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事件 平成 25年 (行ケ) 10019号 審決取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2013/12/05
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成25年12月5日判決言渡 同日原本受領 裁判所書記官

平成25年(行ケ)第10019号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 平成25年10月31日

判 決



原 告 ピジョン バイタリティー エーエス




原 告 1



原 告 2

原告ら訴訟代理人弁理士 柏 原 三 枝 子

同 高 橋 剛 一

同 柴 田 雅 仁



被 告 特 許 庁 長 官

被告指定代理人 齋 藤 真 由 美

同 郡 山 順

同 瀬 良 聡 機

同 板 谷 一 弘

同 山 田 和 彦

主 文

1 特許庁が不服2010−16549号事件について平成

24年9月10日にした審決を取り消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

主文と同じ。

第2 事案の概要

1 特許庁における手続の経緯等

原告らは,平成16年12月6日,発明の名称を「食品及び飼料サプリメン

トとその使用」とする発明について特許出願(特願2006−542523号,パ

リ条約による優先権主張:平成15年(2003年)12月5日,優先権主張国:

ノルウェー。以下「本願」という。)をし,平成21年6月26日付けで拒絶理由通

知を受けたことから,同年12月25日付け手続補正書を提出したが,平成22年

3月15日付けで拒絶査定を受けたことから,同年7月23日,これに対する不服

の審判を請求し,併せて同日付け手続補正書により特許請求の範囲を補正した(以

下「本件補正」という。(甲3,5,6,9〜11)
) 。

特許庁は,前記 の審判請求を不服2010−16549号事件として審理

し,平成24年9月10日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下

「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月25日,原告らに送達された。

(3) 原告らは,平成25年1月22日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提

起した。

2 本件審決が対象とした特許請求の範囲の記載

本願発明

本件補正前の特許請求の範囲請求項1の記載は,平成21年12月25日付け手

続補正書(甲9)により補正された次のとおりのものである。以下,この請求項1

に記載された発明を「本願発明」といい,本願に係る明細書(甲5)を「本願明細

書」という。

【請求項1】

健康及びパフォーマンスの改善用の,ビタミンを含有する食品及び飼料サプリメ

ントにおいて,当該サプリメントが,基礎成分として蟻酸,乳酸,クエン酸,プロ
ピオン酸,アスコルビン酸,フマル酸,酢酸,ラク酸,及び安息香酸である少なく

とも1つのC1〜8 カルボン酸及び/又はその塩と,前記サプリメントの乾燥重量1

g当たり10〜50mgの量のビタミンB6 ,B9 及びB12 であって,その量が少な

くとも,前記カルボン酸のCOOH基の代謝中に消費されうる量に相当する量のビ

タミンB12 及びB9 と,前記サプリメントの乾燥重量1g当たり5〜25mgのF

eと,0〜1重量%の酸化防止剤とを含み,前記サプリメントを水に溶解させたと

き,前記塩及びカルボン酸の量が,2.0〜6.0のpHを与えることを特徴とす

る食品及び飼料サプリメント。

本願補正発明

本件補正後の特許請求の範囲請求項1の記載は,次のとおりである(甲3)以下,


この請求項1に記載された発明を「本願補正発明」という。なお,文中の下線部は,

補正箇所を示す。

【請求項1】

健康及びパフォーマンスの改善用の,ビタミンを含有する食品及び飼料サプリメ

ントにおいて,当該サプリメントが,基礎成分として蟻酸,乳酸,クエン酸,プロ

ピオン酸,アスコルビン酸,フマル酸,酢酸,ラク酸,及び安息香酸である少なく

とも1つのC1〜8 カルボン酸及び/又はその塩と,前記サプリメントの乾燥重量1

g当たり10〜50mgの量のビタミンB6 ,B9 及びB12 であって,その量が少な

くとも,前記カルボン酸のCOOH基の代謝中に消費されうる量に相当する量のビ

タミンB12 及びB9 であって,ビタミンB6 ,B9 及びB12 の量が,前記サプリメン

ト中の純カルボン酸の含有量の乾燥重量1g当たりそれぞれ,0.5〜30mg,

0.1〜10mg,及び1〜1500μgの範囲であり,前記サプリメントの乾燥

重量1g当たり5〜25mgのFeと,0〜1重量%の酸化防止剤とを含み,前記

サプリメントを水に溶解させたとき,前記塩及びカルボン酸の量が,2.0〜6.

0のpHを与えることを特徴とする食品及び飼料サプリメント。

3 本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,別紙審決書の写しのとおりである。要するに,@本願補

正発明は,本願優先日(平成15年12月5日)前に頒布された刊行物(特開20

03−61631号公報,公開日;平成15年3月4日,以下「引用例」という。

甲1)に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び本願優先日前の周知技術

に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条

2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものであっ

て,本件補正は,平成18年法律第55号による改正前の特許法17条の2第5項

において準用する同法126条5項の規定に適合しておらず,同法159条1項

規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものであ

る,A本願発明は,引用発明及び本願優先日前の周知技術に基づいて,当業者が容

易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許

を受けることができない,というものである。

本件審決が認定した引用発明は,次のとおりである。

以下の栄養素を1Lの水に溶かした状態の飲料及び栄養補助食品で,

アミノ酸は,バリン,ロイシン,アルギニン,イソロイシン,メチオニン,スレ

オニン,リジン,ヒスチジン,プロリン,アラニン,トリプトファン,フェニルア

ラニン,グルタミンを,各成分100mgの均等配合とし,合計1300mgを使

用し,

ビタミンは,ビタミンA,ビタミンB1,ビタミンB2,ビタミンB3,ビタミ

ンB6,ビタミンB12,ナイアシン,パントテン酸カルシウム,葉酸,ビタミン

Kを,各成分50mgの均等配合とし,合計500mgを使用し,

ミネラルは,クエン酸第一鉄,酵母(亜鉛,セレン,クロム含有),乳酸カルシウ

ム,硫酸マグネシウム,銅,マンガン,カリウムを,各成分約14mgの均等配合

とし,合計100mgを使用し,

抗酸化成分は,ビタミンE,ビタミンC,ポリフェノールを併せて100mgを

均等配合し,使用し,
糖質は,ブドウ糖18gと食物繊維2g合わせて20gを使用し,

1日のクエン酸摂取量合計6.25gを使用した,飲料及び栄養補助食品。

対比

本件審決が認定した本願補正発明と引用発明との一致点及び相違点は,以下のと

おりである。

ア 一致点

ビタミンを含有する食品において,該食品が,基礎成分としてクエン酸と,ビタ

ミンB6 ,B9 及びB12 と,Feと,酸化防止剤とを含む食品。

イ 相違点1

ビタミンを含有する食品が,

本願補正発明では,健康及びパフォーマンスの改善用で,飼料サプリメントとし

ても用いられるものであるのに対し,

引用発明では,健康及びパフォーマンスの改善用で,飼料サプリメントとしても

用いられるものではない点。

ウ 相違点2

該食品が含む,クエン酸,ビタミンB6 ,B9 ,B12 ,Fe,酸化防止剤及びクエ

ン酸の各量が,

本願補正発明では,ビタミンB6 ,B9 ,B12については,前記食品の乾燥重量1

g当たり10〜50mgの量のビタミンB6 ,B9 及びB12 であって,その量が少な

くとも,前記カルボン酸のCOOH基の代謝中に消費されうる量に相当する量のビ

タミンB12 及びビタミンB9 であって,ビタミンB6 ,B9 及びB12 の量が,前記サ

プリメント中の純カルボン酸の含有量の乾燥重量1g当たりそれぞれ0.5〜30

mg,0.1〜10mg及び1〜1500μgの範囲であり,Fe及び酸化防止剤

については,前記サプリメントの乾燥重量1g当たり5〜25mgのFeと,0〜

1重量%の酸化防止剤であり,クエン酸の量については,該食品を水に溶解させた

とき,2.0〜6.0のpHを与える量であるのに対し,
引用発明では,各栄養素が上記各範囲に含まれるか明らかでない点。

4 取消事由

相違点2に係る判断の誤り(取消事由1)

本願補正発明の顕著な作用効果の判断の誤り(取消事由2)

第3 当事者の主張

1 取消事由1(相違点2に係る判断の誤り)

