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事件 平成 25年 (行ケ) 10114号 審決取消請求事件 
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裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2013/11/21
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成25年11月21日判決言渡

平成25年(行ケ)第10114号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 平成25年11月5日

判 決



原 告 有 限 会 社 大 長 企 画



訴訟代理人弁理士 熊 田 和 生



被 告 特 許 庁 長 官

指 定 代 理 人 前 田 佳 与 子

川 上 美 秀

中 島 庸 子

堀 内 仁 子



主 文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。



事 実 及 び 理 由

第1 原告が求めた判決

特許庁が不服2009−14411号事件について平成25年3月7日にした審

決を取り消す。



第2 事案の概要

本件は,拒絶査定不服審判不成立審決の取消訴訟である。争点は,@後記本願発




明の容易想到性判断の誤りの有無及びA後記本願発明と先願発明との同一性判断の

誤りの有無である。

1 特許庁における手続の経緯

原告は,名称を「栄養剤,消化器剤」とする発明につき,平成14年10月7日,

特許出願したが(特願2002−293904号,請求項の数12),平成21年4

月6日に拒絶査定を受けたので,同年8月10日,不服審判請求をし(不服200

9−14411号),平成24年7月11日付けで手続補正をした(請求項の数5。

平成21年8月10日付け手続補正については補正却下の決定がされている。。


特許庁は,平成25年3月7日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決

をし,その謄本は同年4月1日に原告に送達された。

(甲1,6,7,9,10)



2 本願発明の要旨

上記平成24年7月11日付け手続補正書による補正後の請求項1の発明(本願

発明)に係る特許請求の範囲の記載は,次のとおりである。(甲1,9)

