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事件 平成 25年 (行ケ) 10066号 審決取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2013/11/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成25年11月28日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

平成25年(行ケ)第10066号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 平成25年11月7日

判 決

原 告 三菱レイヨン株式会社

訴訟代理人弁理士 寺 本 光 生

同 柳 井 則 子

同 川 越 雄 一 郎

被 告 特 許 庁 長 官

指 定 代 理 人 大 島 祥 吾

同 田 口 昌 浩

同 塩 見 篤 史

同 瀬 良 聡 機

同 山 田 和 彦

主 文

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

特許庁が不服2010−24894号事件について平成25年1月22日に

した審決を取り消す。

第2 事案の概要

1 特許庁における手続の経緯等

(1) 原告は,発明の名称を「脂肪族ポリエステル樹脂組成物及びそれを用いた

成形品」とする発明について,平成16年8月19日,特許出願(特願20

04−239974号。以下「本願」という。)をした。




原告は,平成22年5月31日付けの拒絶理由通知を受けたため,同年7

月30日付けで本願の願書に添付した特許請求の範囲等を変更する手続補正

をしたが(以下,この手続補正後の明細書を「本願明細書」という。),同

年8月20日付けの拒絶査定を受けた。

そこで,原告は,同年11月5日,拒絶査定不服審判を請求した。

(2) 特許庁は,上記請求を不服2010−24894号事件として審理し,平

成24年10月5日付けで拒絶理由通知をした後,平成25年1月22日,

「本件審判の請求は,成り立たない。 との審決
」 (以下「本件審決」という。)

をし,同年2月7日,その謄本が原告に送達された。

(3) 原告は,平成25年3月8日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起

した。

2 特許請求の範囲の記載

本願の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,請求

項1に係る発明を「本願発明」という。)。

「【請求項1】

(A)脂肪族ポリエステルと,(B)カルボキシル基含有重合体を含むポリ

ブタジエンゴム系グラフト共重合体とを含有する脂肪族ポリエステル樹脂組成

物であって,

(B)カルボキシル基含有重合体を含むポリブタジエンゴム系グラフト共重

合体が,ポリブタジエンからなるコア層に,ビニル系単量体をグラフト重合し

て得られるグラフト共重合体であり,グラフト重合前,グラフト重合中又はグ

ラフト重合後のいずれかに,カルボキシル基含有重合体を添加することにより

得られるグラフト共重合体である,脂肪族ポリエステル樹脂組成物。」

3 本件審決の理由の要旨

(1) 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,

本願発明は,本願の出願前に頒布された刊行物である特開2003−286




396号公報(甲1。以下「刊行物1」という。)に記載された発明及び特

開2003−261629号公報(甲2。以下「刊行物2」という。)に記

載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたもので

あるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができず,本願

は拒絶すべきものであるというものである。

(2) 本件審決が認定した刊行物1に記載された発明(以下「引用発明」とい

う。),本願発明と引用発明の一致点及び相違点は,以下のとおりである。

ア 引用発明

「脂肪族ポリエステルと多層構造重合体とを含有する脂肪族ポリエステ

ル樹脂組成物」に係る発明

イ 本願発明と引用発明の一致点

「脂肪族ポリエステルと,重合体とを含有する脂肪族ポリエステル樹脂

組成物」である点。

ウ 本願発明と引用発明の相違点

「重合体」が,本願発明は「カルボキシル基含有重合体を含むポリブタ

ジエンゴム系グラフト共重合体が,ポリブタジエンからなるコア層に,ビ

ニル系単量体をグラフト重合して得られるグラフト共重合体であり,グラ

フト重合前,グラフト重合中又はグラフト重合後のいずれかに,カルボキ

シル基含有重合体を添加することにより得られるグラフト共重合体」であ

るのに対し,引用発明は「多層構造重合体」である点。

第3 当事者の主張

1 原告の主張

(1) 取消事由1(相違点の容易想到性の判断の誤り)

本件審決は,刊行物1記載の「耐熱性」と刊行物2記載の「耐熱性」とが

同義ないしは密接に関連するものであり,刊行物1及び2の課題が同一であ

ること,刊行物2のグラフト共重合体の添加対象樹脂は,刊行物1の多層構




造重合体の添加対象樹脂である「脂肪族ポリエステル」を含むことを認定し

た上で,刊行物2に記載された技術事項に接した当業者は,組成物の耐熱性

を維持したまま,より衝撃強度の向上した組成物を得ることを目的として,

刊行物1記載の熱可塑性樹脂であるポリ乳酸に配合されている多層構造重合

体に代えて,刊行物2記載の多層構造を有するグラフト共重合体を熱可塑性

樹脂であるポリ乳酸に配合することに格別の困難性があったということはで

きず,この相違点に係る事項は当業者が容易になし得たものといえる旨判断

した。

しかしながら,以下に述べるとおり,刊行物1記載の多層構造重合体に代

えて刊行物2記載の多層構造を有するグラフト共重合体を熱可塑性樹脂であ

るポリ乳酸に配合する動機付けがあるものとはいえないから,本件審決の判

断は誤りである。

ア 「耐熱性」に関する認定の誤り

刊行物1記載の「耐熱性」とは,ASTM D648に準じて,12.

7mm×6.4mm×127mmの試験片について,荷重0.45MPa

で測定した熱変形温度(甲1の段落【0059】)で評価される特性であ

る「熱変形性」を意味する。この熱変形温度は,基本的には,樹脂組成物

の主成分となる樹脂(添加対象樹脂)のガラス転移点に依存する特性であ

る(同段落【0005】)。

これに対して刊行物2の「耐熱性」とは,「賦型ペレットを140℃ギ

アオーブンにて10時間静置した後の着色の状態」(甲2の段落【005

5】)を指標とする特性である熱着色性を意味する。刊行物2の組成物は,

耐衝撃性改良剤を肥大化剤により肥大化(粒子径を大きくすること)によ

り耐衝撃性改良効果を高めたものであるが,この肥大化剤の使用に起因し

て発生する「熱着色性」の問題について,肥大化剤を「酸基含有共重合体」

としたことにより改善したものである。




このように刊行物1記載の「耐熱性」は「熱変形性」であるのに対し,

刊行物2記載の「耐熱性」は「熱着色性」であり,両者は全く異なる特性

を意味し,また,熱変形温度を左右する主要因子と熱着色性を左右する因

子は全く別個のものであるから,両者の間には何らの相関関係も存在しな

い。

したがって,刊行物1の記載から,熱的特性として把握できるのは熱変

形性のみであり,熱変形性以外の特性を含む上位概念としての「耐熱性」

の概念を把握することはできないし,同様に,刊行物2の記載から,熱的

特性として把握できるのは熱着色性のみであり,熱着色性以外の特性を含

上位概念としての「耐熱性」の概念を把握することはできないから,刊

行物1記載の「耐熱性」と刊行物2記載の「耐熱性」とが同義ないしは密

接に関連し,刊行物1及び2の課題が同一であるとした本件審決の認定は,

誤りである。

イ 「添加対象樹脂」に関する認定の誤り

刊行物に記載された発明は,本願出願時の技術常識参酌した上で,当

該刊行物の記載全体から当業者が把握できる発明である。この観点からみ

ると,刊行物1及び2記載の添加対象樹脂は,次のように理解すべきであ

る。

まず,刊行物1の記載(甲1の請求項1,8ないし10,段落【000

2】,【0003】,【0005】,【0007】,【0059】,【0

063】の表1,【0068】の表2の実施例9,【0071】)によれ

ば,刊行物1の耐衝撃性改良剤である「多層構造重合体」の添加対象樹脂

は,生分解性という利点を有するものの,熱変形しやすく,添加剤を工夫

しても120℃程度の熱変形温度しか得られず,熱変形温度を120℃ま

で高めた場合には90J/mの衝撃強度しか得られない「脂肪族ポリエス

テル」であると理解できる。




次に,刊行物2の記載(甲2の請求項1,13,段落【0002】ない

し【0005】,【0010】,【0054】,【0055】,【009

5】の表2の組成物1−1,1−2,1−3,2−1,4−1,4−2,

4−3,【0096】)によれば, 刊行物2のグラフト共重合体の添加対

象樹脂は,「ポリエステル樹脂を含む熱可塑性樹脂」であるが,全ての「

熱可塑性樹脂」あるいは全ての「ポリエステル樹脂」ではなく,140℃

前後の高温環境下でも使用でき,かつ,730〜830J/m程度の高い

衝撃強度を要する樹脂組成物とすることが可能な樹脂,いわゆるエンジニ

アリングプラスチックになり得る樹脂であると理解できる。

しかるところ,刊行物1の添加対象樹脂である「脂肪族ポリエステル」

は,上記のとおり,生分解性という利点を有するものの,熱変形しやすく,

衝撃強度も低いのであるから,当業者は,脂肪族ポリエステルにエンジニ

アプラスチック並の耐衝撃性を求めることはない。耐衝撃性改良効果の向

上には耐衝撃性改良材の肥大化が有効であるが,刊行物1では耐衝撃性改

良材の肥大化を行っておらず,また,140℃という高温環境下での熱着

色性が問題とされることもない。このように刊行物1の添加対象樹脂と刊

行物2の添加対象樹脂とでは,樹脂組成物に対する要求が全く異なり,両

者の技術分野は明確に異なる。

したがって,刊行物2のグラフト共重合体の添加対象樹脂は,刊行物1

の添加対象樹脂である「脂肪族ポリエステル」を実質的に含まないという

べきであるから,これを含むとした本件審決の認定は誤りである。

容易想到性の判断の誤り

前記アのとおり,刊行物1記載の「耐熱性」は「熱変形性」であるのに

対し,刊行物2記載の「耐熱性」は「熱着色性」であり,両者は全く異な

る特性を意味し,両者の間には何らの相関関係も存在しないから,刊行物

1及び2の課題が同一であるとはいえない。そして,ブタジエン系グラフ




ト共重合体のようなゴム状ポリマーは,一般的には熱変形温度を低下させ

る傾向があることが技術常識であるが(甲1の段落[0005]),刊行

物2には熱変形性に関する記載及びデータが一切ない。

そうすると,刊行物1記載の多層構造重合体に代えて刊行物2記載の多

層構造を有するグラフト共重合体を採用した場合に,耐熱性(熱変形性)

と耐衝撃性を両立できるとの予測をすることは,刊行物2を参照しても不

可能であるから,本件審決がいう「組成物の耐熱性を維持したまま,より

衝撃強度の向上した組成物を得ること」は,引用発明において刊行物2記

載の多層構造を有するグラフト共重合体を採用する動機付けにはならな

い。

次に,前記イのとおり,刊行物2のグラフト共重合体の添加対象樹脂は,

刊行物1の添加対象樹脂である「脂肪族ポリエステル」を実質的に含まな

いから,刊行物1の「脂肪族ポリエステル」が刊行物2の「ポリエステル

樹脂を含む熱可塑性樹脂」に文言上含まれることは,引用発明において刊

行物2記載の多層構造を有するグラフト共重合体を採用する動機付けには

ならない。

さらに,刊行物1の「多層構造重合体」は,各層の組成及び層の数がい

ずれも限定されない非常に広範囲な概念であるにもかかわらず(ゴム層の

組成の例示として甲1の段落【0019】,ゴム層以外の組成の例示とし

て同段落【0020】),刊行物1には,刊行物2の「グラフト共重合体」

に該当する多層構造体の記載はない。

そうすると,刊行物1の「多層構造体」と刊行物2の「グラフト共重合

体」が共に多層構造である点で共通するというだけでは,引用発明におい

て刊行物2記載の多層構造を有するグラフト共重合体を採用する動機付け

にはならない。

以上によれば,刊行物1及び2に接した当業者において,刊行物1記載




の多層構造重合体に代えて刊行物2記載の多層構造を有するグラフト共重

合体を熱可塑性樹脂であるポリ乳酸に配合する動機付けがあったものとは

いえないから,引用発明において本願発明の相違点に係る事項を当業者が

容易になし得たとした本件審決の判断は誤りである。

(2) 取消事由2(本願発明の顕著な効果の看過)

