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事件 平成 25年 (行ケ) 10053号 審決取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2013/11/21
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成25年11月21日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

平成25年(行ケ)第10053号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 平成25年10月17日

判 決

原 告 スウェマック オルトパエディ

クス アクチボラゲット

訴訟代理人弁理士 板 谷 康 夫

同 板 谷 真 之

被 告 特 許 庁 長 官

指 定 代 理 人 蓮 井 雅 之

同 横 林 秀 治 郎

同 氏 原 康 宏

同 山 田 和 彦

主 文

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を3

0日と定める。

事実及び理由

第1 請求

特許庁が不服2011−12814号事件について平成24年10月15日

にした審決を取り消す。

第2 事案の概要

1 特許庁における手続の経緯等

(1) 原告は,発明の名称を「関節補綴具及びその補綴部材のためのネジ用工具

の使用」とする発明について,平成18年(2006年)2月13日(優先




権主張日平成17年(2005年)2月16日,優先権主張国スウェーデン)

国際出願日とする特許出願(特願2007−555056号。以下「本願」

という。)をした。

原告は,平成22年5月10日付けの拒絶理由通知を受けたため,同年8

月18日付けで本願の願書に添付した特許請求の範囲変更する手続補正(

甲8)をしたが,平成23年2月10日付けの拒絶査定を受けた。

原告は,同年6月15日,拒絶査定不服審判を請求するとともに,同日付

けで特許請求の範囲変更する手続補正(甲12。 「本件補正」
以下 という。)

をした。

(2) 特許庁は,上記請求を不服2011−12814号事件として審理を行

い,平成24年10月15日,本件補正を却下した上で,「本件審判の請求

は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,同月3

0日,その謄本が原告に送達された。

(3) 原告は,平成25年2月27日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提

起した。

2 特許請求の範囲の記載

(1) 本件補正前のもの

本件補正前の特許請求の範囲の請求項1(平成22年8月18日付け手続

補正による補正後のもの)の記載は,次のとおりである(甲8。以下,同請

求項1に係る発明を「本願発明」という。)。

「【請求項1】

関節(38)の異なる骨(39;41,42)に配置されるように適応さ

れた2つの補綴部材(2,3)を備え,

各補綴部材(2,3)は,前記骨(39;41,42)の夫々にネジ止め

されるように適応された第1及び第2のネジ状部材(4,5)を含み,

一方の補綴部材(2)はソケット部を有するソケット部材(6)を,他方




の補綴部材(3)はヘッド部を有するヘッド部材(7)を含み,

前記ソケット部材(6)は,該ソケット部材(6)を配置又は位置づけす

るために前記第1のネジ状部材(4)の第1穴(10)に挿入可能な装着ピ

ン(22)を有し,

前記ヘッド部材(7)は,該ヘッド部材(7)を配置又は位置づけするた

めに前記第2のネジ状部材(5)の第1穴(11)に挿入可能な装着ピン(

27)を有する関節補綴具であって,

前記第1及び第2のネジ状部材(4,5)には,前記骨(39;41,4

2)の夫々に,前記第1及び第2のネジ状部材(4,5)をネジ止めするた

めにネジ用工具(32)のロッド(31)を挿入可能となるように設計され

た少なくとも1つの内部第2穴(夫々30及び33)があり,

前記第2穴(夫々30及び33)は,前記第1穴(夫々10及び11)の

底部(夫々17及び19)に備えられ,

前記第1及び第2のネジ状部材(4,5)は,前記骨(39;41,42)

の夫々に取り付けられる誘導線(43)上に,前記第1及び第2のネジ状部

材(4,5)の夫々が装着されるようにするため,軸方向に伸びる貫通孔(

夫々36及び37)が,前記第2穴(夫々30及び33)の底部に備えられ

ていることを特徴とする関節補綴具。」

(2) 本件補正後のもの

本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(甲

12。以下,同請求項1に係る発明を「本願補正発明」という。なお,下線

部は,本件補正による補正箇所である。)。

「【請求項1】

関節(38)の異なる骨(39;41,42)に配置されるように適応さ

れた2つの補綴部材(2,3)を備え,

各補綴部材(2,3)は,前記骨(39;41,42)の夫々にネジ止め




されるように適応された第1及び第2のネジ状部材(4,5)を含み,

一方の補綴部材(2)はソケット部を有するソケット部材(6)を,他方

の補綴部材(3)はヘッド部を有するヘッド部材(7)を含み,

前記ソケット部材(6)は,該ソケット部材(6)を配置又は位置づけす

るために前記第1のネジ状部材(4)の第1穴(10)に挿入可能な装着ピ

ン(22)を有し,

前記ヘッド部材(7)は,該ヘッド部材(7)を配置又は位置づけするた

めに前記第2のネジ状部材(5)の第1穴(11)に挿入可能な装着ピン(

27)を有する関節補綴具であって,

前記第1及び第2のネジ状部材(4,5)には,前記骨(39;41,4

2)の夫々に,前記第1及び第2のネジ状部材(4,5)をネジ止めするた

めにネジ用工具(32)のロッド(31)を挿入可能となるように設計され

た少なくとも1つの内部第2穴(夫々30及び33)があり,

前記第2穴(夫々30及び33)は,前記第1穴(夫々10及び11)の

底部(夫々17及び19)に備えられ,

前記第1及び第2のネジ状部材(4,5)は,前記骨(39;41,42)

の夫々に取り付けられる誘導線(43)上に,前記第1及び第2のネジ状部

材(4,5)の夫々が装着されるようにするため,軸方向に伸びる貫通孔(

夫々36及び37)が,前記第2穴(夫々30及び33)の底部に備えられ,

外面的な円錐形状を有すると共に,外部ネジ山(夫々34及び35)を更に

備え,夫々,外部ネジ山(夫々34及び45)を,いくつかのネジ山セクシ

ョンに分割するため,第1及び第2のネジ状部材(4,5)の夫々の軸方向

に伸びる延伸部(4a,5a)にはネジ山を有していないことを特徴とする

関節補綴具。」

3 本件審決の理由の要旨

(1) 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,




本願補正発明は,本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である米国特許

第5,147,386号明細書(甲4・訳文乙1。以下「引用例1」という。)

に記載された発明,特表平5−509006号公報(甲5。以下「引用例2」

という。)に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明

することができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願

の際独立して特許を受けることができない(すなわち,独立特許要件を欠く)

ものであるとして,本件補正を却下した上,本願発明も,同様に,引用例1

に記載された発明,引用例2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業

者が容易に発明をすることができたものであるから,特許を受けることがで

きず,本願は拒絶すべきものであるというものである。

(2) 本件審決が認定した引用例1に記載された発明(以下「引用発明」とい

う。),本願補正発明と引用発明の一致点及び相違点は,以下のとおりであ

る。

ア 引用発明

「中手骨と指骨に配置されるように適応された第1補綴部材(11,19)

と第2補綴部材(13,17)を備え,

各補綴部材は,前記骨の夫々にネジ止めされるように適応された中手骨

体11及び指骨体13を含み,

第2補綴部材(13,17)はソケット27を有するヒンジステム17

を,第1補綴部材(11,19)はボールエンド21を有するヒンジ体1

9を含み,

前記ヒンジステム17は,該ヒンジステム17を配置又は位置づけする

ために前記指骨体13の収容室38に挿入可能な伸長部分23を有し,

前記ヒンジ体19は,該ボールエンド21を配置又は位置づけするため

に前記中手骨体11の収容室35に挿入可能な伸長部分33を有する補綴

装置であって,




前記中手骨体11及び指骨体13は,外面的な円錐形状を有すると共に,

ネジ山部分(45,47)を更に備える補綴装置。」

イ 本願補正発明と引用発明の一致点及び相違点

(ア) 一致点

「関節(38)の異なる骨(39;41,42)に配置されるように適

応された2つの補綴部材(2,3)を備え,

各補綴部材(2,3)は,前記骨(39;41,42)の夫々にネジ止

めされるように適応された第1及び第2のネジ状部材(4,5)を含み,

一方の補綴部材(2)はソケット部を有するソケット部材(6)を,

他方の補綴部材(3)はヘッド部を有するヘッド部材(7)を含み,

前記ソケット部材(6)は,該ソケット部材(6)を配置又は位置づ

けするために前記第1のネジ状部材(4)の第1穴(10)に挿入可能

な装着ピン(22)を有し,

前記ヘッド部材(7)は,該ヘッド部材(7)を配置又は位置づけす

るために前記第2のネジ状部材(5)の第1穴(11)に挿入可能な装

着ピン(27)を有する関節補綴具であって,

前記第1及び第2のネジ状部材(4,5)は,外面的な円錐形状を有

すると共に,外部ネジ山(夫々34及び35)を更に備える関節補綴具。」

である点。

(イ) 相違点

(相違点1)

本願補正発明は,第1及び第2のネジ状部材(4,5)には,骨(3

9;41,42)の夫々に,第1及び第2のネジ状部材(4,5)をネ

ジ止めするためにネジ用工具(32)のロッド(31)を挿入可能とな

るように設計された少なくとも1つの内部第2穴(夫々30及び33)

があり,




第2穴(夫々30及び33)は,第1穴(夫々10及び11)の底部

(夫々17及び19)に備えられるのに対し,引用発明は,そのような

発明特定事項を有しているかはっきりしない点。

(相違点2)

本願補正発明は,第1及び第2のネジ状部材(4,5)は,骨(39

;41,42)の夫々に取り付けられる誘導線(43)上に,前記第1

及び第2のネジ状部材(4,5)の夫々が装着されるようにするため,

軸方向に伸びる貫通孔(夫々36及び37)が,前記第2穴(夫々30

及び33)の底部に備えられているのに対し,引用発明は,そのような

発明特定事項を備えていない点。

(相違点3)