〔原告らの主張〕

(1) 本件審決は,相違点2について,引用発明において,運動パフォーマンスを

向上させるべく各栄養素の目安となる摂取量とその栄養素の特徴を生かす配合比を

提供するとの目的を達成するために,必要十分な各栄養素の摂取量や配合比を詳細

に検討し最適化を図って,本願補正発明の食品とすることは,当業者が適宜なし得

たことであり,設計事項の範囲内であると判断した。

(2) しかし,引用例に記載されたいずれの実験においても,食品中のビタミン類

の含量は0.5g以上であり,ビタミン類の量を調整することについては全く考慮

していない。これに対し,本願補正発明は,食品中のビタミン類の量をカルボン酸

のCOOH基の代謝中に消費され得る相当量に調整したことを最大の特徴とするも

のである。このようにカルボン酸とビタミン類との相対量を調整することを示唆す

る記載は引用例には一切ない。

被告は,本願補正発明におけるビタミンB6 ,B9 ,B12 の量は,引用例のビタミ

ンB6 , 9 の量に関する記載, 及び乙1ないし4記載のビタミンB12 の量に関する


技術常識から容易に想到し得ると主張する。しかし,乙1及び乙2記載のビタミン

B12 の量は,カルボン酸のCOOH基の代謝中に消費され得る相当量に調整された

ものではないし,他のビタミンB群(ビタミンB6 ,B9 )との量の関係を検討した

上で決定されたものでもない。また,乙3及び乙4には,ビタミンB12 の量をカル

ボン酸のCOOH基の代謝中に消費され得る相当量に調整することについても,ビ

タミンB12 の量とビタミンB6,B9 の量との関係についても,これを示唆するよう
な記載はない。

したがって,引用例のビタミンB6 ,B9 の量に関する記載, 及び乙1ないし4記

載のビタミンB12 の量に関する技術常識を組み合わせたとしても,カルボン酸のC

OOH基の代謝中に消費され得る相当量にビタミンB6,B9 ,B12 の各々の量を調

整することはできない。

以上より,カルボン酸及びビタミン類の相対量を本願補正発明のように調整

することは,当業者が容易になし得ることではないから,本件審決の相違点2に係

る判断には誤りがある。

〔被告の主張〕

本件審決は,引用発明において,その目的を達成するために必要十分な各栄養素

の摂取量や配合比を詳細に検討し最適化を図ることは,当業者が適宜なし得たこと

であり,設計事項の範囲内であると判断したところ,以下,各成分毎に容易想到性

について説明する。

(1) ビタミンB6 ,B9 及びB12 のそれぞれの量について

ア ビタミン類の量をカルボン酸のCOOH基の代謝中に消費されうる相当量に

調整することについての本願明細書の記載事項

本願明細書には,本願補正発明の「カルボン酸のCOOH基の代謝中に消費され

うる量に相当する量のビタミンB12 及びB9 」を直接どのように決めるかについて

の記載はなく,また,段落【0013】に「本発明者は,カルボン酸の代謝が何ら

かの形で必須ビタミンを消費することを想定する仮説に従って,新しいサプリメン

ト作用についての調査を続けることを決定した。」と仮説について説明されている

が,実施例で,カルボン酸とビタミン量の関係が分かるものは,唯一,例6(段落

【0044】)の「実験中に使用されたサプリメントは,サプリメント1gに対して

330mgの蟻酸/蟻酸塩及び60mgのラク酸を含有していた。これらの実験の

…各ビタミン群の平均値を記載した。値は体重1kg当たり100%蟻酸/蟻酸塩

1gに対するmgビタミン/1日として与えられている。」だけであり,加えて,段
落【0048】には,「総てのビタミンB(すなわち,B6 ,B9 及びB12 を含む総

