する請求項1の従属項

である。本件審決は,本件発明1が無効であることを前提として,本件発明2,3,

6及び7も無効であると判断するが,前記1のとおり,本件発明1に係る本件審決

の判断が誤りである以上,本件発明2,3,6及び7に係る本件審決の判断も,同

様に誤りである。

〔原告の主張〕

前記1のとおり,本件発明1に係る本件審決の判断が誤りではない以上,本件発

明2,3,6及び7に係る本件審決の判断も,同様に誤りではない。

3 原告主張取消事由1(本件発明4の容易想到性の判断の誤り)について

〔原告の主張〕

(1) 本件発明4の要旨認定の誤りについて

本件審決は,本件発明4の「両側」について,「両縁」(両端ぎりぎりの位置)

であると限定解釈するが,技術常識に反する。本件明細書には「両側」についての

定義はなく,語義からしても,端のぎりぎりの位置とはいえず,ある程度幅のある

概念として理解され,適宜設計において選択されるものである。実際,基板幅より

も基台幅が広い場合もあれば,基板幅よりも基台幅が狭い場合もある。

本件発明5に照らしても,本件発明4の「基板の両側」とは,中心部を外した両

側方向の位置という程度を意味するにすぎず,単に,支持構造体を「両持ち」させ

るという技術的意義を超えるものではない。

本件審決が「基板の両側」について本件明細書の原文を参酌していること自体,

不当であるし,本件明細書の【図2】,【図4】(別紙1参照)及び原文のみを根

拠とした本件審決の認定の誤りは,結論に影響を及ぼす重大な誤りというべきであ

る。

(2) 甲2発明に基づく容易想到性の判断の誤りについて




ア 相違点4−2−3は,本件発明4の安定化効果との関係からは,基板の幅の

広狭によっては,両端部よりも相当程度中央寄りに立設する必要も生じるから,設

計的事柄にすぎない。

そして,甲1発明では,複数の支持脚,足総合体30を有する支持フレーム26

及び横材31からなる支持構造体によって「モジュラー式動力計20」が懸架され

ており,これが矩形台状をなすサンプ147をブリッジ状に把持し,且つこのサン

プ147の両側でこのサンプ147に支持され,且つ固定されているから,この支

持構造体とサンプ147との結合による構造も,本件発明4の効果と同等の効果を

奏するものである。

イ 甲2発明及び甲1発明は,本件発明4と同一の技術分野に属し,甲2発明に

甲1発明を適用することに阻害要因はないから,本件発明4は,甲2発明に甲1発

明や周知・慣用技術を適用して,当業者が容易に想到することができたものである。

被告は,甲2発明に甲1発明を適用する動機付けの欠如や阻害要因について主張

しているにすぎないから,本件発明4及び本件発明5に固有の創作性がないことを

自認しているに等しい。被告が主張する本件発明の課題・解決手段は根拠に乏しく,

本件発明1が当業者に容易に想到し得る以上,本件発明4も同様に当業者が容易に

想到し得るというべきである。

ウ 以上によれば,本件審決の本件発明4に係る甲2発明に基づく容易想到性

判断は誤りである。

(3) 甲4発明に基づく容易想到性の判断の誤りについて

前記(2)と同様の理由により,本件発明4は甲4発明及び甲1発明に基づいて,当

業者が容易に想到し得るというべきである。

(4) 甲1発明に基づく容易想到性の判断の誤りについて

本件審決は,甲1発明及び甲3発明に基づいて,本件発明1の進歩性を否定する

ことができないため,本件発明1を引用する本件発明4の進歩性を否定することは

できないことは明らかであるとする。しかし,相違点1−1−1及び相違点1−1




−2に係る本件審決の判断は誤りであって,本件発明4に係る本件審決の判断はそ

の前提を欠くというべきである。

ア 相違点1−1−1について

本件審決は,「内燃機関」と「駆動機械若しくは負荷機械」とを単一の基台に配

置することは,周知事項であると認定しながら,甲1発明に係る周知事項を適用す

る動機付けがないとしている。

しかし,単一の基台に載置することは周知・慣用技術というようなものですらな

く,一般的な技術常識レベルのものにすぎない。甲12に係る考案には,エンジン

設置架台と動力計設置架台とを共通化した構成と分離した構成が記載されており,

このことからも,当業者にとって架台を単一にするか否かは設計事項であることが

示されている。

甲1発明は,エンジンが回転軸によって動力計に連結される構成のものであるか

ら,エンジンと動力計との位置関係が安定していることが前提であり,試験実施

置までの移動を考慮して4輪ワゴンの台が例示されてはいるものの,エンジンはそ

の直下に立設された4本の脚部によって地面に接地固定される。

試験実施時において,内燃機関と駆動負荷装置との相対的な位置関係が固定され

るべきであることからすれば,甲1発明に単一の基台に据え付ける周知技術を適用

する動機付けが認められる。

イ 相違点1−1−2について

(ア) 本件審決は,甲1発明に排気装置を敷設するために開放して確保しておく

ことについての動機付けもなく,また阻害事由すら存在するとする。

しかし,甲1には,エンジンが例示されている以上,当然に排気装置の存在が予

定されていることは技術常識である。

そして,排気管がエンジン本体の側方から出て下方に向かい,エンジン下方から

後方に延びることも技術常識であり,また,排気ガスが甲1発明のオペレーターに

とって有毒であることは自明であるから,動力計のさらに後方へ延伸させることに




なるのも自明である。

そうすると,支持フレーム下方空間が設けられていること自体から,当業者は当

該空間を活用することを検討するであろうし,具体的な設計として,支持フレーム

下方空間を有効利用して,排出弁・パイプと緩衝しないように排気管を通すことは

自然であるから,阻害要因もない。

(イ) 駆動機械又は負荷機械を用いた内燃機関のテストベンチにおいて,純正排

気装置が駆動機械又は負荷機械や支持台に干渉して配置できない場合があるという,

本件発明1の課題は,この技術分野の当業者が認識していた常在する一般的な課題

にすぎないし,この課題を解決するために,「駆動機械若しくは負荷機械」の下方

に空間を設ける態様が公知技術として存在していた以上,甲1ないし4に開示され

た負荷機械等の支持構造の態様を適用することは,当業者において何らの創作的価

値もないことである。

ウ 以上によれば,本件審決の本件発明4に係る甲1発明に基づく容易想到性

判断は誤りである。

(5) 甲3発明に基づく容易想到性の判断の誤り

本件審決は,甲1発明及び甲3発明に基づいて,本件発明1の進歩性を否定する

ことができないため,本件発明1を引用する本件発明4の進歩性を否定することは

できないことは明らかであるとする。

しかし,相違点1−3−1及び相違点1−3−2に係る本件審決の判断は誤りで

あって,本件発明4に係る本件審決の判断はその前提を欠くというべきである。

ア 相違点1−3−1について

(ア) 本件審決は,甲3には,エンジンと常用ブレーキを共に配置する「基台」

に相当するものが開示されておらず,示唆もされていないとする。

しかし,甲3発明において,支持構造体の下部が基台であると評価することも可

能であり,また,常用ブレーキを吊り下げる懸架ロッド13が支持される支持構造

体とエンジンを検査位置まで移動させる移動クレーンの基礎が共通であることが,




甲3の図面上も明確に開示されている。

(イ) また,本件審決は,常用ブレーキを吊す懸架ロッド13とエンジンが共に

「建物天井」付近から自由摺動的に吊されていることをとらえて,本件発明1と甲

3発明とは技術的思想が異なるとする。

しかし,エンジンの検査室を建物自体に組み込むか,コンテナの中に仕込むかは,

当業者が適宜設計することであり,甲3発明も建物自体に拘っているものではない。

実際,甲3には,「建物天井または対応する支持台」と記載されており,図1

(別紙5参照)でも,建物ではない支持構造体が明記されているから,建物天井と

一体的でなければならないという技術的意義は記載されておらず,逆に,同図に図

示された構成で,1つの完結した検査装置を開示しているものである。

さらに,甲3発明は,「内燃機関を検査するための性能検査装置」に係る発明で

あって,まさに1つの「装置」として認識されているものであるから,甲3発明の

装置が建物と一体的なものであると理解することは相当ではない。

イ 相違点1−3−2について

(ア) 本件審決は,甲3には排気装置に関する記載がないから,常用ブレーキの

下方空間を,排気装置を敷設するために開放して確保しておくことに何らの動機付

けもないとする。

しかし,エンジンには排気装置が必須であり,排気管がエンジンの側方へ出て下

に下がり,後方へと延びるものであることは当業者の技術常識である。

そうすると,甲3の図1に接した当業者は,同発明の排気管も,当然に常用ブレ

ーキの下方空間を通ることになるものと認識するというべきである。

また,甲3発明は,コンパクトな性能検査装置を提供し得ることを目的とするか

ら,常用ブレーキの下方空間が広く確保されている以上,技術常識からすれば,当

該空間しか排気管・排気装置を位置させることはない。

