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事件 |
平成
24年
(ワ)
3817号
特許権侵害行為差止請求事件
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裁判所のデータが存在しません。 | |
裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2013/10/31 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
判例全文 | |
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判例全文
平成25年10月31日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 平成24年(ワ)第3817号 特許権侵害行為差止請求事件 口頭弁論終結日 平成25年7月4日 判 決 北九州市若松区<以下略> 原 告 日鉄トピーブリッジ株式会社 同訴訟代理人弁護士 清 永 利 亮 同訴訟代理人弁理士 柳 野 隆 生 同 森 岡 則 夫 同 補 佐 人 弁 理 士 関 口 久 由 同 柳 野 嘉 秀 同 小 原 英 一 東京都渋谷区<以下略> 被 告 株 式 会 社 ニ チ ワ 同訴訟代理人弁護士 中 村 智 廣 同 三 原 研 自 同訴訟代理人弁理士 久 保 健 同 補 佐 人 弁 理 士 佐 々 木 功 同 川 村 恭 子 主 文 1 被告は,別紙物件目録記載の製品を製造し,貸し 渡し,製造又は貸渡しの申出をしてはならない。 2 被告は,別紙物件目録記載の製品を廃棄せよ。 3 訴訟費用は被告の負担とする。 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することが できる。 事 実 及 び 理 由 第1 請求 主文同旨 第2 事案の概要 本件は,発明の名称を「端面加工装置」とする特許権を有する原告が,被告 が業として製造及び貸渡しをする別紙物件目録記載の製品(以下「被告製品」 という。)が上記特許権に係る発明の技術的範囲に属し,その製造等が上記特 許権の侵害に当たると主張して,被告に対し,特許法100条1項及び2項に 基づき,被告製品の製造,貸渡し等の差止め及び廃棄を求める事案である。 1 争いのない事実等(各項目末尾掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認 定することができる事実を含む。) (1) 当事者 ア 原告は,橋梁等の鋼構造物の工事の請負等を目的とする株式会社であ る。 イ 被告は,各種建設用の機械工具類の貸渡し及び販売等を目的とする株式 会社である。 (2) 原告の特許権 ア 原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,本件特許権に係る特 許を「本件特許」という。)を有している。 特 許 番 号 特許第4354006号 発 明 の 名 称 「端面加工装置」 出 願 日 平成20年11月26日(特願2008−30080 3) 原出願の出願日 平成19年3月14日(特願2007−65247, 以下「原出願」という。) 登 録 日 平成21年8月7日 イ 本件特許権に係る特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりであ る(以下,当該発明を「本件発明」という。)。 「【請求項1】 母材(Mf)のボルト取付孔(Mh)を貫通し,そして ナット(2)で固定されたトルシアボルト(1)の破断面(1c)に生 じたバリ(1d)を除去するための端面加工装置において,バリ除去用 工具(10,10CA〜10CK)と,そのバリ除去用工具(10,1 0CA〜10CK)を回転する回転機構(R,14,70)と,円筒状 のフード部(12,12A,12B)とを備え,その円筒状のフード部 (12,12A,12B)は金属粉収集機構(12H,16,19A, 19B)を有しており,バリ除去用工具(10,10CA〜10CK) は破断面(1c)のコーナー部(E)にエッジを形成しないように,破 断面(1c)のコーナー部(E)を加工する部分(102C,103C, 104C,41a,42a,43)は,コーナー部(E)以外の破断面 (1c)を加工する部分(101C,104C,41b,42b,43) よりも,母材(Mf)に近い側に位置していることを特徴とする端面加 工装置。」 ウ 本件発明を構成要件に分説すると,次のとおりである。 A 母材(Mf)のボルト取付孔(Mh)を貫通し,そしてナット(2) で固定されたトルシアボルト(1)の破断面(1c)に生じたバリ(1 d)を除去するための端面加工装置において, B バリ除去用工具(10,10CA〜10CK)と, C そのバリ除去用工具(10,10CA〜10CK)を回転する回転機 構(R,14,70)と, D 円筒状のフード部(12,12A,12B)とを備え, E その円筒状のフード部(12,12A,12B)は金属粉収集機構(1 2H,16,19A,19B)を有しており, F バリ除去用工具(10,10CA〜10CK)は破断面(1c)のコ ーナー部(E)にエッジを形成しないように,破断面(1c)のコーナ ー部(E)を加工する部分(102C,103C,104C,41a, 42a,43)は,コーナー部(E)以外の破断面(1c)を加工する 部分(101C,104C,41b,42b,43)よりも,母材(M f)に近い側に位置している G ことを特徴とする端面加工装置。 (3) 本件特許権の出願経過等 ア トピー工業株式会社(以下「本件出願人」という。)は,平成19年3 月14日に原出願をし,平成20年11月26日に原出願の分割出願とし て,本件特許の特許出願をした。 イ 本件特許の特許出願時の特許請求の範囲の請求項1は次のとおりであ った。(乙1) 「【請求項1】 バリ除去用工具と,バリ除去用工具を回転するための回 転機構と,金属粉を捕集する金属粉収集機構とを有し,バリ除去用工具は トルシアボルトの中心軸方向へ移動可能に構成されていることを特徴と する端面加工装置。」 ウ 特許庁審査官は,本件特許の特許出願について,平成21年4月28日 付けで拒絶理由通知書(乙2。以下「本件拒絶理由通知書」という。)を 起案し,その頃これを送付した。 エ 本件出願人は,本件拒絶理由通知書に対し,平成21年7月6日に,意 見書(乙4。