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事件 平成 23年 (ワ) 15499号 特許権侵害差止等請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 大阪地方裁判所 
判決言渡日 2013/10/24
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
判例全文
判例全文
平成25年10月24日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官

平成23年 ワ 第15499号 特許権侵害差止等請求事件

口頭弁論終結日 平成25年7月17日

判 決

当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり

主 文

1 被告は,別紙被告製品目録1から13までの各枝番1記載の各蓋体及び各

枝番2記載の各容器を製造し,販売し又は販売の申出をしてはならない。

2 被告は,前項記載の各製品及び別紙被告製品目録1から13までの各枝番

1記載の各蓋体の製造に供する金型を廃棄せよ。

3 被告は,原告に対し,3257万2201円及び内1812万6874円

に対する平成24年1月6日から,内1444万5327円に対する平成2

5年4月20日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払

え。

4 原告のその余の請求を棄却する。

5 訴訟費用は,これを3分し,その1を原告の負担とし,その余は被告の負

担とする。

6 この判決は,1,3及び5項に限り,仮に執行することができる。

事 実 及 び 理 由

第1 当事者の求めた裁判

1 原告

(1)主文1と同旨

(2)被告は,前項記載の各製品及びその半製品(同目録記載の蓋体又は容器の

構造を具備しているが,各製品として完成するに至らないもの)並びにその
製造に供する金型を廃棄せよ。

(3)被告は,原告に対し,1億6500万円及びこれに対する平成24年1月

6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(4)訴訟費用は被告の負担とする。

(5)仮執行宣言

2 被告

(1)原告の請求をいずれも棄却する。

(2)訴訟費用は原告の負担とする。

第2 事案の概要

1 前提事実(証拠等の掲記がない事実は当事者間に争いがない。)

(1)当事者

原告は,「プラスチックの成形・加工及び販売」等を目的とする会社であ

る。

被告は,「合成樹脂の製品加工」等を目的とする会社である。

(2)原告の有する特許権

原告は,以下の特許(以下「本件特許」といい,本件特許出願の願書に添

付した明細書及び図面を「本件明細書等」という。)に係る特許権(以下「本

件特許権」という。)を有する。なお,本件特許出願は,平成19年10月

11日を国際出願日とする特願2008−519754に係る出願(以下「原

出願」といい,原出願に係る発明を「原特許発明」という。)の分割出願

ある。

特許番号 第4473333号

発明の名称 蓋体及びこの蓋体を備える容器

出願日 平成20年12月19日

優先日 平成18年10月13日(以下「本件優先日」と

いう。)
登録日 平成22年3月12日

特許請求の範囲

【請求項1】

食材を収容するとともに該食材を加熱可能な容器の胴体部の開口部を閉塞す

る蓋体であって,

前記蓋体の外周輪郭形状を定めるとともに,前記容器の前記開口部を形成す

る前記容器の縁部と嵌合する周縁領域と,

該周縁領域により囲まれる領域内部において,隆起する一の領域を備え,

前記一の領域は,前記容器内の流体を排出可能な穴部と,該穴部を閉塞可能

な突起部を備えるフラップ部を備え,

該フラップ部は,前記一の領域に一体的に接続する基端部を備えるとともに,

該基端部を軸に回動し,

前記フラップ部の先端部は,前記周縁領域の外縁に到達しておらず,

前記フラップ部の前記基端部が,前記フラップ部の前記先端部よりも前記蓋

体の中心位置から近い位置に配され,

前記一の領域が,前記フラップ部の少なくとも一部を収容する凹領域を備え,

前記凹領域は前記一の領域上面の周縁部に接続していることを特徴とする蓋

体。

(以下,上記請求項に係る発明を「本件特許発明1」という。)

【請求項12】

食材を収容する一端有底筒状の容器胴体部と,該容器胴体部の開口部を閉塞

する蓋体からなるとともに前記食材を加熱可能な容器であって,

前記蓋体が,該蓋体の外周輪郭形状を定めるとともに,前記容器の前記開口

部を形成する前記容器の縁部と嵌合する周縁領域と,

該周縁領域により囲まれる領域内部において,隆起する一の領域を備え,

前記一の領域は,前記容器内の流体を排出可能な穴部と,該穴部を閉塞可能
な突起部を備えるフラップ部を備え,

該フラップ部は,前記一の領域に一体的に接続する基端部を備えるとともに,

該基端部を軸に回動し,

前記フラップ部の先端部は,前記周縁領域の外縁に到達しておらず,

前記フラップ部の前記基端部が,前記フラップ部の前記先端部よりも前記蓋

体の中心位置から近い位置に配され,

前記一の領域が,前記フラップ部の少なくとも一部を収容する凹領域を備え,

前記凹領域は前記一の領域上面の周縁部に接続していることを特徴とする容

器。

(以下,上記請求項に係る発明を「本件特許発明2」といい,本件特許発明

1と併せて「本件各特許発明」という。)

(3)構成要件の分説

本件各特許発明は,以下の構成要件に分説することができる。

ア 本件特許発明

1−A 食材を収容するとともに該食材を加熱可能な容器の胴体部の開口

部を閉塞する蓋体であって,

1−B 前記蓋体の外周輪郭形状を定めるとともに,前記容器の前記開口

部を形成する前記容器の縁部と嵌合する周縁領域と,

1−C 該周縁領域により囲まれる領域内部において,隆起する一の領域

を備え,

1−D 前記一の領域は,前記容器内の流体を排出可能な穴部と,該穴部

を閉塞可能な突起部を備えるフラップ部を備え,

1−E 該フラップ部は,前記一の領域に一体的に接続する基端部を備え

るとともに,該基端部を軸に回動し,

1−F 前記フラップ部の先端部は,前記周縁領域の外縁に到達しておら

ず,
1−G 前記フラップ部の前記基端部が,前記フラップ部の前記先端部よ

りも前記蓋体の中心位置から近い位置に配され,

1−H 前記一の領域が,前記フラップ部の少なくとも一部を収容する凹

領域を備え,

1−I 前記凹領域は前記一の領域上面の周縁部に接続していることを特

徴とする

1−J 蓋体。

イ 本件特許発明

2−A 食材を収容する一端有底筒状の容器胴体部と,該容器胴体部の開

口部を閉塞する蓋体からなるとともに前記食材を加熱可能な容器で

あって,

2−B 前記蓋体が,該蓋体の外周輪郭形状を定めるとともに,前記容器

の前記開口部を形成する前記容器の縁部と嵌合する周縁領域と,

2−C 該周縁領域により囲まれる領域内部において,隆起する一の領域

を備え,

2−D 前記一の領域は,前記容器内の流体を排出可能な穴部と,該穴部

を閉塞可能な突起部を備えるフラップ部を備え,

2−E 該フラップ部は,前記一の領域に一体的に接続する基端部を備え

るとともに,該基端部を軸に回動し,

2−F 前記フラップ部の先端部は,前記周縁領域の外縁に到達しておら

ず,

2−G 前記フラップ部の前記基端部が,前記フラップ部の前記先端部よ

りも前記蓋体の中心位置から近い位置に配され,

2−H 前記一の領域が,前記フラップ部の少なくとも一部を収容する凹

領域を備え,

2−I 前記凹領域は前記一の領域上面の周縁部に接続していることを特
徴とする

2−J 容器。

(4)被告の行為

被告は,平成21年6月から,別紙被告製品目録1から6までの各枝番1

記載の蓋体(被告蓋体1〜被告蓋体6)をそれぞれ具備する,同目録1から

6までの各枝番2記載の容器(被告容器1〜被告容器6。なお,同じ数字の

被告蓋体と組み合わされる。)を製造し,販売している。

また,平成22年4月から,同目録7から13までの各枝番1記載の蓋体

(被告蓋体7〜被告蓋体13)をそれぞれ具備する,同目録7から13まで

の各枝番2記載の容器(被告容器7〜被告容器13。なお,同じ数字の被告

蓋体と組み合わされる。)を製造し,販売している(以下,これらの「被告

蓋体」及び「被告容器」を併せて「被告各製品」という。)。

2 原告の請求

原告は,被告に対し,本件特許権に基づき,@ 被告各製品の製造,販売及び

販売の申出の差止め, 被告各製品及びその半製品並びにそれらの製造に供す
A

る金型の廃棄を求めるとともに,不法行為に基づき, 1億6500万円の損
B

害賠償及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の

年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている。

3 争点

(1) 被告各製品は,本件各特許発明技術的範囲に属するか

ア 被告蓋体は,本件特許発明1の構成要件を文言上充足するか(争点1)

イ 被告容器は,本件特許発明2の構成要件を文言上充足するか(争点2)

(2)本件特許は,特許無効審判により無効にされるべきものであるか(特許法

104条の3第1項による権利行使の制限)

ア 本件特許出願に分割要件違反があるか等 (争点3)

イ 本件特許出願に係る補正について,特許法17条の2第3項の違反(新
規事項の追加)があるか (争点4)

ウ 本件特許出願について,特許法36条6項1号(サポート要件)の違反

があるか (争点5)

エ 本件各特許発明は,本件優先日前に頒布された米国特許第449467

9号明細書(以下「乙10明細書」という。)に記載された発明(以下「乙

10発明」という。)と同一又は当業者が乙10発明に基づいて容易に発

明をすることができたものであるか (争点6)

オ 本件各特許発明は,本件優先日前に頒布された特開2004−1137

76号公報(以下「乙11公報」という。)に記載された発明(以下「乙

11発明」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができた

ものであるか (争点7)

カ 本件各特許発明は,本件優先日前に呉羽化学工業株式会社(平成17年

に「株式会社クレハ」に社名変更)が販売した製品に係る発明(以下「乙

30発明」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができた

ものであるか (争点8)

キ 本件各特許発明は,本件優先日前に頒布された米国特許出願公開第20

05/0061812号明細書(以下「乙21明細書」という。)に記載

された発明(以下「乙21発明」という。)に基づいて当業者が容易に発

明をすることができたものであるか (争点9)

(3)損害額 (争点10)

第3 争点に関する当事者の主張

1 争点1(被告蓋体は,本件特許発明1の構成要件を文言上充足するか)につ

いて

【原告の主張】

以下のとおり,被告蓋体は,本件特許発明1の構成要件を文言上充足する。

(1) 被告蓋体の構成
被告蓋体は寸法が異なるものの,以下の各構成を有する。

ア 被告蓋体1から3までの構成

a 食材を収容するとともに該食材を加熱可能な容器の胴体部の開口部

を閉塞する平面視略円形の蓋体であって,

b 前記蓋体の外周輪郭形状を定めるとともに,前記容器の前記開口部を

形成する前記容器の縁部と嵌合する周縁領域と,

c 該周縁領域に囲まれる領域の内部の周縁領域と隣接した位置に,隆起

する平面視略円形の一の領域を備え,

d 前記一の領域は,前記容器内の流体を排出可能な穴部と,該穴部を閉

塞可能な突起部を備えるフラップ部を備え,

e 該フラップ部は,前記一の領域に一体的に接続する基端部を備えると

ともに,該基端部を軸に回動し,

f 前記フラップ部の先端部は,前記周縁領域の外縁に到達しておらず,

g 前記フラップ部の前記基端部は,前記フラップ部の前記先端部よりも

前記蓋体の中心位置から近い位置に配され,

h 前記一の領域が,前記フラップ部を収容する凹領域を備え,

i 前記凹領域は前記一の領域上面の周縁部に接続している

j 蓋体

イ 被告蓋体4から6までの構成

a 食材を収容するとともに該食材を加熱可能な容器の胴体部の開口部

を閉塞する平面視略長方形の蓋体であって,

b 前記蓋体の外周輪郭形状を定めるとともに,前記容器の前記開口部を

形成する前記容器の縁部と嵌合する周縁領域と,

c 該周縁領域に囲まれる領域の内部の周縁領域と隣接した位置に,隆起

する平面視略長方形の一の領域を備え,

d 前記一の領域は,前記容器内の流体を排出可能な穴部と,該穴部を閉
塞可能な突起部を備えるフラップ部を備え,

e 該フラップ部は,前記一の領域に一体的に接続する基端部を備えると

ともに,該基端部を軸に回動し,

f 前記フラップ部の先端部は,前記周縁領域の外縁に到達しておらず,

g 前記フラップ部の前記基端部は,前記フラップ部の前記先端部よりも

前記蓋体の中心位置から近い位置に配され,

h 前記一の領域が,前記フラップ部を収容する凹領域を備え,

i 前記凹領域は前記一の領域上面の周縁部に接続している

j 蓋体

ウ 被告蓋体7から9までの構成

a 食材を収容するとともに該食材を加熱可能な容器の胴体部の開口部

を閉塞する平面視略円形の蓋体であって,

b 前記蓋体の外周輪郭形状を定めるとともに,前記容器の前記開口部を

形成する前記容器の縁部と嵌合する周縁領域と,

c 該周縁領域に囲まれる領域の内部の周縁領域から離間した位置に,隆

起する平面視略円形の一の領域を備え,

d 前記一の領域は,前記容器内の流体を排出可能な穴部と,該穴部を閉

塞可能な突起部を備えるフラップ部を備え,

e 該フラップ部は,前記一の領域に一体的に接続する基端部を備えると

ともに,該基端部を軸に回動し,

f 前記フラップ部の先端部は,前記周縁領域の外縁に到達しておらず,

g 前記フラップ部の前記基端部は,前記フラップ部の前記先端部よりも

前記蓋体の中心位置から近い位置に配され,

h 前記一の領域が,前記フラップ部を収容する凹領域を備え,

i 前記凹領域は前記一の領域上面の周縁部に接続している

j 蓋体
エ 被告蓋体10から13までの構成

a 食材を収容するとともに該食材を加熱可能な容器の胴体部の開口部

を閉塞する平面視略長方形の蓋体であって,

b 前記蓋体の外周輪郭形状を定めるとともに,前記容器の前記開口部を

形成する前記容器の縁部と嵌合する周縁領域と,

c 該周縁領域に囲まれる領域の内部の周縁領域から離間した位置に,隆

起する平面視略長方形の一の領域を備え,

d 前記一の領域は,前記容器内の流体を排出可能な穴部と,該穴部を閉

塞可能な突起部を備えるフラップ部を備え,

e 該フラップ部は,前記一の領域に一体的に接続する基端部を備えると

ともに,該基端部を軸に回動し,

f 前記フラップ部の先端部は,前記周縁領域の外縁に到達しておらず,

g 前記フラップ部の前記基端部は,前記フラップ部の前記先端部よりも

前記蓋体の中心位置から近い位置に配され,

h 前記一の領域が,前記フラップ部を収容する凹領域を備え,

i 前記凹領域は前記一の領域上面の周縁部に接続している

j 蓋体

(2) 構成要件充足性

被告各製品はいずれも,次のとおり,本件特許発明1の構成要件を全て充

足する。

構成要件1−A

食材を収容するとともに該食材を加熱可能な容器の胴体部の開口部を

閉塞する蓋体であるから,構成要件1−Aを充足する。

構成要件1−B

容器胴体部上方の開口部を形成する縁部と嵌合させるための周縁領域

を備えるから,構成要件1−Bを充足する。
構成要件1−C

周縁領域に囲まれる領域内部に隆起する一の領域を備えるから,構成要

件1−Cを充足する。

なお,被告蓋体1から6までは,隆起する一の領域が周縁領域と隣接し

た位置に設けられているのに対し,被告蓋体7から13までは,一の領域

が周縁領域と離間した位置に設けられている。構成要件1−Cは,一の領

域が周縁領域に囲まれる内部に設けられることについて特定したにすぎ

ないから,上記相違点(隣接の有無)は構成要件充足性に影響しない。

構成要件1−D

容器内の流体を排出可能な穴部と,当該穴部を閉塞できる突起部を備え

たフラップ部を備えるから,構成要件1−Dを充足する。

構成要件1−E

フラップ部は,一の領域の縁部に一体的に接続し,基端部を軸に回動す

るから,構成要件1−Eを充足する。

構成要件1−F

フラップ部の先端部は,周縁領域の外縁に到達しないから,構成要件

1−Fを充足する。

構成要件1−G

フラップ部の基端部は,フラップ部の先端部よりも蓋体の中心位置に近

いから,構成要件1−Gを充足する。

構成要件1−H

一の領域はフラップ部を収容する凹領域を備えるから,構成要件1−H

を充足する。

構成要件1−I

一の領域における凹領域は一の領域上面の周縁部に接続しているから,

構成要件1−Iを充足する。
構成要件1−J

容器を閉塞する蓋体であるから,構成要件1−Jを充足する。

(3)後記【被告の主張】に対する反論

ア 「一の領域」の意義について

後記【被告の主張】 1 のとおり,被告は,本件特許発明1の「一の領

域」について,周縁領域よりも低く隆起しているフラップ部周囲領域をい

う旨主張する。

しかし,本件特許発明1の技術的範囲実施例等の内容に限定する理由

はないし,本件特許発明1の構成要件の文言を原出願の構成要件の文言と

同義のものと解釈する必然性もない。

本件特許の【請求項2】は,「前記周縁領域が隆起しており,この周縁

領域の隆起は,前記一の領域の隆起よりも高いことを特徴とする請求項1

記載の蓋体」というものである。このことからしても,本件特許発明1の

「一の領域」の高さについては何ら限定がない。

構成要件1−Eの充足性について

後記【被告の主張】 2 イのとおり,被告は,構成要件1−Eの「一の

領域に接続される(フラップ部の)基端部」について「一の領域の縁部に

一体に接続される基端部」に限定されるべきであると主張する。

しかし,本件特許発明1の【請求項】には基端部の接続位置を特定する

記載はなく,本件明細書等にもそのような限定は一切ない。

また,本件特許発明1のように,フラップ部が外向きに配置された構成

では,フラップ部の基端部が「一の領域」の縁部に接続する形態は考えに

くい。「一の領域」をドーナッツ状に形成した構造があり得るものの,本

特許発明1がそのような特殊な構成のみを対象としたものでないこと

は明らかである。

原告は,原出願に係る審査手続において,フラップ部の基端部を縁部に
接続することの優位性を述べたものの,それ以外の構成を除外した事実は

ない。

構成要件1−K及び1−Lの付加の必要性及びその充足性について

後記【被告の主張】 2 ウのとおり,被告は,本件特許発明1の技術的

範囲について,「フラップ部周囲領域の角隅部の1つが周縁領域の角隅部

に隣接し(構成要件1−K),かつ,その角隅部に開口部及びフラップ部

が設けられる(構成要件1−L)」という構成要件を付加すべきであると

主張する。

しかし,特許請求の範囲に記載のない構成要件を付加する理由はない。

本件特許の【請求項3】は,「前記一の領域は,前記周縁領域に隣接し

て配されることを特徴とする請求項1又は2記載の蓋体」である。このこ

とからしても,本件特許発明1における「一の領域」の位置については何

の限定もない。

【被告の主張】

以下のとおり,被告蓋体は,本件特許発明1の構成要件を文言上充足しない。

(1)本件特許発明1の「一の領域」の意義

以下の理由から,本件特許発明1の「一の領域」は,周縁領域よりも低く

隆起しているフラップ部周囲領域をいうものである。

ア 本件明細書等の記載

本件明細書等には,「一の領域」について,周縁領域に囲まれる領域で

あって,その周縁領域よりも低く隆起するもの以外が含まれることを示唆

する記載は一切ない。

イ 原特許発明における意義

特許発明において,「一の領域」の構成は,周縁部に囲まれる領域内

部で,周縁部から離間して隆起し,空気抜き穴と,空気抜き穴を閉塞可能

な突起部を備えるフラップ部と,フラップ部を収容する凹領域を備える,
周縁部の隆起よりも低い領域をいうものである。

本件特許発明1の「一の領域」も同義に解するべきであり,異なる意義

に解するのであれば,本件特許出願は分割要件に違反する。

(2)被告蓋体の構成

被告蓋体では,フラップ部周囲領域の隆起が周縁領域よりも高い。

(3) 構成要件充足性

構成要件1−C,1−D,1−H及び1−Iの非充足

前記 1 , 2 のとおり,被告蓋体は,フラップ部周囲領域の隆起が周縁

領域よりも高いので,「一の領域」の構成を有しているとはいえない。

したがって,構成要件1−C,1−D,1−H及び1−Iを充足しない。

構成要件1−Eの非充足

(ア)「一の領域」の構成を有しないこと

上記アのとおり,被告蓋体は,「一の領域」の構成を有しないから,

構成要件1−Eを充足しない。

(イ)フラップ部基端部が「一の領域の縁部」に接続されていないこと(構

成要件1−Eの意義)

