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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成24行ケ10321審決取消請求事件 判例 特許
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事件 平成 24年 (行ケ) 10294号 審決取消請求事件
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裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2013/07/08
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成25年7月8日判決言渡

平成24年(行ケ)第10294号 審決取消請求事件

平成25年6月24日 口頭弁論終結

判 決



原 告 第 一 精 工 株 式 会 社



訴訟代理人弁護士 重 冨 貴 光

訴訟代理人弁理士 中 嶋 隆 宣

訴訟復代理人弁護士 黒 田 佑 輝



被 告 T O W A 株 式 会 社



訴訟代理人弁護士 小 松 陽 一 郎

同 森 本 純

同 辻 淳 子

訴訟代理人弁理士 深 見 久 郎

同 森 田 俊 雄

同 吉 田 昌 司

同 佐 々 木 眞 人

同 加 藤 浩 二

主 文

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 請求
特許庁が無効2012−800001号事件について平成24年7月6日に

した審決を取り消す。

第2 当事者間に争いのない事実等

1 特許庁における手続の経緯等(争いがない。)

被告は,平成5年7月22日に出願され,平成11年5月28日に設定登

録された,発明の名称を「電子部品の樹脂封止成形方法及び装置」とする特

許第2932136号(以下「本件特許」という。請求項の数は4であ

る。)の特許権者である。

原告は,平成23年12月28日,特許庁に対し,本件特許を全ての請求

項について無効にすることを求めて審判の請求をした。特許庁は,上記請求

を無効2012−800001号事件として審理をした結果,平成24年7

月6日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本を,

同年7月17日原告に送達した。

2 特許請求の範囲の記載

本件特許の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(以下,請求項1に

係る発明を「本件発明1」,請求項2に係る発明を「本件発明2」などといい,

これらを総称して「本件発明」という。また,本件特許の明細書及び図面をま

とめて「本件明細書」という。。


「【請求項1】 固定型と可動型とを対向配置した金型と,該金型に配設し

た樹脂材料供給用のポットと,該ポットに嵌装した樹脂加圧用のプランジャと,

上記金型の型面に配設したキャビティと,該キャビティと上記ポットとの間に

配設した樹脂通路とを有するモールディングユニットを用いてリードフレーム

上に装着した電子部品を樹脂材料にて封止成形する電子部品の樹脂封止成形方

法であって,

樹脂封止成形装置に既に備えられた上記モールディングユニットに対して他

のモールディングユニットを着脱自在の状態で装設することにより,該モール
ディングユニットの数を任意に増減調整する工程と,

上記各モールディングユニットに電子部品を装着した樹脂封止前リードフレ

ーム及び樹脂タブレットを供給する工程と,

上記各モールディングユニットを用いて,上記電子部品の樹脂封止成形を行

う工程と,

樹脂封止された電子部品を上記各モールディングユニットから外部へ取出す

工程とを備えたことを特徴とする電子部品の樹脂封止成形方法。

【請求項2】 各モールディングユニットに電子部品を装着した樹脂封止前

リードフレーム及び樹脂タブレットを供給する工程は,

電子部品を装着した多数枚の樹脂封止前リードフレームを,リードフレーム

供給ユニットにおける所定位置に供給しセットする工程と,

上記リードフレーム供給ユニットにセットした樹脂封止前リードフレームを,

リードフレーム整列ユニットへ移送する工程と,

上記リードフレーム整列ユニットに移送した樹脂封止前リードフレームを,

所定の方向へ整列させる工程と,

所定数の樹脂タブレットを樹脂タブレット搬出ユニットに供給し整列させる

工程と,

上記リードフレーム整列ユニットにセットした樹脂封止前リードフレームと,

上記樹脂タブレット搬出ユニットに整列させた樹脂タブレットとを,モールデ

ィングユニットにおける固定型及び可動型間に移送すると共に,上記樹脂封止

前リードフレームをモールディングユニットのキャビティ部の所定位置に供給

し,且つ,上記樹脂タブレットをポット内に供給する工程とを備えており,

電子部品の樹脂封止成形を行う工程は,

上記固定型及び可動型の両型を型締めすると共に,ポット内の樹脂タブレッ

トを加熱且つ加圧して溶融化し,該溶融樹脂材料を上記樹脂通路を通してキャ

ビティ内に夫々注入充填させて,該キャビティ内に嵌装した電子部品を夫々樹
脂封止成形する工程を備えており,

樹脂封止した電子部品を上記各モールディングユニットから外部へ取出す工

程は,

上記樹脂封止成形工程を経た樹脂封止済リードフレームを,上記固定型及び

可動型の両型から外部へ取り出す工程と,

上記固定型及び可動型における型面のクリーニィングを行う工程と,

上記樹脂封止済リードフレームを,ディゲーティングユニットの位置に移送

する工程と,

上記ディゲーティングユニットにおいて,上記樹脂封止済リードフレームに

おけるゲート部分を除去する工程と,

上記ゲート除去工程を経た上記樹脂封止済リードフレームを,リードフレー

ム収容ユニットへ移送する工程と,

上記リードフレーム収容ユニットにおいて,上記ゲート除去工程を経た樹脂

封止済リードフレームを各別に係着する工程と,

各別に係着した上記各樹脂封止済リードフレームを,各別に収容する工程と

を備えたことを特徴とする請求項1に記載の電子部品の樹脂封止成形方法。

【請求項3】 固定型と可動型とを対向配置した金型と,該金型に配設した

樹脂材料供給用のポットと,該ポットに嵌装した樹脂加圧用のプランジャと,

上記金型の型面に配設したキャビティと,該キャビティと上記ポットとの間に

配設した樹脂通路とを有するモールディングユニットと,上記モールディング

ユニットに電子部品を装着した樹脂封止前リードフレーム及び樹脂タブレット

を供給する手段と,樹脂封止された電子部品を上記モールディングユニットか

ら外部へ取出す手段とを備えた電子部品の樹脂封止成形装置であって,

既に備えられた上記モールディングユニットに対して他のモールディングユ

ニットを着脱自在の状態で装設可能とし,これによって該モールディングユニ

ットの数を増減調整自在に構成したことを特徴とする電子部品の樹脂封止成形
装置。