以下「本件意見書」という。)及び手続補正書(乙3。以下 「本件補正書」という。)を提出し,同年8月7日,本件特許の設定の登 録を受けた(上記補正後の本件特許の明細書及び図面を総称して,「本件 明細書」という。図面の一部は別紙「本件発明の図面」のとおりである。 。 ) オ 原告は本件出願人から本件特許権の譲渡を受け,平成22年6月17日 受付の特定承継による本権の移転登録を経た。(甲1) (4) 被告の行為 被告は,業として,被告製品の製造及び貸渡しをしている。 (5) 被告製品の構成等 ア 被告製品の構成は,別紙「被告製品の構成」記載のとおりである(ただ し,第5図は欠番である。)。 イ 被告製品は,本件発明の構成要件AないしD,F及びGを充足している。 2 争点 (1) 被告製品が構成要件Eを充足するか(争点1) (2) 本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものか(争点2) (3) 差止めの可否(争点3) 3 争点に関する当事者の主張 (1) 構成要件Eの充足性(争点1) (原告の主張) ア 本件明細書中の第1実施形態の記載には,本件発明の金属粉収集機構の 実施形態としてフード部12の下方にフード部12の半径外方に膨らむ ように表現された凹部12Hが図示され(図1,図2),当該凹部12H はフード部12の円周方向全周にわたって設けられていることが好適で あるとされている(【0025】)。また,本件明細書中の第5実施形態 の記載には,本件発明の実施形態として,フード部12Aの先端側(母材 表面Mf側)に取り付けられたベローズ120が図示されているところ (図11,【0047】,【0048】),ベローズ120の内面の凹部 は金属粉収集機構を示している。 イ 被告製品の専用刃(バリ除去用工具)(10CG’)により切削加工さ れたトルシア形高力ボルト(1’)の切削屑は,フード部(12’)を構 成する蛇腹状のカバー(24)の内面の凹部(12H’)に収容される。 ウ 以上によれば,被告製品の凹部(12H’)は構成要件Eの「金属粉収 集機構(12H,16,19A,19B)」に当たり,被告製品は構成要 件Eを充足する。 エ これに対し,被告は後記のとおり主張するが,特許請求の範囲の「金属 粉収集機構」に付された符号「(12H,16,19A,19B)」は, 特許法施行規則24条の4及び様式29の2の〔備考〕14のロに従って 付されたものであり,金属粉収集機構の構成を符号により特定される実施 形態に限定するものではない。 (被告の主張) ア 本件出願人は,特許出願時の特許請求の範囲の請求項1に,出願当初は 付されていなかった符号を付し,「金属粉収集機構」を「金属粉収集機構 (12H,16,19A,19B)」と補正した。 上記出願経過に照らせば,本件出願人は,本件発明の技術的範囲を,符 号により特定される実施形態の範囲に意識的に限定したことが明らかで あり,構成要件Eの「金属粉収集機構(12H,16,19A,19B)」 は,これらの符号により特定される実施形態に限定して解すべきである。 そして,本件明細書の図11記載のベローズ120の内面の凹部には 「12H,16,19A,19B」の符号は付されていないから,ベロー ズすなわち蛇腹状のカバー内面の凹部は本件発明の技術的範囲に含まれ ない。 イ 被告製品は,使用中や使用後の装置の向きによっては凹部(12H’) に切削屑がたまらないこともあるし,凹部(12H’)にたまった切削屑 も装置の動きによって移動することもあるから,凹部(12H’)は金属 粉を収集する機能はない。 また,被告製品の蛇腹状のカバー(24)は,作業体勢を問わずに切削 屑の外部への拡散を防止して切削屑を保持する機能と伸縮により母材と の密着性を高める機能を有するが,フード部(12’)の内部のどこかに 切削屑を溜めておくことができれば切削屑の回収という目的は達成でき るのであって,凹部(12H’)は金属粉を収集する機能を奏するもので はない。 さらに,被告製品の凹部(12H’)は蛇腹の谷部であるから,第1実 施形態におけるフード部に設けられた凹部とは大きさが異なり,両者を同 列に論じることはできない。 以上によれば,被告製品の凹部(12H’)は「金属粉収集機構(12 H,16,19A,19B)」に当たらない。 ウ 被告製品の凹部(12H’)に金属粉の収集機能があるとしても,本件 明細書には,ベローズ120の凹部が金属粉収集機構に当たるとの記載は なく,ベローズ120の凹部には符号が付されていない(【0047】, 【0048】,図11)ことから,本件出願人には,ベローズ120の内 面の凹部が金属粉収集機構に当たるとの認識がなかったことは明らかで ある。 したがって,いわゆる認識限度論によれば,ベローズ120と同じく蛇 腹状の構成を有する被告製品のカバー内面の凹部が構成要件Eの金属粉 収集機構の技術的範囲に含まれると解することは,本件出願人の出願時の 認識を超えるものであり,許されない。 エ 以上によれば,被告製品は,構成要件Eを充足しない。 (2) 本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものか(争点2) (被告の主張) ア 乙5文献に基づく進歩性の欠如(無効理由1)について (ア) 乙5文献 乙5文献(特許第3017984号公報)に開示される発明(以下「乙 5発明」という。)は次のとおりである。 a 乙5発明 (a) 眼鏡フレーム101及び眼鏡レンズ103のボルト取付孔を 貫通し,そしてねじ部装着具6の先端部63で固定されたボルト9 の破断面の鋭利な縁部96を除去するためのボルトのねじ部面取 り装置において, (b) 面取り加工具7と, (c) 面取り加工具7を回転させる回転機構とを備え, (d) 面取り加工具7は,ねじ部94の先端95の縁部96を削って エッジを形成しないように,刃81のうち面取りを行う部分が,そ れ以外の加工する部分よりも眼鏡フレーム101及び眼鏡レンズ 103に近い側に位置している (e) ボルトのねじ部面取り装置。 b 本件発明と乙5発明との対比 ボルトの破断面のバリ除去とボルトを切断したことにより形成さ れた破断面の鋭利な縁部を除去する面取りは同じ意味であり,乙5文 献の図10に記載された面取り部73は,本件明細書の図29の砥石 43と全く同じ構成である。