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関連審決 審判1999-35097
関連ワード 公然実施(29条1項2号) /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  周知技術 /  同一の発明 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  実施 /  耐用期間 /  加工 /  構成要件 /  具体的態様 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 149号 審決取消請求事件
原告 株式会社偉人
訴訟代理人弁理士 清水善廣
同 阿部伸一
同 辻田幸史
被告 宇部興産株式会社
訴訟代理人弁理士 柳川泰男
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/08/24
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 (1) 特許庁が平成11年審判第35097号事件について平成13年2月28日にした審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「各種建造物屋上の建設工法」とする特許第2126906号の特許(昭和62年2月20日出願(以下「本件出願」という。),平成9年2月10日設定登録。以下「本件特許」という。以下,補正後の明細書及び図面を「本件明細書」という。請求項の数は2である。)の特許権者である。
被告は,平成11年3月2日,本件特許を請求項1に関して無効とすることについて審判を請求した。特許庁は,これを平成11年審判第35097号事件として審理し,その結果,平成13年2月28日,「特許第2126906号の特許請求の範囲第1項に記載された発明についての特許を無効とする。」との審決をし,同年3月12日,その謄本を原告に送達した。
2 特許請求の範囲(請求項1) 「コンクリート等の基礎体5からなる屋上周囲の各立上り部1と床面2との上面に,耐震性,防水性,緩衝性としての機能を有するゴムアスファルト材等からなり各種建造物屋上のコンクリート等の基礎体5に惹起したクラックの他部分への波及防止機能を有するクラック防止層7を接着又は塗布する工程と,前記クラック防止層7の上面に,FRP防水材又はこれに類する適宜材からなり防水機能を有すると共に保護層としての機能を有する防水層11を塗布又は吹付ける工程とを有することを特徴とする各種建造物屋上の建設工法。」(以下「本件発明」という。) 3 審決の理由 別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本件発明は,昭和61年10月初旬から同年11月末までの間に,日本国内において公然実施されたタケダビル屋上防水工事(以下,審決と同じく「認定発明」という。)と同一の発明であるから,特許法29条1項2号に該当し,特許を受けることができないものである,とするものである。
4 審決が認定した,認定発明の内容,本件発明と認定発明との一致点・一応の相違点 (1) 認定発明の内容 「屋上周囲の立上り部と床面との上面に,アルミニウム金属面を有するゴムアスファルトシートを接着する工程と,アルミニウム金属面を有するゴムアスファルトシートの上面に,ガラスマットをのせ,硬化性ポリエステル樹脂をロールで塗布含浸させる工程とを有する建造物屋上の防水工法」 (2) 本件発明と認定発明との一致点 「コンクリート等の基礎体からなる屋上周囲の各立上り部と床面との上面に,ゴムアスファルト材からなる層を接着する工程と,ゴムアスファルト材からなる層の上面に,FRP防水材からなり防水機能を有する防水層を塗布する工程とを有する各種建造物屋上の建設方法」 (3) 本件発明と認定発明との一応の相違点 「相違点1 ゴムアスファルト材からなる層が,本件発明では,耐震性,防水性,緩衝性としての機能を有するゴムアスファルト材からなり各種建造物屋上のコンクリート等の基礎体に惹起したクラックの他部分への波及防止機能を有するクラック防止層であるのに対し,認定発明では,そのような機能を有するクラック防止層であるのか明らかではない点。
相違点2 防水層が,本件発明では,保護層としての機能を有するのに対し,認定発明では,そのような機能を有するのか明らかではない点。」(以下,「相違点1」,「相違点2」という。)
