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事件 |
平成
25年
(行ケ)
10027号
審決取消請求事件
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裁判所のデータが存在しません。 | |
裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2013/11/27 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
判例全文 | |
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判例全文
平成25年11月27日判決言渡 平成25年(行ケ)第10027号 審決取消請求事件 口頭弁論終結日 平成25年9月11日 判 決 原 告 有 限 会 社 大 長 企 画 訴訟代理人弁理士 熊 田 和 生 被 告 特 許 庁 長 官 指 定 代 理 人 前 田 佳 与 子 同 川 上 美 秀 同 瀬 良 聡 機 同 堀 内 仁 子 主 文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事 実 及 び 理 由 第1 請求 特許庁が不服2009−14415号事件について平成24年12月11日にし た審決を取り消す。 第2 前提となる事実 1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「皮膚用剤」とする発明について,平成14年10月18 日に特許出願をし(特許法41条に基づく優先権主張 平成13年10月31日, 平成14年2月20日,同年10月7日。以下「本願」という。)(甲1),平成 21年4月7日,拒絶査定を受け,同年8月10日,拒絶査定不服審判を請求し (不服2009−14415号事件)(甲9),平成24年7月11日,特許請求 の範囲の変更を含む手続補正を行った(以下,同補正後の本願に係る明細書を「本 1 願明細書」という。)(甲12)。特許庁は,平成24年12月11日,請求不成 立の審決(以下「審決」という。)を行い,審決書謄本は,平成25年1月7日, 原告に送達された。 2 特許請求の範囲 平成24年7月11日付け手続補正がされた後の,本願に係る特許請求の範囲の 請求項1は,以下のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本願発明」とい う。)(甲12)。 「【請求項1】A.シムノールまたはシムノール硫酸エステル B.大豆イソフラボンまたは大豆イソフラボン配糖体 C.クルクミン のA,BおよびCの成分を含むことを特徴とする皮膚用剤。」 3 審決の理由 審決の理由は,別紙審決書写しに記載のとおりであり,その要旨は,以下のとお りである。 審決は,本願発明と特開2000−103718号公報(甲2。以下「引用例 1」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)との下記相違点1 は,実質的な相違点ではなく,また下記相違点2は,引用発明に,特開平10−1 14649号公報(甲3。以下「引用例2」という。)に記載の事項を組み合わせ ることにより,当業者が容易に想到し得たものであるなどと判断した。 審決が認定した引用発明の内容,本願発明と引用発明との一致点及び相違点は, 以下のとおりである。 すなわち,引用発明の内容を「シムノールサルフェート(魚肝の有効成分)及び ダイズイン(大豆の有効成分)を含む,生体活動改善用の組成物」と認定し,一致 点を「A.シムノール硫酸エステル,及びB.大豆イソフラボン配糖体を含む組成 物」であると認定し,相違点を「本願発明は『皮膚用剤』であるのに対し,引用発 明は『生体活動改善用の組成物』である点」(相違点1)及び「本願発明は,さら 2 に成分C.