てのビタミンB)は,様々な酵素系に組み込まれ,その相互作用及び代謝経路は明

らかに理解されていない」と記載されている。

そうすると,本願補正発明の「カルボン酸のCOOH基の代謝中に消費されうる

量に相当する量のビタミンB12 及びB9 」とは,カルボン酸のCOOH基の代謝中

に消費され得るビタミンの量を直接測定することで見いだされる量ではなく,健康


及びパフォーマンスの改善」に関する実験結果から導き出された純カルボン酸の含

有量の乾燥重量1g当たりのビタミンB6 ,B9 及びB12 の量を,「カルボン酸のC

OOH基の代謝中に消費されうる量」としたものと解される。

以上を踏まえ,本件審決は,本願補正発明における「カルボン酸のCOOH基の

代謝中に消費されうる量に相当する量のビタミンB12 及びB9 」として,
「ビタミン

B6 ,B9 及びB12 の量が,前記サプリメント中の純カルボン酸の含有量の乾燥重量

1g当たりそれぞれ,0.5〜30mg,0.1〜10mg,及び1〜1500μ

gの範囲」と規定されているので,その範囲内であれば本願補正発明の「カルボン

酸のCOOH基の代謝中に消費されうる量に相当する量のビタミンB12 及びB9 」

となると理解したのである。

イ 引用発明におけるビタミンB6 ,B9 のそれぞれの量について

本件審決は,引用例の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の具体例として段落

【0007】ないし【0013】の「1日のクエン酸摂取量6.25g」「アミノ


酸…合計1300mg」「ビタミン…合計500mg」「ミネラル…合計100m
, ,

g」「抗酸化成分…併せて100mg」及び「糖質…合わせて20g」との記載に


基づき,引用発明を認定した。また,引用発明は,
「栄養素を1Lの水に溶かした状

態の飲料及び栄養補助食品」であり,上記栄養素全てを1Lの水に溶かした状態の

もので,上記各栄養素の配合量は,グラム(g)表示になっており,通常,この表

示は上記各栄養素を1Lの水に溶かす前の,乾燥重量の値と考えるのが自然である。

そこで,引用発明中の,ビタミンB6 及びB9 の各含有量を純カルボン酸であるク
エン酸の含有量の乾燥重量1g当たりに換算すると,引用発明では,ビタミンB6 ,

及びビタミンB9 である葉酸は各50mg均等配合されており,かつ,クエン酸の

乾燥重量は6.25gなので,50mg/6.25g=8mg/gであり,この値

は,本願補正発明のビタミンB6 の0.5〜30mg,及び,ビタミンB9 の0.1〜

10mgの範囲内,すなわち,本願補正発明の技術的特徴である,ビタミン類の量

がカルボン酸のCOOH基の代謝中に消費され得る相当量の範囲内である。

ウ 引用発明におけるビタミンB12 の量について

引用発明では,ビタミンB12 も50mg配合されているので,クエン酸の含有量

の乾燥重量1g当たりのビタミンB12 の量は,前記イと同様に8mg/g,すなわ

ち8000μg/gである。

ところで,@ビタミンB12 のヒトに対する通常投与量は,1日当たり約1〜15

00μgであること(乙1,2),AビタミンB12 は,水溶性で毒性がなく,過剰

摂取しても問題がないこと(乙3),B一般に,ビタミンB12 は吸収率が悪く,そ

の吸収率は摂取量が増加するに従い低くなり,過剰摂取したビタミンB12 のほとん

どは尿中に排出されること(乙4)は,いずれも上記乙号証から明らかなように,

本願優先日前からの技術常識であった。

引用発明は,運動パフォーマンスを向上させるため,スポーツによる体内栄養素

を考慮し,必要十分な各栄養素の摂取量等を決めるものであり,引用例の請求項1

においては,
「ビタミン類0.5g以上」とビタミン類合計の最低量が特定されてい

るだけで,ビタミンB12 の量は特段規定されておらず,その量を適宜変更すること

を妨げるような記載事項はない。そして,本願優先日前の上記技術常識Aにより,

ビタミンB12 は水溶性で毒性がなく過剰摂取しても問題ないから,引用発明におい

てビタミンB12 はクエン酸の含有量の乾燥重量1g当たり8000μg/gもの量

が含まれているが,上記技術常識Bにより明らかなように,ビタミンB12 の吸収率

は摂取量が増加するに従って低くなるものであり,摂取したビタミンB12 のほとん

どは尿中に排出されることから,ビタミンB 12 を過剰に配合し過ぎず,ある程度適
切な量を配合させようという動機付けはあったといえる。

そうすると,引用発明において,上記動機付けにより,吸収率等の観点からビタ

ミンB12 の必要以上の摂取を避け,最適化を図るべくある程度適切な摂取量を配合

させようとして,上記技術常識@により,ヒトへ安全に投与することができるビタ

ミンB12 の投与量1日当たり約1〜1500μgを考慮し,それをクエン酸の含有

量の乾燥重量1g当たりに計算した1μg/6.25g〜1500μg/6.25

g,すなわち,0.16〜240μg/g程度とすることは,当業者が容易になし

得たことである。

(2) サプリメントの乾燥重量1g当たりのビタミンB6 ,B9 及びB12 の量につ

いて

本願補正発明においては, サプリメントの乾燥重量1 当たり10〜50
「 の量

のビタミンB6 ,B9 及びB12 」と特定されている。しかし,本願明細書には,本願

補正発明のビタミンB6 , 9 及びB12 を上記の濃度で配合することの作用効果や技


術的意義についての記載はなく,その上限と下限についての臨界的な技術的意義

示すデータや記載事項はない。それどころか,例1(段落【0028】〜【003

1】)及び例2(段落【0032】【0033】
, )では,飲料水や飼料にサプリメン

トを混合して動物に摂取させており,上記特定された濃度のサプリメントがそのま

まの状態で摂取されているものではなく,レース結果やびらんの治癒効果等の本願

補正発明の効果は,上記特定された濃度によりもたらされたものとは必ずしもいえ

ない。

引用発明は,運動パフォーマンスを向上させるための各栄養素の目安となる最低

摂取量とその栄養素の特徴を生かす配合比が規定されているものであるから,引用

発明において,運動量の多いスポーツ選手のパフォーマンスを向上させる目的で,

運動量に合わせ最適化を図り,本願補正発明のように「サプリメントの乾燥重量1

g当たり10〜50mgの量のビタミンB6 ,B9 及びB12」という程度の濃度の高

いものとすることは,当業者が適宜なし得る範囲内のことである。
(3) 酸化防止剤の含有量について

本願補正発明では,サプリメントの乾燥重量1g当たり…0〜1重量%の酸化防


止剤」と特定されている。

引用発明は,酸化防止剤として,ビタミンE,ビタミンC及びポリフェノールを

併せて100mgを均等配合して使用している。そして,引用発明における栄養素

の乾燥重量は,前記 イのとおり,【0007】ないし【0013】に記載された

各成分の配合量の総和から,(アミノ酸合計)1.3g+(ビタミン合計)0.5

g+(ミネラル合計)0.1g+(抗酸化成分合計)0.1g+(糖質合計)20

g+(クエン酸摂取合計量)6.25g=28.25gである。そうすると,引用

発明における酸化防止剤の,栄養素の乾燥重量1g当たりの含有量は,0.1g/

28.25g×100=0.35重量%であり,本願補正発明で特定されている範

囲内である。

(4) Feの含有量について

本願補正発明では,
「サプリメントの乾燥重量1g当たり5〜25mgFe」と特

定されている。

引用発明は,クエン酸第一鉄を14mg含んでいるものである。一般に,過剰な

運動はスポーツ貧血(鉄欠乏性貧血)を引き起こすことがあり,その予防もスポー

ツ選手の課題の一つとなっていることは,本願優先日前からの技術常識であった(乙

5)。そして,赤血球産生を増大させるために,ヒトにおいて1日あたり100〜1

500mg,好ましくは300〜900mgの割合でFeを投与することも,本願

優先日前からの技術常識であった(乙6)。

そうすると,引用発明において,運動パフォーマンスを向上させる目的で,スポ

ーツ貧血を引き起こさないように,Feの含有量に関し,上記周知のFeの好まし

い投与量である1日あたり300〜900mgを目安とし,サプリメントの乾燥重

量(総量は前記(3)のとおり28.25gである。)1g当たり300/28.25

〜900mg/28.25gすなわち約10.6〜31.9mg/g程度とするこ
とは,当業者が容易になし得たことである。

(5) サプリメントを水に溶解させたとき,塩及びカルボン酸の量がpH2.0〜

6.0を与えることについて

引用発明において,pHに影響を与える主な成分はクエン酸なので,クエン酸を

基におおよそのpHを検討すると,引用発明におけるクエン酸のモル濃度は0.0

325mol/Lであり,このモル濃度のときのpHは,乙7によれば,pH2.

082〜pH2.623の間にある。

そうすると,引用発明においては,カルボン酸の量が,本願補正発明で特定され

ているpHの範囲内にある。

(6) 以上のとおりであるから,相違点2の容易想到性に係る本件審決の判断に誤

りはない。

2 取消事由2(本願補正発明の顕著な作用効果の判断の誤り)

〔原告らの主張〕

本件審決は,本願補正発明の副作用の改善効果である,胃潰瘍の発生抑制,

胃腸粘膜のびらん改善,下痢の防止については,引用発明が運動パフォーマンスを

向上させるものであり,疲労回復を早めるものといえるから,ストレスが低減され

る結果として,胃腸粘膜のびらんが改善し,下痢の発生やストレス性胃潰瘍の発生

が抑制されることは,予測し得るものであり,格別顕著なものではないと判断した。

しかし,等しく運動パフォーマンスの向上という効果であっても,引用発明

の運動パフォーマンスの向上はクエン酸を6.2g以上摂取した場合に変化が見ら

れたことを示したにすぎず(引用例の段落【0018】,また,引用例の実験4(段


落【0016】【0019】
, )に記載の食品は,クエン酸及びビタミン類以外に,糖

質及びタンパク質の割合が著しく高く,この糖質及びタンパク質が「運動パフォー

マンスの向上」という実験4の結果に関与していないことを示す客観的なデータも

示されていないから,引用発明における「運動パフォーマンスの向上」という効果

は,本願補正発明のようにビタミン類の量をカルボン酸のCOOH基の代謝中に消
費され得る相当量に調整したことによって得られる効果ではない。

また,引用例記載の実験は,ヒトを実験対象として食品摂取の感想や体脂肪の変

化を評価するものであるが,その結果については,被験者個々の日常生活の状況や

心理状態等の因子によっても大きく変動し得るものであるところ,引用例にはこの

ような変動因子に配慮して(例えば,二重盲検法に基づいて)評価を行ったことを

示唆する記載はないから,引用例記載の運動パフォーマンスの向上という効果は極

めて客観性に欠ける実験データによるものである。仮に引用例の記載から,引用発

明が運動パフォーマンスを向上させ,疲労回復を早めるものであると客観的にいえ

たとしても,その効果のみを理由に,被験者のストレスが改善されたとまではいい

切れないし,ましてや引用例記載の効果から,本願補正発明の副作用の改善効果で

ある胃潰瘍の発生抑制,胃腸粘膜のびらん改善及び下痢の防止の改善という疾病又

はその症候の改善にまで当業者が想到し得るとはいい切れない。これに対し,本願

補正発明では,運動パフォーマンスの向上,胃潰瘍の発生抑制,胃腸粘膜のびらん

改善及び下痢の防止の改善の効果が,本願明細書の例1の表1や例2に記載されて

いるように客観的な実験データにより実証されている。

そして,被告主張に係る乙8ないし10に記載の「胃潰瘍の発生抑制」,「胃腸

粘膜のびらん改善」,及び「下痢の改善」といった効果はカルボン酸単体による効

果であり,ビタミン類の量をカルボン酸のCOOH基の代謝中に消費されうる相当

量に調整したことによって得られる本願補正発明と同様の効果ではないから,本願

補正発明の効果は,引用例及び乙8ないし10記載の事項を含む本願優先日前の公

知事項から容易に導き出せるものではない。

(3) 以上のとおり,本願補正発明は,引用発明と構造,効果の面で顕著な差異を

有しており,当業者が容易に想到し得るものではない。

〔被告の主張〕

(1) 引用例の実験4(段落【0016】【0019】
, )において,ゴルフのヘッ

ドスピード及び最長飛距離等の測定値がアップしたのは,クエン酸のみならず段落
【0016】に記載の成分全てを摂取した場合に奏される効果である。そして,引

用例の実験4は,段落【0004】に記載の,運動により体内栄養素が消耗するた

め,運動パフォーマンスを向上させるための各栄養素の目安となる摂取量とその栄


養素の特徴を生かす配合比を提供」した具体例であり,個々の栄養素の欠乏をサプ

リメントで補うことで,本願優先日前からの技術常識どおりの改善が図られたこと

を確かめたものである。ビタミン欠乏症や鉄欠乏症といった各栄養素の欠乏による

運動パフォーマンスの低下は既に技術常識として知られており,引用発明の目的は,

それを補うことで運動パフォーマンスを向上させることである。それ故,原告らが

主張する厳密な実験を行わなければ引用発明の効果が裏付けられないものではない。

したがって,本件審決のとおり,本願補正発明の効果の一つである,パフォーマ

ンスを改善することは,引用例の記載から当業者が予測し得た効果である。なお,

引用例から,運動パフォーマンスの改善が予測し得たことである以上,それに付随

して運動ストレスも改善されることは予測し得たことである。

(2) モノカルボン酸を飼料に適用することによる下痢防止の改善の効果は,乙8

から明らかなように,本願優先日前から良く知られていた効果であり,本願補正発

明は,それを確認したにすぎない。

また,クエン酸が胃粘膜の修復機能を有することは,乙9及び乙10から明らか

なように,本願優先日前から良く知られていた効果である。そうすると,引用発明

はクエン酸を6.25g含有しているものであるから,クエン酸により奏される胃

の粘膜の修復効果があるといえ,胃の粘膜が修復されれば,通常,胃潰瘍の発生は

抑制され,胃腸粘膜のびらんが改善されることも,当業者が予測し得た効果である。

したがって,胃潰瘍の発生抑制及び胃腸粘膜のびらん改善についても,引用例の記

載及び本願優先日当時の周知技術から予測し得たものであり,本願補正発明はそれ

を確認したにすぎない。

(3) 以上より,本願補正発明の効果は,引用例の記載事項及び本願優先日当時の

周知技術から予測されたものであり,格別顕著なものではないから,この点に係る
本件審決の判断に誤りはない。

第4 当裁判所の判断

1 本願明細書の記載内容について

本願補正発明の特許請求の範囲は,前記第2の2(2)のとおりであるところ,

証拠(甲5)によれば,本願明細書の「発明の詳細な説明」には,概略,次の記載

がある。

ア 「本発明は,ビタミンを含む食品及び飼料サプリメントに関する。また,本

発明は,食品及び飼料におけるサプリメントの使用も包含している。(段落【00


01】)

