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事件 平成 24年 (ワ) 14905号 特許を受ける権利帰属確認請求事件
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裁判所 東京地方裁判所 
判決言渡日 2013/05/16
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
判例全文
判例全文
平 成25年5月16日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

平成24年(ワ)第14905号 特許を受ける権利帰属確認請求事件

口頭弁論終結日 平成25年4月26日

判 決

千葉県君津市<以下略>

原 告 A

同訴訟代理人弁護士 角 謙 一

東京都千代田区<以下略>

旧商号 新日本製鐵株式会社

被 告 新日鐵住金株式会社

同訴訟代理人弁護士 増 井 和 夫

橋 口 尚 幸

齋 藤 誠 二 郎

主 文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

原告と被告との間において,原告が,別紙発明目録記載の請求項1〜7の各

発明(以下「本件各発明」と総称する。)について,特許を受ける権利を有す

ることを確認する。

第2 事案の概要

本件は,原告が,被告に対し,被告が特許出願をした本件各発明について,

原告が特許を受ける権利を有することの確認を求めた訴訟である。

1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨に

より容易に認められる事実)

1
(1) 原告は,昭和43年に被告(当時の商号は八幡製鐵株式会社)に入社し,

平成9年に被告の子会社である株式会社日鐵テクノリサーチ(以下「テクノ

リサーチ社」という。)に出向した後,平成16年7月1日に被告からテク

ノリサーチ社へと転籍した。原告は,平成21年6月30日に同社を定年退

職したが,同年7月1日に嘱託として再雇用され,平成22年6月30日に

嘱託解職となった。

(2) 原告は,平成20年に,本件各発明を発明した(ただし,発明の完成時

期につき,原告は少なくとも請求項1記載の発明については同年3月1日で

あると,被告は同年10月29日であると,それぞれ主張する。また,原告

が本件各発明を単独でしたと主張するのに対し,被告は原告と被告の従業員

共同発明である旨主張している。)。

(3) 本件各発明は,ドラフトサーベイ(喫水検査)に用いるものである。ド

ラフトサーベイとは,船舶について空荷の状態と積荷の状態の喫水(船底か

ら水面までの垂直距離)の差を調べることで,貨物の重さによって排除され

た海水の容積を割り出し,運賃算定や商取引の基準となる積荷の重量を計算

することを意味する。ドラフトサーベイは,港湾運送事業法2条1項7号

定の「鑑定」に当たり,国土交通大臣の許可を受けた者しかその事業を行う

ことができない(同法4条3条6号)。

(4) 本件各発明の原理は,U字管マノメーター(圧力計)を用いたもの,す

なわち,透明なチューブに水を入れ,U字のように両端を高い位置に設置し

て使用するものである。マノメーターを用いた計器は従来から存在していた

が,それらの計器は,@ 水には空気が含まれているため,時間が経つと泡

が発生して測定ができなくなり,また,使用の都度チューブの水を入れ替え

るのも煩雑であること,A 大型船ではチューブの長さが数十mに及び,設

置及び収納に時間を要することから,使い勝手が悪く利用されていなかった。

本件各発明の技術思想は,@ チューブ内の水に泡が発生することを防止す

2
る ,A チューブのもつれやすさを解消するという課題を解決するため,@

長尺透明チューブに気泡を発生しない液体を収容する,A 長尺透明チュー

ブを,中央部を止端とする2本巻でリールに巻き付けるなどの構成を採用す

ることにより,船舶の左右の傾斜を,簡便な手法で,正確に測定することが

できるようにしたことにある。(甲1の2)

(5) 平成19年4月1日に施行されたテクノリサーチ社の「特許等の発明考

案規定」(以下「本件発明考案規定」という。)には,従業員がした会社の

業務範囲に属する発明について,その特許を受ける権利がテクノリサーチ社

承継される旨の定めがある。(乙1)

(6) 被告は,テクノリサーチ社との間の覚書に基づき,本件各発明につき特

許を受ける権利をテクノリサーチ社から承継したとして,平成22年1月4

日,本件各発明についての特許出願をした。

2 争点及びこれに関する当事者の主張

本件各発明が職務発明(特許法35条)に当たるとすれば,原告の特許を受

ける権利は本件発明考案規定によりテクノリサーチ社に承継されたことになる。

本件の争点は本件各発明が職務発明であるか,いわゆる自由発明であるかであ

り,争点に関する当事者の主張は次のとおりである。

(被告の主張)

本件各発明は,原告が,テクノリサーチ社の従業員として,テクノリサー

チ社が被告から委託されていた原料船の喫水検査管理業務に従事する中で,

波の荒い沖側の喫水を正確にかつ効率的に把握するために発明したものであ

る。また,本件各発明の試作品及び実施品の製造費用並びに本件各発明の特

許出願に関する費用は,すべてテクノリサーチ社及びその親会社である被告

が負担している。したがって,本件各発明は,本件発明考案規定が適用され

る発明に当たり,職務発明に該当するから,本件各発明について特許を受け

る権利は発明の完成と同時に原告からテクノリサーチ社に承継され,原告は

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そ の権利を喪失した。

(原告の主張)

