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事件 平成 23年 (ワ) 4584号 損害賠償請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 東京地方裁判所 
判決言渡日 2013/07/10
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
判例全文
判例全文
平成25年7月10日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

平成23年(ワ)第4584号 損害賠償請求事件

口頭弁論終結日 平成25年4月16日

判 決

愛知県日進市<以下略>

原 告 マ ス プ ロ 電 工 株 式 会 社

同訴訟代理人弁護士 水 野 健 司

同訴訟代理人弁理士 足 立 勉

同 岡 本 武 也

同 補 佐 人 弁 理 士 久 納 誠 司

東京都中央区<以下略>

被 告 ユ ニ デ ン 株 式 会 社

同訴訟代理人弁理士 中 山 健 一

同訴訟代理人弁護士 達 野 大 輔

同 補 佐 人 弁 理 士 立 花 顕 治

主 文

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

被告は,原告に対し,1億円及びこれに対する平成23年2月22日から支

払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

1 本件は,「受像装置,チューナー,テレビ受像機および再生装置」に関する

特許権(特許第4271698号。 以下 「 本件特許権 」 という 。 )の特許権
本件特許権」 という。

者である原告が,被告による別紙物件目録記載の製品 ( 以下 「 イ 号製品 」 な

1
いし「 号製品」 といい, わせて「 被告製品」 という。)
いし 「 ト 号製品 」 といい , 合 わせて 「 被告製品 」 という 。)
。)の製造,販売等

が本件特許権を侵害すると主張して,被告に対し,民法709条,特許法10

2条2項に基づき,損害7億6810万円の一部として1億円及びこれに対す

る訴状送達の日の翌日である平成23年2月22日から支払済みまで民法所定

の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

2 前提となる事実(末尾に証拠等を付した以外の事実は,被告において明らか

に争わない。)

(1) 当事者

ア 原告は,無線及び電気機械器具の製造並びに販売等を目的とする株式会

社であり,家庭用テレビ向け地上デジタルチューナーの製造及び販売等を

行う。

イ 被告は,情報通信機器,音響機器及び家庭電器製品の製造並びに販売等

を目的とする株式会社であり,家庭用テレビ向け地上デジタルチューナー

の製造及び販売等を行う。

(2) 本件特許権

原告は,以下の特許権(本件特許権)を有している。

ア 特許番号 第4271698号

イ 発明の名称 受像装置,チューナー,テレビ受像機および再生装置

原出願日 平成17年11月30日

出願日 平成18年9月22日(特願2006−257288。特

願2005−346467の分割出願。甲2)

エ 登録年月日 平成21年3月6日

オ 特許請求の範囲

本件特許権に係る特許請求の範囲,明細書及び図面 ( 以下 , 合 わせて

本件明細書」 という。)。)は別紙特許公報(甲2)のとおりであり,そ
「 本件明細書 」 という 。)

の請求項1,2の発明 ( 以下 「 本件発明 1 」「 本件発明 2 」 といい , 合
以下「 本件発明2

2
本件発明」 。)の特許請求の範囲は以下のとおりである
わせて 「 本件発明 」 という 。)

(甲2)。

「【請求項1】

表示装置を接続した状態で用いられる受像装置であって,

外部から入力されるアスペクト比16:9の映像を示す映像信号に基づ

き,該映像信号で示される映像を表示装置に表示させる表示制御手段と,

前記表示制御手段による映像の表示方法として,標準サイズによる表示

方法,および,該標準サイズの映像におけるX軸,Y軸それぞれを4/3

倍に拡大した拡大サイズによる表示方法,のいずれか一方を示す表示サイ

ズを記憶装置に記憶させることにより,映像の表示方法を設定する表示方

法設定手段と,

前記表示制御手段による映像の表示方法を前記標準サイズによる表示方

法または前記拡大サイズによる表示方法へ切り替えるための操作を受け付

ける切替操作受付手段と,

アスペクト比4:3の映像における左右に画像の存在しない領域である

無画部を付加することでアスペクト比16:9の映像にアスペクト変換さ

れた付加映像,であることを識別するための識別信号が,外部から入力さ

れる映像信号に付加されている場合に,該映像信号で示される映像が前記

付加映像であると判定する,といった処理を映像信号が入力されている間

繰り返し実行する付加映像判定手段と,

当該受像装置に接続される表示装置の有する表示エリアのアスペクト比

を記憶する表示エリア記憶手段と,を備え,

前記表示方法設定手段は,前記表示エリア記憶手段により4:3のアス

ペクト比が記憶され,かつ,前記付加映像判定手段により付加映像である

と判定された場合に,前記拡大サイズを示す表示サイズを記憶装置に記憶

させることで前記拡大サイズによる表示方法を設定して,また,前記切替

3
操作受付手段により受け付けられた操作に応じた表示方法を示す表示サイ

ズを記憶部に記憶させることでその表示サイズによる表示方法を設定して,

以降,再度設定変更をするまでの間その設定状態を継続しており,

前記表示制御手段は,前記表示方法設定手段により記憶装置に記憶され

た表示サイズで示される表示方法により,映像信号で示される映像を前記

表示装置に表示させる,ように構成されており,

さらに,

前記表示方法設定手段は,前記付加映像判定手段により付加映像でない

と判定された場合,表示方法の設定変更を行わない一方,前記付加映像判

定手段により付加映像であると判定された場合,前記拡大サイズを示す表

示サイズを記憶装置に記憶させることで表示方法を前記拡大サイズに設定

変更して,

前記切替操作受付手段は,前記付加映像判定手段による判定が行われた

後に,前記表示制御手段による映像の表示方法を切り替えるための操作を

受け付けて,

また,

前記表示方法設定手段は,前記表示エリア記憶手段により4:3のアス

ペクト比が記憶されている場合に,前記切替操作受付手段により受け付け

られた操作に応じた表示方法を示す表示サイズを記憶部に記憶させること

でその表示サイズによる表示方法を設定する

ことを特徴とする受像装置。

【請求項2】

前記表示方法設定手段は,前記付加映像判定手段により付加映像である

と判定された場合に,前記拡大サイズを示す表示サイズを記憶装置に記憶

させることで前記拡大サイズによる表示方法を設定して,また,前記付加

映像判定手段により付加映像でないと判定された場合に,前記切替操作受

4
付手段により操作が受け付けられたら,その操作に応じた表示方法を示す

表示サイズを記憶部に記憶させることでその表示サイズによる表示方法を

設定する

ことを特徴とする請求項1に記載の受像装置。」

(3) 構成要件の分説

ア 本件発明1について

本件発明1を構成要件に分説すると,以下のとおりである。

A 表示装置を接続した状態で用いられる受像装置であって,

B 外部から入力されるアスペクト比16:9の映像を示す映像信号に基

づき,該映像信号で示される映像を表示装置に表示させる表示制御手段

と,

C 前記表示制御手段による映像の表示方法として,標準サイズによる表

示方法,および,該標準サイズの映像におけるX軸,Y軸それぞれを4

/3倍に拡大した拡大サイズによる表示方法,のいずれか一方を示す表

示サイズを記憶装置に記憶させることにより,映像の表示方法を設定す

る表示方法設定手段と,

D 前記表示制御手段による映像の表示方法を前記標準サイズによる表示

方法または前記拡大サイズによる表示方法へ切り替えるための操作を受

け付ける切替操作受付手段と,

E アスペクト比4:3の映像における左右に画像の存在しない領域であ

る無画部を付加することでアスペクト比16:9の映像にアスペクト変

換された付加映像,であることを識別するための識別信号が,外部から

入力される映像信号に付加されている場合に,該映像信号で示される映

像が前記付加映像であると判定する,といった処理を映像信号が入力さ

れている間繰り返し実行する付加映像判定手段と,

F 当該受像装置に接続される表示装置の有する表示エリアのアスペクト

5
比を記憶する表示エリア記憶手段と,を備え,

G 前記表示方法設定手段は,前記表示エリア記憶手段により4:3のア

スペクト比が記憶され,かつ,前記付加映像判定手段により付加映像で

あると判定された場合に,前記拡大サイズを示す表示サイズを記憶装置

に記憶させることで前記拡大サイズによる表示方法を設定して,また,

前記切替操作受付手段により受け付けられた操作に応じた表示方法を示

す表示サイズを記憶部に記憶させることでその表示サイズによる表示方

法を設定して,以降,再度設定変更をするまでの間その設定状態を継続

しており,

H 前記表示制御手段は,前記表示方法設定手段により記憶装置に記憶さ

れた表示サイズで示される表示方法により,映像信号で示される映像を

前記表示装置に表示させる,ように構成されており,

さらに,

I 前記表示方法設定手段は,前記付加映像判定手段により付加映像でな

いと判定された場合,表示方法の設定変更を行わない一方,前記付加映

像判定手段により付加映像であると判定された場合,前記拡大サイズを

示す表示サイズを記憶装置に記憶させることで表示方法を前記拡大サイ

ズに設定変更して,

J 前記切替操作受付手段は,前記付加映像判定手段による判定が行われ

た後に,前記表示制御手段による映像の表示方法を切り替えるための操

作を受け付けて,

また,

K 前記表示方法設定手段は,前記表示エリア記憶手段により4:3のア

スペクト比が記憶されている場合に,前記切替操作受付手段により受け

付けられた操作に応じた表示方法を示す表示サイズを記憶部に記憶させ

ることでその表示サイズによる表示方法を設定する

6
ことを特徴とする受像装置。

イ 本件発明2について

本件発明2の構成要件は,本件発明1の構成要件に次の構成要件が加

わる。

L 前記表示方法設定手段は,前記付加映像判定手段により付加映像で

あると判定された場合に,前記拡大サイズを示す表示サイズを記憶装

置に記憶させることで前記拡大サイズによる表示方法を設定して,ま

た,前記付加映像判定手段により付加映像でないと判定された場合に,

前記切替操作受付手段により操作が受け付けられたら,その操作に応

じた表示方法を示す表示サイズを記憶部に記憶させることでその表示

サイズによる表示方法を設定する

(4) 被告の行為

ア イ号製品

被告は,平成20年5月1日(販売開始)から平成22年7月(販売終

了)まで,別紙物件目録記載(1)のイ号製品(製品番号:DT30)を

製造し,販売し,販売の申出をしていた(弁論の全趣旨)。

イ ロ号製品

被告は,平成19年12月10日(販売開始)から平成24年1月(販

売終了)まで,別紙物件目録記載(2)のロ号製品(製品番号:DT30

0)を製造し,販売し,販売の申出をしていた(弁論の全趣旨)。

ウ ハ号製品

被告は,平成20年6月20日(販売開始)から平成23年5月(販売

終了)まで,別紙物件目録記載(3)のハ号製品(製品番号:DTH11

0)を製造し,販売し,販売の申出をしていた(弁論の全趣旨)。

エ ニ号製品

被告は,平成20年6月10日(販売開始)から平成22年12月(販

7
売終了)まで,別紙物件目録記載(4)のニ号製品(製品番号:DT8

0)を製造し,販売し,販売の申出をしていた(弁論の全趣旨)。

オ ホ号製品

被告は,平成21年6月5日(販売開始)から平成23年7月(販売終

了)まで,別紙物件目録記載(5)のホ号製品(製品番号:DTH10)