原告の主張の要点
審決は,認定発明の認定を誤り,これと比較すべき本件発明の要旨の認定を誤った結果,両者の相違点を看過し(取消事由1),また,相違点1についての判断を誤った(取消事由2)ものであり,これらの誤りがそれぞれ結論に影響することは明らかであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(相違点の看過) (1) 認定発明の認定の誤り ア 審決は,認定発明について,審判手続において取り調べた証人A(以下「A」という。)の証言(以下「A証言」という。)に基づき, 「 防水工事の内容は,次の工程からなっていた。
a.屋上周囲の立上り部と床面の防水シート敷設予定部にアスファルト系プライマーを塗布する工程。
b.宇部興産株式会社製のアルミニウム金属面を有するゴムアスファルトシート(「RAシート」と呼んでいた。)を,裏面の剥離紙をとって,プライマー塗布面に貼る工程。
c.硬化性ポリエステル樹脂を下塗りし,ガラスマットをのせ,硬化性ポリエステル樹脂をロールで塗布含浸させる工程。
d.カラーの入った化粧剤(トップコート)を塗る工程。」 と認定している(審決書4頁)。
イ しかし,認定発明において,硬化性ポリエステル樹脂の下塗りがあったとした審決の認定は,誤りである。すなわち,A証言から,その事実を認定することは不合理である。
(ア) A作成の証明書(以下「甲5証明書」という。)には,アルミニウム金属面を有するゴムアスファルトシート(以下「RAシート」ということもある。)の上に,ガラスマットを敷設する際に,硬化性ポリエステル樹脂の下塗りをしたとの説明が全くない。同証明書において,プライマーなしでも接着させることができるRAシートの敷設についてはプライマーを塗布したと説明していることと対比すると,硬化性ポリエステル樹脂の下塗りをしたと認めるのは不合理である。
(イ) Aの証人尋問の際用いられた,被告の元社員B作成の証明書(以下「甲8証明書」という。)及び同じく元社員C(以下「C」という。)作成の証明書(以下「甲9証明書」という。)によっても,ゴムアスファルトシートを敷設したとの事実が立証されるだけで,その上面に硬化性ポリエステル樹脂を下塗りしたことを認めることはできない。
(ウ) 「防水ジャーナル 1995年2月号」(以下「甲10文献」という。)には,下地追従性のよいクラック防止層の上面に,FRP層を塗布して2つの材料を複合化する,という本件発明の要旨が,新しい工法として紹介されており,このことからみても,甲10文献発行の10年近く前に実施された認定発明において,硬化性ポリエステル樹脂の下塗りが行われていなかったことは明らかである。
(エ) A証言は,甲10文献が提出された後に突如として,ガラスマットの敷設の際,硬化性ポリエステル樹脂を下塗りしたなどと言及したものであって,その証言には信憑性がないというべきである。
ウ 被告は,「建築工事標準仕様書・同解説 JASS 8 防水工事 1986」(日本建築学会・乙第1号証),特開昭61-277753号公報(乙第2号証)によれば,メンブレン防水層の敷設において,プライマーを下塗りすることは,認定発明の施工当時周知技術であった,と主張する。
原告は,メンブレン防水層の敷設に際し,当該メンブレンの材料に適合したプライマーを下塗りすることが,技術常識であったことを否定するものではないが,本件発明は,クラック防止層の上面への,防水層の塗布,吹き付けを構成要件としているのであり,乙第1,2号証は,そのことに関するものではない。
他方,特開昭52-98526号公報(甲第12号証)には,FRP防水材を下地と接着させずに絶縁することにより,FRP防水材に亀裂,割れ目,変形を生じさせないようにする工法を開示している。すなわち,FRP防水材(層)を,下地に接着させるか否かは,工法の目的によって適宜選択し得るものであり,プライマーを下塗りして接着させることが当然であったなどとはいえないのである。
エ 以上のとおりであるから,A証言には信憑性がなく,認定発明において,硬化性ポリエステル樹脂の下塗りがあるとした審決の認定には,誤りがある。
(2) 本件発明と認定発明との一致点の認定の誤り・相違点の看過 ア 審決は,本件発明と認定発明との一致点の認定において, 「・・・認定発明の「ガラスマットをのせ,硬化性ポリエステル樹脂をロールで塗布含浸させる」は,本件発明の「FRP防水材からなり防水機能を有する防水層を塗布する」に相当する。」(審決書5頁3段) としている。
