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事件 |
平成
24年
(行ケ)
10152号
審決取消請求事件
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裁判所のデータが存在しません。 | |
裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2013/03/14 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
判例全文 | |
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判例全文
平成25年3月14日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 平成24年(行ケ)第10152号 審決取消請求事件 口頭弁論終結日 平成25年2月14日 判 決 原 告 株式会社島津製作所 同訴訟代理人弁理士 喜 多 俊 文 江 口 裕 之 妹 尾 明 展 被 告 日立アロカメディカル株式会社 同訴訟代理人弁理士 吉 田 研 二 神 山 公 男 石 田 純 主 文 1 特許庁が無効2011−800157号事件につい て平成24年3月27日にした審決を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 主文1項と同旨 第2 事案の概要 本件は,原告が,後記1のとおりの手続において,被告の後記2の本件発明に係 る特許に対する原告の特許無効審判の請求について,特許庁が同請求は成り立たな いとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は後記3のとおり)には, 後記4のとおりの取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。 1 特許庁における手続の経緯 (1) 被告は,平成14年3月29日,発明の名称を「ラック搬送装置」とする特 許出願(特願2002−94306号)をし,平成16年10月8日,設定の登録 (特許第3604133号。請求項の数8)を受けた(甲10)。以下,この特許 を「本件特許」といい,本件特許に係る明細書(甲10)を,図面を含め,「本件 明細書」という。 (2) 原告は,平成23年9月2日,本件特許の請求項2,4,5,7及び8に係 る発明について,特許無効審判を請求し,無効2011−800157号事件とし て係属した。 (3) 被告は,平成23年11月24日付けで,訂正請求をした(甲13。以下 「本件訂正」という。)。 (4) 特許庁は,平成24年3月27日,「訂正を認める。本件審判の請求は,成 り立たない。」旨の本件審決をし,同年4月5日,その謄本が原告に送達された。 2 特許請求の範囲の記載 (1) 本件訂正前の特許請求の範囲の記載 本件訂正前の特許請求の範囲請求項2,4,5,7及び8の記載は,次のとおり である。以下,それぞれ「本件発明2」「本件発明4」「本件発明5」「本件発明 7」「本件発明8」といい,これらを総称して,「本件発明」という。なお, 「/」は,原文の改行箇所を示す。 【請求項2】検体を収納する複数の容器を保持する容器ラックを搬送するラック搬 送装置であって,/前記容器ラックを搬送経路に沿って搬送する搬送機構と,/前 記容器ラックに保持される各容器についての測定を行う測定ユニットと,/前記搬 送経路上の前記容器ラックの長手方向に沿って,前記各容器ごとに前記測定を順次 行わせつつ前記測定ユニットを移動させる移動機構と,/を備え,/前記容器ラッ クは,前記搬送経路の所定の測定位置に位置決めされ,/前記測定ユニットは,前 記各容器が前記容器ラックに保持される保持ピッチと同じピッチで設けられた各停 止位置でそれぞれ一旦停止し,各停止位置の間の移動のときに前記各容器の測定を 行うことを特徴とするラック搬送装置 【請求項4】請求項1,請求項2,請求項3のいずれか1の請求項に記載のラック 搬送装置において,さらに,前記各容器ごとの測定の結果を判断する判断手段を備 え,前記判断に基づいて前記測定のリトライを行うことを特徴とするラック搬送装 置 【請求項5】請求項2に記載のラック搬送装置において,/前記測定ユニットは, 前記各容器の有無を検出する容器検出器および前記各容器に貼付されたラベルを読 取るラベル読取器の少なくとも1つを有することを特徴とするラック搬送装置 【請求項7】請求項1,請求項2,請求項3のいずれか1の請求項に記載のラック 搬送装置において,/前記移動機構は,/前記搬送経路の一方側近傍に,前記搬送 経路に沿って設けられたガイドレールと,/前記搬送経路の一方側から他方側へ前 記搬送経路をまたいで伸長し,前記ガイドレールに沿って移動する可動アームと, /を含み,/前記可動アームは,前記他方側において前記測定ユニットを懸下する ことを特徴とするラック搬送装置 【請求項8】請求項7に記載のラック搬送装置は,前記容器ラックを,上流側の投 入搬送経路と,前記投入搬送経路に接続し前記投入搬送経路に直角に配置された下 流側のメイン搬送経路とに沿って搬送し,/前記搬送機構により前記投入搬送経路 を移動してきた複数の容器ラックのうち先頭の容器ラック以外の容器ラックを,前 記投入搬送経路の途中に設けられた待機位置で停止させる待機機構と,/前記測定 のために,前記先頭の容器ラックを,前記投入搬送経路が前記メイン搬送経路と接 続する前記投入搬送経路の突き当たりの位置に位置決めする位置決め手段と,/を 備え,前記位置決めされた前記先頭の容器ラックと,前記待機位置の停止容器ラッ クとの間の移動空間を前記測定ユニットが移動することを特徴とするラック搬送装 置 (2) 本件訂正後の特許請求の範囲の記載 本件訂正後の特許請求の範囲請求項2,4,5,7及び8の記載は,次のとおり である。以下,それぞれ「本件訂正発明2」「本件訂正発明4」「本件訂正発明 5」「本件訂正発明7」「本件訂正発明8」といい,これらを総称して,「本件訂 正発明」という。また,その明細書(甲13)を,図面を含めて「本件訂正明細 書」という。なお,文中の下線部は,訂正箇所を示す。 