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事件 |
平成
24年
(ネ)
10093号
特許権侵害差止請求控訴事件
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裁判所のデータが存在しません。 | |
裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2013/08/09 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
判例全文 | |
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判例全文
平成25年8月9日判決言渡 平成24年(ネ)第10093号 特許権侵害差止請求控訴事件 原審・東京地方裁判所平成23年(ワ)第24355号 口頭弁論終結日 平成25年6月10日 判 決 控 訴 人 株 式 会 社 オ ー ム 電 機 同訴訟代理人弁護士 小 林 幸 夫 同 弓 削 田 博 同訴訟代理人弁理士 河 野 英 仁 同 安 田 恵 被 控 訴 人 キ ヤ ノ ン 株 式 会 社 同訴訟代理人弁護士 増 井 和 夫 同 橋 口 尚 幸 同 齋 藤 誠 二 郎 主 文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 控訴人 (1) 原判決を取り消す。 (2) 被控訴人の請求を棄却する。 (3) 訴訟費用は,第1審,2審とも,被控訴人の負担とする。 2 被控訴人 主文同旨 第2 事案の概要 本判決の略称は,原判決に従う。 1 本件は,発明の名称を「液体インク収納容器,液体インク供給システムおよ び液体インク収納カートリッジ」とする特許第3793216号の特許権者で ある被控訴人が,控訴人による原判決別紙物件目録(1)及び(2)記載の各インク タンクの輸入,販売及び販売の申出が本件特許権の直接侵害及び間接侵害(特 許法101条2号)に当たる旨主張して,控訴人に対し,特許法100条1項 に基づき,上記各製品の輸入,販売等の差止めを求めた事案である。原審が被 控訴人の請求を全部認容したところ,控訴人が全部控訴した。 2 争いのない事実等,争点及び争点に関する当事者の主張 争いのない事実等,争点及び争点に関する当事者の主張は,次のとおり原判 決を補正し,後記3のとおり当審における当事者の主張を付加するほかは,原 判決「事実及び理由」の第2の2及び3並びに第3記載のとおりであるから, これを引用する(以下,原判決を引用する場合は,「被告」を「控訴人」と, 「原告」を「被控訴人」と,それぞれ読み替える。)。 (1) 原判決8頁24行目の「充足する。」を「充足する(ただし,被控訴人製 のプリンタ「PIXUS iP7500」及び「PIXUS iP450 0」に装着された控訴人製品2については,後記のとおり構成要件1A1, 1A2,1A4及び1A6を充足するかどうかにつき当事者間に争いがあ る。)。」と改める。 (2) 原判決9頁1行目の「充足する。」を「充足する(ただし,控訴人製品2 を装着した被控訴人製のプリンタ「PIXUS iP7500」及び「PI XUS iP4500」については,後記のとおりこれらの構成要件を充足 するかどうかにつき当事者間に争いがある。)。」と改める。 (3) 原判決14頁16行目冒頭から同15頁18行目末尾までを次のとおり改 める。 「ウ 正面対向位置での受光結果に基づき搭載位置検出が行われないインク タンクの存在について 構成要件1A1には「複数の液体インク収納容器を搭載して移動する キャリッジ」と記載されているだけで,それ以上の限定はない。したが って,正面対向位置での受光結果に基づく搭載位置検出が行われるイン クタンクが複数存在すれば,当然に,構成要件1A1は充足され,正面 対向位置での受光結果に基づく搭載位置検出が行われない右端インクタ ンクが存在しても構成要件充足性は否定されない。また,正面対向位置 での受光結果に基づく搭載位置検出が行われるインクタンクが複数存在 すれば,キャリッジの移動により受光部に対向するインクタンクが入れ 替わるという要件を満たすし,また,当然のことながら,正面対向位置 での受光結果に基づきインクタンクの搭載位置を検出するという要件も 満たすので,構成要件1A2ないし1A6を充足し,正面対向位置での 受光結果に基づく搭載位置検出が行われない右端インクタンクが存在し ても構成要件充足性は否定されない。 エ インクタンクとの正面受光のみによってインクタンクの搭載位置を特 定していない点について 本件訂正発明1は,正面対向位置での受光結果に基づきインクタンク の搭載位置を検出(搭載位置の正誤を判断)するものであるところ,構 成要件1A5には「その光の受光結果に基づき・・・液体インク収納容 器の搭載位置を検出する」と記載されているだけで,搭載位置検出(正 誤判断)の方法については,それ以上の限定はなく,限定すべき理由も 存在しない。 したがって,正面対向位置での受光結果に基づきインクタンクの搭載 位置を検出していれば,非対向位置での受光結果が利用されていても上 記構成要件を充足する。 被控訴人製プリンタでは,搭載位置検出のために,正面対向位置での 受光結果に加えて,非対向位置での受光結果も利用しているが,非対向 位置での受光結果は正面対向位置での受光結果と比較される参照値とし て利用されているにすぎず,正面対向位置での受光結果に基づきインク タンクの搭載位置を検出していることには違いがない。 オ 構成要件の充足 控訴人各製品の発光部(LED)は,被控訴人製プリンタに設置され た受光手段に投光するための赤外線を発するものであるが(前記ア), 本件訂正発明1の「発光部」には赤外線を発する構成のものも含まれる から,構成要件1Dの「受光手段に投光するための光を発光する発光 部」に該当する。 そして,前記アのとおり,控訴人各製品を被控訴人製プリンタに装着 した場合,正面対向位置での受光結果に基づきインクタンクの搭載位置 を検出する前述の光照合処理(前記イ(ア)b)が行われ,控訴人各製品が キャリッジ上の正しい搭載位置に搭載されているか否かを検出すること ができる。また,被控訴人製のプリンタ「PIXUS iP7500」 と「PIXUS iP4500」に装着された控訴人製品2は,正面対 向位置での受光結果に基づく搭載位置の検出が行われないインクタンク もキャリッジに搭載されるが,それ以外の複数のインクタンクについて は,正面対向位置での受光結果に基づく搭載位置の検出(搭載位置の正 誤の判断)が行われる。 したがって,「液体インク収納容器」である控訴人各製品は,構成要 件1A3,1A5及び1Fを充足する(「PIXUS iP7500」 及び「PIXUS iP4500」に装着された控訴人製品2は,構成 要件1A1,1A2,1A4及び1A6も併せて充足する。)。その検 出結果は,被控訴人製プリンタに接続されたモニター上のウインドウで, 「プリンタはオンラインです。」(インクタンクが全て正しい位置に装 着された場合),あるいは「正しい位置に取り付けられていないインク タンクがあります。」(誤装着がある場合)と表示されてユーザへ報知 される(甲4の2,3,7の2,3,10の2,3)。 