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事件 平成 25年 (行ケ) 10085号 審決取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2013/11/19
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成25年11月19日判決言渡

平成25年(行ケ)第10085号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 平成25年11月5日

判 決




原 告 モバイル・サーチ・セキュリテイ・エルエルシー



訴 訟 代 理 人 弁 理 士 岡 部 讓

吉 澤 弘 司

M 口 岳 久

訴訟復代理人弁理士 新 井 剛



被 告 特 許 庁 長 官

指 定 代 理 人 清 水 稔

小 曳 満 昭

山 田 正 文

田 部 元 史

堀 内 仁 子



主 文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と

定める。





事 実 及 び 理 由

第1 原告の求めた判決

特許庁が不服2010−27788号事件について平成24年11月12日にし

た審決を取り消す



第2 事案の概要

本件は,拒絶査定不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。争点は,

進歩性判断の当否である。

1 特許庁における手続の経緯

原告は,平成16年4月8日,発明の名称を「コンタクト情報の要求を非公開加

入者に通知するシステムと方法」とする国際特許出願をした(特願2006−50

9789,パリ条約に基づく優先権主張外国庁受理,2003年4月8日,米国。

甲4)が,平成22年7月30日,拒絶査定を受け,同年12月8日,審判請求を

した。

特許庁は,平成24年4月3日,拒絶理由通知を発し,同月10日,平成22年
12月8日付け手続補正書を却下した。これに対し,原告は,平成24年9月28

日に手続補正(本件補正,甲5)をしたが,特許庁は,同年11月12日,
「本件審

判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同月27日に原告に送達された(附加

期間90日)。

2 本願発明の要旨

本願発明(本件補正後の請求項1の発明)の要旨は,以下のとおりである。

【請求項1】

「遠隔通信加入者の通信装置の非公開の加入者コンタクト情報を明かすことな

く,遠隔通信加入者の通信装置の非公開の加入者コンタクト情報を有する遠隔通信

加入者に通知メッセージを送るための方法に於いて,遠隔通信加入者の非公開コン




タクト情報の要求者に,該要求者によりウエブイネーブルドデバイスに送られ又は

中央ネットワークステーションに接続されたディレクトリー支援サービスプロバイ

ダーに要求者の音声によって搬送され,続いて,メッセージのタイプに関する情報

を含み,電子的形態である通知メッセージを提供するよう電子的形態に転換される

電子的形態の通知メッセージを,前記遠隔加入者の通信装置の前記コンタクト情報

を取得可能である前記中央ネットワークステーションがルーテイングして,加入者

の通信装置のコンタクト情報の知識無く,前記遠隔通信加入者の前記通信装置に間

接的に送る機会を提供する過程と,加入者が通知メッセージを無視したり,又は前

記要求者が前記遠隔加入者に間接的にコンタクトできるように,前記要求者による

通知メッセージを受ける前記通信装置からこの通知メッセージ中に与えられる回答

用電話番号に直接に電話するかテキストメッセージを送信するかして,通信装置の

非公開の加入者コンタクト情報を公表すること無く接続が起こることができるよう

に,テキストメッセージによって前記通知メッセージを,前記メッセージのタイプ

の表示とともに,前記遠隔通信加入者の前記通信装置に送る過程と,そして前記通

知メッセージを送るための料金を前記要求者に課金する過程と,を具備することを

特徴とする方法。」
3 審決の理由の要点(争点と関係が薄い部分はフォントを小さく表記する。)

(1) 引用刊行物1(特開2002−204313号公報。甲1)記載の発明(引

用発明)
刊行物1には「電話番号の照会を受けようとする者(以下,
「照会者」と呼ぶ。
)から登録者

の電話番号の案内要求を受け付け,照会者に対して電話番号を案内することなく照会者に対し

てメッセージを入力させ,入力されたメッセージを登録者に対して通知する電話番号案内方法

であって,電話番号案内センタ206内には,電話番号の案内に使うための電話番号案内シス

テム207が設けられており,電話番号案内システム207は,電話番号の検索等の処理を行

うための情報処理部209と,登録者の電話番号212,氏名又は名称213,住所又は居所

214,旧電話番号215,電子メールアドレス216,職業,その他の登録者属性情報24





4等を含む登録者情報217を少なくとも格納する電話番号データベース210とを含んで構

成され,メッセージは,照会者の名前,返信用の電話番号及び用件を含み,照会者が,公衆網

201に接続された一般の電話機や携帯電話を用い,公衆網201に接続された電話番号案内

センタ206にアクセスすると,電話番号案内センタ206内では,照会者に対してプッシュ

ボタン操作(トーン信号)による文字信号の入力によりメッセージを要求し,当該入力メッセ

ージを登録者に対して,例えば文字信号をショートメールやポケベルの要領で,登録者の端末

に直接送信し,また,照会者が電話番号案内センタ206にアクセスしてオペレータを介して

サービスを受ける場合には,照会者が電話番号案内センタ206にアクセスすると,オペレー

タが対応にでて,案内を受けたい電話番号に対する旧電話番号,住所,名前等を伝えてもらい,

それを電話番号案内システム207に入力してもよく,以上のメッセージにより登録者は照会

者が電話による通話を行う意思があることを知ることができ,登録者がこの照会者に対して新

しい電話番号を知らせたい場合には登録者がこの照会者に対して電話をして新しい電話番号を

教えれば良く,また登録者がこの照会者に対して新しい電話番号を知らせたくない場合には登

録者が例えばこの照会者に連絡をすることをしなければ良く,インターネット等の他のネット

ワークシステムを用いる場合には,照会者及び登録者の端末として携帯電話やパーソナルコン

ピュータ等を用いることができる,電話番号案内方法。」が記載されていると認められる。

(2) 本願発明と引用発明1との対比
(一致点)

遠隔通信加入者の通信装置の非公開の加入者コンタクト情報を明かすことなく,遠隔通信加

入者の通信装置の非公開の加入者コンタクト情報を有する遠隔通信加入者に通知メッセージを

送るための方法に於いて,遠隔通信加入者の非公開コンタクト情報の要求者に,該要求者によ

りウエブイネーブルドデバイスに送られ,電子的形態である通知メッセージを提供するよう電

子的形態に転換される電子的形態の通知メッセージを,前記遠隔加入者の通信装置の前記コン

タクト情報を取得可能である前記中央ネットワークステーションがルーテイングして,加入者

の通信装置のコンタクト情報の知識無く,前記遠隔通信加入者の前記通信装置に間接的に送る

機会を提供する過程と,加入者が通知メッセージを無視したり,又は前記要求者が前記遠隔加





入者に間接的にコンタクトできるように,前記要求者による通知メッセージを受ける前記通信

装置からこの通知メッセージ中に与えられる回答用電話番号に直接に電話するかテキストメッ

セージを送信するかして,通信装置の非公開の加入者コンタクト情報を公表すること無く接続

が起こることができるように,テキストメッセージによって前記通知メッセージを,前記遠隔

通信加入者の前記通信装置に送る過程と,を具備することを特徴とする方法。

(相違点1)

本願発明では,「電子的形態である通知メッセージを提供するよう電子的形態に転換される」

「通知メッセージ」が,
「該要求者によりウエブイネーブルドデバイスに送られ又は中央ネット

ワークステーションに接続されたディレクトリー支援サービスプロバイダーに要求者の音声に

よって搬送され」るのに対し,引用発明では,
「ショートメール」の形式に転換される「メッセ

ージ」が,「インターネット等の他のネットワークシステムを用いる場合」に,「照会者」によ

り「携帯電話やパーソナルコンピュータ等」の「端末」から「プッシュボタン操作(トーン信

号)による文字信号の入力により」
「電話番号案内センタ206」に送られることは記載されて

いるものの,
「又は中央ネットワークステーションに接続されたディレクトリー支援サービスプ

ロバイダーに要求者の音声によって搬送され」ることは記載されていない点。

(相違点2)

本願発明では,前記通知メッセージを送るための料金を前記要求者に課金する過


程」を具備しているのに対し,引用発明では,「プッシュボタン操作(トーン信号)

による文字信号の入力によ」る「メッセージ」を「ショートメール」で,送信する

場合に,照会者(本願発明の「要求者」に相当する。以下同様。)に課金する過程を

具備しているか明らかでない点。

(相違点3)

本願発明では,
「通知メッセージ」 「メッセージのタイプに関する情報を含み」
が ,

「前記メッセージのタイプの表示とともに」前記遠隔通信加入者の前記通信装置に


送」られるのに対し,引用発明では,
「プッシュボタン操作(トーン信号)による文

字信号の入力によ」 「メッセージ」
る にメッセージのタイプに関する情報が含まれ,




該メッセージのタイプの表示とともに「ショートメール」で「登録者の端末に直接

送信」されているか明らかでない点。

(3) 相違点についての検討
(相違点1)

