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事件 |
平成
24年
(行ケ)
10270号
審決取消請求事件
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裁判所のデータが存在しません。 | |
裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2013/04/24 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
判例全文 | |
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判例全文
平成25年4月24日判決言渡 平成24年(行ケ)第10270号 審決取消請求事件 口頭弁論終結日 平成25年2月27日 判 決 原 告 X 被 告 特 許 庁 長 官 指定代理人 松 本 貢 同 豊 永 茂 弘 同 瀬 良 聡 機 同 堀 内 仁 子 主 文 1 特許庁が,不服2010−4969号事件について平成24年6 月12日にした審決を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事 実 及 び 理 由 第1 請求の趣旨 主文同旨 第2 前提となる事実 1 本件に至る経緯 訴外佐藤制御株式会社は,平成12年5月22日,名称を「気相成長結晶薄膜製 造装置」とする発明につき特許出願(特願2000−188412号。甲6。以下 「本願」という。)をしたが,出願名義の移転を受けた原告に対し,拒絶査定がされ たので,原告は拒絶査定不服審判請求(不服2010−4969号事件)をした。 原告は,平成23年1月4日付けで補正(乙9。請求項の数5。同補正により発 明の名称が「気相成長結晶薄膜製造方法」と変更された。この補正後の本願の請求 項1ないし5に記載の発明を「本願発明1」等という。補正後の本願に係る明細書 1 を「本願明細書」という。)をしたが,特許庁は,同年3月8日,請求不成立の審決 (以下「前回審決」という。)をした。 原告は,前回審決に対して,当裁判所に審決取消訴訟を提起した(当裁判所平成 23年(行ケ)第10140号事件)。 当裁判所は,同年12月19日,本願発明1の「高温炉」においては, 「超微粒子 を含んだ霧粒が高温炉の壁に接触することによって,高温の超微粒子と高温の水蒸 気(又は溶剤)に分解するように,炉自体が,超微粒子化合物が分解する温度より 低く,また超微粒子と水(溶剤)が分離する温度以上の温度範囲の温度に加熱され」 ている一方,引用発明(後記3の引用発明と同一。)の「チャンバー」は,「プレー トは加熱されているものの,チャンバー自体が加熱されるものではな」く, 「引用発 明の明細書(乙1)及び図面において,チャンバー自体が加熱されることや,霧が チャンバーの壁に接触して分解されることは記載されていない」等として,引用発 明の「チャンバー」が本願発明1の「高温炉」に相当するとした前回審決の一致点 の認定が誤っていることを理由の一つとして,前回審決を取り消す旨の判決(当裁 判所に顕著な事実。以下「前回判決」という。)をした。 これを受けて特許庁は,不服2010−4969号事件の審理を再開し,平成2 4年6月12日,再び,請求不成立の審決(以下「審決」という。)をし,その謄本 は,同月30日,原告に送達された。 2 本願発明1ないし5の内容 【請求項1】 結晶薄膜の原料となる超微粒子又は化合物を水又は溶液に溶かして ゾル化した液体を準備し,超音波を用いて,準備した液体から超微粒子又は化合物 を含有した霧を発生させ,発生させたこの霧を,搬送ガスを用いて高温炉の内部に 搬入し,この高温炉の中で高温の超微粒子又は化合物と高温の水又は溶液の霧に分 解し,前記高温の水又は溶液の霧を排出しながら,前記高温の超微粒子又は化合物 を基板表面上に結晶を成長させて,結晶薄膜を作る気相成長結晶薄膜製造方法であ って, 2 前記基板表面にマイクロ波を照射しながら高温の超微粒子を前記基板表面上に結 晶を成長させることを特徴とする気相成長結晶薄膜製造方法。 基板回転装置を用いて前記基板を回転させることを特徴とする請求 【請求項2】 項1記載の気相成長結晶薄膜製造方法。 霧発生用の複数個の霧発生装置を用いて発生する霧を,並列に高温 【請求項3】 炉の内部に搬入するようにし,霧の流量の調節を行うことを特徴とする請求項1又 は2記載の気相成長結晶薄膜製造方法。 霧発生用の複数個の霧発生装置を用いて発生する霧を,時間をあけ 【請求項4】 て高温炉の内部に搬入し多層の結晶薄膜を作ることを特徴とする請求項1又は2記 載の気相成長結晶薄膜製造方法。 超音波にて超微粒子又は化合物を含有した5ミクロンの霧粒に調整 【請求項5】 することを特徴とする請求項1,2,3又は4記載の気相成長結晶薄膜製造方法。 