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事件 平成 24年 (行ケ) 10289号 審決取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2013/05/29
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成25年5月29日判決言渡

平成24年(行ケ)第10289号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 平成25年4月8日

判 決

原 告 日 立 造 船 株 式 会 社

訴訟代理人弁護士 岩 谷 敏 昭

同 上 村 裕 是

同 伊 田 真 広

被 告 Y

訴訟代理人弁護士 黒 田 厚 志

訴訟代理人弁理士 横 井 健 至

同 横 井 知 理

主 文

1 特許庁が無効2011−800242号事件について平成24年

7月5日にした審決を取り消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

主文同旨

第2 前提となる事実

1 特許庁における手続の経緯等

被告は,発明の名称を「破砕カートリッジおよび破砕カートリッジによる岩盤あ

るいはコンクリート構造物の破砕方法」とする特許第4431169号(平成19

年11月12日出願,平成21年12月25日設定登録。以下「本件特許」という。)

の特許権者である。

原告は,平成23年11月21日,特許庁に対し,本件特許について無効審判請

1
求(無効2011−800242号事件)をした。これに対して,特許庁は,平成

24年7月5日,「本件審判の請求は,成り立たない。」旨の審決(以下「審決」と

いう。)をし,その謄本は,同月13日,原告に送達された。

2 本件特許の特許請求の範囲

本件特許の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(請求項の数は2。以下,

請求項1に係る発明を「本件特許発明1」と,同2に係る発明を「本件特許発明2」

とい,両者を併せて「本件特許発明」ということがある。。


【請求項1】

高電圧・高電流を発生する高電圧・高電流発生装置に2本の母線を介して接続す

るための,2本の脚線を有し,主成分のニトロメタンと,メタノールおよびオイル

からなるラジコン用のグロー燃料を入れたPET容器に線径0.4mmの100m

mの長さの銅−ニッケル抵抗細線で短絡した上記2本の脚線の他端を該容器に封入

したことを特徴とする岩盤あるいはコンクリート構造物の破砕用の破砕カートリッ

ジ。

【請求項2】

上記請求項1に記載の破砕カートリッジを岩盤あるいはコンクリート構造物中に

挿入し,該破砕カートリッジの脚線に母線を介して2400V,24000Aの高

電圧・高電流を520μsec間供給し,脚線先端を短絡する銅−ニッケル抵抗細

線に溶融スパークを生起せしめて,スパークから発生の高温の火花により破砕カー

トリッジに封入したグロー燃料を瞬時に燃焼させ,燃焼から発生する膨張圧力で岩

盤あるいはコンクリート構造物を破砕することを特徴とする岩盤あるいはコンクリ

ート構造物の破砕方法。

3 審決の概要

(1) 審決の理由は,別紙審決書写に記載のとおりである。審決は要するに,本件

特許発明は,甲1(特許第3328184号特許公報)に記載された発明(以下「甲

1発明」という。)と同一でなく,また,甲1発明及び周知慣用技術に基づいて,当

2
業者が容易に発明をすることができたものではないから,新規性及び進歩性を有し,

本件特許に係る明細書(以下,特許請求の範囲及び図面と併せて「本件明細書」と

いう。 の発明の詳細な説明は,
) 本件特許発明を当業者が実施することができる程度

に明確かつ十分に記載されているので,特許法36条4項1号の要件(実施可能要

件)を満たしており,本件特許発明は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載した

ものであるので,特許法36条6項1号の要件(サポート要件)を満たしているか

ら,請求人(原告)の主張及び証拠によっては,本件特許発明に係る特許を無効と

することはできないとするものである(なお,原告は,特許法36条6項2号の要

件(明確性要件)違反も主張していたが,審決に至る過程で撤回した。。


(2) 審決が認定した,甲1発明,本件特許発明1と甲1発明との一致点及び相違

点は次のとおりである。

ア 甲1発明

高電圧・高電流を発生するエネルギー供給回路Bに2本の導線10を介して接続

するための,対の電極8を有し,

ニトロメタンなどの爆発性物質あるいは可燃性物質を充填した

破壊容器6に

銅からなる金属細線で接続した上記対の電極8の他端を該容器に封入した岩盤あ

るいはコンクリート構造物の破壊用の破壊プローブ。

イ 一致点

「高電圧・高電流を発生する高電圧・高電流発生装置に2本の母線を介して接続

するための,2本の脚線を有し,

破砕用物質を入れた

容器に

金属細線で短絡した上記2本の脚線の他端を該容器に封入した岩盤あるいはコン

クリート構造物の破砕用の破砕カートリッジ。」である点

ウ 相違点1

3
容器に入れる破砕用物質に関し,本件特許発明1においては,
「主成分のニトロメ

タンと,メタノールおよびオイルからなるラジコン用のグロー燃料」であるのに対

して,甲1発明においては,「ニトロメタンなどの爆発性物質あるいは可燃性物質」

である点

エ 相違点2

容器に関し,本件特許発明1においては,
「PET容器」であるのに対して,甲1

発明においては,「破壊容器6」である点

オ 相違点3

金属細線に関し,本件特許発明1においては,「銅−ニッケル抵抗細線」であり,

線径が0.4mm,長さが100mmであるのに対して,甲1発明においては,
「銅

からなる金属細線」であり,線径及び長さも不明である点

第3 取消事由に係る当事者の主張

1 原告の主張

(1) 「グロー燃料」に関する実施可能要件の判断の誤り(取消事由1)