本件審決は,本願発明においても,実施例9と比較例4とを比較すると,

耐熱性はほぼ同じであって,グラフト共重合体の有無により耐熱性が左右さ

れるものではないから,本願発明の効果が格別予想外のものであるとはいえ

ない旨判断した。

しかしながら,以下に述べるとおり,本願発明は顕著な効果を奏するから,

本件審決には,本願発明の顕著な効果を看過した判断の誤りがある。

ア ゴム状ポリマーである耐衝撃性改良剤を耐衝撃性改良のために樹脂組成

物に配合すると,熱変形温度が低下する傾向にあることは,本願出願時の

技術常識(以下「本件技術常識」という。)であった(例えば,甲1の段

落【0004】,【0005】,甲11ないし15等)。

しかるところ,本願明細書(甲3)記載の本願発明の実施例9(段落【

0075】の表3,別紙1参照)における熱変形温度(110℃)が,グ

ラフト共重合体を用いていない比較例4の熱変形温度(105℃)と比べ

て5℃上回っていることは,本願発明のカルボキシル基含有重合体で肥大

化したグラフト共重合体を添加すると,本件技術常識に反し,かえって熱

変形温度が上昇することを示したものである。

また,本願明細書記載の比較例5と比較例4とを対比すると,脂肪族ポ

リエステルに,本願発明のカルボキシル基含有重合体で肥大化したグラフ

ト共重合体以外のグラフト共重合体を添加すると,熱変形温度が20℃も

低下することが分かる。

さらに,原告作成の平成25年4月2日付け実験成績証明書(甲17)




によれば,刊行物2の実施例で使用された添加対象樹脂であるポリカーボ

ネートに対してグラフト共重合体を添加した場合に,熱変形温度が低下す

る傾向にあるという本件技術常識が妥当すること,添加対象樹脂がポリカ

ーボネートの場合,グラフト共重合体に用いられるブタジエン系ゴム重合

体が肥大化されているか否かは,熱変形温度の低下に影響しないことなど

が確認された。

以上によれば,グラフト共重合体を用いることにより,本件技術常識

反し,かえって熱変形温度が上昇するという効果は,脂肪族ポリエステル

とカルボキシル基含有重合体で肥大化したグラフト共重合体とを組み合わ

せるという本願発明の構成を採用することにより,初めて得られる特異的

な効果であるといえる。このような特異的な効果は,脂肪族ポリエステル

を用いているが,本願発明のグラフト共重合体を用いていない引用発明と,

本願発明のグラフト共重合体を用いているが,脂肪族ポリエステルを用い

ていない刊行物2記載の技術事項から当業者が予測することができないも

のである。

イ これに対し本件審決は,本願明細書には,本願発明の実施例9ないし1

2における耐熱性は,熱変形温度が95℃ないし125℃までの範囲で示

されているところ,比較例4の105℃は,その範囲内のものであるから,

本願発明の耐熱性と比較例4の耐熱性との間に格別な効果の差があるとは

いえない旨判断した。

しかしながら,結晶核剤と充填剤は,耐熱性(熱変形温度)に影響を与

えるが(甲3の段落【0040】,【0045】),熱変形温度が95℃

である実施例11及び12では,比較例4では使用されていない充填剤(

「E−2」)が用いられ,さらに,実施例12では,結晶核剤も比較例4

のものと異なっている(比較例4ではD−1,実施例12ではD−2)。

実施例11及び12の耐熱性は,少なくとも充填剤の影響を受けたものと




いえるから,これを比較例4における耐熱性と対比して評価することは不

当である。

したがって,比較例4における耐熱性が105℃であることは,本願発

明が顕著な効果を奏することを否定する根拠とはなり得ない。

ウ 以上のとおり,本願発明の奏する効果は当業者が予測することができな

い顕著なものであるにもかかわわらず,これを否定した本件審決の判断は

誤りである。

(3) まとめ

以上によれば,刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された技術

事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとした本件審決の判

断は誤りであり,本件審決は,違法であるから,取り消すべきものである。

2 被告の主張

(1) 取消事由1に対し

ア 「耐熱性」に関する認定の誤りについて

刊行物1及び2には,それぞれ一貫して「耐熱性」という用語のみが使

用され,特定の特性に着目した耐熱性であることの明示的な記載はない。

また,耐熱性を確認する方法が多く存在する場合に,その全てではなく,

代表的な方法により耐熱性を確認することは通常行われていることである

から,単に「耐熱性」と記載する場合に,具体的に用いた方法により確認

される特性に係る耐熱性に限定して解釈することは合理的ではない。

そして,刊行物1の実施例では「耐熱性」を確認するために「熱変形温

度を測定」し,刊行物2の実施例では「耐熱性」を確認するために「着色

の状況を判定」するものであるが,熱変形性と熱着色性とが両立し得ない

特性であるという技術常識が示されているわけではないから,実施例で具

体的に用いた耐熱性を確認する方法が異なることをもって,刊行物1にお

ける「耐熱性」を熱変形性と,刊行物2における「耐熱性」を熱着色性と




限定的に解釈する根拠とはならない。

したがって,本件審決における「耐熱性」に関する認定に原告主張の誤

りはない。

イ 「添加対象樹脂」に関する認定の誤りについて

(ア) 原告は,引用発明における添加対象樹脂は,熱変形しやすく,添加

剤を工夫しても120℃程度の熱変形温度しか得られず,熱変形温度を

120℃まで高めた場合には90J/mの衝撃強度しか得られない脂肪

族ポリエステルである旨主張する。

しかしながら,刊行物1の記載(甲1の請求項1の「(A)脂肪族ポ

リエステル」との記載,段落【0009】等)によれば,刊行物1の添

加対象樹脂である脂肪族ポリエステルは特に限定されるものではない。

原告の主張は刊行物1の実施例9の記載を根拠とするものと解される

が,刊行物1記載の脂肪族ポリエステルを一つの実施例に基づいて限定

的に解釈すべき理由はない。

したがって,原告の上記主張は失当である。

(イ) 次に,原告は,刊行物2における添加対象樹脂は,140℃前後の

高温環境下でも使用でき,730〜830J/m程度の高い衝撃強度を

有する樹脂組成物,いわゆるエンジニアリングプラスチックになり得る

樹脂である旨主張する。

しかしながら,刊行物2の記載(甲2の請求項14の「1種以上の熱

可塑性樹脂」との記載,段落【0042】)によれば,刊行物2記載の

グラフト共重合体を添加する添加対象樹脂は,特に限定されない熱可塑

性樹脂と解するのが自然である。原告の主張は刊行物2の実施例の記載

を根拠とするものと解されるが,刊行物2の記載事項を実施例のみに基

づいて限定的に解釈すべき理由はない。

また,刊行物2には,「エンジニアリングプラスチック」なる記載は




ない。

したがって,原告の上記主張は失当である。

(ウ) 以上によれば,本件審決における「添加対象樹脂」に関する認定に

原告主張の誤りはない。

容易想到性の判断の誤りについて

前記アのとおり,刊行物1及び2にそれぞれ一貫して「耐熱性」という

記載が存在することは,両刊行物に記載された技術的事項を組み合わせる

十分な動機付けとなるといえる。

そして,刊行物1の記載(甲1の請求項1及び8,段落【0032】,

【0033】)から,多層構造重合体を配合することにより組成物の耐熱

性を維持したまま,より衝撃強度の向上した組成物が得られることが理解

できる。また,刊行物2には,酸基含有共重合体によって肥大化されたブ

タジエン系グラフト共重合体が,耐熱性を損なわず,耐衝撃性を付与でき

る旨の記載がある(甲2の請求項1,段落【0001】,【0010】)。

そうすると,刊行物1及び2に接した当業者においては,引用発明にお

いて耐熱性と耐衝撃性を両立するために,多層構造重合体として刊行物2

記載のグラフト共重合体を採用することに十分な動機付けがあるといえ

る。

したがって,引用発明において本願発明の相違点に係る事項を当業者が

容易になし得たとした本件審決の判断に誤りはないから,原告主張の取消

事由1は理由がない。

(2) 取消事由2に対し

刊行物1(甲1)の段落【0068】の【表2】には,耐衝撃性改良剤で

ある「B:多層構造重合体」の添加の有無においてのみ相違する実施例7と

比較例8とをみると,両者は同一の耐熱性(105℃)であることが示され

ている。このように耐衝撃性改良剤としてのゴム状ポリマーを添加した場合




であっても,熱変形温度は低下しない場合もあり,原告の主張する本件技術

常識が妥当しない場合があることは明らかである。

また,原告主張の実験成績証明書(甲17)は,刊行物2の実施例の添加

対象樹脂について実施例では測定していない事項の事後的な結果を示したも

のにすぎず,刊行物2に記載された事項ではない。しかも,刊行物2には,

添加対象樹脂である「熱可塑性樹脂(A)は特に限定されず」と記載されて

いるのであるから,上記実験成績証明書は,刊行物1の脂肪族ポリエステル

樹脂に刊行物2のグラフト共重合体を組み合わせた場合の効果が当業者の予

測を超えるものであることを裏付けるものとはいえない。

さらに,本願明細書の実施例9と刊行物1の実施例7とを比較すると,ポ

リ乳酸100重量部,結晶核剤26重量部及び可塑剤3重量部とする同一組

成において,前者は,グラフト共重合体20重量部を加えた場合の耐熱性が

110℃であったことを,後者は,多層構造重合体23重量部を加えた場合

の耐熱性が105℃であったことを示している。一方,刊行物1には,刊行

物1の実施例9において多層構造重合体23重量部を添加するとともに,充

填剤を添加することにより120℃の耐熱性を達成していることの記載があ

り(甲1の段落【0068】の【表2】),また,耐熱性が向上するという

観点から,「結晶核剤」,「充填剤」及び「可塑剤」を含有すること添加す

ることが好ましいとの記載がある(同段落【0033】,【0039】,【

0043】)。これらの記載は,刊行物1記載の脂肪族ポリエステル樹脂組

成物の耐熱性は,かかる組成物を構成する成分を適宜調整することにより変

わり得ることを示すとともに,適宜調整をした結果として,刊行物1記載の

脂肪族ポリエステル樹脂組成物にあっては120℃の耐熱性を達成したこと

を示すものといえる。

そうすると,原告の主張する本願明細書の実施例9の効果である110℃

の耐熱性は,刊行物1において既に達成している120℃の耐熱性の記載か




らみて,当業者が予測し得る程度のものといえる。

したがって,本願発明の奏する効果は当業者が予測することができない顕

著なものであるとはいえないから,原告主張の取消事由2は理由がない。

(3) まとめ

以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,刊行物1に記

載された発明及び刊行物2に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に

発明をすることができたとした本件審決の判断に誤りはない。

第4 当裁判所の判断

1 取消事由1(相違点の容易想到性の判断の誤り)について

(1) 本願明細書の記載事項等

ア 本願発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載は,前記第2の2のとお

りである。

イ 本願明細書(甲3,4)の「発明の詳細な説明」には,次のような記載

がある(下記記載中に引用する「表1」ないし「表3」については別紙1

を参照)。

(ア) 「【技術分野】本発明は,耐衝撃性および低温強度に優れる脂肪族

ポリエステル樹脂組成物,さらに耐熱性にも優れる脂肪族ポリエステル

樹脂組成物およびそれからなる成形品に関するものである。」(段落【

0001】)

(イ) 「【背景技術】最近,地球環境保全の見地から,土中,水中に存在

する微生物の作用により自然環境下で分解される生分解性ポリマーが注

目され,様々な生分解性ポリマーが開発されている。これらのうち溶融

成形が可能な生分解性ポリマーとして,…などの脂肪族ポリエステルが

知られている。」(段落【0002】)