(イ) 前記のとおり,本件発明1の課題は常在する一般的なものにすぎず,甲1

発明ないし甲4発明に開示された負荷機械等の支持構造の態様を適用することは,




当業者において何らの創作的価値もないことである。

ウ 以上によれば,本件審決の本件発明4に係る甲3発明に基づく容易想到性

判断は誤りである。

〔被告の主張〕

(1) 本件発明4の要旨認定の誤りについて

原告は,本件審決の「両側」なる用語の解釈が誤りであると主張するが,本件審

決のいかなる認定が誤りであり,なぜ当該誤りが結論に影響を及ぼすかについて,

具体的に主張しない。原告が主張する解釈は本件審決の認定とは無関係であり,結

論にも影響しない。

(2) 甲2発明に基づく容易想到性の判断の誤り

ア 前記のとおり,本件発明1が甲2発明,甲1発明及び周知・慣用技術に基づ

いて当業者が容易に想到し得るものではない以上,本件発明1の構成を全て有する

本件発明4も,同様の理由により,当業者が容易に想到し得るものではない。

イ 原告は,甲2発明に甲1発明を組み合わせる動機付けや阻害要因について,

本件発明4,甲2発明及び甲1発明が同一の技術分野に属するとか,技術常識に鑑

みれば当業者が適宜設計するようなことであるなどと抽象的に主張するにすぎず,

具体的な理由を指摘するものではない。

ウ 以上によれば,本件審決の本件発明4に係る甲2発明に基づく容易想到性

判断に誤りはない。

(3) 甲4発明に基づく容易想到性の判断の誤り

前記(2)と同様の理由により,本件発明4は甲4発明及び甲1発明に基づいて,当

業者が容易に想到し得るものということはできない。

(4) 甲1発明に基づく容易想到性の判断の誤り

ア 相違点1−1−1について

本件発明4の課題と甲1発明の課題とに共通性はなく,甲1の図1の「支持フレ

ーム」の意義も本件発明1の「支持構造体」とは異なる。




したがって,甲1発明を主引用例として本件発明4の容易想到性を認めることは

できない。

イ 相違点1−1−2について

原告は,本件発明4及び甲1発明の課題を全く考慮することなく,相違点1−1

−2の構成を採用することは自明であるなどと主張するが,後知恵にすぎない。し

かも,原告の主張は,本件発明4の課題や本件明細書の記載,甲1発明の課題や甲

1の記載のみならず,相違点4−1−1及び相違点4−1−2の存在を無視した不

当な主張である。

ウ 以上によれば,本件審決の本件発明4に係る甲1発明に基づく容易想到性

判断に誤りはない。

(5) 甲3発明に基づく容易想到性の判断の誤り

ア 相違点1−3−1について

(ア) 原告は,本件発明4や甲3発明の課題を全く考慮することなく,アプリオ

リに組合せの動機付けを論じており,このような思考は後知恵にすぎない。共通の

課題を認識できなければ,課題解決のために他の引用例を組み合わせる動機付けが

生じる余地はない。

甲3発明は,基礎ないし建物床への阻害的な固体伝送音の伝達が生じる点を問題

としており,これを少なくとも大幅に抑制することを目的とするものである。

そのため,常用ブレーキ及びエンジンの双方を建物天井等から自由揺動的に懸架

し,さらにこれらの総合配置をコンパクトな構造とするために,常用ブレーキ及び

エンジンを直接的に連結するという構成を採用している。

甲3発明は,当該構成により,「基礎上あるいは建物床に対する付加的な支持措

置」の排除を図るものであり,本件発明4のような純正排気装置を使用するという

課題ないし技術的思想が存在しない上,本件発明4のように,「基台の基板をブリ

ッジ状に把持し且つこの基板の両側でこの基板上に支持され且つ固定されている」

構成を採用すると,「基礎ないし建物床への阻害的な固体伝送音の伝達が生じる」




ことを回避しようとする甲3発明の目的に逆行する。

したがって,甲3発明に基づいて,本件発明1や本件発明4に想到することは不

可能である。

(イ) 本件明細書の各図面及び甲3の各図面によれば,本件発明4及び甲3発明

の構成が大きく相違することは明らかである。

イ 相違点1−3−2について

原告の主張は,本件発明4や甲3発明の課題について考慮することなく,技術常

識であるなどと抽象的に主張するにすぎず,失当である。

ウ 以上によれば,本件審決の本件発明4に係る甲3発明に基づく容易想到性

判断に誤りはない。

4 本件発明5の容易想到性の判断の誤り(原告主張取消事由2)について

〔原告の主張〕

(1) 甲2発明に基づく容易想到性の判断の誤りについて

ア 本件発明5の本質的な構成は,支持構造体が側方から片持ちで駆動機械若し

くは負荷機械を支持している点にある。片持ち構造であれば,支持構造体が支持す

る側とは逆の側方が必ず開放されることになり,その側方からのアクセスが改善さ

れる。

甲2発明には,駆動機械若しくは負荷機械であるフランジブレーキが支持構造体

を構成する共用支持プレートに片持ち状態で支持された構成が記載されており,こ

の共用支持プレートは,基台であるパレットベースフレームの前後方向ではあるも

のの,片側上でのみ支持されており,共用支持プレートとは逆側に開放された空間

が生じて逆側からのアクセスが改善されている。

本件発明5の片持ち支持構造体の脚部立設位置は,「基板の片側上だけで支持」

されているものではないから,本件発明5の「基板の片側上だけで」という構成の

意義は,脚部の立設位置を特定するものではなく,単に,片持ち状態に立設して側

方にアクセス障害となるような支持構造体の垂直部を設けないことを意味するにす




ぎない。当該構成は技術文献(甲13。以下「甲13文献」という。)に記載され

ており,その余の構成は設計事項である。

したがって,相違点5−2−2の構成は当業者が容易に想到し得るものである。

イ 前記のとおり,被告は,甲2発明に甲1発明を適用する動機付けの欠如や阻

害要因について主張しているにすぎず,本件発明5に固有の創作性がないことを自

認しているに等しい。被告が主張する本件発明の課題・解決手段は根拠に乏しいも

のというほかなく,本件発明1が当業者に容易に想到し得る発明である以上,本件

発明5も同様である。

(2) 甲4発明に基づく容易想到性の判断の誤りについて

相違点5−4−2は,相違点5−2−2と同様であり,相違点5−2−2につい

ては,前記のとおり,当業者が容易に想到し得るものである。

したがって,本件発明5は,甲4発明等に基づいて当業者が容易に想到し得るも

のである。

(3) 甲1発明に基づく容易想到性の判断の誤りについて

本件審決は,甲1発明及び甲3発明に基づいて,本件発明1の進歩性を否定する

ことができないため,本件発明1を引用する本件発明5の進歩性を否定することは

できないことは明らかであるとする。しかし,前記のとおり,相違点1−1−1及

び相違点1−1−2に係る本件審決の判断は誤りであって,本件発明5に係る本件

審決の判断はその前提を欠くというべきである。

したがって,本件発明5は,甲1発明等に基づいて当業者が容易に想到し得るも

のというべきである。

(4) 甲3発明に基づく容易想到性の判断の誤りについて

本件審決は,甲1発明及び甲3発明に基づいて,本件発明1の進歩性を否定する

ことができないため,本件発明1を引用する本件発明5の進歩性を否定することは

できないことは明らかであるとする。しかし,前記のとおり,相違点1−3−1及

び相違点1−3−2に係る本件審決の判断は誤りであって,本件発明5に係る本件




審決の判断はその前提を欠くというべきである。

したがって,本件発明5は,甲3発明等に基づいて当業者が容易に想到し得るも

のというべきである。

〔被告の主張〕

(1) 甲2発明に基づく容易想到性の判断の誤りについて

ア 本件発明5とは異なり,甲2発明は,そもそも排気装置へのアクセス性は考

慮されておらず,技術的な意義,得られる効果も全く異なる。また,前記のとおり,

甲2発明に甲1発明を適用する動機付けはなく,阻害要因がある。

しかも,甲2発明では,内燃機関と駆動機械若しくは負荷機械がそれぞれ別の台

車に載置され,これらを接続して実際に騒音測定試験を行う「動作位置U」におい

ては,原告が主張する排気装置へのアクセス性が改善されることもない。

本件審決が認定するとおり,甲13文献には負荷機械等を支持する支持構造体が

基板の片側上だけで支持され,かつ固定されていることは記載されていないし,甲

2発明は,スリム化の要請とこれによる騒音測定室の完全防音の実現を目的とする

ものであるから,甲2発明に甲13文献に記載された大型の構成を採用することに

は動機付けがなく,逆に阻害要因がある。

したがって,相違点5−2−2の構成は当業者が容易に想到し得るものではない。

イ 以上によれば,本件審決の本件発明5に係る甲2発明に基づく容易想到性

判断に誤りはない。

(2) 甲4発明に基づく容易想到性の判断の誤りについて

相違点5−4−2は,相違点5−2−2と同様であり,相違点5−2−2につい

ては,前記のとおり,当業者が容易に想到し得るものではない。

したがって,本件審決の本件発明5に係る甲4発明に基づく容易想到性の判断に

誤りはない。

(3) 甲1発明に基づく容易想到性の判断の誤り

