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事件 |
平成
25年
(行ケ)
10103号
審決取消請求事件
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裁判所のデータが存在しません。 | |
裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2013/11/21 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
判例全文 | |
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判例全文
平成25年11月21日判決言渡 平成25年(行ケ)第10103号 審決取消請求事件 口頭弁論終結日 平成25年11月7日 判 決 原 告 東京エレクトロン株式会社 訴 訟 代 理 人 弁 理 士 高 山 宏 志 丸 山 幸 雄 被 告 特 許 庁 長 官 指 定 代 理 人 土 屋 知 久 神 悦 彦 樋 口 信 宏 堀 内 仁 子 主 文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事 実 及 び 理 由 第1 原告の求めた判決 特許庁が不服2012−7851号事件について平成25年2月25日にした審 決を取り消す。 第2 事案の概要 本件は,特許出願拒絶審決の取消訴訟である。争点は,補正についての独立特許 要件の有無,補正前発明について進歩性の有無である。 1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成18年5月18日,発明の名称を「誘導結合プラズマ処理装置およ びプラズマ処理方法(平成23年9月1日付け補正により「誘導結合プラズマ処理 装置,誘導結合プラズマ処理方法およびコンピュータ読取り可能な記憶媒体」と補 正。甲12)とする発明につき,特許出願(特願2006−139042号,特開 2007−311182号。甲3,4)をしたが,平成24年2月2日付けで拒絶 査定を受けた(甲14)。そこで,原告は,同年4月27日,これに対する不服の 審判を請求すると同時に特許請求の範囲の変更を含む本件補正をした(甲16)。特 許庁は,平成25年2月25日,本件補正を却下した上,「本件審判の請求は,成 り立たない。」との審決をし,その謄本は同年3月12日,原告に送達された。 2 本願発明の要旨 (1) 本件補正後の請求項1(補正発明) 「被処理基板を収容してプラズマ処理を施す処理室と, 前記処理室内で被処理基板が載置される載置台と, 前記処理室内に処理ガスを供給する処理ガス供給系と, 前記処理室内を排気する排気系と, 前記処理室の外部に誘電体部材を介して配置され,整合器を介して高周波電源に 接続されて高周波電力が供給されることにより前記処理室内にそれぞれ異なる電界 強度分布を有する誘導電界を形成する複数のアンテナ部を有する高周波アンテナと, 前記各アンテナ部を含むアンテナ回路のうち少なくとも一つに接続され,その接 続されたアンテナ回路のインピーダンスを調節するインピーダンス調節手段と を具備し, 前記インピーダンス調節手段によるインピーダンス調節により,前記複数のアン テナ部の電流値を制御し,前記処理室内に形成される誘導結合プラズマのプラズマ 密度分布を制御するとともに, アプリケーションごとに最適なプラズマ密度分布が得られる前記インピーダンス 調節手段の調節パラメータが予め設定され,所定のアプリケーションが選択された 際にそのアプリケーションに対応する前記インピーダンス調節手段の調節パラメー タが予め設定された最適な値になるように前記インピーダンス調節手段を制御する 制御手段をさらに有することを特徴とする誘導結合プラズマ処理装置。(下線部が 」 補正箇所) (2) 本件補正前の請求項1(補正前発明) 「被処理基板を収容してプラズマ処理を施す処理室と, 前記処理室内で被処理基板が載置される載置台と, 前記処理室内に処理ガスを供給する処理ガス供給系と, 前記処理室内を排気する排気系と, 前記処理室の外部に誘電体部材を介して配置され,高周波電力が供給されること により前記処理室内にそれぞれ異なる電界強度分布を有する誘導電界を形成する複 数のアンテナ部を有する高周波アンテナと, 前記各アンテナ部を含むアンテナ回路のうち少なくとも一つに接続され,その接 続されたアンテナ回路のインピーダンスを調節するインピーダンス調節手段と を具備し, 前記インピーダンス調節手段によるインピーダンス調節により,前記複数のアン テナ部の電流値を制御し,前記処理室内に形成される誘導結合プラズマのプラズマ 密度分布を制御するとともに, アプリケーションごとに最適なプラズマ密度分布が得られる前記インピーダンス 調節手段の調節パラメータが予め設定され,所定のアプリケーションが選択された 際にそのアプリケーションに対応する前記インピーダンス調節手段の調節パラメー タが予め設定された最適な値になるように前記インピーダンス調節手段を制御する 制御手段をさらに有することを特徴とする誘導結合プラズマ処理装置。」 3 審決の理由の要点 (1) 引用発明1について 引用例1(特開2000−323298号公報・甲1)には,以下の引用発明1 が記載されている。 「内部にプラズマ生成部を形成する絶縁材料で成る放電部(2a)と,被処理物 である試料,例えば,ウエハ(13)を配置するための電極が設置された処理部(2 b)とから成る真空容器(2)を有し, 放電部の外側には整合器(マッチングボックス) (3)を介して高周波電源(10) に直列に接続されているコイル状の誘導結合アンテナが配置されており, 該誘導結合アンテナは,第1の誘導結合アンテナ(1a)と第2の誘導結合アン テナ(1b)の二系統を上下に設置し,並列に接続したものであって,第1の誘導 結合アンテナには直列にバリコン(16)が接続され, 真空容器内にはガス供給装置(4)から処理ガスが供給され,真空容器内は排気 装置(7)によって所定の圧力に減圧排気され, バリコンでインピーダンスの値を変化させることで二系統の誘導結合アンテナに 流れる高周波電流の大きさを制御することによりプラズマ分布を制御することがで きる, プラズマ処理装置。」 (2) 独立特許要件について 補正発明は,引用発明1及び引用例2(特開2003−179045号公報,甲 2)に記載された引用発明2に基づいて,本件出願当時,当業者が容易に発明をす ることができたもので,進歩性を欠く。 ア 補正発明と引用発明1との一致点と相違点は,次のとおりである。 【一致点】 「被処理基板を収容してプラズマ処理を施す処理室と, 前記処理室内で被処理基板が載置される載置台と, 前記処理室内に処理ガスを供給する処理ガス供給系と, 前記処理室内を排気する排気系と, 前記処理室の外部に誘電体部材を介して配置され,整合器を介して高周波電源に 接続されて高周波電力が供給されることにより前記処理室内にそれぞれ異なる電界 強度分布を有する誘導電界を形成する複数のアンテナ部を有する高周波アンテナと, 前記各アンテナ部を含むアンテナ回路のうち少なくとも一つに接続され,その接 続されたアンテナ回路のインピーダンスを調節するインピーダンス調節手段と を具備し, 前記インピーダンス調節手段によるインピーダンス調節により,前記複数のアン テナ部の電流値を制御し,前記処理室内に形成される誘導結合プラズマのプラズマ 密度分布を制御する誘導結合プラズマ処理装置。」 【相違点】 補正発明は「アプリケーションごとに最適なプラズマ密度分布が得られる前記イ ンピーダンス調節手段の調節パラメータが予め設定され,所定のアプリケーション が選択された際にそのアプリケーションに対応する前記インピーダンス調節手段の 調節パラメータが予め設定された最適な値になるように前記インピーダンス調節手 段を制御する制御手段」を有しているのに対して,引用発明1がそのような制御手 段を有するかどうか不明な点。 イ 相違点に関する審決の判断は,以下のとおりである。 引用例2には,プラズマ処理装置のインピーダンス整合器を,プロセスごとに異 なるインピーダンスに整合させるために「各プロセスに対応して予め定めた,RO M等に記憶されている制御データを読み出して可変コンデンサによりインピーダン スを調整するインピーダンス制御回路」(引用発明2)が記載されている。 引用発明2と上記相違点に係る構成を対比すると,引用発明2の「プロセス」, 「調 節パラメータ」「インピーダンス調節手段」 「各プロセスに対応して予め定めた, , , ROM等に記憶されている制御データ」及び「インピーダンス制御回路」は,それ ぞれ,相違点に係る構成の「アプリケーション」, 「制御データ」, 「可変コンデンサ」, 「アプリケーションごとに最適なプラズマ密度分布が得られる前記インピーダンス 調節手段の調節パラメータ」及び「インピーダンス調節手段を制御する制御手段」 に相当する。 してみると,引用発明2は,上記相違点に係る構成の「所定のアプリケーション が選択された際にそのアプリケーションに対応する前記インピーダンス調節手段の 調節パラメータが予め設定された最適な値になるように前記インピーダンス調節手 段を制御する制御手段」という構成を有している。 引用発明2は,インピーダンス調整に際してごく普通に用いられる可変コンデン サを用いたものであり,引用発明2がインピーダンス整合器に限らず,広くインピ ーダンス調整のために用いることが可能であることは,当業者にとって自明である。 そして,引用発明1がウエハを処理するための装置であることを考慮すれば,引 用発明1が「バリコンでインピーダンスの値を変化させることで」 「プラズマ分布を 制御する」のは,アプリケーションごとに最適なプラズマ密度分布が得られるよう にインピーダンスを調整するものであることは明らかである。そのための制御手段 として引用発明2を用いることに,格別の技術的困難性も阻害要因もない。 そして,補正発明全体の効果も,引用発明1及び引用発明2から当業者が予測し 得る範囲のものであって格別なものではない。 したがって,補正発明は,引用発明1及び引用発明2に基づいて当業者が容易に 発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願 の際独立して特許を受けることができないものである。 (3) 補正前発明の容易想到性について 補正前発明は,補正発明から「整合器を介して高周波電源に接続されて」 (高周波 電力が供給される。)という特定事項を削除したものである。 そうすると,補正前発明の発明特定事項をすべて含み,更に限定したものに相当 する補正発明が,引用発明1及び引用発明2に基づいて当業者が容易に発明をする ことができたものであるから,補正前発明も,同様の理由により,当業者が容易に 発明をすることができたものである。 第3 原告主張の審決取消事由 1 取消事由1(補正発明についての容易想到性判断の誤り) (1) 補正発明と引用発明1の相違点判断の誤りについて ア 引用発明1では,補正発明が有する「アプリケーションごとに最適なプ ラズマ密度分布が得られる前記インピーダンス調節手段の調節パラメータが予め設 定され,所定のアプリケーションが選択された際にそのアプリケーションに対応す る前記インピーダンス調節手段の調節パラメータが予め設定された最適な値になる ように前記インピーダンス調節手段を制御する制御手段」は,現実に開示及び示唆 されていない。 引用例1の段落【0066】には,プロセスレシピに関する記載があるが,単に プロセスレシピの存在が記載されているにすぎず,補正発明における制御手段の具 体的制御内容が全く記載されていないのであるから,引用発明1には,補正発明に おける制御手段の構成の存在が確認できないのであり,引用発明1には,当該構成 が存在しないというほかはない。 イ 補正発明は,引用発明1には存在しない上記の制御手段を有することに よって,アンテナ回路のインピーダンスを調節するインピーダンス調節手段の調節 パラメータを選択するという簡易な操作のみで,選択したアプリケーションにおい て最適なプラズマ密度分布が得られ,選択したアプリケーションにおいて最適なプ ラズマ処理を行えるという,引用発明1では得られない顕著な効果を奏するもので ある。 