本件各発明は,以下のとおり,原告の自由発明であるから,特許を受ける

権利がテクノリサーチ社に承継されることはない。

すなわち,本件各発明はドラフトサーベイに用いるものであるところ,ド

ラフトサーベイは,港湾運送事業法の規定上,国土交通大臣の許可を受けた

者しかその事業を行うことができない。ところが,テクノリサーチ社は,そ

の許可を受けておらず,将来的にもそのような許可を受けてドラフトサーベ

イを行う予定はないから,本件各発明はテクノリサーチ社の業務範囲に属し

ない。また,テクノリサーチ社が原告に対してドラフトサーベイに用いる本

件各発明を職務として行うよう命令したこともない。原告は,テクノリサー

チ社への転籍以降,その職務として,あくまでドラフトサーベイの是正活動

(厳正化活動)に従事していたのであって,ドラフトサーベイ自体を行って

いたのではないから,ドラフトサーベイに用いる本件各発明は,職務発明

はなく,原告の自由発明である。

第3 当裁判所の判断

1 原告が本件各発明をした当時テクノリサーチ社の従業員であったこと(本件

各発明の完成時期については前記のとおり原告及び被告の主張が食い違うが,

いずれの主張する時点でもテクノリサーチ社の従業員であったから,この点は

本件の判断に影響しない。本件各発明が単独発明であるか共同発明であるかに

ついては,後記2項で判示する。),本件発明考案規定に従業員の発明につい

特許を受ける権利がテクノリサーチ社に承継される旨の定めがあることは,

前記前提事実のとおりである。そうすると,本件各発明がその性質上テクノリ

サーチ社の業務範囲に属し,かつ,本件各発明をするに至った行為がテクノリ

サーチ社における原告の職務に属すると認められれば,本件各発明について特

許を受ける権利は原告からテクノリサーチ社へ承継されたことになるので(特

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許 法35条1項,2項参照),以下,この点について検討する。

(1) 後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

ア テクノリサーチ社は,平成16年ころ以降,被告から委託を受けて,被

告の製鉄所に入港する原料船のドラフトサーベイに関する業務(喫水検査

管理業務)を行っていた。被告との業務委託契約によりテクノリサーチ社

が行うとされた業務は,@ 原料の検量に関わるデータの収集,解析及び

管理並びに課題抽出及び改善活動の実施,A 原料の検量に立会同席した

上での課題抽出及び改善案の提案,B 原料の検量等に関する船会社との

打合せ及び検査会社の指導,C 各製鉄所で喫水検定項目が適切に行われ

ていることの確認及び指導業務等であり,ドラフトサーベイに関する業務

の厳正化に向けた改善活動の推進を内容とするものであった。(甲2,3,

17,乙3)

イ 原告は,平成16年ころから,テクノリサーチ社の従業員として,ドラ

フトサーベイの是正活動に従事しており,平成19年2月ころには,「豪

州定期船における問題点と是正対策の概略(案)」と題する書面を作成し,

ドラフトサーベイの現状に問題点があることを指摘した上で,抜取りでド

ラフトサーベイを実施すること,入港時及び出港時に簡易サーベイを実施

することなどの各種活動案を提示していた。(甲3,12,13)

ウ 原告は,平成19年11月ころ,被告の鉄工所の停泊地で水チューブを

利用した傾斜計を紹介され,この方法によれば正確な測定をすることがで

きるのではないかと考え,平成20年2月ころ,本件各発明の試作品であ

る水チューブ測定器を作成した。原告は,その材料となるホース,リール,

スケール等の部材をホームセンター等で購入し,後日,テクノリサーチ社

から立替費用の支払を受けた。(甲26,乙4の1〜14)

原告は,同月22日,船会社の協力を得て,被告の製鉄所に入港した船

舶にテクノリサーチ社のドラフトサーベイ担当者及び被告の関係者と共に

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乗 船し,本件各発明に係る傾斜測定器(水チューブによる測定器)の試作

品を用いた測定精度の調査等のテストを行った。この段階では,ホース内

部の水に泡が発生したため,測定は失敗に終わった。原告は,同年3月1

日ころ,水道水の代わりに沸騰させた水を用いることにより,泡の発生を

防止することに成功した。(甲4,26,乙17の1及び2)

原告は,同年4月4日,被告の製鉄所に入港した船舶に乗船して傾斜測

定器のテストを行い,新日本検定協会への説明会を実施した。翌5日から

は大分に出張し,被告の製鉄所で原料船に乗船し,オーストラリアにおけ

る水チューブの使用状況について聞き取り調査を行った。原告は,その後

も,テクノリサーチ社における自らの職場及び日本各地の被告の製鉄所等

において,傾斜測定器の精度調査,取扱説明書の作成,他の傾斜計の見聞

等を行った。(甲8,9,26,乙18)

エ 原告は,平成20年8月ころ,テクノリサーチ社に対し,本件各発明の

実施品である傾斜測定器30台を外注により製作することを依頼した。テ

クノリサーチ社は株式会社イハラ等にその製作を発注し,同年10月ころ

に納品を受けた。テクノリサーチ社は,その製作及び補修費用として15

9万6000円を負担した。(甲26,乙5〜8の各1及び2)