また,控訴人各製品には,発光部の発光を制御する制御部とインク色 を示す色情報を保持可能な情報保持部とが一体となったICチップ10 3が設けられているから,控訴人各製品は,構成要件1Eを充足する。 カ まとめ 以上のとおり,控訴人各製品は,本件訂正発明1の構成要件1A3, 1A5,1D,1E及び1Fを充足し(被控訴人製のプリンタ「PIX US iP7500」と「PIXUS iP4500」に装着された控 訴人製品2は,構成要件1A1,1A2,1A4及び1A6も併せて充 足する。),また,被控訴人各製品が構成要件1A1,1A2,1A4, 1A6,1B及び1Cを充足すること(被控訴人製のプリンタ「PIX US iP7500」と「PIXUS iP4500」に装着された控 訴人製品2については,構成要件1B及び1Cを充足すること)は,前 記争いのない事実等(4)イ(イ)のとおりである。 したがって,控訴人各製品は,本件訂正発明1の構成要件を全て充足 するから,その技術的範囲に属する。」 (4) 原判決18頁26行目冒頭から同19頁10行目末尾までを次のとおり改 める。 「イ 正面対向位置での受光結果に基づき搭載位置検出が行われないインク タンクの存在について 被控訴人は,本件各訂正発明の原理は,「個別発光制御を利用した光 照合処理」であって,かかる光照合処理は,インクタンクの発光部(L ED)がプリンタの受光部の「正面に対向」するキャリッジ位置でイン クタンクを個別発光させ,プリンタの受光部で「正面受光」することに よって行われると説明している(甲8)。このことは本件特許の特許請 求の範囲の記載等からも明らかであり,本件訂正発明1の構成要件1A 3には「前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器 が入れ替わるように配置され前記液体インク収納容器の発光部からの光 を受光する位置検出用の受光手段を一つ備え」との記載があるところ, 「対向」とは,「互いにむきあうこと。」をいい(広辞苑第五版),キ ャリッジの移動によってインク収納容器が入れ替わって,インク収納容 器がプリンタの受光部と「互いにむきあう」のであるから,本件訂正発 明1の構成要件1A5と併せて読めば,本件訂正発明1では,各インク タンク全てがそれぞれプリンタの受光部の正面に対向するキャリッジ位 置で個別発光し,プリンタの受光部が「正面受光」することが分かる。 なお,本件訂正発明1の構成要件1A3の「前記液体インク収納容器」 とは,本件訂正発明1の構成要件1A1の「複数の液体インク収納容 器」のことであって,この「複数の液体インク収納容器」の発光部全て がプリンタの受光部で正面受光されることが本件訂正発明1の原理であ る。 したがって,本件訂正発明1における光照合処理とは,「複数の液体 インク収納容器」の発光部が全てプリンタの受光部で「正面受光」され るものと解釈できる。 ウ インクタンクとの正面受光のみによってインクタンクの搭載位置を特 定していない点について 前記イのとおり,本件訂正発明1は,インクタンクの発光部がプリン タの受光部の「正面に対向」するキャリッジ位置でインクタンクを個別 発光させ,プリンタの受光部で「正面受光」することにより,インクタ ンクの搭載位置を特定するものであるので,本件訂正発明1は,インク タンクの発光部がプリンタの受光部の「正面に対向」するキャリッジ位 置でインクタンクを個別発光させ,プリンタの受光部で「正面受光」す ることのみによって,インクタンクの搭載位置を特定するものである。 エ 構成要件の非充足 (ア) 控訴人各製品は,赤外線を発するのみで,可視光を発光することは ないから(乙1,2,23),本件訂正発明1の「受光手段に投光す るための光を発光する発光部」の構成を欠いている。 したがって,控訴人各製品には,本件訂正発明1の構成要件1A3, 1A5,1D及び1Eの「発光部」が存在しないから,控訴人各製品 は,これらの構成要件を充足しない。 (イ) 被控訴人製のプリンタ「PIXUS iP7500」に控訴人製品 2を装着したときの光照合処理においては,控訴人製品2のイエロー (Y)のインクカートリッジの発光部が,上記プリンタの受光部の正 面に対向せずに,右斜め前から発光しているのであって,上記プリン タの受光部は「正面受光」していない(甲8)。また,被控訴人製の プリンタ「PIXUS iP4500」に控訴人製品2を装着したと きの光照合処理においては,控訴人製品2のシアン(C)のインクカ ートリッジの発光部が,上記プリンタの受光部の正面に対向せずに, 右斜め前から発光しており,上記プリンタの受光部は「正面受光」し ていない(甲11)。 また,控訴人製品2を装着した上記被控訴人製の各プリンタにおい ては,「複数の液体インク収納容器」の発光部が全てプリンタの受光 部で「正面受光」されていないため,本件訂正発明1の技術内容のみ では全てのインクタンクが正しい位置に搭載されているかを認識する ことはできず,本件訂正発明1の技術的範囲に含まれない方法で右端 のインクタンクの搭載位置の正誤を特定している。 したがって,上記各プリンタに装着された控訴人製品2は,本件訂 正発明1の構成要件1A1の「複数の液体インク収納容器」及び構成 要件1A2ないし1A4及び1A6の「前記インク収納容器」を充足 しない。また,本件訂正発明1の構成要件1A5の「前記キャリッジ の位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記 発光部を光らせ,その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器 位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する記録装 置の」を充足しない。 (ウ) 控訴人各製品を搭載可能で,かつ受光部を有する被控訴人製プリン タは,インクタンクの搭載位置の特定のためには,各インクタンクと の「正面受光」とその隣のインクタンクとの「非対向発光の受光」の 両方が必要であって(なお,「PIXUS iP7500」及び「P IXUS iP4500」では,右端のインクタンクについては正面 受光を行わず,非対向発光の受光のみが行われる。),各インクタン クとの「正面受光」のみによってインクタンクの搭載位置を特定する 本件訂正発明1とは異なる技術を利用したプリンタである。 したがって,被控訴人製プリンタは,本件訂正発明1の技術を利用 したものではなく,これらに搭載される控訴人各製品は,いずれも本 件訂正発明1の技術的範囲に属さない。 オ まとめ 以上によれば,控訴人各製品は,本件訂正発明1の構成要件1A3, 1A5,1D,1E及び1Fを充足しない(被控訴人製のプリンタ「P IXUS iP7500」及び「PIXUS iP4500」に装着さ れた控訴人製品2については,本件訂正発明1の構成要件1A1,1A 2,1A4及び1A6も充足しない。)から,本件訂正発明1の技術的 範囲に属さない。」 (5) 原判決19頁13行目冒頭から同20頁2行目末尾までを次のとおり改め る。 