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関連審決 無効2002-35488
関連ワード 使用方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  相違点の認定 /  技術常識 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  構成要件 /  設定登録 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 15年 (行ケ) 345号 審決取消請求事件
原告 有限会社佐治製作所
訴訟代理人弁護士 及川昭二
同 弁理士 新関和郎
被告 ニッコー株式会社
訴訟代理人弁護士 佐藤成雄
同 弁理士 鈴木正 次,涌井謙一
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/08/09
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が無効2002-35488号事件について平成15年7月2日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 本件特許第2949062号(特許権者は原告。発明の名称は「物干竿に対するハンガーの係止装置」。請求項の数は1。以下「本件特許」という。)は,平成7年11月10日に出願され,平成11年7月2日に特許権の設定登録がされた。
本件特許について,被告が平成14年11月11日に無効審判を請求したところ,特許庁は,これを無効2002-35488号事件として審理し,平成15年7月2日,本件特許を無効とする旨の審決をし,同年7月8日,原告に対し謄本が送達された。
2 本件特許に係る発明(以下「本件発明」。便宜符号A〜Cを付した。)「【請求項1】 A 弾性を具備する資材により,ハンガーAの主体部1の上部に設けた鈎部2の内側空間を横切る長さの長脚片30と前記内側空間の内径より短い長さの短脚片31とがボス部3aからV字状に突出し,かつ,それらの突出端側の間隔dが物干竿Sの直径Dより幾分狭い距離となる形状の係着部材3を形成し, B その係着部材3を,それの長脚片30が上位で短脚片31が下位となる姿勢とし,かつ,その長脚片30が鈎部2の内側空間を横切りその長脚片30と短脚片31との間隔内に物干竿Sの周面の一半側を抱き込ませた状態においてその物干竿Sの周面の他半側が鈎部2の内壁面wに圧接していくように配位し,鈎部2に設けた連結軸4に,ボス部3a中心に上下に回動するように装架して,長脚片30と短脚片31との間隔内に周面の一半側を抱え込む物干竿Sの周面の他半側を,長脚片30と短脚片31の弾性の復元力により鈎部2の内壁面wに圧着させてハンガーAを物干竿Sに係着させるようにした C ことを特徴とする物干竿に対するハンガーの係止装置。」 3 審決の理由 審決は,以下のとおり,本件発明は,実願昭59-105336号(実開昭61-21490号)のマイクロフィルム(審判甲3=本訴甲5,以下「刊行物」という。)に記載された考案(以下,特許法29条2項の適用上は「発明」という。)及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件特許は特許法29条2項の規定に違反し,無効とすべきであるとした。
(1) 刊行物記載の発明の認定 審決は,刊行物の第2図及び第3図について,「物干竿20の周面の一半側は,略フ字状フック8の間隔内に抱え込まれており,物干竿20の周面の他半側は,掛鈎5の頭部5'の内縁5'aに圧着されている」(11頁29行〜31行)と認定した上で,刊行物記載の発明の要旨を以下のとおり認定した。
「a' 物干器(判決注:ハンガーと同義。以下同様。)の吊枠1の上部に鎖3,連結板4を介して連結された掛鈎5の内側空間を横切る長さの脚片と適宜の長さのもう一つの脚片とが屈曲部9から略フ字状に突出し,かつ,それらの突出端側の間隔が物干竿20の直径より幾分広い距離となる形状のフック8を形成し, b' そのフック8を,それの掛鈎5の内側空間を横切る長さの脚片が上位でもう一つの脚片が下位となる姿勢とし,かつ,掛鈎5の内側空間を横切る長さの脚片ともう一つの脚片との間隔内に物干竿20の周面の一半側を抱き込ませた状態においてその物干竿20の周面の他半側が掛鈎5の頭部5'の内縁5'aに圧接していくように配位し,掛鈎5に設けた支軸11に,屈曲部9中心に上下に回動するように装架して,物干竿20を掛鈎5の頭部5'の内縁5'aとフック8の上位及び下位の脚片の内縁とにより挟持して物干器を物干竿20に係着させるようにした c 物干竿に対する物干器の係止装置。」 (11頁下から3行〜12頁10行) (2) 一致点 審決は,刊行物記載の発明に関する前記認定に基づき,本件発明と刊行物記載の発明の一致点を以下のとおり認定した。
「A" ハンガーの主体部の上部に設けた鈎部の内側空間を横切る長さの脚片と適宜の長さのもう一つの脚片とがボス部から二股状に突出し,かつ,それらの突出端側の間隔が適宜の距離となる形状の係着部材を形成し, B" その係着部材を,それの鈎部の内側空間を横切る長さの脚片が上位でもう一つの脚片が下位となる姿勢とし,かつ,その上位の脚片が鈎部の内側空間を横切りその上位の脚片と下位の脚片との間隔内に物干竿の周面の一半側を抱き込ませた状態においてその物干竿の周面の他半側が鈎部の内壁面に圧接していくように配位し,鈎部に設けた連結軸に,ボス部中心に上下に回動するように装架して,上位の脚片と下位の脚片との間隔内に周面の一半側を抱え込む物干竿の周面の他半側を,鈎部の内壁面に圧着させてハンガーを物干竿に係着させるようにした C 物干竿に対するハンガーの係止装置,である点。」 (14頁20行〜32行) (3) 相違点 審決は,本件発明と刊行物記載の発明の相違点を以下のとおり認定した。
「本件発明では,係着部材の下位の脚片の長さが鈎部の内側空間の内径より短く,また,両脚片がV字状に突出し,それらの突出端側の間隔が物干竿の直径より幾分狭い距離となっており,さらに,係着部材が弾性を具備する資材により形成され,長脚片と短脚片との間隔内に周面の一半側を抱え込む物干竿の周面の他半側を,長脚片と短脚片の弾性の復元力により鈎部の内壁面に圧着させているのに対して, 甲第3号証(判決注:審判甲3=本訴甲5,以下審決引用部分においても「刊行物」という。)記載の発明では,係着部材の下位の脚片の長さが鈎部の内側空間の内径より短いのか否か明らかでなく,また,両脚片が略フ字状に突出し,それらの突出端側の間隔が物干竿の直径より幾分広い距離となっており,さらに,係着部材がどのような材料で形成されているのか明らかでなく,したがって,物干竿の周面の他半側を両脚片の弾性の復元力により鈎部の内壁面に圧着させているのか否かも明らかでない点。」 (14頁34行〜15頁6行) (4) 相違点についての判断 ア 審決は,「刊行物記載の発明は,…係着部材の下位の脚片にスベリ止めを設けることを必須の事項とするものではないので,刊行物の第2図をスベリ止め7が設けられていないものとして参照すると,下位の脚片と物干竿との当接点は,その突出端よりかなり内方となる。そして,当該当接点よりも突出端側の部分は,物干竿との当接に関与しないことからみて,刊行物記載の発明を構成するための必須の部分ではなく,削除可能な部分であるということができる。」と認定した。
審決は,その上で,「そこで,刊行物記載の発明において,下位の脚片と物干竿とが当接可能な範囲で突出端側の部分を削除したものを想定してみると,下位の脚片の長さが鈎部の内側空間を横切る上位の脚片の長さより短くなること,両脚片がV字状に突出することが明らかである。また,両脚片がV字状であることから,上位及び下位の脚片と物干竿との当接点の間隔は,必ず物干竿の直径より小となり,両脚片の突出端側の間隔を物干竿の直径より幾分狭い距離とすることが可能である。」と説示し,「そうしてみると,刊行物記載の発明において,係着部材の下位となる脚片の長さ,両脚片の形状(V字状か略フ字状か)及びそれらの突出端側の間隔をどのようにするかは,係着部材の上位及び下位の脚片の各内縁と鈎部の内壁面との3点で物干竿に当接することが可能となる範囲内で適宜決定すればよい単なる設計的事項にすぎないということができる。」と結論づけた。
イ また,審決は,ハンガーの物干竿に対する係着部材を弾性を具備する資材により形成することは,他に類例が多数ある従来周知の事項であり,この従来周知の事項を刊行物記載の発明に適用することを妨げる特段の理由もないとした上で,「刊行物記載の発明の係着部材を,弾性を具備する資材により形成すると,係着部材の上位の脚片と下位の脚片との間隔内に物干竿の周面の一半側が抱き込まれたときに,物干竿は,上位の脚片と下位の脚片とを撓ませてそれらの間隔を押し拡げながら間隔内に入り込み,上位の脚片と下位の脚片との弾性力で鈎部の内壁面を物干竿に圧着させる,すなわち,本件発明に即していえば,長脚片と短脚片との間隔内に周面の一半側を抱え込む物干竿の周面の他半側を,長脚片と短脚片の弾性の復元力により鈎部の内壁面に圧着させることも当業者が容易に予想できるところである。」と判断した。
原告の主張
審決は,以下に述べるとおり,刊行物記載の発明の認定を誤り,本件発明と刊行物記載の発明の一致点及び相違点の認定を誤り,相違点についての判断を誤って,本件発明の進歩性を否定したものであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(刊行物記載の発明の認定の誤り) (1) 審決が,刊行物記載の発明について,「物干竿20の周面の他半側は,掛鈎5の頭部5'の内縁5'aに圧着されて」,「物干器を物干竿20に係着させるようにした」と認定したのは,「圧着」の内容を誤認したものである。
