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関連審決 不服2002-9974
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  数値限定 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  拒絶査定不服審判 /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 15年 (行ケ) 177号 審決取消請求事件
原告 日東電工株式会社
訴訟代理人弁理士 鈴木崇生
同 尾崎雄三
同 梶崎弘一
同 光吉利之
同 今木隆雄
被告 特許庁長官小川洋
指定代理人 鹿股俊雄
同 谷山稔男
同 大野克人
同 涌井幸一
同 立川功
同 宮下正之
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/08/31
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が不服2002-9974号事件について平成15年3月11日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「積層波長板,円偏光板及び液晶表示装置」とする発明につき,平成9年11月14日,特許出願し(以下「本件出願」という。請求項の数は7である。),平成14年4月25日,拒絶査定を受け,同年6月5日,これに対する不服の審判を請求し,同日付けの手続補正書により,本件出願の願書に添付した明細書(以下,この明細書及び図面をあわせて「本願明細書」という。)の全文の補正(以下「本件補正」という。)をした。
特許庁は,この請求を不服2002-9974号事件として審理し,その結果,平成15年3月11日,本件補正を却下する決定をし,同時に,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年4月7日にその謄本を原告に送達した。
2 特許請求の範囲【請求項1】(本件補正前のもの。別紙図面A参照) 「単色光に対して1/2波長の位相差を与える複数の延伸フィルムをそれらの光軸を交差させて積層してなり,かつ前記延伸フィルムの複屈折率差n1, n2の波長依存性が400nm(n1)と550nm( n2)の波長光に基づいてn1/ n2<1.05であると共に,前記の延伸フィルムが環状オレフィン系高分子,酢酸セルロース系高分子又はポリメチルメタクリレート系高分子からなることを特徴とする積層波長板。」(拒絶査定の対象となったのは請求項1で特定された発明である。以下,請求項1によって特定される発明を「本願発明」という。) 3 本件補正後の特許請求の範囲【請求項1】 「単色光に対して1/2波長の位相差を与える複数の延伸フィルムをそれらの光軸を交差させて積層してなり,かつ前記延伸フィルムの複屈折率差n1, n2の波長依存性が400nm(n1)と550nm( n2)の波長光に基づいてn1/ n2<1.05であると共に,前記の延伸フィルムが環状オレフィン系高分子からなることを特徴とする積層波長板。」(以下「本願補正発明」という。) 4 審決の理由 別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願補正発明は,特開平5-100114号公報(以下,審決と同様に「引用例1」という。)に記載された発明(以下,審決と同様に「引用例1発明」という。)及び周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないとして,本件補正を却下し,また,本願発明も,同様に,引用例1発明と周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから,特許法29条2項の規定に該当し,特許を受けることができない,とするものである。
審決が上記結論を導くに当たり,本願補正発明と引用例1発明との一致点・相違点として認定したところは,次のとおりである。
一致点 「単色光に対して1/2波長の位相差を与える複数の延伸フィルムをそれらの光軸を交差させて積層した積層波長板。」 相違点 「[相違点1]本願補正発明は,延伸フィルムの複屈折率差n1, n2の波長依存性が400nm(n1)と550nm( n2)の波長光に基づいてn1/ n2<1.05であるのに対し,引用例1発明には,かかる限定が無い点。 [相違点2]本願補正発明は,延伸フィルムが環状オレフィン系高分子からなるのに対し,引用例1発明には,かかる限定が無い点。」(以下,それぞれ「相違点1」,「相違点2」という。)
原告主張の取消事由の要点
審決は,相違点1及び2についての判断を誤り(取消事由1,2),本願補正発明の顕著な作用効果を看過し(取消事由3),また,必要な拒絶理由の通知を怠るなどの手続違背をしたことにより(取消事由4),本件補正を誤って却下したものであり,これらの誤りがそれぞれ審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,取り消されるべきである。
