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事件 平成 25年 (行ケ) 10022号 審決取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2013/08/09
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成25年8月9日判決言渡

平成25年(行ケ)第10022号 審決取消請求事件

平成25年8月5日 口頭弁論終結

判 決



原 告 X



原 告 株 式 会 社 キ ー ソ フ ト



原告ら両名訴訟代理人弁理士 塩 野 谷 英 城



被 告 特 許 庁 長 官

指 定 代 理 人 井 上 信 一

同 金 子 幸 一

同 須 田 勝 巳

同 田 部 元 史

同 大 橋 信 彦

主 文

1 原告らの請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

特許庁が不服2011−19387号事件について平成24年12月10日

にした審決を取り消す。

第2 前提事実

1 特許庁における手続の経緯等(争いがない。)
原告らは,共同で,発明の名称を「情報提供システム」とする発明につき,

平成13年6月19日を出願日とする特許出願(特願2001−184444

号。以下,「本願」という。)をした。原告らは,平成22年8月31日付けで

拒絶理由の通知を受けたので,同年12月13日付けの手続補正書により,特

請求の範囲及び明細書の補正をした。原告らは,平成23年6月3日付けで

拒絶の査定を受け,同年9月7日,拒絶査定に対する不服の審判(不服201

1−19387号)を請求するとともに,同日付けの手続補正書により,特許

請求の範囲及び明細書の補正をした。原告らは,平成24年8月6日付けで拒

絶理由の通知を受けたので,同年10月9日付けの手続補正書により,特許請

求の範囲の補正をした(以下,補正後の明細書及び図面を併せて「本件明細

書」という。。


特許庁は,平成24年12月10日,「本件審判の請求は,成り立たない。」

との審決をし,その謄本を,同年12月25日,原告らに送達した。

2 特許請求の範囲の記載(甲5)

