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事件 平成 24年 (行ケ) 10312号 審決取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2013/03/29
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成25年3月29日判決言渡
平成24年(行ケ)第10312号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 平成25年2月20日

判 決



原 告 エステー産業株式会社



訴訟代理人弁護士 黒 田 健 二

同 吉 村 誠

同 門 松 慎 治

訴訟代理人弁理士 松 本 孝



原 告 株式会社プレジール



訴訟代理人弁護士 溝 上 哲 也

同 岩 原 義 則

同 江 村 一 宏

訴訟代理人弁理士 山 本 進



被 告 キヤノン株式会社



訴訟代理人弁理士 大 塚 康 徳

同 西 川 恵 雄

同 高 柳 司 郎

同 大 塚 康 弘

同 木 村 秀 二




主 文
1 原告らの請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

特許庁が,無効2011−800230号事件について,平成24年7月27日

にした審決を取り消す。

第2 当事者間に争いのない事実

1 特許庁における手続の経緯等

被告は,発明の名称を「液体インク収納容器,液体インク供給システムおよび液

体インク収納カートリッジ」とする特許第3793216号(平成16年11月1

5日出願,平成18年4月14日設定登録。以下「本件特許」という。)の特許権

者である。原告らは,平成23年11月10日,本件特許の請求項1及び3(被告
は,無効2009−800101号事件において,平成21年8月3日,請求項1

の特許請求の範囲の記載の一部を改め,請求項5を請求項3とすること等を内容と

する訂正請求をし,訂正が認められた。本件における請求項1及び3は当該訂正後

のものである。甲36)に係る発明について無効審判の請求(無効2011−80

0230号事件)をした。特許庁は,平成24年7月27日,「本件審判の請求は,

成り立たない。審判費用は,請求人の負担とする。」との審決をし,その謄本は,
同年8月7日,原告らに送達された。

2 特許請求の範囲

本件特許の特許請求の範囲の請求項1,3(訂正後)の記載は,次のとおりであ

る(以下,請求項1,3記載の発明を,それぞれ「本件発明1」,「本件発明2」

という。)。また,訂正後の特許請求の範囲発明の詳細な説明及び図面を総称し

て「本件明細書」ということがある(甲35,甲36)。

【請求項1】複数の液体インク収納容器を搭載して移動するキャリッジと,




該液体インク収納容器に備えられる接点と電気的に接続可能な装置側接点と,
前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替わるよう

に配置され前記液体インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出用の受光

手段を一つ備え,該受光手段で該光を受光することによって前記液体インク収納容

器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段と,

搭載される液体インク収納容器それぞれの前記接点と接続する前記装置側接点に

対して共通に電気的接続し色情報に係る信号を発生するための配線を有した電気回

路とを有し,前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク

収納容器の前記発光部を光らせ,その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容

器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する記録装置の前記キ

ャリッジに対して着脱可能な液体インク収納容器において,

前記装置側接点と電気的に接続可能な前記接点と,

少なくとも液体インク収納容器のインク色を示す色情報を保持可能な情報保持部
と,

前記受光手段に投光するための光を発光する前記発光部と,

前記接点から入力される前記色情報に係る信号と,前記情報保持部の保持する前

記色情報とに応じて前記発光部の発光を制御する制御部と,

を有することを特徴とする液体インク収納容器。

【請求項3】複数の液体インク収納容器を互いに異なる位置に搭載して移動するキ
ャリッジと,

該液体インク収納容器に備えられる接点と電気的に接続可能な装置側接点と,

該液体インク収納容器からの光を受光する位置検出用の受光部を一つ備え,該受

光部で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する

液体インク収納容器位置検出手段と,

搭載される液体インク収納容器それぞれの前記接点と接続する前記装置側接点に
対して共通に電気的接続し色情報に係る信号を発生するための配線を有した電気回




路とを有する記録装置と,
前記記録装置の前記キャリッジに対して着脱可能な液体インク収納容器と,を備

える液体インク供給システムにおいて,

前記液体インク収納容器は,

前記装置側接点と電気的に接続可能な前記接点と,

少なくとも液体インク収納容器のインク色を示す色情報を保持する情報保持部と,

前記液体インク収納容器位置検出手段の前記受光部に投光するための光を発光す

る発光部と,

前記接点から入力される前記色情報に係る信号と,前記情報保持部の保持する前

記色情報とが一致した場合に前記発光部を発光させる制御部と,を有し,

前記受光部は,前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が

入れ替わるように配置され,

前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の
前記発光部を光らせ,その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出