原告は,原出願に係る審査手続において,平成20年12月12日付

け意見書を提出した。同意見書では,フラップ部の基端部を「一の領域」

の「縁部」に接続させた場合の効果を主張するだけでなく,それ以外の

部分に接続しようとした場合には,成形過程において溶融樹脂をスムー

ズに流入することができず,電子レンジで加熱するとフラップ部基端部

が破損する旨主張していた。

この主張によれば,フラップ部の基端部が一の領域の縁部以外の部分

に接続される態様のものは意識的に除外されていたものである。

そうすると,構成要件1−Eのうち,「前記一の領域に一体的に接続

する基端部」は,「前記一の領域の縁部に一体的に接続する基端部」を
いうものである。

被告蓋体は,フラップ部基端部が一の領域の「縁部」に接続していな

いから,構成要件1−Eを充足しない。

(4) 構成要件1−K及び1−Lの付加の必要性とその非充足

ア 原特許発明の構成

本件特許出願は,原出願に係る明細書等における以下の記載を根拠とし

分割出願されたものであるところ,フラップ部及び開口部が周縁部から

離れた構成については,全く記載がない。

「【0047】

図10に示す蓋体 2 のフラップ部 22 は,蓋体本体部 21 の周縁領

域 211 に隣接して配される。・・・

図10に示すフラップ部周囲領域 212 は平面略矩形状であり,フ

ラップ部周囲領域 212 の角隅部のうち つは,平面視略矩形状の周縁

領域 211 の角隅部に隣接し,このフラップ部周囲領域 212 の角隅部

を挟む2つのフラップ部周囲領域 212 の境界が,周縁領域 211 の内

縁に接している。

・・・

このように蓋体(2)の角隅部に開口部(121)を形成することにより,

加熱調理により容器(1)内に収容された食材から生じた水分を,開口部(1

21)を通じて容器(1)外に容易に排出可能となる。」

【図10】
構成要件1−K及び1−Lの付加の必要性

上記アによれば,本件特許発明1は,「フラップ部周囲領域の角隅部の

1つが周縁領域の角隅部に隣接し(構成要件1−K),かつ,その角隅部

に開口部及びフラップ部が設けられる(構成要件1−L)」という構成を

必須の要件とするものであり,これらを付加して,その技術的範囲を解釈

しなければならない。

そうでなければ,本件特許発明1は原出願の当初明細書等に記載された

事項の範囲内とはいえず,本件特許出願は分割要件に違反するものとなる。

構成要件1−K及び1−Lの非充足

被告蓋体は,構成要件1−K及び1−Lを充足しない。

2 争点2(被告容器は,本件特許発明2の構成要件を文言上充足するか)につ

いて

【原告の主張】
以下のとおり,被告容器は,本件特許発明2の構成要件を文言上充足する。

(1)被告容器の構成

被告容器は寸法が異なるものの,以下の各構成を有する。

ア 被告容器1から3までの構成

a 食材を収容する一端有底筒状の容器胴体部と,該容器胴体部の開口部

を閉塞する平面視略円形の蓋体からなるとともに前記食材を加熱可能

な容器であって,

b 前記蓋体が,該蓋体の外周輪郭形状を定めるとともに,前記容器の前

記開口部を形成する前記容器の縁部と嵌合する周縁領域と,

c 該周縁領域に囲まれる領域の内部の周縁領域と隣接した位置に,隆起

する平面視略円形の一の領域を備え,

d 前記一の領域は,前記容器内の流体を排出可能な穴部と,該穴部を閉

塞可能な突起部を備えるフラップ部を備え,

e 該フラップ部は,前記一の領域に一体的に接続する基端部を備えると

ともに,該基端部を軸に回動し,

f 前記フラップ部の先端部は,前記周縁領域の外縁に到達しておらず,

g 前記フラップ部の前記基端部は,前記フラップ部の前記先端部よりも

前記蓋体の中心位置から近い位置に配され,

h 前記一の領域が,前記フラップ部を収容する凹領域を備え,

i 前記凹領域は前記一の領域上面の周縁部に接続している

j 容器

イ 被告容器4から6までの構成

a 食材を収容する一端有底筒状の容器胴体部と,該容器胴体部の開口部

を閉塞する平面視略長方形の蓋体からなるとともに前記食材を加熱可

能な容器であって,

b 前記蓋体が,該蓋体の外周輪郭形状を定めるとともに,前記容器の前
記開口部を形成する前記容器の縁部と嵌合する周縁領域と,

c 該周縁領域に囲まれる領域の内部の周縁領域と隣接した位置に,隆起

する平面視略長方形の一の領域を備え,

d 前記一の領域は,前記容器内の流体を排出可能な穴部と,該穴部を閉

塞可能な突起部を備えるフラップ部を備え,

e 該フラップ部は,前記一の領域に一体的に接続する基端部を備えると

ともに,該基端部を軸に回動し,

f 前記フラップ部の先端部は,前記周縁領域の外縁に到達しておらず,

g 前記フラップ部の前記基端部は,前記フラップ部の前記先端部よりも

前記蓋体の中心位置から近い位置に配され,

h 前記一の領域が,前記フラップ部を収容する凹領域を備え,

i 前記凹領域は前記一の領域上面の周縁部に接続している

j 容器

ウ 被告容器7から9までの構成

a 食材を収容する一端有底筒状の容器胴体部と,該容器胴体部の開口部

を閉塞する平面視略円形の蓋体からなるとともに前記食材を加熱可能

な容器であって,

b 前記蓋体が,該蓋体の外周輪郭形状を定めるとともに,前記容器の前

記開口部を形成する前記容器の縁部と嵌合する周縁領域と,

c 該周縁領域に囲まれる領域の内部の周縁領域から離間した位置に,隆

起する平面視略円形の一の領域を備え,

d 前記一の領域は,前記容器内の流体を排出可能な穴部と,該穴部を閉

塞可能な突起部を備えるフラップ部を備え,

e 該フラップ部は,前記一の領域に一体的に接続する基端部を備えると

ともに,該基端部を軸に回動し,

f 前記フラップ部の先端部は,前記周縁領域の外縁に到達しておらず,
g 前記フラップ部の前記基端部は,前記フラップ部の前記先端部よりも

前記蓋体の中心位置から近い位置に配され,

h 前記一の領域が,前記フラップ部を収容する凹領域を備え,

i 前記凹領域は前記一の領域上面の周縁部に接続している

j 容器

エ 被告容器10から13までの構成

a 食材を収容する一端有底筒状の容器胴体部と,該容器胴体部の開口部

を閉塞する平面視略長方形の蓋体からなるとともに前記食材を加熱可

能な容器であって,

b 前記蓋体が,該蓋体の外周輪郭形状を定めるとともに,前記容器の前

記開口部を形成する前記容器の縁部と嵌合する周縁領域と,

c 該周縁領域に囲まれる領域の内部の周縁領域から離間した位置に,隆

起する平面視略長方形の一の領域を備え,

d 前記一の領域は,前記容器内の流体を排出可能な穴部と,該穴部を閉

塞可能な突起部を備えるフラップ部を備え,

e 該フラップ部は,前記一の領域に一体的に接続する基端部を備えると

ともに,該基端部を軸に回動し,

f 前記フラップ部の先端部は,前記周縁領域の外縁に到達しておらず,

g 前記フラップ部の前記基端部は,前記フラップ部の前記先端部よりも

前記蓋体の中心位置から近い位置に配され,

h 前記一の領域が,前記フラップ部を収容する凹領域を備え,

i 前記凹領域は前記一の領域上面の周縁部に接続している

j 容器

(2) 構成要件充足性

被告各容器はいずれも,次のとおり,本件特許発明2の構成要件を全て充

足する。
構成要件2−A

食材を収容する一端有底筒状の容器胴体部と,該容器胴体部の開口部を

閉塞する蓋体からなる食材を加熱可能な容器であるから,構成要件2−A

を充足する。

構成要件2−B

容器胴体部上方の開口部を形成する縁部と嵌合させるための周縁領域

を備えるから,構成要件2−Bを充足する。

構成要件2−C

蓋体の周縁領域に囲まれる領域内部に,隆起する一の領域を備えるから,

構成要件2−Cを充足する。

なお,被告容器1から6までは,隆起する一の領域が周縁領域と隣接し

た位置に設けられているのに対し,被告容器7から13までは,一の領域

が周縁領域と離間した位置に設けられている。構成要件2−Cは,一の領

域が周縁領域に囲まれる内部に設けられていることについて特定したに

すぎないから,上記相違点(隣接の有無)は構成要件充足性に影響しない。

構成要件2−D

一の領域には,容器内の流体を排出可能な穴部と,当該穴部を閉塞でき

る突起部を備えたフラップ部が設けられているから,構成要件2−Dを充

足する。

構成要件2−E

フラップ部は,一の領域の縁部に一体的に接続し,基端部を軸に回動す

るから,構成要件2−Eを充足する。

構成要件2−F

フラップ部の先端部は,周縁領域の外縁に到達しないから,構成要件

2−Fを充足する。

構成要件2−G
フラップ部の基端部は,フラップ部の先端部よりも蓋体の中心位置から

近いから,構成要件2−Gを充足する。

構成要件2−H

一の領域はフラップ部を収容する凹領域を備えるから,構成要件2−H

を充足する。

構成要件2−I

一の領域における凹領域は一の領域上面の周縁部に接続しているから,

構成要件2−Iを充足する。

構成要件2−J

食材を収容する容器であるから,構成要件2−Jを充足する。

(3) 後記【被告の主張】に対する反論

ア 「一の領域」の意義について

後記【被告の主張】 1 のとおり,被告は,本件特許発明2の「一の領

域」について,周縁領域よりも低く隆起しているフラップ部周囲領域をい

う旨主張する。

前記1【原告の主張】 3 アと同様の理由から,この点に関する被告の

主張には理由がない。

構成要件2−Eの充足性について

後記【被告の主張】 2 イのとおり,被告は,構成要件2−Eの「一の

領域に接続される(フラップ部の)基端部」について「一の領域の縁部に

一体に接続される基端部」に限定されると主張する。

前記1【原告の主張】 3 イと同様の理由から,この点に関する被告の

主張には理由がない。

構成要件2−K及び2−Lの付加の必要性及びその充足性について

後記【被告の主張】 2 ウのとおり,被告は,本件特許発明2の技術的

範囲について,「フラップ部周囲領域の角隅部の1つが周縁領域の角隅部
に隣接し(構成要件2−K),かつ,その角隅部に開口部及びフラップ部

が設けられる(構成要件2−L) の構成を付加すべきであると主張する。


前記1【原告の主張】 3 ウと同様の理由から,この点に関する被告の

主張には理由がない。

【被告の主張】

以下のとおり,被告容器は,本件特許発明2の構成要件を文言上充足しない。

(1) 本件特許発明2の「一の領域」の意義

前記1【被告の主張】 1 と同様の理由から,本件特許発明2の「一の領

域」は,周縁領域よりも低く隆起しているフラップ部周囲領域をいう。

(2) 被告容器の構成

被告容器は,フラップ部周囲領域の隆起が周縁領域よりも高い。

(3)構成要件充足性

構成要件2−C,2−D,2−H及び2−Iの非充足

前記 1 , 2 のとおり,被告容器は,フラップ部周囲領域の隆起が周縁

領域よりも高いので,「一の領域」の構成を有しているとはいえない。

したがって,構成要件2−C,2−D,2−H及び2−Iを充足しない。

構成要件2−Eの非充足

(ア)「一の領域」の構成を有しないこと

上記アのとおり,被告容器は,「一の領域」の構成を有しないから,

構成要件2−Eを充足しない。

(イ)フラップ部基端部が「一の領域の縁部」に接続されていないこと(構

成要件2−Eの意義)

前記1【被告の主張】 3 イ イ のとおり,原告は,原出願に係る審査

手続において,フラップ部の基端部が一の領域の縁部以外の部分に接続

される態様のものを意識的に除外しており,これに反する主張は包袋禁

反言の法理により許されない。
そうすると,構成要件2−Eのうち,「前記一の領域に一体的に接続

する基端部」は,「前記一の領域の縁部に一体的に接続する基端部」を

いうものである。

被告容器は,フラップ部基端部が一の領域の「縁部」に接続していな

いから,構成要件2−Eを充足しない。

(4)構成要件2−K及び2−Lの付加の必要性とその非充足

構成要件2−K及び2−Lの付加の必要性

前記1【被告の主張】 4 と同様の理由から,本件特許発明2について

も,
「フラップ部周囲領域の角隅部の1つが周縁領域の角隅部に隣接し(構

成要件2−K),かつ,その角隅部に開口部及びフラップ部が設けられる

構成要件2−L)」という構成を付加しなければならない。

そうでなければ,本件特許出願は分割要件に違反するものである。

構成要件2−K及び2−Lの非充足

被告容器は,構成要件2−K及び2−Lを充足しない。

3 争点3(本件特許出願に分割要件違反があるか等)について

【被告の主張】

以下のとおり,本件各特許発明は,原出願の当初明細書等(以下「乙1出願

公開」という。 に記載されておらず,
) 当該明細書等の記載から自明でもない。

したがって,本件特許出願は分割要件に違反するものであるから,特許法4

4条2項本文の適用を受けることができない。

そうすると,本件各特許発明は,乙1出願公開に記載された発明(以下「乙

1発明」という。)と同一又は当業者が乙1発明に基づいて容易に発明するこ

とができたものとして,特許無効審判により無効とされるべきものである。

(1) 構成要件1−C及び2−Cの「一の領域」

乙1出願公開の段落【0033】には,フラップ部周囲領域 212 がフ

ラップ部 22 の周囲を取り囲むこと,フラップ部周囲領域 212 は,例え
ば蓋体本体部 21 の中央部分を占め,あるいは周縁領域 211 に隣接して

形成されてもよいことが記載されている。 【0034】
段落 には,周縁領域 2

11 とフラップ部 212 は,中間領域 213 に対して上方に隆起してい

ること及び周縁領域 211 は中間領域 212 よりも高く隆起しているこ

とが記載されている。それ以外の態様については何ら示唆がない。

これに対し,本件各特許発明構成要件1−C及び2−Cの「一の領域」

は,その隆起する高さ及び蓋体のどの部位を起点に「隆起」しているのかも

特定されていない。

また,本件各特許発明は,乙1出願公開に記載のない態様,例えば,周縁

領域よりも高く隆起する領域を有するものや,中間領域が一の領域よりも高

く隆起するような態様までをも包含している。

(2) 構成要件1−G及び2−G並びに1−I及び2−I

原告は,平成22年1月18日付け手続補正書において,本件特許発明

について,構成要件1−G及び1−Iの構成を付加する補正をし,本件特許

発明2について,構成要件2−G及び2−Iの構成を付加する補正をした。

また,同日付け意見書において,上記各構成要件を充足することにより,フ

ラップ部を開放しやすいこと及びフラップ部を収容する凹領域に汚れが溜ま

りにくいことという作用効果を奏する旨主張した。

しかしながら,乙1出願公開において上記各構成要件の構成を有する発明

として開示されているのは,段落【0047】及び図10に記載された蓋体

及び容器のみである。具体的には,@ 構成要件1−G及び2−Gに係るフ

ラップ部が設けられたフラップ部周囲領域の角隅部のうち1つを,平面視略

矩形状の周縁領域の角隅部に隣接させ, このフラップ部周囲領域の角隅部
A

を挟む2つのフラップ部周囲領域の境界を,周縁領域の内縁に接するように

させた上で, 周縁領域の角隅部に,
B 隣接するフラップ部周縁領域の角隅部

に開口部を形成することにより, 当該開口部を通じた排水性を良くしたも
C
ののみである。

上記構成(段落【0047】及び図10)では,フラップ部を開放しやす

いこと及びフラップ部を収容する凹領域に汚れが溜まりにくいことという本

件各特許発明の作用効果を奏することはできない。

これに対し,本件各特許発明は,フラップ部周囲領域と周縁領域との位置

関係及びフラップ部周縁領域における開口部の具体的な位置について,何ら

特定しておらず,原出願において開示されたもの以外の発明,例えば,フラッ

プ部周囲領域のいずれの角隅部も周縁領域の角隅部に隣接していないものや,

開口部がフラップ部周囲領域の角隅部以外の部位,例えば当該角隅部から離

れた部位に設けられたものを含んでいる。

(3) 乙1発明の内容

乙1出願公開は,原出願に係る公報であり,本件各特許発明の全ての構成

要件を具備する蓋体及び容器が開示されている。

したがって,本件各特許発明は,乙1発明と同一又は当業者が乙1発明に

基づいて容易に発明することができたものである。

【原告の主張】

以下のとおり,本件特許出願に分割要件違反はないから,原出願の出願日で

ある平成19年10月11日に出願したものとみなされるのであり,前記被告

の主張には理由がない。

(1) 構成要件1−C及び2−Cの「一の領域」

本件各特許発明は,原出願の明細書に記載された「フラップ部周囲領域」

という用語を根拠として,発明として成立するのに必須の要素のみをクレー

ムしたものであり,「フラップ部周囲領域」と構成要件1−C及び2−Cの

「一の領域」とは同義である。乙1出願公開の段落【0034】の記載は,

実施例において周縁領域 211 よりフラップ部周囲領域 212 が低いこ

とを例示したものにすぎない。
乙1出願公開の段落【0033】には,「フラップ部周囲領域」と「周縁

領域」との高さの関係を規定していない技術的思想,すなわち周縁領域より

高いもの,低いもの,同じ高さのものを含むフラップ部周囲領域が開示され

ている。乙1出願公開の【特許請求の範囲】及び図11には,フラップ部周

囲を取り囲むフラップ部周囲領域(一の領域)が周縁部と同じ高さのものも

開示されている。

前記【被告の主張】 1 は,明細書に記載された個別実施例の具体的構成

そのものしか分割出願の特許請求の範囲に含めることは許されないという主

張であり,理由がないことは明らかである。

(2) 構成要件1−G及び2−G並びに1−I及び2−I

乙1出願公開の段落【0047】及び図10には,構成要件1−G及び2−

G並びに1−I及び2−Iの構成がはっきりと開示されており,上記構成で

も,フラップ部を開放し易いこと及びフラップ部を収容する凹領域に汚れが

溜まりにくいことという本件各特許発明の作用効果は奏する。

前記【被告の主張】 2 は,分割要件を満たすためには,原出願に係る明

細書に記載された個別実施例の具体的な構成を全て請求の範囲に記載しなけ

ればならないという主張であり,誤りである。

4 争点4(本件特許出願に係る補正について,特許法17条の2第3項の違反

新規事項の追加)があるか)について

【被告の主張】

前記3【被告の主張】 2 のとおり,原告は,平成22年1月18日付け手

続補正書により,本件特許発明1について構成要件1−G及び1−Iの構成を

付加する補正をし,本件特許発明2について構成要件2−G及び2−Iの構成

を付加する補正をした。

これらの構成要件は,本件特許出願に係る当初の明細書等に全く記載がない。

したがって,本件特許出願に係る補正については,特許法17条の2第3項
の違反(新規事項の追加)がある。

【原告の主張】

前記3【原告の主張】のとおり,構成要件1−G,1−I,2−G及び2−

Iの構成は,本件特許出願の原出願に係る当初の明細書等に開示されている。

5 争点5(本件特許出願について,特許法36条6項1号(サポート要件)の

違反があるか)について

【被告の主張】

構成要件1−C及び2−Cの「隆起する一の領域」
(前記3【被告の主張】1 )