としてクルクミンを含むのに対し,引用発明はクルクミンを含まない 点」(相違点2)と認定した。 第3 取消事由に関する当事者の主張 1 原告の主張 審決には,相違点2に係る構成の容易想到性の判断の誤り(取消事由1),本願 発明の効果についての判断の誤り(取消事由2)があり,その結論に影響を及ぼす から,違法であるとして取り消されるべきである。 (1) 相違点2に係る構成の容易想到性の判断の誤り(取消事由1) 審決における相違点2の容易想到性の判断には,以下のとおり,誤りがある。 ア 引用発明は,津液成分と補血・活血作用を有する成分との2成分からなる発 明であるのに対し,引用例2記載の発明は,津液改善剤のみからなる発明であり, 津液作用を有する成分を含まない点で,引用発明と異なる。しかも,引用例2記載 の物質は,津液改善剤それ自体であるから,さらに津液作用を有する成分を加える ことはない。 また,引用例1の実施例6は,「ヘンチクエキス,トウキヒエキス,ウコンエキ ス,モウトウセイエキス」という特定の成分の組合せによるものであり,実施例6 の中の特定の成分を他の成分と組み合わせることは困難である。 イ(ア) 引用例2には,一般式で示された成分を津液改善剤として使用すること が記載されているが,津液成分と組み合わせて使用することの記載はない。したが って,引用例2記載の成分を引用例1記載の成分と組み合わせることには,阻害要 因がある。 (イ) 津液作用をより高めるには,主作用である津液作用を有する成分を加える ことが普通であり,既に補助作用である津液改善作用を有する成分が組み合わされ ている引用発明の組成物に,引用例2記載の津液改善作用を有する成分をさらに加 えることには,阻害要因がある。 (ウ) 引用例2において一般式で示された化合物には数多くの物質があり,引用 3 例2の実施例にはクルクミン以外の成分も記載されており,それらの中からクルク ミンを選択する動機付けはない。しかも,引用例2の表4ないし9を参照すると, 他の成分と比べてクルクミンの効果は劣っており,実施例に記載された複数の成分 の中からクルクミンを選択することには阻害要因がある。 また,引用例1の表7及び8や実施例6及び7にも,ウコン(クルクミン)より も優れている津液改善剤が多数記載されており,これらの中からウコン(クルクミ ン)を選択して組み合わせることには,動機付けがなく,むしろ阻害要因がある。 (エ) 引用例1の実施例9には,イソフラボンとシムノールが含まれた組成物が 記載されているが,実施例9に記載された組成物に,さらに津液作用を有する生薬 あるいは補血・活血作用を有する生薬を組み合わせることはないので,これにクル クミンを加えることには,阻害要因がある。 (オ) 引用例1の実施例9の組成物は,津液作用ではない環境ホルモン代謝促進 作用を有する組成物であるから,これに津液改善剤を加える動機付けはない。 (カ) 以上のとおり,引用発明と引用例2記載の発明とを組み合わせて,引用発 明にクルクミンを加えることに動機付けはなく,むしろ阻害要因があるのであって, 本願発明は容易想到ではない。 (2) 本願発明の効果についての判断の誤り(取消事由2) 本願発明は,3成分からなる皮膚用剤とすることにより,それぞれの成分が持つ 効果を発現しただけでなく,2成分の場合よりも優れた効果を有する。本願発明は, ヒトに投与したときの効果が明らかにされ,また,どのようなヒトに投与すると効 果が得られるか,副作用があるか否かについても明らかにされている。 以上のとおり,本願発明は,引用発明や引用例2記載の発明に比べ,優れた効果 を有しているのであり,本願発明の効果が当業者が予測し得た程度の効果にすぎな いとした審決の判断には,誤りがある。 2 被告の反論 (1) 相違点2に係る構成の容易想到性の判断の誤り(取消事由1)に対して 4 ア 以下のとおり,引用発明と引用例2記載の事項とを組み合わせることに,困 難な点はない。 (ア) 引用例1には,「生体活動改善用の組成物」は,「津液作用を有する活性 成分」と「補血・活血作用を有する活性成分」を組み合わせて用い,両成分が共に 作用して「津液作用を増強する」ことにより,「種々の生体活動を改善する」旨の 記載がある。そして,引用例1における「津液作用を有する活性成分」と「補血・ 活血作用を有する活性成分」の組み合わせは,実施例で用いられている特定の活性 成分の組み合わせに限定されるものではないと理解される。 また,引用例1には,同じ処方の組成物が複数の生体活動を改善することが示さ れており,引用例1に接した当業者は,引用例1の各実施例の組成物は,各実施例 で確認された特定の作用だけでなく,種々の生体活動を改善する作用を有している と理解する。 さらに,引用例1には,引用発明の「生体活動改善用の組成物」は,「津液作用 を有する活性成分」と「補血・活血作用を有する活性成分」を1種ずつ用いる場合 だけでなく,一方の活性成分を1種と他方の活性成分を2種以上用いる場合,両方 の活性成分を2種以上ずつ用いる場合も記載されている。 以上によれば,当業者が,引用発明に他の「補血・活血作用を有する活性成分」 を追加することに,困難性はない。 (イ) 引用発明における補血・活血作用を有する活性成分が増強する「津液作 用」は,体内水分を媒体として生じる美肌作用,各種皮膚疾患の改善作用,発毛促 進作用,発汗促進作用,消化液分泌促進作用,利尿作用,便通促進作用等の「種々 の生体活動」を包含している。 引用例2に記載された津液改善剤は「津液作用」を改善させるものであり,この 「津液作用」は,体内水分を媒体として生じる美肌作用,各種皮膚疾患の治療作用, 発毛促進作用,吹き出物の治療作用,消化液分泌促進作用,発汗促進作用,利尿作 用,便通促進作用等の「種々の生体活動」を包含している。また,上記「津液改善 5 剤」は,1種で用いる場合だけでなく,同じ作用を有するものを2種以上組み合わ せた場合でも,「津液作用」を改善させる。 このように,引用発明における補血・活血作用を有する活性成分が増強する「津 液作用」と,引用例2に記載された津液改善剤により改善される「津液作用」とは, いずれも,体内水分を媒体として生じる美肌作用,各種皮膚疾患の改善作用,発毛 促進作用,発汗促進作用,消化液分泌促進作用,利尿作用,便通促進作用等の 「種々の生体活動」を包含しており,その作用はおおむね一致している。 また,引用例1において「津液作用を有する生薬」として記載されている生薬と, 引用例2において「津液作用を有する生薬」として記載されている生薬とは,かな りのものが一致している。 以上によると,引用発明における「補血・活血作用を有する活性成分」と,引用 例2に記載された「津液改善剤」とは,実質的に同一の作用を有している点,また, 同じ作用を有する活性成分を2種以上組み合わせて用いても良いという点で,共通 している。 (ウ) クルクミンは,ヒトへの適用実績が豊富にあり,他の生薬と併用しても安 全で汎用性が高い活性成分であることは,本願優先日当時の技術常識であった。前 記のとおり,当業者が引用発明に他の「補血・活血作用を有する活性成分」を追加 することは容易であるところ,引用発明に追加する「補血・活血作用を有する活性 成分」として引用例2に記載された津液改善剤であるクルクミンを用いて相違点2 に係る構成に至ることは,当業者が容易に想到し得たことである。 イ 以下のとおり,引用発明と引用例2記載の発明とを組み合わせることに,阻 害要因はない。 引用例1の「生体活動改善用の組成物」における「津液作用を有する活性成分」 と「補血・活血作用を有する活性成分」の組合せは,実施例で用いられている特定 の活性成分の組合せに限定されるものではない。 引用例1の実施例で用いられている活性成分中,作用が劣る成分であっても,引 6 用例1の「補血・活血作用を有する活性成分」として認められないわけではない。 また,引用例2の記載によると,クルクミンの津液改善作用が,カプサイシンある いはシナピンに比して,著しく劣っているとは解されず,むしろ,同程度であると 解するのが相当である。 