を製造し,販売し,販売の申出をしていた(弁論の全趣旨)。

カ ヘ号製品

被告は,平成21年10月5日(販売開始)から平成23年8月(販売

終了)まで,別紙物件目録記載(6)のヘ号製品(製品番号:DTH20

0)を製造し,販売し,販売の申出をしていた(弁論の全趣旨)。

キ ト号製品

被告は,平成22年4月15日(販売開始)から現在に至るまで,別紙

物件目録記載(7)のト号製品(製品番号:DTH11)を製造し,販売

し,販売の申出をしている。

(5) 被告製品の構成

ア イ号製品

イ号製品は,以下の構成を有する。

a イ号製品は,地上デジタル信号を受信する地上デジタルチューナーで

ある。

b イ号製品は,地上デジタル用アンテナにアンテナケーブルを介して接

続され,その地上デジタル用アンテナが受信したテレビ映像信号を入力

する。

c イ号製品は,4:3画面の標準テレビにケーブルを介して接続可能で

あり,地上デジタル用アンテナで受信したテレビ映像信号を4:3画面

の標準テレビに表示する。

d イ号製品は,地上デジタル用アンテナから「元の映像」として,「は

8
じめからアスペクト比16:9で生成された映像」の信号 ( 以下 「 真

16: 。)又は「左右に帯の入ったアスペクト比1
正 16 : 9 信号 」 という 。)

6:9の映像」の信号 ( 以下 「 帯入 16 : 9 信号 」 という 。)
帯入16 。)を入力

して,その映像信号で示されるテレビ映像を4:3画面の標準テレビに

表示することができる。

e イ号製 品は, 「 元の映像」 として , 「Aspect_ratio_information」

以下「ARI」
「ARI」という 。)が「4:3表示」であることを示すコー
( 以下 「ARI」 という 。)

ド番号「2」の信号 ( 以下 「ARI 4 : 3 信号 」 という 。)
以下「ARI
「ARI4 信号」 という。)。)の付加さ

れていない帯入16:9信号を入力した場合,4:3画面の標準テレビ

に表示する方法として,上下左右に帯を入れて表示する方法(以下

。)と,画面いっぱいに表示する方法 ( 以下
「 標準表示方法 」 という 。)

という。)
。)とが可能である(甲5,弁論の全趣旨)。
「 拡大表示方法 」 という 。)

f イ号製品は,付属のリモコンで初期設定が可能であり,16:9画面

のワイドテレビを接続した場合,「接続テレビ設定」を「ワイドテレ

ビ」に設定することが可能であり,4:3画面の標準テレビを接続した

場合,「接続テレビ設定」を「4:3レターボックス」又は「4:3パ

ンスキャン」に設定することが可能である。

g イ号製品は,付属のリモコンを操作することにより「接続テレビ設

定」を切り替えることが可能であり,4:3画面の標準テレビを接続し

た場合,「接続テレビ設定」を「4:3レターボックス」及び「4:3

パンスキャン」の一方から他方へ設定を切り替えることができる。

h イ号製品は,「接続テレビ設定」を「4:3レターボックス」とした

状態で,ARI4:3信号が付加された帯入16:9信号を入力すると,

拡大表示方法により表示する(甲5,弁論の全趣旨)。

i イ号製品は,「接続テレビ設定」を「4:3レターボックス」とした

状態で,入力信号がARI4:3信号の付加されていない帯入16:9

9
信号からARI4:3信号の付加された帯入16:9信号に変化すると,

入力する映像信号の変化に応じて,それまで標準表示方法により表示し

ていた画面を拡大表示方法により表示する(甲5,弁論の全趣旨)。

j イ号製品は,「接続テレビ設定」を「4:3レターボックス」とした

状態で,ARI4:3信号の付加されていない帯入16:9信号を入力

すると標準表示方法により表示する(甲5,弁論の全趣旨)。

k イ号製品は,「接続テレビ設定」を「4:3レターボックス」とした

状態で,ARI4:3信号の付加されていない帯入16:9信号を入力

すると標準表示方法により表示し,さらに,リモコン操作により「接続

テレビ設定」を「4:3パンスキャン」に切り替えると拡大表示方法に

より表示する(甲5,弁論の全趣旨)。

l イ号製品の「接続テレビ設定」を「4:3レターボックス」又は

「4:3パンスキャン」に設定した場合,チャンネルを変更した後,元

のチャンネルに戻しても当該「4:3レターボックス」又は「4:3パ

ンスキャン」の設定は維持される。

また,イ号製品の「接続テレビ設定」を「4:3レターボックス」又

は「4:3パンスキャン」に設定した場合,イ号製品の電源を一旦切っ

た後,再度電源を入れても,当該「4:3レターボックス」又は「4:

3パンスキャン」の設定は維持される。

イ ロ号製品ないしト号製品

ロ号製品ないしト号製品は,イ号製品の構成a〜lをいずれも備える

(甲7ないし12,弁論の全趣旨)。

(6) イ号製品と本件発明1との対比

甲5及び弁論の全趣旨によれば,以下の点は容易に認められ,被告も強く

争っていない。

構成要件Aについて

10
イ号製品の構成cにいう「標準テレビ」が構成要件Aの「表示装置」に

該当し,イ号製品の構成aにいう「地上デジタルチューナー」が構成要件

Aの「受像装置」に該当する。

したがって,イ号製品は,構成要件Aを充足する。

構成要件Bについて

イ号製品の構成dにいう16:9画面の映像信号(「真正16:9信

号」及び「帯入16:9信号」)が構成要件Bの「アスペクト比16:9

の映像を示す映像信号」に該当し,これらの映像信号は外部から入力され

る。イ号製品の構成cにいう「標準テレビ」が構成要件Bの「表示装置」

に該当する。

イ号製品の装置構成は,大きく分けて,制御部(CPU),記憶装置

(各種レジスタやメモリなどを広く含む),入出力回路,チューナー部な

どから構成されるところ,イ号製品の制御部(CPU)は,外部から入力

される16:9映像(「アスペクト比16:9の映像を示す映像信号」)

に基づき,該映像信号で示される映像をテレビ(「表示装置」)に表示さ

せる制御を実行するから,かかる処理を実行するイ号製品の制御部(CP

U)は,構成要件Bの「表示制御手段」に相当する。

したがって,イ号製品は,構成要件Bを充足する。

構成要件Cについて

イ号製品の構成eにいう「拡大表示方法」及び「標準表示方法」が,構

成要件Cの「拡大サイズによる表示方法」及び「標準サイズによる表示方

法」にそれぞれ該当する。

イ号製品の制御部(CPU)は,映像の表示方法として,上下又は上下

左右に帯が入った表示方法(「標準サイズによる表示方法」)及び画面

いっぱいの表示方法(「該標準サイズの映像におけるX軸,Y軸それぞれ

を4/3倍に拡大した拡大サイズによる表示方法」),のいずれか一方を

11
示す表示サイズを記憶装置に記憶させることにより,映像の表示方法を設

定する処理を実行するから,かかる処理を実行するイ号製品の制御部(C

PU)は,構成要件Cの「表示方法設定手段」に相当する。

したがって,イ号製品は,構成要件Cを充足する。

構成要件Dについて

イ号製品の構成gにいう「「接続テレビ設定」を「4:3レターボック

ス」及び「4:3パンスキャン」の一方から他方へ設定を切り替えること

ができる」構成が,構成要件Dの「表示制御手段による映像の表示方法を

……切り替えるための操作を受け付ける」構成に該当する。

イ号製品の制御部(CPU)は,上下又は上下左右に帯が入った表示方

法(「標準サイズによる表示方法」)又は画面いっぱいの表示方法(「拡

大サイズによる表示方法」)についてそれぞれ「4:3レターボックス」

又は「4:3パンスキャン」への切替操作を受け付けており,「前記標準

サイズによる表示方法または前記拡大サイズによる表示方法へ切り替える

ための操作を受け付ける」処理を実行するから,かかる処理を実行する制

御部(CPU)は,構成要件Dの「切替操作受付手段」に相当する。

したがって,イ号製品は,構成要件Dを充足する。

構成要件Eについて

イ号製品が構成要件Eにいう「識別信号」に基づいて判定する「付加映

像判定手段」を有するかは争いがあり,イ号製品が構成要件Eを充足する

かは争いがある。

構成要件Fについて

イ号製品の構成fにいう,16:9画面のワイドテレビの設定及び4:

3画面の標準テレビの設定が,構成要件Fの「表示装置の有する表示エリ

アのアスペクト比を記憶する」構成に該当する。

イ号製品の記憶装置は,イ号製品に接続されるテレビ(「表示装置」)

12
の有する表示エリアのアスペクト比を記憶するから,かかるデータを記憶

する記憶装置は,構成要件Fの「表示エリア記憶手段」に相当する。

したがって,イ号製品は,構成要件Fを充足する。

構成要件Gについて

イ号製品の構成hにいう「4:3レターボックス」の設定,「拡大表示

方法」が,構成要件Gの「4:3のアスペクト比が記憶」,「拡大サイズ

による表示方法」にそれぞれ該当する。

イ号製品の構成lにいう「4:3レターボックス」又は「4:3パンス

キャン」の設定が維持される構成が,構成要件Gの「設定状態を継続」す

る構成に該当する。

しかし,イ号製品が構成要件Eの「付加映像判定手段」を有するかは争

いがあるから,イ号製品が「前記付加映像判定手段により付加映像である

と判定された場合に……拡大サイズによる表示方法を設定」するかは争い

がある。

したがって,イ号製品が構成要件Gを充足するかは争いがある。

構成要件Hについて

イ号製品の構成eにいう「拡大表示方法」及び「標準表示方法」が,構

成要件Hの「表示サイズで示される表示方法」に該当し,イ号製品のCP

Uは構成要件Bの「表示制御手段」,構成要件Cの「表示方法設定手段」

にそれぞれ該当するから,イ号製品は,表示方法設定手段により記憶装置

に記憶された表示サイズで示される表示方法により,映像信号で示される

映像を表示装置に表示する構成を有している。

したがって,イ号製品は,構成要件Hを充足する。

構成要件Iについて

イ号製品が構成要件Eの「付加映像判定手段」を有するかは争いがある

から,イ号製品が構成要件Iを充足するかも争いがある。

13
構成要件Jについて

イ号製品が構成要件Eの「付加映像判定手段」を有するかは争いがある

し,「付加映像判定手段による判定が行われた後に,前記表示制御手段に

よる映像の表示方法を切り替えるための操作を受け付け」るかも争いがあ

るから,イ号製品が構成要件Jを充足するかは争いがある。

構成要件Kについて

映像の表示方法を設定するイ号製品の制御部(CPU)は,構成要件

の「表示方法設定手段」に相当する。

上記カのとおり,イ号製品は,表示エリア記憶手段で4:3のアスペク

ト比を記憶する。

イ号製品の構成gにいう「「接続テレビ設定」を「4:3レターボック

ス」及び「4:3パンスキャン」の一方から他方へ設定を切り替えること

ができる」構成が,構成要件Kの「操作」に該当する。

イ号製品の構成eにいう「拡大表示方法」及び「標準表示方法」が,構

成要件Kの「受け付けられた操作に応じた表示方法」に該当する。

イ号製品は,切替操作受付手段により受け付けられた操作に応じた表示

サイズを記憶部に記憶させることでその表示サイズによる表示方法を設定

する。

したがって,イ号製品は,構成要件Kを充足する。

(7) イ号製品と本件発明2との対比

イ号製品が構成要件Eの「付加映像判定手段」を有するかは争いがあるか

ら,イ号製品が構成要件Lを充足するかも争いがある。

(8) ロ号製品ないしト号製品と本件発明との対比

ロ号製品ないしト号製品についても,構成要件AないしD,F,H,Kの

充足性については争いがなく,構成要件E,G,I,J,Lの充足性につい

ては争いがある。

14
3 主な争点

(1) 構成要件E充足性(争点1)

(2) 構成要件J充足性(争点2)

(3) 損害(争点3)

第3 争点に対する当事者の主張

1 争点1(構成要件E充足性)について

(原告の主張)

(1) 本件発明における「識別信号」の意義

本件発明における「識別信号」とは,構成要件Eに定義されるとおり「ア

スペクト比4:3の映像における左右に画像の存在しない領域である無画部

を付加することでアスペクト比16:9の映像にアスペクト変換された付加

映像,であることを識別するための」信号である。「識別信号」は「付加映

像,であることを識別するための」信号であり,厳密な意味で付加映像でな

いことまでも排除しなければならないものではない。

(2) ARI4:3信号が「識別信号」に当たること

本件発明の「識別信号」としてどの信号を選択するかについては,複数の

可能性が考えられるところではあるが,例えば,ARIは,元の映像のアス

ペクト比を示しているため,これが「4:3」であることは,元の映像が

4:3映像であることを示している。そのため,例えば,このARI4:3

信号を本件発明の「識別信号」として使用することが可能である。

(3) 被告指摘信号が例外的なものであること

被告は,真の16:9映像であってもARIが「4:3」に設定されてい

る場合( 以下 「 被 告指摘信号 」 という 。)
( 以下「 という。)
。)が「放送大学の番組」や「NH

K教育の一部の番組」にあると主張するが,原告代理人が弁護士会を通じて

被告指摘信号についての照会を行った結果,放送大学学園からは「なお,本

来の映像が16:9で制作した番組は,「Aspect_ratio_information」 を

15
「2」として放送していません。」とする回答が得られた(甲42の1)。

原告が,平成24年9月5日〜9月13日,名古屋地区の5つの放送局

(NHK教育テレビ,NHK総合テレビ,東海テレビ,中京テレビ,CBC

テレビ)について調査した結果,被告指摘信号は,116時間41分中,2

分25秒(NHK教育のアニメ「忍たま乱太郎」のオープニング及びエン

ディング)だけであり(甲45),平成24年10月3日及び同月11日の

時点では,「忍たま乱太郎」のオープニング及びエンディングのARIの値

は16:9であり,被告指摘信号は確認されていない状態となった(甲4

6)。

日本放送協会(NHK)の回答書(甲48)によれば,「番組長10分間

のうち,本編物語部分7分30秒間についてアスペクト比4:3で制作した

ものを,アップコンバートして16:9としたものであることから,4:3

モニターをお持ちの方が本編部分を望ましい表示でごらんいただけるよう,

「Aspect_ratio_information」を「2」として放送しました。」,ア ニ メ

「忍たま乱太郎」は10分間を全体としてみて「当該番組の元の映像のアス

ペクト比は4:3という認識です。」と述べており,被告が指摘するような

元の映像のアスペクト比が16:9である部分(2分25秒)については無

視できる程度のものであることを示唆している。

以上の調査結果から,被告指摘信号の存在が予定されていない例外的な映

像信号であることは明らかというべきである。

被告が指摘するのは,ARIBの標準規格に従っておらず通常では存在し

ないことが想定されている映像信号であり,このような例外的な映像信号が

存在することをもって,本件発明にいう「識別信号」に相当しないと解釈す

るのは,あまりにも硬直的であり,本件出願当時の技術常識から外れている。

ARIB標準規格において,本来の 16:9映像は「@ 16:9 の 番 組

1」に含まれるべきものであり,「A16:9の番組2」は,「4:3番組

16
にサイドパネルを付加した贋16:9番組の場合」を予定していると解釈す

べきものである。

したがって,ARI4:3信号は本件発明にいう「識別信号」に相当する。

(4) 当業者の常識

本件発明の付加映像判定手段では,付加映像を識別するための識別信号が

問題になっており,かかる識別信号は,出願当時の当業者の常識に照らせば,

ARIB標準規格にいうARI4:3信号であることが明らかである。

(5) イ号製品と本件発明1との対比

ア イ号製品の構成要件E充足性

イ号製品の構成hにいう「ARI4:3信号」が「識別信号」に,「帯

入16:9信号」が「付加映像」に該当する。

イ号製品の構成hにより,イ号製品はARI4:3信号が付加された帯

入16:9信号を入力すると拡大表示方法により表示する処理を行ってお

り,ARI4:3信号が付加された帯入16:9信号であることを判定し

ている。かかる判定処理が構成要件Eの「前記付加映像であることを判

定」する処理に該当する。

さらにイ号製品の構成iにより,イ号製品は,入力する映像信号の変化

に応じて,それまで標準表示方法により表示していた画面を拡大表示方法

により表示する処理を行っており,入力される信号が帯入16:9信号で

あることの判定を繰り返し行っている。かかる繰り返し実行される判定の

処理が,構成要件Eの「繰り返し実行」処理に該当する。

イ号製品の制御部(CPU)は,ARI4:3信号が付加されている場

合に,該映像信号で示される映像が帯入16:9信号であると判定する,

といった処理を映像信号が入力されている間繰り返し実行しており,かか

る処理を実行する制御部(CPU)は,本件発明の「付加映像判定手段」

に相当する。

17
したがって,イ号製品は,構成要件Eを充足する。

イ イ号製品の構成要件G充足性

イ号製品の構成hにいう「4:3レターボックス」の設定,「ARI

4:3信号が付加された帯入16:9信号を入力」した場合,「拡大表示

方法」が,構成要件Gの「4:3のアスペクト比が記憶」,「付加映像判

定手段により付加映像であると判定された場合」,「拡大サイズによる表

示方法」にそれぞれ該当する。

またイ号製品の構成lにいう「4:3レターボックス」又は「4:3パ

ンスキャン」の設定が維持される構成が,構成要件Gの「設定状態を維

持」する構成に該当する。

かかる処理を実行するイ号製品の制御部(CPU)は,「表示方法設定

手段」に相当する。

したがって,イ号製品は,構成要件Gを充足する。

ウ イ号製品の構成要件I充足性

イ号製品の構成jにいう「ARI4:3信号の付加されていない帯入1

6:9信号を入力」した場合の処理が,構成要件Iの「付加映像でないと

判定された場合,表示方法の設定変更を行わない」処理に該当する。

イ号製品の構成iにいう,「入力信号がARI4:3信号の付加されて

いない帯入16:9信号からARI4:3信号の付加された帯入16:9

信号に変化」した場合の処理が,構成要件Iの「表示方法を前記拡大サイ

ズに設定変更」する処理に該当する。

したがって,イ号製品は,構成要件Iを充足する。

(6) イ号製品と本件発明2との対比

イ号製品の構成hにいう「ARI4:3信号が付加された帯入16:9信

号を入力すると,拡大表示方法により表示する」ための処理が,構成要件

の「拡大サイズによる表示方法の設定」に該当する。

18
イ号製品の構成gにいう「「接続テレビ設定」を「4:3レターボック

ス」及び「4:3パンスキャン」の一方から他方へ設定を切り替えることが

できる」構成が,構成要件Lの「操作」に該当する。

イ号製品の構成kにいう「リモコン操作により「接続テレビ設定」を

「4:3パンスキャン」に切り替えると拡大表示方法により表示する」構成

が,構成要件Lの「その表示サイズによる表示方法を設定する」構成に該当

する。

したがって,イ号製品は,構成要件Lを充足する。

(7) ロ号製品ないしト号製品においても同様である。

(被告の主張)