本願補正発明は,夫々,外部ネジ山(夫々34及び45)を,いくつ

かのネジ山セクションに分割するため,第1及び第2のネジ状部材(4,

5)の夫々の軸方向に伸びる延伸部(4a,5a)にはネジ山を有して

いないのに対し,引用発明は,そのような発明特定事項を備えていない

点。

第3 当事者の主張

1 原告の主張

(1) 取消事由1(本願補正発明と引用発明との一致点の認定の誤り)

本件審決は,引用発明の「中手骨体11及び指骨体13」は,「外面的な

円錐形状を有する」とした上で,本願補正発明と引用発明とは,「第1及び

第2のネジ状部材(4,5)は,外面的な円錐形状を有する」点で一致する

旨認定した。

しかしながら,本願の願書に添付した明細書(甲2。以下,図面(別紙1

参照)を含めて「本願明細書」という。)には,引用例1を先行文献として

挙げ,従来の2つのネジ状部材を有する関節補綴具には「近接する組織を傷




つける虞がある尖った縁部」を有する点に問題があり,この問題を解決する

ために,本願補正発明は,「補綴具のネジ状部材は,ソケット及びヘッド部

材のそれぞれが穴を有し,特に,ネジ用工具用に設計された内部穴が備えら

れているので,問題のある骨にネジ状部材をネジ止めにより装着するため,

ネジ用工具を穴に挿入することができ,また,尖った縁部を有する外部溝が

損傷を与えうることを回避できる」ようにした旨の記載があることからする

と,本願補正発明における「第1及び第2のネジ状部材(4,5)」の「外

面的な円錐形状」とは,「損傷を与えうる尖った縁部」の構成を有しないも

のに限定されると解すべきである。

しかるところ,引用例1の中手骨体11と指骨体13は,部分的な円錐形

状を有してはいるものの,リップ39及びチャンネル47を備えており(別

紙2のFIG.1ないし9),このリップ39及びチャンネル47は,外方

に突出した構成を有し,この突出した構成によりインプラント時等に「近接

する組織を傷つける虞」があり,「損傷を与えうる尖った縁部」であるとい

えるから,中手骨体11と指骨体13は本願補正発明にいう「外面的な円錐

形状」を有するものに当たらない。

したがって,本件審決の上記一致点の認定は誤りである。

(2) 取消事由2(相違点1の容易想到性の判断の誤り)

本件審決は,相違点1について,引用例2には,「関節に適用される人工

器官において,軸部には人工器官を非ねじ込み状態で取り外すためのアレン

キー(ネジ用工具)が装着される6角状部が付加されている人工器官。」が

記載されており,引用例2に記載された発明と引用発明は補綴の分野で共通

するので,引用例2に記載された発明を引用発明に適用することは当業者が

容易になし得る事項にすぎず,その際に,ネジ用工具のための第2穴(夫々

30及び33)を,第1穴(夫々10及び11)の底部(夫々17及び19)

に備えられるようにする程度のことは,当業者が適宜なし得る事項にすぎな




い旨判断した。

しかしながら,発明は,従来技術における課題を解決する手段であるから,

引用刊行物から特許発明容易に想到できたか否かは,引用刊行物において

課題の共通性が見いだされるべきであり,技術分野が共通であっても,課題

の共通性がなければ,それらを適用して発明を成すための動機付けとして十

分であるとはいえない。

しかるところ,引用例2記載の人工器官における6角状部30は,軸部2

1に夫々付加された構成であり(別紙3のFIG.7),軸部21に設けら

れたねじ部25による挿入及び軸方向の引き戻しを可能とする際に用いられ

る。他方で,引用例1記載の関節補綴具には,引用例2のねじ部25に相当

する構成は存在しないから,引用例1と引用例2には,課題の共通性はない。

なお,引用例1の中手骨体11及び指骨体13は,セルフタッピングスレッ

ド45を備えているが,このセルフタッピングスレッド45は接続端部側の

一部にしか形成されておらず,先細り部の大部分には存在しないことからす

ると,引用例1記載の関節補綴具においては,骨には,予めドリルを用いて

装着穴が形成され,この装着穴に中手骨体11及び指骨体13が嵌め入れら

れており,セルフタッピングスレッド45は,骨にねじzむために設けられ

ているのではなく,中手骨体11及び指骨体13が骨から抜けないように骨

に結合させるためだけのネジとして機能するにすぎないものといえる。

また,引用例1には,引用例1記載の関節補綴具に引用例2記載の「6角

状部」の構成を適用することについての示唆はなく,これを適用する動機付

けは存在しない。かえって,引用例1記載の関節補綴具においては,本願補

正発明の第1穴に相当する中手骨体11の収容室35は,中手骨体11の奥

深くまで形成されており(別紙2のFIG.6,7),この収容室35の更

に深い位置に6角状部を設けるとすれば,中手骨体11の先端の強度は極め

て低下するので,現実にそのような適用がされるとは考え難い。もっとも,




指骨体13の収容室38は,比較的浅く形成されているので,6角状部を設

けることが不可能とはいえないものの,収容室38に6角状部を設けた場合

には,一方の指骨体13にのみ6角状部を設け,他方の中手骨体11には6

角状部を設けないことになり,不合理となる。

したがって,引用例1記載の関節補綴具に引用例2記載の「6角状部」の

構成を適用して相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは当業者が容

易になし得た事項であるとはいえないから,本件審決の上記判断は誤りであ

る。

(3) 取消事由3(相違点2の容易想到性の判断の誤り)

本件審決は,相違点2について,骨の夫々に取り付けられる誘導線上に,

ネジ状部材が装着されるようにするため,ネジ部材に軸方向に伸びる貫通孔

を設ける点は,骨の補綴の技術分野で本願の優先権主張日前の周知の技術(

例えば,甲6等)にすぎず,上記周知技術を引用発明に適用して,相違点2

に係る本願補正発明の発明特定事項のようにすることは,当業者が必要に応

じてなし得た事項にすぎない旨判断した。

しかしながら,前記(2)のとおり,引用例1記載の関節補綴具においては,

骨には,予めドリルを用いて装着穴が形成され,この装着穴に中手骨体11

及び指骨体13が嵌め入れられており,セルフタッピングスレッド45は,

骨にねじzむために設けられているのではなく,中手骨体11及び指骨体1

3が骨から抜けないように骨に結合させるためだけのネジとして機能する。

そうすると,引用例1記載の関節補綴具において,ガイドワイヤ(誘導線)