及び構成要件1−G及び2−G並びに1−I及び2−I(同 2 )は,本件明

細書等による開示の範囲も超えるものであり,サポート要件に違反する。

【原告の主張】

争う。

6 争点6(本件各特許発明は,乙10発明と同一又は当業者が乙10発明に基

づいて容易に発明をすることができたものであるか)について

【被告の主張】

以下のとおり,本件各特許発明は,乙10発明と同一又は当業者が乙10発

明に基づいて容易に発明をすることができたものである。

(1) 乙10発明の内容

乙10公報の「詳細な説明」の項には,以下の発明が記載されている。

A 蓋体( ) 粉体材料
が, ( )

を収容する容器の胴体部( )の開口部を閉塞する。容器は,例

えばボトル( )又はジャー( )である。

B 蓋体は,前記開口部を形成する容器の首部( )と嵌合する下延壁

( ! ! " #! )と,基体( 3)のうちの当該下延壁

の直上及びそのすぐ内側の部分とを含む周縁領域を有する。

C 周縁領域により囲まれる領域内部において,隆起する領域(
である台部($ )が存在する。

D 前記台部には,容器内の粉体を排出可能な穴( $ )と,該穴

部を閉塞可能な突起部($ )を備えるフラップ部( $ )

とが設けられる。

E 前記フラップ部は,ヒンジ(% # )を形成して前記隆起領域に接続

される基端部を備えて,この基端部を軸に回動する。

F 前記フラップ部の先端部は,閉じ位置にあっても前記周縁領域の外縁に

は到達しない。

G 前記フラップ部の基端部は,その先端部よりも蓋体の中心位置から近い

位置にある。

H 前記台部は,前記フラップ部の少なくとも一部を収容する領域である下

側隆起領域( ! )を備える。

I 前記下側隆起領域は,前記台部上面の周縁部に到達している。

(2)乙10発明と本件各特許発明の対比

ア 一致点

乙10発明と本件特許発明1は次の点で一致する。本件特許発明2につ

いても同様である。

@ 乙10発明の“ ”[粉体]は構成要件1−

Aの「食材」に,“ ”[容器9]は「該食材を加熱可能な容

器の胴体部」に,“ ”[容器蓋1]は「開口部を閉

塞する蓋体」に相当する。

A “ ! ! " #! ”[下延壁5]と, [基体3] の

周縁部すなわち前記下延壁5の直上及びすぐ内側の部分とを含む領域

は,構成要件1−Bの「前記蓋体の外周輪郭形状を定めるとともに,前

記容器の前記開口部を形成する前記容器の縁部と嵌合する周縁領域」に

相当する。
B “$ ”[台部13]は,構成要件1−Cの「該周縁領域によ

り囲まれる領域内部において,隆起する一の領域」に相当する。

C “ $ ”[孔a]は構成要件1−Dの「前記容器内の流体を排

出可能な穴部」に,“$ ”[突出部35]は「該穴部を閉塞

可能な突起部」に,“ $ ” [フラップ27]は「フラップ部」に

相当する。

D “% # ”[ヒンジ]は構成要件1−Eの「前記一の領域に一体的

に接続する基端部」に相当する。

E “ ! ”[下側隆起領域15]は,構成要件1−H

の「前記フラップ部の少なくとも一部を収容する凹領域」に相当する。

イ 形式的な相違点

乙10発明と本件特許発明1は次の点で相違する。本件特許発明2につ

いても同様である。

@ 構成要件1−Aに関する相違点

乙10公報には,容器( )の収容物が食材であること及び

この食材を加熱可能であることについて直接的な記載がない。

A 構成要件1−Dに関する相違点

本件特許発明1において,容器内に収容されるのは流体であるのに対

し,乙10発明において収容されるのは粉体(

)である。

B 後記【原告の主張】 1 のとおり,原告は,乙10発明の蓋体が基体

に「螺合」されるものであって,嵌合されるものではないから,構成要

件1−Bについても相違する旨主張する。しかし,嵌合は,「嵌り合う」

という極めて広い概念であり,「螺合」は「嵌合」の下位概念である。

少なくとも発明の本質に関する相違ではない。また,本件明細書等の段

落【0051】には,「本発明においては,蓋体 2 の容器胴体部 3
への固定方式は特に限定されない。上記した形式以外にも,蓋体 2 を

円板状に形成し,その外周面にねじ部を形成し,容器本体部 3 上部内

周面にねじ部を形成することによって,蓋体 2 を容器胴体部 3 に螺合

させてもよい。」という記載がある。

この記載は,「螺合」を「嵌合」の概念から排除する原告の主張と明

らかに矛盾するものであり,この点は相違点ではない。

C 後記【原告の主張】 1 のとおり,原告は,乙10発明にはフラップ

部を収容する凹領域の構成がないから,構成要件1−H及び1−Iにつ

いても相違する旨主張する。しかし,乙10発明の“ !

”[下側隆起領域15]は,当該 ! に隣接する

$ (第2台部21)の上面よりも一段凹んだ領域であ

り,閉位置に倒されるフラップ部である $ を,その上面が

$ の上面と同一平面上に収まるように受け入れるものである。

したがって, $ はまさしく ! に「おさめ

入れられている」ものであるから,乙10発明の「下側隆起領域( !

)」は「フラップ部を収容する凹領域」に相当するか

ら,この点についても相違点ではない。

(3) 新規性欠如又は進歩性欠如

新規性欠如

以下のとおり,前記 2 イの相違点は実質的な相違ではないから,本件

特許発明1は乙10発明と同一のものである。本件特許発明2についても

同様である。

構成要件1−A に関する相違点

本件特許発明1は蓋体及び容器に関するものであり,その収容物は構

成要素ではないから,収容物のミクロ的な物性の相違は発明の同一性と

何ら関係しない。その蓋体及び容器の収容物に求められる重要な性質は,
「穴部」から排出されることが可能な程度の流動性を有するか否かであ

る。

蒸気が粉体より小さいのは明らかであり,乙10発明のように粉体を

排出できる穴であれば,蒸気を排出できないわけがない。

構成要件1−D に関する相違点

乙10公報には“ % ”(びん又は瓶[かめ]

の首部)という記載があり,これによれば,当該容器が食材を収容する

ものであって,これを加熱できる程度の耐熱性を有するものであること

は,当業者の技術常識からみて自明の事項である。少なくとも,乙10

公報には,当該容器の食材収容可能性及び加熱可能性を否定する根拠は

ない。

原告は,熱可塑性樹脂であるポリプロピレンからなる被告各製品につ

いて「食材を加熱可能な容器」であると主張しており,熱可塑性樹脂で

あるから「加熱可能な容器」に当たらないとする主張は,これと矛盾す

る。

そもそも,本件特許発明1は容器及び蓋体そのものについての物の発

明であり,当該容器に何が収容されるか又は当該収容物が加熱可能であ

るかは,発明の本質的な特徴ではない。

進歩性欠如

加熱用の食材容器であって容器胴体部及び蓋体を備え,かつ,蓋体が穴

部とこれを閉塞可能な突起部をもったフラップ部とを備えたものは本件

優先日前に周知であった。

これらの周知の容器に乙10発明の構成を適用することは何ら困難で

はない。

したがって,本件各特許発明は,乙10発明と同一又は当業者が乙10

発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。
【原告の主張】

以下のとおり,本件各特許発明は,乙10発明と同一又は当業者が乙10発

明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。

(1)乙10発明と本件各特許発明との対比

ア 乙10発明と本件特許発明1との相違点

@ 構成要件1−Aに関する相違点

乙 10 発明 は ,「 粉体 材 料を 収容 する 容器 」, 「熱 可 塑性 容器 蓋

(&'()*+,-./&01 1+2&.02() 1-+/3)()」の発明である。

したがって,構成要件1−Aの「食品を収容するとともに該食材を加

熱可能な容器」の構成を有しない。

A 構成要件1−Bに関する相違点

“ ! ! " #! ”[下延壁5]と, [基体3] の

周縁部すなわち前記下延壁5の直上及びすぐ内側の部分とを含む領域

は,容器の縁部と螺合しており,嵌合していない。

「嵌合」と「螺合」とは明確に異なる固着手法であり,概念として異

なる。

したがって,構成要件1−Bの「前記蓋体の外周輪郭形状を定めると

ともに,前記容器の前記開口部を形成する前記容器の縁部と嵌合する周

縁領域」の構成を有しない。

B 構成要件1−Dに関する相違点

乙10発明は粉体を収容するための容器であり,「流体」を排出可能

なものではない。

本件特許発明1は,電子レンジ等で内部を加熱した際に蒸気を外部に

排出させるための穴部を必須の構成要素とし,当該穴部は容器内の流体

を排出することを主たる目的とする。これに対し,乙10発明の穴部は,

内部に収容された粉体を下向きにして排出するものであるから,技術的
思想も大きく異なる。

したがって,乙10発明は,構成要件1−Dの「前記容器内の流体を

排出可能な穴部と」の構成を有しない。

C 構成要件1−Hに関する相違点

本件特許発明1のように「凹領域」が「フラップ部を収容する凹領域」

構成要件1−H)である場合,フラップ部の左右側方には凹領域の底

部から立ち上がる側壁が形成される。これにより,フラップ部の側方か

ら異物や汚水が入ることを防げるとともに,フラップ部に側方から外力

が加わることにより,意図しない開放や破損が起こることを防げる。

これに対し,乙10発明のフラップ部は,「下側隆起領域( !

) の上に載っているだけであり,
」 「下側隆起領域 !


)」はフラップ部を「収容」していない。このような

構成では,フラップ部の側方から異物や汚水が入りやすいし,フラップ

部に側方から外力が加わることにより,意図しない開放や破損が起こり

やすい。

したがって,乙10発明の“ ! ”[下側隆起領域

15]は,構成要件1−Hの「前記フラップ部の少なくとも一部を収容

する凹領域」に相当するものではない。

D 構成要件1−Iに関する相違点

前記 エ のとおり,乙10発明の“ ! ”[下側隆

起領域15]は,構成要件1−Hの「凹領域」に相当するものではない

から,乙10発明は,構成要件1−Iの構成も有しない。

イ 乙10発明と本件特許発明2との相違点

前記アと同様の理由から,本件特許発明2は,構成要件2−A,2−B,

2−D,2−H及び2−Iの点において,乙10発明と相違する。

(2) 容易想到性がないこと
以下のとおり,本件特許発明1は,乙10発明に基づいて容易想到なもの

ではない。本件特許発明2についても同様である。

ア 被告が主張する周知技術と乙10発明の技術分野が異なること

以下のとおり,被告が主張する周知技術と乙10発明とは,樹脂に要求

される特性,容器に要求される性能が異なるから技術の転用が困難であり,

技術分野が異なるものである。

(ア)加熱可能な容器と加熱不能な容器の相違

前記【被告の主張】 3 イのとおり,被告は,加熱用の食材容器であっ

て容器胴体部及び蓋体を備え,かつ,蓋体が穴部とこれを閉塞可能な突

起部をもったフラップ部とを備えたものは本件優先日前に周知であり,

これらの容器に乙10発明の構成を適用することに困難はない旨主張

する。

しかし,「加熱可能な容器」の材料樹脂は,高結晶性,高硬度,高耐

熱性という特性が要求されるのに対し,「加熱不能な容器」の材料樹脂

は,低結晶性,低硬度,低耐熱性のものである。このような樹脂の材料

特性の違いから,容器製造時における樹脂の流動性,粘度,収縮率,軟

化点に相違があり,ヒケ,タワミ,ソリなどの防止技術が相違し,金型

の設計に制限が生じ,製品の自由度は異なる。

したがって,「加熱不能容器」に関する材料樹脂の技術を「加熱可能

容器」に関する材料樹脂の技術に転用することは困難である。

(イ)流体を排出する容器と粉体を排出する容器の相違

「流体を排出する容器」は,高寸法精度,高密封性という特性が要求

されるのに対し,「粉体を排出する容器」は,低寸法精度,低密封性の

もので足りる。

したがって,「流体を排出する容器」と「粉体を排出する容器」を互

いに転用することも困難である。
イ 被告が主張する周知技術に乙10発明の構成を適用しても本件特許発明

1の構成を得られないこと

被告が主張する周知技術には,本件特許発明1の構成要件1−Iの構成

を備えたものはない。

したがって,これらの発明に乙10発明の構成を適用することができた

としても,本件特許発明1の構成を得ることはできない。

7 争点7(本件各特許発明は,当業者が乙11発明に基づいて容易に発明をす

ることができたものであるか)について

【被告の主張】

以下のとおり,本件各特許発明は,当業者が乙11発明に基づいて容易に発

明をすることができたものである。

(1)乙11発明の内容

乙11公報には以下の発明(乙11発明)が記載されている。

A 蓋20は,食材を収容するとともに該食材を加熱可能な容器の容器本体

10の開口部を閉塞する。

B 蓋20は,容器本体10においてその開口部を形成する縁部と嵌合する

結合溝3を有し,この結合溝3が形成された領域は,蓋20の外周輪郭形

状を定める周縁領域を構成する。

C 前記周縁領域により囲まれる領域は,隆起している。

D 前記の隆起する領域に,容器本体10の流体を排出可能な通気孔23と,

この通気孔23を閉塞可能な突棒51を備えるレバー50とが設けられ

る。

E 前記レバー50は,前記の隆起する領域に接続する軸ピン50aを備え

るとともに,この軸ピン50aを軸に回動する。

F 前記レバー50は先端に突起52を有し,この突起52は,前記周縁領

域の外縁には到達していない。
H 前記の隆起する領域は,レバー溝21と,このレバー溝21よりも深い

挿入溝24とを備え,これらの溝21,24内にレバー50が収容される。

(2)乙11発明と本件各特許発明との対比

ア 一致点

乙11発明と本件特許発明1は次の点で一致する。本件特許発明2につ

いても同様である。

@ 食材を収容するとともに該食材を加熱可能な容器の胴体部(乙11発

明では「容器本体10」)の開口部を閉塞する蓋体(乙11発明では「蓋

20」)であって,

A 前記蓋体の外周輪郭形状を定めるとともに,前記容器の前記開口部を

形成する前記容器の縁部と嵌合する周縁領域(乙11発明では「結合溝

3」が形成された領域)と,

B 該周縁領域により囲まれる領域内部において,隆起する一の領域(乙

11発明では「結合溝3が形成された領域の内側で隆起する領域」)を

備え,

C 前記一の領域は,前記容器内の流体を排出可能な穴部(乙11発明で

は「通気孔23」)と,該穴部を閉塞可能な突起部(乙11発明では「突

棒51」)を備えるフラップ部(乙11発明では「レバー50」)を備

え,

D 該フラップ部は,前記一の領域に接続する基端部(乙11発明では「軸

ピン50a」)を備えるとともに,該基端部を軸に回動し,

E 前記フラップ部の先端部(乙11発明では「突起52」)は,前記周

縁領域の外縁に到達しておらず,

F 前記一の領域が,前記フラップ部の少なくとも一部を収容する凹領域

(乙11発明では「レバー溝21」及びこれにつながる「挿入溝24」)