【請求項2】検体を収納する複数の容器を保持する容器ラックを搬送するラック搬 送装置であって,/前記容器ラックを搬送経路に沿って搬送する搬送機構と,/ 前記容器ラックに保持される各容器についての測定を行う測定ユニットと,/前記 搬送経路上の前記容器ラックの長手方向に沿って,前記各容器ごとに前記測定を順 次行わせつつ前記測定ユニットを移動させる移動機構と,/を備え,/前記移動機 構は,/前記搬送経路の一方側に設けられたガイドレールと,/前記搬送経路の上 方において前記搬送経路の一方側から他方側へ伸長するアームであって前記測定ユ ニットを保持し前記ガイドレールに沿って移動する可動アームと,/を含み,/前 記容器ラックは,前記搬送経路の所定の測定位置に位置決めされ,/前記測定ユニ ットは,前記各容器が前記容器ラックに保持される保持ピッチと同じピッチで設け られた各停止位置でそれぞれ一旦停止し,各停止位置の間の移動のときに前記各容 器の測定を行うことを特徴とするラック搬送装置 【請求項4】本件訂正前の請求項4と同じ 【請求項5】本件訂正前の請求項5と同じ 【請求項7】請 求項2に 記載のラック搬送装置において,/前記移動機構は,/ 前記搬送経路の一方側近傍に,前記搬送経路に沿って設けられた前記ガイドレール と,/前記搬送経路の一方側から他方側へ前記搬送経路をまたいで伸長し,前記ガ イドレールに沿って移動する前記可動アームと,/を含み,/前記可動アームは, 前記他方側において前記測定ユニットを懸下することを特徴とするラック搬送装置 【請求項8】本件訂正前の請求項8と同じ 3 本件審決の理由の要旨 (1) 本件審決の理由は,要するに,本件訂正を認めた上で,本件訂正発明2は, 後記引用例1ないし7に記載された発明(以下,順次,「引用発明1」ないし「引 用発明7」という。)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものと いうことはできず,本件訂正発明4,5,7及び8は,本件訂正発明2をさらに限 定した発明であるから,同様の理由により,引用発明1ないし7に基づいて,当業 者が容易に発明をすることができたものということはできない,などというもので ある。 ア 引用例1:特開平8−22505号公報(甲1) イ 引用例2:特開2002−62301号公報(甲2。平成14年2月28日 発行) ウ 引用例3:特開平10−213586号公報(甲3) エ 引用例4:特開平9−33540号公報(甲4) オ 引用例5:特開平7−287737号公報(甲5) カ 引用例6:特開2002−56350号公報(甲6。平成14年2月20日 発行) キ 引用例7:特開平3−271987号公報(甲8) (2) 本件審決が認定した引用発明1並びに本件訂正発明2と引用発明1との一致 点及び相違点は,次のとおりである。 ア 引用発明1:多数の被検者から採取した血液や血清等の試料を収納しバーコ ードの付された所定数のチューブを収納するラックを搬送するコンベア等の搬送手 段であって,前記ラックの搬送方向下流側に配置されたシングルスキャンのバーコ ードリーダとを備え,前記ラックの端部及び隣接するチューブの中間位置毎に前記 ラックを一時停止させて,この一時停止位置から次の一時停止位置まで前記ラック が移動する間に前記チューブに付されたバーコードを前記バーコードリーダで読み 取りを行う搬送手段 イ 一致点:検体を収納する複数の容器を保持する容器ラックを搬送するラック 搬送装置であって,前記容器ラックを搬送経路に沿って搬送する搬送機構と,前記 容器ラックに保持される各容器についての測定を行う測定ユニットとを備え,前記 容器ラックは,前記搬送経路の所定の測定位置に位置決めされ,各停止位置の間の 相対的移動のときに前記各容器の測定を行うラック搬送装置である点 ウ 相違点1:本件訂正発明2では「前記搬送経路上の前記容器ラックの長手方 向に沿って,前記各容器ごとに前記測定を順次行わせつつ前記測定ユニットを移動 させる移動機構」を備え,「前記測定ユニットは,前記各容器が前記容器ラックに 保持される保持ピッチと同じピッチで設けられた各停止位置でそれぞれ一旦停止し, 各停止位置の間の移動のときに前記各容器の測定を行う」のに対し,引用発明1で は「バーコードリーダ」は「前記ラックの搬送方向下流側に配置され」る,すなわ ち,固定され,「前記ラックの端部及び隣接するチューブの中間位置毎に前記ラッ クを一時停止させて,この一時停止位置から次の一時停止位置まで前記ラックが移 動する間に前記チューブに付されたバーコードを前記バーコードリーダで読み取り を行う」点 エ 相違点2:本件訂正発明2では「前記移動機構は,前記搬送経路の一方側に 設けられたガイドレールと,前記搬送経路の上方において前記搬送経路の一方側か ら他方側へ伸張するアームであって前記測定ユニットを保持し前記ガイドレールに 沿って移動する可動アームと,を含」んでいるのに対し,引用発明1では,そのよ うな構成を備えていない点 4 取消事由 (1) 本件訂正に係る判断の誤り(取消事由1) ア 訂正請求書の補正が要旨を変更する補正に該当しないとした判断の誤り イ 新規事項の追加に係る判断の誤り (2) 相違点2に係る判断の誤り(取消事由2) 第3 当事者の主張 1 取消事由1(本件訂正に係る判断の誤り)について 〔原告の主張〕 (1) 訂正請求書の補正が要旨を変更する補正に該当しないとした判断の誤りにつ いて ア 本件訂正に係る訂正請求書(以下「本件請求書」という。)には,「訂正事 項1の1は,本件特許明細書における請求項7,第0016段落,第0027段落, 及び,本件特許の図1,図2,図4乃至図6に記載されている。」との記載(以下 「本件記載」という。)があるから,訂正事項1の1(前記移動機構は,前記搬送 経路の一方側に設けられたガイドレールと,前記搬送経路の上方において前記搬送 経路の一方側から他方側へ伸長するアームであって前記測定ユニットを保持し前記 ガイドレールに沿って移動する可動アームと,を含み,)は,【図6】をも根拠と して訂正請求がされたものである。 したがって,当初の訂正事項は,「可動アーム」の解釈として,【図6】に図示 された移動測定台をも包含させる内容であるということができる。 イ 訂正請求における訂正事項の補正は,訂正事項の削除及び軽微な瑕疵の補正 等が認められるにすぎず,訂正事項を変更することは,請求書の要旨の変更に該当 するというべきである。 