1 取消事由1(相違点1についての判断の誤り) 審決は,「延伸フィルムの複屈折率差n1, n2の波長依存性が400nm(n1)と550nm( n2)の波長光に基づいて n1/ n2<1.05である点は,従来周知(例えば,特開平5-27118号公報(判決注・甲6号証,以下「甲6公報」という。)及び特開平5-27119号公報(判決注・甲7号証,以下「甲7公報」という。)の図2には,PVAが波長400nmのときと,波長550nmのときの光における複屈折光の屈折率差に対する屈折率差の割合(n/ n550)が1.05以下であることが開示されており,特開平4-121703号公報(判決注・甲8号証,以下「甲8公報」という。)の第2図には,波長400nmのときリタデーションndが200nmで,波長550nmのときリタデーションndが350nmの特性をもつ位相差板1が開示され,200を350で割れば約0.57となり,上記割合が1.05以下であることが開示されており,特開平4-116603号公報(判決注・甲9号証,以下「甲9公報」という。)の第2図には,波長400nmのときリタデーションndが200nmで,波長550nmのときリタデーションndが350nmの特性をもつ位相差板1が開示され,200を350で割れば約0.57となり,上記割合が1.05以下であることが開示されている。)の技術手段に過ぎない。」(審決書2頁4段〜3頁1段),「したがって,本願補正発明は,引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである」(審決書3頁4段)と判断した。しかし,この判断は誤りである。
(1) 積層波長板の三つのタイプ 積層波長板は,複数の位相差板(波長板)を組み合わせて用いることにより,入射光の偏光状態を制御して,所望の偏光状態にして出射光を取り出す機能を有するものである。積層波長板が与える位相特性の原理の違いにより,積層波長板を三つのタイプ(A,B,C)に分類して説明することができる。
タイプAの積層波長板は,1層目と2層目の位相差板の光軸が平行になるように積層するタイプの積層波長板であり,1層目の位相差板を通過して位相が進んだ光成分に対し,2層目の位相差板でその位相が更に進むため,2枚の位相差板の各位相差(リタデーション)の和によって,積層波長板の位相差が決まるものである(甲7公報の実施例5及び甲9公報記載の積層波長板がこれに該当する。)。
タイプBの積層波長板は,1層目と2層目の位相差板の光軸が垂直(直交)になるように積層するタイプの積層波長板であり,1層目の位相差板を通過して位相が進んだ光成分に対し,2層目の位相差板でその位相が遅れるため,2枚の位相差板の各位相差の差によって,積層波長板の位相差が決まるものである(甲6公報の実施例1及び甲7公報の実施例5以外の実施例,甲8公報記載の積層波長板がこれに該当する。)。
タイプCの積層波長板は,1層目と2層目の位相差板の光軸が平行と直交の中間になるように積層するタイプの積層波長板であり,タイプA及びBの積層波長板とは原理が異なり,1層目と2層目の位相差板として,1/2波長板同士を積層することによって,1/2波長板を得るものである(本願補正発明,引用例1発明がこれに該当する。)。
甲16号証の対比表に示したとおり,本願補正発明及び引用例1発明は,タイプCに分類されるのに対し,甲6ないし甲9文献に記載された積層波長板は,いずれもタイプA又はBに分類される。
(2) タイプA,B,Cの積層波長板の位相差と波長依存性 (ア) タイプA,B又はCのいずれの積層波長板も,可視光の全波長領域に対して所望の同じ位相差を有する波長依存性(n1/ n2)を得ることが理想である(理想の波長依存性は,甲17の図2,3の理想のラインに示される。)。
上記のように,タイプA又はBの積層波長板では,位相差板の位相差の和又は差により,積層波長板の位相差が決定される。したがって,甲17号証の図2に示すように,波長依存性(nl/ n2)が理想ラインになるような積層波長板を得るためには,位相差板として,波長依存性が異なるものを用い,それらの位相差の和又は差が理想ラインになるように,それぞれ選択して用いる必要がある。
一方,タイプCの積層波長板では,波長依存性が同じものを組み合わせて理想ラインに近づけている。このようにタイプCの積層波長板に用いる位相差板は,タイプA又はBに用いる位相差板とは異なる。
(イ) 上記のように,夕イプA,Bの積層波長板では,位相差板の位相差の和又は差により,積層波長板の位相差が決定される。したがって,上記のような波長依存性(nl/ n2)が理想ラインになるような積層波長板を得るには,少なくとも一方の位相差板として,理想ラインと同じ方向(右肩上がり)に傾いているものを用いる必要がある。
しかし,現実的な問題として,波長依存性が,理想ラインと同じ方向(右肩上がり)に傾いている位相差板は,本件出願時においては知られていなかったのである。
実際に存在する位相差板は,波長依存性が(nl/ n2)>1であり,理想ラインと反対方向(左肩上がり)に傾いている。そのため,波長依存性が(nl/ n2)>1である,実際の位相差板を用いたタイプA又はBの積層波長板では,測定基準における波長以外では,位相差のずれはより大きくなる傾向があり,広い波長域において,略同じ位相差を示す波長板として機能するものを得ることは困難である。