を備える,
G 蓋体。

イ 相違点

乙11発明と本件特許発明1は次の点で相違する。本件特許発明2につ

いても同様である。

@ 構成要件1−Eに関する相違点

本件特許発明1におけるフラップ部の基端部は,一の領域に一体的に

接続する。これに対し,乙11発明のフラップ部の基端部に相当するレ

バー50の軸ピン50 は,蓋20と別体に構成されており,周縁領域

の内側で隆起する領域に設けられた軸溝21 に嵌められることにより,

当該隆起する領域に接続されている。

A 構成要件1−Gに関する相違点

本件1特許発明におけるフラップ部は,その基端部が先端部よりも蓋

体の中心位置から近い位置に配される。これに対し,乙11発明のレ

バー50は,その基端部である軸ピン50 が,先端部である突起52

よりも蓋20の中心位置から遠い位置に配されている。

B 構成要件1−Iに関する相違点

本件特許発明1における凹領域は,一の領域上面の周縁部に接続して

いる。これに対し,乙11発明において凹領域を構成するレバー溝21

及び挿入溝は,隆起する領域の周縁部の内側に存在しており,当該周縁

部には接続していない。

(3)前記相違点がいずれも設計事項にすぎないこと

以下のとおり本件特許発明1に係る前記相違点はいずれも設計事項にすぎ

ない。本件特許発明2に関する相違点についても同様である。

構成要件1−Eに関する相違点

部品点数の削減のために二つの部材を一体的に形成すること,そのうち

の一の部材に対して他の部材が回動可能となるように両部材の間にヒンジ
部分を形成することは,当業者の技術常識である。

したがって,本件各特許発明のように,フラップ部の基端部と一の領域

とを一体的に形成するか,乙11発明のように,別部材として相互連結す

るかは,当業者が任意に選択し得る単なる設計事項にすぎない。

構成要件1−G及び1−Iに関する相違点

これらの構成要件には何ら特別な技術的意義がなく,当業者が任意に選

択し得る単なる設計事項にすぎない。

(4)周知技術との組合せによる容易想到性

以下のとおり本件特許発明1は,乙11発明に周知技術を適用することに

より当業者が容易に発明することができたものである。本件特許発明2につ

いても同様である。

周知技術の構成

本件優先日前, 食材を収容する容器の胴体部に装着される蓋体であっ
@

て,A 胴体部内の流体を排出可能な穴部とこれを塞ぐ突起部を備えたフ

ラップ部とが設けられて, その基端部が回動可能に前記隆起領域に接続
B

されるのに加え, このフラップ部の少なくとも一部を収容する凹領域が
C

設けられ, 前記フラップ部の基端部はその先端部よりも蓋体の中心位置
D

に近く,かつ, 前記凹領域が前記隆起領域の上面の周縁部に接続したも
E

のは,周知の構成であった。

また, 前記フラップ部の基端部が前記隆起領域に一体的に接続する構
F

成を備えたものも周知の構成であった。

容易想到性

(ア)構成要件1−Eに関する相違点

前記アのとおり,容器の開口部を閉塞する蓋体において,前記穴部及

び突起部を有するフラップ部の基端部を蓋体に一体的に接続することは

周知技術であったから,これを乙11発明に適用することについて何ら
困難はない。

(イ)構成要件1−G及び1−Iに関する相違点

前記アのとおり,容器の開口部を閉塞する蓋体において,そのフラッ

プ部の基端部を先端部よりも蓋体の中心位置から近い位置に配し,かつ,

当該フラップ部の少なくとも一部を収容する凹領域を隆起する領域の上

面の周縁部に接続することは周知技術であったから,これを乙11発明

に適用することについても何ら困難はない。

(5)乙10発明との組合せによる容易想到性

以下のとおり本件特許発明1は,乙11発明に乙10発明の構成を適用す

ることにより当業者が容易に発明をすることができたものである。本件特許

発明2についても同様である。

ア 乙10発明の構成

前記6【被告の主張】 1 のとおりである。

容易想到性

(ア)構成要件1−Eに関する相違点

乙10公報には,上記相違点に係る本件特許発明1の構成が開示され

ており,これを乙11発明に適用し,乙11発明のレバー50の基端部

を蓋20の隆起領域に一体的に接続することについては,何ら困難では

ない。

(イ)構成要件1−G及び1−I及び1−Iに関する相違点

乙10公報には,上記相違点に係る本件特許発明1の構成が開示され

ており,これを乙11発明に適用することは,当業者が容易に想到する

ことができたものである。

(6)乙21発明との組合せによる容易想到性

以下のとおり本件特許発明1は,乙11発明に乙21発明の構成を適用す

ることにより当業者が容易に発明をすることができたものである。本件特許
発明2についても同様である。

ア 乙21発明の構成

乙21明細書には以下の発明(乙21発明)が記載されている。

A 食材を収容するとともに食材を加熱可能な容器本体16と,その開口

部を閉塞する容器蓋2を有する。

B 前記容器蓋2は,その外周輪郭形状を定める周縁リム27を有し,こ

の周辺リム27は,容器本体16の開口部を形成する縁部と嵌合する。

C 前記容器蓋2は,前記周辺リム27により囲まれる領域の内部に,隆

起する領域である外面33を有している。

D 前記容器蓋2の前記周辺リム27により囲まれる領域は,容器本体1

6内の空気を排出可能な通気孔4と,この穴を閉塞可能なシール片3を

有するカバー7を備えている。

E 前記カバー7は,フィルムヒンジ32により前記外面33に一体的に

接続され,当該フィルムヒンジ32を軸に回動する。

F 前記カバー7の先端部は,前記周辺リム27の外縁に到達していない。

G 前記カバー7の前記フィルムヒンジ32は,前記カバー7の前記先端

部よりも前記容器蓋2の中心位置から近い位置に配置されている。

H 前記外面33が,前記カバー7の少なくとも一部を収容する凹部20

を備えている。

I 前記凹部20は,前記外面33の周縁部に接続している。

J 容器蓋2と容器本体16とからなる食品収容容器15。

容易想到性

乙21発明には,乙11発明と本件特許発明1との相違点に係る構成が

全て表れている。

したがって,乙11発明に乙21発明の構造を適用して本件特許発明

の構成を想到することは,当業者が容易にすることができたものである。
【原告の主張】

以下のとおり,本件特許発明1は,当業者が乙11発明に基づいて容易に発

明をすることができたものではない。本件特許発明2も同様である。

(1)乙11発明と本件特許発明1を対比した場合における,構成要件1−E,

1−G及び1−Iに関する相違点が設計事項ではないこと

構成要件1−Eに関する相違点

一般の容器の分野においては,フラップ部を一体成型したものと,別部

材で構成するものとが従来から存在していた。しかし,食材収容加熱容器

の技術分野において,フラップ部を一体成型した容器は本件優先日前には

存在しなかった。

構成要件1−G及び1−Iに関する相違点

構成要件1−F,1−G,1−H及び1−Iの構成により,@ フラッ

プ部が破損しにくい,A フラップ部を開放しやすい,B フラップ部を収

容する凹領域に汚れがたまりにくいという本来であれば同時に成立する

ことのない作用効果を奏することを可能にした。

したがって,構成要件1−G及び1−Iには重要な技術的意義があり,

単なる設計事項ではない。

(2)周知技術との組合せによる容易想到性がないこと

被告が主張する周知技術は食材収容加熱容器の発明ではないから,これら

の構成を乙11発明に適用することはできない。

(3)乙10発明との組合せによる容易想到性がないこと

ア 技術分野の相違

前記6【原告の主張】 1 ア ア のとおり,乙10発明は,食材収容加熱

容器の発明ではなく,技術分野が異なるから,その構成を乙11発明に適

用することはできない。

イ 乙10発明は,構成要件1−H及び1−Iの構成を有しないこと
前記6【原告の主張】 1 ア エ 及び オ のとおり,乙10発明は構成要

件1−H及び1−Iの構成を具備していないから,乙10発明の構成を乙

11発明に適用しても本件特許発明1の構成を得ることはできない。

ウ 阻害要因があること

乙11発明のレバー溝21及び挿入溝24は,フラップ部周囲の隆起す

る領域の高さよりも深く凹んでいるから,隆起する領域の周縁部に接続す

ることができない。

少なくとも容器設計に関わる当業者がそのような設計を採用すること

はあり得ない。

したがって,乙11発明に乙10発明の構成を適用して構成要件1−I

の構成を得ることについては明確な阻害要因がある。

エ 乙11発明に乙10発明の構成を適用しても本件特許発明1の作用効果

を奏しないこと

(ア)構成要件1−Hに由来する効果

乙11発明のレバー溝21及び挿入溝24を隆起する領域の周縁部に

接続したとしても,フラップ部周囲の隆起する領域の高さよりも深く凹

んでいるレバー溝21及び挿入溝24は隆起する領域の周囲の領域よ

りも低い。

そのため,本件特許発明構成要件1−Hに由来する「フラップ部を

収容する凹領域に汚れがたまりにくい」という作用効果を奏しない。

(イ)構成要件1−G及び1−Iに由来する作用効果

乙10発明の低く隆起した領域15は,フラップ部を収容しておらず

単に載せているだけであり,フラップ部の周囲の三方向(先端方向及び

左右側方)において,隆起する領域である基盤13の周縁部と接続され

ている。

そのため,乙10発明の構成を乙11発明に適用すると,乙10発明
のフラップ部は,周囲の三方向(先端方向及び左右側方)で,フラップ

部周囲の隆起する領域の周縁部と接続することになる。

そうすると,本件特許発明構成要件1−G及び1−Iに由来する「フ

ラップ部が破損しにくい」という作用効果を奏することができない。

(4)乙21発明との組合せによる容易想到性がないこと

ア 技術分野が相違すること

乙21発明の蓋体は圧力インジケータ6を備えている。圧力インジケー

タ6は,容器内部が十分な真空状態になると容器内部に向けて空洞26内

に引き込まれて折り畳み状態となり,容器内部の真空度が減少すると容器

外方に膨出した状態となる。

このように,圧力インジケータ6は,折り畳み状態と膨出状態に変化し

なければならないため,高い柔軟性が要求される。しかし,高耐熱性の樹

脂は,高い結晶性を有するために硬度が高く,柔軟性が低い。そのため,

高い柔軟性が要求される圧力インジケータ6の材料として使用すること

はできない。

したがって,乙21発明の蓋体は,その構造自体からして,加熱に適し

たものではない。

イ 組合せに阻害要因があること

前記アのとおり,乙21発明は,容器内部を真空にすることを目的とす

る発明であり,容器蓋に圧力インジケータ6(圧力呈示突起)の構成が必

須とされている。圧力インジケータ6は,凹部に設けられている。

乙11発明にこのような構成を適用すると,インジケータが障害物と

なって,本件各特許発明の「フラップ部を収容する凹領域に汚れがたまり

にくい。」という作用効果を奏することができなくなる。

したがって,乙11発明に乙21発明の構成を適用することには,阻害

要因がある。
8 争点8(本件各特許発明は,乙30発明に基づいて当業者が容易に発明をす

ることができたものであるか)について

【被告の主張】

以下のとおり,本件各特許発明は,乙30発明に基づいて当業者が容易に発

明をすることができたものである。

(1)乙30発明の構成

乙30発明の構成は以下のとおりである。

A 食材を収容するとともに食材を加熱可能な容器本体と,その開口部を閉

塞する蓋を有する。

B 前記蓋は,その外周輪郭形状を定める周縁領域を有し,この周辺領域は,

容器本体の開口部を形成する縁部と嵌合する。

C 前記蓋は,前記周辺領域により囲まれる領域の内部に,隆起する領域を

有している。

D 前記蓋の前記周辺領域により囲まれる領域は,容器本体の蒸気を排出可

能な穴と,この穴を閉塞可能な突起部を有する開閉部材を備えている。

E 前記開閉部材は,その細く,かつ薄く形成された部分により前記蓋の周

辺領域に一体的に接続され,当該基端部を軸に回動する。

F 前記開閉部の先端部分は,前記周辺領域により囲まれる領域の内部に位

置している。

G 前記開閉部材の基端部分は,この開閉部材の先端部分よりも,前記蓋の

中心位置から遠い位置に配置されている。

H 前記隆起する領域が,前記開閉部材の少なくとも一部を収容する凹領域

を備えている。

I 前記凹領域は,隆起する領域の周縁部に接続している。

J 蓋と容器本体とからなる容器。

(2)乙30発明と本件各特許発明との対比
乙30発明と本件特許発明1を対比すると,以下の一致点及び相違点があ

る。本件特許発明2についても同様である。

ア 一致点

乙30発明の「蓋」,「開閉部材」,「その細く,かつ薄く形成された

部分」は,それぞれ,本件各特許発明の「蓋体」,「フラップ」,「基端

部」に相当する。

したがって,乙30発明は,構成要件1−A,1−B,1−C,1−F,

1−H,1−I及び1−Jに相当する構成を有する。

イ 相違点

@ 構成要件1−Dに関する相違点

本件特許発明1では,構成要件1−Dのとおり「前記一の領域は,前

記容器内の流体を排出可能な穴部と,該穴部を閉塞可能な突起部を備え

るフラップ部を備え」ている。

これに対し,乙30発明は,蓋容器内の流体を排出可能な穴部と該穴

部を閉塞可能な突起部を備えるフラップ部を備えるものの,前記一の領

域から離間している。

A 構成要件1−Eに関する相違点

本件特許発明1では,構成要件1−Eのとおり「該フラップ部は,前

記一の領域に一体的に接続する基端部を備えるとともに,該基端部を軸

に回動」する。

これに対し,乙30発明では,「前記開閉部材(フラップ)は,その

基端部(細く,かつ薄く形成された部分)により前記蓋の周辺領域に一

体的に接続され,当該基端部が屈曲することにより回動する」。

B 構成要件1−Gに関する相違点

本件特許発明1では,構成要件1−Gのとおり「前記フラップ部の前

記基端部が,前記フラップ部の前記先端部よりも前記蓋体の中心位置か
ら近い位置に配され」ている。

これに対し,乙30発明では,「前記開閉部材(フラップ)の基端部

分は,この開閉部材(フラップ)の先端部分よりも,前記フタの中心位

置から遠い位置に配置され」ている。

(3)前記相違点に係る構成が単なる設計事項にすぎないこと

前記 2 の相違点の多くは,本件特許発明1のフラップが外開きである(フ

ラップを蓋体の外側から開く)のに対し,乙30発明の蓋が内開きである(開

閉部材をフタの内側から開く)構成であることに起因する。

本件優先日以前において,食品容器の蓋に設けられる開閉部材(フラップ)