補正後の本願の特許請求の範囲(請求項の数2)の請求項2の記載は,以下

のとおりである(以下,同請求項に記載された発明を「本願発明」という。。


「【請求項2】

求人条件を含む求人情報をサーバ装置に通信手段を介して送信する複数の求

人者側端末と,求職条件を含む求職情報をサーバ装置に通信手段を介して送信

する複数の求職者側端末と,前記求人情報および求職情報を通信手段を介して

受信して記憶手段に蓄積し,前記求人条件と求職条件とが一致する求職情報を

当該記憶手段から選択して前記求人者側端末に通信手段を介して送信するサー

バ装置とを備えた情報提供システムにおいて,

前記求人者側端末は,過去に接した求職者の印象を表すメッセージ情報の入

力を求人者から入力手段を介して受け付け,当該メッセージ情報を前記サーバ

装置に通信手段を介して送信し,
前記サーバ装置は,前記求人者側端末から通信手段を介して受信した前記求

職者の印象を表すメッセージ情報を当該求職者に関連付けて記憶手段に蓄積し,

前記求人者側端末から通信手段を介して受信した要求に応じて前記求職者の印

象を表すメッセージ情報を前記記憶手段から読み出し当該求人者側端末に通信

手段を介して送信し,

その送信の際前記サーバ装置は,前記記憶手段に蓄積したメッセージ情報の

うち予め設定された蓄積期間が経過したメッセージ情報を送信せず,当該蓄積

期間が経過する前のメッセージ情報だけを前記記憶手段から読み出して前記求

人者側端末に通信手段を介して送信し,前記蓄積期間は前記求職者が前記過去

を清算することを目的として予め設定された期間である,

情報提供システム。」

3 審決の理由

審決の理由は,別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願発明は,本

願出願後に出願公開された特願2000−187776号(特開2002−7

616号(甲1))の願書(以下,同願書に最初に添付された明細書及び図面

を併せて「先願明細書」という。)に記載された発明(以下「先願発明」とい

う。)と実質的に同一であり,しかも,本願発明の発明者が先願発明の発明者

と同一ではなく,また,本願出願時において,その出願人が先願の出願人と同

一でもないので,特許法29条の2の規定により特許を受けることができない,

というものである。

審決が認定した先願発明の内容,本願発明と先願発明との一致点及び一応の

相違点は以下のとおりである。

(1) 先願発明の内容

「求職クライアントの通信端末(自己のパソコン)と求人クライアントの

通信端末(自社のパソコン)とにコンピュータネットワークを介して接続さ

れたサーバーを有する信用評価情報収集閲覧システムであって,
前記サーバーは,制御部,求人クライアント情報記憶部,求職クライアン

ト情報記憶部,求人条件情報記憶部,求職条件情報記憶部,求職クライアン

ト信用評価情報記憶部およびメインプログラム記憶部などを備え,

前記求人クライアント情報記憶部及び前記求人条件情報記憶部は,それぞ

れ求人クライアントの前記通信端末からコンピュータネットワークを介して

送信されてきた求人クライアント情報及び求人条件情報を記憶するものであ

り,

前記求職クライアント情報記憶部及び前記求職条件情報記憶部は,それぞ

れ求職クライアントの前記通信端末からコンピュータネットワークを介して

送信されてきた求職クライアント情報及び求職条件情報を記憶するものであ

り,

前記サーバーは,求人クライアントが前記通信端末からコンピュータネッ

トワークを介して求職情報閲覧の処理を選択した際,当該通信端末からコン

ピュータネットワークを介して送信されてきた求人クライアントが希望する

求職条件(求人を希望する職種,勤務地,勤務時間,休日,期間,資格およ

び待遇のうち少なくとも一つ)の情報に基づいて,該当する求職条件情報を

前記求職条件情報記憶部から検索して適当な処理を行ったあと,コンピュー

タネットワークを介して求人クライアントの前記通信端末の表示部に対して

求職情報画面として表示させ,

前記求職クライアント信用評価情報記憶部は,求職クライアントの就業前

後の少なくとも一方の時期において,求人クライアントの求職クライアント

に対するイメージや評価の理由などの説明を含む信用評価情報を記憶するも

のであり,

前記サーバーは,求人クライアントが前記通信端末からコンピュータネッ

トワークを介して求職クライアントの信用評価情報の登録の処理を選択した

際,当該通信端末のキーボードやマウスを用いて入力され,コンピュータネ
ットワークを介して送信されてきた信用評価情報を前記求職クライアント信

用評価情報記憶部に記憶せしめ,

求人クライアントが前記求職情報画面を閲覧して希望する求職情報があっ

た場合に,当該求職クライアントの信用評価情報を請求したいことを前記通

信端末からコンピュータネットワークを介して前記サーバーに伝えると,前

記サーバーは,該当する求職クライアントの信用評価情報を前記求職クライ

アント信用評価情報記憶部から読み込んで所定の処理を行ったあと,コンピ

