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事件 |
平成
24年
(ネ)
10096号
特許権侵害差止等請求控訴事件
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2013/03/28 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
判例全文 | |
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判例全文
平成25年3月28日判決言渡 平成24年(ネ)第10096号 特許権侵害差止等請求控訴事件(原審・大阪地 方裁判所平成22年(ワ)第6028号) 口頭弁論終結日 平成25年2月28日 判 決 控訴人(原告) 企業A 訴訟代理人弁護士 村 田 恭 介 原 井 大 介 辻 本 希 世 士 辻 本 良 知 笠 鳥 智 敬 松 田 さ と み 被控訴人(被告) 企業B 訴訟代理人弁護士 向 井 太 志 重 冨 貴 光 中 村 瑞 穂 主 文 本件控訴を棄却する。 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決のうち予備的請求を棄却した部分を取り消す。 2 被控訴人は,控訴人に対し,1億2000万円及びこれに対する平成22年 5月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 仮執行宣言 第2 事案の概要 1 電子ブレーカに関して,特許権を有し,販売も行っている控訴人(原告)は, 電子ブレーカ(被告製品)を販売する被控訴人(被告)に対し,主位的には,被告 製品が控訴人の特許権を侵害していると主張して,特許法100条1項,2項に基 づく被告製品の製造等の差止め,廃棄等を求めるとともに,不法行為に基づく損害 賠償として1億2000万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求め,予備的に, 電気用品安全法所定の義務を履行した場合に付すことのできるPSE表示を,同法 において必要とされる検査を受けずに,被告製品に付して販売した行為が不正競争 防止法2条1項13号の不正競争行為(品質等誤認惹起行為)に当たると主張して, 同法4条に基づき,損害額82億5260万円の一部1億2000万円及びこれに 対する遅延損害金の支払を求めた。 2 原判決は,特許権侵害に関する主位的請求について,被告製品は控訴人の特 許発明の技術的範囲に属しないと判断し,不正競争行為に関する予備的請求につい ても,型式変更前の被告旧製品について得たPSE表示を型式変更後の被告新製品 に付して販売したことは不正競争行為に該当し,この行為につき被控訴人に過失は あるものの,損害の発生が認められないとして,控訴人の請求をいずれも棄却した。 本件控訴は,予備的請求の限度で不服を申し立てるものである。 3 判断の基礎となる事実は,原判決2頁26行目以下の「1 判断の基礎とな る事実」記載のとおりである(ただし,3頁6行目〜6頁15行目を除く。)。 第3 当事者の主張 1 原審からの主張 原審における当事者の主張は,原判決10頁18行目以下の「2 予備的請求」 記載のとおりである。 2 当審における控訴人の主張 (1) 損害の有無について ア 不正競争防止法5条2項の適用の前提として損害の発生の立証が必要で あると解するならば,侵害者と被侵害者の各製品が市場において競合関係にある限 り,侵害者の製品が存在したことによって,被侵害者には経済上の損害が発生した ものと事実上推定されるとの解釈も同時に採用すべきである。このような解釈は, 経験則や,名古屋高裁金沢支部平成19年10月24日判決(氷見うどん事件)等 の裁判例とも合致する。 本件では,被控訴人と控訴人が市場において競合関係にあったことは明らかであ るから,控訴人の損害の発生も明らかであって,これを否定した原判決は,上記の 経験則や裁判例に反する。 イ 原判決は,被告新製品本体に付されたPSE表示が需要を喚起していな いことを重視して,控訴人の損害の発生を否定したものと思われる。 しかしながら,控訴人が原審で主張・立証したように,被控訴人は,パンフレッ トでPSE表示に関する記述をし,あるいは,営業活動に際してPSE表示に言及 するなどしていたのであって,被告新製品本体に付されたPSE表示を重視する原 判決には誤りがある。また,原審で控訴人が主張した諸事実に照らすと,PSE表 示が被告新製品への需要を喚起したことは明白である。 (2) 損害額について 控訴人の損害額は,原審で主張した金額(82億5260万円,46億1320 万3400円,7億8000万円又は6億0174万6967円)に10パーセン ト相当額の弁護士費用を加算した金額とすべきであり,本訴では,その一部として 1億2000万円を請求するものである。 3 被控訴人の当審主張 (1) 当審における控訴人の主張(1)アに対して 同業関係・競業関係にあるというだけで,損害発生が推定されるなどというので あれば,それは,損害「額」だけではなく,「損害発生」そのものが法律上推定さ れるという解釈論と異ならない。しかし,不正競争防止法は,明確に損害の「額」 を推定すると規定しているのであり,これを損害の発生までも推定するものと解釈 することは,この明文に反する。