しかし,この認定は誤っている。
イ 本件発明は,保護層としての機能を有する防水層,すなわち,FRP防水材から成る防水層自体をクラック防止層に対して塗布又は吹き付ける工程を,必須の構成要件としている。
これに対し,認定発明の,アルミニウム金属面を有するゴムアスファルトシートの上面にのせられて硬化性ポリエステル樹脂をロールで塗布含浸させたガラスマットは,硬化性ポリエステル樹脂の硬化後に,FRP防水材として機能するだけである。
審決の上記認定は,認定発明の,FRP防水層を形成する際の硬化性ポリエステル樹脂のガラスマットへの塗布が,防水層自体の塗布に相当すると誤解しているものである。
ウ 被告は,FRP防水層を製造する際に,予め成形した繊維に硬化性樹脂を含浸させる方法が周知である,ということから,認定発明において,硬化性樹脂をガラスマットに塗布すれば,それが下地層(ゴムアスファルトシート)に到達し,結果として,硬化性樹脂を下地層に塗布したことになる,と主張する。
しかし,FRP防水層の成形方法と,それを下地層であるクラック防止層と接着させることとは,何の関係もなく,前記のとおり,認定発明では,硬化性ポリエステル樹脂の下塗りを行っていないのである。
また,ガラスマットの上から硬化性ポリエステル樹脂を含浸塗布しても,当然には,下地層に塗布したことにならず,本件発明の「塗布」には該当しない。このことは,「Hybrid PARAMAIRE」と題する書面(株式会社日本高速耐震研究所作成)(甲第14号証)記載のパラメール工法において,上塗りの2倍の量の硬化性樹脂を,下塗りに用いていることからも,明らかである。被告が現に採用している工法でも,硬化性ポリエステル樹脂を下塗りして,防水層をクラック防止層に塗布している。
なお,原告が提出した検甲第1号証(下塗りをした施工サンプル)及び検甲第2号証(下塗りをしない施工サンプル)によれば,検甲第1号証では,クラック防止層に塗布されたFRP防水層が下地のクラック防止層にしっかりと固着しているのに対し,検甲第2号証では,しっかりと固着していないことが明らかである。
エ 審決が,単に,認定発明の「ゴムアスファルトシートの上面に,ガラスマットをのせ,硬化性ポリエステル樹脂をロールで含浸塗布させる」ことだけでなく,このことに,ゴムアスファルトシートに硬化性ポリエステル樹脂を下塗りしていることを合わせて,それらが,本件発明の「FRP防水材から成り防水機能を有する防水層を塗布する」ことに相当すると判断したものであるとすれば,前記のとおり,認定発明にはその下塗りがない以上,やはり,一致点の認定を誤っていることになる。
オ 本件発明と認定発明との相違点の看過 以上のとおり,審決は,一致点の認定を誤ったため, 「本件発明では,防水層自体をゴムアスファルトシートに塗布する必要があるのに対して,認定発明では,ゴムアスファルトシートの上面にガラスマットをのせ,硬化性ポリエステル樹脂のみを塗布し,FRP防水材自体は,ゴムアスファルトシートに塗布していない。」 との,本件発明と認定発明との重大な相違点を看過したものである。
本件発明と認定発明との重大な相違点を看過している以上,両者が同一であるとした審決の判断は,誤りである。
2 取消事由2(相違点1の判断の誤り) (1) 審決は, 「認定発明における「アルミニウム金属面を有するゴムアスファルトシート」は,ゴムアスファルトを材料としているから,ゴムアスファルトが本来有している防水,緩衝の機能を当然有していると考えられる。また,本件発明では,・・・クラック防止層による地震発生時の震動の緩衝や吸収によって,震動が各部に波及して,亀裂が惹起されるのを防止し,コンクリート等の基礎体にクラックが惹起した場合には,クラックが他部分へ波及するのを防止すると解されるところ,認定発明における「アルミニウム金属面を有するゴムアスファルトシート」は,上記の緩衝の機能を有することに加えて,ゴムアスファルトが本来有する震動の吸収の機能も有していると考えられるから,認定発明における「アルミニウム金属面を有するゴムアスファルトシート」は,耐震の機能を有するとともに,コンクリート等の基礎体に惹起したクラックが他部分へ波及するのを防止する機能を有していると考えられる。
そうすると,相違点1における本件発明の構成は,ゴムアスファルト材の層が有している機能を表現したにすぎないものであって,その機能を明示していない認定発明と本件発明とに,実質的な相違があるとすることはできない。」(審決書5頁末尾の段落〜6頁第2段落) と認定判断している。