審決の理由の概要 3 ( 1) 審決の理由は,別紙審決書写に記載のとおりである。要するに,審決は,本 願発明1ないし5は,乙1(国際公開98/59090号。以下「引用文献1」と いい,引用文献1の請求項1に記載の発明を「引用発明」という。)及び乙2(特開 2000−44238号公報。以下「引用文献2」という。)に記載された発明並び に周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたから,特許法29条2 項の規定により特許を受けることができないとするものである。 ( 2) 審決の認定した本願発明1と引用発明との間の一致点・相違点は, のとお 次 りである。 ア 一致点 結晶薄膜の原料となる化合物を溶液に溶かしてゾル化した液体を準備し,超音波 準備した液体から化合物を含有した霧を発生させ, 生させたこの霧を, を用いて, 発 搬送ガスを用いて加熱装置の内部に搬入し,この加熱装置の中で高温の化合物と高 温溶液の霧に分解し,前記高温の化合物を基板表面上に結晶を成長させて,結晶薄 3 膜を作る気相成長結晶薄膜製造方法。 イ 相違点A 本願発明1は,結晶薄膜を形成する原料である化合物が「超微粒子」であるのに 対し,引用発明では基板表面に付着する化合物の粒径が特定されていない点 ウ 相違点B 「高温の水又は溶液の霧を排出しながら, 基板表面上に結晶を成 本願発明1は, 」 長させているのに対し,引用発明では,蒸発した溶媒を排出する点について特定さ れていない点 エ 相違点C 本願発明1は,基板表面にマイクロ波を照射しながら高温の超微粒子又は化合物 「 を前記基板表面上に結晶を成長させ」ているのに対し,引用発明では,マイクロ波 を照射する点について特定されていない点 オ 相違点D 「高温炉」の中で基板表面上に結晶を成長させているのに対し,引 本願発明1は, 用発明では,プレートが配設場所にある電気抵抗器により約380℃から430℃ 「 の温度へ上昇させたチャンバー」により多結晶化された酸化マグネシウムの付着層 を生じさせると特定されている点 (3) 審決は, 違点Dが容易想到であるとする理由について, のとおり説示し 次 相 た。 すなわち, 「引用発明においてもプレートは,抵抗器により加熱されており・・・ 「他の加熱装置,例えば赤外線加熱の利用も考えられる。」として,プレートからの 伝熱に加えて赤外線加熱,即ち輻射熱の利用が可能なことが記載されている。そし て,引用文献2・・・には, 形成用基板1は,ヒータ9により加熱される搬送ベ 「膜 ルト12からの伝熱とマッフル炉11内からの輻射熱により表面温度を550℃に 保持した。 として, 形成のための加熱装置として伝熱と輻射熱によるマッフル炉 」 膜 の使用が明記されている。この記載事項及びマッフル炉が「外部加熱される室をも 4 つ炉。室の壁からの放射熱により内容物が加熱される。・・・という技術常識から 」 みて,マッフル炉が温度的にも加熱の原理からも本願発明1でいう高温炉に相当す ることは明らかであって,相違点Dに係る高温炉の使用も引用文献1・・・に示唆 されているということができる。そうすると,相違点Dは,当業者であれば容易に 想到し得る設計事項の採用というべきである。」とした。 当事者の主張 第3 原告の主張 1 原告の主張は,必ずしも明瞭ではないが,次のとおり要約できる。 ( 1) 引用発明の認定の誤り(取消事由1) 引用発明において,使用される材料を,有機溶液及び有機金属の使用に限定する のは有機金属は有機溶液に溶解するからである。本願発明において,有機,無機い ずれの材料も使用できるのは無機材料を林プロジェクト法で原子レベルの超微粒子 とし,水又は溶液に混合し,ゾル液から霧粒を作り熱分解することにより高温の超 微粒子を作り,これを表面拡散することで平面単結晶半導体薄膜を生成させること ができるからである。これに対して引用発明は1〜20ミクロン(1〜20×10 m)の霧粒をプレート(基板)上でそのまま接触又は近傍で熱分解してプレート 6− 上に多結晶薄膜を作る。本願発明は5ミクロンの霧粒を加熱炉の中の高温炉の内壁 に接触させて複数回熱分解して5Å(5×10 m)の高温の超微粒子から平面 01− 単結晶半導体薄膜(プラトーという)を作成するもので,その差は4〜5桁も小さ い。 引用文献には,霧粒が1〜20ミクロンの範囲であり最適粒径の時に大きな出力 が得られない旨明記されている。これは1〜20ミクロンの霧粒を基板に接触又は 近傍で同時に熱分解と単結晶成長をすることが不可能であることを示すものである。 霧粒がプレートに接触して分解するまでに緩和時間が必要である。有機溶液,金属 が蒸発するとき潜熱が発生し温度が降下する。その時急冷された原子は,内部応力 が蓄積されるので非結晶となる。本願発明においては,緩和時間はない。