ュータネットワークを介して求人クライアントの前記通信端末の表示部に対

して信用評価情報画面として表示させる,

信用評価情報収集閲覧システム。」

(2) 一致点

「求人条件を含む求人情報をサーバ装置に通信手段を介して送信する複数

の求人者側端末と,求職条件を含む求職情報をサーバ装置に通信手段を介し

て送信する複数の求職者側端末と,前記求人情報および求職情報を通信手段

を介して受信して記憶手段に蓄積し,前記求人条件と求職条件とが一致する

求職情報を当該記憶手段から選択して前記求人者側端末に通信手段を介して

送信するサーバ装置とを備えた情報提供システムにおいて,

前記求人者側端末は,過去に接した求職者の印象を表すメッセージ情報の

入力を求人者から入力手段を介して受け付け,当該メッセージ情報を前記サ

ーバ装置に通信手段を介して送信し,

前記サーバ装置は,前記求人者側端末から通信手段を介して受信した前記

求職者の印象を表すメッセージ情報を当該求職者に関連付けて記憶手段に蓄

積し,前記求人者側端末から通信手段を介して受信した要求に応じて前記求

職者の印象を表すメッセージ情報を前記記憶手段から読み出し当該求人者側

端末に通信手段を介して送信する,

情報提供システム。」
(3) 一応の相違点

「メッセージ情報の送信の際,本願発明では『前記サーバ装置は,前記記

憶手段に蓄積したメッセージ情報のうち予め設定された蓄積期間が経過した

メッセージ情報を送信せず,当該蓄積期間が経過する前のメッセージ情報だ

けを前記記憶手段から読み出して前記求職者側端末に通信手段を介して送信

し,前記蓄積期間は前記求職者が前記過去を清算することを目的として予め

設定された期間である』のに対し,先願発明ではそのような蓄積期間に関す

る特定がなされていない点。」

第3 原告ら主張の取消事由

1 取消事由1(相違点の認定の誤り)について

審決における一応の相違点の記載中,本願発明の「前記サーバ装置は,前記

記憶手段に蓄積したメッセージ情報のうち予め設定された蓄積期間が経過した

メッセージ情報を送信せず,当該蓄積期間が経過する前のメッセージ情報だけ

を前記記憶手段から読み出して前記求職者側端末に通信手段を介して送信し,

前記蓄積期間は前記求職者が前記過去を清算することを目的として予め設定さ

れた期間である」との要件は,先願発明には全く記載も示唆もされていない事

項であるから,一応の相違点ではなく,明らかな相違点である。

2 取消事由2(相違点についての認定判断の誤り)について

(1) 審決は,「所定の情報を記憶する記憶部には当然,記憶容量の限りがある

ことから,所定期間以上経過した古い情報を削除することは技術常識ともい

える周知の技術であり」とし,上記周知技術の裏付けとして,特開2000

−305980号公報(甲2。以下「引用公報1」という。)及び特開20

01−14332号公報(甲3。以下「引用公報2」という。)を引用して

いるが,以下の理由により上記認定判断は誤っている。

「所定の情報を記憶する記憶部には当然,記憶容量の限りがある」ことは

認めるが,記憶容量の限りに対処する場合,必要な情報を残し,不要な情報
を削除することが技術常識ともいえる周知技術であり,必ずしも「所定期間

以上経過した古い情報を削除すること」は技術常識ではないし,周知技術

もない。

また,引用公報1の公開日は平成12年11月2日であり,引用公報2の

公開日は平成13年1月19日であって,これらの引用公報は,本願発明の

出願日である平成13年6月19日よりも5〜7か月前に公開されたにすぎ

ずないので,各引用公報によって開示され審決に記載された技術が「技術常

識」になり「周知技術」になったとはいえない。

(2) 審決は,本願発明につき,「予め設定された蓄積期間が経過した信用評価

情報を送信せず,当該蓄積期間が経過する前の信用評価情報だけを記憶部か

ら読み出して送信するものとすることは単なる周知技術の付加にすぎず,当

周知技術が有する以上の格別の作用効果を奏するものでもない。」とし,

さらに,本願発明が,予め設定された蓄積期間について,「前記求職者が前

記過去を清算することを目的として」設定されたものであると特定(限定)

している点について,「必ずしも全ての求職者が信用を失う過去があるとい

うわけではないこと,また,信用を失う過去がある求職者がいたとしても,

完全にその過去を清算し得る期間は求職者毎にまちまちであり異なるはずで

あるにもかかわらず,本願発明においては単に一律に期間を設定しているに

すぎないものであることや,たとえ上記周知技術のように記憶容量の不足を

防ぐことを目的として蓄積期間を設定したとしても,古い過去の情報は削除

されて提供されないのであるから,信用を失う過去がある求職者については

程度はともかく過去の清算は多少なりともなされ得るはずであることを考慮

すると,本願発明が予め設定された蓄積期間について,『前記求職者が前記

過去を清算することを目的として』設定されたものであるとの特定(限定)