(2) しかし,前記のとおり,本件発明では,保護層としての機能を有する防水層,すなわちFRP防水層が,クラック防止層に塗布又は吹き付けられるものである。そのため,ゴムアスファルトシート自体の物性によってのみ,クラック防止層として機能するものではない。
しかるに,審決は,認定発明の,FRP防水層が塗布されていないゴムアスファルトシートが,本件発明のクラック防止層と同一であると判断したものであり,この判断は誤りである。
被告の反論の要点
1 取消事由1(相違点の看過)に対して (1) 認定発明の認定の誤りに対して ア 本件発明において,防水層の敷設における硬化性樹脂の下塗りは,構成要件とされていない。構成要件となっていない事項について,認定発明にあるか否かを検討することは,意味がない。
イ 建築物の屋根などへのアスファルト防水層,シート防水層,塗膜防水層なとのメンブレン防水層の敷設に際しては,下地層と防水層とのなじみをよくするために,材料に適合したプライマーを用いることは技術常識である(乙第1号証)。乙第2号証にも,建築構造物に対する防水,防亀裂積層工法の実施において,グラスファイバー(ガラスマット)を敷設して防水防亀裂層を形成する際,プライマーを下塗りすることが開示されている。
したがって,認定発明の施工においても,プライマーを下塗りする工程は,当然存在したものである。甲5証明書において,このことについて言及していなかったとしても,A証言の信憑性に疑いを生じさせることはない。
審決の認定発明の認定に,原告主張のような誤りはない。
(2) 本件発明と認定発明との一致点認定の誤り・相違点の看過に対して ア FRP防水層を形成する際,予め成形した繊維を絡み合わせた成形体に硬化性樹脂を含浸させる方法が採用されることは周知であり,本件発明においても,同様の工法,すなわち,認定発明と同様の工法が採用されていると理解される。
認定発明において,ガラスマットへ硬化性ポリエステル樹脂を含浸塗布すれば,この樹脂は,ガラスマットの空隙を通過して,下層のゴムアスファルトシートの上面のアルミニウム金属面の表面に到達し,ゴムアスファルトシートとガラスマットの接合に寄与する。これは本件発明の塗布に相当する。
審決に,原告主張のような,一致点認定の誤り・相違点の看過はない。
イ 原告提出の検甲第1号証及び検甲第2号証には,その硬化性ポリエステル樹脂内に,通常の施工ではあり得ないような気泡が存在し,また,硬化性ポリエステル樹脂の使用量にも違いがあるから,クラック防止層とFRP防水層の固着の程度に差があることの証拠としては,不適格であるが,その点をおくとしても,両者とも,固着の程度は十分であり,原告がいうような,下塗りがない場合は固着が弱いなどということはない。
2 取消事由2(相違点1の判断の誤り)に対して 審決の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点の看過)について (1) 認定発明の内容について ア 審決は,A証言によると,認定発明の防水工事の内容は,前記第3の1ア記載の工程a〜dから成っていた事実が認められるとして,硬化性ポリエステル樹脂が下塗りされたことも認定している(審決書4頁1段)。
しかし,審決は,上記認定した防水工事の内容に基づいて,認定発明の内容を前記第2の4の(1)記載のとおり認定しており,ゴムアスファルトシートにガラスマットを敷設する際,硬化性ポリエステル樹脂を下塗りすることを,認定発明の内容として認定していないし,また,同(2)記載の本件発明と認定発明との一致点としても,この下塗りの点を摘示していない(審決書4頁2段〜5頁3段)。
イ 他方,審決は,「〔6〕意見書における被請求人の主張に対して」において,「証人A氏に対する証人尋問における認定(6)c.の「硬化性ポリエステル樹脂を下塗りし,ガラスマットをのせ,硬化性ポリエステル樹脂をロールで塗布含浸させる工程。」は,同じくA氏の作成に係る甲第3号証における証明事項と食い違いがある,即ち,「硬化性ポリエステル樹脂を下塗りし」の工程を加えて,本件発明の内容に一致させているから,タケダビルの防水工事では,A氏によって防水層の塗布が行われていなかったことが推測され,クラック防止層への防水層の塗布を構成要件とする本件発明と認定発明とは,防水層の塗布工程において構成が全く異なる」(審決書6頁5段)と,原告の主張を摘示した上で,「証人A氏の証言によれば,RAシートを床面に貼り付けたあと,その上に直にガラスマットを載せてもつかないので,普通,必ず下塗りをする,とのことであり,甲第3号証に記載のない「硬化性ポリエステル樹脂を下塗りし」の工程が加わっていることで,防水工事の技術的な内容が格別変更されているとは考えられない。そして,上記〔5〕3.「本件発明と認定発明との対比・判断」に記載したように,認定発明の「ガラスマットをのせ,硬化性ポリエステル樹脂をロールで塗布含浸させる」は,本件発明の「FRP防水材からなり防水機能を有する防水層を塗布する」に相当するといえる」と説示している(審決書6頁末段〜7頁1段)。