審決は,本件特許発明が予定する破砕が「火薬と同等の破砕」であること,
「ニト

ロメタン90%以上含有」の燃料でなければ,本件特許発明が予定する破砕を実施

できないこと,ニトロメタンが90%以上含有されたラジコン用のグロー燃料は「市

販」されていないことを前提としている。

その上で,審決は,「本件特許発明1及び2における『主成分のニトロメタンと,

メタノールおよびオイルからなるラジコン用のグロー燃料』は,当業者であれば,

『ニトロメタン』と市販されている『ラジコン用のグロー燃料』とを混合して製造

することができる」と判断する。

しかし,審決の上記判断は,以下のとおり誤りである。すなわち,本件明細書か

らは,「市販」されている「グロー燃料」を使用することは理解できるが,「市販さ

れている『ラジコン用のグロー燃料』とを混合(する)」ことまでは理解できない。

なお,被告も,本件明細書に記載されたニトロメタンを90%以上含有する燃料

4
は「市販」品である旨主張し,本件特許発明における燃料が「市販」品であるべき

と認めている。

本件では,発明の詳細な説明において,
「主成分のニトロメタンとメタノールおよ

びオイルを含有させた市販のラジコン用の燃料」を用い,
「取扱いが危険な火薬を用

いる場合と同等のコンクリート構造物の破砕」を安全に行う技術を実施可能な程度

に開示がされることを要する。しかし,本件発明の詳細な説明では,市販のニトロ

メタン65%の燃料では「火薬と同等の破砕」を実現することはできず,他方ニト

ロメタン90%の燃料は,
「火薬と同等の破砕」を実現することができるものの,
「市

販」の「グロー燃料」ではないので,実施可能要件を充足しない。

以上のとおり,本件特許発明の詳細な説明の記載は,特許法36条4項1号の要

件を充足しないので,審決の判断は誤りである。

(2) 「高電圧・高電流発生装置」に関する実施可能要件の判断の誤り(取消事由

2)

審決は,
「24000Aを流すこと,放電時間を520μsecにすることが確実

実施することができないという格別の事情も認められない。」と判断する。

しかし,本件明細書の【0016】ないし【0017】で記載された内容で放電

しても,出力は本件特許発明2に係る24000Aにはならない。

すなわち,本件明細書の【0016】では,
「高電圧・高電流発生装置6は,入力

がAC200V,5A,1KVAで充電時間30〜40秒であり,出力は2400

V,24000A,放電時間520μsecである。」とされている。「高電圧・高

電流発生装置」は,単純にコンデンサ,電気抵抗及びインダクタンスからなるLR

C(抵抗・コンデンサ)回路といえるところ,LRC回路の放電電圧・電流の過渡

現象(時間変化)は次式で定義される。




5
L:インダクタンスH

R:抵抗Ω

C:コンデンサ電気容量F

V :コンデンサ電圧
0


t :時間

Rに相当する抵抗は,融点が1290℃であること,甲13の記載,銅−ニッケ

ル線のカタログ等から,0.4Ωであることが確認される。コンデンサの電気容量

Cは10410μFと算出できる。インダクタンスLはケーブル長が30m程度と

推定し,30マイクロHと推定できる。

この回路定数を用いて,
(1)式に以上の数値を代入し計算すると,電圧2400

Vに対して電流のピーク値は6000A弱となり,24000Aを出力することは

ない。

以上のとおり,本件明細書の【0016】ないし【0017】に記載された内容

で放電しても,出力は本件特許発明2の24000Aにならず,本件特許発明2は

実施できない。したがって,審決の実施可能要件を充足するとした判断には,誤り

がある。

(3) 「グロー燃料」に関する明確性要件・サポート要件違反(取消事由3)