また,表 5 面拡散は基板表面温度と高温の超微粒子の温度が同じであるから,その結果自動的 に大面積の平面単結晶半導体薄膜が生成される。 引用発明では,霧粒を導管とノズルを用いてプレート(基板)に接触又は近傍で (380〜430度C)に加熱,熱分解し,結晶薄膜を形成する。同時に有機溶媒 の霧は500度Cを超えると発火燃焼する危険が存在する。これに対して本願発明 は,高温炉の内面に水を用いて霧粒を作り不活性ガスで搬送し接触させて熱分解す るのであるから,有機,無機金属材料を充分な高温度(例えば1千数百度C)に加 熱して生成した高温の超微粒子を表面拡散により結晶成長する。高温炉の内面で熱 分解することが目的であるからマッフル炉とは無関係である。 ( 2) 相違点A,相違点Dの認定の誤り及び容易想到性判断の誤り(取消事由2) ア 相違点Aの認定の誤りについて 審決は,霧粒と粒径との関係について,「霧粒を乾燥により小径となる」として, 結晶薄膜を形成するとしているが,同認定には誤りがある。本願発明では,有機, 無機金属いずれの微粒子も原子レベルの高温の超微粒子単体にすることができ,こ れにより,加熱炉の中に高温炉を設け,霧粒をベクターガスを用いて搬送し,高温 【0004】 作用】に記載)させて高温の 炉の内面(【請求項1】に記載)に接触( 【 超微粒子(Åレベル即ち10 m)を作成する発明である。この大きさを引用文 01− 献の霧粒( 1〜20〉X10 〈 m)と比較すると本願発明の原子単体は,更に4 6− 〜5桁以上も小さい。 イ 相違点Dの認定の誤りについて 本願発明1は,高温の超微粒子を作成するために高温炉の内壁に接触することが 【0004】に明記されている。さらに,本願発明では基 【請求項1】【0003】 , 板表面で「表面拡散」することにより,高温の超微粒子と基板表面の温度が,同じ となっていることが証明されている旨,明記されている。 本願発明1と引用発明とは,両者とも気相成長法であり,伝熱と輻射熱を使用す る点において共通するが,マッフル炉の使用目的が,引用文献では内容物のプレー 6 トであるのに対して,本願発明では高温炉の内面を使用する熱分解炉である点にお いて相違する。 また,本願発明と引用発明とは,加熱の原理及び加熱される対象物において異な り,引用発明では緩和時間の考慮も無く,単結晶が生成される条件も無いから,非 結晶薄膜に近い有機物を大量に含んだ多結晶薄膜が生成されるのに対し,本願発明 では高温炉の内面が広く複数回熱分解するので,緩和時間を省略しても,完全結晶 薄膜が生成し,平面単結晶半導体薄膜が生成する点で相違する。 引用発明では,低温側でも,高温側でも表面拡散と緩和時間が無いので,アモル ファス薄膜が発生しており,熱分解した微粒子とプレート表面の温度差により発生 する内部応力は全て アモルファス を形成するのであるから, アモ ルファス領域な 「 」では,発生しない。 し, ウ 容易想到性判断の誤り 本願発明では,超音波霧粒を使用する特徴により,熱分解室を設け高温炉の内面 で複数回の熱分解を行い原子レベルの単体を作り,さらに基板表面で表面拡散する ことにより単体と基板表面温度が同じ温度で結晶成長する。この作業工程は複雑で あるために超音波霧化装置を用いて簡単にする必要がある。本願発明の目的は,C VD法,PVD法では作成できなかった平面単結晶半導体薄膜を作成することがで きるようにしたことにある。 引用文献1には「・・・電気抵抗器8によるプレート7の加熱により行われる。 しかしながら,他の加熱装置,例えば赤外線加熱の利用も考えられる。」と記載され ており,同記載は, ・・・プレートからの電熱に変えて赤外線加熱・・・が利用可 「 能である」を意味する。したがって,引用発明から,本願発明を想到することは容 易とはいえない。 被告の反論 2 ( 1) 引用発明の認定の誤り(取消事由1)に対し 原告は,本願発明1の方法により製造される結晶薄膜は「完全結晶」「平面単結 , 7 晶半導体薄膜(プラトーという)」であると主張する。しかし,本願は, マイクロ 「 波を 基板 5の 表 面に 照射 して 表 面 拡散 を 助 け高温の超微粒子の結晶成長を 助 長す )との記載からすると,非結晶を除外した多結晶状態を指向すると る」【0005】 ( 解される。 したがって,本願発明1の方法により製造される結晶薄膜が「完全結晶」「平面 , 単結晶半導体薄膜(プラトーという) あるとの原告の主張は,本願明細書の記載 」で に基づくものでなく,失当である。 ( 2) 相違点A,相違点Dの認定の誤り及び容易想到性判断の誤り(取消事由2) に対し ア 相違点Aの認定の誤りについて 単一結晶相を形成するCVD装置において反応器の低温帯域(360度C)で霧 を揮発させ,高温帯域(506℃)で反応生成物を分解し,金属イオンを反応させ て基板表面に薄膜を形成することは従前から行われており,反応器内で霧を揮発さ せ反応生成物を分解することは,本願発明1でいう高温炉の内面で霧を接触させて 熱分解することに相当する(乙3の【0010】【0029】【0030】【00 , , , 36】。