「脂肪族ポリエステルの中でも,ポリ乳酸は,比較的コストが安く,

融点もおよそ170℃と高く,溶融成形可能な生分解性ポリマ−として




期待されている。また,最近ではモノマーである乳酸が微生物を利用し

た発酵法により安価に製造されるようになり,より一層低コストでポリ

乳酸を生産できるようになってきたため,生分解性ポリマーとしてだけ

でなく,汎用ポリマーとしての利用も検討されるようになってきた。し

かし,その一方で,耐衝撃性や柔軟性が低いなどの物性的な欠点を有し

ており,その改良が望まれている。」(段落【0003】)

「一般に,樹脂の耐衝撃性を改良するために,オレフィン共重合体な

どのゴム状ポリマーをブレンドすることは知られており,ポリ乳酸にお

いても,変性オレフィン化合物を添加する方法(例えば,特許文献1お

よび2参照)が知られているが,これらの方法では,耐衝撃性改良効果

が不十分であり,さらなる改善が必要とされている。」(段落【000

4】)

「また,ポリ乳酸樹脂は,ガラス転移温度が60℃であり,それ以上

の温度では剛性が急激に低下するため,成形品として使用する場合には,

60℃以上の高温での熱変形が大きくなるという性質を有しており,ゴ

ム状ポリマーをブレンドすることによりさらに熱変形が大きくなり耐熱

性が低下するため実用的でないという問題もある。」(段落【0005

】)

(ウ) 「【発明が解決しようとする課題】本発明は,上述した従来技術に

おける問題点の解決を課題として検討した結果,達成されたものであり,

その目的とするところは,耐衝撃性および低温強度に優れる脂肪族ポリ

エステル樹脂組成物,さらに耐熱性にも優れる脂肪族ポリエステル樹脂

組成物およびそれからなる成形品を提供することにある。」(段落【0

007】)

(エ) 「【課題を解決するための手段】本発明の要旨は,(A)脂肪族ポ

リエステルと,(B)カルボキシル基含有重合体を含むポリブタジエン




ゴム系グラフト共重合体とを含有する脂肪族ポリエステル樹脂組成物で

あって,(B)カルボキシル基含有重合体を含むポリブタジエンゴム系

グラフト共重合体が,ポリブタジエンからなるコア層に,ビニル系単量

体をグラフト重合して得られるグラフト共重合体であり,グラフト重合

前,グラフト重合中又はグラフト重合後のいずれかに,カルボキシル基

含有重合体を添加することにより得られるグラフト共重合体である,脂

肪族ポリエステル樹脂組成物にある。」(段落【0008】)

(オ) 「【発明の効果】本発明によれば,耐衝撃性に優れ,さらには低温

強度,耐熱性にも優れる脂肪族ポリエステル樹脂組成物および成形品を

提供することができる。」(段落【0009】)

(カ) 「【発明を実施するための最良の形態】本発明に使用する(A)脂

肪族ポリエステルとしては,特に限定されるものではなく,脂肪族ヒド

ロキシカルボン酸を主たる構成成分とする重合体,脂肪族多価カルボン

酸と脂肪族多価アルコールを主たる構成成分とする重合体などが挙げら

れる。具体的には,…などが挙げられる。これらの脂肪族ポリエステル

は,単独ないし2種以上を用いることができる。これらの脂肪族ポリエ

ステルの中でも,ヒドロキシカルボン酸を主たる構成成分とする重合体

が好ましく,特にポリ乳酸が好ましく使用される。ポリ乳酸としては,

L−乳酸および/またはD−乳酸を主たる構成成分とする重合体である

が,本発明の目的を損なわない範囲で,乳酸以外の他の共重合成分を含

んでいてもよい。」(段落【0010】)

「(A)脂肪族ポリエステルの融点は,特に限定されるものではなく,

90℃以上であることが好ましく,さらに150℃以上であることが好

ましい。」(段落【0015】)

(キ) 「本発明においては,(B)カルボキシル基含有重合体を含むポリ

ブタジエンゴム系グラフト共重合体を使用する。ポリブタジエンゴム系




グラフト共重合体は,ポリブタジエンからなるコア層に,ビニル系単量

体をグラフト重合して得られるグラフト共重合体であり,グラフト重合

前,グラフト重合中又はグラフト重合後のいずれかに,カルボキシル基

含有重合体を添加することにより,(B)カルボキシル基含有重合体を

含むポリブタジエンゴム系グラフト共重合体を得ることができる。」(

段落【0016】)

「ポリブタジエンゴム系グラフト共重合体を構成するグラフト層の数

は,特に限定されるものではなく,1層以上であればよく,2層以上ま

たは3層以上であってもよい。グラフト重合を三段グラフト重合で行う

場合,グラフト一段目はメタクリル酸アルキルエステルを主成分とする

単量体を重合することで,耐衝撃性の向上させるとともに,脂肪族ポリ

エステル樹脂との相溶性を向上させることができる。グラフト二段目は

芳香族ビニル化合物を含む単量体を重合することで,グラフト共重合体

の流動性を向上させる。グラフト三段目は,メタクリル酸アルキルエス

テルを主成分とする単量体を重合することで,得られる脂肪族ポリエス

テル樹脂組成物の表面の艶を向上させる効果がある。」(段落【001

7】)

「グラフト共重合体に含まれる酸基含有共重合体としては,アルキル

アクリレートとアルキルアクリレートと共重合可能な少なくとも1種以

上の不飽和酸単量体とを重合して得られる共重合体であることが好まし

い。…」(段落【0020】)

「カルボキシル基含有重合体を製造する際に留意しなければならない

のは,重合に用いる乳化剤の選定である。…乳化剤の種類によって著し

く肥大化能力が異なる。この様な観点から,陰イオン界面活性剤が好ま

しい。また,同様の観点から,リン酸エステル塩,アルキルスルホコハ

ク酸塩以外の陰イオン界面活性剤が好ましい。」(段落【0023】)




「本発明においては,前述したカルボキシル基含有重合体を含むラテ

ックスを,ポリブタジエンゴム系グラフト共重合体のコアをなすブタジ

エンゴム重合体ラテックスに少量添加すると,ブタジエンゴム重合体の

十分な肥大化を達成できる。適当な条件を選べば固形分として0.01

質量%の酸基含有共重合体を添加することで,ブタジエン系ゴム重合体

粒子の粒子径が2倍以上に肥大化する場合もあり,0.5質量%添加す

ることにより,70nmの粒子径を300nm以上に肥大化させること

もできる。」(段落【0024】)

「ブタジエンゴム重合体粒子を酸基含有共重合体により肥大化して得

られるラテックスに,芳香族ビニル,メタクリル酸アルキルエステル及

びアクリル酸アルキルエステル等の1種以上を含むビニル系単量体また

は単量体混合物をグラフト重合することにより,(B)カルボキシル基

含有重合体を含むポリブタジエンゴム系グラフト共重合体を得ることが

できる。」(段落【0026】)

(ク) 「本発明においては,(A)脂肪族ポリエステル中に,(B)カル

ボキシル基含有重合体を含むポリブタジエンゴム系グラフト共重合体B

が細かく分散し,分散状態が良好なものほど耐衝撃性を向上させる効果

が大きい。」(段落【0039】)

「本発明においては,耐熱性が向上するという観点から,さらに結晶

核剤を配合することが好ましい。本発明で使用する結晶核剤としては,

一般にポリマーの結晶核剤として用いられるものを特に制限なく使用す

ることができ,無機系結晶核剤および有機系結晶核剤のいずれをも使用

することができる。」(段落【0040】)

「本発明においては,耐熱性が向上するという観点から,さらに無機

系結晶核剤以外の充填剤を配合することが好ましい。本発明で使用する

無機系結晶核剤以外の充填剤としては,通常熱可塑性樹脂の強化に用い




られる繊維状,板状,粒状,粉末状のものを用いることができる。…」

(段落【0045】)

「本発明においては,耐熱性が向上するという観点から,さらに可塑

剤を配合することが好ましい。本発明で使用する可塑剤としては,一般

にポリマーの可塑剤として用いられるものを特に制限なく用いることが

でき,例えばポリエステル系可塑剤,グリセリン系可塑剤,多価カルボ

ン酸エステル系可塑剤,ポリアルキレングリコール系可塑剤及びエポキ

シ系可塑剤などを挙げることができる。」(段落【0047】)

(ケ) 「本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物の製造方法は,特に限定

されるものではなく,例えば,(A)脂肪族ポリエステル,(B)カル

ボキシル基含有重合体を含むポリブタジエンゴム系グラフト共重合体,

結晶核剤,充填剤,可塑剤および必要に応じてその他の添加剤を予めブ

レンドした後,融点以上において,一軸または二軸押出機で,均一に溶

融混練する方法や溶液中で混合した後に溶媒を除く方法などが好ましく

用いられる。」(段落【0058】)

「本発明において,得られた組成物は,通常公知の射出成形,押出成

形などの任意の方法で成形することができ,あらゆる形状の成形品とし

て広く用いることができる。成形品とは,フィルム,シート,繊維・布,

不織布,射出成形品,押出し成形品,真空圧空成形品,ブロー成形品,

または他の材料との複合体などであり,自動車用資材,電機・電子機器

用資材,農業用資材,園芸用資材,漁業用資材,土木・建築用資材,文

具,医療用品またはその他の用途として有用である。」(段落【005

9】)

(コ) 「【実施例】以下実施例により本発明を説明する。

各種評価,成形は以下の方法で行った。…

(3)アイゾット衝撃強度




ASTMに準拠して,23℃および0℃におけるアイゾット衝撃強度を

評価した。

(4)耐熱性

ASTM D648に準じて,12.7mm×6.4mm×127mmの

試験片の熱変形温度(荷重0.45MPa)を測定した。…」(段落【

0060】),

「(製造例1) ブタジエン系ゴム重合体ラテックス(b1)の製造

以下の物質を70Lオートクレーブに仕込み,昇温して43℃となった

時点で,レドックス系開始剤をオートクレーブ内に添加し反応を開始後,

更に60℃まで昇温した。

1,3−ブタジエン 100部

t−ドデシルメルカプタン 0.4部

ロジン酸カリウム 0.75部

オレイン酸カリウム 0.75部

ジイソプロピルベンゼンパーオキサイド 0.24部

脱イオン水 70部

レドックス系開始剤

硫酸第一鉄 0.003部

デキストローズ 0.3部

ピロリン酸ナトリウム 0.3部

脱イオン水 5部

重合開始から8時間反応させて,ブタジエン系ゴム重合体ラテックス

(b1)を得た。得られたブタジエン系ゴム重合体ラテックス(b1)

の粒子径は90nmであった。

[カルボキシル基含有重合体(b2)の重合]

以下の混合物を70℃で4時間重合させ,転化率98%,pH5.0




のカルボキシル基含有重合体(MAA−BA共重合体)含有エマルジョ

ンを調製した。

n−ブチルアクリレート 85部

メタクリル酸 15部

オレイン酸ナトリウム 2.0部

ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム 1.0部

過硫酸カリウム 0.3部

脱イオン水 200部」(以上,段落【0061】〜【0063】)

「[実施例1] グラフト共重合体(B−1)

ブタジエン系ゴム重合体ラテックス(b1)を固形分として75部に

対し,カルボキシル基含有重合体としてb2を固形分として2.0部添

加し,室温にて30分攪拌した。その後,オレイン酸カリウム1.5部

と,ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.6部とをフラス

コ内に仕込み,内温を70℃に保持して,メチルメタクリレート9.0

部と,n−ブチルアクリレート1.0部と,クメンハイドロキシパーオ

キサイドを上記単量体混合物を100とした場合に0.2部との混合物

を1時間かけて滴下した後,1時間保持し,第1グラフト重合工程を行

った。その後,第1グラフト重合工程で得られた重合体の存在下で,第

2段目としてスチレン12.5部と,クメンハイドロキシパーオキサイ

ドをスチレン100とした場合に0.2部との混合物を1時間かけて滴

下した後,3時間保持し,第2グラフト重合工程を行った。その後,第

2グラフト重合工程で得られた重合体の存在下で,第3段目としてメチ

ルメタクリレート2.5部と,クメンハイドロキシパーオキサイドを,

メチルメタクリレートを100とした場合に0.1部との混合物を0.