「 A.シムノールまたはシムノール硫酸エステル

B.大豆イソフラボンまたは大豆イソフラボン配糖体

C.クルクミン

のA,BおよびCの成分を含むことを特徴とする栄養剤。 」



3 審決の理由の要点

(1) 容易想到性判断

ア 引用発明

特開2002−255823号公報(引用例1〔甲2〕)には,次の発明(引用発

明)が記載されている。

「 シムノールおよび/またはシムノール硫酸エステルと,




大豆イソフラボンおよび/または大豆イソフラボン配糖体

を含む栄養剤,消化器剤。 」

イ 一致点

本願発明と引用発明との一致点は,次のとおりである。

「 A.シムノールまたはシムノール硫酸エステル,

B.大豆イソフラボンまたは大豆イソフラボン配糖体

を含むことを特徴とする,栄養剤。 」

ウ 相違点

本願発明と引用発明との相違点は,次のとおりである。

「 本願発明は成分Cとしてクルクミンを含むのに対し,引用発明はクルクミンを

含まない点。 」

相違点の判断

@ 引用例1には,中国伝統医学の「気血水」という概念における「血の作用」

をもつシムノール又はシムノール硫酸エステルと,
「水の作用」をもつ大豆イソフラ

ボン又は大豆イソフラボン配糖体とを組み合わせて用いることにより,「水の作用」

に関連すると思われる便通改善作用が相乗的に現れたことが記載されているので

(【0002】
【0003】
【0025】〜【0027】,引用例1のシムノール又は


シムノール硫酸エステルは,大豆イソフラボン又は大豆イソフラボン配糖体が有す

る便通改善作用を増強する有効成分である。

A 特開平10−114649号公報(引用例2〔甲3〕)には,クルクミンを活

性成分とする経口投与用組成物が,消化液分泌促進作用や便通促進作用等の「津液

作用」を改善,すなわち増強することが記載されており(【請求項1】〜【請求項7】

【0005】
【0033】
【0046】〜【0050】,
)「津液作用」は,引用例1に

おける「水の作用」に相当する。さらに,引用例2には,クルクミンのような「津

液改善剤」を1種又は2種以上用いることが記載されている(【0028】。


B @Aのとおり,引用発明におけるシムノール又はシムノール硫酸エステルと




引用例2に記載のクルクミンとは,いずれも便通促進作用のような「津液作用」を

増強させるものである点,及び,他の有効成分と組み合わせて用いる点で共通して

いる。

C 引用例1には,シムノール,シムノール硫酸エステル,大豆イソフラボン,

及び大豆イソフラボン配糖体以外のその他の成分を混合してよいことが記載されて

いる(【0009】【0021】。


D BCを勘案すれば,引用発明の有効成分に引用例2に記載のクルクミンを更

に組み合わせて用いるのに特段の支障となるような事項は見当たらない。

E 以上から,便通促進作用のような「津液作用」を増強させるための更なる有

効成分として,引用発明の有効成分に引用例2に記載の「津液改善作用」を有する

クルクミンを組み合わせて用い,本願発明の組成物を得ることは,当業者が容易に

想到し得た事項にすぎず,格別の創意工夫を要したとは認められない。

オ 発明の効果

引用例1には,シムノール又はシムノール硫酸エステルと大豆イソフラボン又は

大豆イソフラボン配糖体の組合せにより,2つの有効成分のそれぞれのもつ効果が

相乗的に現れたこと(【0025】〜【0027】,引用発明により,病気の予防,


自然治癒能力の増強,病後の回復促進を同時に達成することができること 【003


0】)が記載されており,引用例2には,クルクミンが便通促進作用のような津液作

用を増強する有効成分であることが記載されているのであるから,本願明細書の段

落【0043】に記載されているような効果は,引用例1及び引用例2の記載から

みて,当業者が予測し得た程度のものであり,予測の範囲を超える程の格別顕著な

効果であるとはいえない。

(2) 同一性判断

ア 先願発明

特願2002−42639号の特許明細書(特許第4609875号〔甲15〕。

先願明細書)の特許請求の範囲(【請求項1】)には,次の発明(先願発明)が記載




されている。

「 (a) クルクミン,

(b) コール酸または,シムノールまたはシムノールエステル,および

(c) 大豆イソフラボンまたは大豆イソフラボン配糖体を含んでおり,

一日の摂取量が,クルクミンは20〜70mg,コール酸は10〜100mg,

シムノールおよび/またはシムノールエステルは0.3〜10mg,大豆イソフラ

ボンおよび/または大豆イソフラボン配糖体は10〜100mgであることを特

徴とする健康食品。 」

イ 対比

(ア) 有効成分について

先願明細書の段落【0013】の【化8】に,
「シムノールエステル」としてシム

ノール硫酸エステルナトリウムが記載され,実施例でもシムノール硫酸エステルナ

トリウムが用いられていることから,先願発明の「シムノールエステル」がシムノ

ール硫酸エステルを包含することは明らかである。

したがって,本願発明と先願発明の有効成分は,いずれも,シムノール又はシム

ノール硫酸エステル,大豆イソフラボン又は大豆イソフラボン配糖体,並びにクル

クミンである点で重複する。

(イ) 用途について

先願発明は「健康食品」であるが,一般に,「健康食品」は,栄養成分を補給し,

又は特定の保健の用途に適するものとして販売の用に供する食品であること,通常

の食事で不足している栄養素や食品成分を補うという役割を有すること,栄養改善

法等の法令に適合するものであることは,先願発明の優先日当時の技術常識である。

上記技術常識を勘案すれば,
「健康食品」と「栄養剤」が栄養を補給するための組

成物である点で重複することは明らかであるから,本願発明の用途と先願発明の用

途が異なるとすることはできない。

(ウ) 摂取量について




本願発明では各成分の一日の摂取量を特定していないが,本願明細書の発明の詳

細な説明には,
「【0010】シムノールおよび/またはシムノールエステルの一日の

投与量は,・・・・・0.3〜10mg がとくに好ましい。「
」【0006】イソフラボンお

よびイソフラボン配糖体の一日の投与量は,・・・・・10〜100mg がとくに好まし

い。,クルクミンを包含する辛味物質について「
」 【0008】辛味物質の一日の投与

量は,・・・・・10〜70mg がとくに好ましい。」と記載されており,本願発明におけ

る各成分の一日の摂取量が,先願発明における各成分の一日の摂取量を包含してい

る。

そうすると,本願発明において各成分の1日の摂取量を特定していない点をもっ

て,本願発明が先願発明と異なる発明であるとすることはできない。

ウ 小括

本願発明と先願発明とには実質的に相違する事項はない。

(3) 審決判断のまとめ

本願発明は,引用発明及び引用例2に記載された発明(引用発明2)に基づいて,

当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定

により,特許を受けることができない。

また,本願発明は,先願発明と同一であるから,特許法39条1項の規定により

特許を受けることができない。

したがって,その余の請求項について論及するまでもなく,本願は拒絶されるべ

きものである。



第3 原告主張の審決取消事由

1 取消事由1(容易想到性判断の誤り)

(1) 構成の容易想到性について

@ 引用例2には栄養剤に関する記載はなく,引用発明の栄養剤に,栄養剤が記

載されていない引用発明2を組み合わせる動機付けはない。




A 本願発明及び引用発明は便通改善に関する発明ではないところ,便通改善効

果を高めるには下剤を加えることが普通であり,便通改善剤ではない便通改善増強

剤である引用例2記載のクルクミンを組み合わせる動機付けがない。

B 引用例2記載の津液作用を有する成分(【0024】)に更に加えて津液改善

剤であるクルクミンを引用発明に加える動機付けがないし,引用例2の記載 【00


09】)から水の科学に関連する他の有効成分は示唆されない。

C シムノール又はシムノール硫酸エステルが津液改善剤とすれば,引用発明に

はシムノール又はシムノール硫酸エステルが含まれているから,更に加えて津液改

善剤であるクルクミンを引用発明に加える動機付けがない。

D 引用例2には多くの津液改善剤が記載され,その実施例にもクルクミンだけ

でなく,カプサイシン,シナピンが記載されており,特開2000−103718

号公報(甲16)にも多種類の津液改善剤が記載されているから,引用発明に加え

る津液改善剤として特にクルクミンを選択する動機付けがない。

E 引用例2の実施例において,クルクミンは,カプサイシン,シナピンよりも

劣った成績を有し,引用例2の津液改善剤からクルクミンを選択することには阻害

要因がある。また,これまでクルクミンを配合しても配合禁忌が発現していないと

しても,引用発明にクルクミンを組み合わせたときに配合禁忌の問題が生じないと

はいえない。

以上のとおり,審決には誤りがある。

(2) 効果の顕著性について

@ 本願発明は栄養剤に関する発明であって,便通改善に関する発明ではなく,

便通改善と栄養剤とに関連はない。したがって,引用例1及び引用例2記載の便通

改善に関する効果から,本願明細書に記載された体力の増強,精力減退や慢性疲労

の改善等の効果を予測することはできない。

A 本願発明は,引用発明を発展させたものであって,甲第6号証記載のとおり,

引用例1又は引用例2からは予測できない優れた効果を有する。なお,後記甲6参




考資料5にある「スクアランオイル」とは,シムノールのことである(甲21)。

また,引用発明は医療現場で使用されていないが,本願発明は医療現場で使用さ

れているから,本願発明には引用発明に比べて有利な効果がある。

以上のとおり,審決には誤りがある。



2 取消事由2(同一性判断の誤り)