【請求項4】 モールディングユニットに電子部品を装着した樹脂封止前リ

ードフレーム及び樹脂タブレットを供給する手段が,

電子部品を装着した多数枚の樹脂封止前リードフレームを供給する供給ユニ

ットと,

上記各樹脂封止前リードフレームを所定方向へ整列させるリードフレーム整

列ユニットと,

樹脂タブレットの供給ユニットと,

樹脂タブレットを整列して搬出する樹脂タブレットの搬出ユニットと,

整列させた上記樹脂封止前リードフレーム及び樹脂タブレットを上記モール

ディングユニットに移送するローダユニットとを備えており,

樹脂封止された電子部品を上記モールディングユニットから外部へ取出す手

段が,

樹脂封止済リードフレームを取り出すアンローダユニットと,

金型のクリーナユニットと,

上記樹脂封止済リードフレームの移送ユニットと,

上記樹脂封止済リードフレームのゲートを除去するディゲーティングユニッ

トと,

ゲートを除去した各樹脂封止済リードフレームを個々に係着するピックアッ

プユニットと,

係着した個々の上記樹脂封止済リードフレームを各別に収容するリードフレ

ーム収容ユニットとを備えており,

更に,上記各ユニットの各動作を連続的に且つ自動的に制御するコントロー

ラユニットとを備えたことを特徴とする請求項3に記載の電子部品の樹脂封止

成形装置。」

3 審決の理由
審決の理由は,別紙審決書写しのとおりであるが,その要旨は,(1)本件発

明はいずれも特開昭59−207635号公報(甲1。以下「引用公報1」と

いう。)に記載された発明(以下「甲1発明」という。)ではない,(2)本件発

明は,甲1発明並びに実開平4−96323号公報(甲2。以下「引用公報

2」という。)及び特開昭62−269327号公報(甲3。以下「引用公報

3」という。)に記載された発明に基づいて容易に発明することができたもの

ではなく,特許法29条2項により無効とすることはできない,(3)本件特許

は特許法36条4項並びに同条6項1号及び2号に違反してなされたものでは

ない,というものである。

審決は,上記結論を導くに当たり,甲1発明の内容,同発明と本件発明1及

び3との一致点及び相違点を次のとおり認定した。

(1) 甲1発明について

引用公報1には,「型締めシリンダー1,射出シリンダー2,プラテン3

等により構成されるトランスファーモールドプレス機構部にモールド金型を

セットしたもの(以下,ユニット(あ)という。)を複数用いてリードフレ

ーム上に装着した半導体素子を樹脂材料にて封止成形する半導体素子の樹脂

封止成形方法。(以下,
」 「甲1発明1」という。,及び,
) 「型締めシリンダー

1,射出シリンダー2,プラテン3等により構成されるトランスファーモー

ルドプレス機構部にモールド金型をセットしたユニット(あ)を複数用いて

リードフレーム上に装着した半導体素子を樹脂材料にて封止成形する半導体

素子の樹脂封止成形装置であって,整列部より金型部へワークを装填し又樹

脂封止済みワークを金型部から排出部へ取り出すワークローダー6及び樹脂

タブレツトを金型へ装填するタブレツトローダー7を有する樹脂封止成形装

置。(以下,
」 「甲1発明2」という。)が記載されている。

(2) 本件発明と甲1発明との一致点及び相違点

ア 本件発明1と甲1発明1について
一致点:「固定型と可動型とを対向配置した金型と,該金型に配設した

樹脂材料供給用のポットと,該ポットに嵌装した樹脂加圧用のプランジャ

と,上記金型の型面に配設したキャビティと,該キャビティと上記ポット

との間に配設した樹脂通路とを有するモールディングユニットを用いてリ

ードフレーム上に装着した電子部品を樹脂材料にて封止成形する電子部品

の樹脂封止成形方法であって,

上記各モールディングユニットに電子部品を装着した樹脂封止前リード

フレーム及び樹脂タブレットを供給する工程と,

上記各モールディングユニットを用いて,上記電子部品の樹脂封止成形

を行う工程と,

樹脂封止された電子部品を上記各モールディングユニットから外部へ取

出す工程とを備えたことを特徴とする電子部品の樹脂封止成形方法。」

相違点: 本件発明1は,「樹脂封止成形装置に既に備えられた上記モー

ルディングユニットに対して他のモールディングユニットを着脱自在の状

態で装設することにより,該モールディングユニットの数を任意に増減調

整する工程」を有するのに対し,甲1発明1では,そのような工程につい

ての規定がなされていない点。

イ 本件発明3と甲1発明2について

一致点:「固定型と可動型とを対向配置した金型と,該金型に配設した

樹脂材料供給用のポットと,該ポットに嵌装した樹脂加圧用のプランジャ

と,上記金型の型面に配設したキャビティと,該キャビティと上記ポット

との間に配設した樹脂通路とを有するモールディングユニットと,上記モ

ールディングユニットに電子部品を装着した樹脂封止前リードフレーム及

び樹脂タブレットを供給する手段と,樹脂封止された電子部品を上記モー

ルディングユニットから外部へ取出す手段とを備えた電子部品の樹脂封止

成形装置。」
相違点:本件発明3は,「既に備えられた上記モールディングユニット

に対して他のモールディングユニットを着脱自在の状態で装設可能とし,

これによって該モールディングユニットの数を増減調整自在に構成」する

点を規定するのに対し,甲1発明2では,そのような規定がなされていな

い点。

(3) なお,審決は,仮に,甲1発明の金型及び金型に付随する部材(ポット,

プランジャ,キャビティ,樹脂通路)のみからなるもの,すなわち,ユニッ

ト(あ)からトランスファーモールドプレス機構部を除いたもの(以下,

「ユニットA」という。)が,本件発明のモールディングユニットに相当す

ると解釈した場合についても検討するとした上で,本件発明は引用公報1に

記載された発明ではなく,また,甲1発明並びに引用公報2及び3に記載さ

れた発明に基づいて容易に発明することができたものではないと判断した。

第3 取消事由に関する原告の主張

1 取消事由1−1(甲1発明の認定の誤り/ユニット(あ)関連)について

審決は,引用公報1にはユニット(あ)の削減が記載されていないという点

を理由として,甲1発明につき任意増減調整及び着脱自在装設がないとの認定

判断を導いている。しかし,審決のこの認定判断は,以下の理由により誤りで

ある。

(1) 引用公報1の記載(甲1・1頁左下欄15行〜右下欄4行,2頁左上欄2

〜9行,12〜18行,2頁右上欄19行〜左下欄20行)によれば,甲1

発明は,従来の樹脂封止装置が単一かつ大形なものであったことを踏まえつ

つ,大形装置の弊害を回避するべく,金型及びトランスファーモールドプレ

ス機構部(ユニット(あ))を個別に分離することによって(この部分が甲

1発明の課題解決手段及び本質的部分である。,従来の樹脂封止装置のモー


ルド金型の多数個取りを少数個取りに「削減」する技術的思想を開示したも

のである。すなわち,甲1発明は,明細書中の解決すべき課題及び効果のい
ずれの箇所においても,装置の小形軽量化を志向・実現する旨を明示的に記

載しており,金型及びトランスファーモールドプレス機構部(ユニット