手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出することを特徴とする液体インク

供給システム。

3 審決の理由

(1) 別紙審決書写しのとおりである。その判断の概要は以下のとおりである。

ア 本件発明1について
(ア) 無効理由1について

甲1(国際公開第2002/040275号)記載の発明(以下「甲1発明」と

いう。)に甲2ないし甲11(甲2は特開平6−262771号公報,甲3は特開

2002−1991号公報,甲4は特開2001−293883号公報,甲5は特

開平6−115089号公報,甲6は特開2002−301829号公報,甲7は

特開2001−310458号公報,甲8は実公昭61−10215号公報,甲9
は特開平10−65188号公報,甲10は特開2003−291364号公報,




甲11は特開2003−300359号公報)に記載の事項を組み合わせても,本
件発明1と甲1発明との相違点に係る構成に想到することが容易であるということ

はできないから,本件発明1と甲1発明との相違点について,副引例(甲2ないし

甲5),周知技術(甲6ないし甲11)の組み合わせにより,本件発明1及び2に

想到することは当業者にとって容易であり,本件発明1は無効とされるべきである

との請求人ら(原告ら)の主張には理由がない。

(イ) 無効理由2について

本件発明1は,当業者が,甲1,甲3ないし甲6,甲10,甲13ないし甲25

(甲13は「CANON製PIXUS 6500iプリンターの分解写真」,甲14は特開平10−

230616号公報,甲15は特開平10−323993号公報,甲16は特開2

001−287381号公報,甲17は特開平11−263025号公報,甲18

は特開平4−275156号公報,甲19は特開2000−326604号公報,

甲20は特開2002−5818号公報,甲21は「新電子工作入門」抜粋,甲2
2は特開平11−286121号公報,甲23は特開2002−370378号公

報,甲24は特開2002−14870号公報,甲25は特開2002−3703

83号公報)に記載された発明に基づいて,容易に発明をすることができたもので

あるということはできないから,請求人らの主張には理由がない。

(ウ) 無効理由3について

本件発明1は,記録装置の構成を除外すれば,甲1発明から容易に想到し得ると
の請求人らの主張は,「記録装置の構成を除外する」という前提での主張であるが,

この前提は誤りであるから,本件発明1を無効とすることはできない。

イ 本件発明2について

本件発明2は,本件発明1の液体インク収納容器に加え記録装置も備えた液体イ

ンク供給システムであって,その液体インク収納容器が有する制御部は,本件発明

1の液体インク収納容器が有する制御部を更に限定したものであるから,本件発明
1を限定したものに相当する。本件発明1は,請求人らが主張する無効理由1ない




し3により無効とすることはできないものであるから,本件発明1を限定したもの
に相当する本件発明2は,同様の理由により,請求人らが主張する無効理由1ない

し3により無効とすることはできない。

ウ 請求人らは,サポート要件違反,実施可能要件違反及び明確性違反による本

件発明1及び2の無効理由を主張するが,これらの主張にはいずれも理由がない。

エ 以上のとおり,請求人らの主張及び証拠方法によっては,本件発明1及び2

についての特許を無効とすることができない。

(2) 審決が認定した甲1発明の内容,本件発明1及び2と甲1発明との一致点,

相違点は,以下のとおりである。

ア 甲1発明の内容

「複数のインクカートリッジ(印刷用記録材容器)を互いに異なる位置に搭載して

移動するキャリッジと,該インクカートリッジに備えられるデータ信号端子と電気

的に接続可能なプリンタ側端子と,各インクカートリッジに対応して設けられ,交
換対象となるインクカートリッジを点灯して示すキャリッジ上のLEDと,搭載さ

れるインクカートリッジそれぞれの前記端子と接続され,インクカートリッジを識

別するための識別データを送出するためのデータバスとを有し,交換対象となるイ

ンクカートリッジに対応するキャリッジ上のLEDを点灯させ,その点灯結果に基

づいて交換対象となるインクカートリッジを報知するカラープリンタのキャリッジ

に対して着脱可能なインクカートリッジであって,前記データバスに接続可能な前
記データ信号端子と,インクカートリッジの識別データを格納するメモリアレイ,

前記データ信号端子から入力される識別データと,前記メモリアレイに格納されて

いる識別データとに応じて応答するIDコンパレータ等を備え,前記データ信号端

子から入力される識別情報と,前記記憶素子(メモリアレイ)に格納されている識

別情報とが一致する場合に,カラープリンタ側の制御回路に対して応答する記憶装

置とを有し,前記カラープリンタ側の制御回路は,前記応答がない記憶装置を備え
るインクカートリッジを,装着されていないインクカートリッジとして検出するよ




うになっているカラープリンタに対して着脱可能なインクカートリッジ。」の発明。
イ 本件発明1と甲1発明

(ア) 一致点

「複数の液体インク収納容器を搭載して移動するキャリッジと,該液体インク収納

容器に備えられる接点と電気的に接続可能な装置側接点と,搭載される液体インク

収納容器それぞれの前記接点と接続する前記装置側接点に対して共通に電気的接続

し色情報に係る信号を発生するための配線を有した電気回路とを有する記録装置の

前記キャリッジに対して着脱可能な液体インク収納容器において,前記装置側接点

と電気的に接続可能な前記接点と,少なくとも液体インク収納容器のインク色を示

す色情報を保持可能な情報保持部と,を有する液体インク収納容器。」である点。

(イ) 相違点

相違点1:前記「記録装置」が,本件発明1では,「前記キャリッジの移動によ

り対向する前記液体インク収納容器が入れ替わるように配置され前記液体インク収
納容器の発光部からの光を受光する位置検出用の受光手段を一つ備え,該受光手段

で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体

インク収納容器位置検出手段」及び「前記キャリッジの位置に応じて特定されたイ

ンク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ,その光の受光結果に基づ

き前記液体インク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検

出する」構成を有するのに対して,甲1発明ではこれを有しない点。
相違点2:本件発明1では,前記「液体インク収納容器」に「受光手段に投光す

るための光を発光する発光部」が備えられているのに対し,甲1発明では,インク

カートリッジ(液体インク収納容器)に,発光部が備えられておらず,プリンタ側

のキャリッジに,交換対象となるインクカートリッジを報知するためのLED(発

光部)が備えられており,また,本件発明1では,前記「液体インク収納容器」に

「前記接点から入力される前記色情報に係る信号と,前記情報保持部の保持する前
記色情報とに応じて前記発光部の発光を制御する制御部」を備えるのに対して,甲




1発明では,インクカートリッジ(液体インク収納容器)の記憶装置(制御部)は,
プリンタとの接点から入力される識別情報(色情報)に係る信号と,メモリアレイ

の保持する前記識別情報(色情報)とが一致した場合に,応答信号をプリンタ側の

制御回路に対して送り返す動作を制御するものの,上記記憶装置(制御部)におい

てプリンタ側のキャリッジ上のLED(発光部)を発光させるものではない点。

ウ 本件発明2と甲1発明

(ア) 一致点

「複数の液体インク収納容器を互いに異なる位置に搭載して移動するキャリッジと,

該液体インク収納容器に備えられる接点と電気的に接続可能な装置側接点と,搭載

される液体インク収納容器それぞれの前記接点と接続する前記装置側接点に対して

共通に電気的接続し色情報に係る信号を発生するための配線を有した電気回路とを

有する記録装置と,前記記録装置の前記キャリッジに対して着脱可能な液体インク

収納容器と,を備える液体インク供給システムにおいて,前記液体インク収納容器
は,前記装置側接点と電気的に接続可能な前記接点と,少なくとも液体インク収納

容器のインク色を示す色情報を保持する情報保持部と,を有する液体インク供給シ

ステム。」である点。

(イ) 相違点

相違点3:本件発明2では,前記記録装置が,「該液体インク収納容器からの光

を受光する位置検出用の受光部を一つ備え,該受光部で該光を受光することによっ
て前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手

段」を有し,上記「受光部」は,「前記キャリッジの移動により対向する前記液体

インク収納容器が入れ替わる」ように配置されているのに対し,甲1発明では,前

記記録装置は,「液体インク収納容器位置検出手段」を有しておらず,液体インク

収納容器からの光を受光する位置検出用の受光部さえも備えていない点。

相違点4:本件発明2では,前記液体インク収納容器が,前記「液体インク収納
容器位置検出手段の前記受光部([相違点3]参照。)」に投光するための光を発




光する「発光部」を有するとともに,「前記接点から入力される前記色情報に係る
信号と,前記情報保持部の保持する前記色情報とが一致した場合に前記発光部を発

光させる制御部」も有しているのに対して,甲1発明では,インクカートリッジの

記憶装置(制御部)は,プリンタとの接点から入力される色情報(識別情報)に係

る信号と,記憶素子(メモリアレイ)に格納されている前記色情報(識別情報)と

が一致した場合に,カラープリンタ側の制御回路に対して応答し,プリンタ側のキ

ャリッジ上にLED(発光部)を備えているものの,上記インクカートリッジの記

憶装置(制御部)においてプリンタ側のキャリッジ上のLED(発光部)を点灯さ

せるものではない点。

相違点5:本件発明2では,「前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色

の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ,その光の受光結果に基づき前記

液体インク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出す

る」のに対して,甲1発明では,応答がない記憶装置を備えるインクカートリッジ
を,装着されていないインクカートリッジとして検出するものの,インクカートリ

ッジの搭載位置を検出することはできない点。

当事者の主張
第3

1 取消事由に係る原告らの主張

審決には,以下のとおり,(1) 本件発明1と甲1発明との相違点1,2に関する

容易想到性判断の誤り(取消事由1),(2) 本件発明2に関する容易想到性判断の
誤り(取消事由2),(3) サポート要件違反,実施可能要件違反,明確性違反に関

する判断の誤り(取消事由3ないし5)があり,これらは,審決の結論に影響を及

ぼすから,審決は取り消されるべきである。

(1) 本件発明1と甲1発明との相違点1,2に関する容易想到性判断の誤り(取

消事由1)