また,要旨の変更に該当するか否かは,単に請求の趣旨や理由に係る変更の有無 を形式的に判断するのではなく,補正前後の訂正事項の各内容を対比検討し,訂正 審判における審理の範囲が当該補正により実質的に拡張・変更されるか否かに基づ いて判断すべきである ウ 原告が【図6】の構成は特開2002−150217号公報に記載された発 明と実質的に同一であると主張したところ,被告は,本件記載の「図1,図2,図 4乃至図6」が「図1乃至図5」の誤記であると釈明した。 しかしながら,被告の上記釈明は,訂正事項1の1の「可動アーム」の解釈から 【図6】を除外するものであって,訂正事項の要旨の変更に該当するものというべ きである。 本件審決は,「図6」は単なる誤記であるとするが,本件審決において,「搬送 経路の上方」とは,別紙図面目録記載1の本件図面のとおり,移動機構に載置され た測定ユニットの上方をも含むとされており,別紙図面目録記載2の本件簡略図の とおり,【図6】に図示されている可動アームも搬送経路の上方を横切るように伸 長しているから,「搬送路の上方においてそれを横切るように伸長するものでな い」という理由のみに基づいて,「図6」が単なる誤記であるということはできな い。 エ 以上によると,本件審決は,本件請求書の要旨を変更する補正について,単 なる誤記と判断したものであって,誤りである。 (2) 新規事項の追加に係る判断の誤りについて ア 本件訂正により,「前記搬送経路の上方において前記搬送経路の一方側から 他方側へ伸長するアームであって前記測定ユニットを保持し前記ガイドレールに沿 って移動する可動アームと,を含み」との構成(以下「本件構成」という。)が, 本件発明2に付加されている。 本件明細書(【0016】)によれば,本件発明2において可動アームを設けた 目的は,装置の設計上の制約等によらず,容器に貼付されたラベルがユーザ側を向 いた状態でもラベルの読取りを行うことができるように測定ユニットの移動機構を 設けることにある。 しかしながら,本件訂正発明2の「可動アーム」に係る発明特定事項である「搬 送経路の一方側」とは,容器に貼付されたラベル側か,その逆か,それ以外の側か に係る特定がされていないから,本件訂正発明2の「可動アーム」は,上記効果を 奏しない構成をも包含しているものである。 また,「搬送経路の一方側」について具体的に特定されていない以上,「一方側 から他方側」は,あらゆる方向をも含むところ,一方側から他方側へ搬送経路を 「またいで」という特定もされていないから,搬送経路をまたがない構成も含まれ ることになる。本件明細書の実施例では,一貫して,【図1】(別紙図面目録記載 3の本件明細書【図1】参照)のようにガイドレールが搬送経路に沿って設けられ ており,可動アームが搬送経路をまたいでいる構成が開示されているにすぎない。 したがって,本件訂正発明2は,本件明細書(【0016】)に記載された解決 課題に沿わないような「可動アーム」の態様をも含み得るものであり,本件明細書 の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな 技術的事項を導入するものというべきである。 イ 被告は,容器ラックの短手方向に容器ラックが搬送される方式(別紙図面目 録記載4の本件参考図A参照。以下「短手方向搬送方式」という。)に係る例を用 いるなどして,本件訂正発明2において可動アームの長さは非本質的事項であると 主張するが,容器ラックのラベル貼付側にガイドレールを設けることができない場 合,可動アームは搬送経路を「またいで」伸長する必要があるから,同発明の可動 アームの長さに係る特定は課題解決のために不可欠であって,非本質的事項である ということはできない。しかも,短手方向搬送方式には容器ラックの長手方向に容 器ラックが搬送される方式(別紙図面目録記載5の本件参考図B参照。以下「長手 方向搬送方式」という。)と同様の課題が存在せず,解決手段も異なるし,短手方 向搬送方式は本件明細書には記載されていないから,本件訂正発明2が短手方向搬 送方式をも含むように本件発明2を訂正することは,新たな技術的事項を導入した ものというほかない。 したがって,本件発明2に本件構成を付加した本件訂正は,新規な技術的事項を 導入するものというべきであり,許されない。 (3) 小括 以上によると,本件請求書の補正について,要旨の変更に該当しないとした上で, 本件訂正を認めた本件審決の判断は誤りである。 〔被告の主張〕 (1) 訂正請求書の補正が要旨を変更する補正に該当しないとした判断の誤りにつ いて ア 本件請求書では,訂正原因として,第1の実施形態については図番号の他に 本件明細書の記載内容が具体的に引用されているのに対し,第2の実施形態につい ては本件明細書の記載内容(【0050】〜【0052】)が一切引用されておら ず,これらは訂正原因とはされていないにもかかわらず,本件記載中には,【図 6】という図番号だけが唐突に記載されている。このように,明細書中にある説明 文を引用せず,図番号のみを引用するのは不自然である。 イ 本件請求書には,「加えて,本件特許の図1,図2,図4乃至図6には,メ イン搬送路214の一方側に設けられた第2ガイドレール248が明示されており, またメイン搬送路214の上方においてそれを横切るように伸長する可動アーム2 46が明示されている。」と記載されているところ,メイン搬送路及び可動アーム は【図6】には存在しない。【図6】に図示されている移動測定台は,アームとは 解し難く,搬送路の「上方においてそれを横切るように伸長する」部材でもない。 ウ 【図6】は,第2の実施形態に係る図であるところ,当該実施形態は,本件 訂正発明2の解決課題が生じない構成であるから,【図6】が訂正原因となること はあり得ない。これに対し,可動アームを有する第1の実施形態の構成及び動作を 図示する【図1】ないし【図5】は,訂正原因となることは明らかである。 エ 本件訂正発明2において,搬送経路の「一方側」とは,搬送経路を基準とし た場合の水平方向の一方側を,「他方側」とは,水平方向の他方側をそれぞれ意味 するということができる。これらは「上方」の両側を意味するものである。 本件構成の「可動アーム」は搬送経路の上方を伸長しているから,搬送経路をま たがないもの,すなわち,搬送経路の上方に全く達しない構成は含まれないとする 本件審決の認定は,「搬送経路の上方」について搬送経路の直上に等しいか,又は 近い概念として解釈するものであって,「上方」に関する通常の概念に符合するの みならず,本件訂正発明2の課題及び解決手段にも整合する。 