5時間かけて滴下した後,1時間保持してから第3グラフト重合工程を

終了して,グラフト共重合体ラテックスを得た。得られたグラフト共重




合体ラテックスにブチル化ハイドロキシトルエン0.5部を添加した

後, 2%硫酸水溶液を添加して凝析させ,
0. 90℃で熱処理固化した。

その後凝固物を温水で洗浄し,さらに乾燥して,カルボキシル基含有重

合体を含むポリブタジエンゴム系グラフト共重合体(B−1)を得た。」

(段落【0064】)

「[実施例2]グラフト共重合体(B−2)

カルボキシル基含有重合体(b2)の添加を第1グラフト重合工程中

変更した以外はグラフト共重合体(B−1)の場合と同様にしてグラ

フト共重合体(B−2)を作製した。」(段落【0065】)

「[実施例3]グラフト共重合体(B−3)

カルボキシル基含有重合体(b2)の添加を第3グラフト重合後に変

更した以外はグラフト共重合体(B−1)の場合と同様にしてグラフト

共重合体(B−3)を作製した。」(段落【0066】)

「[実施例4〜6]グラフト共重合体(B−4〜B−6)

ブタジエン系ゴム重合体ラテックス(b1)の仕込み量およびカルボ

キシル基含有重合体(b2)の添加量を表1に示す量に変更した以外は

グラフト共重合体(B−1)の場合と同様にしてグラフト共重合体(B

−4)〜(B〜6)を作製した。」(段落【0067】)

「[比較例1]グラフト共重合体(C−1)

カルボキシル基含有重合体(b2)を添加せず,グラフト共重合体(

B−1)の場合と同様にしてグラフト共重合体(C−1)を作製した。

以上で得られたグラフト重合体の質量平均粒子径を表1に示した。」

(段落【0068】)

「【表1】…」(段落【0069】)

(サ) 「実施例および比較例は,下記材料を表に示す配合で用いた。

(A)脂肪族ポリエステル




A−1:ポリ乳酸;レイシアH100(三井化学製)

(B)カルボキシル含有ブタジエン系グラフト共重合体:上記で製造し

たグラフト共重合体(B−1)〜(B−6)を使用した。

(C)ブタジエン系グラフト共重合体(C−1)

(D)結晶核剤

D−1:富士タルク工業製 LMS300(タルク;無機系結晶核剤)

D−2:日本化成製 スリパックスL(エチレンビスラウリン酸アミド

;有機系結晶核剤)

(E)充填剤

E−1:日東紡績製 CS3J948(ガラス繊維)

E−2:Partek製 ウィックロール(ワラストナイト)

(F)可塑剤,

F−1:旭電化製 プルロニックF68(ポリエチレングリコール/ポ

リプロピレングリコール共重合体)」(段落【0070】)

(シ) 「実施例1〜8および比較例1〜2

表1に示す配合量で(A)脂肪族ポリエステル酸および(B)カルボ

キシル基含有重合体を含むポリブタジエンゴム系グラフト共重合体ま

たは(C)ブタジエン系グラフト共重合体をドライブレンドした後,2

20℃に設定した30mmφ二軸スクリュー押出機を使用して溶融混

合ペレタイズを行った。

得られたペレットを220℃に設定したスクリューインライン型射

出成形機を使用して試験片を金型温度40℃で成形した。

各サンプルの物性評価結果を表2に示す。」(段落【0071】)

「【表2】…」(段落【0072】)

実施例1〜8示すように,本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物

は,ポリ乳酸単体(比較例1)よりも衝撃強度が大幅に向上し,耐衝撃




性が向上した。

一方,比較例2に示すように,(C)ブタジエン系グラフト共重合体

を用いた場合には,ポリ乳酸単体(比較例1)よりも衝撃強度は向上す

るものの,その効果は十分でない。」(段落【0073】)

(ス) 「実施例9〜12および比較例3〜5

表2に示す配合量で(A)脂肪族ポリエステル,(B)カルボキシル

基含有重合体を含むポリブタジエンゴム系グラフト共重合体または(

C)ブタジエン系グラフト共重合体,結晶核剤,充填剤,可塑剤をドラ

イブレンドした後,240℃に設定した30mmφ二軸スクリュー押出

機を使用して溶融混合ペレタイズを行った。

得られたペレットを240℃に設定したスクリューインライン型射

出成形機を使用して試験片を金型温度80℃で成形した。各サンプルの

物性評価結果を表3に示す。」(段落【0074】)

「【表3】…」(段落【0075】)

(セ) 「実施例9〜12に示すように,本発明の脂肪族ポリエステル樹脂

組成物は,ポリ乳酸単体(比較例7)よりも衝撃強度および耐熱性が大

幅に向上した。一方,比較例4に示すように,(B)カルボキシル含有

ブタジエン系グラフト共重合体を用いることなく,結晶核剤,可塑剤の

みを用いた場合には,ポリ乳酸単体(比較例3)よりも衝撃強度および

耐熱性は向上するものの,その効果は十分でない。また,比較例5に示

すように,(C)ブタジエン系グラフト共重合体を用いた場合には,ポ

リ乳酸単体(比較例3)よりも衝撃強度および耐熱性は向上するものの,

その効果は十分でない。」(段落【0076】)

ウ 前記ア及びイの記載を総合すれば,本願明細書には,次の点が開示され

いることが認められる。

(ア) 脂肪族ポリエステル樹脂は,耐衝撃性や柔軟性が低いなどの物性的




な欠点を有しており,その耐衝撃性を改良するために,オレフィン共重

合体,変性オレフィン化合物などのゴム状ポリマーをブレンドする方法

が従来から知られていたが,耐衝撃性改良効果が不十分であり,また,

ゴム状ポリマーをブレンドすることにより熱変形が大きくなり耐熱性が

低下するため実用的でないという問題もあった。

(イ) 本願発明は,従来技術の問題の解決を課題とし,その課題を解決す

るための手段として,脂肪族ポリエステルと,カルボキシル基含有重合

体を含むポリブタジエンゴム系グラフト共重合体とを含有する脂肪族ポ

リエステル樹脂組成物において,カルボキシル基含有重合体を含むポリ

ブタジエンゴム系グラフト共重合体が,ポリブタジエンからなるコア層

に,ビニル系単量体をグラフト重合して得られるグラフト共重合体であ

り,グラフト重合前,グラフト重合中又はグラフト重合後のいずれかに,

カルボキシル基含有重合体を添加することにより得られるグラフト共重

合体とする構成を採用し,これにより耐衝撃性及び耐熱性の両者を向上

させる効果を奏する。

(2) 刊行物1及び2の記載事項

ア 刊行物1

刊行物1(甲1)には,次のような記載がある(下記記載中に引用する

「表1」及び「表2」については別紙2参照)。

(ア) 「【請求項1】 (A)脂肪族ポリエステルと(B)多層構造重合体

とを含有することを特徴とする脂肪族ポリエステル樹脂組成物。」

「【請求項3】 (B)多層構造重合体の内部に少なくとも1層以上の

ゴム層を有することを特徴とする請求項1または2に記載の脂肪族ポリ

エステル樹脂組成物。」

「【請求項4】 (B)多層構造重合体の最外層が,不飽和カルボン酸

アルキルエステル系単位を含有する重合体により構成されることを特徴




とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組

成物。」

「【請求項7】 (A)脂肪族ポリエステルが,ポリ乳酸であることを

特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の脂肪族ポリエステル樹

脂組成物。」

「【請求項8】 さらに無機系結晶核剤および有機系結晶核剤から選択

される1種以上の結晶核剤を含有することを特徴とする請求項1〜7の

いずれか1項に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。」

「【請求項10】 さらに可塑剤を含有することを特徴とする請求項1

〜9のいずれか1項に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。 (以上,


2頁)

(イ) 「【発明の属する技術分野】本発明は,耐衝撃性に優れる脂肪族ポ

リエステル樹脂組成物,さらに耐熱性にも優れる脂肪族ポリエステル樹

脂組成物およびそれからなる成形品に関するものである。」(段落【0

001】)

(ウ) 「【従来の技術】最近,地球環境保全の見地から,土中,水中に存

在する微生物の作用により自然環境下で分解される生分解性ポリマーが

注目され,様々な生分解性ポリマーが開発されている。これらのうち溶

融成形が可能な生分解性ポリマーとして,…などの脂肪族ポリエステル

が知られている。」(段落【0002】)

「脂肪族ポリエステルの中でも,ポリ乳酸は,比較的コストが安く,

融点もおよそ170℃と高く,溶融成形可能な生分解性ポリマ−として

期待されている。また,最近ではモノマーである乳酸が微生物を利用し

た発酵法により安価に製造されるようになり,より一層低コストでポリ

乳酸を生産できるようになってきたため,生分解性ポリマーとしてだけ

でなく,汎用ポリマーとしての利用も検討されるようになってきた。し




かし,その一方で,耐衝撃性や柔軟性が低いなどの物性的な欠点を有し

ており,その改良が望まれている。」(段落【0003】)

「一般に,樹脂の耐衝撃性を改良するために,オレフィン共重合体な

どのゴム状ポリマーをブレンドすることは知られており,ポリ乳酸にお

いても,変性オレフィン化合物を添加する方法(例えば,特許文献1お

よび2参照)が知られているが,これらの方法では,耐衝撃性改良効果

が不十分であり,さらなる改善が必要とされている。」(段落【000

4】)

「また,ポリ乳酸樹脂は,ガラス転移温度が60℃であり,それ以上

の温度では剛性が急激に低下するため,成形品として使用する場合には,

60℃以上の高温での熱変形が大きくなるという性質を有しており,ゴ

ム状ポリマーをブレンドすることによりさらに熱変形が大きくなり耐熱

性が低下するため実用的でないという問題もある。」(段落【0005

】)

(エ) 「【発明が解決しようとする課題】本発明は,上述した従来技術に

おける問題点の解決を課題として検討した結果,達成されたものであり,

その目的とするところは,耐衝撃性に優れる脂肪族ポリエステル樹脂組

成物,さらに耐熱性にも優れる脂肪族ポリエステル樹脂組成物およびそ

れからなる成形品を提供することにある。」(段落【0007】)

(オ) 「【発明の実施の形態】本発明の(A)脂肪族ポリエステルとして

は,特に限定されるものではなく,脂肪族ヒドロキシカルボン酸を主た

る構成成分とする重合体,脂肪族多価カルボン酸と脂肪族多価アルコー

ルを主たる構成成分とする重合体などが挙げられる。…これらの脂肪族

ポリエステルの中でも,ヒドロキシカルボン酸を主たる構成成分とする

重合体が好ましく,特にポリ乳酸が好ましく使用される。」(段落【0

009】)




(カ) 「本発明において,(B)多層構造重合体とは,最内層(コア層)

とそれを覆う1以上の層(シェル層)から構成され,また,隣接し合っ

た層が異種の重合体から構成される,いわゆるコアシェル型と呼ばれる

構造を有する重合体である。」(段落【0016】)

「本発明の(B)多層構造重合体を構成する層の数は,特に限定され

るものではなく,2層以上であればよく,3層以上または4層以上であ

ってもよい。」(段落【0017】)

「本発明の(B)多層構造重合体としては,内部に少なくとも1層以

上のゴム層を有する多層構造重合体であることが好ましい。」(段落【

0018】)