等が必要になるのは,予めドリルを用いて骨に装着穴を形成する段階であり,

セルフタッピングスレッド45で手骨体11及び指骨体13を骨に結合させ

る段階では,もはや誘導線は必要なく,中手骨体11及び指骨体13に誘導

線のための貫通孔を設ける必要性もないから,骨の夫々取り付けられる誘導

線上に,中手骨体11及び指骨体13が装着されるようにするため,中手骨




体11及び指骨体13に軸方向に伸びる貫通孔を設ける構成(上記周知技術

の構成)を適用する動機付けは存在しない。

したがって,引用例1記載の関節補綴具に上記周知技術を適用して相違点

2に係る本願補正発明の構成とすることは当業者が容易になし得た事項であ

るとはいえないから,本件審決の上記判断は誤りである。

(4) まとめ

以上のとおり,本件審決には,本願補正発明と引用発明との一致点の認定

相違点1及び2の容易想到性の判断の誤りがあり,その結果,本願補正発明

が引用発明,引用例2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容

易に発明をすることができたとして,独立特許要件を欠くことを理由に本件

補正を却下した判断の誤りがある。

したがって,本件審決は,違法であるから,取り消されるべきである。

2 被告の主張

(1) 取消事由1に対し

原告は,引用発明の中手骨体11及び指骨体13が「外面的に円錐形状」

に当たらない理由として,中手骨体11及び指骨体13がリップ39,チャ

ンネル47といった外方に突出した構成を備えていることを指摘する。

しかしながら,本願明細書(甲2)には,第1及び第2のネジ状部材4,

5は,夫々外部ネジ山34及び35が備えられることが記載されており(段

落【0015】),外部ネジ山34,35は,図2,図4及び本件出願の優

先権主張日当時の技術常識に照らして,外方に突出して設けられていると理

解することができる。そうすると,本願補正発明の「前記第1及び第2のネ

ジ状部材(4,5)」の「外面的な円錐形状」は,完全な円錐形状を示すも

ののみを指すのではなく,部分的な円錐形状を有するものを含み,外部ネジ

山34,35のような外方に突出した構成を具備するものを排除するもので

はないと解すべきである。




また,引用例1(甲4)には,リップ39に関し,9欄の請求項11に「

前記中手骨本体はさらに,前記ヒンジ本体の前記平坦な表面に当接し,その

最も広い端に円形の縁を特定することを特徴とする,請求項10に記載の人

工関節デバイス。」(訳文(乙1)10頁)との記載があるように,リップ

39は,引用例1の中手骨体11における必須の構成ではなく,任意的付加

構成であり,本件審決における引用発明の認定においても,かかる構成を特

定していない。

さらに,引用例1のチャンネル47は,ネジ山部45(セルフタッピング

スレッド45)に形成されているが,上記のとおり,本願補正発明の「前記

第1及び第2のネジ状部材(4,5)」の「外面的な円錐形状」は,ネジ山

を具備するものを排除するものではない。

以上によれば,原告が指摘する点は,引用発明の中手骨体11及び指骨体

13が「外面的に円錐形状」に当たらないことの根拠となるものではないか

ら,本願補正発明と引用発明とは「第1及び第2のネジ状部材(4,5)」

が「外面的な円錐形状を有する」点で一致するとした本件審決の認定に誤り

はなく,原告主張の取消事由1は理由がない。

(2) 取消事由2に対し

ア セルフタッピングとは,ねじ込むことで自ら雌ねじを切ること,又はそ

の機能をもつことを意味する(乙2ないし4)。引用発明のセルフタッピ

ングスレッド45は骨へのねじ込みを目的として形成されており,セルフ

タッピングスレッド45を有する中手骨体11及び指骨体13は骨にねじ

込まれるものである。一方で,引用例2の「図6には,この発明の実施

である大腿骨人工器官20の分解図が示されている。人工器官20は,軸

部21…から構成されている。…軸部が既に説明した位置にねじ込まれた

とき,ネジ部24及び25のそれぞれヘリカルねじは,骨の骨髄腔の壁面

に対して応力を及ぼす。」(5頁左上欄13行〜20行)との記載によれ




ば,引用例2のねじ部24及び25は骨へのねじ込みを目的とすることは

明らかであるから,引用例2の人工器官20は骨にねじ込まれるものであ

る。

したがって,引用発明の中手骨体11及び指骨体13と引用例2の人工

器官20とは,関節の置き換えに利用される関節補綴具であるとともに,

骨にねじ込まれる点において機能面で共通する。

また,引用発明の中手骨体11及び指骨体13には,それぞれヒンジ体

19の伸長部分33及びヒンジステム17の伸長部分23を装着する収容

室35及び38が設けられており,一方で,引用例2の人工器官20にお

いても,その軸部21には,肘部22のオス状部29を装着するメス状凹

み28が設けられているから,引用発明の中手骨体11及び指骨体13と

引用例2の人工器官20とは,骨にねじ込まれる一方の部材には,他方の

装着ピンが挿入される第1穴が設けられている点においても構造面で共通

する。

以上によれば,引用発明の中手骨体11及び指骨体13と引用例2の人

工器官20とは,技術分野,その機能及び構造において共通するから,当

業者が引用発明に引用例2記載の「6角状部」の構成を適用する動機付け

は十分存在するものといえる。

イ 原告は,この点に関し,引用発明の中手骨体11の収容室35は奥深く

まで形成されており,この収容室35の更に深い位置に6角状部を設ける

とすれば,中手骨体11の先端の強度が極めて低下するので,引用発明に

引用例2記載の「6角状部」の構成を適用することは考え難い旨主張する。

しかしながら,引用発明の中手骨体11の収納室35は,ヒンジ体19

の伸長部分33の装着を目的として形成されるものであり,収納室35と

伸長部分33とは相補的な形状として構成されれば足りるから,原告が指

摘するような収納室35を中手骨体11の奥深くにまで形成されなければ




ならないとする理由はない。また,収容室35においても,指骨体13の

収容室38と同様に,6角状部を設ける構成を採用することを妨げる理由

はない。

したがって,原告の上記主張は,失当である。

ウ 以上によれば,当業者は,引用発明に引用例2記載の「6角状部」の構

成を適用することを容易に想到し得たものといえるから,本件審決におけ

る相違点1の容易想到性の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由2は理

由がない。

(3) 取消事由3に対し

ア(ア) 本願明細書の段落【0018】,【0020】ないし【0024】

の記載によれば,本願補正発明の第1及び第2のネジ状部材4,5は,

夫々中心線CL1及びCL2を中心とする軸貫通孔36,37を有する

ものであって,各ネジ状部材4,5が各骨にネジ止めにより位置づけ又

は設置されるときに,軸貫通孔36,37は,各骨に備えられた誘導線

43上で誘導されるのであるから,第1及び第2のネジ状部材4,5に

貫通孔36,37を設けることの技術的意義は,第1及び第2のネジ状

部材4,5の装着(ネジ止め)を,より容易に,そして確実(正確)に

行うことにあることを理解することができる。

一方で,本件審決が認定した周知技術は,骨の夫々に取り付けられる

誘導線上に,ネジ状部材が装着されるようにするため,ネジ部材に軸方

向に伸びる貫通孔を設けることであり,かかる周知技術も,本願補正発

明の貫通孔36,37と同様に,ネジ状部材4,5の装着(ネジ込み)

を,より容易に,そして確実(正確)に行うことにその技術的意義があ

る。このような貫通孔を設けることは,当業者が任意付加的に採用し得

る技術にすぎず,このことは,本件出願の優先権主張日当時の技術常識

(乙3ないし6)である。




(イ) 引用例1の7欄65行ないし66行に「この関節は,耐久性があり,

正常な指の動きを可能にする。」(訳文(乙1)8頁)との記載がある

ように,引用発明は,「正常な指の動き」を可能にするためのものであ

るから,引用発明の中手骨体11と指骨体13は,骨の所定位置に「正

確」に配置されなければならないことは明らかである。

そうすると,引用発明において,中手骨体11及び指骨体13をより

容易に,そして確実(正確)に装着(ネジ込み)すべき課題は内在する

ものといえるから,骨へのネジの導入・整合をより容易に,そして正確

にするために,中手骨体11と指骨体13に,本件審決認定の周知技術

(前記(ア))を採用することは,当業者にとって困難なことではない。

イ 原告は,この点に関し,引用例1に接した当業者は,引用発明において

は,セルフタッピングスレッド45は,骨にねじzむために設けられてい

るのではなく,中手骨体11及び指骨体13が骨から抜けないように骨に

結合させるためだけのネジとして機能し,また,骨には,予めドリルを用

いて装着穴が形成され,この装着穴に中手骨体11及び指骨体13が嵌め

入れられており,中手骨体11及び指骨体13を骨にねじ込む際に貫通孔

を設ける必要性はないものと理解するから,引用発明に本件審決認定の周

知技術を適用する動機付けはない旨主張する。

しかしながら,前記(2)アのとおり,引用発明のセルフタッピングスレッ

ド45は,骨へのねじ込みを目的として形成されており,中手骨体11及

び指骨体13が骨から抜けないように骨に結合させるためだけのネジとし

て機能しているものではない。また,「貫通孔」は,ネジ状部材の装着(

ネジ込み)を,より容易に,そして確実(正確)に行うことを目的とする

ものであるから,セルフタッピングスレッド45を備えた,引用発明の中

手骨体11及び指骨体13に貫通孔を設ける必要性がないとはいえない。

なお,乙3の段落【0010】及び【0011】,乙4の段落【0006




】には,セルフタッピングネジに貫通孔を設けることが記載ないし示唆さ

れている。

したがって,原告の上記主張は,失当である。

ウ 以上によれば,当業者は,引用発明に本件審決認定の周知技術を適用す

ることを容易に想到し得たものといえるから,本件審決における相違点2

容易想到性の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由3は理由がない。

(4) まとめ

以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,本願補正発明

は,引用発明,引用例2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が

容易に発明をすることができたものである。

したがって,本願補正発明が独立特許要件を欠くとして本件補正を却下し

た本件審決の判断に誤りはない。

第4 当裁判所の判断

1 取消事由1(本願補正発明と引用発明との一致点の認定の誤り)について

(1) 本願明細書の記載事項等について

ア 本願補正発明の特許請求の範囲(本件補正後の請求項1)の記載は,前

記第2の2(2)のとおりである。

イ 本願明細書(甲2)の「発明の詳細な説明」には,次のような記載があ

る(下記記載中に引用する図1ないし12については,別紙1を参照)。

(ア) 「【技術分野】

本発明は,関節補綴具に関するものであり,関節の異なった骨に配置

されるように適合された2つの補綴部材を備え,互いの補綴部材は,そ

れぞれ第1及び第2のネジ状部材を含み,夫々が骨の内部にねじ込まれ

るように適応される。一方の補綴部材はソケットを有する部材を含み,

他方の補綴部材はヘッド部を有する部材を含む。ソケット部材は,ソケ

ット部材の配置又は位置づけのために,第1のネジ状部材の第1穴に挿




入可能な装着ピンを有し,ヘッド部材は,上記ヘッド部材の配置又は位

置決めのために,第2のネジ状部材の第1穴に挿入可能な装着ピンを有

する。また,本発明は,関節補綴具の位置づけ部材のためのネジ用工具

に関する。」(段落【0001】)

(イ) 「【背景技術】

米国特許文献5147386において,補綴具によって連結された夫

々の骨に装着又は取り付けられる2つのネジ状部材を有する関節補綴具

が記述されている。このジョイントは,ソケット部及びヘッド部から成

り,ヘッド部材の末端が,圧接によってネジ状部材の一つに装着される。

その外部末端の表面には,ネジ止めによってネジ状部材を固定するため

に,ネジ用工具用のネジ溝があるが,このネジ溝は,近接する組織を傷

つける虞がある尖った縁部を形成するものであり,当然ながらこれは全

く不適当である。」(段落【0002】)

(ウ) 「【発明が解決しようとする課題】

本発明は,補綴部材のネジ状部材が,尖った縁部を画定する外部ネジ

溝を有するという問題を解消することを目的とする。これは,主に上記

の請求項1の特徴によりもたらされる補綴具によって達成される。」(

段落【0003】)

(エ) 「【課題を解決するための手段】

補綴具のネジ状部材は,ソケット及びヘッド部材のそれぞれが穴を有

し,特に,ネジ用工具用に設計された内部穴が備えられているので,問

題のある骨にネジ状部材をネジ止めにより装着するため,ネジ用工具を

穴に挿入することができ,また,尖った縁部を有する外部溝が損傷を与

えうることを回避できる。ネジ用工具のための穴は内部穴であるので,

補綴具のソケット及びヘッド部材が取り付けられるときは,これらによ

って完全に覆われる。」(段落【0004】)