(1) 本件発明における「識別信号」の意義

「識別」とは,「(1)みわけること,(2)人または動物が,質的また

は量的に異なる二つの刺激を区別しうること。弁別。」とされる(広辞苑第

5版)。つまり,「付加映像,であることを識別する」のなら,それによっ

て,「アスペクト比4:3の映像における左右に画像の存在しない領域であ

る無画部を付加することでアスペクト比16:9の映像にアスペクト変換さ

れた」映像なのか,そうでないのかが区別できなくてはならない。

これに対して,原告の主張する「識別信号」では,付加映像と判断された

映像の中に,本当に付加映像であるものと,実際には付加映像ではないもの

の両方が混在する可能性があるというのである。このような曖昧な結論が生

じるのに,原告の主張する信号が「付加映像,であることを識別する」信号

であるというのは,明らかにその文言に反する解釈である。なお,本件明細

書の「特許請求の範囲」,「発明の詳細な説明」,「図面の簡単な説明」及

び「図面」のいずれにも,「識別する」の文言につき辞書的意味と異なる解

釈をすべきことを述べた記載は存在しない。

原告の主張する信号が「識別信号」であるならば,たとえ現実には全ての

19
放送信号に識別信号が含まれているわけではない,という場合であっても,

そのうち識別信号が含まれた放送信号については付加映像であるか否かの区

別ないし識別ができなければならず,それができないのであれば,それは

「識別信号」と呼べるものではない。

(2) ARI4:3信号が「識別信号」に当たらないこと

以下のとおり,ARI4:3信号の有無によって,「アスペクト比4:3

の映像における左右に画像の存在しない領域である無画部を付加することで

アスペクト比16:9の映像にアスペクト変換された付加映像」であるか否

か識別することは不可能であるから,ARI4:3信号は本件発明の「識別

信号」に当たらない。

まず前提として,ARIの値を「16:9」を示すものにするか,あるい

は「4:3」を示すものにするかは,放送信号を送出する側(放送局など)

によって,自由に設定することが可能なものである。

このために,付加映像について,本来であればARIを「4:3」を示す

ようにするのが望ましいのに「16:9」を示すように設定される,という

状況が生じうるのである。

しかし,このことは同時に,以下のような状況も生じることを意味する。

すなわち,元の映像がアスペクト比16:9の映像であって,映像の両端に

も実画像が存在する(付加映像ではない)にもかかわらず,ARIを「4:

3」を示すように設定されて映像が放送される場合である。

このような場合,原告の主張によれば「識別信号あり」と判断されること

になるが,該映像信号は付加映像ではない。すなわち,ARI4:3信号を

もって,付加映像であるか否かを識別することはできないのである。

ARIB標準規格(甲49,乙9)においても,ARI4:3信号が付加

される「16:9の番組2」は「Dの値がBの値の3/4に設定されている

場合(4:3番組にサイドパネルを付加した贋16:9番組の場合を含

20
む)」,「グレー部分は実映像がある場合と黒パネルの場合があることを示

している」と説明されており,両端まで実映像がある16:9映像でありな

がらARIが4:3を示す場合が十分に想定されている。

原告は,「16:9の番組2」は「4:3番組にサイドパネルを付加した

贋16:9番組」を予定していると解釈すべきなどと主張するが,そのよう

な独自の解釈をすることに何ら正当な理由はない。アスペクト比16:9の

映像であっても,アスペクト比4:3の受像機で視聴する場合には中央部分

が映されるようにアスペクト比4:3映像であるかのような設定で放送する,

ということは一般的に考えられるところであり,ARIB規格の「A16:

9の番組2」もこれを想定したものである。その後アスペクト比16:9の

受像機が一般的になるにつれ,このような配慮が不要となりつつあるに過ぎ

ない。

(3) 実例

上記のように,元の映像がアスペクト比16:9の映像であって,映像の

両端にも実画像が存在する(付加映像ではない)にもかかわらず,ARIを

「4:3」として設定されて映像が放送される例としては,以下のようなも

のが存在する。

・放送大学の番組

・NHK教育の一部の番組

これらの放送番組においては,元の映像はアスペクト比16:9の映像で

あって,映像の両端にも実画像が存在するので,ワイドテレビで視聴した場

合には,画面いっぱいに実画像が表示されるが,4:3のアスペクト比の受

像装置で視聴した場合は,ARIを「4:3」として設定されているために,

中央部分のみが切り出されて表示される。

(4) 当業者の常識

ARIB標準規格を用いることは常識であっても,ARIB標準規格に含

21
まれる各種の信号の中でとりわけARI4:3信号を「識別信号」として使

用するという規定はどこにもない。

かえって,ARIB「映像アスペクト識別信号」(乙17)をみれば,本

件出願当時,当業者には「識別信号」が全く違う意味で理解されていたこと

が明白である。

原告の主張するような,ARI4:3信号をもって「識別信号」と考える

といったような技術常識は,本件出願当時,存在しなかったのである。

(5) 被告製品の構成要件E充足性

被告製品は,ARIが「4:3」であるか否かを映像出力の際に参照して

いるが,ARI4:3信号は「識別信号」に当たらないから,被告製品は,

「アスペクト比4:3の映像における左右に画像の存在しない領域である無

画部を付加することでアスペクト比16:9の映像にアスペクト変換された

付加映像,であることを識別するための識別信号が,外部から入力される映

像信号に付加されている場合に,該映像信号で示される映像が前記付加映像

であると判定する,といった処理を映像信号が入力されている間繰り返し実

行する付加映像判定手段」という構成要件Eを充足するものではない。

2 争点2(構成要件J充足性)について

(原告の主張)