タイプCの積層波長板においては,1枚目の位相差板では,測定基準における波長より大きい波長では所望の位相差よりも小さな位相差にずれ,測定基準における波長より小さい波長では所望の位相差よりも大きな位相差にずれるものの,2枚目の位相差板(波長板)によって,そのずれが戻され相殺される。そのため,タイプCの積層波長板では,広い波長域において,略同じ位相差を示す波長板として機能するものを得ることができる。
(3) 積層波長板のタイプの差異の看過による相違点1についての判断の誤り 審決の相違点1についての認定判断は,甲6ないし甲9公報の積層波長板が,本願補正発明とは異なるタイプA又はBの積層波長板であることを無視又は誤認していることが,その記載から明らかである。すなわち,甲6ないし甲9公報においては,タイプCの積層波長板については記載されておらず,したがって,タイプCの積層波長板において,「延伸フィルムがn1/ n2<1.05である」とするとの技術事項については,甲6ないし甲9公報には全く記載も示唆もされていないのである。
審決では,「延伸フィルムがn1/ n2<1.05である」ことが「周知技術である」と認定するだけで,引用例1発明との組合せの容易推考性を検討せずに,進歩性なしとの判断を行っている。しかし,甲6ないし甲9公報においては,タイプA及びBの積層波長板に用いられる,n1/ n2が低い方の延伸フィルムとして, n1/ n2が1.05未満のものを使用することが記載されていても,本願補正発明のようなタイプCの積層波長板に対して,これをどのように適用すれば,どのような作用効果が得られるか等については,全く示唆されていないのである。審決は,少なくとも,各タイプごとの技術内容の相違や関連性を検討した上で,これらを考慮しながら,引用例1発明に甲6ないし甲9公報に記載された周知技術を組合せることの容易推考性を検討すべきである。にもかかわらず,審決では,このような検討が全くなされていないのである。
(4) 各タイプの積層波長板における「n1/ n2」の構成の意味付けの差異の看過による相違点1についての判断の誤り タイプA及びBの積層波長板では,各位相差板の位相差の和又は差によって,積層波長板の位相差特性が決定されるため,位相差板(延伸フィルム)を2層積層する場合に,2層の位相差板はn1/ n2が異ならなければ,所望の位相差特性が得られないことが明らかである。このため,甲6ないし甲9公報に記載された積層波長板では,2層の各位相差板にはn1/ n2が異なるものを使用している。甲6ないし甲9公報に記載された積層波長板では,このような使用態様において,n1/ n2が低い方の位相差板として, n1/ n2が1.05未満のものを使用しているのである。すなわち,タイプA及びBの積層波長板では,n1/ n2が低い延伸フィルムを積層波長板の一方に使用することが有利であり,その具体的な数値として,n1/ n2が1.05以下のものを使用することがあり得るだけなのである。
本願補正発明の積層波長板は,タイプCに分類されるものであり,積層波長板の位相特性を広帯域化するための原理が,タイプA及びBとは全く相違する。
本願補正発明は,このようなタイプCの積層波長板の位相特性を,より好適に広帯域化するために,「延伸フィルムの複屈折率差n1, n2の波長依存性が400nm(n1)と550nm( n2)の波長光に基づいて n1/ n2<1.05である」との構成を採用したものである。
本願補正発明では,このような構成によって,引用例1発明に比して,本願明細書に記載された「特定の波長域で異なる位相差特性となることを抑制し,可視域等の広い波長域で目的とする位相差特性を安定して示す波長板・・・を得ることができる。」(甲2号証【0007】),との効果を奏する。より具体的には,同じタイプCに属する引用例1発明に対して,本願明細書(甲2号証)の図4(実施例1:本願補正発明)と図5(比較例1:引用例1発明)とで対比されるような大きな効果の差が生じている。このように,「延伸フィルムがn1/ n2<1.05である」との数値限定に係わる構成は,タイプCに属する本願補正発明において,大きな技術的意義を有している。
2 取消事由2(相違点2についての判断の誤り) 審決は,「延伸フィルムが環状オレフィン系高分子からなる点は,従来周知(例えば,特開平8-75921号公報(判決注・甲10号証,以下「甲10公報」という。),特開平4-245202号公報(判決注・甲11号証,以下「甲11公報」という。)等を参照。)の技術手段に過ぎない。」(審決書3頁2段),「したがって,本願補正発明は,引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである」(審決書3頁4段)と判断した。しかし,この判断は誤りである。
(1) 環状オレフィン系高分子からなる延伸フィルムと「n1/ n2<1.05」との構成 本願補正発明のようなタイプCの積層波長板に関しては,「延伸フィルムがn1/ n2<1.05である」との構成について,甲6ないし甲9公報には全く記載も示唆もされていない。