本願発明は栄養剤であって医薬品に関する発明であるのに対して,先願発明は健

康食品であって食品に関する発明である。「医薬品」とは,「人又は動物の疾病の診

断,治療又は予防に使用されることが目的とされている物であって,機械器具,歯

科材料,医療用品及び衛生用品(以下「機械器具等」という。)でないもの(医薬部

外品を除く。」
)(薬事法2項1項2号)であるのに対して,「食品」は,「・・・・・すべ

ての飲食物をいう。ただし,薬事法(・・・・・)に規定する医薬品及び医薬部外品は,

これを含まない」(食品衛生法4条1項)ものであって,医薬品と食品は異なる。



第4 取消事由に対する被告の反論

1 取消事由1(容易想到性判断の誤り)に対して

(1) 構成の容易想到性について

@ 下記Bのとおり。

A 審決は,本願発明を便通改善に関する発明であるとは認定していない。

B 引用発明は,
「血の科学」に関連する作用を有する成分であるシムノール又は

シムノール硫酸エステルと,
「水の科学」に関連する作用を有する成分である大豆イ

ソフラボン又は大豆イソフラボン配糖体とを含有する栄養剤・消化器剤であって,

両成分の相乗作用によって両作用が共に促進され,各種症状が改善され,顕著な疲

労回復効果が得られたものと理解される。引用例1には,その他の成分を追加して

もよいとの記載があるから(【0009】,当業者は,引用発明に,
) 「水の科学」に

関連する作用を促進する他の有効成分を追加することを自然に想起する。




一方,引用例2には,クルクミンを有効成分とする「津液改善剤」が記載されて

いるが,引用例2でいう「津液改善作用」とは,漢方思想における「水(津液)」の

働きを基本とする体内水分の体外への分泌に関連する作用であって,引用例1でい

う「水の科学」に関連する作用と同等と解されるから,クルクミンは,「水の科学」

に関連する作用を促進,改善する成分であるといえる。

上記の引用例1及び引用例2の記載に加えて,クルクミン(ウコンに存在する有

効成分)は,ヒトへの適用実績が豊富にあり,他の有効成分と併用しても安全で汎

用性が高い成分であるという本願出願日当時の技術常識を勘案すれば,引用発明に

追加する成分として引用例2記載の「津液改善剤」であるクルクミンを採用するこ

とは,当業者が容易に想到し得た。

C 引用例1に接した当業者であれば,引用例1に記載された各種症状の改善を

更に高めることを期待して,引用例1にいう「水の科学」に関連する作用すなわち

引用例2にいう「津液改善作用」を有する他の有効成分を更に追加して用いること

を,自然に想起するといえる。

D 引用例2には,カプサイシン,シナピン,クルクミンのいずれもが「津液改

善剤」として明記されており,
「津液改善作用」が最も強い成分だけが引用例2の「津

液改善剤」として認定され,少しでも作用が劣る成分は引用例2の「津液改善剤」

として認定されないというものではない。そうすると,カプサイシン,シナピン,

クルクミンは,いずれも「津液改善作用」を有する有効成分である点で同等であり,

これらのいずれもが引用発明に追加し得る他の有効成分として用いることができる。

E 引用例2の実施例において得られた各種改善作用の程度を示す指標として用

いられた平均評点の数値を検討すると,カプサイシン,シナピン,クルクミンの間

で大きな差はなく,当業者であれば,このような平均評点の数値からみて,クルク

ミンの津液改善作用がカプサイシンあるいはシナピンに比して著しく劣っていると

は解さず,むしろ,クルクミン,カプサイシン,シナピンそれぞれの津液改善作用

は,いずれも同程度であると解するのが相当である。したがって,引用例2の実施




例の平均評点の値を参酌しても,
「津液改善剤」としてクルクミンを用いることを断

念するような事情は全く見当たらない。そして,クルクミンは,ヒトへの適用実績

が豊富にあり,他の有効成分と併用しても安全で汎用性が高い有効成分であるとい

う本願出願日当時の技術常識を勘案すれば,引用発明にクルクミンを追加して用い

た場合に,各有効成分の作用が阻害されたり,重篤な副作用が出るといった配合禁

忌のような悪影響が生じるとは考え難い。

以上のように,引用発明に,引用例2記載のクルクミンを追加して用いることに

ついての阻害要因は見当たらない。

以上のとおり,審決に誤りはない。

(2) 効果の顕著性について

@ 審決は,本願発明を栄養剤に関する発明と認定しており,便通改善に関する

発明であるとは認定していない。

また,本願発明の栄養剤は,中医学の思想を基本とし,人体内の必要な部分によ

り多くの養分を送ることを目指すものであり,血行障害などのために発生したトラ

ブルによって発生する栄養不良を改善するものである。また,引用発明の栄養剤・

消化器剤は,中国伝統医学の思想,すなわち,本願発明と同様に中医学の思想を基

本とし,人体機能発揮のための必要物質を体内各部に供給するものである。したが

って,引用発明における「人体機能発揮のための必要物質」は,本願発明における

「養分」を包含すると解されるので,本願発明の栄養剤と引用発明の栄養剤とは,

いずれも中医学の思想を基本とし,人体内の必要な部分に養分を供給することを目

指すものであるといえる。

そして,本願発明の慢性疲労等の改善効果は,引用発明の疲労回復効果と同質で

ある。

また,クルクミンは,引用例2記載のとおり,中医学の「水の科学」に関連する

作用を促進・改善する有効成分であり,引用発明の2成分と併用しても配合禁忌等

の問題があるとは考え難い。




そうすると,本願発明の栄養剤の効果は,引用例1及び引用例2に記載された事

項から当業者が予測し得る程度のものにすぎない。

A 本願明細書には,本願発明の実施である実施例6の組成からクルクミンのみ

を除いた引用発明の組成に相当する組成により得られる効果が,実施例6の組成か

ら得られる効果と比較して,どの程度の差異があるのかについて,当業者が確認で

きる根拠が何ら記載されていない。また,原告が提出する資料は,次のとおり,発

明の効果を検討するに当たり参酌すべきものでないか,又は本願発明の効果と引用

発明の効果の違いを客観的に確認することができないものである。

[1] 甲6参考資料1(甲6の31〜43頁,三浦於菟=岡田研吉「気血水健康法」

〔冬青社 2005年1月〕抜粋)

上記刊行物は本願出願後2年3か月も経過した後に公知になっているほか,本願

発明の構成からクルクミンを除いた2成分併用である引用発明に相当する場合の効

果を示すデータが記載されておらず,同構成の効果と比較して,クルクミンを含む

3成分併用である本願発明の効果にどの程度の差異が生じるのかについて,当業者

が客観的に判断することはできない。

[2] 甲6参考資料2(甲6の44〜46頁,『カルテ No.』
「 『年齢』『性別』『病

名』『投薬期間』『効果』『副作用』が記載されているデータ一覧」)

上記書面には,その作成時期も,用いた試料も記載されておらず,どのような有

効成分により得られた結果であるかが不明であるから,そもそも参酌できるような

ものではない。

仮に,甲6参考資料3(甲6の47頁,医師A作成の平成19年9月22日付け

証明書)から甲6参考資料2が本願発明の3成分を含む試料を用いて得られたデー

タであることが認められたとしても,甲6参考資料3は本願出願後4年11か月も

経過した後に作成された証明書であるほか,甲6参考資料2の作成時期は不明であ

り,同資料2には,本願発明の構成からクルクミンを除いた2成分併用である引用

発明に相当する場合の効果を示すデータが記載されておらず,同構成の効果と比較




して,クルクミンを含む3成分併用である本願発明の効果にどの程度の差異が生じ

るのかについて,当業者が客観的に判断することはできない。

[3] 甲6参考資料4(甲6の48頁,医師A作成の平成20年4月15日付け証

明書)