(オ) 「【発明を実施するための最良の形態】

図面に示される手首補綴具1は,第1の補綴部材2及び第2の補綴部

材3を備える。第1の補綴部材2は第1のネジ状部材4を,第2の補綴

部材3は第2のネジ状部材5を含む。第1の補綴部材2はソケット部を

有する部材6を,第2の補綴部材3は,ヘッド部を有する部材7を更に

含む。第1及び第2のネジ状部材4,5は,夫々,装着部8及び9を有

し,後述する実施形態において,それらは夫々第1穴10及び11を備

える。第1のネジ状部材4の第1穴10は,第1の末端縁部12におい

て凹状になるように延伸され,上記部材4は,第1の末端縁部12にお

いて上記部材4の第2の末端縁部13に向けての軸方向における最大直

径を有し,第2の末端縁部13において部材4の最小直径を有する。好

ましくは,第1穴10は,部材4の軸方向に延びる幾何学的中心線CL

1を中心とする。」(段落【0005】),「第2のネジ状部材5の第

1穴11は,第1の末端縁部14において凹状になるように延伸され,

上記部材5は,第1の末端縁部14において上記部材5の第2の末端縁

部15に向けての軸方向における最大直径を有し,第2の末端縁部15

において部材5の最小直径を有する。第1穴11は,部材5の軸方向に

延びる幾何学的中心線CL2を中心とする。」(段落【0006】),

「ソケット部材7(判決注・「ソケット部材6」の誤り)は,凹状の関

節面21を画定するソケット部20を有する。ソケット部20の外側部

から,装着ピン22が軸方向に伸びる。装着ピン22は,末端縁部23

に向けて円錐形状に先細りになる軸外側部24を有する。…ヘッド部材

7は,実質的に球形のヘッド部25を有し,これは,ソケット部材20

(判決注・「ソケット部20」の誤り)の関節面21に適合する形状の

凸状の関節面26を形成するので,上記関節面21,26は,互いに滑

ることにより関節を屈曲させる。装着ピン27は,ヘッド部25から軸




方向に突き出し,また,この装着ピン27は,末端縁部28に向けて軸

方向に先細りになる外側部29を有する。」(段落【0009】,【0

010】),「第1のネジ状部材4は,少なくとも1つの第2穴30を

有し,この穴30は,問題の骨に第1のネジ状部材4を固定するため,

ネジ用工具32のロッド31,例えば,ネジドライバを挿入可能となる

ように設計される。第2のネジ状部材5は,少なくとも1つの第2穴3

3を有し,この穴33は,問題の骨に第2のネジ状部材5を固定するた

め,ネジ用工具32のロッド31を挿入可能となるように設計される。」

(段落【0011】)

(カ) 「図2及び図4に示されるように,第2穴30及び33は,例えば,

夫々第1穴10,11の底部17及び19に位置づけられる。」(段落

【0013】),「第2穴30及び33は,好ましくは,第1穴10及

び11と同様に,夫々中心線CL1,CL2を中心とする。更に,第2

穴30及び33は,例えば,六角形又はそれに類する多角形穴のような,

非円形の穴である。もちろん,ネジ用工具32のロッド31は,第2穴

30及び33の形状に夫々適応されているので,夫々の骨の中に上記の

ネジ状部材をネジ止めするため,ネジ用工具32を回転することにより,

ネジ状部材4,5の夫々を回転することができる。」(段落【0014

】),「第1及び第2のネジ状部材4,5は,夫々の外側部において,

第1の末端縁部12及び14から,第2末端縁部13及び15に向かう

方向に円錐形状に先細りになる。円錐形状は,必ずしも必須ではないが,

好ましくは,上記の第1及び第2の末端縁部12,14及び13,15

の全てにおいて用いられる。また,第1及び第2のネジ状部材4,5は,

夫々外部ネジ山34及び35が備えられ,それらは好ましくは先細りに

なる。」(段落【0015】),「第1及び第2のネジ状部材4,5は,

夫々外部ネジ山34及び45を,いくつかの,例えば4つのネジ山セク




ションに分割するため,第1及び第2のネジ状部材4,5の夫々の軸方

向に伸びる延伸部4a,5aにはネジ山を有していない。」(段落【0

017】),「第1及び第2のネジ状部材4,5は,夫々中心線CL1

及びCL2を中心とする軸貫通孔36及び37を有し,上記部材が夫々

の骨にネジ止めされるとき,これらの軸貫通孔は,夫々の骨に備えられ,

第1及び第2のネジ状部材4,5を誘導する誘導線43上で,上記部材

4及び5が装着されるようにする。」(段落【0018】)

(キ) 「図示される手首補綴部は,手首38に位置づけられる。腕及び手

にある骨は,図1において破線で概略的に示されており,これらの骨に

は,腕の橈骨39や,例えば小頭骨41のような1つ又はそれ以上の手

根40における骨,及び,例えば中手における中手骨IIIのような1

つの中手骨42がある。図面から明らかなように,第1のネジ状部材4

は橈骨39にネジ止めされ,そのため,この部材4は,第2のネジ状部

材5よりも短いが太く作成され,第2のネジ状部材5の第1穴11より

も大きな第1穴10を有する。第2のネジ状部材5は,図示される手首

38において,小頭骨41及び中手骨42にネジ止めされることにより

固定される。」(段落【0019】),「図8乃至図12において,第

1及び第2のネジ状部材4,5が,どのように各骨39,41及び42

に位置づけ又は設置されるかの例を示す。」(段落【0020】),「

図8に示されるように,ドリル44に取り付けられる誘導線43は,小

頭骨41を通って,中手骨42の中に突き通される。そして,誘導線4

3を残してドリル44は除去される。」(段落【0021】),「図9

に示されるように,円錐形のドリル鋼45,及びドリル鋼45をドリル

47上に備えさせるチューブ状のブラケット46は,誘導線43上に装

着され,また,円錐形の穴が小頭骨41及び中手骨42にドリルされる。」

(段落【0022】),「図10は,第2のネジ状部材5が,どのよう




にして誘導線43上に装着されるかを示す。カニューレ挿入される,い

わゆる延伸穴31aを有するネジドライバ32のロッド31は,誘導線

43上であって第2のネジ状部材5の第2穴33内に装着され,ネジド

ライバ32は,第2のネジ状部材5を,小頭骨41及び中手骨42の穴

に固定するために回転される。」(段落【0023】),「図11及び

図12から明らかなように,橈骨39に第1のネジ状部材4を位置づけ

るための手段は同じである。すなわち,図11から明らかなように,誘

導線43が橈骨39に固定され,円錐形ドリル鋼45(この場合,図9

のドリル鋼45よりも大きい)が誘導線43上に装着され,また,ドリ

ル鋼45を用いることにより,円錐穴が橈骨39に突き通され,ドリル

される。図12に示されるように,ネジドライバ32を用いることによ

り,第1のネジ状部材4は橈骨39にネジ止めされ,その後,誘導線4

3は除去される。」(段落【0024】)

(ク) 「本発明は,上述の実施形態に限られることなく,請求項に記載の

範囲において変形可能である。そのため,本補綴具は,例えば,指関節,

親指関節,肘関節又は第一趾関節といった手首38よりも小さな関節に

用いることができる。…ソケット部材及びヘッド部材6,7のソケット

部及びヘッド部は,図示した以外の形状であってもよく,また,ネジ状

部材4,5の末端縁部13,15は円形側部13a,13bを有してい

てもよい。最後に,ネジ用工具32はネジドライバ以外の他の適したタ

イプのネジ用工具である。」(段落【0029】)

(2) 引用例1の記載事項について

引用例1(甲4,訳文乙1)には,次のような記載がある(下記記載中に

引用する図面については別紙2参照)。

ア 「発明の背景…

本発明は,手の関節のための外科的にインプラント(移植)可能な人工




関節の置換デバイスに関するものである。特に,これらのデバイスは,中

手骨と指骨間の関節の置換に適していて,かかる関節は関節事故や関節炎

などの疾患のために交換しなければならないものである。

特定の指の関節の置換は,当技術分野で知られており,特に手の指骨の

間で,指内の関節を置換する種々の構造を具体的に解決する多数の特許が

存在してきた。これらの特許は,米国特許番号4,158,893, 4,0

59,854, 4,011,603, および3,991,425である。これ

らのすべての特許は,屈曲運動と様々な量のいくつかの横方向の変位を可

能にする。

しかし,これらの人工の関節は,いつも人間の指関節の特性を再現でき

る訳ではない。特に,人間の指関節はその指をカールすることができるよ

うに,一つの平面内に曲げる能力を有する。人間の関節は横方向の動きや

軽度のねじれに耐えることができる。さらに,縦方向の運動フォームは指

関節の長さに沿って可能である。これらの4種類の運動において,耐久性

があり簡単に組み立てられ,骨とインプラントの最適なインタフェースが

実現して人間の体内に簡単に入れられるアプローチでのモジュラー方式に

して,さらにこの置き換えられる関節をうまく再現できるようにすること

を,人工の関節で達成することは極めて困難であった。

上記の関節運動で明確となった望ましい特性のすべてを達成することが

できるような,指骨関節置換,ならびに他の関節が,人工関節業界におい

て非常に必要とされている。

指の人工関節や他の関節のために必要なものとして特定された上記の特

徴は,すべて本発明によって提供される。」(以上,訳文1頁10行,1

3行〜32行)