事実,補正発明によれば,異なるアプリケーションを同一処理チャンバーで行う 場合(例えば,タングステンなどの高融点金属のエッチング処理を行った後,フォ トレジストのアッシング処理を行う場合;甲3の段落【0050】参照),これら複 数のアプリケーションに最適な調整パラメータが予め設定されている結果,アプリ ケーション変更時に制御手段が調整パラメータを自動的に選択することにより,特 別のプラズマを調整する工程を経ることなく次のアプリケーションを実行すること ができる。これに対して,引用例1では,段落【0066】〜【0068】【図2 , 4】に記載されているように,異なるアプリケーションの間にプラズマ分布調整す るための工程31a,31b,31cを挿入しているのであるから,補正発明にお いて制御手段を有する効果は顕著である。 (2) 引用発明2に関する対比判断の誤りについて 以下のとおり,引用発明2は, 「アプリケーションごとに最適なプラズマ密度分布 が得られる前記インピーダンス調節手段の調節パラメータが予め設定され,所定の アプリケーションが選択された際にそのアプリケーションに対応する前記インピー ダンス調節手段の調節パラメータが予め設定された最適な値になるように前記イン ピーダンス調節手段を制御する制御手段」との構成を有しておらず,引用発明2が この構成を有するとした審決の判断は誤りである。 ア 引用発明2では,プラズマ負荷のインピーダンスを出力インピーダンス に整合させるために,インピーダンス整合器のインピーダンスを可変コンデンサや インダクタにより調整しており,インピーダンス制御回路により調整されるインピ ーダンスは,与えられたプラズマ負荷のインピーダンスに対して反射波電力が最小 となるように変化させるものであり,しかも,引用発明2におけるインピーダンス 整合器のインピーダンスは,出力インピーダンスと負荷のインピーダンスを見かけ 上一致させるものにすぎず,プラズマ密度分布とは無関係である。 これに対し,補正発明において調整すべきインピーダンスは,各アンテナ部を含 むアンテナ回路のインピーダンスであり,このインピーダンスを変化させることに より,アンテナ回路への電流分配比が変化し,プラズマ密度分布が変化するもので ある。 したがって,補正発明のインピーダンスは,プラズマ処理の際のプラズマ密度分 布に直接寄与するものであり,引用発明2における整合器のインピーダンスとは全 く異なるものである。 イ 引用発明2のインピーダンス制御回路46は,各プロセス条件に対応し たインピーダンス整合点が存在すると予測される範囲における可変コンデンサC1, C2の容量を,各プロセスの初期設定段階でインピーダンスを整合させるための初 期値として記憶し,実際のインピーダンス調整においては,その初期値として記憶 されたC1,C2の容量であるD1,D2の付近において全可動範囲よりも狭く限 定された範囲で変動させてインピーダンス整合器34のインピーダンスを調整し, インピーダンス整合点に到達させる。したがって,引用発明2では,インピーダン ス制御回路46に記憶されているのはインピーダンス整合のための初期値にすぎず, その初期値から所定の範囲で変動させて整合するインピーダンスに調整しているの であり,その点,アプリケーションごとに最適なプラズマ密度分布が得られる調節 パラメータの値自体が予め設定されている補正発明とは明らかに異なっている。つ まり,補正発明では,制御手段は,各アンテナ部を含むアンテナ回路に対する電流 分配が最適なプラズマ密度分布となるように直接的に一つの値のインピーダンスを 与える調整パラメータを設定するのに対し,引用発明2のインピーダンス制御回路 では,直接的なインピーダンス値を設定するのではなく,整合状態に至り得る特定 の範囲で変動し得るインピーダンスの初期値を設定するにすぎない。 したがって,補正発明の制御手段に設定される調整パラメータと,引用発明2の インピーダンス制御回路に記憶される制御データとは本質的に相違している。 ウ また,一般的に「プロセス」と「アプリケーション」とがしばしば同義 語として扱われることがあるが,引用発明2では,ある条件のプロセスが与えられ た際に,そのプロセスのインピーダンスの整合点が存在すると予測される範囲にお ける可変コンデンサの容量の初期値が記憶されており,そのプロセスのプロセス条 件は予め決まっていて,調整されるインピーダンスはプロセス条件には無関係であ るのに対し,補正発明では,あるアプリケーションが与えられたときに,そのアプ リケーションにおけるプラズマ密度分布が最適になる調整パラメータがプロセス条 件の一部として予め設定されているのであって,この点を考慮すると,引用発明2 における「プロセス」は補正発明の「アプリケーション」に相当しない。 エ 以上に述べたことからすると,審決が,引用発明2が「所定のアプリケ ーションが選択された際にそのアプリケーションに対応する前記インピーダンス調 節手段の調節パラメータが予め設定された最適な値になるように前記インピーダン ス調節手段を制御する制御手段」という構成を有していると判断したのは誤りであ る。引用発明2に記載されているのは,あくまでも「所定の条件のプロセスが選択 された際に,可変コンデンサの容量がそのプロセスにおける初期段階においてイン ピーダンス整合器のインピーダンス整合点が存在すると予測される値になるように インピーダンス整合器の可変コンデンサを制御するインピーダンス制御回路」とい う構成にすぎない。 (3) 補正発明に関する容易想到性判断の誤りについて ア 前記(2)に述べたことからすれば,引用発明1と引用発明2のインピーダ ンスの本質的機能は全く相違しており,引用発明2におけるインピーダンス整合器 の制御回路を,相違点の構成であるアンテナ回路への電流分配比を調節するインピ ーダンス調節手段の制御手段に適用しようとする動機が存在せず,引用発明2は, 引用発明1に組み合わせるべきものではない。また,仮に組み合わせたとしても, 引用発明2の構成は,アプリケーションごとに最適なプラズマ密度分布が得られる 「 前記インピーダンス調節手段の調節パラメータが予め設定され,所定のアプリケー ションが選択された際にそのアプリケーションに対応する前記インピーダンス調節 手段の調節パラメータが予め設定された最適な値になるように前記インピーダンス 調節手段を制御する制御手段」ではないから,相違点に係る構成を導くことはでき ない。 