(1) 構成要件Jの解釈について

被告は,構成要件Jの切替操作受付手段につき,付加映像であるか否か判

定した後に切替操作を受け付けるというプロセスが存在しなければならない

とし,被告製品はARIが4:3と判定された後は切替操作を受け付けない

ことから構成要件Jを充足しないと主張する。

しかし,構成要件Jは,識別信号ありの付加映像について,いわゆる自動

拡大した後も切替操作を受け付けることを規定しているが,切替操作により

標準サイズに切り替えることまでは規定しているものではない。

22
本件発明は,識別信号のある付加映像については識別信号を判定して,拡

大サイズに表示方法を設定するが,識別信号のない付加映像については識別

信号による判定ができないため,ユーザによる切替操作を受け付けて表示方

法を拡大サイズに設定するというものである。

そしてこれらの処理は,「映像信号が入力されている間繰り返し実行」

構成要件E)される。

そのため仮に被告の指摘を前提として,識別信号ありの付加映像を拡大サ

イズに設定した後,切替操作により標準サイズに戻しても,さらに次の瞬間,

識別信号であることを判定して拡大サイズに設定されることになる。

したがって,識別信号ありの付加映像の場合,表示方法を拡大サイズに設

定した後は切替操作を受け付けたとしても,標準サイズに設定するなどとい

うことまで構成要件Jは規定していない。

無画部で囲まれた画面(額縁画面)が表示されることを解消するという本

件発明の目的(本件明細書の【0006】)や課題(【0019】)からも,

付加映像につき拡大サイズで表示された画面をさらに標準サイズに戻すなど

ということは予定されていない。

また,識別信号(ARI4:3信号)ありの付加映像を入力した場合に拡

大サイズで表示する処理はARIB標準規格(甲49,乙9)により望まし

いとされているため,自動拡大された画面をさらに標準サイズに切り換える

処理を行うことは,ARIBの主旨にも反するものであり,そのような処理

を当業者が予定して特許請求の範囲を規定するなどということは考えられな

い。

(2) 審決を踏まえた解釈

ア 本件発明1における,識別信号が付加された映像信号を入力した場合の

動作については,被告が請求人となった無効審判請求事件(無効2011

−800083)の審決において以下のとおり判断されている(甲43・

23
24,25頁。なお審決がいう構成要件1I,1E……は本件発明1の構

成要件I,E,…にそれぞれ対応する。)。原告は,かかる審決の解釈に

従う。

「[ケース1]−識別信号が付加されている間

入力される映像信号に「アスペクト比4:3の映像における左右に画像

の存在しない領域である無画部を付加することでアスペクト比16:9の

映像にアスペクト変換された付加映像,であることを識別するための識別

信号」が付加されている間は,

1Eの「付加映像判定手段」での判定が繰り返し実行されて,付加映像

であると判定され,1Iの「前記付加映像判定手段により付加映像である

と判定された場合,前記拡大サイズを示す表示サイズを記憶装置に記憶さ

せ」,

1G前段「前記表示方法設定手段は,前記表示エリア記憶手段により

4:3のアスペクト比が記憶され,かつ,前記付加映像判定手段により付

加映像であると判定された場合に,前記拡大サイズを示す表示サイズを記

憶装置に記憶させることで前記拡大サイズによる表示方法を設定し」,

1I「前記表示方法設定手段は,前記付加映像判定手段により付加映像

でないと判定された場合,

表示方法の設定変更を行わない一方,前記付加映像判定手段により付加

映像であると判定された場合,前記拡大サイズを示す表示サイズを記憶装

置に記憶させることで表示方法を前記拡大サイズに設定変更して」

このとき,

1Dで特定される「前記表示制御手段による映像の表示方法を前記標準

サイズによる表示方法または前記拡大サイズによる表示方法へ切り替える

ための操作を受け付ける切替操作受付手段」は,

1Jで「前記切替操作受付手段は,前記付加映像判定手段による判定が

24
行われた後に,前記表示制御手段による映像の表示方法を切り替えるため

の操作を受け付けて」,

1G後段「前記切替操作受付手段により受け付けられた操作に応じた表

示方法を示す表示サイズを記憶部に記憶させることでその表示サイズによ

る表示方法を設定して」で,「標準サイズ」を設定したとしても,

「映像信号が入力されている間繰り返し実行」される次の「付加映像判

定手段」における判定で,再び「付加映像であると判定」され(1E),

「前記拡大サイズを示す表示サイズを記憶装置に記憶させることで前記拡

大サイズによる表示方法を設定して」(1G前段)となる。

すなわち,識別信号が付加されている間は,「切替操作受付手段」によ

る操作に関わらず,判定手段による拡大設定がなされる(強制的に自動拡

大される)。」

イ 原告の解釈

この点につき,これまで原告は,上記[ケース1]の場合,@切替操作

自体は受け付けるがその操作に関わらず最終的に拡大設定がなされると説

明しており,これを,Aそもそも切替操作自体を受けることなく拡大設定

がなされると説明したとしても,本件特許発明の動作に何らかの本質的な

違いが生ずるわけではない。

これは操作を「受け付ける」という解釈が,単に物理的な操作を受け付

けるのか,電気的信号として受け付ける他,又は標準サイズに切り替える

処理をも受け付けるのか,多義的であることにも関連する。

すなわちここで議論すべきことは,切替操作を「受け付ける」か否かで

はなく,審決の結論が示すとおり,「識別信号が付加されている間は,

「切替操作受付手段」による操作に関わらず,判定手段による拡大設定が

なされる(強制的に自動拡大される)。」という点にある。

したがって,原告は,切替操作受付手段について,審決がいうとおり,

25
「識別信号が付加されている間は,「切替操作受付手段」による操作に関

わらず,判定手段による拡大設定がなされる(強制的に自動拡大され

る)」と解釈すべきものと考える。

(3) 被告製品の構成要件J充足性

ア イ号製品の構成gにいう「「接続テレビ設定」を「4:3レターボック

ス」及び「4:3パンスキャン」の一方から他方へ設定を切り替えること

ができる」構成が,構成要件Jの「映像の表示方法を切り替えるための操

作を受け付け」る処理に該当する。

イ号製品の構成kにより,識別信号(ARI4:3信号)の判定後でも

リモコンによる切替操作を受け付ける。

したがって,イ号製品は,構成要件Jを充足する。

イ ロ号製品ないしト号製品においても同様である。

ウ 審決を踏まえた解釈に基づく対比

被告製品(イ号製品乃至ト号製品)は,ARI4:3信号の付加された

付加映像を入力している場合,拡大サイズにより表示がなされ(自動拡

大),標準サイズに切り替えようとしても,標準サイズの表示に切り替わ

ることはない(この事実自体に争いはないと思われる。)。

したがって,16:9信号についてARIが「4:3」であることが

「識別信号」であるとの前提に立てば,「識別信号が付加されている間は,

「切替操作受付手段」による操作に関わらず,判定手段による拡大設定が

なされる(強制的に自動拡大される)」。

したがって,被告製品は切替操作受付手段に関連する構成要件(構成要

件J,Kなど)を充足する。

(被告の主張)

(1) 構成要件I,Jでは,「付加映像判定手段」により「付加映像」である

か否かを判断し,付加映像でなければ表示方法の設定変更を行わず,付加映

26
像であれば「表示方法を前記拡大サイズに設定変更」し,そして,その後,

いずれの場合においても,付加映像か否かにかかわらず,「切替操作受付手

段」において,「映像の表示方法を切り替えるための操作」を受け付けると

いうプロセスをその構成要件としている。

(2) 被告製品における処理

被告製品では,元映像がアスペクト比16:9であってARIが4:3を

示す場合は,(無画部が付加されているか否かにかかわらず)アスペクト比

4:3の映像信号と判定し,アスペクト比4:3の画面に相当する部分を拡

大表示する。

このように,アスペクト比4:3の映像信号であると判定され拡大表示さ

れることとなった場合,被告製品においては,それ以上に画面の切替操作

(例えば,パンスキャンのように画面中央部を拡大するといった操作)を

ユーザが行うことはできない。アスペクト比4:3の映像信号をアスペクト

比4:3の画面に表示すると判断された場合であるのだから,それ以上の拡

大等の必要はないからである。

すなわち,上記の場合,被告製品に,本件発明で要求されている,「付加

映像判定手段による判定が行われた後に」,付加映像の有無に拘らず,「表

示方法を切り替えるための操作を受け付け」るというプロセスは存在しない

のである。

したがって,被告製品は構成要件Jを充足しない。

(3) 原告の主位的解釈について

ア 原告は,切替操作を受け付けたとしても,識別信号による映像判定は繰

り返し行われるので,ユーザが切り替えても再度判定が行われ,結局また

拡大表示がされるから,最終的には拡大になる,と主張する。

しかし,第一に,たとえ原告の主張を前提としたとしても,「原告の特

許においては最終的に拡大になる」という点と,「被告製品ではユーザに

27
よる切替操作を受け付けるプロセスがない」という点は,事実としては全

く異なったものである。原告は,本件発明ではユーザの切替操作は受け付

けるが,その結果は結局拡大というものに落ち着くという趣旨の主張であ

ろうが,被告製品ではそもそもユーザの切替操作を受け付けないのである。

イ 第二に,原告のこの主張は,本件明細書の【0032】【0072】

【0076】の記載や,拒絶査定不服審判において原告自身が提出した平

成20年11月14日付け上申書(乙16)の記載に反するものである。

上記上申書において,原告は,「リモコン装置3や入力装置14が任意

のタイミングで物理的な操作を受け付けた以降,その操作を有効な命令と

して受け付ける処理(以降「操作を受け付ける」という)を,付加映像で

あるか否かの判定の後に行います。」,「このS426において操作を受

け付ける処理は,図8の記載からも明らかなように,S410による判定

結果に拘わらず行われます。」と述べ,操作を受け付けるというのは操作

を有効な命令として受け付ける処理,すなわち単にユーザから指示があっ

たことを認識するというだけでなく,それに従った有効な処理を行う意味

であることを明らかにしている。また,原告は,この「操作を受け付け

る」処理は,本件明細書の図8におけるS410での判定,すなわち付加

映像であるか否かの判定(すなわち,拡大表示するか,標準表示をする

か)にかかわらず行われると明言している。このS410による判定結果

にかかわらず操作を受け付ける処理は行われるというのが上申書における

原告の主張なのであるから,識別信号が付加されていた場合にも操作を受

け付ける(ユーザが標準サイズを希望すれば標準サイズに切り替える)こ

とが予定されていることは明らかである。

(4) 原告の「審決を踏まえた解釈」について

審決(甲43)で認定されたのは,構成要件Jで「前記切替操作受付手段

は,前記付加映像判定手段による判定が行われた後に,前記表示制御手段に

28
よる映像の表示方法を切り替えるための操作を受け付け」た上で,しかしそ

の後の「付加映像判定手段」により結局拡大表示がなされる,というもので

ある。すなわち,映像の表示方法を切り替えるための操作を受け付けるとい

うプロセスは,当然に本件発明1に必須の要素として認定されているもので

ある。

原告は,この審決のとおり解釈するといいつつ,「原告の解釈」として,

本件発明においては「切替操作自体を受けることがない」かのような審決と

異なる解釈を行う原告の議論は全く首尾一貫しないものである。

いずれにしても,本件発明においては「付加映像判定手段による判定が行

われた後に,前記表示制御手段による映像の表示方法を切り替えるための操

作を受け付け」ると明確に記載されている以上,「そもそも切替操作自体を

受けることなく拡大設定がなされる」といった主張が成立する余地がないこ

とは明らかである。

3 争点3(損害)について

(原告の主張)

(1) イ号製品,ハ号製品,ニ号製品,ホ号製品及びト号製品

被告は,遅くとも平成21年3月6日より現在に至るまで,イ号製品,ハ

号製品,ニ号製品,ホ号製品及びト号製品を,平均単価6982円で少なく

とも19万3200台,製造・販売しており,売上総額は13億4900万

円を下らない。このうち被告が得た利益は23.6%を下らないから,特許

102条2項により原告が請求できる金額は,3億1870万円を下らな

い。

(2) ロ号製品及びヘ号製品

被告は,遅くとも平成21年3月6日より現在に至るまで,ロ号製品及び

ヘ号製品を,平均単価1万4318円で少なくとも11万6500台,製

造・販売しており,売上総額は16億6800万円を下らない。このうち被

29
告が得た利益は25.1%を下らないから,特許法102条2項により原告

が請求できる金額は,4億1940万円を下らない。

(3) 弁護士・弁理士費用

原告は事案の性質・内容から弁護士・弁理士である代理人らに本件訴訟を

委任せざるを得ず,弁護士・弁理士費用の支払を約した。その結果,少なく

とも3000万円の弁護士・弁理士費用相当額の損害を受けた。

(4) よって,原告は,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償請求権に基づ

き,7億6810万円の一部として1億円及びこれに対する訴状送達の日の

翌日である平成23年2月22日から支払済みまで民法所定の年5分の割合

による遅延損害金の支払いを求める。

(被告の主張)