ア 本件発明における「圧着」とは,圧力でくっついた状態となっていることをいい,ハンガーと物干竿との当接部位についていえば,その当接部位が圧力でくっついた状態を意味する技術用語である。また,「係着」は,つながりくっつくことをいい,風によりハンガーが浮き上がって,ハンガーの鈎部と物干竿との間の当接部位におけるハンガーの重量による圧着,圧接が消失しても,ハンガーが物干竿にくっついた状態を維持することを意味する技術用語である。
しかるところ,本件発明におけるハンガーAと物干竿Sの係着は,@長脚片30と短脚片31とからなるV字状で弾性を有する資材で形成されている係着部材3が,物干竿Sを長脚片30と短脚片31との間に抱き込んだ状態で,上方に回動する,Aすると,物干竿Sは鈎部2の内壁面wに圧接し,そのときの圧力で,物干竿Sは,長脚片30と短脚片31とを弾性により撓ませてそれらの間隔を押し拡げ,両脚片の間隔内に押し込まれる,Bそれにより,本件明細書(甲3)の図7に示されるとおり,長脚片30と短脚片31とが,復元力により対向する方向に物干竿Sを押圧し,その復元力の合成された力が,物干竿20をX字状の係着部材3の開放側に押し出すように作用する,Cこの復元力の合成された押出方向の力が,物干竿Sの周面を鈎部2の内壁面wに押しつけることで圧着がなされ,その結果,ハンガーAを物干竿Sに係着させる,との作用により行われる。
イ これに対し,刊行物記載の発明においては,刊行物の第2図にも示されているように,フック8の下位の脚片の内縁側にすべり止め7を設けておくことで,フック8に抱き込まれた物干竿20が,掛鈎5の頭部5'の内縁5'a,フック8の上位の脚片の内縁8a,すべり止め7の内縁により挟持される状態となり,ハンガーが風にあおられて浮き上がり,重量による重力方向の荷重がなくなった場合にも,すべり止め7による摩擦抵抗により横すべりを防止するようにして,掛鈎5と物干竿20とを係着させる。
ウ ところが,審決は,刊行物に「好ましくは物干竿当接部にゴム等のすべり止め7を設けた」(3頁13行〜14行)との記載があることから,すべり止め7を設けることは刊行物記載の発明の必須の事項ではないと認定している。
しかし,フック8がすべり止め7を有しないとすると,ハンガーを物干竿20に引き掛けた場合,物干竿20の周面は,掛鈎5の頭部5'の内縁5'a,フック8の上位の脚片の内縁8a,下位の脚片の内縁の当接点の3点において接触することになるが,この各当接点には,すべり止め7のように掛鈎5を物干竿20の周面にくっつける機能はないため,風がなくハンガーに浮き上がりが生じないときには,各当接点にハンガーの重量による荷重がかかって圧接状態となるものの,風によりハンガーが浮き上がると,ハンガーの重量による圧力が消失し,各当接部位は単に接触しているだけの状態となる。その結果,わずかの外力を受けても,ハンガーは物干竿20上を横すべりするようになる。
このように,すべり止め7のないフック8は,物干竿20に対して掛鈎5を「係着」させる機能がなく,物干竿20の周面は,上記5'aと接しているのみで,くっついた状態になっていないから,「圧着」もしていない。
しかるに,審決は,すべり止め7を設けることは刊行物記載の発明の必須の事項ではないと認定しつつ,「物干竿20の周面の他半側は,掛鈎5の頭部5'の内縁5'aに圧着されて」,「物干器を物干竿20に係着させるようにした」とし,物干竿20の周面の他半側が掛鈎5と「圧着」していると誤って認定したのである。
(2) 審決が,刊行物記載のフック8の下位の脚片が「適宜の長さ」であると認定したのは誤りである。刊行物には,フック8の下位の脚片について「物干竿20が細い場合には,フック8下端における掛鈎挿通溝(第5図の符号6'に示す部分)内に掛鈎5の頭部先端(第3図の符号5"に示す部分)が嵌まるため,掛鈎5は物干竿20により確実に固定される。」(5頁14行〜6頁1行)と記載されており,これによれば,フック8の下位の脚片は,掛鈎5の内部空間を横切る長さでなければならないことは明らかである。
2 取消事由2(本件発明と刊行物記載の発明の一致点認定の誤り) (1) 前記1(1)で主張したとおり,審決は,刊行物記載の発明の認定を誤ったことにより,刊行物記載の物干竿20の周面の他半側と掛鈎5の頭部5'の内縁5'aとは「圧着」しておらず,その結果,掛鈎5を物干竿20に「係着」させていないのに,一致点B"において,物干竿の周面の他半側を鈎部の内壁面に圧着させてハンガーを物干竿に係着させている点で,本件発明と刊行物記載の発明が一致すると認定しているが,誤りである。
(2) 前記1(2)で主張したとおり,刊行物記載のフック8の下位の脚片の長さは「適宜の長さ」ではないのに,審決は,一致点A"において,係着部材の2つの脚片のうち鈎部の内側空間を横切る長さの脚片以外のもう一つの脚片が「適宜の長さ」である点で,本件発明と刊行物記載の発明が一致すると認定しているが,同じく誤りである。
3 取消事由3(本件発明と刊行物記載の発明の相違点認定の誤り) (1) 審決は,本件発明と刊行物記載の発明の相違点の認定において,刊行物記載の発明は「物干竿の周面の他半側を両脚片の弾性の復元力により鈎部の内壁面に圧着させているのか否かも明らかでない」と認定したが,これは本件発明と刊行物記載の発明における物干竿に対するハンガーの係着手段に大きな相違があることを看過したもので,誤りである。
すなわち,本件発明における係着手段は,弾性を有する資材からなる係着部材3を,上位の脚片30と下位の脚片31とがX字状をなす形状に形成し,この両脚片の間隔内に押し込まれてくる物干竿Sを,両脚片の弾性による復元力で,間隔内からその間隔の開放側に押し出して鈎部2の内壁面wに押し付け,それによる圧着で物干竿SにハンガーAを係着させることを技術内容とするものである。
これに対し,刊行物記載の発明の係着手段は,略フ字状に形成したフック8により,物干竿20を,鈎部3の頭部5'の内縁5'a,フック8の上位の脚片の内縁8a,フック8の下位の脚片の内縁で挟持し,フック8の下位の脚片の当接部位にゴム等のすべり止め7を設けて,これにより物干竿20に掛鈎5を係着させることを技術内容とするものである。審決が説示するように,フック8の下位の脚片の内縁に設けられるすべり止め7が刊行物記載の発明にとって必須の事項でないとすると,同発明にはハンガーが横すべりすることを防止できるような圧着ないし係着手段はないことになる。
しかるに,審決は,刊行物記載の発明について「物干竿の周面の他半側を両脚片の弾性の復元力により鈎部の内壁面に圧着させているのか否かも明らかでない」と認定している。これは誤りである。
(2) 本件発明では,係着部材3の上位の脚片30と下位の脚片31の間に抱え込まれた物干竿Sが,両脚片の弾性の復元力により係着部材の開放側に押し出されるように,両脚片はV字状に形成しているのに対し,刊行物記載の発明にあっては,フック8の上位の脚片と下位の脚片の間に抱き込まれた物干竿20に対する掛鈎5の圧着ないし係着をフック8の下位の脚片の内縁に設けたすべり止め7により行うことから,フック8の下位の脚片の先端側を内向にしゃくれさせて,フック8を略フ字状に形成し,抱き込まれた物干竿20が上位と下位の脚片の間隔内に送り込まれるようにしている。審決は,係着部材の形状に関するこうした特徴を看過している。
(3) 審決は,刊行物記載の発明の「係着部材の下位の脚片の長さが鈎部の内側空間の内径より短いのか否か明らかでなく」としているが,前記のとおり,刊行物記載のフック8の下位の脚片の長さは掛鈎5の内部空間を横切る長さでなければならないのであるから,審決の認定は誤りである。
(4) 審決は,刊行物記載の発明の「係着部材がどのような材料で形成されているのか明らかでなく,したがって,物干竿の周面の他半側を両脚片の弾性の復元力により鈎部の内壁面に圧着させているのか否かも明らかでない」としているが,刊行物記載の発明には,フック8の上位及び下位の脚片を弾性資材で形成することの特定はなく,したがって,物干竿20の周面の他半側を両脚片の弾性の復元力により鈎部の内壁面に圧着させるものでないことは明らかである。この点でも,審決の認定は誤っている。
4 取消事由4(相違点の認定判断の誤り) (1) 審決は,刊行物記載の発明のフック8の下位の脚片と物干竿20との当接点よりも突出端側の部分は,同発明を構成するための必須の部分ではなく,削除可能な部分であると認定する。しかしながら,前記のとおり,刊行物記載のフック8の下位の脚片の先端側の部分は,掛鈎5の頭部先端5"に嵌まるようになるもので,削除可能な部分ではないのであるから,審決の認定は誤っている。
(2) 審決は,その上で,刊行物記載のフック8の下位の脚片と物干竿20との当接点より突出端側の部分を削除したものを想定してみると,下位の脚片の長さが鈎部の内側空間を横切る上位の脚片の長さより短くなり,両脚片がV字状に突出し,両脚片の突出端側の間隔を物干竿の直径より幾分狭い距離とすることが可能であると認定する。しかしながら,審決のこの認定は,誤った前提に基づいて導き出したものであるから,誤りである。
(3) 審決は,結論として,刊行物記載の発明において,係着部材の下位の脚片の長さ,両脚片の形状(V字状か略フ字状か)及びそれらの突出端側の間隔をどのようにするかは,単なる設計的事項にすぎないと判断している。しかしながら,この判断は,フック8の下位脚片の先端側が削除可能であるとの誤った前提から帰結したものであるから,論理的に誤っている。
また,審決は,係着部材の脚片の形状についても単なる設計的事項にすぎないと判断しているが,本件発明及び刊行物記載の発明における各係着部材の脚片の形状は,各発明から必然的に要求されるもので,これを設計的事項と断ずるのは誤りである。