を有するものであっても,上述のように,『単なる周知技術の付加にすぎず,

当該周知技術が有する以上の格別の作用効果を奏するものでもない。』との
判断にかわりはない。」と判断している。しかし,審決のこの認定判断は,

以下の理由により誤りである。

ア 前記(1)のとおり審決が周知技術としている技術は周知技術ではないし,

仮に周知技術であるとしても,その内容は,「記憶容量の限りがあること

から,所定期間以上経過した古い情報を削除すること」である。これを先

願発明に付加したとしても,本願発明のように「予め設定された蓄積期間

が経過した信用評価情報を送信せず,当該蓄積期間が経過する前の信用評

価情報だけを記憶部から読み出して送信するもの」にはならない。

また,記憶装置に格納された信用評価情報を残すか削除するかという判

定と,記憶装置に格納された信用評価情報を送信するか送信しないかとい

う判定とは,技術的思想が明らかに異なっている。仮に,「記憶容量の限

りがあることから,所定期間以上経過した古い情報を削除」することが,

直ちに「信用評価情報を送信せず」ということにつながるとしたら,「当

該蓄積期間が経過する前の信用評価情報だけを記憶部から読み出して」と

いう判断処理が必要なくなってしまい,単に記憶装置に格納されている信

用評価情報を蓄積期間とは無関係に読み出せば済むことになり,矛盾する。

イ 「記憶容量の不足を防ぐことを目的として・・・古い過去の情報は削

除」されることと,古い過去の情報は「提供されない」(本願発明の場合

意図的に「提供しない」)こととの因果関係は絶対ではない。また,本願

発明は信用評価情報に相当する情報を削除することを要件としていないし,

「蓄積期間」の語を用いてはいるが,本願発明における「蓄積期間」とは,

信用評価情報に相当する情報を送信するか送信しないかを判断するための

パラメータであり,当該情報を削除するか削除しないかとは無関係である。

ウ 記憶容量の限りに応じて古い情報を削除するための期間と,本願発明の

要件である「前記求職者が前記過去を清算することを目的として予め設定

された期間」とでは,技術的思想が異なる。審決が周知技術とする技術で
は「前記求職者が前記過去を清算する」という目的とは懸け離れ,求職者

が過去を清算できないシステムになってしまう場合があるのに対し,本願

発明によれば,「前記求職者が前記過去を清算する」という作用効果を達

する確実性が高いシステムを実現することができる。

エ 先願発明には,「前記求職者が前記過去を清算することを目的として」

という課題が存在しないので,当然,当該課題を解決するための具体化手

段も不要であり,先願発明と本願発明とは明らかに同一ではない。しかし,

審決は,先願発明に何ら記載も示唆もない事項を先願発明に足し合わせる

ことによって,本願発明と同一であるという帰結を導こうとしている。こ

のような手法は,いわゆる進歩性(特許法29条2項)の審査に類似する

が,特許法29条の2の同一性の判断においては,複数の公知事実を組み

合わせて同一性を導くべきではない。

オ 審決のいう周知技術の内容を前提としても,周知技術は記憶部の記憶

容量に限りがあるという課題を解決するものであるから,周知技術

いう「所定期間」の設定に当たっては,記憶部の記憶容量及び情報の蓄積

ペースが考慮されるべきで,上記期間は,記憶部の記憶容量及び記憶部へ

の情報の蓄積ペースに依存する。そして,先願発明と周知技術を組み合わ

せることによりもたらされる作用効果は,先願発明の課題解決手段によっ

てもたらされる「求職クライアントAの信用を客観的に評価することがで

きる」という作用効果と,周知技術によってもたらされる「記憶部の記憶

容量に限りがあるという課題を解決」できるという作用効果とが単に併存

したものになる。

他方,本願発明における「蓄積期間」は「前記求職者が前記過去を清算

することを目的として予め設定された期間」であるが,この期間の設定は,

記憶部の記憶容量に依存するものではないし,記憶部への情報の蓄積ペー

スに依存するものでもないので,作用効果も異なっている。
したがって,周知技術における「所定期間」と本願発明における「蓄積

期間」とは属性が全く異なる期間であり,当該相違点は設計上の微差では

ない。

第4 被告の反論

1 取消事由1(相違点の認定の誤り)について

審決は,本願発明と先願発明とは,実質的に目的,課題が共通し,当該課題

を解決するための具体化手段の要部において一致するものの,先願発明には,

本願発明における前記要部に更に付加された構成については明示的な記載がな

いことから,当該構成を「一応の相違点」と認定したものであり,その認定に

誤りはない。

2 取消事由2(相違点についての認定判断の誤り)について

(1) 記憶部の記憶容量に限りがあるという課題を解決する解決手段として,所

定期間以上経過した古い情報を削除することもあることが周知であったこと

は,審決において例示した引用公報1及び2の記載並びに本願出願日よりも

2〜3年前に公開された特開平11−195039号公報(乙1)や,特開

平10−133988号公報(乙2)の記載によって裏付けられており,審

決の認定に誤りはない。また,引用公報1及び2は,記憶部の記憶容量に限

りがあることから,所定期間以上経過した古い情報を削除することが周知技

術であることを裏付けるための例示であり,その公開時期によって審決が認

定した周知性が否定されるものではない。

(2)ア 審決は,「記憶容量の限りがあることから,所定期間以上経過した古

い情報を削除すること」が技術常識ともいえる周知技術であることに鑑み

れば,先願発明として当該周知技術が付加された先願発明も当然想定され

るものであり,当該周知技術が付加された先願発明においては,あらかじ

め設定された蓄積期間が経過した古い信用評価情報は削除されるのである

から,必然的に,あらかじめ設定された蓄積期間が経過した信用評価情報
を送信せず,当該蓄積期間が経過する前の信用評価情報だけを記憶部から