上記書面は本願出願後5年6か月も経過した後に作成された証明書であるほか,

甲6参考資料2を引用するものであるから,甲6参考資料3と同様の問題点を有す

る。

[4] 甲6参考資料5(甲6の49〜51頁,
「(社)日本東洋医学会 第65回 関

東甲信越支部学術総会 平成20年10月26日(日) アピオ甲府」と題する冊

子中の「発表A−@−4」と題する書面)

上記書面は本願出願後6年も経過してから公知になったものであるほか,同書面

中の「使用薬剤」に本願発明の有効成分の1つであるシムノール又はシムノール硫

酸エステルを含有するのか否かは不明であるし,この「使用薬剤」が本願発明の3

成分をすべて含有するものであったとしても,本願発明の構成からクルクミンを除

いた2成分併用である引用発明に相当する場合の効果を示すデータが記載されてお

らず,同構成の効果と比較して,クルクミンを含む3成分併用である本願発明の効

果にどの程度の差異が生じるかについて,当業者が客観的に判断することはできな

い。

なお,医療現場での使用に際しては,併用する有効成分の種類や数だけでなく,

単位製剤当たりの有効成分の量,製剤の価格設定,医療業界への宣伝,製剤の需要

動向等,他の要因も考慮されるものであるから,引用発明の構成にクルクミンを加

えて3成分併用とした本願発明が,当業者が予測し得る範囲を超えるほどの効果を

示さなかったとしても,当業者が予測し得る程度の効果を示していれば,医療現場

では本願発明が使用され,引用発明は使用されない可能性がある。本願発明が医療

現場で実際に使用されていることを根拠として,本願発明の効果が引用例1及び引

用例2のそれぞれに記載された事項から当業者が予測し得る範囲を超えるほどに格




別顕著な効果を示すものであると推認し得るとはいえない。



2 取消事由2(先願発明との同一性に関する判断の誤り)に対して

本願明細書には,本願発明の栄養剤が医薬品に限定され,食品を含まないことを

定義する記載はないし,本願出願当時,栄養剤であっても所望により医薬品と食品

とに使い分けがされていたから,
「栄養剤」という記載を根拠に本願発明が医薬品に

限定されるとはいえない。また,本願明細書には,本願発明の栄養剤の剤型として,

顆粒剤,錠剤,ハードカプセル,ソフトカプセル,ドリンク剤,注射剤が記載され

ているところ,本願出願日当時,食品の一種である栄養補助食品の剤型として,ソ

フトカプセル,ハードカプセル,錠剤,丸剤,顆粒剤,ドリンク剤等が用いられて

いたのだから,剤型を参酌しても,本願発明の栄養剤が医薬品のみに限定されると

はいえない。

そして,本願発明の「栄養剤」と先願発明の「健康食品」とは,それぞれの有効

成分が重複していることに加えて,いずれも「栄養を補給するための組成物」であ

る点で重複している。
したがって,審決に誤りはない。



第5 当裁判所の判断

1 取消事由1(容易想到性判断の誤り)について

(1) 認定事実

ア 本願明細書の記載

本願発明は,前記第2,2のとおりであるところ,平成24年7月11日付け手

続補正書による補正後の明細書(本願明細書)には,次の記載がある。(甲1,9)