「ア 構成要件の充足 控訴人製品1又は控訴人製品2を装着した被控訴人製プリンタが,本 件訂正発明2の構成要件2A1,2A2,2A4,2B,2D1及び2 D2を充足すること(控訴人製品2を装着した被控訴人製のプリンタ 「PIXUS iP7500」及び「PIXUS iP4500」を除 く。)は,前記争いのない事実等(4)イ(ウ)のとおりである。 そして,前記1(1)で述べたのと同様の理由により,控訴人各製品の発 光部(LED)は構成要件2D3の「受光部に投光するための光を発光 する発光部」に該当し,控訴人製品1又は控訴人製品2を装着した被控 訴人製プリンタは,正面対向位置での受光結果に基づきインクタンクの 搭載位置を検出する光照合処理(前記1(1)イ(ア)b)を行い,控訴人各 製品がキャリッジ上の正しい搭載位置に搭載されているか否かを検出す ることができる。また,控訴人製品2を装着した「PIXUS iP7 500」及び「PIXUS iP4500」は,正面対向位置での受光 結果に基づく搭載位置の検出が行われないインクタンクもキャリッジに 搭載されるが,それ以外の複数のインクタンクについては,正面対向位 置での受光結果に基づく搭載位置の検出(搭載位置の正誤の判断)が行 われる。したがって,控訴人各製品は,構成要件2A3,2D3ないし 2Fを充足する(控訴人製品2を装着した「PIXUS iP750 0」及び「PIXUS iP4500」は,構成要件2A1,2A2, 2A4,2B,2D1及び2D2も併せて充足する。)。 また,控訴人製品1又は控訴人製品2を装着した被控訴人製プリンタ は,「液体インク供給システム」であるから,構成要件2C及び2Gを 充足する。 以上によれば,控訴人製品1又は控訴人製品2を装着した被控訴人製 プリンタは,本件訂正発明2の構成要件を全て充足し,その技術的範囲 に属する。」 (6) 原判決20頁12行目冒頭から同頁16行目末尾までを次のとおり改める。 「 前記1(2)で述べたのと同様の理由により,控訴人各製品の発光部(LE D)は構成要件2D3の「受光部に投光するための光を発光する発光部」 に該当しないから,控訴人製品1又は控訴人製品2を装着した被控訴人製 プリンタは,「発光部」(構成要件2D3,2D4,2F)の構成を欠い ている。 同様に,控訴人製品2を装着した被控訴人製のプリンタ「PIXUS iP7500」及び「PIXUSi P4500」は,本件訂正発明2の 構成要件2A1の「複数の液体インク収納容器」及び2A2ないし2A4, 2B,2D1ないし2D3及び2Eの「液体インク収納容器」を充足せず, 構成要件2Fの「前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前 記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ,その光の受光結果に基づき 前記液体インク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位 置を検出する」を充足しない。 さらに,控訴人各製品を搭載可能で,かつ受光部を有する被控訴人製プ リンタは,インクタンクの搭載位置の特定のためには,各インクタンクと の「正面受光」とその隣のインクタンクとの「非対向発光の受光」の両方 が必要であって(なお,「PIXUS iP7500」及び「PIXUS iP4500」では,右端のインクタンクについては正面受光を行わず, 非対向発光の受光のみが行われる。),各インクタンクとの「正面受光」 のみによってインクタンクの搭載位置を特定する本件訂正発明2とは異な る技術を利用したプリンタである。 よって,控訴人各製品は本件訂正発明2の技術的範囲に属さない。」 (7) 原判決21頁2行目から同頁3行目にかけての「乙9(特開2002−3 70378号公報)及び乙10(特開平2−279344号公報)」を「乙 9(特開2002−370378号公報。以下「乙9」という。)及び乙1 0(特開平2−279344号公報。以下「乙10」という。)」と改める。 (8) 原判決28頁10行目の「しかるところ,」の次に,「本件訂正発明1の 出願当時,インクタンクの装着位置の誤りを検出する方法として,ROM情 報による電気的な方法,各色のインクタンクごとに形状を非互換にするメカ 的な方法,光の反射を利用して認識する光学的な方法などが知られていたこ と(乙30),」を加える。 (9) 原判決30頁22行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。 「ウ 特許法36条6項1号(サポート要件)違反 本件訂正明細書には,可視光を発する発光部に関する記載しかなく, 赤外線を発する「第1発光部」は一切開示されていない。したがって, 本件訂正発明1の「光」に赤外線が含まれると仮定した場合,本件訂正 発明1は本件訂正明細書の発明の詳細な説明に開示されていないことに なる。 また,本件訂正発明1の「発光部」が赤外線を発する構成を含むと仮 定した場合,「複数のインクタンクの搭載位置に対して共通の信号線を 用いてLEDなどの表示器の発光制御を行い,この場合でもインクタン クなど液体インク収納容器の搭載位置を特定した表示器の発光制御をす ることを可能とする」(段落【0010】),すなわち,インクタンク の状態をユーザに報知するためのランプ等の表示器の発光制御を正しく 行う,という本件訂正発明1の目的を達成することができないので,赤 外線を発する「発光部」を備えた本件訂正発明1は,当業者が,発明の 課題を解決できると認識できる範囲を超える。 よって,本件訂正後の請求項1の記載は,特許法36条6項1号に規 定する要件を充たしていない。 本件訂正後の請求項3の記載についても同様である。 エ 特許法36条6項2号(明確性要件)違反 本件訂正後の請求項1の記載からは,「前記接点から入力される前記 色情報に係る信号」と,「前記情報保持部の保持する前記色情報」とが どのような関係である場合に,「発光部」を点灯又は消灯するのか,い かなるタイミングで「発光部」を点灯又は消灯するのかといった具体的 な制御内容が不明である。つまり,共通の信号線を用いて表示部の発光 制御を行うことによって,液体インク収納容器の装着位置を特定すると いう本件訂正発明1の目的を達成するために必要な事項が請求項に記載 されていない。 したがって,本件訂正後の請求項1に記載された技術的事項から発明 を明確に把握できず,本件訂正後の請求項1の記載は,特許法36条6 項2号の要件を充たしていない。 本件訂正後の請求項3の記載についても同様である。」 (10) 原判決31頁13行目,同21行目,同25行目,同32頁1行目,同7 行目,同10行目の各「乙9」をいずれも「乙9発明@」と,同31頁13 行目,同21行目,同32頁1行目,同7行目の各「乙10」をいずれも 「乙10に記載された発明」と改める。 (11) 原判決33頁2行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。 「ウ 特許法36条6項1号(サポート要件)違反について 本件訂正後の請求項1に記載される「光」,「発光部」,「受光部」 は,本件訂正明細書の発明の詳細な説明の随所に記載されている。 