読み出して送信することとなると判断したものである。

また,本願発明の「記憶手段に蓄積したメッセージ情報のうち予め設定

された蓄積期間が経過したメッセージ情報を送信せず,当該蓄積期間が経

過する前のメッセージ情報だけを前記記憶手段から読み出して前記求人者

側端末に通信手段を介して送信し」との構成は本願の出願当初の明細書に

記載されたものではなく,平成22年12月13日付けの手続補正書(甲

8)により新たに加入補正されたもので,補正の根拠とされた上記当初の

明細書には,「予め設定された期間が経過したメッセージ情報を求人者側

端末に提供しないようにする」(甲4,【0077】,【0092】,

【0104】参照),「ここで,『提供しない』とは,メッセージ情報を

求職者に読めないようにする意であり,その手段を問わない。例えば,パ

スワードによるアクセス制限,あるいはメッセージ情報の削除等により実

現すればよい。」(【0022】)と記載されている。

したがって,本願発明の「記憶手段に蓄積したメッセージ情報のうち予

め設定された蓄積期間が経過したメッセージ情報を送信せず,当該蓄積期

間が経過する前のメッセージ情報だけを前記記憶手段から読み出して前記

求人者側端末に通信手段を介して送信し」との構成の技術的意義は,「予

め設定された期間が経過したメッセージ情報を求人者側端末に提供しない

ようにする」ためのものであって,上記構成を,蓄積期間が経過したメッ

セージ情報を削除することなく記憶したままとすることを前提として,蓄

積期間が経過する前のメッセージ情報だけを記憶部から読み出すようにし

たものであると限定的に解釈することはできない。

イ 上記アのとおり,本願発明の「記憶手段に蓄積したメッセージ情報のう

ち予め設定された蓄積期間が経過したメッセージ情報を送信せず,当該蓄

積期間が経過する前のメッセージ情報だけを前記記憶手段から読み出して
前記求人者側端末に通信手段を介して送信し」との構成は,あらかじめ設

定された蓄積期間が経過したメッセージ情報を削除することによって,

「予め設定された期間が経過したメッセージ情報を求人者側端末に提供し

ないようにする」こととなることを根拠の一つに補正された構成であり,

これにより求職者は過去を清算することも可能となったものである。これ

に対して,先願発明においても,技術常識ともいえる周知技術が当然に想

定され,「予め設定された期間が経過したメッセージ情報を求人者側端末

に提供しないようにする」ことにより,求職者が過去を清算することがで

きることとなる場合があり,本願発明とその作用効果において,実質的な

差異はない。

本願発明においては,あらかじめ設定された蓄積期間が経過したメッセ

ージ情報を削除するようにすることによっても,「予め設定された期間が

経過したメッセージ情報を求人者側端末に提供しないようにする」ことが

でき,ひいては求職者は過去を清算することができることとなることから

すれば,先願発明において,「所定期間以上経過した古い情報を削除」す

周知技術を付加した場合における「所定期間」は,本願発明における

「蓄積期間」と同様,原告らが主張するところの「信用評価情報に相当す

る情報を送信するかしないかを判断するためのパラメータ」としての技術

的意義を有する。

ウ 本願発明の「求職者が過去を清算することを目的として予め設定された

期間」は,求職者に対するメッセージ情報が肯定的であると否定的である

とを問わず設定期間経過後は求人者の間で閲覧できなくなる期間である

(甲4,5【0104】参照)ことから,設定期間後の情報は,求人者に

とって価値のない古い情報と評価できるものであり,所定期間以上経過し

た削除される古い情報が価値のない情報であるとする周知技術(甲2(平

成25年4月22日付け準備書面における「甲1」の記載は誤記と認め
る。),乙1)における「所定期間」と技術思想が異なるとはいえない。

第5 当裁判所の判断

当裁判所は,原告らの各取消事由の主張にはいずれも理由がなく,その他,

審決にはこれを取り消すべき違法はないものと判断する。その理由は,以下の

とおりである。

1 取消事由1(相違点の認定の誤り)について

原告らは,審決が,本願発明の「前記サーバ装置は,前記記憶手段に蓄積し

たメッセージ情報のうち予め設定された蓄積期間が経過したメッセージ情報を

送信せず,当該蓄積期間が経過する前のメッセージ情報だけを前記記憶手段か

ら読み出して前記求職者側端末に通信手段を介して送信し,前記蓄積期間は前

記求職者が前記過去を清算することを目的として予め設定された期間である」

との要件につき,先願発明との一応の相違点であるとした点につき,明らかな

相違点である旨主張する。

しかし,審決の記載に照らすと,審決が本願発明の上記要件を本願発明と先

願発明の相違点として認定していることは明らかであり,審決がこれを一応の

相違点と呼称したとしても,審決が上記構成を相違点と判断していることに何

ら変わりはない。

よって,原告らの上記主張を採用することはできない。

2 取消事由2(相違点についての認定判断の誤り)について

(1) 本願発明について

本願発明の特許請求の範囲は,前記第2の2に記載のとおりであるところ,

これに本件明細書(甲5,6)の記載を併せると,本願発明は,おおむね次

の内容の発明であると認められる。

ア 本願発明は,インターネット等の構外ネットワークを利用した求職情報

提供システムにおいて,求人者に提示される個人スキルデータが限られた

業務の求人に関する情報となっていて,求人者が,自己のニーズに合った
求職情報を取得できず,希望の人材を獲得することができないという不都

合があり,各求人者が求人活動を有利に展開するための情報を取得するこ

とができなかったという問題があったことに鑑み,求人者が有利に求人活

動を展開しつつ,雇用契約を促進する求職情報提供システム等を提供する

ことを目的としたものである(【0001】 【0007】〜【0009】 。
, )