としては,内開きのものと,外開きのものが周知であった。

蓋に設ける孔(開口部)の付け方についても,種々のバリエーションが知

られていた。

したがって,これらの点は,具体的な設計に当たり,当業者が適宜選択す

る設計事項にすぎない。

(4)特開2004−123143号公報(以下「乙13公報」という。)に記

載された発明(以下「乙13発明」という。)との組合せによる容易想到性

以下のとおり,本件特許発明1は,乙30発明に乙13発明を適用するこ

とにより当業者が容易に発明をすることができたものである。本件特許発明

2についても同様である。

ア 乙13発明の構成

乙13公報には,以下の発明(乙13発明)が記載されている。

A 蓋体2を有する粉体容器である。

D 蓋体2には,注出口4a(本件発明の「穴部」に相当)と,これを塞

ぐ嵌合筒壁3a(本件発明の「突起部」に相当)が備えられている。

E 蓋体2は,天板部2a(本件特許発明1の「フラップ」に相当)を有

しており,天板部2aには,ヒンジ3b(本件特許発明1の「基端部」
に相当)を介して,ヒンジ蓋3が回動可能かつ一体的に接続されている。

G ヒンジ蓋3のヒンジ3bは,その先端部よりも蓋体2の中心位置の近

くに位置している。

粉体容器の蓋体2の天板部2−Aに,ヒンジ3bを介して回動可能か

つ一体的に接続されたヒンジ蓋3は,外開きのタイプの開閉部材(フ

ラップ)である。

H 天蓋部2aには,ヒンジ蓋3を収容する凹領域(密閉蓋面4が設けら

れた領域)が設けられている。

容易想到性

(ア)技術分野の共通性

乙30発明は,その用途として「薬味」の収容をも予定したものであ

り,煎り胡麻,粉海苔や鰹節粉などの粉粒体をも収容目的物としている。

乙13発明に係る粉体容器も食材を収容するものである。

いずれも蓋には孔が設けられ,該孔はヒンジによって回動可能に連結

されたフラップにより塞がれる構造である点において共通する。

このように同一の分野に属する極めて近接した関係にあることからす

れば,乙30発明に乙13発明の構成を適用することは,当業者におい

容易に想到することができるものである。

(イ)前記 2 イの相違点が単なる設計事項にすぎないこと等

前記 3 のとおり,容器の蓋に設けるフラップを内開き又は外開きと

するか,孔の付け方をどのようにするかは,具体的な設計に当たって当

業者が適宜選択する設計事項にすぎない。

したがって,乙30発明における内開きの開閉部材(フラップ)に替

えて,乙13発明における外開きフラップを用いることは,当業者が容

易に想到することができたものである(構成要件1−Gに関する相違点

容易想到性)。
また,乙30発明においても,開閉部材(フラップ)は,基端部を介

して蓋と一体的に接続されている。そうすると,乙13発明の外開きフ

ラップを適用した場合には,当該フラップは,基端部を介して,「隆起

する領域」(本件特許発明1の「一の領域」に相当)に一体的に接続さ

れるのが自然であり,合理的である(構成要件1−D及び1−Eに関す

る相違点の容易想到性)。

(5)乙10発明との組合せによる容易想到性

以下のとおり,本件特許発明1は,乙30発明に乙10発明を適用するこ

とにより当業者が容易に発明をすることができたものである。本件特許発明

2についても同様である。

ア 乙10発明の構成

前記6【被告の主張】 1 のとおり。

容易想到性

(ア)技術分野の共通性

乙30発明と乙10発明は,いずれも食材を収容するものであり,蓋

には孔が設けられ,該孔はヒンジによって回動可能に連結されたフラッ

プにより塞がれる構成である点において共通する。

このように同一の分野に属する極めて近接した関係にあることからす

れば,乙30発明に乙10発明の構成を適用することは当業者において

容易に想到することができたものである。

(イ)前記 2 イの相違点が単なる設計事項にすぎないこと等

前記 3 のとおり,容器の蓋に設けるフラップを内開き又は外開きと

するか,孔の付け方をどのようにするかは,具体的な設計に当たって当

業者が適宜選択する設計事項にすぎない。

したがって,乙30発明における内開きの開閉部材(フラップ)に替

えて,乙10発明における外開きフラップを用いることは,当業者が容
易に想到することができたものである(構成要件1−Gに関する相違点

容易想到性)。

また,乙30発明においても,開閉部材(フラップ)は,基端部を介

して蓋と一体的に接続されている。そうすると,乙10発明の外開きフ

ラップを適用した場合には,当該フラップは,基端部を介して,「隆起

する領域」(本件特許発明1の「一の領域」に相当)に一体的に接続さ

れるのが自然であり,合理的である(構成要件1−D及び1−Eに関す

る相違点の容易想到性)。

(6)乙21発明との組合せによる容易想到性

以下のとおり,本件特許発明1は,乙30発明に乙21発明を適用するこ

とにより当業者が容易に発明をすることができたものである。本件特許発明

2についても同様である。

ア 乙21発明の構成

前記7【被告の主張】 6 のとおりである。

容易想到性

(ア)技術分野の共通性

乙30発明と乙21発明は,食材を収容するとともに,電子レンジで

加熱可能なものであり,蓋に通気孔が設けられ,該通気孔はヒンジによっ

て回動可能に連結されたカバーにより塞がれ,電子レンジでの加熱時に

はカバーが開放される構成である点において共通する。

このように同一の分野に属する極めて近接した関係にあることからす

れば,乙30発明に乙21発明の構成を適用することは,当業者におい

容易に想到することができたものである。

(イ)前記 2 イの相違点が単なる設計事項にすぎないこと等

前記 3 のとおり,容器の蓋に設けるフラップを内開き又は外開きと

するか,孔の付け方をどのようにするかは,具体的な設計に当たって当
業者が適宜選択する設計事項にすぎない。

したがって,乙30発明における内開きの開閉部材(フラップ)に替

えて,乙21発明における外開きフラップを用いることは,当業者が容

易に想到することができたものである(構成要件1−Gに関する相違点

容易想到性)。

また,乙30発明においても,開閉部材(フラップ)は,基端部を介

して蓋と一体的に接続されている。そうすると,乙21発明の外開きフ

ラップを適用した場合には,当該フラップは,基端部を介して,「隆起

する領域」(本件特許発明1の「一の領域」に相当)に一体的に接続さ

れるのが自然であり,合理的である(構成要件1−D及び1−Eに関す

る相違点の容易想到性)。

【原告の主張】

以下のとおり,本件各特許発明は,乙30発明に基づいて当業者が容易に発

明をすることができたものではない。

(1)乙30発明の構成

ア 構成Hについて

被告が主張する乙30発明の「隆起する領域」 「凹領域」
と との間には,

「隆起する領域」より低く,「凹領域」より高い「中間領域」が存在して

いる(下の写真において「中間領域」にハッチングを施して示している)。
そうすると,乙30発明の「隆起する領域」と「凹領域」とは隔てられ

た別個独立した領域であるから,構成Hの「隆起する領域が凹領域を備え

ている。」とはいえない。

イ 構成Iについて

上記アのとおり,乙30発明の「隆起する領域」と「凹領域」とは「中

間領域」により隔てられているから,構成Iの「凹領域は,隆起する領域

の周縁部に接続している。」ともいえない。

(2)本件各特許発明との対比

乙30発明と本件特許発明1を対比すると,構成要件1−D,1−E及び

1−Gの点で相違するだけでなく,前記 1 のとおり,乙30発明は,構成

要件1−H及び1−Iについても相違するものである。

このように,5つもの構成要件で相違する乙30発明に基づいて当業者が

本件特許発明1について容易に発明をすることはできない。

(3) 前記相違点に関する構成が単なる設計事項ではないこと

被告は,前記相違点に係る構成が単なる設計事項であると主張する。

しかし,本件各特許発明は,種々のバリエーションの中から,どの形態と
どの形態を選択し,選択された形態を他の構成要素(例えば一の領域や凹領

域)の形態とどのように組み合わせるかという具体的な構成において,進歩

性がある。

前記被告の主張は,前記相違点に係る構成要素(例えば構成要件1−H及

び1−I)との関連性を全く考慮することなく,蓋に設けるフラップの向き

や孔(開口部)の付け方のみを個別に取り出して設計事項であると主張する

ものであり,失当な主張である。

(4)乙13発明との組合せによる容易想到性

以下のとおり,本件特許発明1は乙30発明に乙13発明を適用すること

により当業者が容易に発明をすることができたものではない。本件特許発明

2についても同様である。

ア 技術分野の相違

乙30発明は,ねぎ等の薬味を収容することを目的としたものであり,

粉粒体を収容することを予定したものではない。

また,乙13は加熱可能な容器の発明ではない。

このように,乙30発明と乙13発明とは技術分野が相違するから,乙

13発明の構成を乙30発明に適用することはできない。

構成要件1−D及び1−Eに係る構成の容易想到性がないこと

前記 3 のとおり,前記 2 の相違点は,単なる設計事項ではない。

また,乙30発明に乙13発明の外開きフラップを適用した場合に,当

該フラップが基端部を介して「隆起する領域」(本件特許発明1の「一の

領域」に相当)に一体的に接続されるのが自然かつ合理的であるという被

告の主張は,理由が全く不明である。

そもそも,前記 1 のとおり,乙30発明では,「隆起する領域」と「凹

領域」が隔てられた別個独立した領域であり,開閉部材(フラップ)は「隆

起する領域」と隔てられた「凹領域」に収容され,その先端部は「隆起す
る領域」から離れた位置にある。

そうすると,外開きフラップを用いた場合でも,フラップが収容された

「凹領域」内に「隆起する領域」と隔てられて設けられるのが自然かつ合

理的であり,「凹領域」から離れた「隆起する領域」に接続して設けられ

るのは不自然かつ不合理である。

そもそも,フラップの基端部の位置は,フラップが設けられた位置に

よって変わるものであり,内向きか外向きかのみにより定まるものではな

い。

(5)乙10発明との組合せによる容易想到性

以下のとおり,本件特許発明1は乙30発明に乙10発明を適用すること

により当業者が容易に発明をすることができたものではない。本件特許発明

2についても同様である。

ア 乙10発明の構成

前記6【原告の主張】 1 ア エ 及び オ のとおり,乙10発明は,本件

特許発明1の構成要件1−H及び1−Iの構成を有しない。

前記 1 のとおり,乙30発明もこれらの構成要件に相当する構成を有

しないから,乙30発明に乙10発明の構成を適用しても,本件特許発明

1の構成を得ることはできない。

イ 技術分野の相違

前記 4 アのとおり,乙30発明は粉粒体を収容することを目的とする

ものではない。

また,乙30発明は加熱可能な容器であるのに対し,前記6【原告の主

張】 1 ア ア のとおり,乙10発明は加熱不能な容器であり,異なる技術

分野に属するものである。

構成要件1−D及び1−Eに係る構成の容易想到性がないこと

前記 4 イと同様,乙30発明に乙10発明の外開きフラップを適用し
た場合に,当該フラップが基端部を介して「隆起する領域」(本件特許発

明1の「一の領域」に相当)に一体的に接続されるのが自然かつ合理的と

はいえない。

(6)乙21発明との組合せによる容易想到性

以下のとおり,本件特許発明1は乙30発明に乙21発明を適用すること

により当業者が容易に発明をすることができたものではない。本件特許発明

2についても同様である。

ア 技術分野が相違すること

前記7【原告の主張】 4 アのとおり,乙21の蓋体は,加熱可能なも

のではなく,乙30発明と技術分野が相違する。

構成要件1−D及び1−Eに係る構成の容易想到性がないこと

前記 4 イのとおり,乙30発明に乙21発明の外開きフラップを適用

した場合に,当該フラップが基端部を介して「隆起する領域」(本件特許

発明1の「一の領域」に相当)に一体的に接続されるのが自然かつ合理的

とはいえない。

9 争点9(本件各特許発明は,乙21発明に基づいて当業者が容易に発明をす

ることができたものであるか)について

【被告の主張】

以下のとおり,本件特許発明1は,乙21発明に基づいて当業者が容易に発

明をすることができたものである。本件特許発明2についても同様である。

(1) 乙21発明の構成

乙21発明の構成は前記7【被告の主張】 6 アのとおりである。

(2) 本件各特許発明との対比

乙21発明と本件特許発明1を対比すると,以下の一致点及び相違点があ

る。本件特許発明2についても同様である。

ア 一致点
乙21発明の「容器蓋2」,「周辺リム27」,「外面33」,「カバー

7」及び「フィルムヒンジ32」は,それぞれ本件特許発明1の「蓋体」,

「周縁領域」,「一の領域」,「フラップ」及び「基端部」に相当する。

したがって,乙21発明は,本件特許発明1の構成要件1−A,1−B,

1−C,1−E,1−F,1−G,1−H,1−I及び1−Jに相当する

構成を有する。

イ 相違点

本件特許発明1は,構成要件1−Dの「前記一の領域は,前記容器内の

流体を排出可能な穴部と,該穴部を閉塞可能な突起部を備えるフラップ部

を備え」ている。

これに対し,乙21発明は,通気孔4(本件特許発明1の「流体を排出

可能な穴部」に相当)が突起部ではなく,シール片3により閉塞される点

で相違する。

(3)容易想到性

本件優先日前において,食品容器の蓋に開閉部材(フラップ)が備えられ

たものについて,フラップに設けた突起部により蓋に設けられた孔(開口部)

を閉塞可能とすることは,周知であった。

そうすると,乙21発明の「シール片3」に替えて上記周知技術を適用す

ることは,当業者が容易にすることができる設計変更にすぎない。

【原告の主張】

以下のとおり,本件特許発明1は,当業者が乙21発明に基づいて容易に発

明することができたものではない。本件特許発明2についても同様である。

(1)乙21発明の構成

前記7【原告の主張】 4 アのとおり,乙21発明の蓋体は,加熱可能な

ものではないから,本件特許発明1と技術分野が相違する。

(2)本件各特許発明との対比
被告が主張する構成要件1−Dに関する相違点に加え,前記 1 のとおり,

乙21発明の蓋体は加熱可能なものではないから,構成要件1−Aについて

も相違する。

(3)容易想到性

乙21発明は容器内部を真空とすることを目的とする発明であり,シール

片3は容器内を真空とするための弁の機能をするものであるから,乙21発

明に必要不可欠な構成である。

これを本件特許発明1の突起部に代えると,乙21発明の目的(容器内部

を真空とする)を達成することが不可能となるから,明確な阻害要因がある。

したがって,乙21発明には,本件特許発明1との相違点であり,かつ,

本件特許発明1の特徴点の1つである構成要件1−Dについて,当該特徴点

に到達するためにしたはずであるという示唆等がないことは明らかである。

争点 (損害額)について

【原告の主張】

(1)被告各製品の売上高

平成22年3月12日から平成25年4月20日までの期間における被告

各製品の譲渡数量は合計617万9943個であり,売上高は合計5億95

10万5017円である。

(2)主位的請求原因(特許法102条2項に基づく損害額

ア 特許法102条2項が適用されること

原告は,原特許発明実施品である食品包装用容器(商品名「スマート

ラップ」。以下,「原告製品」という。)について,平成18年11月頃

からスーパーマーケットやホームセンター等の小売店向けに販売している。

原告製品と被告各製品は販路が重なり,市場で完全に競合する関係にあ

る。また,フラップ部が一体成型された食品包装用容器は,原告製品と被

告各製品以外に存在しない。
したがって,被告の行為(本件特許権侵害)がなければ,原告は被告各

製品の譲渡数量に相当する利益を得ることができたから,特許法102条

2項が適用される。

イ 経費

同種商品の一般的な経費率からすると,被告の利益率が30%を下回る

ことはない。

被告は,次のとおりの金額を主張している。

製造原価 :3億3427万3116円

うち成型工賃 :7798万8809円

成型工賃控除後:2億5628万4307円

値引き・返品:704万8098円

販売経費 :8236万2534円

被告が主張する成型工賃7798万8809円(内訳:成型機械チャー

ジ料,成型機械の減価償却費,光熱費等)のうち,成型機械チャージ料の

費目は内容が不明である。また,成型機械の原価償却費は,被告各製品の

製造を行わなかったとしても支出していた経費であり,変動経費ではない。

光熱費等が被告各製品の製造に使用されたものであることの立証もない。

被告が主張する金型製作費用1億9134万円は固定経費であるから,

特許法102条2項の利益額の算定において控除すべきものではない。こ

のうち容器本体部分の金型の製作費用9499万円は他の容器にも転用可

能なものである。

そうすると,被告の主張を前提としても,被告が得た利益の額は2億4

941万0078円である。

〔計算式〕 4 4 − 4 4 − 4 4 − 4 4

= 4 4

ウ 寄与度
蓋体とフラップ部が一体成型された電子レンジ対応型簡易保存容器は,

原告製品と被告各製品以外にはほとんど存在しない。被告が主張する乙3

0発明に係る容器は,市場ではほとんど見かけないものであるし,フラッ

プ部が飛び出ているなど形状が異なる。

本件各特許発明及び原特許発明を回避して,蓋体とフラップ部が一体成

型され,かつ使い勝手のよい製品を設計するのは極めて困難である。した

がって,仮にこれらの特許発明を回避した製品が製造販売されたとしても,

原告製品の競合品とはならない。

被告各製品が相当程度の市場占有率を有するのは,被告が本件各特許発

明を無断で実施していることによるものであるから,本件各特許発明の被

告各製品の売上げに対する寄与度は100%である。

エ 弁護士費用

上記利益額の10%に相当する弁護士費用及び弁理士費用は,本件と相

当因果関係のある損害である。

オ まとめ

特許法102条2項に基づき損害額を算定すると,2億7435万10

85円となる。

〔計算式〕 4 4 × + 5 = 4 4

(3)予備的請求原因(特許法102条3項に基づく損害額

実施料

原告製品と被告各製品は市場で競合する関係にあり,通常であれば,原

告から被告に対し,本件特許権に係る実施許諾をすることはあり得ない。

このような原告と被告との関係からすると,実施料率は売上高の5%が

相当である。

イ 寄与度

特許法102条3項損害額の計算では,実施料率の算定において特許
の技術的価値に関する評価がなされているから,被告が主張する寄与度に

基づく減額をする余地はない。

損害額

したがって,売上高5億9510万5017円に実施料率5%を乗じた

2975万5250円が損害額である。

〔計算式〕 4 4 × 5 ≒ 4 4

エ 弁護士費用及び弁理士費用

上記損害額の10%に相当する弁護士費用及び弁理士費用は,本件と相

当因果関係のある損害である。

オ まとめ

特許法102条3項に基づき損害額を算定すると,3273万0775

円となる。

〔計算式〕 4 4 × + 5 = 4 4

【被告の主張】

(1)被告各製品の売上高

前記【原告の主張】 1 は認める。

(2)特許法102条2項損害額

以下のとおり,特許法102条2項による損害額は0円である。

ア 特許法102条2項が適用されないこと

フラップ部が蓋体と一体となっているタイプのプラスチック容器には,

原告製品と被告各製品の他に乙30発明に係る製品が存在する。

乙30発明に係る製品の製造販売・営業活動によって原告の利益が減少

した可能性及び被告の行為により当該製品に係る利益が減少した可能性も

充分にある。

また,フラップ部が蓋体と別パーツになっているタイプのプラスチック

容器については,上記3社以外にも多数の業者が製造販売しており,市場
で競合している状態にある。

したがって,「特許権者に,侵害者による特許権侵害行為がなかったな

らば利益が得られたであろうという事情」はない。

イ 経費

以下のとおり,経費は合計6億1502万3748円であり,売上高を

上回るから,被告が受けた利益はない。

(ア)製造原価合計3億3427万3116円

内訳は,@ 原料(プラスチックバージン原料),A マスターバッチ

(プラスチックバージン原料に顔料を練り込ませたもので,プラスチッ

クに着色する際に使用する。),B 資材(製品を複数個まとめるための

包装資材,包装資材に貼り付けるラベル・シール等),C 箱・段ボール

(外装ケースの段ボール),D 成型工賃(成型機械チャージ料,成型機

械の減価償却費,光熱費等),E 仕組工賃(部品を組み立てる担当者の

工賃等)である。

具体的には次のとおり計算される。

平成22年3月21日から平成25年3月20日までの3年分(対象

期間ともっとも重なりのある3年間)の製造原価は合計3億3808万

4069円であるから,これを同期間における生産数量625万087

5個で除した1個当たりの平均製造原価は,54509円である。

これに当該期間における販売数量617万9943個を乗じた3億3

427万3116円が製造原価である。

〔計算式〕 4 4 ÷ 4 4 ≒ 5

5 × 4 4 ≒ 4 4

(イ)値引き返品分合計704万8098円

(ウ)販売経費合計8236万2534円

内訳は,@ 運賃(製品出荷に関わる運送業者への支払),A 物流業
務委託費(委託物流業者に対する製品保管料及び配送代行費用の支払),

B 販売手数料(販売先が当社からの仕入代金の支払の際に現金支払[支

払期間短縮]を条件に,支払代金より一定の歩引き[値引]を行う際の

支払),C 協賛費(割戻契約に基づく,販売先への協賛金及びリベート

の支払)である。

具体的には,次のとおり計算される。

過去3年間(平成21年3月21日から平成24年3月20日までの

期間)における被告の全製品の売上げに占める上記各項目の比率及び平

均販売経費率は運賃4503%,物流業務委託費3558%,販売手数料

0558%,協賛費5565%であり,販売経費率合計は13584%であ

る。

これを前記 1 の売上高に乗じた8236万2534円が販売経費で

ある。

〔計算式〕 4 4 × 5 ≒ 4 4

(エ)金型製作費用1億9134万円

被告各製品の製造に当たっては,それぞれの金型を新規に発注した。

これらの金型は専用品の金型であり,他の被告製品に使用することので

きないから,上記費用は全額控除されるべきである。

(オ)経費等合計 6億1502万3748円

〔計算式〕 4 4 + 4 4 + 4 4 + 4 4

= 4 4

ウ 寄与度

被告各製品1から6までについては,@ やま型の蓋が食材を押し付け

ない構造を採用している点,A 熱くなっても,蓋を開けるのが簡単な構

造を採用している点,スタッキングができる構造を採用している点, 内
B

容物の容量が分かる,便利な目盛がついている点,C 内容物の容量が分
かる便利な目盛がついている点など,本件各特許発明以外の部分で売り上

げに貢献している箇所が数多くある。

被告各製品7から13までについては,@ 熱くなっても運びやすい便

利な持ち手を付けている点,A 内容物の容量が分かる便利な目盛がつい

ている点がある。

また,被告は,被告各製品について以下の意匠権を保有しており,被告

各製品の優れたデザインが,販売量の増加に貢献している。

意匠登録第1367125号(被告各製品1〜3)

意匠登録第1367126号(被告各製品4〜6)

意匠登録第1393484号(被告各製品7〜9)

意匠登録第1393485号(被告各製品10〜13)

さらに,前記アのとおり,競合する製品は他にも多数ある中で,本件各

特許発明(フラップ部外向きタイプである点,凹領域が一の領域上面の周

縁部の接続している点などの特徴を有する。)は,他社製品と差別化して

売り上げを上げるだけの特徴に乏しい。

その他,被告の営業努力や原告が本件各特許発明の特徴部分を宣伝広告

で一切強調していないことからすれば,本件各特許発明の被告各製品の売

上げに対する寄与度は,せいぜい10から20%程度にすぎない。

(3)特許法102条3項損害額

実施料

プラスチック製品の実施料率(イニシャル無し)は,昭和63年度〜平

成3年度の平均値が「459%」 平成4年度〜平成10年度の平均値が
, 「35

9%」である。

このような実施料率の低減傾向に鑑みると,本件における実施料率とし

ては,せいぜい3%が妥当である。

イ 寄与度
特許法102条3項実施料を計算するに当たっては,実施料率に加え

て寄与度も考慮すべきである。

本件特許各発明の被告各製品の売上げに対する寄与度は,前記 2 ウの

とおり,せいぜい10から20%程度にすぎない。

損害額

損害額は,売上高5億9510万5017円に,実施料率3%及び寄与

度20%を乗じた357万0630円を上回ることはない。

〔計算式〕 4 4 × 5 × 5 = 4 4

第4 当裁判所の判断

1 争点1(被告蓋体は,本件特許発明1の構成要件を文言上充足するか)につ

いて

以下のとおり,被告蓋体は,本件特許発明1の構成要件を文言上充足する。

(1)被告蓋体の構成及び本件特許発明1の「一の領域」の意義

証拠(甲3,4)によれば,被告蓋体は,前記第3の1【原告の主張】 1

アからエまでの構成を有することが認められる。

被告は,本件特許発明1の「一の領域」について,周縁領域よりも低く隆

起しているフラップ部周囲領域をいうものであり,被告蓋体はフラップ部周

囲領域の隆起が周縁領域よりも高いから,「一の領域」の構成を有しない旨

主張する。

そこで検討すると,本件特許発明1に係る特許請求の範囲及び本件明細書

等を子細に検討しても,「一の領域」について,被告が主張するような限定

をした記載は見当たらない。

被告は,本件明細書等(特に出願の願書に添付された図面)には,「一の

領域」について,周縁領域よりも低く隆起する領域のみが開示されており,

それ以外の態様は全く示されていない旨主張する。しかしながら,上記各図

面等は,発明を実施するための最良の形態等を表したものにすぎない。本件
特許発明1の技術的範囲について,実施例等で開示された構成に限定して解

釈する理由はないから,上記主張は失当である。

(2)構成要件充足性

前記 1 によれば,被告蓋体は,本件特許発明1の構成要件を文言上充足

すると認めることができる。以下,被告の主張を踏まえ,敷衍して説明する。

ア 「一の領域」の充足性

前記 1 のとおり,被告蓋体は,「一の領域」の構成を有するものと認

められる。

構成要件1−Eの意義

前提事実 3 アのとおり,構成要件1−Eは,「該フラップ部は,前記

一の領域に一体的に接続する基端部を備えるとともに,該基端部を軸に回

動し,」というものである。

この点について,被告は,フラップ部の基端部が「一の領域の縁部に」

接続する必要がある旨主張する。しかし,特許請求の範囲の記載は,上記

のとおりであって,その文言からすれば,フラップ部の基端部は,一の領

域に一体的に接続している構成のものであれば足りるものと解される。本

件明細書等をみても,被告が主張するような限定を付したものと解すべき

記載は見当たらない。

被告は,原告が原出願に対する審査手続において提出した意見書の記載

によれば,フラップ部の基端部が一の領域の縁部以外の部分に接続される

態様のものは意識的に除外されている旨主張する。

そこで検討すると,上記意見書(乙3)の記載によれば,原告は,原出

願の審査手続において,原特許発明の構成を前提として,フラップ部の基

端部を「一の領域」の「縁部」に接続させた場合の優位性について審査官

に説明したことが認められる。しかし,本件特許発明1に係る特許請求の

範囲や本件明細書等には,被告が主張するような限定をする旨の記載はな
い。本件特許発明1の技術的範囲を解釈するに当たり,原特許発明の構成

に限定する理由はないものといわなければならない。

なお,本件特許に分割要件違反がないことは,後述のとおりである。

構成要件1−K及び1−Lの付加の必要性について

被告は,原出願に係る明細書等には,「フラップ部周囲領域の角隅部の

1つが周縁領域の角隅部に隣接し(構成要件1−K),かつ,その角隅部

に開口部及びフラップ部が設けられる(構成要件1−L)」構成のものし

か開示されていないから,本件特許発明1の技術的範囲を解釈するに当

たっても,これらの構成要件を付加すべきであると主張する。

しかし,本件特許発明1の【特許請求の範囲】や本件明細書等には被告

が主張するような限定をする旨の記載はない。

上記1のとおり,本件特許発明1の技術的範囲を解釈するに当たり,原

特許発明の構成に限定する理由はないし,本件特許に分割要件違反がない

ことは,後述のとおりである。

エ 他の構成要件の充足について

被告は,被告蓋体が,上記アからウ以外の点について,本件特許発明

構成要件を充足することを明らかには争わない。

2 争点2(被告容器は,本件特許発明2の構成要件を文言上充足するか)

以下のとおり,被告容器は,本件特許発明2の構成要件を文言上充足する。

(1)被告蓋体の構成及び本件特許発明2の「一の領域」の意義

証拠(甲3,4)によれば,被告蓋体は,前記第3の2【原告の主張】 1

アからエまでの構成を有することが認められる。

前記1 1 と同様の理由から,本件特許発明2の「一の領域」に関する被

告の主張(前記第3の2【被告の主張】 1 )は採用することができない。

(2)構成要件充足性

前記 1 によれば,被告容器は,本件特許発明2の構成要件を文言上充足
すると認めることができる。

構成要件充足性に関する被告の主張(前記第3の2【被告の主張】 3 )