オ 以上によると,【図6】は訂正原因となるものではなく,本件請求書には不 要な記載であることは明らかであるから,当該記載を誤記であるとした本件審決の 判断に誤りはない。 (2) 新規事項の追加に係る判断の誤りについて ア 本件訂正明細書(【0016】)には,「例えば,容器に貼付されたラベル は,ユーザ側を向く方が望まれる。」と記載されているから,本件訂正発明2にお けるラベルの向きは,同発明の課題とは直接関係しない。「搬送経路の一方側」は, ラベルの向きによって限定されるものではなく,前記のとおり,搬送経路を基準と して見た場合の水平方向一方側と理解すれば足りるから,「一方側から他方側」と は,搬送方向を横切る水平方向を意味し,あらゆる方向を包含するものではない。 そもそも,本件明細書(【0016】)には,ガイドレール設置上の問題,特に, 移動機構を固定して設けることができないことを課題とする旨の記載があるから, あらゆる方向を包含するものと解することができないことは明らかである。 イ 「またいで」とは,「跨る」の変化形あるいは「跨って」の代替表現である ところ,「跨る」には「股を開いて乗る。一方から他方へかかる。わたる。」との 意味があるから,本件明細書の特許請求の範囲の記載請求項7及び【0015】 【0027】における「またいで」という文言は,「一方から他方へかかる。わた る。」ことを意味すると解するのが自然である。同請求項7及び【0015】の 「前記搬送経路の一方側から他方側へ前記搬送経路をまたいで伸長し」のうち, 「一方側から他方側へ」の部分は,「一方側から他方側まで」と規定されていない ことからすると,可動アームの伸長方向を意味し,その到達範囲が搬送経路の他方 側まで達していることを「またいで」との文言により規定したものと解される。 本件訂正発明2では,可動アームの長さ(到達点)が非本質的なものであり,ガ イドレールの設置方向が複数の容器の並び方向(容器ラックの長手方向)として自 ずと規定されることは当業者において自明である。また,ラック搬送装置の技術分 野では,短手方向搬送方式及び長手方向搬送方式が技術常識であるところ,本件訂 正発明2の解決手段はいずれの搬送方式にも適用でき,長手方向搬送方式に適用し た場合,別紙図面目録記載6の本件参考図Cのとおり,可動アームが搬送経路の上 方において伸張し,搬送経路を越えて他方側まで(搬送経路をまたいで)到達する。 本件明細書の第1の実施の形態は,上流側の投入搬送経路とそれに直角に配置さ れた下流側のメイン搬送経路とからなるL字型の搬送経路が構成されており,測定 位置は投入搬送経路の突き当たりの位置に設定されている。測定位置に位置決めさ れた容器ラック上の各容器に対して測定を行うためには,容器ラックの手前側にお いて測定ユニットを移動させる必要があるが,その移動場所には既に投入搬送経路 が存在しているから,移動機構としてのガイドレールを固定設置することは困難で ある。これは,短手方向搬送方式におけるガイドレール設置上の技術的課題である。 したがって,短手方向搬送方式に本件訂正発明2の解決手段を適用した場合,同 発明の課題及び解決手段並びに本件明細書に記載された第1の実施形態の内容から, 別紙図面目録記載7の本件参考図Dのとおり,搬送経路のいずれか一方側に搬送経 路に直交する方向(容器ラック長手方向)に沿ってガイドレールが設けられ,搬送 経路の一方側から他方側へ搬送経路の上方において横切るように伸長する可動アー ムが設けられるが,可動アームが搬送経路を完全に越えて他方側まで到達する必要 がないことは,当業者において自明である。そのため,本件訂正発明2には,上記 「またいで」という構成が含まれていない。 ウ 本件明細書には,短手方向搬送方式及び長手方向搬送方式が開示されており, 第1の実施形態においては長手方向搬送方式を前提とした課題及び解決手段が具体 的に記載され,当業者にとって,短手方向搬送方式においても同じ課題が生じるこ と及び同じ解決手段を適用できることは自明であるから,当該事項は本件明細書に 記載されているに等しい事項である。短手方向搬送方式に本件訂正発明2の解決手 段を適用した場合,可動アームは搬送経路をまたいで伸長する必要はないが,ガイ ドレールは搬送経路に対して直交する方向に沿って設けられることは当然であって, これらの事項は当業者であれば本件明細書から当然に読み取ることが可能である。 新規事項に該当するか否かは,記載要件に係る判断とは異なり,技術的思想として の本件訂正発明2が本件明細書に記載されているか否かの観点から検討されるべき であって,短手方向搬送方式に本件訂正発明2の解決手段を適用した場合の具体例 が本件明細書において明示されているか否かは問題とはならない。 エ 本件訂正発明2の「測定ユニット」は,ラベル読取りを行うものに限定され るわけではなく,「容器検出器」又は「ラベル読取器」であることを当然の前提と して,搬送経路上の容器ラックにおける特定の長手側面の近傍を具体的に「ラベル 貼付側」と表現したにすぎず,「ラベル貼付側」は「測定ユニット移動場所」と同 義である。「測定ユニット移動場所」は,本件訂正発明2における「前記搬送経路 上の前記容器ラックの長手方向に沿って,前記各容器ごとに前記測定を順次行わせ つつ前記測定ユニットを移動させる」という事項から自明である。 オ 以上によると,「またいで」という事項は,本件訂正発明2の課題及び解決 手段の観点からすれば非本質的事項にすぎず,しかも,本件明細書の記載からする と,「またいで」いない可動アームも当業者に自明であるというべきであるから, 本件訂正発明2において「またいで」という事項が規定されていないとしても,新 規事項の追加であるということはできない。 よって,本件発明2に本件構成を付加した本件訂正は,新規事項の追加には該当 しないというべきである。 (3) 小括 以上によると,本件審決の本件訂正に係る判断に誤りはない。 2 取消事由2(相違点2に係る判断の誤り)について 〔原告の主張〕 (1) 測定ユニットについて ア 本件審決は,測定ユニットを保持する点で,引用発明5の「搬送体」,引用 発明6の「基台」及び引用発明7の「トンネル」はいずれも本件訂正発明2の「可 動アーム」と同じ機能を有するが,一般的には片持ちであることを意味する「アー ム」には相当しないとする。 