イ 「発明の概要

本発明は,人間の指節や他の関節で利用可能な様々な動きを最も再現し




て,その改善された指の人工関節を対象としたものである。本発明は,構

造が簡単で,モジュラー式で,製造が比較的容易で,インプラントが簡単

でかつ合理的に耐久性がある発明である。

より具体的には,本発明の人工関節は,近位および遠位指骨の間または

遠位指骨と中手骨との間の指関節置換のための,3つの基本要素から構成

される。中手骨本体は,片方の一端に内部にテーパーのある壁を有し,軸

方向に位置するチェンバーを保有し,もう一方の端は,近位指骨又は中手

骨に取り付けられている。

指骨本体と,中手骨本体との間で,中手骨本体に指骨本体を接合するヒ

ンジ手段がある。このヒンジ手段は,人間の中手骨/指骨または指骨/指骨

関節を模倣した,指骨本体と中手骨本体の間における,ねじれ,屈曲,ピ

ストン運動,および横方向への回転(関節の屈曲面へのわずかな垂直な方

向の回転)を可能にした構成であるこの限定された不偏的な動きは,人間

の指を再現するものである。

ヒンジ手段は,これらの4種類の動きを可能にし,これらの人間のよう

な動きを可能にする3つの要素から構成されている特殊な構造を有してい

る。手術に関連付けられる,これら3つの要素はヒンジ本体,ヒンジステ

ム(幹)とヒンジリテーナである。

ヒンジ本体は,レセプタクル(カップ)端部とテーパの延出(延びた)

端部を有する。手術可能な延出端部は,中手骨本体が延出端部に乗り,ね

じれ,屈曲,ピストン運動ができるようにした,中手骨本体のチェンバー

に係合する。ヒンジ本体の他の端部側に,レセプタクル端部側はヒンジス

テムを保持するためのソケットを保有している。

ヒンジステムは,ソケット内に受容(収容)されるボール端部内と,指

骨本体がヒンジステムの延出端部に摩擦嵌合されるように,指骨本体のチ

ェンバーに手術で係合する延出端とを,有する。」,「ヒンジリテーナが




配置され,ヒンジステムの途中に保持されている。

ヒンジリテーナは,ヒンジ本体のレセプタクル側の外側に曲線状の表面

を有しており,ヒンジ本体のソケット内ヒンジステムのボール(球状)端

部を保持する。

ヒンジ本体のレセプタクル端部のソケットは,ヒンジステムのボール端

部の横方向の回転運動の所定量を可能にするソケット内に面取り又は凹部

の側面を有する。ボール端部が捕捉され,限られた不偏的な運動を許容す

るためにルーズに受容される。」(以上,訳文1頁末行〜2頁28行)

ウ 「【発明の詳細な説明

番号が同様のエレメント,特に図1,2,3,4及び5の図面に示すよ

うに,本発明は,手術に関連する3つのコンポーネント(中手骨本体11,

指節本体13,及びヒンジ部材15)から構成され,主に人工関節デバイ

スを描写している。すべての3つのコンポーネントは,ねじれ,屈曲,ピ

ストン運動,横方向への動きは,人間の指の関節をシミュレートしたもの

が提供され,連携して動作する。

ヒンジ部材15は,屈曲および横方向への動きを可能にするユニークな

構成を有している。ヒンジ部材15は,主に2つのコンポーネントから構

成されている。ヒンジステム17が作動的に屈曲して,左右両方の動きを

可能にするヒンジ本体19に係合する。ヒンジ本体19がプラスチック材

料で一体的に形成されている。

ヒンジステム17は,ボール端部21で球状を有する。ヒンジステムの

他方の端部は,摩擦がテーパーロックに適合する組み込みができる,指骨

本体13に係合するように設計されたテーパ状に延びる端部23を有して

いる。延出端部23およびボール端部21との間に,ネック部25がある。

ネック部25が延出するか,または端部23の直径よりも大きい直径を有

しても有さなくてもよいが,ネック25は,ホール端21の直径より小さ




い直径を有する。

ヒンジステム17のボール端部21は,ヒンジ本体19内に規定された

ソケット27内に配置される。ボール端部21は,ヒンジステム17がそ

のヒンジ本体19の一つの平面に対して実質的に拘束された屈曲運動によ

って保持されるように,ソケット27内に配置される。これは,95°の

測定軌跡に沿って,ヒンジ本体19を通して横方向に動作し,スロット2

9によって達成される。スロット29の長さは,ヒンジ本体19内で約9

5°にヒンジステム17の動きの回転を制限する。しかし,スロット19

の壁は,ソケット27内にヒンジステム17の若干の不偏的な動きを可能

にするために,外部から面取りされていてもよい。」(以上,訳文3頁3

0行〜4頁18行)

エ 「ヒンジ本体19は,中手骨本体11に手術に係合する延出端33を有

する。延出端33は,それが狭くなるようにテーパー状に形成され,かつ

相補的な形状であるので,延出端が軸方向の中手骨本体11内に位置し,

同じ様なテーパーのある受容チェンバー35内に適合するか,または入る

ようになっている。受容チェンバー35は,図5Aに示す。」(訳文5頁

16行〜19行)

オ 「中手骨本体11は,中手骨本体11の最も広く端部を囲む円形のリッ

プ39を有している。従って,リップ39は,近位指節又は中手骨(図示

せず)が押されたり,人工関節で結合された遠位指節骨(図示せず)に対

して圧縮され,ヒンジ本体19の平らな面34に接触する。」(訳文6頁

12行〜15行),

「図5Bに示すように,指骨本体13は,軸方向に延びる相補された端部

の摩擦嵌合を引き起こして受容チェンバー38内に収まるように,ヒンジ

17のステム13が配置され,その最も広い端部に受容チェンバー38を

有する。




指骨本体の最も広い端部には,延出端部23とヒンジリテーナ31の間

に,タブ41に係合することができる六角形の形状を有するリップ40が

ある。タブ41は,ヒンジリテーナ31の延長上にある。タブ41は,延

出端部23とヒンジリテーナ31との間の,様々な場所に配置することが

できる。リップ40とタブ41は,指骨本体13が,ヒンジステム17の

延出端部23の回転や延出端部23に対する相対的な動きを防止するよう

に構成されている。」(訳文6頁19行〜26行)

カ 「指骨本体13と中手骨本体11の両方が,それぞれの骨の中に接続さ

れ回転できるようにインプラント時に配置されているので,それらの広い

端部10にセルフタッピングのスレッド(ねじ切)45を持たせることが

できる。色々な長さと異なる直径は,本発明である人工関節と受容骨の間

が,ぴっちりとした適合を実現できるように外科医の能力を確かなものと

する。これは,人工関節を接合する骨の端部に接続することができる。し

かし,スレッド処理(ねじ切)はまた,接合される骨に人工関節を固定す

る働きをする凸凹面(図示せず)としては,必要でないかもしれない。

チャネル(くぼみ)47のねじ山の中断は,スレッド処理で簡単に接合

する骨にねじ込むことができ,関節を固定するためである。接合される骨

は,指節体13と中手骨体11がそれぞれの骨の自由な引っ張りを防ぐた

めに,チャネル(くぼみ)の中及びその周囲で成長する。」(訳文6頁2

7行〜7頁1行)

キ 「図10〜12に示すような代替実施形態では,図1〜9に示すように

ヒンジリテーナ31は除去することができ,タブ41および指骨本体13

のリップ40を含めることもできる。図10に最も具体的に示されている

ように,修正されたヒンジ本体55は,ヒンジ本体19の第1の実施形態

(図1)と同様であるが,スロット57及び59は,ソケット61と連絡

できるように,レセプタクル端部59を横方向に通って切断されるので除




去してある。」(訳文7頁14行〜18行),

「要するに,本実施形態の星型カラー65およびピン75は,機能的には,

ヒンジリテーナ31と,第1の実施例のタブ41を取り替えること。

修正した中手骨本体95は,示されていないツールで,係合可能である

露出したスロット99と第二の端部97を持っている。ねじ回しなどのツ

ールまたは示されていない場合,インプラント時に,骨に中手骨本体95

を回転しながらねじ込むために使用することができる。同様に,指節本体

91の第二の端部89は,ツールがインプラント時に骨に指節本体91を

回転しながらねじ込むことが示されていない場合には,露出したスロット

99を持つことができる。

上述の違いを除いて,本発明の第2の実施形態は,上述した説明および

本明細書も同様に適用された本発明の第一実施形態と同様である。」(訳

文8頁14行〜23行),

「この人工関節は,設計が簡単で,近位中手指骨および/または遠位指骨を

保持するのに有効で,ねじれ,屈曲,ピストン運動,不偏的な屈曲と横方

向への回転運動を可能にする。この関節は,耐久性があり,正常な指の動

きを可能にする。」(訳文8頁25行〜28行)

ク 「【特許請求の範囲

【請求項1】

近位指骨または中手骨及びからなる遠位指骨の間の置換用人工関節デバ

イスであって;

(a)ヒトの骨に固定する手術に適合している第1の端部,及び,軸方向に

配向した受容チェンバーを特定している第2の端部を有する独立した中手

骨本体と;

(b)ヒトの骨に固定する手術に適合している第1の端部,及び,軸方向に

配向した受容チェンバーを特定している第2の端部を有する独立した指骨




本体と;

(c)捩れ,屈曲,ピストン運動,ずれ,及び前記中手骨本体に対して相対

的に前記指骨本体を横方向へ回転させるために 独立した前記指骨本体を

前記中手骨本体に連結させるヒンジ手段と,を備え;