すなわち,本件発明は,係着部材3の上位の脚片30及び下位の脚片31の間隔内に抱え込んだ物干竿Sを両脚片の弾性による復元力でその開放側に押し出し,鈎部2の内壁面wに押しつけることにより圧着させて,ハンガーAを物干竿Sに係着させるようにしている発明である。このように,上位及び下位の脚片の弾性の復元力による応力を湾曲して復元する方向に対し略90度方向を変えて両脚片の間隔の開放側に向かう方向に合成された合成応力とし,この合成応力により間隔内に抱え込んだ物干竿を間隔の開放側に押し出していくためには,係着部材は,弾性資材によりV字状をなす形状に形成しておかなければならない。
これに対し,刊行物記載の発明は,フック8の上位及び下位の脚片の間隔内に抱き込まれる物干竿20を,掛鈎5の頭部5'の内縁5'a,フック8の上位の脚片の内縁8a,同下位の脚片の内縁に設けたすべり止め7により挟持して把持するものであり,ハンガーの係着をすべり止め7により行うので,フック8の下位の脚片を先端側が上方に反り返るようにしゃくれた形状として物干竿20を上位の脚片との間隔内に取り込み,物干竿20の下周面が下位の脚片の内縁に設けたすべり止め7に圧接するようにされている。そのため,フック8の形状は,略フ字状となるのである。
このように,本件発明と刊行物記載の発明の各係着部材の形状は,それぞれの発明の内容から必然的に要求されているものであり,審決が説示するような単なる設計的事項ではない。
(4) また,審決は,ハンガーの物干竿に対する係着部材を弾性を具備することにより形成することは,他に類例が多数ある従来周知の事項であり,この従来周知の事項を刊行物記載の発明に適用することを妨げる特段の理由もないとした上で,刊行物記載の発明の係着部材を,弾性を具備する資材により形成すると,上位の脚片と下位の脚片との弾性力で鈎部の内壁面を物干竿に圧着させるのであるから,本件発明の係着手段は当業者が容易に予想できるところであると判断した。
ア しかしながら,ハンガーの物干竿に対する係着部材を弾性を具備する資材により形成することが従来周知の事項であることは,そのとおりであるとしても,これらの従来手段は,弾性を具備する材質をもって上位の脚片と下位の脚片がV字状をなすように形成されたものではない。本件発明の創意性は,弾性資材からなる係着部材をV字状に形成する点にあり,それにより生じた係着部材の両脚片の弾性の復元力を用いて物干竿を両脚片の間隔の開放口側に押し出し,鈎部の内壁面に圧着させるものである。
審決は,弾性資材で形成する係着部材をV字状に形成しておく点を全く無視して,係着部材を弾性を具備する資材により形成することだけをとり上げて,それを当業者が格別の創意を要することなく容易に想到し得る事項であると判断したもので,誤りである。
イ また,審決は,刊行物記載のフック8を弾性を具備する資材により形成すると,上位の脚片と下位の脚片との弾性力で鈎部の内壁面を物干竿20に圧着させるようになると説示するが,フック8を弾性資材により形成したとしても,略フ字状のフック8の下位の脚片の先端側が上向きにしゃくれた形状のものとなっていることから,物干竿20は上位の脚片と下位の脚片との間隔内に抱え込まれ,かつ,両脚片の間隔の奥に向け押し込まれる状態になるため,物干竿20を両脚片の間隔の開放口側とは反対方向の間隔の奥に向けて押し込むような復元力が働き,挟持された物干竿20を取り外すことが困難になる。
このように,刊行物記載の発明の係着部材を弾性資材で形成することが周知事実であるとしても,そのようにした場合には,フック8の両脚片の間に挟持された物干竿20を取り外すことが困難になるのであるから,本件発明を刊行物記載の発明に適用することを妨げる特段の理由があるというべきであり,また,上位の脚片と下位の脚片との弾性力で鈎部の内壁面を物干竿20に圧着させることにもならないのであるから,この点でも審決の認定は誤りである。
被告の主張
審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1 取消事由1(刊行物記載の発明の認定の誤り)に対して (1) 原告は,審決が刊行物記載の発明の「物干竿20の周面の他半側は,掛鈎5の頭部5'の内縁5'aに圧着されて」,「物干器を物干竿20に係着させるようにした」と認定したのは,誤りであると主張する。
確かに,刊行物記載の発明において,すべり止め7は必須の構成要件とされていないが,刊行物には,「本考案の物干器はその掛鈎にフックを具えているため,掛鈎は物干竿に確実に固定され,風等により物干器が物干竿から落下し,あるいは物干竿上で横すべりするおそれは解消される。」(6頁3行〜6行)との記載があり,すべり止め7の有無にかかわらず,掛鈎5が物干竿20に「係着」する効果を発揮することが開示されている。原告の主張は,刊行物のこのような記載を無視したものであり,失当である。
また,刊行物には,「フック8は物干器の自重により常時上方に回動する傾向が与えられるため,物干竿20は確実に把持され,掛鈎5は物干竿20に固定される。また,フック8は物干器の自重により上方に回動して物干竿20を把持するため,物干竿20の直径に差異があっても掛鈎5は物干竿20に確実に固定される」(5頁7行〜13行)との記載がされているとおり,掛鈎5にはハンガーの自重がかかるため,物干竿20は掛鈎5'の1点とフック8の2点において圧着し,併せて3点に発生する圧力バランスのもとに,ハンガーは安定保持されることになる。審決は,この力学的に当然の状態を作用的に「圧着」と表現したにすぎないのであって,その表現は誤りではない。
さらに,刊行物には,掛鈎5及びフック8が弾性材であるか否かの記載はないが,ハンガーの技術分野において掛鈎,フックとして通常使用されている金属線,合成樹脂などの資材を用いれば,弾性力による圧接が生じ,当接点は必然的に圧着状態になる。
原告は,フック8がすべり止め7を有しないと,風によりあおられて重力による荷重がなくなった場合,わずかな外力でもハンガーが物干竿20上を横すべりすると主張するが,本件発明の場合も,物干器の自重により係着部材が弾性変形したのであれば,無重力状態となることにより,弾性変形は当然もとに戻り,ハンガーAが物干竿S上を横すべりすることに変わりはない。したがって,本件発明と刊行物記載の発明では,その係着状態に差異はない。
このように,刊行物記載の発明においても,掛鈎5と物干竿20は5'aにおいて「圧着」しており,掛鈎5は物干竿20に係着しているということができる。
(2) 原告は,審決が,刊行物記載の発明のフック8の下位の脚片について「適宜の長さ」であると認定したことは誤りであると主張する。
しかしながら,刊行物記載の発明において,フック8の下位の脚片は,物干竿20を確実に持ち上げることができればよいのであるから,実用に供することを念頭におけば,物干竿20が外れないような適宜の長さであればよいことは当業者に明らかである。原告は,刊行物の記載を根拠に,フック8の下位の脚片は掛鈎5の内部空間を横切る長さでなければならないと主張するが,これは物干竿20が細い場合に採用されるにすぎない。したがって,フック8の下位の脚片が「適宜の長さ」であるとした審決の認定は誤りではない。
2 取消事由2(本件発明と刊行物記載の発明の一致点の誤り)に対して (1) 前記主張のとおり,刊行物記載の発明の物干竿20の周面の他半側は鈎部の内壁面5'aにおいて圧着し,掛鈎5を物干竿20に係着させていると認められるのであるから,審決が,一致点B"において,物干竿の周面の他半側を,鈎部の内壁面に圧着させてハンガーを物干竿に係着させている点で,本件発明と刊行物記載の発明が一致すると認定したのは誤りではない。
(2) 前記主張のとおり,刊行物記載の発明のフック8の下位の脚片の長さが「適宜の長さ」であるとの審決の認定に誤りはないのであるから,審決が,一致点A"において,係着部材の2つの脚片のうち鈎部の内側空間を横切る長さの脚片以外のもう一つの脚片が「適宜の長さ」である点で,本件発明と刊行物記載の発明が一致すると認定したのは誤りではない。
3 取消事由3(本件発明と刊行物記載の発明の相違点認定の誤り)に対して (1) 原告は,審決が刊行物記載の発明について「物干竿の周面の他半側を両脚片の弾性の復元力により鈎部の内壁面に圧着させているのか否かも明らかでない」と認定したのは,本件発明と刊行物記載の発明における物干竿に対するハンガーの係着手段の差異を看過したもので,誤りであると主張する。
しかしながら,そもそも,本件発明と刊行物記載の発明の産業上の利用分野及び解決課題が同一であることは明らかである。そして,両発明におけるハンガーの物干竿に対する係着手段の技術思想もまた同一である。すなわち,本件発明の技術思想は,係着部材3の長脚片30と短脚片31を押し開く際の抗力により鈎部内壁面wへ物干竿Sを圧着して係着するというものであり,刊行物記載の発明の技術思想は,フック8がハンガーの自重によって上方に回動すると,フック8の両脚片に挟まれた物干竿20は掛鈎の傾斜部5'を掛鈎に沿って斜上方に移動するので,必然的に同傾斜部分は弾性変形し,変形時に生じる加圧力によりフック8と同傾斜部分により物干竿20を把持することになるというものである。
また,実開平6ー3294(審決甲2=本訴甲4)記載の考案(以下「本訴甲4(審決甲2)発明」という。)においては,ハンガー1は,弾性部材の部分57,板ばね61及び71の変形による圧着力により物干竿4に係着しており,旋回部材151は材質の記載はないが,物干竿の直径が大きくなれば,フック部分3が弾性変形することが考えられる。つまり,本件発明,刊行物記載の発明及び本訴甲4(審決甲2)発明は,いずれも弾性変形力を利用して物干竿とハンガーを圧着する点で共通している。
したがって,本件発明と刊行物記載の発明には,ハンガーの物干竿に対する係着手段として本質的な差異は存在せず,審決の上記認定に誤りはない。