しかしながら,「片持ち」とは,一般に,一端を固定し,他端を自由にしたもの をいい,水平梁のようなものには限定されないところ,引用発明5の「搬送体」は, ガイドアームにより片持ち支持されており,「可動アーム」と同様に,測定ユニッ トを単に支持するだけでなく,搬送経路上の検体容器のバーコードラベル位置に応 じて,測定ユニットを任意に配置可能とする技術的意義を有する。 引用発明6の「基台」も片持ち支持されており,測定ユニットを単に支持するだ けでなく,搬送経路上の検体容器のバーコードラベル位置に応じて,測定ユニット を任意に配置可能とする技術的意義を有する。 したがって,少なくとも引用発明5の「搬送体」及び引用発明6の「基台」は, いずれも本件訂正発明2の「可動アーム」に相当するから,これらを引用発明1に 適用することは,当業者が容易に想到し得たというべきである。 イ 本件記載における【図6】が誤記であるとするならば,可動アームの解釈に おいて,本件訂正明細書の【図6】と【図1】ないし【図5】とは実質的に同一で あることになるから,【図6】の可動アームに相当する移動測定台も片持ち構造と 解することになる。仮に,【図6】が片持ち構造と解することができないのである ならば,訂正原因から【図6】を削除した訂正請求の補正は要旨変更補正に該当す るというほかない。 ウ 以上によれば,本件審決の相違点2に係る判断は誤りである。 (2) 小括 以上のとおり,本件審決は,相違点2に係る判断を誤ったものといわざるを得ず, 本件訂正発明2は,引用発明1,5及び6に基づいて,当業者が容易に発明をする ことができたものというべきである。 〔被告の主張〕 (1) 測定ユニットについて ア 可動アームは,ガイドレールが設置された場所で測定ユニットを単に支持す るのではなく,ガイドレールの設置場所による制約を受けずに任意に定められた搬 送経路上の検体容器のバーコードラベル位置に応じて,測定ユニットを任意に配置 可能とする技術的意義を有するから,原告の主張は,上記ガイドレールの設置上の 問題を無視する点において不当である。 イ 引用発明5の「搬送体」は,スライドガイドに完全に載っているから,スラ イドガイドとの関係において,水平方向に伸長するアームとは異なるものというほ かなく,その技術的意義からしても,本件訂正発明2の「可動アーム」に相当する ものではない。 引用発明6の「基台」は移動路上を運動するものであり,移動路から見ると垂直 上方に起立した部材であって,ブロック状の形態を有し,移動路と直交する水平方 向において伸長する部材ではない。基台はおよそ「アーム」と呼び得るような部材 ではないし,水平方向の一端が支持されているわけでもないから,「片持ち」であ るということはできない。 しかも,引用発明6には移動する容器ラックや搬送経路が存在しないし,検体ラ ックの上方においてその一方側から他方側へと伸長する部材も一切存在しない。 したがって,引用発明5の「基台」は,本件訂正発明2の「可動アーム」に相当 するということはできない。 ウ 本件明細書の【図6】の「移動測定台」が片持ち構造を有しないことと,本 件請求書における本件記載の【図6】が誤記であり,訂正原因といえないこととは 両立し得る事項である。 エ 以上によれば,本件審決の相違点2に係る判断に誤りはない。 (2) 小括 以上のとおり,本件審決の相違点2に係る判断には,誤りはなく,本件訂正発明 2は,引用発明1,5及び6に基づいて,当業者が容易に発明をすることができた ものということはできない。 第4 当裁判所の判断 1 本件発明について 本件発明の特許請求の範囲は,前記第2の2(1)に記載のとおりであるところ,本 件明細書(甲10)には,おおむね次の記載がある。 (1) 発明の属する技術分野 本件発明は,ラック搬送装置,特に,検体容器ラックの搬送装置に係る発明であ る(【0001】)。 (2) 従来の技術 親検体容器から子検体容器に検体を分注する分注装置のために,その親検体容器 を並べた容器ラックを搬送するラック搬送装置が用いられる。ラック搬送装置は, 投入部において他の搬入装置から自動的に,又は手作業で,容器ラックを搬送経路 に沿って配置されたベルトコンベヤ等の搬送機構により分注装置へ搬送する機構で ある。このラック搬送装置の搬送経路に沿って,容器に貼付されたラベルを読み取 るラベル読取器が配置され,容器の識別コードを読み込んだデータに基づき,以後 の分注処理が進められる(【0002】)。 ラベル読取器は,搬送経路の一方側近傍に固定して配置される。そのため,複数 の容器は,容器ラックの長手方向に一定の保持ピッチで並べられて保持されるので, 容器ラックの長手方向を搬送方向に合わせて搬送すれば,固定位置のラベル読取器 の前を各容器が順次通過する。保持ピッチに合わせて容器ラックをピッチ送りし, 容器ラックをラベル読取器の読取位置の前で一時停止させ,ラベルを読み取り終わ ったら,1ピッチ先に進ませる。このシーケンスを繰り返すことで,容器ラックの 搬送とともにラベル読取りを容易に行うことができる。また,ピッチ送りを用いる ことなく,連続搬送状態で各容器のラベルを順次読み取ることも可能である(【0 003】)。 (3) 発明が解決しようとする課題 ラベル読取りのために容器ラックをピッチ送りすることは,搬送システムの制御 を複雑にすること,ラベル読取り前後の工程もピッチ送りの影響を受けてしまうこ と,装置の幅(サイズ)を大きくすることから,好ましくない(【0004】)。 従来技術では,ラベル読取りミスが生じた場合,リトライが不可能である。従来 技術では,一方向にしか進められない搬送機構を利用して容器ラックを移動させて いるため後戻り搬送ができず,ラベル読取りミスが生じた場合,再度,読取位置に 戻すことができない。また,読取りミスの生じた容器ラックを手作業で読取位置に 再セットすることは,オペレータの負担となるし,オペレータが容器ラックを倒す 危険性もある(【0005】)。 本件発明の目的は,従来技術の課題を解決し,新しいラベル読取方式のラック搬 送装置を提供すること,ラベル読取りのリトライを可能にするラック搬送装置を提 供することである(【0006】)。 (4) 課題を解決するための手段 ア 前記目的を達成するため,本件発明に係るラック搬送装置は,検体を収納す る複数の容器を保持する容器ラックを搬送するラック搬送装置であって,容器ラッ クを搬送経路に沿って搬送する搬送機構と,容器ラックに保持される各容器につい ての測定を行う測定ユニットと,搬送経路上の容器ラックの長手方向に沿って,各 容器ごとに測定を順次行わせつつ測定ユニットを移動させる移動機構とを備え,容 器ラックは,搬送経路の所定の測定位置に位置決めされ,測定ユニットは,容器検 出器とラベル読取器とを有し,移動機構の一方方向移動において,容器検出器によ り各容器を順次検出し,移動機構の他方方向移動において,ラベル読取器により各 容器のラベルを順次読み取ることを特徴とする(【0007】)。 