ア 審決は,「インクタンクが受光体と対向するタイミングで,受光体から所定
の強さの光量が検出されるか否かによって対向する位置のインクタンクの誤装着の




有無を判断する」という甲5記載の誤装着の検出原理について,「キャリッジとと
もに移動する液体インク収納容器の発光部を備えていないので,キャリッジととも

に移動する発光部を光らせることはできず,記録装置本体側に備えられキャリッジ

とともに移動することがない発光体4aを光らせ,この光を受光体4bが受光する

のである」から,「前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器

が入れ替わるように配置され前記液体インク収納容器の発光部からの光を受光する

位置検出用の受光手段を一つ備え,該受光手段で該光を受光することによって前記

液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段」及び

「前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の

前記発光部を光らせ,その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出

手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する」という本件発明1の誤装着

の検出原理とは同じでないと判断し,相違点1に係る本件発明1の構成に想到する

ことが容易であるということはできないとした。
しかし,甲5には,キャリッジの動きを利用して1つの受光体4bから出力され

る電流又は電圧値を基準値とし,実際に検出された電流または電圧値が前記基準値

から一定の範囲内であるか否かによって正面対向位置のインク容器の装着の正誤を

検出する構成が示され,甲3には,キャリッジに設けられたプリンタ側の接点と電

気的に接続可能な「電気接続部」を有し,この「電気接続部」を介して電源の供給

のみならず,信号のやり取りを行うこと,情報蓄積手段に格納されているインクの
種類の情報を読み出し,判断手段が情報伝達手段を発光させるかどうかを判断する

構成などが開示されている。

また,甲2記載の構成は,バス配線を備え,上り信号はバス配線に送信し,下り

信号はインク色ごとに長さを異ならせた抵抗体を設けることにより出力電流を異な

らせ,これをプリンタ本体側の制御回路でA/D変換後の電圧値として検出するも

のであるから,甲2は,バス接続を採用した場合でも入れ違いによる誤装着の検出
が可能な構成を示しているといえる。そうすると,甲1発明に,甲5,甲3記載の




技術事項を組み合わせ,相違点1に係る本件発明1の構成に至ることの動機付けも
認められる。

審決の上記判断は,結局,甲5の「発光体4a」から,本件発明1の「発光部」

には想到しないというものであるが,甲3には,「インクタンクの発光部(情報伝

達手段)からの光」及び「キャリッジの位置に応じて特定されたインク色(インク

の種類)のインクタンクの発光部(情報伝達手段)を光らせ」が開示されているか

ら,甲1発明に甲3の構成を組み合わせれば,「インクタンクの発光部からの光」

及び「キャリッジの位置に応じて特定されたインク色のインクタンクの発光部を光

らせ」に想到するといえる。

したがって,相違点1に関する審決の容易想到性判断には誤りがある。

イ 審決は,仮に,甲3に「インクタンクの立体形半導体素子に受光手段に投光

するための光を発光する発光部を備えること」が記載されているとしても,甲1発

明に,甲3の立体形半導体素子を採用すると,データバスは不要になり,電気接続
部に必要な端子は電力の供給を受ける端子のみになり,受光手段は光による情報通

信用のものであるから,甲1発明の制御部(記憶装置)は「記録装置からの要求に

応じて接点から入力される色情報に係る信号と液体インク収納容器の情報保持部で

保持している色情報とが一致したときの応答信号をバス配線に返する」ものから,

相違点2に係る本件発明1の構成である「前記接点から入力される前記色情報に係

る信号と,前記情報保持部の保持する前記色情報とに応じて前記発光部の発光を制
御する」ようなものにはなり得ない旨判断した。

しかし,甲3には,電力のみならず,信号のやりとりも行う「電気接続部」が記

載され(【0064】,【0113】),電気的接点を介して受信した入力信号に

応じて判断手段が情報蓄積手段に格納された情報を読み出し,タンク内部情報と比

較判断する構成が開示されている(【0046】)。

また,甲3の情報伝達手段が発光したときの光を受光する甲3のカラープリンタ
側の受光手段は位置検出用のものでないとしても,甲5の第1実施例には,正面対




向位置のインク容器の装着の正誤を検出するための位置検出用の受光体4b及びプ
リンタ本体側の制御回路が存在するから,甲1発明に甲5記載の事項を組み合わせ

れば,「前記受光手段に投光するための光を発光する前記発光部」の「前記受光手

段」に想到するのであり,審決の判断には誤りがある。

ウ 審決は,甲2記載の事項について,「図3にみられるように・・・バス接続

方式を採用する点が記載されているが,これは記録装置本体の制御回路内のことで

あり,記録装置とインクカートリッジの接続箇所に使われているものではない。ま

た,・・・信号線lは,ID情報や制御情報などを双方向に通信する甲第1号証の

データバスとは全く異なるもので,MPUにアナログ信号としての電圧を入力する

ための配線にすぎないものである。甲第2号証には,インクカートリッジの誤装着

を検知することが記載されているが,その検知手法はインクカートリッジの各々異

なった位置に導体部や端子を取り付けるものである。」と認定し,仮に,甲2の記

載から,甲1発明において,インクカートリッジの誤装着を検知できるようにしよ
うとの動機付けが生じたとしても,その結果の発明は,甲1発明において,各イン

クカートリッジの各々異なった位置に導体部や端子を取り付け,1本の信号線を用

いて,予め決められた位置に対応する導体部や端子を備えたインクカートリッジが

装着されたか否かをその信号線の電圧をMPUが検知することにより判断できるよ

うにしたものであり,甲2の記載から,甲1発明において,甲3記載の立体形半導

体素子や甲5記載のインク残量検出手段を採用するとの動機付けが生じることはな
いと判断した。

また,審決は,本件明細書の記載(例えば,【0080】ないし【0116】,

図20ないし図31。判決注:図20は別紙1のとおりである。)から,本件発明

1及び2の実施形態におけるバス配線は,記録装置側の制御回路300とインクタ

ンク側の入出力制御回路103Aとの間でデータのやりとりを双方向で行い,記録

装置側の制御回路300がメモリーアレー103Bに対して行うデータの書き込み
及び読み出しにも使うものであることが明らかであるとして,本件発明1が採用し




た構成の技術的意義は,下り信号をバス配線に返すのではなくバス配線とは異なる
ルートを設定した点にあるとはいえない旨判断した。

そして,審決は,仮に,甲2,甲3及び甲5の記載から,当業者に,甲1発明に

おいて,甲2,甲3及び甲5に記載の事項を採用する動機が生じたとしても,当業

者が,本件発明1及び2のような発明には想到しない旨判断した。

しかし,審決の判断は,以下のとおり誤りである。

(ア) 甲2には,インクカートリッジ1a,1b,1c,1dが,制御回路と接続

された電源ラインVccに対し,接点S11,S21,S31,S41を介してバス

接続される構成が開示されている(【0038】,図10)。ここで,各インクカ

ートリッジが接点を介して1つの電源ラインVccに共通に接続されている点がバ

ス接続であり,甲2の信号線lは,ID情報や制御情報などを双方向に通信する甲

1のデータバスとは全く異なるもので,MPUにアナログ信号としての電圧を入力

するための配線にすぎないとはいえない。そうすると,甲2の第2実施例,図10
には,「抵抗体」によってインクタンクのインク色を識別し,この「抵抗体」から

の出力電流を異ならせ,プリンタ本体側の制御回路においてA/D変換後の電圧値

を検出することにより,バス接続を用いた場合でもインクタンクの入れ違いによる

誤装着の検出が可能な構成が示されているといえる。

したがって,審決は,甲2の第2実施例を考慮せずに甲2記載の事項を認定し,

これを前提として,甲2の記載から,甲1発明において,甲3記載の立体形半導体
素子や甲5記載のインク残量検出手段を採用するとの動機付けが生じることはない

と判断した誤りがある。

(イ) また,本件明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載によれば,バス配線が

使用されるのは上り信号を送信するときだけである。審決は,同項に,記録装置か

ら液体インク収納容器への片方向の通信にのみ使用する「バス配線」しか記載され

ていないのに,発明の詳細な説明参酌し,同項の「バス配線」について,双方向
の通信が可能でメモリーアレーに対する書き込み/読み出しにも使用する限定され




た「バス配線」と認定し,これを前提として,本件発明1が採用した構成の技術的
意義は,下り信号をバス配線に返すのではなくバス配線とは異なるルートを設定し

た点にあるとはいえないと判断した誤りがある。

(ウ) 以上のとおり,審決の判断には誤りがあり,これを前提として,甲1発明に,

甲2,甲3及び甲5に記載の事項を採用する動機が生じたとしても,本件発明1及

び2のような発明になることはないとした判断にも誤りがある。

エ なお,審決は,「甲第3,4号証も甲第20号証以上のことは記載されてお

らず,かつ,甲第3,4,6,18,19,20号証の発光部は,いずれも,液体

インク収納容器それぞれの接点と接続する装置側接点に対して共通に電気接続した

配線を介して入力される色情報と,情報保持部の保持する色情報とに応じて発光さ

せられるものとはいえない。」とするが,上記ウと同様の理由により,誤りである。

また,審決は,「甲第5,10,13ないし17号証の発光部は,間にインク容

器を挟んで受光手段に対向する位置に配置されるか,あるいは,インク容器に対向
する受光手段と並んで位置するように配置されるから,インクタンクに配置される

ものではない。」とするが,上記イと同様の理由により,誤りである。

(2) 本件発明2に関する容易想到性判断の誤り(取消事由2)

審決は,本件発明2は本件発明1を更に限定したものに相当すると認定し,本件

発明1は原告ら(請求人ら)が主張する無効理由1ないし3により無効とすること

ができないから,本件発明1を限定したものに相当する本件発明2は,同様の理由
により,無効理由1ないし3により無効とすることはできない旨判断した。

しかし,上記(1) のとおり,本件発明1を無効とすることはできないとの審決の

判断は誤りである。また,本件発明1が本件発明2と相違する点は,全て甲1,甲

5,甲3に開示された事項の範囲内であるから,本件発明1と2とで容易想到性

判断が異なることはない。

したがって,審決の上記判断は誤りである。
(3) サポート要件違反に関する判断の誤り(取消事由3)




ア 審決は,本件明細書の特許請求の範囲の請求項1及び3が「N−1型プリン
タ」を含むかという点について,本件発明1及び2がサポート要件を満たしている

かどうかとは関係のないことであるとし,また,審決は,「N−1型プリンタ」に

ついて,キャリッジに搭載されるインクタンクN個のうち,誤装着の検出対象とな

る「インクタンクA」がN−1個存在し,誤装着の検出対象とならない「インクタ

ンクB」が1個存在するようなプリンタであることを前提に,本件発明1及び2は,

本件明細書の発明の詳細な説明にその実施形態とともに詳細に記載されているから,

「N−1型プリンタ」が本件発明1及び2に含まれるにもかかわらず,本件明細書

発明の詳細な説明に記載されていないからといって,本件発明1及び2をサポー

ト要件違反であるとすることはできない旨判断した。

しかし,本件明細書の特許請求の範囲の請求項1及び3が「N−1型プリンタ」

を含むかという点はサポート要件の問題であり,審決はこれを看過し,判断を脱漏

した誤りがある。
また,「N−1型プリンタ」とは,受光部が,誤装着の検出対象となる全N個の

インクタンクのうち「N−1個」と入れ替わって対向する,「N−1個対向」のプ

リンタのことである。このようなプリンタにおいては,予め全種類のインクタンク

が装着されていることが別の技術的手段により確認されている場合で,かつ受光部

に対向するN−1個のインクタンクが全て正しく装着されている場合に限り,残り

1個のインクタンクの装着も正しいことが確定するが,各インクタンクの装着のそ
れぞれが正しいかどうかは,対向インクタンクについては判断できても,非対向イ

ンクタンクについては判断することができない。審決が前提とする「N−1型プリ

ンタ」の理解には誤りがある。

さらに,(「N−1型プリンタ」を含む)本件発明1及び2が,本件明細書の発

明の詳細な説明に記載されているとすれば,「N−1型プリンタ」も本件明細書の

発明の詳細な説明に記載されているはずであるから,「『N−1型プリンタ』が本
件発明1及び2に含まれるにもかかわらず,本件明細書の発明の詳細な説明に記載




されていない」ということはできないから,審決の判断過程には誤りがある。
イ 審決は,「補助的操作」が本件発明1及び2に含まれるかどうかは,本件発

明1及び2がサポート要件違反であるかどうかとは関係ないことであり,無効理由

とは関係のないことの判断を示すことはできないとした。

また,審決は,本件発明1及び2を採用した製品において,受光手段が受光した

か否かの判断について他の発明の技術が採用されており,かつ,その「他の発明」

については本件明細書に何ら記載されていないとしても,そのことにより,本件発

明1及び2がサポート要件違反であることにはならないと判断した。

しかし,「補助的操作」が本件明細書の請求項1及び3の記載に含まれることを

前提とすれば,「補助的操作」の構成が,本件明細書の発明の詳細な説明によって

サポートされているか否かはサポート要件の問題であり,審決はこの点について判

断を脱漏した誤りがある。

また,審決は,「補助的操作」が本件発明1及び2に含まれないもの(「他の発
明」)であるか否かを判断していないから,「補助的操作」について本件明細書に

何ら記載されていないことにより,本件発明1及び2がサポート要件違反にならな

いかどうかは不明のはずであり,審決の判断過程には誤りがある。

ウ 審決は,「インクタンクごとにその搭載位置を特定しなくても,装着される

べき位置に正しいインクタンクがすべて装着されているときとそうでないときとを

判別できれば,共通バス接続の方式を採用した場合でも液体インク収納容器の搭載
位置の誤り(誤装着)を検出できるといえる。」などとして,発明の詳細な説明

記載されている制御内容の全て,あるいは一部を使用すれば,本件発明1及び2と

相俟って,共通バス接続の方式を採用した場合でも液体インク収納容器の搭載位置

の誤り(誤装着)を検出できるから,発明の詳細な説明の記載は,本件発明1及び

2をサポートしている旨判断した。

しかし,審決は,一方で,本件発明1及び2の課題につき,「コストを低減する
ため,記録装置と液体インク収納容器との間の配線の方式に,全液体インク収納容




器に共通の信号線を用いる共通バス接続の方式を採用した場合でも,各液体インク
収納容器がインク色に従ってキャリッジの所定の位置に正しく装着されているか否

かを検出することにある。」として,インクタンクごとに搭載位置が正しいかどう

かを検出することを課題として認定している。サポート要件に関する審決の上記判

断は,インクタンクごとにその搭載位置を特定しなくても,装着されるべき位置に

正しいインクタンクが全て装着されているときとそうでないときとを判別できれば

よいというのであり,審決の認定した発明の課題とは矛盾するから,審決の判断過

程には誤りがある。

(4) 実施可能要件違反に関する判断の誤り(取消事由4)