イ 「過酷なストレスに晒されたり,又は高いパフォーマンスが要求される時,

動物は,標準飼料のみを与えていると,疲労や下痢,食料摂取に対する抵抗,貧血

等を患うことが観察されている。このような場合,飼料に添加剤又はサプリメント

が明らかに必要であることは明らかである。しかし,観察された問題に対して何が

原因であるか,従って,どの添加剤を使用すればいいのかを決定することは通常困

難である。公知の多くの添加剤及び飼料サプリメントが存在するが,どれも上記の

総ての問題を解決することを立証するものではなかった。いくつかの添加剤は,動

物の成長の促進を主に意図している一方で,その他の添加剤は健康を改善すること

を主張する。ビタミン欠乏症は問題の一部であるかもしれないが,飼料が十分な量

のビタミンを含有することが期待される時でさえも,このことがなぜ起こるのかを

理解すべきである。

放牧地から集中的な給餌,例えば1日当たり2回の給餌に変更するとき,競走馬

に特別な問題が観察された。給餌処理の前記変更が,胃潰瘍を発生させることは極

めて一般的である。(段落【0002】【0003】
」 , )

ウ 「本発明の主要な目的は,特にストレス症状にある間,及び高いパフォーマ

ンスが要求されるとき,すなわちトレーニング及び競技状態にある間に,健康及び

パフォーマンスを改善する新規な食品及び飼料サプリメントを達成することであっ
た。(段落【0007】
」 )

エ 「本発明のサプリメントの主な特徴は,サプリメントが基本成分としての少

なくとも1つのカルボン酸及び/又はその塩と,サプリメントの乾燥重量1g当た

り10〜50mgの全体量のビタミンB6 ,B9 及びB12 と,サプリメントの乾燥重

量1g当たり5〜25mgのFeと,0〜1重量%の乾燥剤と,0〜1重量%の酸

化防止剤と,を具え,当該サプリメントを水に溶解させたとき,前記塩及びカルボ

ン酸の量が,2.0〜6.0のpHを与えることである。

ビタミンB6,B9及びB12の量は,少なくともカルボン酸のCOOH基の代

謝の間に消費されうる量に相当するべきである。(段落【0018】【0019】
」 , )

「本発明のサプリメントの特別な特徴は,ビタミンB6,B9及びB12の好ま

しい量が,それぞれ,サプリメントにおける純カルボン酸の含有量の乾燥重量1g

当たり0.5〜30mg,0.1〜10mg,及び1〜1500μgの範囲である

ことである。(段落【0021】
」 )

オ 「例1

この実験は,…レース鳩に対して実施された。これらのハトに2001年秋から,

2002年7月に終わるレースシーズンを通して,毎日,pH4の飲料水に水1l

当たり0.5gのカルボン酸を与えた。春の最初のレースで,これらのハトは期待

を下回るパフォーマンスをした。…レースシーズンが続くにつれて,パフォーマン

スは更に悪くなり,最初のレース後(2〜3週間),ハトは,パフォーマンスのレベ

ルになかった。3週間後,ハトは貧血の全徴候を示した。たった6レース後の,2

002年6月に実験ハト群のレースを中止した。

同じ鳩舎,同じ場所から,同じ給餌システム,同じトレーニング,同じレースシ

ステム,同じ扱いのハトが新しい実験の一部であり,ここで,ビタミンB6,B9

及びB12,及びサプリメント1kg当たり6mgのFeを加えることによって,

飲料水中の同じ投与量のサプリメント(同じカルボン酸)を改良した。レースシー

ズンは,スタートから6週間後の最後の競技会まで,…これまでで最もよい結果と
なった。2つのシーズンの結果と比較した成績を表1に示した。

表1




得点は,レースに参加するハトの数が変化しても比較することが出来るように計

算されている。得点Sは,S=100−((P−1)*300)/Nポイントとして

計算される。ここで,Nは,参加するハトの全体数であり,Pは,ピジョンレース

の結果リストの順位である。第1位は,常に100ポイントの得点を与える。その

後,得点は,順次1ポイントまで落ちて,結果リストの上位1/3のハトのうち最

終位で戻るハトに与えられる。0の得点は残りのハトに与えられる(次の2/3の

ハトは,最も遅く戻ったハトである)。表1は,…実験鳩舎の第1位のハトの得点で

あり,2002年と比較して2003年シーズンにおけるレースパフォーマンスに

大きな進歩があったことを明確に示している。(段落【0028】〜【0031】
」 )

「例2

また,ウマに生じた胃/腸粘膜の問題における上記のびらんに対する起こりうる

効果を調査した。胃/腸粘膜に発達したびらんを有する10頭のウマに,1日2回

飼い葉を与えた。通常の手順に反して,14日間1日2回,通常の飼い葉と混合し

て40〜50g(乾燥重量)の新規なサプリメントを与えた。馬体重は,450〜

500kgであり,従って,サプリメントの添加量は馬体重100kg当たり10

g乾燥重量のサプリメントに相当する。この新しい飼育期間の最後に行った胃内視

鏡検査は,胃/腸粘膜のびらんが治癒したことを示していた。従って,ウマはレー
スを開始して非常に良好な成績を収めた。総ての実験は,胃/腸粘膜にびらんを有

する病気のウマに対して実施された。

更なる調査から,上記の効果は標準飼料に馬体重100kg当たり5〜25gの

サプリメントを添加することによって達成出来ることが分かった。(段落【003


2】【0033】
, )

「例4

胃/腸粘膜のびらんの治療に加えて,この例の主要な目的は,投与量の適正レベ

ルを見つけることと,一般的観察の記録を取ることであった。総ての観察は,トロ

ッター及びギャロップ馬に特化した病院…で,獣医によって行われた。有機酸及び

選択されたビタミンを用いた治療の後に,素晴らしい体型であることが,ウマの全

体的な活力の観察によって確認された。更に,実験に参加した14頭のウマは,病

気の治療後活力を維持し,レース中及びレース後によいパフォーマンスをした。表

2に記載するようにいくつかの改善点が記録された。

表2




各種の動物についての上記の例から,添加ビタミンB6,B12及びB9の量す

なわち,新陳代謝することが出来るCOOH−基の量に少なくとも相当するべきで

ある量が,新規なサプリメントによって達成されることが分かる。総ての実験結果
及び文献で見られる情報に基づいて,発明者は,本発明によるサプリメントの推奨

されるビタミン成分についての次の表3に到達した。

表3




各スピーシーズに対するビタミンの添加量の推奨値は,飼料1kg当たりビタミ

ンサプリメントとして与えられ,これに従って,ビタミン量を飼料1kg当たりの

新規なサプリメントを使用して示す(表3の下2列)。サプリメントの添加量は,ハ

トについて,それぞれ2.5g/kg飼料,及び水1l当たり0.5gの2つの用

量として与えられている。1kgの飼料に対する水1lの用量は,平均的なハトが

1日当たり50mlの水を飲み,40gの飼料を食べるという知識から計算した。」

(段落【0035】〜【0039】)

「例6

様々なスピーシーズに対するビタミンB類及び鉄の量を確かめるために,ハト,

ヒト,ウマ及びイヌに関して多くの実験が行われた。これらの実験中に使用された

サプリメントは,サプリメント1gに対して330mgの蟻酸/蟻酸塩及び60m
gのラク酸を含有していた。これらの実験の結果を表5に示し,各スピーシーズに

ついて各ビタミン群の平均値を記載した。値は体重1kg当たり100%蟻酸/蟻

酸塩1gに対するmgビタミン/1日として与えられている。

表5






(段落【0044】【0045】
, )

「新規のサプリメントの推奨量は,種及びその年齢,並びに治療期間によって異な

る。一般的に,飼料1kg当たり2.5mgのサプリメントが最適と考えられるが,

0.5〜15g乾燥サプリメント/kg飼料の量で,所望の結果を得ることが分か

った。上限範囲は,多くの場合で過用量を示し,これは,彼らが一般的に余分の飼

料及びビタミン供給を要求するときの,極限状況の目的か,或いは治療の初期段階

の目的のためである。総てのビタミンBは可溶性であり,いずれの過剰量も排出さ

れる。ヒトが安全であることを確保するもう一つの理由は,カルボン酸の代謝酸化

のレベルが種によって様々であり,依然として科学的に完全に解っていないためで

ある。(段落【0046】
」 )

カ 「実験で使用されたカルボン酸/カルボン酸塩混合物は,蟻酸,蟻酸アンモニ

ウム及びラク酸を具える。我々の実験によれば,予防的治療のための有機酸の用量

は,種によって様々であり,例えば,体重1kg当たり1日3mgのヒトから馬体

重1kg当たり1日50mgのウマまでの範囲である。総てのビタミンB(すなわ

ち,B6,B9及びB12を含む総てのビタミンB)は,様々な酵素系に組み込ま

れ,その相互作用及び代謝経路は明らかに理解されていないので,ビタミンは,好

ましくはビタミンB−錯体として添加されるべきであることが分かった。しかし,
上記で示したように,ビタミンB6,B9,B12が,推奨された量で存在するこ

とは,必須である。従って,鳥類,動物及びヒトに対する我々の実験に基づいて,

新規のサプリメントのビタミンB6の量は,毎日1回,体重1kg当たり0.1〜

2mgの範囲であり,B9は,体重1kg当たり1日0.2〜2.5mgの範囲で

あり,B12は,体重1kg当たり1日1〜10μgの範囲であるべきである。」
(段

落【0048】)