(2) 刊行物記載のフック8の脚片の形状については,確かに物干竿20を容易に抱え込むようにしたものではあるが,刊行物記載の発明の要旨でもなく,実施例の一形態を示すものにすぎない。原告は,フック8の下位の脚片の形状を,先端側が上方にしゃくれた略フ字状に形成して,抱き込む物干竿20が,上位と下位の脚片の間隔内に送り込まれるようにしていると主張するが,そのような記載は刊行物には存在しない。したがって,フック8の下位の脚片の形状を原告が主張するように限定的にとらえることは相当でない。
(3) 原告は,刊行物記載の発明におけるフック8の下位の脚片の長さは,掛鈎5の内側空間の内径より長いものであることが明らかであるのに,審決は,鈎部の内側空間の内径より短いのか否か明らかでないと誤って認定したと主張するが,前記のとおり,審決が,フック8の下位の脚片の長さが「適宜の長さ」であると認定したことに誤りがないのであるから,審決の相違点の認定に誤りはない。
(4) 原告は,刊行物記載の発明には,フック8の上位及び下位の脚片を弾性資材で成形することの特定はないと主張するが,フック部分は合成樹脂製であるのが通常であり,そうでなくとも,一般にハンガーに用いられる材質で弾性のないものは皆無である。したがって,刊行物記載の発明のフック8の材質についての原告主張には理由がない。
4 取消事由4(相違点の認定判断の誤り)に対して 本件発明は刊行物記載の発明から容易に想到されるものであるとの審決の判断は,以下のとおり,正当である。
(1) 原告は,刊行物記載の発明のフック8の下位の脚片の先端側は掛鈎5の頭部先端5"に嵌まるようになるものであって,削除可能な部分ではないにもかかわらず,これを削除可能な部分であると認定した審決は誤っていると主張する。しかし,フック8の下位の脚片の長さが「適宜の長さ」であるとの審決の認定に誤りはないのであるから,フック8の下位の脚片の先端側が削除可能な部分であるとの審決の認定に誤りはない。
(2) 原告は,審決が,フック8の下位の脚片の先端側を削除したと想定した上で,下位の脚片の長さが鈎部の内側空間を横切る上位の脚片の長さより短くなり,両脚片がV字状に突出し,両脚片の突出端側の間隔を物干竿20の直径より幾分狭い距離とすることが可能であると認定したのは誤りであると主張するが,審決の前提に誤りはなく,その認定は相当である。
(3) 原告は,審決が,刊行物記載の発明の係着部材の下位となる脚片の長さ,両脚片の形状(V字状か略フ字状か)及びそれらの突出端側の間隔をどのようにするかは単なる設計的事項にすぎないと判断したのは,誤った前提から帰結したもので,誤りであると主張するが,審決の前提に誤りはなく,その認定は相当である。
また,原告は,本件発明の創意性は係着部材をV字状に形成してそれを弾性資材で成形した点にあるのであるから,両脚片の形状をどのように定めるかは単なる設計的事項ではないと主張する。
しかしながら,本件発明と刊行物記載の発明におけるハンガーの物干竿に対する係着手段の技術思想が同一であることは,前記のとおりであり,係着部材の形状がV字状であるか略フ字状であるかにより作用効果にも違いはないのであるから,いずれの形状をとるかは設計的事項である。実際のところ,V字状に形成した脚片を持つハンガーは,本訴甲4(審決甲2)の図21ないし23,公開特許公報昭57-14315(本訴乙1)など,多数知られている。
また,係着部材に弾性資材を使うことは普通に行われており,本訴甲4(審決甲2)発明の弾性部材(板ばね)51,61,71のように,鈎部に取り付けた弾性部材の弾性変形により物干竿をフック部分に押しつけてハンガーを係止する技術思想も広く知られている。
さらに,刊行物記載の発明においてフック8を構成する上位及び下位脚片の突出端側の間隔が物干竿20の直径より幾分狭い距離となっているのは,物干竿20によるフック8の開きを容易にするために本件発明の要件を限定したにすぎない。
以上によれば,係着部材の下位となる脚片の長さ,両脚片の形状(V字状か略フ字状か)及びそれらの突出端側の間隔をどのようにするかは単なる設計的事項にすぎないとの審決の認定判断は正当である。
(4) また,原告は,刊行物記載の発明のフック8を弾性資材により形成したとしても,審決が説示するように,上位の脚片と下位の脚片との弾性力でハンガーの鈎部の内壁面を物干竿20に圧着させることにはならず,かえって挟持された物干竿20を取り外すことが困難になると主張する。
しかしながら,フック8を弾性の大きい材質で成形し,ハンガーに自重が加われば,フック8はフック支軸11を中心として上方に回動するので,物干竿20は掛鈎5の頭部5'aとフック8の内縁8aとフック8の下位脚片の内縁8bとにより挟持され,さらに物干竿20が5'aの右上がり傾斜に沿って斜め上方に押し上げられる結果,物干竿20はフックの支軸側に進むにつれてフックを押し開くことになり,その抗力によって物干竿20はフック8の上下二点と5'aとの三点で支持され,圧着する。そして,掛鈎5を上昇させれば,フック8は支軸11を中心として下方に回道し,掛鈎5の開放部から物干竿20を容易に外すことができる。
したがって,審決の上記認定に誤りはなく,刊行物記載の発明の係着部材を弾性資材で形成することを妨げる特段の事情はないというべきである。
(5) このように,本件発明と刊行物記載の発明におけるハンガーの物干竿に対する係着と解除は,全く同一であるから,両発明が具体的形状などの点で多少の相違点があったとしても,当業者が刊行物記載の発明から本件発明を容易に想到できたとする審決の判断は相当である。
当裁判所の判断
1 本件発明及び刊行物記載の発明におけるハンガーと物干竿の係着手段について (1) 本件発明 ア ハンガーと物干竿の係着手段に関し,本件明細書には,以下の記載がある。
【0009】【作用】このように構成せる本発明手段においては,洗濯した衣服類を掛けたハンガーAを,それの鈎部2が物干竿Sの上方に位置する状態として,その状態から全体を下降させ,鈎部2を物干竿Sに嵌合させて引き掛けていけば,鈎部2の内腔に嵌入していくようになる物干竿Sの上面側が,その鈎部2の内側空間を横切る係着部材3の長脚片30に下方から当接してそれを押し上げるようになって,係着部材3をボス部3a中心に上方に回動させる。
【0010】これにより係着部材3の短脚片31が鈎部2の内側空間を横切る位置に回動してきて,物干竿Sの下面側を下から抱え上げるようになり,物干竿Sをこの短脚片31と長脚片30とで,上下から挟み込んだ状態とする。
【0011】次いで,さらに,ハンガーAの下降作動で,物干竿Sの上面側が長脚片30を押し上げて係着部材3を上方に回動させ,長脚片30が衝合部に衝突するか,または物干竿Sが鈎部2の内周側の上面に当接することで,係着部材3の上方への回動がエンドに達したところで,図5または図7にあるように,長脚片30と短脚片31とが,物干竿Sの軸方向視における左右の一半側を上下から挟持して,それら長脚片30および短脚片31の弾性により物干竿Sを左右の他半側に押し出し,その他半側を鈎部2の内壁面wに押し付けていく状態となる。
【0012】そして,この状態は,鈎部2の内壁面wに押し付けられる物干竿Sが,内壁面wから受ける反力で押し返されることで,係着部材3の長脚片30と短脚片31とを,それらが具備する弾性によってそれらの間隔を拡げる方向に撓曲させて,それら長脚片30と短脚片31との間に押し込まれていき,それら長脚片30と短脚片31とが弾性により閉じ合わされる方向に復元しようとする弾力により,物干竿Sを逆に鈎部2の内壁面wに押し付けていき,これによる圧着でハンガーAを物干竿Sに係着させていくようになる。
【0013】次に,この状態からハンガーAを物干竿Sに対して上方に動かすと,係着部材3の短脚片31が物干竿Sの下面側により下方に押されることで,係着部材3がボス部3a中心に下方に回動して,短脚片31が鈎部2の内壁面wに沿う姿勢となり,以後,係着部材3自体の重量でこの状態を保持して,鈎部2の下方の開放部を開放した状態となって,物干竿Sから上方に鈎部2が脱出していく。
【0014】このとき,係着部材3の長脚片30は,鈎部2の内側空間を横切る姿勢となり,次回に物干竿Sに引き掛けるときに,前述の作動が行われるようになる。
イ 本件明細書の上記記載によれば,本件発明におけるハンガーAと物干竿Sは,@係着部材3の長脚片30と短脚片31の間に物干竿Sを挟み込んで,ハンガーAを吊り下げるようにして下方に力を加えることにより,係着部材3がハンガーAの重量で上方に回動する,Aその際,物干竿Sの周面のうち,長脚片30と短脚片31の間に抱き込まれた周面の他半側が鈎部2の内壁面wに圧接するように配位されていることから,物干竿Sは,長脚片30と短脚片31とを弾性により撓ませてそれらの間隔を押し拡げ,両脚片の間隔内に押し込まれる,Bそうすると,長脚片30と短脚片31とが,復元力により対向する方向に物干竿Sを押圧し,その復元力の合成された力が,物干竿20をX字状の係着部材3の開放側に向け押し出すように作用し,物干竿Sの周面を鈎部2の内壁面wに圧着させる,という作用により係着するものであると認めることができる。
ウ これを,前記第2の2で認定した本件発明の特許請求の範囲(請求項1)に記載された構成要件との関係で整理すれば,@本件発明の係着部材3の長脚片30と短脚片31の資材については,「それら長脚片30および短脚片31の弾性により物干竿Sを左右の他半側に押し出し,その他半側を鈎部2の内壁面wに押し付けていく」(本件明細書【0011】)ようにするため,「弾性を具備する資材により・・・形成し」(【請求項1】),A係着部材3の上下脚片の長さについては,「鈎部2の内側空間を横切る長さの長脚片30と前記内側空間の内径より短い長さの短脚片31」(上記【請求項1】)から構成し,「長脚片30が上位で短脚片31が下位となる姿勢」(同【請求項1】)となるように配位し,B上下脚片の形状については,「鈎部2の内壁面wに押し付けられる物干竿Sが,内壁面wから受ける反力で押し返されることで,係着部材3の長脚片30と短脚片31とを,それらが具備する弾性によってそれらの間隔を拡げる方向に撓曲させて,それら長脚片30と短脚片31との間に押し込まれてい」(本件明細書【0012】)くように「ボス部3aからV字状に突出」(上記【請求項1】)するようにし,C上位の長脚片30と下位の短脚片31の突出端側の間隔についても,上記Bと同様の理由から,「物干竿Sの直径Dより幾分狭い距離となる形状」(上記【請求項1】)としたもの(ただし,本件明細書では突出端側の間隔がどの点とどの点の間を意味するかははっきりしない。),と理解することができる。