また,本件出願時において,環状オレフィン系高分子からなる延伸フィルムが,n1 / n2 <1.05との位相差特性を有することも知られていなかったのであるから,たとえ,位相差板(延伸フィルム)として環状オレフィン系高分子を用いることが周知技術であったとしても,このことから直ちに,本願補正発明の相違点1及び2に係る構成を当業者が容易に想到し得るものということはできない。
すなわち,引用例1,甲6ないし甲11公報を精査しても,環状オレフィン系高分子からなる延伸フィルムの複屈折率差の波長依存性が,「n1 / n2 <1.05」であることについては,全く記載されていない。本願補正発明は,「環状オレフィン系高分子」からなる延伸フィルムが「n1 / n2 <1.05」との位相差特性を有することを初めて見出した,ことに基づいてなされたものである。
審決は,このことを無視又は看過し,相違点2について「延伸フィルムが環状オレフィン系高分子からなる点は,従来周知・・・の技術手段に過ぎない。」と認定するものの,「環状オレフィン系高分子」からなる延伸フィルムが「n1 /n2 <1.05」との位相差特性を有することについては,何も言及していない。
(2) 延伸フィルムの波長依存性(n1 / n2)と材料との関係 被告は,延伸フィルムの波長依存性(n1/ n2)に関し,引用例1の【0015】ないし【0017】の記載から,n1/ n2<1.05の延伸フィルムは,高分子フィルム材料の種類には関係なく,延伸条件を制御することにより得ることができるものであるから,相違点2の容易想到性の判断に際しては,本件出願時に延伸フィルムの種類として環状オレフィン系高分子が従来知られていたか否かについて検討すればよい,と主張する。
しかしながら,延伸フィルムの複屈折率差の波長依存性(n1/ n2)は,材料の種類によって決まる固有値であり,延伸条件を制御することによっては得られないものであるから,被告の上記主張は誤りである(延伸条件を制御することにより得ることができるのは位相差値である。)。
前記延伸フィルムの複屈折率差の波長依存性(n1/ n2)が材料の種類によって決まる固有値であること,位相差値が延伸条件を制御することにより得ることができることは,「液晶ディスプレイのすべて」(1993年3月1日初版第1刷,株式会社工業調査会発行,106〜108頁(5.8位相差板),甲23号証。以下「甲23文献」という。),「日東技報VOL.27,No.1,1989 56」(50〜51頁(5.1位相差の波長依存性/5.23次元方向の位相差),甲24号証。以下「甲24文献」という。)に記載されているとおり,当業者に周知の技術事項である。
3 取消事由3(顕著な作用効果の看過) 審決は,「本願補正発明の作用効果も,引用例1及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。」(審決書3頁3段)と判断した。
しかし,本願明細書の実施例に記載されているように,本願補正発明の実施例1及び2は,引用例1発明に相当する比較例1ないし3に比して有利な作用効果を奏するものである。このような作用効果は,甲6ないし甲11公報の記載から当業者が予測できるものではない。審決は,このような作用効果を看過している。
4 取消事由4(手続違背) (1) 審決は,相違点1及び2の判断にあたり,相違点1については甲6ないし甲9公報を,相違点2については甲10及び甲11公報を,それぞれ引用している。相違点1及び相違点2について,甲6ないし甲11公報を引用例として採用する場合には,新たな拒絶理由を構成するものであるから,特許法159条2項で準用する同法50条の規定により,審判長は,出願人である原告に対し,拒絶の理由を通知し,相当の期間を指定して,意見を申し立てる機会を与えるべきであった。
しかし,本件においては,拒絶の理由の通知はされず,意見書の提出の機会がないまま,審決がされている。審決には,審決の結論に影響を及ぼす手続上の重大な違法がある。
(2) 審決は,相違点1については甲6ないし甲9公報,相違点2については甲10及び甲11公報と,それぞれ別々の引用文献を根拠として,相違点1及び相違点2に係る構成が周知技術であると判断している。
しかし,本願補正発明における延伸フィルムの複屈折率差の波長依存性「n1/ n2」は,延伸フィルムの材料による固有値であり,これを「 n1/n2<1.05」にすることと,延伸フィルムの材質を「環状オレフィン系高分子」とすることとは,技術的に一体不可分な関係にあることは明らかである。
したがって,相違点1及び相違点2に係る構成が同一の文献に記載されていて初めて同構成が周知技術であるといえるものである。審決が,引用例1発明と甲6ないし甲11公報から本願補正発明を容易に想到することができると判断する場合には,甲6ないし甲9公報と甲10及び甲11公報とを,どのような動機付けによって結び付けたかについての論理付けが拒絶理由として示されるべきである。