「【0001】【発明の属する技術分野】この出願発明は新しい栄養剤,消化器剤に関する。」

「【0002】【従来の技術】・・・・・





ところで,気とは人体の総ての機能を指すがその機能は大別して2種に分かれる。その一つ

は自律神経によって支配されている機能で各臓器,ホルモン分泌,血管などのもつ機能である。

今一つは脳思考の機能と脳思考によって発せられる指令によって動く随意筋などの機能である。

中医学で補気,理気で表現されている気は前者の自律神経支配の機能のみを指すことは早

くから指摘されていた。・・・・・私達は補気薬が体内血液を臓器などに偏在させることを見出して

いるが,これも延髄の重要な作用の一つである血管の収縮,拡張の作用が働いて自律神経支配

系に向う血管を拡張し,脳や脳支配系器官に向う血管を収縮することによって達成し,補気薬

の副次的な作用として必要な部分により多くの養分を送ることを目指したものである。」

「【0003】【発明が解決しようとする課題】年齢を重ねるにしたがって,いろいろな症状

が発生する。

これらの障害の原因は脳指令の局所への伝達の不十分によるものであり,血行障害などのた

めに発生したトラブルである。

この出願発明は,このようなトラブルによって発生する栄養不良,消化器不全を治療するこ

とを目的とする。」

「【0004】【課題を解決するための手段】この出願発明は,A. シムノールまたはシムノ

ール硫酸エステル,B.大豆イソフラボンまたは大豆イソフラボン配糖体,C.クルクミンのA,

BおよびCの成分を含むことを特徴とする栄養剤に関する。」

「【0005】【発明の実施の形態】この出願発明は,辛味物質,苦味物質又は酸味物質が含

まれていればよいが,イソフラボンおよびイソフラボン配糖体が含まれていることが好ましく,

イソフラボンおよびイソフラボン配糖体は,大豆に含まれる大豆イソフラボンおよび大豆イソ

フラボン配糖体がとくに好ましい。」

「【0006】イソフラボンおよびイソフラボン配糖体の一日の投与量は,1〜500mg が

好ましく,5〜200mg がより好ましく,10〜100mg がとくに好ましい。」

「【0007】この出願発明の辛味物質,苦味物質又は酸味物質は,辛味物質であることが好

ましい。

辛味物質は,ウコンのクルクミン,





【化1】




・・・・・であることが好ましく,クルクミンがとくに好ましい。」

「【0008】辛味物質の一日の投与量は,1〜1000mg が好ましく,5〜300mg がよ

り好ましく,10〜70mg がとくに好ましい。・・・・・また,十全大補湯などの扶正の効果を持

つ漢方製剤又は漢方薬との併用のときの一日の投与量は,100〜200mg が好ましい。」

「【0010】シムノールおよび/またはシムノールエステルの一日の投与量は,0.1〜1

00mg が好ましく,0.1〜50mg がより好ましく,0.3〜10mg がとくに好ましい。」

「【0011】その他の成分として,医薬品一般が使用され,ビタミン類,抗生物質,抗ガン

剤,ヘム鉄,プルーンエキス,生薬が使用される。」

「【0018】この出願発明の栄養剤,消化器剤を投与する剤形としては,とくに限定されな

いが,錠剤,粉末剤,固形剤,液剤等の内服薬,座薬,注射薬その他として投与される。

また,乳糖,デンプン等の賦形剤,植物油,その他が使用される。」

「【0025】

実施例6

ソフトカプセル

クルクミン 25mg

シムノール硫酸エステルNa 1mg

大豆イソフラボン 125mg

タラ肝油 80mg

酢酸トコフェロール 5mg

人参エキス 200mg





ミツロウ 55mg

食用油 適量

合計 1200mg

同様に,大豆イソフラボンの代わりに大豆イソフラボン配糖体を使用してソフトカプセル

を製造した。」

「【0043】実施例6のソフトカプセル剤を1日1回服用した。その結果つぎのような効果

がみられた。

74才の女性が16週間服用することにより体力が増強された。精力減退・慢性疲労の72

才の男性が8週間服用することにより改善された。48才の男性が2週間服用することにより

慢性疲労,精力減退が改善された。74才の食欲不振で激痩せし,慢性性疲労,意欲がわかな

い女性が,6週間服用することにより改善された。慢性疲労性症候群の54才の女性が7週間

服用することにより改善された。発作性頭位変換性めまい症の43才の女性が6週間服用する

ことにより改善された。だるさと無気力を訴えていた50才の男性が6週間服用することによ

り改善された。無気力,体力の無さを訴えていた36才の女性が12週間服用することにより

改善された。」



イ 引用例1の記載

引用例1(甲2)には,次の記載がある。


「【特許請求の範囲

【請求項1】シムノールおよび/またはシムノールエステルを含むことを特徴とする栄養剤,

消化器剤。

【請求項2】イソフラボンおよび/またはイソフラボン配糖体を含むことを特徴とする請求

項1に記載の栄養剤,消化器剤。

【請求項3】イソフラボンおよびイソフラボン配糖体が大豆イソフラボンおよび大豆イソフ

ラボン配糖体であることを特徴とする請求項2に記載の栄養剤,消化器剤。」





「【従来の技術】中国伝統医学は身体を常に正常な状態に保つことを一つの基本としているが,

その目的を達成するための『気血水』という概念があり,また,その概念に基づいた具体的な

手段手法もあることは昔から知られていた。しかし,その概念の説明は中国特有の哲学的表現

でなされ,その手段方法としては天然の素材を乾燥したものだけを用いるという科学的文明の

世界では理解され難い概念と受け入れがたい手段手法であったので,貴重な中国伝統医学も中

国以外では殆ど用いられていない医学であった。1999年4月中国の医学機関誌である中国

薬信息雑誌(英文名,Chinese Journal of Information on Traditional Chinese Medicine)の Vol.6 No.4