前記非独立の中手骨と指骨本体の前記第1の端部が,中断した空間のある

複数のチャネルを持つセルフタッピングスレッド部を含み,且つ,前記独

立の中手骨と指骨本体の前記第2の端部が,滑らかな外面を有する円錐形

である,ことを特徴とする,近位指骨または中手骨及び遠位指骨の間の置

換用人工関節デバイス。」(訳文8頁32行〜9頁11行),

「【請求項10】

前記指骨本体及び中手骨本体は,テーパー形状であり,中断した均一空

間のあるチャネルを前記スレッド処理された,それらの端部にセルフタッ

ピングスレッド部を有することを特徴とする,請求項9に記載の人工関節

デバイス。

【請求項11】

前記中手骨本体はさらに,前記ヒンジ本体の前記平坦な表面に当接し,

その最も広い端に円形の縁を特定することを特徴とする,請求項10に記

載の人工関節デバイス。」(訳文10頁25行〜31行)

(3) 一致点の認定の誤りの有無について

原告は,本願補正発明における「第1及び第2のネジ状部材(4,5)」

の「外面的な円錐形状」とは,「損傷を与えうる尖った縁部」の構成を有し

ないものに限定されると解すべきであるとした上で,引用例1の中手骨体1

1と指骨体13が備えるリップ39及びチャンネル47は,外方に突出した

構成を有し,「損傷を与えうる尖った縁部」であるといえるから,中手骨体

11と指骨体13は本願補正発明にいう「外面的な円錐形状」を有するもの

に当たらないとして,本願補正発明と引用発明とが,「第1及び第2のネジ




状部材(4,5)は,外面的な円錐形状を有する」点で一致するとした本件

審決の一致点の認定は誤りである旨主張するので,以下において判断する。

ア(ア) 本願補正発明の特許請求の範囲(本件補正後の請求項1)には,「

前記第1及び第2のネジ状部材(4,5)」は,「外面的な円錐形状を

有すると共に,外部ネジ山(夫々34及び35)を更に備え」るとの記

載がある。この「外部ネジ山(夫々34及び45)」は,その文言上,

「前記第1及び第2のネジ状部材(4,5)」の「外部」(外側の表面)