キ 「最も有益なカルボン酸は,C1 〜8 カルボン酸であり,最も好ましい酸は,

蟻酸,クエン酸,ラク酸,プロピオン酸,アスコルビン酸,フマル酸及び安息香酸

であることが分かった。また,前記酸の塩は,特にサプリメントが所望のpHを与

えるために,有利に使用することが出来た。…」(段落【0050】)

(2) 前記(1)の本願明細書の記載によれば,本願補正発明は,人間を含む動物が

ストレス状態にあり,又は高いパフォーマンスが要求される場合に,その健康及び

パフォーマンスを改善するために使用する食品又は飼料サプリメントであり,その

基本成分として,蟻酸,乳酸,クエン酸,プロピオン酸,アスコルビン酸,フマル

酸,酢酸,ラク酸,及び安息香酸から選ばれる少なくとも1つのカルボン酸及び/

又はその塩,ビタミンB6 ,B9 及びB12 のビタミン類,並びにFe(鉄)を本願補

正発明で特定される量で含有し,かつ,サプリメントを水に溶解した場合のpHが

2.0〜6.0の範囲内となるサプリメントに関するものであるということができ

る。

2 引用例の記載内容について

(1) 証拠(甲1)によれば,引用例には,以下の記載がある。

ア 特許請求の範囲

「【請求項1】 クエン酸6.25g以上,タンパク質(アミノ酸複合体も含む)

1.3g以上,クレアチン1g以上,ビタミン類0.5g以上,ミネラル0.1g

以上,抗酸化成分0.1g以上,糖質20g以上からなることを特徴とする飲料及

び栄養補助食品。」
イ 発明の属する技術分野

「本発明はクエン酸とアミノ酸を主成分とする健康食品,スポーツ飲料或いは粉

末清涼飲料に関するものである。(段落【0001】
」 )

ウ 従来の技術

「従来のスポーツ飲料は,清涼感を主体に考えられており,クエン酸を酸味料的

な味覚添加剤として,アミノ酸を調味料的な添加剤として利用されておりました。

また,ビタミン類,ミネラル類に関しましても,クエン酸とアミノ酸との併用でな

く,補助食品として別売り販売が主流です。

しかも,アミノ酸の複合体のクレアチンは酸に弱いという報告があり,クエン酸

は酸性物質のためクレアチン量が減少し効果が得られないということでした。(段


落【0002】【0003】
, )

エ 発明が解決しようとする課題

「しかし,スポーツをする場合は,体内栄養素の消耗が激しいので,ある程度の

各栄養素の摂取量の目安が必要です。厚生省から発表されている,各栄養素の1当

りの摂取量の目安は,1日の最低必要量であり,運動パフォーマンスを向上させる

ものではありません。運動パフォーマンスを向上させるための各栄養素の目安とな

る摂取量とその栄養素の特徴を生かす配合比を提供することである。(段落【00


04】)

オ 課題を解決するための手段

「クエン酸とアミノ酸を主成分とし,ビタミン群,ミネラル,抗酸化成分,糖分

の運動パフォーマンスが,はっきり向上する数値を表すことのできる摂取量と配合

比を提供することである。(段落【0005】
」 )

カ 発明を解決するための手段

「今回使用する各栄養素の配合率を変えながら,人体実験による,立位体前屈の

測定と,ゴルフクラブ(1番ウッド)を使用し,ヘッドスピード,飛距離を測定し,

クエン酸とアミノ酸を主成分とする健康食品,スポーツ飲料或いは粉末清涼飲料を
摂取する前と摂取1ヵ月後の記録を測定します。…」(段落【0006】)

キ 実験の詳細

「実験は全て栄養素を1Lの水に溶かした状態のものを摂取して測定を行った。

実験に使用したアミノ酸は,バリン,ロイシン,アルギニン,イソロイシン,メ

チオニン,スレオニン,リジン,ヒスチジン,プロリン,アラニン,トリプトファ

ン,フェニルアラニン,グルタミンである。各成分100mgの均等配合とし,合

計1300mgを使用した。

実験に使用したビタミンは,ビタミンA,ビタミンB1,ビタミンB2,ビタミ

ンB3,ビタミンB6,ビタミンB12,ナイアシン,パントテン酸カルシウム,

葉酸,ビタミンKである。各成分50mgの均等配合とし,合計500mgを使用

した。

実験に使用したミネラルは,クエン酸第一鉄,酵母(亜鉛,セレン,クロム含有),

乳酸カルシウム,硫酸マグネシウム,銅,マンガン,カリウムである。各成分約1

4mgの均等配合とし,合計100mgを使用した。

実験に使用した抗酸化成分は,茶抽出のポリフェノールを使用した。ここで示す

抗酸化成分は,ビタミンE,ビタミンCも含んでいる。よってビタミンE,ビタミ

ンC,ポリフェノールを併せて100mgを均等配合し,使用した。

実験に使用した糖質はブドウ糖,食物繊維である。ブドウ糖18gと食物繊維2

g合わせて20gを使用した。(段落【0007】〜【0012】
」 )

「【実験1】1日のクエン酸摂取量合計6.25gを2週間摂取。

立位体前屈測定



【実験2】1日のアミノ酸摂取量合計2gを2週間摂取。

立位体前屈測定



【実験3】1日の摂取量ビタミン類0.5g以上,ミネラル0.1g以上,抗酸化
成分0.1g以上,糖質20gを2週間摂取。

立位体前屈測定



【実験4】1日の摂取量クエン酸6.3g以上,タンパク質(アミノ酸複合体も含

む)1.2g以上,クレアチン1g以上,ビタミン類0.5g以上,ミネラル0.

1g以上,抗酸化成分0.1g以上,糖質20gを2週間摂取。
【表4】




実験5は実験4の時点で,体脂肪測定も同時に実施
体脂肪測定

【表5】




評価結果

実験1〜実験3の時点で,数値的に変化が見られたのは実験1のクエン酸を6.

2g以上摂取した場合のみ変化が見られた。

実験4で1日の摂取量クエン酸6.3g以上,タンパク質(アミノ酸複合体も含

む)1.2g以上,クレアチン1g以上,ビタミン類0.5g以上,ミネラル0.

1g以上,抗酸化成分0.1g以上,糖質20gを2週間摂取した測定結果,表4

で示すようにモニターA〜Fまで全ての測定値に効果が現われた。(段落【001


3】〜【0019】)

ク 発明の効果

「上記測定結果を考慮し,本発明の食品を摂取することにより,筋肉の稼動範囲

が広がり,体脂肪が減少し,スイングのヘッドスピード及び飛距離が向上すること

を可能にすることが出来た。(段落【0020】
」 )

(2) 前記(1)によれば,引用例には,筋肉の稼動範囲が広がり,体脂肪が減少し,

ゴルフクラブをスイングした際のヘッドスピードが上がり,飛距離が向上するとい

う効果を有する,飲料及び栄養補助食品が記載されているということができる。

そして,引用例記載の引用発明が前記第2の3(2)のとおりであること,すなわち,

「以下の栄養素を1Lの水に溶かした状態の飲料及び栄養補助食品で,

アミノ酸は,バリン,ロイシン,アルギニン,イソロイシン,メチオニン,スレ

オニン,リジン,ヒスチジン,プロリン,アラニン,トリプトファン,フェニルア
ラニン,グルタミンを,各成分100mgの均等配合とし,合計1300mgを使

用し,

ビタミンは,ビタミンA,ビタミンB1,ビタミンB2,ビタミンB3,ビタミ

ンB6,ビタミンB12,ナイアシン,パントテン酸カルシウム,葉酸,ビタミン

Kを,各成分50mgの均等配合とし,合計500mgを使用し,

ミネラルは,クエン酸第一鉄,酵母(亜鉛,セレン,クロム含有),乳酸カルシウ

ム,硫酸マグネシウム,銅,マンガン,カリウムを,各成分約14mgの均等配合

とし,合計100mgを使用し,

抗酸化成分は,ビタミンE,ビタミンC,ポリフェノールを併せて100mgを

均等配合し,使用し,

糖質は,ブドウ糖18gと食物繊維2g合わせて20gを使用し,

1日のクエン酸摂取量合計6.25gを使用した,飲料及び栄養補助食品。」であ

ることは,当事者間に争いがない。

3 ビタミンB12 のヒトに対する通常投与量について

次に,被告が,ビタミンB12 のヒトに対する通常投与量は1日当たり約1〜15

00μgであることが,本願優先日前からの技術常識であったことの根拠とする乙

1及び乙2の各文献の記載内容をみることとする。

(1) 乙1の記載内容

乙1(特開2000−16940号公報)には,以下の記載がある。

ア 「【請求項1】α化デンプン類とビタミンB12 類をセルロース系高分子化合

物又はアクリル系高分子化合物でコーティングしてなるビタミンB12 類含有組成

物。」

イ 「【発明の属する技術分野】本発明は,α化デンプン類とビタミンB12 類を

セルロース系高分子化合物又はアクリル系高分子化合物でコーティングしてなるビ

タミンB12 類含有組成物及びその安定化方法に関する。(段落【0001】
」 )