を採用することができないのも,前記1 2 と同様である。

3 争点3(本件特許出願に分割要件違反があるか等)について

以下のとおり,本件特許出願に分割要件違反があるとは認められない。

(1) 原出願に係る明細書等(乙1出願公開)の記載

乙1出願公開には,以下の記載がある。

ア 課題を解決するための手段

[0011]本発明は,食材を収容する容器の胴体部の開口部を閉塞する

蓋体であって,平板状の蓋体本体部と,直線状に形成された基端部を備え,

該基端 部を 軸と して 回動 可能に 前記 蓋体 本体部 と接 続す る平 板状 のフ

ラップ部を備え,前記蓋体本体部には開口部が設けられ,前記フラップ部

下面には,該フラップが前記蓋体本体部に平行に配される第1位置にある

とき,前記蓋体本体部の開口部を閉塞する突起部が形成され,前記蓋体本

体部と前記フラップ部が一体的に同時射出成型により形成されることを

特徴とする蓋体を提供する。

[0017]本発明は更に,食材を収容する一端有底筒状の容器胴体部と,

容器胴体部上面の開口部を閉塞する蓋体からなる容器であって,蓋体が,

平板状の蓋体本体部と,直線状に形成された基端部を備え,基端部を軸と

して回動可能に蓋体本体部と接続する平板状のフラップ部を備え,蓋体本

体部には開口部が設けられ,フラップ部下面には,フラップが前記蓋体本

体部に平行に配される第1位置にあるとき,蓋体本体部の開口部を閉塞す

る突起部が形成され,蓋体本体部と前記フラップ部が一体的に同時射出成

型により形成されることを特徴とする容器を提供する。

イ 発明の効果

[0023]本発明において,フラップ部の位置や方向は限定されない。
例えば,図14及び図15に関連して説明した容器の構造においては,フ

ラップ部の位置は周縁部に限定されるとともに,フラップ部基端部からフ

ラップ部先端部への方向ベクトルは,蓋体中央部に向かうものに限定され

るものであった。一方,本発明においては,フラップ部と蓋体本体部が同

時射出成型プロセスを経て成型されるので,蓋体本体部上の所望の位置に

フラップ部を成型可能となる。この結果,蓋体本体部の中央領域にフラッ

プ部を配したり,蓋体本体部の周縁近傍にフラップ部を配したりすること

が可能となる。また,フラップ部基端部からフラップ部先端部への方向ベ

クトルが,蓋体周縁から蓋体中央に向かうようにフラップ部の方向を定め

ることや,フラップ部基端部からフラップ部先端部への方向ベクトルが,

蓋体中央から蓋体周縁へ向かうようにフラップ部の方向を定めることが

可能である。

蓋体本体部中央領域に開口部を形成し,フラップ部の突起部でこの開口

部を閉塞した場合には,効率的に容器内部の水蒸気や膨張した空気を排出

可能となる。蓋体本体部の周縁領域近傍に開口部を形成し,フラップ部基

端部からフラップ部先端部への方向ベクトルが,蓋体中央から蓋体周縁へ

向かうようにフラップ部を方向付けるとともにフラップ部の突起部でこ

の開口部を閉塞できるようにフラップ部を配した場合には,加熱調理後,

容器内の水分を,開口部を通じて,排出可能である。この結果,本発明の

容器は,パスタ等の調理に好適に使用可能となる。

[0026]フラップ部が蓋体本体部の開口部を閉塞している状態におい

て,フラップ部先端部の下方の蓋体本体部の領域には,凹部が形成される

ことが好ましい。この結果,フラップ部の先端部が凹部の上縁を部分的に

横切ることとなり,使用者の指がフラップ部先端に引っ掛かりやすくなる。

したがって,容易にフラップ部を上方に回動することが可能となる。

[0028]フラップ部を下方に回動し,フラップ部の突起部を蓋体本体
部の開口部と嵌合させたとき,フラップ部の上面が蓋体本体部上面から突

出しないように,蓋体本体部に凹領域を形成することが好ましい。この結

果,蓋体上に他の容器を安定的に積み重ねることが可能となる(略)。

ウ 発明を実施するための最良の形態

[0033]蓋体 2 は,略平板状に形成される蓋体本体部 21 と,フラッ

プ部 22 を備える。

蓋体本体部 21 は,蓋体本体部 21 外周輪郭形状を定める周縁領域

211 と,フラップ部 22 周囲を取り囲むフラップ部周囲領域 212

と,周縁領域 211 とフラップ部周囲領域 212 の間に配されるととも

にこれら領域 211,212 を接続する中間領域 213 の3つの領域か

らなる。図1及び図2に示す蓋体 2 においては,フラップ部周囲領域 2

12 は,蓋体本体部 21 の中央部分を占めるが,本発明においては,こ

れに限定されるものではなく,周縁領域 211 に隣接して形成されても

よい。

[0034]図1及び図2に示す例において,周縁領域 211 とフラッ

プ部周囲領域 212 は,中間領域 213 に対して上方に隆起している。

また,周縁領域 211 は,フラップ部周囲領域 212 よりも高く隆起し

ている。更に,周縁領域 211 の角隅部には,平面視略半円形状に形成

されるとともに外方に突出する摘み部 214 が形成される。摘み部 21

4 により,蓋体 2 の容器胴体部 3 からの取外し或いは容器胴体部 3

への取り付けが容易になる。

[0047]図10は,図1乃至図6に示す蓋体 2 の更なる変更形態を

示す平面図である。

図10に示す蓋体 2 のフラップ部 22 は,蓋体本体部 21 の周縁領

域 211 に隣接して配される。フラップ部 22 は,フラップ部周囲領域

212 に取り囲まれる。
図10に示すフラップ部周囲領域 212 は平面視略矩形状であり,フ

ラップ部周囲領域 212 の角隅部のうち1つは,平面史略矩形状の周縁

領域 211 の角隅部に隣接し,このフラップ部周囲領域 212 の角隅部

を挟む2つのフラップ部周囲領域 212 の境界が,周縁領域 211 の内

縁に接している。

周縁領域 211 の角隅部に隣接するフラップ部周縁領域 212 の角

隅部には,開口部 12 が形成される。また,フラップ部 22 は,開口部

121 を閉塞する突起部 222 を備える。

フラップ部 22 の基端部 221 は,フラップ部 22 先端部よりも蓋

体 2 内方に位置する。周縁領域 211 とフラップ部周囲領域 212 は,

これらの領域 211,212 を接続する中間領域 213 に対して隆起し

ている。フラップ部 22 の先端部は,周縁領域 211 とフラップ部周囲

領域 212 の隣接するスロープによって形成される谷状部に向けて突出

する。このため,図10に示す実施形態においては,図1乃至図6に示す

蓋体 2 の凹部 123 は形成されず,フラップ部 22 を収容する凹領域

122 のみが形成されている。

このように蓋体 2 の角隅部に開口部 121 を形成することにより,加

熱調理により容器 1 内に収容された食材から生じた水分を,開口部 12

1 を通じて容器 1 外に容易に排出可能となる。

エ 図面

[図10]本発明に係る容器に用いられる蓋体の他の実施形態を示す平面

図である(なお,実際の図10の符号のうち,誤記と思われるものについ

ては訂正している。)。
(2)構成要件1−C及び2−Cの「一の領域」

以下の理由から,「一の領域」という構成が原特許発明にはない新たな技

術的事項を導入したものであるとはいえない。

ア 「一の領域」の意義について

被告は,本件各特許発明構成要件1−C及び2−Cの「一の領域」は,

その隆起する高さ及び蓋体のどの部位を起点に「隆起」しているのかも特

定されていないと主張する。

本件各特許発明において「隆起する一の領域」は,周縁領域により囲ま

れる領域内部の構成であり(構成要件1−C及び2−C),フラップ部を

備えた構成であるところ(構成要件1−D及び2−D),周縁領域の領域

内において,相対的に隆起した領域であれば足りる。

乙1出願公開の段落[0033]及び[0034](前記 1 ウ)によ

れば,フラップ部周囲領域は,周縁領域により囲まれる領域内部において

隆起し,フラップ部を備えた構成であるから,本件各特許発明の「隆起す
る一の領域」に相当するものであることが明らかである。この点において,

本件各特許発明が新たな技術的事項を導入するものであるなどとはいえな

い。

イ 「一の領域」の高さについて

被告は,本件各特許発明が,乙1出願公開に記載のない態様,例えば,

周縁領域よりも高く隆起する領域を有するものや,中間領域が一の領域よ

りも高く隆起するような態様までをも包含しているから,分割要件に違反

する旨主張する。

そこで検討すると,前記 1 ウのとおり,乙1出願公開において本件特

許発明に対応する段落[0047]及び[図10]の記載をみると,周縁

領域とフラップ部周囲領域との高さの関係については何ら限定されてい

ない。そもそも[図10]は平面図であるから高さ関係自体は不明である。

乙1出願公開の段落[0034]には,「周縁領域 211)は,フラッ

プ部周囲領域 212)よりも高く隆起している。 旨の記載があるものの,


これは[図10]とは別の実施例に関するものである。

(3)構成要件1−G及び2−G並びに1−I及び2−I

以下の理由から,これらの構成要件が新たな技術的事項を導入したもので

あるとはいえない。

構成要件1−G及び2−G並びに1−I及び2−Iの構成について

被告は,本件各特許発明が,原出願において開示されたもの以外の発明,

例えば,フラップ部周囲領域のいずれの角隅部も周縁領域の角隅部に隣接

していないものや,開口部がフラップ部周囲領域の角隅部以外の部位,例

えば当該角隅部から離れた部位に設けられたものを含んでいるから,分割

要件に違反する旨主張する。

前記 1 イのとおり,乙1出願公開の段落[0023]には,「本発明

において,フラップ部の位置や方向は限定されない。」「蓋体本体部上の
所望の位置にフラップ部を成型可能となる。この結果,蓋体本体部の中央

領域にフラップを配したり,蓋体本体部の周縁近傍にフラップ部を配した

りすることが可能となる。」との記載がある。

段落[0047]及び図10の記載は,これを受けた一実施例にすぎな

い。当該記載に接した当業者であれば,誰もが,フラップ部周囲領域のい

ずれの角隅部も周縁領域の角隅部に隣接していないものや,開口部がフ

ラップ部周囲領域の角隅部以外の部位,例えば当該角隅部から離れた部位

に設けられた構成とすることもできることを,当然に理解することができ

るものというべきである。

そうすると,構成要件1−G及び2−G並びに1−I及び2−Iの構成

は,乙1出願公開の記載から自明な事項である。

イ 作用効果について

被告は,乙1出願公開の段落[0047]及び図10の構成では,フラッ

プ部を開放しやすいこと及びフラップ部を収容する凹領域に汚れが溜ま

りにくいことという本件各特許発明の作用効果を奏することはできず,前

記アの構成は新たな技術的事項を導入したものである旨主張する。

前記 1 イのとおり,原特許発明の作用効果について,乙1出願公開

段落[0026]には,「フラップ部が蓋体本体部の開口部を閉塞してい

る状態において,フラップ部先端部の下方の蓋体本体部の領域には,凹部

が形成されることが好ましい。この結果,フラップ部の先端部が凹部の上

縁を部分的に横切ることとなり,使用者の指がフラップ部先端に引っ掛か

りやすくなる。したがって,容易にフラップ部を上方に回動することが可

能となる。」との記載がある。

乙1出願公開の段落[0047]及び図10の構成は,原特許発明の一

実施例にすぎないから,フラップ部の先端を空けやすくする程度に,周縁

領域とフラップ部周囲領域との間隔を空けることは,当業者において当然
に理解することができるものである。

また,段落[0023]には,「蓋体本体部の周縁領域近傍に開口部を

形成し,フラップ部基端部からフラップ部先端部への方向ベクトルが,蓋

体中央から蓋体周縁へ向かうようにフラップ部を方向付けるとともにフ

ラップ部の突起部でこの開口部を閉塞できるようにフラップ部を配した

場合には,加熱調理後,容器内の水分を,開口部を通じて,排出可能であ

る。この結果,本発明の容器は,パスタ等の調理に好適に使用可能となる。」

との記載がある。段落[0047]にも「加熱調理により容器 1 内に収

容された食材から生じた水分を,開口部 121 を通じて容器 1 外に容易

に排出可能となる。」旨の記載がある。

これらの記載によれば,乙1出願公開の段落[0047]及び図10の

構成によっても,フラップ部を収容する凹領域に汚れが溜まりにくいとい

う作用効果を奏しうることは十分に認められる。

4 争点4(本件特許出願に係る補正について,特許法17条の2第3項の違反

新規事項の追加)があるか)について

原告が,平成22年1月18日付け手続補正書により,本件特許発明1につ

いて構成要件1−G及び1−Iの構成を付加する補正をし,本件特許発明2に

ついて構成要件2−G及び2−Iの構成を付加する補正をしたことについては,

当事者間に争いがない。

被告は,これらの構成要件について,原出願に係る当初の明細書等に全く記

載がないから,上記補正には,特許法17条の2第3項の違反(新規事項の追

加)がある旨主張する。

前記3 3 のとおり,構成要件1−G及び2−G並びに1−I及び2−Iの

構成は,乙1出願公開の記載から自明な事項であるところ,本件特許出願の当

初明細書及び図面にも同様の記載が認められる(本件明細書等の段落【002

6】,【0047】及び図10の各記載が,乙9の補正書によって,実質的に
変更されたとは認められない。)。

したがって,本件特許出願に係る補正について,特許法17条の2第3項

違反(新規事項の追加)があると認めることはできない。

5 争点5(本件特許出願について,特許法36条6項1号(サポート要件)の

違反があるか)について

被告は,構成要件1−C及び2−Cの「隆起する一の領域」及び構成要件1−

G及び2−G並びに1−I及び2−Iは,本件明細書による開示の範囲も超え

るものであり,サポート要件に違反する旨主張する。

そこで検討すると,【特許請求の範囲】の記載によれば,本件各特許発明

おいて「隆起する一の領域」は,周縁領域により囲まれる領域内部の構成であ

り(構成要件1−C及び2−C),フラップ部を備えた構成である(構成要件

1−D及び2−D)ことが読み取れる。また,「一の領域」の高さについて周

縁領域の高さとの関係については限定が付されていない。

構成要件1−G及び2−G並びに1−I及び2−Iについても,前記4のと

おり,本件明細書等の【発明の詳細な説明】の段落【0026】,【0047】

等に記載がある。

したがって,本件特許出願について,特許法36条6項1号(サポート要件)

の違反があると認めることはできない。

6 争点6(本件各特許発明は,乙10発明と同一又は当業者が乙10発明に基

づいて容易に発明をすることができたものであるか)について

(1)乙10公報の記載

乙10公報に記載された発明(乙10発明)は,「&'()*+,-./&01

1+2&.02() 1-+/3)( 6+) 70/,(2/028 /+-07/(固形物を適量ずつ

取り出すための熱可塑性容器の蓋)」に関するものである。

乙10公報には以下の記載がある。

ア 図面
イ 発明の背景

「この発明は,粉体材料( :細かく分割され

た固形物)を収容する容器に固定されたときに清潔で衛生的な密封と容器
収容物の簡便な分配とを可能にする容器蓋に関する。」

発明の詳細な説明

「図面を参照すると,図1は本発明に係る一体的で着脱可能な熱可塑性容

器蓋1を示す。この容器蓋1は実質的に平坦な円形の基体の周縁から下方

に延びる下延壁5を有する。この壁はしばしば『スカート』とも称される。

図4に示すように,前記下延壁5はその内周面にねじ7等の装着部を有し,

容器9に対して容器蓋1が着脱可能に装着される。ねじ7は,容器9の首

部において対応するねじ11とともに用いられるように図面では描かれて

いるが,下延壁は他の装着部,例えば容器首部のリブに摩擦によって係合

される溝や,その他の公知の装着手段が適用される。この蓋が容器の特定

部位に強固に装着されたとき,その装着されたボトル( :瓶)やジャー

( :広口瓶)の首部は前記スカートによって包囲され,容器首部の唇部

は基体3の外延及び前記壁の範囲内で基体3の下面を支持しながらこれと

の間でシールを形成する。

前記基体3はその上に隆起した台部13を有し,この台部13は第1隆

起平坦面15を有する。この第1平坦面はしばしば『下側隆起領域』と呼

ばれ,基体と平行な平面を構成する。この台部は垂直壁すなわち基体の内

側縁の周囲に全周にわたって延びるフランジ17によって基体上に支持さ

れる。この第1台部はこれを貫通する少なくとも一つの分配用孔aを有す

る。この孔は通常は複数設けられ,図例では3つであるが,その大きさ及

び数は適宜変更される。これらはしばしば『ふるい孔』と呼ばれる。これ

らは台部を厚み方向に貫通する単純な孔で,台部の表面から上方または下

方に隆起する縁やスカートを有しない。

基体が構成する円の弦に相当する位置で隆起領域15を横切るように段

部25が一体的に形成され,この段部25は前記隆起領域13を前記の下

側隆起領域または第1台部と,第2台部21を構成する上側隆起領域また
は肩部19とに分割する。この第2台部の上側の曲線境界23は円形の立

直壁17と一体の部分である。この段部を2等分する直径は勿論,段部2

5により形成される円の弦に対して直交しており,この直径は中央の開口

aを2等分する。これにより,前記段部25から最も離れた台部の部分で

の下側隆起領域の孔の位置が確立される。立直肩部19は隆起台部13の

壁17と互いに補い合う外壁23と,内壁25と,を有する。立直壁部に

は蓋フラップ27が開閉可能に連結される。蓋フラップ27は壁25の上

縁に沿って前記立直壁部にヒンジ29を介して開閉可能に取付けられ,こ

のヒンジ29は,立直壁部19とフラップ27との連結部に沿う当該フ

ラップ27の端を撓み可能な膜に薄肉化することで,形成される。この蓋

フラップは実質的に平坦な上面31と下面33とを有し,下面33は少な

くとも一つの突出部35を有し,この突出部はフラップ部が閉じた時に前

記台部13の孔aと嵌合する。孔aの上縁は傾斜していてもよく,突出部

35は孔aの周囲の壁と摩擦により係合して嵌合力を付与しながらも閉位

置のフラップ27を着脱可能に保持するように形成される。」

(2)乙10発明の構成

乙10公報の前記記載(前記 1 )によれば,当該記載部分には以下の発

明が記載されているものと認めることができる。

A 細かく分割された固形物を入れる容器に付けられたときに,清潔で衛生

的な蓋と,容器の内容物を適量ずつ取り出すための便利な手段を選択して

提供する,容器の蓋である。

B 概ね平面的な円形の基体3を有し,基体3はその周縁部に下方に延伸す

る壁5を有している。下方に延伸する壁5は,容器の蓋を取り外しが可能

なように容器9に取り付けるため,内側表面のねじ山7のような取付け手

段を有する。

C 円形の基体3は,その表面に隆起した台部13を有している。
D 台部13は,第1の隆起した平面15を含む。この第1の平面は,固形

物を適量ずつ取り出すことができる少なくとも1つの開口部 を有してい

る。

閉じ蓋27は,下面33に少なくとも1つの突起35を有しており,こ

の突起は蓋が閉じられた位置にあるときに台部13の穴 に嵌る。

E ヒンジ29によって,閉じ蓋27は,開閉可能なように,壁25の上縁

に沿って直立肩部に取り付けられる。

F 閉じ蓋27は,下方に延伸する壁5の外縁に到達していない。

G ヒンジ29は,蓋体の中心位置を挟み,閉じ蓋27の先端とは反対側に

ある。

H 第1の隆起した平面は,閉じ蓋27を載置している。

I 第1の隆起した平面は,高く隆起する領域すなわち第2の台部21を形

成する肩部19に接続している。

J 蓋体である。

(3)乙10発明と本件各特許発明との対比

乙10発明と本件特許発明1を対比すると,以下の一致点及び相違点があ

る。本件特許発明2との対比でも同様である。

ア 一致点

@ 容器の胴体部の開口部を閉塞する蓋体である。

A 蓋体の外周輪郭形状を定めるとともに,前記容器の開口部を形成する

容器の縁部と嵌合する周縁領域を有する。

B 周縁領域により囲まれる領域内部において,隆起する領域を備えてい

る。

C 前記隆起する領域は,穴部と,穴部を閉塞可能な突起部を備えるフ

ラップ部を備えている。

D フラップ部は隆起する領域に一体的に接続する基端部を備えるとと
もに,該基端部を軸に回動する。

E フラップ部の先端部は,周縁領域の外縁に到達していない。

イ 相違点

@ 構成要件1−Aに関する相違点

乙10発明は,細かく分割された固形物を収容するものであるのに対

し,本件特許発明1は,流体物を含む食材を収容するものである。

また,本件特許発明1に係る容器は収容する食材を加熱可能であるの

に対し,乙10公報には容器を加熱可能であることを前提とした記載が

ない。

A 構成要件1−Dに関する相違点

本件特許発明1の穴部は流体物を排出可能とするものであるのに対

し,乙10発明の穴部は固形物を適量ずつ取り出すことができるように

するものである。

B 構成要件1−H及び1−Iに関する相違点

本件特許発明1では,隆起する一の領域がフラップ部を収容する凹領

域を備えている。これに対し,乙10発明では,隆起する領域に相当す

る台部13が低く隆起した領域すなわち第1の台部と,高く隆起する領

域すなわち第2の台部21とに分かれており,第1の隆起部がフラップ

部を載置している。

被告は,乙10発明の第1の隆起部がフラップ部を収容しているから,

上記の点は相違点ではない旨主張する。

そこで検討すると,「収容」とは,一般に,「人や物品を一定の場所

に収め入れること。」をいう。そうすると,「隆起する一の領域」は,

フラップ部をその内側に収め入れる構成のものであると解される。本件

明細書等の【発明の詳細な説明】の記載をみると,「隆起する一の領域」

は「フラップ部周囲領域」と表現され,実施例に係る記載をみても,フ
ラップ部は少なくともその3辺を「一の領域」と接している。これら本

件明細書等の記載は,上記解釈を裏付けるものであり,他に上記解釈に

反する記載はない。

乙10発明のように,単に上面に載置した構成について,「収容」の

技術的範囲に含まれるということはできない。

C 構成要件1−Bに関する原告の主張について

原告は,本件特許発明1の蓋体が容器と嵌合する(構成要件1−B)