審決は,実施可能要件違反について,記録装置が,本件発明1の液体インク収納

容器とは別に,他の液体インク収納容器であるインクタンクBを着脱可能に搭載で

き,そこに搭載したインクタンクBは,キャリッジの移動により受光手段に対向す

ることができないとしても,本件発明1の液体インク収納容器である複数のインク
タンクAとは,関係のないことであり,インクタンクBが本件発明1の液体インク

収納容器に該当するか否かということも,複数のインクタンクAが本件発明1の液

体インク収納容器であるか否かということとは,関係のないことである,受光手段

又は受光部に対向しないキャリッジ上の位置に搭載するインクタンクBは,例えば

他の手段により誤装着がないようにしたものであるとしても,あるいは誤装着が起

き得るが誤装着を検出できないものであるとしても,そのようなことは,複数のイ
ンクタンクAが本件発明1の液体インク収納容器であるか否かということとは関係

のないことであるとして,実施可能要件違反の理由により,本件発明1及び2を無

効とすることはできない旨判断した。

しかし,審決は,上記(3) のとおり,本件特許において誤装着の検出対象となる

N−1個の「インクタンクA」とは別に,他の手段により誤装着がないようにする

か,誤装着が起き得るが誤装着を検出できない「インクタンクB」を観念し,「N
−1型プリンタ」とは,N−1個の「インクタンクA」と1個の「インクタンク




B」がキャリッジに搭載されるプリンタであると誤解しており,このような誤った
理解に基づいて,本件明細書の請求項1及び3に含まれる「N−1型プリンタ」が

実施可能か否かを検討することなく,実施可能要件違反とは関係のないことである

と判断したものであるから,審決の結論には誤りがある。

(5) 明確性違反に関する判断の誤り(取消事由5)

審決は,「記録装置のキャリッジに対して着脱可能な液体インク収納容器は,・

・・記録装置のキャリッジに対して装着されて,記録をするのに使用されるもので

あり,・・・通常,装着して使用すべき記録装置は1種又は関連する数種,数十種

ないしは百種類程度の記録装置に決められているものである。」との経験則に基づ

き,本件明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載は,本件発明1の「液体インク

収納容器」を,組み合わされる記録装置との関係で,明確に特定する記載である旨

判断した。

しかし,本件発明1は,インクタンクの発明でありながら,それが用いられるプ
リンタの構成を請求項に詳細に規定することによりインクタンクの構成を特定する

ものとなっている。このような請求項は,インクタンク側の構成としては同一のイ

ンクタンクであっても,請求項に詳細に規定された構成要件を充足するプリンタに

用いられる場合には全ての構成要件を充足するのに対し,そのようなプリンタでな

いプリンタに用いられる場合にはプリンタ側の構成要件を充足せず,組み合わせる

プリンタ側の構成によって,構成要件充足性を異にし,第三者に対して,権利範囲
を明確に画することができないから,明確性を欠くというべきである。

審決は,「記録装置のキャリッジに対して着脱可能な液体インク収納容器は,・

・・通常,装着して使用すべき記録装置は1種又は関連する数種,数十種ないしは

百種類程度の記録装置に決められているものである。」という根拠のない経験則に

基づいて請求項1の記載の明確性を判断したものであり,その論理には誤りがある。

2 被告の反論
審決には,以下のとおり,取り消されるべき判断の誤りはない。




(1) 取消事由1(本件発明1と甲1発明との相違点1,2に関する容易想到性
断の誤り)に対し

ア 原告らは,甲3には,「インクタンクの発光部(情報伝達手段)からの光」

及び「キャリッジの位置に応じて特定されたインク色(インクの種類)のインクタ

ンクの発光部(情報伝達手段)を光らせ」が開示されており,甲1発明に甲3の構

成を組み合わせれば,「インクタンクの発光部からの光」及び「キャリッジの位置

に応じて特定されたインク色のインクタンクの発光部を光らせ」に想到するから,

相違点1に関する審決の容易想到性判断には誤りがある旨主張する。

しかし,甲3には,インクジェットプリンタのインクタンクに立体形半導体素子

を設けるという構成が開示されており,立体形半導体素子からの情報伝達手段とし

て光を発することが記載されているが(【0049】),この記載は,単に外部に

情報を伝達する手段として光を用いるということが開示されているだけであり,原

告ら主張のような「受光手段に投光するための光を発光する発光部」との事項は開
示されていないから,原告らの主張は失当である。

イ 原告らは,相違点2についての容易想到性判断につき,審決の甲3記載の事

項に関する認定は誤りである旨主張する。

しかし,甲3には,インクに接触している半導体素子の情報入手手段が,その素

子の周囲環境であるインクタンク内情報(インクの種類も含む。)を入手し,外部

からの入力信号ではなく,この情報入手手段が入手したインクタンク内情報と半導
体素子の情報蓄積手段に蓄積されている情報とを半導体素子の判断手段が比較し,

必要ならば半導体素子自身が発光等により外部に伝達することが記載されているだ

けであり,外部からの入力信号と情報蓄積手段から読み出したインク種類情報との

比較などを行うことは記載されていない。

したがって,甲3には原告ら主張のような事項は開示されていないから,原告ら

の主張は失当である。
ウ 原告らは,@審決には甲2の第2実施例を考慮せずに甲2記載の事項を認定




し,これを前提として,甲2の記載から,甲1発明において,甲3記載の立体形半
導体素子や甲5記載のインク残量検出手段を採用するとの動機付けが生じることは

ないと判断した誤りがある,A審決は,本件明細書の特許請求の範囲の請求項1に,

記録装置から液体インク収納容器への片方向の通信にのみ使用する「バス配線」し

か記載されていないのに,発明の詳細な説明参酌し,同項の「バス配線」につい

て,双方向の通信が可能でメモリーアレーに対する書き込み/読み出しにも使用す

る限定された「バス配線」と認定し,これを前提として,本件発明1が採用した構

成の技術的意義は,下り信号をバス配線に返すのではなくバス配線とは異なるルー

トを設定した点にあるとはいえないと判断した誤りがあるとして,甲1発明に,甲

2,甲3及び甲5に記載の事項を採用する動機が生じたとしても,本件発明1及び

2のような発明になることはないとした審決の判断に誤りがある旨主張する。

しかし,甲2はインクタンクの誤装着を防止する技術に関するものであり,図1

0の実施例は,各インクタンクに抵抗体を設けるものである(図11にその等価回
路が示される。)。この実施例は,インクタンクの誤装着がある場合は抵抗体の接

続関係が異なることから,これを検知できるというだけであり,「共通バス接続方

式を採用しつつも,インクタンクの搭載位置の間違いを検出する」という本件発明

1の課題や光照合処理を開示も示唆もしていない。そうすると,甲2記載の事項は,

相違点に係る本件発明1の構成とはほど遠いものであるから,これらを考慮しなか

ったとしても,甲2の記載から甲1発明において,甲3記載の立体半導体素子や甲
5記載のインク残量検出手段を採用するとの動機づけが生じることはなく,審決の

容易想到性の判断に誤りはない。

エ 原告らは,他にも相違点2に関する容易想到性判断の誤りを主張するが,い

ずれも上記と同様の理由により失当である。

(2) 取消事由2(本件発明2に関する容易想到性判断の誤り)に対し

原告らは,本件発明1を無効とすることはできず,本件発明1と本件発明2と相
違する点は,全て甲1,甲5,甲3に開示された事項の範囲内であるとして,本件




発明2を無効とすることはできないとした審決は誤りである旨主張する。
しかし,本件発明2に関する審決の容易想到性判断に対する原告ら主張の取消事

由は,本件発明1に関するものと同様である。本件発明1に関する審決の容易想到

性判断に誤りはないから,同様の理由により,本件発明2に関する審決の容易想到

性判断にも誤りはない。

(3) 取消事由3(サポート要件違反に関する判断の誤り)に対し

ア 原告らは,本件明細書の特許請求の範囲の請求項1及び3が「N−1型プリ

ンタ」を含むかという点はサポート要件の問題であり,審決はこれを看過し,判断

を脱漏した誤りがある,審決が前提とする「N−1型プリンタ」の理解には誤りが

ある,(「N−1型プリンタ」を含む)本件発明1及び2が,本件明細書の発明の

詳細な説明に記載されているとすれば,「N−1型プリンタ」も本件明細書の発明

の詳細な説明に記載されているはずであり,「『N−1型プリンタ』が本件発明1

及び2に含まれるにもかかわらず,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されてい
ないからといって,本件発明1及び2をサポート要件違反であるとすることはでき