審決の上記説示からすれば,審決は,認定発明の防水工事において,硬化性ポリエステル樹脂の下塗りがあるか否かにより,認定発明の技術的内容に異同があるとはいえないとして,下塗りの有無とは関係なく,認定発明が,本件発明の「FRP防水材からなり防水機能を有する防水層を塗布する」との構成を有していると判断したものということができる。
ウ 以上からすると,審決は,硬化性ポリエステル樹脂を下塗りするとの構成を,認定発明の構成として認定したものでないことは明らかである。
そうすると,上記下塗りの事実がないとして,審決の認定発明の認定を非難する原告の主張は,その前提を欠くもので,失当である。
エ なお,原告の主張に鑑み,以下,念のため,原告が問題とするA証言の信憑性について検討することとする。
(ア) 原告は,A作成の甲5証明書には,硬化性ポリエステル樹脂の下塗りについての説明がなく,甲8証明書及び甲9証明書によっても,その下塗りしたことは認められないのに,A証言は,甲10文献が提出された後に,突如として下塗りの事実に言及したものであって,信憑性がないと主張する。
乙第1号証(「建築工事標準仕様書・同解説 JASS 8 防水工事」(日本建築学会・昭和61年3月1日発行))には,メンブレン防水層の施工においては,「防水層と下地とをなじみよく密着させる目的で,下地層に最初に塗布する液状の材料」であるプライマーを用いることが記載されている。これによれば,防水層の施工において,下地層との密着度を高めるために,樹脂等を下塗りすることは,認定発明の施工当時,周知のものであったことが認められ,原告も,かかる技術常識の存在自体については,否定していない。このことと,認定発明において,RAシートの上面のアルミニウムとガラスマットとの密着度が良くないことは明らかであることからすると,審判手続におけるAの「我々専門工事業者としては,ガラスマットを直にRAシートに載っけてもくっつかないことは誰でもわかります。普通,必ず下塗りはすることになっています。」(甲第11号証9頁)との証言は,技術常識にかない自然かつ合理的なものということができる。
また,甲5証明書に下塗りの点が説明されていないことに関して,Aは,「私は防水工事が専門ですので,こういう文面を見ただけで,普通はそういう風に認識します。」と述べており(甲第11号証9頁),硬化性ポリエステル樹脂の下塗りを当然含めた趣旨で,甲5証明書の「そのアルミニウム金属面をガラスマットで覆う工程」と表現したものであることが認められるのであって,甲5証明書に下塗りの文言が記載されていないからといって,そのことから,A証言と甲5証明書が矛盾しているとか,A証言に信憑性がないということはできない(また,甲5証明書に,防水シート敷設予定部にプライマーを塗布する工程の記載があることは,上記のようにいうことの妨げとなるものではない。)。
なお,甲8証明書,甲9証明書は,いずれもタケダビルの屋上防水工事の実施状況を説明するものであるから,これらに具体的な工事内容である硬化性ポリエステル樹脂の下塗りのことが記載されていないとしても,そのことはA証言の信憑性を否定する理由とならないことはいうまでもない。
(イ) 原告は,甲10文献からみても,その10年近く前に実施された認定発明において樹脂の下塗りが行われなかったことは明らかであると主張する。
しかし,甲10文献は,平成6年9月から11月の間に実施されたある屋上防水工事の内容について報告したものであって,このことから直ちに,防水層の施工において下地層に樹脂等を下塗りすることが,このときに初めて施工されたとか,このときまでは一般的に行われていなかったといえないことはいうまでもなく,原告の上記主張は失当である。