また,導管3にて霧をあらかじめ加熱する引用発明においても,霧がノズ ) ルに達する前に霧は200℃から300℃の温度へ上昇されており,さらにチャン バー内にて電気抵抗器により熱分解されていると認められるから,原告が主張する ように,引用発明が「霧粒をプレート(基板)上でそのまま接触又は近傍で熱分解 してプレート上に多結晶薄膜を作る」ものではない。 原告の主張する「緩和時間」については,本願明細書に記載がない。膜の形成速 度については,引用文献2(乙2の【0013】【0018】【0019】 , , )には, 膜形成用基板の表面温度が400℃未満であると,二塩化ジメチル錫の熱分解速度 が低下するため,SnO 膜の形成速度が大 きく低下し,600℃を超える温度に 2 加熱すると膜質を悪くするという技術事項が記載されている。そして,引用発明に おいても,最適の膜質を得る必要から,霧の予熱温度やプレートの温度を特定する 8 ことで付着する化合物が超微粒子となって結晶化に要する「緩和時間」や結晶成長 に関する「表面拡散」を所望の状態にすることは当然の事項である。 したがって,審決の相違点Aについての認定に誤りはない。 イ 相違点Dの認定の誤りについて 原告は,本願発明1について,高温の超微粒子を作成するために高温炉の内壁に 【0004】に明記されていると主張する。 接触すると【請求項1】と【0003】 また,原告は,マッフル炉の使用目的が,引用発明では内容物のプレートであるの に対して,本願発明1では高温炉の内面を使用する熱分解炉である点において相違 すると主張する。しかし,原告の同主張は,いずれも,特許請求の範囲の記載に基 づかない主張であり,失当である。 さらに,原告は,マッフル炉の使用目的が,引用発明では内容物のプレートであ るのに対して,本願発明1では高温炉の内面を使用する熱分解炉である点において 相違すると主張する。 しかし,原告の主張は,マッフル炉の加熱対象を「プレート」に限定して解釈す ることによって生じる相違点であり,以下のとおり失当である。 すなわち,引用発明は,プレートに霧が接近するにつれて溶媒が蒸発し,マグネ シウムの有機金属化合物を熱分解させるもので,霧を加熱して蒸発させている。そ して,乙3に「低温帯域10は,単源前駆体の霧を即座に揮発させ,反応生成物の 単源前駆体蒸気を形成するのに十分に高い温度で保たれている。という記載がある 」 ことからみても,引用発明の反応器は,溶媒を蒸発させて有機金属化合物を熱分解 させるもので,原料ガスを加熱する点で本願発明との相違はない。加熱のための炉 壁を有する引用文献2のマッフル炉は,当然原料ガスをも加熱する機能も有するも のと認められる。 したがって,引用文献2のマッフル炉は高温炉に相当するとした審決の相違点D の認定に誤りはない。 ウ 容易想到性判断の誤りに対し 9 本願発明1と引用発明とは,上記のとおり相違するとの原告の主張は,失当であ るから,審決の判断に誤りはない。 当裁判所の判断 第4 当裁判所は,相違点Dに係る審決の認定は誤りであり,この誤りは審決の結論に 影響を及ぼすものであると判断する。その理由は,次のとおりである。 1 認定事実 ( 1) 本願明細書の記載 本願明細書には以下の記載がある(【図2】は別紙のとおり。甲6,乙9。乙9の 下線は省略した。。 ) 「【0001】 【発明の属する技術分野】 半導体産業,電気通信産業,建築産業の機能材料を使用する分野に於いて結晶体 と非結晶体の持つ性能の違いは非常に大きい事が知られている。本発明は結晶薄膜 を安く簡単に製造する方法とその結晶薄膜製造装置を提供することであります。」 「【0003】 【発明が解決しようとする課題と課題を解決するための手段】 第一の課題は目的とする材料の完全結晶を作ることであります。本発明は大気圧 高温炉の中で高温の超微粒子の気体を作り基板を超微粒子の温度より少し低い温度 に保持し高温の超微粒子が基板の表面に柔らかく表面拡散をしながら堆積する構造 とした気相成長法による完全結晶の薄膜製造方法を完成した事であります。高温の 超微粒子の温度は高温炉の温度で定まり超微粒子が溶解する温度(例えば1600 度C)より遥かに低い温度であるため成分が解離することなく超微粒子の成分のま まで第一層から結晶が成長する事になります。第二の課題は結晶薄膜を製造する原 料の供給方法に超音波霧を使用したことであります。この方法は原料の超微粒子を 水又は溶液に混濁しゾル状の液に超音波を通すと霧が発生します。この霧は超音波 の周波数が1〜2MHzの時大きさが約5ミクロン程度の霧粒となります。原料の 10 超微粒子は一般に0.5〜0.01ミクロンですから沢山の超微粒子を含んだ霧粒 が発生する事になります。