(あ))の数を削減して装置全体を小形軽量化する技術的思想を開示してい

る。このように,@多数個取りから少数個取りへの生産量「削減」の技術的

思想,及び,A各トランスファーモールドプレス機構部に個別に分離した専

用のモールド金型を配置する「ユニット」の技術的思想は,甲1発明の本旨

とするところである。

(2) 本件発明と甲1発明は,樹脂封止成形を行う機構部を「ユニット」化した

点において一致する。さらに,以下のとおり,甲1発明は,かかる「ユニッ

ト」の数を適宜増減調整すること,及び,「ユニット」を着脱自在の状態で

装設することについても本件発明と何ら異なるところはない。

ア 引用公報1には,「尚,本発明は実施例に制限されることなく,トラン

スファーモールドプレス機構部及び金型の数の増設又,これらとその他の

自動化機器群の配置を変更しても実施できることはいうまでもない。(2


頁左下欄下から5行〜末尾)との記載があり,既設のトランスファーモー

ルドプレス機構部(ユニット(あ))に更に増し加えて,トランスファー

モールドプレス機構部(ユニット(あ))を設備することが開示されてい

るといえる。また,この記載により,トランスファーモールドプレス機構

部及び金型の数を増設することについて,樹脂封止装置の設計段階に何ら

限定しておらず,装置製造以降の増設もまた開示されているといえる。

また,当業者は,樹脂封止装置を使用して樹脂封止するリードフレーム

(製品)の生産量等を勘案し,生産体制を増強する必要があると考えた場

合等には,トランスファーモールドプレス機構部(ユニット(あ))の

「増設」を行うのであるから,製品の需給や生産体制等の状況如何では,

増設したトランスファーモールドプレス機構部(ユニット(あ))を「削

減」することも当然あり得る。したがって,当業者にとってみれば,トラ
ンスファーモールドプレス機構部(ユニット(あ))の「削減」は引用公

報1に記載されているに等しい事柄である。さらに,甲1発明のようなユ

ニット化された機構部に接した当業者であれば,当該ユニットを増設する

のみならず,生産量等を勘案して削減することは周知技術ないし技術常識

(甲15〜21)に属する事柄である。削減については,引用公報1(2

頁左上欄2〜4行,同頁右上欄下から2行〜左下欄12行)にも開示があ

る。

他方で,本件明細書【0033】の記載によれば,本件発明に係るモー

ルディングユニットの数を任意に増減調整する方法には,他のモールディ

ングユニット自体を追加し,取り外すことだけでなく,モールディングユ

ニットの作動を中止し,再び作動させることも含まれている。

イ また,被告の主張する「着脱自在」の意義による限り,甲1発明のトラ

ンスファーモールドプレス機構部(ユニット(あ))を増減調整するに当

たっての「着脱自在」についても,任意増減調整に係る構成が開示されて

いる以上,当業者であれば,引用公報1に具体的な構成が開示されなくと

も,ボルトとナット等を用いた連結等を行うこととして,トランスファー

モールドプレス機構部(ユニット(あ))同士を容易に着脱自在な構成と

することができる。

ウ 以上によれば,引用公報1は,本件発明に係る任意増減調整及び着脱自

在装設に係る構成を開示しており,この点の認定を誤った審決は取消しを

免れない。

2 取消事由1−2(容易想到性の判断の誤り/ユニット(あ)関連)について

仮に引用公報1に,トランスファーモールド機構部(ユニット(あ))の任

意増減調整についての開示がないとしても,周知技術ないし技術常識(甲15

〜21)を勘案すれば,トランスファーモールド機構部(ユニット(あ))の

任意増減調整は少なくとも容易想到である。すなわち,製造対象物や製造工程
が何であれ,変量生産を行うために製造機構部を個別分離して任意に増減調整

することは,技術内容の仔細を問わず,当業者にとって当然に斟酌されるべき

周知技術ないし技術常識であり,上記のとおり合計7つの特定の各文献に基づ

いて,周知技術ないし技術常識の内容を,抽象化・一般化・上位概念化するこ

とは許容される。そして,甲1発明(主引用発明)と,上記の周知技術ないし

技術常識は,いずれも,変量生産性に対応するという課題及び製造機構部を個

別分離構成とすることによって増減調整するという解決手段にて共通するもの

であるから,組み合わせることができる。そして,着脱自在装設に係る構成に

ついても当然容易想到である。

なお,甲1発明では,前記1(2)アのとおり,配置の変更が当然に予定され

ており,トランスファーモールドプレス機構部及び金型を3台に増設した場合

には,中央に位置するトランスファーモールドプレス機構部に搭載される金型

をクリーニングするクリーニングユニットは当該中央の金型の正面に配置すれ

ば足りるので,被告主張の点は阻害事由とはならない。

また,原告は,無効審判請求における無効理由として,本件発明は,甲1

発明及び周知技術等に基づいて出願前に当業者が容易に発明することができた

ものであるとして,進歩性欠如の無効理由を現に主張している(甲7,9頁

「V無効審判請求の根拠(1)」参照)ので,無効理由の差し替えには該当しな

い。

3 取消事由2(甲1発明の認定の誤り/ユニット(A)関連)について

審決は,甲1発明のユニット(A)に関し,ユニット(A)が複数設けられ

た樹脂封止装置において,設置されているユニット(A)のいくつかを取り外

して樹脂封止装置を使用することは,当業者の技術常識から考えて通常の使用

であるとは認められず,そのような成形操作は実質的にできないものと認めら

れるとし,甲1発明にはユニット(A)の任意増減調整の記載がないとしてい

る。しかし,審決のこの認定判断は,以下の理由により誤りである。
(1) 前記1(1)のとおり,甲1発明は,金型及びトランスファーモールドプレ

ス機構部を個別に分離することによって,従来の樹脂封止装置のモールド金

型の多数個取りを少数個取りに削減する技術的思想を開示したものである。

すなわち,甲1発明は,従来技術の単一・大形の装置から決別して金型及び

トランスファーモールドプレス機構部を個別に分離したものである。そのよ

うな個別分離構成を採ったことに起因して,装置使用時の需要に応じて生産

数が多ければそれに見合った多くの数の金型装置を増設して使用する一方で,

生産数が少なければ相対的に少ない数の金型装置に削減して使用する技術的

思想が甲1発明に開示されていると解することに何らの困難性も存しない。

さらにユニット(A)はユニット(あ)の構成要素であるので,ユニット

(あ)の数の削減が開示されていることは,とりもなおさずユニット(A)

の数の削減をも開示されていることを意味する。したがって,甲1発明には

ユニット(A)の任意増減調整が記載されているといえる。

(2) 仮に,甲1発明にユニット(A)の任意増減調整が明示的に記載されてい

るとはいえないとしても,甲1発明は,「各金型4で第2図,第3図に示す

ように半導体装置用リードフレーム11の半導体素子10を樹脂12で封止

を行って少数個の型取りを行うのである」(2頁右上欄下から6行〜3行)