「本発明の(B)多層構造重合体において,ゴム層の種類は,特に限

定されるものではなく,ゴム弾性を有する重合体成分から構成されるも

のであればよい。…好ましいゴムとしては,例えば,アクリル酸エチル

単位やアクリル酸ブチル単位などのアクリル成分,ジメチルシロキサン

単位やフェニルメチルシロキサン単位などのシリコーン成分,スチレン

単位やα−メチルスチレン単位などのスチレン成分,アクリロニトリル

単位やメタクリロニトリル単位などのニトリル成分またはブタンジエン

単位やイソプレン単位などの共役ジエン成分を重合させたものから構成

されるゴムである。」(段落【0019】)

「本発明の(B)多層構造重合体において,ゴム層以外の層の種類は,

熱可塑性を有する重合体成分から構成されるものであれば特に限定され

るものではないが,ゴム層よりもガラス転移温度が高い重合体成分が好

ましい。熱可塑性を有する重合体としては,不飽和カルボン酸アルキル

エステル系単位,グリシジル基含有ビニル系単位,不飽和ジカルボン酸

無水物系単位,脂肪族ビニル系単位,芳香族ビニル系単位,シアン化ビ

ニル系単位,マレイミド系単位,不飽和ジカルボン酸系単位またはその




他のビニル系単位などから選ばれる少なくとも1種以上の単位を含有す

る重合体が挙げられ,…」(段落【0020】)

「本発明の(B)多層構造重合体において,最外層の種類は,特に限

定されるものではなく,不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位,グ

リシジル基含有ビニル系単位,脂肪族ビニル系単位,芳香族ビニル系単

位,シアン化ビニル系単位,マレイミド系単位,不飽和ジカルボン酸系

単位,不飽和ジカルボン酸無水物系単位および/またはその他のビニル

系単位などを含有する重合体が挙げられ,…」(段落【0025】)

「本発明の(B)多層構造重合体の好ましい例としては,コア層がジ

メチルシロキサン/アクリル酸ブチル重合体で最外層がメタクリル酸メ

チル重合体,コア層がブタンジエン/スチレン重合体で最外層がメタク

リル酸メチル重合体,コア層がアクリル酸ブチル重合体で最外層がメタ

クリル酸メチル重合体などが挙げられる。さらに,ゴム層または最外層

のいずれか一つもしくは両方の層がメタクリル酸グリシジル単位を含有

する重合体であることはより好ましい。」(段落【0026】)

「本発明の(B)多層構造重合体としては,上述した条件を満たすも

のとして,市販品を用いてもよく,また,公知の方法により作製するこ

ともできる。」(段落【0029】)

(キ) 「本発明においては,(A)脂肪族ポリエステル中に(B)多層構

造重合体が細かく分散し,分散状態が良好なものほど耐衝撃性を向上さ

せる効果が大きい。」(段落【0032】)

「本発明においては,耐熱性が向上するという観点から,さらに結晶

核剤を含有することが好ましい。」(段落【0033】)

「本発明においては,耐熱性が向上するという観点から,さらに無機

系結晶核剤以外の充填剤を含有することが好ましい。」(段落【003

9】)




「本発明においては,耐熱性が向上するという観点から,さらに可塑

剤を含有することが好ましい。」(段落【0043】)

(ク) 「本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物の製造方法は,特に限定

されるものではなく,例えば,(A)脂肪族ポリエステル,(B)多層

構造重合体,結晶核剤,充填剤,可塑剤および必要に応じてその他の添

加剤を予めブレンドした後,融点以上において,一軸または二軸押出機

で,均一に溶融混練する方法や溶液中で混合した後に溶媒を除く方法な

どが好ましく用いられる。」(段落【0056】)

「本発明において,得られた組成物は,通常公知の射出成形,押出成

形などの任意の方法で成形することができ,あらゆる形状の成形品とし

て広く用いることができる。成形品とは,フィルム,シート,繊維・布,

不織布,射出成形品,押出し成形品,真空圧空成形品,ブロー成形品,

または他の材料との複合体などであり,自動車用資材,電機・電子機器

用資材,農業用資材,園芸用資材,漁業用資材,土木・建築用資材,文

具,医療用品またはその他の用途として有用である。」(段落【005

7】)

(ケ) 「【実施例】以下実施例により本発明を説明する。各特性の測定方

法は以下の通りである。…

(2)衝撃特性

衝撃強度はASTM D256に準じて,3mm厚ノッチ付き試験片のア

イゾット衝撃強度を測定した。

(3)耐熱性

ASTM D648に準じて,12.7mm×6.4mm×127mmの

試験片の熱変形温度(荷重0.45MPa)を測定した。」(以上,段

落【0058】,【0059】),

実施例および比較例は,下記材料を表に示す配合で用いた。




(A)脂肪族ポリエステル

A−1:重量平均分子量20万,D−乳酸単位1%,融点175℃のポ

リ−L−乳酸

(B)多層構造重合体

B−1:三菱レイヨン製”メタブレンS2001”(コア;シリコーン

/アクリル重合体,シェル;メタクリル酸メチル重合体)

B−2:三菱レイヨン製”メタブレンKS0205”(コア;シリコー

ン/アクリル重合体,シェル;メタクリル酸メチル/メタクリル酸グリ

シジル重合体)

B−3:鐘淵化学工業製”カネエースM511”(コア;ブタンジエン

/スチレン重合体,シェル;メタクリル酸メチル重合体)

B−4:呉羽化学工業製”パラロイドEXL2311”(コア;アクリ

ル重合体,シェル;メタクリル酸メチル重合体)

B−5:呉羽化学工業製”パラロイドEXL2315”(コア;アクリ

ル重合体,シェル;メタクリル酸メチル重合体)

(C)変性オレフィン化合物

C−1:日本油脂製”モディパーA4200”(エチレン/メタクリル

酸グリシジル−グラフト−メタクリル酸メチル共重合体)

C−2:住友化学工業製”ボンドファースト7M”(エチレン/メタク

リル酸グリシジル/アクリル酸メチル共重合体)

C−3:三井・デュポンポリケミカル”エバフレックスEEAA709



(エチレン/アクリル酸エチル共重合体)

C−4:三井・デュポンポリケミカル”MH5020”(エチレン/ブ

テン−1/無水マレイン酸共重合体)

結晶核剤




D−1:富士タルク工業製”LMS300”(タルク;無機系結晶核剤)

D−2:エンゲルハード製”トランスリンク555”(カオリナイト;

無機系結晶核剤)

D−3:日本化成製”スリパックスL”(エチレンビスラウリン酸アミ

ド;有機系結晶核剤)

充填剤

E−1:日東紡績製”CS3J948”(ガラス繊維)

E−2:Partek製”ウィックロール”(ワラストナイト)

可塑剤

F−1:旭電化製”プルロニックF68”

(ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコール共重合体)

実施例1〜6および比較例1〜6

表1に示す配合量で(A)脂肪族ポリエステル酸および(B)多層構造

重合体または(C)変性ポリオレフィン化合物をドライブレンドした後,

250℃に設定した30mmφ二軸スクリュー押出機を使用して溶融混

合ペレタイズを行った。」(段落【0060】)

「得られたペレットを250℃に設定したスクリューインライン型射

出成形機を使用して試験片を金型温度40℃で成形した。」(段落【0

061】)

「各サンプルの引張特性および衝撃特性の測定結果を表1に示す。」

(段落【0062】)

「【表1】…」(段落【0063】)

(コ) 「実施例1〜6に示すように,本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組

成物は,ポリ乳酸単体(比較例1)よりも衝撃強度が大幅に向上し,耐

衝撃性が向上した。」(段落【0064】)

「一方,比較例2〜6に示すように,変性オレフィン化合物を用いた




場合には,ポリ乳酸単体(比較例1)よりも衝撃強度は向上するものの,

その効果は十分でない。

実施例7〜11および比較例7〜9

表2に示す配合量で(A)脂肪族ポリエステル,(B)多層構造重合体,

(C)変性ポリオレフィン化合物,結晶核剤,充填剤,可塑剤をドライ

ブレンドした後,250℃に設定した30mmφ二軸スクリュー押出機

を使用して溶融混合ペレタイズを行った。」(段落【0065】)

「得られたペレットを250℃に設定したスクリューインライン型射

出成形機を使用して試験片を金型温度80℃で成形した。」(段落【0

066】)

「各サンプルの衝撃特性および耐熱性の測定結果を表2に示す。」(

段落【0067】)

「【表2】…」(段落【0068】)

(サ) 「実施例7〜11に示すように,本発明の脂肪族ポリエステル樹脂

組成物は,ポリ乳酸単体(比較例7)よりも衝撃強度および耐熱性が大

幅に向上した。」(段落【0069】)

「一方,比較例8に示すように,(B)多層構造重合体を用いること

なく,結晶核剤,可塑剤のみを用いた場合には,ポリ乳酸単体(比較例

7)よりも衝撃強度および耐熱性は向上するものの,その効果は十分で

ない。また,比較例9に示すように,(C)変性オレフィン化合物を用

いた場合には,ポリ乳酸単体(比較例7)よりも衝撃強度および耐熱性

は向上するものの,その効果は十分でない。」(段落【0070】)

(シ) 「【発明の効果】本発明によれば,(A)脂肪族ポリエステルと(

B)多層構造重合体を含有することによって,耐衝撃性に優れ,さらに

は耐熱性にも優れる脂肪族ポリエステル樹脂組成物およびそれからなる

成形品を提供することができる。」(段落【0071】)




イ 刊行物2

刊行物2(甲2)には,次のような記載がある(下記記載中に引用する

「表1」及び「表2」については別紙3参照)。

(ア) 「【請求項1】 ブタジエン系ゴム重合体(b1)を酸基含有共重合

体(b2)により肥大化して得られるラテックス(b1’)に,芳香族

ビニル,メタクリル酸アルキルエステル及びアクリル酸アルキルエステ

ルからなる群より選ばれる1種以上を含む単量体または単量体混合物(

b3)をグラフト重合して得られることを特徴とするグラフト共重合

体。」

「【請求項3】 肥大化されたラテックス(b1’)は,ブタジエン系

ゴム重合体(b1)100質量部(固形分として)を,0.01〜10

質量部(固形分として)の酸基含有共重合体(b2)により肥大化して

得られることを特徴とする請求項1又は2記載のグラフト共重合体。」

「【請求項13】 請求項1乃至12何れかに記載のグラフト共重合体

よりなる耐衝撃性改良剤。」

「【請求項14】 1種以上の熱可塑性樹脂(A)60〜99質量%と,

請求項1乃至12何れかに記載のグラフト共重合体(B)1〜40質量

%とを含んでなることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。」(以上,2

頁)

(イ) 「【発明の属する技術分野】本発明は,熱可塑性樹脂に好適に添加

でき,酸基含有共重合体によって肥大化されたブタジエン系グラフト共

重合体に関する。」(段落【0001】)

(ウ) 「【従来の技術】ポリカーボネート樹脂およびポリエステル樹脂な

どの熱可塑性樹脂の機械的性質を改良する方法については,従来から種

々の方法が提案されおり,例えば,ポリカーボネート樹脂およびポリエ

ステル樹脂を混合して機械的性質を改良することが考えられる。しかし




ながら,これらの樹脂を単純に組合せたのでは,十分な耐衝撃性を得ら

れない場合があるため,例えば特公昭55−9435号公報に,ポリカ

ーボネート樹脂,ポリエステル樹脂およびブタジエン系グラフト共重合

体からなる樹脂組成物が提案されている。ところが,この様な樹脂組成

物においては,ポリカーボネート樹脂,ポリエステル樹脂およびブタジ

エン系グラフト共重合体の組成が比較的狭い範囲のみで耐衝撃性が改良

される傾向にあり,成型品外観が劣り光沢度が低下する場合もあるため,

改良の余地があった。」(段落【0002】)

「また,特公昭62−26343号公報,特公昭62−46578号

公報および特公平7−5825号公報においても,ポリカーボネート樹

脂,ポリエステル樹脂およびブタジエン系グラフト共重合体からなる樹

脂組成物が提案されているが,これらの組成物を用いた場合,耐衝撃性

付与効果と成形外観とを両立できていないことがあった。」(段落【0

003】)