に,「世人期待的中医薬−論医薬科研的思維与方法学』という一文が発表された。この論文は,


『気血水』の概念に含まれていた科学に関連する部分について世界の共通語である科学の言葉

を用いて説明されたものである。気血水なる概念に含まれていた科学について簡単に説明する

と,
『気』という言葉に含まれている科学とは,人体が持つ総ての機能をしっかりと作動させる

ことであり,
『血』という言葉に含まれている科学とは,それらの機能を発揮するために必要な

物質を血管を通じて体中に供給することであり, 『水』
又, という言葉に含まれている科学とは,

血管で運ばれたそれらの必要物質をさらに血管のない部分にも十分供給することであるが,こ

の時の必要物質の搬路は体の内から外に向かって形成されている水分の流れである。・・・・・この

新しい医学理論は従来,中国伝統医学で素材として用いられた各生薬に含まれているその医学

的理論部分を達成するための有効成分を決定することを極めて容易とし・・・・・た。」

「【0003】
【発明が解決しようとする課題】 総ての人が利用できる栄養剤,消化器剤とし

て最も重要な条件は,製品の価格が少なくとも現在市販されている総合ビタミン剤より廉価で

あることである。この出願発明者は,シムノール(Scymnol)および/またはシムノールエステ

ル(Scymnolester)が血管を通じて人体機能発揮に必要な物質の体内配送を保証するために有効

成分であることを見い出した。また,この出願発明者は,イソフラボンおよびイソフラボン配

糖体,とくに,大豆イソフラボンおよび大豆イソフラボン配糖体が,血管で運ばれた機能発揮

のための必要物質を更に血管のない体内各部へ供給するための手段である体内の水流を促進す

る作用を持つものであることを見い出した。さらに,この出願発明者は,シムノールおよび/

またはシムノールエステルと,イソフラボンおよび/またはイソフラボン配糖体,とくに,大





豆イソフラボンおよび/または大豆イソフラボン配糖体とを併用することにより相乗効果のあ

る優れた栄養剤,消化器剤であることを見い出した。この出願発明は,この新しい医学理論を

基に,古来,中国伝統医学が達成していた効果に近い極めて有効な医薬品を提供することを目

的とする。」

「【0025】この出願発明の目的は,身体を常に正常な状態に保つことによって病気を予防

し,病気に対する自然治癒力を増し,病後の回復を促進することであるが,その医学的データ

を得るためには数万人の被験者と一人の人間の一生に近い長時間が必要でその実現は極めて難

しい。両成分の予備的な使用実験でシムノールおよび/またはシムノールエステル単独摂取者

の数人に血の科学に関連すると思われる飲酒によるトラブルの改善が見られ,大豆イソフラボ

ンおよび大豆イソフラボン配糖体群の単独摂取者の数人に水に含まれる科学に関連すると思わ

れる便通改善が特徴的に見られた。また,さらに,この出願発明の両者併用の効果を立証する

ためにシムノール硫酸エステルナトリウム塩(表でSNaと略称する。,大豆イソフラボンそ


れぞれの単独,シムノール硫酸エステルナトリウム塩と大豆イソフラボンを混合した3種のサ

ンプルを準備して,各々30人の被験者に2か月間服用させた結果は以下の表のようであっ

た。」

「【0026】【表1】




また,シムノール,大豆イソフラボン配糖体についても大豆イソフラボンと同様の結果が得

られた。」





「【0027】この表から明らかなように,大豆イソフラボンとシムノール硫酸Naとを混合

した場合には,大部分が顕著な疲労回復を示しており,この結果は,大豆イソフラボンとシム

ノール硫酸Naとを混合した場合には,大豆イソフラボンとシムノール硫酸Naとを単独で使

用した場合に比べて,各々の単独成分では見られなかった新しい効果があることを示している。

また,シムノール,大豆イソフラボン配糖体についてもシムノール硫酸Na,大豆イソフラボ

ンと同様の結果が得られた。表に現れたこれらの結果は,二つの成分の組み合わせによって,

二つの成分のそれぞれのもつ効果が相乗的に現れたことを示している。」

「【0030】【発明の効果】この出願発明により,病気の予防,自然治癒能力の増強,病後

の回復促進を同時に達成することができる。」



ウ 引用例2の記載

引用例2(甲3)には,次の記載がある。


「【特許請求の範囲
【請求項1】下記一般式(I)で表される化合物及び/又はその生理的に許

容される塩からなる,津液改善剤。

【化1】




[式(I)中,R1,R3 はそれぞれ独立に低鎖長アルキル基,低鎖長アルキルオキシ基,水酸

基又は水素原子を表し,R2 は低鎖長アシルオキシ基又は水酸基を表し,R4 は窒素原子又は芳

香族基を有していてもよいカルボニルアルケニル基もしくはアルケニルカルボニル基を表す。]

【請求項2】前記一般式(I)で表される化合物が,下記一般式(U)で表されるカプサイシン,

下記一般式(V)で表されるシナピン,もしくは下記一般式(W)で表されるクルクミン又はこれら

のアシル化物である,請求項1記載の津液改善剤。





・・・・・

【化4】




【請求項3】請求項1又は2記載の津液改善剤を含有する,経口投与用組成物。

【請求項4】食品である,請求項3記載の組成物。

【請求項5】医薬である,請求項3記載の組成物。

【請求項6】 津液作用の改善に用いられる,請求項3〜5のいずれかに記載の組成物。

【請求項7】 前記津液作用が,・・・・・消化液分泌促進作用,発汗促進作用,便通促進作用,

及び利尿作用からなる群から選ばれる作用である,請求項6記載の組成物。」

「【0002】【従来の技術】漢方思想における気,血,水の考え方は,その薬理作用の捉え

方のユニークさと,漢方薬選択時の合理的な指標であるために,古くより研究されてきた。こ

れらの内,気,血の意味するものについては,多くのことが解明されてきた。例えば,血とは

酸素,栄養等エネルギーを中心とする補給・代謝を表すキーワードであり,気とは生命活動の

恒常性機構の活動状況と生命活動の原動力の状況を表すキーワードであることが知られている。

【0003】しかし,水(津液)の働きについては老廃物の代謝・排泄作用のみしか知られ

ておらず,気・血・水の論理体型において遅れて認識された為,その真の作用(津液作用)の

解明は未完であった。また,津液作用と現代医学で認識されている種々の薬理作用等との関係

や津液の現代医学における役割などはあまり知られておらず,現代医学の分野における津液作

用の解明及び津液作用の改善をもたらす食品や医薬等の開発が望まれていた。」

「【0004】【発明が解決しようとする課題】本発明はこのような状況を踏まえてなされた

ものであり,津液の真の作用を明らかにし,津液作用を改善しうる物質及びそれを含有する食

品,医薬等の経口投与用組成物を提供することを課題とする。」





「【0005】【課題を解決するための手段】本発明者等は,このような状況に鑑み,津液の

真の作用を求めて鋭意研究を重ねた結果,津液作用が,ある種の物質の働きによって水分の体

外への分泌を司る器官を刺激し,体内水分の体外への分泌を促進させる作用を意味しているこ

とを見いだした。そして,そのような分泌器官を刺激し津液作用を促進・改善しうる物質であ

る津液改善剤を見出し,本発明を完成した。」

「【0010】本発明の津液改善剤とは,水分の体外への分泌を司る器官を刺激して体内水分

の体外への分泌を促し津液作用を促進・改善する作用,すなわち津液改善作用を有する物質を

いう。本発明者らは,津液作用が真皮から表皮への水分分泌を促進し表皮に十分な水分を保持

させることによって起こる・・・・・各種皮膚疾患治療作用・・・・・胃壁,腎臓,腸管での水分分泌を

促進させることによって起こる消化液分泌促進作用,利尿作用,便通促進作用にかかわる作用

であることを見出した。」

「【0024】津液作用は,その発現形態としてしゃ下作用,利水作用,補陰作用,消導作用

として生体に発現することが知られている。これらの作用を有する漢方生薬としては,しゃ下

作用であれば,ダイオウ,バンシャヨウ,ロカイ,マシニン,ケンゴシ,カンスイ,ゲンカ,

ゾクズイシ,ウキュウコンピ等が知られており,利水作用を有する漢方生薬としては,チョレ

イ,ブクリョウ,タクシャ,インチンコウ,ヨクイニン,トウカニン,ジフシ,トウキヒ,キ

ンセンソウ等が知られており,補陰作用を有する漢方生薬としては,シャジン,セイヨウジン,

テンモンドウ,バクモンドウ,セッコク,ギョクチク,ヒャクゴウ,ソウキセイ,カンレンソ

ウ,ジョテイシ,ゴマ,コクズ,キバン,ベッコウ等が知られており,消導作用を有する漢方

生薬としては,サンザシ,クレンコンピ,ヒシ,カクシツ,ライガン,ビンロウジ,ナンカシ,

タイサン等が知られている。」

「【0028】(2)本発明の経口投与用組成物

本発明の経口投与用組成物は,上記津液改善剤から選ばれる1種乃至は2種以上を含有する

ことを特徴とする。」

「【0032】【実施例1〜5】<配合例>表1に示す成分を用いその処方に従って錠剤を作

成した。・・・・・尚,表1中の数値の単位は重量部である。」





「【0033】【表1】




「【0038】
実施例16】<試験例1:美肌改善作用>・・・・・上記実施例1〜3の錠剤(1

g 錠)を・・・・・評価した。評価の基準は,非常に改善した(評点5)〜改善しない(評点0),で

ある。・・・・・結果を平均評点として・・・・・示す。」

「【0046】
実施例20】 <試験例5:胃液分泌促進作用>麻酔犬を用いて胃液の分泌促

進を見た。即ち,ペントバルビツールで麻酔した犬の胃に投与装置付き内視鏡を導入し,本発

明の津液改善剤10mg を生理食塩水10ml に溶解又は分散させて投与し,その前後の胃液の分

泌を観察した。対照は生理食塩水のみを用いた。観察の基準は,++(評点4)
:対照に比べて

著しく胃液分泌が増大,+(評点2):対照に比べて胃液分泌が増大,±(評点1):対照に比

べてやや分泌が増大, (評点0)
− :分泌が対照に比べて増大せずであった。結果を表5に示す。

これより,本発明の津液改善剤は胃液分泌促進作用に優れることがわかる。

【0047】【表8】
表8
┌────────┬──────┐
│ 検 体 │ 平均評点 │
├────────┼──────┤
│カプサイシン │ 2.7 │
│シナピン │ 2.6 │
│クルクミン │ 2.5 │
└─ ──────┴──────┘ 」