よって,本件発明と乙5発明は,「母材 のボルト取付孔を貫通してナットで固定されたボルトの破断面に生 じたバリを除去するための端面加工装置において,バリ除去用工具 と,そのバリ除去用工具を回転する回転機構を有しており,バリ除去 用工具は破断面のコーナー部にエッジを形成しないように,破断面の コーナー部を加工する部分は,コーナー部以外の破断面を加工する部 分よりも母材に近い側に位置していることを特徴とする端面加工装 置。」という点で一致し,次の点で相違する。 @ 本件発明では加工の対象がトルシアボルトであるのに対し,乙5 発明ではそのような限定のないボルトである点 A 本件発明は円筒状のフード部を備え,その円筒状のフード部が金 属粉収集機構を有するのに対し,乙5発明はフード部及び金属粉収 集機構を有しない点 (イ) 相違点@について a トルシアボルトは乙8文献(特開2005−133336号公報) 及び乙9文献(特開2005−155768号公報)に記載された周 知技術である。 b トルシアボルトは,頭部が丸頭である点及びピンテールと呼ばれる 先端部が締め付けトルクにより破断する点以外は通常のボルトと同 じであるから,乙5発明の加工の対象をトルシアボルトにすることは 容易であり,また,加工の対象となるボルトを小さなものから大きな ものに置換することにより新たな技術的な困難性が生じるなどの事 情は存在しないから,かかる置換は当業者の通常の創作能力の発揮に すぎない。 (ウ) 相違点Aについて a 乙6文献との組み合わせ (a) 乙6文献(特開2001−38622号公報)の図1及び【0 014】に記載された囲繞部25bは本件発明のフード部に相当 し,乙6文献の図1,【0015】及び【0018】に記載された 負圧によってカバー25の内部の粉塵を吸い込む機構は本件発明 の金属粉収集機構に相当する。 (b) 乙5発明はボルトのねじ部を切断する装置及び切断したこと により形成された切断面の面取りを行う面取り装置に関するもの であり,乙6文献は切断や切削等によって発生する粉塵を除去する 装置に関するものであるから,乙5発明と乙6文献とは,切断・切 削に関するものであるという点において技術分野が一致している。 さらに,切断や面取りを行えば粉塵が生じるのは自明の理である から課題も共通しており,乙5発明と乙6文献とを組み合わせるこ との動機付けが存在する。 b 乙11文献又は乙12文献との組み合わせ (a) 乙11文献(日立電動工具カタログ2000)及び乙12文献 (同2002−9)に記載された円筒状の集じんカップは,本件発 明のフード部及び金属粉収集機構に相当する。 (b) 乙11文献及び乙12文献の集じんカップは,切削加工時に使 用されるものであるから,乙5発明と乙11文献及び乙12文献と は,切削加工に関するものである点において技術分野が共通してい る。 さらに,切削加工を行えば粉塵が生じるのは自明の理であるから 課題も共通しており,乙5発明と乙11文献又は乙12文献とを組 み合わせることの動機付けが存在する。 (エ) 乙5発明が「バリ除去用工具は破断面のコーナー部にエッジを形成 しないように,破断面のコーナー部を加工する部分は,コーナー部以外 の破断面を加工する部分よりも母材に近い側に位置している」という構 成を有していないとしても,乙7文献(実願昭62−187003号(実 開平1−92311号)のマイクロフィルム)には,このような構成を 有するバリ取り装置の記載がある。 (オ) 乙5発明が「回転機構」の構成を有しないとしても,乙6文献には このような構成の記載がある。 (カ) よって,本件発明は,乙5発明と,乙6文献又は乙11文献若しく は乙12文献及び周知技術並びに乙7文献を組み合わせることにより, 当業者が容易に発明することができたものであるから,本件特許は,特 許法29条2項に違反して登録されたものであり,無効理由がある。 イ サポート要件違反(無効理由2)について 本件明細書にはベローズ120の内面の凹部が金属粉収集機構に当た ることの言及はないし,図面に符号も付されていないから,蛇腹状のカバ ーの内面の凹部が金属粉収集機構であることは,本件特許の特許請求の範 囲,明細書及び添付図面のいずれにも記載されていない。したがって,こ れが金属粉収集機構に当たるとすれば,本件特許には特許法36条6項1 号所定のいわゆるサポート要件違反の無効理由があることになる。 (原告の主張) ア 乙5文献に基づく進歩性の欠如(無効理由1)について (ア) 乙5文献 乙5文献に,「面取り加工具を回転させる回転機構」と,「刃のうち 面取りを行う部分が,それ以外の加工する部分よりも眼鏡フレーム及び 眼鏡レンズに近い側に位置している」ことは記載されていない。そうす ると,本件発明と乙5発明を対比すると,被告の主張する相違点Aに加 え,次のような相違点があることになる。 @’本件発明では,加工の対象がトルシアボルトであるのに対し,乙 5発明では手動で切断や面取りが行える小径のボルトである点 B’本件発明はトルシアボルトの破断面に生じたバリを確実に除去す る端面加工装置であるのに対し,乙5発明は縁部の面取り量を一定 にするように工夫した面取り装置である点 C’本件発明ではナットで固定されたトルシアボルトの破断面のバリ 取りを行うのに対し,乙5発明にはナットに相当する構成を有しな い点 D’本件発明は,バリ除去用工具は破断面のコーナー部にエッジを形 成しないように,破断面のコーナー部を加工する部分は,コーナー 部以外の破断面を加工する部分よりも母材に近い側に位置してい るのに対し,乙5発明はこのような構成を有しない点 E’本件発明には回転機構があるが,乙5発明には回転機構がない点 (イ) 被告の主張する相違点@について トルシアボルトが周知技術であることは認めるが,乙5発明におい て,加工の対象を眼鏡フレーム用ボルトから鋼構造建築物の構築に用い られるトルシアボルトにすることに,当業者が想到することができると は到底考えられない。 (ウ) 被告の主張する相違点Aについて a 乙6文献について 乙6文献に記載のカバー25は,空気が負圧部分に向かう流れを補 うために,囲繞部25bの下端と床面との隙間がある構成であり,端 面を母材の表面に当接させるものではないから,乙6文献には相違点 Aに相当する構成の開示はない。 乙5発明の課題(簡単操作による,眼鏡フレーム用ボルト切断位置 の精度向上及びねじ部面取りの精度向上)と,乙6文献に記載された 課題(圧縮空気式工具において,比較的安価なコストで除塵機構を一 体化すること)は異なり,乙5発明と乙6文献とを組み合わせること に動機付けがあるという被告の主張は失当である。 