関連審決 | 不服2003-1962 |
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関連ワード | 容易に発明 / 一致点の認定 / 相違点の認定 / 相違点の判断 / 周知技術 / 技術常識 / 援用権(援用) / 技術的意義 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / 変更 / 要旨変更 / |
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事件 |
平成
15年
(行ケ)
449号
審決取消請求事件
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原告 オリンパス株式会社 訴訟代理人弁理士 杉村興作 同 徳永博 同 藤谷史朗 被告 特許庁長官小川 洋 指定代理人 江畠博 同 片岡栄一 同 田中純一 同 高橋泰史 同 涌井幸一 同 宮下正之 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2004/08/24 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が不服2003-1962号事件について平成15年8月28日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文と同旨 |
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前提となる事実
1 特許庁における手続の経緯 原告(平成15年10月1日変更前の商号はオリンパス光学工業株式会社)は,平成5年4月12日,名称を「光学的情報記録及び/又は再生装置」とする発明につき特許出願(平成5年特許願第84637号。以下「本件出願」という。請求項の数は5である。)をし,平成14年12月17日に拒絶査定を受けたので,平成15年2月6日,これに対する不服の審判を請求した。 特許庁は,これを不服2003-1962号事件として審理し,審理の結果,平成15年8月28日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年9月9日ころ,その謄本を原告に送達した。 2 特許請求の範囲(別紙参考図1参照) 「【請求項1】 ディスク状情報記録媒体を回転させるスピンドルモータと,このスピンドルモータが載置され,ディスク状情報記録媒体にほぼ垂直な移動方向に移動可能に配置された移動部材と,前記ディスク状情報記録媒体の半径方向に対物レンズを駆動するキャリッジとを備え,半導体レーザからの光ビームを前記ディスク状情報記録媒体に前記対物レンズを通して照射して記録及び/又は再生を行う光学的情報記録及び/又は再生装置において, 前記スピンドルモータが載置されている前記移動部材が予め決められた位置に移動した状態を検出する位置検出手段と,前記ディスク状情報記録媒体の回転を検出する回転検出手段と,前記キャリッジが前記ディスク状情報記録媒体の最内周位置に移動した状態で前記半導体レーザを最初に発光させたときの該半導体レーザからの光ビーム出力を検出する光検出手段とを備え, さらに,前記位置検出手段,回転検出手段および光検出手段に接続され,前記位置検出手段,回転検出手段および光検出手段よりそれぞれ出力される検出信号に基づいてフォーカスサーチまたはフォーカス制御の開始を許可する制御手段を設け, 前記移動部材と,これを移動させるための動力源との間に設けた動力伝達部材に,前記予め決められた位置で停止している移動部材の第1の一部と当接して前記移動方向に弾性力を作用させる押圧部材を設け,前記動力伝達部材の表面に前記移動部材の第2の一部が押し付けられている状態のときに前記制御手段が動作するようにしたことを特徴とする光学的情報記録及び/又は再生装置。」(以下,審決と同様に「本願発明1」という。) 「【請求項2】 ディスク状情報記録媒体を回転させるスピンドルモータと,このスピンドルモータが載置され,ディスク状情報記録媒体にほぼ垂直な移動方向に移動可能に配置された移動部材と,前記ディスク状情報記録媒体の半径方向に対物レンズを駆動するキャリッジとを備え,半導体レーザからの光ビームを前記ディスク状情報記録媒体に前記対物レンズを通して照射して記録及び/又は再生を行う光学的情報記録及び/又は再生装置において, 前記スピンドルモータが載置されている前記移動部材が予め決められた位置に移動した状態を検出する位置検出手段と,前記ディスク状情報記録媒体の回転を検出する回転検出手段と,前記キャリッジが前記ディスク状情報記録媒体の最内周位置に移動した状態で前記半導体レーザを最初に発光させたときの該半導体レーザからの光ビーム出力を検出する前方モニタ用の光検出手段とを備え, さらに,前記位置検出手段,回転検出手段および前方モニタ用の光検出手段に接続され,前記位置検出手段,回転検出手段および前方モニタ用の光検出手段よりそれぞれ出力される検出信号に基づいて最初のフォーカスサーチまたはフォーカス制御の開始を許可する制御手段を設けたことを特徴とする光学的情報記録及び/又は再生装置。」(以下,審決と同様に「本願発明2」といい,本願発明1及び2を併せて「本願各発明」という。) 3 審決の理由 (1) 別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願各発明は,特開昭64-89068号公報(以下,審決と同様に「刊行物1」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。別紙参考図2参照),並びに,特開昭62-154234号公報(以下,審決と同様に「刊行物2」という。)に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである,とするものである。 (2) 審決が,上記結論を導く過程において,本願発明1と引用発明との一致点及び相違点として認定したところは,次のとおりである。 一致点 「ディスク状情報記録媒体を回転させるスピンドルモータと,このスピンドルモータが載置され,ディスク状情報記録媒体にほぼ垂直な移動方向に移動可能に配置された移動部材を備えた記録及び/又は再生を行う光学的情報記録及び/又は再生装置において, 前記スピンドルモータが載置されている前記移動部材が予め決められた位置に移動した状態を検出する位置検出手段と, 前記移動部材と,これを移動させるための動力源との間に設けた動力伝達部材に,前記予め決められた位置で停止している移動部材の第1の一部と当接して弾性力を作用させる部材を設け前記動力伝達部材の表面に前記移動部材の第2の一部が押し付けられている状態のときに動作していくようにしたことを特徴とする光学的情報記録及び/又は再生装置。」 相違点 「刊行物1はディスクの装脱方法及び装置に係る構成で,記録及び/又は再生に関する具体的手段である,光学的構成,回転検出,フォーカス手法移行の条件等に係る,以下a)〜c)の構成に触れていない点。 さらに,移動部材に設けた押圧部材は,以下d)の構成で若干相違がみられる点。 a)ディスク状情報記録媒体の半径方向に対物レンズを駆動するキャリッジを備え,半導体レーザからの光ビームを前記ディスク状情報記録媒体に前記対物レンズを通して照射して記録及び/又は再生を行う光学的構成の点。 