イ また,審決は, 「引用発明2はインピーダンス調整に際してごく普通に用 いられる可変コンデンサを用いたものであり,引用発明2がインピーダンス整合器 に限らず,広くインピーダンス調整のために用いることが可能であることは当業者 にとって自明である。」としたが,この判断も誤っている。 インピーダンス調整にごく普通の可変コンデンサを用いることは,引用発明2を 待つまでもなく当たり前のことであり,引用発明2がごく普通の可変コンデンサを 用いたことが, 「引用発明2がインピーダンス整合器に限らず,広くインピーダンス 調整のために用いることが可能であることは当業者にとって自明である」ことにつ ながるというのは,論理の飛躍であるという他はない。むしろ,引用発明2は,所 定条件のプロセスにおけるインピーダンス整合器のインピーダンス調整において, 迅速にインピーダンス調整を行うために,予め記憶されているそのプロセスの初期 段階においてインピーダンス整合点が存在すると予測される値にインピーダンスを 制御するという特殊な用途に特化しており,その他のインピーダンス調整について は全く記載されていないのであって,広くインピーダンス調整のために用いること が可能な技術ではない。 ウ 被告は,引用例1の記載に接した当業者ならば,プラズマ分布を調整す るための工程(31a,31b,31c),すなわち,引用発明1のバリコン16を 調整する工程について,事前に設定された制御データの選択により制御することを 想起すると主張する。 しかし,引用例1は,2種類の材料を連続してエッチングする場合,従来技術で は異なる装置を用いてエッチング処理を行う必要があった(段落【0067】)もの を,複数の誘導結合アンテナに流れる高周波電流を調節するという手法により,同 一の装置により行えるようにしたことによって,各プロセスごとにウエハを装置間 で移動したりする手間を省いてスループットを向上させるものであり(段落【00 68】〜【0069】,引用例1にオペレータによる調整作業を排してスループッ ) トを向上させる点は全く記載されていない。 エ さらに,補正発明の効果について,前記のとおり,引用発明1から予測 し得る範囲のものではなく,相違点に係る制御手段の構成を何ら示唆しない引用発 明2からも当然に予測し得ないものであるから, 「補正発明全体の効果も,引用発明 1及び引用発明2から当業者が予測し得る範囲のものであって格別のものではな い。」という判断も誤っている。前記に述べたように,補正発明では,引用発明1に は存在しない構成を有する結果,アンテナ回路のインピーダンスを調節するインピ ーダンス調節手段の調節パラメータを選択するだけで,選択したアプリケーション において最適なプラズマ密度分布が得られ,選択したアプリケーションにおいて最 適なプラズマ処理を行えるという,引用発明1では得られない顕著な効果を奏する のである。 2 取消事由2(補正前発明の容易想到性判断の誤り) 補正発明の「整合器を介して高周波電源に接続されて」の要件は,引用発明2と の相違を明確にするために,念のために補正前発明に加えたものであり,補正前発 明の本質は補正発明の本質と相違はない。したがって,前記のとおり,補正発明が 引用発明1及び引用発明2に対して進歩性を有しないという判断が誤りである以上, 補正前発明が引用発明1及び引用発明2に対して進歩性を有しないという判断も誤 っている。 第4 被告の反論 1 取消事由1に対し (1) 原告主張1(1)に対し ア 引用発明1のプラズマ処理装置が,プロセスレシピと称される,事前に 設定された制御データを選択し制御されることは明らかである(甲1の段落【00 65】〜【0069】)から,引用発明1において,インピーダンス調節手段を制御 する制御手段の構成が「存在しない」とはいえない。 引用例1には,プラズマ処理装置の制御手段に関して具体的かつ詳細な記載がな いため,引用発明1において,相違点に係る構成の存否が不明なだけである。 したがって,引用発明1が相違点に係る制御手段を有するか不明である点を相違 点とした審決の判断に誤りはない。 イ また,補正発明の特許請求の範囲には, 「所定のアプリケーションが選択 された際に」という制御タイミングに関する漠然とした記載はあるものの,アプリ ケーション変更時に制御手段が調整パラメータを自動的に選択する等の,具体的な 選択手段は記載されていない。 補正発明の特許請求の範囲に記載されているとおり,補正発明は,最適なプラズ マ密度分布を得る前に,インピーダンス調節手段の調節パラメータが予め設定され た最適な値になるように前記インピーダンス調節手段を制御する工程,すなわち, 複数のアンテナ部の電流値を制御し,前記処理室内に形成される誘導結合プラズマ のプラズマ密度分布を制御する工程が必要な装置である。補正発明は,上記のプラ ズマ密度分布調整工程の後に(変更後の)アプリケーションの処理を行うようにし た結果として,アンテナを交換することなく,選択したアプリケーションにおいて 最適なプラズマ密度分布が得られ,選択したアプリケーションにおいて最適なプラ ズマ処理を行えるプラズマ処理装置である。 (2) 原告主張1(2)に対し ア 審決は,引用発明2と相違点の対比判断を誤っているとはいえない。審 決は,引用発明1を容易推考の出発点としたときに,引用発明1において補正発明 と相違する構成が,引用発明2から導き出すことができることを説示する趣旨で, 引用発明2が相違点に係る構成を有していると説示しているものである。 イ 原告は,相違点に係る制御手段と引用発明2のそれとでは,制御手段が 制御する対象及び制御量が異なる旨を指摘するが,物としての制御手段の実体にお いては,ROM等に記憶されている制御データを読み出してモータ等の適宜の可変 手段によって可変コンデンサの容量を制御する手段であり,何ら異なるところがな い。 また,引用発明2の「プロセス」は,基板を処理するプロセスのことであるから (甲2の段落【0012】【0014】【0041】及び【0049】,この点に , , ) おいて相違点に係る構成の「アプリケーション」と共通する。 ウ 引用発明2の制御対象は,引用発明1でいえばマッチングボックス3内 の2個のバリコンであり,相違点に係る構成の制御対象は,引用発明1でいえばバ リコン16である。