前記構成により,容器ラックに保持される各容器についての測定を行う測定ユニ ットが移動するので,ラックをピッチ送りする必要がなく,自走式の測定ユニット により,各容器についての測定ができる。 また,容器ラックは,搬送経路の所定の測定位置に位置決めされるので,正しく 測定がされるまで容器ラックを停止させたままにでき,ラベルの読取りミス等があ ったときでも,リトライが容易となる(【0008】)。 イ 本件発明7は,移動機構が,搬送経路の一方側近傍に,搬送経路に沿って設 けられたガイドレールと,搬送経路の一方側から他方側へ搬送経路をまたいで伸長 し,ガイドレールに沿って移動する可動アームとを含み,可動アームは,他方側に おいて測定ユニットを懸下することを特徴とする(【0015】)。 例えば,容器に貼付されたラベルは,ユーザ側を向く方が望まれる。そのように 保持された容器ラックが搬送経路上にあるときは,測定ユニットを容器のラベル貼 付側と対向するように搬送経路の手前側近傍に配置し,搬送経路に沿って移動させ る。このように,搬送経路の手前側に測定ユニットの移動機構を設けることが望ま れることが多い。そこで,装置の設計上の制約等で,搬送経路の手前側近傍に測定 ユニットを移動させる移動機構を固定して設けることができない等の場合にも,前 記構成により,測定ユニットを懸下した可動アームを用いて,搬送経路上の容器ラ ックの長手方向に沿って各容器ごとに測定を順次行わせつつ測定ユニットを移動さ せることができる(【0016】)。 (5) 発明の実施の形態 ア 本件発明の第1の実施の形態におけるラック搬送装置は,容器ラックを投入 搬送経路に沿って移動させ,測定位置において容器ラックに保持された各容器ごと に容器有無検出と,容器に貼付されたラベルの読取りを行い,その後メイン搬送経 路により,後工程の分注に搬送する装置である(【0020】)。 イ 測定ユニットは,各容器の有無を検出する容器検出器及び各容器に貼付され たラベルを読み取るラベル読取器を有し,容器検出器とラベル読取器は,測定ベー ス台に搭載される。測定ベース台は,移動機構の可動アームに懸下して取り付けら れる(【0026】)。 ウ 移動機構は,可動アーム,第2ガイドレール,駆動部及び運動伝達部を備え る。第2ガイドレールは,投入搬送経路の突き当たりの測定位置の近傍に設けられ る。第2ガイドレールの延伸する方向は,投入搬送経路の搬送方向に直角,第2搬 送経路の搬送方向に平行である。可動アームは,メイン搬送経路の第2ガイドレー ルが設けられた側から他方側へ,メイン搬送経路をまたいで伸長して設けられる。 可動アームは,メイン搬送経路の他方側において測定ユニットを懸下して保持する。 可動アームはガイド穴を備え,第2ガイドレールは,このガイド穴に摺動可能に挿 入される。可動アームと駆動部とは運動伝達部により接続される。駆動部と運動伝 達部には,公知の直線運動機構を用いることができる。例えば,回転ネジと回転が 規制されたナットの組合せ,巻き取りベルトと復元バネの組合せ,ピニオンとラッ クの組合せ等を用いることができる(【0027】)。 エ 測定ユニットは,容器ラックの長手方向に沿った移動の際,往路移動のとき に各容器についてそれぞれの有無検出を順次行い,復路移動のときに各容器に貼付 されたラベルをそれぞれ順次読み取る(【0036】)。 測定ユニットの一往復で得られた各容器についての有無検出又はラベル読取りの データに検出ミス又は読取りミスがあったときは,再度測定ユニットを往復移動さ せて再検出及び再読み出しを行うことができる。そして,各容器についてそれぞれ の有無検出及びそれぞれのラベル読取りのデータが正しく取得されると,その容器 ラックの測定位置における位置決めが解除され,その容器ラックは,第1コンベヤ により,メイン搬送経路に沿ってその先の分注工程に搬送される(【0049】)。 オ 第2の実施の形態におけるラック搬送装置は,第1の実施の形態のラック搬 送装置とは異なり,直線状に搬送経路が配置される。搬送経路には,位置決め手段 が設けられ,搬送経路の所定の測定位置において,左方から搬送されてくる容器ラ ックを位置決めする(【0050】)。 (6) 発明の効果 本件発明に係るラック搬送装置によれば,ラベル読取りのリトライが可能になる (【0053】)。 2 取消事由1(本件訂正に係る判断の誤り)について (1) 訂正請求書の補正が要旨を変更する補正に該当しないとした判断の誤りにつ いて ア 本件請求書(甲13)には,「加えて,本件特許の図1,図2,図4乃至図 6には,メイン搬送路214の一方側に設けられた第2ガイドレール248が明示 されており,またメイン搬送路214の上方においてそれを横切るように伸長する 可動アーム246が明示されている。」と記載されているが,メイン搬送路及び可 動アームはいずれも【図6】には図示されていない。同図には,移動測定台が図示 されているが,移動測定台は,搬送路の「上方においてそれを横切るように伸長す る」部材ではないから,上記記載は【図6】の内容とは整合せず,むしろ【図1】 ないし【図5】の内容と合致するものということができる。 イ 本件請求書(甲13)には,訂正原因として,第1の実施の形態については 図番号の他に本件明細書の記載内容(請求項7及び【0016】【0027】)が 具体的に引用されているが,【図6】に係る第2の実施の形態については本件明細 書の記載内容(【0050】〜【0052】)は一切引用されていない。訂正原因 として記載することができる明細書の記載内容が存在するにもかかわらず,あえて 当該記載内容を引用することなく,図番号のみを引用することは,通常は行われな い,不自然な引用であるということができる。 ウ 以上によれば,本件記載における「図6」は,訂正事項とは整合しない不要 な記載であり,誤記と認められるから,本件記載の「図6」は「図5」の単なる誤 記であるとした本件審決の判断に誤りはない。 (2) 新規事項の追加に係る判断の誤りについて ア 平成23年法律第63号による改正前の特許法(以下「法」という。)