に形成されるものであるから,「前記第1及び第2のネジ状部材(4,

5)」の表面から外方へ突出する構成を有するものと理解することがで

きる。

一方で,同請求項には,「外面的な円錐形状」についてその具体的な

形状を定義した記載はなく,また,「外部ネジ山(夫々34及び45)」

の形状を具体的に特定する記載もない。

(イ) 本願明細書には,「外部ネジ山(夫々34及び45)」について,

「第1及び第2のネジ状部材4,5は,夫々外部ネジ山34及び35が

備えられ」(段落【0015】),「第1及び第2のネジ状部材4,5

は,夫々外部ネジ山34及び35を,いくつかの,例えば4つのネジ山

セクションに分割するため,第1及び第2のネジ状部材4,5の夫々の

軸方向に伸びる延伸部4a,5aにはネジ山を有していない。」(段落

【0017】)との記載があるが,「外部ネジ山(夫々34及び45)」

の形状及び構造を説明した記載はない。もっとも,図1,2及び4には,

外部ネジ山34及び35が模式的に線で図示されているが,特定の立体

的形状を看取することはできない。

一方で,本願明細書には,「夫々の骨の中に上記のネジ状部材をネジ

止めするため,ネジ用工具32を回転することにより,ネジ状部材4,

5の夫々を回転することができる。」(段落【0014】)との記載が




ある。この記載とネジ状部材4,5が外部ネジ山34及び35を備えて

いることによれば,ネジ状部材4,5が骨の中にネジ止めされるときに

は,ネジ状部材4,5の夫々が回転し,ネジ状部材4,5に備えられた

外部ネジ山34及び35によって夫々の骨がねじ切りされ,そのねじ切

りに伴い骨の組織が切り込まれているものと理解することができる。

(ウ) 以上によれば,ネジ状部材4,5は,外部ネジ山34及び35のよ

うな外方に突出される構成を有するものであっても,本願補正発明の「

外面的な円錐形状」に当たるものと解される。

そして,引用例1の図1ないし4,7ないし9(別紙2のFIG.1

ないし4,7ないし9)には,本願補正発明の「第1及び第2のネジ状

部材4,5」に相当する,中手骨体11と指骨体13が,その一方の端

部の表面にセルフタッピングスレッド45を備え,他方の端部の先端が

細くなるようにテーパー状に形成されていることが示されているから,

引用例1の中手骨体11と指骨体13は,本願補正発明にいう「外面的

な円錐形状」を有するものと認められる。

なお,このセルフタッピングスレッド45は,別紙2のFIG.1な

いし4,5B,7ないし9のとおり,中手骨体11と指骨体13の表面

から外方へ突出する構成を有するが,このことが中手骨体11と指骨体

13が本願補正発明の「外面的な円錐形状」を有することを否定すべき

理由に当たらないことは,上記のとおりである。

イ これに対し原告は,@本願明細書には,引用例1を先行文献として挙げ,

従来の2つのネジ状部材を有する関節補綴具には「近接する組織を傷つけ

る虞がある尖った縁部」を有する点に問題があり,この問題を解決するた

めに,本願補正発明は,尖った縁部を有する外部溝が損傷を与えうること

を回避できる」ようにした旨の記載があることからすると,本願補正発明

は,「第1及び第2のネジ状部材(4,5)」の「外面的な円錐形状」は




「損傷を与えうる尖った縁部」の構成を有しないものに限定される,A引

用例1の中手骨体11と指骨体13が備えるリップ39及びチャンネル4

7(別紙2のFIG.1ないし9)は,外方に突出した構成を有し,この

突出した構成によりインプラント時等に「近接する組織を傷つける虞」が

あり,「損傷を与えうる尖った縁部」であるといえるから,中手骨体11

と指骨体13は本願補正発明にいう「外面的な円錐形状」を有するものに

当たらない旨主張する(以下,上記@,Aをそれぞれ「原告の主張@」,

「原告の主張A」という。)。

(ア) 原告の主張@について

まず,前記ア(ア)のとおり,本件補正後の請求項1には,「第1及び

第2のネジ状部材(4,5)」の「外面的な円錐形状」についてその具

体的な形状を定義した記載はない。

次に,本願明細書の段落【0002】ないし【0004】の記載(前

記(1)イ(イ)ないし(エ))を総合すると,本願明細書には,@「米国特許

文献5147386」(引用例1)記載の従来の関節補綴具には,ネジ

止めによってネジ状部材を固定するために,ネジ状部材の表面に「ネジ

用工具用のネジ溝」があり,このネジ溝は「近接する組織を傷つける虞

がある尖った縁部」を形成するものであったため,不適当であるという

問題があったこと,A「本発明」は,「補綴部材のネジ状部材が,尖っ

た縁部を画定する外部ネジ溝を有するという問題を解消することを目

的」とし,この問題を解決するための手段として,「補綴具のネジ状部

材」は「ソケット及びヘッド部材のそれぞれが穴を有し,特に,ネジ用

工具用に設計された内部穴が備えられる」構成を採用したことにより,

「問題のある骨にネジ状部材をネジ止めにより装着するため,ネジ用工

具を穴に挿入することができ,また,尖った縁部を有する外部溝が損傷

を与えうることを回避できる」効果を奏することが開示されていると認




められる。

このように本願明細書は,引用例1の「ネジ用工具用のネジ溝」がネ

ジ状部材の表面に「近接する組織を傷つける虞がある尖った縁部」を形

成するものであったため,不適当であるという課題があり,この課題を

解決するための手段として,「本発明」は,ネジ状部材の表面ではなく,

その内部に「ネジ用工具用に設計された内部穴」を備える構成を採用し

たことを開示するものであり,引用例1のネジ状部材の表面に設けられ

た「ネジ用工具用のネジ溝」以外の構成部材については何ら言及するも

のではない。

加えて,本願明細書には,「近接する組織を傷つける虞がある尖った

縁部」を有する「ネジ用工具用のネジ溝」が,引用例1のいかなる箇所

に記述されているのかを具体的に指摘した記載はないのみならず,本願

補正発明の「第1及び第2のネジ状部材(4,5)」の「外面的な円錐

形状」が,外方を突出した構成により近接する組織に「損傷を与えうる

尖った縁部」を有しないものでなければならないことを明示した記載や,

これを示唆する記載はない。

そうすると,本願明細書の記載を根拠として,本願補正発明における

「第1及び第2のネジ状部材(4,5)」の「外面的な円錐形状」は「

損傷を与えうる尖った縁部」の構成を有しないものに限定されると解釈

することはできないから,原告の主張@は理由がない。

(イ) 原告の主張Aについて

a 引用例1には,リップ39に関し,「中手骨本体11は,中手骨本

体11の最も広く端部を囲む円形のリップ39を有している。従って,

リップ39は,近位指節又は中手骨(図示せず)が押されたり,人工

関節で結合された遠位指節骨(図示せず)に対して圧縮され,ヒンジ

本体19の平らな面34に接触する。 (前記(2)オ)
」 との記載があり,




また,引用例1の図1,3ないし9(別紙2のFIG.1,3ないし

9)等には,リップ39が中手骨体11の端部においてその周方向に

外方へ突出する構成を有するものとして図示されている。

しかしながら,リップ39は,そもそも「ネジ用工具用のネジ溝」

ではないから,本願明細書が不適当であるとする引用例1のネジ状部

材の表面に設けられた「ネジ用工具用のネジ溝」には当たらない。ま

た,引用例1には,リップ39が「損傷を与えうる尖った縁部」を構

成に有することや,中手骨体11と指骨体13のインプラント時等に

「近接する組織を傷つける虞」があることについての記載も示唆もな

い。

b 引用例1には,チャンネル47に関し,「チャネル(くぼみ)47

のねじ山の中断は,スレッド処理で簡単に接合する骨にねじ込むこと

ができ,関節を固定するためである。接合される骨は,指節体13(

判決注・「指骨体13」の誤り)と中手骨体11がそれぞれの骨の自

由な引っ張りを防ぐために,チャネル(くぼみ)の中及びその周囲で

成長する。」(前記(2)カ)との記載があり,また,引用例1の図1,

2,8,9(別紙2のFIG.1,2,8,9)等には,中手骨体1

1及び指骨体13の表面の周方向に形成された複数のタッピングスレ

ッド45間の溝として図示されている。

しかしながら,チャンネル47は,そもそも「ネジ用工具用のネジ

溝」ではないから,本願明細書が不適当であるとする引用例1のネジ

状部材の表面に設けられた「ネジ用工具用のネジ溝」には当たらない。

また,引用例1には,チャンネル(チャネル)47が「損傷を与えう

る尖った縁部」を構成に有することや,中手骨体11と指骨体13の

インプラント時等に「近接する組織を傷つける虞」があることについ

ての記載も示唆もない。




c そうすると,引用例1の記載から,引用例1の中手骨体11と指骨

体13が備えるリップ39及びチャンネル47が,インプラント時等

に「近接する組織を傷つける虞」があることはもとより,「損傷を与

えうる尖った縁部」の構成を有することを認めることはできないから,

原告の主張Aは,その前提において理由がなく,採用することができ

ない。

(ウ) 小括

以上のとおり,原告の主張@及びAはいずれも理由がないから,引用

例1の中手骨体11と指骨体13は本願補正発明にいう「外面的な円錐

形状」を有するものに当たらないとの原告の主張も,理由がない。

ウ 以上によれば,本願補正発明と引用発明とが,「第1及び第2のネジ状

部材(4,5)は,外面的な円錐形状を有する」点で一致すると認定した

本件審決に誤りはないから,原告主張の取消事由1は理由がない。

2 取消事由2(相違点1の容易想到性の判断の誤り)について

原告は,本件審決は,引用例2には,「関節に適用される人工器官において,

軸部には人工器官を非ねじ込み状態で取り外すためのアレンキー(ネジ用工具)

が装着される6角状部が付加されている人工器官。」の発明が記載されている

とした上で,引用発明に引用例2に記載された発明を適用して相違点1に係る

本願補正発明の構成とすることは当業者が容易になし得た事項にすぎない旨判

断したが,引用発明に引用例2に記載された発明を適用する動機付けが存在し

ないから,本件審決の上記判断は誤りである旨主張するので,以下において判

断する。

(1) 引用例1について

ア 前記1(2)によれば,引用例1(甲4,訳文乙1)には,次の点が開示さ

れていることが認められる。

(ア) 従来,外科的にインプラント(移植)可能な手の関節の置換用の人




工関節デバイスにおいては,耐久性があり,簡単に組み立てられ,骨と

インプラントの最適なインタフェースを実現して人間の体内に簡単に入

れられるモジュラー方式とし,置換される指関節の運動の特性を再現し,

正常な指の動きを再現できるようにすることが必要とされていたが,こ

れらを人工関節で達成することは極めて困難であった。

(イ) 「本発明」は,上記のとおり人工関節に必要とされた特徴をすべて

備えた人工関節を提供するものであり,「本発明」の人工関節は,人間

の指関節や他の関節で利用可能な様々な動きを最も再現し,構造が簡単

で,モジュラー方式で,製造が比較的容易で,インプラントが簡単でか

つ合理的に耐久性がある。

(ウ) 「本発明」の人工関節は,近位指骨と遠位指骨との間又は遠位指骨

と中手骨との間の指関節置換のためのものであり,中手骨体11,指骨

体13及びヒンジ部材15の3つの要素から構成され(図1ないし5)

(別紙2のFIG.1ないし5),これらの3つの要素は,ねじれ,屈

曲,ピストン運動,横方向への動き(関節の屈曲面へのわずかな垂直方

向の回転)といった人間の指の関節をシミュレートした動きを提供し,

連携して動作する。

中手骨体11の一方の端は骨(近位指骨又は中手骨)に取り付けられ,

他方の端はヒンジ部材15に接合し,指骨体13の一方の端は骨に取り

付けられ,他方の端はヒンジ部材15に接合する。このように中手骨体

11と指骨体13は,ヒンジ部材によって接合される。

ヒンジ部材15は,ソケット27を有するヒンジステム17とボール

エンド21を有するヒンジ本体19を構成に有し,屈曲及び横方向への

動きを可能にする。ヒンジステム17は,ヒンジステム17を配置又は

位置づけするために指骨体13の収納室38に挿入可能な伸長部分23

を有し,ヒンジ体19は,ボールエンド21を配置又は位置づけするた




めに中手骨体11の収容室35に挿入可能な伸長部分33を有する。

中手骨体11及び指骨体13は,テーパー形状を有し,その表面の周

方向に形成されたセルフタッピングスレッド45(ねじ切)を備えてい

る。セルフタッピングスレッド45の色々な長さと異なる直径は,「本

発明」の人工関節と受容骨の間が,ぴっちりとした適合を実現できるよ

うに外科医の能力を確かなものとする。このセルフタッピングスレッド

45は,中手骨体11と指骨体13の表面から外方へ突出する構成を有

する。

(エ) 「第2の実施形態」に関し,修正した中手骨本体95は,示されて

いないツールで,係合可能である露出したスロット99と第二の端部9

7を持っている。ねじ回しなどのツールで,インプラント時に,骨に中

手骨本体95を回転しながらねじ込むために使用することができる。

イ(ア) 前記ア(ウ)認定のとおり,引用例1には,中手骨体11及び指骨体

13の表面から外方へ突出する構成を有するセルフタッピングスレッド

45が,「ねじ切」であり,引用例1の人工関節と骨との間がぴっちり

とした適合を実現できるように外科医の能力を確かなものとすることが

開示されている。

また,乙2(マグローヒル科学技術用語大辞典改訂第3版)には,「

タッピング」とは「タップを用いて穴その他のねじ山を切ること」を,

「タッピンねじ」とは,「特別に硬化したねじ山のついたねじ。そのた

めやわらかい材料の穴の中へドライバーで押し込むと,自身のねじ山に

あった溝を相手の材料に切り込むことができる。セルフタッピングスク

リューともいう。」との記載があり,これらの記載によれば,「セルフ

タッピング」とは,「ねじ込むことで自ら雌ねじを切ること,又はその

機能をもつ部材」を意味するものといえる。

以上によれば,引用例1の中手骨体11及び指骨体13に備えたセル




フタッピングスレッド45は,この「セルフタッピング」であり,中手

骨体11及び指骨体13をそれぞれ骨にねじ込むことを目的として形成

されたものと理解することができる。

そして,引用例1には,中手骨体11及び指骨体13を骨にねじ込む

ための具体的な手段を直接述べた記述はないが,一方で,前記ア(エ)の

とおり,「ねじ回しなどのツールで,インプラント時に,骨に中手骨本

体95を回転しながらねじ込む」旨の記載があり,この記載は,中手骨

体11及び指骨体13についても,骨にねじ込むためにねじ回しなどの

ツール(ネジ用工具)を用いることを示唆するものといえる。

(イ) 原告は,この点に関し,引用例1の中手骨体11及び指骨体13に

はセルフタッピングスレッド45が,接続端部側の一部にしか形成され

ておらず,先細り部の大部分には存在しないことからすると,引用例1

記載の関節補綴具においては,骨には,予めドリルを用いて装着穴が形

成され,この装着穴に中手骨体11及び指骨体13が嵌め入れられてお

り,セルフタッピングスレッド45は,骨にねじzむために設けられて

いるのではなく,中手骨体11及び指骨体13が骨から抜けないように

骨に結合させるためだけのネジとして機能するにすぎない旨主張する。

しかしながら,前記(ア)認定のとおり,セルフタッピングスレッド4

5は,中手骨体11及び指骨体13をそれぞれ骨にねじ込むことを目的

として形成された「セルフタッピング」であると認められる。また,引

用例1の人工関節(関節補綴具)において,中手骨体11及び指骨体1

3のための装着穴が予め骨に形成されている場合であっても,中手骨体

11及び指骨体13を骨に取り付ける際にはセルフタッピングスレッド

45がその装着穴を広げながら骨をねじ切りするものと理解することが

できるから,予め骨に装着穴が形成されていることは,上記認定を左右

するものではない。




したがって,原告の上記主張は,採用することができない。

(2) 引用例2について

ア 引用例2(甲5)には,次のような記載がある(下記記載中に引用する

図6,7については別紙3参照)。

(ア) 「この発明は,外科用人工器官,特に,早期埋没症に引続く初期治

療或いは股関節機能の校正による股関節の置換えに利用される大腿部構

造に関する。股関節の置換えは,整形外科に共通の手法であって,股関

節の変形疾患,股関節の損傷,及び,股関節の損傷のあとの股関節形成

による疾患などに必要とされる。」(2頁右下欄3行〜8行)

(イ) 「図6には,この発明の実施例である大腿骨人工器官20の分解図

が示されている。人工器官20は,軸部21,及び,肘部22と頭部2

3からなる着脱可能な頚部から構成されている。軸部21は,また,終

端部26に沿ってまたは近傍に位置されているねじ部24,及び,端部

から離れた位置27に位置されているねじ部25から構成されている。

軸部が既に説明した位置にねじ込まれたとき,ねじ部24及び25のそ

れぞれヘリカルねじは,骨の骨髄腔の壁面に対して応力を及ぼす。従っ

て,軸方向の引き戻しによる不必要な回転に対し,高い抗力及び回転安

定性を有する堅牢な埋込みが達成される。図7によれば,軸部21は,

端部26に,肘部22のオス状部29が結合されるためのメス状凹み2

8を有している。軸部21には,また,人工器官を非ねじ込み状態で取

り外すためのアレンキーが装着される6角状部30が付加されている。」

(5頁左上欄13行〜右上欄1行)