両者は,ともに,@プラズマ処理装置のアプリケーションを変 更する際に,プラズマの状態が変化したことに対応して調整が必要であり ,Aプラ ズマ処理装置の放電回路の一部を構成し,かつ,第1の高周波電源に対し直列接続 された負荷として機能し(甲1の図6及び7),Bマッチングに影響し(甲1の段落 【0018】ないし【0020】,CROM等に記憶されている制御データに基づ ) いて,モータ等の適宜の手段により制御可能であり,D物としての実体はバリコン (可変コンデンサ)であって,また,制御量はバリコンの容量である点において, 共通している。 エ 調整対象のインピーダンス及び設定されるパラメータに関しても,引用 発明2と相違点に係る構成は,少なくとも上記@ないしDの点で同じである。 (3) 原告主張1(3)に対し ア 審決は,前記のとおり,引用発明2と相違点の対比判断を誤っていない から,原告の主張は,その前提に誤りがある。 イ 仮に,引用例2に, 「所定の条件のプロセスが選択された際に,可変コン デンサの容量がそのプロセスにおける初期段階においてインピーダンス整合器のイ ンピーダンス整合点が存在すると予測される値になるようにインピーダンス整合器 の可変コンデンサを制御するインピーダンス制御回路」という構成しか記載されて いないとしても,以下のとおり,当業者が,引用発明1のバリコン16を制御する 制御手段の構成として,ROM等に記憶されている制御データを読み出して可変コ ンデンサの容量を制御する手段を採用することは容易である。 (ア) 引用発明1のプラズマ処理装置が,プロセスレシピと称される, 事前に設定された制御データを選択し制御されることは明らかである。引用例1に は,プラズマ処理装置の制御手段に関して具体的かつ詳細な記載がないけれども, 引用例1の記載に接した当業者ならば,プラズマ分布を調整するための工程(31 a,31b,31c) すなわち, , 引用発明のバリコン16を調整する工程について, 事前に設定された制御データの選択により制御することを想起する。 (イ) また,引用発明1において,単純に引用発明2を組み合わせてな るものは,引用発明1のマッチングボックス3内の2つのバリコンに対して,引用 発明2の制御回路の構成を採用したものであるとしても,前記で述べたとおり,マ ッチングボックス3内の2個のバリコンを制御する手段と,プラズマ密度分布を調 整するバリコン16を制御する手段は,前記@ないしDの点で同じバリコンを制御 対象とする手段である。しかも,物としての実体においては,ROM等に記憶され ている制御データを読み出して可変コンデンサの容量を制御する手段にすぎないか ら,直ちに他の可変コンデンサの制御に流用可能である。 引用発明1のマッチングボックス3内の2つのバリコンについて,引用発明2を 組み合わせて,事前に設定された制御データに基づいて制御可能としたにもかかわ らず,バリコン16について,引用発明2を組み合わせず,事前に設定された制御 データに基づいて制御可能としないのでは,引用発明1のプラズマ処理装置の放電 回路を,事前に設定された制御データに基づいて制御できなくなる。 当業者であれば,プラズマ処理装置の放電回路において,その回路の一部に用い られている制御手段を,その回路内の他の箇所に流用する程度のことは思いつくし, むしろ,対処を異ならせることの方に動機がない。 当業者が,マッチングボックス3内の2つのバリコンに加えて,引用発明1のバ リコン16をも制御する制御手段の構成として,ROM等に記憶されている制御デ ータを読み出して可変コンデンサの容量を制御する手段を採用することは容易であ る。 ウ また,インピーダンス調整に用いる可変コンデンサが普通のものであれ ば,汎用性があることは自明である。引用発明2の制御回路の制御対象である可変 コンデンサは,具体的には,ごく普通の,モータ等によって制御される可変コンデ ンサにすぎない(甲2の段落【0042】。 ) したがって,引用発明2が,少なくともプラズマ処理装置において広くインピー ダンス調整のために用いることが可能であることは,当業者にとって自明である。 エ 本願明細書の段落【0019】に記載された効果は,引用発明1が奏す る効果である。制御手段の具体的構成について引用発明1の構成が不明である点を 考慮したとしても,当業者が予測し得る範囲内のものであって,顕著なものではな い。 オ 以上から,補正発明は,当業者が引用発明1及び引用発明2から容易に 発明することができるとした審決の判断には誤りがない。 2 取消事由2に対し 前記1と同様の理由から,補正前発明も進歩性を有せず,進歩性を否定した審決 の判断に誤りはない。 第5 当裁判所の判断 1 補正発明及び補正前発明について 本願明細書(甲4)及び手続補正書(甲16)によれば,補正発明及び補正前発 明につき,以下のことを認めることができる。 補正発明及び補正前発明は,液晶表示装置(LCD)等のフラットパネルディス プレイ(FPD)製造用のガラス基板等の基板にプラズマ処理を施す誘導結合プラ ズマ処理装置及びプラズマ処理方法に関するものである(段落【0001】。 ) 1台の誘導結合プラズマ処理装置は,複数のアプリケーションに対応する必要が あり,それぞれのアプリケーションにおいて均一な処理を行うためにプラズマ密度 分布を変化させる必要があるところ,従来技術においては,そのために高密度領域 及び低密度領域の位置を異ならせるように異なる形状のアンテナを複数準備してア プリケーションに応じてアンテナを交換していた(段落【0005】。しかしなが ) ら,アンテナの交換には多くの労力を要し,その製造費用も高価となる。また,複 数のアンテナを用意しても,更にプロセス条件の調整により対応せざるを得ないと いう課題が存在した(段落【0006】【0009】。 , ) そこで,前記の補正発明及び補正前発明に記載したとおりの構成をとり,インピ ーダンス調節手段によるインピーダンス調節により,複数のアンテナ部の電流値を 制御し,処理室内に形成される誘導結合プラズマのプラズマ密度分布を制御すると ともに(段落【0010】,アプリケーションごとに最適なプラズマ密度分布が得 ) られる前記インピーダンス調節手段の調節パラメータが予め設定され,所定のアプ リケーションが選択された際にそのアプリケーションに対応する前記インピーダン ス調節手段の調節パラメータが予め設定された最適な値になるように前記インピー ダンス調節手段を制御する制御手段を有するものとした(段落【0011】。 ) 補正発明及び補正前発明の実施形態に係るプラズマ処理装置の制御部50には, 処理条件に応じてプラズマ処理装置の各構成部に処理を実行させるためのプログラ ム,すなわち,レシピが格納された記憶部52が接続され,任意のレシピを記憶部 52から呼び出し,異なる電界強度分布を有する誘導電界を形成する複数のアンテ ナ部を有する高周波アンテナに接続された可変コンデンサ21の容量調節によって, プラズマ密度分布を制御することができる(段落【0037】【0038】。 , ) そして,アプリケーションごとに最適なプラズマ密度分布を把握し,可変コンデ ンサ21のポジションを記憶部52に設定しておくことにより,最適な可変コンデ ンサ21のポジションを選択してプラズマ処理を行えるようにすることができる (段落【0038】【0044】。 , ) このように,可変コンデンサ21によりプラズマ密度分布を制御することができ るので,アンテナを交換する必要がなく,アンテナ交換の労力やアプリケーション ごとにアンテナを準備しておくコストが不要となる。また,可変コンデンサ21の ポジション調節によりきめ細かな電流制御を行うことができ,アプリケーションに 応じて最適なプラズマ密度分布が得られるように制御することが可能となる(段落 【0045】。 ) 2 引用発明1と補正発明の相違点判断について (1) 原告は,引用例1において,上記の相違点に係る制御手段は,現実に開示 及び示唆されておらず,引用発明1には上記制御手段は存在しないから,審決の相 違点の認定に誤りがあると主張する。 ア 引用発明1の特徴及び引用例1の記載について (ア) 引用例1によれば,引用発明1について,以下のとおり認めるこ とができる。 引用発明1は,アンテナに高周波電力を供給して発生させたプラズマを用いて試 料をプラズマ処理するプラズマ処理装置及びプラズマ処理方法に関する発明であり, その目的は,誘導結合アンテナを用いたプラズマ処理において,プラズマ分布を制 御することのできるプラズマ処理装置を提供することにある(段落【0001】, 【0 008】。 ) そして,第二の実施例として記載された装置では,二系統の誘導結合アンテナ1 a,1bに流れる高周波電流の大きさを制御することで,プラズマ分布を制御でき る。具体的には,負のリアクタンスをもつバリコンのインピーダンスを調節して, 誘導結合アンテナ1aと誘導結合アンテナ1bとに流れる高周波電流の割合を制御 する。この実施例によれば,二系統の大きさの異なる誘導結合アンテナを設け,そ れぞれの誘導結合アンテナへの高周波電力の印加量を制御することで,放電部内で のプラズマの分布を更に細かく制御することができるとの効果を奏する(段落【0 029】〜【0032】【0036】。 , ) (イ) この引用発明1について,引用例1には以下の記載がある。 「【0065】さらに,このような本発明は次のような半導体製造プロセスに適用す ることができる。図24は本発明を用いた半導体プロセスの工程の一例を示す図で ある。本プロセスでの対象となる装置構成は前述した各実施例の何れかの構成を用 いる。 【0066】半導体プロセスでは,エッチングする材料に合わせて処理ガスの種類, 真空容器内のガス圧,ガス流量,アンテナに印加する高周波電力等を調整し,エッ チングや成膜処理におけるウエハの均一処理が行えるようにプロセスレシピを決め る。例えば,アルミニウムをエッチングする場合には,処理ガスとして塩素ガスや 三塩化ホウ素ガス等を用い,石英をエッチングする場合には,処理ガスとしてC4 F8 ガスを用いる。 【0067】ガスの種類やガス圧等が変わればプラズマの分布も変化するので,従 来技術の装置を用いる場合には,上記2種類の材料をエッチングする場合,異なる 装置を用いてエッチング処理を行う必要があった。 【0068】しかし,本発明の装置を用いれば,図24に示すように連続したプロ セス処理の途中に,複数の誘導結合アンテナに流れる高周波電流を調節してプラズ マ分布調整するための工程31a,31b,31cを加えるとともに,異なるプロ セス30a,30b,30cをそれぞれの行程31a,31b,31cの後に持っ てくることによって,同一の装置で各プロセスにおけるプラズマ分布を均一に調整 してウエハを均一に処理することができる。 【0069】これによって,各プロセス毎にウエハを装置間で移動したりする手間 が省けスループットの向上を図ることができる。また,一台の装置で複数のプロセ ス処理ができるので装置の台数を節約できる。」 イ 以上の記載を踏まえて,引用発明1において,相違点に係る制御手段が 存在しないといえるか否かについて検討する。 (ア) 確かに,引用例1には,インピーダンスを調節するバリコンを制 御する手段に関する具体的な記載,及びプロセスレシピを決めた際(所定のアプリ ケーションが選択された際)に,対応する調節パラメータが予め設定された最適な 値になるようにインピーダンス調節手段を制御することについての具体的な記載は ない。 (イ) しかし,前記のとおり,引用例1には,半導体プロセスでは,エ ッチングする材料に合わせて処理ガスの種類,真空容器内のガス圧,ガス流量,ア ンテナに印加する高周波電力等を調整し,エッチングや成膜処理におけるウエハの 均一処理が行えるようにプロセスレシピを決めるが,ガスの種類やガス圧等が変わ ればプラズマの分布も変化するので,従来技術では,異なる装置を用いてエッチン グ処理を行う必要があったのに対して,引用発明1の装置を用いれば,連続したプ ロセス処理の途中に,複数の誘導結合アンテナに流れる高周波電流の大きさを制御 してプラズマ分布を調整するための工程を加えるとともに,その後,それぞれの調 整工程に対応する異なるプロセスを持ってくることによって,同一の装置で各プロ セスにおけるプラズマ分布を均一に調整してウエハを均一に処理することができ, 各プロセスごとにウエハを装置間で移動したりする手間が省けスループットの向上 を図れ,一台の装置で複数のプロセス処理ができることが記載されている。 (ウ) また,証拠(乙1〜4)によれば,本願出願時において,プロセ ス処理装置が,プロセスレシピにより制御されることが周知であると認められる。 (エ) さらに,乙4には,以下の記載があり,プロセスレシピの情報に 基づいてプロセス条件が設定されることにより,プロセス処理ごとに適切なプラズ マの状態を形成することについても開示されている。 「実際に印加する直流電圧をどのように設定すればウエハWの面内均一な処理が できるかはエッチングすべき膜の種類,各電極3,4への供給電力などによって異 なるので,予め実験を行って処理毎の設定値を決めておくのが望ましい。」(段落 【0051】), 「異なるプロセス処理の一例として・・・これらの処理に対応するプロセスレシピ がレシピ選択手段62により選択され,選択されたプロセスレシピの情報に基づい て処理条件が設定されることとなる。」(段落【0052】), 「こうして第1の処理であるシリコンナイトライド膜65のエッチングが終了する と,記憶領域61内の第2の処理のプロセスレシピを読み出してプロセス条件が設 定され,第2の処理が開始される。」(段落【0056】), 「上述の実施の形態によれば,フォーカスリング5の電極51に所定の直流電圧を 印加することにより,プロセス処理毎例えば処理条件の異なる膜の種類毎にフォー カスリング5の表面とプラズマとの境界にあるイオンシース領域の形状を調整する ことができ,ウエハWが面内均一に処理できる適切なプラズマの状態を形成するこ とができる。従って,互いに異なる複数のプロセス処理を共通のフォーカスリング 5を用いて処理することができるので,装置の共用化を図ることができる。」(段 落【0057】)。 (オ) そうすると,引用例1のプラズマ分布を調整するための工程に関 する記載に接した当業者は,事前に設定されたプロセスレシピの情報に基づいて, 各プロセスにおけるプラズマ分布を均一にするようにバリコンのインピーダンスを 制御する手段を備えることを想起するといえる。 (カ) そして,引用例1におけるスループットの向上についての「各プ ロセス毎にウエハを装置間で移動したりする手間が省け」(段落【0069】)と の記載は,「装置間で移動する手間」以外の手間を省略できる要因を排除するもの ではなく,また,当業者は,上記の事前に設定されたプロセスレシピの情報に基づ いて,各プロセスにおけるプラズマ分布を均一にするようにバリコンのインピーダ ンスを制御する手段を備えることを想起するに当たり,自動的にインピーダンスを 調整する制御手段を除外し,オペレータがプラズマ分布を調整するもののみを想起 すると解することはできない。 加えて,このような制御手段を備えるものとした場合,オペレータによる調整作 業が省略できることによるスループットの向上が図れることは,当業者において自 明なものである。 (キ) そうすると,引用例1にインピーダンスを調節するバリコンを制 御する手段に関する具体的な記載,及びプロセスレシピを決めた際に,対応する調 節パラメータが予め設定された最適な値になるようにインピーダンス調節手段を制 御することについて具体的な記載がないとしても,相違点に係る構成のように,ア プリケーションの選択に応じて,調節パラメータを予め設定された最適な値になる よう自動的に調整する制御手段を有することが,可能性の一つとして合理的に推認 されるものであり,少なくとも,引用発明1において,「そのような制御手段を有 するかどうか不明」であるとした審決の認定に誤りがあるとはいえない。 (2) また,原告は,補正発明によれば,異なるアプリケーションを同一処理チ ャンバーで行う場合,これら複数のアプリケーションに最適な調整パラメータが予 め設定されている結果,アプリケーション変更時に制御手段が調整パラメータを自 動的に選択することにより,特別のプラズマを調整する工程を経ることなく次のア プリケーションを実行することができるのに対して,引用例1では段落【0066】 〜【0068】【図24】に記載されているように,異なるアプリケーションの間 , にプラズマ分布調整するための工程31a,31b,31cを挿入している旨主張 する。 しかし,補正発明は,アプリケーションごとに最適なプラズマ密度分布を予め把 握して記憶部に設定したことにより,アプリケーションを選択した場合に,記憶部 がアプリケーションごとに最適な可変コンデンサのポジションを選択してプラズマ 密度分布を制御するというものであり,補正発明においても,制御手段が自動的に 調整パラメータを選択し,設定することにより,プラズマ分布を調整するための工 程が前置していることは明らかである。 したがって,原告主張の上記点において,補正発明と引用発明1との相違点を見 出すことはできない。 3 補正発明に関する容易想到性判断について (1) まず,原告は,補正発明の制御手段は,アンテナ回路への電流分配比を調 節してプラズマ密度分布を調整するためのものであるのに,引用発明2が制御する のは,インピーダンス整合器である点,補正発明は,最適な調整パラメータを設定 するものであるのに対し,引用発明2は,整合状態に至り得る特定の範囲内でイン ピーダンスを初期設定するものであり,本質的機能が全く異なるのに,引用発明2 に相違点に係る構成があると認定した点において,対比判断の誤りがあると主張す るので,検討する。 引用発明2の構成に関する審決の認定は,引用発明1と補正発明との相違点を認 定した上で,当該相違点に係る容易想到性判断を行う前提として行われる認定であ るから,主引用発明との対比判断の手法とは自ずから違いがある。確かに,相違点 に係る構成と引用発明2の構成において,原告が上記に指摘する相違があることは そのとおりであると解されるが,以下に述べるとおり,審決は,引用発明2に相違 点に係る構成がそのまま開示された旨を認定するものではなく,引用発明2に開示 された技術事項から上記構成が容易に想到できる旨を判断するものであるから,引 用発明2と相違点に係る構成との間に差異があるとしても,直ちに審決の判断に誤 りがあるということはできない。 