から,甲1発明におけるモールド金型4,4は独立して成形作業を行える。

したがって,一方のモールド金型4がなくとも,残る他のモールド金型4だ

けでも成形作業を行うことができ,メンテナンス,樹脂封止する製品の変更

に応じて取り外して各金型を交換できるだけでなく,生産数量の増減に応じ

て金型を増設することはもちろん,取り外して削減することも,生産活動に

際して常に行っている事柄であり,当業者の技術常識に属する事柄である。

また,ユニット(A)は独立して成形作業を行えるから,必要な数のユニッ

ト(A)だけを作動させて徐々に生産量を増やしていくことや,要求される

生産量に対して余剰となるユニット(A)を停止し,あるいは取り外すこと
も,当業者が生産活動に際して現場で日常的に行う当たり前の作業である。

さらに,余剰となるユニット(A)を長期間使用しない場合,そのキャビテ

ィ等にさびの発生などの不具合を生じるおそれがあるから,当該ユニット

(A)を装置本体から外し,管理棚等に保管するのが通常である。また,引

用公報3が示すように,取り外したユニット(A)を他の成形装置における

他の製品用として転用することも,当業者が日常的に行うごく普通の作業で

ある。

したがって,ユニット(A)が複数設けられた樹脂封止装置において,設

置されているユニット(A)のいくつかを取り外して樹脂封止装置を使用す

ることは,樹脂封止装置による生産活動における通常の使用態様であり,当

業者の技術常識に属する事項である。これを勘案すれば,甲1発明にユニッ

ト(A)の任意増減調整が記載されているに等しい。

(3) したがって,甲1発明には,ユニット(A)の任意増減調整及び着脱自在

装設が記載されているのであるから,甲1発明には任意増減調整及び着脱自

在装設のいずれも記載されていないと認定した審決は,本件特許発明と甲1

発明との一致点の認定を誤り,その結果として新規性判断を誤ったものであ

る。

4 取消事由3(実施可能要件に関する認定判断の誤り)について

以下のとおり,本件特許は実施可能要件違反を免れない。

(1) 「着脱自在」に関する実施可能要件違反

本件発明の本質的要素である増減調整作業を簡単かつ迅速に実現するため

には,位置決め手段,固定手段,解除手段及び付帯設備等が開示されていな

ければならない。しかし,本件明細書には,これらの各手段については何ら

開示されていない。

また,半導体樹脂封止成形装置は,サイズ及び重量ともに極めて大きく,

モールディングユニットの着脱作業を簡易かつ即座に行うことは容易ではな
いという事情の下で,本件発明はモールディングユニット相互の着脱を簡易

かつ即座に行うことを可能にしたことを本質的要素とするから,本件明細書

中には,それを実現する技術的手段が詳細かつ具体的に開示されていなけれ

ばならない。

しかし,本件明細書に開示があるのは「係合手段38」(甲13【003

5】)の記載及び図示のみであり,このような記載及び図示のみでは,当業

者が「着脱『自在』」との特許発明実施できるとはいえない。

(2) 「モールディングユニット」に関する実施可能要件違反

本件発明における「モールディングユニット」については,ア 金型・ポ

ット・プランジャ・キャビティ・樹脂通路の5つの構成要素を備えたもの

(本件明細書の図面の符号26,28及び29。以下,「モールディングユ

ニット(最狭義)」という。 ,イ
) 本件明細書の図面に記載された符号5を

付したもの(以下,「モールディングユニット(狭義)」という。,ウ
) 本件

明細書の図面に記載された符号5を付したもの(以下,「モールディングユ

ニット(最広義)」という。)の多義的な概念を有する。

そして,本件明細書には,モールディングユニット(狭義又は最広義)の

増減調整を着脱自在に行うことは記載されているが,モールディングユニッ

ト(最狭義)(=金型)の増減調整を着脱自在に行うことは何ら記載されて

おらず,示唆する記載もない。また,金型と金型とを着脱自在の状態で装設

するという思想自体,極めて不可解であり,当業者にとってどのように実施

すればよいかは全く不明である。

5 取消事由4(サポート要件充足性に関する認定判断の誤り)について

前記4記載の点に照らすと,審決には,本件発明の特許請求の範囲の記載が,

発明の詳細な説明によりサポートされていると判断した点に誤りがある。

6 取消事由5(明確性要件充足性に関する認定判断の誤り)について

(1) 前記4(2)のとおり,本件発明の「モールディングユニット」は多義的な
概念を含んでいるため,特許請求の範囲の解釈が複数存在することとなり,

特許法36条6項2号に違反する。

(2) 本件発明の着脱自在に関する部分はモールディングユニットの構成要素と

して何ら記載されていないし,モールディングユニット以外の要素として着

脱自在を実現するための構成要素が別途存在すると解釈することも十分可能

であるから,被告の主張には根拠がない。

第4 被告の反論

1 取消事由1−1(甲1発明の認定の誤り/ユニット(あ)関連)について

(1) 甲1発明は,モールド金型とトランスファーモールドプレス機構部の二つ

の機構部の大形化に対処するものであって,樹脂封止装置としての「取り

数」を増やすという技術的思想を有するものでも,モールド金型を含む装置

部分をユニットとして,必要に応じてその数を増減調整するとの着想に基づ

くものでもない。すなわち,甲1発明は,従来のモールド金型が単一かつ大

形のものであったことを踏まえつつ,大形化の弊害を回避すべく,金型及び

トランスファーモールド機構部(ユニット(あ))を個別に分離することに

よって,従来の樹脂封止装置のモールド金型の多数個取りを少数個取りにす

るものであるが,それは,装置の設計段階で,1個のモールド金型における

「取り数」を従来の「多数個」から「少数個」へと「削減」するという技術

的思想にすぎず,モールディングユニットを「削減」して装置全体を小形軽

量化する技術的思想ではない。また,甲1発明には,本件発明のモールディ

ングユニットの「任意増減調整」及び「着脱自在装設」に相当する技術思想

は開示されていない。

(2) 本件発明の特徴は,樹脂封止成形を行う機構部(モールディングユニッ

ト)を単に「ユニット」化しただけではなく,モールディングユニットの増

減調整をすることができるように,モールディングユニット同士を着脱自在

にしたことである。他方,引用公報1は,樹脂封止装置の製造後に別のユニ
ット(あ)(独立したユニットではない)を新たに「増設」することを開示

するものではなく,樹脂封止装置の設計段階(図面を描く段階)において大

形化による種々の課題を避けるためにユニット(あ)(独立したユニットで

はない)のそれぞれを小形化してあらかじめその数が増加するように設計し

ておくことだけを開示するものである(むしろ,原告の主張するように甲1