また,本件訂正後の請求項1には,「共通バス接続方式を採用した場 合でも,インクタンクの搭載位置間違いを検出できるようにする」とい う本件訂正発明1の課題を解決するための課題解決手段として,「受光 部へ投光するための光を発光する発光部」,「発光部からの光を受光す る受光部」,「発光部からの光を受光してインクタンクの搭載位置を検 出する位置検出手段」等が記載されているが,これらの構成は発明の詳 細な説明に全て記載されている。 そして,本件訂正明細書の記載から把握される課題解決原理からすれ ば,上述した課題を解決するのに利用される「光」は,発光部が発光す ることができ,受光部が受光することができれば足りることは自明であ り,要するに,「光」の波長に関わらず本件訂正発明1の課題を解決で きることは,本件訂正明細書に接した当業者であれば当然に認識できる 事項である。 このように,本件訂正明細書に接した当業者であれば「光」の波長に 関わらず本件訂正発明の課題を解決できると認識できるので,赤外線等 の可視光以外も含む「光」が発明特定事項として記載されている本件訂 正発明1が,本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者が 当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであることは当然 である。 したがって,本件訂正後の請求項1の記載は,明細書のサポート要件 に適合する。 本件訂正後の請求項3の記載についても同様である。 エ 特許法36条6項2号(明確性要件)違反について 本件訂正後の請求項1の構成要件1E及び1A5には,発光部の発光 を制御して,その発光の受光結果に基づいてインクタンクの搭載位置を 検出できることが明確に規定されており,明確性要件違反はない。 本件訂正後の請求項3の記載についても同様である。」 3 当審における当事者の主張 (1) 自由技術の抗弁 ア 控訴人の主張 控訴人各製品の構成は以下のとおりである(以下「控訴人主張控訴人各製 品構成」という。)。 「発光素子が取り付けられたインク収納容器であって,当該発光素子は, 識別符号(IDナンバー)を記憶する記憶手段と,プリンターとの通信用 インターフエース回路と,LEDとから構成され,通信用インターフエー ス回路はプリンタから送られてくるIDナンバーを認識し,IDナンバー と,記憶手段に記憶された自己のIDナンバーとが一致しているか否かを 判別し,自己のIDナンバーと一致していると判別した場合,LEDを発 光させる。」 そして,控訴人各製品は,本件特許の出願日までに既に公知となってい た 技 術 (乙 14 ( 特許 第 26 1 05 44号 公 報 。以 下「 乙 14 」 と い う。),乙37(特開2002−301829号公報。以下「乙37」と いう。)及び乙13(特許第2706849号公報。以下「乙13」とい う。))を用いているものであるか,これらから極めて容易に推考できた ものであるので,控訴人の行為には特許権侵害(間接侵害を含む。)は成 立しない。 なお,自由技術の抗弁は,対象製品が特許出願前の公知技術であるか, 又は,特許出願時において当業者が公知技術から極めて容易に推考できた ものであることが要件であって,本件各訂正発明の構成要件との関係は問 題とならない。 イ 被控訴人の主張 自由技術の抗弁は,侵害訴訟において無効主張ができなかった時代の考 え方であり,その実質は進歩性欠如の無効論である。現行の特許法におい ては,特許無効の抗弁として主張すべきものである。 乙14及び乙13には,構成要件1A3及び1A5の構成,すなわち, 「光照合処理」のために受光部に向けて発光するインクタンクの発光部 (構成要件1D),それを制御する制御部の構成(構成要件1E)は開示 されておらず,原判決も,控訴人の主張する無効主張は成り立たないと判 断している。 乙37も,単に,インクタンクに残量警告ランプとして発光部を設ける ことを開示しているにすぎず,構成要件1A3,1A5,1E及び1Dに 相当する構成は開示されていない。したがって,乙37を乙14や乙13 と組み合わせても,本件各訂正発明に想到することはできない。 (2) 時機に後れた防御方法であるか否かについて ア 被控訴人の主張 控訴人の当判決における2(4),(6),(9)及び同3(1)ア記載の各防御方 法(以下,これらの主張及びこれらの主張をするに際して提出された書証 (乙37)を総称して「本件防御方法」という。)の提出は,以下の理由 により時機に後れたものとして却下されるべきである。 控訴人の前記2(4)ウ記載の主張については,被控訴人製の「プリンタP IXUS iP7500」及び「PIXUS iP4500」の「光照合 処理」において,キャリッジの右端の1色のインクタンクには正面対向位 置における発光・受光が行われないことは,平成23年7月25日付けの 訴状と同時に提出された書証(甲8,11)において説明されていたこと であり,控訴人は,訴状及び上記各書証を受領した時点以降,いつでも上 記主張をすることが可能であった。 また,控訴人の前記2(4)エ記載の主張については,被控訴人製プリンタ の搭載位置の検出において,非対向発光の受光(非対向位置における発光 の受光)の結果を利用していることは,やはり書証(甲5,8,11)に 明確に説明されており,上記の非対向インクタンクに関する争点と同様に, 控訴人は,訴訟提起時以降いつでもこの争点を主張できた。 前記2(6)記載の主張も上記と同様である。 前記2(9)記載の主張については,明細書の記載についての不備の主張で あるから,原審の開始以降,いつでも主張可能であった。 前記3(1)ア記載の主張については,控訴人は平成23年11月18日付 けの準備書面とともに乙14を書証として提出しており,その時点以降, いつでも主張をすることが可能であった。 しかし,控訴人は,約1年間にわたる原審の審理期間中も控訴理由書に おいても,上記各主張をせず,平成25年3月11日付けの準備書面によ り前記2(4)ウ(同(6)の対応する部分を含む。),同(9)及び前記3(1)ア 記載の主張をするとともに,同年4月22日付けの準備書面により前記2 (4)エ(同(6)の対応する部分を含む。)記載の主張をしたものである。 イ 控訴人の主張 (ア) 本件防御方法は,控訴審の第1回口頭弁論期日までに提出されたもの であり,かつ,本件は,控訴審が開始されたばかりでいまだ全争点につ いて証拠調べが尽くされたと断ずるには至らない状況にある。 前記2(4)及び(6)記載の主張については,控訴審においても本件各訂 正発明における「光」に非可視光を含むという原判決と同内容の判決が なされることも想定し,「正面受光」に関する主張を行って防御する必 要が生じてきたものである。原審において,本件各訂正発明の「光」に は非可視光も含まないとの主張以外に他に何らの主張もしないとの確認 が行われた事実もない。 前記2(9)記載の主張は,本件各訂正発明の「光」の解釈につき原判決 の判断を前提としなければなし得ないものである。 前記3(1)ア記載の主張は,既に原審において主張した本件特許に進歩 性欠如の無効事由があるとの主張を控訴人各製品の側から構成したもの であり,純然たる新たな主張ではない。 したがって,本件防御方法はいずれも時機に後れて提出されたものと はいえない。 (イ) 被控訴人は,前記3(1)ア記載の主張の追加に当たり,1通の書証の証 拠申出をしたにすぎず,しかも,本件訂正明細書において引用されてい る先行技術文献である。その余の主張の追加に当たり新たな証拠調べは 必要ではない。 さらに,控訴審第1回口頭弁論期日において,時機に後れた防御方法 であるかの点及び本件防御方法の内容に関し当事者双方が準備書面を提 出することとされたこと等にも照らすと,本件防御方法の提出が訴訟の 完結を遅延させるものともいえない。 (ウ) 以上に加え,真実発見や訴訟経済の観点も考慮すると,本件防御方法 の提出は民事訴訟法157条1項の要件を充足しないので,却下される べきではない。 第3 当裁判所の判断 当裁判所も,控訴人各製品は,本件各訂正発明の構成要件を充足し,本件各 訂正発明の技術的範囲に属する上,本件特許に無効理由はなく,また自由技術 の抗弁にも理由がないので,被控訴人の請求は理由があるものと判断する。 その理由は,後記1のとおり原判決を補正し,後記2のとおり当審における 当事者の主張に対する判断を付加するほかは,原判決「事実及び理由」の第4 の1ないし3記載のとおりであるから,これを引用する。 1 原判決の補正 (1) 原判決33頁12行目冒頭から同頁15行目末尾までを次のとおり改める。 「 控訴人各製品が本件訂正発明1の構成要件1A1,1A2,1A4,1 A6,1B及び1Cを充足する(ただし,被控訴人製のプリンタ「PIX US iP7500」及び「PIXUS iP4500」に装着された控 訴人製品2については,構成要件1A1,1A2,1A4及び1A6を除 く。)ことは,前記争いのない事実等(4)イ(イ)のとおりである。」 (2) 原判決33頁16行目冒頭から末尾までを「(2) 控訴人各製品についての 構成要件充足性」と改める。 (3) 原判決33頁17行目冒頭から同34頁1行目末尾までを次のとおり改め る。 「 前記(1)認定の控訴人各製品の構造によれば,控訴人各製品は,被控訴人 製プリンタに設置された受光手段に投光するための赤外線を発する発光部 (LED)を有している。 被控訴人は,本件訂正発明1の「光」は赤外線を含むものと解すべきで あり,本件訂正発明1の「発光部」(構成要件1A3,1A5,1D及び 1E)は,赤外線を発する構成のものも含まれるから,控訴人各製品の発 光部は本件訂正発明1の「発光部」に該当し,控訴人各製品は,構成要件 1A3,1A5,1D及び1Eを充足する旨主張する。 また,被控訴人は,本件訂正発明1においては,正面対向位置での受光 結果に基づく搭載位置検出が行われるインクタンクが複数存在すれば足り, 被控訴人製のプリンタ「PIXUS iP7500」及び「PIXUS iP4500」に装着された控訴人製品2は,構成要件1A1の「複数の 液体インク収納容器」,1A2ないし1A4及び1A6の「液体インク収 納容器」並びに1A5の「前記キャリッジの位置に応じて特定されたイン ク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ,その光の受光結果 に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器 の搭載位置を検出する記録装置の」を充足する旨主張する。 さらに,被控訴人は,正面対向位置での受光結果に基づきインクタンク の搭載位置を検出していれば,非対向位置での受光結果が利用されていて も本件訂正発明1の構成要件を充足するので,控訴人各製品は本件訂正発 明1の構成要件を充足する旨主張する。 そこで,上記各点についてどのように解釈すべきかについて判断した上 で,控訴人各製品が本件訂正発明1の各構成要件を充足するかどうかにつ いて判断することとする。」 (4) 原判決61頁8行目冒頭から同頁18行目末尾までを次のとおり改める。 「イ 正面対向位置での受光結果に基づき搭載位置検出が行われないインク タンクの存在について 控訴人は,本件訂正発明1における「光照合処理」とは,「複数の液 体インク収納容器」の発光部が全てプリンタの受光部で「正面受光」さ れるものと解釈できるところ,被控訴人製のプリンタ「PIXUS i P7500」及び「PIXUS iP4500」と控訴人製品2との 「光照合処理」においては,発光部が上記各プリンタの受光部の正面に 対向せずに,右斜め前から発光するインクカートリッジが存在し,全て について「正面受光」していないので,控訴人製品2は,本件訂正発明 1の構成要件1A1の「複数の液体インク収納容器」,構成要件1A3 ほかの「前記インク収納容器」,及び,構成要件1A5の「前記キャリ ッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前 記発光部を光らせ,その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器 位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する記録装置 の」を充足しない旨主張する。 しかし,本件特許の請求項1では,「複数の液体インク収納容器」(構 成要件1A)の発光部が受光部と対向することにより「光照合処理」(前 記ア(ウ)b)を行うことが記載されているにとどまり,他に請求項1や本 件訂正明細書に「複数の液体インク収納容器」の発光部の全てが受光手 段と対向しなければならないことを明示した記載や,これを規定したこ とをうかがわせる記載はない。 そうすると,本件訂正発明1においては,「複数の液体インク収納容 器」について「光照合処理」が行われれば足りるものと解するべきであ る。 よって,控訴人の上記主張を採用することはできない。 ウ インクタンクとの正面受光のみによってインクタンクの搭載位置を特 定していない点について 控訴人は,本件訂正発明1は,インクタンクの発光部がプリンタの受 光部の「正面に対向」するキャリッジ位置でインクタンクを個別発光さ せ,プリンタの受光部で「正面受光」することのみによって,インクタ ンクの搭載位置を特定するものである旨主張する。 しかし,本件訂正発明1は,「光照合処理」を用いてインクタンクの 搭載位置を検出するものであるところ,構成要件1A3において「前記 キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替わる ように配置され前記液体インク収納容器の発光部からの光を受光する位 置検出用の受光手段を一つ備え,該受光手段で該光を受光することによ って前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器 位置検出手段と,」とされ,構成要件1A5において「その光の受光結 果に基づき・・・液体インク収納容器の搭載位置を検出する」とされて いるにとどまり,他に請求項1や本件訂正明細書にインクタンクの発光 部がプリンタの受光部の「正面に対向」するキャリッジ位置でインクタ ンクを個別発光させ,プリンタの受光部で「正面受光」することのみに より搭載位置を検出することを明示する記載はないし,これをうかがわ せるような記載もない。 したがって,控訴人各製品を搭載した被控訴人製プリンタにおいて, 正面対向位置での受光結果に基づきインクタンクの搭載位置を検出して いれば,非対向位置での受光結果が利用されていても本件訂正発明1の 構成要件を充足するものと解するべきである。 