本件発明1が,甲1発明及び甲3発明に基づいて,当業者が容易に想到すること




ができない以上,本件発明5も,当業者が容易に想到し得るものとはいえない。

したがって,本件審決の本件発明5に係る甲1発明に基づく容易想到性の判断に

誤りはない。

(4) 甲3発明に基づく容易想到性の判断の誤り

本件発明1が,甲1発明及び甲3発明に基づいて,当業者が容易に想到すること

ができない以上,本件発明5も,当業者が容易に想到し得るものとはいえない。

したがって,本件審決の本件発明5に係る甲3発明に基づく容易想到性の判断に

誤りはない。

第4 当裁判所の判断

1 本件発明について

本件発明の特許請求の範囲は,前記第2の2に記載のとおりであるところ,本件

明細書(甲22,甲23の1〜3)には,おおむね次の記載がある(図面について

は,別紙1の本件明細書図面目録を参照。)。

(1) 技術分野

本発明は,一方では試験するべき内燃機関と他方では前記内燃機関の出力側に対

して少なくとも1つの回動連結している駆動機械若しくは負荷機械とが配置されて

いる基台を有する内燃機関のテストベンチに関する(段落【0001】)。

(2) 背景技術

テストベンチは,駆動機械若しくは負荷機械の一定の回転数及び/又はトルク推

移の設定値を介して,試験するべき内燃機関の出力に及ぼす運転環境の作用若しく

は反作用の模擬試験を可能にする(段落【0002】)。

公知のテストベンチの場合,例えばクランク軸とともに車両長手方向に組み込ま

れるべきであり,それによって通常本質的にクランク軸の下方に車両長手方向に後

方へ延びる排気装置を有する複数の直列に配設されたシリンダを備えた往復動内燃

機関の試験のために,純正排気装置を用いて行われるべきである。現実に近い試験

を可能にするためには,常に基台上に提供されるスペースによる問題が生じる。排




気管や場合によっては触媒コンバータ及び消音装置も,通常,ほぼ駆動機械若しく

は負荷機械が基台上に通常配設される場所に基台と相対的に置かれているから,従

来公知の配列において,このようなテストベンチのために大抵は駆動機械若しくは

負荷機械が,開いた支持台の下方に基台上に据え付けられるが,それによって発生

する内燃機関駆動装置と,駆動機械若しくは負荷機械との間を橋渡しするギヤ,ベ

ルト駆動装置等のオフセット配列が要求される。それとともに,垂直に内燃機関の

横に立つベベルギヤを介して連結された,駆動機械若しくは負荷機械による解決策

も知られている。さらに,内燃機関と,駆動機械若しくは負荷機械との間の対応す

る長い連結軸(しばしば純正カルダン軸)の使用も知られている。これら全ての場

合において,特に高動的運転における付加的な慣性質量,回転弾性,歯バックラッ

シュ及び類似の不利な影響や付加的な管理費用及び組立費用によって,かつ特にギ

ヤ方式の場合においてテストベンチに騒音レベルが増大する(段落【0003】)。

(3) 発明が解決しようとする課題

本発明の課題は,テストベンチが簡単な方法で取り付けられ,かつ,駆動軸の下

方に駆動軸の伸長部と平行して内燃機関から離れる純正排気装置を備えた内燃機関

の試験にも使用することができ,しかも公知の解決策の前記欠点をもたないテスト

ベンチを構成することにある(段落【0004】)。

(4) 課題を解決するための手段

ア この課題は,駆動機械若しくは負荷機械が基台に対して垂直方向に間隔をあ

けて基台上に配置された支持構造体に懸架されて試験するべき内燃機関の出力軸と

一列に並ぶ駆動軸とともに据え付けられていることによって,駆動機械若しくは負

荷機械の下方に基台にかけて残されている空間が,排気装置を敷設するために開放

されて確保されていることによって解決される。これにより,機械の固定台若しく

はその他の固定要素によって支持構造体で懸架する,駆動機械若しくは負荷機械が

非常に簡単に内燃機関の出力軸の軸高に適合され,駆動機械若しくは負荷機械の外

部輪郭(妨害輪郭)の下方で基台にかけて残っている空間が,開放されて確保され




て排気装置のダクトに提供される。これによって中間ギヤ,シャフト伸長部等なし

に駆動機械若しくは負荷機械の非常に回動剛性かつ遊びなしのカップリングを実現

することができ,非常に高動的な試験がテストベンチ側の妨害若しくは影響なしに

可能になる。中間ギヤの廃止は,コスト的に好適なテストベンチの構造も可能にし,

かつ,併せてテストベンチ領域での騒音レベルを低減することを支援する(段落

【0005】)。

イ 本発明の特に好ましい実施形態において,駆動機械若しくは負荷機械として

出力に関して小さく構成される永久磁石機械を据え付けており,これが駆動機械若

しくは負荷機械の下方に提供されるスペースに関して別の長所をもたらす(段落

【0006】)。

ウ さらに好ましい本発明の実施形態では,2台又は複数台の駆動機械若しくは

負荷機械が直列に前後して又は平行に並んで懸架され,かつ,回動連結して据え付

けられている。この解決策は,2台又は複数台の,一緒になって要求される出力を

提供する機械が,それにもかかわらず同形式の機械の妨害輪郭(軸から下方へ排気

装置用に自由に保持される空間内の突出部)のみを有するので,特により大きいテ

ストベンチ出力に対して非常に有利である。また,例えば連結ギヤ若しくは前置型

ギヤによってしばしば要求される出力域若しくは回転数域をより容易に実現するこ

とができる(段落【0007】)。

エ 本発明の別の好ましい実施形態では,支持構造体が,基台の基板をブリッジ

状に把持し,かつ,この基板の両側でこの基板上に支持され,かつ,固定されてい

る。そのため,非常に安定性があり,かつ試験運転で発生する振動に対して有利な

構造を提供する(段落【0008】)。

オ 多数の適用のために,支持構造体を基台の片側だけで基板上に支持され,か

つ,固定されている本発明の別の実施形態は,駆動機械若しくは負荷機械,排気装

置若しくはその他のこの領域に設けた補機類への改善された側方のアクセスが得ら

れる(段落【0009】)。




カ 本発明の別の好ましい実施形態にしたがって,基台は準3次元の実施形態で,

また,駆動機械若しくは負荷機械を少なくとも領域ごとに高さで把持することがで

きる。この場合,支持構造体は上方から又は側方からこの3次元の基台に据え付け

て駆動機械若しくは負荷機械を,例えば懸架するV字形の配列を利用し懸架して担

持する(段落【0010】)。

キ 駆動機械若しくは負荷機械は,本発明の別の好ましい実施形態では,駆動機

械若しくは負荷機械が,振動減衰装置を中間接続して支持構造体に懸架されている。

振動減衰装置は,中間接続して支持構造体に懸架することができる。これは,その

他の点で対応する他の措置を介しても枠構造に干渉できる改善された振動技術的な

係脱連結を可能にする(段落【0011】)。

(5) 発明を実施するための最良の形態

ア 本発明のテストベンチは,基台1として,一方で試験するべき内燃機関と,

この内燃機関の出力側に対して少なくとも1つの連結シャフトを介して回動連結し

た,駆動機械若しくは負荷機械4を配設した基板12を有する。例えば永久磁石と

して作動する機械として構成された,駆動機械若しくは負荷機械4は,基板12と

の垂直間隔5でこの基板上に配設された支持構造体6上に懸架して試験するべき内

燃機関2の出力軸7と一列に並ぶ軸8とともに据え付けている。その結果,駆動機

械若しくは負荷機械4の妨害輪郭9の下方に内燃機関2に取り付けた純正排気装置

10に対して充分な空間が残る(段落【0013】)。

イ 図1ないし図3に図示した実施形態では,1台の駆動機械若しくは負荷機械

4のみを設けており,図4に図示した通常より大きいテストベンチ出力用に設けた

実施形態では,この種の2台の機械4を直列に前後して懸架し,かつ,回動連結し

て据え付けており,これが倍化されたテストベンチ出力にもかかわらず個々の駆動

機械若しくは負荷機械4の場合と同じ妨害輪郭9の維持を可能にする。これを度外

視しても,例えば2台の小さく構成される,駆動機械若しくは負荷機械4も懸架し

て並設し,かつ,連結ギヤを介して回動連結することができる。この場合,連結ギ




ヤの出力軸は,試験するべき内燃機関の出力軸と一列に並ぶ(別紙1の【図1】〜

【図4】,段落【0014】)。

ウ 図2に図示した実施形態では,支持構造体6は基板12をブリッジ状に把持

し,かつ両側でこの基板上に支持かつ固定されており,図4に図示した実施形態で

も実現されているように,非常に安定した閉じた構造を可能にする。これに対して,

図3に図示した実施形態では,支持構造体は片側のみ基板12上に支持され,かつ,

固定されており,これが図3の左側からのアクセスを改善し,かつ,対応する片側

支持の実施形態の場合でも充分な剛性を提供する。独立にテストベンチ領域に少な

くとも振動絶縁して設置した基板12を有するこの両方の変形例を度外視しても,

基台1は本件明細書に図示していない方法で,また,準3次元実施形態でも試験す

るべき内燃機関及び駆動機械若しくは負荷機械をコンテナ状若しくはカゴ状に囲む

ことができる。この場合,支持構造体が側方又は上方からこの基台に取り付けられ,

かつ,試験するべき内燃機関は,直接通常のテストベンチパレットを利用して固定