イ 上記アの目的を達成するために,サーバ装置1の求職情報記憶手段15

が,特定期間や特定場所における求職の求職情報,及び求人者側端末3か

ら受信した,求職情報を提供した求職者に対する印象等のメッセージ情報

を求職者ごとに格納し(【0071】〜【0076】 ,サーバ装置1の処


理手段14が,求人者側端末3から特定期間(又は特定場所)における求

人の求人情報を通信手段7を介して受信すると,受信した求人情報に適合

する求職情報を求職者ごとに求職情報記憶手段15から読み出して求人者

側端末3に送信するようにし(【0086】〜【0091】 ,また,処理


手段14は,あらかじめ設定された期間が経過したメッセージ情報を求人

者側端末3に提供しないようにした(【0077】【0092】
, )ものであ

る。

ウ 上記イの構成により,求人者は,求職者の印象を表すメッセージ情報を

見ながら求職者を選ぶことができ,かつ,あらかじめ設定された蓄積期間

を経過したメッセージ情報を提供しないので,信用を失った求職者は,そ

の過去を清算して出直すことができるとの作用効果を奏する(【013

0】。


(2) 先願発明について

先願明細書には,前記第2の3(1)の内容の発明が記載されているものと

認められる(甲1)。

そして,先願明細書(甲1)には,先願発明における求職クライアント信

用評価情報には,求職クライアントの採用・不採用の採用評価及び面接時の
求職クライアントに対する総合評価からなる一次信用評価と,就業後の求職

クライアントに対する勤怠評価,仕事適性評価及び総合評価からなる二次信

用評価とがあり,これらは,数値化されたものであってもよいし,言葉で表

現されたものであってもよいことが記載されている(【0031】,【00

85】)。

(3) 周知技術について

ア 特開2000−305980号公報
特開2000−305980号公報(甲2)には,以下のとおりの記載

がある。

(ア) 「【要約】・・・

【解決手段】 会員制組織1に属して個人の属性的情報を予め会員情

報記憶手段3に個人識別番号を用いて登録してなる会員2が,個人識別

番号を入力し得るアピール情報登録端末4を介し個人の属性的情報を含

むことなく自己の容姿,表現力等の才能を含むアピール情報を閲覧用サ

ーバー5に記録して人材登録を行う。人材の発掘を望む利用者6は,閲

覧用サーバーにアクセスしてアピール情報を検索し,その結果得られた

該当する人材についての個人の属性的情報を会員制組織の会員情報記憶

手段から入手する。」

(イ) 「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は,アイドル,モデル,

歌手,声優,俳優などのオーディション等にあって,自己の才能をもっ

て応募したい人と,新たな人材を発掘したい芸能プロダクションやレコ

ード会社とを結びつけるシステムに関し,特に応募する人の立場では気

楽に応募することのできる簡便さと個人の属性的情報が外部に漏れ出る

おそれのないセキュリティーを備え,発掘側の立場としては人材発掘の

機会ごとに広告・報知し,履歴書を検索する手間と費用を軽減すること

のできる新たな人材登録・発掘システムである。」
(ウ) 「【0021】尚,閲覧用サーバー5に記録されたアピール情報は,

これを登録時から2〜6ヶ月,更にいえば3ヶ月経過した時点で消去さ

れることとし,これにより閲覧用サーバー5の記録容量が不足すること

を防ぐとともに,現実性を失った古いアピール情報を削除して常にデー

タを新鮮にするという効果が得られる。」

イ 特開平11−195039号公報

特開平11−195039号公報(乙1)には,以下のとおりの記載が

ある。

(ア) 「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は,検索要求され

た検索式に基づいてデータのリストを検索する検索方法及び検索装置

並びに該検索のデータベースを作成するデータベース方法及びデータ

ベース装置に関する。」

(イ) 「【0065】削除条件とは,ある単位データベースの一部または

全部を削除するかどうかを判断する条件である。削除を行うのは例え

ば次のような理由からである。すなわち,データベース記憶部106

の記憶容量には一般に制限があるので,常にデータの追加をおこなっ

ている状態では,いずれかの部分を削除しなければならない。また,

ある程度古いデータに関しては価値が無くなったとみなし,削除する

という考え方もできる。その他にも,データの更新がある程度の回数

なされてくると,同じデータ識別子を持つデータ情報が複数の単位デ

ータベースに散らばってくることがあるので,あるタイミングで古い

方のデータ情報を削除すると,記憶容量の省力化や検索処理速度の向

上につながるという利点もある。

【0066】本実施形態では,このような記憶容量の残量やデータ

入力時刻をパラメータとして,単位データベースの一部または全部を

削除する条件を設定することが可能である。」
ウ 上記ア及びイに認定したところに照らすと,記憶部に記憶された情報を

検索し,その検索結果を提供するシステムにおいて,上記記憶部には記憶

容量の限りがあることや,古い情報は現実性を失い価値が無くなるため常

にデータを新鮮にする必要があることから,所定期間以上経過した古い情

報を削除することは,本願出願前,当該技術分野では周知の技術であった

ものと認められる(以下「本件周知技術」という。。


(4) 一応の相違点に関する判断について

ア 前記(2)に認定した先願発明の内容及び先願発明における求職クライ

アント信用評価情報の内容に照らすと,先願発明においても,求職クラ

イアント信用評価情報記憶部には記憶容量の限りがあること,及び,古

い求職クライアント信用評価情報は現実性を失い価値が無くなるため常

にデータを新鮮にする必要があることが認められる。そうすると,先願