さらに,引用例1には,実施例で示されている活性成分について,他の活性成分 と組み合わせることを制限するような記載はなく,引用例1の記載及び本願優先日 当時の技術常識を斟酌しても,引用例1に記載された活性成分のいずれについても, 他の活性成分と組み合わせた場合,生体活動の改善が阻害されたり,重篤な副作用 が生じる等,特段の支障となるような事情は認められない。また,本願優先日当時, クルクミン,シムノールサルフェート,大豆イソフラボン配糖体は,いずれも医薬 としての生理作用が報告され,ヒトへの適用実績が豊富な生薬由来の活性成分であ り,これら3成分の併用に関する配合禁忌は見あたらない。 以上のとおり,引用発明と引用例2記載の発明とを組み合わせて,3成分を併用 する本願発明の構成とすることに,阻害要因はない。 (2) 本願発明の効果についての判断の誤り(取消事由2)に対して 引用例1には,2成分を併用する引用発明により,津液作用が増強されて種々の 生体活動が改善されたことが記載されている。 本願明細書に記載された津液改善作用は,単に治療効果があることを示すものに すぎず,これらは,引用例1及び2に記載された種々の生体活動を改善する作用と 同等の効果にすぎない。また,本願明細書には,「3成分併用の場合」と「3成分 中の2成分のみの場合」との効果比較も記載されていない。 以上によると,本願発明が,当業者が引用例1及び2の記載から予測し得る範囲 を超えた優れた効果を有するとはいえない。 第4 当裁判所の判断 1 相違点2に係る構成の容易想到性の判断の誤り(取消事由1)について (1) 事実認定 7 ア 本願発明について 本願明細書(甲1,12)によれば,本願発明は,「A.シムノールまたはシム ノール硫酸エステル」,「B.大豆イソフラボンまたは大豆イソフラボン配糖体」 及び「C.クルクミン」の成分を含むことを特徴とする皮膚用剤に関する発明であ る。 同皮膚用剤を投与することにより,美白,しみ,しわ,発毛,育毛の化粧料,あ るいは,美肌作用,アトピー性皮膚炎治療作用,皮膚炎群治療作用,皮膚真菌治療 作用,疣贅治療作用,色素沈着症治療作用,尋常性乾癖治療症,老人性乾皮症,老 人性角化腫治療作用,皮膚損傷治療作用,発毛促進作用,消化液分泌促進作用,発 汗促進作用,便通促進作用,内出血治療作用及び利尿作用等の医薬としてすぐれた 効果が得られるとするものである。なお,クルクミンは,ウコンに含まれる成分と 解される。 イ 引用例1の記載 引用例1(甲2)には,「津液作用を有する成分」を1種ないしは2種以上と 「補血・活血作用を有する成分」を1種ないしは2種以上組み合わせることにより, 津液作用である生体活動の改善作用をより向上させる発明が記載され,その実施例 9には,津液作用を有するダイズイン(大豆の有効成分)と,補血・活血作用を有 するシムノールサルフェート(魚肝の有効成分)とを組み合わせた生体活動改善用 の組成物が記載されている。引用例1記載の発明で用いる補血・活血作用を有する 生薬の例として,ウコン等が好ましい旨の記載がある。 また,引用例1には,引用発明の生体活動改善用の組成物は,補血・活血作用と 津液作用が同時に促進されることにより,美肌作用やアトピー性皮膚炎,湿疹,皮 膚真菌症,色素沈着症,尋常性乾癬,老人性乾皮症,老人性角化腫,火傷などの皮 膚疾患の改善作用,発毛促進作用,発汗促進作用,消化液分泌促進作用,利尿作用, 便通促進作用等の生体活動をより一層改善する作用に優れるばかりでなく,難治と されている糖尿病,肝臓病,高血圧等についても,人体がそれらの疾病の改善のた 8 めに発揮する諸機能の発現に必要な物質を充分に供給することによって改善する作 用を有し,さらに,生体に有害な環境ホルモンなどの体外への排出を高める作用も 有する旨が記載されている。 