ウ 「【従来の技術】 ビタミンB12 はビタミンB1 主薬製剤,ビタミンB6 主薬
製剤,ビタミンB1・B6 主薬製剤又はビタミンE主薬製剤等に配合される重要なビ

タミンである。しかし,ビタミンB12 にはビタミンB1 …,アスコルビン酸…,ビ

タミンB2,ビタミンB6 …等配合性の悪い(配合禁忌の)ビタミンがある。これら

の配合性の悪いビタミンと共に製剤化する際のビタミンB12 の安定化方法として

は,ビタミンB12 は水分により一般に不安定化されるため,素錠,フイルム錠,糖

衣錠等を製造する際に,低水分化を行い安定に製剤化する方法が従来用いられてい

る。また,相互作用の大きいビタミンB6 を糖衣層に配合し互いに接触しないよう

にして安定化させる方法…,ビタミンB12 をデンプン及びデキストリンに吸着させ

て安定化させる方法…,部分α化デンプンに吸着させて安定化させる方法…,ビタ

ミンB12 とゼラチンとの混合水溶液を粉末担体に吸着後,被覆剤でコーティングす

る方法…が報告されている。(段落【0002】
」 )

エ 「【発明が解決しようとする課題】製剤を低水分化することによってビタミン

B12 類を安定化させる場合,糖衣錠等では通常,平衡相対湿度(ERH)が60%

前後のところを40%以下にすることが望ましい。しかし,この様な低水分安定化

は実際の製造性,生産性において問題が多い。平衡相対湿度を40%以下の低水分

状態にするためには糖衣工程に長時間を要するが,安定性や生産性を上げるため短

時間の操作が求められる。また,糖衣錠においては低水分化することにより,糖衣

強度が弱くなり糖衣層のカケ等が発生するという問題点がある。さらに,低水分化

を行わない従来の技術においては,組成物中での,とりわけビタミンB2 類及び/

またはB6 類存在下でのビタミンB12 類の安定化が必ずしも十分ではなく,しかも

安定化工程が煩雑である。(段落【0003】
」 )

オ 「【課題を解決するための手段】本発明者らは,安定で十分な強度を有するビ

タミンB12 類含有組成物を検討した結果,ビタミンB12 類とα化デンプン類をセル

ロース系高分子化合物又はアクリル系高分子化合物でコーティングすることにより

得られるビタミンB12 類を含有する組成物が安定であることを見いだし,さらに検

討を加え,本発明を完成した。
すなわち,本発明は,(1)α化デンプン類とビタミンB12 類をセルロース系高

分子化合物又はアクリル系高分子化合物でコーティングしてなるビタミンB12 類

含有組成物,…(10)α化デンプン類とビタミンB12 類をセルロース系高分子化

合物又はアクリル系高分子化合物でコーティングすることを特徴とするビタミンB

12 類含有組成物の安定化方法,及び(11)ビタミンB2 類及び/またはB6 類存在

下における前記(10)記載の安定化方法に関する。(段落【0004】【000
」 ,

5】)

カ 「本発明組成物は哺乳動物,とりわけヒトに安全に投与することができる。

その投与態様は経口投与が好ましい。その投与量はヒト成人(体重50kg)1日

あたり,ビタミンB12 類が約1〜1500μgであり,1日あたり約1〜3回投与

される。(段落【0014】
」 )

キ 「【発明の効果】本発明のビタミンB12 類含有組成物はビタミンB2 類又はビ

タミンB6 類等の存在下でも安定である。ビタミンB12 類の残存率の低下や変色が

起こりにくい。(段落【0025】
」 )

(2) 乙2の記載内容

乙2(特開2001−122788号公報)には,以下の記載がある。

ア 「【請求項1】ビタミンB12 類を酒石酸カリウムナトリウムに含有させるこ

とを特徴とする医薬用固形組成物。」

イ 「【発明の属する技術分野】本発明は,ビタミンB12 類を安定に配合してな

る医薬用固形組成物に関する。(段落【0001】
」 )

ウ 「【従来の技術】シアノコバラミンをはじめとするビタミンB12 類は,抗貧

血薬として有用であり,種々の悪性貧血と,それに伴う神経症状,栄養性神経疾患,

妊娠授乳期などでビタミンB12 欠乏症などを認めた際に投与される。その投与量

は,例えばシアノコバラミンヒおよびドロキソコバラミンの場合,1日当たりの投

与ないし配合量は1〜1500μgであって,他のビタミン類と比べても非常に少

量である。
このように配合量が少ないことから,ビタミンB12 類を経口投与するための固形

組成物を調製するとき,賦形剤に倍散したり(倍散法),あるいは水などの水性溶媒

に溶かして(溶液法),含量の均一性を保つ必要がある。また,ビタミンB12 類は

pH,光,熱,水分などの影響により,それ自身の安定性が低下することや,希釈

されたり,あるいは他の薬物(例えば,ビタミンB1 ,ビタミンB6 ,ビタミンC,

ニコチン酸アミドなどの異種ビタミン類),添加剤(乳糖,金属イオンなど)などと

共存するときに安定性が低下することが知られている。従来,これらの異種ビタミ

ン類と共にビタミンB12 類を含有するビタミン製剤においては,ビタミンB12 類の

安定化を図るためにいくつかの製剤学的工夫が提案されている。例えば,異種ビタ

ミン類とビタミンB12 類との接触を避けるために,積層錠や有核錠にすることや,

あるいは素錠,フィルム錠,糖衣錠等を製剤化する際に低水分化を行うことが挙げ

られる。しかしながら,前者の場合には製剤工程が複雑になったり,錠剤の形状が

大きくなるなどの問題があり,また後者の場合とりわけ糖衣錠においてはビタミン

B12 類の安定化の度合いをなお満足させるものではなかった。

ところで,顆粒剤,錠剤などの経口投与製剤を製造する場合には,成分粒子を相

互に結合させる目的で結合剤が使用される。一般に,かかる結合剤としては,効果

確実性と崩壊性の点から,ヒドロキシプロピルセルロース…,ヒドロキシプロピ

ルメチルセルロース…,ポピドンなどが繁用されている…。

しかしながら,これらの結合剤を用いて製造した,異種のビタミン類とビタミン

B12 類とが共存するビタミン製剤では,ビタミンB12 類の安定化を図ることができ

ず,ビタミンB12 類の含量の低下を招く問題があった。また造粒を行う際に,前述

のビタミンB12 類の水溶液を用いる溶液法の場合には,結合剤や賦形剤などを含む

混合末に対するなじみが悪く,含量の均一性を図ることができない恐れがあった。」

(段落【0002】〜【0005】)

エ 「【発明が解決しようとする課題】上述のように,ビタミンB12 類を含有す

る固形状組成物を調製しようとするとき,ビタミンB12 類の安定化や均一な分散
化,異種ビタミン類との安定な共存化などを図るうえにおいて,技術的に考慮すべ

き課題が多い。本発明の目的は,上記の技術的課題の解決されたビタミンB12 類を

含有する医薬用固形状組成物を提供しようとするものである。(段落【0006】
」 )

オ 「【課題を解決するための手段および発明の効果】上記の課題に鑑み,本発明

者らは,ビタミンB12 類を安定化するための物質を広範囲に亘って鋭意検索したと

ころ,意外にも酒石酸カリウムナトリウムにその効果があることを見出し,さらに

種々検討して本発明を完成したものである。すなわち,本願発明は,次の発明を包

含する。

1)ビタミンB12 類を酒石酸カリウムナトリウムに含有させることを特徴とする医

薬用固形組成物。

2)さらに,水溶性結合剤および/または有機溶媒可溶性結合剤を配合してなる上

記1)項記載の医薬用固形組成物。

3)被覆剤でコーティングしてなる上記1)または2)項記載の医薬用固形組成物。

本発明の医薬用固形組成物は,投与量に必要な程度の少量のビタミンB12 類を均

一に含有しており,保存中も安定に保持される。この安定化効果は,製剤中に他の

薬物(ビタミンB1 類,ニコチン酸アミド,ビタミンCなど)が共存するときも充

分に発揮され,しかも本組成物の調製は簡易に作業性よく実施できる。従って,本

発明によると,安定化されたビタミンB12 類含有製剤を実用上有利に供給すること

ができる。(段落【0007】【0008】
」 , )

カ 「本発明の医薬用固形組成物におけるビタミンB12 類と酒石酸カリウムナト

リウムの配合割合は,一般にビタミンB12 類の1重量部に対し,酒石酸カリウムナ

トリウム(C4 H4 KNaO6・4H2 Oとして)を1〜10,000重量部であるが,

好ましくは1〜2,000重量部であり,より好ましくは5〜500重量部の割合

である。酒石酸カリウムナトリウム量が上記の範囲を下回るときは組成物中でのビ

タミンB12 類の安定性向上が期待できなくなり,一方上記の範囲を上回るときはビ

タミンB12 類の均一な分散が期待できなくなる。
本組成物におけるビタミンB12 類および酒石酸カリウムナトリウムの具体的含

量は,例えば1日当たり必要なビタミンB12 類の配合量あるいは投与量を考慮して

組成物中の含量を決定しそれに対して酒石酸カリウムナトリウムを上記のような範

囲となるように配合すればよい。通常,ビタミンB12 類の1日当たり投与量が1〜

1,500μgとなるように,最終製剤中の含量を適宜決定すればよい。」
(段落【0

011】【0012】
, )