(ウ) また,原告が引用する甲第12号証は,下地の亀裂等により防水層に亀裂や変形等が生じるのを防ぐために,防水層と下地層を絶縁させる工法を開示するものであるが,このことは,工法の目的に応じて,防水層と下地層を絶縁させるか密着させるかを選択し得たということを示すにとどまるものであって,防水層の施工において,下地層との密着度を高めるために,樹脂等を下塗りすることが周知の技術であったことを否定するものではない。
(エ) 以上のとおり,硬化性ポリエステル樹脂の下塗りをしたとするA証言に信憑性がないとの原告の主張は理由がない。
(2) 本件発明と認定発明との一致点・相違点の認定について ア 本件明細書には,次の記載がある。
(ア) 「〔従来の技術〕・・・ 従来の屋上床面に関する各種建設工法においては,コンクリート基礎部にクラック等が生じた場合,コンクリート基礎部の上方に積層配設される各種床面構成材に対して該クラックからの悪影響を除去するような何らの措置も採られていなかった。
従って,従来,屋上床面のコンクリート基礎部に生じたクラックが,その上面に積層配設される各床面構成材に直接的な悪影響を及ぼし,結果的に床面部全体の耐用期間が短くなってしまっていた。・・・」(甲第3号証1頁右欄) (イ) 「〔発明が解決しようとする課題〕 本発明は,・・・その目的とするところは,各種材よりなる建造物屋上等における床面全体と入隅部とに強固な耐震性,耐久性及び防水性が発揮できると共に,ドレン部からの漏水現象を防止しつつ屋上部における各構造部の耐久性を一層発揮し得るようにした建設工法を提供することにある。
〔課題を解決するための手段〕 本発明に係る建設工法は,各種建造物の屋上等における床面全体と入隅部,床目地部と,排水用のドレン部とに大別され,当該各部において下記の如く構成の工法を採るものである。
床面全体と入隅部に関する工法は,コンクリート等の基礎体からなる屋上周囲の各立上り部と床面との上面に,耐震性,防水性,緩衝性としての機能を有するゴムアスファルト材等,例えば商品名RAシート(宇部興産製),商品名FBシート(日本ラテックス加工製)等からなり各種建造物屋上のコンクリート等の基礎体に惹起したクラックの他部分への波及防止機能を有するクラック防止層を接着又は塗布する工程と,前記クラック防止層の上面に,FRP防水材等又はこれに類する適宜材からなり防水機能を有すると共に保護層としての機能を有する防水層を塗布又は吹付ける工程とを有するものである。・・・ 床目地部に関する工法は,屋上の床面の全面に縦・横適当な範囲に区分された断面V字状の溝部を形成したと共に,該溝部を最下面に位置するコンクリート等の基礎体の上面に硬質発泡スチロール材からなる補強部層を配設しつつ該上面に,耐震性,防水性,緩衝性としての機能を有するゴムアスファルト材等,例えば商品名RAシート(宇部興産製),商品名FBシート(日本ラテックス加工製)等からなり各建造物屋上のコンクリート等の基礎体に惹起したクラックの他部分への波及防止機能を有するクラック防止層を積層し,上記クラック防止層上に弾性系シーリング剤等からなる緩衝部を形成配設し該上面に,FRP防水材等又はこれに類する適宜材からなり防水機能を有すると共に保護層としての機能を有する防水層を積層し,更に,上記防水層の上面の溝部内に前記緩衝部と同剤からなる緩衝部を形成配設するものである。」(同号証1頁右欄〜2頁左欄) (ウ) 「〔作用〕 以下,本発明に係る建設工法の各作用に就いて説明する。
前記床面全体と入隅部に関する工法によれば,地震等の震動発生時の際,震動がクラック防止層にて緩衝され吸収されることになるので,振動がこれ以外の各部に波及して亀裂等が惹起されるのを防止することが可能となる。更に,上記作用と相まって,床面と入隅部全体を構成する各部材料の膨張或いは伸縮現象に対し,クラック防止層,防水層が柔軟に対処することになるので,各部の防水と共に耐久性を一層発揮できる。
前記床面全体と入隅部工法における各作用は,入隅部の立上り部と床面の境界部分に硬質発泡スチロール材よりなる傾斜部を形成内蔵し,その上面に架橋化発泡ポリエチレン層とFRP防水材等よりなる防水層とを順次積層するような工法においても同様に発揮できる。