「一方,合成ゴムラテックスは乳化重合により容易に得られることが

知られており,得られた合成ゴムラテックス粒子を径肥大化する技術も,

多数知られている。これらの方法は大別すると2つに分けられ,1つは

ゴム重合段階で肥大化させる方法であり,もう1つは重合後の後処理で

肥大化させる方法である。前者は乳化剤を極力少量にして重合させる方

法,シード重合させる方法が知られているが,重合時間が長いことが問

題となることがある。また,後者の方法としては酸による肥大化,塩に

よる肥大化法,特殊溶剤による肥大化方法があるが,これらの肥大化剤

が残存すると,対象となる樹脂の熱安定性を低下させることがある。」

(段落【0004】)

(エ) 「【発明が解決しようとする課題】以上の様な状況に鑑み,優れた

耐衝撃性,耐熱性および表面外観を有する成形品を作製できる,熱可塑




性樹脂用に好適な耐衝撃性改良剤を提供することを本発明の目的とす

る。」(段落【0005】)

(オ) 「【課題を解決するための手段】上記目的を達成するための本発明

によれば,ブタジエン系ゴム重合体(b1)を酸基含有共重合体(b2)

により肥大化して得られるラテックス(b1’)に,芳香族ビニル,メ

タクリル酸アルキルエステル及びアクリル酸アルキルエステルからなる

群より選ばれる1種以上を含む単量体または単量体混合物(b3)をグ

ラフト重合して得られることを特徴とするグラフト共重合体が提供され

る。」(段落【0006】)

「本発明のグラフト共重合体(B)は熱可塑性樹脂に好適に添加でき

る耐衝撃性改良剤であり,優れた耐衝撃性,耐熱性および表面外観を有

する成形品を作製できる。」(段落【0009】)

「酸基含有共重合体を用いて肥大化したブタジエン系ゴム重合体は塩

や酸を用いて肥大化したブタジエン系ゴム重合体に比べて熱的に安定で

あるため,耐熱性を損なわず,大粒子径の存在より耐衝撃性を付与する

ことができると考えられる。また,本発明のグラフト共重合体は熱可塑

性樹脂に均一に分散するため,良好な表面外観を実現できると考えられ

る。」(段落【0010】)

(カ) 「【発明の実施の形態】以下に,本発明を詳細に説明する。」(段

落【0011】)

「ブタジエン系ゴム重合体(b1)を含有するラテックスとしては,

1,3−ブタジエン50〜100質量%と,1,3−ブタジエンと共重

合し得る1種以上のビニル系単量体0〜50質量%とを含む混合物を共

重合して得られるものが好ましい。」(段落【0012】)

「この様なブタジエン系ゴム重合体(b1)を用いることにより,得

られるグラフト共重合体(B)の耐衝撃能および耐熱性を更に向上でき,




更に耐衝撃性および耐熱性に優れた樹脂組成物を得ることができる。」

(段落【0013】)

(キ) 「以上の様なブタジエン系ゴム重合体(b1)は酸基含有共重合体

(b2)により肥大化される。酸基含有共重合体により肥大化されたも

のは大粒子径のものを多く含むため,得られるグラフト共重合体(B)

の耐衝撃能を向上でき,耐衝撃性に優れた樹脂組成物を得ることができ

る。」(段落【0020】)

「酸基含有共重合体(b2)としては,アルキルアクリレートと,ア

ルキルアクリレートと共重合可能な少なくとも1種以上の不飽和酸単量

体とを含む混合物を,少なくとも1種の陰イオン界面活性剤の存在下に

重合して得られるpH4以上のラテックスが好ましい。なお,アルキル

基の炭素数は1〜12が好ましい。」(段落【0021】)

「不飽和酸単量体としては,アクリル酸,メタクリル酸,クロトン酸,

イタコン酸,桂皮酸,無水マレイン酸およびブテントリカルボン酸など

を使用できる。」(段落【0024】)

「以上の様な酸基含有共重合体ラテックスをブタジエン系ゴム重合体

ラテックスに少量添加しただけで,ブタジエン系ゴム重合体の十分な肥

大化を達成できる。適当な条件を選べば固形分として0.01質量%の

酸基含共重合体を添加することで,ブタジエン系ゴム重合体ラテックス

の粒子径が2倍以上に肥大化する場合もあり,0.5質量%添加するこ

とにより,70nmの粒子径を300nm以上に肥大化させることもで

きる。」(段落【0027】)

「グラフト共重合体(B)は,ブタジエン系ゴム重合体(b1)を酸

基含有共重合体(b2)により肥大化して得られるラテックス(b1’)

に,芳香族ビニル,メタクリル酸アルキルエステル及びアクリル酸アル

キルエステル等の1種以上を含む単量体または単量体混合物(b3)を




グラフト重合して得られる。」(段落【0029】)

(ク) 「この様にして得られたグラフト共重合体は,熱可塑性樹脂の耐衝

撃性改良剤として好適である。具体的には,1種以上の熱可塑性樹脂(

A)60〜99質量%に,グラフト共重合体(B)1〜40質量%を添

加して熱可塑性樹脂組成物を作製する。グラフト共重合体(B)の含有

量を上記の範囲内とすることにより,良好な耐衝撃性および外観を有す

る成形品を作製することができる。」(段落【0041】)

(ケ) 「熱可塑性樹脂(A)は特に限定されず,ポリカーボネート系樹脂,

飽和ポリエステル樹脂,ABS樹脂,ポリスチレン樹脂等が挙げられる。

中でも,ポリカーボネート系樹脂(PC);ポリカーボネート系樹脂お

よび飽和ポリエステル樹脂のアロイ,ポリカーボネート系樹脂およびポ

リエステル系エラストマーのアロイ,ポリカーボネート系樹脂,飽和ポ

リエステル樹脂およびポリエステル系エラストマーのアロイ等のポリカ

ーボネート系アロイが,メタクリル酸アルキルエステルとの相溶性から

好ましい。」(段落【0042】)

「飽和ポリエステル樹脂とは,芳香族ジカルボン酸またはそのエステ

ル形成性誘導体とアルキレングリコールとを主成分とし縮合反応させる

ことにより得られる樹脂である。芳香族ジカルボン酸の例としては,テ

レフタル酸,イソフタル酸,ナフタレンジカルボン酸等が挙げられる。

アルキレングリコールの例としては,エチレングリコール,プロピレン

グリコール,テトラメチレングリコール,ヘキサメチレングリコール等

が挙げられる。これらの他,必要に応じて他のジカルボン酸やグリコー

ルを少量共重合してもよい。好ましい飽和ポリエステル樹脂は,ポリテ

トラメチレンテレフタレート(PBT),ポリエチレンテレフタレート

(PET)及びその混合物である。」(段落【0044】)

「以上の様にして得られる熱可塑性樹脂組成物は,例えば,自動車用




部品およびOA機器等の軽量薄肉化に伴い耐衝撃性の向上が望まれる用

途に好適である。」(段落【0051】)

(コ) 「【実施例】以下,実施例により本発明を更に詳しく説明するが,

本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。…」(段落

【0052】)

「[アイゾットインパクト]ASTM D 256に準じて測定した。」

(段落【0054】)

「[耐熱性]賦型ペレットを140℃ギアオーブンにて10時間静置

した後,着色の状態を以下の基準により目視にて判定した;

○:良好,

△:やや不良,

×:不良。」(段落【0055】)

(サ) 「[実施例1]グラフト共重合体(B−1)

ブタジエン系ゴム重合体ラテックス(b1−1)を固形分として75

部に対し,酸基含有共重合体(b2−1)としてMAA−BA共重合体

を固形分として2部添加し,室温にて30分攪拌することによって肥大

化した(b1’−1)。」(段落【0074】)

「その後,オレイン酸カリウム1.5部と,ナトリウムホルムアルデ

ヒドスルホキシレート0.6部とをフラスコ内に仕込み,内温を70℃

に保持して,メチルメタクリレート13部と,n−ブチルアクリレート

2部と,クメンハイドロキシパーオキサイドを上記単量体混合物を10

0とした場合に0.2部との混合物を1時間かけて滴下した後,1時間

保持し,第1グラフト重合工程を行った。」(段落【0075】)

「その後,第1グラフト重合工程で得られた重合体の存在下で,第2

段目としてスチレン17部と,クメンハイドロキシパーオキサイドをス

チレン100とした場合に0.2部との混合物を1時間かけて滴下した




後,3時間保持し,第2グラフト重合工程を行った。」(段落【007

6】)

「その後,第2グラフト重合工程で得られた重合体の存在下で,第3

段目としてメチルメタクリレート3部と,クメンハイドロキシパーオキ

サイドをメチルメタクリレートを100とした場合に0.1部との混合

物を0.5時間かけて滴下した後,1時間保持してから第3グラフト重

合工程を終了して,グラフト共重合体ラテックスを得た。」(段落【0

077】)

「得られたグラフト共重合体ラテックスにブチル化ハイドロキシトル

エン0.5部を添加した後,0.2%硫酸水溶液を添加して凝析させ,

90℃で熱処理固化した。その後凝固物を温水で洗浄し,さらに乾燥し

てグラフト共重合体(B−1)を得た。」(段落【0078】)

「[実施例2]グラフト共重合体(B−2)

ブタジエン系ゴム重合体ラテックスとして(b1−2)を使用した以外

は,グラフト共重合体(B−1)の場合と同様にしてグラフト共重合体

(B−2)を作製した。」(段落【0079】)

「[実施例3]グラフト共重合体(B−3)

ブタジエン系ゴム重合体ラテックスとして(b1−3)を使用した以外

は,グラフト共重合体(B−1)の場合と同様にしてグラフト共重合体

(B−3)を得た。」(段落【0080】)

「[比較例1]グラフト共重合体(B−4)

ブタジエン系ゴム重合体ラテックス(b1−1)を固形分として75部

と,オレイン酸カリウム1.5部と,ナトリウムホルムアルデヒドスル

ホキシレート0.6部とを窒素置換したフラスコ内に仕込み,内温を7

0℃に保持して,メチルメタクリレート36部と,n−ブチルアクリレ

ート4部と,クメンハイドロキシパーオキサイドを上記単量体混合物を




100とした場合に0.2部との混合物を,1時間かけて滴下した後,

1時間保持した。」(段落【0081】)

「得られたグラフト共重合体ラテックスにブチル化ハイドロキシトル

エン0.5部を添加した後,0.2%硫酸水溶液を添加して凝析させ,

90℃で熱処理固化した。その後,凝固物を温水で洗浄し,さらに乾燥

してグラフト共重合体(B−4)を得た。」(段落【0084】)

「[比較例2]グラフト共重合体(B−5)

ブタジエン系ゴム重合体ラテックスb1−1を固形分として75部と,

分散剤としてアルキルジフェニルエ−テルジスルホン酸ナトリウム0.