b)ディスク状情報記録媒体の回転を検出する回転検出手段と,キャリッジがディスク状情報記録媒体の最内周位置に移動した状態で半導体レーザを最初に発光させたときの該半導体レーザからの光ビーム出力を検出する光検出手段とを備えている点。 c)位置検出手段,回転検出手段及び光検出手段に接続され,前記位置検出手段,回転検出手段および光検出手段よりそれぞれ出力される検出信号に基づいてフォーカスサーチまたはフォーカス制御の開始を許可する制御手段を設けている点。 d)押圧部材は移動方向に弾性力を作用させる点 」 (以下,上記a),b),c),d)の各相違点を「相違点a1」,「相違点b1」などという。) (3) 審決は,本願発明2と引用発明との一致点及び相違点を明示的に認定していない。しかし,審決は,本願発明1と引用発明との一致点及び相違点を前記のとおり認定した上で,本願発明2について,「本願発明2は,本願発明1との比較で,移動部材の具体的構成がない代わりに光検出手段が「前方モニタ用」である点,及びフォーカスサーチまたはフォーカス制御に開始を許可する制御手段に「最初の」なる構成要素を付加した点で主に相違する。しかしながら,これらは何れも出願当初の明細書及び図面に明確な記載ない事項のもので,技術的意味自体も明瞭に理解できないことから特段意義ある内容とは解されない(・・・)。」(審決書8頁6段〜7段)と認定判断している。 審決がいう「移動部材の具体的構成がない」とは,請求項1と請求項2とを比較すれば明らかなように,請求項1の「前記移動部材と,これを移動させるための動力源との間に設けた動力伝達部材に,前記予め決められた位置で停止している移動部材の第1の一部と当接して前記移動方向に弾性力を作用させる押圧部材を設け,前記動力伝達部材の表面に前記移動部材の第2の一部が押し付けられている状態のときに前記制御手段が動作するようにした」との構成が請求項2にはないことを意味する。本願発明1と引用発明との審決の一致点及び相違点の前記認定及び,本願発明2についての審決の上記認定判断からすれば,審決は,本願発明2と引用発明との一致点及び相違点を,上記の点を除いて,同じものとして認定した上で,相違点についての判断をしたものであることが明らかである。 審決が黙示的に認定した本願発明2と引用発明との一致点及び相違点の認定は,次のとおりであると認めることができる。 一致点 「ディスク状情報記録媒体を回転させるスピンドルモータと,このスピンドルモータが載置され,ディスク状情報記録媒体にほぼ垂直な移動方向に移動可能に配置された移動部材を備えた記録及び/又は再生を行う光学的情報記録及び/又は再生装置において,前記スピンドルモータが載置されている前記移動部材が予め決められた位置に移動した状態を検出する位置検出手段を備えたことを特徴とする光学的情報記録及び/又は再生装置。」 相違点 「刊行物1はディスクの装脱方法及び装置に係る構成で,記録及び/又は再生に関する具体的手段である,光学的構成,回転検出,フォーカス手法移行の条件等に係る,以下a)〜c)の構成に触れていない点。 a)ディスク状情報記録媒体の半径方向に対物レンズを駆動するキャリッジを備え,半導体レーザからの光ビームを前記ディスク状情報記録媒体に前記対物レンズを通して照射して記録及び/又は再生を行う光学的構成の点。 b)ディスク状情報記録媒体の回転を検出する回転検出手段と,キャリッジがディスク状情報記録媒体の最内周位置に移動した状態で半導体レーザを最初に発光させたときの該半導体レーザからの光ビーム出力を検出する前方モニタ用の光検出手段とを備えている点。 c)位置検出手段,回転検出手段及び前方モニタ用の光検出手段に接続され,前記位置検出手段,回転検出手段および前方モニタ用の光検出手段よりそれぞれ出力される検出信号に基づいて最初のフォーカスサーチまたはフォーカス制御の開始を許可する制御手段を設けている点。」(以下,上記a),b),c)の各相違点を「相違点a2」,「相違点b2」などといい,相違点a1と相違点a2,相違点b1と相違点b2をそれぞれ総称して「相違点A」,「相違点B」などという。) |
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原告主張の取消事由の要点
審決は,本願各発明と引用発明との一致点の認定を誤ったことにより相違点を看過し(本願各発明に共通の取消事由1及び2),本願各発明と引用発明との相違点B及びCについての判断を誤り(本願各発明に共通の取消事由3),また,本願発明1と引用発明との一致点の認定を誤ったことにより相違点を看過し(本願発明1の取消事由4),さらに,本願発明1と引用発明との相違点d1についての判断を誤ったものであり(本願発明1の取消事由5),違法として取り消されるべきである。 1 本願各発明に共通の取消事由1(「移動部材」を一致点と認定した誤りによる相違点の看過) 審決は,引用発明の「・・・は,本願発明1の「スピンドルモータが載置されている移動部材(具体的には刊行物1:スライド板25,レバー26,スピンドルモータ支持ピン212等)」,・・・等に各々相当する。」(審決書5頁1段)と認定し,「このスピンドルモータが載置され,ディスク状情報記録媒体にほぼ垂直な移動方向に移動可能に配置された移動部材」(審決書6頁1段)を一致点と認定し,本願発明2についても,この認定を黙示的に援用している。しかし,審決のこの認定は誤りである。 本願各発明の「移動部材」は,請求項1及び2の記載によれば, @ スピンドルモータが載置されていること, A ディスク状情報記録媒体にほぼ垂直な移動方向に移動可能であること, の二つの構成を備えることが必要である。しかし,引用発明の「スライド板25」は,スピンドルモータが載置されておらず,ディスク状情報記録媒体にほぼ平行な移動方向に移動可能に配置された部材であり,また,引用発明の「レバー26」は,スピンドルモータが載置されておらず,所定の軸の周りを回動する部材であるから,いずれも上記の二つの構成を備えておらず,本願各発明の「移動部材」には相当しない。 引用発明において,本願各発明の「移動部材」に相当するのは,スピンドルモータ21を支持している部材(符号なし。以下「スピンドルモータ支持部材」という。)と「ピン212」である。 被告は,本件出願の願書に添付された明細書及び図面(以下「本願明細書」という。)の請求項1及び2には,移動部材がディスク状情報記録媒体にほぼ垂直な移動方向に配置された部材のみからなるとの記載はない,と主張する。しかし,たとえ本願明細書の請求項1及び2に,被告の主張する「のみ」が記載されていないとしても,本願明細書の記載からすれば,本願各発明における「移動部材」は,少なくとも上記@およびAの二つの構成を備えている必要があることは明らかである。 2 本願各発明に共通の取消事由2(「位置検出手段」を一致点と認定した誤りによる相違点の看過) 審決は,引用発明のスライド板25の移動方向の前後に配置されている検出スイッチ28,29は,本願発明1の位置検出手段に相当するとして(審決書5頁2段),「前記スピンドルモータが載置されている前記移動部材が予め決められた位置に移動した状態を検出する位置検出手段」(審決書6頁1段)を一致点と認定し,本願発明2にも,この認定を黙示的に援用している。しかし,審決のこの認定は誤りである。 (1) 本願各発明の「位置検出手段」は,「前記スピンドルモータが載置されている前記移動部材が予め決められた位置に移動した状態を検出する」(請求項1及び2)ものであり,この「予め決められた位置」とは,「制御手段」によりフォーカスサーチ又はフォーカス制御の開始が許可される位置のことである。