b 乙11文献及び乙12文献について 乙5発明において眼鏡フレーム用ボルトのねじ部の面取りを行っ た際に切り屑が発生するとしても,眼鏡フレーム用ボルトに関する乙 5発明に,乙11文献又は乙12文献のようなコンクリートに穴をあ けるドリル等と組み合わせて用いる筒状の集じんカップを適用する ことに,当業者が想到することができるとは考えられない。 イ サポート要件違反(無効理由2)について 本件明細書の図11のベローズ120には内面の凹部の記載がされて いるのが明らかであるから,本件明細書の発明の詳細な説明の記載に照ら し,蛇腹の内面の凹部が金属粉収集機構に当たることが容易に分かる。 したがって,本件発明が特許法36条6項1号所定のサポート要件を欠 くということはできない。 (3) 差止めの可否(争点3) (原告の主張) 前記(1)のとおり被告製品は本件発明の技術的範囲に属するから,被告の 行為は本件特許権の侵害に当たる。 よって,原告は,被告に対し,特許法100条1項及び2項に基づき,被 告製品の製造,貸渡し,製造及び貸渡しの申し出の差止め並びに被告製品の 廃棄を求める。 (被告の主張) 被告製品の凹部(12H’)が金属粉収集機構に当たるとしても,上記凹 部は被告製品の使用の向きによっては金属粉を収集しないから,被告製品は 本件発明の技術的範囲に属しない使い方をすることが可能である。 そうすると,被告製品について,その製造及び貸渡しの段階で侵害のおそ れを客観的に判断することは困難である上,使用の向きは第三者が決定する ものであるから,被告において侵害の可能性を予期することも困難である。 以上のとおり,被告製品は本件特許権を侵害しない態様で使用される可能 性があるから,差止めを認めるのは不当である。 第3 当裁判所の判断 1 構成要件Eの充足性(争点1)について (1) 前記争いのない事実等に後掲各証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,次 の事実が認められる。 ア 本件明細書の発明の詳細な説明の記載(甲2) 本件明細書には,発明の詳細な説明として,次の記載がある。 (ア) 【背景技術】 「【0008】…バリ1dは,鋭利であり,そのままにしておくことは 作業者にとって危険であるため,除去する必要がある。また,破断面 の防錆処理(錆防止のために塗装を施す)を施す際に,そのようなバ リ1dの存在により,防錆処理塗装の塗膜厚が不十分な厚さとなって しまう場合が多く,当該箇所(バリ1dが存在し,塗膜厚が不十分な 個所)から錆が発生し易い。」 「【0010】…グラインダー等で加工した場合は,作業性が悪い。 また,加工の際に金属粉が飛散し,そのような金属粉が周囲の母材 に付着すると,金属粉が付着した箇所から錆びてしまう(いわゆる「も らい錆び」)という不都合が生じる。」 (イ) 【発明が解決しようとする課題】 「【0012】本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案された ものであり,作業現場においてトルシアボルトの破断面に生じたバリ を確実に除去することが出来て,しかも,周辺に金属片が飛散しない 端面加工装置の提供を目的としている。」 (ウ) 【課題を解決するための手段】 「【0014】ここで金属粉収集機構は,フード部(12A)に空気侵 入系統(15)と空気排出系統(16)を設け,フード部(12A) 内部に空気流を発生して,その空気流により金属粉を連行するように 構成することが好ましい(図13,図14)。 あるいは,フード部(12)内に磁力発生機構(永久磁石19A, 電磁石19B)を備えていることが好ましい。」 (エ) 【発明の効果】 「【0019】上述する構成を具備する本発明の端面加工装置によれば, バリ除去用工具(10)をトルシアボルト(1)の中心軸方向(矢印 Y)へ移動して,トルシアボルト(1)の破断面(1c)に押し当て ることにより,破断面(1c)に生じたバリ(1d)を確実に除去す ることが出来る(図2参照)。」 「【0020】ここで,フード部(12)は,ナット(2)及びトルシ アボルト(1)の余長部分(図3の符号Lの部分)を包囲するように 構成されているので,バリ除去用工具(10)によりトルシアボルト (1)の破断面(1c)からバリ(1d)が除去される際に金属粉が 発生しても,その金属粉が端面加工装置(100)の外部に漏れ出し て,周囲に拡散してしまうことはない。 金属粉が拡散しないため,金属粉が周辺の母材に付着して「もらい 錆び」の原因となることも防止される。」 「【0022】また本発明では,金属粉収集機構(12H,15,16, 19A,19B)を有しているので,端面加工装置(100,107, 108,109,110)の外部に金属粉が拡散する以前の段階で, 当該金属粉が収集される。そのため,金属粉が端面加工装置(100, 107,108,109,110)外部に拡散してしまうことが,確 実に防止される。」 (オ) 【発明を実施するための最良の形態】 「【0023】…図1,図2は本発明の第1実施形態を示す。」 「【0025】フード部12の下方には,フード部の半径外方に膨らむ ように表現された凹部12Hが形成されている。凹部12Hは,端面 加工時に発生する金属粉を収集するための機構である。 図1,図2では,簡略化のために凹部12Hがフード部12の下方 にのみ設けられて図示されているが,当該凹部12Hはフード部12 の円周方向全周にわたって設けられていることが好適である。」 「【0028】図2で示すように,端面加工装置100のフード部12 の端面12eが,トルシアボルト1で締結されている母材(たとえば 鋼材)の表面Mfに当接しているので,トルシアボルト1端部は,端 面加工装置100によって,完全に包囲されている。 そのため,バリ除去用工具10によりバリ1dが除去される際に発 生する金属粉は,端面加工装置100の外部に漏れ出す恐れがなく, 周囲に拡散してしまうことが防止される。そして,金属粉が拡散しな いため,金属粉が周辺の母材Mfに付着して「もらい錆び」の原因と なることもない。 なお,バリ1dが除去される際に生ずる金属粉は,端面加工装置1 00に設けた凹部12H(金属粉収集機構)により収集される。」 「【0046】図11は第5実施形態を示す。図11において全体に符 号105で示す端面加工装置も,バリ除去用工具10をトルシアボル ト1の破断面1cに近接し,あるいは離隔するように構成している。 図11において,端面加工装置105は,バリ除去用工具10と,ケ ーシング一体のフード部12Aと,回転軸14Sを有する電動モータ 14とを備えている。