(3) 本件出願に対する拒絶査定の備考には,「しかしながら,引用例には,フィルムに用いる高分子として,前記波長依存性に関する条件に該当する高分子を選択できる点,酢酸セルロース系高分子,ポリメチルメタクリレート系高分子を選択できる点は記載されている。よって,出願人の上記主張は採用できず,拒絶理由は依然として解消していない。」(甲18号証)と記載されていたため,出願人(原告)は,拒絶査定不服審判請求とともに「単色光に対して1/2波長の位相差を与える複数の延伸フィルム」を「環状オレフィン系高分子」に限定する補正をしたのである。
そうすると,「環状オレフィン系高分子」については,同審判請求後に,初めて判断対象となった事項であるから,単に周知技術であるとすべき事項ではなく,審査段階の拒絶理由とは異なる新たな拒絶理由を構成するものであり,拒絶理由の通知をすべきであった。
被告の反論の要点
審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1 取消事由1(相違点1についての判断の誤り)について 原告は,タイプA又はBの積層波長板を構成する一方の波長板において,波長依存性(n1/ n2)が1.05以下の波長板が知られているからといって,タイプA又はBとは原理が全く異なるタイプCの積層波長板にこれを適用することが周知であるとはいえない,と主張する。
しかしながら,原告が主張するように,積層波長板には延伸フィルムの積層光軸の角度によって原理的に異なるタイプがいくつかあったとしても,また,本願補正発明に係る積層位相板がタイプCに分類されるものであったとしても,n1/n2<1.05の波長依存性を有する周知の延伸フィルムを光軸が交差された積層位相板に適用するに当たり,積層波長板のタイプの相違を考慮する必要はないから,格別な阻害要因はなく,また,それによる作用効果も顕著なものではなく,当業者であれば適宜採用することができるものである。
2 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について (1) 原告は,引用例1,甲6ないし甲11公報を精査しても,環状オレフィン系高分子からなる延伸フィルムの複屈折率差の波長依存性が,「n1 / n2 <1.05」であることについては,全く記載されていない,と主張する。
しかしながら,本願明細書の【0014】ないし【0016】の記載によれば,「n1/ n2<1.05」の延伸フィルムは,高分子フィルム材料の種類には関係なく,延伸条件を制御することにより得ることができるものであるから,相違点2の容易想到性の判断に際しては,本件出願時に延伸フィルムの種類として環状オレフィン系高分子が従来知られていたか否かについて検討すればよいのである。
(2) 原告は,本願補正発明は,「環状オレフィン系高分子」からなる延伸フィルムが,「n1/ n2<1.05」との位相差特性を有することを初めて見出したことに基づいてなされた,と主張する。
しかしながら,本願明細書には,そのようなことは記載されていない。本願明細書には,n1/ n2<1.05である延伸フィルムは,延伸条件等を制御することにより得ることできることが示されているだけある(甲2号証【0014】〜【0016】)。
3 取消事由3(顕著な作用効果の看過)について 本願補正発明における,環状オレフィン系高分子を延伸フィルムとして用いたことによる作用・効果は,環状オレフィン系高分子自体の特性に基づくものであるから,当業者において予測できる範囲のものである。
4 取消事由4(手続違背)について (1) 原告は,相違点1及び相違点2について,甲6ないし甲11公報を引用例として採用する場合には,新たな拒絶理由を構成するものであるから,特許法159条2項で準用する同法50条の規定により,審判長は,出願人である原告に対し,拒絶の理由を通知し,相当の期間を指定して,意見を申し立てる機会を与えるべきであった,と主張する。
しかしながら,特許法159条2項において,同法50条ただし書の規定を読み替えて準用しており,拒絶査定不服の審判において,当該審判の請求の日から30日以内になされた補正の却下の決定をするときは,特許出願人に対し,拒絶の理由を通知し,相当の期間を指定して,意見書を提出する機会を与える必要はない。また,環状オレフィン系高分子は,延伸フィルムの材料として周知のものであり,周知技術については,とりたててその例を示すまでもなく,当業者が当然に熟知しているものであるから,これを拒絶の理由に示す必要はないものである。
(2) 原告は,相違点1及び相違点2に係る構成が同一の文献に記載されていて初めて同構成が周知技術であるといえるものである,と主張する。
しかしながら,延伸フィルムを「n1/ n2<1.05」にすることと,延伸フィルムとして環状オレフィン系高分子を選択することとは,技術的に一体不可分な関係にはなく,それぞれ別個に把握・検討することができるものであるから,原告の主張は失当である。
当裁判所の判断
1 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について (1) 甲10及び甲11公報には,「環状オレフィン系高分子」を位相差フィルム(延伸フィルム)として用いることが記載されている(甲10,甲11号証)。