することができる(別紙1の【図2】〜【図4】,段落【0015】)。

エ 特に図2及び図3から,駆動機械若しくは負荷機械4が振動減衰装置11を

中間接続して支持構造体6に懸架することにより,振動が減衰されることも明らか

である(別紙1の【図1】【図2】,段落【0016】)。

2 被告主張取消事由1(本件発明1の容易想到性の判断の誤り)について

(1) 甲2発明に基づく容易想到性の判断の誤りについて

ア 甲2発明について

甲2には,おおむね次の記載がある(図面については,別紙2の甲2図面目録を

参照。)。

(ア) 本発明は,排気サイレンサーの騒音測定を目的とする騒音測定試験台に関

する。従来,排気サイレンサーを取り付けるための特殊成形分岐管が,エンジン又

はパワーブレーキの縦軸が排気サイレンサーの長手方向と直角になるようにエンジ

ンに取り付けられており,排気サイレンサーは遮音施工された騒音測定室内に置か




れ,分岐管がエンジン室と騒音測定室間の壁の貫通孔を貫通している。このような

試験台では,エンジン及び排気ガス装置の取付けに時間がかかるという欠点がある。

また,試験台の構造が実車の構造と異なるため,排気ガス装置の振動又は騒音挙動

に誤りが生じる。さらに,V型エンジン用の排気ガス装置は基本的に取り付けるこ

とができない。

(イ) 本発明は,前記課題を解決するために,請求項1の構成,すなわち,供試

体エンジンが設置されるエンジン室,エンジン室と音響的に遮断された測定室及び

エンジンに取り付けられた排気ガス装置を備え,エンジン(M)のクランクシャフ

トにフランジブレーキとして設計されたパワーブレーキ(B)が直接取り付けられ,

排気ガス装置(A)が実車と同じ状態でエンジン(M)に取り付けられる構成を採

用する。本発明は,上記構成により,以下の効果を奏する。

a フランジブレーキとして設計されたパワーブレーキをエンジンのクランクケ

ースに直接取り付けることにより,排気ガス装置を実車と同じ配置でエンジンに取

り付け,試験台で試験することが可能となる。

b ブレーキ部品の配置を工夫することにより,パワーブレーキのスリム化が実

現される。

c 取付け奥行きが小さいパワーブレーキをエンジン室と騒音測定室間の壁の貫

通孔内に配置でき,排気ガス装置の騒音測定室外に配置される部分を最小限にする

ことが可能となる。

d フランジブレーキを遮音キャップで被覆し,貫通孔に遮音を施すことにより,

測定室への音の侵入をほぼ完全に遮断することができる。

e 供試体エンジン及び付属のフランジブレーキを,事前取付け,配線及び配管

接続用のエンジン交換パレットシステムを搭載した走行可能な架台に設置できる。

f フランジブレーキを供試体エンジンと直結することにより,エンジンを支持

するために必要な支持点は2個ですみ,その際,架台のフランジブレーキの支持部

材が第3の支持点となる。




(ウ) 本発明の試験台の構造は,試験台への取付け及び取外しを複雑かつ時間を

要するものにし,構造が実車とは異なる従来の騒音測定試験台とは異なり,図2で

図示したとおり,エンジンMの縦軸Lと排気ガス装置Aの長手方向が一致し,エン

ジンMと排気ガス装置Aの配置が実車の配置と同じになるように設計されている。

エンジンMは走行可能な架台UのパレットベースフレームPに取り付けられる。フ

ランジ仕様のパワーブレーキBは壁の貫通孔Wに面したエンジンMの前面に取り付

けられる。壁の貫通孔Wは遮音層Iによってエンジン室R1内の騒音から遮断され

ている。

そして,図3.1は,特に騒音測定試験台の送出し及び取付位置T,並びに動作

位置Uを示す部分断面図であり,エンジンMは両側に配置された2箇所の支持脚S

1及びS2によって走行可能な架台Uに取り付けられる。走行可能な架台Uはエン

ジンMを支持するパレット支持フレーム26とその下に位置し,支持部材S3及び

S4を介してフランジブレーキBを支持するパレットベースフレームPから構成さ

れる。パレットベースフレームPは軌道上を走行できるようになっており,適切な

駆動装置を用いてパレットベースフレームPを移動することができる。動作位置U

においては,エンジン作動時に発生する振動は適切に支持された基礎によって吸収

される。エンジンM及びエンジンに取り付けられた排気ガス装置Aを含むフランジ

ブレーキBが動作位置Uに移動すると,フランジブレーキBは隔壁Tの貫通孔W内

に位置する。貫通孔Wには遮音層Iが設けられており,測定室R2はエンジン室R

1からの騒音影響からほぼ完全に遮断される。さらに,フランジブレーキBにも遮

音のために遮音キャップGが装備されている。

イ ダイナモメータの採用について

(ア) 前記アのとおり,甲2発明は,排気サイレンサーの騒音測定を目的とする

騒音測定試験台に関する発明であり,試体エンジンが設置されるエンジン室,エン

ジン室と音響的に遮断された測定室及びエンジンに取り付けられた排気ガス装置を

備え,エンジンのクランクシャフトにフランジブレーキとして設計されたパワーブ




レーキが直接取り付けられ,排気ガス装置が実車と同じ状態でエンジンに取り付け

られるという構成を採用することにより,エンジンの騒音等の排気サイレンサー以

外の音源が騒音測定室に伝わらないようにして,排気サイレンサーから出る騒音を

測定するものである。

そうすると,甲2発明において,フランジブレーキとして設計されたパワーブレ

ーキをエンジンのクランクケースに直接取り付けること及びその結果として排気ガ

ス装置を実車と同じ配置でエンジンに取り付けることは,甲2発明の課題から必要

不可欠な構成及び作用効果と認められる。

したがって,甲2発明において,パワーブレーキをエンジンのクランクケースに

直接取り付けることなく配置するとか,エンジンのクランクケースに直接取り付け

られないようなダイナモメータを用いることは想定されていないというべきである。

(イ) 原告は,パワーブレーキ及びダイナモメータは,いずれも負荷装置として

同じであるから,置換する動機付けがないとの被告の主張は失当であり,本件審決

は,干渉しない程度に小さいという趣旨で,小型のダイナモメータが採用されると

判断したのであって,重量とは関係がないなどと主張する。

しかしながら,甲2発明は,排気サイレンサーの騒音測定を目的として,排気サ

イレンサーを遮音施工された騒音測定室内に設置し,エンジンの騒音が騒音測定室

に伝わらないようにするために,取付け奥行きが小さいパワーブレーキを用いてい

るものであるから,エンジン試験の駆動機械若しくは負荷機械としてダイナモメー

タを用いることが周知であったとしても,甲2において,ダイナモメータを用いる

ことについて明示的な示唆はないというべきである。

仮に,ダイナモメータを用いることが可能であったとしても,甲2発明の課題を

前提とすると,スリム化され,かつ取付け奥行きが小さいものでなくてはならない

から,甲2発明のパワーブレーキをダイナモメータに置換することは,動機付けを

欠き,阻害要因があるというべきである。

ウ 4本の支持脚を有する3次元的な支持構造体による支持構造について




(ア) 甲2発明は,フランジブレーキとして設計されたパワーブレーキをエンジ

ンのクランクケースに直接取り付けることにより,エンジンを支持するために必要

な支持点は2個ですみ,架台のフランジブレーキの支持部材が第3の支持点となる

とされている。すなわち,甲2発明では,エンジンはS1及びS2の2点で支持さ

れ,パワーブレーキはエンジンに直接支持されるとともに,第3の支持点S3及び

S4で支持されている。このように,甲2発明の支持構造は,パワーブレーキをエ

ンジンのクランクケースに直接取り付けることを不可欠の前提とし,その結果とし

て,パワーブレーキの支持が,エンジンを介した支持と第3の支持点で行われると

いうものであるから,当該構造を,あえてパワーブレーキを甲1発明の支持構造体

である4本の支持脚で支持する構造に変更する必然性はなく,その動機付けを認め

ることができない。

むしろ,パワーブレーキを4本脚で支持しようとすると,脚が2本追加されるこ

ととなり,追加された2本の脚は,少なくともパワーブレーキのフランジよりも壁

側に設けるしかないので,パワーブレーキの下方におけるフランジと追加された脚

の間のスペースを確保することが必要となる。しかし,スペース確保を容易にする

ために,追加された2本の脚を壁に埋め込む構成を採用した場合,壁の薄い部分が

増加し,壁によるエンジン室の騒音の遮断について不利になることは明らかである

から,4本脚の構成を採用することは甲2発明の課題と相容れず,阻害要因が認め

られる。

(イ) 原告は,当業者は一般的課題を念頭に先行文献を検討するのであって,そ

の際,純正排気装置は下方を通るから,下方が空くような支持構造を検索するのも

自然である,駆動機械若しくは負荷機械の支持態様としては,下方空間を空けるか,

上方空間を空けるか,側方空間を空けるかの3態様しか選択の余地がないから,3

態様のうち,下方空間を空ける支持態様を選択することに困難性はないなどと主張

する。

しかしながら,甲2発明において,ダイナモメータを採用する動機付けが認めら