本願発明のある発明特定事項が,
「又は」なる接続詞を用いて択一的に記載されている場合,

どちらか一方の事項を引用発明が具備していれば,その発明特定事項について本願発明と引用

発明との間に相違点はないものといえる。よって,相違点1は,実質的な相違点とはいえない。

なお,念のため,「又は」で択一的に記載された他方の事項について検討すると,引用発明

では,
「また,照会者が電話番号案内センタ206にアクセスしてオペレータを介してサービス

を受ける場合には,照会者が電話番号案内センタ206にアクセスすると,オペレータが対応

にでて,案内を受けたい電話番号に対する旧電話番号,住所,名前等を伝えてもらい,それを

電話番号案内システム207に入力してもよ」いとされている。そして,
「オペレータ」による

対応サービスを,業務処理用のシステムに接続されたコールセンター等で提供することは普通

に知られていることであるから,引用発明において,
「メッセージ」が,「電話番号案内システ

ム207」に接続されたコールセンター等(「中央ネットワークステーションに接続されたディ

レクトリー支援サービスプロバイダー)に照会者(要求者)の音声によって搬送され,
「オペレ

ータ」による「文字」の「入力」によってメッセージを生成し,
「ショートメール」の形式に転

換することは当業者が容易になし得たことである。

(相違点2)

電話番号案内サービス(ディレクトリサービス)に関連したサービスを有料とし,

電話番号の案内を受けようとする者に課金をすることは,例えば,米国特許第56

13006号明細書(周知例1)第1欄「BACKGROUND OF THE INVENTION」(発明の

背景)の第2段落に「ナイネックス(地域的なベル事業会社)は,電話番号を電話帳

に載せないままでいることを好む人々に対して,発呼者が,録音されたメッセージ

を残すことを初めて可能にするサービスのテストを行っています。電話番号案内を

呼んだものの,その電話番号がリストには掲載されていないと伝えられた人々は,




メッセージを残すオプションが与えられているとの録音音声を聞くでしょう。リス

トに無掲載の電話番号を有する顧客は,受信メッセージをすべて拒絶する選択権を

持つでしょう。ナイネックスは,メッセージを残すために発呼者に代金を請求する

ことを計画しています。」と記載されているように,周知の技術(周知技術1)であ

る。

よって,引用発明に上記周知技術を適用し,引用発明において「プッシュボタン

操作(トーン信号)による文字信号の入力によ」る「メッセージ」を「ショートメ

ール」で,送信する場合に,該「メッセージ」を「ショートメール」で送るための

料金を照会者(要求者)に課金することは,当業者が容易になし得たことである。

(相違点3)

本願発明の「メッセージのタイプ」とは,本願明細書【0017】段落第5文に

「メッセージタイプボックス15はメッセージのタイプのタグを付けるため提供さ

れる。これは緊急(Emergency),至急(Urgent),個人的(Per

sonal),及びビジネス(Business)の様な多くのタグのオプションを

有するプルダウンメニュー(pull−down menu)の形式とすることが

出来る。」と記載されていることから,少なくとも「緊急」「至急」等の優先度を含

む意味であると認められる。

そこで,相違点3について検討すると,例えば,特開2000−196772号

公報(周知例2)
【0002】段落に「【従来の技術】」として「米国規格TIA/E

IA/IS637では,メッセージが優先(至急)か否かを指定して送信すること

が可能である。」と記載されているように,「メッセージ」が優先(至急)か否かを

指定して送信することは,周知の技術(周知技術2)である。

よって,引用発明に上記周知技術を適用し,「プッシュボタン操作(トーン信号)

による文字信号の入力によ」る「メッセージ」に優先(至急)か否かを指定して,

「ショートメール」で「登録者の端末に直接送信」する(「メッセージのタイプに関

する情報を含み」,
「前記メッセージのタイプの表示とともに」
「前記遠隔通信加入者




の前記通信装置に送」られる)ようにすることは,当業者が容易になし得たことで

ある。

そして,本願発明の作用効果も,引用発明及び周知技術から当業者が予測し得る

範囲のものである。

したがって,本願発明は,引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて,当

業者が容易に発明をすることができたものである。



第3 原告主張の審決取消事由

1 取消事由1(本願発明と引用発明の相違点2の判断の誤り)について

(1) 周知技術の認定

周知例1(甲2)は,
「メッセージを残す」サービスを利用する者に課金すること

を示しているが,審決は,周知例1の記載「メッセージを残すサービスを利用する

者に課金する」から離れて,
「電話番号案内サービス(ディレクトリサービス)に関

連したサービスを有料とし,電話番号の案内を受けようとする者に課金すること」

周知技術であると認定している。これは,周知例1の具体的な記載を一般化又は

上位概念化したものといえるが,当業者の技術常識ないし周知技術の認定,確定に
当たって,特定の引用文献の具体的な記載を離れて,抽象化,一般化ないし上位概

念化することが当然に許容されるわけではない。

また,特許・実用新案審査基準の周知技術の認定に関する記載によると,ある技

術が周知技術であると認定するためには,
「相当多数の公知文献が存在し,又は業界

に知れわたり,あるいは,例示する必要がない程によく知られている」ことを立証

する必要があるから,周知例1ただ1つのみをもって,
「電話番号案内サービス・・・

課金すること」を「周知」な技術とした審決の認定は誤りである。

(2) 相違点2に係る構成の容易想到性についての論理付けの有無

審決は,周知技術1を引用発明に適用し相違点2に係る本願発明の構成が当業者

に容易になし得たことであるという結論に至った合理的な理由を何ら示しておらず,




請求項に係る発明に対して進歩性の存在を否定し得る論理の構築を試みること(特

許・実用新案審査基準)を行っていない。すなわち,審決は,引用発明に周知技術

1を適用することによって,相違点2に係る本願発明の構成に到達することが容易

であったとの立証命題が成立することを何ら検証していない。そうすると,審決は,

相違点2に関して,発明の進歩性の判断の際に容易想到であるか否かの判断に当た

り,論理付けができたかどうか及び立証命題が成立しているかどうかを示すことな

く,本願発明の進歩性を否定する判断をしたものである。

(3) 引用発明に周知技術1を適用しても相違点2に係る構成は導かれない

審決が認定した相違点2に係る本願発明の特徴,すなわち,通知メッセージを送

るための料金を要求者に課金する過程は,審決が認定した周知技術1,すなわち,

電話番号案内サービス(ディレクトリサービス)に関連したサービスを有料とし,

電話番号の案内を受けようとする者に課金をすることと明らかに異なる。よって,

たとえ審決の認定する周知技術1を引用発明に適用したとしても,相違点2に係る

本願発明の特徴である,通知メッセージを送るための料金を要求者に課金する過程

が当然に導かれることはない。

なお,審決は,審決の認定する周知技術1を,合理的な理由を示さず恣意的にさ
らに具体化又は下位概念化した上で,「引用発明に上記周知技術を適用し,・・・該

メッセージをショートメールで送るための料金を照会者(要求者)に課金すること

は,当業者が容易になし得たことである」と判断したが,これは許容されるもので

はない。

(4) 容易想到性の判断で論理付けができるか否か

引用発明は,
「電話番号案内サービスにおいて,自分の電話番号を知らせたい相手

に対して手間を要することなく確実に電話番号を知らせることができる電話番号案

内方法及び電話番号案内システムの提供」という課題の解決に当たり,登録者が照

会者に確実に電話を知らせるためには,登録者に対して照会者からの情報を確実に

通知する(送る)必要がある。また,本願発明は,
「・・・通知メッセージを・・・




遠隔通信加入者の前記通信装置に間接的に送る」ものであるから,要求者から加入

者へ通知メッセージが確実に送られることが本願発明の課題である。

他方,周知例1では,サーバ等のメッセージを蓄える装置にメッセージを残す技

術を開示し,そのため,残されたメッセージは,確実に相手に届けられるかどうか

不明であり,むしろ,被呼者が自ら主体的に残されたメッセージを取得しに行く必

要がある。さらに,周知例1の記載「・・・リストに無掲載の電話番号を有する顧

客は,受信メッセージをすべて拒絶する選択権を持つでしょう。
・・・」を参照する

と,周知例1の技術は,被呼者がメッセージを拒絶することに主眼が置かれるもの

である。

そうすると,周知例1に示されるような,メッセージが被呼者に確実に届けられ

るかどうかわからない技術又は被呼者がメッセージを拒絶することに主眼が置かれ

た技術を,確実に被呼者に情報を通知する(送る)必要のある引用発明に適用しよ

うとする動機付けが当業者には存在しない。また,周知例1に示されるような,メ

ッセージが被呼者に届けられない場合がある技術を引用発明に適用すると,引用発

明の課題を解決することができなくなるため,そのような技術は引用発明の課題解

決のための阻害要因である。
よって,相違点2に関して,引用発明に審決の認定する周知技術1を適用するこ

とが容易想到であるか否かの判断に当たり,論理付けができておらず,また立証命

題が成立していない。

2 取消事由2(本願発明と引用発明の相違点3の判断の誤り)について

(1) 相違点3に係る構成の容易想到性についての論理付けの有無

審決は,「引用発明に上記周知技術を適用し,プッシュボタン操作(トーン信号)