これに対し,引用発明の検出スイッチ29が押される状態は,スライド板25が刊行物1の第1図(別紙参考図2)では左端に位置している状態であり,この状態では,スピンドルモータ21が下降しているのであって,ディスクDとスピンドルモータ21とが結合する前の状態であるから,このような条件下ではフォーカス制御は全く機能しないのである。この状態が,本願各発明の移動部材の「予め決められた位置に移動」している状態に当たらないことは明らかである。 (2) 仮に,引用発明において,スライド板25の左から右方向への移動により,レバー26の反時計方向への回動が実現するとしても, @ スプリング27は3次元方向に自由に変形し得る部材である, A レバー26は支軸を中心に回動し,その面は第1図の垂直な面から傾いた面へと変化するため,スプリング27の右端部がレバー26の当該面に緊固に固定されていることを考慮すると,当該面が傾くことによってスプリング27は下向きに湾曲した状態に変化する。 上記@及びAからすれば,スライド板25がスプリング27を介してレバー26の下端部を右方向へ押圧したとき,スプリング27は不確定な変形を生じ,結果として,スライド板25の駆動変位がレバー26に正常に伝達されないことになる。これでは「検出スイッチ28」は位置検出の機能がないものになる。 3 本願各発明に共通の取消事由3(相違点B及びCについての判断の誤り) 審決は,刊行物2における「光ディスク・・・の回転速度を検出しつつ所定速度に達したときに,"フォーカスサーボ回路をオンする"というもの」が,本願各発明の「「ディスク状情報記録媒体の回転を検出する回転検出手段及び光検出手段による検出信号に基づきフォーカスサーチまたはフォーカス制御の開始を許可する制御手段」に実質的に相当する。」(審決書7頁3段),及び,「ディスク装着の具体的所定の昇降の位置確認は,刊行物1における“スピンドルモータ21が上昇端に位置されたときに検出する検出スイッチ28”が実質的に相当する。」(審決書7頁末段)と認定した。審決は,このように,引用発明における「検出スイッチ28」が本願発明1の「位置検出手段」に実質的に相当する旨を認定するとともに,引用発明に本願発明1の「ディスク状情報記録媒体の回転を検出する回転検出手段」及び「回転検出手段および光検出手段に接続され,前記・・・回転検出手段および光検出手段により出力される検出信号に基づいて・・・フォーカス制御の開始を許可する制御手段」を設けることは,刊行物2に記載されていることから容易であり,位置検出手段や光検出手段に関連する構成は周知技術などから容易であると判断し,本願発明2についても,本願発明1についての上記判断を黙示的に援用した。しかし,審決のこの判断は誤りである。 (1) 本願各発明における「制御手段」は, @ 前記位置検出手段,回転検出手段及び(前方モニタ用の)光検出手段に接続されていること, A 前記位置検出手段,回転検出手段及び(前方モニタ用の)光検出手段よりそれぞれ出力される検出信号に基づいて(最初の)フォーカスサーチまたはフォーカス制御の開始を許可すること, の二つの構成を備えていることが必要である。しかし,引用発明にこのような「制御手段」を設けることは,刊行物2の記載や周知技術からは容易に想到し得ることではない。 刊行物2には,光ディスク1を回転させる直流モータ2が所定回転速度になるとフォーカスサーボ回路をオンにする旨が記載されているのみであり,どの時点で半導体レーザを最初に発光させて光ビーム出力を検出し半導体レーザの光量調整を行うかについて,全く記載されていない。すなわち,刊行物2には,本願各発明の「光検出手段」は開示されていない。 したがって,刊行物2には,本願各発明の「制御手段」に相当する構成は記載されていないのである。 (2) 引用発明の検出スイッチ28が本願各発明における「位置検出手段」に相当するとの判断に誤りがあることは,取消事由2において述べたとおりである。 審決は,本願各発明の「位置検出」が「ディスク状記録媒体の装着であるチャッキング完了確認と解される」(審決書7頁5段)と認定して,引用発明の検出スイッチ28が本願各発明の「位置検出手段」に実質的に相当すると判断した(審決書7頁末段参照)。しかし,本願各発明の「位置検出手段」は,単なるチャッキング完了確認ではなく,ディスク状情報記録媒体を回転させるスピンドルモータが載置された移動部材が「所定位置」に移動した状態の検出を行い,これにより,本来あるべき位置から外れて位置したディスク状情報記録媒体に対してフォーカスサーチやフォーカス制御を行うことを防止するという作用を奏するものである。この本願各発明の「位置検出手段」に相当する部材は,刊行物1にも刊行物2にも記載されていない。 (3) 審決の「位置検出,光検出の各々は,その旨の記載なくともディスク装着の確認を前提としていることは技術常識的にみて容易に想到できる」(審決書7頁6段)との認定にも誤りがある。モータを回転駆動するとともにフォーカスサーチをすることで「ディスク装着の有無確認」を行う方法もよく知られているし,フォーカスサーチをすることで「ディスク装着の有無確認」を行った後にモータを回転駆動するものもよく知られているのである。 (4) 審決が周知文献として引用する実願平2-98376号(実開平4-58813号)のマイクロフィルム(乙10号証,以下「乙10文献」という。)には,「フォーカス動作」の開始時期が記載されているだけで,半導体レーザを最初に発光させるときのキャリッジ位置やその発光を検出して光ビーム出力を調整すること,ひいては本願各発明の「光検出手段」に相当するものについては全く開示されていない。乙10文献の「“内周方向に移動”との記載は,その位置が最内周か明確でないものの,・・・実施効率上,「光照射を最内周位置で」は適宜必要に応じて成し得るものである。」(審決書8頁3段)との審決の判断も誤りである。 「最内周」には通常はユーザの記録した情報はなく,しかも「最内周」ではディスク状情報記録媒体の回転によるフォーカス方向の振れ(面振れ)が最も小さくなるということは技術常識から明らかであり,それゆえ本願各発明では,その最内周で半導体レーザの最初の発光を行うことで,ディスク状情報記録媒体にユーザが記録した情報の損傷を防止できるという効果を得るとともに,その最初の発光によるビーム出力調整後に最内周でフォーカスサーチやフォーカス制御を行うことで,フォーカスサーチにおける引き込みを迅速化したり,フォーカス制御におけるフォーカスロックの維持を確実にしたりすることができるという効果を得ているのである。 (5) 本願発明2の「前方モニタ用」光検出手段が,実際のレーザ光を検出するため,適切な光量制御を行うことができるということは,技術常識である。しかし,本願発明2では,特にこれを「最内周」での最初の発光と組合せて,フォーカスサーチやフォーカス制御を行う際に,フォーカスサーチにおける引き込みを迅速化するとともにフォーカス制御におけるフォーカスロックの維持を確実にし得るようにするために,前述のように出力調整中やその後の光ビームでユーザの記録情報が損傷を受けるのを確実に防止すべく,ディスク状情報記録媒体の「回転」を検出し,さらに前述のようにフォーカスサーチやフォーカス制御の信頼性を高めるためにディスク状情報記録媒体の「位置」を検出し,それらの検出と,光ビームで情報が損傷を受けるのを防止するための「光ビーム」の出力の「前方モニタ」での検出とのアンド条件として,それらの条件がすべて成立したときに,「最初の」フォーカスサーチ又はフォーカス制御の開始を許可しているのである。