れず,かえって阻害事由が存在する以上,ダイナモメータを採用することにより生

じる強度不足を想定し,支持構造の強度を高める動機付けを認めることができない。

しかも,甲2発明では,課題解決のために,パワーブレーキがエンジンのクランク

ケースに直接支持されており,その結果として,パワーブレーキの支持が,エンジ

ンを介した支持と第3の支持点で行われており,第3の支持点はエンジンを介した

支持を補うか協働するものであるということができるから,4本脚の構成を採用す

ることに阻害要因が認められることは,前記のとおりである。

したがって,原告の上記主張は採用することができない。

エ 以上のとおり,相違点1−2は,当業者が甲2発明及び甲1発明に基づいて

容易に想到し得るものではなく,本件審決の甲2発明に基づく本件発明1の容易想

到性の判断は誤りである。

(2) 甲4発明に基づく容易想到性の判断の誤りについて

ア 甲4発明について

甲4には,おおむね次の記載がある(図面については,別紙3の甲4図面目録を

参照。)。

(ア) 特許請求の範囲

【請求項1】 底壁部と側壁部と天壁部とにより,内部を試験室とした防音構造の設

備本体を構成するとともに,試験室内に内燃機関の試験装置を設置し,前記底壁部

は,側壁部に対して外方への突出部を有し,この突出部の上方空間を利用して,試

験用の付帯装置と,電源に接続自在な設備制御盤とを配設したことを特徴とする内

燃機関試験設備。

【請求項2】 付帯装置は,内燃機関の試験装置に至る給水装置,燃料供給装置なら

びに排気装置と,試験室内に連通する換気装置とからなることを特徴とする請求項

1記載の内燃機関試験設備。

【請求項3】 内燃機関の試験装置は内燃機関制御盤を有することを特徴とする請求

項1または2記載の内燃機関試験設備。




【請求項4】 内燃機関の試験装置は,内燃機関制御盤と動力計とを有することを特

徴とする請求項1または2記載の内燃機関試験設備。

【請求項5】 設備本体の下部に転動輪体を設けたことを特徴とする請求項1〜4の

いずれかに記載の内燃機関試験設備。

(イ) 産業上の利用分野

本発明は,自動車の組立て工場等において,車体に組み込む前の内燃機関に対し

て性能試験を行うのに採用される内燃機関試験設備に関する(段落【0001】)。

(ウ) 従来の技術

従来,搬入経路や搬出経路などのライン設定が行われたのち,搬出経路の側部で

所定の位置において,床上に囲壁体や仕切壁が構築され,出入口や移載口を通して

試験室内に第2試験装置や制御装置などが搬入され,所定の場所に設置されている。

さらに試験用の付帯装置である冷却水供給装置や燃料供給装置などが,囲壁体など

の外方で所定の場所に設置されている(段落【0003】)。

(エ) 発明が解決しようとする課題

上記した従来構成によると,第2試験装置,制御装置,冷却水供給装置,燃料供

給装置などの各種装置や機器は,製作工場で組み立てられて試運転などが行われ,

運搬し易いように分解かつ包装されて据付け現場へ運搬されたのち,再び組み立て

られることから,試運転後から据え付けまでの作業が面倒であり,かつ相当な期間

を費やすことになる(段落【0004】)。

また,据付け後の使用経過に伴い,1つのラインにおける第2試験装置の使用台

数を減らして別なラインで使用する際,囲壁体は移動できず,1つのラインにおい

ては空の囲壁体(試験室)が残されてデッドスペースとなり,また,別なラインで

は新たな囲壁体を構築しなければならない。さらに,第2試験装置や冷却水供給装

置,燃料供給装置などは移動(移設)し得るが,その分解や再組立て作業などは面

倒で容易に行うことができない(段落【0005】)。

本発明は,運搬時における分解と組立てを減少して迅速に使用可能にし,しかも




使用経過に伴うライン間の移設などにおいて,デッドスペースを生じることなく,

かつ新構築を行うことなく,容易に迅速に行える内燃機関試験設備を提供する点に

ある(段落【0006】)。

(オ) 課題を解決するための手段

a 本発明の内燃機関試験設備は,底壁部と側壁部と天壁部とにより,内部を試

験室とした防音構造の設備本体を構成するとともに,試験室内に内燃機関の試験装

置を設置し,底壁部は,側壁部に対して外方への突出部を有し,この突出部の上方

空間を利用して,試験用の付帯装置と,電源に接続自在な設備制御盤とを配設して

いる(段落【0007】)。

b 上記aの内燃機関試験設備において,付帯装置は,内燃機関の試験装置に至

る給水装置,燃料供給装置並びに排気装置と,試験室内に連通する換気装置とから

構成してもよい(段落【0008】)。

c 上記a又はbの内燃機関試験設備において,内燃機関の試験装置は内燃機関

制御盤を有してもよい。さらに,内燃機関制御盤と動力計とを有する内燃機関試験

設備を有してもよい(段落【0009】)。

d 上記aないしcのいずれかの内燃機関試験設備において,設備本体の下部に

転動輪体を設けてもよい(段落【0010】)。

(カ) 作用

前記(オ)aの構成によると,製作工場において,据付け運転状態で試運転を終え

た内燃機関試験設備は,試験装置や付帯装置など多くの装置,機器を設備本体の所

定の位置に配設したままで,製作工場から据付け現場へと移動(輸送)し得る。据

付け現場に運搬された内燃機関試験設備は,底壁部を着床させることにより所定の

ラインに対向して据え付けることができ,また,据付け現場では,据付け床面をフ

ラット化する程度で,新たな他の構築物はほとんど必要としない。設備制御盤を電

源に接続させるだけで,内燃機関試験設備を運転可能な状態にし得る。さらに,据

付け後の使用経過に伴って,1つのラインにおける試験装置の使用台数を減らして




別なラインで使用するとき,設備本体を移動(移設)させることで,試験装置や付

帯装置を含む各種装置や機器を 一挙に移 動し得る(段落【0011】【 001

2】)。

前記(オ)bの構成によると,給水装置,燃料供給装置,排気装置,換気装置から

なる付帯装置を,設備本体とともに一挙に移動し得る。前記(オ)cの前者の構成に

よると,内燃機関制御盤を設備 本体とと もに一挙に移動し得る(段落【 001

3】)。

前記(オ)cの後者の構成によると,動力計を設備本体とともに一挙に移動し得る。

また,同dの構成によると,設備本体の移動は,転動輪体を使用して容易に行うこ

とができる(段落【0014】)。

(キ) 実施

本発明は,底壁部11,一対の左右側壁部12,前側壁部13,後側壁部14,

天壁部15とにより,内部に直方体状の試験室16を形成して構成される防音構造

の設備本体を有する。底壁部11は,ベース体17と,試験室16内においてベー

ス体17上に配設された平枠体18と,この平枠体18上に配設されたグレーチン

グ板19などにより形成され,そのベース体17の後部が後側壁部14に対して後

方(外方)に突出し,突出部11Aが形成されている。前側壁部13は,観音式

(又は横スライド式や昇降式)の開閉扉に形成され,開動によって前部に搬入出口

20が形成される。前側壁部13や左右側壁部12の所定の位置には透視窓21が

形成されている(別紙3の【図1】【図2】,段落【0015】)。

試験室16内には,後側壁部14側の位置においてグレーチング板19上に配設

された内燃機関制御盤31や,内燃機関制御盤31と搬入出口20が配設された内

燃機関支持装置32などにより構成される内燃機関1の試験装置30が設置されて

いる(段落【0016】)。

この内燃機関支持装置32は,グレーチング板19上に配設されたベース板33

と,ベース板33上に設けられた前後一対のガイド体34と,両ガイド体34に支




持案内されて左右方向で位置変更自在な左右一対の支え体35と,これら支え体3

5の上部に取り付けられた受け具36などによって構成される。支え体35は受け

具36の上下位置を調整自在に構成されている(段落【0017】)。

排気装置47は,突出部11Aの中央に設置した排気ファン48と,排気ファン

48の吐き出し口に接続した上下方向のサイレンサー49と,サイレンサー49に

接続した上下方向の排気ダクト50などにより構成されている。排気ファン48の

吸い込み口に接続した排気配管51が,後側壁部14を貫通して試験装置30の部

分にまで達している(段落【0021】)。

製作工場では,据付け運転状態で試運転が行われる。給水タンク42に水が入れ

られ,さらに燃料供給装置45に燃料(油)が入れられた状態で,コード61がフ

ック63から外され,そのプラグ62が電源に接続されることで,運転可能となる。

前側壁部13が開放動され,その搬入出口20を通して内燃機関1が内燃機関支持

装置32に供給される(段落【0024】)。

その際,供給は搬送手段25を介して行われる。すなわち固定レール26に対し

て可動レール27を突出移動させ,ウインチ装置28を介して外部(外部搬送手

段)に位置する内燃機関1を吊り上げる。固定レール26に対して可動レール27

を退入移動させて,内燃機関1を内燃機関支持装置32の上方に位置させる。次い

で可動レール27に対してウインチ装置28を移動させるとともに,ウインチ装置