13 4条の2第1項ただし書は,特許無効審判の被請求人による訂正請求は特許請求の 範囲の減縮,誤記又は誤訳の訂正,明瞭でない記載の釈明を目的とするものに限る と規定している。 また,法134条の2第5項が準用する法126条3項は,「第1項の明細書, 特許請求の範囲又は図面の訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図 面…に記載した事項の範囲内においてしなければならない。」と規定しているとこ ろ,ここでいう「明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項」とは,当業者 によって,明細書,特許請求の範囲又は図面の全ての記載を総合することにより導 かれる技術的事項であり,訂正が,このようにして導かれる技術的事項との関係に おいて,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該訂正は,「明細書, 特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということが できる。 イ 本件訂正発明2は,本件発明2に,「搬送経路の上方において前記搬送経路 の一方側から他方側へ伸長するアーム」に係る本件構成を付加するものである。 これに対し,本件発明7は,「搬送経路の一方側から他方側へ前記搬送経路をま たいで伸長し」と規定しているところ,「またがる」とは,「一方から他方へかか る。わたる。」ことを意味する語句(甲9)であるから,本件発明7は,本件明細 書の【図1】のように,搬送装置のガイドレールが設置された一方側から搬送経路 上方を通り,ガイドレールが設置されていない他方側に測定ユニットを懸下するも のである。 そうすると,本件発明7とは異なり,「またいで」という語句が用いられていな い本件訂正発明2は,本件明細書の特許請求の範囲請求項7(本件発明7)及び第 1の実施の形態(【0020】〜【0049】【図1】〜【図5】)に記載されて いる,搬送経路の一方側近傍に搬送経路に沿ってガイドレールが設けられ,搬送経 路の一方側から他方側へ搬送経路をまたいで伸長し,搬送経路の他方側に測定ユニ ットを懸下する可動アームがガイドレールに沿って移動する構成(別紙図面目録記 載3の本件明細書【図1】参照)のみならず,搬送経路のいずれか一方側に搬送経 路に直交する方向(容器ラック長手方向)に沿って設置されたガイドレールと,搬 送経路の一方側から他方側へ搬送経路の上方において伸長する可動アームとが設け られ,搬送経路に直交する方向(直交方向)に並ぶ複数の容器を順次測定するため に,測定ユニットを搬送経路に直交する方向に移動させる構成(別紙図面目録記載 7の本件参考図D参照。以下「本件参考図Dの構成」という。)をも含むものとい うことができる。被告も,当該構成が本件訂正発明2に含まれると主張するもので ある。 ウ 被告は,本件発明2に本件構成を付加する訂正に係る訂正原因について,本 件明細書における特許請求の範囲請求項7並びに【0016】【0027】及び 【図1】ないし【図5】であるとする。 前記1(2),(3)及び(4)アによれば,本件発明2は,従来,容器を並べた容器ラッ クを搬送するラック搬送装置において,容器ラックの長手方向を搬送方向に合わせ て搬送する方式(長手方向搬送方式)の搬送経路に沿って容器に貼付されたラベル を読み取るラベル読取器が固定して配置され,容器の識別コードが読み取られてい たところ,一方向にしか進められない搬送機構を利用して容器ラックを移動させて いた従来技術では後戻り搬送ができず,ラベル読取りミスが生じた際にリトライが 不可能であるという課題を解決するために,容器ラックを搬送経路に沿って搬送す る搬送機構と,容器ラックに保持される各容器についての測定を行う測定ユニット と,搬送経路上の容器ラックの長手方向に沿って,各容器ごとに測定を順次行わせ つつ測定ユニットを移動させる移動機構とを備えることにより,搬送経路の所定の 測定位置に位置決めされた容器ラックに保持された各容器の測定を行うようにした 発明である。 本件発明2は,ラベル読取りミスが生じた際のリトライを可能とするために,搬 送経路上の容器ラックの長手方向に沿って,各容器ごとに測定を順次行わせつつ測 定ユニットを移動させる移動機構を備えるものであって,搬送経路の一方側から他 方側へ搬送経路の上方において伸長する可動アームの構成を有するものではない。 また,本件発明2の課題は,複数の容器が搬送方向に並んだ状態で容器ラックの 長手方向を搬送方向に合わせて搬送すること,すなわち,測定ユニットが搬送経路 の長手方向に沿って移動することを前提とするものであるから,測定ユニットが搬 送経路に直交する方向に移動することは想定されていないというべきである。 エ 前記1(4)イによれば,本件発明7は,測定ユニットを搬送経路の一方側近傍 に配置し,搬送経路に沿って移動させる際,測定ユニット近傍である搬送経路の一 方側に測定ユニットの移動機構を設けることが望まれるが,装置の設計上の制約等 で搬送経路の一方側近傍に測定ユニットを移動させる移動機構を固定して設けるこ とができない場合にも測定ユニットの配置を変更することなく測定を行うことがで きるように,搬送経路の一方側近傍に,搬送経路に沿ってガイドレールを設け,さ らに,測定ユニットを支持(保持)するとともに,測定ユニットを移動させるため, 搬送経路の一方側から他方側へ搬送経路をまたいで伸長し,搬送経路の他方側に測 定ユニットを懸下する可動アームがガイドレールに沿って移動するようにした発明 である。 また,本件発明7は,装置の設計上の制約等で,測定ユニット近傍である搬送経 路の一方側近傍に測定ユニットを移動させる移動機構を固定して設ける本件発明2 のような構成が採用できないという上記課題を解決することを前提とする発明であ るから,本件発明2と同様に,複数の容器が搬送方向に並んだ状態で容器ラックの 長手方向を搬送方向に合わせて搬送すること,すなわち,測定ユニットが搬送経路 に沿って移動することを前提とするものであって,測定ユニットが搬送経路に直交 する方向に移動することは想定されていないというべきである。 さらに,本件発明7のガイドレールは,測定ユニットを移動させるための移動機 構を構成する部材であって,搬送経路に沿って設けられるものである。 したがって,本件発明7は,本件参考図Dの構成を有するものではない。 