ア 審決は,
「被請求人が参考資料として提出した乙第7号証には,レーシングカ

ーに『ニトロメタン』90%含有の燃料を使用する旨が記載されており,当業者の

技術常識を考慮すると,このような燃料をラジコン用の燃料として使用できないと

いう格別の事情は認められない。 『
したがって,ニトロメタン』が90%以上含有し,

残りが『メタノールおよびオイル』からなるものが,
『ラジコン用のグロー燃料』で

はないとまではいうことができない。」と判断する。

しかし,
「ラジコン用のグロー燃料」の主成分はニトロメタンではなくメタノール

であることが当業者にとって常識であり,審決の判断は誤りである。

イ また,特許請求の範囲には,
「主成分のニトロメタンと,メタノールおよびオ

6
イルからなるラジコン用のグロー燃料」(本件特許発明1)と記載されている。

しかし,発明の詳細な説明で開示された技術のうち実施可能な範囲は「ニトロメ

タンが90%以上の場合」に限られているから,特許請求の範囲の記載は,特許法

36条6項1号記載の「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載した

ものであること」との要件を充足しない。

ウ さらに,グローエンジンを用いるラジコン模型の燃料は,最低でも5重量%

以上の潤滑油が欠かせず,メタノールも,30重量%未満にすると燃焼を連続して

持続させる効果が小さくなることに照らすならば,当業者において,ニトロメタン

90重量%以上の燃料をラジコン用の燃料として使用することはあり得ない。

したがって,
「ニトロメタン」を90%以上含有し,残りが「メタノールおよびオ

イル」から構成されるものが「ラジコン用のグロー燃料」であるとする審決の判断

は,前提を欠く。

(4) 一致点・相違点の認定及び容易想到性判断の誤り(取消事由4)

ア 相違点1について

本件特許発明に係る破砕カートリッジでは,空気のない密閉された小さなPET

容器内に燃料が封入されるため,酸素があってはじめて燃焼するメタノールやオイ

ルを封入する意義は皆無である。また,エンジン各部を潤滑させることを目的とす

るオイルを封入する意味も皆無である。本件明細書にはメタノールないしオイルに

つき作用効果を示唆する記載すらなく,メタノール及びオイルは意味のない不要物

であるとの前提で考察されるべきである。

甲1発明の「ニトロメタン」に,わずかでも他の液体(例えば水やアルコール類)