この甲10及び甲11公報の各頒布時期等からして,環状オレフィン系高分子は,単色光に対して位相差を与える延伸フィルムの材料として,本件出願時周知であったと認められる。審決が,「延伸フィルムが環状オレフィン系高分子からなる点は,従来周知(・・・)の技術手段に過ぎない。」(審決書3頁2段)と認定したことに誤りはない。
そして,引用例1に,引用例1発明,すなわち,「単色光に対して1/2波長の位相差を与える複数の延伸フィルム1,3をそれらの光軸を交差させて積層した積層波長板。」(審決書2頁2段)が開示されていることにつき,当事者間に争いはないのであるから,引用例1発明の1/2波長の位相差を与える延伸フィルムを形成するに当たり,その材料として,単色光に対して位相差を与える延伸フィルムの材料として周知の環状オレフィン系高分子を選択することは,当業者が容易に成し得る事項である。
(2) 原告は,本件出願時において,環状オレフィン系高分子からなる延伸フィルムが,n1 / n2 <1.05との位相差特性を有することが知られていなかったのであるから,たとえ,位相差板(延伸フィルム)として環状オレフィン系高分子を用いる点が周知技術であったとしても,このことから直ちに,本願補正発明が当業者に容易になし得るということはできないとか,審決は,本願補正発明が,「環状オレフィン系高分子」からなる延伸フィルムが「n1 / n2 <1.05」との位相差特性を有することを初めて見出したことに基づいてなされたものである,ことを無視又は看過している,とか主張する。
しかしながら,原告は,他方で,延伸フィルムの複屈折率差の波長依存性(n1/ n2)が材料の種類によって決まる固有値であること,延伸条件を制御することにより得ることができるのは位相差値にすぎないこと,これらは甲23及び甲24文献に記載されているとおり,当業者に周知の技術事項である,とも主張している。
確かに,甲23文献には,「位相差板の波長依存性は用いる高分子材料の性質によって決まる。図5.5には現在実用化されている代表的な高分子材料であるPC(ポリカーボネート)とPVA(ポリビニルアルコール)の波長依存性を示した。PVAの波長依存性が少ないのに比べてPCの依存性は比較的大きいことがわかる。」(甲23号証107頁末段〜108頁1段)と記載され,甲24文献にも,「位相差の波長依存性は延伸条件との関係はみられず,材料により定まった値となっている。」(甲24号証50頁右欄3段)と記載され,その51頁図3(2)の測定結果をみると,延伸条件が,それぞれ12%延伸,20%延伸と異なるポリカーボネートフィルムが,複屈折率差について,ほぼ同様の波長依存性を示していることが認められる(なお,本願明細書(甲2号証)には,「なお複屈折率差△n1,△n2の波長依存性が400nm(△n1)と550nm(△n2)の波長光に基づいて△n1/△n2<1.05である延伸フィルムは,延伸条件等を制御することにより得ることができる。」 (下線付加,この項について以下同じ。【0016】)との記載があるものの,本願明細書の「【実施例】参考例1 屈折率1.51,厚さ100μmの環状ポリオレフィンフィルム(JSR社製,ARTON,以下同じ)を175℃で50%延伸処理し,複屈折光に基づいて波長550nmの光に対して1/2波長の位相差を与える△n1/△n2が1.025」(【0032】),「参考例2 屈折率1.51,厚さ100μmの環状ポリオレフィンフィルムを175℃で25%延伸処理し, 複屈折光に基づいて波長550nmの光に対して1/4波長の位相差を与える△n1/△n2が1.025」(【0033】),「参考例3 屈折率1.59,厚さ50μmのポリカーボネートフィルムを150℃で5%延伸処理し, 複屈折光に基づいて波長550nmの光に対して1/2波長の位相差を与える△n1/△n2が1.16」(【0034】),「参考例4 屈折率1.59,厚さ50μmのポリカーボネートフィルムを150℃で2.5%延伸処理し, 複屈折光に基づいて波長550nmの光に対して1/4波長の位相差を与える△n1/△n2が1.16 」(【0035】)との各記載,並びに,甲23及び甲24文献の前記記載からすれば,延伸条件を制御しても,環状オレフィンフィルム及びポリカーボネートフィルムの波長依存性「△n1/△n2」は,その材質により一定の値を示しているものであることが明らかであり,本願明細書の前記記載は,延伸条件等を制御することにより,位相差値を変えることができることを意味するだけであり,延伸フィルムの複屈折率差の波長依存性「△n1/△n2」を変えることができることを意味するものと認めることはできない。)。
以上からすれば,本願補正発明に係る延伸フィルムの複屈折率差の波長依存性が,n1 / n2 <1.05であることは,上記周知の延伸フィルムの材料が環状オレフィン系高分子であることによって決まる固有の波長依存性であると認められる。
したがって,引用例1発明の1/2波長の位相差を与える延伸フィルムの材料として,上記周知の環状オレフィン系高分子を選択すれば,結果的にその材料に固有の波長依存性も選択されることになるから,当該延伸フィルムの波長依存性が,n1 / n2 <1.05となることは,上記周知の材料を選択することに伴って当然に達成される付随事項というべきである。