による文字信号の入力によるメッセージに優先(至急)か否かを指定して,ショー

トメールで登録者の端末に直接送信するようにすることは,当業者が容易になし得

たことである」との判断に際して,論理付けができたかどうか,または立証命題が

成立しているかどうかを何ら示していない。よって,審決の判断には理由不備があ




る。

(2) 相違点3に係る構成についての容易想到性の判断の誤り

周知例2(甲3)記載の「米国規格TIA/EIA/IS637」は,CDMA

等の無線通信技術分野に関するものである。他方,引用発明は,電話番号案内サー

ビスの技術分野であり,また,本願発明は,非公開コンタクト情報を明かすことな

く遠隔通信サービスの加入者にコンタクトする技術分野である。したがって,たと

え審決のように「メッセージが優先(至急)か否かを指定して送信することが周知

技術である」と認められたとしても,周知技術2の技術分野と引用発明の技術分野

及び本願発明の非公開コンタクト情報を明かすことなく遠隔通信サービスの加入者

にコンタクトする技術分野とは異なる。

本願発明や主引用発明の技術分野と周知技術の分野が異なれば,その周知技術

係る技術は本願発明や主引用発明の技術分野において周知とはいえず,そのような

発明を引用発明に適用し相違点に係る特徴を導くことが当業者にとって容易に想到

できるものではない。よって,引用発明に上記周知技術2を適用し,プッシュボタ

ン操作(トーン信号)による文字信号の入力によるメッセージに優先(至急)か否

かを指定して,ショートメールで登録者の端末に直接送信するようにすることは,
当業者が容易になし得たことであるとした審決の判断は誤りである。



第4 被告の反論

1 取消事由1(本願発明と引用発明の相違点2の判断の誤り)に対して

(1) 周知技術の認定

基本サービスに対して,これに関連したサービス(オプション的なサービス)を

有料とし,その代金を基本サービスの利用者に請求する場合の多いことは,例えば,

乙1の「お申し込みが必要なオプション(有料)サービスです。」(9頁12行及

び26行,10頁15行)との説明文にみられるように,社会常識である。

そして,審決は,そのような社会常識が「電話番号案内サービス(ディレクトリ




サービス)」(基本サービス)についても当てはまることを,周知例1の「電話番

号案内を呼んだものの,その電話番号がリストには掲載されていないと伝えられた

人々は,メッセージを残すオプションが与えられているとの録音音声を聞くでしょ

う。・・・ナイネックスは,メッセージを残すために発呼者に代金を請求すること

を計画しています。 との記載を例示することで,
」 具体的根拠を示しながら確認し,

「電話番号案内サービス(ディレクトリサービス)に関連したサービスを有料とし,

電話番号の案内を受けようとする者に課金をすること」を周知技術であると認定し

たのであって,周知例1の具体的記載を一般化又は上位概念化することにより周知

技術を認定したのではない。

周知技術の認定の是非は,引用された文献の「数」の多寡のみによって決定され

るものではなく,業界に知れわたり,あるいは,例示する必要がない程よく知られ

ていれば足りる。

そして,周知例1のうち,審決が,周知技術の一具体例として引用した箇所は,

周知例1の「発明の背景」(BACKGROUND OF THE INVENTION)をなす従来技術の記載

箇所であって,その記載内容も,電話番号案内におけるオプション的なサービスの

代金を発呼者に請求するという社会常識の範囲内で容易に理解できる程度の技術事
項である。

よって,審決が,周知技術の一具体例として提示した文献の数が周知例1「一つ」

であったとしても,審決が「電話番号案内サービス(ディレクトリサービス)に関

連したサービスを有料とし,電話番号の案内を受けようとする者に課金をすること」

周知技術1であると認定したことに誤りはない。

なお,「電話番号案内サービス(ディレクトリサービス)に関連したサービス」

の他の周知例としては,乙2もある。

(2) 相違点2に係る構成の容易想到性についての論理付けの有無

引用発明は,「電話番号の照会を受けようとする者(以下,「照会者」と呼ぶ。)

から登録者の電話番号の案内要求を受け付け,照会者に対して電話番号を案内する




ことなく照会者に対してメッセージを入力させ,入力されたメッセージを登録者に

対して通知する電話番号案内方法」(審決16頁22〜25行)についての発明で

あるから,引用発明の『「プッシュボタン操作(トーン信号)による文字信号の入

力によ」る「メッセージ」を「ショートメール」で,送信する』ことが,審決の認

定した周知技術1の「電話番号案内サービス(ディレクトリサービス)に関連した

サービス」であることは,明らかである。

また,引用発明の「電話番号の照会を受けようとする者」すなわち「照会者」が,

審決の認定した周知技術1の「電話番号の案内を受けようとする者」であることも

明らかである。

基本サービスに対して,これに関連したサービス(オプション的なサービス)を

有料とし,その代金を基本サービスの利用者に請求する場合の多いことは社会常識

であって,電話会社の行う営業活動も,該社会常識に則って行われていることは言

うまでもないことである。

それゆえ,引用発明に,審決の認定した周知技術1(電話番号案内サービス(デ

ィレクトリサービス)に関連したサービスを有料とし,電話番号の案内を受けよう

とする者に課金をすること)を適用することは,電話会社の行う通常の営業活動の
範囲内のことであるから,引用発明に,審決の認定した周知技術1を適用すること

が当業者にとって容易であることは,当業者が,社会常識の範囲内でたやすく理解

できることである。

(3) 引用発明に周知技術1を適用すると相違点2に係る構成が導かれる

引用発明に,審決の認定した周知技術1(電話番号案内サービス(ディレクトリ

サービス)に関連したサービスを有料とし,電話番号の案内を受けようとする者に

課金をすること)を適用すれば,「電話番号案内サービス(ディレクトリサービス)

に関連したサービス」を利用する場合,つまり引用発明の 「プッシュボタン操作
『 (ト

ーン信号)による文字信号の入力によ」る「メッセージ」を「ショートメール」で,

送信する』場合に,該「メッセージ」を「ショートメール」で送ることを「有料」




とし,その料金を,「電話番号の案内を受けようとする者」,すなわち,引用発明の

「照会者」に「課金」することが導き出されることは,論理的に明らかである。

(4) 容易想到性の判断で論理付けができるか否か

審決の認定した周知技術1は,「電話番号案内サービス(ディレクトリサービス)

に関連したサービスを有料とし,電話番号の案内を受けようとする者に課金をする

こと」であって,周知例1に記載された技術はその一具体例にすぎないのであるか

ら,周知技術1と引用発明とで,被呼者(登録者)への「メッセージ」サービスの

具体的な内容が,仮に,原告の主張するように異なるものであったとしても,審決

の認定した周知技術1を引用発明に適用することは,何ら妨げられるものではない。

よって,原告の主張する要因は,審決の認定した周知技術1を引用発明に適用する

際の動機付けを否定する根拠にはならず,また,阻害要因ともならない。

周知例1の「リストに無掲載の電話番号を有する顧客は,受信メッセージをすべ

て拒絶する選択権を持つでしょう。」との記載は,顧客が,「受信メッセージをす

べて拒絶する」選択権(原語では option)を副次的に行使し得ることを意味してい

るのであって,周知例1の該記載から周知技術1が「被呼者がメッセージを拒絶で

きることに主眼が置かれ」たものであるとの結論を導くことは,主要な記載内容と

副次的な記載内容とを取り違えた,主客転倒した議論である。次に,引用例(甲1)

の「(2)『全ての照会者に常に登録者の電話番号の公開を拒否する』(図2の2

22) この応答パターンは,照会者に対して電話番号を案内することなく登録者

に対して照会者からの情報を通知するのではなく,全ての照会者に常に登録者の電

話番号の公開を拒否するものである。」(6欄44〜49行)の記載は,審決が周

知技術1の一具体例として挙げた周知例1の「リストに無掲載の電話番号を有する

顧客は,受信メッセージをすべて拒絶する選択権を持つでしょう。」との記載と同

じ技術内容を示す記載である。よって,周知技術1と引用発明とは,顧客(登録者)