このことは審決が引用した周知文献にも開示されておらず,当業者が必要に応じてなし得る程度のことではない。 4 本願発明1の取消事由4(「押圧部材」を一致点と認定した誤りによる相違点の看過) 審決は,引用発明の「スプリング27」を本願発明1の「押圧部材」に相当すると認定した。 しかし,本願発明1の「押圧部材」は, @ 前記予め決められた位置(すなわち「フォーカスサーチまたはフォーカス制御の開始許可が出される移動部材の位置」)で停止している移動部材の第1の一部と当接すること, A 前記移動部材とこれを移動させるための動力源との間に設けた動力伝達部材に,前記移動方向(すなわち「ディスク状情報記録媒体にほぼ垂直な移動方向」)に弾性力を作用させること, という構成を備え,これにより,「停止している「動力伝達部材」の表面に「移動部材」の第2の一部が押し付けられている」との作用を生じさせるものであり,その結果,本願発明1は,制御手段の動作時すなわちフォーカスサーチまたはフォーカス制御の開始時に,振動による移動部材の不所望な変位を抑制して,正確な情報の再生等を可能にするという効果を奏するのである。しかし,引用発明の「スプリング27」は,このような構成を備え,作用効果を奏するものではない。 引用発明の「スプリング27」は,本願発明1の「移動部材」に相当する「昇降部材」の一部としての「ピン212」に当接しておらず,単に「動力伝達部材」の一部として「移動部材」とこれを移動させるための「モータ23」との間の動力伝達系の中間に介在し,「スピンドルモータ21」及び「昇降部材」の重量等に起因して生じる「レバー26」の水平方向力をそのまま「スライド板25」に伝達する部材にすぎない。しかも,この「スプリング27」は,「移動部材」にディスク状情報記録媒体にほぼ垂直な方向に弾性力を作用させて,停止している「動力伝達部材」の表面に「移動部材」の一部を押し付けるものではない。 引用発明では,「動力伝達部材」としての「スライド板25」と「レバー26」との間には「スプリング27」が介在しているから,「移動部材」に振動が加われば,たとえ「スライド板25」が停止していても,「レバー26」は「スプリング27」を伸縮させながら揺動して「移動部材」の不所望な変位を許容してしまうことは明らかである。 5 本願発明1の取消事由5(相違点d1についての判断の誤り) 審決は,本願発明1と引用発明との相違点d1について「刊行物1のものも弾性部材に相当する“スプリング27を介して接続”の記載はあるが「移動方向への作用押圧部材」でない。しかし,このような弾性部材の使用形態は駆動方向もしくはそれと逆方向の二者択一であって,駆動をスムーズに行う主旨から上記相違点d)は必要に応じて適宜対応成し得る事項と解される。」(審決書8頁5段)と判断した。しかし,審決のこの判断も誤りである。 引用発明の「スプリング27」は,上記のとおり,本願発明1の「押圧部材」に相当するものではない。引用発明の「スプリング27」と本願発明1の「押圧部材」とでは,単に駆動方向が相違するといったようなことだけでなく,その構成及び作用効果が全く相違しているのである。 本願発明1の「押圧部材」は,「移動部材」の第1の一部と当接して「動力伝達部材」に移動部材の移動方向に弾性力を作用させる構成により,停止している「動力伝達部材」の表面に「移動部材」の第2の一部を押し付ける作用を奏し,これにより,制御手段の動作時すなわちフォーカスサーチまたはフォーカス制御の開始時に振動による移動部材の不所望な変位を抑制して正確な情報の再生等を可能にするという効果を奏するものである。これに対し,引用発明の「スプリング27」は,単に「動力伝達部材」の一部として,「スピンドルモータ21」及び「昇降部材」等の重量によるレバー26の水平方向力で圧縮されつつ,その水平方向力をそのままスライド板25に伝達する構成(参考図2参照)になっていて,停止している「動力伝達部材」の表面に「移動部材」の一部を押し付ける作用はないから,振動による移動部材の不所望な変位を抑制して正確な情報の再生等を可能にするという効果を奏することができない。 |
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被告の反論の骨子
審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。 1 本願各発明に共通の取消事由1(「移動部材」を一致点と認定した誤りによる相違点の看過)について 本願各発明における「移動部材」とは,通常,移動を伴う部材を包含するものである。引用発明のラックギア251,スライド板25,レバー26も,動力伝達部材の一部であるピニオン242からの駆動力を受けて移動するものであるから,移動部材の一部に相当することは明らかである。 引用発明における移動部材の中で,ディスク状情報記録媒体にほぼ垂直な移動方向に移動可能に配置された部材は,スピンドルモータ21の側部に突出させたピン212及びガイドシャフト20に対してスピンドルモータ21を上下に摺動可能に支持しているスピンドルモータ支持部材である(別紙参考図2参照)。しかし,本願明細書には,本願各発明の「移動部材」が,ディスク状情報記録媒体にほぼ垂直な移動方向に移動可能状態に配置された部材のみからなるとの記載はなく,「移動部材」をその言葉の持つ意味どおりの移動部材とした審決の認定に誤りはない。 2 本願各発明に共通の取消事由2(「位置検出手段」を一致点と認定した誤りによる相違点の看過)について 移動部材の「予め決められた位置で停止」について,引用発明では検出スイッチ29,28とスライド板27とが接触する位置の2箇所で停止するのであり,このうち,スライド板25が検出スイッチ28と接触する位置は,フォーカスサーチまたはフォーカス制御を開始する位置である。 引用発明においては,スピンドルモータ21の垂直な移動方向への移動と連動してスライド板25が移動するのであって,スピンドルモータ21が予め定められた位置に到達したときには,スライド板25も検出スイッチ28に到達し,この検出スイッチ28の検出信号によりスピンドルモータ21の垂直方向への移動を停止するものである。引用発明の検出スイッチ28が「移動部材が予め決められた位置に移動した状態を検出する位置検出手段」に相当することは明らかである。 したがって,「前記スピンドルモータが載置されている前記移動部材が予め決められた位置に移動した状態を検出する位置検出手段」(審決書6頁1段)を一致点とした審決の認定に誤りはない。 3 本願各発明に共通の取消事由3(相違点B及びCについての判断の誤り)について (1) 光学的情報記録及び/又は再生装置において,通常,記録時と再生時で必要とする半導体レーザの光量が相違すること,ディスクの種類により光量に差がでてくること,半導体レーザに経年変化があること等により,光ディスクの装着直後ないし最初のフォーカスサーチまたはフォーカス制御に先立ち,光ビームの出力を検出して半導体レーザの光量調整を行う光検出手段を設けることは技術常識である。 そして,この半導体レーザの光量調整を行う光検出手段は,ディスク状情報記録媒体の最内周位置にキャリッジを移動して,最内周に位置するPCA領域(Power Calibration Area),あるいは,テストエリア領域等において,ディスクの回転状態で実行されることも周知自明の手法にすぎない。