発明においてこれらに対処することは,先願明細書に明示されていなく

ても当然に行われるものであるといえ,先願発明に本件周知技術を付加

し,あらかじめ設定された蓄積期間が経過した古い求職クライアント信

用評価情報を削除し,常にデータを新鮮なものとする構成とすることは,

先願明細書に記載されているに等しい事項といえる。

イ そして,本願発明と上記ア認定の先願発明に本件周知技術を付加し

た構成とを対比すると,先願発明に本件周知技術を付加した構成におい

ても,あらかじめ設定された蓄積期間が経過した古い求職クライアント

信用評価情報を削除することで,先願発明における「サーバー」は,あら

かじめ設定された蓄積期間が経過した求職クライアント信用評価情報を

送信せず,当該蓄積期間が経過する前の求職クライアント信用評価情報だ

けを記憶部から読み出して「求人クライアントの通信端末」に通信手段を

介して送信するようにすることができる。したがって,先願発明に本件周

知技術を付加した構成は,本願発明の「前記サーバ装置は,前記記憶手段
に蓄積したメッセージ情報のうち予め設定された蓄積期間が経過したメッ

セージ情報を送信せず,当該蓄積期間が経過する前のメッセージ情報だけ

を前記記憶手段から読み出して前記求人者側端末に通信手段を介して送

信」する構成を備えるものと認められる。

また,先願発明に本件周知技術を付加した構成においても,あらかじめ

設定された蓄積期間が経過した古い求職クライアント信用評価情報を削

除することで,現実性を失い価値が無くなった古い求職クライアント信

用評価情報は削除され,常にデータを新鮮なものとすることができるので,

これにより,求職者が過去を清算できるものと認められる。したがって,

先願発明に本件周知技術を付加した構成における上記蓄積期間は,本願発

明における「前記蓄積期間は前記求職者が過去を清算することを目的とし

て予め設定された期間」にも当たるものと認められる。

さらに,先願発明に本件周知技術を付加することにより,蓄積期間が経

過した求職クライアント信用評価情報は,求人クライアントの通信端末に

提供されなくなるから,その結果として,本願発明と同様に,求人者は,

求職者の印象を表す信用評価情報を見ながら求職者を選ぶことができ,か

つ,信用を失った求職者は,その過去を清算して出直すことができるとの

作用効果を奏するものと認められる。したがって,本願発明の作用効果は,

先願発明の奏する作用効果と本件周知技術がもたらす作用効果との総和に

すぎないものと認められる。

ウ 以上によれば,本願発明と先願発明との一応の相違点に係る構成は,先

願発明に上記周知技術を単に付加した程度のものであり,かつ,新たな作

用効果を奏するものでもない。したがって,本願発明と先願発明とは実質

的に同一であるとした審決の判断の結論に誤りがあるとはいえない。

(5) 原告らの主張について

ア 原告らは,記憶容量の限りに対処する場合,必要な情報を残し,不要な
情報を削除することが技術常識ともいえる周知技術であり,必ずしも「所

定期間以上経過した古い情報を削除すること」は技術常識ではないし,周

知技術でもないとか,引用公報1及び2は,本願発明の出願日よりも5〜

7か月前に公開されたにすぎず,この5〜7か月の間に,引用公報1及び

2によって開示され審決に記載された「所定期間以上経過した古い情報を

削除すること」が技術常識になり周知技術になったとはいえないなどと主

張する。

しかし,前記(3)認定のとおり,本件周知技術は,本願出願時において

当該技術分野では周知の技術と認められる。また,引用公報1は,上記の

点が周知であることを裏付けるための例示にすぎないし,特開平11−1

95039号公報(乙1)にも同様の技術が開示されているので,引用公

報1の公開時期により本件周知技術の周知性が否定されるものではない。

よって,原告らの上記主張を採用することはできない。

イ 原告らは,周知技術の内容は,「記憶容量の限りがあることから,所定

期間以上経過した古い情報を削除すること」であり,これを先願発明に付

加したとしても,本願発明のように「予め設定された蓄積期間が経過した

信用評価情報を送信せず,当該蓄積期間が経過する前の信用評価情報だけ

を記憶部から読み出して送信するもの」にはならないとか,記憶装置に格

納された信用評価情報を残すか削除するかという判定と,記憶装置に格納

された信用評価情報を送信するか送信しないかという判定とは,技術的思

想が明らかに異なっており,仮に「記憶容量の限りがあることから,所定

期間以上経過した古い情報を削除」することが,直ちに「信用評価情報を

送信せず」ということにつながるとしたら,「当該蓄積期間が経過する前

の信用評価情報だけを記憶部から読み出して」という判断処理が必要なく

なってしまい,単に記憶装置に格納されている信用評価情報を蓄積期間と

は無関係に読み出せば済むことになり矛盾する旨主張する。
しかし,本願発明の請求項2の「前記記憶手段に蓄積したメッセージ情

報のうち予め設定された蓄積期間が経過したメッセージ情報を送信せず,

当該蓄積期間が経過する前のメッセージ情報だけを前記記憶手段から読み

出して前記求人者側端末に通信手段を介して送信し,」との文言に照らす

と,上記の構成は,「予め設定された蓄積期間が経過したメッセージ情

報」と「当該蓄積期間が経過する前のメッセージ情報」の両方が蓄積され

た「記憶手段」から,「予め設定された蓄積期間が経過したメッセージ情

報を送信せず,当該蓄積期間が経過する前のメッセージ情報だけを前記記

憶手段から読み出して前記求人者側端末に通信手段を介して送信」する構

成に限定されず,「予め設定された蓄積期間が経過したメッセージ情報」

を「記憶手段」から削除することで,当該「記憶手段」から「予め設定さ

れた蓄積期間が経過したメッセージ情報を送信せず,当該蓄積期間が経過