の選択により,顧客(登録者)への「メッセージ」をすべて拒絶(拒否)すること

を許容している点で差異はない。したがって,引用発明は「確実に被呼者に情報を




通知する(送る)」必要があるのに対し,周知技術1は「被呼者がメッセージを拒

絶できることに主眼が置かれ」たものであるとの原告の主張(つまり,課題が異な

る旨の主張)は,周知技術1及び引用発明を正解しない主張であって,根拠がない。

周知例1に記載された「受信メッセージ」
(incoming messages)とは,
「受信メッ

セージをすべて拒絶する選択権」を顧客が行使しない場合に,顧客に「入ってくる」

(incoming)メッセージのことであって,「被呼者が自ら主体的に」「取得しに行く」

必要のないものであるから,被呼者が自ら主体的に残されたメッセージを取得しに


行く必要がある。との原告の解釈は根拠のないものである。
」 周知例である乙2には,

ナイネックス社による新しいサービスについて「その後,コンピューター化された

システムは,電話帳に不掲載の電話番号を鳴らし,顧客にメッセージがあるとアナ

ウンスし(ボイス・メール・システムあるいはいくつかの留守番電話と似ていない

わけではない),それを再生するでしょう。」と,システムから電話帳に不掲載の顧

客に電話をかけ,メッセージを再生することが記載されている。よって,周知例1

の「メッセージを残す」(leaving a message)との記載は,その後システムが,残

された「メッセージ」を,リストに無掲載の電話番号を有する顧客(電話帳に不掲

載の顧客)に伝えることを前提にした記載であって,原告が主張するような「被呼
者が自ら主体的に残されたメッセージを取得しに行く必要がある」ことを意味する

記載ではない。

2 取消事由2(本願発明と引用発明の相違点3の判断の誤り)について

(1) 相違点3に係る構成の容易想到性についての論理付けの有無

メッセージを優先して(至急に)相手に伝えたい場合のあることは,日常的に普

通に経験することである。

そして,この経験則が,引用発明の「メッセージを登録者に対して通知する」際

にも当てはまることは明らかであるから,審決の認定した周知技術2(「メッセー

ジ」が優先(至急)か否かを指定して送信すること)を引用発明に適用することが

当業者にとって容易であることは,常識の範囲内でたやすく理解できることである。




よって,審決が相違点3について行った容易性の判断が合理的な理由に基づくも

のであることは,特段の説明がなくとも当業者にとって常識的に明らかであるから,

審決を「理由不備」であるとする原告の主張は,理由がない。

(2) 相違点3に係る構成についての容易想到性の判断の誤り

本願発明は,請求項1に特定されているとおり,「一般的に遠隔通信に関し,遠

隔通信サービスの加入者に通知メッセージを送る」技術分野に属するものである。

次に,引用発明は,「入力されたメッセージを登録者に対して通知する電話番号案

内方法」(審決16頁第24〜25行)であるから,「遠隔通信に関し,遠隔通信

サービスの加入者にメッセージを通知する」技術分野に属している。そして,審決

の認定した周知技術2は,「メッセージが優先(至急)か否かを指定して送信する」

ものであるから,「遠隔通信に関し,遠隔通信サービスの加入者にメッセージを送

信する」技術分野に属するものである。以上より,審決の認定した周知技術2は,

「遠隔通信に関し,遠隔通信サービスの加入者にメッセージを送信する」技術であ

る点で,本願発明や引用発明の技術分野と共通しているから,両者の技術分野は,

異なるものではない。

なお,本願明細書(甲4)【0019】段落の5番目の文には「該遠隔通信サー
ビスプロバイダーのテキストメッセージング領域では,該イーメイルは適当な通信

ネットワーク{例えば,シーデーエムエイ(CDMA),テーデーエムエイ(TD

MA) ジーエスエム
, (GSM)等}上を該加入者通信デバイス30へ伝送される。」

と記載され,引用例(甲1)【0051】段落の2番目の文には,登録者の端末と

して,無線通信技術を利用することの明らかな「携帯電話」を用いることができる

旨記載されているから,仮に,審決の認定した周知技術2に係る技術分野が,「C

DMA等の無線通信技術分野」であったとしても,審決の認定した周知技術2の技

術分野は引用発明や本願発明の技術分野と異なるものではない。

以上のとおり,審決の認定した周知技術2の技術分野が,「CDMA等の無線通

信技術分野」であったとしても,審決の認定した周知技術2の技術分野は引用発明




や本願発明の技術分野と異なるものではなく,審決の認定した周知技術2を引用発

明に適用することが当業者にとって容易であることは,常識の範囲内でたやすく理

解できることであるから,原告の主張は失当であって,相違点3についての審決の

判断に,誤りはない。



第5 当裁判所の判断

1 前提事実

(1) 本願発明について

ア 本願明細書(甲4)には以下の記載がある(下線は当裁判所が付した。。


【0001】本発明は一般的に遠隔通信に関し,特に非公開コンタクト情報を明か

すことなく遠隔通信サービスの加入者にコンタクトすることに関する。

【0003】通信が遠隔通信機器を有する2つ以上の場所間で行われるためには,

それらの場所の少なくとも1つはコンタクトされるべきもう1つの場所又は複数の

場所用のコンタクト情報{電話番号,イーメイルアドレス(e−mail add

ress),等}を知ることが必要であった。このニーヅ(need)は特定遠隔

通信システムを装備した場所用のコンタクト情報のデータベース又はディレクトリ
ーの開発を引き起こした。この様なデータベース又はディレクトリーの1つの明ら

かな例は特定領域内の個人及びビジネス(businesses)部門用のコンタ

クト電話番号のリスト化品(listing)を提供する電話帳(telepho

ne book)である。加えて,ローカルの及び国のディレクトリー支援プロバ

イダー(directory assistance provider)は電話で

の要求(request)時コンタクト情報(contact informati

on)を発生し供給する。操作時,ディレクトリー支援サービスプロバイダーのコ

ミュニケーター(communicators)は1連のデータベース選択から関

心のある該情報を検索しそれを該関心のあるパーテイ(interested pa

rty)へ送る。




【0005】しかしながら,遠隔通信サービスの多くの加入者はプライバシーの懸

念(privacy concerns),求めないコール(unsolicite

d calls)を避ける願望,他の様な種々の理由で彼等のコンタクト情報をひろ

く広めること(widespread dissemination)を避けたいと

願っている。遠隔通信サービスプロバイダーは彼等のコンタクト情報を公開しない

ことによりこれらの加入者に役立つ(accomodate)。非公開(unpu

blished)又は”非リスト化(unlisted)”コンタクト情報はディ

レクトリー支援プロバイダーにより広められ得ず,それは非公開情報のディレクト

リー支援要求者(directory assistance requestor

s)はコンタクト情報へのアクセスを否定されることを意味する。

【0006】従って,非公開加入者(すなわち,コンタクト情報が公開されてない

加入者)が該非公開コンタクト情報を明かす(revealing)こと無しには

コンタクトされ得るシステムと方法を持つことは望ましいであろう。

【0009】種々の図を通して同一参照数字が同じ部品を指す図面を参照すると,

図1は,非公開加入者へ,彼等の公開されないコンタクト情報を求める要求が行わ

れたと言う安全な通知メッセージ{テキストメッセージ形式(form of a t

ext message)の}を,送信するための遠隔通信システム10の第1実施

例を示す。該システム10は中央ネットワークステーション(central ne

twork station)20を含む。・・・該ネットワークステーション20は,
種々のサービスプロバイダーの加入者により使われる複数の通信デバイス30(図

中では略号”CD”により識別される)の何れかのアクセス番号(access n

umbers)と,それらの番号に付随するコンタクト識別情報(contact

−identifying information),例えば,該加入者の名前及

びアドレスと,とを含むが,それらに限定されない,コンタクト情報を受信し記憶

するようプログラム可能である。該システム10はサービスプロバイダーデータベ

ース又はローカルエクスチェンジキャリアステーション(local exchan




ge carrier stations)40により図1で表されるどんな数の遠

隔通信サービスプロバイダーと共に動作出来る。各サービスプロバイダーステーシ

ョン40は多数の該加入者通信デバイス30と組み合わされるのが典型的である。

この実施例では,該加入者通信デバイス30はテキスト(text)メッセージを

受信出来るどんな種類の通信デバイス{地上配線電話,無線電話,ページャー(p

ager),等}とすることも出来る。

【0010】各通信デバイス30に対応するコンタクト情報はそれぞれのサービス

プロバイダーステーション40を通して該ネットワークステーション20により得

られる。・・・

【0011】該中央ネットワークステーション20により該サービスプロバイダー

ステーション40から受信されたコンタクト情報は,種々のディレクトリー支援サ

ービスプロバイダー(多数のディレクトリー支援サービスプロバイダーが該中央ネ

ットワークステーション20と連結することが出来ることは理解されるべきである

が,図1では1つのサイト60で集合的に表されている)に該ネットワークステー

ション20と連結させそして,ことによると料金と交換に,コンタクト情報をそれ

に問い合わさせるために必要な様にフオーマット(formatted)される。

その情報の操作は遠隔通信デバイスユーザーの統合されたデータベースに帰着す

る。結果的に,該ネットワークステーション20はルーテイング,スイッチング,

データ記憶,及びインターフエースのシステムである。・・・

【0012】ディレクトリー支援プロバイダーは種々の手段を通しての該システム

10への個別ユーザーアクセスを提供出来る。2つの主要なディレクトリー支援ア

クセス手段は,ユーザー又は要求者(requestor)が地上配線又は無線の

電話70でサイト60をコールすることにより直接該ディレクトリー支援プロバイ

ダーコンタクトサイト60にコンタクトする”コールセンター(call cent

er)”接近法(approach)と,該要求者がインターネット90(又は他

のコンピュータネットワーク)を経由して該サイト60にコンタクトするためにパ




ーソナルコンピュータ,ピーデーエイ(PDA),ウエブイネーブルド無線電話(w

eb−enabled wireless phone)等の様なウエブイネーブル

ドデバイス(web−enabled device)80を使う”ウエブポータル

(web portal)”接近法と,を含む。・・・

【0014】動作では,要求者は,特定の遠隔通信サービス加入者のコンタクト情

報{無線番号,地上配線番号,フアックス番号,イーメイルアドレス,出荷アドレ

ス(shipping address),休暇番号(vacation numb

er),臨時番号(temporary number),緊急番号(emerge

ncy number),パーソナルディレクトリー番号(personal di

rectory number) 及びページャー番号
, (pager number)}

を要求するために電話70又はウエブイネーブルドデバイス80(又は何等かの他

の適当な手段)を使って該ディレクトリー支援プロバイダーコンタクトサイト60

にコンタクトする。ディレクトリー支援プロバイダーコンタクトサイト60は次い

でその中に記憶された加入者コンタクト情報の集まり(collection)を

探索するため該中央ネットワークステーション20と連結(interfaces)