なお,【0046】の「表5」は,【表8】を示すものと認められる。





「【0048】
実施例21】<試験例6:便通・排尿の促進作用> ICRマウスを代謝ケー

ジで飼育した。投与群は上記実施例1〜3の組成物を1g/1匹朝夕2回0.5g ずつ経口投与し

た。夕方の投与後24時間の尿と糞の量をモニターした。コントロール群は検体を投与しなか

った。各サンプル1群10匹とした。検体投与群の尿量の総和をコントロール群の尿量の総和

で除した値と検体投与群の糞量の総和をコントロール群の糞量の総和で除した値とを表6に示

す。これより本発明の一般式(I)で表される化合物及び/又はその生理的に許容される塩は便通

促進作用及び排尿促進作用(利尿作用)に優れることがわかる。

【0049】【表9】
表9
┌────┬──────┬──────┐
│ 検体 │ 尿量比 │ 糞量比 │
├────┼──────┼──────┤
実施例1│ 1.12 │ 1.21 │
実施例2│ 1.07 │ 1.24 │
実施例3│ 1.19 │ 1.12 │
└────┴──────┴──────┘ 」


なお,【0048】の「表6」は【表9】を示すものと認められる。



「【0050】【発明の効果】本発明によれば,・・・・・消化液分泌促進作用,発汗促進作用,


便通促進作用,及び利尿作用からなる群から選ばれる津液作用を改善する効果を有する津液改

善剤を提供することができる。」



エ 本願発明について

上記アによれば,本願発明は,加齢による各種症状により発生した栄養不良を治

療するために, シムノール又はシムノール硫酸エステルと,大豆イソフラボン又は

大豆イソフラボン配糖体と,クルクミンとを含む構成の栄養剤を提供し,その服用

による効果として,慢性疲労,精力減退,食欲不振,意欲減退等の改善がされたと

する発明である。
(2) 構成の容易想到性について




ア 検討

上記(1)イのとおり,引用例1には,中国伝統医学の「気血水」の概念における「血

の科学」に関連する作用を有するとするシムノール又はシムノール硫酸エステルと,

「水の科学」に関連する作用を有するとする大豆イソフラボン又は大豆イソフラボ

ン配糖体とを組み合わせることで,
「血の科学」に関連する作用と「水の科学」に関

連する作用とがそれぞれ増強され顕著な疲労回復効果が示されたとする栄養剤が開

示されている。

一方,上記(1)ウのとおり,引用例2には,次の一般式(I)で表される化合物が,

漢方思想の「気血水」の考え方における「津液作用」を改善する性質を有し,津液

改善剤として使用できることが記載され,その一般式(T)に含まれるカプサイシン,

シナピン又はクルクミンのそれぞれを投与した結果,胃液分泌促進,便通・排尿促

進等の効果があったことが具体的に記載されている。




引用例1に記載された「水の科学」に関連する作用と引用例2に記載された「津

液作用」とは,共に中国伝統医学の「気血水」の概念に基づくものであり,引用例

1の「水の科学」に関連する作用が「血管で運ばれた機能発揮のための必要物質を

更に血管のない体内各部へ供給するための手段である体内の水流を促進する作用」

(【0003】)とされ,引用例2の「津液作用」が「水分の体外への分泌を司る器

官を刺激し,体内水分の体外への分泌を促進させる作用」【0005】
( )とされてい

ることから,両者は同等の作用を有するものに対応することが明らかである。した

がって,引用例2に記載された「津液改善剤」は,引用例1に記載された「水の科

学」に関連する作用を有する成分に相当する。

そして,引用例2には「津液作用」を有する生薬が多数列挙され(【0024】,





「津液改善剤」を複数用いることが記載されているから(【0028】,引用例2記


載の「津液改善剤」は「津液作用」「水の科学」に関連する作用)を有する成分を


複数併せて用いることが予定されているといえ,一方,引用例1にはシムノール,

シムノール硫酸エステル,大豆イソフラボン又は大豆イソフラボン配糖体以外のそ

の他の成分を混合してよいことが記載されている(【0009】。そうであれば,引


用発明の「水の科学」に関連する作用を更に増強するために,引用例2に記載され

た「津液改善剤」を引用発明に組み合わせることとし,引用例2において実際に作

用が確認されたとするカプサイシン,シナピン及びクルクミンの3種のうちからク

ルクミンを選択することは,当業者が容易になし得る程度のことであり,格別の創

意工夫を要しない。

イ 原告の主張について

@ 原告は,引用発明の栄養剤に栄養剤でない引用発明2を組み合わせる動機付

けはない旨を主張する。

しかしながら,引用例2の記載の組成物は,
「【0001】
【発明の属する技術分野】

本発明は,津液作用の改善効果を有する津液改善剤,及びそれを含有する食品,医

薬等の経口投与用組成物に関する」ものであって,引用発明の栄養剤を含むもので

あるから,引用例2に「栄養剤」と記載されていないことは引用発明と引用発明2

とを組み合わせることの支障になるものではない。

原告の上記主張は,理由がない。

A 原告は,便通改善効果を高めるには当業者は下剤を加える旨を主張する。

しかしながら,審決がその判断において便通改善効果に触れたのは,引用例1の

「水の科学」に関連する作用と引用例2の「津液作用」との同一性を基礎付ける具

体例として摘示したまでのことであり,便通改善効果のみに着目して引用発明と引

用発明2との関連性を導いたものではなく,いわんや本願発明,引用発明及び引用

発明2を専ら便通改善効果に関する発明と認定したものでもない。

原告の上記主張は,審決を正解しないものであり,理由がない。




B 原告は,引用発明2の記載からクルクミンを引用発明と組み合わせる動機付

けがない旨を主張するが,上記アに照らして,上記原告の主張は理由がない。

C 原告は,シムノール又はシムノール硫酸エステルが「津液改善剤」とすれば,

引用発明にはシムノール又はシムノール硫酸エステルが含まれているから,更に加

えて「津液改善剤」であるクルクミンを引用発明に加える動機付けがない旨を主張