する前のメッセージ情報だけを前記記憶手段から読み出して前記求人者側

端末に通信手段を介して送信」する構成も含まれるものと解するべきであ

り,本件明細書に上記解釈を妨げるような記載もない。

そして,前記(4)イ認定のとおり,先願発明に本件周知技術を付加して,

予め設定された蓄積期間が経過した古い求職クライアント信用評価情報を

削除するようにすることで,先願発明における「サーバー」が,あらかじ

め設定された蓄積期間が経過した求職クライアント信用評価情報を送信せ

ず,当該蓄積期間が経過する前の求職クライアント信用評価情報だけを記

憶部から読み出して「求人クライアントの通信端末」に通信手段を介して

送信することとなるので,原告らの上記主張を採用することはできない。

ウ 原告らは,「記憶容量の不足を防ぐことを目的として・・・古い過去の

情報は削除」されることと,古い過去の情報は「提供されない」(本願発

明の場合意図的に「提供しない」)こととの因果関係は絶対ではない旨主

張する。
しかし,前記(4)イ認定のとおり,先願発明に本件周知技術を付加した

構成においても,あらかじめ設定された蓄積期間が経過した古い求職ク

ライアント信用評価情報を削除することで,現実性を失い価値が無くな

った古い求職クライアント信用評価情報は削除され,常にデータを新鮮

なものとすることができ,その結果,古い過去の情報が提供されなくなる

のであるから,先願発明に本件周知技術を付加した構成と本願発明の技術

的思想が異なるものとはいえない。

また,原告らは,本願発明は信用評価情報に相当する情報を削除するこ

とを要件としていないし,「蓄積期間」の語を用いてはいるが,本願発明

における「蓄積期間」とは,信用評価情報に相当する情報を送信するか送

信しないかを判断するためのパラメータであり,当該情報を削除するか削

除しないかとは無関係であるなどと主張する。

しかし,前記イに認定したところによれば,上記主張は,本願の特許請

求の範囲の記載に基づかないものであるというほかない。

よって,原告らの上記各主張を採用することはできない。

エ 原告らは,記憶容量の限りに応じて古い情報を削除するための期間と,

本願発明の要件である「前記求職者が前記過去を清算することを目的とし

て予め設定された期間」とでは,技術的思想が異なり,審決が周知技術

する技術では「前記求職者が前記過去を清算する」という目的とは懸け離

れ,求職者が過去を清算できないシステムになってしまう場合があるとか,

審決のいう周知技術の内容を前提としても,周 知 技 術 にいう「所定期

間」の設定に当たっては,記憶部の記憶容量及び記憶部への情報の蓄積ペ

ースに依存し,先願発明と周知技術を組み合わせることによりもたらされ

る作用効果は,先願発明の課題解決手段によってもたらされる「求職クラ

イアントAの信用を客観的に評価することができる」という作用効果と,

周知技術によってもたらされる「記憶部の記憶容量に限りがあるという課
題を解決」できるという作用効果とが単に併存したものになるのに対し,

本願発明における「蓄積期間」は「前記求職者が前記過去を清算すること

を目的として予め設定された期間」であるが,この期間の設定は,記憶部

の記憶容量に依存するものではないし,記憶部への情報の蓄積ペースに依

存するものでもないので,作用効果も異なっているなどと主張する。

しかし,前記(4)イに認定したところに加え,本件周知技術における

「所定期間」は,記憶部には記憶容量の限りがあることだけでなく,古い

情報は現実性を失い価値が無くなるため,常にデータを新鮮にする必要が

あることにも基づいて設定されるから,記憶部の記憶容量及び記憶部への

情報の蓄積ペースにのみ依存するとは認められず,本件周知技術における

「所定期間」と本願発明における「蓄積期間」との間に,原告らが主張す

るような技術的思想や属性の違いがあるとは認められないことも併せ考え

ると,原告らの上記主張を採用することはできない。

オ 原告らは,先願発明に何ら記載も示唆もない本件周知技術を先願発明に

足し合わせることによって,本願発明と同一であるという帰結を導くこと

は特許法29条の2に該当するかどうかを判断する際には許されない旨主

張する。

しかし,前記(4)アに認定したところによれば,原告らの上記主張を採

用することはできない。

(6) 以上によれば,取消事由2に係る原告らの主張は理由がない。

3 なお,原告らは,審決では本願の請求項1に係る発明について審理内容が明

らかにされておらず,本願の請求項1に係る発明については,特許法による保

護法益があったにもかかわらず,当該保護法益を無視して拒絶審決をされた蓋

然性が高く,このような審理は,特許法1条に定める「発明の保護」という法

目的に反しており,違法であるなどと主張する。

しかし,特許法49条は,一つの特許出願における複数の請求項に係る発明
のいずれか一つが,特許法29条等の規定に基づき,特許をすることができな

いものであるときは,その特許出願全体を拒絶すべきことを規定しているもの

と解すべきである。したがって,審決が本願発明につき特許法29条の2の規

定により特許を受けることができないものであるとして,本願請求項1の発明

に論及しなかったことに違法はない。

よって,原告らの上記主張を採用することはできない。

4 まとめ

以上のとおり,原告ら主張の各取消事由はいずれも理由がない。また,他に

審決に取り消すべき違法もない。

第6 結論

よって,原告らの請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のと

おり判決する。



知的財産高等裁判所第3部




裁判長裁判官 設 樂 z 一




裁判官 西 理 香
裁判官 神 谷 厚 毅

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