否認ないし争う。

第4 当裁判所の判断

1 争点1(構成要件E充足性)について

(1) 「識別信号」の意義について

原告は,ARI4:3信号が構成要件Eにいう「識別信号」に当たること

を前提に被告製品は構成要件Eを充足すると主張するのに対して,被告は,

ARI4:3信号は「識別信号」に当たらないと主張する。

そこで,まず,本件発明における「識別信号」の意義について検討する。

ア 本件発明1の【特許請求の範囲】の記載によれば,構成要件Eにいう

「識別信号」とは,「アスペクト比4:3の映像における左右に画像の存

在しない領域である無画部を付加することでアスペクト比16:9の映像

にアスペクト変換された付加映像,であることを識別するための」信号で

あり,それ以外に「識別信号」を定義した箇所はない。

この【特許請求の範囲】における定義からいっても,「識別信号」とは,

付加映像と,付加映像でない真の16:9映像とを含むアスペクト比1

30
6:9の映像の中から「付加映像であること」を「識別」できるものでな

ければならないと解される。

イ 次に,本件明細書を見ると,以下の記載がある(段落【0043】以下

は,実施例に関する記載である。)。

「映像信号は,はじめからアスペクト比16:9で生成された映像を示す

ものだけでなく,無画部を付加することでアスペクト比を16:9とした

付加映像を示すものとしても放送されている。このような映像信号を放送

する放送局では,付加映像を示す映像信号を,そのようなアスペクト変換

をした映像を示すものであることを識別するための識別信号が含まれた信

号として放送することが一般的である。」(【0016】。下線部は強調

のため裁判所で付した。以下同じ。)

「なお,アスペクト比16:9にアスペクト変換された映像を示す映像信

号は,本来付加映像を示すものであるにも拘わらず,何らかの事情により

識別信号が含まれないまま放送されていることも多い。このような場合,

識別信号の有無で付加映像であるか否かを判定する構成では,付加映像で

あるにも拘わらず,はじめからアスペクト比16:9で生成された映像で

あると判定してしまい,無画部で囲まれた映像を表示装置に表示させてし

まう恐れがある。」(【0019】)

「第4の発明によれば,映像信号に識別信号が含まれているか否かによっ

て,その映像信号で示される映像が付加映像であるか否かを判定すること

ができる。」(【0036】)

「また,上述したS402で,アスペクト比が16:9であると判定され

た場合(S402:NO),外部から入力した映像信号で示される映像が,

画像の存在しない領域(以降,「無画部」という)をアスペクト比4:3

の映像に付加してなる付加映像であるか否かがチェックされる(S41

0)。通常,無画部を付加することでアスペクト比を16:9とした付加

31
映像を示す映像信号は,そのようにアスペクト変換をした映像を示すもの

であることを識別するための識別信号が含まれた状態で放送される。その

ため,このS410では,外部から入力した映像信号に,識別信号が含ま

れているか否かにより,その映像信号で示される映像が付加映像であるか

否かがチェックされる。」(【0091】)

「また,表示データ読み出し処理においては,外部から入力した映像信号

に識別信号が含まれているか否かによって(図8のS410),その映像

信号で示される映像が付加映像であるか否かを判定することができる。」

(【0101】)

「アスペクト比4:3から16:9にアスペクト変換された映像を示す映

像信号は,付加映像を示すものであり,通常は上述した識別信号が含まれ

た状態で放送される。しかし,現状では,付加映像を示すものであるにも

拘わらず,その映像信号が識別信号を含まない状態で放送されていること

がある。このような場合,識別信号の有無だけで付加映像であるか否かを

判定する第2実施形態の構成では,付加映像であるにも拘わらず,はじめ

からアスペクト比16:9で生成された映像であると判定してしまい,無

画部で囲まれた映像を表示装置2に表示させてしまう恐れがある。」

(【0108】)