よって,控訴人の上記主張を採用することはできない。 エ 構成要件の充足性 控訴人各製品の発光部(LED)は,被控訴人製プリンタに設置された 受光手段に投光するための赤外線を発するものであるが,本件訂正発明1 の 「 発 光部 」は , 赤外 線 を発 す る構 成のも の も 含ま れる か ら( 前 記 ア (オ)),本件訂正発明1の「発光部」(構成要件1A3,1A5,1D及 び1E)に該当する。 そして,控訴人各製品を被控訴人製プリンタに装着した場合,「光照合 処理」が行われ,控訴人各製品がキャリッジ上の正しい搭載位置に搭載さ れているか否かを検出することができることが認められるほか(甲3ない し12),控訴人製品2を被控訴人製のプリンタ「PIXUS iP75 00」及び「PIXUS iP4500」に装着した場合においても,複 数の液体インク収納容器が「光照合処理」を行っていることが認められる (甲8ないし11)。さらに,控訴人各製品を装着した被控訴人製プリン タでは,インクタンクの搭載位置検出のために正面対向位置での受光結果 に基づきインクタンクの搭載位置を検出していることが認められる(甲3 ないし12)。加えて,控訴人各製品が「液体インク収納容器」であるこ と等,控訴人各製品の構造も併せ考えると,控訴人各製品は,本件訂正発 明1の構成要件1A3,1A5,1D,1E及び1Fを充足する(被控訴 人製のプリンタ「PIXUS iP7500」と「PIXUS iP45 00」に装着された控訴人製品2は,構成要件1A1,1A2,1A4及 び1A6も併せて充足する。)ものと認められる。 以上によれば,控訴人各製品は,本件訂正発明1の構成要件を全て充足 する。」 (5) 原判決61頁23行目冒頭から同62頁9行目末尾までを次のとおり改め る。 「(1) 控訴人製品1又は控訴人製品2を装着した被控訴人製プリンタが,本 件訂正発明2の構成要件2A1,2A2,2A4,2B,2D1及び2 D2を充足する(ただし,控訴人製品2を装着した被控訴人製のプリン タ「PIXUS iP7500」及び「PIXUS iP4500」を 除く。)ことは,前記争いのない事実等(4)イ(ウ)のとおりである。 そして,前記1で述べたのと同様の理由により,控訴人各製品の発光 部(LED)は本件訂正発明2の「発光部」(構成要件2D3,2D及 び2F)に該当し,控訴人製品1又は控訴人製品2を装着した被控訴人 製プリンタは,「光照合処理」(前記1(2)ア(ウ)b)を行い,控訴人各 製品がキャリッジ上の正しい搭載位置に搭載されているか否かを検出す ることができる。さらに,控訴人製品2を被控訴人製のプリンタ「PI XUS iP7500」及び「PIXUS iP4500」に装着した 場合,複数の液体インク収納容器が「光照合処理」を行っている。 さらに,控訴人製品1又は控訴人製品2を装着した被控訴人製プリン タでは,インクタンクの搭載位置検出のために正面対向位置での受光結 果に基づきインクタンクの搭載位置を検出していることが認められる。 そうすると,前記1で述べたのと同様に,控訴人製品1又は控訴人製 品2を装着した被控訴人製プリンタは,構成要件2A3,2D3ないし 2Fを充足する(控訴人製品2を装着した「PIXUS iP750 0」及び「PIXUS iP4500」は,構成要件2A1,2A2, 2A4,2B,2D1及び2D2も併せて充足する。)ものと認められ る。 また,控訴人製品1又は控訴人製品2を装着した被控訴人製プリンタ は,「液体インク供給システム」であるから,構成要件2C及び2Gを 充足する。 以上によれば,控訴人製品1又は控訴人製品2を装着した被控訴人製 プリンタは,本件訂正発明2の構成要件を全て充足し,その技術的範囲 に属する。」 (6) 原判決62頁14行目の「「課題の解決に不可欠なもの」」から同頁16 行目の「いうべきである。」までを次のとおり改める。 「「課題の解決に不可欠なもの」に該当するといえ,さらに,控訴人は,平 成23年8月24日に本件訴状の送達を受けているところ(記録上明らかな 事実),その後,平成24年4月2日,控訴人代理人が,本件訂正を認めた 審決書の写し(甲22)及び同審決が確定したことを示す本件特許の特許原 簿の写し(甲23)の直送を受けているので(記録上明らかな事実),控訴人 は,遅くとも同日には,本件訂正発明2が被控訴人の特許発明であること及 び控訴人各製品が上記発明の実施に用いられることを知ったものと認められ, 以上によれば,控訴人による控訴人各製品の輸入及び販売について,特許法 101条2号の間接侵害が成立するというべきである。」 (7) 原判決62頁18行目冒頭から同24行目末尾までを次のとおり改める。 「 控訴人は,本件各訂正発明は,本件出願の優先権主張日前に頒布された 刊行物である乙9及び乙10に記載された発明に基づいて容易に発明をす ることができたものであって,本件各訂正発明に係る本件特許には,特許 法29条2項に違反する進歩性欠如の無効理由があるほか,特許法36条 6項1号(サポート要件)違反及び特許法36条6項2号(明確性要件) 違反の無効理由があり,特許無効審判により無効にされるべきものである から,同法104条の3第1項の規定により,被控訴人は,本件各訂正発 明に係る本件特許権を行使することができない旨主張する。」 (8) 原判決62頁25行目「無効理由」の次に「(進歩性欠如)」を加える。 (9) 原判決70頁14行目冒頭から同19行目末尾までを次のとおり改める。 「h 「本発明は印刷ヘッド上の磁気片メモリーに言及しつつ説明されてき たが,他の記憶素子も容易に採用されうる。もしメモリー上のデータを プリンターで更新する必要がなければ,印刷ヘッドの動作特性を符号化 した光学バーコードを含めて,種々の読取専用メモリーを採用してもよ い。また,印刷ヘッドとプリンターの間のデータ通信は,読取/書込み ヘッドによってなされる必要はない。かわりに,光学的,あるいは無線 のカップリング等,他の送信技術を用いることもできる。」(6頁右上 欄4行〜14行)」 (10) 原判決71頁12行目冒頭から同72頁14行目末尾までを次のとおり改 める。 「 加えて,乙10の「本発明は印刷ヘッド上の磁気片メモリーに言及しつ つ説明されてきたが,他の記憶素子も容易に採用されうる。もしメモリー 上のデータをプリンターで更新する必要がなければ,印刷ヘッドの動作特 性を符号化した光学バーコードを含めて,種々の読取専用メモリーを採用 してもよい。印刷ヘッドとプリンターの間のデータ通信は,読取/書込み ヘッドによってなされる必要はない。かわりに,光学的,あるいは無線の カップリング等,他の送信技術を用いることもできる。」(前記(ア)h)と の記載によれば,乙10には,乙10記載の印刷装置において,磁気片メ モリー14を読み書きする磁気読取/書込みヘッド44を用いる代わりに, 「光学的カップリング」によるデータ送信技術を用いて,各印刷ヘッド1 2と印刷装置との間の通信を行うことが開示されているものといえる。そ して,一般に,「カップリング」とは,「二つのものを一つに組み合わせ ること,二つ以上の力学系や電気系その他のシステムが相互作用をしなが ら結合すること」を意味する(広辞苑第六版 岩波書店)。