する。もしその特定の加入者のコンタクト情報が公開されているなら,その直接の
支援プロバイダーは簡単に普通の仕方で該要求された情報を提供する。しかしなが

ら,もしその特定の加入者のコンタクト情報が非公開ならば(すなわち,リスト化

されてないならば),該ディレクトリー支援プロバイダーは該要求者に,その要求
された情報は非公開であり,外部へ与えられ得ないことを通知(notify)す

る。該ディレクトリー支援プロバイダーは又該要求者に,好ましくは,しかし必ず

しもそうではないが,料金と交換に,該特定の加入者に安全な通知メッセージ(s

ecure notification message)(テキストメッセージの

形式で)を間接的に送る機会を提供する。該通知メッセージを通して,該要求者は,

該加入者が該要求者にコンタクトして欲しいと言う要求(a request th

at the subscriber contact the requesto




r),を該加入者に通信出来る。

【0016】もし該要求者が通知メッセージを間接的に送る提案(offer)を

辞退するなら,その過程はその点で停止する。もし該要求者が通知メッセージを間

接的に送る提案を受け入れるなら,該通知メッセージに関する情報が集められる。

特に,該通知メッセージの内容が確認される。これは好ましくは,該中央ネットワ

ークステーション20により発生される通知メッセージスクリーン(notifi

cation message screen)を通して行われるのがよい。もし該

要求者が電話70を使って該ディレクトリー支援プロバイダーコンタクトサイト6

0にコンタクトしたなら,該通知メッセージスクリーンが(インターネットを経由

してネットワークステーション20にアクセスした)該ディレクトリー支援操作者

(directory assistance operator)に現れる。該デ

ィレクトリー支援操作者は電話接続上で該要求者から関係するメッセージ情報を得

て,この情報を該通知メッセージスクリーン内に入れる。もし該要求者がウエブイ

ネーブルドデバイス80を使って該ディレクトリー支援プロバイダーコンタクトサ

イト60にコンタクトしたなら,該通知メッセージスクリーンが該ウエブイネーブ

ルドデバイス80のディスプレー上に現れ,該要求者はその関係するメッセージ情
報を該通知メッセージスクリーン内に直接入れる。後者の過程は,該要求者が該シ

ステムにアクセスするのに,ディレクトリー支援プロバイダーにより操作されたウ

エブポータルを経由してか,或いは該中央ネットワークステーション20上で走る

ウエブポータルを経由してか,どちらかに関係なく,成立する。

【0017】図2は代表的通知メッセージスクリーンを示す。該通知メッセージス

クリーンは多数のテキストボックスを有し,それらに要求者/ディレクトリー支援

操作者は該通知メッセージに関する情報を入れることが出来る。・・・メッセージタイ

プボックス15はメッセージのタイプのタグを付けるため提供される。これは緊急

(Emergency),至急(Urgent),個人的(Personal),

及びビジネス(Business)の様な多くのタグのオプションを有するプルダ




ウンメニュー(pull−down menu)の形式とすることが出来る。要求者

が加入者に取り次ぎたいテキストメッセージが中に入れられるメッセージボックス

16が提供される。・・・

【0019】該メッセージを送信するために,中央ネットワークステーション20

は該ネットワークステーション20内に記憶されたその情報からその加入者の遠隔

通信サービスプロバイダーとアクセス番号を識別する。該ネットワークステーショ

ン20は次いで該通知メッセージを含むイーメイルを該遠隔通信サービスプロバイ

ダーのテキストメッセージング領域(text messaging domain)

の該加入者のアクセス番号へ送信する。エスエムエス(SMS){短いメッセージ

ングサービス(Short Messaging Service)}の様な,どん

な形式のテキストメッセージング(text messaging)も使われ得る。

該イーメイルはインターネットバックボーン(internet backbon

e)上を該遠隔通信サービスプロバイダーのテキストメッセージング領域へ進む。

該遠隔通信サービスプロバイダーのテキストメッセージング領域では,該イーメイ
ルは適当な通信ネットワーク{例えば,シーデーエムエイ(CDMA),テーデー

エムエイ(TDMA),ジーエスエム(GSM),等}上を該加入者通信デバイス

30へ伝送される。意図された加入者はかくして該通知メッセージを受信する。該

通知メッセージを含む該イーメイルは該中央ネットワークステーション20で発生

されるので,非公開コンタクト情報は該要求者には明かされず,かくして安全であ
る。

【0021】加入者が該通信デバイス30上で該通知メッセージを受信すると,彼

又は彼女は該通信デバイス上の該テキストメッセージを保存するか又は該テキスト

メッセージを削除するオプションを有する。又該加入者は提供されたその番号(複

数を含む)の要求者とコンタクトするか該要求を無視するオプションを有する。

イ 以上の記載によれば,本願発明は次のとおりのものであると認められる。

すなわち,本願発明は,遠隔通信サービスのシステム及び方法に関するもので(段




落【0001】),従来,遠隔通信サービスでは,コンタクトされるべき場所のコ

ンタクト情報(電話番号,イーメイルアドレス(e−mail address)