2部と,硫酸0.3部と,水酸化カリウム0.4部と,オレイン酸カリ

ウム1.5部とを使用し硫酸肥大化を行った以外は,すべてグラフト共

重合体(B−1)の場合と同様にしてグラフト共重合体(B−5)を得

た。」(段落【0085】)

「以上で得られたグラフト重合体の重量平均粒子径を,表1に示した。」

(段落【0086】)

「【表1】…」(段落【0087】)

(シ) 「[実施例4及び5]熱可塑性樹脂組成物1−1,1−2及び1−



ポリカーボネート樹脂として粘度平均分子量22,000のビスフェノ

ールAタイプポリカーボネート(PC)と,グラフト共重合体B−1,

B−2及びB−3とを,表2の割合で秤量し,ヘンシェルミキサーで4

分間混合した後,30mmΦ二軸押出機にてシリンダー温度260℃で

溶融混練し,ペレット状に賦型して種々の組成物を得た。さらに射出成

形することで試験片を得た。これらを用いて評価した結果を表2に示し

た。」(段落【0088】)

「表2より,熱可塑性樹脂組成物1−1,1−2及び1−3を用いる




ことにより,優れた耐衝撃性,耐熱性および表面外観を実現できること

が分かった。」(段落【0089】)

「[比較例3及び4]熱可塑性樹脂組成物2−1及び2−2

グラフト共重合体としてB−4及びB−5を使用した以外は,熱可塑性

樹脂組成物1−1の場合と同様に熱可塑性樹脂組成物2−1及び2−2

を調製し,物性を評価した。」(段落【0090】)

「[参考例1及び2]熱可塑性樹脂組成物3−1及び3−2

グラフト共重合体の種類および添加量を表2の様にした以外は,熱可塑

性樹脂組成物1−1の場合と同様に熱可塑性樹脂組成物3−1及び3−

2を調製し,物性を評価した。」(段落【0091】)

「[実施例6〜8]熱可塑性樹脂組成物4−1〜4−3

ポリカーボネート樹脂として粘度平均分子量22,000のビスフェノ

ールAタイプポリカーボネート(PC)と,飽和ポリエステル樹脂とし

てポリブチレンテレフタレート(PBT)と,ポリエステル系エラスト

マーとして極限粘度[η]が1.05のポリテトラメチレンテレフタレ

ート(PEs系エラストマー)と,グラフト共重合体B−1及びB−2

とを,表2の割合で秤量し,ヘンシェルミキサーで4分間混合した後,

30mmΦ二軸押出機にてシリンダー温度260℃で溶融混練し,ペレ

ット状に賦型して種々の組成物を得た。さらに射出成形することで試験

片を得た。これらを用いて評価した結果を表2に示した。」(段落【0

092】)

「熱可塑性樹脂組成物4−1〜4−3の場合,熱可塑性樹脂組成物1

−1及び1−2に対してポリカーボネートの一部がポリエステルに置換

えられているが,この場合にも,優れた耐衝撃性,耐熱性および表面外

観を実現できることが分かった。」(段落【0093】)

「[比較例5及び6]熱可塑性樹脂組成物5−1及び5−2




グラフト共重合体としてB−4及びB−5を使用した以外は,熱可塑性

樹脂組成物4−1の場合と同様に熱可塑性樹脂組成物5−1及び5−2

を調製し,物性を評価した。」(段落【0094】)

「【表2】…」(段落【0095】)

(ス) 「【発明の効果】以上で説明したように,ブタジエン系ゴム重合体

(b1)を酸基含有共重合体(b2)により肥大化して得られるラテッ

クス(b1’)に,芳香族ビニル,メタクリル酸アルキルエステル及び

アクリル酸アルキルエステルからなる群より選ばれる1種以上を含む単

量体または単量体混合物(b3)をグラフト重合して得られるグラフト

共重合体を,熱可塑性樹脂に添加することにより,優れた耐衝撃性,耐

熱性および表面外観を有する成形品を作製できる。」(段落【0096

】)

(3) 容易想到性の判断の誤りの有無

原告は,刊行物1記載の多層構造重合体に代えて刊行物2記載の多層構造

を有するグラフト共重合体を熱可塑性樹脂であるポリ乳酸に配合する動機付

けがあるものとはいえないから,相違点に係る事項を当業者が容易になし得

たとの本件審決の判断は誤りである旨主張する。

ア そこで検討するに,前記(2)アによれば,刊行物1には,次の点が開示さ

れていることが認められる。

(ア) 脂肪族ポリエステル樹脂は,耐衝撃性や柔軟性が低いなどの物性的

な欠点を有しており,その耐衝撃性を改良するために,オレフィン共重

合体,変性オレフィン化合物などのゴム状ポリマーをブレンドする方法

が従来から知られていたが,耐衝撃性改良効果が不十分であり,また,

ゴム状ポリマーをブレンドすることにより熱変形が大きくなり耐熱性が

低下するため実用的でないという問題もあった。

(イ) 刊行物1記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物は,従来技術の問題




の解決を課題とし,その課題を解決するための手段として,脂肪族ポリ

エステルと,最内層(コア層)とそれを覆う1以上の層(シェル層)か

ら構成される多層構造重合体とを含有する構成を採用し,これにより耐

衝撃性及び耐熱性の両者を向上させる効果を奏する。

(ウ) この多層構造重合体は,内部に少なくとも1層以上のゴム層を有す

ることが好ましく,ゴム層以外の層は熱可塑性を有する重合体成分から

構成されるものであれば特に制限されるものではない。ゴム層の種類は,

特に限定されるものではなく,ゴム弾性を有する重合体成分から構成さ

れるものであればよい。熱可塑性を有する重合体としては,不飽和カル

ボン酸アルキルエステル系単位,グリシジル基含有ビニル系単位,不飽

和ジカルボン酸無水物系単位,脂肪族ビニル系単位,芳香族ビニル系単

位,シアン化ビニル系単位,マレイミド系単位,不飽和ジカルボン酸系

単位又はその他のビニル系単位などから選ばれる少なくとも1種以上の

単位を含有する重合体が挙げられる。

多層構造重合体としては,市販品を用いてもよく,また,公知の方法

により作製することもできる。

(エ) 刊行物1記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物においては,脂肪族

ポリエステル中に多層構造重合体が細かく分散し,分散状態が良好なも

のほど耐衝撃性を向上させる効果が大きい。また,耐熱性が向上すると

いう観点から,さらに結晶核剤,無機系結晶核剤以外の充填剤及び可塑

剤をそれぞれ含有することが好ましい。

(オ) 別紙2の表2に示すとおり,脂肪族ポリエステルであるポリ乳酸に

多層構造重合体,結晶核剤及び可塑剤を添加した実施例7の脂肪族ポリ

エステル樹脂組成物は,多層構造重合体を含まない比較例8よりも衝撃

強度が大幅に向上した。また,実施例7の脂肪族ポリエステル樹脂組成

物は,多層構造重合体の代わりにゴム状ポリマーの1種である変性オレ




フィン化合物を添加した比較例9よりも,衝撃強度及び耐熱性が向上し

た。

(カ) 刊行物1記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物は,あらゆる形状の

成形品として広く用いることができ,自動車用資材,電機・電子機器用

資材,農業用資材,園芸用資材,漁業用資材,土木・建築用資材,文具,

医療用品又はその他の用途として有用である。

イ 次に,前記(2)イによれば,刊行物2には,次の点が開示されていること

が認められる。

(ア) ポリカーボネート樹脂及びポリエステル樹脂などの熱可塑性樹脂の

耐衝撃性を改良する方法として,ポリカーボネート樹脂及びポリエステ

ル樹脂にブタジエン系グラフト共重合体を組み合わせた樹脂組成物が提

案されているが,比較的狭い範囲のみで耐衝撃性が改良される傾向にあ

り,耐衝撃性付与効果と成形外観とを両立できていないという問題があ

った。また,乳化重化により得られた合成ゴムラテックスの粒子を酸,

塩又は特殊溶剤を用いて肥大化させる方法も知られており,このような

方法で肥大化した合成ゴムラテックスを熱可塑性樹脂に添加することに

より耐衝撃性を改良することが考えられるが,これらの肥大化剤が残存

すると,対象となる樹脂の熱安定性を低下させることがあるという問題

があった。

(イ) 刊行物2記載のグラフト共重合体に係る発明は,優れた耐衝撃性,

耐熱性及び表面外観を有する成形品を作製できる,熱可塑性樹脂用に好

適な耐衝撃性改良剤を提供することを課題とし,その課題を達成するた

めの手段として,酸基含有共重合体を用いてブタジエン系ゴム重合体を

肥大化したラテックスに,芳香族ビニル,メタクリル酸アルキルエステ

ル及びアクリル酸アルキルエステルからなる群より選ばれる1種以上を

含む単量体又は単量体混合物をグラフト重合して得られるグラフト共重




合体とする構成を採用した。

このグラフト共重合体は,カルボキシル基含有重合体である酸基含有

共重合体を添加して肥大化したブタジエン系ゴム重合体のコア層に,芳

香族ビニル等のビニル系単量体等をグラフト重合して得られる,多層構

造のグラフト共重合体である。

(ウ) 刊行物2記載の多層構造のグラフト共重合体は,肥大化された大粒

子径の存在により耐衝撃性を向上させることができる。

また,刊行物2記載の多層構造のグラフト重合体は,肥大化剤として

酸基含有共重合体を用いてブタジエン系ゴム重合体を肥大化させてお

り,肥大化剤として塩や酸を用いて肥大化したブタジエン系ゴム重合体

に比べて熱的に安定であるため,耐熱性を損なわず,耐衝撃性を付与す

ることができる。

さらに,刊行物2記載の多層構造のグラフト重合体は,熱可塑性樹脂

に均一に分散するため,良好な表面外観を実現できる。

そのため,刊行物2記載の多層構造のグラフト重合体は,これを熱可

塑性樹脂に添加することにより優れた耐衝撃性,耐熱性及び表面外観を

有する成形品を作製できるという効果を奏する。

(エ) 別紙3の表2に示すとおり,酸基含有共重合体を用いて肥大化した

ブタジエン系ゴム重合体ラテックスを含有するグラフト共重合体(B−

1〜B−3)を使用した熱可塑性樹脂組成物(1−1〜1−3,4−1,

4−2)と酸を用いて肥大化したブタジエン系ゴム重合体ラテックスを

含有するグラフト共重合体(B−5)を使用した熱可塑性樹脂組成物(

2−2,5−2)は,肥大化していないブタジエン系ゴム重合体ラテッ

クスを含有するグラフト共重合体(B−4)を使用した熱可塑性樹脂組

成物(2−1,5−1)と比べて,いずれも耐衝撃性 「Izod強度」
( )