また,甲23及び甲24文献の前記記載によれば,延伸フィルムの複屈折率差の波長依存性(n1/ n2)が,その材料の種類によって決まる固有値であることは,原告が主張するとおり,当業者に周知の技術事項であるから,環状オレフィン系高分子からなる延伸フィルムの複屈折率差の波長依存性(n1/ n2)の固有の値については,仮に本件出願時においてその波長依存性が「n1/n2<1.05」であることが知られていなかったとしても,当業者がその測定をすれば容易に判明する事項である。したがって,環状オレフィン系高分子からなる延伸フィルムについて,その波長依存性を測定することが困難であるとの特段の事情がない限り,その波長依存性の数値を明確にしたことが本願補正発明の進歩性を基礎付けるものとはならないのである。
2 取消事由1(相違点1についての判断の誤り)について (1) 引用例1発明の1/2波長の位相差を与える延伸フィルムを形成するに当たり,その材料として,単色光に対して位相差を与える延伸フィルムの材料として周知の環状オレフィン系高分子を選択することは,当業者が容易に成し得る事項であること,及び,引用例1発明の1/2波長の位相差を与える延伸フィルムの材料として,上記周知の環状オレフィン系高分子を選択すれば,結果的にその材料に固有の波長依存性も選択されることになるため,当該延伸フィルムの複屈折率差の波長依存性が,「n1 / n2 <1.05」となることは,上記周知の材料を選択することに伴って当然に達成される付随事項であること,及び,環状オレフィン系高分子からなる延伸フィルムの複屈折率差の波長依存性(n1/ n2)の固有の値については,仮に本件出願時においてその波長依存性が「n1/ n2<1.05」であることが知られていなかったとしても,当業者がその測定をすれば容易に判明する事項であるから,その数値を明確にしたことが本願補正発明の進歩性を基礎付けるものとはならないことは,取消事由2についての判断において説示したとおりである。
以上からすれば,環状オレフィン系高分子からなる延伸フィルムに固有の波長依存性も,当該延伸フィルムについて容易に測定し得る属性にすぎないものであるから,相違点1に係る構成は,当業者が甲10及び甲11公報に記載された周知の技術事項から容易に想到し得るものであると認められる。
(2) 原告は,審決の相違点1についての判断は,甲6ないし甲9公報の積層波長板が,本願補正発明とは異なる原理のタイプA又はBの積層波長板であることを無視又は誤認している,すなわち,甲6ないし甲9公報においては,タイプCの積層波長板については記載されておらず,したがって,タイプCの積層波長板において,「延伸フィルムが n1/ n2<1.05である」とするとの技術事項については,甲6ないし甲9公報には全く記載も示唆もされていない,と主張する。
しかし,引用例1発明が,各位相差板の位相差の和や差によって,積層波長板の位相差特性が決定されるタイプA又はBの積層波長板とは異なるものであり,単色光に対して1/2波長の位相差を与える複数の延伸フィルムをそれらの光軸を交差させて構成したタイプCの積層波長板であるとしても,そのことが,延伸フィルムの材料として周知の環状オレフィン系高分子を選択することを阻害する理由となるものではない。
したがって,原告の上記主張は,審決が,甲6ないし甲9公報に記載された積層波長板における複屈折率差の波長依存性「n1/ n2」の値から,相違点1に係る構成を周知の技術手段であると認めたことが,積層波長板のA,B又はCの違いを検討しなかった点において不十分であったことを指摘した点において正当な指摘であるということができるとしても,引用例1発明に,延伸フィルムの材料として周知の環状オレフィン系高分子を選択し,相違点2に係る構成を想到することを妨げるものではない以上,相違点1に係る構成についての前記判断を否定する理由とはなり得ないものである。
(3) 原告は,本願補正発明は,タイプCの積層波長板の位相特性を,より好適に広帯域化するために,「延伸フィルムの複屈折率差n1, n2の波長依存性が400nm(n1)と550nm( n2)の波長光に基づいて n1/ n2<1.05である」との構成を採用したものであって,このような構成によって,同じタイプCに属する引用例1発明に対して,本願明細書の図4(実施例1:本願補正発明)と図5(比較例1:引用例1発明)とで対比されるような大きな効果の差が生じている,と主張する。
しかしながら,甲6ないし甲9公報においては,波長依存性が「n1/n2<1.05」である延伸フィルムが記載されており(甲6ないし甲9号証),このような波長依存性を備えた延伸フィルムが存在することは周知の技術事項にすぎない。また,タイプCの積層波長板である引用例1発明の積層波長板を構成する延伸フィルムの材料として,上記周知の環状オレフィン系高分子を選択することは,前記のとおり,当業者が容易に想到し得るところであり,そして,相違点1に係る構成は,もともとタイプCの積層波長板である引用例1発明の積層波長板を構成する延伸フィルムの材料として,上記周知の環状オレフィン系高分子を選択すれば,その材料に固有の特性として当然にもたらされるものであることも上述のとおりである。