28を作動させて内燃機関1を下げ降ろし,内燃機関1を受け具36群上に載置さ

せる(段落【0025】)。

この前後において,内燃機関1の機種に応じて,支え体35の左右位置の調整や,

受け具36の上下位置の調整が行われる。受け具36群上に載置させた内燃機関1

に対して,給水配管44,燃料配管46,排気配管56などが接続される。さらに

前側壁部13が閉塞動され,試験室16が密閉状にされる(段落【0026】)。

試験装置30では,燃料供給装置45からの燃料が燃料配管46を介して内燃機

関1に供給され,内燃機関1で発生した排気ガスは,排気装置の排気ファン48が




作動することで排気配管51に吸引され,サイレンサー49と排気ダクト50とを

介して排出される。さらに内燃機関1に対する冷却水の供給は,給水装置41の給

水ポンプ43の作動によって,給水タンク42の冷却水を,給水配管44を通して

送ることで行われる(段落【0029】)。

本発明の別の実施例では,試験室16内に設置される試験装置30は,内燃機関

制御盤31や内燃機関支持装置32に冷却水を必要とする動力計70を加えること

で構成され,突出部11Aに設けられる付帯装置40には,動力計70に接続され

た動力計用給水装置71が加えられる。動力計用給水装置71は,給水タンク72

と,この給水タンク72に循環配管73を介して連通された熱交換機74などによ

り構成され,給水タンク72に接続された給水配管75と排水配管76とが,後側

壁部14を貫通して動力計70に接続されている(別紙3の【図5】【図6】,段

落【0035】)。

イ 一致点及び相違点の認定について

(ア) 本件発明1の「基台」に相当する構成について

a 前記1の本件明細書の記載によれば,本件発明1における「基台」とは,内

燃機関と駆動機械若しくは負荷機械とが配置されているのみならず,基板を備え,

基板上に支持構造体が支持され,かつ固定されている構成を有するものと認められ

る。

b 前記アによると,甲4発明において,支持構造体に相当する構成は判然とし

ないものの,本件発明1の「基台」に相当する構成は,内燃機関と試験装置又は動

力計(本件発明1の駆動機械若しくは負荷機械に相当)が配置されるベース板33

であると解される。

(イ) 本件発明1の「支持構造体」に相当する構成について

前記1の本件明細書の記載によれば,本件発明1の「支持構造体」とは,基台に

対して垂直方向に間隔をあけて基台上に配置され,駆動機械若しくは負荷機械を懸

架し,基台に備えられた基板上に支持され,かつ,固定されている構成を有するも




のと認められる。

甲4において,実施例を図示する別紙3の【図1】及び【図2】では,試験装置

30(本件発明1の駆動機械若しくは負荷機械に相当)は,内燃機関制御盤31と

一体的に図示されており,支持構造体に相当する構成を特定することはできない。

また,【図2】には,試験装置の下部に別部材とみられる板様のものが図示されて

いるが,当該部材はベース板33とはつながっていない。

また,甲4の別の実施例を図示する別紙3の【図5】では,動力計70(駆動機

械若しくは負荷機械)は,ベース板33(本件発明1の基板に相当)上に配置され

ていて,ベース板33に対して垂直方向に「ベース板33上に設けられた台(番号

なし)」を介在してベース板33上に配置されており,懸架されていないものの,

動力計70はベース板33上に支持され,かつ,固定されているものと認められる。

そうすると,甲4発明において,本件発明1の駆動機械若しくは負荷機械に相当

するものは,基台に対して垂直方向に間隔をあけて基台上に配置されるものでなく,

懸架されているものでもなく,別紙3の【図5】に図示される「ベース板33上に

設けられた台(番号なし)」のほか,本件発明1の「支持構造体」に相当する構成

は存在しない。

(ウ) 一致点の認定について

本件審決は,甲4発明の「ベース体17」が本件発明1の「基台1」に,「平枠

体18」「グレーチング板19」「ベース板33」及び「ベース板33上に設けら

れた台(番号なし)」が本件発明1の「支持構造体6」に,それぞれ相当するとす

る。

しかしながら,前記のとおり,本件発明1の「基台1」に相当するのは,「ベー

ス板33」であるから,本件審決の一致点の認定は誤りである。

しかも,甲4発明におけるベース体17は,運搬車両などにより,試験装置30,

内燃機関制御盤31,付帯装置40等の多くの装置,機器を所定の位置に配設した

ままで輸送し,試験を行う場所に設置し,内燃機関1を搬出入して試験を行うため




の「設備本体10」の一部である「底壁部11」を構成する部材の1つであるから,

甲4発明固有の課題に基づいて構成された部材というべきであって,そのような課

題を有しない本件発明1において,当該部材に相当する構成は存在するものではな

い。

また,前記のとおり,甲4発明において,本件発明1の「支持構造体6」に相当

する構成は「ベース板33上に設けられた台(番号なし)」と解すべきである。そ

して,「平枠体18」「グレーチング板19」「ベース板33」及び「ベース板3

3上に設けられた台(番号なし)」のうち,「平枠体18」「グレーチング板1

9」は,設備本体の一部である底壁部11を構成する部材の1つであるから,甲4

発明固有の課題に基づいて構成された部材というべきであって,本件発明1におい

て当該構成は存在するものではない。

したがって,本件審決の本件発明1と甲4発明との一致点の認定は誤りである。

(エ) 以上のとおり,本件審決の本件発明1と甲4発明との一致点の認定は誤り

であって,一致点及び相違点は,正しくは以下のとおりとなる。

a 一致点:一方では試験するべき内燃機関と他方では前記内燃機関の出力側に

対して回動連結している駆動機械若しくは負荷機械とが配置されている基台を有す

る内燃機関のテストベンチにおいて,前記駆動機械若しくは負荷機械は,前記基台

上に配置された支持構造体に支持されているテストベンチ。

b 相違点1−4−@:本件発明1では,駆動機械若しくは負荷機械が基台に対

して垂直方向に間隔をあけて前記基台上に配置された支持構造体により懸架されて

いるのに対し,甲4発明では,駆動機械若しくは負荷機械が台に載置されている点。

c 相違点1−4−A:本件発明1では,駆動機械若しくは負荷機械の下方に基

台にかけて残されている空間が,排気装置を敷設するために開放されて確保されて

いるのに対し,甲4発明では,そのような空間がない点。

d 相違点1−4−B:本件発明1では,駆動機械若しくは負荷機械が,試験す

るべき内燃機関の出力軸と一列に並ぶ駆動軸とともに据え付けられているのに対し,




甲4発明では,動力計の駆動軸と内燃機関の出力軸との関係が不明である点。

ウ 甲4発明に基づく容易想到性の判断について

本件審決は,本件発明1と甲4発明との一致点及び相違点の認定を誤り,相違点

1−4−@及び相違点1−4−Aについて判断していない。

したがって,本件審決の甲4発明に基づく本件発明1の容易想到性の判断を直ち

に是認することはできない。

なお,甲1には,後記4(4)ウ記載のとおり,排気ガス装置の配置の態様について

示唆する記載はないのみならず,甲1には,4本の支持脚の間に形成された動力計

の下方の空間に,複数の手動排出弁,排出ホース及び排出弁から流れる液体の一部

をサンプへ排出する構成を有する甲1発明が開示されているから,このような空間

に排気ガス装置を配設することは困難である。

したがって,甲4発明及び甲1発明に基づいて,相違点1−4−@及び相違点1

−4−Aの構成に想到し得ることはできないものと解される。

エ 以上のとおり,本件審決の甲4発明に基づく本件発明1の容易想到性の判断

は誤りである。

3 被告主張取消事由2(本件発明2,3,6及び7の容易想到性の判断の誤

り)について

本件発明2,3,6及び7は,いずれも本件発明1の構成を含むものであるから,

本件発明1の容易想到性についての本件審決の判断が誤りである以上,その余につ

いて論ずるまでもなく,当業者が容易に想到し得たものであるということはできな

い。

したがって,本件審決の本件発明2,3,6及び7の容易想到性に係る判断は誤

りである。

4 原告主張取消事由1(本件発明4の容易想到性の判断の誤り)について

(1) 本件発明4の要旨認定の誤りについて

原告は,本件発明4の「両側」について,本件審決が「両縁」(両端ぎりぎりの




位置)を意味すると限定解釈したことは,本件発明4の要旨認定における結論に影

響を及ぼす重大な誤りであると主張する。

しかしながら,本件審決は,前記第2の2のとおり本件発明4を認定していると

ころ,相違点4−2−2の判断において,本件発明4の「両側」の技術的意義につ

き,別紙1の本件明細書の【図2】【図4】等の記載を参酌して,両端ぎりぎりの

位置を意味するとしたものである。そして,本件発明4の特許請求の範囲には,支

持構造体が基台の基板をブリッジ状に把持するものであり,基板の両側でこの基板

上に支持され,かつ,固定されているものと定められていること及び上記各図によ

れば,本件審決の上記認定に誤りはないというべきである。