等)を知ることが必要であるため,場所用のコンタクト情報のデータベース又はデ

ィレクトリーが開発され,ローカルの及び国のディレクトリー支援プロバイダーは,

電話での要求時コンタクト情報を発生し供給していたところ,遠隔通信サービスの

多くの加入者は,コンタクト情報を広めないことを望み,非公開情報のディレクト

リー支援要求者は,コンタクト情報へのアクセスを否定される(段落【0003】,

【0005】)ことに鑑み,非公開加入者(コンタクト情報が公開されてない加入

者)が非公開コンタクト情報を明かすことなしにコンタクトされ得るシステムと方

法を持つことを目的としたものである(段落【0006】)。

そして,本願発明における遠隔通信サービスのシステム10において,中央ネッ

トワークステーション20は,サービスプロバイダーステーション40に組み合わ

された複数の通信デバイス30のコンタクト情報を受信し記憶するとともに,ディ

レクトリー支援サービスプロバイダー60を中央ネットワークステーション20と

連結させ(段落【0009】〜【0011】),要求者は,特定の遠隔通信サービ

ス加入者のコンタクト情報を要求するために電話70又はウエブイネーブルドデバ
イス80を使ってディレクトリー支援プロバイダーコンタクトサイト60にコンタ

クトし,もしその特定の加入者のコンタクト情報が非公開ならば,ディレクトリー

支援プロバイダー60は,要求者に,その要求された情報は非公開であり,外部へ

与えられ得ないことを通知するとともに,料金と交換に,特定の加入者に安全な通

知メッセージ(テキストメッセージの形式で)を間接的に送る機会を提供する(段

落【0012】,【0014】,【0015】)。ここで,要求者が通知メッセー

ジを間接的に送る提案を受け入れるなら,通知メッセージに関する情報が集められ,

もし要求者が電話70を使ってディレクトリー支援プロバイダーコンタクトサイト

60にコンタクトしたなら,ディレクトリー支援操作者は,電話接続上で該要求者

から関係するメッセージ情報を得て,この情報を通知メッセージスクリーン内に入




れるようにし,もし要求者がウエブイネーブルドデバイス80を使ってディレクト

リー支援プロバイダーコンタクトサイト60にコンタクトしたなら,通知メッセー

ジスクリーンがウエブイネーブルドデバイス80のディスプレー上に現れ,要求者

は,その関係するメッセージ情報を通知メッセージスクリーン内に直接入れるよう

にする(段落【0016】)。なお,通知メッセージスクリーン内のメッセージタ

イプボックス15は,メッセージのタイプのタグを付けるため提供され,緊急(E

mergency),至急(Urgent),個人的(Personal),及び

ビジネス(Business)の様な多くのタグのオプションを有するプルダウン

メニューの形式とすることができる(段落【0017】)。

要求者による通知メッセージを,非公開加入者(コンタクト情報が公開されてな

い加入者)へ送信するために,中央ネットワークステーション20は,該ネットワ

ークステーション20内に記憶されたその情報からその加入者の遠隔通信サービス

プロバイダーとアクセス番号を識別し,通知メッセージを含むイーメイルをその加

入者のアクセス番号へ送信するが,その際,エスエムエス(SMS:短いメッセー

ジングサービス)のような,どんな形式のテキストメッセージングも使用される。

これにより,イーメイルは,適当な通信ネットワーク(例えば,シーデーエムエイ
(CDMA)等)上を加入者通信デバイス30へ伝送され,意図された加入者は,

通知メッセージを受信するが,通知メッセージを含むイーメイルは,中央ネットワ

ークステーション20で発生されるので,非公開コンタクト情報は要求者には明か

されず,かくして安全である(段落【0019】)との効果を奏する。なお,通知

メッセージを受信した加入者は,提供されたその番号の要求者とコンタクトするか,

要求を無視するかのオプションを有する(段落【0021】)。

(2) 引用発明

ア 引用刊行物1(甲1)には,以下の記載がある(下線は当裁判所が付した)。

【0001】

【発明の属する技術分野】本発明は,例えばオペレータに住所や名前等を告げて電




話番号を案内してもらう電話番号案内サービス,或いは旧電話番号を手掛かりに新

電話番号を案内してもらうサービスに適用可能な電話番号案内方法及び電話番号案

内システムに関するものである。

【0002】

【従来の技術】この種の電話番号案内サービスでは,電話番号を所持する所持者(登

録者)が公開・非公開を選択することができる。例えば,ある登録者が自分の電話

番号を他人に知らせたくない場合には電話番号を非公開として登録すれば,この登

録者の電話番号は電話番号案内サービスを介して他人に知られるようなことはな

く,登録者のプライバシーは守られていた。

【0003】

【発明が解決しようとする課題】しかしながら,このようなサービスでは,電話番

号を非公開とした場合に,全ての人が一意にこの登録者の電話番号を知ることがで

きないので,本来自分の電話番号を知らせたい相手にも電話番号を知らせることが

できない,という不都合があった。・・・

【0005】本発明は,このような事情に基づきなされたもので,電話番号案内サ

ービスにおいて,自分の電話番号を知らせたい相手に対して手間を要することなく
確実に電話番号を知らせることができる電話番号案内方法及び電話番号案内システ

ムを提供することを目的としている。

【0015】
【発明の実施の形態】以下,本発明の実施形態を図面を参照して説明する。

(第1の実施形態)図1は本発明が適用されるシステムの概略的な全体構成を示す

図である。

【0016】図1において,符号201は公衆網を示しており,この公衆網201

には,局202を介して一般の電話機203等が接続されている。また,無線基地

局204を介して携帯電話205等が無線より接続されている。

【0017】また,公衆網201には,電話番号案内センタ206が接続されてい




る。・・・

【0019】電話番号案内センタ206内には,電話番号の案内に使うための電話

番号案内システム207が設けられている。この電話番号案内システム207は,

電話番号の検索等の処理を行うための情報処理部209と電話番号に関する各種の

データが登録された電話番号データベース210とメッセージボックス211とか

らその主要部が構成される。

【0021】図2に示すように,電話番号データベース210は,この電話番号案

内センタ206により案内される電話番号の登録を受けた者(以下,この第1の実

施形態においては「登録者」と呼ぶ。)の電話番号212,氏名又は名称213,

住所又は居所214,旧電話番号215,電子メールアドレス216,職業,その

他の登録者属性情報244等を含む登録者情報217と,照会者に応じた対応を格

納する電話番号公開条件218と,電話番号の案内を拒否する照会者のリストを格

納する案内拒否リスト219と,登録者に対する照会者からの情報の通知方法を格

納する通知方法情報220と,を少なくとも格納する。

【0022】電話番号公開条件218には,照会者から登録者の名前や住所,旧電

話番号を提示した案内を受けた場合におけるオペレータの応答パターン或いはシス

テムが自動的に応答するパターンが予め登録されている。この実施形態では,登録

者が次の3種類の応答(1)〜(3)のうちから1つを選択して設定することがで

きる。・・・

(2)『全ての照会者に常に登録者の電話番号の公開を拒否する』(図2の22

2)

(3)『照会者に対して電話番号を案内することなく登録者に対して照会者から

の情報を通知する』(図2の223)

この応答パターンは,照会者に対して電話番号を案内することなく登録者に対して

照会者からの情報を通知するものであり,この通知は後述するが例えば照会者に対

して音声メッセージを入力させ,入力された音声メッセージを登録者に対して通知




するものである。

【0025】通知方法情報220には,応答パターンが上記の(3)(図2の22

3)である場合の情報の通知方法が格納されている。この実施形態では,登録者が

次の4種類の通知方法(1)〜(4)のうちから1つを選択して設定することがで

きる。・・・

(3)トーン信号による文字情報での通知(図2の226)

この通知方法は,照会者に対してプッシュボタン操作(トーン信号)による文字信

号の入力によりメッセージを要求し,当該入力メッセージを登録者に対して通知す

るものである。登録者に対する通知方法としては,例えば文字信号をショートメー

ルやポケベルの要領で,登録者の端末に直接送信しても良いし,文字信号を音声に

変換して登録者の端末に送信しても構わない。
【0028】図4は情報処理部209を含むこの電話番号案内システム207の全

体構成を示す図である。

【0029】この電話番号案内システム207は,CPU232,RAM233,
ROM234,各種通信インタフェース235等が接続されたバス236に,前記

情報処理部209,電話番号データベース210及びメッセージボックス211が
接続されている。

【0030】情報処理部209は,図4に示すように,照会者から通知された旧電

話番号により登録者の電話番号の案内要求を受け付ける案内要求受付部237と,
旧電話番号や氏名,住所等をキーにして登録者が電話番号データベース210に登

録されているかを判断する登録判断部238と,電話番号データベース210に登

録されている公開条件218に基づいて,照会者に対して電話番号の案内をするか,

拒否するか,照会者に対して電話番号を案内することなく登録者に対して照会者か

らのメッセージを通知するものであるかを判断する公開可否判断部239と,照会

者に対してメッセージの入力を促し,入力されたメッセージをメッセージボックス

211に格納する処理を行うメッセージ格納処理部240と,メッセージボックス




211に格納されたメッセージを通知方法210に従って登録者に通知を行うメッ

セージ通知処理部241と,照会者に対して公開可能な電話番号の案内を行う電話

番号案内部242と,案内拒否リスト219への登録処理や案内拒否処理を行う案

内拒否処理部243とを少なくとも備えている。

【0032】次に,このように構成された電話番号案内システム207を用いた電

話番号の案内方法について説明する。

【0034】まず最初に自動的に電話番号案内システム207がサービスを受け付

ける場合の動作を図5のフローチャートに基づき説明する。

【0035】例えば照会者が携帯電話205により旧電話番号を使って登録者に発

呼すると,例えばこの呼が公衆網201を介してセンタ206に転送される。

【0036】センタ206の電話番号案内システム207がその呼に対して着信す

ると(ステップ501),電話番号案内システム207では,登録判断部238が

呼に含まれる旧電話番号をキーにして電話番号データベース210内に登録者が登

録されているかを検索する(ステップ502)。

【0037】電話番号データベース210内に登録されている場合に,案内要求受

付部237が照会者がこの照会者の呼を電話番号の案内要求として受け付ける(ス

テップ503)。・・・

【0038】上記の案内要求を受け付けると,案内拒否処理部243が案内拒否リ

スト219をもとに照会者がリストアップされていないかを判断する(ステップ5

05)。そして,リストアップされている場合には,例えば「この電話は現在使わ

れていません。」のメッセージが照会者に流され(ステップ504),処理を終了

する。

【0039】一方,案内拒否リスト219に照会者がリストアップされていない場

合には,公開可否判断部239が公開条件218をもとに旧電話番号に対応する登

録者の公開条件を判断する(ステップ506)。

【0041】公開条件218が『全ての照会者に常に登録者の電話番号の公開を拒




否する』の場合には(ステップ509),例えば「この電話は現在使われておりま

せん。」のメッセージが照会者に流され(ステップ504),処理を終了する。

【0042】公開条件218が『照会者に対して電話番号を案内することなく登録

者に対して照会者からの情報を通知する』の場合には(ステップ510),メッセ

ージ格納処理部240により例えば「この契約者の電話番号は移転しました。この

移転者に対してメッセージを届けることができます。ピッと鳴ったらメッセージを

入力してください。」のメッセージが照会者に流され(ステップ511),照会者

のメッセージ,・・・がメッセージボックス211に蓄積される(ステップ512)。

メッセージボックス211には,このメッセージ229が照会者の電話番号228

と登録者の電話番号230と登録者への通知方法231と関連付けられて蓄積され

る。・・・

【0043】このようにメッセージが蓄積されると,メッセージ通知処理部241

が通知方法231に従って登録者に通知を行う(ステップ513)。

【0044】図6はメッセージ通知処理部241による登録者へのメッセージ通知

の動作を示すフローチャートである。

【0045】まず,メッセージ通知処理部241の通知方法231の種別を判断し
(ステップ601),その通知方法が「音声による通知(その1)」の場合には(ス

テップ602),登録者に発信を行ってメッセージボックス211から当該録音メ

ッセージを通知する(ステップ603)。

【0048】なお,上述した実施形態では,照会者から登録者に対してセンタを介

して音声メッセージを通知するようにしていたが,そのようなメッセージの通知方

法そして(「そのようなメッセージの通知方法として」の誤記と認める。),既に

説明したようにトーン信号による文字情報での通知(図2の226)であっても良

いし,電子メールによる通知(図2の227)であってもよい。

【0049】また,上述した実施形態では,照会者が旧電話番号にアクセスすると

自動的に電話番号案内システム207がサービスを受け付ける場合について説明し




たが,例えば照会者がセンタ206にアクセスしてオペレータを介してサービスを

受ける場合にも本発明を適用できる。

【0051】更に,上述した第1の実施形態は公衆網を使って本発明を実現するす

るものであったが,インターネット等の他のネットワークシステムにおいても本発

明を実現することが可能である。この場合,照会者及び登録者の端末として携帯電

話やパーソナルコンピュータ等を用いることができる。・・・

イ 以上によれば,引用発明は,電話番号の照会を受けようとする者「照会者」
( )