を加えれば,
「ニトロメタンを90%以上含有する燃料」となり,本件特許発明1に

係る「主成分のニトロメタンと,メタノールおよびオイルからなるラジコン用のグ

ロー燃料」になる。「ニトロメタン」と「ニトロメタンを90%以上含有する燃料」

とは,10%以内の濃度の差があるだけであり,両者は,実質的に同一と解すべき

である。

7
以上のとおり,本件特許発明1における「主成分のニトロメタンと,メタノール

およびオイルからなるラジコン用のグロー燃料」と,甲1発明における「ニトロメ

タンを90%以上含有する燃料」との間には,相違点1はなく,仮に相違点1があ

ると解しても,ニトロメタンにわずかに水やアルコール類を加えて薄めることは,

容易に想到し得る。

よって,相違点1の認定は誤りであり,また,相違点1があるとしても,相違点

1に係る構成は,当業者にとって容易想到である。

イ 相違点2について

ポリエチレンテレフタレート(PET)は合成樹脂であって,甲1も破砕容器6

が合成樹脂製でもよいと記載されているから,
「破壊容器6」は「PET容器」に相

当する。仮に,相違点2があると解しても,甲1発明における「破壊容器6」を「P

ET容器」に置き換えることは,容易に想到し得る。

ウ 相違点3について

金属細線として銅製を用いるか銅−ニッケル製を用いるかは,設計事項である。

放電破砕の技術分野においても,金属細線として銅製を用いるか銅−ニッケル製を

用いるかは,当業者が線径や長さとの兼ね合いで適宜選択する設計事項である。

2 被告の反論

(1) 「グロー燃料」に関する実施可能要件の判断の誤り(取消事由1)に対して

原告は「市販」の有無を問題とするが,ニトロメタン65%,75%のグロー燃

料に加えて,ニトロメタン90%のグロー燃料も,市場で容易に入手することがで

きる。また,乙1,乙2,乙4の実験によると,ニトロメタン65%,75%,9

0%のグロー燃料によって,コンクリート供試体が実用的に破砕されている結果が

得られており,市販のグロー燃料を用いて破砕することができることは実質的に裏

付けられている。

ラジコン愛好家は,その日の天候などに応じて,燃料成分を細かく調整しながら

最適条件を模索することがあるので,ベースの燃料をもとに,自身で調整すること

8
自体に何の不自然さも困難さもない。

原告の実験(甲2の3)で破砕できなかったのは,ニトロメタンの絶対量が少な

かったからであり,何ら実施可能性を否定する根拠とすることはできない。

解体現場では,建物全体ではなく,一部を壊したいといった要請もあり,騒音問

題から,一気に破壊することは,むしろ望まれず,壊したい部分だけを選択的に徐々

に調整しながら壊すことが求められている。そこで,破砕対象に見合ったグロー燃

料の量や配合比を選択して使い分けることは,一般に行われている。

甲2の3の試験の場合でも,ニトロメタンの量を増やして破砕しやすくするとい

う調整は困難ではなく,本件特許発明実施に過度な試行錯誤を要求するものでは

ない。

(2) 「高電圧・高電流発生装置」に関する実施可能要件の判断の誤り(取消事由

2)に対して

原告は,抵抗細線の抵抗値を0.4Ωとして,計算している。しかし,本件明細

書には,銅−ニッケル抵抗細線は長さ100mm,直径が0.4mmと規定されて

いるのみであって,抵抗値の記載はなく,抵抗値が0.4Ωに限定されるものでは

ない。銅−ニッケル抵抗細線の市販の特性表(甲13)をみても,銅―ニッケル線

は,成分組成によって抵抗率や融点に選択の幅があることが分かる。

現実に,東京抵抗線製の銅ニッケル線CN10W(長さ100mm,直径0.4

mm,抵抗率0.10Ωmm /m)を用いて,コンクリート供試体の破砕実験を行
2



なったところ,コンクリート供試体が実用に適した状態で破砕できた(乙3)。

原告は,2400Vで6000Aにしか達しないとするが,抵抗値の低い銅ニッ

ケル線であれば,本件明細書の記載に基づいても,24000Aを供給することは

十分に可能である。

さらに,0.4Ωの抵抗線を用いた場合であっても,点火機を直列にしたり並列

にして破砕をすることは,一般に実施されている事項であるから,技術常識も合わ

せれば,請求項記載の高電圧・高電流による実施ができないほど困難ではない。さ

9
らに,点火機のコンデンサの容量に余力があれば,充電時間を長くすることでも対

応できる事項である。

このように,銅ニッケル線の選択,点火機の並列,充電時間の変更などで,高電

圧・高電流を実施する余地は十分にあるので,実施可能性を否定する理由はない。

(3) 「グロー燃料」に関する明確性要件・サポート要件違反(取消事由3)に対

して

原告は,明確性要件違反の主張を撤回しており,審決取消訴訟での主張は許され

ない。

本件特許発明のグロー燃料は,ニトロメタンが主成分であり,残部がメタノール

とオイルからなることは明らかであって,これらの事項は,本件明細書の発明の詳

細な説明に記載された実施例の内容に基づいて,一般的に認識し得る範囲にあるか

ら,本件特許発明は本件明細書に開示された範囲を越えるものではなく,サポート

要件を充足している。

ニトロメタン90%のグロー燃料も直ちに納品を受けることができ,
「混合」する

必要はない。ニトロメタンは,メタノールと可溶であるから,その成分比を調整す

ることに技術的な困難はなく,当業者が適宜調整し得るのは当然であり,混合する

ことに技術的な困難がない以上,混合して調整することを否定する理由はない。

原告は,メタノール及びオイルは不要物であると主張する。しかし,メタノール

及びオイルには,燃焼時にニトロメタンの反応を穏やかにする作用がある。

乙1,乙2の試験では,ニトロメタンの量は同じであるが,破砕結果をみると,

ニトロメタン100%のものは,強く破砕された様子が示されている。他方,ニト

ロメタン65%,75%のグロー燃料の場合は,破砕片がある程度の大きさをして,

適切に破れている。これは,メタノールやオイルが分散混合されていることから,

ニトロメタンの素早い反応が阻害され緩やかになったことによる。

ニトロメタン単体での自己燃焼反応は,非常に速く(0.5 m/s),大きいた

め,補修工事のような小さな反応を繰り返し用いて必要量だけを破砕することには

10
適しない。ニトロメタンがメタノール及びオイルによって互いに分散するため,反

応の進行が穏やかになる。この点は,本件の出願後に出された論文(乙9)の記述と

も合致する。

(4) 一致点・相違点の認定及び容易想到性判断の誤り(取消事由4)に対して

ア 相違点1について

原告は,ニトロメタンが主成分であるとき,メタノールとオイルは不純物であり,

メタノールやオイルを封入する意義はないと主張する。

しかし,メタノールやオイルは,ニトロメタンと均一に分散混合された状態で気

化してニトロメタンの燃焼反応に作用するので,ニトロメタンの燃焼反応の進行を

緩やかにするとの効果を有しており,原告の主張は,失当である。

イ 相違点2について

乙5によると,紙容器は,液がしみ出しており,本件特許発明には使用できない。

塩化ビニルであっても,袋状のものは使用に適さない。甲1の破砕容器6の例示は,

何ら具体性がない。

ウ 相違点3について

乙4の実験によると,本件特許発明の銅−ニッケル線に変えて,鉄クローム線を

用いると破砕ができないことが確認されている。銅ニッケル線を用いることで適切

に破砕ができる一方で,鉄クローム線では破砕ができなかったことは,銅−ニッケ

ル線を選択することが単なる設計事項ではないことを意味している。

第4 当裁判所の判断

当裁判所は,本件特許発明1は,甲1発明に基づいて,容易に想到することがで

きると判断する。その理由は次のとおりである。

1 認定事実

(1) 本件明細書の記載

本件明細書には,次のとおりの記載がある(【図1】【図2】は別紙のとおり。。
, )