したがって, 「光学的カップリング」との記載からは,二つの光学系システムが相互作 用をしながら光学的に結合することを意味するものと理解し得る。そうす ると,乙10には,磁気媒体の代わりに光学媒体等(前記(ア)f)を用い, 印刷装置側の磁気読取/書込みヘッド44の代わりに受光素子を用いると ともに,それぞれの印刷ヘッド12が印刷装置側の受光素子を通過する都 度,印刷ヘッド12と受光素子との間の光学的なデータ通信によって,受 光素子と対向した印刷ヘッド12の光学媒体からインク色情報を読み取る 方法(ただし,読み取られたインク色情報が当該印刷ヘッドのインク色を 示すことが前提である。)により,上記の磁気媒体を用いた場合と同様に, 各印刷ヘッド12が誤装着されているか否かを検出する構成も示唆されて いるものと解し得る余地がある。 しかし,上記の構成において,印刷ヘッド12側に発光部を設ける構成 (相違点2)を想定し得たとしても,乙10に記載された構成は,上記の とおり,あくまで互いに対向した受光素子及び印刷ヘッド12の間におけ る光学的なデータ通信によってインク色情報を読み取るものであり,その 際に光学媒体等が光を発する印刷ヘッド12は,受光素子と対向したもの として一義的に特定されているのであって,発光させるべき印刷ヘッド1 2の色種をキャリッジの位置に応じて特定するものではない。そうすると, 上記構成は,「前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記 液体インク収納容器の前記発光部」を「光らせ」る構成(構成要件1A5) や,「前記接点から入力される前記情報に係る信号と,前記情報保持部の 保持する前記色情報とに応じて前記発光部の発光を制御する」構成(構成 要件1E)とは異なるものである(別紙参照)。したがって,乙10にお いて,少なくとも相違点1及び3に係る本件訂正発明1の各構成が開示さ れているものと認めることはできない。」 (11) 原判決74頁7行目の「〈発明が解決使用とする課題〉」を「〈発明が解 決しようとする課題〉」と改める。 (12) 原判決82頁15行目の「相違点1ないし3」を「少なくとも相違点1及 び3」と改める。 (13) 原判決82頁20行目冒頭から同83頁9行目末尾までを次のとおり改め る。 「(ア) 前記イのとおり,乙10には少なくとも相違点1及び3に係る本件訂 正発明1の各構成の具体的な開示はない。 しかも,前記イ認定の乙10に示唆されていると解し得る構成は,あ くまで受光素子とこれと対向して発光する印刷ヘッド12の間における 光学的なデータ通信によってインク色情報を読み取るものであり,前記 1(2)ア(イ)及び(ウ)認定の内容の本件訂正発明1とは異なり,対向した 印刷ヘッド12側からの光を受光しないことは本来的に想定しておらず, また,対向した印刷ヘッド12側からの光を受光しないことを印刷ヘッ ド12の装着位置の誤りを検出するための情報として用いるものでもな い。また,乙10に示唆されていると解し得る構成によれば,印刷ヘッ ド12との間のデータ通信により,受光素子と対向した印刷ヘッドのイ ンク色の正誤はもとより,それが何色であるかについても,一義的に特 定することができるのに対し,本件訂正発明1ではそのような構成とは なっておらず,プリンタ側の液体インク収容容器位置検出手段は,その 液体インク収納容器の装着位置が正しいか否かを検出できるにとどまり, 誤って装着された液体インク収納容器が何色なのかまでは検出すること ができない(前記1(2)ア参照)。そうすると,乙10に記載された構 成に基づく誤装着の検出手法は,各色の液体インク収納容器の発光部が いずれも発光し得ることを前提とし,受光手段と対向した液体インク収 納容器の発光部が発光したか否かに基づいて,印刷ヘッドの装着位置の 誤りを検出する本件訂正発明1とは,技術的思想が異なるものといえる。 したがって,当業者が乙9発明@及び乙10に記載された発明に基づ いて相違点1及び3に係る本件訂正発明1の各構成を容易に想到するこ とができたものと認めることはできない。」 (14) 原判決83頁16行目「無効理由」の次に「(進歩性欠如)」を加える。 (15) 原判決84頁25行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。 「(3) 特許法36条6項1号(サポート要件)違反について 控訴人は,本件訂正明細書には,可視光を発する発光部に関する記載 しかなく,赤外線を発する「第1発光部」は一切開示されていない,本 件訂正発明1の「発光部」が赤外線を発する構成を含むと仮定した場合, 「複数のインクタンクの搭載位置に対して共通の信号線を用いてLED などの表示器の発光制御を行い,この場合でもインクタンクなど液体イ ンク収納容器の搭載位置を特定した表示器の発光制御をすることを可能 とする」(段落【0010】),すなわち,インクタンクの状態をユー ザに報知するためのランプ等の表示器の発光制御を正しく行う,という 本件訂正発明1の目的を達成することができないので,赤外線を発する 「発光部」を備えた本件訂正発明1は,当業者が,発明の課題を解決で きると認識できる範囲を超える,などとして,本件訂正後の請求項1は, 特許法36条6項1号に規定する要件を充たしておらず,本件訂正後の 請求項3も同様である旨主張する。 特許制度は,明細書に開示された発明を特許として保護するものであ り,明細書に開示されていない発明までも特許として保護することは特 許制度の趣旨に反することから,特許法36条6項1号のいわゆるサポ ート要件が定められたものである。したがって,同号の要件については, 特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明の欄の記載によ って十分に裏付けられ,開示されていることが求められるものであり, 同要件に適合するものであるかどうかは,特許請求の範囲の記載と発明 の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が発 明の詳細な説明に記載された発明であるか,すなわち,発明の詳細な説 明の記載と当業者の出願時の技術常識に照らし,当該発明における課題 とその解決手段その他当業者が当該発明を理解するために必要な技術的 事項が発明の詳細な説明に記載されているか否かを検討して判断すべき である。 そして,前記1(2)ア認定の本件訂正明細書の記載によれば,本件各 発明は,前記1(2)ア(ウ)b認定の課題を解決するために,キャリッジに 搭載された複数のインクタンクにそれぞれのインク色情報を保持可能な 情報部と,本体側の記憶装置に設けられた受光部に投光するための光を 発光する発光部と,その発光を制御する制御部とを設け,インクタンク が受光部に対向する位置で発光する場合には受光部が受光できるように し,キャリッジを相対移動させることにより,所定の位置で各インクタ ンクと受光部とを対向させ,本来装着されるべき位置のインク色のイン クタンクを順次発光させ,受光部が受光できたときは当該インク色のイ ンクタンクが本来の正しい搭載位置に装着されていると判断し,受光部 が受光できなかったときは受光部に対向する位置には誤ったインク色の インクタンクが装着されていると判断するという「光照合処理」の方法 を採用したこと,及び,これにより共通バス接続方式を採用しつつイン クタンクの装着位置の誤りを検出するという作用効果を奏することが記 載されているものと認められる。