モータ回転軸14Sの先端に,バリ除去用工具 10が支持されている。」 「【0047】フード部12Aの先端側(母材表面Mf側:図11では 左側)に,ベローズ120の一端(図示の右端)が取付けられている。 ベローズ120の他端(左端)は,母材表面Mfに当接している。」 「【0048】図11で示す状態から,バリ除去用工具10がトルシア ボルト破断面1cに当接するまで押し込むと,ベローズ120が収縮 する。ベローズ120が収縮しても,ベローズ120の先端は母材表 面Mfに当接した状態を維持する。 図11の第5実施形態では,ベローズ120によって,バリ取り加 工部を覆っているため,バリを除去する際に発生する金属粉は,装置 105外へ散乱することが防止される。」 「【0053】図13は第7実施形態を示す。図1,図2の第1実施形 態では,金属粉収集機構として,フード部12の下方に形成された凹 部12Hを設けている。 しかし,たとえば垂直に延在するトルシアボルト1の破断面1cの バリを除去する際に発生する金属片の除去に際しては,図1及び図2 で示す様な凹部12Hでは,金属粉の収集には不充分である。」 イ 本件特許権の出願経過(乙2〜4) (ア) 本件特許権の出願経過は前記争いない事実等(3)のとおりであると ころ,本件拒絶理由通知書には,次の指摘がある。 特開2005−238417号公報(引用文献1)及び実願昭55− 18682号(実開昭55−103143号)のマイクロフィルム(引 用文献2)について,引用文献1のハンドグラインダーには,バリ除去 用工具,回転機構,金属粉収集機構,フード部に相当する構成が記載さ れ,引用文献2には「回転砥石が集塵カバーに対して軸方向に変位可能 な構成」が記載されているところ,グラインダーをバリの除去に用いる ことは本願出願前に周知の技術的事項であり,トルシアボルト端面のバ リ取りに適用すれば,引用文献2の軸方向に変位可能な構成によって, トルシアボルト端面のバリ取りについて,本件発明と同等の効果が得ら れることは,当業者が予測し得る程度のものであるから,本件発明は進 歩性を欠如している。 (イ) これに対し,本件出願人が提出した本件意見書においては,本件補 正書による補正後の本件発明の作用効果について,バリを除去した後に 破断面のコーナー部に新たなエッジが生じることを防止することがで きること,トルシアボルトの破断面に生じたバリを簡単かつ確実に除去 することができること,フード部に金属粉収集機構を設けたので,加工 により生じた金属粉がフード部において収集でき,外部への拡散を防止 でき,粉塵の発生を防止できることを挙げ,前記(ア)の各引用文献には 本件発明の構成要件A,E,Fの開示はなく,また,本件発明の上記作 用効果を奏することもできないから,進歩性を否定できない旨記載され ている。 本件意見書及び本件補正書には,特許請求の範囲を,補正により付加 した符号により特定される実施形態に限定する旨の記載はない。 ウ 被告製品の構成(甲15) 被告製品の構成は,別紙被告製品の構成のとおりであり,被告製品のフ ード部(12’)を構成する蛇腹状のカバー(24)の内面には,蛇腹の 谷部として,円周方向全周にわたって半径外方に膨らんだ凹部(12H’) が複数存在している。 トルシアボルトは橋梁等の部材の垂直面,水平面等に用いられるから, 被告製品は,バリを除去するトルシアボルトが延在する方向に応じて水平 方向や垂直方向など様々な向きで使用することが想定される。また,使用 者は,被告製品の使用中や使用後に被告製品の向きを変えることもある。 したがって,バリ除去により生じた切削屑は,使用の向きによっては凹部 (12H’)に収容されないこともあるし,使用中及び使用後を通じフー ド部(12’)の内部を移動することもある。 もっとも,例えば被告製品を水平方向にした場合には,通常,凹部(1 2H’)に切削屑が収容された状態になる。 (2) 原告は,被告製品の凹部(12H’)が構成要件Eの「金属粉収集機構 (12H,16,19A,19B)」に当たり,被告製品は構成要件Eを充 足すると主張するので,これを検討する。 ア 本件特許の特許請求の範囲には,構成要件Eとして単に「金属粉収集機 構」と記載されており(なお,符号「(12H,16,19A,19B)」 については後述する。),その文言上は,バリ除去用工具がトルシアボル トの破断面に生じたバリを除去する際に発生する金属粉を収集する機能 を有する構造であれば足り,その構成に格別の限定はないということがで きる。また,本件明細書の発明の詳細な説明の記載によると,本件発明は, フード部により金属粉が装置の外部に漏れ出して周囲に拡散することが なく,金属粉収集機構により装置の外部に金属粉が拡散する以前に金属粉 が収集され,金属粉が装置外部に拡散してしまうことが確実に防止される との効果を有するものであるから(【0020】,【0022】),この ような効果を奏するものであれば,「金属粉収集機構」に当たるとみるこ とが可能である。 しかし,特許請求の範囲の「金属粉収集機構」という上記文言は,発明 の構成をそれが果たすべき機能によって特定したものであり,いわゆる機 能的クレームに当たるから,上記の機能を有するものであればすべて技術 的範囲に属するとみるのは必ずしも相当でなく,本件明細書の発明の詳細 な説明に開示された具体的構成を参酌しながらその技術的範囲を解釈す べきものである。 そこで,本件明細書の発明の詳細な説明の記載をみると,金属粉収集機 構としては,@空気侵入系統及び空気排出系統を設け,空気流を発生させ て金属粉を連行するようにした構成(第7及び第8実施形態)や,永久磁 石又は電磁石を設け,磁力を発生させて金属粉を収集するようにした構成 (第9及び第10実施形態)が開示され,これらの構成が好ましいと記載 されているものの(【0014】,【0053】〜【0066】,図13 〜16),これらに加え,Aフード部の半径外方に膨らむようにフード部 の円周方向全周にわたって凹部を設けた構成も記載されている(第1実施 形態。【0025】,図1及び2)。そして,上記Aの構成については, 例えば垂直に延在するトルシアボルトの破断面1cのバリを除去する際 に発生する金属粉の収集には不充分であるとも記載されているが 【00 ( 53】),これは上記@の構成と比較した場合に効果が劣る旨を記載して いるにとどまり,Aの構成であっても金属粉を収集してその拡散を防止す るという本件発明の効果を奏しないとはいえないから,上記記載をもって 本件発明の構成要件Eにいう「金属粉収集機構」を上記@の構成に限定し たとみることは困難である。 