エ ところで,原告は,本件発明において,係着部材3の上下脚片の弾性復元力の合成応力により物干竿Sが鈎部2の内壁面wに圧着されると主張するが,物干竿Sを鈎部2の内壁面wに圧着させるためには,それが可能になるような特定の位置関係に掛鈎2と係着部材3を配位する必要がある。ところが,本件明細書の特許請求の範囲には「長脚片30と短脚片31との間隔内に物干竿Sの周面の一半側を抱き込ませた状態においてその物干竿Sの周面の他半側が鈎部2の内壁面wに圧接していくように配位し」(上記【請求項1】)と記載されているから,ハンガーAの重量ないし手動による荷重により物干竿Sが係着部材3の長脚片30及び短脚片31の間に押し込まれることは明らかであるものの,本件明細書の図7のように上位及び下位の脚片の弾性の復元力による合成応力が最も強く作用する点ないしその近傍において物干竿Sと鈎部2の内壁面wが接するように係着部材3と鈎部2を配位するとは記載されていない。かえって,本件明細書の図8では,物干竿Sと鈎部2の内壁面wの最終的な停止位置が,係着部材3の上下の脚片の弾性の復元力による合成応力が最も大きいと思われる点より,かなり上方になっているが,この場合には,弾性復元力の合成応力による圧着力は相当程度減少しているものと考えられる。つまり,本件発明では,弾性の復元力の合成応力が最大となる地点で物干竿Sと鈎部2の内壁面wが接するように係着部材3と鈎部2が必ず配位されているものではなく,同合成応力による圧着力の強弱は問題としていないということができる。
また,本件明細書の特許請求の範囲には,「長脚片30と短脚片31の弾性の復元力により鈎部2の内壁面wに圧着させてハンガーAを物干竿Sに係着させるようにした」(上記【請求項1】)との記載があるが,物干竿Sを鈎部2の内壁面wに圧着したからといって,ハンガーAが物干竿Sに安定的に係着するとは限らないことに留意する必要がある。たとえば,本件発明において,物干竿Sと鈎部2の内壁面wの圧着力が最も強くなる地点で物干竿Sと鈎部2が当接したとしても,内壁面wの同部分に物干竿Sを受ける溝等の係着手段を設けない限り,ハンガーAの自重による荷重が消失した場合には,下方への可動性が高くなり(本件明細書に示された実施例における係着部材3の上方への回動については,衝合部があるか,鈎部の構造上停止する特定の位置がある。),係着性がそれほど高くないことが容易に推察される。つまり,物干竿Sを鈎部2の内壁面wに係着させるためには,単に物干竿Sが鈎部2の内壁面wに圧着するのみでは足りず,圧着によって下方への回動が制約されることが必要なのであり,圧着力が強くても,内壁面wに物干竿Sを受ける溝等がないことや物干竿Sと内壁面wの接触面の摩擦力が低いことによって,下方への回動にさしたる制約がなければ,物干竿Sを鈎部2の内壁面wに係着するとの目的を達成することはできないのである。本件発明は,係着部材3の長脚片30と短脚片31の弾性の復元力により物干竿Sを鈎部2の内壁面wに圧着させることを係着手段とするもので,他の有効な係着手段との組合せを併用せず,しかも使用する部材に特に高い弾性を有する部材を選択するなど格別な工夫をしていることも開示されていないのであるから,係着部材3の上下脚片の弾性復元力により物干竿Sを鈎部2の内壁面wに圧着させたとしても,その係着効果は必ずしも高いということはできない。
審決の認定判断を検討するにあたっては,上記のような点を考慮に入れる必要がある。
(2) 刊行物記載の発明 ア 他方,刊行物記載の発明の「実用新案登録請求の範囲」は以下のとおりである。
「1 複数個のピンチ(2)を取り付けた吊枠(1)を鎖(3)等の連結手段を介して掛鈎(5)に連結してなる物干器において,物干竿に対する固定手段として,略フ字状のフック(8)の中央に設けた掛鈎挿通溝(6)内に掛鈎(5)の頭部(5')を挿通した状態で当該フック(8)をその屈曲部(9)にて上下方向に回動自在に掛鈎(5)の頭部(5')に枢着したことを特徴とする物干器。
2 前記フック(8)における物干竿当接部にすべり止め(7)を設けたことを特徴とする実用新案登録請求の範囲第1項記載の物干器。
3 前記フック(8)の屈曲部(9)を掛鈎(5)の頭部(5')に枢着するに当たり,該頭部の所定部分を屈曲させることにより軸受部(10)を形成し,フック(8)の屈曲部(9)に取り付けた支軸(11)を該軸受部(10)に支承させるようにしたことを特徴とする実用新案登録請求の範囲第1項又は第2項記載の物干器。」 そして,刊行物の「考案の詳細な説明」欄にはハンガーと物干竿の係着手段に関し,以下の記載がある。
「o 考案が解決しようとする問題点 上記物干器はこれを物干竿に吊り下げるに当たっては単に‥‥掛鈎を物干竿に係止するにすぎないため,風等により物干器が物干竿から落下し,あるいは物干竿上で横すべりするおそれが大きいという問題点があった。本考案は物干器における掛鈎に物干竿に対する固定手段を具えさせることにより上記の問題点を解決しようとしたものである。
o 問題点を解決するための手段 ………。本考案においては掛鈎5に物干竿に対する固定手段を具えさせるものである。すなわち,中央に掛鈎挿通溝6を具えると共に好ましくは物干竿当接部にゴム等のスベリ止め7を設けた略フ字状のフック8における該掛鈎挿通溝6内に掛鈎5の頭部5'を挿通した状態で,当該フック8をその屈曲部9にて上下方向に回動自在に掛鈎5の頭部5'に枢着する。フック8の屈曲部9を掛鈎5の頭部5'に枢着するに当たつては,一例として,該頭部5'の所定部分を屈曲させることにより軸受部10を形成し,フック8の屈曲部9に取り付けた支軸11を該軸受部10に支承させる。12,13はフック8の下方向への回動範囲を規制するストッパーであるが,13はすベり止め7の取り付け台を兼ねている。14は軸受支持部であつて,支軸11との間に掛鈎5の軸受部10を挟持するようにしている。
o 作用 物干器を物干竿20に吊り下げていないときは,フック8はその自重により下限まで回動した状態,すなわち,第3図に示すようにストッパー12,13が掛鈎5の頭部5'に当接した状態にある。
物干器を物干竿20に吊り下げる際には,第3図に示す状態にある略フ字状フック8を単に物干竿20に係止すればよい(第2図)。しかるときは,掛鈎5の頭部5'に上下方向に回動自在に枢着されているフック8は物干器の自重により上方(第2図の矢印に示す方向)に回動する結果,物干竿20は第2図に示すように掛鈎5の頭部5'の内縁5'aとフック8の内縁8aとすべり止め7とにより挟持される。
この場合,フック8は物干器の自重により常時上方に回動する傾向が与えられるため,物干竿20は確実に把持され,掛鈎5は物干竿20に固定される。また,フック8は物干器の自重により上方に回動して物干竿20を把持するため,物干竿20の直径に差異があつても掛鈎5は物干竿20に確実に固定される。」 イ 上記のとおり,刊行物記載の発明にはすべり止め7を構成要素としない請求の範囲1記載の発明とこれを構成要素とする同2記載の発明があること,その詳細な説明の欄には「好ましくは物干竿当接部にゴム等のスベリ止め7を設けた略フ字状のフック8」(3頁13行〜15行)との記載があることに照らすと,すべり止め7は刊行物記載の発明に必須の構成要素ではないとの審決の判断に誤りはないというべきであり,以下では,すべり止め7が刊行物記載の発明の必須の構成要素でないことを前提として判断する。
ウ 刊行物記載の「実用新案登録請求の範囲」及びその明細書の上記記載によれば,刊行物記載の発明においては,@略フ字状のフック8の上位の脚片と下位の脚片の間に物干竿20を挟んでハンガーを物干竿20に吊り下げると,物干器の自重でフック8が上方に回動する,Aその結果,物干竿20は,掛鈎5の頭部5'の内縁5'a,フック8の上位の脚片の内縁8a,フック8の下位の脚片の内縁により挟持される,という作動によりハンガーと物干竿が係着すると認めるのが相当である。
エ 刊行物記載の発明のフック8が弾性を有するか否か,また,同発明の物干竿20がフック8の上下脚片の弾性の復元力により鈎部の内壁面に圧着しているのか否かについては,当事者間に争いがあるが,この点については後に検討する。
2 取消事由1(刊行物記載の発明の認定の誤り)について そこで,上記認定に基づき,原告主張の取消事由に即して判断する。
(1) 原告は,審決が刊行物記載の発明について「物干竿20の周面の他半側は,掛鈎5の頭部5'の内縁5'aに圧着され」,「物干器を物干竿20に係着させるようにした」と認定したのは,誤りであると主張する。
ア ところで,「圧着」及び「係着」は,一義的な定義を有する技術用語ではなく,明細書にもその定義付けがないから,使用している漢字の通常の意義等に照らし,具体的な場合に即してその意味内容を推定するほかない。そうすると,「圧着」は「『圧』によって『着』している状態」,すなわち「圧力で接した状態」(圧力の程度については,本件明細書に圧力の程度に関する記載はないから,圧力があればよく,圧力の程度は必ずしも要求されないものと解される。)を意味すると解するべき筋合いである。しかしながら,「着」は,通常,複数の部材が接する際に加えられた圧力が消失しても,直ちには離れないことを意味するが,本件では,原告もハンガーの自重による荷重及び弾性による復元力を消失した場合にもなおハンガーが物干竿から離れないとまでは主張していないのであるから,「圧着」という用語は,誤解を招きかねない不適切な用語法であり,むしろ「圧接」のように表記すべきものである。なお,「係着」にも同様の問題があるが,本件発明における用語法では,「圧着」の結果,即「係着」と考えているようであるから,「係着」の意味内容を独立して詮索する必要性はあまりない。