発明の樹脂封止装置のユニット(あ)を3台とすると,中央のユニット

(あ)は,クリーニング9を設けられず,その結果,装置全体の根本的な設

変更を必要とするから,ユニット(あ)の増減を妨げる阻害要因がある。。


そして,ユニット(あ)の「増設」が引用公報1に開示されていない以上,

ユニット(あ)の削減が引用公報1に開示されていることはあり得ない。

2 取消事由1−2(容易想到性の判断の誤り/ユニット(あ)関連)について

審決取消訴訟における甲15〜21の公知文献の追加は,無効審判における

引用公報1〜引用公報3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をす

ることができたという無効理由を,本審決取消訴訟において,技術常識の名の

下に甲1発明と周知技術から当業者が容易に発明できたという理由に差し替え

ることになり,許されない。

仮に許されるとしても,原告の主張は,各刊行物の具体的技術分野や中核と

なる技術内容を精査することなく,あたかも当該技術分野が半導体の樹脂封止

装置分野を含むかのように,また,当該技術が本件発明のモールディングユニ

ットやトランスファーモールドプレス機構部を含むかのように,「生産機械分

野」「ユニット」と大きく一般化,上位概念化するものであり許されない。し


かも,原告の引用に係る技術はいずれも技術分野が異なり半導体の樹脂封止装

置分野における技術常識ないし周知技術とはいえないし,本件発明の「既に備

えられたモールディングユニットに対して他のモールディングユニットを着脱

自在の状態で装設可能とし,これによって該モールディングユニットの数を増

減調整自在」とする構成を採用して本件発明の課題解決に係ることに関する記
載も示唆もない。

したがって,甲15〜21の公知文献に開示されている周知技術ないし技術

常識を考慮しても,引用公報1に開示された発明から,本件発明に容易に想到

することはできない。

3 取消事由2(甲1発明の認定の誤り/ユニット(A)関連)について

(1) ユニットAは,本件発明のモールディングユニットに相当するものではな

い。

(2) 前記1同様,甲1発明にはユニット(A)の削減が開示されているとはい

えない。また,甲1発明には,モールド金型4,4は独立して成形作業を行

え,一方のモールド金型4がなくとも,残る他のモールド金型4だけでも成

形作業を行うことができるとの記載はない。さらに,生産数量の増減に応じ

て金型を増設することや取り外して削減することは,当業者の技術常識に属

する事柄ではない。

4 取消事由3(実施可能要件に関する認定判断の誤り)について

(1) 「着脱自在」に関する実施可能要件違反

一般に,装置を構成する部品又は部分同士を相互に着脱自在とする構成と

して種々のものが周知であり(例えば,ボルトとナットを用いた装置を構成

する部品同士の連結等。,具体的な構成の開示がなくとも,当業者であれば


容易に本件発明の「着脱自在」にするための構成を実現することができる。

また,本件明細書の【0015】のように「連結部」と記載されていれば,

モールディングユニット同士を取り付けたり取り外したりするための手段を

実現することは可能である。

さらに,原告の主張するような大きさ及び重さの装置であっても,当業者

であれば,モールディングユニットの数の増減調整のためにモールディング

ユニット同士を平面上で着脱自在とすることは可能である。そのことは,周

知の大型設備を構成する大型部品同士が,例えば,上述したボルトとナット
を用いて着脱自在に連結されていることから容易に理解される。

また,機械分野においては,部品同士またはユニット同士を着脱自在とす

る構成については様々なものがあり,「着脱自在」を実現するための具体的

な構成が開示されていなくても,当業者は本件発明を実施することができる

ことは明らかである。

(2) 「モールディングユニット」に関する実施可能要件違反について

本件特許の請求項1及び請求項3のそれぞれにおいて,「・・・既に備え

られた上記モールディングユニットに対して他のモールディングユニットを

着脱自在の状態で装設・・・」と記載されていることから,本件発明のモー

ルディングユニットには,金型,ポット,プランジャ,キャビティ,及び樹

脂通路以外の構成として,「着脱自在」に関与する部分が存在することは明

らかである。そして,本件明細書の【0015】及び【0035】並びに図

3及び図7から,本件特許の実施例中の「連結部」は,金型とは別にモール

ディングユニットに設けられ,モールディングユニット同士の取付け(固

定)及び取り外し(固定の解除)を可能にするものであることが読み取られ

得る。

したがって,原告が主張する最狭義のモールディングユニットの定義は,

誤っており,原告の主張は失当である。

5 取消事由4(サポート要件充足性に関する認定判断の誤り)について

前記4の主張を援用する。

6 取消事由5(明確性要件充足性に関する認定判断の誤り)について

本件特許の請求項1及び3のそれぞれにおいては,モールディングユニット

は,・・・金型と,・・・ポットと,・・・プランジャと,・・・キャビティ

と,・・・樹脂通路とを「有する」ものであることが明確に規定されている。

また,本件発明のモールディングユニットは,金型,ポット,プランジャ,

キャビティ,及び樹脂通路に加えて,「着脱自在」に関与する部分を有してい
ることも明確である。

さらに,上記の「有する」という記載から,本件発明のモールディングユニ

ットは,@金型,Aポット,Bプランジャ,Cキャビティ,D樹脂通路,及び

E「着脱自在」に関与する部分以外の1又は2以上の付加的構成を含んでいて

もよいことも文言上明確である。これは,本件特許発明1及び3が,例えば,

本件特許の実施例の図2及び図3に開示されたモールディングユニット5及び

モールディングユニット5のように,上記@〜E以外の付加的構成を含んでい
てもよいことを意味する。

したがって,本件発明1及び3は,明確である。

第5 当裁判所の判断

当裁判所は,原告の各取消事由の主張にはいずれも理由がなく,その他,審

決にはこれを取り消すべき違法はないものと判断する。その理由は,以下のと

おりである。

1 取消事由1−1(甲1発明の認定の誤り/ユニット(あ)関連)について

(1) 本件発明について

本件発明の特許請求の範囲は,前記第2の2に記載のとおりであるところ,

これに本件明細書の記載を併せると,おおむね次の内容の事実が認められる。

ア 本件発明は,「例えば,リードフレームに装着したIC,LSI,ダイ

オード,コンデンサー等の電子部品を樹脂材料によって封止するための樹

脂封止成形方法とその樹脂封止成形装置の改良に係り,特に,少量生産及

び多量生産に夫々即応できるように改善したものに関する。(甲13【0


001】)