4 取消事由1(相違点2に係る判断の誤り)について

本願補正発明と引用発明との間の相違点2(前記第2の3(3)ウ)について,本件

審決は,引用発明において,運動パフォーマンスを向上させるべく各栄養素の目安

となる摂取量とその栄養素の特徴を生かす配合比を提供するとの目的を達成するた

めに,必要十分な各栄養素の摂取量や配合比を詳細に検討し最適化を図って,本願

補正発明の食品とすることは,当業者が適宜なし得たことであり,設計事項の範囲

内であると判断した。これに対して,原告らは,カルボン酸及びビタミン類の相対

量を本願補正発明のように調整することは,当業者が容易になし得ることではない

から,本件審決の相違点2に係る判断には誤りがある旨主張するため,以下,検討

する。

(1) 引用発明におけるサプリメントの乾燥重量1g当たりのビタミンB6 ,B9

及びB12 について

ア 本願補正発明においては, サプリメントの乾燥重量1 当たり10〜50


の量のビタミンB6 ,B9 及びB12 」と特定されている。他方,引用発明におけるサ

プリメントの乾燥重量1g当たりのビタミンB6 ,B9 及びB12 についてみると,引

用発明中の,ビタミンB6,B9 及びB12 の各含有量をサプリメントの乾燥重量1g

当たりに換算すると,引用発明では,ビタミンB6 ,B9 及びB12 は各50mg均等

配合されており,かつ,前記2(2)のとおり,引用発明におけるサプリメントの乾燥

重量は,
「アミノ酸…合計1300mg」「ビタミン…合計500mg」「ミネラル
, ,

…合計100mg」「抗酸化成分…併せて100mg」「糖質…合わせて20g」
, ,
及び「1日のクエン酸摂取量6.25g」の合計28.25gであるから,50m

g/28.25g=1.77mgとなり,本願補正発明におけるビタミンB6 ,B9

及びB12 の量であるサプリメントの乾燥重量1g当たり10〜50mgの範囲内

にはない。

イ 被告は,この点について,本願補正発明においては,
「サプリメントの乾燥重

量1g当たり10〜50 の量のビタミンB6 ,B9 及びB12 」と特定されている

が,本願明細書にはビタミンB6,B9 及びB12 を上記濃度で配合することの作用効

果や技術的意義の記載も,その上限と下限の臨界的な技術的意義の記載もなく,そ

れどころか,実施例のレース結果やびらんの治癒効果等の本願補正発明の効果は,

上記で特定された濃度によりもたらされたものとは必ずしもいえない旨主張する。

しかしながら,要は,引用発明におけるサプリメントの乾燥重量1g当たり各1.

77mgのビタミンB6 ,B9 及びB12 という濃度を,本願補正発明の「サプリメン

トの乾燥重量1g当たり10〜50mgの量のビタミンB6,B9 及びB12 」との濃

度の範囲内とすることが容易に想到できるかどうかが問題であって,本願明細書に

ビタミンB6 , 9 及びB12 を上記濃度で配合することの作用効果及び技術的意義


記載並びにその上限と下限の臨界的な技術的意義の記載がないことや,実施例に見

られる本願補正発明の効果が本願補正発明により特定された上記ビタミン類の濃度

によりもたらされたものなのかどうかは,上記容易想到性の判断とは関係のない事

項であるから,被告の上記主張は失当というほかない。

ウ また,被告は,引用発明は,運動パフォーマンスを向上させるための各栄養

素の目安となる最低摂取量とその栄養素の特徴を生かす配合比が規定されているも

のであるから,引用発明において,運動量の多いスポーツ選手のパフォーマンスを

向上させる目的で,運動量に合わせ最適化を図り,本願補正発明のように「サプリ

メントの乾燥重量1g当たり10〜50mgの量のビタミンB6,B9 及びB12 」と

いう程度の濃度の高いものとすることは,当業者が適宜なし得る範囲内のことであ

る旨主張する。
しかし,前記2のとおり,引用発明は様々な栄養素を含む飲料及び栄養補助食品

であるところ,引用発明に含まれる様々な栄養素の中で,ビタミンB6 ,B9 及びB

12 が,その効果の発現に寄与していることは引用例には記載も示唆もされていない

し,引用発明における栄養素の中で,ビタミンB6 ,B9 及びB12 を殊更に選択して

増量する動機付けも引用例には何ら記載されていない。

さらに,引用発明におけるビタミンB6 等の量は各50mgであるところ,サプ

リメントの乾燥重量1g当たりの量を本願補正発明で特定された下限値の10mg

とするためには,その量を5.8倍してそれぞれ290mgにしなければならない

(引用発明中のビタミンB6 ,B9 及びB12 をそれぞれ5.8倍した場合,各ビタミ

ンの量は50mg×5.8=290mgとなり,引用発明におけるサプリメント(栄

養素)の量の合計は28.25+(0.290−0.05)×3=28.97gと

なるから,ビタミンB6,B9 及びB12 の各量をサプリメントの乾燥重量1g当たり

に換算すると,290mg÷28.97≒10mgとなる。。また,サプリメント


の乾燥重量1g当たりの量を本願補正発明で特定された上限値の50mgとするた

めには,引用発明におけるその量を33倍してそれぞれ1650mgにしなければ

ならない(引用発明中のビタミンB6 ,B9 及びB12 をそれぞれ33倍した場合,各

ビタミンの量は50mg×33=1650mgとなり,引用発明におけるサプリメ

ント(栄養素)の量の合計は28.25+(1.650−0.05)×3=33.

05gとなるから,ビタミンB6,B9 及びB12 の各量をサプリメントの乾燥重量1

g当たりに換算すると,1650mg÷33.05≒50mgとなる。。しかしな


がら,引用発明におけるビタミンB6 ,B9 及びB12 の量をそれぞれ5.8倍ないし

33倍に増量しなければ,運動量の多いスポーツ選手のパフォーマンスが向上しな

いというような動機付けとなることも引用発明には一切記載されていない。

そうすると,引用発明におけるサプリメントの乾燥重量1g当たり1.77mg

であるビタミンB6 ,B9 及びB12 の量を,本願補正発明におけるビタミンB6 ,B

9 及びB12 の量であるサプリメントの乾燥重量1g当たり10〜50mgの範囲内
とすることについては,なお当業者であれば容易に想到できたということはできず,

他にこれが容易想到であるとの評価をするに足りる事実の存在を認めるべき証拠も

ない。

したがって,被告の上記主張も理由がない。

(2) 引用発明におけるサプリメント中の純カルボン酸の含有量の乾燥重量1g

当たりのビタミンB12 について

ア 証拠(甲3,6,9,10〜12)及び弁論の全趣旨によれば,本件補正の

経緯について,次の事実が認められる。

本件補正前の特許請求の範囲の請求項1(本願発明)におけるビタミン類につい

ての記載は,前記第2の2(1)のとおり,サプリメントの乾燥重量1g当たり10〜

50mgの量のビタミンB6 ,B9 及びB12 であって,「その量が少なくとも,前記

カルボン酸のCOOH基の代謝中に消費されうる量に相当する量のビタミンB12

及びB9 」であった。

しかし,
「その量が少なくとも,前記カルボン酸のCOOH基の代謝中に消費され

うる量に相当する量のビタミンB12 及びB9 」との上記記載では,ビタミンB12 及

びB9 の含有量が不明であり,特許請求の範囲の記載が不明確であるとの拒絶理由

が解消していないとして,平成22年3月15日付けで拒絶査定がされた。

そこで,原告らは,同年7月23日,拒絶査定に対する不服審判を請求するとと

もに,併せて同日付け手続補正書により,上記記載を,前記第2の2(2)のとおり,

「その量が少なくとも,前記カルボン酸のCOOH基の代謝中に消費されうる量に

相当する量のビタミンB12 及びB9 であって,ビタミンB6 ,B9 及びB12 の量が,

前記サプリメント中の純カルボン酸の含有量の乾燥重量1g当たりそれぞれ,0.

5〜30mg,0.1〜10mg,及び1〜1500μgの範囲であり」と補正し

た(本件補正)。

そして,原告らは,審判請求書の請求の理由の項を補正する平成22年9月16

日付け手続補正書において,本件補正について,(4)なお,拒絶査定の要点中の

『〔その量が少なくとも,前記カルボン酸のCOOH基の代謝中に消費されうる量に

相当する量のビタミンB12及びB9〕なる記載では,いぜんとしてビタミンB1

2及びB9の含有量が不明なため,請求項1に係る発明は明確でない。 との認定に


ついては,今般の補正により解消したものと思料いたします。(甲12・4頁)と


して,カルボン酸のCOOH基の代謝中に消費されうる量に相当する量のビタミン


B12 及びB9 」の量とは,「ビタミンB6 ,B 9及びB12 の量が,前記サプリメント

中の純カルボン酸の含有量の乾燥重量1g当たりそれぞれ,0.5〜30mg,0.