この霧粒を搬送用の空気又はガスを用いて高温炉の中に 送り込みます。霧粒は高温炉の壁に接触して高温の超微粒子と高温の水蒸気あるい は溶剤のガスとなります。ここで高温の超微粒子は基板の表面に結晶薄膜を作り, 又高温の水蒸気あるいは溶剤のガスはそのまま排気されるのです。」 「【0004】 【作用】 薄膜製造の原料となる超微粒子は材料が非常に小さい微細な粒子となっても原料 と同じ成分を保持し,常温で非常に高い活性度を有するために自然に放置すると燃 焼したり,静電気を帯びて取扱が非常に難しい欠点を持っている。本発明はこれら の欠点を超音波霧を用いて解消し,この超微粒子の特徴を更に増加するために高温 炉の中で高温の超微粒子の気体を作り,気相成長法を用いて新しい成分の結晶薄膜 を製作するものである。この薄膜を金属酸化物の高温の超微粒子を用いて製作する と平滑で格子欠陥が少なく透明で硬く,更に加工の出来る結晶薄膜を製作する事が 出来ます。高温の超微粒子を作る方法は原料となる超微粒子を水又は溶液に溶かし ゾル状としその液に超音波を加え液を超微粒子を含んだ霧とし空気又は不活性ガス と共に高温炉の中に搬入し,あらかじめ超微粒子と水(又は溶剤)が分離する温度 に加熱された高温炉の壁に接触させて高温の超微粒子が得られるのであります。加 熱された高温炉の温度は超微粒子化合物が分解する温度より低く又超微粒子と水 (溶剤)が分離する温度以上の温度範囲の温度を使用します。一般に使用される温 度は酸化錫透明導電膜を製作する場合は560度Cを使用します。この温度は材料 の種類によって異なるが高温のもので1200度C,低温のもので200度C範囲 の温度が使用されます。搬入された霧は炉内の高温壁に接触し高温の超微粒子と高 高温の超微粒子は基板表面に結晶薄膜を形成し, 温の水蒸気(又は溶剤)に分解し, 水蒸気は炉内に留まる事が出来ず排出されます。」 「【0005】 11 【 実 施例 】 以下,添付図面に従つて実施例を説明する。第1図は本発明の気相成長結晶薄膜 製造方法を実施するための結晶薄膜製造装置の略図を示す。炉体1の左側に超微粒 子2aを水又は溶剤に溶かしたゾル状の液体2を入れ,超音波発信機6bに接続し た超音波発生器6によって超微粒子2aを含んだ霧4を発生させ,空気又は混合ガ ス10を用いて右側加熱炉7の内部炉体1に霧4を搬送する構造となっている。加 熱炉7の内部に到達した霧4は高温の壁に接触して高温の超微粒子と高温の水蒸気 となり,水蒸気又は溶剤の霧4は炉の内部に留まること無く排出ガス10aと共に 排出される。高温の超微粒子は基板加熱器8を用いて加熱炉より少しだけ低い温度 に保持してある基板5の表面に到達して表面拡散をしながら堆積して結晶薄膜を形 成する構造となっている。マイクロ波発信機9はマイクロ波を基板5の表面に照射 して表面拡散を助け高温の超微粒子の結晶成長を助長する目的のものであります。 【0006】 第2図は本発明を実施するために製作した結晶薄膜製造装置の断面図を示す。原 料の超微粒子2aを水又は溶剤に混合したゾル状の液体2を超音波発信機6bに接 続した超音波発生器6に連結し発生した霧4と搬送用ガス導入バルブ10bから供 給されるガスを第1霧導入バルブ13を通して加熱炉7内に搬入します。高温炉に 供給された霧は加熱炉7の炉壁に接触して高温の超微粒子3と水蒸気の霧に分離し 高温の超微粒子3は基板5を加熱する加熱器8で設定した温度で結晶を製膜する構 造となっている。マイクロ波発信器9は基板5表面の結晶成長を助長する事,基板 回転装置12は基板の表面に均一な結晶薄膜を製造する事が目的である。炉内で発 生した霧は排気ガス除去装置11を通して排出されます。合金,化合物等成分の異 なる結晶薄膜の製作は第2霧導入バルブ14に複数個の霧発生装置を取り付け霧に 含まれる成分と流量を調節する事で異なった機能を有する結晶薄膜が製作出来る事 が特徴である。また多層膜を作る場合は複数個の霧発生装置を順次直列に操作する ことによって性質の異なる薄膜の多層膜を製造する事が出来る特徴を有するもので 12 ある。」 「【0008】 【発明の効果】 ・・・本発明は高温の超微粒子の気体を高温の大気炉の中で作り,その気体から 気相成長法によって成分や配合比を極限まで制御が出来る薄膜製造方法を提供する ものである。この装置で製作した結晶薄膜は格子欠陥の少ない良質で硬い,しかも コストが安く,加工の出来る薄膜を大気圧高温炉の中で直接製造する事が出来る高 温の超微粒子による気相成長薄膜製造方法を提供するものである。」 ( 2) 引用文献1の記載 引用文献1には, の記載がある 次 【図1】 別紙のとおり。。 訳 (乙1。 文による。 は ) 「【特許請求の範囲】 1.