のに対し,乙10発明の蓋体は容器と螺合する点においても相違する旨

主張する。

しかし,前記 1 エのとおり,乙10公報には,「図面では,協同す

るねじ山11を首部に有する容器9に用いるため,ねじ山7が描かれて

いるけれども,下方に延伸する壁は,容器の首部のリブに摩擦で係合す

る溝や,従来知られている他の摩擦による取り付け手段のように,他の

取付け手段を有することもできることが理解される。 との記載があり,


蓋体と容器との取付け手段については必ずしも限定されていない。また,

本件明細書等の段落【0030】には,「容器胴体部への蓋体の固定手

段は,特に限定されない。例えば,蓋体周縁部の断面を略U字形状に形

成し,蓋体周縁部を容器胴体部上縁に嵌合させてもよい。或いは,容器

胴体部及び蓋体にねじ部を形成し,蓋体を容器胴体部に螺合させてもよ

い。」との記載(段落【0051】にも同旨の記載)がある。

これらのことからすると,上記原告の主張は採用することができない。

(4)新規性欠如の有無

前記 3 イのとおり,乙10発明と本件特許発明1を対比すると,構成要

件1−A,1−D,1−H及び1−Iに関する相違点があるから,本件特許

発明1は乙10発明と同一であるということはできない。

本件特許発明2についても同様である。
(5)進歩性欠如の有無

以下の理由から,本件特許発明1は,当業者が乙10発明に基づいて容易

に発明することができたものであるとはいえない。本件特許発明2について

も同様である。

構成要件1−A及び1−Dに関する前記相違点の容易想到性

被告は,加熱用の食材容器であって容器胴体部及び蓋体を備え,かつ,

蓋体が穴部とこれを閉塞可能な突起部をもったフラップ部とを備えたもの

は本件優先日前に周知であり,これらの周知の容器に乙10発明の構成を

適用することは何ら困難ではない旨主張する。

しかし,乙10発明の構成を原告が主張する周知の容器の構成に適用す

る動機付けについては全く主張立証がなく,上記被告の主張は採用するこ

とができない。

以下,敷衍して説明する。

(ア)技術分野の関連性

乙10発明は,前記 2 のとおり,上面の穴から細かく分割された固

形物を適量ずつ取り出すことができる容器の蓋に関するものである。

これに対し,本件特許発明1は,「食品等を収容する容器並びにこの

容器に用いられる蓋体に関する。より詳しくは,電子レンジなどの加熱

装置により,収容された食材等を加熱することに適した容器及びこの容

器に用いられる蓋体に関する。」(本件明細書等の段落【0001】及

構成要件1−A)。被告が主張する周知技術も,加熱用の食材容器で

ある。

いずれも容器の蓋である点は共通であるが,明らかに用途(作用,機

能)が異なる。

他に,当業者が前者の構成を後者の構成に転用することを容易に着想

することができたということを基礎づけるような,技術分野の関連性
認めるに足りる主張立証はない。

(イ)課題の共通性

前記 1 アのとおり,乙10発明は,細かく分割された固形物を適量

ずつ取り出すことができる容器の蓋において,「ほこりや細かな固形粒

子が蓄積する部分がないよう,容器の最上部の表面上に出っ張りや凹領

域がない」ようにした点に特徴がある(作用効果を奏する)発明である。

これに対し,本件明細書等には以下の記載がある。

「蓋体本体部の周縁領域近傍に開口部を形成し,フラップ部基端部から

フラップ部先端部への方向ベクトルが,蓋体中央から蓋体周縁へ向かう

ようにフラップ部を方向付けるとともにフラップ部の突起部でこの開口

部を閉塞できるようにフラップ部を配した場合には,加熱調理後,容器

内の水分を,開口部を通じて,排出可能である。この結果,本発明の容

器は,パスタ等の調理に好適に使用可能となる。」(段落【0023】)

本件特許発明1は,このような作用効果を奏する(課題を解決する)