イ 従来,トランスファモールド法によって電子部品を樹脂封止成形するこ

とが行われている。この方法には,通常,固定型と可動型とを対向配置し

た一対の金型と,該金型に配設した樹脂材料供給用のポットと,該ポット

に嵌装した樹脂加圧用のプランジャと,上記金型の型面に対設したキャビ
ティと,上記ポットとキャビティとの間に配設した樹脂通路等が備えられ

ている構成を基本構造とする樹脂封止成形装置が用いられている。しかし,

この従来装置に装着する金型に多量生産用のものを用いる場合には,次の

ような問題がある(同【0002】〜【0004】。


(ア) 金型の重量や形状が必然的に大型化されるので,その取扱いが面倒に

なるのみならず,金型の加工精度を均一に維持することが困難となるた

め,該金型の各部位において樹脂成形条件が相違することになり,特に,

電子部品の樹脂封止成形のように高品質性及び高信頼性を要求される製

品の製造に際しては,樹脂封止成形条件の相違に起因して,キャビティ

内の樹脂未充填状態が発生したり,樹脂封止成形体の内外部にボイドや

欠損部が形成されて製品の品質を著しく低下させるといった樹脂封止成

形上の重大な弊害が生じる(同【0005】 。


(イ) 金型の加工精度を均一に維持するには,高級型材を使用する等の必要

があるため,金型及び装置が高価格になる(同【0005】。


(ウ) 金型の型面に樹脂バリが多量に付着することになるため,該樹脂バリ

の取り除きに手数を要して全体的な成形時間が長くなり,生産性を著し

く低下させる(同【0006】。


(エ) 金型の大型化は型締機構等の大型化をも考慮しなければならないので,

上記従来装置に多量生産用の金型を装着する場合にも限度があって,金

型の大きさや生産量に必然的な制約を受ける(同【0007】。


(オ) 従来装置における金型においては,通常の場合,同種の成形品を同時

に成形するように設けられているから,異なる成形品を成形するために

は成形装置に装着する金型自体を交換する必要がある。また,同じ成形

装置を用いて異なる成形品を同時に成形するためには,例えば,金型自

体のレイアウトを変更するか,異種の金型を同時に装着する必要がある。

このような異なる成形品を成形するために,成形装置に装着する金型自
体を頻繁に交換する場合は,金型交換作業が面倒であるとともに,生産

性を低下させる要因となる。また,成形装置に装着する金型自体のレイ

アウトを異なる成形品と同時に成形できるように変更する場合は,金型

の設計製作が面倒になるとともに,用途がそのレイアウトのものに限ら

れて凡用性を欠くことになるため,金型及び成形装置が高価になる(同

【0008】。


ウ そこで,本件発明は,電子部品の樹脂封止成形に際して,その少量生産

及び多量生産に夫々簡易に即応できるとともに,樹脂封止成形体の内外部

にボイドや欠損部が形成されない高品質性及び高信頼性を備えた製品を成

形することができる電子部品の樹脂封止成形方法とその装置を提供するこ

とを目的とする(同【0009】。


エ 本件発明によれば,他のモールディングユニットを追加しない態様・構

成においては,電子部品を樹脂封止成形する最少構成単位の樹脂封止成形

装置として利用することができる。また,このような電子部品を樹脂封止

成形する最少構成単位の組合せから構成した電子部品の樹脂封止成形装置

に対して,他のモールディングユニットを適宜に追加して構成することが

できるので,金型自体を大型化することなく,多量生産用に対応させた樹

脂封止成形装置を簡易に構成することができる。また,追加した他のモー

ルディングユニットを適宜に取り外して構成することができるので,金型

自体を小型化することなく,少量生産用に対応させた樹脂封止成形装置を

簡易に構成することができる。すなわち,必要な生産量に対応して,成形

装置におけるモールディングユニットの数を任意にかつ簡易に増減調整す

ることができる。したがって,電子部品の樹脂封止成形に際して,必要に

応じて,その少量生産及び多量生産に夫々簡易に即応できるといった優れ

た実用的な効果を奏するものである(同【0042】。


オ また,本件発明によれば,金型自体を大型化することなく,多量生産用
に対応させた樹脂封止成形装置を簡易に構成することができるので,電子

部品の樹脂封止成形体における内外部にボイドや欠損部が形成されない高

品質性及び高信頼性を備えた製品を高能率生産することができる。したが

って,前記イの従来の弊害を確実に解消し得る電子部品の樹脂封止成形方

法とその成形装置を提供することができるといった優れた実用的な効果を

奏するものである(同【0043】。


カ 以上によれば,本件発明は,樹脂封止成形方法とその樹脂封止成形装置

につき,前記イの従来の問題を解決すべく,前記ウ及びエのとおり,樹脂

封止成形装置に既に備えられたモールディングユニットに対して他のモー

ルディングユニットを着脱自在の状態で装設することにより,該モールデ

ィングユニットの数を任意に増減調整するものであると認められる。

(2) 引用公報1の記載

ア 引用公報1にはおおむね以下の記載がある。

「本発明は,半導体素子を樹脂封止する装置に関するものである。

従来,この種の樹脂封止装置は半導体素子を外気と遮断してモールドし,

半導体装置としての外形状を与えるモールド金型と,このモールド金型を

型締め加圧保持し,該金型内に樹脂を注入するトランスフアーモールドプ

レス機構部とから構成されている。この2つの機構部は最近の傾向として

作業1シヨツトごとの作業数を向上させるために大形化が進んでいる。

この大形化に伴ない,以下に述べる諸々の問題が発生している。すなわ

ち,モールド金型においては,従前以上の型加工精度の確保と,高級型材

質の選定及び処理が要求されコスト高となる。又,金型内の各位置により

樹脂封止条件の差が生じ充填不良,ボイド,薄バリ発生などのモールド成

形不良が生じ,品質にバラツキを生ずる。さらに重量が増大するためその

取扱いが困難になると共に,安全性の確保がむずかしくなつている。

一方,トランスフアーモールドプレスにおいても金型の大形化に伴ない,
金型の取付部(プラテン)の大形化及び型締め圧の高圧化が余儀なくされ

ている。さらにプラテン面積の拡大により,型締圧の分布を均一にしモー

ルドバリ発生を防止するため型締めシリンダーを複数台設ける必要があり,

金型と同様に大形化に伴なう弊害を生じさせるという欠点があつた。

本発明の目的は小形軽量でかつ,品質のバラツキの少ない半導体素子の

樹脂封止装置を提供することにある。(甲1・1頁左下欄15行〜2頁左


上欄4行)