ない。」旨の審決の判断過程には誤りがある旨主張する。

しかし,サポート要件を満たすか否かは,特許請求の範囲に記載された発明特定

事項が発明の詳細な説明に開示されているか否かを基準として判断されるものであ

り,特定の製品の形態が発明の詳細な説明に開示されているか否か,特定の製品の

形態が特許発明に包含されるか否かを基準として判断されるものではない。
本件発明1及び2は,本件明細書の発明の詳細な説明にその実施形態と共に詳細

に記載されているから,「N−1型プリンタ」が本件発明1及び2に含まれるにも

かかわらず,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されていないからといって,本

件発明1及び2をサポート要件違反とすることはできないとの審決の判断過程に誤

りはなく,原告らの主張は失当である。

イ 原告らは,@「補助的操作」の構成が,本件明細書の発明の詳細な説明によ
ってサポートされているか否かはサポート要件の問題であり,審決はこの点につい




て判断を脱漏した誤りがある,A審決は,「補助的操作」が本件発明1及び2に含
まれないものであるか否かを判断していないから,「補助的操作」について本件明

細書に何ら記載されていないことにより,本件発明1及び2がサポート要件違反に

ならないかどうかは不明のはずであり,審決の判断過程には誤りがある旨主張する。

しかし,上記アのとおり,サポート要件を満たすか否かは,特許請求の範囲に記

載された発明特定事項発明の詳細な説明に開示されているか否かを基準として判

断されるものであり,特定の製品の形態が発明の詳細な説明に開示されているか否

か,特定の製品の形態が特許発明に包含されるか否かを基準として判断されるもの

ではない。

「補助的操作」が本件発明1及び2に含まれるかどうかは,本件発明1及び2が

サポート要件違反であるかどうかとは関係のないことであるとし,上記アのとおり,

サポート要件違反とすることはできないとした審決の判断に誤りはない。

ウ 原告らは,審決は,インクタンクごとにその搭載位置を特定しなくても,装
着されるべき位置に正しいインクタンクが全て装着されているときとそうでないと

きとを判別できればよいと判断するところ,この判断は,審決の認定した発明の課

題とは矛盾するから,審決の判断過程には誤りがある旨主張する。

しかし,本件発明1及び2の課題は,共通バス接続方式では,共通の信号線を介

してプリンタ本体側電気回路がインクタンクから受ける信号はそのインクタンクの

搭載位置に関わらず同じであり,インクタンクの搭載位置が正しいか否か判別でき
ないことから,「共通バス接続方式を採用しつつも,インクタンクの搭載位置間違

いを検出する」というものであり(本件明細書の【0009】),審決の認定も同

様である。そうすると,「光照合処理」に関わる構成だけで本件発明1及び2の課

題が解決できることは明らかであり,特許請求の範囲には「光照合処理」に関わる

構成のみが記載されていれば必要十分である。装着確認制御は,発明の課題を解決

するために実施される「光照合処理」に関わる構成ではなく,必須の要件でもない。
また,本件明細書には,装着確認制御と光照合処理とを組み合わせた実施例が開




示されているが,本件発明1及び2の上記課題に鑑みれば,光照合処理を1つの技
術思想と捉えることができ,装着確認制御を規定せずに光照合処理を請求項で特定

して本件発明1及び2とすることはサポート要件に違反しないといえる。

したがって,「発明の詳細な説明に記載されている技術事項のうちのどの部分を

請求項に記載するかは,発明をどのように捉えるかによって決まるものであり,そ

のすべてではなく一部を請求項に記載しても,技術思想といえる程度にまとまった

単位であれば,発明の詳細な説明に記載されている技術事項を記載した請求項の記

載を,発明の詳細な説明に記載されている技術事項のすべてを記載したものではな

いからといって,サポート要件違反であるとすることはできない。」とし,明細書

記載の光照合処理を1つの技術思想と捉えて装着確認制御を必須の要件ではないと

した審決の判断に誤りはない。

(4) 取消事由4(実施可能要件違反に関する判断の誤り)に対し

原告らは,「N−1型プリンタ」の誤った理解に基づいて,本件明細書の請求項
1及び3に含まれる「N−1型プリンタ」が実施可能か否かを検討することなく,

実施可能要件違反とは関係のないことであるとした審決の判断は誤りである旨主張

する。

しかし,上記(3)ア のとおり,本件発明1及び2は,本件明細書に詳細に記載さ

れているというべきであるから,実施可能であり,実施可能要件に関する審決の上

記判断に誤りはない。
(5) 取消事由5(明確性違反に関する判断の誤り)に対し

原告らは,本件発明1は,インクタンクの発明でありながら,それが用いられる

プリンタの構成を請求項に詳細に規定することによりインクタンクの構成を特定す

るものとなっており,組み合わせるプリンタ側の構成によって,構成要件充足性

異にし,明確性を欠く,審決は,根拠のない経験則に基づいて請求項1の記載の明

確性を判断したものであり,その論理に誤りがある旨主張する。
しかし,原告らの主張は,本件発明1の発明内容の明確性を問うものではなく,




本件発明1がプリンタ側の構成を特定していることのみを問題とするものである。
プリンタ製品とインクタンク製品とは,その組合せが決まっていることから,双方

を特定することができ,本件発明1がプリンタ側の構成も特定するものとなってい

るからといって,構成要件充足性の判断に困難を生じるものではなく,その技術的

範囲は不明確ではない。そうすると,本件発明1がプリンタ側の構成も特定するも

のとなっているからといって,その構成要件充足性の判断を困難にすることはなく,

技術的範囲を不明確にするものではないことを述べた上で,本件発明1が明確であ

ると結論づけた審決の判断に誤りはない。

なお,原告ら主張の事例における侵害の成否は,侵害行為等の具体的事案に応じ

て判断される特許権の効力の問題であり,明確性の問題ではない。

当裁判所の判断
第4

当裁判所は,以下のとおり,原告ら主張の取消事由はいずれも理由がなく,審決

に取り消すべき違法はないものと判断する。
1 取消事由1(本件発明1と甲1発明との相違点1,2に関する容易想到性

断の誤り)について

(1) 原告らは,相違点1に係る本件発明1の構成は,甲5記載の技術事項に,甲

3記載の技術事項を組み合わせることにより,当業者であれば容易に想到できるも

のであり,甲2記載の事項から,甲1発明に,甲5,甲3記載の技術事項を組み合

わせる動機付けもある,甲3には,「インクタンクの発光部(情報伝達手段)から
の光」及び「キャリッジの位置に応じて特定されたインク色(インクの種類)のイ

ンクタンクの発光部(情報伝達手段)を光らせ」が開示されており,甲1発明に甲

3の構成を組み合わせれば,「インクタンクの発光部からの光」及び「キャリッジ

の位置に応じて特定されたインク色のインクタンクの発光部を光らせ」に想到する

から,相違点1に関する審決の容易想到性判断には誤りがある旨主張するので,以

下検討する。
ア 認定事実




(ア) 本件明細書(甲36)には次の記載がある。
a 特許請求の範囲の請求項1及び3の記載は,上記第2の2のとおりである。

発明の詳細な説明には次の記載がある。

【技術分野】【0001】本発明は,・・・インクジェット記録で用いられるイン

クタンクのインク残量など,液体インク収納容器の状態に関する報知をLEDなど

の発光手段によって行う構成で用いられる液体インク収納容器,液体インク供給シ

ステムおよび液体インク収納カートリッジに関するものである。

【背景技術】【0002】・・・一般的にプリンタのインクタンク内のインク残量

はPCを介してモニタ上で確認する手法が知られているが,上記ノンPC記録を行

う場合においても,PCを介することなくインクタンク内のインク残量を把握した

いという要望が高まっていた。・・・

【0004】一方,さらなる高画質化の要求から従来の4色(ブラック,イエロー,

マゼンタ,シアン)インクに,濃度の薄い淡色マゼンタ,淡色シアンといったイン
クが使われるようになってきており,さらにはレッド,ブルーインクといったいわ

ゆる特色インクの使用も提案されてきている。このような場合,インクジェットプ

リンタに対しては7〜8個といったインクタンクを個別に搭載することになる。そ

の際に,間違った装着位置へのインクタンクの搭載を防止する機構が必要となって

くる。特許文献3には,インクタンクがキャリッジに搭載される際の,キャリッジ

の搭載部とインクタンク相互の係合の形状をインクタンクごとに異ならせ,これに
より,インクタンクが誤った位置に装着されることを防止している構成が開示され

ている。

【発明が解決しようとする課題】【0006】・・・インクタンクにランプが設け

られている場合であっても,インク残量が少ないとして認識しているインクタンク

を本体側制御部が特定する場合には,そのような認識に基づくランプの点灯などの

ために信号を送るべきインクタンクを特定しなければならない。・・・従って,ラ
ンプ等表示器の発光制御では,搭載されるインクタンクの搭載位置を特定すること




が必要となる。
【0007】インクタンクの搭載位置を特定する構成としては,上述したように,

搭載部とインクタンクが係合する相互の形状を搭載位置ごとに異ならせるものがあ

る。しかしながら,この場合は特に,インクの色ないし種類ごとに異なる形状のイ

ンクタンクを製造する必要があり,製造効率やコストの点で不利となる。

【0008】他の構成として,インクタンクの電気接点とキャリッジ等の搭載位置

における本体側の電気接点とが接続して形成される回路の信号線を,搭載位置ごと

に個別のものとする構成が考慮される。・・・

【0009】しかしながら,このような信号線をインクタンクもしくは搭載位置ご

とに個別なものとする構成は,信号線の数を増すものである。特に,上述したよう

に最近のインクジェットプリンタなどでは,用いるインクの種類を多くすることに

より画質の向上を図るのが一つの傾向としてある。このようなプリンタでは,特に

信号線の数が増すことはコストを増すなどの要因となる。一方で,配線数を削減す
るためにはバス接続といった所謂共通の信号線の構成が有効であるが,単にバス接

続のような共通の信号線を用いる構成では,インクタンクもしくはその搭載位置を

特定することができないことは明らかである。

【0010】本発明はこのような問題を解消するためになされたものであり,その

目的とするところは,複数のインクタンクの搭載位置に対して共通の信号線を用い

てLEDなどの表示器の発光制御を行い,この場合でもインクタンクなど液体イン
ク収納容器の搭載位置を特定した表示器の発光制御をすることを可能とすることに

ある。

【発明の効果】【0019】・・・記録装置の本体側の接点(コネクタ)と接続す

る液体インク収納容器であるインクタンクの接点(パッド)を介して入力される信

号と,そのインクタンクの色情報とに基づいて発光部の発光を制御するので,先ず,

搭載される複数のインクタンクが共通の信号線によってその同じ制御信号を受け取
ったとしても,色情報に合致するインクタンクのみがその発光制御を行うことがで




き,これにより,インクタンクを特定した発光部の点灯など発光制御が可能となる。
次に,このようなインクタンクを特定した発光制御が可能な場合,例えば,キャリ

ッジに搭載された複数のインクタンクについて,その移動に伴い所定の位置で順次

その発光部を発光させるとともに,上記所定の位置での発光を検出するようにする

ことにより,発光が検出されないインクタンクは誤った位置に搭載されていること

を認識できる。これにより,例えば,ユーザに対してインクタンクを正しい位置に

再装着することを促す処理をすることができ,結果として,インクタンクごとにそ

の搭載位置を特定することができる。

【0020】この結果,複数のインクタンクの搭載位置に対して共通の信号線を用

いてLEDなどの表示器の発光制御を行い,この場合でもインクタンクなど液体イ

ンク収納容器の搭載位置を特定した表示器の発行制御をすることが可能となる。

(イ) 甲1には次の記載がある。

技術分野
本発明は,印刷装置における印刷記録材容器の識別技術に関し,さらに詳細には

印刷記録材容器交換に際して正しい印刷記録材容器が装着されたか否かを識別する

技術に関する。(1頁4行〜7行)