「【発明が解決しようとする課題】

11
【0006】

一般に,ダイナマイトやその他の火薬類は,衝撃力,火気,電気に鋭敏であり,

このために取り扱いに許可が必要である。さらに,このダイナマイトなどの火薬類

を市街地で使用することは,振動や騒音の規制により制約されている。このように

火薬類の取扱作業は危険性が高いなどの問題がある。そこで,本発明が解決しよう

とする課題は,これらの許可を必要とする危険な火薬類ではなく,非火薬で取扱が

容易である主成分のニトロメタンとメタノールおよびオイルを含有させた市販のラ

ジコン用の燃料(以下グロー燃料という。 の燃焼による膨張圧を破壊力に使用して


岩盤やコンクリート構造物の破砕カートリッジおよび破砕カートリッジよる岩盤や

コンクリート構造物の破砕方法を提案することである。

【課題を解決するための手段】

【0007】

上記の課題を解決するための本発明の手段では,主成分のニトロメタンと,メタ

ノールおよびオイルからなるラジコン用のグロー燃料を入れた容器,例えばPET

容器に,絶縁被覆銅線の2本を1対の脚線とし,それらの1対の脚線の他端側の各

先端を長短不揃いにずらして切断し,各脚線の先端の一部の絶縁被覆を剥離して各

裸銅線とし,これらの各裸銅線にさらに細い銅−ニッケル抵抗細線をそれぞれ結合

して一対の裸銅線を短絡し,この短絡した銅−ニッケル抵抗細線の部分を上記カー

トリッジに封入し,脚線の一端を封入した容器の外部に引き出したことからなる破

砕カートリッジである。

【0008】

すなわち,請求項1の手段の発明は,高電圧・高電流を発生する高電圧・高電流

発生装置に2本の母線を介して接続するための,2本の脚線を有し,主成分のニト

ロメタンと,メタノールおよびオイルからなるラジコン用のグロー燃料を入れた容

器に銅−ニッケル抵抗細線で短絡した上記2本の脚線の他端を該カートリッジに封

入したことからなる岩盤あるいはコンクリート構造物の破砕用の破砕カートリッジ

12
である。」

「【発明の効果】

【0012】

本発明は上記の手段としたことで,使用のグロー燃料が非火薬であることと,従

来のダイナマイトのような電気雷管も使用しないので,市街地などで免許や許可な

どの規制を受けずに,岩盤やコンクリート構造物の破砕作業が安全に行える。さら

に破砕カートリッジは,脚線,銅−ニッケル抵抗細線,グロー燃料,PET容器か

ら構成されているので,火薬類に比べて取扱が容易であり,安全に破砕作業が行え

るなど,本発明は優れた効果を奏する。

【発明を実施するための最良の形態】

【0013】

本発明を実施するための最良の形態について,以下に図面を参照して説明する。

図1は破砕カートリッジ1の一部破断して模式的に示す正面図である。図2は岩盤

R1に予め穿孔した孔に挿入した破砕カートリッジ1と高電圧・高電流発生装置6

とを接続した一部断面で示す模式図である。

【0014】

本発明の実施の形態では,図1に示すように,破砕カートリッジ1は,PET容

器5に主成分のニトロメタンと,メタノールおよびオイルからなるラジコン用のグ

ロー燃料4が充填される。この破砕カートリッジ1の天板1aより挿入された脚線

2の一方の先端を銅−ニッケル抵抗細線3で短絡した部分を,グロー燃料4ととも

にPET容器5に封入されている。この場合,主成分のニトロメタンは90%以上

を含有し,残りが燃料のメタノールおよびオイルからなる。

【0015】

脚線2は線径0.8mmで2本の1対からなり,脚線2は個々に絶縁被覆が施し

てある。破砕カートリッジ1の封入部分1bは,長短に切断された脚線2の先端の

一部の絶縁被覆を取り除かれ,その部分が線径0.4mmの約100mmの長さの

13
銅−ニッケル抵抗細線3で接続されて短絡されている。この銅−ニッケル抵抗細線

の溶融温度は1290℃である。さらに,脚線2は破砕カートリッジ1より外に1

〜3m出しており,その外部の先端の一部の絶縁被覆を取り除き,母線8に接続で

きる様になっている。

【0016】

図2に示すように,岩盤に予め穿孔した孔7の最深部に破砕カートリッジ1を挿

入し,脚線2の一方を予め穿孔した孔7の外に出して,予め穿孔した孔7に径5m

m以下の砕石9をタッピングしながら,孔口7aまで突き固める。さらに,図2に

示すように,脚線2は母線8を介して高電圧 高電流発生装置6に接続されている。