ものである。

このように,乙10発明と本件特許発明1を対比すると,そもそも課

題(作用効果)が異なる。乙10公報には本件特許発明1が解決しよう

とする上記課題を解決するために,乙10発明の構成を転用することが

可能であることを示唆するような記載もない。

構成要件1−H及び1−Iに関する前記相違点の容易想到性

この点に関する被告の主張は,乙10発明がこれらの構成要件に相当す

る構成(フラップ部の少なくとも一部を収容する凹領域)を備えているこ

とを前提とするものである。

しかし,前記 3 イ エ のとおり,乙10発明は当該構成を有しないから,

この点に関する被告の主張も採用することができない。

7 争点7(本件各特許発明は,乙11発明に基づいて当業者が容易に発明をす
ることができたものであるか)について

以下のとおり,本件各特許発明は,乙11発明に基づいて当業者が容易に発

明をすることができたものであるとはいえない。

(1)乙11公報に記載された発明

ア 乙11公報の記載

乙11公報には以下の記載がある。

(ア)特許請求の範囲

【請求項1】

内容物を収容する容器本体 10 ,該容器本体 10 の入口を覆いその縁

全体に結合溝 3 を備えている蓋 20 ,該蓋 20 に装着されて容器本

体 10 の入口を気密に密閉させるパッキング材 30 ,容器本体 10

の両側に突出する係止突起 11 , 20 の両側に回転可能に設置され


て係止突起 11 に着脱可能に固定される取手 40 を備える密閉容器

において,

前記蓋 20 の上部に形成されて下部へ凹入するレバー溝 21 ;該レ

バー溝 21 に上下に回転可能に装着されるレバー 50 ;該レバー溝

21 に形成されて下部へ突出するボス 22 および該ボス 22 の内

径に形成されて上下へ貫通する通気孔 23 ;前記レバー 50 の下部へ

突出して通気孔 23 内に嵌められる突棒 51 ;該突棒 51 の外径に

装着されて通気孔 23 を気密に密閉させるパッキング 60 をさらに

備えることを特徴とする密閉容器。

(イ)発明の詳細な説明

「【0002】

【従来の技術】

一般的に,密閉容器は,おかず・野菜・果物・魚などの各種飲食物を入

れて保管するもので,このような飲食物保管用密閉容器は,図7に示し
たとおり,上部が開口されて飲食物を収容する容器本体,該容器本体の

入口を覆う蓋からなり,この際,前記容器本体と蓋は円形または四角形

などの多様な形状に形成されている(たとえば,特許文献1,2)。」

【0005】

【発明が解決しようとする課題】

しかし,このような飲食物保管用密閉容器において,図8および9に示

したとおり,全体的に均一な外皮厚さ(D=d)で構成される容器本体

10の蓋20に数個の係合手段が備えられている場合にも係合手段によ

り係合される中間部とは異に係合手段がない縁両端部には容器本体10

の端部と蓋20のパッキング材30との間に若干の隙間(?)が存在する

ようになる。よって,保管や携帯時に密閉容器が傾いたり覆られる場合,

係合手段がない部位の容器本体10と蓋20との間の緩い隙間を通じて

汁が外部へ漏れ出る場合が茶飯事であった。このような現象は密閉容器

のサイズが大きい場合にはより甚だしく,キムチなど取り分けて汁類飲

食物が多い韓国飲食物の特性上汁などの液体の漏れは周囲に芳しくない

臭いを漂わせるのみならず空気の通過により飲食物が容易に変質される

原因を提供している。

【0006】

しかも,前記のとおりパッキング材で構成された飲食物保管用容器は,

蓋を閉じた状態で電子レンジに入れて加熱すると,空気膨張により爆発

の危険があるため,特に電子レンジに入れて飲食物を加熱する場合には

必ず蓋を開けて別途の台所用ラップで容器本体をくるんだ後,ラップに

数個の孔を開けた状態で電子レンジに入れて加熱しなければならない

などの煩わしく不便な問題点があった。

【0007】

また,前述のとおり,従来には蓋を取り除いた状態で容器本体を電子レ
ンジに入れて飲食物を加熱したため,加熱時に電磁波が飲食物に直接触

れるようになるので,不安な問題点もあった。

【0008】

しかも,従来の飲食物保管用密閉容器は,蓋を閉じると容器本体の内部

がシリコンなどのパッキング材により密封されてほとんど真空状態に

近くなるため,容器本体に入っている飲食物を取り出すために蓋を開け

るとき容器本体内の真空吸入力により蓋が容易に開けられないなどの

問題点もあった。

【0009】

それで,このような複数の短所を完全に解決し得る密閉容器を開発する

ために多角度に努力を傾注しているが,今までは気密効果を完璧に得ら

れ蓋が覆われて密封された状態でも直ちに加熱できる容器を低廉な単

価で製作し得ない実情である。

【0010】

本発明の主な目的は,前記のごとき従来の欠点を解消するために発明し

たもので,蓋の構造を変更することにより低廉でありながらも簡単な方

式で完璧に気密されることができ,蓋を閉じた状態で直ちに電子レンジ

に入れて内容物を便利に加熱できるようにした密閉容器を提供するこ

とにある。

【0011】

また,本発明の目的は,蓋を開けるとき容器本体の内部に外部空気が流

れ込むようにして蓋を容易に開けられるようにした密閉容器を提供す

ることにある。」

【0012】

【課題を解決するための手段】

前記目的を達成するために本発明による密閉容器は,蓋に通気孔が上下
へ貫通されたレバー溝を形成し,前記レバー溝の通気孔に嵌められる突

棒が備えられたレバーを回転可能に組立て,前記突棒に通気孔を気密に

密閉させるパッキングを装着して構成される。

【0013】

また,本発明では前記目的を達成するための密閉容器は,容器本体の縁

端部と蓋の縁端部をより確実に加圧密着されるようにして一定の衝撃

により容器が傾いたり覆られても容器内の汁が外部へ漏れ出られない

程度に気密効果が確実であり,使用中に蓋の開閉により容器内に残存す

る空気から酸素を吸収することができるので,飲食物の腐敗を防止でき

るよう実用的に製造される。」

「【発明の実施の形態】

以下,添付図面を参照して本発明の技術的構成を詳細に説明する。」

「【0026】

前記レバー溝21の一方の側内部両側には軸溝21−Aが形成され,該

レバー溝21の,前記軸溝21−Aと反対側にはより深く凹入されて指

が嵌められるよう挿入溝24が延長される。この際,挿入溝24を形成

した理由はレバー50をより便利に回転させて開かれるようにするた

めである。」

「【0029】

前記レバー50はレバー溝21に回転可能に組立てられて通気孔23

を開閉させるもので,このようなレバー50の下部には通気孔23内に

嵌められる突棒51が一体に形成され,レバー50の両側にはレバー溝

21の軸溝21−Aに回転可能に嵌められる軸ピン50aが突出し,レ

バー50の,前記軸ピン50aと反対側にはレバー溝21の挿入溝24

に位置する突起52が突出する。」

「【0032】
まず,図2(a)におけるとおり,レバー50を下部へ回転させ押して

閉じるとレバー50の下部に形成された突棒51が通気孔23内に嵌

められ,突棒51に装着されたパッキング60が通気孔23の内径に気

密に密着されながら通気孔23を密閉させるため,この状態では容器本

体10の内部と外部との空気が通じないよう通気孔23は閉鎖される。

【0033】

つぎに,図2(b)におけるとおり,レバー50を上部へ回転させて開

けると突棒51が一体に回転しながら通気孔23から抜き出るため,こ

の状態では容器本体10の内部と外部との空気が通じるよう通気孔2

3が開放される。

【0034】

このような本発明は,図2(b)におけるとおり,蓋20に設置された

レバー50を開けて通気孔23を開放させると容器本体10内の圧力

が通気孔23を通じて外部へ排出されるため,蓋20を開けなくても簡

単にレバー50を開放させた状態で直ちに電子レンジに入れて便利に

飲食物を加熱することができる利点がある。」

「【0036】

併せて,本発明では蓋20を開けるとき,図2−Bにおけるとおり,レ

バー50を開放させると外部の空気が通気孔23を通じて容器本体1

0内に流れ込み容器本体10内の真空状態が解除されるため,蓋20を

容易に開けることが出きる利点がある。」

「【0038】

一方,蓋20を閉じるとき,図2におけるとおり,レバー50を押して

閉じて通気孔23を閉鎖させると,外部の空気が容器本体10内に流れ

込むのが遮断されるため,容器本体10を気密に密閉させることができ

る。」
(ウ)図面

【図1】図1は本発明による密閉容器の第1具体例の主要部を抜粋した

分解斜視図である。




【図2】図2 及び図2 は図1に例示した第1具体例の作動状態を示

した断面図である。
【図3】図3は図1の結合状態を示した斜視図である。




イ 乙11発明の構成

前記アによれば,乙11公報には,以下の発明(乙11発明)の構成が

記載されているものと認めることができる。

A 食材を収容するとともに該食材を加熱可能な容器の胴体部の開口部
を閉塞する蓋体である。

B 前記蓋体の外周輪郭形状を定めるとともに,前記容器の前記開口部を

形成する前記容器の縁部と嵌合する結合溝を有する。

C 前記結合溝により囲まれる領域は,隆起している。

D 前記隆起する領域に,通気孔と,該通気孔を閉塞可能な突棒を備える

レバーを有する。

E 前記レバーは,前記隆起する領域に接続する軸ピンを備えるとともに,

レバー溝に上下に回転可能に装着される。

F 前記レバーは先端に突起を有し,この突起は,前記結合溝の外縁に到

達していない。

G 前記レバーの装着部は,前記レバーの先端部よりも蓋体の中心位置か

ら遠い位置に配されている。

H 隆起する領域は,レバー溝と,レバー溝よりも深い挿入溝とを有し,

これらのレバー溝及び挿入溝にレバーが収容される。

I 前記レバー溝は,前記隆起する領域の周縁部に接続していない。

(2)本件各特許発明との対比

乙11発明と本件特許発明1を対比すると,以下の一致点及び相違点があ

る。本件特許発明2についても同様である。

ア 一致点

乙11発明の「結合溝」,「隆起する領域」,「通気孔」,「突棒」,

「レバー」及び「レバー溝」は,それぞれ本件特許発明1の「周縁領域」,

「一の領域」,「穴部」,「突起部」,「フラップ部」及び「凹領域」に

相当する。

そうすると,乙11発明と本件特許発明1は以下の点で一致する。

@ 食材を収容するとともに該食材を加熱可能な容器の胴体部の開口部

を閉塞する蓋体である。
A 前記蓋体の外周輪郭形状を定めるとともに,前記容器の前記開口部を

形成する前記容器の縁部と嵌合する周縁領域を有する。

B 前記周縁領域により囲まれる領域内部において,隆起する一の領域を

備えている。

C 前記一の領域は,穴部と,穴部を閉塞可能な突起部を備えるフラップ

部を備えている。

D 前記フラップ部は,前記一の領域に接続する基端部を備えるとともに,

該基端部を軸に回動する。

E フラップ部の先端部は,前記周縁領域の外縁に到達していない。

F 前記一の領域は,前記フラップ部の少なくとも一部を収容する凹領域

を備えている。

イ 相違点

@ 構成要件1−Eに関する相違点

本件特許発明1のフラップ部は,一の領域に一体的に接続されている

のに対し,乙11発明のレバーは一体的に接続されていない。

A 構成要件1−Gに関する相違点

本件特許発明1のフラップ部の基端部は先端部よりも蓋体の中心位

置から近い位置に配されているのに対し,乙11発明では遠い位置に配

されている。

B 構成要件1−Iに関する相違点

本件特許発明1ではフラップ部を収容する凹領域が前記位置の領域

上面の周縁部に接続しているのに対し,乙11発明では接続していない。

(3)容易想到性

ア 前記相違点が設計事項であるとは認められないこと

被告は,構成要件1−G及び1−Iに関する相違点には技術的意義がな

く,設計事項にすぎない旨主張する。
しかしながら,前記6 5 ア イ のとおり,本件明細書等には,「蓋体本

体部の周縁領域近傍に開口部を形成し,フラップ部基端部からフラップ部

先端部への方向ベクトルが,蓋体中央から蓋体周縁へ向かうようにフラッ

プ部を方向付けるとともにフラップ部の突起部でこの開口部を閉塞できる

ようにフラップ部を配した場合には,加熱調理後,容器内の水分を,開口

部を通じて,排出可能である。この結果,本発明の容器は,パスタ等の調

理に好適に使用可能となる。」(段落【0023】)という記載がある。

本件特許発明1は,構成要件1−G及び1−Iの構成により,上記のよ

うな作用効果を奏する(課題を解決する)ものであることが認められるの

であり,これらの構成に技術的意義がないとする上記被告の主張は採用す

ることができない。

周知技術との組合せによる容易想到性がないこと

被告は,乙13公報,実開昭63−67452号公報(以下「乙14公

報」という。)及び実開平6−69165号公報(以下「乙15公報」と

いう。)には,フラップ部の基端部がその先端部よりも蓋体の中心位置に

近く,凹領域が前記隆起領域の上面の周縁部に接続した構成が記載されて

おり,構成要件1−G及び1−Iに係る本件特許発明1の構成は,周知で

あったから,これを乙11発明に適用することは当業者において容易で

あった旨主張する。

しかしながら,乙13公報に記載された発明は,「粉末のコーヒーや砂

糖,または,顆粒状の各種調味料や食品,あるいは,粉末状の薬剤や錠剤

等の粉粒体」を収容した蓋付きの密閉容器に関する発明である(乙13公

報の段落【0001】)。乙14公報に記載された発明は,「食塩,砂糖,

化学調味料,胡椒などの粉・粒状物を収容した容器本体に取り付けられる

振出し用キャップ」に関する発明である。乙15公報に記載された発明は,

「ビールや炭酸飲料缶に用いられる飲料缶飲口具」に関する発明である。
このように,いずれも食材を加熱することを目的としたものではなく,乙

11発明とは用途(作用効果・機能)が異なるものである。

他に,当業者が被告の主張する前記周知技術の構成を乙11発明の構成

に転用することを容易に着想することができたということを基礎づける

ような,技術分野の関連性を認めるに足りる主張立証はない。

また,乙11公報や,乙13公報,乙14公報,乙15公報には本件特

許発明1が解決しようとする上記課題を解決するために,これらの発明を

組み合わせることが可能であることを示唆するような記載もない。

結局のところ,乙11公報に,被告が主張する周知技術の構成を適用す

る動機付けがあるとは認められない。

ウ 乙10発明との組合せによる容易想到性がないこと

前記6 1 , 2 のとおり,乙10発明は,上面の穴から,細かく分割さ

れた固形物を適量ずつ取り出すことができる容器の蓋に関するものであ

り,乙11発明とは,用途(作用効果・機能)が異なるものである。

他に,当業者が被告の主張する前記周知技術の構成を後者の構成に転用

することを容易に着想することができたということを基礎づけるような,

技術分野の関連性を認めるに足りる主張立証はない。

また,乙10公報及び乙11公報には本件特許発明1が解決しようとす

る上記課題を解決するために,これらの発明を組み合わせることが可能で

あることを示唆するような記載もない。

したがって,乙11公報に,乙10発明の構成を適用する動機付けがあ

るとは認められない。

エ 乙21発明との組合せによる容易想到性がないこと

(ア)乙21明細書には,以下の記載があることが認められる。
「技術分野
[0002]本発明は密封可能な食品収容容器に関する。

背景技術

[0003]食品貯蔵は,食品を容器内で真空に保つことで向上する。

食品は真空状態になる容器に保存することで,特定の微生物や害虫,な

らびにカビや菌類の成長から保護される。さらにそれは食品の酸化防止

にも役立つので,水分レベルや香りが維持される。しかし,このタイプ

のシステムでは,容器内部の真空が容器蓋を吸気するために収容容器を

開け難くなる場合が多い。加えて,多くの場合,ユーザは収容容器にま

だ望ましい真空が存在しているかどうかを認知することができない。さ

らに,収容容器内に適度の真空を,特に長期間にわたって維持すること

が困難となることもある。」・

発明の概要

[0016]本発明は1つの態様において,食品収容容器のための蓋を

特徴とする。この蓋は,蓋本体を貫通して延びる真空感知開口部と通気

孔とを有する蓋本体を備えている。さらに,この蓋は通気孔の上に配置

される取り外し可能なカバーを備えている。この取り外し可能なカバー

は,カバーが取り外されるまで,空気が通気孔を通って容器内に流入す

ることを阻止する。蓋はさらに,真空感知開口部を通じて容器と水圧連

通する圧力呈示突起を設けている。圧力呈示突起は内部に空洞を有する。

圧力呈示突起は,容器内の負圧に反応して真空感知開口部の方向へ収縮

する。」

「[0019]・・・圧力呈示突起は膜を設けていてよい。膜はプラスチッ

ク樹脂(たとえば,エラストマープラスチック)で形成することができ

る。プラスチック樹脂は,約−40℃〜100℃の温度範囲での膜の寸

法安定性を維持できるように選択できる。この実施形態に伴う利点は,

収容容器およびその内容物を冷凍庫に保存し,その後,電子レンジで解
凍できる点である。・・・」

「[0044]図3(60853)は,収容容器内部が大気圧にある状態で

の図1(6085 )のバルブ装置を示す概略断面図である。」

「[0047]図6(6085 )は,図4(6085 )のバルブ装置を備えた

食品貯蔵容器の斜視図である。」

請求の範囲

1 食品収容容器用の蓋であって,前記蓋は,

蓋本体を貫通して延びる真空感知開口部と通気孔とを画定する蓋本

体と,

取り外し可能なカバーであって,その取り外しまで,前記通気孔を

介した前記容器内への空気の流入を阻止すべく,前記通気孔の上に配

置されるカバーと,

前記真空感知開口部を介して前記容器と連通し,前記真空感知開口

部内に空洞を画定する圧力呈示突起とを備え,前記圧力呈示突起は容

器内の負圧に反応して真空感知開口部の方向へ収縮する。」

(イ)乙21発明の構成

前記 ア によれば,乙21明細書には以下の発明(乙21発明)の構

成が記載されていると認められる。

A 食材を収容する容器の胴体部の開口部を閉塞する蓋体である。

B 前記蓋体の外周輪郭形状を定めるとともに,前記容器の前記開口部

を形成する前記容器の縁部と嵌合する周縁領域を有する。

C 周縁領域により囲まれる領域内部において,隆起する領域を備える。

D 前記隆起する領域は,通気孔と,該通気孔を閉塞可能なカバーを備

える。

E カバーは前記隆起する領域と接続する基端部を備えるとともに,該

基端部を軸に回動する。
F 前記カバーの先端部は,前記周縁領域の外縁に到達していない。

G 前記カバーの基端部が先端部よりも蓋体の中心位置から近い位置に

配されている。

H 前記隆起する領域は,前記カバーを収容する凹部を備える。

I 前記凹部は隆起する領域の周縁部に接続している。

(ウ)乙11発明との組合せによる容易想到性がないこと

前記 ア のとおり,乙21発明は,食材を真空にすることを目的とす

るものであり,圧力インジケータ6を必須の構成とするものである。

また,通気孔4は,圧力インジケータ6よりも蓋体の中心位置に近い

部分にあるから,圧力インジケータ6の構成を前提とする限り,通気孔

4から容器内の液体を排出することを予定しているものとは解しがたい。

このような乙21発明の構成から前記相違点に係る構成のみを取り出

し,乙11発明に適用することを基礎づける動機付けの存在を認めるこ

とはできない。

8 争点8(本件各特許発明は,乙30発明に基づいて当業者が容易に発明をす

ることができたものであるか)について

以下の理由から,本件特許発明1は,乙30発明に基づいて当業者が容易に

発明をすることができたものであるとはいえない。本件特許発明2についても

同様である。

(1)乙30発明の構成

乙30発明の構成は以下のとおりである。

A 食材を収容するとともに,食材を加熱可能な容器本体と,その開口部を

閉塞する蓋体を有する。

B 前記蓋は,その外周輪郭形状を定める周縁領域を有し,この周縁領域は,

容器本体の開口部を形成する縁部と嵌合する。

C 前記蓋は,前記周縁領域により囲まれる領域の内部に,隆起する領域を
有する。

D 前記周縁領域により囲まれる領域の内部に,蒸気弁と蒸気弁を閉塞可能

な突起部を備えるフラップ部を備える。

E 該フラップ部は,周縁領域に一体的に接続する基端部を備えるとともに,

該基端部を軸に回動する。

G 前記フラップ部の基端部は,先端部よりも蓋体の中心位置から遠い位置

に配されている。

H 前記周縁領域により囲まれる領域の内部には,前記フラップ部を収容す

る凹領域がある。
(2)本件各特許発明との対比

乙30発明と本件特許発明1を対比すると,以下の一致点及び相違点が認

められる。本件特許発明2についても同様である。

ア 一致点

@ 食材を収容するとともに,食材を加熱可能な容器本体と,その開口部

を閉塞する蓋体を有する。

A 前記蓋は,その外周輪郭形状を定める周縁領域を有し,この周縁領域

は,容器本体の開口部を形成する縁部と嵌合する。

B 前記蓋は,前記周縁領域により囲まれる領域の内部に,隆起する領域

を有する。

C 前記周縁領域により囲まれる領域の内部に,穴部と穴部を閉塞可能な

突起部を備えるフラップ部を備える。

D 該フラップ部は,蓋と一体的に接続する基端部を備えるとともに,該

基端部を軸に回動する。
E 前記周縁領域により囲まれる領域の内部に,前記フラップ部を収容す

る凹領域がある。

イ 相違点

@ 構成要件1−Dに関する相違点

本件特許発明1では,隆起する一の領域において,穴部とフラップ部

を有するのに対し,乙30発明では,一の領域の外に穴部とフラップ部

がある。

A 構成要件1−Eに関する相違点

本件特許発明1では,フラップ部の基端部が,隆起する一の領域に接

続しているのに対し,乙30発明では周縁領域に接続している。

B 構成要件1−Gに関する相違点

本件特許発明1では,フラップ部の基端部が,先端部よりも蓋体の中

心位置に近いのに対し,乙30発明では中心位置から遠い。

C 構成要件1−Iに関する相違点

本件特許発明1では,フラップ部を収容する凹領域が,一の領域上面

の周縁部に接続しているのに対し,乙30発明では接続していない。

(3) 容易想到性

ア 前記相違点に係る構成が設計事項ではないこと

被告は,構成要件1−G及び1−Iに関する相違点には技術的意義がな

く,設計事項にすぎない旨主張する。

上記各相違点は,前記7 2 イにおける相違点と同じであるが,前記7

3 アで検討したとおり,上記被告の主張には理由がない。

イ 乙13発明との組合せによる容易想到性がないこと

前記7 3 イのとおり,乙13公報に記載された発明(乙13発明)は,

「粉末のコーヒーや砂糖,または,顆粒状の各種調味料や食品,あるいは,

粉末状の薬剤や錠剤等の粉粒体」を収容した蓋付きの密閉容器に関する発
明である(乙13公報の段落【0001】)。食材を加熱することを目的

としたものではなく,乙30発明とは用途(作用効果・機能)が異なるも

のである。

他に,技術分野の関連性を認めるに足りる主張立証はないし,乙30発

明に乙13発明の構成を適用する動機付けがあるとは認められない。

ウ 乙10発明との組合せによる容易想到性がないこと

前記 1 のとおり,乙30発明の開口部は蒸気弁であり,開口部から食

材を取り出すことは想定されていない。一方,前記6 2 のとおり,乙1

0発明は,上面の穴から細かく分割された固形物を適量ずつ取り出すこと

ができる容器の蓋に関するものであり,乙30発明とは,用途(作用効果・

機能)が異なるものである。

他に,技術分野の関連性を認めるに足りる主張立証はないし,乙30発

明に乙13発明の構成を適用する動機付けがあるとは認められない。

エ 乙21発明との組合せによる容易想到性がないこと

前記7 3 エ ア のとおり,乙21発明は,食材を真空にすることを目的

とするものであり,圧力インジケータ6を必須の構成とするものである。

また,通気孔4は,圧力インジケータ6よりも蓋体の中心位置に近い部

分にあるから,圧力インジケータ6の構成を前提とする限り,通気孔4か

ら容器内の液体を排出することを予定しているものとは解しがたい。

このような乙21発明の構成から前記相違点に関する構成のみを取り出

し,乙30発明に適用することを基礎づける動機付けの存在を認めること

はできない。

9 争点9(本件各特許発明は,乙21発明に基づいて当業者が容易に発明をす

ることができたものであるか)について

以下のとおり,本件特許発明1は,乙21発明に基づいて当業者が容易に発

明をすることができたものではない。本件特許発明2についても同様である。
(1)乙21発明の構成

前記7 3 エのとおりである。

(2)本件特許発明1との対比

乙21発明と本件特許発明1を対比すると,以下の一致点及び相違点を有

する。

ア 一致点

@ 食材を収容する容器の胴体部の開口部を閉塞する蓋体である。

A 前記蓋体の外周輪郭形状を定めるとともに,前記容器の前記開口部を

形成する前記容器の縁部と嵌合する周縁領域を有する。

B 周縁領域により囲まれる領域内部において,隆起する領域を備える。

C 前記隆起する領域は,穴部と,該穴部を閉塞可能な部材を有する。

D 前記閉塞部材は前記隆起する領域と接続する基端部を備えるととも

に,該基端部を軸に回動する。

E 前記閉塞部材の先端部は,前記周縁領域の外縁に到達していない。

F 前記閉塞部材の基端部が先端部よりも蓋体の中心位置から近い位置

に配されている。

G 前記隆起する領域は,前記閉塞部材を収容する凹部を備える。

H 前記凹部は隆起する領域の周縁部に接続している。

イ 相違点

@ 本件特許発明1が食材を加熱可能であるのに対し,乙21発明では解

凍可能であるとされているのみである(構成要件1−Aに関する相違点)。

A 本件特許発明1の穴部が流体を排出可能であるのに対し,乙21発明

の穴部は単なる通気孔である。また,本件特許発明1では穴部を閉塞可

能な突起部があるのに対し,乙21発明の穴部を閉塞するのはシール(カ

バー)である(構成要件1−Dに関する相違点)。

B 本件特許発明1では,フラップ部が一の領域に一体的に接続している
のに対し,乙21発明ではカバーが隆起する領域にピンにより接続され

ている(構成要件1−Eに関する相違点)。

C 本件特許発明1では凹領域が一の領域上面の周縁部に接続しているの

に対し,乙21発明では,凹部に圧力インジケータ6が存在する(構成

要件1−Iに関する相違点)。

(3)容易想到性

前記7 3 エ ア のとおり,乙21発明は,食材を真空にすることを目的と

するものであり,圧力インジケータ6を必須の構成とするものである。

また,通気孔4は,圧力インジケータ6よりも蓋体の中心位置に近い部分

にあるから,圧力インジケータ6の構成を前提とする限り,通気孔4から容

器内の水分を排出することを予定しているものとは解しがたい。

このような乙21発明の構成から,本件特許発明1の構成に変更すると,

圧力インジケータの構成をなくす必要があるなど,乙21発明が解決しよう

とする課題を解決するために必須の部材を取り除くことになるのであって,

阻害要因があることは明らかである。

半製品等の廃棄の要否

原告は,被告各製品だけでなく,その半製品(被告各製品目録の構造を具備

しているもの)の廃棄を求めている。

そこで検討すると,本件明細書等によれば,本件特許発明1の実施品は,一

体的に同時射出成型により製造されることが想定されており,被告蓋体も同様

に製造されることが推測される。

そうすると,被告蓋体の廃棄に加え,被告各製品の半製品の廃棄を命じる必

要性を認めることはできない。

また,原告は,被告各製品の製造に供する金型の廃棄を求めているところ,

被告容器から被告蓋体を除いた部分(容器胴体部)の製造に供する金型につい

ては,廃棄の必要性を認めることができない。
争点10(損害額)について

(1)被告各製品の売上高

平成22年3月12日から平成25年4月20日までの期間における被告

各容器の譲渡数量は合計617万9943個であり,売上高は合計5億95

10万5017円であることについて,当事者間に争いがない(なお,被告

が,被告蓋体を単体で販売しているという事実は認められない。)。

(2)特許法102条2項に基づく損害の計算

ア 特許法102条2項が適用されること

原告が原特許発明実施品を製造販売しているものの,本件各特許発明

実施品を製造販売していないことについては当事者間で争いがない。

もっとも,原特許発明と本件各特許発明は,食材を収容するとともに加

熱可能な容器に関する蓋の発明である点では共通するものである。

そうすると,本件特許権侵害に係る被告の行為によって,原告の原特許

発明に係る実施品に係る販売機会が喪失したことが認められるから,「特

許権者に,侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られた

であろうという事情が存在する場合」に当たるということができる。

よって,本件でも特許法102条2項を適用することができる。

イ 経費等

(ア)製造原価

被告は,成型工賃として,成型機械チャージ料,成型機械の減価償却

費,光熱費等合計7798万8809円を要した旨主張する。しかし,

成型機械の原価償却費は,被告各製品の製造を行わなかったとしても支

出されていた経費であり,変動経費ではない。上記減価償却費の具体的

金額が不明なので,その3分の2の限度(5199万2539円)で製

造原価の一部として控除することとする。

乙33によれば,上記成型工賃中原価償却費を除いた製造原価は,合
計3億1208万7799円であることが認められる。

上記製造原価は625万0875個の製造数量に対応するものであ

るから,これを前記譲渡数量に対応する割合で計算すると,3億085

4万6372円となる。

〔計算式〕

4 4 ÷ 4 4 × 4 4 ≒ 4 4

また,被告は,金型製作費用として1億9134万円を要した旨主張

する。しかし,これは固定経費であり変動経費ではないから,控除する

のは相当ではないというべきである。

(イ)販売経費

前記 1 の売上高及び乙35によれば,販売経費は合計8236万2

534円であることが認められる。

(ウ)値引き

乙34によれば,値引き返品分の合計が704万8098円であるこ

とも認められる。

ウ 寄与度

原告製品及び被告各製品のほかにも,食品を収納するとともに,当該食

材を加熱可能な容器が多数存在することは当事者間で争いがない。

もっとも,このうちフラップ部と蓋を一体成型したものについては,原

告製品,被告各製品及び乙30発明に係る実施品の存在を認めることがで

きるにとどまる。

本件各特許発明は,「加熱調理後,容器内の水分を,開口部を通じて,

排出可能である。この結果,本発明の容器は,パスタ等の調理に好適に使

用可能となる。」(段落【0023】)という作用効果を奏する点に技術

的意義があるものである。

このような代替品の有無などに関する状況及び本件各特許発明の技術
的意義に加え,本件で表れた一切の事情を総合すると,本件各特許発明

被告各製品の売上げに対する寄与度は15%とするのが相当である。

エ 損害

以上によれば,売上高5億9510万5017円から経費合計3億97

95万7004円を控除した額に寄与度15%を乗じた2957万22

01円を,特許法102条2項に基づき算定される損害額と認める。

〔計算式〕 4 4 − 4 4 × 5 ≒ 4 4

(3)特許法102条3項に基づく損害の計算

証拠(乙27の1〜3)によれば,プラスチック製品に係る実施料率は,

平成4年度から平成10年度までの期間において,イニシャルペイメントが

ある場合において平均350%,イニシャルペイメントがない場合において35

9%であったことが認められる。

このことに加え,前記 2 ウで検討した代替品の有無などに関する状況及

び本件各特許発明技術的意義等も考慮すると,本件において相当な実施料

率は355%であると認める。

そうすると,売上高5億9510万5017円に実施料率355%を乗じた

2082万8675円が相当な実施料額であると認める。

〔計算式〕 4 4 × 5 ≒ 4 4

(4)小括(弁護士費用,遅延損害金)

以上によれば,より高額である前記 2 の計算に基づき,原告の損害(逸

失利益)は2957万2201円であると認めるのが相当である。

この約1割に相当する300万円の限度で,弁護士費用及び弁理士費用に

ついても本件と相当因果関係のある損害と認める。

乙26によれば,前記売上高のうち本件訴え提起の日である平成23年1

2月13日までの売上高は3億3118万4069円であると認められる。

そうすると,前記損害額合計のうち,当該売上高に相当する1812万6
874円に関する遅延損害金は,訴状送達の日の翌日である平成24年1月

6日を起算日とするのが相当である。

残額1444万5327円については,販売期間の最終日である平成25

年4月20日を起算日とするのが相当である。

結論

よって,主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第26民事部



裁 判 長 裁 判 官 山 田 陽 三




裁 判 官 松 阿 彌 隆




裁 判 官 西 田 昌 吾