「第1図は本発明による半導体素子の樹脂封止装置の一実施例を示すも

のである。第1図において,半導体素子の樹脂封止を行なう装置の本体M

に,型締めシリンダー1,射出シリンダー2,プラテン3等により構成さ

れるトランスフアーモールドプレス機構部P1 ,P2 を2台装備し,各機

構部P1 ,P2 のプラテン3,3に,個別に分離した専用のモールド金型

4,4をそれぞれセツトする。該専用のモールド金型4は第2図,第3図

に示すように半導体装置用リードフレームの1枚分又は2枚分をモールド

できる大きさのものである。

また前記機構部の周辺には樹脂封止前半導体装置用リードフレームをス

トツクし整列部へ配置するワーク供給部5,整列部より金型部へワークを

装填し又樹脂封止済みワークを金型部から排出部へ取り出すワークローダ

ー6,樹脂タブレツトを金型へ装填するタブレツトローダー7,金型部よ

り排出されたワークより不要樹脂を除去しワークのみを取り出し収納する

ワーク収納部8,及び定期的に金型表面を清掃するクリーニングユニツト

9を設置する。

各プレス機構部P1 ,P2 では設置された専用のモールド金型4を型締

めシリンダー1により型締め加圧保持し,射出シリンダー2で樹脂を金型

4内に注入し,各金型4で第2図,第3図に示すように半導体装置用リー

ドフレーム11の半導体素子10を樹脂12で封止を行なつて少数個の型
取りを行なうのである。

本発明は以上説明したように装置本体に複数台のプレス機構部を設置し,

各機構部に個別に分離した専用のモールド金型を配置するようにしたため,

モールド金型を従来の多数個取り(大形化)から少数個取り(小形化),

たとえば1枚又は2枚取りとすることにより装置全体を小形軽量化でき,

取扱いの簡便さ,安全性の確保ができるとともに型加工精度の確保が容易

に実現でき,金型内の各位置による樹脂封止条件の差をほとんどなくし,

かつ半導体装置用リードフレームごとの板厚のバラツキによる薄バリの発

生も極力押えることができるなど製造コストの低減を図りつつ,高精度で

かつ高品質の装置及び半導体装置が製造できる効果がある。又,金型の小

形化(少数個取り)による生産性の低下は金型及びプレスの複数化と,周

辺自動化機器群の有効的連係動作により解決できるものである。

尚,本発明は上述の実施例に制限されることなく,トランスフアーモー

ルドプレス機構部及び金型の数の増設又,これらとその他の自動化機器群

の配置を変更しても実施できることはいうまでもない。(同2頁左上欄1


1行〜2頁左下欄20行)」

イ 以上によれば,甲1発明は,以下のとおりの内容のものということがで

きる。

(ア) 半導体素子を樹脂封止する装置に関するものであり,従来,この種の

樹脂封止装置は半導体素子を外気と遮断してモールドし,半導体装置と

しての外形状を与えるモールド金型と,このモールド金型を型締め加圧

保持し,該金型内に樹脂を注入するトランスファーモールドプレス機構

部とから構成されており,この2つの機構部は最近の傾向として作業1

シヨツトごとの作業数を向上させるために大形化が進んでいるが,大形

化に伴い,以下の問題が発生している。

@ モールド金型においては,従前以上の型加工精度の確保と,高級型
材質の選定及び処理が要求されコスト高となる。また,金型内の各位

置により樹脂封止条件の差が生じ充填不良,ボイド,薄バリ発生など

のモールド成形不良が生じ,品質にバラツキを生ずる。さらに,重量

が増大するためその取扱いが困難になるとともに,安全性の確保が難

しくなっている。

A トランスファーモールドプレスにおいても金型の大形化にともない,

金型の取付部(プラテン)の大形化及び型締め圧の高圧化が余儀なく

されている。さらに,プラテン面積の拡大により,型締圧の分布を均

一にし,モールドバリ発生を防止するため型締めシリンダーを複数台

設ける必要があり,金型と同様に大形化に伴なう弊害を生じさせる。

(イ) そこで,甲1発明は,小形軽量でかつ,品質のバラツキの少ない半

導体素子の樹脂封止装置を提供することを目的とし,型締めシリンダー

1,射出シリンダー2,プラテン3等により構成されるトランスファー

モールドプレス機構部にモールド金型をセットしたもの(ユニット

(あ))を複数用いてリードフレーム上に装着した半導体素子を樹脂材

料にて封止成形する。これにより,モールド金型を従来の多数個取り

(大形化)から少数個取り(小形化),例えば1枚又は2枚取りとする

ことにより装置全体を小形軽量化でき,取扱いの簡便さ,安全性の確保

ができるとともに型加工精度の確保が容易に実現でき,金型内の各位置

による樹脂封止条件の差をほとんどなくし,かつ半導体装置用リードフ

レームごとの板厚のバラツキによる薄バリの発生も極力押えることがで

きるなど製造コストの低減を図りつつ,高精度でかつ高品質の半導体装

置が製造できるという効果を奏するものである。

(3)ア 以上の甲1発明の内容及び引用公報1の記載に照らすと,確かに,甲1

発明には,従来の樹脂封止装置が単一かつ大形なものであったことを踏ま

えつつ,大形装置の弊害を回避するべく,金型及びトランスファーモール
ドプレス機構部(ユニット(あ))を個別に分離することによって,従来

の樹脂封止装置のモールド金型の多数個取りを少数個取りにする技術的思

想が開示されている。また,引用公報1中の解決すべき課題及び効果のい

ずれの箇所においても,装置全体の小形軽量化を志向・実現する旨が明記

されているといえる。

しかし,甲1発明における樹脂封止装置全体の小形軽量化の具体的手段

は,装置本体に複数台のトランスファーモールドプレス機構部を設置し,

各機構部に個別に分離した専用のモールド金型を配置することにより,金

型及びトランスファーモールドプレス機構部を個別に分離し,金型を従来

の多数個取りから少数個取りにするというものであって,しかも,金型の

小形化(少数個取り)による生産性の低下を金型及びプレスの複数化等に

より解決するというものである。そうすると,引用公報1には,金型及び

トランスファーモールドプレス機構部(ユニット(あ))の数を削減する

との記載はなく,したがって,金型及びトランスファーモールドプレス機

構部(ユニット(あ))の数を削減して装置全体を小形軽量化する技術的

思想が開示されているとはいえない。

イ また,前記(2)ア認定のとおり,引用公報1には,「本発明は上述の実施

例に制限されることなく,トランスフアーモールドプレス機構部及び金型

の数の増設又,これらとその他の自動化機器群の配置を変更しても実施

きることはいうまでもない。」との記載があるものの,引用公報1に開示

されている上記ア認定の技術的思想の内容に加え,引用公報1には,その

実施例(第2図)として,金型及びトランスファーモールドプレス機構部

(ユニット(あ))を二つに分離した装置製造後の樹脂封止装置が記載さ

れているにとどまり,金型及びトランスファーモールドプレス機構部(ユ

ニット(あ))の増設を装置製造以降に行うことや,増設のための具体的

な機構の記載も示唆もない。そうすると,引用公報1には,金型及びトラ
ンスファーモールドプレス機構部の数を,装置製造以降に増設することが

開示されているとは認められないし,着脱自在装設の構成が開示されてい

るとも認められない。

(4) 原告の主張について

原告は,甲1発明は,@多数個取りから少数個取りへの生産量「削減」の

技術的思想,及び,A各トランスファーモールドプレス機構部に個別に分離

した専用のモールド金型を配置する「ユニット」の技術的思想を本旨とする

ものであるとか,トランスファーモールドプレス機構部及び金型の数につき,

装置製造以降の増設も開示されており,製品の需給や生産体制等の状況如何

では,増設したトランスファーモールドプレス機構部(ユニット(あ))を

「削減」することも当然あり得るので,当業者にとってみれば,トランスフ

ァーモールドプレス機構部(ユニット(あ))の「削減」は引用公報1に記

載されているに等しい事柄であるなどと主張するが,前記(3)に認定したと

ころによれば,原告の上記主張を採用することはできない。

なお,本件明細書【0033】の記載によれば,本件特許発明に係るモー

ルディングユニットの数を任意に増減調整する方法には,他のモールディン

グユニット自体を追加し,取り外すことだけでなく,モールディングユニッ

トの作動を中止し,再び作動させることも含まれていることが認められるも

のの,引用公報1には,樹脂封止成形装置に既に備えられたモールディング

ユニットに対して他のモールディングユニットを任意に増減調整する構成が

開示されていない以上,上記記載が前記(3)の判断を左右するものではない。

また,原告は,被告の主張する「着脱自在」の意義による限り,甲1発明

のトランスファーモールドプレス機構部(ユニット(あ))を増減調整する

に当たっての「着脱自在」についても,任意増減調整に係る構成が開示され

ている以上,当業者であれば,引用公報1に具体的な構成が開示されなくと

も,ボルトとナット等を用いた連結等を行うこととして,トランスファーモ
ールドプレス機構部(ユニット(あ))同士を容易に着脱自在な構成とする

ことができるなどとも主張するが,前記(3)に認定したところによれば,原

告の上記主張を採用することはできない。

(5) 以上によれば,本件発明はいずれも引用公報1に記載された発明であると

はいえないとした審決の判断に誤りはなく,取消事由1−1に関する原告の

主張を採用することはできない。

2 取消事由1−2(容易想到性の判断の誤り/ユニット(あ)関連)について

原告は,甲1発明に接した当業者であれば,当該ユニットを増設するのみな

らず,生産量等を勘案して削減することは周知技術ないし技術常識(甲15〜

21)に属する事柄である旨主張する。

(1) 甲15〜21によれば,各刊行物の記載内容は以下のとおりのものである

と認められる。

ア 電子材料(株式会社工業調査会,1982年7月発行)(甲15)

上記刊行物28〜35頁には,プリント基板に電子部品を自動実装す

るシステムにおいて,多くの種類の電子部品を実装するそれぞれの実装機

を自由に連結化することによって,生産量,生産形態に適したシステムが

組め,自動実装機群を適宜組み合わせることによって,コストに見合うシ

ステムが組めることが記載されていることが認められる。

イ 電子材料(株式会社工業調査会,1984年9月発行)(甲16)

上記刊行物82〜86頁には,チップ部品を同時に多数個装着する一

括マウントシステムにおいて,マウント機を1台,2台又は4台にするこ

とによって,基板の生産量に応じたシステムとすることが記載されている

ことが認められる。

ウ 電子材料(株式会社工業調査会,1984年5月発行)(甲17)

上記刊行物113〜118頁には,ハイブリッドICの実装システム

において,各機能をモジュール化して,必要に応じて増減することによっ
て,コンパクトで思いのままの実装ラインの実現はもちろん,将来の変化

にも対応できることが記載されていることが認められる。

エ 電波新聞(株式会社電波新聞社,1993年1月20日発行)(甲1

8)

上記刊行物には,中型機による自動アセンブル装置において,生産/

実装形態に最適なシステムを構築するために複数台を連結することによっ

て,大型機よりフレキシブル性に富むことが記載されていることが認めら

れる。

オ CIM/FA事典(CIM/FA事典編集委員会編,株式会社産業調

査会事典出版センター,1991年5月10日発行)(甲19)

上記刊行物812〜815頁には,ターミナルプリンタの自動組立ラ

インにつき,自動組立機を独立制御ユニット化することによって,ライン

の組替えや,移動,延長,短縮が簡単にできることが記載されていること

が認められる。

カ 自動化技術(第23巻第3号,株式会社工業調査会,1991年3月

発行)(甲20)