ウ 引用例2の記載 引用例2(甲3)には,@津液作用である,しゃ下作用,利水作用,補陰作用, 消導作用を改善しうる物質(津液改善剤)及びそれを含有する食品,医薬等の経口 投与用組成物を提供することを課題とする発明に係る事項,A津液作用のうち「し ゃ下作用」を有する漢方生薬としては,ダイオウ,バンシャヨウ,ロカイ,マシニ ン,ケンゴシ,カンスイ,ゲンカ,ゾクズイシ,ウキュウコンピ等が知られており, 津液作用のうち「利水作用」を有する漢方生薬としては,チョレイ,ブクリョウ, タクシャ,インチンコウ,ヨクイニン,トウカニン,ジフシ,トウキヒ,キンセン ソウ等が知られており,津液作用のうち「補陰作用」を有する漢方生薬としては, シャジン,セイヨウジン,テンモンドウ,バクモンドウ,セッコク,ギョクチク, ヒャクゴウ,ソウキセイ,カンレンソウ,ジョテイシ,ゴマ,コクズ,キバン,ベ ッコウ等が知られており,津液作用のうち「消導作用」を有する漢方生薬としては, サンザシ,クレンコンピ,ヒシ,カクシツ,ライガン,ビンロウジ,ナンカシ,タ イサン等が知られているとの事項,B引用例2に係る発明の津液改善剤が,美肌作 用,アトピー性皮膚炎治療作用,湿疹で代表される皮膚炎群治療作用,皮膚真菌症 治療作用,疣贅治療作用,肝炎で代表される色素沈着症治療作用,尋常性乾癬治療 症,老人性乾皮症,老人性角化腫治療作用,物理的原因による皮膚損傷治療作用, 発毛促進作用,消化液分泌促進作用,発汗促進作用,便通促進作用,及び排尿促進 (利尿)作用からなる群から選ばれる少なくとも一つを改善する作用を有するとの 事項,及びC引用例2に係る発明の経口投与用組成物は,津液改善剤から選ばれる 1種ないしは2種以上を含有するとの事項についての記載がある。また,引用例2 には,津液改善剤として,カプサイシン,シナピン,クルクミンが例示されている。 (2) 相違点2に係る構成の容易想到性の有無について 9 引用例1及び2によれば,本願発明の相違点2に係る構成は,容易に想到するこ とができる。 すなわち,引用例1には,@津液作用を有するダイズイン(大豆の有効成分)と, 補血・活血作用を有するシムノールサルフェート(魚肝の有効成分)とを組み合わ せることにより,生体活動の改善作用をより向上させる組成物に関する発明が記載 され,また,A生体活動改善用の組成物に,津液作用を有する成分を1種ないしは 2種以上,及び,補血・活血作用を有する成分を1種ないしは2種以上含有する事 項が記載され,さらに,B補血・活血作用を有する生薬としてウコンが例示されて おり,実施例6には,津液作用を有するヘンチクエキス及びトウキヒエキス,補 血・活血作用を有するウコンエキス及びモウトウセイエキスを含んだ健康食品が記 載されている。 引用例2には,津液改善剤についての発明が記載されている。引用例2における 津液改善剤は,津液作用を促進・改善する作用を有するものであり,2種以上用い ることも予定されている。引用例2における津液作用は,体内水分に係わる美肌作 用,アトピー性皮膚炎,湿疹,皮膚真菌症,疣贅,色素沈着症,尋常性乾癬,老人 性乾皮症,老人性角化腫,火傷等の各種皮膚疾患治療作用,発毛促進作用,発汗促 進作用,消化液分泌促進作用,利尿作用,便通促進作用等であり,引用例1に記載 された津液作用と共通する。また,引用例2には,津液作用(しゃ下作用,利水作 用,補陰作用,消導作用)を有する漢方生薬が例示されているが,引用例1に記載 された津液作用を有する生薬と共通するところが多く,引用例2における津液作用 と,引用例1における津液作用とは実質的に同一のものであると認められる。そう すると,引用例2における津液改善剤は引用例1における補血・活血作用を有する 成分に相当すると解され,また,いずれも,2種以上を組み合わせて使用すること もあり得る点で共通している。そして,引用例2には,津液改善剤の例として,カ プサイシン,シナピンと共に「クルクミン」が挙げられている。 以上によれば,「クルクミン(ウコンエキス)」は,引用例1において,補血・ 10 活血作用を有する生薬として例示され,実施例6でも使用され,また,引用例2に 津液改善剤の例として記載されていることに照らすならば,引用例1に接した当業 者が,津液作用をより向上させるために,引用発明に係る組成物に,補血・活血作 用を有する成分として「クルクミン(ウコンエキス)」を付加して,相違点2に係 る構成に至ることは,容易であるといえる。 (3) 原告の主張に対して ア 原告は,引用発明は,津液作用を有する成分と補血・活血作用を有する成分 との2成分からなる組成物の発明であるのに対し,引用例2記載の発明は,津液改 善剤のみからなる組成物の発明であり,引用例2記載の物質に津液作用を有する成 分を加えることはないと主張する。 しかし,前記のとおり,引用例1には,生体活動改善用の組成物に,津液作用を 有する成分と共に,補血・活血作用を有する成分を1種ないしは2種以上含有する ことが開示されており,引用例1に接した当業者が,引用発明に係る生体活動改善 用の組成物に補血・活血作用を有する成分を加えることは容易であると認められる のであって,原告の主張は失当である。 また,原告は,引用例1の実施例6は,「ヘンチクエキス,トウキヒエキス,ウ コンエキス,モウトウセイエキス」の組合せによるものであり,実施例6中の特定 の成分(ウコンエキス)を他の成分と組み合わせることは困難であると主張する。 しかし,引用例1に開示された津液作用を有する成分と補血・活血作用を有する 成分との組合せは,実施例に記載されたものに限定されるものではないから,原告 の主張は失当である。 イ 原告は,引用例2には,津液改善剤を津液作用を有する成分と組み合わせて 使用することの記載はなく,また,引用発明の組成物には既に補助作用である津液 改善作用を有する成分が組み合わされているのであるから,引用例2記載の成分を 引用発明に係る組成物の成分と組み合わせることには,阻害要因があると主張する。 しかし,原告の主張は以下のとおり失当である。 11 前記のとおり,引用例1には,津液作用を有する成分と共に,補血・活血作用を 有する成分を1種ないしは2種以上含有する生体活動改善用の組成物が開示されて いる。引用例2の津液改善剤は引用例1における補血・活血作用を有する成分に相 当し,いずれも津液作用をより改善させるものであるから,引用発明に係る組成物 に既に補血・活血作用を有する成分が含まれていることが,当業者が引用例2記載 の成分を引用発明に係る組成物の成分と組み合わせることの阻害要因とはならない。 また,原告は,引用例2の表4ないし9を参照すると,他の成分と比べてクルク ミンの効果は劣っており,引用例1の表7及び8や実施例6及び7にも,ウコン (クルクミン)よりも優れている津液改善剤が多数記載されていることから,数多 くの津液改善剤(補血・活血作用を有する成分)の中からクルクミンを選択して組 み合わせることには,阻害要因があると主張する。 しかし,原告のこの主張も以下のとおり失当である。 引用例2には,津液改善剤として,カプサイシン,シナピン及びクルクミンの効 果を対比した表(表4ないし9)が記載されているところ,これによると,カプサ イシンの方がクルクミンよりも若干高い効果が認められることが多いものの,クル クミンは他の2成分とおおむね同等の効果が得られていると認められる。また,引 用例1の表7及び8には,45種類の補血・活血作用を有する成分と津液作用を有 するチョレイとを組み合わせた組成物の利尿作用における効果が記載されていると ころ,一番高い効果が認められたのがキョウオウとトウニン(利尿増加率35), 一番効果が低かったのがシゼンドウ(同18)であり,ウコンの利尿増加率は27 であって,中程度の効果は得られていると認められる。 そうすると,当業者が,数多くの津液改善剤(補血・活血作用を有する成分)の 中から,引用例2において具体的にその効果が記載されている3成分の一つであり, また,従来から一般的に人体に投与されていた(乙1,2)クルクミンを選択する のは容易であるといえる。 さらに,原告は,引用例1の実施例9の組成物が有する環境ホルモン代謝促進作 12 用は津液作用ではないと主張するが,引用例1の記載によると,上記作用も津液作 用の一つであると認めることができる。 (4) 小括 以上のとおり,当業者が本願発明のうち相違点2に係る構成に至るのは容易であ り,この点に関する審決の判断に誤りはない。 2 本願発明の効果についての判断の誤り(取消事由2)について (1) 本願発明の効果 本願明細書には,本願発明に係る皮膚用剤の効果に関し,美白,しみ,しわ,発 毛,育毛の化粧料,あるいは,美肌作用,アトピー性皮膚炎治療作用,皮膚炎群治 療作用,皮膚真菌治療作用,疣贅治療作用,色素沈着症治療作用,尋常性乾癖治療 症,老人性乾皮症,老人性角化腫治療作用,皮膚損傷治療作用,発毛促進作用,消 化液分泌促進作用,発汗促進作用,便通促進作用,内出血治療作用及び利尿作用等 の医薬としてすぐれた効果が得られ,また,抗癌剤による副作用,例えば,脱毛, 内出血などに有効であるとの記載がある(段落【0036】)。また,本願明細書 には,本願発明の実施例である実施例7の効果として,発毛促進作用のほか,美肌 作用,アトピー性皮膚炎治療作用,皮膚炎群治療作用,皮膚真菌治療作用,疣贅治 療作用,色素沈着症治療作用,尋常性乾癖治療症,老人性乾皮症,老人性角化腫治 療作用,皮膚損傷治療作用,発毛促進作用,消化液分泌促進作用,発汗促進作用, 便通促進作用,及び利尿作用等の効果が確認できたとの記載がある(段落【003 5】)。 しかし,上記の効果の大部分は,引用例1における,津液作用を有する成分と補 血・活血作用を有する成分とを含有した生体活動改善用の組成物の効果(段落【0 010】【0034】)や,引用例2における,津液改善剤の効果(段落【002 6】)と共通するものであり,上記生体活動改善用の組成物や津液改善剤の効果か ら予測し得る範囲内のものにすぎない。 したがって,本願発明が当業者が引用発明や引用例2から予測し得ない効果を有 13 するとは認められない。 (2) 原告の主張等に対して ア 原告は,医薬効果のある成分を組み合わせることにより,それぞれの成分が 有する効果が必ず発現するとはいえないところ,本願発明は,3成分からなる皮膚 用剤とすることにより,それぞれの成分が持つ効果を発現しただけでなく,2成分 の場合よりも優れた効果を有していると主張する。 しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。 本願明細書には,本願発明に係る3成分からなる皮膚用剤と,そのうち2成分か らなる皮膚用剤との効果の違いに関する記載はなく,皮膚用剤を上記3成分とした ことにより,2成分の場合と比べ,予測し得ない優れた効果を奏しているとは認め られない。 イ なお,原告は,本願についての拒絶査定不服審判請求書(甲9)に添付した, カルテ番号,年齢,性別,病名,投薬期間,効果,副作用が記載された一覧表と, 「イソフラボン,シムノール,クルクミンの有効性については,提出した書面のと おりであります。この三成分のうち,一成分でも含まれない場合は,提出した書面 のとおりの効果はありません。」と記載された発明者名義の書面に基づいて,本願 発明に予測し得ない効果があるとしている。 しかし,上記各書面ではどのような成分のものが投与されたか不明であり,その 効果も明確には記載されていないものも多く,上記3成分が含まれた組成物とその うち1成分が含まれない組成物との効果の対比もなく,これらに基づいて,本願発 明に予測し得ない効果があると認めることはできない。 (3) 小括 以上のとおり,本願発明に当業者が予測し得ない効果があるとは認められず,こ の点に関する審決の判断に誤りはない。 3 結論 上記のとおりであるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。その他, 14 原告は縷々主張するが,いずれも理由がない。よって,原告の請求を棄却すること として,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第1部 裁判長裁判官 飯 村 敏 明 裁判官 八 木 貴 美 子 裁判官 小 田 真 治 15 |