この場合,岩盤に設ける孔7の数は2個とし,これらの2個の孔7の間隔は1.0

mとし,穿孔径は44mm,穿孔深さ1.0mとする。PET容器5は容器径40

mmで100ccの上記のグロー燃料4を封入している。この高電圧・高電流発生

装置6は,入力がAC200V,5A,1KVAで充電時間30〜40秒であり,

出力は2400V,24000A,放電時間520μsecである。

【0017】

上記の図2に示すように,本手段の破砕カートリッジ1を仕掛け,岩盤R1を破

砕しようとするとき,高電圧・高電流発生装置6より2400V,24000A,

520μsecで高電圧・高電流を母線8,脚線2を介して破砕カートリッジ1の

銅−ニッケル抵抗細線3に供給した。この供給で破砕カートリッジ1内の銅−ニッ

ケル抵抗細線3が溶融スパークし,高温で大衝撃力の火花が発生し,その火花で破

砕カートリッジ1に封入したニトロメタンのグロー燃料4に瞬時に燃焼させ,その

発生する膨張圧力で岩盤R1を破砕した。この場合,仕掛けた1孔による岩盤の破

砕量は,約1.0m×1.0m×1.0mで,従って穿孔数の2孔で2m3 の岩盤

が破砕できた。」

(2) 甲1の記載

甲1には,次のとおりの記載がある(【図1】は別紙のとおり。。


14
「【0004】【0005】

【発明が解決しようとする課題】上記のように,雷管には,比較的容易に爆発する

火薬が装填されているので,周辺機器の漏洩電流やサージ,雷などが発生すると,

雷管にこれらの電流が供給されて爆発してしまう危険があった。

そこで本発明は,上記課題を解決し得る破壊方法の提供を目的とする。」

「【発明の実施の形態】」

「【0011】この破壊装置1は,破壊プローブAと,エネルギー供給回路Bとから

構成され,破壊プローブAは,被破壊物4に形成した装着孔5に装着する破壊容器

6と,この破壊容器6の縮径した開放部に螺合する蓋部材7に対で挿通した電極8

と,破壊容器6内で電極8の先端部同士を接続する金属細線(溶融気化物質の一例

で,例えば銅:Cuからなる)2と,破壊容器6内に充填された圧力伝達用の破壊

用物質(水などの安定性物質や,ニトロメタンなどの爆発性物質あるいは可燃性物

質が用いられる)3とから構成されている。

【0012】前記エネルギー供給回路Bは,各電極8の端子8aに接続された電源

装置11と,この電源装置11と一方の端子8aとの間に直列接続されて,電源装

置11と両端子8aとの間に並列接続されたコンデンサー14に対し所定量の電気

エネルギーを蓄積するよう制御するための充電制御回路12と,この充電制御回路

12と一方の端子8aとの間に接続された放電スイッチ13とから構成されている。

【0013】次に,上記構成の破壊装置1を用いて被破壊物4を破壊する方法を説

明する。例えば,破壊用物質3として水などの安定性物質を用いて破壊プローブA

を製作し,これを被破壊物4に形成した装着孔5に装着する。そして,各電極8に

導線10を介してエネルギー供給回路Bを接続する。また,一方で充電制御回路1

2によってコンデンサー14に対し金属細線2が溶融気化するのに必要な所定量の

電気エネルギーを蓄積する。

【0014】その後,放電スイッチ13をオンすると,電極8を介してコンデンサ

ー14から金属細線2に電気エネルギーが供給されてこれが溶融気化して急激に体

15
積膨張し,この体積膨張に伴う衝撃力によって,破壊容器6が破壊されるとともに

被破壊物4が部分的に破壊したりあるいは亀裂が発生し,一方で,金属細線2が溶

融気化するのに伴う現象,すなわち,放電,火花,発熱,体積膨張に伴う衝撃力な

どで,破壊用物質3も急激に体積膨張(蒸発)するとともにこの破壊用物質3に金

属細線2が溶融気化する際の膨張力が伝達され,破壊用物質3が被破壊物4に発生

している亀裂に入り込んでこれを押し拡げる。このように,金属細線2および破壊

用物質3の膨張に伴う衝撃力でもって被破壊物4が破壊容器6とともに破壊され,

あるいは被破壊物4が脆弱化する。

【0015】また,破壊用物質3としてニトロメタンなどの爆発性物質を用いる場

合,コンデンサー14に電気エネルギーを蓄積して放電スイッチ13をオンすると,

電極8を介してコンデンサー14から金属細線2に電気エネルギーが供給されてこ

れが溶融気化して急激に体積膨張し,この体積膨張に伴う衝撃力で破壊容器6が破

壊されるとともに被破壊物4が部分的に破壊したりあるいは亀裂が発生し,一方で,