(最初のフォーカスサーチまたはフォーカス制御前に検出手段によりレーザーパワーの光量調整を実施することについては,特開平3-235223号公報(乙2号証,以下「乙2文献」という。),特開平3-104020号公報(乙3号証,以下「乙3文献」という。),及び特開平4-360033号公報(乙4号証,以下「乙4文献」という。)等に示されている。光検出手段をディスク最内周位置にあるPCA領域,テストエリア領域等で実施することについては,特開平4-216337号公報(乙5号証,以下「乙5文献」という。),特開平5-12669号公報(乙6号証),特開平4-255915号公報(乙7号証),特開平4-10238号公報(乙8号証),特開昭64-37745号公報(乙9号証)等に示されている。)。 フォーカスサーチ又はフォーカス制御の開始の実行は,ディスク装着後にその回転速度の確認,光検出手段によるパワー調整等の各ステップを満たして実行されるものであるから(乙2〜乙4文献),技術的に判断すれば各検出信号に基づき開始されることは当然である。 また,最初のフォーカスサーチまたはフォーカス制御は,光ビームの出力調整直後に続いて実行されるのであるから,特段の事由がない限り,キャリッジに載置される「ピックアップ」の移動により光量検出手段が終了する,その近傍のフォーカス可能なディスクの最内周箇所である。 したがって,刊行物2において,「回転速度を検出しつつ所定速度に達したときに,“フォーカスサーボ回路をオンする”」(審決書7頁3段)構成は,通常は上記したような光検出手段を伴ってなされることは技術常識であるから,「これは本願発明1の「ディスク状情報記録媒体の回転を検出する回転検出手段及び光検出手段による検出信号に基づきフォーカスサーチまたはフォーカス制御の開始を許可する制御手段」に実質的に相当する。」とした審決の判断に誤りはない。 (2) 本願明細書中には「前方モニター」「最内周」なる旨の記載があるものの,「最初の」との記載はなく,その技術的意味自体が曖昧で,明瞭に理解できないとした審決の判断に誤りはない。 4 本願発明1の取消事由4(「押圧部材」を一致点と認定した誤りによる相違点の看過)について 引用発明のスプリング27は,移動部材の一部であるスライド板25に当接して,動力伝達部材の一部であるピニオン242に対し,移動部材の一部であるラックギア251の移動方向への弾性力を作用させるものであるから,スプリング27が本願発明1の「押圧部材」に相当すると認定したことに誤りはない。 仮に,原告が主張するように,引用発明の「レバー26,スライド板25,ラックギア251」が本願発明1の「動力伝達部材」に相当するとすれば,本願発明1においては「移動部材の一部と当接して移動方向に弾性力を作用させる押圧部材を設ける」のに対して,引用発明では,動力伝達部材側にスプリング27が設けられている点で一応相違することとなる。しかし,引用発明のスプリング27はレバー26に弾性力を作用させて,移動部材の一部であるピン212にレバー26を押しつけることにより,振動による不所望な変位を抑制する機能を有しているものであり,本願発明1の「押圧部材」に相当することは明らかである。押圧部材を移動部材側に設けるか動力伝達部材側に設けるかは当業者が適宜選択する設計的事項であるから,この点は,実質的な相違点ではない。 5 本願発明1の取消事由5(相違点d1についての判断の誤り)について 引用発明は,動力伝達部材が,間欠的な駆動力であっても,駆動力を弾性部材を介在することでスムーズな駆動力に変換している点で,基本的に本願発明1と同じ機能を得るのである。 刊行物1に記載の「スプリング27によってモータ21を下降させる方向に付勢されている」(甲2号証4頁右上5行〜6行)は,スライド板が検出スイッチ29に当接しているときの状態である。スライド板が移動していくと弾性力は均衡し,さらに「スプリング27のバネ圧に抗してさらに移動され」(同頁右上19行〜20行)とあるように,移動部材の負荷で圧縮状態になるから,これを押し上げるように機能しながら移動するものである。スライド板がスイッチ28に当接する最終的位置では,移動部材を押圧状態にしているものである。 |
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当裁判所の判断
本願発明2の取消事由について判断する。 1 本願各発明に共通の取消事由1(「移動部材」を一致点と認定した誤りによる相違点の看過)のうち,本願発明2について 本願発明2の「移動部材」は,請求項2の「このスピンドルモータが載置され,ディスク状情報記録媒体にほぼ垂直な移動方向に移動可能に配置された」との記載によれば,「スピンドルモータが載置されること」及び「ディスク状情報記録媒体にほぼ垂直な移動方向に移動可能に配置された」との構成を備えたものである。 これに対し,審決が本願各発明の「移動部材」の一つに相当すると認定した,引用発明の「スライド板25」は,ディスク状情報記録媒体(ディスクD)にほぼ平行な方向に移動可能であり,同じく引用発明の「レバー26」は,ディスクDにほぼ平行な軸の周りを回動するものである(甲2号証)。 確かに,引用発明の「スライド板25」及び「レバー26」を各部材単独のものとしてみた限りにおいては,それぞれ本願発明2の上記の二つの構成を備えたものということはできない。 しかし,審決は,引用発明の「・・・は,本願発明1の「スピンドルモータが載置されている移動部材(具体的には刊行物1:スライド板25,レバー26,スピンドルモータ支持ピン212等)」,「ディスク状情報記録媒体にほぼ垂直な移動方向に移動可能に配置され移動部材(同刊行物1:一対のガイドシャフト20,スピンドルモータ21は,スピンドル軸211を垂直上向きにして上下に移動可能に支持等)」・・・に各々相当する。」(審決書5頁1段)と認定しており,引用発明の「スライド板25」及び「レバー26」それぞれを本願発明1の「移動部材」に相当すると認定したわけではなく,「スライド板25」及び「レバー26」のみならず「スピンドルモータ支持部材」や「スピンドルモータ支持ピン212」も併せて,これらの部材を一体としてみて,本願発明1の「移動部材」に相当すると認定し,本願発明2についてもこの認定を黙示的に援用しているのである。 引用発明においては,「ディスク状情報記録媒体にほぼ垂直な移動方向に」移動可能に「スピンドルモータ支持部材」及び「スピンドルモータ支持ピン212」が配置され,また,これらの部材を「垂直な移動方向に」移動させるために,これらと連動して移動する部材である「スライド板25」及び「レバー26」とが配置されているのである(甲2号証)。引用発明のこれらの「スピンドルモータ支持部材」,「スピンドルモータ支持ピン212」,「レバー26」及び「スライド板25」を一体のものとしてみると,「スピンドルモータが載置され,ディスク状情報記録媒体にほぼ垂直な移動方向に移動可能に配置された」構成であるということができる。すなわち,本願各発明における「移動部材」は,@スピンドルモータが載置され,Aディスク状情報記録媒体にほぼ垂直な移動方向に移動可能であるものの,「移動部材」を構成するすべての部材がこの構成を備えていることまでが要求されているわけではなく,スピンドルモータを移動させるための部材であれば,この「移動部材」に相当するものと解すべきである。