1〜10mg,及び1〜1500μgの範囲」であると理解できる説明をした。

イ 前記ア認定の事実によれば,本願補正発明における「その量が少なくとも,

前記カルボン酸のCOOH基の代謝中に消費されうる量に相当する量のビタミンB

12 及びB9 」とは,ビタミンB9 については,サプリメント中の純カルボン酸の含有

量の乾燥重量1g当たり0.1〜10mgの範囲であり,また,ビタミンB12 につ

いては,サプリメント中の純カルボン酸の含有量の乾燥重量1g当たり1〜150

0μgの範囲のことをいうものと認めるのが相当である。

原告らは,本願補正発明は,食品中のビタミン類の量をカルボン酸のCOOH基

の代謝中に消費され得る相当量に調整したことを最大の特徴とするものであると主

張するが,上記「相当量」とは,上記のとおり,ビタミンB9 及びビタミンB12 の

量が,サプリメント中の純カルボン酸の含有量の乾燥重量1g当たりそれぞれ,0.

1〜10mg,1〜1500μgの範囲であって,この範囲に含まれるビタミンB

12 及びB9 の量が,すなわち,原告らが主張するところの食品中のビタミン類の量

をカルボン酸のCOOH基の代謝中に消費され得る相当量に調整したものに該当す

ると理解できる。

ウ そこで,引用発明におけるサプリメント中の純カルボン酸の含有量の乾燥重

量1g当たりのビタミンB12 についてみると,引用発明中の,ビタミンB12 の含有

量を純カルボン酸であるクエン酸の含有量の乾燥重量1g当たりに換算すると,引

用発明では,ビタミンB12 は50mg配合され,かつ,クエン酸の乾燥重量は6.
25gであるから,50mg/6.25g=8mg/g,すなわち8000μg/g

となり,本願補正発明におけるビタミンB12 の量であるサプリメント中の純カルボ

ン酸の含有量の乾燥重量1g当たり1〜1500μgの範囲内にはない。

エ 被告は,この点について,引用発明におけるビタミンB12 のクエン酸の含有

量の乾燥重量1g当たりの量は8000μgであって,本願補正発明におけるビタミ

ンB12 の量であるサプリメント中の純カルボン酸の含有量の乾燥重量1g当たり

1〜1500μgの範囲内にはないが,@ビタミンB12 のヒトに対する通常の投与

量は,1日当たり約1〜1500μgであること(乙1,2),AビタミンB12 は,

水溶性で毒性がなく,過剰摂取しても問題がないこと(乙3),B一般に,ビタミン

B12 は吸収率が悪く,その吸収率は摂取量が増加するに従い低くなり,過剰摂取し

たビタミンB12 のほとんどは尿中に排出されること(乙4)は,いずれも上記乙号

証から明らかなように本願優先日前からの技術常識であるから,吸収率等の観点か

らビタミンB12 の必要以上の摂取を避け,最適化を図るべくある程度適切な摂取量

を配合させようとして,ヒトへ安全に投与することができるビタミンB12 の投与量

1日当たり約1〜1500μgを考慮し,それをクエン酸の含有量の乾燥重量1g

当たりに計算した1μg/6.25g〜1500μg/6.25g,すなわち,0.

16〜240μg/g程度とすることは,当業者が容易になし得たことである旨主

張する。

オ そこで,乙1及び乙2から,ビタミンB12 のヒトに対する通常の投与量が,

1日当たり約1〜1500μgであることが本願優先日当時の技術常識であると認

められるかについて検討する。

乙1には,ビタミンB12 は,ビタミンB1 ,アスコルビン酸(判決注;ビタミン

Cを意味する。,ビタミンB2 及びビタミンB6 や水分により不安定化されることが


記載され(前記3(1)ウ【従来の技術】,また,乙2には,ビタミンB12 類は,p


H,光,熱,水分などの影響により安定性が低下することや,ビタミンB1 ,ビタ

ミンB6 ,ビタミンC,ニコチン酸アミド(判決注;ビタミンB3 を意味する。)等
の他の薬物,金属イオンなどと共存するときに安定性が低下する旨記載されている

(前記3(2)ウ【従来の技術】)ことから,ビタミンB12 は他のビタミン類や水と共

存する場合に,その安定性が低下するという特性を有するものであることが認めら

れる。その上で,乙1には,ビタミンB12 にα化デンプン類を加え,セルロース系

高分子化合物又はアクリル系高分子化合物でコーティングすることにより,ビタミ

ンB2 又はB6 等の存在下でもビタミンB12 が安定で,残存率の低下のない組成物

が,乙1の請求項1に係る発明として記載され(前記3(1)ア【請求項1】及びキ【発

明の効果】,また,乙2には,ビタミンB12 を酒石酸カリウムナトリウムに含有さ


せることにより,保存中もビタミンB12 が安定に保持される組成物が,乙2の請求

項1に係る発明として記載されている(前記3(2)ア【請求項1】及びオ【課題を解

決するための手段および発明の効果】。


そうすると,乙1及び乙2における,ビタミンB12 のヒトに対する1日当たりの

通常の投与量約1〜1500μgとの記載(前記3(1)カ,前記3(2)カ)は,いず

れも,ビタミンB12 が何らかの方法で安定化されている組成物をヒトに投与する場

合のビタミンB12 の量を示しているものであって,このように投与するビタミンB

12 が安定化されているという条件の下において,ヒトに対する1日当たりの通常の

投与量を約1〜1500μgとしているものである。

しかしながら,乙1及び乙2によって,本願優先日当時,投与されるビタミンB

12 が安定化されているという条件の下において,ヒトに対する1日当たりの通常の

投与量が約1〜1500μgであることが公知技術であったことが認められるとし

ても,それ以上に,これが本願優先日当時の当業者の技術常識であったことまでは

認めるに足りず,他に当該事項が本願優先日当時の技術常識であったことを認める

に足りる証拠はない。したがって,ビタミンB12 のヒトに対する通常の投与量は1

日当たり約1〜1500μgであることが本願優先日当時の技術常識であることを

前提として,引用発明に当該技術常識を適用し,それをクエン酸の含有量の乾燥重

量1g当たりに計算した1μg/6.25g〜1500μg/6.25g,すなわ
ち,0.16〜240μg/g程度とすることは容易になし得たとする被告の前記

エの主張は,前提を欠くものであり,失当である。

カ この点を措いても,引用発明は,前記1(2)のとおり,「以下の栄養素を1L

(判決注;下線は判示に当たり当裁判
の水に溶かした状態の飲料及び栄養補助食品」

所において付した。)であり,また,ビタミンB1 ,ビタミンB2,ビタミンB3 ,ビ

タミンB6 ,ビタミンCを含有し,さらに,水に溶けて金属イオンを供給するクエ

ン酸第一鉄及び硫酸マグネシウムを含むものである。そして,水を含めこれらの成

分は,前記オの乙1及び乙2の記載によれば,ビタミンB12 を不安定化する成分で

あるところ,引用発明にはビタミンB12 の安定化について何らの記載もない。

このように,引用発明においては,ビタミンB12 の安定化について何らの記載も

ない以上,そこに含有されるビタミンB12 は,安定化されておらず,保存中にビタ

ミンB12 を不安定化する成分によって分解等を受け,その残存率が低下するものと

認められる。そうすると,投与するビタミンB12 が安定化されているとの条件の下

においてヒトへの1日当たりのビタミンB12の投与量を約1〜1500μgとす

る乙1及び乙2の技術事項を,ビタミンB12 が安定化されていない引用発明に直ち

に適用することは困難である。したがって,引用発明の目的を達成するために必要

十分な各栄養素の摂取量や配合比を詳細に検討し最適化を図った場合,ビタミンB

12 の量が,必ず,本願補正発明の発明特定事項であるサプリメント中の純カルボン

酸の含有量の乾燥重量1g当たり1〜1500μgの範囲内となるということはで

きない。

(3) 小括

以上のとおりであるから,引用発明におけるビタミンB6 ,B9 及びB12 の量を,

本願補正発明の「サプリメントの乾燥重量1g当たり10〜50mgの量」とする

こと,並びに引用発明におけるビタミンB12の量を,本願補正発明の「サプリメン

ト中の純カルボン酸の含有量の乾燥重量1g当たり…1〜1500μgの範囲」内

とすることは,設計事項の範囲であるとはいえず,当業者において適宜なし得たと
いうことはできない。

したがって,相違点2を容易想到とした本件審決の判断は誤りであり,原告らの

主張する取消事由1には理由がある。

6 結論

以上によれば,原告ら主張の取消事由1は理由があるから,取消事由2について

検討するまでもなく,本件審決は取消しを免れない。

よって,主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第4部



裁判長裁判官 富 田 善 範




裁判官 大 鷹 一 郎




裁判官 田 中 芳 樹