発明の背景

複数色のインクカートリッジ(印刷記録材容器)を備えるカラープリンタにおい

て,インクカートリッジの交換時におけるインクカートリッジの誤装着,すなわち,
交換されるべきインク色とは異なるインクカートリッジの装着,を防止するための

技術が提案されている。例えば,インク色毎にインクカートリッジの外形形状を変

更し,誤ったインクカートリッジが物理的に装着できないようにする技術が知られ

ている。

また,同一の外形形状を有するインクカートリッジを用いる場合には,一個のイ

ンクカートリッジのみが脱着可能な開口部を有するカバーをプリンタ上に設け,交
換されるべきインクカートリッジを開口部まで移動させて,交換されるべきインク




カートリッジのみの脱着を許容する技術が知られている。
しかしながら,インク色毎に異なる外形形状を有するインクカートリッジを用い

る場合には,インクカートリッジを再利用する際にインク色毎にしかインクカート

リッジを再利用することができず,リサイクル効率が悪いという問題があった。ま

た,インクカートリッジの誤装着は防止できても交換を要しないインクカートリッ

ジを誤まって取り外してしまうという問題は防止することができなかった。さらに,

インク色毎にインクカートリッジ用の異なる金型を作成しなければならず,コスト

高になるという問題があった。

インクカートリッジを所定の交換位置まで移動させる技術では,交換されるべき

でないインクカートリッジの誤った取り外しは防止できても,装着されたインクカ

ートリッジが正しいインクカートリッジであるか否かまでは検出することはできず,

誤装着は防止できないという問題があった。(1頁9行〜2頁4行)

発明の開示
本発明は,上記問題を解決するためになされたものであり,外形的な識別形状を

用いることなく印刷記録材容器交換時における印刷記録材容器の誤装着を防止する

ことを目的とする。また,交換されるべきでない印刷記録材容器の誤った取り外し

を防止することを目的とする。(2頁6行〜10行)

発明を実施するための最良の形態

・・・
B.第1実施例に係る記憶装置の構成

次に,図7を参照して記憶装置20,21,22,23の内部構成について説明

する。図7は記憶装置20の内部回路構成を示すブロック図である。・・・

記憶装置20は,メモリアレイ201,アドレスカウンタ202,IDコンパレ

ータ203,オペレーションコードデコーダ204,I/Oコントローラ205お

よび工場設定ユニット206を備えている。(20頁17行〜19行)
・・・




IDコンパレータ203は,クロック信号端子CT,データ信号端子DT,リセ
ット信号端子RTと接続されており,データ信号端子DTを介して入力されたデー

タ列に含まれる識別データとメモリアレイ201に格納されている識別データとが

一致するか否かを判定する。詳述すると,IDコンパレータ203は,リセット信

号RSTが入力された後に入力される3ビット分のデータ,すなわち識別データを

取得する。IDコンパレータ203は,データ列に含まれる識別データを格納する

3ビットレジスタ・・・,I/Oコントローラ205を介してメモリアレイ201

から取得した識別データを格納する3ビットレジスタ・・・を有しており,両レジ

スタの値が一致するか否かによって識別データが一致するか否かを判定する。ID

コンパレータ203は,両識別データが一致する場合には,アクセス許可信号EN

をオペレーションコードデコーダ204に送出する。(21頁13行〜24行)

オペレーションコードデコーダ204は,アクセス許可信号ENが入力されると,

取得した書き込み/読み出しコマンドを解析してI/Oコントローラ205に対し
て書き込み処理要求または読み出し処理要求を送出する。(22頁3行〜6行)

・・・

図21に示す実施例では,搭載されているインクカートリッジCAに対応する数

だけキャリッジ101上にLED18が備えられている。インクカートリッジCA

交換時には,制御回路30は,キャリッジ101をインク交換位置19まで移動

させた後,交換の対象となるインクカートリッジCAに対応するLED18を点灯
または点滅させて,交換対象となるインクカートリッジCAをユーザに指し示す。

(41頁17行〜22行)

(判決注:上記図7は別紙2の第7図のとおりである。)

(ウ) 甲2には次の記載がある。

【0001】【産業上の利用分野】本発明は,複数のインクカートリッジを使用す

るインクジェット記録装置におけるインクカートリッジの着脱およびそれらを使用
しての印字制御に関するものである。




【発明が解決しようとする課題】・・・【0006】本発明の目的は,インクカー
トリッジの誤装着を電気的に検出でき,こわれにくく,作製費用が少ない検出手段

を有するインクジェット記録装置を提供することにある。

【0011】【作用】本発明のインクジェット記録装置にインクカートリッジが装

着されると,インクジェット記録装置は,インクカートリッジに設けられている導

体または抵抗体があらかじめ定められたものであるか否かを電気的に検出する。導

体または抵抗体があらかじめ定められたものである場合は,印字制御を実行する。

あらかじめ定められたものでない,すなわち,導体の位置や抵抗体の抵抗値が異な

っている場合は,警告を発する。

【0038】図10において,・・・抵抗体を取り付けたインクカートリッジをキ

ャリッジ26上の基板に装着するが,その装着は,インクカートリッジ1a,1b,

1c,1dの各々に対し接点S11 ,S21 ,S31 ,S41 ,S12 ,S22 ,S

32 ,S42 ,が対応し,その接点に各々のインクカートリッジに取り付けられて

いる抵抗体9a,9b,9c,9dが接して装着される。接点S11 ,S21 ,S

31 ,S41 にはコネクタCN1に配線された電源ラインVccが接続され,また

他端の接点S12 はインクカートリッジ1aを検出するための信号線l1に,接点

S22 はインクカートリッジ1bを検出するための信号線l2に,同様に接点S3

,S42 はインクカートリッジ1c,1dを検出するための信号線l3,l4と
2


接続し,コネクタCN1に配線されている。そして,図3のMPU33のA/D入
力のところのみ異なった制御ボード(不図示)に接続され,これが検出される。

【0039】図11は上記状態を電気回路的な接続で表わしたもので,各インクカ

ートリッジ1a〜1dを検出するための信号線l1〜l4は,MPU33aのA/

D変換の端子に入力され,インクカートリッジの抵抗体(9a〜9d)をプルダウ

ン抵抗(R1〜R4)によって電源電圧が分圧され,そのレベルが信号線l1〜l

4によってMPUの入力ポートA/D1〜A/D4に入力され,A/D変換され,
これを検出することが可能となる。




(判決注:上記図10,11は別紙3のとおりである。)
(エ) 甲3には次の記載がある。

発明の詳細な説明】【0001】【発明の属する技術分野】本発明は,半導体素

子を用いてインクタンク内の情報(例えばインク残量)を検知し,その情報を外部

へ伝達,表示する機能を有するインクタンクに関する。

【0002】また,本発明は,該インクタンクを着脱可能に搭載するファクシミリ,

プリンター,複写機等のインクジェット記録装置に関する。

【0010】本発明の目的は,インクタンクに上記素子からの配線などを引き回し

たりする必要のない,簡易な構成で,インクタンク内の情報の検出などの外部との

双方向の情報のやり取りを非常に効率良く行える立体形半導体素子を配したインク

タンク,および該インクタンクを備えたインクジェット記録装置を提供することに

ある。

【0048】(第5の実施形態)図7は本発明のインクタンクに用いる第5の実施
形態の立体形半導体素子の内部構成および外部とのやり取りを表したブロック構成

図である。図7では,情報伝達手段18が,判断手段16の命令によって電力を,

タンク内部情報へ伝達するためのエネルギーに変換して,外部Bへインク内部情報

を表示,伝達する。

【0049】・・・伝達先はインクジェット記録装置のみでなく,特に光,形,色

や音などの場合は人の視覚や聴覚に伝達してもよい。・・・
(判決注:上記図7は別紙4のとおりである。)