ウ 以上の本件明細書によれば,「識別信号」は,本来,付加映像には付加

され,他方,付加映像でない真の16:9映像には付加されないで放送さ

れることが想定されているものと認められる(本件明細書の段落【001

6】【0091】)。

そして,本件明細書には,例外的に,付加映像であるにもかかわらず,

識別信号が付加されないで放送されることがあることが開示されている

(【0019】【0108】)。

しかし,付加映像でない真の16:9映像に識別信号が付加されて放送

32
されることについては,本件明細書には開示も示唆もない。

エ 真の16:9映像に識別信号が付加されて放送される場合,本件発明に

よれば「付加映像であると判定」され,自動拡大されて左右のサイドパネ

ル部分の映像が表示されなくなってしまう。このような結果は,「このよ

うな映像[判決注:付加映像]であれば,拡大サイズによる表示方法で表

示したとしても,画像の存在する領域が表示エリアからはみ出してしまう

ということがない。そのため,自動的に拡大サイズで表示した場合であっ

ても,ユーザが標準サイズによる表示方法で表示すべきと考える可能性が

低いといえるため,拡大サイズによる表示方法で表示しても大きな問題は

ない。むしろ,無用な混乱を避ける,ユーザによる無用な操作負担を軽減

する,といった観点からは好適といえる。」(本件明細書の【010

0】)という,本件発明において「付加映像であると判定」された場合に

自動拡大する構成(構成要件G,I)を採用した趣旨にも反するものとい

える。

オ そうすると,本件発明にいう「識別信号」は,少なくとも,付加映像に

のみ付加され,付加映像でない真の16:9映像には付加されないような

信号であることが必要であると解される。

そのような信号であれば,当該信号が付加されていれば付加映像である

と判定することができるから,(付加映像であるにもかかわらず当該信号

が付されない場合があることにより)付加映像か付加映像でないかを厳密

に100パーセント判定することができなくても,「付加映像,であるこ

とを識別」する信号であるといえる。

(2) ARI4:3信号の「識別信号」該当性について

ア 社団法人電波産業会の策定した,本件出願当時の「ARIBデジタル放

送用受信装置標準規格(望ましい仕様)4.4版」(甲49。平成17年

9月29日改定のもの。 以下 「ARIB 標準規格 」 という 。 )によれば,
という。

33
ARI4:3信号は,以下のような信号であることが認められる。

ARIのコード番号「2」(ARI4:3信号)は「4:3表示」を意

味し,コード番号「3」は「16:9表示」を意味する(甲49・20頁

表6−3「表6−1及び表6−2におけるMPEG-2符号化パラメータ

の各コード番号の意味」,26頁「表6−5,表6−6及び表6−7にお

けるMPEG2符号化パラメータの各コード番号の意味」)。

Sequence display extensionがある場合,ARIはdisplay_vertical_

size(C)とdisplay_horizontal_size(D)で指定される領域のアスペクト比

を表すことがMPEG規格で規定されている(甲49・22頁表6−2注

3,24頁表6−5注1,25頁表6−6注1,26頁表6−7注1)。

16:9映像のうちARI4:3信号が付加される「A16:9の番組

2 」 と は , 「 D の 値 [ 判 決 注 : Sequence Display extension の

display_horizontal_sizeの 値 ] が B の 値 [ 判 決 注 : Sequence Headerの

horizontal_size_valueの値]の3/4に設定されている場合(4:3番

組にサイドパネルを付加した贋16:9番組の場合を含む)」であり,

「4:3モニターには両サイドパネルを捨て,480×720のフル画面

表示」,「16:9モニターにはそのまま表示する。グレー部分[判決

注:図示されたサイドパネル部分]は実映像がある場合と黒パネルの場合

があることを示している」と説明されている(甲49・28頁図6−1

「アスペクト比4:3/16:9のモニターにおける望ましい表示形

式」)。

すなわち,ARIB標準規格によれば,ARI4:3信号が付加される

「A16:9の番組2」は,両サイドパネル部分に「実映像がある場合」

を含み,「4:3番組にサイドパネルを付加した贋16:9番組の場合を

含む」が,それに限定されてはいないものと想定されているのであり,本

件発明でいう「付加映像」に当たらない映像にもARI4:3信号が付さ

34
れる場合があることが想定されているといえる。

イ この点,原告は,本来の16:9映像は「@16:9の番組1」に含ま

れるべきものであり,「A16:9の番組2」は,「4:3番組にサイド

パネルを付加した贋16:9番組の場合」(のみ)を予定していると解釈

すべきものである,と主張するが,ARIB標準規格における説明文言に

反する解釈であって採用できない。

ARIB規格が想定する両サイドパネル部分に「実映像がある場合」が,

どのような場合を想定しているのかは明らかでないが,甲40の1・2,

甲42の1・2によれば,サイドパネルに「放送局名のロゴ表示」や「黒

以外の本番組に無関係な映像」を付すことがあることがうかがわれ,この

ような場合を想定している可能性もある(この場合,「画像の存在しない

領域である無画部」を付加しているわけではないから,本件発明の「付加

映像」には該当しない。)。

また,被告は,「アスペクト比16:9の映像であっても,アスペクト

比4:3の受像機で視聴する場合には中央部分が映されるようにアスペク

ト比4:3映像であるかのような設定で放送する,ということは一般的に

考えられるところであり,ARIB規格の「A16:9の番組2」もこれ

を想定したものである。」と主張しているところ,これを否定するに足り

る証拠もない。

ウ 実際,NHK教育テレビ(現「Eテレ」。甲40の1)で放送されてい

たアニメ「忍たま乱太郎」のオープニング及びエンディングの映像は,客

観的には真の16:9映像であるにもかかわらず,少なくとも平成24年

9月5日まで,ARI4:3信号を付加して放送されていた(甲45,4

8,乙15・21頁)。

エ 以上によれば,ARI4:3信号は真の16:9映像にも付加して放送

される可能性があり,ARI4:3信号の有無によって付加映像であるこ

35
とを識別することはできない場合があるから,ARI4:3信号が構成要

件Eにいう「識別信号」に当たるとはいえない。

この点,原告は,客観的には真の16:9映像であるにもかかわらず,

ARI4:3信号を付加して放送されているような映像信号(被告指摘信

号)はその存在が予定されていない例外的な映像信号であるから,被告指

摘信号の存在を理由にARI4:3信号が「識別信号」に当たることを否

定することはできない,といった趣旨の主張をする。

しかし,「付加映像,であること」を「識別」することが本件発明にい

う「識別信号」の定義であり,本件明細書の記載を参酌してもやはりその

ような性質は必須と判断されるのであるから,付加映像であることを識別

することができないARI4:3信号をもって「識別信号」に当たるとい

うことはできない。このことは,本件出願以降の特定の時期における被告

指摘信号の有無,割合によって左右されるものではない。原告の主張は採

用できない。

オ 本件出願当時,当業者の間で「識別信号」という用語がARI4:3信

号を指すものとして周知されていたような証拠もない。

ARIB標準規格には,ARI4:3信号を「識別信号」と呼んでいる

箇所は存在せず,かえって,「ARIB映像アスペクト識別信号技術資料

1.0版」(平成12年6月20日策定,平成23年9月16日廃止。乙

17,18)では,ARI4:3信号とは別の信号を「映像アスペクト識

別信号」と呼んでいる。

(3) イ号製品と本件発明1との対比

ア イ号製品の構成要件E充足性

原告は,イ号製品にARI4:3信号の付加された帯入16:9信号が

入力された場合の動作を立証しているが,それ以外に「識別信号」たり得

る信号が入力された場合のイ号製品の動作を立証していない(甲5や甲1

36
9の2に記載されている「識別信号」とは,「ARI4:3信号」を意味

する。甲6,甲21の2,弁論の全趣旨)。

ARI4:3信号は構成要件Eにいう「識別信号」に当たらないから,

イ号製品が「識別信号が,外部から入力される映像信号に付加されている

場合に,該映像信号で示される映像が前記付加映像であると判定する,と

いった処理を……実行する付加映像判定手段」を有していることを認める

に足りる証拠はない。

かえって,イ号製品は,真の16:9映像であっても,ARI4:3信

号が付加されている場合には自動拡大するのであるから(乙11),AR

I4:3信号と別の,付加映像のみに付されるような信号(識別信号)の

有無による判定を行っているものではなく,ARI4:3信号のみによっ

て自動拡大の有無を判定しているように推測される。

したがって,イ号製品は構成要件Eを充足しない。

イ イ号製品が「付加映像判定手段」を有している証拠はないから,イ号製

品は,付加映像判定手段による判定を前提とする構成要件G,I,Jを充

足しない。

(4) イ号製品と本件発明2との対比

上記のとおり,イ号製品は構成要件E,G,I,Jを充足しないし,イ号

製品が「付加映像判定手段」を有している証拠はないから,イ号製品は,付

加映像判定手段による判定を前提とする構成要件Lも充足しない。

(5) 同様に,ロ号製品ないしト号製品も,構成要件E,G,I,J,Lを充

足しない。

構成要件Jについて

(1) 仮にARI4:3信号が「識別信号」に当たるとしても,当裁判所は,

被告製品は構成要件Jを充足しないと判断する。

その理由は,以下のとおりである。

37
(2) 「付加映像判定手段による判定が行われた後」の意義について

構成要件Jによれば,切替操作受付手段は,「前記付加映像判定手段に

よる判定が行われた後」に,表示制御手段による映像の表示方法を切り替

えるための操作を「受け付け」なければならない。

ここでいう「前記付加映像判定手段による判定が行われた後」とは,

「付加映像であると判定された後又は付加映像でないと判定された後のい

ずれか」を意味する(具体的には,付加映像でないと判定された後に切替

操作を「受け付け」ればよく,付加映像であると判定された後の動作は構

成要件Jの範囲外である)のか,「付加映像であると判定された後及び付

加映像でないと判定された後の双方」を意味する(付加映像でないと判定

された後だけではなく,付加映像と判定された後にも切替操作を「受け付

け」なければならない)のかについて検討する。

イ 本件特許権は,拒絶査定(甲51の7)後,拒絶査定不服審判の審決に

よって登録されたものである(甲51の12)ところ,原告は,拒絶査定

不服審判において提出した平成20年11月14日付け上申書(甲51の

11,乙16)において,以下のとおり主張していた。

「このS426において操作を受け付ける処理は,図8の記載からも明ら

かなように,S410による判定結果に拘わらず行われます。このことを

明示したのが,請求項1における「前記切替操作受付手段は,前記付加映

像判定手段による判定が行われた後に,前記表示制御手段による映像の表

示方法を切り替えるための操作を受け付けて」との記載です。」(乙1

6・2頁9〜14行)

「「操作を受け付ける処理」であるS426は,付加映像ではないという

判定がなされた場合に限らず,付加映像であるという判定がなされた場合

にも行われており,このような実施例は,付加映像であるか否かの判定結

果に拘わらず操作が受け付けられる請求項1の記載と対応しています。」

38
(同頁36〜39行)

ウ 上申書の上記記載によれば,本件発明の構成要件Jにいう「前記付加映

像判定手段による判定が行われた後に」とは,「付加映像であると判定さ

れた後及び付加映像でないと判定された後との双方」を意味するものであ

ることが明らかである(乙15・16頁参照)。

したがって,被告製品が構成要件Jを充足するといえるためには,識別

信号により付加映像でないと判断された後に切替操作を「受け付け」るだ

けでなく,付加映像であると判定された後にも切替操作を「受け付け」な

ければならない。

(3) 「表示制御手段による映像の表示方法を切り替えるための操作を受け付

けて」の意義について

構成要件Jにいう「表示制御手段による映像の表示方法を切り替えるた

めの操作」とは,構成要件Dの「前記表示制御手段による映像の表示方法

を前記標準サイズによる表示方法または前記拡大サイズによる表示方法へ

切り替えるための操作」を指しており,イ号製品の構成gの,付属リモコ

ンにより「接続テレビ設定」の「4:3レターボックス」と「4:3パン

スキャン」とを切り替える操作がこれに当たることは実質的に争いがない。

切替操作を「受け付け」るというのが,切替操作に応じて表示方法が実

際に切り替えられることまで要するのか,そうでないのかについて検討す

る。

イ 上記(2)イの平成20年11月14日付け上申書(甲51の11,乙1

6)には,以下の記載がある。

「上述した「切替操作受付手段」について補足しますと,この手段は,本

願明細書における段落0057,0058に記載されているように,リモ

コン装置3や入力装置14によりユーザの命令を入力する手段であり,リ

モコン装置3や入力装置14が任意のタイミングで物理的な操作を受け付

39
けた以降,その操作を有効な命令として受け付ける処理(以降「操作を受

け付ける」という)を,付加映像であるか否かの判定の後に行います。

具体的にいえば,図8におけるS410が付加映像であるか否かを判定

する処理であり,その後に行われるS426が操作を受け付ける処理で

す。」(乙16・2頁2〜9行)