オ 被告は,本件各発明について,テクノリサーチ社との間の覚書に基づき,

テクノリサーチ社が原告から承継した特許を受ける権利をテクノリサーチ

社から承継したとして,平成22年1月4日に特許出願をした。被告は,

特許出願に係る特許庁の手続費用及び代理人弁理士の手数料等を負担した。

原告は,上記弁理士が出願手続をすることをあらかじめ了解していた(乙

2,9〜12,19の1及び2)

(2) 上記事実関係によれば,本件各発明は,ドラフトサーベイをより正確か

つ簡便に行うことのできる傾斜測定装置の発明であり,テクノリサーチ社が

被告の委託を受けて行っていたドラフトサーベイの改善業務と直接関連する

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も のであるから,その性質上,テクノリサーチ社の業務範囲に属すると認め

られる。

また,原告は,テクノリサーチ社の従業員としてドラフトサーベイの改善

業務に従事しており,その問題点を指摘して改善案を提示することが期待さ

れていたのであるから,ドラフトサーベイを正確かつ簡便に行えるようにす

るための装置を発明することは,その職務に含まれると評価することができ

る。そして,原告が,テクノリサーチ社の費用負担の下,同社及びその親会

社である被告の施設等において水チューブを用いた傾斜測定器の調査を行う

ことなどを通じて本件各発明を完成させたことに照らしても,これを発明す

るに至った行為は原告の職務に属すると判断することが相当である。

そうすると,本件各発明は職務発明(特許法35条1項)に当たるから,

本件各発明について特許を受ける権利は,本件発明考案規定に基づき,遅く

とも本件各発明の特許出願がされた平成22年1月4日までに,原告からテ

クノリサーチ社に承継されたと認められる。

(3) これに対し,原告は,本件各発明はドラフトサーベイに用いるものであ

るところ,ドラフトサーベイは港湾運送事業法所定の許可を受けた者しか行

うことができないから,その許可を受けておらず,将来的にも許可を受ける

予定のないテクノリサーチ社の業務範囲に属することはなく,その従業員で

ある原告の職務に属することもない旨主張する。

そこで判断するに,ドラフトサーベイを行えるのが上記許可を受けた者に

限られることと,ドラフトサーベイに関する業務の改善を図り,これに用い

る装置の発明を行うことは別問題であって,許可を受けていない者が,ドラ

フトサーベイそれ自体を行うのではなく,その改善活動に携わり,装置の発

明をすることが妨げられることはないと解される。

したがって,原告の上記主張を採用することはできない。

2 なお,被告は,本件各発明は原告と被告の従業員の共同発明である旨主張す

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る ところ,そうであるとすれば,上記従業員の同意がない限り,本件各発明に

ついて特許を受ける権利の原告の持分はテクノリサーチ社に承継されないこと

になる(特許法33条3項)。原告は,本件各発明が原告の単独発明であると

主張しており,これが共同発明とされた場合でも特許を受ける権利の持分権の

確認を求めるものではないが,念のため検討すると,証拠(乙14〜16)及

び弁論の全趣旨によれば,本件各発明が共同発明であるとされた場合であって

も,原告の持分の承継については上記従業員の同意があるものと認められる。

したがって,本件各発明が単独発明であるか共同発明であるかは,本件の結論

に影響しないということができる。

第4 結論

以上によれば,原告が本件各発明について特許を受ける権利を有していると

は認められず,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとして,主

文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部



裁判長裁判官 長 谷 川 浩 二




裁判官 上 田 真 史




裁判官 植 田 裕 紀 久




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( 別紙)

発 明 目 録



出願番号 特願2010−17

出願日 平成22年1月4日

出願公開番号 特開2011−137776

出願公開日 平成23年7月14日

出願人 新日本製鐵株式会社

発明の名称 傾斜測定装置

特許請求の範囲

【請求項1】

被測定物の傾斜を測定する装置であって,

(a) 気泡が発生しない液体を,両端部に空間を残し,気泡が存在しない

ように収容した樹脂製の長尺透明チューブ,及び,

(b) 上記長尺透明チューブの両端部に取り付けた,上記液体の液位を測

定する液位測定器,

を備えることを特徴とする傾斜測定装置。

【請求項2】

前記長尺透明チューブの両端部が,透明直管で構成されていることを特

徴とする請求項1に記載の傾斜測定装置。

【請求項3】

前記長尺透明チューブが,両端部に,開閉弁を備えていることを特徴と

する請求項1又は2に記載の傾斜測定装置。

【請求項4】

前記長尺透明チューブが,中央部を止端とする2本巻きでリールに巻き

付けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の傾

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斜 測定装置。

【請求項5】

前記リールが,液位測定器と長尺透明チューブの端部を保持する保持部

材を備えていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の傾

斜測定装置。

【請求項6】

前記液位測定器の下端に,固定用部材が取り付けられていることを特徴

とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の傾斜測定装置。

【請求項7】

前記固定用部材が磁石であることを特徴とする請求項6に記載の傾斜測

定装置。




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