以上指摘のような問題はあるものの,これを念頭において,やや曖昧ながら,「圧着」は「圧力でくっついた状態」の意味,「係着」は「くっついてつながった状態」の意味において,用いることとする。
イ 原告は,「圧着」及び「係着」の意味内容は上記と同様に理解するものの,ハンガーと物干竿の場合の「圧着」及び「係着」とは,風によりハンガーが浮き上がってハンガーの重量による荷重が消失したときにも,ハンガーが物干竿に圧力でくっつき,あるいはくっついてつながった状態を維持することを意味すると主張する。
しかしながら,ハンガーと物干竿の当接部にハンガーの自重による荷重がかかることにより,ハンガーが物干竿に圧力でくっつき,あるいはくっつきつながった状態にある場合も,ハンガーは物干竿に「圧着」あるいは「係着」しているということができるのであって,風によりハンガーが浮き上がって,ハンガーの重量による荷重が消失した状態のみをとらえ,その際にハンガーと物干竿がくっつきつながっているか否かをもって「圧着」及び「係着」の有無を定めるという原告の解釈は失当である。
刊行物記載の発明においては,前記のとおり,フック8の下位の脚片の内側にすべり止め7が設けられていないとしても,ハンガーを物干竿20に吊り下げることにより,フック8が物干器の自重で上方に回動し,掛鈎5の頭部5'の内縁5'a,フック8の上位の脚片の内縁8a,フック8の下位の脚片の内縁にそれぞれ荷重がかかって,物干竿は挟持され,ハンガーは物干竿に固定されるものと認められるのであるから,刊行物記載の発明において,他の圧着ないし係着手段によって,ハンガーと物干竿がその当接部において圧着し係着されるといえるか否かについて論ずるまでもなく,ハンガーと物干竿はその当接部において圧着し,ハンガーは物干竿に係着されるということができる。
したがって,審決が,「物干竿20の周面の他半側は,掛鈎5の頭部5'の内縁5'aに圧着され」,「物干器を物干竿20に係着させるようにした」と認定したのは,誤りであるということはできない。
(2) 原告は,審決が,刊行物記載のフック8の下位の脚片が「適宜の長さ」であると認定したのは誤りであると主張する。
原告の指摘するとおり,刊行物には,フック8の下位の脚片について「物干竿20が細い場合には,フック8下端における掛鈎挿通溝内に掛鈎5の頭部先端が嵌まるため,掛鈎5は物干竿20により確実に固定される。」(5頁14行〜6頁1行)と記載されており,これによれば,フック8の下位の脚片は,掛鈎5の内部空間を横切る長さであることが前提となっていることは明らかである。また,フック8の下位の脚片の先端部にある内側へ曲がった部分については,物干竿20を抱え込むようにして当接することによって,風でハンガーがあおられ,ハンガーの自重が消失した場合にもハンガーを物干竿20に係着させるためであるとも考えられなくはない。
これに対し,被告は,フック8の下位の脚片は,物干竿20を確実に持ち上げることができればよいのであるから,実用に供することを念頭におけば,物干竿20が外れないような適宜の長さであればよいと主張する。
確かに,刊行物記載の発明の構成としては,上記記載のように,フック8の下位の脚片の長さは,物干竿20の直径の長さにより可変とすることは想定されておらず,むしろ,物干竿20が細い場合でも対応できるように,掛鈎5の内部空間を横切ることのできる長さに設定されているのであるから,そのような場合を含めて,下位の脚片の長さを「適宜の長さ」であると認定しているとすれば,誤りであるというべきこととなる。
しかしながら,審決は,刊行物記載の発明について,そのフック8の両脚片の弾性による復元力によって掛鈎5の内縁と圧着するか否か,そのための必要十分条件について比較考察するという限定された課題の下に,下位の脚片の長さについて検討し,圧着するためには,下位の脚片は掛鈎5の内部空間を横切る長さを有する必要はなく,物干竿20の直径の大きさに依存するものの,最終的に圧着固定する部位付近までの適宜の長さがあればよいという推論の過程において,原告によって指摘されたような「認定」をしたにすぎないから,措辞いささか妥当を欠く点はあるものの,決して誤りであるということはできない。
したがって,刊行物記載のフック8の下位の脚片が「適宜の長さ」であるとの審決の認定が誤りであるとの原告の主張は,採用することができない。
3 取消事由2(本件発明と刊行物記載の発明の一致点の誤り)について (1) 原告は,刊行物記載の物干竿20の周面の他半側と掛鈎5の頭部5'の内縁5'aは「圧着」しておらず,ハンガーを物干竿20に「係着」させていないのであるから,審決が,一致点B"において,「物干竿の周面の他半側を,鈎部の内壁面に圧着させてハンガーを物干竿に係着させ」ている点で,本件発明と刊行物記載の発明が一致すると認定したのは誤りであると主張する。
しかしながら,前記判示のとおり,「物干竿20の周面の他半側は,掛鈎5の頭部5'の内縁5'aに圧着され」,「物干器を物干竿20に係着させるようにした」との審決の認定は誤りではないのであるから,原告の主張はその前提において失当である。
(2) 原告は,刊行物記載のフック8の下位の脚片の長さは「適宜の長さ」ではないから,審決が,一致点A"において,係着部材の2つの脚片のうち鈎部の内側空間を横切る長さの脚片以外のもう一つの脚片が「適宜の長さ」である点で本件発明と刊行物記載の発明が一致すると認定したのは誤りであると主張する。
しかしながら,前記のとおり,審決が刊行物記載のフック8の下位の脚片が「適宜の長さ」であるとしても,決して誤りとはいえないから,原告の主張はその前提において失当である。
4 取消事由3(本件発明と刊行物記載の発明の相違点認定の誤り)について (1) 審決は,相違点として,本件発明では「長脚片と短脚片との間隔内に周面の一半側を抱え込む物干竿の周面の他半側を,長脚片と短脚片の弾性の復元力により鈎部の内壁面に圧着させている」のに対して,刊行物記載の発明では「物干竿の周面の他半側を両脚片の弾性の復元力により鈎部の内壁面に圧着させているのか否かも明らかでない点」を挙げているところ,原告は,審決が,刊行物記載の発明について「物干竿の周面の他半側を両脚片の弾性の復元力により鈎部の内壁面に圧着させているのか否かも明らかでない」と認定したのは誤りであると主張する。
ア 前記認定のとおり,本件発明と刊行物記載の発明の係着手段を比較すると,両発明は,ハンガーの自重により物干竿を抱き込んだ係着部材を上方に回動させ,物干竿を係着部材の上下脚片の各内縁と掛鈎の内縁の3点で挟持することにより,ハンガーを物干竿に係着させている点で共通する。しかるところ,風によりハンガーの自重による荷重が消失した場合にもハンガーを物干竿に係着した状態が維持されるか否かについては,原被告の間に争いがある。
イ 原告は,風によりハンガーの自重による荷重が消失した場合にもハンガーを物干竿に係着させるため,本件発明では,係着部材3を弾性資材を用いてV字状に形成し,物干竿Sによって押し拡げられた長脚片30と短脚片31の弾性の復元力により鈎部2の内壁面wに圧着させているのに対し,刊行物記載の発明では,ハンガーの自重による荷重が消失した場合の係着手段はないと主張する。これに対し,被告は,本件発明及び刊行物記載の発明は,いずれも弾性変形力を利用して物干竿とハンガーを圧着する点で共通していると主張する。
ウ 確かに,刊行物には,係着部材の弾性変形力を利用して物干竿20とハンガーを圧着する旨の明示の記載はなく,フック8の両脚片の弾性によって生ずる復元力が物干竿20を押圧して掛鈎5の内縁に圧着しているという技術思想は直接的に開示されていないものといわざるを得ない。
しかしながら,刊行物記載の発明においては,「考案が解決しようとする問題点」として「物干器はこれを物干竿に吊り下げるに当たっては単に‥‥掛鈎を物干竿に係止するにすぎないため,風等により物干器が物干竿から落下し,あるいは物干竿上で横すべりするおそれが大きいという問題点があった。本考案は物干器における掛鈎に物干竿に対する固定手段を具えさせることにより上記の問題点を解決しようとしたものである。」,そして「本考案の効果」として「本考案の物干器はその掛鈎にフックを具えているため,掛鈎は物干竿に確実に固定され,風等により物干器が物干竿から落下し,あるいは物干竿上で横すべりするおそれは解消される。」と殊更にうたっているのであるから,何らかの有効な「固定」手段についての示唆があるものと考えるべきであり(刊行物記載の発明においては,すべり止め7も有効な「固定」手段の一つと考えられるが,すべり止め7は必須の構成要素でないことは前記認定のとおりである。),原告主張のように,刊行物記載の発明におけるハンガーと物干竿20の係着手段は,ハンガーの自重等によりハンガーと物干竿をその当接部において圧着する手段に限られるなどと考えるのは不自然である。
そのような観点から刊行物の第2図を見ると,フック8の両脚片は,外側に向かって大きく開放され,両脚片と掛鈎5の内縁の3点において物干竿20を抱きかかえた状態で固定しているものとしていることから,物干竿20の直径が第2図のように大きいときは,その3点から物干竿20に向かって抗力が働いていることが想像されるのであって,このようなフック8の両脚片の形状からすれば,弾性による復元力が働く可能性があると容易に理解することができる。そうすると,原告の主張するように上記3点において弾性による復元力による圧着は生じていないと断定することはできないというべきであり,審決が刊行物記載の発明について「物干竿の周面の他半側を両脚片の弾性の復元力により鈎部の内壁面に圧着させているのか否かも明らかでない点」と認定したことに誤りはない。