ウ 上申書の上記記載によれば,構成要件Jにいう「操作を受け付ける」と

は,物理的な操作を受け付ける(本件明細書の【0088】〜【010

4】の実施例でいえば,リモコン装置3の表示切替専用ボタン43が押下

される)という意味ではなく,「その操作を有効な命令として受け付け

る」(上記実施例でいえば,S426の処理において変更指示があったか

どうかをチェックする)という意味で用いられていることが明らかである。

この実施例の図8(本件明細書の【0088】の第2実施形態における

表示データ読み出しの処理手順)でいうS426の処理は,S410が

Y esの場合(付加映像であると判定された後)にはS412,S414,

S416を経て,S410がNoの場合(付加映像でないと判定された

後)にはS418,S420又はS424,S422を経て,付加映像で

あるか否かの判定結果にかかわらず行われている。

ところで,S426における表示モードの設定が画面表示に反映される

のは,図8でいえばS408,S416又はS422の処理においてであ

る。

S410がNoの場合(付加映像でないと判定された後)には,S42

6で受け付けた変更指示をS428で設定変更し,標準表示から拡大表示

に切り替えた場合にはS402,S410,S418,S424を経てS

422で拡大表示による映像が表示される。

拡大表示から標準表示に切り替えた場合には,S428からS402,

S410,S418,S420を経てS422で標準表示による映像が表

40
示される。

他方,S410がYesの場合(付加映像であると判定された後)には,

S412で自動的に拡大表示に設定され,S414を経てS416で拡大

表示による映像が表示されている中,S426で標準表示への変更指示を

受け付け,S428で標準表示に設定変更したとしても,S402,S4

10を経てS412で再び拡大表示に再設定され,標準表示による映像表

示は一度もされないまま,S416で拡大表示による映像が表示され続け

ることになる。

すなわち,上記実施例においては,切替操作を「受け付けた」(S42

6で変更指示の有無をチェックした)としても,実際の映像の表示方法の

変更はなされないのである。

そうすると,構成要件Jにいう,切替操作を「受け付け」るとは,「切

替操作に応じて映像の表示方法が実際に切り替えられる」ことまでは要し

ないと解釈するのが相当である。

エ この解釈は,@本件発明1が,構成要件D,G,J,Kで表示方法の切

替操作を「受け付け」る「切替操作受付手段」と,構成要件C,G,I,

Kで実際の映像の表示方法を「設定」あるいは「設定変更」する「表示方

法設定手段」(なお,構成要件G後段,構成要件Kにいう「記憶部」は,

構成要件C,構成要件G前段,構成要件H,構成要件Iにいう「記憶装

置」と同義と解される。)と,構成要件B,C,Hで映像を表示する「表

示制御手段」とを使い分けていること,AARIB標準規格(甲49)が

「A16:9の番組2」を4:3モニターに表示する場合,「両サイドパ

ネルを捨て,480×720のフル画面表示」とすることをデジタル放送

用受信装置の「望ましい仕様」としていること(付加映像について標準表

示による映像を表示させることはARIB標準規格の趣旨に反することと

なる。),B本件発明の実施品であると考えられる原告製品も同様の動作

41
を示すこと(甲47),の3点からも裏付けられる。

ここで,上記@の点をふえんして説明する。

本件発明の構成要件G前段においては,「前記表示方法設定手段は,前

記表示エリアの記憶手段により4:3のアスペクト比が記憶され」(構成

要件Fにより,これは「当該装置に接続される表示装置の有する表示エリ

アのアスペクト比」が4:3として記憶されている場合を意味する。),

「かつ,前記付加映像判定手段により付加映像であると判定された場合に,

前記拡大サイズを示す表示サイズを記憶装置に記憶させることで前記拡大

サイズによる表示方法を設定」する(拡大サイズの自動設定。実施例の

【図8】ではS412に相当する。)。

他方,構成要件G後段においては,「前記切替操作受付手段により受け

付けられた操作に応じた表示方法を示す表示サイズを記憶部に記憶させる

ことでその表示サイズによる表示方法を設定」する。これは,付加映像判

定手段により付加映像であると判定されたか否かにかかわらず(すなわち,

付加映像と判定されて拡大サイズが自動設定された場合でも),切替操作

を「受け付け」た後,その操作に応じた「設定変更」ができることを意味

しているものと解される(付加映像と判定された場合の切替操作受付後の

設定変更は,実施例の【図8】でいえば,S412,S414,S416

を経た後,S426で切替操作を「受け付け」,S428で「設定変更

する。付加映像でないと判定された場合の切替操作受付後の設定変更は,

S418,S420又はS424,S422を経た後,S426で切替操

作を「受け付け」,S428で「設定変更」する。)。しかし,この段階

では,あくまでも切替操作により受け付けられた表示方法が記憶装置に記

憶されるという「設定変更」がされるのみであって,表示制御手段による

映像の表示方法の変更がされるわけではない。

そして,この切替操作受付後の「設定変更」は,記憶部に記憶され,

42
「再度設定変更をするまでの間その設定状態が継続」される(構成要件C,

構成要件K,構成要件G末尾)。

このとき,付加映像判定手段により付加映像でないと判定された後の切

替操作であれば,その後に設定変更が行われないから,切替操作受付手段

により「受け付け」られた表示方法に,表示方法設定手段が「設定変更

した後,表示制御手段により「表示」される(構成要件I前段,構成要件

H。実施例の【図8】では,S428の後,S402,S410,S41

8,S420又はS424を経た後のS422)。

しかし,付加映像判定手段によって付加映像であると判定された後の切

替操作であれば,切替操作はいったん切替操作受付手段により「受け付

け」られ(構成要件J),表示方法設定手段により受け付けられた操作に

応じた表示方法が記憶部に記憶されて「設定」され(構成要件K),「再

度設定変更をするまでの間その設定状態が継続」する状態になる(構成要

件G末尾)ものの,付加映像判定手段による判定が「映像信号が入力され

ている間繰り返し実行」される(構成要件E)結果,上記設定変更された

表示方法による映像が表示制御手段によって表示される前に,再度付加映

像判定手段による判定が行われ,表示方法設定手段が「拡大サイズを示す

表示サイズを記憶装置に記憶させることによって表示方法を拡大サイズに

設定変更」する(構成要件I後段)結果,表示制御手段はこの再設定変更

後の拡大サイズによる映像を「表示」する(実施例の【図8】でいえば,

最初にS410,S412で拡大サイズが自動設定された後,S414,

S416を経てS426で標準サイズへの切替操作を「受け付け」,S4

28で標準サイズに「設定変更」したとしても,再度S402,S410

を経てS412で拡大サイズに再「設定変更」され,S414を経てS4

16で拡大サイズによる表示がなされ,標準サイズによる表示がなされる

瞬間はない。)。

43
以上のとおり,他の構成要件の解釈との関係でも,切替操作受付手段に

よる切替操作の受付は,「設定変更」がされる前の段階であって,「切替

操作に応じて映像の表示方法が実際に切り替えられる」ことまでは要しな

いものと解される。

オ 以上によれば,構成要件Jにいう「操作を受け付ける」とは,物理的な

操作を受け付ける(実施例でいえば,リモコン装置3の表示切替専用ボタ

ン43が押下される)という意味ではなく,「操作に応じて映像の表示方

法を切り替える」(付加映像であると判定された後に標準サイズに切り替

えた場合には,該映像を標準サイズで表示する)という意味でもなく,

「その操作を有効な命令として受け付ける」(実施例でいえば,S426

の処理において変更指示があったかどうかをチェックする)という意味に

解するのが相当である。

(4) イ号製品と本件発明1との対比

ア 付加映像でないと判定された後の処理について

イ号製品は,「接続テレビ設定」を「4:3レターボックス」とした状

態で,ARI4:3信号の付加されていない帯入16:9信号を入力した

場合,上下左右に黒い帯が入った状態(標準表示方法)で表示される(甲

5・28頁の写真44)。付属のリモコンにより「接続テレビ設定」を

「4:3パンスキャン」に切り替えると,映像の中央部を画面いっぱいに

拡大して表示する方法(拡大表示方法)に切り替わる(甲5・29頁の写

真46)。

拡大表示方法に切り替わった後,「接続テレビ設定」を「4:3レター

ボックス」に切り替えると,標準表示方法に切り替わる(弁論の全趣旨)。

すなわち,仮にARI4:3信号が「識別信号」に当たるとした場合,

イ号製品は,識別信号なしの帯入16:9映像が入力され,付加映像判定

手段により付加映像でないと判定された場合(ARI4:3信号が付加さ

44
れていないと判定された場合),「表示方法を切り替えるための操作を受

け付け」て,実際の映像の表示方法も切り替えている。

イ 付加映像であると判定された後の処理について

イ号製品は,「接続テレビ設定」を「4:3レターボックス」とした状

態で,ARI4:3信号の付加された帯入16:9信号を入力した場合,

自動的に,映像の中央部を画面いっぱいに拡大して表示する方法(拡大表

示方法)に切り替わる(甲5・27頁の写真42)。

この状態で,付属のリモコンにより「接続テレビ設定」を「4:3レ

ターボックス」に切り替えても,少なくとも映像が標準表示方法に切り替

わることはない(乙14,15,弁論の全趣旨)。

映像の表示方法が切り替わらないということは,上記(3)で判断したと

おり,切替操作を「受け付ける」(内部的に変更指示の有無をチェックす

る)ことと矛盾するものではないが,イ号製品において,この場合に切替

操作(「接続テレビ設定」を「4:3レターボックス」に切り替える指

示)が「受け付け」られている(イ号製品内部で変更指示の有無がチェッ

クされている)ことを認めるに足りる証拠はない(例えば,原告製品では,

ズームの状態表示が「ズーム「しない」」から「ズーム中」に切り替わる

ことによって,内部的に「受け付け」られたかどうかを確認可能である。

甲47)。

ウ そうすると,仮にARI4:3信号が「識別信号」に当たるとしても,

イ号製品は,「前記付加映像判定手段による判定が行われた後」,具体的

にはそのうち「付加映像であるという判定の後」(ARI4:3信号が付

加されていると判定された場合)に,「前記表示制御手段による映像の表

示方法を切り替えるための操作を受け付け」る切替操作受付手段を有して

いるとは認められないから,イ号製品は構成要件Jを充足しない。

エ ロ号製品ないしト号製品についても同様である。

45
(5) 原告の主張について

原告は,本件特許権につき被告が申し立てた無効審判の審決(甲43)が,

「識別信号が付加されている間は,「切替操作受付手段」による操作に関わ

らず,判定手段による拡大設定がなされる(強制的に自動拡大される)。」

(甲43・25頁)と認定していることから,原告は@切替操作自体は受け

付けるがその操作に関わらず最終的に拡大設定がなされると説明していたが,

これを,Aそもそも切替操作自体を受けることなく拡大設定がなされると説明

したとしても,本件特許発明の動作に何らかの本質的な違いが生ずるわけでは

なく,ここで議論すべきことは,切替操作を「受け付ける」か否かではなく,

審決の結論が示すとおり,「識別信号が付加されている間は,「切替操作受付

手段」による操作に関わらず,判定手段による拡大設定がなされる(強制的に

自動拡大される)。」という点にある,などと主張する。

しかし,審決の上記認定部分は,本件発明1の「作用・動作」について認定

した部分であり(甲43・24ないし26頁),本件発明1の構成要件Jの

「操作を受け付けて」の解釈を示したものではない。

本件発明1の構成要件Jにいう「前記付加映像判定手段による判定が行わ

れた後」及び「操作を受け付けて」の意義については上記(3)で解釈したとお

りであるから,「付加映像であると判定された後」は切替操作を「受け付け」

る必要がないことに帰する原告の主張を採用することはできない。

3 結論

以上によれば,被告製品は,本件発明の技術的範囲に属さないから,原告の

請求はすべて理由がない。

よって,主文のとおり判決する。



東京地方裁判所民事第29部



46
裁判長裁判官 大 須 賀 滋




裁判官 西 村 康 夫




裁判官 森 川 さ つ き




47
別紙

物件目録


(1)イ号製品

製品名:地上デジタルチューナー

製品番号:DT30

(2)ロ号製品

製品名:地上・BS・110度CSデジタルハイビジョンチューナー

製品番号:DT300

(3)ハ号製品

製品名:地上デジタルチューナー

製品番号:DTH110

(4)ニ号製品

製品名:地上デジタルチューナー

製品番号:DT80

(5)ホ号製品

製品名:地上デジタルハイビジョンチューナー

製品番号:DTH10

(6)ヘ号製品

製品名:地上・BS・110度CSデジタルハイビジョンチューナー

製品番号:DTH200

(7)ト号製品

製品名:地上デジタルチューナー

製品番号:DTH11




48