したがって,本願補正発明における「特定の波長域で異なる位相差特性となることを抑制し,可視域等の広い波長域で目的とする位相差特性を安定して示す波長板・・・を得ることができる。」との作用効果も,もともとタイプCの積層波長板である引用例1発明の積層波長板を構成する延伸フィルムの材料として,上記周知の環状オレフィン系高分子を選択したことにより生じるものである,ということが可能であり,原告の上記主張は,当業者が相違点1に係る構成を容易に想到し得るとの前記判断を左右すべき理由とはならないのである。
3 取消事由3(顕著な作用効果の看過)について 原告は,本願補正発明の実施例1及び2は,引用例1発明に相当する比較例1ないし3に比して有利な作用効果を奏するものであり,このような作用効果は,甲6ないし甲11公報の記載から当業者が予測できるものではなく,審決は,このような顕著な作用効果を看過している,と主張する。
しかしながら,本願補正発明における「特定の波長域で異なる位相差特性となることを抑制し,可視域等の広い波長域で目的とする位相差特性を安定して示す波長板・・・を得ることができる。」との作用効果は,もともとタイプCの積層波長板である引用例1発明の積層波長板を構成する延伸フィルムの材料として,上記周知の環状オレフィン系高分子を選択したことにより生じるものであることは上記のとおりであり,その作用効果が本願補正発明の構成から予想し得ないものであるということもできないものであるから,原告の上記主張も理由がない。
4 小括 以上によれば,引用例1発明及び上記周知技術に基づいて,当業者であれば本願補正発明に係る構成を容易に想到できるのであるから,審決が,「したがって,本願補正発明は,引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである」(審決書3頁4段)とした判断に誤りはない。
5 取消事由4(手続違背)について (1) 原告は,相違点1及び相違点2について,甲6ないし甲11公報を引用例として採用する場合には,新たな拒絶理由を構成するものであるから,審判長は,特許法159条2項で準用する同法50条の規定により,出願人である原告に対し,拒絶の理由を通知し,相当の期間を指定して,意見を申し立てる機会を与えるべきであった,と主張する。
しかしながら,甲6ないし甲11公報には,相違点1及び2に係る構成についての周知技術が示されているだけであり,周知技術は当業者ならば当然認識している程度の技術事項であるから,周知技術を拒絶理由で改めて通知し,この周知技術に対して意見を申し立てる機会を与える必要はない。原告の上記主張は,その前提において理由を欠くものである。
(2) 原告は,相違点1及び相違点2に係る構成が同一の文献に記載されていて初めて同構成が周知技術であるといえるものであるから,審決が引用例1発明と甲6ないし甲11公報から本願補正発明を容易に想到することができると判断する場合には,甲6ないし甲9公報と甲10及び甲11公報とを,どのような動機付けによって結び付けたかについての論理付けが拒絶理由として示されるべきである,と主張する。
しかし,上記のとおり,周知技術は当業者ならば当然認識している程度の技術事項であるから,周知技術を拒絶理由で改めて通知し,この周知技術に対して意見を申し立てる機会を与える必要はないのであるから,周知技術同士を結び付ける動機付けについても,これを拒絶理由として示す必要がないことは明らかである。
(3) 原告は,本件出願に対する拒絶査定の備考には,「引用例には,フィルムに用いる高分子として,前記波長依存性に関する条件に該当する高分子を選択できる点,酢酸セルロース系高分子,ポリメチルメタクリレート系高分子を選択できる点は記載されている。よって,出願人の上記主張は採用できず,拒絶理由は依然として解消していない。」(甲18号証)と記載されていたため,出願人(原告)は,拒絶査定不服審判請求とともに「単色光に対して1/2波長の位相差を与える複数の延伸フィルム」を「環状オレフィン系高分子」に限定補正したのであるから,「環状オレフィン系高分子」については,同審判請求後に,初めて判断対象となった事項であり,審査段階の拒絶理由とは異なる新たな拒絶理由として,拒絶理由の通知をすべきであった,と主張する。
しかしながら,特許法159条1項及び2項において,同法53条1項及び50条ただし書の規定を,同法17条の2第1項4号の場合も含めるように読み替えて準用しており,同法53条1項に基づき,拒絶査定不服審判において,同審判の請求の日から30日以内になされた補正の却下の決定をするときは,同法50条ただし書により,特許出願人に対し,拒絶の理由を通知する必要はないのである。したがって,審決には原告主張の違法がないことは明らかである。
6 結論 以上に検討したところによれば,原告の主張する取消事由にはいずれも理由がなく,その他,審決には,これを取り消すべき誤りは見当たらない。
よって,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官 設樂隆一
裁判官 若林辰繁