ディスプレイパネルのガラスプレート(4)の誘電体表面に酸化マグネシウム を基礎とする層を付着させる方法であって, 溶媒に溶解させたマグネシウムの金属有機化合物から霧を発生させ, − 前記霧をプレート(4)の誘電体層に運び, − 約380℃から430℃の温度へ上昇させたプレート(4)の誘電体層に接 − 近した時に溶媒を蒸発させ, 有機金属化合物を熱分解させてプレートの表面に酸化マグネシウムを基礎と − する付着層を生じさせ,金属有機化合物の有機系の基を蒸発させて,前記付着層は 実質的に耐水性であることを特徴とする方法。」 「本願での説明は添付図面を引用しており, 図1は本発明による方法の実施用装置の図である。 − 図2a,2bは夫々真空蒸着及び本発明の方法により得られた酸化マグネシ − ウムの付着層の表面状態を示す。 本発明によると,ディスプレイパネルのプレートの誘電体層に酸化マグネシウムを 基礎とする付着層を設けるために利用される方法は,溶媒に溶解したマグネシウム 13 の有機金属化合物を含む溶液から霧を発生させる段階からなる。図1を参照する。」 (原文4頁20〜31行) 「溶液は,溶液を噴霧化する液滴発生器2を備えた容器1に入れられる。この発生 器は容器1の低部で溶液に突っ込んだ超音波発生器であることが好ましい。溶液は 実質的に一定の温度であり,しかも容器1は温度制御されていることが好ましい。 超音波による噴霧化操作により,実質的に同じサイズの液滴を有する高精度な均一 性の霧が発生し, さが実質的に一様な液滴になる。(原文4頁32行〜5頁4行) 厚 」 「ベクターガス10は容器1の頂部に導入され,プレート4の誘電体表面に向かっ て霧を運ぶ。(原文5頁6〜8行) 」 「容器1は閉じており,末端は霧と交差するように設計された導管3の上部である。 この導管3はプレート4の表面の付近でチャンバー5へ通じており,末端がノズル 6になっている。(原文5頁11〜14行) 」 「有機金属化合物は,例えば酢酸マグネシウムやマグネシウムアセトネートアセチ ルである。溶媒は有機系溶媒であり,例えばブタノールやメタノールから選択され る。(原文5頁15〜17行) 」 「ベクターガス10は空気であることが好ましい。このことは装置の製造を簡単に し,マグネシウムを酸化させて酸化マグネシウムに変化させる。しかしながら,ベ クタ ー ガス として, ピュ ア な 酸 素 や 窒素 と 酸 素 の 混 合 ガス を 利 用することもでき る。(原文5頁20〜23行) 」 「しかしながら,霧がノズルに達する前に霧を予め加熱することが好ましく,20 0℃から300℃の温度へ上昇させることが好ましい。この加熱は導管3を加熱す ることにより行われる。加熱装置を図1に,参照番号9で示す。(原文5頁29〜 」 33行) 「チャンバー5では,プレート4の誘電体表面を約380℃から430℃の温度へ 上昇させ,霧が接近するにつれ溶媒を蒸発させ,有機金属化合物の熱分解により, 誘電体表面に酸化マグネシウムの付着と前記化合物の有機系の基の蒸発を引き起こ 14 す。 チャンバー5では,更に,大気圧に維持されることが好ましい。(原文5頁34 」 行〜6頁5行) 「この種の条件により,アモルファス領域なしに,実用的に耐水性を有するのに十 分な密度の多結晶化された酸化マグネシウムの付着層をもたらす。(原文6頁6〜 」 8行) 「プレート4の表面の加熱は,プレートが配設された場所にある電気抵抗器8によ るプレート7の加熱により行われる。しかしながら,他の加熱装置,例えば赤外線 加熱の利用も考えられる。 連続的付着用の産業用の装置では,プレート4を移動させ,ノズル6を固定させ たままであることが好ましい。(原文6頁12〜17行) 」 (3) 引用文献2の記載 引用文献2(乙2)には,以下の記載がある。 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は,二酸化錫膜の製造方法,およびその二酸化錫 膜を透明導電膜として用いた太陽電池に関するものである。」 「【0007】 ・・・本発明は,導電性および透明性に優れた高品 【発明が解決しようとする課題】 質のSnO 膜を低コ ストで均質に,かつ大面積製膜できる製造方法を提供するこ 2 とを目的とする。本発明は,また,前記の方法により得られたSnO 膜を透明導 2 電膜として用いることにより,高変換効率の太陽電池を安価で再現性よく提供する ことを目的とする。」 「【0008】 【課題を解決するための手段】本発明によるSnO 膜の製造方法は, 化合物とフ 錫 2 ッ素化合物またはアンチモン化合物とを溶解させた溶液を霧化して微粒子化する工 程,および前記微粒子を加熱された基板に接触させ,前記基板上にSnO 膜を形成 2 15 する工程を有することを特徴とする。・・・ 【0009】 【発明の実施の形態】本発明は,錫化合物と,ドープ材料としてのフッ素化合物ま たはアンチモン化合物とを溶解させたソース溶液を霧化して微粒子化し,これをあ らかじめ加熱した膜形成用基板の表面に接触させることにより,微粒子化された溶 液中の化合物を基板表面または基板近傍で熱分解し,基板表面にフッ素またはアン チモンがドープされたSnO 膜を形成させるものである。