審決は,「スピンドルモータ支持部材」及び「支持ピン212」に加えて,これらを「垂直な移動方向に」移動させるための部材である「スライド板25」及び「レバー26」をも,これらと一体のものとしてみて,本願各発明の「移動部材」に相当すると認定したものである。引用発明の「スライド板25」や「レバー26」は,上記のとおり,その部材単独でみると「ディスク状情報記録媒体にほぼ垂直な移動方向に移動可能に配置された」ものではないとしても,「スピンドルモータ支持部材」及び「支持ピン212」を「垂直な移動方向に」移動させるために,これらと連動して移動するものであるから,これらを全体として,本願各発明の「移動部材」に当たるとした審決の認定に誤りはない。 2 本願各発明に共通の取消事由2(「位置検出手段」を一致点と認定した誤りによる相違点の看過)のうち,本願発明2について (1) 審決は,刊行物1の「スライド板25の移動方向の前後には,タクトスイッチ等の検出スイッチ28,29が配置されている。この検出スイッチ28,29は,スライド板25の往復移動によってオン・オフ作動され,そのオン・オフの信号を受けてスピンドルモータ21が上昇端に位置されたときと,下降端に位置されたときに駆動モータ23が停止される。」(甲2号証3頁右下欄6〜13行)との記載を引用し,「各検出スイッチは,本願発明1の「スピンドルモータが載置されている前記移動部材が予め決められた位置に移動した状態を検出する位置検出手段」に相当する。」(審決書5頁2段)と認定し,本願発明2についてもこの認定を黙示的に援用しているのである。 すなわち,引用発明におけるスピンドルモータの停止位置には,上記のとおり,「上昇端に位置されたとき」と「下降端に位置されたとき」との二つがあり,刊行物1には,そのそれぞれについて,「スピンドルモータ21の上昇は,ターンテーブル22の上面がトレイ11の上面よりもやや上方に移動した位置で停止される。スライド板25は,駆動モータ23の駆動によって,スプリング27のバネ圧に抗してさらに移動され,その一端で検出スイッチ28が押されてオンになる。この検出スイッチ28のオン信号によって,駆動モータ23が停止される。」(甲2号証4頁右上欄15行〜左下欄3行),及び,「スピンドルモータ21の下降は,スライド板25が他方の検出スイッチ29を押し,オンにすることにより,その信号を受けて停止される。この検出スイッチ29のオンによって,トレイ駆動用モータ15が駆動され,上述と逆にトレイ11がキャビネット10の前面に引き出される。」(4頁左下欄15行〜右下欄1行)と記載されている。 本願発明2において,「予め決められた位置」に移動した状態を検出する位置検出手段の検出信号が,フォーカスサーチまたはフォーカス制御の開始を許可する条件になっていることを考慮すれば,本願発明2の「予め決められた位置に移動した状態」は,引用発明における「上昇端に位置されたとき」の状態に相当する。したがって,審決が,引用発明の「検出スイッチ29」を本願各発明の「位置検出手段」に相当すると認定したことは誤りであるが,引用発明の「検出スイッチ28」を本願各発明の「位置検出手段」に相当すると認定したことには何ら誤りはない。審決が,引用発明の「検出スイッチ28」が本願各発明の「位置検出手段」に当たるとして,「前記スピンドルモータが載置されている前記移動部材が予め決められた位置に移動した状態を検出する位置検出手段」を一致点としたことに誤りがない以上,引用発明の検出スイッチ29も本願各発明の「位置検出手段」に相当するとした誤りは,審決の結論に何ら影響するものではないことは明らかである。 (2) 原告は,引用発明の検出スイッチ28を本願各発明の「位置検出手段」に対応させることについて,刊行物1の第1図(別紙参考図2)においてスプリング27がレバー26を図面の左方向に引っ張る状態で配置される構成では,スライド板25が右方向に移動しても,レバー26はスピンドルモータ21を上昇させるための反時計方向への回動力をスライド板25から与えられない,と主張する。しかし,引用発明において,スライド板25の右方向(刊行物1の第1図上の右方向)への移動に伴ってスプリングが復元し,その後にスプリング27が圧縮されて,レバーを押しつけて回動させることは,刊行物1の「このスライド板25のスライド動作によって,スプリングに抗してレバー26がスピンドルモータ21およびターンテーブルを上昇させる方向へ回動される」(甲2号証4頁右上欄6〜9行)との記載及び図1から明らかである。原告の上記主張は失当である。 原告は,@スプリング27が3次元方向に変形し得る部材である,Aレバー26の回動によりスプリング27を固定する面が垂直方向から傾き,スプリング27を下向きに湾曲させるため,スライド板25の駆動変位がレバー26に正常に伝達されないことから,引用発明の「検出スイッチ28」は位置検出の機能がない,と主張する。 しかし,刊行物1には,「スライド板25は,駆動モータ23の駆動によって,スプリング27のバネ圧に抗してさらに移動され,その一端で検出スイッチ28が押されてオンになる。」(甲2号証4頁右上欄下から3行〜左下欄1行)と記載されており,引用発明において,スライド板25の移動に伴ってスプリング27が復元し,その後に圧縮されてレバー26を押しつけて回動させることは明らかであるし,また,刊行物1においては,「このレバー26の一端にスライド板25の中間部がスプリング27を介して接続されている」(甲 号証3頁左下欄13〜15行)と記載されているだけであって,スプリング27の右端部がレバー26の面に動かないように固定されている態様に限られるものではないから,レバー26が回動しても,スプリング27が下向きに湾曲するとは限らないのである。原告の上記主張は採用することができない。 3 本願各発明に共通の取消事由3(相違点B及びCについての判断の誤り)のうち,本願発明2について (1) 審決は,本願発明2について,次のとおり判断した。 「本願発明2は,本願発明1との比較で,移動部材の具体的構成がない代わりに光検出手段が「前方モニタ用」である点,及びフォーカスサーチまたはフォーカス制御に開始を許可する制御手段に「最初の」なる構成要素を付加した点で主に相違する。しかしながら,これらは何れも出願当初の明細書及び図面に明確な記載ない事項のもので,技術的意味自体も明瞭に理解できないことから特段意義ある内容とは解されない(仮に特段の技術的意義を伴うものであれば要旨変更の疑いが生じてくる)。 そして,「前方モニタ用」は単に光検出手段のそもそもが持つ機能を明確にしたものと解され(必要あれば拒絶査定時に提示の特開平4-360033号公報参照),これは光検出機能を持つ刊行物2に記載のものも共通して有するものである。 また,「最初の」なる事項を以てフォーカスサーチまたはフォーカス制御の開始を許可する制御手段も,「最初の」との技術的意義を十分理解できなく,「最初」に行っていくことは必要に応じて成し得ると解される。 本願発明1,2は,「移動部材」の構成はあるものの,これと「フォーカスサーチ及びフォーカス制御」手法との有機的結合は見いだせなく,その余の位置検出手段,回転検出手段と上記フォーカス手段とのアンド条件もこれは当然的内容にすぎなく,結局のところ刊行物1乃至2及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明し得たものと認められる。」(審決書8頁6段〜9頁3段) 審決の本願発明2についての上記判断は,本願発明1と引用発明との相違点a1ないしc1についての容易想到性についての判断を援用した上でなした判断であることは,明らかである。 (2) 審決は,本願発明1と引用発明との相違点b1及びc1について,次のとおり判断した。 「1)・・・刊行物2には,光ディスクがスピンドルモータに相当する直流モータを回転させ,その回転速度を検出しつつ所定速度に達したときに,“フォーカスサーボ回路をオンする”というもので,フォーカス手段は光検出手段で(刊行物2:2.の「刊行物2」3)を参照),これは本願発明1の「ディスク状情報記録媒体の回転を検出する回転検出手段及び光検出手段による検出信号に基づきフォーカスサーチまたはフォーカス制御の開始を許可する制御手段」に実質的に相当する。」(審決書7頁3段,以下「判断1」という。) 「2)また,上記相違要素事項の一つである「位置検出」であるが,この意味内容は,本発明1の記載から「スピンドルモータが載置されている移動部材が予め決められた位置に移動した状態を検出する位置検出手段」にあたり,ディスク状記録媒体の装着であるチャッキング完了確認と解される。この点は刊行物1のものも,スピンドルモータを載置した移動部材の駆動,続いてのモータ回転駆動等は,通常的にはディスク装着の有無確認を前提として駆動しているものである(空駆動はあり得ない)。さらに,上記1)の判断で触れた光学系光ビーム出力に際して,ディスク装着の有無確認なくしてのビーム出力は想定できるものでない。 要するに,上記位置検出,光検出の各々は,その旨の記載なくともディスク装着の確認を前提としていることは技術常識的にみて容易に想到できるものである。 そして,ディスク装着の具体的所定の昇降の位置確認は,刊行物1における“スピンドルモータ21が上昇端に位置されたときに検出する検出スイッチ28”が実質的に相当する。」(同7頁5〜7段,以下「判断2」という。) 「3)次に,光ビームの照射とキャリッジ位置であるが,フォーカス動作に関連して「ディスクの位置検出」は上記2)で記載したとおりである。 そして,フォーカス動作においての「キャリッジがディスク状情報記録媒体の最内周位置に移動した状態で半導体レーザを発光させ該半導体レーザからの光ビーム出力を検出する光検出手段」は拒絶査定時で提示した実願平2-98376号(実開平4-58813号)のマイクロフィルム(実用新案登録請求の範囲,第3頁第2行〜13行目,第6頁第8行〜第7頁第5行目等)に記載される周知自明の構成にすぎない。」(同8頁1〜2段,以下「判断3」という。) (3) 審決は,上記のとおり,相違点B及びCについて,刊行物2のフォーカス手段は光検出手段であって,刊行物2には,本願各発明の「回転検出手段及び光検出手段による検出信号に基づきフォーカスサーチ又はフォーカス制御の開始を許可する制御手段」に実質的に相当する構成が記載されていること(判断1),本願各発明の「位置検出」はチャッキング完了信号と解されるから,引用発明における検出スイッチ28が本願各発明の「位置検出手段」に実質的に相当すること(判断2),及び,「キャリッジがディスク状情報記録媒体の最内周位置に移動した状態で半導体レーザを発光させ該半導体レーザからの光ビーム出力を検出する光検出手段」は周知(乙10文献)であること(判断3)から,相違点B及びCは当業者が容易に想到できるものであると判断した。原告は,審決のこの判断について,刊行物2には,本願各発明の「光検出手段」は開示されていないから判断1は誤りであり,引用発明の検出スイッチ28は,本願各発明の「位置検出手段」に相当するものではないから判断2も誤りであり,また,ディスクの最内周位置で光の照射を行うことは周知技術ではないから判断3も誤りであり,結果として審決が相違点B及びCの判断を誤ったものである,と主張する。 (ア) 判断1及び3について 刊行物2には,「該光ディスクが該第1の回転数にまで上昇する途中の第2の回転数でフォーカスサーボをオンとする」(甲3号証,特許請求の範囲)との記載はあるものの,原告が主張するように,光検出手段に関する明確な記載はない。 しかし,次に述べるとおり,光ディスクの装着直後ないし最初のフォーカスサーチ又はフォーカス制御に先立ち,光ビームの出力を検出して半導体レーザの光量調整を行う光検出手段を設けることは技術常識であり,また,光検出手段の半導体レーザの光量調整は,ディスク状情報記録媒体の最内周位置にキャリッジを移動して最内周に位置するPCA領域(Power Calibration Area),あるいは,テストエリア領域等において,ディスクの回転状態で実行されることも周知自明の手法である,と認められる。 @ 乙2文献には,「本発明の半導体レーザ不良検出装置は,半導体レーザの出力を制御するレーザパワー制御回路と,レーザー出射光量が規定値以下であるかどうかを検出する光量検出器 と,前記レーザパワー制御回路を記録パワー制御に切り換え,前記光量検出器の検出信号によりフォーカス制御回路を駆動させるか否かを選択するレーザ不良判別手段 とを備えたものである。さらに,本発明の半導体レーザ不良検出装置は,上記構成に加えて,記録担体が円盤状の場合に,円盤状記録担体の回転速度が規定値以上であるかどうかを検出する回転検出器 を備え,レーザ不良判別手段は,前記回転検出器からの検出信号により前記円盤状記録担体の回転速度の立ち上がりを確認後 ,レーザパワー制御回路を記録パワー制御に切り換え,光量検出器の検出信号によりフォーカス制御回路を駆動させるか否かを選択する構成としたものである。」(下線付加。乙2号証2頁左上欄18行〜右上欄15行),「本実施例では,ディスクに照射されるレーザ光のパワー密度を可能なかぎり小さくするためディスク5の回転立ち上がり後,半導体レーザの検査を行っているが,ディスクのローディング時やディスクがローディングされていない記録装置のパワーオン時に検査を行うことも可能である。」(同3頁右上欄17行〜左下欄2行)と記載されている。 A 乙3文献には,「従来の光ディスク装置にあっては,モータ停止状態で光ディスクや光磁気ディスク等の媒体の掛け替えがローディング機構により行われると,ローディング完了の検出信号に基づいてスピンドルモータを起動させる。 スピンドルモータは例えば3600rpmの一定速度に向けて回転が立ち上げられ,規定回転に到達した後に,規定のリードパワー,ライトパワーが得られるようにヘッドのレーザダイオードLDを調整する発光調整,更には対物レンズを所定の範囲でサーチ移動してフォーカスサーボを引き込むフォーカス調整 等を行ない,これら一連の初期化調整処理が終了した後に書込/読出可能なレディオン状態としている。」(下線付加。乙3号証2頁左上欄8行〜右上欄1行),「第2実施例にあっては,モータ回転立ち上がり時間の途中で所定の回転速度,例えば最終的な回転速度5400rpmが半分となる2700rpmに一定時間制御し,この定速回転状態で光ディスク10のPEPゾーンのデータをリードし,PEPリードデータから得られた発光制御情報に基づいてレーザダイオードが発光調整を行なう ようにしたことを特徴とする。」(下線付加。同4頁左下欄15行〜右下欄2行),「第7図は本発明の第2実施例で対象とするPEPゾーンを備えた光ディスクの記録領域説明図である。第7図において,光ディスク10にはユーザゾーン50が設けられ,ユーザゾーン50にはスパイラル状にトラックが形成されている。ユーザゾーン50の内側にはPEPゾーン60が形成される。」(同4頁右下欄3〜10行)と記載され,図面第7図(9頁左下図)には,PEPゾーン60が光ディスク22の最内周領域に配置されることが示されている。 