以上によれば,構成要件Eにいう「金属粉収集機構」は,上記@及びA の各構成を含むものと解することができる。 一方,前記(1)ウで認定したとおり,被告製品の凹部(12H’)は, 円筒状のフード部の半径外方に膨らむようにフード部の円周方向全周に わたって存在するものである。また,この凹部は,フード部のうち,被告 製品においてトルシアボルトの破断面のバリを切削加工する際に切削屑 が発生し,これが飛散する箇所,すなわち,別紙「被告製品の構成」の第 3図,第4図及び第6図に示された専用刃(バリ除去用工具)(10CG ’)の第1の刃(101C’)及び第2の刃(102C’)がトルシアボ ルトの破断面(1c’)に当接し,切削加工により切削屑が生じると,こ れがアウターソケット(22)側面の開口部(22a)を通って飛散する 箇所に対応する部分に位置していると認められる。そうすると,被告製品 の凹部(12H’)は,本件明細書に記載された上記Aの構成と同様に, 金属粉を収容することによって金属粉を収集する機構であるということ ができるから,構成要件Eにいう「金属粉収集機構」に当たると解するの が相当である。 イ これに対し,被告は,(ア) 本件特許の特許請求の範囲には「金属粉収 集機構(12H,16,19A,19B)」と記載されており,その出願 経過に照らしても,これらの符号により特定される実施形態に限定される こと,(イ) 被告製品を使用する向きによっては凹部(12H’)に切削 屑がたまらないし,切削屑はカバー(24)内を移動するから,凹部には 金属粉収集の機能はないこと,(ウ) 被告製品の蛇腹状のカバー(24) は,切削屑の外部への拡散を防止して切削屑を保持する機能及び伸縮によ り母材との密着性を高める機能を有するものであること,(エ) 本件明細 書の第1実施形態の凹部(【0025】)と蛇腹の谷部である被告製品の 凹部(12H’)は大きさが異なること,(オ) 本件明細書には,本件発 明の第5実施形態(【0046】〜【0048】,図11)におけるベロ ーズ120が金属粉収集機構であることを示す記載がなく,本件出願人に おいて蛇腹状のカバーの内面の凹部が金属粉収集機構に当たるとの認識 がなかったことを理由に,被告製品の凹部が構成要件Eにいう「金属粉収 集機構」に当たらない旨主張するが,以下のとおり,いずれも採用するこ とができない。 (ア) 特許請求の範囲の括弧内に符号を記載することに関しては,特許法 施行規則24条の4及び様式29の2の〔備考〕14のロに「請求項の 記載の内容を理解するために必要があるときは,当該願書に添付した図 面において使用した符号を括弧をして用いる。 と規定されているとこ 」 ろであり,これによれば,特許請求の範囲中に括弧をして符号が用いら れた場合には,特段の事情のない限り,記載内容を理解するための補助 的機能を有するにとどまり,符号によって特許請求の範囲に記載された 内容を限定する機能は有しないものと解される。 この点に関し,被告は,本件出願人は,本件補正書に係る補正によっ てこれらの符号により特定される実施形態以外の構成を意識的に除外し たから,「金属粉収集機構(12H,16,19A,19B)」は,こ れらの実施形態の構成に限られ,蛇腹状のカバーの内面の凹部は構成要 件Eにいう「金属粉収集機構」に当たらない旨主張する。 しかし,これらの符号は本件補正書に係る補正の前から明細書及び図 面中で使用されていたものであり(乙1),前記(1)イ記載の本件特許の 出願経過に照らし,本件出願人が拒絶理由の回避のために特定の構成を 除外する意図でこれらの符号を付したとは認め難い。そうすると,本件 において上記特段の事情があると認めることはできないから, 「 符号 (1 2H,16,19A,19B)」の記載は,特許請求の範囲に記載され た内容をこれらの符号により特定される実施形態の構成に限定するもの ではないと解すべきである。 (イ) 本件発明の実施形態のうち上記Aのフード部に凹部を設けた構成 は,トルシアボルト1が垂直に延在する場合等において,上記@の空気 流又は磁力を利用する構成に比し,金属粉を回収する機能が劣るもので はあるが,構成要件Eにいう「金属粉収集機構」に当たると解し得るこ とは上記アに判示したとおりである。そうすると,構成要件Eにいう金 属粉の「収集」は,装置の向きを問わず常に金属粉を収集できることを 必須とするものではなく,また,装置の向きを変えた場合に,一旦収集 した金属粉が移動しないことを要件とするものでもないから,被告の指 摘する点は,被告製品の凹部(12H’)が金属粉収集機構に該当する と解することの妨げにならないと考えられる。 (ウ) 被告製品の蛇腹状のカバー(24)が切削屑の外部への拡散を防止 して切削屑を保持する機能及び伸縮により母材との密着性を高める機能 を有するとしても,その内面の凹部が金属粉を収集する機能を有するこ とは上記アのとおりである。したがって,これと同時に他の機能を有す ることによって金属粉収集機構に該当することが否定されることはない と解すべきである。 (エ) 被告が指摘する第1実施形態の図面(第1図)は,本件発明の実施 例の一つであるにとどまるから,これと凹部の大きさが異なるとしても 技術的範囲の属否の判断に影響を及ぼすものではないことは明らかであ る。 (オ) 被告製品における蛇腹状のカバー(24)の内面の凹部(12H’) が構成要件Eにいう「金属粉収集機構」に当たると解すべきことは上記 アで判示したとおりである。そして,本件明細書の第5実施形態は,本 件発明の一実施例であるにとどまるから,ベローズ120が金属粉収集 機構であり,本件出願人がその旨を認識していたかどうかは,上記の判 断に何ら影響するものではない。 すなわち,特許発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて 定められ,その用語の意義は明細書の記載及び図面を考慮して解釈すべ きものであるから(特許法70条1項,2項),技術的範囲を判断する に際しては,出願人の主観的認識ではなく,特許請求の範囲及び明細書 の記載によって定めるべきである。本件明細書においては,蛇腹状の部 材であるベローズ120を含む第5実施形態について,バリ除去用工具 10を破断面1cに近接し,あるいは離隔し,かつ,金属粉が装置10 5外へ散乱することを防止するために,フード部12Aの先端側にベロ ーズ120を取り付けた旨記載され(【0046】〜【0048】,図 11),ベローズ120の凹部が金属粉収集機構であることを明示する 記載は見当たらないが,フード部の円周方向全周にわたって設けた凹部 が金属粉収集機構に当たるとの記載があること(【0025】),蛇腹 状の円筒の内面には当然に円周方向全周にわたって凹部が形成されるこ とに照らせば,本件明細書の記載から,蛇腹状の部材が構成要件Eにい う「金属粉収集機構」から除外されていると読み取ることはできない。 (3) 以上によれば,被告製品は,本件発明の構成要件Eを充足するものと解 するのが相当である。そして,被告製品が本件発明のその余の構成要件を充 足することは,前記争いのない事実等(5)に記載のとおりであるから,被告 製品は,本件発明の構成要件AないしGをいずれも充足し,本件発明の技術 的範囲に属するということができる。 2 本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものか(争点2)について (1) 乙5文献に基づく進歩性の欠如(無効理由1) ア 乙5文献の記載事項 原出願の前に頒布された刊行物である乙5文献(特許第3017984 号公報)には以下の記載がある(ただし,誤記と認められる記載は括弧中 に訂正した。また,図面は別紙「乙5発明の図面」のとおりである。)。 「【0001】本発明はボルトのねじ部の切断及び切断したボルトのねじ 部の面取りをそれぞれ行うボルトのねじ部切断装置及び切断したボル トのねじ部面取り装置に関する。」 「【0042】また,前記面取り加工具7には,前記ねじ部装着具本体6 1の挿入穴部62に挿入し組み合わせた状態で前記面取り加工具本体 71を回動操作する操作部74が設けられている。」 「【0055】図16において,加工具7の先端部72に形成され(た) 面取り部73は,球面状の凹部80の内側に複数の刃81,81…を形 成したものである。刃81は,側方から見た場合,円弧状に形成される。」 「【0058】図17において,先端部72の面取り部73には,複数の 刃81,81…が正面から見て放射状に形成されている。このような構 造でボルトのねじ部に対して加工具7を回転させることにより,ボルト のねじ部の先端の縁部を削ることができるようになっている。」 「【0068】図32において,眼鏡レンズ103の挿入孔108には, 背面側からワッシャ104の挿入部111が挿入され,ボルト9のねじ 部91は,表面側から眼鏡フレーム101の挿入孔106,ワッシャ1 02の挿入孔107,眼鏡レンズ103の挿入孔108,ワッシャ10 4の挿入孔109,座金105の挿入孔110に挿入し,雌型カッタ2 の先端部23のねじ孔24に螺入し,先端がねじ孔24から先端部23 の底面に突出した状態となって(い)る。」 「【0074】図35において,眼鏡フレーム101,ワッシャ102, 眼鏡レンズ103,ワッシャ104,座金105は,ボルト9のボルト 頭92とねじ部装着具6の先端部63に挟まれて固定された状態とな っている。ねじ部装着具6の先端部63のねじ孔64から螺入したボル ト9のねじ部94は,そのまま面取り加工具7の先端部72の面取り部 73に挿入して複数の刃81に接触することになる。ねじ部装着具6と 面取り加工具7とを組み合わせた状態で前記面取り加工具7を回動操 作(する)ことにより,ねじ部94の先端95の縁部96が複数の刃8 1,81…により削られ,面取りが行われる。」 イ 本件発明と乙5発明の対比 (ア) 前記アの認定事実によれば,乙5文献には,次の発明が開示されて いるものと認められる。 a 眼鏡フレーム101及び眼鏡レンズ103の挿入孔106,108 を貫通し,ねじ部装着具6の先端部63で固定されたボルト9の切断 部となる先端95の鋭利な縁部96を除去するためのボルトのねじ 部面取り装置において, b 面取り加工具7と, c 面取り加工具7を回転させる回転機構と, d 面取り加工具7は,先端部72の球面状の凹部80の内側に複数の 刃81が放射状に形成され,ねじ部94の先端95の縁部96を削る ようにされている e ボルトのねじ部面取り装置。 これを本件発明と対比すると,乙5発明の「挿入孔」は,本件発明の 「ボルト取付孔」に相当し,本件発明と乙5発明は, @ 加工装置が,本件発明は「母材のボルト取付孔を貫通し,そしてナ ットで固定されたトルシアボルトの破断面に生じたバリを除去する ための端面加工装置」であるのに対し,乙5発明は「眼鏡フレーム及 び眼鏡レンズの挿入孔を貫通し,そしてねじ部装着具の先端部で固定 されたボルトの切断部となる先端の鋭利な縁部を面取りするための ねじ部面取り装置」である点, A 本件発明は「円筒状のフード部」と「金属粉収集機構」を備えてい るのに対し,乙5発明はそのような構成を備えていない点, B 加工工具について,本件発明は,「破断面のコーナー部を加工する 部分は,コーナー部以外の破断面を加工する部分よりも母材に近い側 に位置している」「バリ除去用工具」であるのに対し,乙5発明は「先 端部の球面状の凹部の内側に複数の刃が放射状に形成され,ねじ部の 先端の縁部を削るようにされている」「面取り加工具」である点 で相違し,本件発明のその余の構成を備えている点では一致しているも のと認められる。 (イ) 被告は,相違点@及びBに関し,バリ除去と面取りの技術的意義は 同じであるから,乙5発明は,ボルトの破断面の鋭利な縁部を除去する ためのボルトのねじ部面取り装置の構成と,面取り加工具のボルトの先 端の縁部を加工する部分が縁部以外の切断面を加工する部分よりも母 材に近い側に位置している構成を有していると主張する。 しかし,本件発明は,トルシアボルトの破断面に形成されたバリが, 作業者にとって危険であり,錆の原因にもなることから,破断面に生じ たバリを確実に除去するという課題(本件明細書の段落【0008】, 【0012】)に対し,破断面のコーナー部を加工する部分とそれ以外 の部分を加工する部分を備え,破断面全体を加工するバリ除去を行う発 明であるのに対し,乙5発明は,ボルトのねじ部の長さ調整のために切 断したねじ部先端部の鋭利な縁部の面取りを簡単な操作で高精度に行 うという課題に対し,切断したねじ部先端部の鋭利な状態となる縁部 (コーナー部)の面取りを均一かつ適切な面取り量で行うことを目的と しており(乙5文献の段落【0003】 【0006】 【0088】 , 〜 , ) 縁部以外の部分の加工を行うことが開示されていると認めることはで きない。したがって,乙5文献には,「ボルトの破断面に生じたバリを 除去するための端面加工装置」及び「コーナー部以外の破断面を加工す る部分」の構成の開示はなく,これらの点は相違点に当たると解すべき である。 