が優れていた。




また,酸基含有共重合体を用いて肥大化したブタジエン系ゴム重合体

ラテックスを含有するグラフト共重合体を使用した熱可塑性樹脂組成物

(1−1〜1−3,4−1,4−2)は,酸を用いて肥大化したブタジ

エン系ゴム重合体ラテックスを含有するグラフト共重合体を使用した熱

可塑性樹脂組成物(2−2,5−2)と比べて,耐衝撃性(「Izod

強度」)は同等であるが,熱安定性を低下させることなく,耐熱性(「

静的熱安定性」)が優れていた。

(オ) 刊行物2記載の多層構造のグラフト重合体を添加して得られる熱可

塑性樹脂組成物は,例えば,自動車用部品及びOA機器等の軽量薄肉化

に伴い耐衝撃性の向上が望まれる用途に好適である。

ウ 以上の刊行物1及び2の開示事項を前提とすると,刊行物1及び2に接

した当業者は,@刊行物1記載の多層構造重合体及び刊行物2記載の多層

構造のグラフト共重合体は,いずれも添加対象樹脂の耐衝撃性改良剤とし

て耐衝撃性及び耐熱性の両者に優れた効果を奏し,刊行物1記載の多層構

造重合体を含有する脂肪族ポリエステル樹脂組成物を添加して得られる熱

可塑性樹脂組成物と刊行物2記載の多層構造のグラフト共重合体を添加し

て得られる熱可塑性樹脂組成物は,いずれも自動車用部品,OA機器等の

用途に有用であること,A刊行物1の記載からは,多層構造重合体のコア

層を構成するゴム層が肥大化しているかどうかは不明であるのに対し,刊

行物2には,肥大化したブタジエン系ゴム重合体ラテックスを含有する多

層構造のグラフト共重合体は,肥大化していないブタジエン系ゴム重合体

ラテックスを含有する多層構造のグラフト共重合体よりも耐衝撃性に優れ

ており,さらに,肥大化剤として酸基含有共重合体を用いて肥大化した場

合には,耐衝撃性に優れるとともに,熱安定性を低下させることなく,耐

熱性にも優れていることが示されていることを理解するものといえるか

ら,刊行物1記載の多層構造重合体を含有する脂肪族ポリエステル樹脂組




成物において,組成物の耐熱性を維持したまま,より耐衝撃性の向上した

組成物を得ることを目的として,刊行物1記載の多層構造重合体に代えて

刊行物2記載の肥大化したブタジエン系ゴム重合体ラテックスを含有する

多層構造のグラフト共重合体を置換することを試みる動機付けがあるもの

と認められる。

したがって,刊行物1及び2に接した当業者であれば,刊行物1及び2

に基づいて,相違点に係る本願発明の構成を容易に想到することができた

ものと認められる。

エ これに対し原告は,@刊行物1の記載から,熱的特性として把握できる

のは熱変形性のみであり,熱変形性以外の特性を含む上位概念としての「

耐熱性」の概念を把握することはできないし,同様に,刊行物2の記載か

ら,熱的特性として把握できるのは熱着色性のみであり,熱着色性以外の

特性を含む上位概念としての「耐熱性」の概念を把握することはできない,

A刊行物1の耐衝撃性改良剤である「多層構造重合体」の添加対象樹脂は,

生分解性という利点を有するものの,熱変形しやすく,添加剤を工夫して

も120℃程度の熱変形温度しか得られず,熱変形温度を120℃まで高

めた場合には90J/mの衝撃強度しか得られない「脂肪族ポリエステル」

であるのに対し,刊行物2の多層構造のグラフト共重合体の添加対象樹脂

は,全ての「熱可塑性樹脂」ではなく,140℃前後の高温環境下でも使

用でき,かつ,730〜830J/m程度の高い衝撃強度を要する樹脂組

成物とすることが可能な樹脂,いわゆるエンジニアリングプラスチックに

なり得る樹脂であるから,刊行物2記載の多層構造のグラフト共重合体の

添加対象樹脂は,刊行物1の添加対象樹脂である「脂肪族ポリエステル」

を実質的に含まないことを根拠として挙げて,組成物の耐熱性を維持した

まま,より衝撃強度の向上した組成物を得ることは,引用発明(刊行物1

記載の多層構造重合体を含有する脂肪族ポリエステル樹脂組成物)におい




て多層構造重合体に代えて刊行物2記載の多層構造のグラフト共重合体を

採用する動機付けにはならない旨主張する。

しかしながら,以下に述べるとおり,原告が挙げる@及びAはいずれも

採用することができず,原告の主張は,理由がない。

(ア) @の点について

耐熱性は,一般に,物質が高温で物性を維持する性質をいい,樹脂の

耐熱性を評価する方法としては,外観を判定する方法や,熱変形性を判

定する方法があり,それぞれの方法について種々の指標を用いるものが

ある。

刊行物1には,「従来の技術」として,「ポリ乳酸樹脂は,…ゴム状

ポリマーをブレンドすることによりさらに熱変形が大きくなり耐熱性が

低下するため実用的でないという問題もある。」(甲1の段落【000

5】)との記載があり,ポリ乳酸を用いた実施例及び比較例における「

耐熱性」の評価は,「耐熱性ASTM D648に準じて,12.7mm

×6.4mm×127mmの試験片の熱変形温度(荷重0.45MPa)

を測定」(同段落【0059】)して行っている。一方で,刊行物1に

は,「発明が解決しようとする課題」として,「耐衝撃性に優れる脂肪

族ポリエステル樹脂組成物,さらに耐熱性にも優れる脂肪族ポリエステ

ル樹脂組成物およびそれからなる成形品を提供することにある。」(同

段落【0007】),「発明の効果」として,「本発明によれば,(A)

脂肪族ポリエステルと(B)多層構造重合体を含有することによって,

耐衝撃性に優れ,さらには耐熱性にも優れる脂肪族ポリエステル樹脂組

成物およびそれからなる成形品を提供することができる。」(同段落【

0071】)との記載があるが,ここでいう「耐熱性」が「熱変形性」

のみを意味することをうかがわせる記載は,刊行物1の記載事項を全体

としてみても存在しない。




そうすると,刊行物1は,実施例及び比較例において「耐熱性」を評

価する指標として「熱変形温度」を採用し,主に「熱変形性」に着目し

たといえるとしても,刊行物1にいう「耐熱性」が,「熱変形性」のみ

を意味するものとして限定して解釈すべき理由はない。

次に,刊行物2には,熱可塑性樹脂としてポリカーボネート等を用い

実施例及び比較例における「耐熱性」の評価に関し,「[耐熱性]賦

型ペレットを140℃ギアオーブンにて10時間静置した後,着色の状

態を以下の基準により目視にて判定した;○:良好,△:やや不良,×

:不良。」(甲2の段落【0055】)との記載があり,目視による「

熱着色性」を評価の指標としている。一方で,刊行物2には,「発明が

解決しようとする課題」として,「優れた耐衝撃性,耐熱性および表面

外観を有する成形品を作製できる,熱可塑性樹脂用に好適な耐衝撃性改

良剤を提供することを本発明の目的とする。」(同段落【0005】),

「酸基含有共重合体を用いて肥大化したブタジエン系ゴム重合体は塩や

酸を用いて肥大化したブタジエン系ゴム重合体に比べて熱的に安定であ

るため,耐熱性を損なわず,大粒子径の存在より耐衝撃性を付与するこ

とができると考えられる。また,本発明のグラフト共重合体は熱可塑性

樹脂に均一に分散するため,良好な表面外観を実現できると考えられ

る。」(同段落【0010】),「発明の効果」として,「ブタジエン

系ゴム重合体(b1)を酸基含有共重合体(b2)により肥大化して得

られるラテックス(b1’)に,芳香族ビニル,メタクリル酸アルキル

エステル及びアクリル酸アルキルエステルからなる群より選ばれる1種

以上を含む単量体または単量体混合物(b3)をグラフト重合して得ら

れるグラフト共重合体を,熱可塑性樹脂に添加することにより,優れた

耐衝撃性,耐熱性および表面外観を有する成形品を作製できる。」(同

段落【0096】)との記載があるが,ここでいう「耐熱性」が「熱着




色性」のみを意味することをうかがわせる記載は,刊行物2の記載事項

を全体としてみても存在しない(むしろ,刊行物2では,「耐熱性」を

「熱的安定」の意味で用いている。)。

そうすると,刊行物2は,実施例及び比較例において「耐熱性」を評

価する指標として「熱着色性」を採用したにすぎないものであり,刊行

物2にいう「耐熱性」が,「熱着色性」を意味するものとして限定して

解釈すべき理由はない。

したがって,刊行物1と刊行物2とで「耐熱性」の概念を異なったも

のとして理解する必要はうかがわれないから,原告主張の上記@は,採

用することができない。

(イ) Aの点について

刊行物2には,「熱可塑性樹脂(A)は特に限定されず,ポリカーボ

ネート系樹脂,飽和ポリエステル樹脂,ABS樹脂,ポリスチレン樹脂

等が挙げられる。」(甲2の段落【0042】)との記載があるように,

刊行物2の対象樹脂は,熱可塑性樹脂一般である。原告主張の上記Aは,

刊行物2の実施例を根拠とするものであるが,刊行物2の対象樹脂を実

施例に記載されたポリカーボネート等に限定して解釈すべき事情は見い

だせない。

したがって,原告主張の上記Aは,採用することができない。

(4) 小括

以上によれば,刊行物1及び2に接した当業者が刊行物1記載の多層構造

重合体に代えて刊行物2記載の多層構造のグラフト共重合体を置換すること

容易に想到することができたものと認められるから,この点に関する本件

審決の判断の誤りをいう原告主張の取消事由1は理由がない。

2 取消事由2(本願発明の顕著な効果の看過)について

(1) 原告は,本願明細書記載の本願発明の実施例9(別紙1の表3)における




熱変形温度(110℃)が,グラフト共重合体を用いていない比較例4の熱

変形温度(105℃)と比べて5℃上回っており,このことは,本願発明の

カルボキシル基含有重合体で肥大化したグラフト共重合体を添加した場合に

は,ゴム状ポリマーである耐衝撃性改良剤を耐衝撃性改良のために樹脂組成

物に配合すると,熱変形温度が低下する傾向にあるという本件技術常識に反

し,かえって熱変形温度が上昇したことを示すものであること,原告作成の

実験成績証明書(甲17)記載の実験結果によれば,刊行物2の実施例で使

用された添加対象樹脂であるポリカーボネートに対してグラフト共重合体を

添加した場合には本件技術常識が妥当すること,添加対象樹脂がポリカーボ

ネートの場合,グラフト共重合体に用いられるブタジエン系ゴム重合体が肥

大化されているか否かは,熱変形温度の低下に影響しないことが確認された

ことなどを根拠として挙げて,本願発明は,本件出願時の本件技術常識に反

し,かえってグラフト共重合体を添加することにより熱変形温度が上昇する

という効果を奏するものであり,この効果は,当業者が予測することができ

ない顕著な効果であるにかかわらず,本件審決には,本願発明の顕著な効果

を看過した判断の誤りがある旨主張する。

そこで検討するに,本願明細書には,別紙1の表3に示すように,脂肪族

ポリエステルとしてポリ乳酸(A−1),カルボキシル基含有重合体を含む

ポリブタジエンゴム系グラフト共重合体(B−1),結晶核剤(D−1)及

び可塑剤(F−1)を配合して得られた実施例9の樹脂組成物の熱変形温度

(110℃)は,ポリ乳酸(A−1),結晶核剤(D−1)及び可塑剤(F

−1)を配合して得られた比較例4の樹脂組成物の熱変形温度(105℃)

よりも,5℃上回っていることが記載されている。

しかしながら,高分子樹脂組成物の物性は,主成分となる樹脂や配合剤の

種類や量比によって大きな影響を受けるが,原告主張の本願発明の顕著な効

果は実施例9という特定の場合についてしか示されていない。本願発明の特




請求の範囲の記載(請求項1)によれば,本願発明の「カルボキシル基含

有重合体」には,カルボキシル基さえ含有すればどのような重合体でも含ま

れ,また,本願発明においてグラフト重合に用いられる「ビニル系単量体」

にはビニル基を有するあらゆる単量体が含まれるが,本願明細書には,実施

例9で用いられた「B−1」以外のカルボキシル基含有重合体を含むポリブ

タジエンゴム系グラフト共重合体を含む樹脂組成物が実施例9と同等の「耐

熱性」の効果を示すことについて何ら説明されていない。

また,本願明細書には,耐熱性が向上するという観点から,さらに結晶核

剤及び可塑剤をそれぞれ含有することが好ましいとの記載があること(甲3

の段落【0040】,【0047】),実施例9及び比較例4には結晶核剤

(D−1)及び可塑剤(F−1)が含有されていることに照らすと,そもそ

も,実施例9及び比較例4記載の熱変形温度は,これらの影響を受けた可能

性も否定できない。

さらに,原告が挙げる上記実験成績証明書も,実施例9の効果が本願発明

全体にまで一般化し得ることの根拠となるものではない。

そうすると,本願明細書の記載及び上記実験成績証明書から,本願発明が

本願出願時の本件技術常識に反し,かえってグラフト共重合体を添加するこ

とにより熱変形温度が上昇するという効果を奏するものと認めることはでき

ない。他にこれを認めるに足りる証拠はない。

したがって,原告の上記主張は理由がない。

(2) 以上によれば,原告主張の取消事由2も理由がない。

したがって,刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された技術事

項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとした本件審決の判断

に誤りはない。

3 結論

以上の次第であるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,本件審




決にこれを取り消すべき違法は認められない。

したがって,原告の請求は棄却されるべきものである。



知的財産高等裁判所第4部



裁判長裁判官 富 田 善 範




裁判官 大 鷹 一 郎




裁判官 齋 藤 巌





(別紙1)



【表1】




【表2】





【表3】





(別紙2)





(別紙3)



【表1】




【表2】