(2) 原告は,審決は,本件発明と刊行物記載の発明の係着部材の形状に関する異なる特徴を看過していると主張するが,審決は,係着部材の形状に関し,本件発明では両脚片が「V字状に突出し」ているのに対し,刊行物記載の発明では「略フ字状」に突出しているとして,その形状の差異を相違点として指摘しているのであり,その認定に誤りはない。
(3) 原告は,刊行物記載の発明の「係着部材の下位の脚片の長さが鈎部の内側空間の内径より短いのか否か明らかでなく」との審決の認定は誤りであると主張する。
確かに,前記判示のとおり,刊行物記載の発明の構成としては,フック8の下位の脚片の長さは,物干竿が細い場合でも対応できるように,掛鈎の内部空間を横切ることのできる長さに設定されているのであるから,「下位の脚片の長さが鈎部の内側空間の内径より短いのか否か明らかでない」と認定したことが,物干竿が一定値未満の直径の場合を含めて,下位の脚片の長さについて「鈎部の内側空間の内径より短いのか否か明らかでない」というのであれば,その限りにおいては誤りであるというべきこととなる。
しかしながら,下位の脚片の長さを「適宜の長さ」と認定した場合と同様,上記判示(2(2))のとおり,審決は,本件発明と刊行物記載の発明について,両脚片の弾性による復元力によって物干竿が鈎部の内壁面と圧着するか否かについて比較考察するという限定された課題の下に,下位の脚片の長さについて検討し,圧着するためには,下位の脚片は鈎部の内部空間を横切る長さを有する必要はなく,物干竿の直径の大きさに依存するものの,最終的に圧着静止する位置付近までの適宜の長さがあればよいという推論の過程において,原告によって指摘されたような「認定」をしたにすぎないから,措辞いささか妥当を欠く点はあるものの,決して誤りであるということはできない。
(4) 原告は,審決が刊行物記載の発明の「係着部材がどのような材料で形成されているのか明らかでなく」と認定したのは誤りであると主張する。しかしながら,刊行物には,フック8がどのような材料で形成されているかについて,これを明示する記載はないのであるから,審決が「明らかでなく」と説示したことに誤りはない。
5 取消事由4(相違点の認定判断の誤り)について (1) 原告は,審決が,刊行物記載の発明のフック8の下位の脚片と物干竿20との当接点よりも突出端側の部分が必須の部分ではなく削除可能な部分であると認定したことについて,上記部分は掛鈎5の頭部先端5"に嵌まるようになるもので,削除可能な部分ではないから,審決の認定は誤っていると主張する。
ア 審決がフック8の下位の脚片と物干竿20との当接点より突出端側の部分を削除可能であるとする理由は,フック8の下位の脚片が物干竿20と当接する点より突出端側は物干竿20との当接に関与しないので,刊行物記載の発明を構成するための必須の部分ではないというものである。
イ そこで,検討する。
まず,刊行物記載の発明では,対象とする物干竿20について,その直径の大小を問わないことから,直径が一定値未満の大きさの物干竿の場合も含むと理解することができる。このように物干竿20の直径が一定値未満の場合の係着手段として,刊行物は,フック8の下位の脚片先端に設けた掛鈎挿通溝内に掛鈎5の頭部先端を嵌めることにより掛鈎5を物干竿20に係着することを開示しており,そのためには,下位の脚片の長さは掛鈎5の内部空間を横切り,その先端部分が鈎部頭部の挿通溝に嵌入するに必要な長さに設定されていなければならない。そうすると,刊行物記載の発明のフック8の下位の脚片のうち物干竿20との当接点より突出端側の部分は削除可能であるとする審決の認定が,その字義どおり,物干竿20の直径が一定値未満の場合を含めて,同発明の想定するいかなる場合にも及ぶものであるとすれば,誤りとしかいいようがない。
しかしながら,この問題に関する審決の判断は,その推論の全過程を見ると,刊行物記載の発明について,フック8の両脚片の弾性による復元力によって物干竿20が掛鈎5の内壁面と圧着するか否か,圧着するとすれば,そのための必要十分条件は何かという観点から行われているものである。刊行物記載の発明の物干竿20の直径が一定値未満の場合の係着手段は,両脚片の弾性による復元力を利用したものではなく,刊行物第2図に示されているような,掛鈎5の頭部5'の内縁5'a,フック8の上位の脚片の内縁8a,フック8の下位の脚片の内縁の3点により物干竿20を挟持するという係着作用とは異なるものであるから,フック8の下位の脚片と物干竿20との当接点より突出端側の部分が本件発明の係着部材の係着作用との対比,検討を行う上では必須の構成ではないのであれば,審決がこの部分を削除可能と想定したことに誤りはないというべきである。
ウ そこで,物干竿20の直径が一定値以上であり,フック8の下位の脚片先端に設けた掛鈎挿通溝内に掛鈎5の頭部先端を嵌めるという係着手段をとらない場合に,フック8の下位の脚片と物干竿20との当接点より突出端側に位置し,内側へやや曲がった部分を削除することが可能かどうかについて検討する。
フック8の両脚片は,概ね,支軸11から突出方向に向い次第に両脚片の間隔が拡がるような形状のものになっている。その上位の脚片は内縁がほぼ直線状をなしており,本件発明の係着部材3の上位脚片とほぼ同様の形状であり,下位の脚片は,内側に大きな円を描くように緩やかに曲がっており,かつ,その突出端におけるわずかな部分は,内側にかなり小さな円を描くように曲がっている。仮に,刊行物記載の発明の上記曲がり部分が,両脚片の間隔を狭めることによって物干竿を係着するとの目的のもと形成されているものだとすると,上記曲がり部分は刊行物記載の発明の構成要素であり,欠くことができないものとなる。
しかしながら,下位の脚片の突出端部分の内側への曲がり部分は,先端にある掛鈎挿通溝の機能としてフック8の頭部先端(第2図の5")に嵌合する形状であればよく,その曲がる程度を大きくして両脚片の先端部分の間隔を物干竿20の直径より狭く設定するなどして,ハンガーの自重による荷重が消失したときに掛鈎5を物干竿20になお係着させることを企図しているとは認められない(刊行物の第2図及び第3図を略図であることに注意して精密に検分しても,両脚片の先端の間隔が物干竿20の直径より小さくなるほど曲がってはいないのであるから,同各図によっても上記曲がり部分が係着手段として構成されているとは考えられない。)。
そうすると,刊行物記載の発明において,フック8の下位脚片の曲がりをどの程度にすることが適当かは単なる設計事項であると考えられ,物干竿20が一定値以上の直径の場合であっても,フック8の下位の脚片と物干竿20との当接点から突出端側の部分は,物干竿20を掛鈎5の内縁との当接には関係しない部分であるということとなる。
そうであってみれば,審決が,係着部材の両脚片の弾性による復元力によって物干竿が鈎部の内縁と圧着するか否かについて比較考察するという限定された課題の下に,刊行物記載の発明のフック8の下位の脚片の長さについて検討し,圧着するためには,物干竿20の直径の大きさに依存するものの,最終的に圧着固定する部位付近までの適宜の長さがあればよく,それよりも突出端側の部分は不要であると説示したとしても,措辞いささか妥当を欠く点はあるものの,決して誤りであるということはできない。
(2) 原告は,審決が,刊行物記載の発明についてフック8の下位の脚片と物干竿との当接点より突出端側の部分を削除してみると,下位の脚片が上位の脚片より短くなり,両脚片がV字状になって,本件発明の構成に接近する,などと認定したことについて,上記部分が削除可能であるとの誤った前提に基づいて導き出した認定であるから,誤りであると主張する。
しかしながら,既に判示したように,上記部分が削除可能であるとした前提が誤っているとの主張は,採用することができないから,原告の主張は失当である。そして,実際のところ,フック8の下位の脚片と物干竿との当接点より突出端側の部分を削除したと想定すると,フック8の下位脚片は上位脚片より短くなり,両脚片は略V字状を形成し,上下脚片と物干竿20との当接点の間隔は物干竿20の直径より短くなる(なお,本件発明の突出端側の部分の間隔dがどの点とどの点の間隔か不明であることは前記判示のとおりである。)。
(3) また,原告は,審決が,結論として,刊行物記載の発明において,係着部材の下位の脚片の長さ,両脚片の形状(V字状か略フ字状か),及びそれらの突出端側の間隔をどのようにするかは,単なる設計的事項にすぎないと判断したことは,誤りであると主張する。
ア その理由として,まず,原告は,刊行物記載の発明のフック8の下位の脚片の長さ,両脚片の形状,それらの突出端側の間隔が設計事項であるとの審決の判断は,フック8の下位の脚片の先端部分が削除可能であるとの誤った認定判断から帰結したものであるから,当然誤りであると主張する。しかしながら,審決のした下位の脚片の先端部分の削除に関する認定判断には誤りがないことに帰することについては,既に判断したとおりであるから,原告の主張は失当である。
イ 次に,原告は,本件発明と刊行物記載の発明では,ハンガーと物干竿の係着手段の技術思想が基本的に異なり,各発明における係着部材の両脚片の長さ,両脚片の形状,両脚片の突出端側における間隔は,各発明から必然的に要求されるものであるから,これを設計事項と断ずるのは誤りであると主張する。そこで,上記各構成について,以下順次検討する。
@ まず,係着部材の上下脚片の長さについて検討する。