B 乙5文献には,「記録媒体として光ディスクを使用する光ディスク装置においては,読み出し,書き込み,消去の際の光ビーム出力を調整する必要がある。このために,光学ヘッド内のレーザダイオード(以下LDという)から出射されたレーザ光を,同じく光学ヘッド内の光ビームディテクタで受けて,制御部の設定を行なっている。」(乙5号証【0002】),「このような光ビーム出力の調整を行なうには,光ディスクの記録トラック領域外の最内周あるいは最外周に光学ヘッドを移動させてから行なっている。この場合,光ビームはデフォーカス状態になっている 。」(下線付加。同【0003】)と記載されている。 C 審決が引用した周知例である乙10文献には,「ディスクをローディングし,所定位置に装着して再生するディスクプレーヤにおいて,ディスクを収納装着駆動する駆動手段と,該駆動手段稼動中にピックアップを内周方向に移動させる移動手段と,前記駆動手段により駆動されたディスクが所定位置に装着されたことを検出する装着検出手段と,前記移動手段により移動されたピックアップが所定位置に来たことを検出する位置検出手段と,前記装着検出手段と位置検出手段との出力によりフォーカス動作を行うフォーカス動作手段と,を備えたことを特徴とするディスクプレーヤ。」(乙10号証1頁5〜16行)と記載されている。 このように,乙2文献に,ディスクの回転速度の立上がり確認後にレーザの光量検出器の検出信号によりフォーカス制御回路を駆動させるか否かを選択することが記載され,乙3文献にローディング完了の検出信号に基づいてスピンドルモータを駆動し,規定速度に達した後にレーザ発光調整を行い,さらにフォーカス調整を行うことが記載されていることからすれば,ディスクの回転確認後,フォーカス制御を開始する以前にレーザの光量を検出して光量調整を行うことは,本件出願時における周知の技術であると認められる。 また,乙3,乙5,及び乙10文献によれば,発光調整やフォーカス制御は,ディスクの最内周で行なうことも,本件出願時における周知の技術であると認められる。 したがって,審決が,刊行物2のフォーカス手段に関する構成が,本願各発明の「ディスク状情報記録媒体の回転を検出する回転検出手段及び光検出手段による検出信号に基づきフォーカスサーチまたはフォーカス制御の開始を許可する制御手段」に実質的に相当するとした判断(判断1),及び,「フォーカス動作においての「キャリッジがディスク状情報記録媒体の最内周位置に移動した状態で半導体レーザを発光させ該半導体レーザからの光ビーム出力を検出する光検出手段」は・・・周知自明の構成にすぎない」との判断(判断3)に何ら誤りはないというべきである。 原告は,審決が,光検出手段について引用した周知例である乙10文献について,半導体レーザを最初に発光させるときのキャリッジ位置やその発光を検出して光ビーム出力を調整することが記載されていない,と主張する。しかし,乙10文献には,「ピックアップユニット5の内周側の所定位置への移動」(乙10号証6頁12行〜13行)と記載されており,内周側の所定位置とは通常の記録再生領域の内側,すなわち,最内周領域と解されること,レーザの光量調整はディスクの最内周領域で行うことが周知の技術であること(乙3文献や乙5文献の前記記載参照)を考慮すれば,原告の主張に理由がないことは明らかである。 (イ) 判断2について 原告は,引用発明の検出スイッチ28は本願各発明の位置検出手段に相当するものではないと主張する。しかし,引用発明の検出スイッチ28が本願各発明の位置検出手段に相当するとした判断に誤りがないことは,前記のとおりである。 原告は,本願各発明における「位置検出手段」は,単なるチャッキング完了確認ではなく,ディスク状情報記録媒体を回転させるスピンドルモータが載置された移動部材が「所定位置」に移動した状態の検出を行い,これにより,本来あるべき位置から外れて位置したディスク状情報記録媒体に対してフォーカスサーチやフォーカス制御を行うことを防止するという作用を奏するものであり,この本願各発明の「位置検出手段」に相当する部材は,刊行物1にも刊行物2にも記載されていない,と主張する。 しかし,上記のとおり,乙3文献には,ローディング完了の検出信号に基づいてスピンドルモータを起動させ,規定回転に達した後に発光調整やフォーカス調整を行なうことが記載され,乙10文献には,ディスクの装着検出手段とピックアップの位置検出手段との出力によりフォーカス動作を行なうことが記載されているから,発光調整やフォーカス調整(制御)を,ローディング完了(ディスク装着)の検出出力により行なうことは,本件出願時の周知の技術であると認められる。したがって,本願各発明の「位置検出手段」や引用発明の「検出スイッチ28」がチャッキング完了確認(ローディング完了やディスク装着確認)の機能だけを奏するものであるかどうかにかかわらず,引用発明の検出スイッチ28の検出信号により,ローディング完了を確認して光量調整やフォーカス制御を行うことは,上記のとおり,本件出願時における周知の技術であり,当業者が容易に想到し得ることと認められるから,原告の主張に理由がないことは明らかである。 原告は,位置検出,光検出の各々がディスク装着の確認を前提としているとは必ずしもいえないと主張し,モータを回転駆動するとともにフォーカスサーチをすることで「ディスク装着の有無確認」を行う方法やフォーカスサーチをすることで「ディスク装着の有無確認」を行った後にモータを回転駆動するものもよく知られている,とする。しかし,仮に,そのような事項が当業者に知られた事項であるとしても,ローディング完了を確認して光量調整やフォーカス制御を行うことが本件出願時における周知の技術であると認められる以上,原告の上記主張に理由がないことは明らかである。 (4) 審決は,本願発明2において,本願発明1との差異である「前方モニタ用」光検出手段,及び,「最初の」フォーカスサーチまたはフォーカス制御を行う点について,その技術的意義が本願明細書の記載からは明確でないと判断した。この点については,本願明細書の記載をみても,原告の主張によっても,格別な技術的意義があることは明らかではない。したがって,審決が技術的意義が見出せないとして,相違点の判断をなしたことに誤りはないというべきである。 (5) 以上のとおりであるから,本願発明2が引用発明並びに刊行物2及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとした審決の判断に誤りはないというべきである。審決は,本願発明1についても容易想到であるとの判断を示し,原告は審決の判断を争っているものの,本件は拒絶査定に対する審判事件であるから,複数の請求項のうちの一つについて拒絶理由があれば,本件出願の全体を拒絶することができるのであり,本願発明2についての審決の判断に誤りがない以上,本願発明1についての審決の結論に誤りがあるかどうかについて判断をする必要はない。 4 結論 以上に検討したところによれば,原告の主張する本願発明2についての取消事由はいずれも理由がなく,その他,審決には,本願発明2についてこれを取り消すべき誤りは見当たらない。 よって,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 佐藤久夫 |
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裁判官 | 設樂隆一 |
裁判官 | 若林辰繁 |