・・・ 2 【0010】ソース溶液を微粒子化させる方法としては,超音波振動を用いる方法 が有効であり,超音波振動のエネルギ−量を調整することにより微粒子の粒径を自 由に制御することができる。これにより微粒子が所定の温度に加熱された基板の表 面に到達する時に,微粒子中の溶媒が気化し,さらに微粒子中の錫化合物とドープ 材料も気化するように粒子径を制御することができる。これにより,錫化合物とド ープ材料の熱分解反応を均一に生じさせることができ,基板上に均一で良質なSn O 膜を大面積に形成させることが可能となる。しかも,超音波振動という簡便な 2 方法を用いるので,こうした高品質のSnO 膜を低価格で形成できる。より均一 2 で良質なSnO 膜を低コストで得るためには,超音波振動の周波数が10kHz 2 〜3MHzの超音波振動子を用いることが好ましい。 波数がこの範囲内であれば, 周 SnO 膜の形成速度を速くし,膜質の安定化を図ることができる。超音波振動の 2 周波数が3MHzを越える場合,微粒子の粒径は小さくなるが,超音波振動子に高 出力のものがないため,ソース溶液を微粒子化できる量が不足し,SnO 膜の製 2 膜速度が遅くなる。また,超音波振動の周波数が,10kHz未満の場合,微粒子 の粒径が過度に大きくなるため,基板表面での錫化合物の分解反応が不均一となり, 形成されたSnO 錫の膜質均一性が低下する傾向がある。」 2 「【0016】 【実施例】以下に,具体的な実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。 《実施例1》錫化合物として二塩化ジメチル錫を用いて,図1に示す二酸化錫膜の 16 製膜装置により,膜形成用基板1上にSnO 膜2を形成した。二塩化ジメチル錫 2 粉末100gとフッ化アンモニウム粉末4gを360ccの水に溶解させて調製し たソース溶液8をソース容器3に入れ,周波数1MHzの超音波振動子4を稼働さ せ,ソース溶液8を中心粒径が10μmの微粒子7に霧化させた。この霧化微粒子 7を,キャリアガス導入管6から導入したキャリアガスとしての空気とともに,微 粒子噴出口5から噴出させ,これらを微粒子導入管10を経てマッフル炉11内に 導入した。マッフル炉11内に導入された霧化微粒子7をマッフル炉11中を移動 する金属製搬送ベルト12上に載置したガラス製の膜形成用基板1の表面に接触さ せてSnO 膜2を形成させた。 2 【0017】膜形成用基板1は,ヒータ9により加熱される搬送ベルト12からの 伝熱とマッフル炉11内からの輻射熱により表面温度を550℃に保持した。製膜 に利用されなかった霧化微粒子7や気化した錫化合物,フッ素化合物および水は, 廃ガス排出管13を通して排出させた。製膜時間は30秒間とし,30×30cm の膜形成用基板上に形成されたSnO 膜2の膜厚は4000オングストロームで 2 あった。」 【0019】なお,膜形成用基板の表面温度が400℃未満であると,二塩化ジメ 「 チル錫の熱分解速度が急速に低下するため,SnO 膜の形成速度が大きく低下し, 2 膜質が悪化し膜抵抗が増大した。また,600℃を越える温度に加熱するとガラス 製の膜形成用基板が変形し,またSnO 膜の形成が急速に起こり,SnO の結晶 2 2 粒子径が大きくなり,膜表面の凹凸による入射光の散乱により,膜が曇る現象が生 じた。また,形成用基板上に形成されるSnO 膜2の膜厚も不均一であった。」 2 「【0032】 【発明の効果】本発明によれば,簡単な製造装置を用いて,導電性,光透過性およ び耐候性に優れ,大面積でも均一な膜質のSnO 膜を製膜することができる。ま 2 た,前記SnO 膜を 透明導電膜として用いることにより,変換効率の良好なCd 2 S/CdTe太陽電池,CIS太陽電池などの各種太陽電池を安価に提供すること 17 ができる。また,本発明により得られるSnO 膜を各種電子機器 などの表示面な 2 どに用いることにより,これらを低コスト化,高性能化することができる。」 相違点Dの容易想到性の判断の誤りについて 2 ( 1) 本願発明1の高温炉及び引用文献2のマッフル炉の技術的意義 ア 本願発明1の特許請求の範囲に「この高温炉の中で高温の超微粒子又は化合 物と高温の水又は溶液の霧に分解し,前記高温の水又は溶液の霧を排出しながら, 前記高温の超微粒子又は化合物を基板表面上に結晶を成長させて,結晶薄膜を作る 気相成長結晶薄膜製造方法」と記載されていること,及び本願明細書の【0003】, 【0004】【0006】等の記載を参照するならば,本願発明1においては,高 , 温炉は,その炉自体が,超微粒子化合物が分解する温度より低く,また超微粒子と 水(溶剤)が分離する温度以上の範囲の温度に加熱されるものであり,超微粒子を 含んだ霧粒が,高温炉の壁に接触することによって,高温の超微粒子と高温の水蒸 気(又は溶剤)に分解し,高温の超微粒子は基板表面に結晶薄膜を形成するもので あると認められる。