そうすると,当業者であれば,本件訂 正明細書の記載から,「光照合処理」の構成を採用する際に「光」を赤 外線とする構成を想定することができるものといえる。したがって,本 件訂正明細書の発明の詳細な説明には,当業者において,特許請求の範 囲に記載された本件各発明の課題とその解決手段その他当業者が本件各 発明を理解するために必要な技術的事項が記載されているものといえる。 よって,控訴人の上記主張を採用することはできない。 (4) 特許法36条6項2号(明確性要件)違反について 控訴人は,本件訂正後の請求項1の記載からは,「前記接点から入力 される前記色情報に係る信号」と,「前記情報保持部の保持する前記色 情報」とがどのような関係である場合に,「発光部」を点灯又は消灯す るのか,いかなるタイミングで「発光部」を点灯又は消灯するのかとい った具体的な制御内容が不明である,つまり,共通の信号線を用いて表 示部の発光制御を行うことによって,液体インク収納容器の装着位置を 特定するという本件訂正発明1の目的を達成するために必要な事項が請 求項に記載されていないので,本件訂正発明1の請求項に記載された技 術的事項から発明を明確に把握できず,本件訂正後の請求項1の記載は, 特許法36条6項2号の要件を充たしていない,本件訂正後の請求項3 の記載も同様である旨主張する。 しかし,本件訂正後の請求項1には「前記キャリッジの位置に応じて 特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ, その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段は前記 液体インク収納容器の搭載位置を検出する」(構成要件1A5),及び, 「前記接点から入力される前記色情報に係る信号と,前記情報保持部の 保持する前記色情報とに応じて前記発光部の発光を制御する制御部」 (構成要件1E)との記載がある。そして,これらの記載を併せると, 液体インクタンク収納容器の搭載されたキャリッジの位置に応じて特定 されたインク色の液体インクタンク収納容器の発光部が発光すること, それが前記接点から入力される前記色情報に係る信号と,前記情報保持 部の保持する前記色情報とに応じたものであること,その受光結果に基 づき液体インク収納容器の搭載位置が検出されることが特定されており, これらの記載は明確である。 また,本件訂正後の請求項3には「前記接点から入力される前記色情 報に係る信号と,前記情報保持部の保持する前記色情報とが一致した場 合に前記発光部を発光させる制御部と,を有し」(構成要件2D4), 及び,「前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体 インク収納容器の前記発光部を光らせ,その光の受光結果に基づき前記 液体インク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置 を検出する」(構成要件2F)との記載がある。そして,これらの記載 を併せると,液体インクタンク収納容器の搭載されたキャリッジの位置 に応じて特定されたインク色の液体インクタンク収納容器の発光部が発 光すること,これは接点から入力される色情報に係る信号と,情報保持 部の保持する色情報とが一致した場合であること,その受光結果に基づ き液体インク収納容器の搭載位置が検出されることが特定されており, これらの記載は明確である。 よって,控訴人の上記主張を採用することはできない。」 (16) 原判決84頁26行目「(3)」を「(5)」と改める。 2 当審における当事者の主張に対する判断 (1) 自由技術の抗弁について 控訴人は,控訴人各製品は,本件特許の出願日までに既に公知となってい た技術(乙14,乙37及び乙13)を用いているものであるか,これらか ら極めて容易に推考できたものであるから,本件特許権の直接侵害又は間接 侵害は成立しない旨主張する。 しかし,自由技術の抗弁を特許権侵害訴訟における抗弁として認めること ができるかどうかはともかくとして,同抗弁を主張する者は,少なくとも本 件訂正発明1の全ての構成要件に対応する構成を備えた製品が本件特許の出 願日において既に存在していたことを主張立証する必要があるところ(本件 訂正発明2の関係においても同様の主張立証が必要である。),控訴人の上 記主張は,控訴人各製品につき,本件訂正発明1の構成要件を考慮すること なく,控訴人主張控訴人各製品構成のとおりに特定することを前提とするも のであること,及び,本件特許の出願日における公知技術から極めて容易に 推考できたものであるとの主張も含むものであり,そもそも自由技術の抗弁 の主張とはいえず,主張自体失当であり,本件特許権の直接侵害又は間接侵 害が成立しない旨の抗弁としてはこれを採用することはできない。 すなわち,本件訂正発明1は,引用する原判決認定のとおり,記録装置の キャリッジに着脱可能な液体インク収納容器に関するものであり,これに対 応する記録装置(プリンタ)の構成と一組のものとして発明を構成するもの であるから,控訴人としては,控訴人各製品の構成を特定するに当たっては, 本件訂正発明1における記録装置側の構成を含めて,その全ての構成要件に 対応した控訴人各製品の構成を特定して主張すべきである。控訴人は,上記 構成を除いた控訴人主張控訴人各製品構成を前提として同抗弁を主張するも のであり,控訴人の上記主張はその前提において誤っており,これを採用す ることはできない。 なお,仮に,控訴人が,控訴人各製品につき,本件訂正発明1の全ての構 成要件に対応するものとして特定して同抗弁を主張したとしても,控訴人が 引用する乙14,乙37及び乙13には,「光照合処理」に関する記載も示 唆もないので,本件訂正発明1の構成と同一の構成の製品が本件特許の出願 日において存在したと認めることはできない。 (2) 時機に後れた防御方法であるか否かについて 被控訴人は,控訴人の本件防御方法の提出が時機に後れたものである旨主 張する。 しかし,本件防御方法のうち,当判決における第2の2(4),(6)及び(9)記 載の主張は,既に提出済みの証拠に基づき判断可能なものであるし,同3(1) ア記載の主張についても,直ちに取調べの可能な書証及び既に提出済みの証 拠に基づき判断可能なものである。さらに,当裁判所は,平成25年6月1 0日の当審第2回口頭弁論期日において,弁論を終結したものである以上, 本件防御方法の提出が「訴訟の完結を遅延させる」(民訴法157条1項) ものとはまでは認め難い。 よって,本件防御方法を時機に後れたものとして却下する必要はない。 第4 結論 以上によれば,原判決は相当であって,本件控訴は理由がないからこれを棄 却することとして,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官 設 樂 z 一 裁判官 西 理 香 裁判官 神 谷 厚 毅 - 33 - |