するが,審決は,シムノール又はシムノール硫酸エステルが「津液改善剤」である

とは認定していないのであり(審決8頁12〜15行目は,シムノール又はシムノ

ール硫酸エステルが「津液作用」を増強させるとしたまでであり,シムノール又は

シムノール硫酸エステルが「津液改善剤」であるとはしていない。,上記原告の主


張は,前提を誤認するものであり,失当である。

D 原告は,引用例2の「津液改善剤」の中からクルクミンを選択する動機付け

がない旨を主張する。

そこで,引用例2においてカプサイシン,シナピン,クルクミンについて示され

た各種「津液改善作用」のデータを検討すると,上記(1)ウのとおり,対照例との比

較相対的4段階評価において,胃液分泌促進作用について,カプサイシンを含む実

施例の平均評点が2.7,シナピンを含む実施例の平均評点が2.6,クルクミンを

含む実施例の平均評点が2.5であって(【0046】
【0047】,クルクミンの効


果はカプサイシンやシナピンを上回るものではないが,それらと大差はなく,尿量

比及び糞量比を調べた便通・排尿の促進作用に関しても大同小異の結果である 【0


048】
【0049】。このとおり,引用例2に記載されたデータからクルクミンが


劣ったものとは認められず,カプサイシン,シナピン,クルクミンは同等の効果を

持ったものと理解される。したがって,具体的に効果が示された上記3種のうち,

殊更にクルクミンを引用発明との組合せの候補から除外すべき事情はなく,いずれ

を引用発明と組み合わせるかは,当業者が任意に設定できることである。

したがって,原告の上記主張は,理由がない。

E 原告は,引用例2において,具体的な効果が示されたカプサイシン,シナピ




ン,クルクミンの3つの中で最も劣ったクルクミンを選択することには阻害要因が

ある旨主張するが,その主張に理由がないことは上記Dのとおりである。

また,原告は,引用発明にクルクミンを組み合わせたときに配合禁忌の問題が生

じないとはいえないから,阻害事由があるとの趣旨の主張をする。

しかしながら,[1]引用例1には「【0009】この出願発明は,シムノールおよ

び/またはシムノールエステル,とくに,シムノールおよび/またはシムノールエ

ステルと,イソフラボンおよび/またはイソフラボン配糖体が含まれていればよい

が,その他の成分として,医薬品の場合には,医薬品一般が使用され,ビタミン類,

抗生物質,抗ガン剤,ヘム鉄,プルーンエキス,生薬としては自律神経に支配され

る器官,腺,血管の機能を賦活するもの,消化を助けるものその他を混合してもよ

い。」と広く併用できる他の成分が記載されているところ,[2]クルクミンは,伝統

的な生薬であってカレー粉の原料(ターメリック)や各種食品の着色剤としても用

いられるウコンの中に存在する有効成分であり,ウコン又はクルクミンがヒトへの

適用実績を豊富に有し,他の有効成分と併用しても安全で汎用性が高い有効成分で

あるということは本願出願日当時の技術常識であると認められる(乙1,2)。した

がって,引用例1に接した当業者は,引用発明の2成分に更にクルクミンを追加し

て用いた場合に,各有効成分の作用が阻害されたり,重篤な副作用が出るといった

配合禁忌のような悪影響が生じるとは考えない。

したがって,原告の上記主張は,理由がない。

(3) 効果の顕著性について

@ 原告は,引用例1及び引用例2に記載された便通改善に関する効果からは,

本願発明の栄養剤の慢性疲労や精力減退の改善,体力増強などの効果を予測するこ

とはできない旨を主張する。

しかしながら,クルクミンを含まないとの点では本願発明と相違するものの,本

願発明と同様の栄養剤である引用発明においては,便通改善効果のみならず,顕著

な疲労回復,病気の予防,自然治癒能力の増強,病後の回復促進の効果を有すると




され(引用例1【0027】【0030】,さらに,クルクミン等の「津液改善剤」


である引用例2の組成物には,消化液分泌促進作用,利尿作用,便通促進作用等の

津液作用を広く改善したとされている(【0010】【0046】〜【0050】。


したがって,本願発明の上記効果は,引用例1及び引用例2の記載に基づいて当業

者が予測し得る範囲内のものといえる。

原告の上記主張は,前提を誤認するものであり,理由がない。

A 原告は,甲第6号証の記載又は医療現場で実施されていること自体から,本

願発明には引用発明から予測できない優れた効果がある旨を主張する。

まず,発明が実際に用いられることはその効果の大小によってのみ決せられるこ

とではなく,本願発明が実施されたことが直ちに引用発明及び引用発明2に比して

本願発明の効果が顕著であることを明らかにするものではなく,医療現場で実施

れていることから本願発明に顕著な効果がある旨の主張部分は失当である。

次に,甲第6号証について検討するも,甲6参考資料1から甲6参考資料5まで

(これに関連する甲8号証の記載〔45頁〕 及び甲第17号証から甲第20号証ま


でを含む。に基づいて認定できることは,
) シムノール又はシムノール硫酸エステル,

大豆イソフラボン又は大豆イソフラボン配糖体,並びにクルクミンの3成分を併用

する本願発明の構成が一定の効果を示したことだけである。したがって,上記各証

拠は,本願発明が,クルクミンを除く,シムノール又はシムノール硫酸エステル並

びに大豆イソフラボン又は大豆イソフラボン配糖体の2成分を併用する引用発明に

対して,クルクミンを加えて上記3成分を併用する場合に予測される効果と比較し

て,予測されないどのような顕著な効果を有するのかについてを客観的に明らかに

するところはない。

したがって,原告の上記主張は,理由がない。

(4) まとめ

以上のとおりであるから,取消事由1は理由がない。





第6 結論

以上によれば,本願発明と先願発明との同一性について判断するまでもなく,審

決の結論には誤りがないことが明らかである。

よって,主文のとおり判決する。



知的財産高等裁判所第2部




裁判長裁判官

清 水 節




裁判官
中 村 恭




裁判官

中 武 由 紀