前記床目地部に関する工法によれば,地震等の振動発生時の際,振動が床面の全面に縦・横適当な範囲に区分された断面V字状の溝部中の緩衝部,クラック防止層にて緩衝され吸収されることにより,振動がこれ以外の各部に波及して亀裂等の悪現象惹起を防止することが可能となる。上記作用と相まって,床面全体を構成する各材料の膨張或いは伸縮現象に対し,緩衝部,クラック防止層,防水層が柔軟に対処することになるので,各部の防水と共に耐久性を一層発揮できる。」(同号証2頁右欄) (エ) 「〔発明の効果〕 以上詳述した本発明によれば,床部,入隅部及び床目地部に,耐震性,防水性,緩衝性としての機能を有すると共に各種建造物屋上のコンクリート等の基礎体に惹起したクラックの他部分への波及防止機能を有するクラック防止層と,保護層として機能する防水層との各層を形成しつつこれらの各層を積層配設した他,ドレン部に防水層の剥離防止措置を施したことにより,各種建造物の屋上等における入隅部と床面に強固な耐震性,防水性,耐久性が発揮できると共に,ドレン部からの漏水現象を防止しつつ屋上部における各構造部の耐久性を一層発揮し得る建設工法を提供できる。」(同号証3頁左欄) イ 本件発明の特許請求の範囲は,第2の2記載のとおりであり,防水層を塗布又は吹付ける工程の態様に関して,特許請求の範囲には具体的な記載がない。
また,本件明細書の記載においても,文言としては,防水層は,FRP防水材料又はこれに類する適宜材からなり,クラック防止層の上に塗布又は吹き付けられ,あるいは,順次積層される,という程度の説明しかなく,塗布又は吹き付けの具体的態様について限定する記載はない。
もっとも,本件発明の特許請求の範囲には,「屋上周囲の各立上り部1と床面2との上面に・・・クラック防止層7を接着又は塗布する工程」と記載されているのに対し,防水層に関しては,「クラック防止層7の上面に・・・防水層11を塗布又は吹付ける工程」と記載されているから,クラック防止層と防水層は,塗布という工程により施工され得る点で共通する一方,クラック防止層は,床面等に接着され得るものであるのに対し,防水層は,少なくともクラック防止層に接着されるものとは限らず,また,吹き付けという工程によっても施工され得るものであるということができる。そして,防水層において,クラック防止層への接着が,少なくとも必須の構成要件でないことは,上記特許請求の範囲の記載のみならず,発明の詳細な説明にもそのような記載がないことや,発明の詳細な説明に見られる「積層」,「配設」という言葉が,必ずしもある層がその直下の層へ接着されていることを含意するものでないことからも,根拠付けることができる。
また,本件発明は,クラック防止層の上面に,防水層を「塗布又は吹付ける」としており,防水層を構成する材料を,塗布又は吹き付けるとしているものではない。ところで,「層」とは,重なること,重なり,であり(広辞苑 第四版),通常の意味としては,「層」そのものは,塗布されたり,吹き付けられたりするものではなく,何かが塗布されたり吹き付けられたりした結果,重なりとしての層が形成されるものである。そうすると,本件発明のクラック防止層の上面に「防水層11を塗布又は吹付ける工程」という文言は,若干明瞭さを欠くものではあるが,日本語の通常の意味としては,クラック防止層の上面に,防水層を形成するために何かを塗布又は吹き付けるという方法を用いて防水層を形成する工程,という意味に理解するのが最も自然であるということができる。
原告は,防水層の「塗布又は吹付け」について,「「・・・防水層11」は,・・・補強繊維を含ませた状態で硬化性樹脂を塗布する場合と,補強繊維を含ませた状態の硬化性樹脂を吹き付ける場合とを含め,「塗布又は吹付け」としているもので・・」(原告準備書面(第5回)7頁)として,ガラス繊維を含む,硬化する前の樹脂を塗ることを「塗布」に,吹き付けることを「吹付け」に対応させていると理解できる主張をしている。しかし,本件発明の「塗布」の解釈について,原告が主張するような態様のもの(即ち,将来形成される層と同一成分・組成のものを塗布するもの)もその中に含まれると理解することはできるものの,それに限定されるべき理由がないことは,上述したところから明らかである。
ウ そこで,認定発明において,本件発明の防水層を「塗布」する工程を有するかどうかについて検討する。
(ア) 一般的に「塗布」とは,一面に塗りつけることであり,「塗る」とは,物の面に粉末や液体などをなすりつけることであるから(広辞苑 第四版),本件発明の「防水層を塗布」するとは,前記のとおり,クラック防止層(認定発明ではRAシート)の上面に,防水層を形成するために何らかの液体等を塗りつけることにより防水層を形成することと解すべきである。そして,前記のとおり,本件明細書には,塗布の具体的な態様について記載されておらず,塗布の程度についての限定もないのである。