金属細線2が溶融気化するのに伴う現象,すなわち,放電,火花,発熱,体積膨張

に伴う衝撃力などで破壊用物質3が爆発して亀裂を押し拡げる。このように,金属

細線2が溶融気化して急激に体積膨張した際の衝撃力および破壊用物質3の爆発力

でもって被破壊物4が破壊され,あるいは脆弱化する。」

「【0023】以下に別の実験例を示す。これは,肉圧を1mm,半径(平均半径)20mm

に形成した塩化ビニル製の破壊容器6を用い,溶融気化物質を銅製の金属細線2と

し,Vc=3000V,C=500μF に設定し,破壊用物質3として 100g のニトロメタン

を用いて,一軸圧縮強度 1000kgf/cm 以上を有した 0.5m の岩石(被破壊物4)を
2 3



破壊する実験を行ったものである。

【0024】この実験において,金属細線2が溶融気化する際の衝撃力のみで破壊

容器6が破壊し,100g のダイナマイトを使用した場合とほぼ同程度の破壊性能でも

って岩石を破壊することができた。」

「【0032】さらに,上記実施の形態では,破壊用物質3として水などの安定性物

16
質や,ニトロメタンなどの爆発性物質を用いたが,これに限定されるものではなく,

「日本産業火薬類会」発行の“新版:産業火薬類”に記載されている火薬類,すな

わち,火薬,爆薬および火工品を用いてもよいし,
「日本化学会」編“化学便覧”に

記載の,火薬類以外の爆発性化合物,硝酸メチル,ニトロ化合物,さらにはガソリ

ン等の燃料を用いてもよく,この場合も上記実施の形態と同様の作用効果を奏し得

る。

【0033】上記実施の形態では,破壊容器6はセラミックあるいは塩化ビニル製

の例を示したがこれに限定されるものではなく,例えば,木材,紙,他の合成樹脂

などの非金属製のもの,あるいは薄厚のアルミニウム,鉄などの金属製のものを用

いてもよく,何れの場合も引張強度は分かっているので,その引張強度に応じた衝

撃力を得るようコンデンサー14の充電エネルギーWc を設定することにより,破

壊容器6をまず破壊し,溶融気化物質が溶融気化するのに伴う現象で,破壊用物質

3も急激に体積膨張するとともに被破壊物4に発生している亀裂に入り込んでこれ

を押し拡げ,被破壊物4を確実に破壊,あるいは脆弱化させることができる。

【0034】

【発明の効果】以上の説明から明らかな通り,本発明は,被破壊物に装着する破壊

容器内に挿入した溶融気化物質に対して,コンデンサーから所定量の電気エネルギ

ーを供給することにより溶融気化物質を急激に溶融気化させ,溶融気化物質が溶融

気化するのに伴う現象を用いて溶融気化物質の周囲に設けた膨張力伝達用の破壊用

物質を体積膨張させて被破壊物を破壊するようにし,溶融気化物質が溶融気化する

際に発生する衝撃力F,破壊容器の平均半径r,破壊容器の肉圧t,破壊容器の引

張強度σの関係をF・r/t≧σに設定し,また,膨張力伝達用の破壊用物質を体

積膨張させて被破壊物を破壊する代わりに,爆発性の破壊用物質を用い,この爆発

性の破壊用物質の爆発力を用いて被破壊物を破壊するようにしたので,溶融気化物

質の膨張に伴う衝撃力のみで破壊容器が破壊され,溶融気化物質が溶融気化するの

に伴う現象で,破壊用物質も急激に体積膨張あるいは爆発するとともにこの破壊用

17
物質が被破壊物に発生している亀裂に入り込んでこれを押し拡げ,溶融気化物質の

膨張力および破壊用物質の膨張力あるいは爆発力でもって被破壊物を確実に破壊,

あるいは脆弱化させることができ,周辺機器の漏洩電流などが発生したとしても,

溶融気化物質が溶融気化するだけの電気エネルギーが供給されない限り破壊用物質

が体積膨張あるいは爆発しないので,装置の取り扱いに際しての安全性が著しく向

上する。」

(3) グロー燃料について

一般にグロー燃料は,ラジコンの燃料に使用されるもので,通常,主燃料のメタ

ノール,燃焼を促進させるニトロメタン及び摩擦を低減するオイルの3成分から構

成され,さらに,メーカーによっては,汚れやさびの発生を防止する目的で微量の

添加剤を加えている。

現在,国内で入手可能なブランドはおよそ20種類近く存在する。

市販品のニトロメタン量としては,ボート用で30パーセントから75パーセン

トを含有するものがあり,特注すればニトロメタン90パーセント,メタノール5

パーセント,オイル5パーセントの組成のものも購入可能である。
(甲11,乙7の

1ないし3)