上記刊行物41〜48頁には,走行式ワークハンドリングロボットと

横形NC旋盤からなる省人化加工システムFMS−L44において,シス

テムを構築する機械群の加減算ができるので,生産量の変化に応じた工程

編成ができることが記載されていることが認められる。

キ CIM/FA事典(CIM/FA事典編集委員会編,株式会社産業調

査会事典出版センター,1991年5月10日発行)(甲21)

上記刊行物270〜275頁には,FMS(

)において,機能及び機器をモジュール化することによって,生

産形態によるシステムの指向性,拡張・縮少性に対応することが記載され

ていることが認められる。
(2) 仮に上記(1)ア〜キ記載の各刊行物の記載を考慮できるとしても,上記

記載内容に照らすと,これらは樹脂封止に関する技術のものとは認められ

ない上に,これらには既に備えられたモールディングユニットに対して他

のモールディングユニットを着脱自在の状態で装設することにより,該モ

ールディングユニットの数を任意に増減調整するという技術思想の開示も

ない。

したがって,上記各刊行物の記載を根拠として,本件発明と共通する技

術分野につき,原告の主張する内容の周知技術ないし技術常識が存在する

と認めることはできない。仮に,そのような周知技術ないし技術常識の存

在を認定できたとしても,前記1(3)認定のとおり,引用公報1には,金

型及びトランスファーモールドプレス機構部(ユニット(あ))の数を削

減するとの記載はなく,したがって,金型及びトランスファーモールドプ

レス機構部(ユニット(あ))の数を削減して装置全体を小形軽量化する

技術的思想が開示されているとはいえない以上,上記の周知技術ないし技

術常識を甲1発明に適用することが当業者にとって容易であるとも認めら

れない。

よって,原告の上記主張を採用することはできない。

3 取消事由2(甲1発明の認定の誤り/ユニット(A)関連)について

(1) 取消事由2は,審決が仮定的に判断した傍論に関する事項についてのもの

にすぎず,審決を取り消すべき事由とはならない。

(2) なお,原告の主張する取消事由2について念のため判断すると,前記1

(3)に判示したところと同様に,引用公報1にはユニット(A)の数を任意

に増減調整する技術的思想及び着脱自在に係る構成が開示されているとはい

えない以上,原告の上記主張を採用することはできない。

4 取消事由3(実施可能要件に関する認定判断の誤り)について

(1) 「着脱自在」に関する実施可能要件違反について
原告は,増減調整作業を簡単かつ迅速に実現するためには,その他の技術

的手段として,位置決め手段,固定手段,解除手段及び付帯設備等が開示さ

れていなければならないが,本件明細書には,これらの各手段については何

ら開示されていないし,本件発明は半導体樹脂封止成形装置に関するもので

あるところ,半導体樹脂封止成形装置のサイズ及び重量ともに極めて大きく,

モールディングユニットとモールディングユニットとの着脱作業を簡易かつ

即座に行うことは全く容易ではないという事情の下で,本件発明はモールデ

ィングユニット相互の着脱を簡易かつ即座に行うことを可能にしたことを本

質的要素とするものであるから,本件特許明細書中には,モールディングユ

ニット相互の簡易かつ即座な着脱を実現するための技術的手段が詳細かつ具

体的に開示されていなければならないのに,本件特許明細書に開示があるの

は僅かに抽象的な「係合手段38」の記載及び図示のみであり,このような

貧弱な記載及び図示のみでは,当業者が「着脱『自在』」との特許発明を実

施することができるとは到底いえず,実施可能要件を充足しているとはいえ

ないなどと主張する。

しかし,本件明細書の【0035】には,モールディングユニットを着脱

自在とするための手段として,「モールディングユニット5と,これに連結

され或いは取り外されるモールディングユニット5」の「連結及び位置決め

を簡易に且つ確実に行うための係合手段38」が例示されている。そして,

一般の機械分野においては,部品同士又はユニット同士を着脱自在とする構

成については,従来から様々な手段が知られているから,当業者であれば,

本件明細書に位置決め手段,固定手段,解除手段及び付帯設備等の具体的な

開示がなくても,従来から知られている手段を採用することで,モールディ

ングユニットと他のモールディングユニットを着脱自在に装設できるものと

認められる。

したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
(2) 「モールディングユニット」に関する実施可能要件違反

原告は,本件発明におけるモールディングユニットについては,モールデ

ィングユニット(最狭義),モールディングユニット(狭義)及びモールデ

ィングユニット(最広義)の多義的な概念を有するところ,本件明細書には,

モールディングユニット(狭義)又はモールディングユニット(最広義)の

増減調整を着脱自在に行うことは記載されているが,モールディングユニッ

ト(最狭義)(=金型)の増減調整を着脱自在に行うことは何ら記載されて

おらず,示唆する記載もないし,金型と金型とを着脱自在の状態で装設する

という思想自体,極めて不可解であり,当業者にとってどのように実施すれ

ばよいかは全く不明であるので,本件特許は実施可能要件違反を免れない旨

主張する。

しかし,本件明細書によれば,本件発明のモールディングユニットは,請

求項1及び3に記載された「固定型と可動型とを対向配置した金型と,該金

型に配設した樹脂材料供給用のポットと,該ポットに嵌装した樹脂加圧用の

プランジャと,上記金型の型面に配設したキャビティと,該キャビティと上

記ポットとの間に配設した樹脂通路とを有する」ものであるところ,上記各

記載は,モールディングユニットが金型,ポット,プランジャ,キャビティ,

樹脂通路以外のその他の構成を有することを排除していない。したがって,

本件発明のモールディングユニットがこれらの以外の構成を含んでいてもよ

いことは明らかである。

また,本件発明は,請求項1及び3に記載されたとおり,「既に備えられ

た上記モールディングユニットに対して他のモールディングユニットを着脱

自在の状態で装設する」ものであるから,モールディングユニットは,他の

モールディングユニットを着脱自在の状態で装設するための構成を有してい

ることも明らかである。

そして,前記(1)のとおり,当業者であれば,従来から知られている手段
を採用することで,モールディングユニットと他のモールディングユニット

を着脱自在に装設できるものと認められる。

したがって,原告の上記主張を採用することはできない。

5 取消事由4(サポート要件充足性に関する認定判断の誤り)について

原告は,前記4の原告の各主張の点に照らすと,審決が本件発明の特許請求

の範囲の記載が,発明の詳細な説明によりサポートされていると判断した点に

誤りがある旨主張するが,前記4認定のとおり,原告の上記主張を採用するこ

とはできない。

6 取消事由5(明確性要件充足性に関する認定判断の誤り)について

原告は,前記4(2)のとおり,本件発明のモールディングユニットは多義的

な概念を含んでいるため,特許請求の範囲の解釈が複数存在することとなり,

特許法36条6項2号に違反する旨主張する。

しか し ,前 記4 (2)認定のとお り ,本 件 発 明の モ ール ディ ン グユ ニ ット

は,金型,ポット,プランジャ,キャビティ,樹脂通路以外の構成を含む

ことを許容するように特定されているにすぎず,多義的な概念を含むから

といって明確でないとはいえない。

したがって,原告の上記主張を採用することはできない。

7 まとめ

以上によれば,原告の主張する取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を

取り消すべき事由もない。

第6 結論

よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとお

り判決する。



知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 設 樂 z 一




裁判官 西 理 香




裁判官 神 谷 厚 毅