(イ) 認定発明においては,「アルミニウム金属面を有するゴムアスファルトシートの上面に,ガラスマットをのせ,硬化性ポリエステル樹脂をロールで塗布含浸させる」工程をその構成の一部とするものであり(甲第5号証,第7号証,第11号証),審決は,この「認定発明の「ガラスマットをのせ,硬化性ポリエステル樹脂をロールで塗布含浸させる」は,本件発明の「FRP防水材からなり防水機能を有する防水層を塗布する」に相当する」(審決書5頁3段)として,「ゴムアスファルト材からなる層の上面に,FRP防水材からなり防水機能を有する防水層を塗布する工程」を本件発明と認定発明との一致点と認定した(審決書5頁4段)。
(ウ) 原告は,本件発明は,FRP防水材からなり防水機能を有する防水層自体をクラック防止層に対して塗布又は吹き付ける工程を必須の構成要件とするものであり,審決は,認定発明の,硬化性ポリエステル樹脂のガラスマットへの塗布が防水層自体の塗布に相当すると誤解していると主張する。
しかし,上記のとおり,本件発明の「防水層を塗布」するとは,クラック防止層の上面に,防水層を形成するために何らかの液体等を塗りつけることにより防水層を形成することを意味するものと解されるところ,原告が提出した検甲第2号証(及び原告の平成14年11月28日付け証拠説明書)によると,硬化性ポリエステル樹脂の下塗りをせずに,ゴムアスファルトシートの上に載せたガラスマットに硬化性ポリエステル樹脂を塗布含浸させることにより(これは,下塗りの事実を捨象した,審決の認定する認定発明の構成となっている工程である。),FRP防水層(ガラスマットと,これに塗布含浸された硬化性ポリエステル樹脂が硬化したもの)が,ゴムアスファルトシートにくっついていることが認められるのであって,これは,カラスマットに硬化性ポリエステル樹脂を塗布含浸させることにより,その樹脂が下地層であるゴムアスファルトシートの上面に到達し,一定の接着機能を果たしていることによるものであると認められる。
そうすると,認定発明においては,クラック防止層(ゴムアスファルトシート)の上に載せたガラスマットに硬化性ポリエステル樹脂を塗布含浸することにより,その樹脂がクラック防止層の上面に到達し,樹脂が塗りつけられたと同様の状態を生じているとともに,その硬化した樹脂とガラスマットとが一体となって,防水層(FRP防水層)を形成しているものであって,上記のような硬化性ポリエステル樹脂の塗布含浸も本件発明の「塗布」に当たるものであり,認定発明の上記工程は,本件発明におけるクラック防止層の上面に防水層を塗布する工程に相当するものと認めることができるというべきである。
したがって,審決の上記認定に誤りはなく,原告の上記主張は,認定発明との対比の前提となる本件発明の「防水層の塗布」についての誤った理解を前提とするものであり,失当である。
(エ) 原告は,ガラスマットの上から硬化性ポリエステル樹脂を塗布含浸させても,当然には,下地層に塗布したことにならないし,また,下塗りがされないと,FRP防水層が下地層であるクラック防止層にしっかりと固着していないと主張する。
しかし,上記のとおり,検甲第2号証によれば,樹脂がゴムアスファルトシートに到達していることが認められるから,これを塗布ということは十分可能であるし,また,前記のとおり,本件発明の特許請求の範囲の文言上,防水層とクラック防止層との接着が必須の構成要件とは認められないのであり,まして,塗布して形成された防水層と下地層との接着の程度が強固でなければならないとの限定もないのであるから,原告の上記主張は失当である。
以上のとおりであるから,審決に,原告が主張するような一致点認定の誤り・相違点の看過があると認めることはできない。
2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)について 原告の主張は,認定発明に本件発明の「防水層の塗布」がないことを前提とするものであるが,認定発明において,上記の塗布があったといえることは既に述べたとおりであり,原告の主張は,その前提を欠き,失当である。
本件において,本件発明のクラック防止層の機能が認定発明にもあるとした審決の判断に誤りはない。
3 結論 以上のとおりであって,原告が主張する取消事由は,いずれも理由がなく,その他,審決に,これを取り消すべき誤りがあるとは認められない。
よって,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官 設樂隆一
裁判官 高瀬順久
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