2 取消事由4(一致点・相違点の認定及び容易想到性判断の誤り)について

(1) 相違点1に係る容易想到性の有無の判断について

ア 本件特許発明1における「主成分のニトロメタンと,メタノールおよびオイ

ルからなるラジコン用のグロー燃料」の技術的意義

本件特許発明1は,ダイナマイトのような許可を要する火薬類の代替として,非

火薬の「グロー燃料」の燃焼による膨張圧を破壊力として使用して,岩盤やコンク

リート構造物を破砕することを目的とする発明である(本件明細書の【0006】。


「グロー燃料」の破壊力は,
「主成分」とされるニトロメタンの燃焼による膨張圧に

より生じると解するのが自然である。

他方,本件明細書には,その他の成分である「メタノールおよびオイル」の作用

18
については,何らの記載がない。

この点,被告は,
「メタノールおよびオイル」には,ニトロメタンと均一に分散混

合された状態で気化してニトロメタンの燃焼反応に作用するので,ニトロメタンの

燃焼反応の進行を穏やかにする効果があると主張する。しかし,そのような効果に

ついては本件明細書に何ら説明がなく,ニトロメタンの燃焼反応の進行が穏やかに

なることが当業者にとって自明であるとも認められないから,被告の主張は採用で

きない。

ところで,破砕対象に見合ったニトロメタンの量や含有率を選択して使い分ける

ことは,解体現場において一般的に行われている(当事者間に争いはない)。

他方,請求項1記載の「主成分のニトロメタンと,メタノールおよびオイルから

なるラジコン用のグロー燃料」は,ニトロメタンの含有率が高い市販の「主成分の

ニトロメタンと,メタノールおよびオイルからなるラジコン用のグロー燃料」に限

定されるものではなく,ニトロメタンの含有率の低い市販の「ニトロメタンと,メ

タノールおよびオイルからなるラジコン用のグロー燃料」にニトロメタンを添加す

ることによって得られる「主成分のニトロメタンと,メタノールおよびオイルから

なるラジコン用のグロー燃料」を含むものと解するのが相当である。そして,前記

のとおり,破砕対象に見合ったニトロメタンの量や含有率を選択して使い分けるこ

とが,解体現場において一般的に行われていることに照らすならば,ニトロメタン

の含有率の低い市販の「ニトロメタンと,メタノールおよびオイルからなるラジコ

ン用のグロー燃料」にニトロメタンを添加することによって調整された「主成分の

ニトロメタンと,メタノールおよびオイルからなるラジコン用のグロー燃料」も,

解体現場において用いられていることが合理的に認められる。

イ 甲1発明におけるニトロメタンの技術的意義

甲1には,破壊容器に充填される爆発性物質あるいは可燃性物質として,ニトロ

メタンが例示されているが(【0011】【0015】【0032】,ニトロメタン
, , )

の純度については何ら記載されていない。しかし,前記のとおり,一般に,破砕対

19
象に見合ったニトロメタンの量や含有率を選択して使い分けることは,解体現場に

おいて一般的に行われていることからすれば,成分調整されていない純度100%

のニトロメタンのみが記載の対象とされていると解すべきでなく,成分調整された

ニトロメタンについても記載の対象とされていると解するのが自然である。

また,甲1発明の「ニトロメタンなどの爆発性物質あるいは可燃性物質」に代え

て,本件特許発明1の「主成分のニトロメタンと,メタノールおよびオイルからな

るラジコン用のグロー燃料」を用いることで,破壊用薬剤としての作用効果に差異

は認められず(前記のとおり,
「メタノールおよびオイル」にニトロメタンの燃焼反

応の進行を穏やかにする効果があるとの主張は,本件明細書及び本件全証拠による

も根拠がない。,そのような破壊用薬剤を生成するための材料として「ラジコン用


のグロー燃料」を用いることも,単に,市販されている既存品の一つを選択したに

すぎないというべきである。

ウ 小括

以上によれば,本件特許発明1と甲1発明との相違点1に係る構成は,当業者が

容易に想到し得たものというべきであって,これを容易想到ではないとした審決の

判断は誤りである。

(2) 相違点3に係る容易想到性の有無の判断について

甲55の1ないし7によれば,発熱のための金属細線として,銅製の細線を用い

ることも銅―ニッケル製の細線を用いることもいずれも周知であると認められる。

そして,放電破砕においても,金属細線は発熱を前提としたものであるから,周知

技術としての銅―ニッケル製の細線を採用することに格別の困難性は認められない。

また,本件明細書においても,
「銅―ニッケル抵抗細線3が溶融スパークし,高温で

大衝撃力の火花が発生し」【0017】
( )と記載されているにとどまり,銅−ニッケ

ル製を用いることによる格別の作用効果については何ら記載されていない。

以上によれば,相違点3に係る構成は,単なる設計的事項であり,当業者におい

容易に想到することができるというべきであり,これと異なる審決の判断は誤り

20
である。

(3) 相違点2に係る容易想到性の有無の判断について

甲1発明の「破壊容器」として合成樹脂のものが例示されている以上(甲1の【0

033】,合成樹脂の一種であるポリエチレンテレフタレート(PET)を用いた


本件特許発明1の「PET容器」との間に実質的な差異はない。

(4) まとめ

以上によれば,本件特許発明1と甲1発明との相違点1ないし相違点3に係る構

成は,いずれも当業者が容易に想到し得るものと認められ,本件特許発明1が甲1

発明からは容易想到ではないとした審決には誤りがある。よって,審決には違法が

あるから,これを取り消すこととして,主文のとおり判決する。



知的財産高等裁判所第1部




裁判長裁判官

飯 村 敏 明




裁判官

八 木 貴 美 子




裁判官

21
小 田 真 治




22
本件明細書の【図1】




本件明細書の【図2】




23
甲1の【図1】




24