また,本件発明4の「両側」の意義については,本件発明4と各引用発明との対

比及び相違点の判断において,必要に応じて適宜検討すれば足りるものであり,本

件審決の上記認定に誤りがあったからといって,直ちに本件審決を取り消さなけれ

ばならない程度の重要な誤りであるということはできない。

したがって,原告の上記主張は失当である。

(2) 甲2発明に基づく容易想到性の判断の誤りについて

本件発明4は,いずれも本件発明1の構成を含むものであるから,本件発明1が

甲2発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものではない以上,本件発明4も,

甲2発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものではない。

したがって,甲2発明に基づく本件発明4の容易想到性を否定した本件審決の判

断はその結論において正当である。

(3) 甲4発明に基づく容易想到性の判断の誤り

本件発明1が甲4発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものではない以上,

前記(2)と同様の理由により,甲4発明に基づく本件発明4の容易想到性を否定した

本件審決の判断はその結論において正当である。

(4) 甲1発明に基づく容易想到性の判断の誤り

ア 甲1発明について




甲1には,おおむね次の記載がある(図面については,別紙4の甲1図面目録を

参照。)。

(ア) 本発明は,一般に原動機の出力を測定する装置に関し,特に広範囲にわた

る原動機出力を測定することが可能なモジュラー式動力計である。

流体動力学的動力計は,高価で扱いにくく,一般的に固定式で,出力測定レンジ

に制限があり,交換が難しいものであるため,平均的な原動機修理工場では,それ

らの部品の修理は不可能であった。

また,典型的な原動機改造,修理施設は,大小様々のエンジン,モーターその他

を扱い,その広い出力レンジをカバーするために,2つ又はそれ以上の動力計を一

般的に採用し,費用の削減を目的として,非常に広い出力レンジを有する単一の動

力計を採用することもあったため,適切な定格が得られず,測定が不可能である場

合もあった。

さらに,流体動力学的動力計の測定レンジを増大するために,回転子を含む動力

計の種々の部品を異なるサイズの部品と交換することも行われていたが,サイズ及

び重量が異なる多くの共通部品に依存するため,かなり高価であり,商業的魅力が

限られるほか,代替品のない少量生産品を多種類使用するため,不経済であるとい

う課題があった。

(イ) 本発明は,それ自身で,又はあらゆる個数で使用される基本的な回転子,

固定子モジュールを利用するモジュラー式動力計を提供することにより,従来技術

の制限を克服し,広い出力レンジでの測定を可能にする。また,試験装置への過剰

投資,保管や維持を不要にする。

(ウ) 本発明は,作動流体を含む閉鎖された筺体,筺体内に配置され,筺体外部

に密閉態様で延在する回転軸であって,ある出力を有する原動機に連結され,原動

機によって回転される回転軸,筺体内での位置決め及びその長手方向軸への連結に

適応した複数のモジュールであって,軸に連結されるモジュールの数が動力計の出

力測定レンジを確立し,軸に連結されるモジュールの数が多ければより大きな原動




機出力を測定可能となる複数のモジュール,動力計の出力測定レンジを原動機の出

力に適合させるに当たり,1つ又は複数のモジュールの動力計への脱着を容易にす

る態様でモジュールを筺体及び軸に連結する連結手段及び原動機の出力を測定する

ために軸に連結される手段からなる動力計の構成を採用する。

(エ) 図1,図1A及び1Bは,破線で示される従来のエンジン22で表現され

る原動機に連結された本発明のモジュラー敷動力計20の斜視図及び平面図である。

本発明のモジュラー式動力計20の支持構造として,モジュラー式動力計20は,

回転軸24によりエンジン22に連結され,軸24は,動的に均衡がとられ,安全

シールドとして機能するシャフトカプラー筺体28内に収容され,モジュラー式動

力計20は,支持パッド149に搭載され,閉鎖筺体32に連結され,それを安定

的に支持する複数の支持脚,足結合体30を有する支持フレーム26を備えており,

隣接する支持脚,足結合体30の各対は,横材31によって連結される。各横材3

1は閉鎖筺体内に配置され,それから延在する主軸108上に,各ベアリングクレ

ードル27によって連結される。

また,モジュラー式動力計20は,作動流体,冷却液を注入ホース150経由で

閉鎖筺体32に向けて送出し,閉鎖筐体32から排出ホース152経由で作動流体,

冷却液を排出するためのポンプを備え,さらに,複数の手動注入及び排出弁151,

153を有し,それぞれが注入及び排出ホース150,152を閉鎖筺体32に連

結し,排出ポンプ148との組合せでサンプ147を有し,閉鎖筺体32からの液

体の排出フローの制御に加えて,排出弁153は流れる液体の一部をサンプ147

へと排出し,その際,排出ポンプ148は,サンプ147からの液体の排除及びそ

の廃棄のための排出を可能にしている。そのほか,トルク検出ひずみゲージ141

を有し,モジュラー式動力計20の原動機22に取り付けられた回転入力軸24へ

のトルク反応は,動力計の固定子から閉鎖筺体へと伝達され,次に,動力計の操作

者に原動機の出力トルクを視覚的に指示する測定,制御パネル34への適切な入力

を与えるトルク検出ひずみゲージ141によって測定されるという構造を有する。




イ 相違点1−1−1について

(ア) 前記アの甲1の記載によれば,甲1発明は原動機改造,修理施設において,

大小様々なエンジン,モーターその他を取り扱うことを前提として,エンジンを含

む様々な動力機関に用いられるモジュラー式動力計に係る発明であるから,甲1発

明は,内燃機関に限定されず,様々なエンジン,モーターその他の原動機を対象と

することは明らかである。甲1には,エンジン(内燃機関)を測定対象とする実施

例が記載されているが,特段エンジンのみに測定の対象を制限する記載はない。

また,甲1の図1には,モジュラー式動力計20(本件発明1の駆動機械若しく

は負荷機械に相当)を搭載する支持パッド149が床面又は地面等に設置されてい

る構成が図示されているところ,エンジン22は台車のようなものに搭載されてい

る構成が図示されているから,モジュラー式動力計20とエンジン22の設置態様

は異なり,測定の対象となる原動機が移動可能であることを前提とするものと解さ

れる。

(イ) そうすると,仮に,基台を単一のものとすることが技術常識であったとし

ても,甲1発明は,大小様々な大きさの原動機を一台の動力計で測定可能とするこ

とをその解決課題としているのであるから,甲1発明の当該課題及び構成を前提と

すると,甲1発明において,大小様々な大きさの原動機と動力計を単一の基台に設

置することについて,動機付けを認めることはできない。

この点について,原告は,試験実施位置までの移動を考慮して4輪ワゴンの台が

例示されてはいるものの,エンジン直下に立設された4本の脚部によって地面に接

地固定されるなどと主張するが,4本の脚部によって地面に接地固定することをも

って,エンジン及び動力計が単一の基台に設置されているということはできない。

したがって,原告の上記主張は採用することができない。

(ウ) 以上によれば,当業者が相違点1−1−1の構成を容易に想到し得るもの

ということはできない。

ウ 相違点1−1−2について




原告は,甲1にエンジンが例示されている以上,当然に排気装置の存在が予定さ

れていることは技術常識であり,排気管がエンジン本体の側方から出て下方に向か

い,エンジン下方から後方に延びることも技術常識であることなどからすると,甲

1発明の支持フレーム下方空間が設けられていること自体から,当業者は当該空間

を活用することを検討し,具体的な設計として,支持フレーム下方空間を有効利用

して,排出弁・パイプと緩衝しないように排気管を通すことは自然であるなどと主

張する。

しかしながら,甲1は,大小様々な原動機に対応する動力計を実現することをそ

の課題としており,エンジンにより発生する排気ガスやエンジンが備える排気ガス

装置をどのような態様で配置するかについて,何ら示唆する記載はないから,原告

が主張する上記構成を採用することの示唆を認めることはできない。

また,前記アのとおり,甲1発明は,4本の支持脚の間に形成された動力計の下

方の空間に,複数の排出弁153,排出ホース152及び排出弁153から流れる

液体の一部をサンプ147へ排出する構造を有しているから,このような空間に排

気ガス装置を配置することは困難である。しかも,甲1発明における上記構成は,

甲1発明の流体動力学的動力計をモジュール化するために採用された具体的構成で

あり,4本の支持脚の間に形成された動力計の下方の空間に排気ガス装置を通す技

術思想を前提としていない以上,当該空間に排気ガス装置を配置することを想定す

ることはできない。

したがって,当業者が相違点1−1−2の構成を容易に想到し得るものというこ

とはできない。