(オ) 甲5には次の記載がある。

【0008】そこで本発明の目的は,簡単な構成でインク容器内のインク残量の検

出が可能で,さらには同一の検出手段を用いて前記インク残量の検出の他に,イン

ク容器の有無の検出等,種々のが可能なインクジェット記録装置を提供することに

ある。
【0014】【作用】・・・本発明では,発光体と受光体とで構成される光学的検




出手段を,インク容器の一部位を略鉛直方向から挟んで配置し,インク容器のうち
少なくとも前記一部位を発光体からの光に対して透過性を有する部材で構成するこ

とで,発光体から発せられた光は前記インク容器の一部位およびインク容器中のイ

ンクを透過して受光体に到達する。受光体に到達した光は,インク中を透過した光

の距離すなわちインク容器中のインク量に応じて,その強さが変化する。そこで,

受光体から出力される電気量値をみることでインク容器内のインク量が検出される。

【0015】また,インク容器を着脱自在に設けることでインク容器がインクジェ

ット記録装置本体に装着されているかどうかの検出も行なうことができ,さらに,

記録ヘッドを略水平方向に往復移動するキャリッジに搭載するとともに,このキャ

リッジにインク容器を着脱自在に設けることで,上述したことに加え,キャリッジ

のホームポジションの検出も可能になる。そして,発光体からの光の透過率はイン

クの色毎に異なるので,それぞれ異なる色のインクを収容する複数個のインク容器

を有するインクジェット記録装置では,インク容器の誤装着の検出も可能となる。
【0017】(第1実施例)図1は,本発明のインクジェット記録装置の第1実施

例の概略斜視図である。・・・

【0021】上述した構成に基づき,キャリッジ3が透過型フォトセンサ4の発光

部4aと受光部4bとの間に移動されると,・・・発光体4aから発せられた光4

cはインク容器2およびインク容器2内のインクを透過し,受光体4bに到達する。

このとき,インク容器2内のインクは発光体4aからの光4cの一部を吸収するの
で,受光体4bに達する光4cの強さは,光4cの進む方向におけるインクの厚み

Hが小さいほど,すなわちインク容器2内のインクの量が少ないほど強くなる。こ

のことにより,インク容器2内のインクが少なくなり,受光体4bで受ける光4c

の強さがある一定のレベル以上になると受光体4bから所定の電気量が出力され,

インク容器2内のインクが少なくなったことを検出できる。そして,キャリッジ3

を移動させながら受光体4bからの電気量出力を見ることで,4つのインク容器2
内のインクが少なくなったことが検出される。




(判決注:上記図1は別紙5のとおりである。)
イ 判断

(ア) 上記ア(ア) 認定の事実によれば,本件発明1は,液体インク収納容器の状態

に関する報知をLEDなどの発光手段によって行う構成で用いられる液体インク収

納容器,液体インク供給システムおよび液体インク収納カートリッジに関し,配線

数を削減するためにはバス接続といった共通の信号線の構成が有効であるが,その

ような共通の信号線を用いる構成では,インクタンクもしくはその搭載位置を特定

することができないという問題があることから(【0001】,【0009】),

複数のインクタンクの搭載位置に対して共通の信号線を用いてLEDなどの表示器

の発光制御を行い,インクタンクなど液体インク収納容器の搭載位置を特定した表

示器の発光制御をすることを可能とすることを目的(解決課題)とした発明である

こと(【0010】),記録装置の本体側の接点(コネクタ)と接続する液体イン

ク収納容器であるインクタンクの接点(パッド)を介して入力される信号と,その
インクタンクの色情報とに基づいて発光部の発光を制御するので,複数のインクタ

ンクが共通の信号線によってその同じ制御信号を受け取ったとしても,色情報に合

致するインクタンクのみがその発光制御を行うことができ,インクタンクを特定し

た発光部の点灯など発光制御が可能となり,例えば,キャリッジに搭載された複数

のインクタンクについて,その移動に伴い所定の位置で順次その発光部を発光させ

るとともに,上記所定の位置での発光を検出するようにすることにより,発光が検
出されないインクタンクは誤った位置に搭載されていることを認識でき,ユーザに

対してインクタンクを正しい位置に再装着することを促す処理をすることができ,

インクタンクごとにその搭載位置を特定することができるという効果を奏するもの

であること(【0019】)が認められる。

すなわち,本件発明1は,共通バス接続方式のような共通の信号線を用いた場合

でも,インクタンクがインク色に従ってキャリッジの所定の位置に搭載されている
かを識別することを目的(解決課題)とした発明であるといえる。




(イ) 一方,甲1発明の内容は,上記第2の3(2)ア のとおりであり(当事者間に
争いがない。),共通バス接続方式の下で,液体インク収納容器が誤りなく装着さ

れているかを検出するための機構を備えているものである。

しかし,上記ア(イ) 認定の事実によれば,複数色のインクカートリッジを備える

カラープリンタにおいて,インクカートリッジの交換時における誤装着を防止する

ため,インク色毎にインクカートリッジの外形形状を変更し,誤ったインクカート

リッジが物理的に装着できないようにする技術や,同一の外形形状を有するインク

カートリッジを用い,1個のインクカートリッジのみが脱着可能な開口部を有する

カバーをプリンタ上に設け,交換されるべきインクカートリッジを開口部まで移動

させて,交換されるべきインクカートリッジのみの脱着を許容する技術が知られる

ところ,前者の技術には,リサイクル効率が悪い等の問題があり,後者の技術では,

交換されるべきでないインクカートリッジの誤った取り外しは防止できても,装着

されたインクカートリッジが正しいインクカートリッジであるか否かまでは検出で
きないという問題があったことから,甲1発明は,外形的な識別形状を用いること

なく,交換時における誤装着や交換されるべきでないカートリッジの誤った取り外

しを防止することを目的とするものであることが認められる。すなわち,甲1発明

は,(1回につき)1個のインクカートリッジのみが脱着可能であることを前提と

して,交換時における誤装着や交換されるべきでないカートリッジの誤った取り外

しを防止することを目的したものと認められる。そして,同発明の記憶装置は,ク
ロック信号端子CT,データ信号端子DT,リセット信号端子RTと接続されてお

り,データ信号端子DTを介して入力されたデータ列に含まれる識別データとメモ

リアレイ201に格納されている識別データとが一致するか否かを判定するのであ

って,電気配線を通じて液体インク収納容器からインク色等に係る情報(信号)を

取得するものにすぎない。

そうすると,甲1発明は,「共通バス接続方式のような共通の信号線を用いた場
合でも,インクタンクがインク色に従ってキャリッジの所定の位置に搭載されてい




るかを識別する」という本件発明1と同様の解決課題を有するものではなく,また,
光を利用して液体インク収納容器の識別を行う本件発明1の構成は開示も示唆もさ

れていないというべきである。なお,甲1には,搭載されているインクカートリッ

ジCAに対応する数だけキャリッジ101上にLED18が備えられた実施例が開

示されているが,このLEDは,交換の対象となるインクカートリッジの搭載位置

をユーザに視覚的に指し示すにすぎず,その機能は受動的なものであり,本件発明

1のように,液体インク収納容器の識別を行うために動作するものではない。

したがって,甲1に接した当業者が,共通バス接続方式のような共通の信号線を

用いた場合でもインクタンクがインク色に従ってキャリッジの所定の位置に搭載さ

れているかを識別できるようにするために,甲1発明に,他の公知技術を組み合わ

せようとする動機付けを得るとは認められない。

(ウ) また,上記ア(ウ)ないし(オ)認定の事実に照らすと,以下のとおり,甲2,甲

3,甲5のいずれにも本件発明1の上記解決課題と同様の解決課題は開示ないし示
唆されていない。

すなわち,甲2記載の発明は,インクカートリッジの誤装着を電気的に検出でき,

こわれにくく,作製費用が少ない検出手段を有するインクジェット記録装置を提供

することを目的とし,インクジェット記録装置にインクカートリッジが装着される

と,インクジェット記録装置は,インクカートリッジに設けられている導体または

抵抗体があらかじめ定められたものであるか否かを電気的に検出し,導体または抵
抗体があらかじめ定められたものである場合は,印字制御を実行するが,導体の位

置や抵抗体の抵抗値が異なっている場合は,警告を発するというものであり,共通

バス接続方式のような共通の信号線を用いた場合を前提としたものではなく,イン

クタンクがインク色に従ってキャリッジの所定の位置に搭載されているかを識別す

ることを意図したものでもない。

甲3記載の発明は,インクタンクに配線などを引き回したりする必要のない,簡
易な構成で,インクタンク内の情報の検出などの外部との双方向の情報のやり取り




を非常に効率良く行える立体形半導体素子を配したインクタンク,および該インク
タンクを備えたインクジェット記録装置を提供することを目的とし,立体形半導体

素子は,外部とのやり取りを行うものである。伝達先はインクジェット記録装置の

みでなく,特に光,形,色や音などの場合は人の視覚や聴覚に伝達してもよいとの

記載があり(【0049】),立体形半導体素子からの情報伝達手段として,光を

用いることは示されているといえるが,これは,外部に情報を伝達する手段として

光を用いることが開示されているにすぎず,光の受光結果に基づいて液体収納イン

ク容器の搭載位置を検出するという相違点1に係る本件発明1の構成が示されてい

るとはいえない。

甲5記載の発明は,光を用いてインク残量やインク色を検出する構成を有するが,

同発明は,発光体と受光体とで構成される光学的検出手段を,インク容器の一部位

を略鉛直方向から挟んで配置し,インク容器の一部位およびインク容器中のインク

に光を透過させて,その強弱や透過率によって,インク容器内のインク量やインク
色を検出するというのであるから,相違点1に係る本件発明1の構成を有するもの

ではない。

(エ) 以上のとおり,相違点1に係る本件発明1の構成は,甲5記載の技術事項に,

甲3記載の技術事項を組み合わせることにより,当業者であれば容易に想到できる,

甲1発明に甲5,甲3記載の技術事項を組み合わせる動機付けもあるとの原告らの

主張は理由がない。
(2) 原告らは,相違点2に関する容易想到性判断につき,甲3には,信号のやり

とりも行う「電気接続部」が記載され,電気的接点を介して受信した入力信号に応

じて判断手段が情報蓄積手段に格納された情報を読み出し,タンク内部情報と比較

判断する構成が開示されている,甲3のカラープリンタ側の受光手段は位置検出用

のものでないとしても,甲1発明に甲5記載の事項を組み合わせれば,「前記受光

手段に投光するための光を発光する前記発光部」の「前記受光手段」に想到する旨
主張する。




しかし,上記(1) のとおり,甲3には,インクタンクに立体形半導体素子が配さ
れているが,立体形半導体素子は,インクタンク内の情報の検出などの外部との双

方向の情報のやり取りを行うものである。立体形半導体素子からの情報伝達手段と

して,光を用いることは示されているが(【0049】),これは,外部に情報を

伝達する手段として光を用いることが開示されているにすぎないから,光を用いて

タンク内部情報と比較判断する構成が開示されているとはいえない。

また,上記(1) のとおり,当業者において,甲1発明に甲5記載の事項を組み合

わせる動機付けがあるとは認められないから,相違点2に係る「前記受光手段に投

光するための光を発光する前記発光部」の「前記受光手段」に容易に想到するとも

いえない。

したがって,原告らの主張は理由がない。

(3) 原告らは,審決には甲2の第2実施例を考慮せずに甲2記載の事項を認定し,

これを前提として,甲2の記載から,甲1発明において,甲3記載の立体形半導体
素子や甲5記載のインク残量検出手段を採用するとの動機付けが生じることはない

と判断した誤りがある,審決は,本件明細書の特許請求の範囲の請求項1に,記録

装置から液体インク収納容器への片方向の通信にのみ使用する「バス配線」しか記

載されていないのに,発明の詳細な説明参酌し,同項の「バス配線」について,