このように,本願発明1の高温炉は,その壁に接触した超微粒 子を含んだ霧粒を加熱して分解するためのものである。 他方,引用発明のチャンバーについては,チャンバー自体が加熱されることや, 霧がチャンバーの壁に接触して分解されることに関する記載はない これらの技術的内容は, 確 そして, 第2の1のとおり, 定した前回判決において, 既に認定,判断された事項である。本願発明1と引用発明の間の相違点についての 容易想到性の有無を判断するに当たっては,前回判決が指摘した本願発明1の「高 温炉」と引用発明の「チャンバー」との相違点の技術的意義が考慮されてしかるべ きである。 イ 上記の点を踏まえて,引用発明に,引用文献2に記載された発明を組み合わ せることにより,相違点Dに係る構成に至ることができるかを検討する。 前記1(3)のとおりの引用文献2の記載(特に【0008】【0009】【001 , , )からすると,引用文献2に記載された発明は,微粒子化された溶液中の化合物 7】 18 を,ヒータにより加熱される搬送ベルトからの伝熱とマッフル炉内からの輻射熱に よりあらかじめ加熱した膜形成用基板の表面に接触させることにより,基板表面又 は基板近傍で熱分解させるものである。したがって,引用文献2に記載された発明 のマッフル炉は,輻射熱によって膜形成用基板を加熱するためのものであって,引 用文献2には,マッフル炉の壁面に接触した超微粒子を含んだ霧粒が加熱されて分 解されることについての記載はない。 このように,引用文献2に記載された発明のマッフル炉は,輻射熱によって膜形 成用基板を加熱するためのもので,その壁に接触した超微粒子を含んだ霧粒を加熱 して分解するためのものではないから,引用発明に引用文献2に記載された発明(及 び周知の技術的事項)を組み合わせることによっては,相違点Dに係る構成に,容 易に至ることはない。 ウ 審決は,(引用文献2の)マッフル炉が温度的にも加熱の原理からも本願発 「 明1でいう高温炉に相当することは明らかであって」とのみ述べて,「相違点Dは, 当業者であれば容易に想到し得る設計事項の採用というべきである。との結論を導 」 いているが,上記のとおり,審決の判断には,誤りがある。 ( 2) 被告の主張に対して ア 被告は,乙3の単一結晶相を形成するCVD装置において反応器の低温帯域 (360℃)で霧を揮発させ,高温帯域(506℃)で反応生成物を分解し,金属 イオンを反応させて基板表面に薄膜を形成することが従前から行われている,引用 発明においても霧がノズルに達する前に200℃から300℃の温度へ上昇されて いるなどと主張する。 しかし,被告の主張は,以下のとおり失当である。 すなわち,乙3には,本願発明1のように,霧粒を反応器の壁に接触させること によって揮発させ反応生成物を分解することは記載も示唆もない。また,引用文献 1では,導管にて霧をあらかじめ200℃から300℃に加熱することの記載はあ るが,この加熱によって,霧が分解されることは記載されていない。のみならず, 19 審決は,導管で霧があらかじめ加熱されることを理由とするものではないので,被 告の主張は,この点においても失当である。 したがって,この点に係る被告の主張は採用できない。 イ 「プレートに霧が接近するにつれて溶媒 また,被告は,引用発明においては, が蒸発し,マグネシウムの有機金属化合物を熱分解させ」るもので,霧を加熱して 蒸発させている,溶媒を蒸発させて有機金属化合物を熱分解させる引用発明の反応 器内においても原料ガスを加熱することに本質的な違いはないので,引用文献2の マッフル炉は高温炉に相当するなどと主張する。 しかし,上記(1)のとおり,引用文献2に記載された発明のマッフル炉は,輻射熱 によって膜形成用基板を加熱するためのものであるのに対して,本願発明1の高温 炉は,その壁に接触した超微粒子を含んだ霧粒を加熱するためのものである点で, その目的, 能が異なっているから,引用文献2に記載された発明のマッフル炉は, 機 本願発明1の高温炉に相当しない。 したがって,この点に関する被告の主張も採用できない。 (3) 結論 以上によれば,相違点Dに係る審決の判断は誤りであり,その誤りは審決の結論 に影響を及ぼすと認められるから,審決は取り消されるべきである。被告は,その 他縷々主張するが,いずれも採用の限りではない。よって,審決を取り消すことと して,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第1部 裁判長裁判官 飯 村 敏 明 20 裁判官 八 木 貴 美 子 裁判官 小 田 真 治 21 (別紙) 本願明細書の【図2】 22 乙1の【図1】 23 |