から登録者の電話番号の案内要求を受け付け,照会者に対して電話番号を案内する

ことなく照会者に対してメッセージを入力させ,入力されたメッセージを登録者に

対して通知する電話番号案内方法であって,メッセージは,照会者の名前,返信用

の電話番号及び用件を含み,照会者が,公衆網201に接続された一般の電話機や

携帯電話を用い,公衆網201に接続された電話番号案内センタ206にアクセス

すると,電話番号案内センタ206内では,照会者に対してプッシュボタン操作(ト

ーン信号)による文字信号の入力によりメッセージを要求し,当該入力メッセージ

を登録者に対して,例えば文字信号をショートメールやポケベルの要領で,登録者

の端末に直接送信し,また,照会者が電話番号案内センタ206にアクセスしてオ

ペレータを介してサービスを受ける場合には,照会者が電話番号案内センタ206

アクセスすると,オペレータが対応にでて,案内を受けたい電話番号に対する旧

電話番号,住所,名前等を伝えてもらい,それを電話番号案内システム207に入

力してもよいようにしたものと認められる。

また,引用発明は,インターネット等の他のネットワークシステムを用いる場合

に,照会者及び登録者の端末として携帯電話やパーソナルコンピュータ等を用いる

ことができるようにしたとも認められる。

そして,引用発明は,従来,電話番号を所持する所持者(登録者)が公開・非公

開を選択することができる電話番号案内サービスでは,電話番号を非公開とした場

合に,全ての人が一意にこの登録者の電話番号を知ることができないので,本来自




分の電話番号を知らせたい相手にも電話番号を知らせることができない,との問題

点があったことに鑑み,電話番号案内サービスにおいて,自分の電話番号を知らせ

たい相手に対して手間を要することなく確実に電話番号を知らせることができる電

話番号案内方法を提供することを目的としたもので(段落【0002】,【000

3】,【0005】),引用発明は,上記の構成により,上記問題点を解決し,上

記目的を達成したと認められる。

(3) 本願発明と引用発明の対比

以上を前提に,本願発明と引用発明を対比すると,両者の一致点及び相違点は審

決で認定したとおりとなる(前記第2の3(2))。この点は当事者間においても争い

がない。

2 取消事由1(本願発明と引用発明の相違点2の判断の誤り)について

(1) 周知技術1の認定

ア 周知例1(米国特許第5613006号明細書)

本願の優先日前に頒布された刊行物である,周知例1(甲2)には以下の記載が

ある(下線は当裁判所が付した。)。

ナイネックス(地域的なベル事業会社)は,電話番号を電話帳に載せないままで

いることを好む人々に対して,発呼者が,録音されたメッセージを残すことを初め

て可能にするサービスのテストを行っています。電話番号案内を呼んだものの,そ

の電話番号がリストには掲載されていないと伝えられた人々は,メッセージを残す
オプションが与えられているとの録音音声を聞くでしょう。リストに無掲載の電話

番号を有する顧客は,受信メッセージをすべて拒絶する選択権を持つでしょう。ナ

イネックスは,メッセージを残すために発呼者に代金を請求することを計画してい

ます。

イ このように,周知例1には,
「発明の背景」として,電話番号案内サービ

スにおいて,電話番号を電話帳に載せないままでいることを好む人々に対して,発

呼者が,録音されたメッセージを残すことを初めて可能にするサービスを設定し,




当該サービスを有料化して発呼者に代金を請求することが記載されている。そして,

電話サービスにおいて,基本的な通話サービスに対し,これに関連した付加的なサ

ービスを有料化し,その代金を利用者に請求することは,本願の優先日前,電話会

社の営業活動として,普通に行われていたと認められる。

そうすると,周知例1における「発明の背景」の記載から,
「発呼者が,録音され

たメッセージを残すことを初めて可能にするサービス」に限らず,電話番号案内サ

ービス(ディレクトリサービス)に関連した付加的なサービスを有料化することは,

普通に行われていたと理解できるから,
「電話番号案内サービス(ディレクトリサー

ビス)に関連したサービスを有料とし,電話番号の案内を受けようとする者に課金

をすることは,例えば,米国特許第5613006号明細書第1欄「発明の背景」

の第2段落に記載されているように,周知技術である。 とした審決の認定に誤りは


ない。

ウ 原告の主張について

この点,原告は,審決における周知技術1の認定は,
「特定の引用文献の具体的な

記載から離れて,抽象化,一般化ないし上位概念化」をしたものであり,審決にお

ける周知技術1の認定には誤りがある,周知例1ただ1つのみをもって周知技術
を認定した審決の認定は誤りであると主張する。

しかし,そもそも周知技術1は,証拠がなければ認定が困難な特殊な技術ではな

く,電話会社の営業活動としてありふれた一般的サービスといえるから,周知例1

の具体的記載との関係を問題とするまでもなく認定できるものである。しかも,複

数のサービスが存在する場合に主眼となるものと従たるものが併存するときには,

その関係は基本的サービスとそれに関連した付加的なサービスに当然に分類される

のであって,これを抽象化や上位概念化と認識すべき理由はない。周知例1では「電

話番号案内サービス(ディレクトリサービス) がサービスの主眼となるから基本的


サービスに分類されるのに対し,利用者への課金は「メッセージを残す」サービス

に対するもので,基本的サービスそのものに対する課金ではない以上,
「基本的サー




ビスに関連した付加的なサービス」への課金に当たることになるだけであって,審

決の認定が,
「特定の引用文献の具体的な記載から離れて,抽象化,一般化ないし上

位概念化」をしたとはいえない。

また,上記のとおり,周知技術1を認定するに当たって証拠を掲げる必要性は必

ずしも高くない上に,周知例1の記載からすれば,付加的なサービスの有料化とい

周知技術1の存在がうかがわれるのであって,周知例1ただ1つの周知例に基づ

いて周知技術の認定をしたものとはいえない。現に,携帯電話通話サービスという

基本サービスに対して,関連したオプション的なサービス(留守番電話やキャッチ

ホンサービス等)を有料とすることは周知技術であることが,他の周知文献からも

裏付けられている(乙1)。

よって,原告の主張はいずれも採用できない。

(2) 相違点2に係る構成の容易想到性についての論理付けの有無

原告は,審決には相違点2に係る構成の容易想到性についての論理付けが欠けて

いると主張する。

しかしながら,上記のとおり「電話番号案内サービス(ディレクトリサービス)

に関連したサービスを有料とし,電話番号の案内を受けようとする者に課金をする
こと」は,本願の優先日前,周知技術と認められる。

そして,引用発明は,
「電話番号案内センタ206内で」,照会者(本願発明の「要

求者」に相当。)の「プッシュボタン操作(トーン信号)による文字信号の入力によ」

る「メッセージ」を,
「ショートメール」で,登録者(本願発明の「加入者」に相当。)