すなわち,審決は,引用発明2について「プラズマ処理装置のインピーダンス整 合器を,プロセスごとに異なるインピーダンスに整合させるために『各プロセスに 対応して予め定めた,ROM等に記憶されている制御データを読み出して可変コン デンサによりインピーダンスを調整するインピーダンス制御回路』と認定した上で, 」 「引用発明2はインピーダンス調整に際してごく普通に用いられる可変コンデンサ を用いたものであり,引用発明2がインピーダンス整合器に限らず,広くインピー ダンス調整のために用いることが可能であることは当業者にとって自明である」こ とを考慮に入れて,容易想到性について判断しており,原告が指摘する上記相違点 の存在を前提としていることは明らかである。また,引用発明2は, 「インピーダン ス制御回路46は,各プロセスの初期設定段階において,例えばROM等に記憶さ れている制御データを読み出して,インピーダンス整合器34のインピーダンスを 調整する・・・可変コンデンサC1,C2の容量を,各プロセスの初期設定段階で インピーダンスを整合させるための初期値としている」(段落【0048】)もので あるところ,審決は,その対比判断の中で,引用発明2において調整の基礎とされ るべきデータについて, 「各プロセスに対応して予め定めた,ROM等に記憶されて いる制御データ」と正しく認定しており,初期設定後に最終的に到達すべき最適な 値として記憶されたものとは認定していない。そして,当該制御データに整合する ように自動的にインピーダンスを整合させるという技術的観点から見れば,引用発 明2が相違点に係る「前記インピーダンス調節手段の調節パラメータが予め設定さ れた最適な値になるように前記インピーダンス調節手段を制御する制御手段」との 構成を有していると認定することが誤りとなるものではない。また,引用発明2に おいては,制御データにより自動的に初期設定を行った後,更に最適なインピーダ ンス整合点に到達させる必要性があることから,引用発明2が「最適な値になるよ うに前記インピーダンス調節手段を制御する制御手段」を有しているとの認定は若 干不正確であるとしても,既に述べたとおり,ここでの対比判断は,引用発明1と 補正発明との相違点を認定した上で当該相違点に係る容易想到性判断を行う前提と して行われるものであり,後記のとおり,容易想到性を有するとの審決の判断に誤 りはないのであるから,この点は,結論を左右するものでなく,取消事由とはなら ない。 (2) 次に,容易想到性について検討する。 ア 前記のとおり,引用例1のプラズマ分布を調整するための工程に関する 記載に接した当業者は,事前に設定されたプロセスレシピの情報に基づいて,各プ ロセスにおけるプラズマ分布を均一にするようにバリコンのインピーダンスを制御 する手段を備えることを想起するといえる。そして,引用発明1においてこのよう な制御手段を備えるものとした場合,オペレータによる調整作業が省略できること によるスループットの向上が図れることは,当業者において自明なものである。 イ また,補正発明の「・・・インピーダンス調節手段を制御する制御手段」 は,「アプリケーションごとに最適なプラズマ密度分布を把握し,予めそのプラズ マ密度分布が得られる可変コンデンサ21のポジションを記憶部52に設定してお くことにより,制御部50によりアプリケーションごとに最適な可変コンデンサ2 1のポジションを選択してプラズマ処理を行えるようにする」(段落【0044】) とされているから,制御手段が,記憶部に記憶された「可変コンデンサのポジショ ン」を読み出して,読み出された「可変コンデンサのポジション」に基づいて,イ ンピーダンス調整手段としての「可変コンデンサ」のポジションを選択することに より,インピーダンスを調整する態様を含むものである。 そして,補正発明の上記「インピーダンス調整手段を制御する制御手段」と引用 発明2の「各プロセスに対応して予め定めた,ROM等に記憶されている制御デー タを読み出して可変コンデンサによりインピーダンスを調整するインピーダンス制 御回路」とは,@ROM等の記憶手段に記憶されている制御データに基づいて制御 を行うこと,A制御対象となる物の実体は可変コンデンサ(バリコン)であり,B 制御量は可変コンデンサの容量である点において,技術的に共通するものである。 また,引用発明2は,インピーダンス調整に際して普通に用いられる可変コンデン サであり,インピーダンス調整に可変コンデンサを用いることができるのは,当業 者にとって自明のことである。 ウ 本願出願時において,プロセス処理装置が,プロセスレシピにより制御 されることは,前記のとおり周知であり,また,プロセスレシピの情報に基づいて プロセス条件が設定されることにより,プロセス処理ごとに適切なプラズマの状態 を形成することについても,乙4に開示されている。 エ 以上を踏まえると,当業者は,引用例1のプラズマ分布を調整するため の工程に関する記載により,事前に設定されたプロセスレシピの情報に基づいて, 各プロセスにおけるプラズマ分布を均一にするようにバリコンのインピーダンスを 制御する手段を備えることを想起するといえ,さらに,引用例2の記載に接した当 業者は,このインピーダンスを制御する手段の具体的な構成として,各プロセスに 対応して予め定めた,ROM等に記憶されている制御データを読み出して可変コン デンサにより自動的にインピーダンスを調整する「インピーダンス制御回路」を採 用することを容易に想到するというべきである。 よって,補正発明は,引用発明1に引用発明2を適用することにより,当業者が 容易に発明をすることができたものであり,その旨の審決の判断には誤りがない。 以上によれば,審決による補正発明の独立特許要件の判断(特許法29条2項) には誤りがない。 4 補正前発明の容易想到性判断について 補正発明は,補正前発明に限定を加えたものであるところ,上記のとおり,補正 発明は,引用発明1及び引用発明2に基づいて,当業者が容易に発明をすることが できたものであるから,補正前発明も補正発明と同様に,引用発明1及び引用発明 2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 よって,審決における補正前発明の容易想到性の判断に誤りはない。 第6 結論 以上によれば,原告主張の取消事由はすべて理由がない。 よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第2部 裁判長裁判官 清 水 節 裁判官 中 村 恭 裁判官 中 武 由 紀 |