エ 以上のとおり,当業者が相違点1−1−1及び相違点1−1−2の構成を容

易に想到し得るものということはできない以上,甲1発明に基づいて,当業者が本

件発明4を容易に想到し得るものということはできない。

(5) 甲3発明に基づく容易想到性の判断の誤り

ア 甲3発明について




甲3には,おおむね次の記載がある(図面については,別紙5の甲3図面目録を

参照。)。

(ア) 特許請求の範囲

検査すべき内燃機関に連結できる常用ブレーキを備えた内燃機関を検査するため

の性能検査装置であって,常用ブレーキがフランジブレーキとして構成されており,

また締結装置によりハウジング側及びシャフト/ロータ側において内燃機関に連結

できること,さらに常用ブレーキ及び検査すべき内燃機関のいずれもそれぞれ少な

くともほぼ自由揺動的に懸架支持されている,ことを特徴とする性能検査装置。

(イ) 本発明は,特許請求の範囲1の上位概念に記載された様式の内燃機関を検

査するための性能検査装置に関する。

このような性能検査装置が必要とされるのは,新たに製造された内燃機関及びオ

ーバーホールされた,あるいは修理された内燃機関について,それらが負荷状態に

おいて信頼性高くかつ完全無欠に作動するか否かを検査する場合である。

通常では,それぞれ常用ブレーキを含むそのような内燃機関用性能検査装置は,

固定設置された装置,例えば基礎上などに設置された装置として構成されている。

したがって,検査すべき内燃機関を検査のために適合した空間に配置した後に,

そのシャフト側では常用ブレーキシャフトと,ハウジング側ではその上に,あるい

はそれから離れた基礎上に位置する支持及び取付台と連結しなければならない。

これらの性能検査装置に対する所要面積は比較的大きいため,基礎ないしは建物

床への阻害的な固体伝送音の伝達が生じる。

本発明の目的は,特許請求項1の上位概念に記載された様式の性能検査装置の完

全な性能を維持して,あるいはそれを改良して所要面積を低減すること,固体伝送

音振動の阻害的な伝達を少なくとも大幅に抑制すること,さらにその使用上の方法

を改善することにある。

(ウ) 本発明の目的は,特許請求の範囲1の特徴により達成される。

常用ブレーキ及び検査すべきエンジンの双方の自由揺動的懸架並びにそれらの直




接的なシャフト側及びハウジング側連結により,外部に対する固体伝送音振動が全

く伝達されない,若しくは極めて僅少であり,さらに状況によっては移動的適用に

も適している本質的に自律的な検査システムが構成される。

本発明に基づく性能検査装置は,通常の供給,測定及び制御装置に加えて,基本

的にフランジブレーキとして構成されている常用ブレーキ1及び検査すべき内燃機

関2を常用ブレーキ1と連結できる締結装置7からなる。

締結装置7を備えた常用ブレーキ1は懸架ロッド13を介して移動できる。すな

わち,番号が付けられていない建物天井又は対応する支持台に自由揺動的に懸架さ

れている。検査すべき内燃機関2も,自由揺動的に懸架されている。エンジンは,

その長さが変えられるフランジホイスト9,例えば電気式チェーンホイストの吊り

フック10に懸架される。走行クレーン11と係合するチェーンホイスト9は,2

つの機能を果たす。一方では検査すべきエンジンを例えば検査装置付近を通過する

チェーンコンベヤ12により性能検査装置まで運搬し,他方では本来の性能検査中

に検査すべき内燃機関2を懸架する。

常用ブレーキ1として,基本的にあらゆるフランジブレーキ,例えば水−渦流式

ブレーキ,渦流式ブレーキあるいは機械式ブレーキも使用できる。

常用ブレーキ1及び内燃機関2の総合配置のコンパクトな構造並びにそれらの懸

架配置により,性能検査装置に対する所要の構造空間は極めて僅少となる。一方で

エンジンシャフトとブレーキシャフトとの直接的連結,また他方でエンジンハウジ

ングとブレーキハウジングとの直接的連結により,それ自体支持的つまり自立的シ

ステムが構築されるため,エンジントルクを支持するために基礎上あるいは建物床

に対する付加的な支持措置は不要である。懸架ロッド13を介して伝導されるそれ

自体既に極めて僅少な振動をさらに低減するために,懸架ロッド13は横桁及び常

用ブレーキ1のいずれにおいても,それぞれ振動を吸収するゴム金属軸受14を介

して連結されている。

(エ) 別紙5の図1には,懸架ロッド13は枠状の支持構造体の上部から,フラ




ンジホイスト9は枠状の支持構造体の上部に存在する走行クレーン11から,それ

ぞれ吊り下げられ,常用ブレーキ1の下方は空間となっている実施例が図示されて

いる。

イ 相違点1−3−1について

(ア) 本件発明1における「基台」とは,試験するべき内燃機関と駆動機械若し

くは負荷機械とが配置され,その上に支持構造体が配置される部材である。

前記アの甲3の記載によれば,甲3発明は,内燃機関を検査するための性能検査

装置において,従来,建物の床や基礎に検査装置が固定設置されていたところ,設

置面積が比較的大きいため,建物の基礎や床への阻害的な固体伝送音の伝達が生じ

るという課題を解決するために,性能検査装置の完全な性能を維持して,あるいは

それを改良して所要面積を低減すること,固体伝送音振動の阻害的な伝達を少なく

とも大幅に抑制すること,さらにその使用上の方法を改善することを目的とし,建

物天井又は天井に対応するような支持台から試験するべき内燃機関と駆動機械若し

くは負荷機械との双方をそれぞれ吊り下げる構成を採用するものであって,本件発

明1の基台に相当する構成を備える余地はない。

したがって,甲3発明は,相違点1−3−1の構成を採用する前提を欠き,当該

構成を採用する動機付けを認めることはできない。

(イ) 原告は,甲3発明において支持構造体の下部が基台であると評価すること

も可能である,甲3には,「建物天井または対応する支持台」と記載されており,

図1でも,建物ではない支持構造体が明記されているから,建物天井と一体的でな

ければならないという技術的意義は記載されておらず,逆に,別紙5の図1に図示

された構成で,1つの完結した検査装置を開示しているものであるなどと主張する。

しかしながら,甲3発明は,建物の基礎や床への阻害的な固体伝送音の伝達が生

じるという課題を解決するために内燃機関及び検査装置を吊り下げる構成を採用す

るものである以上,支持構造体が建物とは別個の部材であったとしても,支持構造

体の下部を基台であると評価することができないことは明らかである。原告の上記




主張は採用することができない。

ウ 相違点1−3−2について

原告は,エンジンには排気装置が必須であり,排気管がエンジンの側方へ出て下

に下がり,後方へと延びるものであることは技術常識であるから,当業者は甲3発

明の排気管も当然に常用ブレーキの下方空間を通ることになるものと認識する,甲

3発明は,コンパクトな性能検査装置を提供し得ることを目的とするから,常用ブ

レーキの下方空間が広く確保されている以上,技術常識からすれば,当該空間しか

排気管・排気装置を位置させることはないなどと主張する。

しかしながら,前記イ(ア)のとおり,甲3発明の課題はエンジンの排気装置の配

置とは無関係であるから,甲3には,エンジンにより発生する排気ガスやエンジン

が備える排気ガス装置をどのような態様で配置するかについて,何ら示唆する記載

はなく,原告が主張する上記構成を採用することの示唆を認めることもできない。

したがって,当業者が相違点1−3−2の構成を容易に想到し得るものというこ

とはできない。

エ 以上のとおり,当業者が相違点1−3−1及び相違点1−3−2の構成を容

易に想到し得るものということはできない以上,甲3発明に基づいて,当業者が本

件発明4に容易に想到し得るものということもできない。

5 原告主張取消事由2(本件発明5の容易想到性の判断の誤り)について

前記のとおり,本件発明1が甲1ないし4に基づいて当業者が容易に想到し得な

い以上,本件発明1の構成を含む本件発明5も,当業者が容易に想到し得ないもの

というべきである。

6 よって,本件発明4及び5に係る本件審決の認定及び判断はその結論におい

て正当であって,取り消すべき違法はないが,本件発明1ないし3,6及び7に係

る認定及び判断は誤りであるから,取消しを免れない。

第5 結論

以上の次第であるから,原告主張取消事由1及び2には理由がないから,原告の




請求はこれを棄却することとし,被告主張取消事由1及び2には理由があるから,

本件審決の本件発明1ないし3,6及び7に係る部分については取消しを免れない。

よって,主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第4部



裁判長裁判官 富 田 善 範




裁判官 田 中 芳 樹




裁判官 荒 井 章 光





(別紙1)

本件明細書図面目録





- 63 -
(別紙2)

甲2図面目録



図2




図3.1





図3.2





(別紙3)

甲4図面目録




【図2】





- 67 -
(別紙4)

甲1図面目録



図1




図1A 図1B





(別紙5)

甲3図面目録



図1