イ(ア) 前記アによれば,引用例2(甲5)には,次の点が開示されている

ことが認められる。

a 大腿骨の関節を置換するための人工器官20は,軸部21,肘部2

2及び頭部23からなる着脱可能な頚部から構成され,骨(大腿骨)




にねじ込まれる。

b 軸部21は,その表面に,人工器官20の骨へのねじ込みを目的と

して形成された2つのヘリカルねじ(ねじ部24及び25)を備えて

いる。

また,軸部21は,その端部26に,肘部22のオス状部29が結

合されるためのメス状凹み28を有している。

さらに,軸部21は,その内部に,人工器官20を非ねじ込み状態

で骨から取り外すためのアレンキーが装着される6角状部30が付加

されている。すなわち,軸部21には,人工器官20を非ねじ込み状

態で骨から取り外すためのアレンキーが装着される6角状部の内部穴

が形成されている。

(イ) 前記(ア)のとおり,引用例2には,人工器官を非ねじ込み状態で骨

から取り外すためのアレンキーが装着される6角状部の内部穴を有する

人工器官が開示されている。このアレンキー(6角棒スパナ)は,ネジ

用工具であるから,人工器官を取り外す場合のほか,人工器官を骨にネ

ジ止めする場合にも使用され得ることを理解することができる。

したがって,この「6角状部」の構成は,「ネジ止めするためにネジ

用工具」を「挿入可能となるように設計された内部穴」に相当するもの

と認められる。

(3) 相違点1の容易想到性について

ア 前記(1)及び(2)によれば,@引用例1の人工関節と引用例2の人工器官

20とは,骨の関節の置換に利用される関節補綴具である点で技術分野が

共通すること,A引用例1の人工関節の構成部材である中手骨体11及び

指骨体13と引用例2の人工器官20の構成部材である軸部21とは,そ

れぞれ一方の端部から骨にねじ込まれる点において機能面で共通し,また,

他方の端部には,他の構成部材を装着する「穴」(中手骨体11及び指骨




体13にあっては,ヒンジ体19の伸長部分33及びヒンジステム17の

伸長部分23を装着する収容室35及び38,軸部21にあっては,肘部

22のオス状部29を装着するメス状凹み28)が設けられている点にお

いて機能面で共通することが認められる。

そして,引用例1には,中手骨体11及び指骨体13を骨にねじ込むた

めの具体的な手段を直接述べた記述はないが,中手骨体11及び指骨体1

3についても,骨にねじ込むためにねじ回しなどのツール(ネジ用工具)

を用いることを示唆する記載がある。

そうすると,引用例1及び2に接した当業者においては,引用例1の人

工関節の中手骨体11及び指骨体13を骨にねじ込むための手段として,

技術分野,機能及び構造が共通する引用例2の人工器官におけるアレンキ

ーが装着される6角状部(内部穴)の構成を適用することの動機付けが存

在し,これを適用して中手骨体11の収容室35及び指骨体13の収容室

38のそれぞれの底部に,ネジ用工具を挿入可能となるように設計された

内部穴(相違点1に係る本願補正発明の構成)を設けることを容易に想到

することができたものと認められる。

イ これに対し原告は,引用例1の図6,7(別紙2のFIG.6,7)を

根拠に,引用例1の中手骨体11の収容室35は奥深くまで形成されてお

り,この収容室35の更に深い位置に6角状部を設けるとすれば,中手骨

体11の先端の強度が極めて低下するので,引用発明に引用例2記載の「

6角状部」の構成を適用することは考え難いなどと主張する。

しかしながら,引用例1の中手骨体11の収納室35は,ヒンジ体19

の伸長部分33の装着を目的として形成されるものであり,収納室35と

伸長部分33とは相補的な形状として構成されれば足りるから,原告が挙

げる引用例1のFIG.6,7に示された深さの形状のものに限定する必

要性は認められず,また,収納室35を中手骨体11の奥深くまで形成し




なければならないとする必然性も認められない。

したがって,原告の上記主張は,理由がない。

ウ 以上によれば,相違点1の容易想到性についての本件審決の判断に誤り

はなく,原告主張の取消事由2は理由がない。

3 取消事由3(相違点2の容易想到性の判断の誤り)について

原告は,本件審決は,骨の夫々に取り付けられる誘導線上に,ネジ状部材が

装着されるようにするため,ネジ部材に軸方向に伸びる貫通孔を設ける点は,

骨の補綴の技術分野で本願の優先権主張日前の周知の技術にすぎず,上記周知

技術を引用発明に適用して相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項のよう

にすることは,当業者が必要に応じてなし得た事項にすぎない旨判断したが,

引用発明に上記周知技術を適用する動機付けが存在しないから,本件審決の上

記判断は誤りである旨主張するので,以下において判断する。

(1)ア 前記2(1)ア(ア)及び(イ)によれば,引用例1には,従来,手の関節の

置換用の人工関節においては,耐久性があり,簡単に組み立てられ,骨と

インプラントの最適なインタフェースを実現して人間の体内に簡単に入れ

られるモジュラー方式とし,置換される指関節の運動の特性を再現し,正

常な指の動きを再現できるようにすることが必要とされていたが,これら

のすべての特徴を人工関節で達成することは極めて困難であるという問題

があり,引用例1の人工関節は,これらのすべての特徴を備えた人工関節

を提供することを課題とすることが記載されていることが認められる。

そして,人工関節が置換される指関節の運動の特性を再現し,正常な指

の動きを再現できるようにするためには,引用例1の人工関節を構成する

部材である中手骨体11及び指骨体13を骨の所定の位置に確実に取り付

けなければならないことは,引用例1に明示の記載はないが,引用例1の

人工関節の自明の課題であるといえる。

イ 証拠(甲6,乙3ないし6)によれば,本願の優先権主張日(平成17




年2月16日)当時,骨の補綴の技術分野において,骨の所定の位置に取

り付けられるネジ状部材を正しく位置決めし,より簡単に骨に取り付ける

ようにするために,ネジ状部材の軸方向にガイドワイヤ(誘導線)用の貫

通孔を形成し,このガイドワイヤを当該貫通孔に通して骨に取り付けるこ

とは広く知られており,「骨の夫々に取り付けられる誘導線上に,ネジ状

部材が装着されるようにするため,ネジ部材に軸方向に伸びる貫通孔を設

けること」は,周知の技術であったことが認められる。

ウ 前記ア及びイによれば,引用例1に接した当業者においては,骨の所定

の位置に確実に,かつ,簡単に取り付けることができる人工関節を提供す

るという引用例1記載の課題を解決するために,引用例1の人工関節の中

手骨体11及び指骨体13に,本願の優先権主張日当時に周知であった「

骨の夫々に取り付けられる誘導線上に,ネジ状部材が装着されるようにす

るため,ネジ部材に軸方向に伸びる貫通孔を設ける」構成を適用する動機

付けが存在し,相違点2に係る本願補正発明の構成を容易に想到すること

ができたものと認められる。

(2) 原告は,これに対し,@引用例1記載の関節補綴具においては,骨には,

予めドリルを用いて装着穴が形成され,この装着穴に中手骨体11及び指骨

体13が嵌め入れられており,セルフタッピングスレッド45は,骨にねじ
zむために設けられているのではなく,中手骨体11及び指骨体13が骨か

ら抜けないように骨に結合させるためだけのネジとして機能する,A引用例

1記載の関節補綴具において,ガイドワイヤ(誘導線)等が必要になるのは,

予めドリルを用いて骨に装着穴を形成する段階であり,セルフタッピングス

レッド45で手骨体11及び指骨体13を骨に結合させる段階では,もはや

誘導線は必要なく,中手骨体11及び指骨体13に誘導線のための貫通孔を

設ける必要性もないから,引用例1記載の関節補綴具に「骨の夫々取り付け

られる誘導線上に,中手骨体11及び指骨体13が装着されるようにするた




め,中手骨体11及び指骨体13に軸方向に伸びる貫通孔を設ける」構成(

周知技術の構成)を適用する動機付けは存在しない旨主張する。

しかしながら,前記2(1)イ(イ)で認定したように,セルフタッピングスレ

ッド45は,中手骨体11及び指骨体13をそれぞれ骨にねじ込むことを目

的として形成された「セルフタッピング」であり,また,中手骨体11及び

指骨体13のための装着穴が予め骨に形成されている場合であっても,中手

骨体11及び指骨体13を骨に取り付ける際にはセルフタッピングスレッド

45がその装着穴を広げながら骨をねじ切りするものであるから,予め骨に

装着穴が形成されている場合であっても,骨の所定の位置に中手骨体11及

び指骨体13を確実に,かつ,簡単に取り付けるために,中手骨体11及び

指骨体13に誘導線のための貫通孔を設ける必要性があり得るものと認めら

れる。

したがって,原告の上記主張は理由がない。

(3) 以上によれば,相違点2の容易想到性についての本件審決の判断に誤りは

なく,原告主張の取消事由3は理由がない。

4 結論

以上の次第であるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,本件審

決にこれを取り消すべき違法は認められない。

したがって,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文

のとおり判決する。



知的財産高等裁判所第4部



裁判長裁判官 富 田 善 範





裁判官 大 鷹 一 郎




裁判官 齋 藤 巌





(別紙1)



【図1】 【図2】




【図3】 【図5】




【図4】
【図6】




【図7】





【図8】 【図10】




【図9】 【図11】




【図12】





(別紙2)





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(別紙3)