前記のとおり,本件発明の係着部材3の上下脚片の長さについては,「鈎部2の内側空間を横切る長さの長脚片30と前記内側空間の内径より短い長さの短脚片31」(上記【請求項1】)から構成し,「長脚片30が上位で短脚片31が下位となる姿勢」(同【請求項1】)となるように配位されている。その趣旨は,たとえば本件明細書に「上位の長脚片30が鈎部2の内側空間を横切る状態となり,下位の短脚片が鈎部2の内側の空間内において連結軸4中心に自在に回動する状態となるように,長脚片30と短脚片31の長さを設定する。」(【0022】)との記載があることからもうかがえるとおり,連結軸4を中心に鈎部2の内側空間内を自在に回動できるようにすることにあると考えられる。つまり,両脚片の長さは,両脚片が物干竿Sを抱え込みながら,鈎部2の空間の内外を連結軸4を中心に一定の範囲で回動することができるように設定されれば足り,その条件を満たす限り,脚片の長さにより物干竿Sを鈎部2の内壁面wに圧着させるに必要な弾性による復元力の発生や強弱自体を左右するものではないということができる。
これに対し,刊行物記載の発明におけるフック8も「掛鈎5の頭部5'に上下方向に回動自在に枢着されている」(5頁2行〜3行)ものであり,その上下脚片が掛鈎5の空間の内外を支軸11を中心に一定の範囲で回動できることを当然の前提としているということができる。
このように,係着部材の上位脚片及び下位脚片の長さについては,ハンガーの鈎部の空間の内外を連結軸を中心に一定の範囲で回動することが可能であれば,自由に設定できる事項であるということができる。
A 次に,両脚片の形状(V字状か略フ字状か)について検討する。
前記のとおり,本件発明の係着部材3の両脚片の形状をV字状としたのは,「鈎部2の内壁面wに押し付けられる物干竿Sが,内壁面wから受ける反力で押し返されることで,係着部材3の長脚片30と短脚片31とを,それらが具備する弾性によってそれらの間隔を拡げる方向に撓曲させて,それら長脚片30と短脚片31との間に押し込まれてい」(本件明細書【0012】)くようにしたためであると認められる。このように,本件発明の係着部材3の両脚片が完全な直線をもって構成され,その結果,完全なV字状をなしているのは,上下脚片の有する弾性の復元力を発揮させるためであると考えられるが,その目的を達成するには,連結軸4から突出方向に向い次第に両脚片の間隔が拡がるような形状のものであることは必要であるものの,両脚片が必ずしも完全な直線ないし完全なV字状である必要はなく,大きな円の一部ないしは二次曲線のように,先端に行くに従い内側又は外側に緩やかに曲がるようなものであっても,あるいは,これらの一つと直線状のものとの組合せであっても,両脚片の弾性によって生ずる復元力の大小の問題や物干竿の安定性の度合いの問題を別にすれば,両脚片の間隔が連結軸4から離れるに従い常に大になるという条件を充足する限り構わないというべきである。
刊行物記載の発明のフック8の両脚片は略フ字状に形成されており,概ね,支軸11から突出方向に向い次第に両脚片の間隔が拡がるような形状のものになっていて,上位の脚片は内縁がほぼ直線状をなしていて本件発明の係着部材3の上位脚片30とほぼ同様の形状であるが,下位の脚片は,先端部を除いて,内側に大きな円を描くように緩やかに曲がっている。刊行物にはそのような形状に形成したことについて明確な説明はなされていないが,このように両脚片が略フ字状であったとしても,両脚片の間隔が支軸11から離れるに従い常に大になるという条件を充足し,しかも,フック8の下位の脚片の先端部分を削除したと想定すれば,その形状は略V字状になるのであるから,両脚片の弾性による復元力を発揮させるについて支障があるとは考えられない。なお,原告は,フック8の下位の脚片の先端にある内側に曲がった部分が両脚片の弾性による復元力が開放側方向に向かうのを阻害すると主張するが,この部分の曲がりは,既に判示したように,基本的に当接に影響を与えるものではなく,両脚片の弾性による復元力が開放方向に働くことを妨げるものとはいえない。
そうすると,係着部材の両脚片が「V字状」か,「略フ字状」かは設計事項であるといわざるを得ない。
B さらに,両脚片の突出端側の間隔について検討する。
本件発明の長脚片30と短脚片31の突出端側の間隔については,本件明細書の図2を精査しても,「突出端部における間隔」がどの点とどの点の間を意味するかははっきりしないが,同間隔を物干竿の直径より幾分狭く設定する趣旨は,たとえば本件明細書に「長脚片30と短脚片31との突出端部における間隔巾dは,通常の物干竿Sの直径Dよりも幾分狭い距離となるように設定してあって,これにより,物干竿Sが長脚片30と短脚片31との間に押し込まれることで,それらの間隔を押し拡げていくようにしてある。」(【0018】)との記載があることからもうかがえるとおり,上下脚片の有する弾性の復元力を発揮させるためであると考えられる。しかしながら,係着部材がその連結軸から突出方向に向い次第に両脚片の間隔が拡がるような形状に形成されていれば,上下脚片と物干竿との当接点間の距離が物干竿の直径より短くなることは当然であり,物干竿を上下脚片の間に押し込むことにより上下脚片の弾性の復元力は生じると理解できる。そうすると,原告の主張する上記間隔巾dをどのように設定するかは,いずれにしろ設計事項というべきである。
C 加えて,審決は,係着部材を弾性を具備する資材で形成することは周知事項であると説示するので,この点もここで検討する。
前記のとおり,本件発明では,「長脚片30および短脚片31の弾性により物干竿Sを左右の他半側に押し出し,その他半側を鈎部2の内壁面wに押し付けていく」(本件明細書【0011】)ようにするため,係着部材3は弾性資材で形成されているものと認めることができる。本件明細書には,「図2に示している例は,合成樹脂材により成形した例である」(【0020】),「この例における係着部材3は,鋼線をキックバネ状に成形したバネ材を用いている例で」(【0029】)との記載があり,弾性資材としては合成樹脂材及び鋼線のバネ材などが例示されている。本件発明のようにハンガーの係着部材を弾性資材から形成することは,本訴甲4(審判甲2)などに開示されているとおり,周知事項であるものと認められる。
刊行物記載の発明におけるフック8の上下脚片が弾性を有する資材から形成されているかについては,刊行物には直接触れられていないが,既述したように,ハンガーの係着部材に弾性資材を使用することは周知の事項であり,しかも,両脚片が外側に向かって大きく開いていることからして,同両脚片は多かれ少なかれ弾性を有しているものと容易に想像される。
D 以上@ないしCによれば,係着部材の両脚片の長さの設定,両脚片の形状(V字状か略フ字状か),両脚片の突出端側における間隔はいずれも設計事項であり,係着部材を弾性資材から形成することは周知事項であるとの審決の判断に誤りはないというべきである。
ウ そこで,さらに進んで,刊行物記載の発明及び周知事項に基づき,長脚片と短脚片の弾性の復元力を利用して物干竿をハンガー鈎部の内壁面に圧着させるとの技術思想に想到することが容易かどうかについて検討する。
前記のとおり,係着部材の上下脚片の弾性復元力の合成応力を使って物干竿をハンガーの鈎部の内壁に圧着させるという本件発明の技術思想は,刊行物には直接に明示されていない。しかしながら,前記のとおり,フック8の上下脚片が多かれ少なかれ弾性を有していることは容易に想像できるところ,刊行物の第2図には,フック8の両脚片が外側に開放され,両脚片と掛鈎5の内縁とで物干竿20を抱きかかえた状態で「挟持」している状態が開示されているのであるから,当業者であれば,フック8の両脚片の形状に照らし,物干竿20を差し入れた際に,何らかの「抵抗」が生じること,すなわちそれぞれの脚片の弾性による復元力が物干竿20に対し働き,その復元力の合成応力が掛鈎5に作用していることを容易に理解することができるというべきである(フック8と掛鈎5との連結及びフック回動の際の接触によって生ずる摩擦力による係着作用も含まれないでもないが,物干竿の着脱の際におけるフックの回動状況等から見分けはできる。)。
そして,本訴甲2(審決甲4)によれば,係着部材を弾性を有する資材で形成することばかりでなく,弾性資材から形成される係着部材の弾性力を利用して物干竿をハンガーの鈎部に圧着させて係着することも,当業者にとってはごくありふれた周知の事項であったものと認めることができる。このような当業者の技術常識に加え,本件発明の対象とするハンガーは,一般的に簡素な構造を有し,考えられる資材,その物性,使用方法などもある程度限定されていることも考慮すると,当業者であれば,係着部材の上下脚片の弾性復元力の合成応力を使って物干竿をハンガーの鈎部の内壁に圧着させることを想到するのは容易であるというべきである。
さらに,前記判示のとおり,本件発明は,弾性の復元力の合成応力が最大となる地点で物干竿とハンガーの鈎部が接するように係着部材と鈎部が必ず配位されているものではなく,同合成応力による圧着力が相当程度弱い場合も含んでいると考えられる。このように,本件発明では物干竿と鈎部の圧着力の程度は問題とされていない上,他の有効な係着手段との組合せを併用せず,しかも使用する部材に特に高い弾性を有する部材を選択するなど格別な工夫をしていることも開示されていないのであるから,その係着効果についても必ずしも高いということはできない。そうすると,本件発明と刊行物記載の発明とでは,係着部材によるハンガーの物干竿に対する圧着力,係着力において,格段の差異があるとも認められない。
以上の検討結果を総合すれば,本件発明は,刊行物記載の発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものと認めることができる。
6 結論 以上のとおりであるから,本件発明が刊行物記載の発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとした審決の判断に誤りはなく,また,原告が主張する取消事由も結局においていずれも採用することができない。したがって,原告の請求は理由がなく,棄却を免れない。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 田中昌利
裁判官 佐藤達文
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