損害の発生と損害の額の算定はあくまで別問題で あり,法は損害の「額」を推定するのみであり,損害発生そのものの推定は,単に 競業関係にあるというだけでは働かない。 本件は,控訴人が指摘する裁判例とは事案を異にし,原判決が行った認定は何ら 経験則及び裁判例に反するものではなく,その説示に誤りはない。 (2) 当審における控訴人の主張(1)イに対して 控訴人は,被控訴人がパンフレットにPSE表示をしていた旨主張した上で,そ れらのPSE表示が需要を喚起したなどと主張する。 しかしながら,被控訴人のパンフレットには,ごく一部に小さな活字でJETの 認可番号が表示されているだけであり,需要喚起の手段として利用されていない。 控訴人の主張するその他の事実によっても,需要が喚起されるものではない。 (3) なお,原判決は,被控訴人に品質等誤認惹起行為があり,その点について 被控訴人に過失があると判断したが,これらの争点に関する被控訴人の原審での主 張に照らすと,原判決の上記判断は誤りである。 第4 当裁判所の判断 1 当裁判所も,被控訴人が,PSE表示を付すための手続要件を満たしていな い被告新製品につき,型式変更前の被告旧製品について得たPSE表示(旧表示) を付して販売したことは不正競争防止法2条1項13号の品質誤認惹起行為に該当 し,その点について被控訴人には過失があったと判断する。その理由は,原判決1 9頁19行目以下の「2 争点3(品質等誤認惹起行為該当性)について」及び2 5頁3行目以下の「3 争点4(故意又は過失の有無並びに違法性)について」の とおりである(ただし,21頁3行目の「ものである一方,PSE表示への言及は ない。」を「ものである。」と改める。)。これらの点について被控訴人が主張す るところによっても,上記判断は動かない。 2 不正競争行為による損害の有無について 損害の有無に関する控訴人の主張は,被告新製品については本来PSE表示を付 すことができず,販売すること自体が許されないのであって,被告新製品にPSE 表示(旧表示)がなければ,需要者が被告新製品を購入することはなかったから, その販売分の損害を控訴人(及び競合他社)が被ったというものである。 しかしながら,原判決が19頁20行目〜23頁4行目で認定した事実関係,特 に,@被告製品を製造する企業Cは,被告旧製品について,経済産業 大臣の登録を受けた財団法人電気安全環境研究所(JET)の適合性検査を受け, 適合性検査証明書(旧検査証明書)の発行を受けていたこと,A被控訴人及び企業C が,被告旧製品から,過電流引き外し機構の型式を変更した被告新 製品に切り換えるに当たり,改めて適合性検査を受けなかったのは,その必要があ ると認識していなかったためであった,すなわち,単なる過失によるものであった こと,Bその後,企業Cは,被告新製品につき改めて適合性検査を受 ける必要があることを認識するや,速やかにJETに対する適合性検査を申し込み, そのわずか8日後には,被告新製品につき新検査証明書の発行を受けていること, 以上の事実に照らすと,被控訴人及び企業Cには,必要な適合性検査 を受ける意思はあり,単に過失により被告新製品についての適合性検査の必要性を 認識していなかったため,被告新製品に係る適合性検査を受けるのが遅れたにとど まるというべきである。そうすると,旧表示のPSE表示を付したまま被告新製品 を販売していたのが許されなかったとしても,被控訴人又は企業Cと しては,被告旧製品について適合性検査を受けたのと同様に,速やかに新たな適合 性検査を受け,数日後に発行されたであろう新たなPSE表示をした被告新製品を 販売したと想定するのが合理的であり,そうだとすると,被控訴人が被告新製品を 長期間にわたって販売できなかったと認めることはできないというべきであるか ら,その販売分に対応する損害を控訴人が被ったとは認め難い。なお,被告新製品 について,電気用品安全法に関する技術基準に適合しないものではなく,必要な手 続の履行を怠ったに止まることや,PSE表示(旧表示)がことさら需要を喚起し たものとは認められないことについては,原判決が26頁18行目〜29頁1行目 で説示するとおりであって,この認定を論難する控訴人の主張は理由がない。 また,控訴人は,被控訴人と控訴人とが市場において競合関係にある場合には, 控訴人の損害の発生を事実上推認すべきである旨主張する。しかしながら,競合他 社に損害が発生するかどうかは,品質等誤認惹起行為の内容や,その行為が販売に どのように影響するか等を含めて総合的に判断すべきであって,訴訟の当事者が競 合関係にあるという事実だけから直ちに損害の発生を事実上推認すべきであるとす る控訴人の主張は採用し難い。なお,控訴人の主張する裁判例は,本件とは事例を 異にするものである。 したがって,損害の発生に関する控訴人の主張は理由がなく,控訴人に,金銭を もって賠償すべき損害が発生したものと認めることはできない。 第5 結論 以上のとおりで,その余の争点について判断するまでもなく,控訴人の予備的請 求は理由がなく,したがって,本件控訴は理由がないから,これを棄却することと し,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第2部 裁判長裁判官 塩 月 秀 平 裁判官 池 下 朗 裁判官 古 谷 健 二 郎 |