の端末に直接送信するものであり,それにより,照会者に対して電話番号を案内す

ることなく照会者により入力されたメッセージを登録者に対して通知するようにし

たと認められるところ,電話サービスにおいて,基本的なサービスに対し,これに

関連した付加的なサービスを設定して有料化し,その代金を利用者に請求すること

が,本願の優先日前,電話会社の営業活動における一般的なサービスとして,普通

に行われていたと認められるから,引用発明において,上記「メッセージ」を「シ




ョートメール」で送るための料金を照会者(要求者)に課金することは,周知技術

1を適用することにより,当業者が容易に想到し得たものと認められる。

したがって,審決の「引用発明に上記周知技術を適用し,引用発明において「プッ

シュボタン操作(トーン信号)による文字信号の入力によ」る「メッセージ」を「シ

ョートメール」で送信する場合に,該「メッセージ」を「ショートメール」で送る

ための料金を照会者(要求者)に課金することは,当業者が容易になし得たことで

ある。 との判断において,
」 相違点2に関する容易想到性についての論理付けは示さ

れているといえるから,この点に関する原告の主張は理由がない。

(3) 引用発明に周知技術1を適用すると相違点2に係る構成は導かれるか

ア 原告は,審決が認定した相違点2に係る本願発明の特徴,すなわち,前

記通知メッセージを送るための料金を前記要求者に課金する過程は,審決が認定し

周知技術1,すなわち,電話番号案内サービス(ディレクトリサービス)に関連

したサービスを有料とし,電話番号の案内を受けようとする者に課金することとは

明らかに異なる旨主張し,引用発明に周知技術1を適用しても相違点2に係る構成

は導かれないとする。

しかしながら,周知技術1における「電話番号案内サービス(ディレクトリサー
ビス)に関連したサービス」とは電話番号案内サービス以外の付加的なサービスを

指すのであって,少なくとも本願発明における通知メッセージを送るためのサービ

スもこれに含まれることは自明であり,両者に本質的な差異は存在しない。そして,

課金の対象者は本願発明と周知技術1ともにメッセージを送る側であるという点で

一致するところ,引用発明では課金の有無及びその対象者が明らかではないだけで

あるから,引用発明に周知技術1を適用した場合には,課金の対象者はメッセージ

を送る側となって本願発明と同じになる。そして,引用発明における上記「メッセ

ージ」を「ショートメール」で送ることは,本願発明における「前記通知メッセー

ジを送るための料金を前記要求者に課金する過程」 「前記通知メッセージを送る」


ことに相当すると認められる。




そうすると,本願発明における「前記通知メッセージを送るための料金を前記要

求者に課金する過程」
(相違点2に係る構成)は,引用発明において,周知技術1を

適用することにより,容易に想到し得るものと認められる。

イ また,原告は,審決は周知技術1の適用場面において具体化ないし下位

概念化した上で引用発明に適用したのであって,許されないとも主張する。

しかしながら,周知技術1は,上記のとおり電話番号案内サービスという基本サ

ービス以外の付加的なサービスにも課金できるというものであるから,具体化や下

位概念化せずにそのまま引用発明に適用した場合であっても,通知メッセージを送

るサービスが有料となることに変わりなく,原告の批判は当たらない。

ウ 以上のとおり,これらの点に関する審決の判断に誤りはない。

(4) 容易想到性の判断で論理付けができるか否か

ア 本願発明は,遠隔通信サービスにおいて,非公開加入者(コンタクト情

報が公開されてない加入者)が非公開コンタクト情報を明かすことなしにコンタク

トされ得るシステムと方法を持つとの目的を達成するものである。これに対し,引

用発明は,照会者から登録者の電話番号の案内要求を受け付け,照会者に対して電

話番号を案内することなく照会者に対してメッセージを入力させ,入力されたメッ

セージを登録者に対して通知する電話番号案内方法であって,電話番号を非公開と

した場合に,全ての人が一意にこの登録者の電話番号を知ることができないので,

本来自分の電話番号を知らせたい相手にも電話番号を知らせることができないとの

問題点に鑑み,電話番号案内サービスにおいて,自分の電話番号を知らせたい相手

に対して手間を要することなく確実に電話番号を知らせることができる電話番号案

内方法を提供するとの目的を達成するものである。このように,引用発明において

も,電話番号を非公開とした登録者が,電話番号を明かすことなしに照会者からコ

ンタクトされ得ると認められるから,相違点2に係る構成の有無により,本願発明

と引用発明との間に,上記の作用効果上,格別の相違が生じるとは認められない。

そして,周知技術1は引用発明と同様に通信サービスという同一技術分野に関す




るものであるし,引用発明を実施する者が事業者の場合には営利性を有しているこ

とが一般的であり,サービスの対価として利用料を徴収することはごく自然な発想

というべきであるから,通常の事業活動の範囲内とも評価できるのであって,これ

らを組み合わせることには動機付けが存在する。

以上によれば,引用発明に周知技術1を適用して,相違点2に係る構成とするこ

との容易想到性は,審決における相違点2に係る構成の容易想到性の論理付けから

理解できるものであり,その判断の内容にも誤りはない。

イ 原告の主張について

この点,原告は,周知例1では,サーバ等のメッセージを蓄える装置にメッセー

ジを残す技術を開示し,そのため,残されたメッセージは,確実に相手に届けられ

るかどうか不明であり,あくまでも被呼者がメッセージを拒絶できることに主眼が

置かれているから,確実に被呼者に情報を通知する必要のある引用発明に適用する

動機付けは存在せず,また,適用すると引用発明の課題が解決できなくなるので阻

害要因があると主張する。

しかしながら,引用発明においても,登録者は全ての照会者に対して常に電話番

号の公開を拒否することができ,その場合はメッセージが通知されることなく処理

が終了するから(段落【0022】【0041】,この限度で周知例1と本質的な
, )

差異は認められず,原告の主張は前提を欠くものというほかない。また,周知技術

1は,あくまでも「電話番号案内サービス(ディレクトリサービス)に関連したサ

ービスを有料とし,電話番号の案内を受けようとする者に課金すること」と認めら

れるのであって,周知例1に挙げられているのはその具体的な適用例にすぎないか

ら,引用発明と周知例1との間で被呼者へのメッセージサービスの内容に具体的な

差異があるとしても,周知技術1を引用発明に適用する動機付けは否定されないし,

阻害要因にもならない。よって,原告の主張は採用できない。

3 取消事由2(本願発明と引用発明の相違点3の判断の誤り)について

(1) 相違点3に係る構成の容易想到性についての論理付けの有無




本願発明において,要求者が非公開加入者(コンタクト情報が公開されてない加

入者)へ送信する通知メッセージには,メッセージのタイプを表すタグが付され,

当該通知メッセージを含むイーメイルは,シーデーエムエイ(CDMA)等の通信

ネットワーク上を加入者通信デバイス30へ伝送され,上記メッセージのタイプを

表すタグには,緊急(Emergency),至急(Urgent),個人的(P

ersonal) 及びビジネス
, (Business)の様なタグが含まれるから,

本願発明の「メッセージのタイプ」には,「緊急」,「至急」等の優先度を含む情

報が含まれると解するのが相当である。

そして,引用発明は,「照会者(本願発明の「要求者」に相当。)が,公衆網20

1に接続された一般の電話機や携帯電話を用い,公衆網201に接続された電話番

号案内センタ206にアクセスすると,電話番号案内センタ206内で」 照会者の


「プッシュボタン操作(トーン信号)による文字信号の入力によ」る「メッセージ」

を,「ショートメール」で,登録者(本願発明の「加入者」に相当。)の端末に直接

送信するものと認められる。

また,周知例2(甲3)には,
「従来の技術」として,「米国規格TIA/EIA

/IS637」において,「メッセージ」が優先(至急)か否かを指定して送信で

きることが記載されており,本願の優先日前,「メッセージ」が優先(至急)か否

かを指定して送信すること,すなわち,「メッセージ」のタイプに関する情報を含

めて送信することは,「米国規格TIA/EIA/IS637」のような無線通信

分野において,周知技術であった(周知技術2)と認められる。

そうすると,引用発明において,照会者が,無線通信手段である携帯電話を用い,

「プッシュボタン操作(トーン信号)による文字信号の入力によ」り「メッセージ」

を作成する際,上記「メッセージ」に当該「メッセージ」のタイプに関する情報を

含めて送信することは,無線通信分野において周知技術2を適用することにより,

当業者が容易に想到し得たものといえる。

この点,原告は審決の理由不備をいうが,審決が「引用発明に上記周知技術を適




用し,「プッシュボタン操作(トーン信号)による文字信号の入力によ」る「メッ

セージ」に優先(至急)か否かを指定して,「ショートメール」で「登録者の端末

に直接送信」する・・・ようにすることは,当業者が容易になし得たことである。」と

判断したのは,当裁判所が示した上記判断と同旨の判断をしたものと認められるの

であって,理由不備があったとは認められない。

(2) 相違点3に係る構成についての容易想到性の判断の誤り

引用発明においても,電話番号を非公開とした登録者が,電話番号を明かすこと

なしに照会者からコンタクトされ得ると認められ,また,引用発明において,「プ

ッシュボタン操作(トーン信号)による文字信号の入力によ」り「メッセージ」を

作成する際,周知技術2を適用して,上記「メッセージ」に当該「メッセージ」の

タイプに関する情報を含めることで,上記「メッセージ」の優先度等を「登録者」

に知らせることができることは,当業者には明らかであるから,本願発明の相違点

3に係る構成による作用効果は,引用発明及び周知技術2から,当業者が容易に予

測し得るものであり,格別のものとはいえない。

以上から,相違点3に係る構成について,引用発明に周知技術2を適用すること

により,当業者が容易になし得たことであるとした審決の判断に誤りはない。

この点,原告は本願発明は非公開コンタクト情報を明かすことなく遠隔通信サー

ビスの加入者にコンタクトする技術分野,引用発明は電話番号案内の技術分野,周

知技術2は CDMA 等の無線通信分野であって,いずれも技術分野が異なることを理

由に組合せの動機付けがないと主張する。しかしながら,本願発明,引用発明と周

知技術2はいずれも無線通信分野,その中でも遠隔通信サービスの加入者にメッセ

ージを送信する分野という同一の技術分野に属すると認められるから,引用発明に

周知技術2を組み合わせることに阻害すべき事情は認められない。原告の主張は,

技術分野を過度に細かく分類して本願発明,引用発明,周知技術2の技術分野がそ

れぞれ異なると述べているにすぎず,採用できない。





第6 結論

以上のとおり,原告の請求は理由がない。

よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。



知的財産高等裁判所第2部




裁判長裁判官

清 水 節




裁判官

池 下 朗




裁判官
新 谷 貴 昭