オ 前記ウ及びエのとおり,測定ユニットが搬送経路に直交する方向に移動する こと,そのような測定ユニットを支持(保持)して搬送経路に直交する方向に移動 する可動アームを設置すること,搬送経路に直交する方向に沿ってガイドレールを 設けることは,本件明細書における特許請求の範囲請求項7並びに【0016】 【0027】及び【図1】ないし【図5】に開示されているものではなく,その他, 本件明細書には,上記各構成に係る記載はない。 したがって,本件参考図Dの構成に係る測定ユニットの移動方向,可動アーム及 びガイドレールの設置方向は,出願の当初から想定されていたものということはで きず,測定ユニットが搬送経路に沿って移動することを前提とする本件発明に係る 本件明細書の記載を総合することにより導かれる技術的事項であるということはで きない。 カ この点について,被告は,本件訂正発明2では可動アームの長さ(到達点) が非本質的なものであること及び「またいで」いない可動アームも当業者に自明で あることから,本件訂正発明2において「またいで」という事項が規定されていな いとしても,新規事項の追加には該当しないと主張する。 しかしながら,前記のとおり,本件訂正の訂正原因とされる本件発明7における 可動アームは課題解決手段として設けられた構成であり,課題を解決するためには 測定ユニットを搬送経路の他方側に懸下することが必要である以上,本件訂正発明 2について,可動アームの長さ(到達点)が非本質的なものということはでない。 また,被告は,本件明細書には,短手方向搬送方式及び長手方向搬送方式が開示 されており,第1の実施形態においては長手方向搬送方式を前提とした課題及び解 決手段が具体的に記載され,当業者にとって,短手方向搬送方式においても同じ課 題が生じること及び同じ解決手段を適用できることは自明であるから,短手方向搬 送方式に本件訂正発明2の解決手段を適用した場合,可動アームを搬送経路の他方 側まで伸長させなくても全ての容器について測定を行い得るから,搬送経路を「ま たいで」伸長する必要はないし,短手方向搬送方式では可動アームを案内するガイ ドレールが直交方向に沿って設けられるのは当然であると主張する。 しかしながら,前記のとおり,本件発明は,複数の容器が搬送方向に並んだ状態 で容器ラックの長手方向を搬送方向に合わせて搬送すること,すなわち,測定ユニ ットが搬送経路に沿って移動すること(長手方向搬送方式)を前提とするものであ り,本件明細書には,短手方向搬送方式(搬送方向に直交する方向に容器が並んだ 状態で搬送する方式)を示唆する旨の記載もないから,測定ユニットを支持(保 持)して搬送経路に直交する方向に移動する可動アームが本件明細書に記載されて いるということはできない。本件明細書の【図1】は,投入搬送経路では短手方向 搬送方式が用いられているが,投入搬送経路とメイン搬送経路とが接続する位置に 定められた測定位置において,メイン搬送経路上に位置決めされた容器に対して測 定を行うものであって,投入搬送経路の途中で測定を行う旨の記載はないから,測 定自体は長手方向搬送方式を前提とするものである。 そうすると,短手方向搬送方式を採用し,可動アームが搬送経路に直交する方向 に移動する構成は,本件明細書に記載されているということができない以上,可動 アームを搬送経路の他方側まで伸長させる必要がないということはできないし,可 動アームを案内するガイドレールが直交方向に沿って設けられるのが当然であると いうこともできない。 さらに,被告は,新規事項の追加に該当するか否かは,技術的思想としての本件 訂正発明2が本件明細書に記載されているか否かの観点から検討されるべきであっ て,短手方向搬送方式に本件訂正発明2の解決手段を適用した場合の具体例が本件 明細書において明示されているか否かは問題とはならないと主張する。 しかしながら,本件明細書には短手方向搬送方式自体が記載されておらず,当該 方式及び当該方式を採用した場合の課題が本件明細書の全ての記載を総合すること によっても導くことができない以上,被告の当該主張はその前提自体を欠くものと いうほかない。 したがって,被告の前記主張はいずれも採用できない。 (3) 小括 以上によると,本件発明2に本件構成を付加した本件訂正は,願書に添付した明 細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではない から,法134条の2第5項において準用する法126条3項に違反し,不適法で あるというべきである。 そして,本件訂正後の請求項4及び5は,いずれも請求項2の記載を引用し,本 件構成に係る可動アーム以外の構成について限定を加えるものであるから,請求項 2に関する本件訂正が不適法である以上,請求項4及び5に関する本件審決の判断 も取り消されるべきである。 他方,本件訂正後の請求項7は,請求項2の記載を引用するものであるが,本件 訂正後の請求項2の本件構成に係る可動アームの構成を本件訂正前の請求項7と同 様の構成とするものであるから,請求項7に関する本件訂正は,新規な技術的事項 を導入するものではなく,認められるべきものである。 前記のとおり,本件訂正発明7は,本件訂正後の請求項2の本件構成に係る可動 アームの構成を本件訂正前の請求項7と同様の構成とするものである以上,本件訂 正発明7は,相違点2に係る構成を有するものではない。にもかかわらず,本件審 決は,本件訂正発明2と引用発明1とを対比して,本件訂正発明2が本件構成を有 する点を相違点2と認定し,相違点2は当業者が容易に想到し得たものではないか ら,当業者が本件訂正発明2を容易に想到し得たものではないとした上で,本件訂 正発明7及び8についても,本件訂正発明2と同様の理由により,当業者が容易に 想到し得たものではないと判断したものである。同発明の容易想到性を判断するた めには,本件訂正前の請求項7と同様の可動アームの構成について,更なる審理が 必要であるといわざるを得ない。 したがって,上記容易想到性について更に審理を尽くさせるために,請求項7及 びこれを引用する請求項8に関する本件審決の判断も取り消されるべきである。 3 結論 よって,その余の取消事由について判断するまでもなく,本件審決は取り消され るべきものである。 知的財産高等裁判所第4部 裁判長裁判官 土 肥 章 大 裁判官 井 上 泰 人 裁判官 荒 井 章 光 (別紙) 図面目録 1 本件図面 2 本件簡略図 3 本件明細書【図1】 4 本件参考図A 5 本件参考図B 6 本件参考図C 7 本件参考図D |