双方向の通信が可能でメモリーアレーに対する書き込み/読み出しにも使用する限

定された「バス配線」と認定し,これを前提として,本件発明1が採用した構成の
技術的意義は,下り信号をバス配線に返すのではなくバス配線とは異なるルートを

設定した点にあるとはいえないと判断した誤りがあるとして,甲1発明に,甲2,

甲3及び甲5に記載の事項を採用する動機が生じたとしても,本件発明1及び2の

ような発明になることはないとした審決の判断に誤りがある旨主張する。

しかし,上記(1) のとおり,甲1に接した当業者が,共通バス接続方式のような

共通の信号線を用いた場合でもインクタンクがインク色に従ってキャリッジの所定
の位置に搭載されているかを識別できるようにするために,甲1発明に,他の公知




技術を組み合わせようとする動機付けを得るとは認められないから,原告らの上記
主張はいずれも採用できない。

(4) 原告らは,他にも本件発明1に関する容易想到性判断の誤りを主張するが,

いずれも上記と同様の理由により採用できない。

2 取消事由2(本件発明2に関する容易想到性判断の誤り)について

原告らは,本件発明1を無効とすることはできず,本件発明1と本件発明2と相

違する点は,全て甲1,甲5,甲3に開示された事項の範囲内であるとして,本件

発明2を無効とすることはできないとした審決は誤りである旨主張する。

しかし,上記1のとおり,本件発明1について甲1発明等から容易想到というこ

とはできないものであるところ,本件発明2は,本件発明1の液体インク収納容器

に加え記録装置も備えた液体インク供給システムであって,その液体インク収納容

器が有する制御部は,本件発明1の液体インク収納容器が有する制御部を更に限定

したものであるから,同様の理由により,本件発明2についても容易想到というこ
とはできない。

したがって,原告らの主張は失当である。

3 取消事由3(サポート要件違反に関する判断の誤り)について

(1) 原告らは,本件明細書の特許請求の範囲の請求項1及び3が「N−1型プリ

ンタ」を含むかという点はサポート要件の問題であり,審決はこれを看過し,判断

を脱漏した誤りがある,審決が前提とする「N−1型プリンタ」の理解には誤りが
ある,(「N−1型プリンタ」を含む)本件発明1及び2が,本件明細書の発明の

詳細な説明に記載されているとすれば,「N−1型プリンタ」も本件明細書の発明

の詳細な説明に記載されているはずであり,「『N−1型プリンタ』が本件発明1

及び2に含まれるにもかかわらず,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されてい

ないからといって,本件発明1及び2をサポート要件違反であるとすることはでき

ない。」旨の審決の判断過程には誤りがある旨主張する。
しかし,いわゆるサポート要件に関する特許法36条6項1号は,発明の詳細な




説明に記載していない発明について特許請求の範囲に記載すると,公開されていな
い発明について独占的,排他的な権利が発生することになり,一般公衆からその自

由利用の利益を奪い,ひいては産業の発達を阻害するおそれを生じ,特許制度の趣

旨に反することになるから,これを防止する趣旨で,特許請求の範囲の記載に際し,

発明の詳細な説明に記載した発明の範囲を超えて記載してはならない旨を規定する

ものである。そして,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは,

特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記

載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載

により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,

また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課

題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断されるもので

ある。

上記の趣旨に照らすならば,「N−1型プリンタ」という特定の構成を有する製
品が,本件明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし3に含まれるか否か,発明の

詳細な説明に記載されているか否かは,当該特許請求の範囲の記載のサポート要件

充足性の問題には当たらないというべきである。

したがって,この点につき,サポート要件を満たしているかどうかとは関係のな

いこととした審決の判断に誤りはなく,原告らの上記主張は理由がない。

(2) 原告らは,「補助的操作」の構成が,本件明細書の発明の詳細な説明によっ
てサポートされているか否かはサポート要件の問題であり,審決はこの点について

判断を脱漏した誤りがある,審決は,「補助的操作」が本件発明1及び2に含まれ

ないものであるか否かを判断していないから,「補助的操作」について本件明細書

に何ら記載されていないことにより,本件発明1及び2がサポート要件違反になら

ないかどうかは不明のはずであり,審決の判断過程には誤りがある旨主張する。

しかし,上記(1) の趣旨に照らすならば,原告らの主張する「補助的操作」との
構成(インクタンクが受光部に対向した位置での受光結果のみならず,非対向位置




での受光結果をも検出し,対向位置での受光結果と比較する処理をいうものと解さ
れる。)が本件明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし3に含まれるか否か,発

明の詳細な説明に記載されているか否かは,当該特許請求の範囲の記載のサポート

要件充足性の問題には当たらないというべきである。

したがって,この点につき,サポート要件を満たしているかどうかとは関係のな

いこととした審決の判断に誤りはなく,原告らの上記主張は理由がない。

(3) 原告らは,審決は,インクタンクごとにその搭載位置を特定しなくても,装

着されるべき位置に正しいインクタンクが全て装着されているときとそうでないと

きとを判別できればよいと判断するところ,この判断は,審決の認定した発明の課

題とは矛盾するから,審決の判断過程には誤りがある旨主張する。

しかし,審決は,「エ 上記ウの実施の形態では,総てのインクタンクのLED

101が点灯したと判断した後に,装着されるべき位置に正しいインクタンクが装

着されているかどうかを判断し,前記第1受光部からの入力で発光が検出されなか
った色情報が示すインク色のインクタンクは誤った位置に搭載されていることを認

識し,装着されるべき位置に正しいインクタンクが装着されていなかった場合には,

・・・そのとき前記制御回路300から出力した信号の色情報が示すインク色のイ

ンクタンクがその装着されるべき位置に誤って装着されてしまったインクタンクで

あることを特定するようにして,インクタンクごとにその搭載位置を特定している

が,このような処理でインクタンクごとにその搭載位置を特定できるのは,請求項
1及び3に記載されている構成を備えていることが前提になっているのであるから,

本件発明1及び2は,他の具体的な構成と相俟って,共通バス接続の方式を採用し

た場合でも液体インク収納容器の搭載位置の誤り(誤装着)を検出できるようにし

たものである。」旨認定した上,「上記エのとおり,本件明細書の発明の詳細な説

明には,・・・共通バス接続の方式を採用した場合でも液体インク収納容器の搭載

位置の誤り(誤装着)を検出できるようにするための他の具体的な構成も記録され
ているから,発明の詳細な説明の記載は,本件発明1及び2をサポートしている」,




「さらに,インクタンクごとにその搭載位置を特定しなくても,装着されるべき位
置に正しいインクタンクがすべて装着されているときとそうでないときとを判別で

きれば,共通バス接続の方式を採用した場合でも液体インク収納容器の搭載位置の

誤り(誤装着)を検出できるといえる。」と判断したものである(審決215頁下

から2行目ないし216頁下から5行目)。

そうすると,審決を全体としてみれば,本件発明1及び2が,共通バス接続方式

を採用した場合でも,各液体インクタンクがインク色に従ってキャリッジの所定の

位置に正しく装着されているか否かを検出することを課題とした発明であることを

前提として,サポート要件を満たすかどうかを判断しているといえるから,その判

断過程に誤りがあるとはいえない。

4 取消事由4(実施可能要件違反に関する判断の誤り)について

原告らは,「N−1型プリンタ」の誤った理解に基づいて,本件明細書の請求項

1及び3に含まれる「N−1型プリンタ」が実施可能か否かを検討することなく,
実施可能要件違反とは関係のないこととした審決の判断は誤りである旨主張する。

しかし,いわゆる実施可能要件に関する特許法36条4項1号は,発明の詳細な

説明に基づいて当業者が実施できない発明に対して,独占的,排他的な権利を付与

することは,一般大衆からその自由利用の利益を奪い,ひいては産業の発達を阻害

するおそれを生じ,特許制度の趣旨に反することとなるから,これを防止する趣旨

で設けられたものである。
上記の趣旨に照らすならば,実施可能要件充足性は,本件明細書の発明の詳細な

説明に,当業者が,発明が解決しようとする課題,解決手段,その他の発明の技術

上の意義を理解するために必要な情報が記載されているか否かによって判断される

べきものであり,「N−1型プリンタ」という特定の構成を有する製品が本件明細

書の請求項1及び3に含まれるか否かや「N−1型プリンタ」が発明の詳細な説明

に基づいて実施可能か否かは,実施可能要件充足性の問題には当たらないというべ
きである。




したがって,この点につき,実施可能要件違反とは関係のないこととした審決の
判断に誤りはなく,原告らの主張は理由がない。

5 取消事由5(明確性違反に関する判断の誤り)について

原告らは,本件発明1は,インクタンクの発明でありながら,それが用いられる

プリンタの構成を請求項に詳細に規定することによりインクタンクの構成を特定す

るものとなっており,組み合わせるプリンタ側の構成によって,構成要件充足性

異にし,明確性を欠く,審決は,根拠のない経験則に基づいて請求項1の記載の明

確性を判断したものであり,その論理に誤りがある旨主張する。

しかし,いわゆる明確性要件に関する特許法36条6項2号は,特許請求の範囲

が,特許権の権利範囲がこれによって確定されるという点において重要な意義を有

するものであり,特許請求の範囲に記載された発明が明確に把握できないときには

権利の及ぶ範囲が第三者に不明確となり不測の不利益を及ぼすこととなるから,こ

れを防止する趣旨で設けられたものである。
上記の趣旨に照らすならば,明確性要件充足性は,本件明細書の特許請求の範囲

の請求項1の記載から,本件発明1の発明概念が明確に特定されるか否かによって

判断されるべきものであり,請求項にプリンタの構成を規定することにより,プリ

ンタ側の構成によって構成要件充足性が異なるとしても,そのことによって発明の

明確性を欠くとはいえず,この点は,通常使用されるプリンタの種類の多寡によっ

て変わるものではない。審決は,通常,装着して使用すべき記録装置(プリンタ)
の種類の数に言及しつつも,結局,本件明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載

から,組み合わされる記録装置との関係で,本件発明1の発明概念が明確に特定さ

れる旨判断しているのであって,その論理に誤りがあるとはいえない。

したがって,原告らの主張は理由がない。

6 小括

よって,原告ら主張の取消事由はいずれも理由がなく,審決に取り消すべき違法
は認められない。原告らは,他にも縷々主張するが,いずれも採用の限りではない。




第5 結論
よって,原告らの請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。



知的財産高等裁判所第3部




裁判長裁判官
芝 俊
田 文




裁判官
岡 岳





裁判官

武 宮 英





別紙
1 本件明細書

【図20】




2 甲1

第7図




3 甲2

図10 図11





4 甲3

【図7】




5 甲5

【図1】