なお,本件明細書の図29の砥石43と乙5文献の図10の面取り部 73に共通する構成があると認められるとしても,上記説示に照らせ ば,乙5文献に破断面のコーナー部以外の部分を加工する技術的思想が 開示されているとみることはできない。 ウ 相違点@及びBについて 乙7文献(実願昭62−187003号(実開平1−92311号)の マイクロフィルム。平成元年6月16日公開)には,「プレス成形品の端 面周縁に形成されているバリを取るために,略すり鉢形状のチップホルダ に複数のチップ19を放射状に取り付けること,又はプレス成形品の端面 周縁に形成されているバリを取るためのグラインダ」が記載されている。 しかし,コーナー部以外の部分を加工する加工装置が開示されているとは 認められず,また,このほかに破断面のコーナー部以外の部分を加工する 加工装置に関する証拠は提出されていない。したがって,当業者が,相違 点@及びBに係る本件発明の構成を容易に想到することができたとは認 められない。 エ 相違点Aについて (ア) 乙6文献 乙6文献は,平成13年2月13日公開の公開特許公報(特開200 1−38622号公報)であり,切断や切削等に伴って生じる多量の粉 塵が,作業者の視界を遮って作業を困難にしたり,作業者に健康被害を もたらさないように,安価に防塵機構を一体化するという課題(【00 02】,【0004】)を解決するための,コンプレッサなどを備えた 空気吸引式の除塵装置が併用されている圧縮空気式工具について,@円 筒状のカバー25は,扁平円筒形状の囲繞部25bを備え,Aカバー2 5に一体に形成された集塵管26と,集塵管26の側方から内部に突出 するように設けられた空気噴射管28と,集塵フィルタ3とを備えた集 塵機構を有する構成が記載されている(【0014】,【0015】, 【0018】,【0019】,図1)。そして,カバー25bは本件発 明の円筒状のフード部に,集塵機構は本件発明の金属粉収集機構に相当 する構成を有する。 (イ) 乙11文献及び乙12文献 乙11文献及び乙12文献は,平成12年3月及び平成14年9月現 在の「日立電動工具」カタログであり,ロータリハンマドリルの付属品 として,円筒状の蛇腹状のカバーの構成を有する集じんカップが記載さ れている。 そして,前記1のとおり,蛇腹状のカバーの内面の凹部は本件発明の 金属粉収集機構に当たるから,上記集じんカップは金属粉収集機構を有 する円筒状のフード部に相当する構成であるということができる。 (ウ) 容易想到性 被告は,乙5発明と乙6文献,乙11文献及び乙12文献は,技術分 野を同じくし,また,切削加工を行えば粉塵が生じるのは自明の理であ るから課題も共通しており,乙5発明と乙6文献又は乙11文献若しく は乙12文献を組み合わせることにより相違点Aに相当する本件発明 の構成を容易に想到することができると主張する。 そこで検討すると,乙5発明は,面取りするボルトのねじ部をねじ部 装着具6のねじ孔64に螺合して挿入穴部62内に突出させ,挿入穴部 に挿入した面取り加工具7の先端部72に形成された面取り部73で 面取りを行うものであるから(【0039】〜【0041】,図10, 図16) 面取りにより生じた金属粉はねじ部装着具6の外には飛散し , ない。そうすると,乙5発明においては切削等により生じる金属粉が周 囲に飛散することを防止するという課題が見いだせないから,乙6文献 に記載された円筒状のカバーや乙11文献及び乙12文献に記載され た集じんカップを組み合わせる動機付けが存在するとみることはでき ない。 (エ) したがって,乙5発明と,乙6文献又は乙11文献若しくは乙12 文献に基づいて,当業者が相違点Aに相当する本件発明の構成を容易に 想到することができたとは認められない。 オ 以上のとおりであるから,特許法29条2項違反の無効理由をいう被告 の主張を採用することはできない。 (2) 無効理由2(サポート要件違反) 被告は,蛇腹の谷部が金属粉収集機構に当たるとすれば,本件明細書には ベローズ120の内面の凹部が金属粉収集機構であるとの記載がないため, 蛇腹の谷部が金属粉収集機構であるとは理解し得ないから,本件発明が特許 法36条6項1号所定のいわゆるサポート要件を欠くと主張する。 しかし,本件発明の金属粉収集機構が円筒状のフード部を構成する蛇腹状 のカバーの凹部を含むという解釈は,本件明細書の記載を参酌し,これとも 整合するものであることは前記1で論じたとおりである。 したがって,本件発明が本件明細書の発明の詳細な説明に記載された範囲 を超えたものであるとはいえないから,被告の上記主張も採用することがで きない。 3 差止めの可否(争点3)について (1) 前記1のとおり,被告製品は本件発明の技術的範囲に属するものである から,被告製品を業として製造及び貸渡しする被告の行為は,原告の有する 本件特許権の侵害に当たる。 したがって,原告は,被告に対し,特許法100条1項及び2項に基づき, 被告製品の製造,貸渡し,製造及び貸渡しの申出の差止め並びに被告製品の 廃棄を求めることができる。 (2) これに対し,被告は,被告製品は使用の際に向ける角度により本件特許 権を侵害しない態様で使用される可能性があるから差止めを認めるのは不 当であると主張する。 そこで判断するに,本件発明は「端面加工装置」に係る物の発明であり, これが本件発明の技術的範囲に属すると認められる以上,その用法によって は本件発明の実施に当たらないことがあり得るとしても,その製造及び貸渡 しが本件特許権の侵害となることの妨げにはならないこと,しかも,前記1 (1)ウ認定のとおりの,手持ち式工具である被告製品の形状からすれば,常 に凹部(12H’)に切削屑が収容されない向きを維持したまま工具として 使用するのは実用性を欠くと解されることからすると,本件において特許法 100条1項及び2項に基づく差止め及び廃棄を認めるのが不当であると みるべき事情があるということはできない。 したがって,被告の上記主張も失当というべきである。 4 結論 以上によれば,原告の各請求はいずれも理由があるから,これを認容するこ ととし,主文のとおり判決する。ただし,主文第2項に係る仮執行宣言の申立 てについては,相当でないので,これを付さないこととする。 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官 長 谷 川 浩 二 裁判官 清 野 正 彦 裁判官 橋 彩 (別紙) 物 件 目 録 商品名:バリクリーン 形式番号:BBCK - 33 - |